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│ネパール│毛派の国づくりは成功するか(クンダ・ディキシット)

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【IPSコラム=クンダ・ディキシット『ネパーリ・タイムズ』の編集長】

毛沢東は中国で死んだが、ネパールで甦った。ヒマラヤの毛派は武器の力ではなく、投票によって政権をとったのである。 

ネパールの毛派は、君主制の打倒を目指して1996年から2006年にかけて戦ったが、2年前に停戦に合意し、今年4月10日の制憲議会選挙に向けて準備を進めてきた。結果は、予想以上に毛派が勝利を収めた。

 ネパールから私たちが得た教訓とは、10年間にわたる内戦と1万5000人の殺害によって毛派が達成できなかったことを、非暴力的な選挙によって得ることができた、という事実である。 

国外の人びとにとっては、信頼を失ったイデオロギーになぜネパールの国民は賭けたのかといぶかしむ向きもあるかもしれない。しかし、選挙での毛派の勝利は、ネパールの国民すべてが毛派であるとか、彼らがもうひとつの「人民共和国」を目指しているとかいったことを意味しない。 

人びとが毛派に投票したのは変化を望んだからであり、他の民主諸政党の無能さに飽き飽きしていたからである。ネパールの貧困層は、自分たちの生活レベルを引き上げてくれそうな政党に賭けた。また、停戦に合意した毛派に報いたという側面もある。 

他方で、毛派のプラチャンダ書記長は、暴力をいまだに明確に否定していない。マハト財務大臣が選挙での勝利から2日後に毛派幹部によって殴打された事件は、毛派がいまだに暴力と脅迫に訴える政党であるとのイメージを植えつけた。 

毛派には、君主制の廃止、毛派軍と政府軍の統合などの課題が待っている。 

より長期的には、どんな政治体制を選択するのか(連邦制?)、国内103の民族集団の処遇をどうするのか、といった課題がある。 

アジアでも最も貧しいネパールでは人びとの期待はきわめて高く、国家再編の課題は容易には実現されない。人びとが自分たちの生活が向上したと感じられなければ、選挙で勝利した毛派の歓喜はすぐかき消されてしまうことになるだろう。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

*クンダ・ディキシット氏は、『ネパーリ・タイムズ』の編集長・発行人で、元BBCラジオ国連特派員、元インタープレスサービスアジア・太平洋総局長。

|タンザニア|ゆりかごに辿り着くまで


【ダルエスサラームIPS=サラ・マクレガー】

「医者は卵管が細いといって、薬をくれました。でも、子どもが死んだのは近所のまじない師のせいだったと思います。」と、かつて3人の赤ん坊を続けて亡くした母親がIPS記者に語った。現在彼女は、10代の子どもが4人いる。 

2005年の統計によると、タンザニアの乳幼児死亡率は、15年前の24%にまで減少した。しかし依然として年間14万7千人の子どもが5才になる前に、さらに、その3分の1は生まれて間もなく死亡している。それは1000人に112人という比率である。

 また、2000年に世銀が発表した資料によると、10万人の新生児に対し、1500人もの妊産婦が出産前後に死亡している。その10年前は770人だったので、悪化したことになるが、04―05年の調査では578人に減少した。国連の2000年の数字を見ると、世界の平均で妊産婦死亡率は10万人に400人、富裕国では20人である。 

ミレニアム開発目標(MDGs)の4番目には、5才児未満の死亡率を3分の2にすること、5番目には妊産婦死亡率を4分の3にすることが掲げられている。 

 今週タンザニアを訪問した、ノルウェーのイェンス・ストルテンベルグ首相は、これらの目標達成のための国際的なイニシアチブ『Deliver Now(今こそ、出産)』を推進している。 

今週タンザニアの当局は、新しい政策を打ち出し、ジョカヤ・キクウェテ大統領は、『Deliver Now』に沿って、国の厚生予算の15%を投入すると述べた。 

子どもと妊産婦の死亡は、複合的原因による。人口3800万人のうち3分の1が1日1ドル以下の生活にあり、HIV罹患率は成人の6.5%である。さらに、安全な飲み水、衛生、十分な栄養が得られないために、子どもの多くは結核や下痢、母親たちはマラリア、貧血、エイズで、死に至る。違法な堕胎によっても、命をおとす女性がある。 

