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|エジプト|イスラエルを巡り異なる見解、国民と政府

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【カイロIPS=アダム・モロー、カレッド・ムーサ・アルオムラニ】

「イスラエルのこととなると、カイロを含め大半のアラブ諸国政府の立場は、国民世論と真っ向から対立する。60年を経て、アラブ人民は依然としてイスラエルとその政策に反対する。」イスラエル建国60周年に際し、著名な歴史家でシオニズムに関する百科事典の著者Abdel Wahab al-Masiri氏は述べた。

エジプト最大の野党勢力ムスリム同胞団のEssam al-Arian議員は「イスラエルはパレスチナの地の犯罪的な占領によって建国され、それは今でも変わらない。1948年の建国はパレスチナの元来の住民の民族浄化でもある」と述べている。

1979年エジプトはイスラエルと和平条約を締結、シナイ半島の返還も実現した。それから30年、両国は正式な外交関係を維持しているものの、パレスチナ人民に対するイスラエルの政策に怒りを覚えるエジプトの世論はその後も変わらない。

 
5月11日には、ムバラク大統領がイスラエルのペレス首相に建国記念に祝意を示す電報を送ったことが報じられたが、al-Masiri氏は「ムバラクのペレスに対する祝い状は、アラブ諸国政府のイスラエルに対する従属を露呈するもの」と断じた。

また5月11日にカイロのエジプト・ジャーナリスト・シンジケートで開かれた会議では、大統領の祝意に対する批判とともに、イスラエル建国は「近代史における人類に対する最大の犯罪」と評し、ユダヤ人国家建設の柱であるシオニズム非難が行われた。

カイロでは5月15日、パレスチナとレバノンの対イスラエル抵抗グループと連帯して数多くの抗議デモが行われた。あらゆる方面の反政府勢力からデモに参加した人々はイスラエルの国旗を焼き、イスラエル大使のカイロからの追放を要求した。但しデモの規模は、政治デモに対する政府による武力鎮圧をおそれて、限定されたものとなった。

しかしその一方でエジプト政府は、メディアによる批判を懸念して、テルアビブに本拠を置くエジプト・イスラエル友好協会の代表団のエジプト訪問を土壇場でキャンセルしたことが報道されている。

イスラエルを巡る政府と国民世論の対立について報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=IPS Japan

「世界共通の人権文化として定着させることが重要」(創価学会インタナショナル池田大作会長インタビュー)

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【国連IPS=タリフ・ディーン

Photo: Thalif Deen
Photo: Thalif Deen

世界人権宣言が国連で採択されて60周年を迎える今年、東京に本拠を置く創価学会インタナショナル(SGI)が、「人権教育に関する会議」の開催を呼びかけている。 

SGIは、世界190カ国地域、1200万人以上の会員を擁する非政府組織で、提案の会議は市民社会を中心とすべきと訴える。 

SGIの池田大作会長は、従来人権問題は主に政府によって取り組まれてきたし、またそうあるべきだと認めながらも、「人権の尊重を政府レベルの議論にとどめるだけではいけない」と述べた。 

「人々の現実生活に深く根差した世界共通の『人権文化』として定着させることが重要」と、世界平和を希求する仏法者で著作家でもある池田会長は語った。 

会議開催に対する日本の政治的支援はあるかとの質問に対し、会長は次のように答えた。「この課題に関しては、日本やその他の国の政治的支援とともに、より一層深く、市民社会の役割に期待したいところです」 

IPS国連総局長のタリフ・ディーンのインタビューに応えた池田会長は「この会議は、人権理事会で人権教育の問題を取り上げているいくつかの政府からの関心を得ています。もちろんそれは極めて歓迎すべきですが、あくまで、市民社会のイニシアチブに基づく会議という本質を損なわないようにすべきでしょう」と述べた。

 1月に発表した2008年度の「平和提言」では、池田会長は、核軍縮、非武装、貧困・飢餓の撲滅、環境保護を含むグローバルな諸問題に対し具体的な国際的取り組みも呼びかけている。インタビューの抜粋を紹介する。 

IPS:冷戦が20年前に終結したにもかかわらず、世界は依然として、内戦や国家間の紛争の増加に直面しています。なぜ国際社会、特に国連は、恒久平和を実現できずにいるのでしょうか? 

