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│印パ│共通の敵としてのタリバン


【カラチIPS=ビーナ・サルワール】

パキスタンのザルダリ大統領は、5ヶ月前に就任して以来、パキスタンにとっての最大の問題は「宗教的」過激派に起因していると繰り返し述べてきた。1980年代のアフガン戦争の中で育ってきたタリバンやアルカイダ、「聖戦士」などが念頭にある。 

これまでのパキスタン指導部は、インドを最大の敵だとみなしてきた。「インドは我々の敵ではない」と語るザルダリ大統領はこれまでの考え方を大きく転換させた。 

パキスタンのマリク内相は、昨年11月にインドのムンバイで発生し180人が死亡したテロ事件の一部がパキスタン国内で計画されたと発表して、周囲を驚かせた。内相は8人に対する刑事手続が開始されていることも明らかにした。

 インドのジャーナリスト、シッダルトゥ・バラダラジャンは「インドで起こったテロにパキスタン領内にいる特定の個人や集団が積極的に関わっているとパキスタン政府が認めたのは史上初めてのことだ」と書いている(『ヒンドゥー』紙、09年2月13日)。 

パキスタンの決断の背景には、米国からの圧力があったといわれている。米国にしてみれば、印パ対立のせいで「テロとの戦い」が遅らされることになってはたまらないからだ。 

米国のパキスタン・アフガニスタン特別大使であるリチャード・ホルブルックは、最近インドを訪問した際、「60年間で初めて、インドとパキスタン、米国が共通の敵(つまりタリバン)に直面することになった」と述べている。 

他方で、平和活動家は、また別の思惑から、パキスタン政府がムンバイ・テロへの自国民関与を認めたことを歓迎している。「パキスタン人権委員会」の北西辺境州支部長であるムサラット・ヒラリは「パキスタン政府はもっと早くこのことを認めるべきだった」と話す。 

ヒラリさんらパキスタンの24人は、「人権を求める南アジアの会」の支援を得て、先ほどインドを訪問した。逆にパキスタン側が今後インドからの訪問団を受け入れる予定もあるという。 

印パの安全保障環境について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan 

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│パキスタン│米国の越境無人攻撃が激化 

|本|ブッシュ・ドクトリンは単なる歴史の反復か

【ニューヨークIPS=ダニエル・ルーバン】

ブッシュ前大統領の外交政策は、普遍的優位性と民主主義を目指す米国の原則からの逸脱だったのだろうか。それとも常に存在していた衝動の現れだったのか。イラク戦争は伝統の進歩的国際主義(ウィルソン主義)の発現だったのか背信だったのか。オバマ新大統領が進歩的国際主義に回帰すれば、ブッシュの生み出した混迷を修復できるのだろうか。 

新刊書「The Crisis of American Foreign Policy: Wilsonianism in the Twenty-First Century (米国の外交政策の危機:21世紀のウィルソン主義)」(プリンストン、2009年)の中で、4人の米国の政治学者、G.ジョン・アイケンベリー、トマス・ノック、トニー・スミス、アンマリー・スローターがこの問題を論じている。

 しかしながらこの本では、ブッシュおよびウィルソンの主張に関してほとんど一致がみられず、過去8年の過ちを繰り返さないための施策についても十分な結論は出ていない。論点は、ウィルソン国際主義のビジョンの根底にあるのは多国籍機関の重視か、あるいは民主主義促進かで、前者であればイラク戦争は否定され、後者なら肯定される。 

ウィルソンビジョンが20世紀にどのような意味をもったかについて、アイケンベリーとノックは、冷戦に阻まれ平和な地球社会は実現しなかったことを指摘する。そもそも進歩的国際主義は平等な地球社会を目指しながら、米国の言いなりになる国際機関を頼みの綱としてきた。だがブッシュが国際協調をより重視していればイラク戦争は正当化されたのだろうか。 

国務省のスタッフに任命されたばかりのスローターは、進歩的国際主義の枠組みではイラク戦争を正当化できないと主張し、民主主義は武力で押し付けるものではないとしながら、国際社会は支配者の残虐行為から武力で人々を守る責任があるとしている。 

