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|スワジランド|水危機―「単なる水供給システムの問題」か

【ムババーネIPS=ジェームズ・ホール】

スワジランドは、過去最悪と言われる旱魃に見舞われている。しおれたメイズ(トウモロコシ)、飲料水の確保に今まで以上に時間を要している農村地域の女性たち、汚染された川の水を利用せざるを得ないスラム街の住民たち、下がる一方の河川の水位。すべて水危機を示唆する証拠だ。

スワジランドの水当局は長年にわたり、水供給源から水不足の地域に給水する単なるシステムの問題であるとして、人口100万余のこの小国の根本的な水不足を否定してきた。

スワジランド水道公社の広報官で、政府の水危機委員会の副委員長を務めるジャメソン・ムクホンタ氏は、IPSの取材に対し「スワジランドは河川が豊富だ。これらの河川を連結する資金があれば、夏季も水を自給自足できる。雨季に雨水を集水する手段さえあれば、1年中自給自足が可能となる」と答えた。

しかし旱魃がこうも度重なると、そうした主張にも疑問が生じる。

1968年の独立当時に比べ人口は3倍に増大し、増加した家畜が草木を食べ尽くして土壌の浸食が進んだ。砂漠化により水供給源は危険にさらされている。

国家緊急対応委員会のベン・ヌシバンゼ委員長は、旱魃の頻度が高くなっているのは地球温暖化が原因と指摘する。9月からの雨季が11月、12月にずれ込んでいる。

水危機委員会による水の自給自足計画は、水供給源から水不足地域への送水と試錐孔掘削による地下水利用が基盤となっているが、既存の貯水池ですら降雨不足にある現状を考えると、計画の不備が明白になるばかりである。

首都ムババーネでは給水制限が実施されており、自作農民は市場向け野菜作物の生産や輸出用サトウキビの生産協同組合の創設に向けて導入した灌漑システムを断念している。

天然資源省の水資源管理を専門とするエコノミストのクリストファー・ファクゼ氏は「給水システムを整備しても問題の解決にはならない。なぜなら水資源自体が不足しているからだ」と述べ、「降雨不足は貯水池のみならず帯水層にも影響を及ぼしているため、いくら試錐孔を掘っても役に立たない」と説く。

スワジランドの旱魃について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|中東|ツツ大司教、イスラエルの行為をアパルトヘイトにたとえる

【ボストンIPS=アドリアーネ・アッペル】

南アフリカのデズモンド・ツツ名誉大司教が、訪問中の米ボストン州・オールドサウス教会で10月27日に行われた会議において、現在のパレスチナがおかれている状況を南アフリカのアパルトヘイトにたとえた。 

ツツ大司教が話したのは、キリスト教徒のパレスチナ人から成る団体「フレンズ・オブ・サビール北米」(Friends of Sabeel North America)が開いた会議「パレスチナ・イスラエル関係におけるアパルトヘイトという見方」の場において。会議にはノーム・チョムスキーも参加した。 

会議が始まる前には、ツツ大司教を招聘することに対してオールドサウス教会に苦情が寄せられていた。「中東報道の正確性を求める委員会」(The Committee for Accuracy in Middle East Reporting)は、「サビール」は「反シオニスト」的であるとして抗議した。会議の開かれた27日には、「イスラエルと連帯するキリスト教徒・ユダヤ教徒の会」(Christians and Jews United for Israel)のメンバーがツツ訪米に反対して会場の外でデモを行った。

 ツツは、こうした声に負けず、イスラエルによるパレスチナ人家屋の破壊やパレスチナ人の移動制限などの例を挙げながら、パレスチナと南アのアパルトヘイト時代とを比較した。 

ツツは、「『あれは昔、私の家だったのに』という声を聞くと、有色人種が何の人権も持たなかった南アフリカにおける経験と痛いほど同じだという感覚がします」と話した。 

他方でツツは、ユダヤ人による抵抗の伝統から刺激を受けているとも語った。 

また、政治と宗教の関係について、「豊かな暮らしをし、権力を持った人々は、宗教と政治を混同するなと批判する。しかし、『ツツ司教、あなたはあまりに政治的過ぎる』と貧者が言うのを私は一度も聞いたことがない」と断言した。 