池田:確かに、国連にはさまざまな限界があり、批判も多い。しかし国連を除いて、大多数の国が参加してグローバルな諸問題について、恒常的に話し合う場は、ほかにありません。ゆえに平和な世界の構築に向けて、私は常に「国連」を基軸として提言を続けてきました。人類が20世紀に2度も味わった世界大戦の悲劇を、再び繰り返してはならないとの思いからです。 

国連は、難民への支援や、紛争の平和的解決や平和構築のための活動など、世界のセーフティーネットの形成のために、地道な努力を続けてきました。今、こうした機能が失われてしまえば、世界がさらに悲惨な状況になることは、誰の目にも明らかです。 

かつて、国連のブトロス・ブトロス・ガリ元事務総長と会談した折、「多くの期待」が寄せられる一方で、「最小の支援」しか寄せられていない国連の現状について、語り合ったことがあります。つまり、国連そのものが本質的に無力なのではなく、「国連を中心に問題を解決していこうとする国際社会の意思の弱さ」が、そのまま国連に影響を与えてきたのではないでしょうか。 

ゆえに私は、この不安的な状況を打開するために、世界各国のリーダーと対話を重ね、国連への支援を呼びかけてきました。そして、平和提言を通して、国連のこれまでの成果を紹介するとともに、国連を軸に地球的問題群に取り組むための諸提案を、毎年、発表してきたのです。 

その上で私どもSGIは、国連諸機関や他のNGOと協力しながら、軍縮や環境などの諸問題に対する意識を喚起し、地球市民意識を啓発するための活動を広げてきました。それらはいずれも、「国連が成功するか否か」といった発想ではなく、国連を有効に機能させるために「我々は何を為すべきか」「何が出来るか」という問題意識と責任感から出発したものでした。 

ガンジーの言葉にも「善いことは、カタツムリの速度で進む」とあります。国連の無力を嘆いたり、世界の厳しい現実に冷笑主義に陥っても、何も生まれてきません。肝心なのは、国連の活動を粘り強く支えていく「民衆の連帯」を着実に広げる努力ではないでしょうか。国連を通し、様々な国家と国民が協力し行動するという経験を重ね、智慧を蓄積していくことが、極めて重要です。こうしたことが、遠い百年先、二百年先の人類への最大の遺産となるのではないかと、私は確信しております。 

IPS:今日世界中で高まっている過激主義、非寛容に終止符を打つために、民族間の対話はどれほど必要不可欠であると考えますか? 

池田:いかなる過激主義や非寛容の問題も、軍事力などのハード・パワーだけで抑え込み、解決できるものではありません。もちろん「話せばわかる」というほど、現実の問題は単純なものではありません。対話が不可能とさえ思える相手や、過去の経緯から、対話が成り立ち難い状況が存在することも、事実です。 

しかし、いかなる「大義」を掲げようとも、暴力や力による解決は、次の世代に憎しみを再生産し、紛争を恒常化させるだけです。この”憎しみの連鎖””復讐の連鎖”が温存される限り、暴力を生み出す根を断ち切ることは永遠にできません。そうした”負の連鎖”を断ちゆくために、困難であればあるほど、粘り強い対話、勇気ある対話こそが、民族間の過激主義、非寛容を乗り越えていく道となるのではないでしょうか。 

IPS:平和提言で示された目標が、次の10年間、または今の世代で実現されることについて、どれほどの確信をお持ちでしょうか? 

池田:「地球上から悲惨の二字を消し去りたい」――これは、50年前に亡くなった私の師である戸田城聖・創価学会第2代会長の言葉です。私が毎年の提言を通し、世界が直面する問題についてさまざま模索を重ねてきた根底には、この師の悲願がありました。紛争や内戦、貧困や飢餓、環境破壊をはじめ、今なお世界には、多くの脅威にさらされ、現実に苦しんでいる人々が何億人もいます。いずれの提案も、そうした人々が「悲惨」を乗り越え、「生きる力」を取り戻して欲しい、との切なる願いから発したものなのです。 

私は政治家でもないし、専門家でもありません。提案も完璧とはいえない面もあるでしょう。しかし私の提案が、議論を深める何らかの材料となり、解決の糸口を探すための一つの端緒になればとの思いで、民間人の立場から発信を続けてきたのです。そうした中で、「持続可能な開発のための教育の10年」の国連での制定など、いくつかの提案は、関係機関や他のNGO(非政府組織)と力を合わせて実現をみました。 