一方、スミスはウィルソン主義がイラク戦争の正当化に利用されていると批判する。スローターがブッシュ政権の本質は一国主義とするのに対し、スミスは民主主義の促進と考える。けれどもイラク戦争は当初、理想より威嚇への対応であり、人権より大量破壊兵器、民主主義より国益が問題だった。 

おそらく次の戦争の動因は、人道主義ではなく外的脅威への対策として正当化される。必要とされるのは進歩的国際主義の断念だけではなく、米国の国益と米国への脅威の現実的評価となる。イラク戦争の否定が広まる中で、過去の過ちを繰り返さない方法はいまだ不明である。 

イラク戦争とウィルソン主義を論じた本について報告する。 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|米国|情報開示訴訟によりテロ容疑者虐待の実態がより明確に

【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】

アムネスティ・インターナショナル米国(AIUSA)、憲法権利センター(CCR)およびニューヨーク大学ロースクール人権センター(CHRGJ)の人権擁護3組織は、米国防省とCIAがテロ容疑者の秘密収容所への移送、身元隠ぺい、釈放遅延で協力関係にあったことを証明する資料を公開した。これら組織は、2004年に政府を相手取り情報公開法に基づく訴訟を起こしていたもの。 

CHRGJのマーガレット・サッタースウェイト所長は、「開示された資料で、CIAの権力乱用行為に手をかすため、国防担当官が法の捻じ曲げを行っていたことが、徐々に明らかになってきた」と語る 

公開された資料の殆どは新聞記事であるが、国防省資料の一部により重大な事実が明かされた。

 国防省輸送司令部メンバー宛ての2006年2月付eメールは、収容所施設に対する批判報道を如何にかわすか論じている。同メールは、グアンタナモ収容所に関する国連報告官のレポートとアブグレイブ刑務所の写真で、米国の人権侵害が批判の的になっているとした上で、状況沈静化のためグアンタナモ収容者の釈放を遅らせるよう指示している。人の噂も45日という訳だ。更に同メールは、これら囚人の輸送にはT型尾翼の大型機の代わりに小型機を使用する方が良いと述べている。 

CCRのジタンジャリ・グェティレス弁護士は、「政府が批判報道をかわすためにグアンタナモ収容者の釈放を遅らせたとは驚きだ。オバマ政権は、この違法行為を繰り返すことなく無実の人々を直ちに釈放すべきだ」と主張する。 

塗りつぶし箇所の多い第2の資料は、バグラムの秘密収容所施設について言及している。 

第3の資料は、CIAと国防省が如何にして国際赤十字委員会(ICRC)の視察を回避しようとしたかを示している。「イラク拘束者の身元隠ぺいのためのジュネーブ協定解釈」と題された資料により、国防省がジュネーブ協定の「セキュリティー抑留者」条項に基づき拘束者の身元隠ぺいは可能と考え、ICRCへの拘束者身元届け出を14日間、最高30日間行わず、その間に情報収集の徹底を図ったことが明らかになった。 

AIUSAの人権・テロ対策政策担当のトム・パーカー部長は、「今回提出された数千ページの資料は、量からすれば透明性が確保されたかに見えるが、それは氷山の1角に過ぎず、政府機関はオバマ大統領の情報開示命令の精神に従っていない。我々はエリック・ホルダー司法長官およびオバマ政権に情報開示法の徹底を要求する」と語っている。 

人権擁護団体に提出されたテロ容疑者拘束に関する政府資料について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 



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|米国・アフガニスタン|バグラムはグアンタナモより劣悪か

│パキスタン│米国の越境無人攻撃が激化

【カラチIPS=ゾフィーン・イブラヒム】

米オバマ新政権が誕生してから間もない1月23日、アフガニスタンとの国境沿いにあるパキスタン部族居住地域にまたしても米軍によるミサイル攻撃が加えられた。アルカイダやタリバンの勢力を叩くためだとされる。

しかし、パキスタンでは民間人への大規模な「付随的被害」が生じている。パキスタン平和研究所(イスラマバード)の調べによると、2008年に米軍によるパキスタン領内のイスラム過激派アジトへの攻撃は32回に上り、216人のテロリストと84人の民間人が殺害された。

 
パキスタン政府はこのような「付随的被害」が生じるたびに米国に抗議したが、無人機を使った攻撃はやむ気配がない。

かつてカブール駐在武官を務めたこともあるシェル・ザマン・タイザイ氏は、IPSの取材に対して、米国の攻撃はアフガンに展開している中央情報局(CIA)によって指揮されているものであり、パキスタン軍は攻撃についてなんら知らされていない、と述べた。

米国とパキスタンの関係は昨年9月に入って急速に悪化した。過激派を追って越境してくる米兵に対する攻撃許可をパキスタン軍が下し、9月25日に実際にパキスタン軍が米軍ヘリに攻撃をかけたからだ。

昨年11月19日には、アフガン国境から深くパキスタン内陸に入り込んだバンヌにおいて米軍無人機が攻撃を行い、アン・パターソン駐パキスタン米軍大使がパキスタン政府から召喚された。

オバマ新政権の対パキスタン政策はより少ないアメとより厳しいムチの方針を採っているようだ。オバマ大統領は、就任第1日目に、年間15億ドルの対パキスタン非軍事支援の供与は、過激派対策の「実績」によると述べた。

また、米国政府は、反テロ作戦のためにパキスタンが要した費用1億5600万ドルのうち、5500万ドルを差し引いた1億100万ドルしか供与しなかった。

パキスタンのザルダリ大統領は、1月28日付の『ワシントン・ポスト』紙で、パキスタンが米国に望んでいるのは「講釈」ではなく「支援」だと述べた。また、「率直に言えば、ソ連が1980年代にアフガンで敗北した後に米国がアフガンとパキスタンを見捨てたことで、現在われわれが直面しているテロの時代へと突入したのである。当時の、そして21世紀に入ってからの独裁体制への米国の支援は、パキスタンの社会・経済開発を無視したものであり、民衆の必要を無視したものであった」とも書いている。

無人機による越境攻撃は、実際のところ効果を挙げていない。過激派はアフガン国境沿いの部族地域から内陸地帯へと移動を始め、国内では反米感情が高まり、タリバンへの支持が逆に強まりつつある。

米軍によるパキスタンへの越境攻撃の問題性について分析する。(原文へ

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan浅霧勝浩


|スリランカ|激しさを増すメディアに対する弾圧

【コロンボIPS=パランジョイ・グハ・タクルタ】

「政府および警察は真相究明・犯人逮捕に向けた動きを少しも示さない。仮に私が殺されるような事があれば、その犯人は『政府当局』であろう」。 

生前、自らの死を予測していたような衝撃的発言を残したスリランカのジャーナリスト、ラサンサ・ビクラマトゥンガ氏は先月8日、出勤途中にオートバイに乗った2人組の男に襲われ射殺された。 

同氏は政府の汚職を追及していた人物である。コロンボでは近年、政治腐敗や汚職などを取材するジャーナリストへの脅迫や暴力行為が頻発している。ビクラマトゥンガ氏の死は世界のメディアでも大きく報じられ、告別式には4,000人を超える人々が参列した。

 さらに先月9日、BBCのシンハラ語放送は反政府寄りの指導者の意見を流したとして検閲を受けた。翌日、政府の広報担当者は反政府武装組織『LTTE(タミル・イーラム解放のトラ)』に同調したとされる記者らを激しく非難。22日、ベテランジャーナリストのUpali Tennakoon氏が何者かに襲撃され、またタミル人ジャーナリストのPrakash Shakthi Velupillai氏もコロンボの空港で「LTTEの支持者である」との容疑で逮捕された。 

スリランカでこの15年の間に不可解な事件で死亡したジャーナリストは少なくとも30名はいるという。あるビジネスマンは「スリランカ政府はLTTE撲滅作戦の名の下、(政府に対する)批判的意見を持つ者を徹底的に排除している」と語った。 

「スリランカでの報道の自由は20年以上もの間、政府によって脅かされてきた。メディア弾圧は同国の政情不安を浮き彫りにしている」と、South Asia Free Media AssociationのLakshman F.B. Gunasekara氏は語る。 

2008年にスリランカで死亡したジャーナリストの数は少なくとも12名。Sunday Island誌の編集長Manik De Silva氏は「ジャーナリストのKeith Noyhar氏の誘拐・拷問事件をきっかけに、北部ジャフナや他の地域で苦難に見舞われるタミル人ジャーナリストに人々の注目が集まるようになった」と説明した。 

相次ぐジャーナリストへの攻撃、弾圧について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

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テロリストの狙いは不安定化とメディアの注目


|メディア|国連特派員協会、事務所の賃貸料課徴に抗議

【国連IPS=タリフ・ディーン

1946年就任のトリグヴェ・リー(ノルウェー)氏を始めとする歴代国連事務総長は、国連報道に当たるジャーナリストに無料で事務所を提供するなどして報道の自由の原則を貫いてきた。 

しかし、国連内部で検討されている提案が現実となると、この原則も変わるかもしれない。 

60年前に設立された国連特派員協会(UNCA)は、賃貸料課徴提案に強く反対している。UNCAには約千人の特派員が参加。そのうち2百人強が専任メンバーあるいは常勤特派員である。

 日刊紙「ラ・ナチオーネ」を始めとするイタリア数社に記事を提供しているUNCAのジャンパオロ・ピオリ会長は、UNCAメンバーに対し賃貸料課徴は特派員の減少、活字/放送/インターネット報道の質の低下に繋がるという広い認識を共有するよう訴えている。 

同氏は、抗議文の中で「賃貸料課徴は、国連関連のニュースを世界の果てまで伝えるという報道機関の本来の目的を妨げることになろう」と警告している。 

総費用19億ドルに上る「資本基本計画(CMP)」の下、老朽化した事務局を取り壊し、工期5年の改築を行うため、39階建て国連ビルからの立ち退きが行われる。 

この大型移転の一環として、国連記者団は一時的に隣接するダグ・ハマーショルド図書館に移動するが、そこではジャーナリストが使用する事務所は国連史上初の賃貸スペースとなるのだ。 

アンワルル・カリム・チョウドリ元国連事務次長はIPSに対し、「賃貸料を課すことあるいは特派員を現在の事務所から追い出すことは配慮に欠けており、決定は撤回されるべきだ」と語った。 

バングラデシュの元国連大使である同氏は、「賃貸料が課せられれば、特に不利な立場にある開発途上国のジャーナリストが最大の犠牲者となるだろう。潘基文事務総長は急ぎ仲介に乗り出し、長年に亘り国連の信頼できる友人であったこれらの人々との不必要な対立を取り除くべきだ」と述べた。 

元国連事務総長補で国連広報事務局(DPI)長を務めていたシャミア・サンバール氏は、以前に同様の提案がなされた時の出来事について語る。 

ある国連高官が、同氏に「ニューヨーク・タイムズがあるのだから、国連特派員や広報事務所スタッフは必要だろうか」と語ったというのだ。 

サンバール氏はIPSに対し、「私は、誰もがニューヨーク・タイムズを愛読していると思うのは間違いではないか。国連特派員は、新任の一部高官より国連の目的を理解しており、彼らを退けるのは思いあがった行為だと答えた」と述べた。 

同氏によれば、賃貸料課徴提案はコフィ・アナン事務総長(当時)により否決されたという。当時は国連の石油・食糧交換スキャンダルの最中で、一部特派員が事務総長の個人攻撃を始めた頃であったという。

サンバール氏は、賃貸料課徴について、「国連が費用効果に責任を持たなければならないのは言うまでもないが、私は、我々は利益重視の会計士ではないと考えている」と語る。 

更に同氏は、「継続的でしっかりした見直しを行うことで、常駐特派員の仕事を明らかにし事務所スペースを必要としない者を特定することができるだろう。メディアに圧力をかけようとする人々は常にいる。特に彼らが神経質あるいは不安に感じている時には。メディアに対する規制措置がこれ以上起こらないことに期待しよう」と述べた。 