他方、チョムスキーは、米国がイスラエルに対して外交面・金融面の支援をしていることに聴衆の関心を向けさせた。 

ツツ名誉大司教訪米のニュースについて伝える。(原文へ) 

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩 

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|レバノン|組織的差別に遭うパレスチナ難民

|レバノン|組織的差別に遭うパレスチナ難民

【ベイルートIPS=シンバ・ルソー】

1948年のイスラエル建国以来、レバノンに逃れたパレスチナ難民は変わることなく差別、疎外を受けている。12ヶ所のパレスチナ難民キャンプはインフラが未整備で、40万人難民の半数が過密、貧困、高い失業率の問題に直面している。 

アムネスティ・インターナショナルはベイルートで行われた記者会見において、パレスチナ難民もレバノン国民と同様の基本的人権を享受できるようにすべきだとして、経済、社会、文化面の差別を迅速に排除するよう求めた。

 アラブ連盟の加盟国であるレバノンはパレスチナを承認しているが、労働関係では互恵主義を法制化しており、国家を持たないパレスチナ人がレバノンで就職する際の障害となっている。2005年にレバノン政府は50職種をパレスチナ人に開放したが、実際に就労許可を得た者は数えるほどである。 

レバノン北部のパレスチナ人難民キャンプ「ナール・アルバレド」では5月20日から9月2日までレバノン軍とスンニ派イスラム集団ファタハ・アルイスラムが衝突、少なくとも400人の死者が出たうえ、インフラ、上下水道が破壊された。レバノン軍による虐待を恐れて、近くの「バダウィ・キャンプ」に流れた難民も多い。セニオラ首相はキャンプ再建のために国際社会に4億ドルの寄付を求めている。 

根本的な問題は、レバノン軍および警察にあたる内務省警察軍がパレスチナ人を脅威ととらえていることだとレバノンのバラマンド大学ラニア・マスリ助教授は指摘する。ファタハを難民キャンプに引き入れたのがパレスチナ人だと非難する人は多い。 

レバノン在住のパレスチナ難民の人権問題について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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パレスチナ人の貧困最悪に 

|ソロモン諸島|豪州平和維持軍には真の目的がある

【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】

オーストラリア軍を中心に構成された「ソロモン諸島地域支援ミッション」(RAMSI)への地元民の支持は非常に高いとの世論調査結果が発表された。しかし、ソロモン諸島マナセ・ソガワレ首相は、この調査のタイミングはオーストラリア政府の「真の目的」を示していると批判した。

RAMSIは、豪州とニュージーランドを中心とし、トンガ・フィジー・パプアニューギニアなどその他13ヶ国の太平洋諸国から構成された平和維持部隊で、ソロモン諸島で5年にわたる政情不安・騒擾が起こった後、2003年に発足した。

オーストラリア国立大学によって行われた今回の調査では、調査対象となったソロモン諸島民5154人のうち、RAMSIが活動を終了すればソロモン諸島の治安はまた悪化するかとの問いに対して、53%が「そう思う」と答え、27%が「おそらくそうなると思う」と答えた。

しかし、ソガワレ首相は、この調査の「真の目的」は豪州の国益の確保にあるとIPSの取材に対して答えた。豪州は、太平洋諸島に浸透してきたテロリストが豪州や米国にとっての脅威になるとの前提で活動している、と首相は主張する。豪州の国益中心主義の姿勢は、2000年にウルファアル首相(当時)が国内での騒擾発生に際して介入を豪州に要請した時に豪州がそれを断った事実に現れているという。

今回の世論調査は、ソロモン議会が11月に「国際支援促進法」(FIAA)の見直しを予定しているというタイミングで行われた。議会はRAMSIの撤退を検討する予定ではないが、RAMSIの活動を現在の軍事的アプローチから開発アプローチへと調整することを政府は望んでいる、とソガワレ首相は主張する。

ソロモン諸島と豪州の関係はこのところとみに悪化していた。2006年4月には首都ホニアラで起きた騒擾の原因をめぐって両国間で争いが起きた。また、駐ソロモン豪大使が国内政治に介入したとして追放され、他方で、ソロモンのモチ法務長官が児童性犯罪に関与したとして豪州政府が追放処分にしようとした。