私は、青年の可能性に対して、深い信頼を寄せています。若い人々は、本当にその気になれば、何でも出来る。変革できないものはない。こうした青年の心に”時代変革への種子”を蒔く思いで、これからも力の限り、思索と行動を続けていきたいと決意しています。(原文へ)(英文版) 

翻訳=INPS Japan 

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青年の力で国連の改革を(英文)(PDF版

|パキスタン|タリバンに対処できないパキスタン新政府

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【イスラマバードIPS=ムダシール・リズヴィ】

アラー・フサイン・メフスードさんは、パキスタンの新政権がタリバンと交渉してアフガン国境付近での彼らの戦闘行為をやめさせる能力があるとは考えていない。バイトゥラ・メフスード司令官が率いる「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、パキスタン軍と各地で激しい戦闘を繰り広げてきた。

「軍隊は山に隠れた地元の兵士をターゲットにして、F-7戦闘機とヘリコプターを使って私たちの村にロケットを撃ち込んできた」とフサインさんは語る。彼は南ワジリスタン州の出身だ。

 また、ウズベク人の流入も増しているという。フサインさんは、ウズベク人は情け容赦のない人びとで、彼のおじもウズベク人を助けることを拒んで殺されてしまった。

パキスタン新政権はすべての武装勢力と交渉する姿勢を見せ、タリバンも3月末には一時停戦を発表していた。しかし、政府軍がすべての部族地域から撤退するのが先だとしてタリバンはすでに停戦合意を破棄している。

合意が破棄された2日後、ワジリスタンに接した町バンヌにおいて自爆テロが起こった。いつでもどこでも治安を悪化させることができるとのタリバンの意図を示したものと受け取られている。

2007年の間に、武装勢力による攻撃によって750人以上が亡くなった。中にはベナジール・ブット元首相も含まれている。

タリバン勢力の衰えないパキスタン情勢について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|ドイツ|遺伝子組み換え作物は解決法でなく問題

【ボンIPS=ジュリオ・ゴドイ】

先頃ボンで開催された国連の会議で、バイオテクノロジー利用の安全性について議論が交わされた。147ヶ国から集まった3000人以上の科学者、農業従事者、環境運動家たちは、遺伝子組み換え作物は、食物生産に貢献するものでなくリスクであると、従来の警告を繰り返した。 
フランスでは有機栽培をする農家が、遺伝子組み換え作物による汚染を訴えている。例えばブルトンの有機農業協同組合は4月の定期検査で、有機トウモロコシ畑が、35キロ先に生育する遺伝子組み換えトウモロコシから、影響を受けていることを明らかにした。この有機農家はフランス政府を告訴している。 

プロバンスの有機ワイン農家はIPS記者の取材に答えて、「どんなに努力してリスクを排除しようとしても、遺伝子組み換え作物の粒子は、空気中または水に混ざって、畑に入り込む。」と語った。ポワトゥー=シャラント地域圏の副知事セルジュ・モラン氏は、「国は法律を改正して、戸外での遺伝子組み換え作物生産を禁止するなど、全面的な手続の見直しをすべきである。そして汚染の被害にあった有機農家に補償を与えるべきだ。」と主張する。

 フランスの著名な料理人とワイン生産者は、議会に向け公開書簡を送り、「食物と健康への影響を考えるに、遺伝子組み換え作物は食卓から一掃されるべきである。」と訴えた。このような動きは、欧州の他の国にも広がっている。 

科学者や環境運動家たちは、遺伝子組み換え作物はその有害性をおいても、食糧不足を解消するものではないと指摘する。「遺伝子組み換え技術の多くは病害虫に対抗するもので、増産を目的としていない。実際、遺伝子組み換えでない作物の方が生産性が高い。」とハノーバー大学の生物学者ハンス・ヨルグ・ヤコブセン氏はIPS記者に語った。 

グリーンピースのアルノード・アポテケル氏は、取材に答えて、「遺伝子組み換え作物が飢餓問題解決に役立つという話は、生化学企業のプロパガンダだ。」と述べた。巨大化学企業側でもBASFのハンス・カスト氏らは、遺伝子組み換え作物は、「飢餓問題を解決しない。」と認めている。 

