【IPSコラム=クンダ・ディキシット『ネパーリ・タイムズ』の編集長】
毛沢東は中国で死んだが、ネパールで甦った。ヒマラヤの毛派は武器の力ではなく、投票によって政権をとったのである。
ネパールの毛派は、君主制の打倒を目指して1996年から2006年にかけて戦ったが、2年前に停戦に合意し、今年4月10日の制憲議会選挙に向けて準備を進めてきた。結果は、予想以上に毛派が勝利を収めた。
ネパールから私たちが得た教訓とは、10年間にわたる内戦と1万5000人の殺害によって毛派が達成できなかったことを、非暴力的な選挙によって得ることができた、という事実である。
国外の人びとにとっては、信頼を失ったイデオロギーになぜネパールの国民は賭けたのかといぶかしむ向きもあるかもしれない。しかし、選挙での毛派の勝利は、ネパールの国民すべてが毛派であるとか、彼らがもうひとつの「人民共和国」を目指しているとかいったことを意味しない。
人びとが毛派に投票したのは変化を望んだからであり、他の民主諸政党の無能さに飽き飽きしていたからである。ネパールの貧困層は、自分たちの生活レベルを引き上げてくれそうな政党に賭けた。また、停戦に合意した毛派に報いたという側面もある。
他方で、毛派のプラチャンダ書記長は、暴力をいまだに明確に否定していない。マハト財務大臣が選挙での勝利から2日後に毛派幹部によって殴打された事件は、毛派がいまだに暴力と脅迫に訴える政党であるとのイメージを植えつけた。
毛派には、君主制の廃止、毛派軍と政府軍の統合などの課題が待っている。
より長期的には、どんな政治体制を選択するのか(連邦制?)、国内103の民族集団の処遇をどうするのか、といった課題がある。
アジアでも最も貧しいネパールでは人びとの期待はきわめて高く、国家再編の課題は容易には実現されない。人びとが自分たちの生活が向上したと感じられなければ、選挙で勝利した毛派の歓喜はすぐかき消されてしまうことになるだろう。 (原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
*クンダ・ディキシット氏は、『ネパーリ・タイムズ』の編集長・発行人で、元BBCラジオ国連特派員、元インタープレスサービスアジア・太平洋総局長。