さらには、アフリカの国ではよくあることだが、近代医療よりも土着旧来のやり方で健康問題に対処しようとするため、有資格者が立ち会う出産は半分以下である。多くの場合、医療施設まで遠く、交通手段もない。病院には薬や器具が不足しているし、人材も乏しく、例えば英国では、440人に1人の医師がいるが、タンザニアでは2万人に1人である。 

専門家は、ワクチン接種やビタミン剤配布のような、コストのかからない手段によっても、死亡率を減少させることができると言う。 

平均6人の子どもを持つタンザニアの母親たちが抱える危険について、新たな対策が講じられつつある。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|アフガニスタン|グローバル危機、食糧暴動の引き金に

【カブールIPS=アナンド・ゴパル】

アフガニスタン全土で、食糧価格高騰による不満が燻っており、関係者は、このままでは数百万人が餓え、社会不安の引き金になるのではないかと危惧している。今年に入り、小麦の価格は約2倍に達した。米の価格も昨年既に38パーセント増加している。

東部の町ジャララバードでは今週、市民がカブールに通じる高速道路を封鎖し、政府に食料品の価格統制を要求する騒ぎが起こった。また北部のクンダズおよびカブール郊外では、商人達が小麦の盗難に悩まされている。

 多くの市民が価格高騰は政治家の責任と非難している。政府担当官の努力が必要なのは言うまでもないが、食糧問題はアフガン政府の政策を超えた問題でもある。アフガニスタン調査政策研究センターのハローン・ミル氏は、「食糧不安の背景には国内および国際的要因がある。国内農業復興の努力にも拘わらず、食糧の殆どは隣国のパキスタン、イランから輸入している。そのため、食糧市場は供給に左右されやすい」と語る。

パキスタンは最近国内市場の保護のため輸出の削減を決定。これによりアフガン国内の価格は更に上昇したため、同国に対するアフガニスタン市民の不満が高まった。ジャララバードの騒動でも、政府に対する抗議と共に反パキスタンのスローガンが叫ばれていた。

専門家は、戦争および麻薬も国内の食糧供給減の原因になっていると語る。最も肥沃な土地は採算性の高いケシの栽培に使われ、地雷の埋まった土地を農耕に使用することはできない。

しかし、アナリストは、最も大きな原因は国際的要因という。約400人の科学者で構成される農業科学技術国際評価(IAASTD)は、最近の報告書の中で、「近代農業により食糧生産は大幅に増加した。しかし、その利益は公平に配分されておらず、耐えがたい価格を生み出している」と述べ、貿易や補助金システムの変更に強硬反対している先進国を批判している。

アフガニスタン政府は今週、緊急輸入予算として5千万ドルを割り当てると発表したが、市民の多くは、必要なのは価格統制だとしている。アフガニスタンの食糧危機について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩


|コンゴ民主共和国|戦禍にまみれ、ようやく訪れた静けさ

【ボゴロIPS=マイケル・ダイバート】

52才の農民マシュー・ニャクファさんは、2003年2月のある朝に起こった出来事をこう振り返る。「連中は銃やナタ、槍や矢で人間を殺していた。人がこっちの方向に走ってくるのが見えて自分も逃げたんだ。でも、3人の子供が家の中で殺されてしまった」。

イトゥリ地方の中央に位置するここボゴロで、この時推定200人が虐殺された。ヌギティ族・レンドゥ族が中心となった武装集団「イトゥリ愛国抵抗軍」(FRPI)がかやぶきの屋根と土壁で作られた家々を破壊し人々を殺して回ったのだ。ボゴロはゲゲレ族・ヘマ族が中心の「コンゴ愛国者同盟」(UPC)の根拠地であった。

ボゴロの虐殺は、金や木材などの天然資源が豊富なイトゥリ地方で数多く起こった殺害行為のひとつである。ウガンダやルワンダも介入したこの内戦は、1998年から2003年まで続いた。

 中心的だったのは、レンドゥ族とヘマ族の争いである。両民族は、ベルギーによってコンゴが植民地化される以前、互いに共生していた。農耕民族であったレンドゥは牧畜民族であったヘマに土地を貸し与えていた。