アフリカ大陸では70%が農業に従事するが食糧不足が続いている。ドイツのNGO、Welthungerhilfeのホアキム・プラウス氏は、「アフリカが必要としているのは遺伝子組み換え作物でなく、よりよい灌漑システムである。」と指摘する。 

ボンの会議で、生化学企業の連盟から、「昨年バイオテクノロジー作物は、23ヶ国1200万人の農家により、1億1430万ヘクタールで生産された。」と発表があった。 

遺伝子組み換え作物は、生産が広がっているものの、食糧不足の解決にならず、また危険性が高いことが、国際会議で改めて訴えられた。(原文へ) 
 
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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|ブラジル|アフリカに技術支援


|チェコ|新聞がイスラム教徒への恐怖を煽る

【プラハIPS=ゾルタン・ドゥジシン】

2001年9月11日の事件後、イスラム教徒に対する態度は悪化したと言われるが、チェコ・メディアは、親米外交政策の支持により、チェコ国民のテロに対する恐怖を煽っている。 

米国のミサイル防衛システムをチェコおよびポーランドに拡大する計画には必ずイスラム・テロの差し迫った脅威についてのメディア報道が付いて回った。 

最近の世論調査では、チェコ人の80パーセントがアラブ人の隣には住みたくないと回答。3分の2がテロ、イスラムを恐れている。また、チェコ内務省が昨年行った調査でも、ほとんどのチェコ人がイスラムのシンボルとテロを結び付けている。 

プラハ・イスラム・センターのウラジミール・サンカ所長は、「メディアは、紛争の根がどこにあるのか説明せず、センセーショナルなニュースばかりを取り上げる。メディアが、イスラム教徒は人の命を何とも思わない人間だと報道するのだから、人々がイスラム過激派、イスラム・テロを恐れるようになるのも無理はない」と言う。

 チェコの政治家は、テロ攻撃の危険性は増大していると主張。チェコ警察は、テロリストは同国をヨーロッパへの侵入口にしていると述べている。 

トポラーネク首相は昨年、エルサレムにおけるイスラエル建国式典でスピーチし、「野蛮行為の拡大から文明を守ろうとするイスラエルの闘いは、私に勇気を与えるものである」と語っている。市民民主党(ODS)が2006年に政権を取って以来、チェコはアラブ諸国との関係を殆ど無視している。 

首相は、野党社会民主党のパロウベク党首のシリア訪問(2月)に遺憾を表明。右派メディアはシリア訪問に関する報道を行っていない。サンカ所長は、「チェコ・メディアの親米、親イスラエル的態度は、ヨーロッパの中で極めて突出したものとなっている」と語っている。チェコ政府およびメディアのイスラム嫌悪について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|セルビア|格安で全土の施設に入場可能な「美術館の夜」開催

【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリッチ・ジモニッチ

先週、セルビア中で「美術館の夜」と題するイベントが開かれた。わずか250ディナール(5ドル以下)を出せば、全土で63の美術館や博物館を見学することができる。ベオグラードで30万人、その他の23都市で15万人、計45万人を動員した。 

5年前に始まったときの参加者はわずか2万人だったが、昨年には20万人、そして今年は45万人と順調に観客動員を増やしてきた。もともとこのイベントは、美術史の専門家であるムラダン・ペトロビッチとアナ・ジョヴァノビッチの2人が、パリやアムステルダムで行われている同種のイベント真似て始められたものだ。

 
内戦と経済制裁で特徴づけられる1990年代、ベオグラードのほとんどの美術館は運営ができない状態になっていた。しかし、この数年で状態が改善し、多くの美術館が再興を目指している。「美術館の夜」もこうした美術の再興を願って始められたものだ。 

観客たちは、古代から中世、近代に到る時代のさまざまな美術や、技術の歴史に関する展覧を楽しんだ。 

市民を美術の世界へといざなう大規模なイベントについてベオグラードから伝える。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

寛容と共存の精神を広めるバチカンの役割を協議するシンポジウム

【アブダビWAM 】

アブダビの情報問題センターは本日、「アラブ首長国連邦における宗教的寛容と世界における共存の精神を広めるうえでのバチカンの役割」と題したシンポジウムを開催した。 

主要講演者は駐アラブ首長国連邦ローマ教皇大使のMounged El-Hachem大司教とアラビア半島地区教皇代理のPaul Hinder聖ジョセフ大聖堂司教で、その他研究者が数名発表を行った。 