オーストラリアの平和維持軍に対するソロモン諸島の反応について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

欧米豪民主主義諸国の制裁でフィジー中国に接近

|カナダ|NAFTAのせいで水を失うカナダ

【トロントIPS=スティーブン・リーヒ

北米自由貿易協定(NAFTA)の下で、カナダは自らのエネルギー資源に対するコントロールを失った。さらに、「NAFTAプラス」と呼ばれる枠組みによって、水資源まで失おうとしている。

2005年、米国・カナダ・メキシコの3ヶ国によって、「安全保障・繁栄パートナーシップ」(SPP)と呼ばれる枠組みが作られた。しばしば「NAFTAプラス」とも称される。

 『水・エネルギー・北米統合』という報告書を書いたアンドリュー・ニキフォルク氏によると、SPPは政財界の重鎮から構成されており、すでに、国境警備、農薬に関する規制緩和、パイプライン規制の統合、鳥インフルエンザ対策の計画などに関連して市民の目の届かないところで活動しているという。

「カナダ水問題評議会」のラルフ・ペントランド氏は、「SPPは企業経営者に牛耳られている。政府はお添えに過ぎない」と断言する。氏によると、米国の水不足を解消するために、巨額の資金を投じてカナダの水が米国に流されることになるだろうという。

しかし、カナダの水資源は極北地域に集中しているし、米・カナダ国境間の5大湖の水量は気候変動によってこの100年間で最低レベルになっている。

問題はそれだけではない。カナダは、北部アルバータ州の針葉樹林にあるタールサンドから石油を抽出して毎日100万バレルを米国に輸出している。しかし、1バレルの石油を生産するためには3バレルの水が必要となる。米国の石油浪費によってカナダの水資源が浪費されている形だ。

この石油プロジェクトによってすでに3億5900万立方メートルの水が消費された。しかも、こうして使用された水は汚染されているために、人口湖にためておかなければならない。これだけあればカナダの200万人規模の都市の水がまかなえるのである。(原文へ

INPS Japan 

|ベネズエラ|さよならレーニン、そしてその他の「外国風」の名前

【カラカスIPS=ウンベルト・マルケス】

ベネズエラ政府が、スペイン語では発音しにくかったり、外国風に聞こえる名前を子供につけることを禁止する法案を通そうとしている。

戸籍業務を担当している全国選挙管理委員会(CNE)が準備している法案によると、「嘲笑の対象になったり、突飛だったり、公的言語(すなわちスペイン語)で発音しにくい」名前を登録することはできない、とされている。また、家族内で似たような名前をつけること、性別が判別できない名前をつけることもできなくなる。

しかし、ベネズエラでは、両親の名前を組み合わせて子供につけることが一般化している。たとえば、マリオとヨランダの子供でヨリマールとか、ラモンとセレステの子供でラムセルといった具合だ。

政府側は、名前を付けやすくするために、一般的な名前のリストを作って家庭に配布する計画だという。


 
しかし、この法案への反発は決して少なくない。たとえば、ベネズエラ中央大学学生連盟の代表を務めるスターリン・ゴンザレスさんは、法案は子供に自由に名前を付ける権利を奪うものだとして批判している。偶然だが、今年に入って、「スターリン」さんは「ニクソン」さんを支援した。ニクソンさんとは、アンデス大学の学生であるニクソン・モレノさんのことで、彼は、亡命することを求めてローマ教皇の外交使節に一時身を寄せていたのである。

政府の戸籍問題責任者であるフアン・カルロス・ピントー氏は、子供に自由に名前を付ける権利があるのは当然のことだが、それは一定の範囲内に収められなくてはならないと反論する。

 た、CNEのティビセイ・ルセナ委員長は、家庭に配られる子供の名前のリストは地域の特性に合わせて徐々に拡大されることになるから心配ない、と述べている。CNEは、アルゼンチン・チリ・エクアドル・フランス・パナマ・ペルー・スペイン・スイスなどでは名前に関するもっと厳しい法律が存在すると説明し、法案の正当化を図ろうとしている。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|米国|露見したイスラエル・ロビー

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【ワシントンIPS=コーディ・アハビ】

ジョン・J・ミアシャイマーとステファン・M・ウォルトが、問題の論文「イスラエル・ロビー」をロンドン・レビュー・オブ・ブックス2006年3月号に発表した際には、殆どの学者が夢にしか想像できないような大反響を得た。

