【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】
ビルマ(ミャンマー)東部のタイ国境近くシャン州における家禽類の鳥インフルエンザ(AI)感染拡大
のニュースは、不安と安堵が交錯して受け止められている。
安堵の理由は、この軍事政権国で12月末、強毒性の H5N1型ウイルスに感染した鶏約1,000羽、アヒル20羽、ガチョウ数羽が死亡したことを受けて、情報の流れが確保され、警告が発せられるまでに至ったからである。被害にあった地域の農民らは、庭で家禽類が死んでいるのを発見すると直ちに地元の畜産および保健当局に通報した。
国連食糧農業機関(FAO)アジア太平洋地域事務所のアジアAIプロジェクト地域コーディネーターのWantanee Kalpravidh氏は「良い徴候だ。鳥インフルエンザの拡大を食い止めるためには、こうした地元コミュニティの行動が極めて重要となる。対策には庭で家禽を飼育している農家を取り組むことが不可欠」と述べている。
今回の農民の対応は、ビルマで行われてきた教育・啓蒙キャンペーンの成果である。この情報キャンペーンは、FAOなど国連機関ならびにビルマの畜産省および保健省の職員が中心となって推進してきた。Wantanee氏は「農民を対象に、広範な教育・啓蒙プログラムを展開してきた。農民がAI発生の第一通報者となった最近のジャン州の事例のように、次第に成果が現れている」とIPSの取材に対し語った。
実際、シャン州は教育キャンペーンの重点地区であった。何と言っても、12月末の最新の発生に先立ち、2007年10月と11月の少なくとも2回ビルマの畜産獣医局がAIの発生を記録している州である。
FAOによれば、12月第1週には2回の研修プログラムが実施され、多数の農民を含め約800人の参加者があった。研修では、感染した家禽類の特定方法、家で飼育している鶏が死亡し始めた時の対処方法、人の自己防衛方法、通知すべき当局などについて現地の言葉で指導が行われた。
AIの感染拡大を抑える取り組みに一般市民の関与を認めようという軍事政権の試みは、2006年3月に中部の都市マンダレーで致死率の高い鳥インフルエンザウイルスが初めて発生した時に軍政幹部がとった当初の対応とは対照的である。当時は、発生後4日間、地元国営メディアでビルマ国民に情報が公表されることはなかった。
しかしその一方で、最近のベトナムからの報道で明らかなように、ビルマより長期にかつ広範な地域で実施されてきた教育・啓蒙活動が高く評価されている諸国でさえ、鳥インフルエンザは恐るべき脅威であり続けている。12月下旬、ベトナム南部の2つの村落で鳥インフルエンザが発生し、何百羽ものガチョウが処分されたと、動物衛生局は伝えている。
ベトナムは、現在の鳥インフルエンザが初めて発生した2003年冬、最も深刻な被害に見舞われた東南アジアの国のひとつだった。(日本政府の対応)2005年末までに、ウイルスに感染した93人中42人が死亡した。加えて、ベトナム国内で飼育されている家禽類の約17%に相当する4400万羽が死亡あるいは処分された。
しかしそうした恐ろしい状況を食い止めるため、2005年末に向けて集中的な教育・予防接種・処分プログラムが開始された。また市民の生活習慣を変えようという取り組みのひとつとして、生きた鶏やさばいたばかりの鶏が売られている至る所にある生鮮市場が強制的に閉鎖された。そして2006年の大半は期待の成果を上げ、ベトナム国内では家禽類のAI感染報告が1件もなく終わったのである。
しかし昨年初めからベトナムは再びAI発生と闘っている。死亡数が最大であったのは放し飼いのアヒルだった。あっという間に感染が広がり死んでしまう鶏とは違い、アヒルはH5N1型ウイルスの(症状があまりないが感染を広げる)「サイレント・キャリア」と専門家にしばしば言われていた。
ベトナムの鳥インフルエンザ感染拡大の再発、依然感染が続き、域内で最も被害が深刻なインドネシアの現状は、畜産および公衆衛生の専門家の懸念を実感するものとなっている。12月半ばFAOはAI感染拡大の世界的傾向に関する最新情報の中で「アジアではウイルスがいくつかの流行地域で活発に循環している」と述べている。
FAOによれば、2003年冬に動物のH5N1型感染が発生して以来、アジア、欧州およびアフリカ60カ国以上で感染事例が確認されている。「このうち28カ国が2007年中に感染発生を経験した。その中でもバングラデシュ、ベニン、ガーナ、サウジアラビア、トーゴの5カ国が初めての発生であった」
世界保健機関(WHO)によれば、2003年以降、感染者348人中死亡者は215人を数える。2007年には、感染者77人のうち50人が死亡した。死亡者が出たのは、カンボジア、中国、エジプト、インドネシア、ラオス、ナイジェリアおよびベトナムである。インドネシアでは、2004年以降報告された感染者116人のうち94人が死亡している。
昨年11月には、ビルマでも初めてヒト感染症例が確認された。シャン州の村落に暮らす7歳の少女である。村で家禽類のAI感染が発生した後、その少女も感染した。
公衆衛生の専門家は、H5NⅠ型ウイルスが人から人に感染しすい新型インフルエンザに変異し、数百万人単位の死亡者を出しうる世界的大流行(パンデミック)を引き起こす可能性を懸念している。この懸念は、人間の免疫システムにはH5NⅠ型鳥インフルエンザウイルスによる感染症と闘う力がないという事実に基づくものである。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