Mounged El-Hachem大司教は、「世界に寛容の徳義を広めるバチカンの役割」と題した論文を発表した。同師は、アラブ首長国連邦大統領兼アブダビ首長のハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下、閣僚各位、及び同首長国連邦の国民に向けて同会議開催の喜びと共に、ローマ法王ベネディクト16世のメッセージを伝えた。 

同師はまた、ナヒヤーン殿下がバチカンに対して、宗教を守り人道と道徳的価値観を世界に広める活動を共に協力し合って推し進めていくことを呼びかけたことに言及した。そして、同師がローマ教皇大使として、アラブ首長国連邦とバチカン間の良好な関係を更に強固なものにできることを望んでいること。そして在アラブ首長国連邦のカトリック教会が、カトリック信者への世話に加えて、同国の市民、在住者に対して、教育、健康、開発、自由、平和の分野で貢献することを付け加えた。

 
同師は、宗教間対話に関して、「ヨハネ23世の呼びかけで1959年に開催された第2次バチカン公会議は、信教の自由とキリスト教徒以外の信者との関係を促進する意味で急進的な変化をもたらした。」と語った。 

同師は3つの聖なる宗教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、信者間の数百年に亘る抗争の後-そうした抗争は今も完全に途絶えてはいないが-対話、接触、結束、精神的な経験の交流を通じて、時代と共に変革を重ねながら互いの勢力拡大を進めてきたと述べた。しかしながら、時代の進展と共に信者の意見も徐々に変化し、抗争よりも対話が重視されるようになり、今日では殆どの信者が異教徒間でお互いに認め合い、寛容と共存、愛と平和の文化を受け入れる必要性を確信するまでになっている。」と語った。 

一方でPaul Hinder司教は、バチカンの諸宗教対話評議会とグループ138(現在は241にメンバーが増えている)間で両者の会合の後に発表された共同声明に則り、11月4日から6日にかけて最初のカトリック信徒、イスラム教徒間のフォーラムが「神への会い、隣人への愛」と題してローマで開催されることに言及した。 

同司教は、11月の会議にはローマ法王が自ら出席すること、そしてイスラム教徒側からは英国ムスリムアカデミックトラストのSheikh Abdal Hakim Murad理事長が出席することが述べられた。 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

|パキスタン|石打の刑-タリバン復活の兆し

【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ】

アフガニスタンと国境を接する辺境の部族地域で、駆け落ちした男女を石打の刑で処刑したのはタリバン支持者だったと、タリバンが認めた。石打の刑はいわゆる「名誉犯罪」に対する昔からの処刑方法だが、この地で行われたのは初めてである。 

「タリバンが運営するガジ(宗教)法廷はこの男女を姦通の罪で有罪とし、石打の刑による死刑という判決を下した。この判決は国境の都市ペシャワールから北へ60km離れたモーマンド地方のKhwezai-Baezai地区で執行された」と、タリバンのモハマド・アサド広報官はIPSの取材に応じて語った。処刑はタリバンが判決を言い渡した2週間後の4月1日に執行された。

 「シャノ(ビビ)はペシャワールに住む既婚女性で、家族がダウラト・カーンによって誘拐されたと提訴していた。だが後に、2人は駆け落ちしたと通報された」とアサド広報官は主張した。 

モーマンド地方はパキスタンとアフガニスタンの国境にある部族地域のひとつである。この地域は連邦直轄部族地域(FATA)の一部で6,000km2以上にわたり、タリバンが逃げ込んだ一帯でもある。 

この石打の刑を人権組織が非難している。人権組織は、部族の古い慣習である「名誉殺人」が、タリバンによって銃殺よりも残酷な死刑方法を宣告されるという新たな事態を憂慮しているようだ。 

「政府に責任者を逮捕し、裁判にかけるよう要請している」と独立組織であるパキスタン人権委員会(HRCP)のカムラン・アリフ評議委員はIPSの取材に応じて語った。 

「政府は責任者に対して厳しい措置を取るべきだ」とパキスタン各地に事務所を持つ全国規模のNGO「オーラット財団」のラーシャンダ・ナズ氏もいう。 

ペシャワールの法律家であるヌール・アラム・カーン氏によると、最近でも「名誉殺人」と呼ばれる家族に恥をかかせたという理由での処刑が行われている。こうした殺人事件は新聞の見出しになることが多い。 