しかし、ネオコン、ユダヤ教徒、反対派学者、評論家、そしてアメリカ・イスラエル共同問題委員会(AIPACを始めとするワシントンのロビー団体からなる大規模な連合が、米国の中東政策を形作り、ワシントンにおける自由な討議を妨げているとの主張により、反対派の厳しい批判/攻撃を受けた。

 自らも同問題に関与しているコラムニストのクリストファー・ヒチェンズは、同論文を「僅かではあるが、見逃せない怪しさがある」と批評。名誉棄損防止同盟(Anti-Defamation League)は、ユダヤの力/支配という作り話を想起させる古典的反ユダヤ分析と批判。ハーバード大学法学部のアラン・ダーショウィッツ教授は、論文には歪曲があると述べ、当時ハーバード大学行政大学院の学部長を務めていたウォルトとシカゴ大学教授のミアシャイマーが、学術的貢献が少なく誤使用を受けやすい論文を敢えて執筆した動機について疑問を呈した。

著者の学術的権威が低ければ、これ程の反応は起こらなかっただろう。一夜にして、学会の2権威は、長きに亘りタブーとされてきた問題に扉を開いたことで、悪名をはせてしまったのである。

そして、イスラエル支持政策を積極的に推進している活動家、所謂“ロビー”は、論文とその著者の信用を貶めるため攻撃的キャンペーンを開始した。しかし、1年後の今も彼らの地位は揺らいでおらず、マイケル・マッシングは、彼らの主張が引き起こした大きな関心は、(ロビーの)努力が完全には成功していないことの証拠と語っている。

ミアシャイマー/ウォルト両氏は最近、同論文を基に「イスラエルのロビー活動と米外交政策」と題された355ページの本をファラー・ストラウス・ギロウ社から出版した。論調は殆ど同じであるが、両氏は同本の中で、米国の外交的、軍事的、そしてあからさまなイスラエル支援には戦略/モラル的理由は存在せず、米国はイスラエルを他の同盟国と同様に扱い、米国の国益に利する外交戦略を行うべきと主張している。

両氏はまた、イスラエル・ロビー団体の強い影響力により、米国の政策議論は、自国の長期的安全保障を損なわせる方向に向かっていると批判。更に、「キューバ系、アイルランド系、アルメニア系、インド系の米市民を代表する民族的ロビー団体などの利益団体も米国の外交政策を彼らの望む方向へ傾けようとしているが、これらの団体は、米国の国益からかけ離れた政策は提案していない」と述べている。

イスラエル政府のエージェントであるロビー団体は、イスラエルの国益に関する市民ネットワークあるいは“政治同盟”の考えからいかにかけ離れているか。ミアシャイマーとウォルトは、「ロビーを動かしているのは特別な政治課題であって、宗教的あるいは民族的アイデンティティーではない」としている。

両氏は、ロビー団体は独自に行動しており、その行動は、時にイスラエル政府の政策/利益に反していると主張。それは、ロビーの組織リーダーが、イスラエルの右派リクード党に近い個人、組織で構成されていることによるかも知れない。

この点に関しては、ミアシャイマー/ウォルトの“イスラエル・ロビー”という広い呼称は、自らも認めるように、イスラエル支持の政治コミュニティー内の考え方の多様性を表していないため、誤解を生じやすい。より正確には“リクード党支持ロビー”と呼ぶべきである。それにも拘わらず、著者2人は、Americans for Peace Now(即時平和を求める米国人)やイスラエル政策フォーラムといった中道のイスラエル支援グループを、“イスラエル・ロビー”という一般的カテゴリーに含め、更に曖昧にしている。

実際、著者が定義しているロビーの境界線は曖昧だが、ミアシャイマーとウォルトは、核を構成していると考えられる学者、シンクタンク、政治活動委員会、ネオコン、ユダヤキリスト教団体などのグループを特定し、同グループは、「我々の共通項は、イデオロギー的連帯である」との議論を盛り上げる傾向があるとしている。