しかし、1880年代にベルギーによる侵略が始まってからは状況が一変した。ベルギーがヘマを重んじたためにレンドゥの間に不満が募るようになったのである。

1960年にベルギーから独立し、1965年から97年にかけて成立していたモブツ独裁体制の下でも、この状況はそれほど変わらなかった。というのも、モブツ政権下で農地問題を掌握していたカロギ農務大臣がヘマ出身であり、ベルギー植民者が保有していた土地の再分配に際して自民族を優先したからである。

現在のところ、軍縮・動員解除・再統合(DDR)プロセスが進行しかつての軍閥も選挙政治に舞台を移しているため、事態はいちおう沈静化している。

カトリックの聖職者であり、地域における和解を進めることを目的とした「正義と平和のための委員会」の代表でもあるアルフレッド・ブジュさんはこういう。「人々は、自分たちが操られて特定の人間の利益のために使われていたことに気づいたのです。この状況ではすべての人間が敗者であることがわかったのです」。
 
 他方で、元軍閥指導者たちへの裁きが進行しつつある。昨年10月に逮捕されたFRPIの指導者ジャーメイン・カタンガ氏は、国際刑事裁判所(ICC)において戦争犯罪と人道に対する罪に関して裁判を受ける予定だ。さらに、レンドゥ系「民族主義統合主義戦線」(FNI)のマシュー・ヌグジョロ氏、UPCのトーマス・ルバンガ氏も裁判を待っている。FNIのフロリバート・ヌジャブ氏もキンシャサで身柄を拘束されている。

これについて、FNIのシルベスター・ソンボ氏はこう語る。「もしイトゥリに平和が訪れるとすれば、それは国際レベルや地域レベルで裁判が行われるためではない。イトゥリの子供たちが自ら平和を作り出す方法を見つけ出すためだ」。

FRPIの部隊が散発的に政府軍と戦闘を繰り広げていたり、ウガンダの利害関係者が資源利権がらみで軍閥に支援を続けているなど、好ましくない動きもいまだにある。

しかし、10年近くにわたる激しい内戦を経て、人々は、大規模な戦闘を避けることにもっとも強い関心を注いでいるようである。

コンゴ民主共和国における内戦の歴史とその後処理の問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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Q&A:途上国側の意見を反映させたニュース配信を求める

【国連IPS=タリフ・ディーン

「発展途上国の新聞には我々が本当に伝えていくべき内容の記事が全く載っていない。(世界の主要メディアが取り上げようとしない)開発、貧困、飢餓、人口、医療、教育、ジェンダー問題などは依然として置き去りにされたままだ」。

スリランカの元駐米大使で外交問題に詳しくコラムニストや編集者としての豊富な経験を持つアーネスト・コリア(Ernest Corea)氏は、途上国の新聞が取り上げる内容は誤解されたものが多いと嘆く。

それでも、これまでアフリカ・アジア・南米では多くの地元通信社(DEPTHNEWS、Gemini News Service、Non-Aligned News Agency Poolなど)が途上国の視点に立ったニュース配信をするため、それなりの努力をしてきた。しかし、コリア氏によるとその努力は実を結んでいないという。

 コリア氏は、途上国における国際的な報道機関のあり方と、その設立の可能性についてIPSとの取材に応じた。

IPS:インターネットやウェブなど情報技術は通信社の設立に貢献すると思いますか。

EC:理論的にはそうだと思います。しかし、開発途上国でのインターネットをはじめとする先進技術の普及はまだまだ遅れているのが現状です。

IPS:途上国に焦点を当てた通信社の設立は本当に可能だと思いますか。まず、途上国の通信社や新聞社との間で『南南協力』を推進することが必要ではないですか。

EC:必要とされる能力・訓練の向上や資金力の確保と、通信社設立の実現は両方とも重要であると思います。実現のための条件はたくさんあります。全ての部署に専門スタッフを配属するため充分な資金を投じること、特定の政党や政府による干渉を受けないようにすること、途上国にとって報道価値のある内容を必ず扱うこと、などです。

途上国に関する報道の中で開発関連問題の重要性を指摘するアーネスト・コリア氏へのインタビューを伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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|インド|論争が続く農産物先物取引