「厳格な父権制の社会では、妻、娘、姉妹、母はちょっとした性的無分別さとわずかな姦通の疑いで殺される」とカーン氏は説明した。 

ペシャワールで発行されているウルドゥー語の新聞「Aaj(今日)」の記者であるザヒル・アリ氏は、報道された事件が実際に今その地方で起きている状況をすべて伝えているわけではないという。ジャーナリストとしての自主規制から、全貌の報道は控えている。 

「毎月1,2回起きているのだが、社会から予想される厳しい反応を考えると報道できない」と同氏はIPSの取材に応じて語った。 

アリ氏によると、最近のそうした事件では、5月1日にある農村に住む男女が家族の承諾なしに結婚したとして殺された。 

「事件の多発は、現在実施されている名誉殺人を抑制するための法律では『期待される結果をもたらす』ことができないと立証している」とカーン氏はいう。2005年に刑事裁判法が改正され、賠償金に応じるといった示談により和解後に犯罪者を無罪放免とすることが阻止されるようになった。 

 それ以来、ペシャワール高裁および法執行機関では一貫性のない判決がいくつか言い渡されており、法律改正の意図に反するものとみられている。 

1ヶ月前、ペシャワール高裁は、許可なく家から外出したとして妻と3人の娘を殺害したグル・ザマンの死刑判決を覆した。判事は生き残っている3人の息子と娘が父を許したという話を聞いた後で、自らの裁定を下した。 

最初の死刑判決は2005年1月31日に地方裁判所が下したものだった。 

ところが昨年3月には、ペシャワール高裁は「名誉殺人」の慣習を削減するための新たな法改正に従った厳格な裁定を下していた。 

昨年2月に北西辺境州(NWFP)のディール県北部で母親を殺害したグル・ザミーンに対し、裁判所は10年の禁固刑を確定したのだ。 

ドスト・ムハンマド・カーン裁判長はそのとき、「後進地域では女性が劣った市民として扱われ、名誉に関連した殺害などの非人道的慣習がいまだに行われている。これはイスラムの教えに反するとともに国の法律にも違反している」と語った。 

その6ヶ月後、ペシャワール高裁は、父親の許可なく結婚した娘を、息子と甥の助けを得て殺害した父親の釈放という妥協合意を無効にした。タリク・ペルベス判事は3人をそれぞれ10年の禁固刑にするという判決を下した。 

地元警察も「名誉殺人」の通報に基づいて行動を起こすのをためらうことがある。 

昨年、ペシャワールから60km離れたマルダンで、警察は家族の不名誉となったとされる男女を殺した親族を一旦逮捕したが、その後、告訴せずに釈放した。 

最近では、またマルダンで、「警察は地元実力者の地主が駆け落ちした娘と運転手を銃撃したという通報を受けてすぐに対処しようとはしなかった」とNGOの活動家であるサイジャド・アリ氏はIPSの取材に応じて語った。 

カーン氏によると、過去3年で弁護士が裁判で「だます」腕を磨き、家族の和解という悪しき慣習を制限しようとする法改正の裏をかいて、検察の求刑を回避している。 

「名誉殺人」に対する法改正の効果は、軽減事由をすぐに斟酌しようとし続ける裁判所によっても鈍らされている。 

「裁判所は被告人に対して『深刻で突然の挑発』を理由に寛大な見解を採用するが、法律のどこにもそのような理由は存在しない」とナズ氏はいう。 

人権組織は今、政府に「名誉殺人」を阻止するためにあらゆる局面でより断固とした行動を起こすように要請している。 

現在までのところ、当局はその慣習に「まったく歯止めをかけることができていない」とHRCPのジャミラ・ビビ氏はいう。 

根本的な改革が必要だとナズ氏は主張する。 

「名誉と称して女性や男性を殺すのは反イスラムである。今後もこの常軌を逸した伝統と戦っていく」とNWFP議会のシターラ・イムラン女性局長はIPSの取材に応じて語った。 

HRCPは1998~2002年の間に1,339件の「名誉殺人」を記録している。犠牲者のおよそ半数は既婚女性だった。HRCPはこうした殺人のほとんどが通報されないでいると考えている。 