これらには、AIPAC,ジョン・ハギーのイスラエルのためのキリスト教徒連合(Christians United for Israel)、米国主要ユダヤ組織会長会議、全米ユダヤ協会、ユダヤ国家安全問題研究所(Jewish Institute for National Security Affairs)、バーナード・ルイス、チャールス・クラウサマー、ダニエル・パイプス、中東フォーラム、イスラエル・プロジェクト、エリオット・エイブラムス、I.ルイス “スクーター”リビー、安全保障政策センター、ウィリアム・クリストル、ワシントン近東(Near East)政策研究所、エリオット・エンゲル議員(ニューヨーク州選出)などが含まれる。(順不同)
 
 ミアシャイマーとウォルトは、ロビー団体とその支援者が、イスラエル批判を抑えるためにマイケル・マッシング言うところの「いじめ戦略」をどの程度行っているかについても詳説している。ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスの中で論文に関する最も本質的な批判を書いたマッシングは、「多くの欠陥にも拘わらず、ウォルト/ミアシャイマー論文は、長い間タブーとされてきた問題をこじ開ける非常に有意義な働きをした」と書いている。

論文発表後、2人の著者は、本の中で長々と反証することになる反ユダヤという汚名を着せられた。そして彼らは、ジミー・カーター元大統領の著作「パレスチナ:アパルトヘイトではなく平和を」に対する反応を同現象の一例として上げている。

彼らは、「カーターは、公に反ユダヤ、ユダヤ嫌いとして糾弾されただけでなく、ナチ親派の罪をきせられた」と書いている。ユダヤ・ロビーの戦略およびモラル議論は脆弱であることから、現在の関係を維持するためには、真剣な討議を妨害あるいは軽視するよう仕向ける以外にない。

このマッカーシー型の脅しの最も極端な例の一つが、2001年9月11月事件の余波の中で、パイプが全国の大学生に対し、反イスラエル/反米の教授のコメント/行動を自身のウェブサイト「キャンパス・ウォッチ」に掲載するよう呼び掛けたことである。

ミアシャイマーとウォルトは、ロビーの集合的影響が如何に米国の政策に害を及ぼしているかにすべての関心を払う一方で、ロビーがその望むところを米政策にいかに反映させているかの具体的方法については十分な説明を行っていない。これがあれば、彼らの主張は更に強固となっただろう。ロビーに関係する個人から特定の候補者への献金のリストもなく、直接の調査や主要人物へのインタビューも含まれていない。同本の資料は十分であるが、情報の多くは新聞または公式声明といった間接情報であるため、借り物との印象を否めない。

本の最後そして最も面白いのは、イスラエル・ロビーが如何にしてイラク、シリア、イランそして昨年夏のイスラエル対ヒズボラ戦争に関する市民および議会の論調を形作っていったかの説明である。ロビーが米国主導のイラク侵攻をどこまで積極的に後押ししたかは疑問だが、ミアシャイマーとウォルトは、ロビーが如何にして議会に大きな影響を与え、シリアおよびイランに対する経済制裁を進言、支持したかを上手に説明している。

ミアシャイマーとウォルトが呼ぶところのイスラエル・ロビーと右派政治連合は、人形遣いが人形を操るように、ワシントンの政治家を操っている訳ではない。ロビーは得体のしれない陰謀により作り出された完全な一枚岩ではなく、また同本の著者は言うまでもなく反ユダヤ主義者ではない。彼らは国際関係の専門家で、政策決定にあたり国益と国家安全保障を重視する“現実学派”に属する。

「イスラエルのロビー活動と米外交政策」は、既に出来上がっている議論にある肉づけを行ったものである。最初に著者の見解に同意しなかった読者は、同本を読んでもそう考えが変わることはあるまい。しかし、ミアシャイマーとウォルトの主張が、長く放置されてきた議論に扉を開けたことは間違いない。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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|東南アジア|栄養強化小麦という戦略

【バンコクIPS=マルワーン・マカン-マルカール】

インドネシアで販売されているインスタント麺「インドミー」は、特に子供や女性にとって必要とされるビタミンやミネラルを補強した小麦粉が使われているとして評判の商品だ。

インドミーを製造している「PTインドフード」社は、1999年に方針転換を行い、栄養強化した小麦を使うことにした。この方針はインドネシアで全国的な流れになり、2002年には、すべての加工食品の栄養強化を義務制とする立法まで成立した。東南アジアで他に同様の立法措置を採っている国はフィリピンしかない。