同様の強い抗議は、ニューヨークを拠とする国連監視団体「グローバル・ポリシー・フォーラム」のジェイムズ・ポール会長からも上がっている。 

同氏はIPSに対し、「新自由主主義への批判が高まり、新自由主義こそが世界金融危機の主原因とされる今、国連がジャーナリスト用スペースの確保に新自由主義的な管理・政策を拡大しようとは驚きだ」と語った。 

同氏は、「ジャーナリストが国連に重要な利益をもたらしているのは明らかではないか。新政策は僅かな増収にはなるだろうが、必要なことから外れている」と言う。 

ポール氏は、「金融危機の中、多くのメディアが予算を削減しており、一部メディアの国連事務所も存続の危機に直面するかも知れない。開発途上国の国連記者団のリスクは特に高い。経済的側面からのみ行動しては、国連報道や国連支持も減少し、国連の効力も失われるかも知れない」と指摘する。 

同氏は、「問題が存在するのは明らかなのに、一部の人々はその結果および長期的影響について真剣に考えていないようだ。先進国メンバーは、経済破綻によりこの様な改革が必要になったと主張している。今や国連は新自由主義的発想を捨て、全体を考慮し、国連を正しい方向に導く‘福祉型予算’の方向へ立ち返るべき時だ」と語った。 

CMPのマイケル・アンダースタイン事務局長は先週、賃貸料に関する記者からの質問に答え、「嘗てない数千万ドルの賃貸料(スタッフの近隣ビルへの引っ越しにより発生)を支払わねばならないことから、賃貸料課徴問題が発生した」と語った。 

アンダースタイン氏は、「我々が特派員を高く評価していることを知ってほしい。しかし、国連がジャーナリスト用に支払っている賃貸料コストも問題になっている。その正当性について現時点では何とも言えないが、我々が市場に支払う賃貸料の額が問題になったのである」と説明した。 

ジャーナリストに好意的なある国連高官は、国連活動の促進と国連に対する市民支援の活性化におけるメディアの貢献を認める1975年国連総会決議があると指摘する。 

同決議により、国連事務局は、組織創設以来メディアに対する無料の施設提供を推奨してきたという。 

パキスタンの主要日刊紙「ドーン」のため国連取材に当たっているベテランのマスード・ハイダー記者はIPSに対し、「国連に駐在する多くのジャーナリストは、非常勤あるいは開発途上国の記者である。彼らは賃貸料が払えないだろう。彼らはそれに反対しており、賃貸料が課せられることになれば、彼らの国連取材は減ることになろう」と言う。 

同氏はまた、「現在でも、最良の事務所スペースは米国、英国、ロシアといった大国のメディアに与えられている」と続けた。 

ラジオ・ドイチェ・ヴェレで働くボスニアのジャーナリスト、エロル・アヴドヴィッチはIPSに対し、国連ビル内のメディア・スペースは商業用スペースではないと言う。 

同氏は、「最大の犠牲者は、国連事務所の料金支払が困難な第3世界の小規模メディアだろう」と予測する。 

「国連そして潘基文事務総長さえもが、国連加盟国の2/3を占める開発途上国の新しいメディアを犠牲にしてビッグ・メディアの企業カルチャーを尊重するとは信じ難い」と同氏は語っている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|イラク|メディアも報じない『溢れかえる無縁墓地』

【バグダッドIPS=ダール・ジャマイル】

Cemetery manager Abu Ayad Nasir Walid with his logbook of the dead. Credit: Dahr Jamail.