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

インド政府が設立した高官レベルの委員会は、先物取引が食糧価格高騰の引き金になっているかどうかを明確にしようとせず、この問題についての深刻な対立を示している。

委員のほとんどはシン首相の新自由主義政策を支持している。21日に発表された中間報告書では「先物取引が農産物価格の変動を助長すると断言はできない。適切に機能する先物市場は中長期的に価格安定をもたらす可能性がある」とされた。

委員会の結論がどうであれ、農民組織や食糧確保の専門家は、野放しの貿易と投機が農業国インドで主要穀物価格を急騰させていると考えている。委員会の中間報告を受けて、農民の権利の活動家であるK.B.チョウドリー氏は「農民ではなく輸出入業者や企業ばかりが利益を得る新自由主義政策を転換して、先物取引を禁止すべきだ」と述べた。

 インドは2007~08年に記録的な穀物生産高を達成したが、その価格は際限なく跳ね上がり、インド国民の大半には手が届かなくなった。「それでも政府は新自由主義経済全体を見直すことなく、断片的な対策しか行っていない」とチョウドリー氏はいう。

国際的に著名な食糧確保の専門家であるV.シバ氏も「食糧価格の歯止めなき高騰は政府の経済政策が招いたもの」とする。シバ氏によると、開発のための農業科学技術国際評価(IAASTD)の新たな報告書は、東南アジア・太平洋地域で農村の貧困、飢餓と栄養不良、農村と都市の格差などが広がっていると指摘しており、インドもこれに当てはまる。

インドの食糧価格高騰は、世界貿易機関(WTO)の圧力によりインドの食糧経済が世界貿易に組み込まれたせいだとシバ氏はみている。さらに米国との二国間農業協定によりインドの農業が企業化したことも要因となっている。

バイオ燃料の生産、輸出用穀物の大規模生産も、国内で消費される食糧を減らしている。チョウドリー氏は「企業の圧力を受けているために政府は先物取引を禁止しようとしない」という。インドの食糧価格高騰問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩
 

|エクアドル|外来種とたたかうガラパゴス諸島

【ガラパゴス諸島IPS=マーク・ワイゼンミラー】

Guava is one of three invasive plant species that have taken root in the Galapagos Islands. Credit: Charles Darwin Foundation
Guava is one of three invasive plant species that have taken root in the Galapagos Islands. Credit: Charles Darwin Foundation

「時を忘れた島」と呼ばれるエクアドルのガラパゴス諸島では、生態系を壊してしまう外来種との闘いが長年続いている。

諸島の13の島はそれぞれの生態系を持っている。たとえば、数百万年前の火山の爆発によってできたバルトロメ島では、アシカやガラパゴスペンギン、エイやサメを見ることができる。サンタクルス島では、イグアナやマネシツグミ、フィンチが見られる。

ブラックベリー、グアバ、パッションフルーツなどと聞くと魅力的だが、ここでは生物の多様性を損なってしまう危険な植物だ。というのも、これらの植物は蔓を伸ばして他の植物から日光を奪ってしまうからだ。ブラックベリーなどの種子は渡り鳥によって運ばれたり風によって飛ばされることによって別の島に根付く。

 これらの植物を根絶やしにするためには、除草剤を撒いたり、昔ながらのやり方で手作業で刈っていくしかない。

他方、ヤギや豚、猫や犬といった1800年代に持ち込まれた動物も大きな問題を引き起こしている。ヤギは、一時期13万頭にまで膨れ上がった。しかし、銃で撃ったり毒殺したりして今ではわずか頭数300にまで抑え込まれている。しかし、この数を今後維持していくのが大変なのである。

また、増加する観光客の問題もある。ただし、観光客は諸島のあらゆるところに行けるわけではない。場合によっては、観光客よりも、車を走らせたり不適切な下水システムを使ったりしている地元住民の方が環境に悪影響を与えていることもあるという。

ガラパゴス諸島の生態系維持の問題について報告する。(原文へ

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

|コンゴ|安全な水と衛生の確保が何よりも不可欠

【キンシャサIPS=マイケル・ディバート】

アフリカ中央部のコンゴ民主共和国(DRC)では4月の最初の雨季を迎え、多くの人々が劣悪な衛生環境に苦しんでいる。

首都キンシャサの町では穴だらけの道路に車よりも大きな水溜りがあちこちにでき、通行の大きな妨げになっている。そして、長く厳しい雨季が到来するこの地域で毎年人々を悩ませているのが、水と衛生の問題である。

DRC政府も長年この問題に手をつけてこなかったため、今でも町には下水設備が1箇所もない。北キブ州やオリエンタル州などの農村部では、女性や子供が共同ポンプからバケツに水を汲み、毎日村まで運んでいる。

 (最新のデータはないが)2001年に国連が行った調査では、安全な水を手に入れることができるのはDRC全人口の僅か46%だった。農村地域では自然の湧き水が豊富にあるものの、汚染の疑いのない水は30%ほどであった。

International Rescue Committee(IRC)とBurnet Instituteが発表した報告書によると、DRCにおける死亡要因の多くは感染症や栄養失調、新生児や妊娠に関わる疾病にあり、紛争や内戦による死亡はそれほど多くないという。

ユニセフ(UNICEF)のスティーブン・ラウヴェリエール氏は「DRCの疾病のほとんどが不衛生な水に原因がある。水の煮沸など意味がない。家の中や外、全ての衛生状況が最悪なのだから」と話す。

ユニセフはカビラ政権と共同で『Village Assaini(Healthy Village)計画』に乗り出した。安全な水の供給設備の設置や、公衆衛生の向上と増進に努めることを目的としている。

コンゴ民主共和国における水・衛生問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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|米国|「支払えなければ、生かしておくように」と裁判所

【ボストンIPS=エイドリアン・アペル】

ニューメキシコ州は、8年と数百万ドルを費やしながら、2件の死刑裁判の続行を断念した。州議会が裁判所の任命した弁護士に追加料金を支払う投票を回避したためである。

金銭的な理由から死刑を取り下げるという前例のない決定は、ニューメキシコ州の検察が今後、再び死刑を求刑しようとするのだろうかという疑問を抱かせる。また、米国の他の州でも死刑案件を審理するためのコストが増大しており、このコスト増大が米国の死刑制度廃止を早める大きな要因として新たに浮かび上がるのではないかと示唆するものとなった。

今月初めに、ライス・ロペスとロバート・ヤングの訴訟を担当する主任検察官は、地方裁判所の指示に従って死刑の求刑を取り下げた。ロペスとヤング両名は、1999年の刑務所暴動で看守のラルフ・ガルシア氏を殺害した罪で告訴されていた。

 地方裁判所がこの指示を出したのは、州議会が2月に、裁判所の任命する弁護士の事務所に追加料金を支払うという投票を行うことなく、2009年1月まで休会に入ったのを受けてである。

裁判所はそれより先に、ロペスとヤングの担当弁護士の弁護料が費用に見合わず不足しているという訴えを受理し、州議会はさらに20万ドルを事務所に割り当てるべきだと命じていた。この事件では、もともとの15人の受刑者のうち、告訴を取り下げられるか減刑された3人を除く全員が審理中で、すでに州は数百万ドルを費やしていた。

「州議会では追加の支払いを行うという趣旨の法案を起草するものがいなかった」とニューメキシコ州のゲイル・キャシー議員はIPSに解説した。「歳入は減っており、収支を合わせなければならないからだ」

さらに議員たちは来年までこの「金のかかる問題」を扱う必要がなくなったと「ほっとしている」とキャシー議員は語った。

「死刑が取り下げとなったのは実に良いニュースだ」とニューメキシコ州死刑廃止同盟のキャスリーン・マクレー氏は検察官が正式に死刑求刑を取り下げた後でIPSの取材に応じて語った。「州と州の財政のために良いニュースであり、容疑者とその家族のためにも良いニュースだ」

ロペスの代理人を務めるいわゆる「公選弁護人」のジャクリーン・ロビンス氏は、弁護費用に見合うだけの料金が支払われていないと裁判所に訴えた弁護士の1人である。

「私たちの訴えは法律的主張だ」とロビンス氏はIPSの取材に応じて語った。「もしニューメキシコ州が死刑を行うつもりなら、刑の執行とともに弁護のために利用できる資金を調達する必要がある」