国連児童基金(ユニセフ)はマレーシアで8月22日から開かれている会議において、その他の国々もインドネシアの方針に追随するよう呼びかけた。ユニセフのカル・ガウタム副代表は、「栄養強化を義務制にしないと、企業は特定の消費者向けにだけ栄養強化商品を販売して、貧困層が見捨てられることになる。立法措置を採ればすべての人に利益が行き渡るだろう」と語った。

 ユニセフによれば、東アジアと太平洋地域において、2200万人の子供がビタミン・ミネラル欠如による栄養不足に苦しんでいる。フィリピンでは、子供の3分の1が体重不足、インドネシアとベトナムでは、5才未満の子供の4分の1が体重不足である。

また、ビタミンやミネラルが不足すると、病気になりやすくなる。世界的に見れば、これが原因で5才以下の子供100万人と妊娠中の女性5万人が毎年死亡しているという。

世界的なネットワーク「栄養強化小麦イニシアチブ」(FFI)によると、世界の国々の26%が小麦を鉄分や葉酸などで強化しているという。2年前には19%だった。FFIは、2008年までに世界の小麦の70%を栄養強化のものにすべきだとの大胆な目標を掲げている。そのためには、中国・インド・ロシア・マレーシア・タイ・ベトナムなどの協力が特に必要になっている。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan
 
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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.

IPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、アフガニスタンの首都カブールで開催されたアフガンメディアフォーラム(主催:Inter Press ServiceとKillig Media Group)を取材するため、インドの同僚アン・二ーナン記者とともに、インド経由でカブールに滞在した。日本からは、JICAの協力を得て、杉下恒夫茨城大学教授をパネリストとして招くとともに、日本政府によるODAの現場を視察した。映像には、フォーラム前のカブール市内視察と、フォーラムの様子、ODAの現場が収録されている。

Video footage I filmed in Kabul where I joined Ms. Ann Ninan, my colleague from India to cover the “Afghan Media Forum” orgniazed by Inter Press Service and the Killid Group in 2007. Her article on this event is available at http://www.ipsnews.net/2007/04/afghan…

INPS Japan

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【エルサレルIPS=ピーター・ヒルシュバーグ】

イスラエル担当官は先週、あらゆる機会をとらえてシリアと抗戦する意思の無いことを宣言。シリア担当官も同様の発表を行った。そうであれば、何故両国間の緊張が高まっているのだろう。またイスラエル側は、北の隣国との戦争の可能性を心配するのだろう。それは、シリアの軍拡、国境防衛強化、そして起こらないとは言い切れない誤算の可能性が原因である。

イスラエルは、レバノン戦争の痛手から立ち上がるためとしてゴラン高原における軍事演習を行ったが、イスラエルの報道によれば、シリアは、新型の地対空ミサイル200基を国境地帯に配備したという。

イスラエルは、シリアの再軍備、特にロシア製の新型対航空機、対装甲車ミサイルの購入を憂慮している。車輌搭載が可能なこれらミサイルがレバノン南部のヒズボラに流れるのを恐れているのである。ロシアは最近、対航空機ミサイルは、シリアとの9億ドルの武器販売契約の一部と発表。シリアは、イランの資金援助を得て同計画を実施したとの情報も流れている。

シリアのアサド大統領は最近、イスラエルに対し交渉再開に吝かではないと伝えているが、イスラエル担当官は、大統領発言の真意が読み取れずにいる。一旦ヒズボラとの紛争が持ち上がれば、シリアはゴラン高原の一部を取り返そうと限定的軍事行動に出、その結果としてイスラエルを交渉のテーブルに着かせようとしているのではないかというのが1つの解釈である。

イスラエルの政治リーダーおよび軍トップは、シリアの真意を見極めるため毎週会議を行っている。軍諜報部トップのヤドリン少将は、シリアに攻撃の意思はないと判断しているものの、いざという時の誤算を恐れている。バラク国防相は、ゴラン高原における演習について、レバノン紛争の可能性を視野にいれた即応訓練であって、シリアを意図したものではないと説明。緊張緩和に努めている。緊張が高まるシリア/イスラエル情勢について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan