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|チェコ|新聞がイスラム教徒への恐怖を煽る

【プラハIPS=ゾルタン・ドゥジシン】

2001年9月11日の事件後、イスラム教徒に対する態度は悪化したと言われるが、チェコ・メディアは、親米外交政策の支持により、チェコ国民のテロに対する恐怖を煽っている。 

米国のミサイル防衛システムをチェコおよびポーランドに拡大する計画には必ずイスラム・テロの差し迫った脅威についてのメディア報道が付いて回った。 

最近の世論調査では、チェコ人の80パーセントがアラブ人の隣には住みたくないと回答。3分の2がテロ、イスラムを恐れている。また、チェコ内務省が昨年行った調査でも、ほとんどのチェコ人がイスラムのシンボルとテロを結び付けている。 

プラハ・イスラム・センターのウラジミール・サンカ所長は、「メディアは、紛争の根がどこにあるのか説明せず、センセーショナルなニュースばかりを取り上げる。メディアが、イスラム教徒は人の命を何とも思わない人間だと報道するのだから、人々がイスラム過激派、イスラム・テロを恐れるようになるのも無理はない」と言う。

 チェコの政治家は、テロ攻撃の危険性は増大していると主張。チェコ警察は、テロリストは同国をヨーロッパへの侵入口にしていると述べている。 

トポラーネク首相は昨年、エルサレムにおけるイスラエル建国式典でスピーチし、「野蛮行為の拡大から文明を守ろうとするイスラエルの闘いは、私に勇気を与えるものである」と語っている。市民民主党(ODS)が2006年に政権を取って以来、チェコはアラブ諸国との関係を殆ど無視している。 

首相は、野党社会民主党のパロウベク党首のシリア訪問(2月)に遺憾を表明。右派メディアはシリア訪問に関する報道を行っていない。サンカ所長は、「チェコ・メディアの親米、親イスラエル的態度は、ヨーロッパの中で極めて突出したものとなっている」と語っている。チェコ政府およびメディアのイスラム嫌悪について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|セルビア|格安で全土の施設に入場可能な「美術館の夜」開催

【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリッチ・ジモニッチ

先週、セルビア中で「美術館の夜」と題するイベントが開かれた。わずか250ディナール(5ドル以下)を出せば、全土で63の美術館や博物館を見学することができる。ベオグラードで30万人、その他の23都市で15万人、計45万人を動員した。 

5年前に始まったときの参加者はわずか2万人だったが、昨年には20万人、そして今年は45万人と順調に観客動員を増やしてきた。もともとこのイベントは、美術史の専門家であるムラダン・ペトロビッチとアナ・ジョヴァノビッチの2人が、パリやアムステルダムで行われている同種のイベント真似て始められたものだ。

 
内戦と経済制裁で特徴づけられる1990年代、ベオグラードのほとんどの美術館は運営ができない状態になっていた。しかし、この数年で状態が改善し、多くの美術館が再興を目指している。「美術館の夜」もこうした美術の再興を願って始められたものだ。 

観客たちは、古代から中世、近代に到る時代のさまざまな美術や、技術の歴史に関する展覧を楽しんだ。 

市民を美術の世界へといざなう大規模なイベントについてベオグラードから伝える。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

寛容と共存の精神を広めるバチカンの役割を協議するシンポジウム

【アブダビWAM 】

アブダビの情報問題センターは本日、「アラブ首長国連邦における宗教的寛容と世界における共存の精神を広めるうえでのバチカンの役割」と題したシンポジウムを開催した。 

主要講演者は駐アラブ首長国連邦ローマ教皇大使のMounged El-Hachem大司教とアラビア半島地区教皇代理のPaul Hinder聖ジョセフ大聖堂司教で、その他研究者が数名発表を行った。 

Mounged El-Hachem大司教は、「世界に寛容の徳義を広めるバチカンの役割」と題した論文を発表した。同師は、アラブ首長国連邦大統領兼アブダビ首長のハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下、閣僚各位、及び同首長国連邦の国民に向けて同会議開催の喜びと共に、ローマ法王ベネディクト16世のメッセージを伝えた。 

同師はまた、ナヒヤーン殿下がバチカンに対して、宗教を守り人道と道徳的価値観を世界に広める活動を共に協力し合って推し進めていくことを呼びかけたことに言及した。そして、同師がローマ教皇大使として、アラブ首長国連邦とバチカン間の良好な関係を更に強固なものにできることを望んでいること。そして在アラブ首長国連邦のカトリック教会が、カトリック信者への世話に加えて、同国の市民、在住者に対して、教育、健康、開発、自由、平和の分野で貢献することを付け加えた。

 
同師は、宗教間対話に関して、「ヨハネ23世の呼びかけで1959年に開催された第2次バチカン公会議は、信教の自由とキリスト教徒以外の信者との関係を促進する意味で急進的な変化をもたらした。」と語った。 

同師は3つの聖なる宗教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、信者間の数百年に亘る抗争の後-そうした抗争は今も完全に途絶えてはいないが-対話、接触、結束、精神的な経験の交流を通じて、時代と共に変革を重ねながら互いの勢力拡大を進めてきたと述べた。しかしながら、時代の進展と共に信者の意見も徐々に変化し、抗争よりも対話が重視されるようになり、今日では殆どの信者が異教徒間でお互いに認め合い、寛容と共存、愛と平和の文化を受け入れる必要性を確信するまでになっている。」と語った。 

一方でPaul Hinder司教は、バチカンの諸宗教対話評議会とグループ138(現在は241にメンバーが増えている)間で両者の会合の後に発表された共同声明に則り、11月4日から6日にかけて最初のカトリック信徒、イスラム教徒間のフォーラムが「神への会い、隣人への愛」と題してローマで開催されることに言及した。 

同司教は、11月の会議にはローマ法王が自ら出席すること、そしてイスラム教徒側からは英国ムスリムアカデミックトラストのSheikh Abdal Hakim Murad理事長が出席することが述べられた。 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

|パキスタン|石打の刑-タリバン復活の兆し

【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ】

アフガニスタンと国境を接する辺境の部族地域で、駆け落ちした男女を石打の刑で処刑したのはタリバン支持者だったと、タリバンが認めた。石打の刑はいわゆる「名誉犯罪」に対する昔からの処刑方法だが、この地で行われたのは初めてである。 

「タリバンが運営するガジ(宗教)法廷はこの男女を姦通の罪で有罪とし、石打の刑による死刑という判決を下した。この判決は国境の都市ペシャワールから北へ60km離れたモーマンド地方のKhwezai-Baezai地区で執行された」と、タリバンのモハマド・アサド広報官はIPSの取材に応じて語った。処刑はタリバンが判決を言い渡した2週間後の4月1日に執行された。

 「シャノ(ビビ)はペシャワールに住む既婚女性で、家族がダウラト・カーンによって誘拐されたと提訴していた。だが後に、2人は駆け落ちしたと通報された」とアサド広報官は主張した。 

モーマンド地方はパキスタンとアフガニスタンの国境にある部族地域のひとつである。この地域は連邦直轄部族地域(FATA)の一部で6,000km2以上にわたり、タリバンが逃げ込んだ一帯でもある。 

この石打の刑を人権組織が非難している。人権組織は、部族の古い慣習である「名誉殺人」が、タリバンによって銃殺よりも残酷な死刑方法を宣告されるという新たな事態を憂慮しているようだ。 

「政府に責任者を逮捕し、裁判にかけるよう要請している」と独立組織であるパキスタン人権委員会(HRCP)のカムラン・アリフ評議委員はIPSの取材に応じて語った。 

「政府は責任者に対して厳しい措置を取るべきだ」とパキスタン各地に事務所を持つ全国規模のNGO「オーラット財団」のラーシャンダ・ナズ氏もいう。 

ペシャワールの法律家であるヌール・アラム・カーン氏によると、最近でも「名誉殺人」と呼ばれる家族に恥をかかせたという理由での処刑が行われている。こうした殺人事件は新聞の見出しになることが多い。 

「厳格な父権制の社会では、妻、娘、姉妹、母はちょっとした性的無分別さとわずかな姦通の疑いで殺される」とカーン氏は説明した。 

ペシャワールで発行されているウルドゥー語の新聞「Aaj(今日)」の記者であるザヒル・アリ氏は、報道された事件が実際に今その地方で起きている状況をすべて伝えているわけではないという。ジャーナリストとしての自主規制から、全貌の報道は控えている。 

「毎月1,2回起きているのだが、社会から予想される厳しい反応を考えると報道できない」と同氏はIPSの取材に応じて語った。 

アリ氏によると、最近のそうした事件では、5月1日にある農村に住む男女が家族の承諾なしに結婚したとして殺された。 

「事件の多発は、現在実施されている名誉殺人を抑制するための法律では『期待される結果をもたらす』ことができないと立証している」とカーン氏はいう。2005年に刑事裁判法が改正され、賠償金に応じるといった示談により和解後に犯罪者を無罪放免とすることが阻止されるようになった。 

 それ以来、ペシャワール高裁および法執行機関では一貫性のない判決がいくつか言い渡されており、法律改正の意図に反するものとみられている。 

1ヶ月前、ペシャワール高裁は、許可なく家から外出したとして妻と3人の娘を殺害したグル・ザマンの死刑判決を覆した。判事は生き残っている3人の息子と娘が父を許したという話を聞いた後で、自らの裁定を下した。 

最初の死刑判決は2005年1月31日に地方裁判所が下したものだった。 

ところが昨年3月には、ペシャワール高裁は「名誉殺人」の慣習を削減するための新たな法改正に従った厳格な裁定を下していた。 

昨年2月に北西辺境州(NWFP)のディール県北部で母親を殺害したグル・ザミーンに対し、裁判所は10年の禁固刑を確定したのだ。 

ドスト・ムハンマド・カーン裁判長はそのとき、「後進地域では女性が劣った市民として扱われ、名誉に関連した殺害などの非人道的慣習がいまだに行われている。これはイスラムの教えに反するとともに国の法律にも違反している」と語った。 

その6ヶ月後、ペシャワール高裁は、父親の許可なく結婚した娘を、息子と甥の助けを得て殺害した父親の釈放という妥協合意を無効にした。タリク・ペルベス判事は3人をそれぞれ10年の禁固刑にするという判決を下した。 

地元警察も「名誉殺人」の通報に基づいて行動を起こすのをためらうことがある。 

昨年、ペシャワールから60km離れたマルダンで、警察は家族の不名誉となったとされる男女を殺した親族を一旦逮捕したが、その後、告訴せずに釈放した。 

最近では、またマルダンで、「警察は地元実力者の地主が駆け落ちした娘と運転手を銃撃したという通報を受けてすぐに対処しようとはしなかった」とNGOの活動家であるサイジャド・アリ氏はIPSの取材に応じて語った。 

カーン氏によると、過去3年で弁護士が裁判で「だます」腕を磨き、家族の和解という悪しき慣習を制限しようとする法改正の裏をかいて、検察の求刑を回避している。 

「名誉殺人」に対する法改正の効果は、軽減事由をすぐに斟酌しようとし続ける裁判所によっても鈍らされている。 

「裁判所は被告人に対して『深刻で突然の挑発』を理由に寛大な見解を採用するが、法律のどこにもそのような理由は存在しない」とナズ氏はいう。 

人権組織は今、政府に「名誉殺人」を阻止するためにあらゆる局面でより断固とした行動を起こすように要請している。 

現在までのところ、当局はその慣習に「まったく歯止めをかけることができていない」とHRCPのジャミラ・ビビ氏はいう。 

根本的な改革が必要だとナズ氏は主張する。 

「名誉と称して女性や男性を殺すのは反イスラムである。今後もこの常軌を逸した伝統と戦っていく」とNWFP議会のシターラ・イムラン女性局長はIPSの取材に応じて語った。 

HRCPは1998~2002年の間に1,339件の「名誉殺人」を記録している。犠牲者のおよそ半数は既婚女性だった。HRCPはこうした殺人のほとんどが通報されないでいると考えている。 

HRCPは「名誉殺人」に関する最近の統計を発表していないが、パキスタンでは夫が妻を殺す事件の数が引き続き多いことから、減っていないことがわかる。HRCPの報告によると、2006年には355人の夫が妻殺害で起訴された。2005年には296人だった。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

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アフガニスタンで死刑制度議論が再燃 

クウェートで働く家事使用人に新たな権利保護策

【コロンボIPS=フェイザル・サマト】

クウェートとスリランカの公認職業斡旋業者の2団体―「クウェート・スリランカ人材福祉協会」(SLMWAK)と「スリランカ公認外国雇用斡旋業者協会」(ALFEA)―が4月中旬、移民労働者の安全と福祉を守るための方法を講じることを約束した覚書を調印した。 

はたしてこの協定は、クウェートにおいて深刻な虐待に遭っている家事使用人を保護するだろうか。

移民労働者の福祉のために活動するスリランカの団体のひとつ「移民労働者のためのアクション・ネットワーク」(ACTFORM)のコーディネーター、ヴィオラ・ペレラ氏は、職業斡旋業者の下請け業者が公認組織となり、説明責任を負うようにならないかぎり、問題は存続すると言う。 

ペルシャ湾岸諸国に働く150万人のスリランカ移民のおよそ70%が家政婦として働く未熟練女性労働者である。スリランカにとって彼女らからの送金が衣料品輸出に次ぐ外貨取得手段となっている。 

しかし彼女らは労働、社会、健康保護の法律や政策の対象から疎外されている。週1日の休みも、標準労働時間も、労災補償も、最低賃金も認められず、家に閉じ込められている。法的保護の欠如は、性的虐待、暴行、拷問などの数多くの人権侵害を生んでいる。 

スリランカ政府は、女性移民の安全への脅威と社会的影響を懸念して未熟練労働者の海外への出稼ぎを食い止めようと圧力をかけている。しかし、政府の管理下にあり、ライセンスの剥奪や契約違反の処罰の対象となるのは、公認の職業斡旋業者だけだ。公認業者は、労働者の供給を下請け業者に頼っているのが現状である。 

ペレラ氏はまた、未熟練女性の海外での求職禁止は憲法で認められている移動の権利の侵害になるとしている。 

はたして誰の利益が保護されることになるのか。クウェートで家事使用人として働くスリランカ女性の権利保護の問題について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|南アジア|各国の知る権利に関する見解

【ダッカIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

南アジアのメディアや学者は、国連と国際人権機関が提唱する知る権利(RTI)を全面的に是認してはいない。今月初めのRTIの価値と適用性を話し合う会議では、RTIはメディアが享受すべき権利だとされながら、責任を持って行使すべきという意見もあった。 

会議の開催国バングラデシュについては、バングラ・アカデミー会長のハルン・オル・ラシド教授が、現行のRTI法には情報の自由な入手を妨げる条項があるとして見直しを求める一方で、ユナイテッドニュース社のA.カーン社長は、暫定政府による同法の成立および司法と国家の分離を称え、良い統治と国民の権利拡大の鍵になると述べた。

 インドの著名なジャーナリスト、A.バハル氏は、5年前にRTI法を導入してからインド国民は政府に異議を申し立てる権利を得たという。バハル氏は政府と外部業者の汚職摘発に貢献したことで知られている。またネパールのラジオ局、ラジオ・サガルマータのG.ルイテル局長は、自由の抑圧について「政府以外の扇動的組織からの脅迫がある」と述べた。 

議論の大半を占めたのは、国家安全保障問題をメディアの自由の制限に対する正当な理由とできるかどうかということで、反対意見が多かった。 

内戦の続くスリランカからの参加者は、国家安全保障問題の報道は制限があってしかるべきと考える。「報道の自由には責任が伴わなければならない、銃弾によって自由を奪われないようにする責任である」 

パキスタンの「デイリー・バロキスタン・タイムズ」紙の編集者、S. F. イグバル氏は、「ムシャラフ大統領に対して立ち上がった法律家の運動がパキスタン社会に民主主義、そしてメディアに自由をもたらした。ムシャラフ政府は国家安全保障問題を言い訳に言論の自由を抑圧したが、新たな連立政府は情報入手法を復活させた」という。 

バングラデシュの軍が就任させた文民政権は市民の声を取り上げる地域社会のラジオ放送の導入を検討し、スリランカ政府は国家安全保障を理由に内戦に関する報道を抑えようとし、パキスタンの新政府はメディアへの制限を解除しようとしている。南アジア各国の知る権利に関する異なる見解について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|アジア|自由にとどまらず
 

|コロンビア|暴力に満ちた世界で希望となる子どもたち

【ボゴタIPS=ヘルダ・マルティネス】

コロンビアで生まれたオルネラ・バロスさんは12歳の時、「未来ではなく現実、希望ではなく確実なこと」を求めていこうと決意した。それから6年後、政治学を専攻する学生となったバロスさんは、「子どものための宗教者ネットワーク(GNRC)に参加しようと決めたのは正しかった」と語る。

 「現在大学生となり、確信をもって言えるのは、もっとも大事なのは人間の尊厳を推進する道徳的価値観を教えることで、それをすべての宗教が共通して行っている」とバロスさんは、ボゴタで家庭内暴力を克服するための異教徒間の対話に関するGNRC地域会議が開会された28日、IPSの取材に応じて語った。

 この会議は、ラテンアメリカ司教会議(CELAM)、キリスト教の救援組織であるワールド・ビジョン・インターナショナルおよびユニセフ(UNICEF)の支援を受けている。

参加者は「家庭内暴力を取り巻く原因、影響、文化的構造を分析しながら、コミュニケーションの機構を作り上げ、暴力を克服するために活動する人々を支援していく」とGNRCのラテンアメリカ・カリブ諸国担当のコーディネーターであるメルセデス・ロマン氏はいう。

「私たちが生きる地球環境を守りながら、貧困の中で生活する子どもをなくすことが急務であるとともに、子どもに対する暴力をなくすことは道徳的な責務である」とロマン氏は述べた。

中南米数カ国、および異なる宗教的信条を持つ人々の代表による討議は、「5月24~26日に日本の広島で開催されることになっている第3回GNRCフォーラムで発表される」と、ロマン氏は今回の地域会議の冒頭で告げた。
 
「第二次世界大戦が日本社会に及ぼした劇的な影響を認識するために、広島が次期フォーラムの開催地となる」とロマン氏は述べ、1950年に敬虔な仏教徒である宮本ミツ師が妙智會(心を豊かにする)教団を創始して、仏教の価値観を平和の達成に利用しようと献身的な活動を行ったことに言及した。
 
1990年に、その妙智會の宮本丈靖会長が、子どものためにより良い世界を作り上げていくことを目的とした「ありがとう基金」を設立した。
 
「ありがとう基金」は国連が認定するNGO団体であり、子どもに対する暴力のない世界を目指す、すべての宗教的伝統の結集として2000年5月に創設されたGNRCを支える原動力だった。
 
「子どものために活動できるようにしてくれた人々に感謝する」とロマン氏は会議の参加者に述べた。参加者には、ボゴタ郊外のボサ、ソアチャ、カスーカなどのスラム地区に住む6~16歳の少年少女の「希望の歌声」聖歌隊のメンバーも含まれていた。

「スラムでは、いたるところで争い事がある。道の曲がり角ではどこでも殴り合いのけんかをしていて、10~12歳の子どもがたばこを吸い、アルコールを飲み、してはいけないことをやっている」と聖歌隊のメンバーのホルヘ・モリナさんはIPSの取材に応じて語った。

「だから私たちは、暴力によって住む場所を失ったたくさんの人々に希望の歌声を届けるため、やさしい気持ちを広めるために歌を歌う」とモリナさんはいう。

コロンビアでは、半世紀近く続く内戦のために、故郷を離れて国中から集まってきた数万人の人々が、ボゴタを取り巻くスラムで避難民となっている。

「希望の歌声」はコロンビアの作曲家、サンチアゴ・ベナビデス氏の作品を歌っている。作品の歌詞では「銃弾では世の中を変えられない」「明日になって振り返った時に、自分の足跡が見えるようにするには、今何ができるだろう」「ウラバからやってきたウゴは、茶色のリュックを持っていて、どこに行ったらいいかわからないまま、生まれた町から逃げてきた」などと歌われている。

この歌詞はコロンビアの現実を映し出している。「1万1,000~1万5,000人の子どもが武力紛争に巻き込まれている」とワールド・ビジョン・コロンビアのサミュエル・アルバラシン副代表はIPSの取材に応じて語った。

「状況は非常に深刻で、ワールド・ビジョンは3万5,000世帯の40万人ほどの子どもの命を救うためにあらゆる努力を行っている。世界的には、私たちの組織は、300万人の子どもに手を差し伸べていると推定している」

アルバラシン氏によると、コロンビアで子どもが被害者となる暴力の根源は、疎外、貧困、社会的排斥、児童労働、武力紛争である。

けれどもこうしたことにもかかわらず、「私たちは未来を見つける」と同氏は断言した。

30日まで続く会議では、ユニセフが、2006年10月に発表された国連事務総長の「子どもに対する暴力に関する調査」の結果を議論することになっている。

この調査は2003年から世界中の専門家、子ども、青少年が参加して行われたもので、暴力の原因と実態を理解するためにこれまで行われた取り組みの中で最大のものだった。

その中には「大人中心主義」などの文化的な傾向、そのもっとも弱い子どもたちへの影響、体罰とその影響、性的および精神的虐待がある。

3日間の議論の中心テーマは価値観としての人間の尊厳の重要性であり、それは宗教および社会が共有し、世界を変える変化を起こす力となるものである。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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世界の子供の真の幸福のために

|アジア|自由にとどまらず

【バンコクIPS=リネット・リー・コーポラル】

5月3日の「世界報道の自由の日」を前に、2日バンコクにおいて国連教育科学文化機関(ユネスコ)の主催で表現の自由、アクセス、エンパワーメントをテーマに会合が開かれた。

会合では、昨年17人のジャーナリストの命が奪われた政治的弾圧の問題に加えて、多くのメディア事業の「レベル低下」を招いているとの批判が出ているメディアの極端な商業化の問題が議論された。

 ユネスコ、バンコク事務所のシェーファー所長は「報道の自由はジャーナリストだけでなく、社会全体にとって重要。より多くの情報を得ることで、人々は自分たちの生活に影響を与えるより多くの活動に参加する力を得る」と述べた。

アジアは経済開発および人間開発においてこの数十年大きな進歩を遂げてきたが、しかし経済格差を含む不平等は広がるばかりである。

「この不平等の原因のひとつは『知識の貧困』である」と国連開発計画の民主的ガバナンス実践チームの代表Patrick Keuleers氏は述べた。知識の貧困とは、情報の欠如が貧困者の経済・社会・政治プロセスへの参加を阻むことであり、あらゆる腐敗を招く透明性の欠如のことでもある。

Keuleers氏は、インターネット利用者のみならず個人所有のメディア発信源やウェブサイトが急増する「パラドックスの地域」とアジアを称した。

メディア手段の増加は必ずしも、メディアが社会的ニーズや社会変革に対応する情報をより多く生み出すことにはならない。「メディアの発信源は個人的利害に独占され、多くのジャーナリストが微妙な問題を報道する際に何らかの自己検閲を行っている」とKeuleers氏は指摘する。

マレーシアの独立オンライン・ニュースサイトMalaysiakini.comの編集長スティーヴン・ガン氏は、一般市民が数多くのメディア・ツールを利用できるようになった現代において、ジャーナリストは娯楽的なメディアソースと競って読者に魅力的なニュースを届けるのに苦労していると語った。

アジアのメディア議論を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|レバノン|ヒズボラ、ベイルート銃撃戦で政治力拡大

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【ベイルートIPS=モナ・アラミ】

シリアが行ったとされる2005年のハリリ前首相の暗殺以来、シーア派のアマルおよびヒズボラとスンニ派与党の未来運動(Future Movement)との抗争が続いているレバノンで5月7日、生活苦およびインフレ高騰に抗議するデモが両派の暴動に発展。銃撃戦で少なくとも11人が死亡、30人が負傷した。 

ヒズボラのリーダー、ハッサン・ナスララ師が、ワフィク・ショウカイール准将を空港セキュリティーの任務から外したこと、政府がヒズボラの通信ネットワークを捜査したことを糾弾し、同暴動は翌8日には政治衝突に発展。ヒズボラ・リーダーは、内閣のこれら決定を“戦線布告”と糾弾。この発言に呼応するかの様に、首都ベイルートに銃声が響いた。

 戦闘訓練、装備が不十分な未来運動は武装した野党メンバーを前に退却。野党側は未来運動のサアド・ハリリ党首および社会進歩党のワリド・ジュンブラット党首宅ならびに政府建物を包囲した。この間、レバノン軍は、緊急事態宣言を行わず、中立を保って衝突に加わらなかった。 

政治学者で「ヒズボラ:政治および宗教」の著者でもあるアマル・サアド・ゴライェブ氏は、「これはレバノン政治の新局面以外の何ものでもない。力関係の不均衡により、紛争は短期間で解決されるだろう」と語る。同氏は、「今回証明されたヒズボラの軍事的優位により、与党は譲歩を余儀なくされる。政府は総辞職を余儀なくされ、暫定政府は、野党が以前から望んでいた早期議会選挙を要求するだろう」と語る。 

戦闘が収まり、野党が市の西側を支配したことにより、今回の事件は国内だけでなく地域にも影響を与えるだろう。ゴライェブ氏は、「これが政治秩序の大幅な変革に繋がることは明らかであり、システムの不均衡を修正するためのタエフ合意見直しの布石となるかも知れない」と語っている。(タエフ合意は1990年のレバノン内戦終結時に調印された民兵組織の解体とイスラム/キリスト教徒間の平等な力配分を定めた関係者間合意) 

ヒズボラと未来運動のベイルート銃撃戦について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ネパール|食料自給率の低下と食品価格高騰

【カトマンズIPS=マリカ・アリヤル】

5人家族のうち唯一の稼ぎ手であるマヤ・タマンさんは、家族の食費を抑えるのに余念がない。しかし、食料価格が高騰する中、多くの食品が食卓から消えてなくなる日を彼女は予想してもいる。「食用油は高くなりました。米を買うことも難しくなっています。肉の値段は恐ろしい勢いで上がっています」。 

ネパールでは昨年に比べて食品価格が2倍にはね上がった。しかし政府は、4月10日に行われた制憲議会選挙に執心して食糧危機がネパール国民に与える苦難を顧みることはなかった。

 人口2900万人のネパールの食料自給率は90年代を通じて下がり続けている。毎年、3070万ドル相当の米と76万ドル相当の小麦を輸入している。また、肥料から農薬、種子にいたる、食料生産のすべての要素を輸入に頼らざるを得なくなってきている。 

普段ネパールに食料を輸出しているインドとバングラデシュが、自らも食料危機に直面して食料輸出の禁止を決めたことが、ネパールにとっては大打撃となった。 

短期的要因もある。上で述べた制憲議会選挙のために資金を必要とする政党に資金供与している業者が、食品価格を意図的に高く設定したり売り惜しみをしたりしたのである。 

世界食糧計画(WFP)では、ネパールで食料不足に苦しむ民衆の数は400万人から800万人にまで拡大したとみている。 

他方、ネパール自身もチベットや中国、バングラデシュに小麦や米を輸出していた。しかし、政府は、4月30日、これらの輸出禁止措置を決めている。 

食料不足に悩むネパールの状況について報告する。 

翻訳/サマリー=IPS Japan