ロビンス氏は「この案件で死刑制度を覆そうとするつもりだったのではない」としながら、「それでもこのような結果になったことをうれしく思う」といい、「ロペスも喜んでいる」と語った。

「次席検事は一時、死刑制度をなくすための策略としてこの訴えを行っていると主張した。私は仕事をするために破産の憂き目を見るのは策略ではないと述べた」とロビンス氏はいう。

刑務所看守の未亡人のレイチェル・ガルシアさんは以前、州に夫の死に関与したとされる人々に死刑を行わないように求めていた。

このように注目を集めている裁判での死刑求刑を取り下げる決定は、死刑全廃に関してニューメキシコ州で起きている議論に一定の役割を果たす可能性がある。

「死刑廃止までもう少しだ」とニューメキシコ州アメリカ自由人権協会のダイアン・ウッド氏はIPSの取材に応じて語った。「上院も下院も死刑廃止を望んでいる」

キャシー議員が作成した死刑廃止法案は2005年と2007年に下院を通過している。死刑廃止支持者は、ビル・リチャードソン知事が拒否権をちらつかせて法案が成立するのを妨げたという。

知事は、「私はニューメキシコ州の死刑に関する法律に賛成である」といっている。「この法律は凶悪犯罪に情状酌量はないという強いメッセージを伝えており、犠牲者の家族に正義を提供するものだ」

リチャードソン知事は、民主党の次期大統領選候補レースから最近脱落したが、閣僚ポストを提示されれば知事を辞めると語っている。そうなると、おそらくニューメキシコ州が次に死刑制度を廃止する州になるための道が開かれる可能性がある。ニュージャージー州は昨年死刑を廃止している。
「たとえ知事を辞めなくても、態度を変える可能性はありうる」とキャシー議員はいい、カトリック教徒を公言する知事が教会の有力者からの影響を受け入れる余地があるのではないかと考えている。

ューメキシコ州の金銭的な理由で死刑制度を取り下げた決定は、死刑を行っている他の36の州で強い関心を持って注目されるだろう。いくつかの州は、死刑制度維持を無効とする法案に直面している。死刑の代償と公正の再検討は現在、カリフォルニア州、ジョージア州、メリーランド州、ネブラスカ州、オハイオ州、ユタ州で進められている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|バングラデシュ|豊作に願いを託す

【ダッカIPS=ファリド・アーメド】

総人口1億5000万人のうち40%が1日1ドル以下の生活を送るバングラデシュでは、この1年間に米、小麦、豆類、料理用油の価格が2倍にも高騰した。米価格の高騰で、人々は1974年の大飢饉以来最悪の米不足に苦しんでいる。

昨年1月非常事態宣言の下、政権に就いた元世界銀行高官のファクルッディン・アーメド率いる現暫定内閣が時宜を得た施策をとらず、価格高騰を食い止めることができなかったことを非難する声が高い。

 補助金を受けている粗末な品種の米の価格すら、この1カ月で24%、1年間で70%も高騰し、貧困層そして中流階級の人々も毎日その米を買うのに長蛇の列に並ぶ。そうした米屋の多くは、食糧暴動をおそれて、武装した自警団が警護に当たっている事態だ。

現在の危機は、昨年の洪水とサイクロンに世界的な価格急騰が加わり悪化したものだ。食料・災害対策大臣はこれが「隠れた飢餓」を生んだと述べている。

しかしエコノミストらは、暫定政権の熱心な不正・汚職対策と治安部隊による「愚かな」市場介入が事態の悪化を招いていると非難する。暫定政権は、今年末までの「自由公正で信頼に足る」選挙実施に向けて腐敗対策を推進している。

バングラデシュの稲作は、異なる稲を使い分けた3期作が行われており、政府は4月末に収穫を迎える品種ボロの豊作に期待をかける。この品種は米の年間総収穫高のおよそ60%を占めるからだ。

国内最大のNGOバングラデシュ農村向上委員会(BRAC)のマハブブ・ホサイン事務局長は、IPSの取材に応えて、政府は補助金による食料配給制度を強化して価格安定を図り、食料市場の変動に苦しむ低所得層を保護する必要があると訴えた。

政府によるさまざまな食料援助策も追いつかず、世帯収入の70%をも食費に充てなければならない事態にまで追い込まれているバングラデシュの状況について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