「私はこの4年間働きづめの状態だ。2006年から1年半ほどのピーク時には毎日40から50の遺体を埋葬していた」。バグダッド郊外のアブグレイブで墓堀人夫として働くアリはIPSの取材に応じ、イラク全土の共同墓地で引き取り手のない身元不明の遺体が急増している現状について語った。

同地区の共同墓地で眠る遺体の内訳は、25%が暴力、70%が2006年から2007年にかけて頻発したムクタダ・サドル師率いるシーア派民兵組織、マハディー軍による宗派主義的暴力によるものである。

 バグダッド、アダミヤ地区ではかつて公園のあった場所に共同墓地が設立された。「5,000を越える遺体が眠るこの墓についてメディアも政府も全く関心がないようだ」と、墓地の責任者Abu Ayad Nasir Walidは残念そうに話した。

英国の医学雑誌『ランセット(Lancet)』誌は2006年10月に衝撃的な調査結果を発表している。これによると、イラク戦争開戦以降人口の2.5%にあたる約65万5,000人のイラク人が死亡したという。

2006年2月22日、同国中部サマラではイスラム教シーア派寺院『アスカリ(Al-Askari)廟』が爆破された。この事件をきっかけに数ヶ月続いた宗派間抗争で1日に300人以上が犠牲になった。

アダミヤ地区の共同墓地で墓を掘るSehel Abud Al-Latifは「当時は毎日30から40の遺体を埋葬した。遺体を放置することはできないため、作業は真夜中に及ぶ事もあった」と振り返る。イラクで増え続ける民間人の死亡者数について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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「腐ったリンゴ」は木の近くに落ちた

ファンドの利益はケイマン諸島に逃れる

【ニューヨークIPS=ルーシー・コミサー

バラク・オバマ大統領は、金融機関によるオフショア・センターを利用した税金逃れを摘発すると表明した。それならば世界有数の民間銀行グループ「ジュリアス・ベア・グループ(チューリッヒ)」の米国子会社から始めてはどうだろう。

ジュリアス・ベア・グループは3,000億ドルの資産を管理し、2007年の利益は11億ドル以上とされる。その米国における子会社が「ジュリアス・ベア・インベストメント・マネジメント(JBIM)ニューヨーク」である。

 内部告発者のルドルフ・エルマー氏(53歳)によれば、1996年にケイマン諸島のダミー会社「ベア・セレクト・マネジメント(BSM)」を使った利益誘導戦略が立案された。JBIM ニューヨークがBSMに投資マネジメントを依頼する形でパフォーマンス・フィーを支払い、JBIM ニューヨークの利益を付け替える形で減額し、米国で支払うべき所得税を減らすというものだ。

エルマー氏は、ケイマンのダミー会社BSMの実態は「ジュリアス・ベア信託銀行(JBBT)」であり、BSMケイマン諸島の代表者、マックス・オブリスト氏はJBBTの業務を担っているという。

実際にグランドケイマンのBSMに電話するとジュリアス・ベア信託銀行の受付が出る。そしてオブリスト氏につながった。オブリスト氏は自ら「BSM取締役」と名乗り、質問に応じた。オブリスト氏は、JBIM ニューヨークに関するBSMの任務は、ケイマン諸島におけるモニタリング業務でだと説明。歩合制の成功報酬を得ると言う。

契約上ではBSMは投資マネジメントを行うはずになっている。しかし、オブリスト氏が説明するとおり、BSMはモニタリングを行っているだけだ。それにもかかわらず、ファンドマネジャーのように手数料を受け取っている。

通常、ファンドマネジャーは資産の1から2%、利益の10から20%の報酬を得る。JBIM ニューヨークは現在「アルティオ・グローバル・インベスターズ」と名称を変え、720億ドルの資産マネジメントを行っている。従って手数料は巨額になるはずだ。

オブリスト氏はBSMがダミー会社だという疑惑を否定。4、5年前にJBIM ニューヨークとの業務提携は終了したと言う。しかし、米国では納税に関する不正行為には時効がない。従って、JBIM ニューヨーク(現在のアルティオ)には申告漏れの責めを負う可能性が残されている。

ジュリアス・ベア・インベストメント・マネジメント・ニューヨークのオフショア・センターを利用した脱税疑惑について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

│米・イラン│何が「チェンジ」するのか

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【ホノルルIPS=ファリデー・ファルヒ】

「我々は『チェンジ』の名に値しないオバマ氏の行動に満足していない。ただし、希望がないわけではないが」――イランのアリ・ラリジャニ国会議長が記者に対して2月2日に発したこの言葉は、オバマ新政権の対イラン政策に対するイランの様子見の姿勢を示している。イランの指導部は、米国が変わる可能性に期待をしつつも、何も変わらないという結果にも備えている。

 イランが求めているのはより根本的な変化だ。だから、米国のバトミントン・チームがテヘランで開かれる「ファジル・バトミントン・トーナメント」に参加しようとした際、イラン政府はビザの発給を拒否した。米国政府がイラン国民に対してそのような取り扱いをしているのだから、イランが同じことをしても不思議ではない、というのである。

たしかに、イランはオバマ政権の誕生を好意的にみている。アフマディネジャド大統領は、イラン革命後の大統領としては初めて、オバマ政権の誕生を祝福する書簡を送ったほどである。

オバマ氏は、イランによるウラン濃縮一時停止という前提条件を付さずにイランと外交協議を始めたいと繰り返し述べてきた。しかし、いったい何のための協議なのか不明確なため、イラン側は、これまで米国が用いてきた「アメとムチ」式のやり方が根本的に覆されるのか疑念を持っている。

とくに、3人の指導者たちが「アメとムチ」式外交に激しく反発している。ラリジャニ議長とラフサンジャニ元大統領(現・専門家評議会議長)は、「米国のやり方に根本的な変化がないなら、外交協議を始めるに及ばず」と発言し、最高指導者のハメネイ師は米国によるイラン敵視政策に変化はないだろうとの見通しを示している。

イランは、過去と同じく、協議を受け入れる準備はあるとのメッセージを発している。しかし、過去と同じ発想に基づいた協議開始は、結局、過去と同じ結果しか生まないこともまた、彼らのメッセージには含まれているのである。

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩

|オーストラリア|先住民族、建国記念日の変更を主張

【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキー】

オーストラリアは、シドニー湾に最初の移民船が到着しサウス・ウェールズ植民地を建設した1788年1月26日を建国記念日と定め、毎年盛大なイベントを催している。

これについて、先住民族の学者、作家、映画監督であるサム・ワトソン氏は、「先住民族アボリジニは、何故1月26日を建国記念日とするのか当惑してきた。その日は、長期にわたる植民地侵略の始まりの日、つまり大量殺戮、大量処刑、土地の収奪、今日まで続く民族破壊政策の始まりの日だ」と語る。

実際、国家としてのオーストラリアは植民地の連邦化が行われた1901年まで存在しなかったのだ。

 植民地化以前の人口は少なくとも31万5,000人から75万人あるいは百万人を超えるとされるが、病気、迫害、強制的な立ち退きや融合策などにより先住族人口は1788年以降急減した。しかし、政府は1935年に1月26日を全国的な建国記念日と定め、1994年からは国民の祝日としている。祝日の前日には国会議事堂の前で国民栄誉賞が授与される。

今年の受賞者は、先住民族リーダーのミック・ドドソン法学教授(58)であった。北西部ヤウル族出身のドドソン氏は、国連先住民族問題常設フォーラムのメンバーでオーストラリア国立大学先住民族研究センターの所長を務める。ドドソン教授は直ちに建国記念日を変更すべきかどうかについて対話を行うよう要求。受賞の意思の無いことを明らかにした。

多くのオーストラリア人は対話を妥当と考えているようだが、政府はこれを拒否。ケビン・ラッド首相は、建国記念日のスピーチで「先住民族リーダーおよび建国記念日変更を要求する人々に対し、私はノーと言わせてもらう」と発言。その数日前には、先住民族問題担当ジェニー・マクリン大臣も変更の意思のないことを明らかにしている。

一方、活動家グループは、先住民族および彼らの環境に与えた被害を償うため補償が必要であり、すべてのオーストラリア人が建国記念日を祝う前に土地を巡る協定に調印すべきと主張している。ワトソン氏は、「この国の800に及ぶ先住部族と白人が協定を結んだ日こそ建国記念日にふさわしい」と語っている。

オーストラリアの建国記念日に関する諸問題について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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