HRCPは「名誉殺人」に関する最近の統計を発表していないが、パキスタンでは夫が妻を殺す事件の数が引き続き多いことから、減っていないことがわかる。HRCPの報告によると、2006年には355人の夫が妻殺害で起訴された。2005年には296人だった。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩 

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クウェートで働く家事使用人に新たな権利保護策

【コロンボIPS=フェイザル・サマト】

クウェートとスリランカの公認職業斡旋業者の2団体―「クウェート・スリランカ人材福祉協会」(SLMWAK)と「スリランカ公認外国雇用斡旋業者協会」(ALFEA)―が4月中旬、移民労働者の安全と福祉を守るための方法を講じることを約束した覚書を調印した。 

はたしてこの協定は、クウェートにおいて深刻な虐待に遭っている家事使用人を保護するだろうか。

移民労働者の福祉のために活動するスリランカの団体のひとつ「移民労働者のためのアクション・ネットワーク」(ACTFORM)のコーディネーター、ヴィオラ・ペレラ氏は、職業斡旋業者の下請け業者が公認組織となり、説明責任を負うようにならないかぎり、問題は存続すると言う。 

ペルシャ湾岸諸国に働く150万人のスリランカ移民のおよそ70%が家政婦として働く未熟練女性労働者である。スリランカにとって彼女らからの送金が衣料品輸出に次ぐ外貨取得手段となっている。 

しかし彼女らは労働、社会、健康保護の法律や政策の対象から疎外されている。週1日の休みも、標準労働時間も、労災補償も、最低賃金も認められず、家に閉じ込められている。法的保護の欠如は、性的虐待、暴行、拷問などの数多くの人権侵害を生んでいる。 

スリランカ政府は、女性移民の安全への脅威と社会的影響を懸念して未熟練労働者の海外への出稼ぎを食い止めようと圧力をかけている。しかし、政府の管理下にあり、ライセンスの剥奪や契約違反の処罰の対象となるのは、公認の職業斡旋業者だけだ。公認業者は、労働者の供給を下請け業者に頼っているのが現状である。 

ペレラ氏はまた、未熟練女性の海外での求職禁止は憲法で認められている移動の権利の侵害になるとしている。 

はたして誰の利益が保護されることになるのか。クウェートで家事使用人として働くスリランカ女性の権利保護の問題について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|南アジア|各国の知る権利に関する見解

【ダッカIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

南アジアのメディアや学者は、国連と国際人権機関が提唱する知る権利(RTI)を全面的に是認してはいない。今月初めのRTIの価値と適用性を話し合う会議では、RTIはメディアが享受すべき権利だとされながら、責任を持って行使すべきという意見もあった。 

会議の開催国バングラデシュについては、バングラ・アカデミー会長のハルン・オル・ラシド教授が、現行のRTI法には情報の自由な入手を妨げる条項があるとして見直しを求める一方で、ユナイテッドニュース社のA.カーン社長は、暫定政府による同法の成立および司法と国家の分離を称え、良い統治と国民の権利拡大の鍵になると述べた。

 インドの著名なジャーナリスト、A.バハル氏は、5年前にRTI法を導入してからインド国民は政府に異議を申し立てる権利を得たという。バハル氏は政府と外部業者の汚職摘発に貢献したことで知られている。またネパールのラジオ局、ラジオ・サガルマータのG.ルイテル局長は、自由の抑圧について「政府以外の扇動的組織からの脅迫がある」と述べた。 

議論の大半を占めたのは、国家安全保障問題をメディアの自由の制限に対する正当な理由とできるかどうかということで、反対意見が多かった。 

内戦の続くスリランカからの参加者は、国家安全保障問題の報道は制限があってしかるべきと考える。「報道の自由には責任が伴わなければならない、銃弾によって自由を奪われないようにする責任である」 

パキスタンの「デイリー・バロキスタン・タイムズ」紙の編集者、S. F. イグバル氏は、「ムシャラフ大統領に対して立ち上がった法律家の運動がパキスタン社会に民主主義、そしてメディアに自由をもたらした。ムシャラフ政府は国家安全保障問題を言い訳に言論の自由を抑圧したが、新たな連立政府は情報入手法を復活させた」という。 

バングラデシュの軍が就任させた文民政権は市民の声を取り上げる地域社会のラジオ放送の導入を検討し、スリランカ政府は国家安全保障を理由に内戦に関する報道を抑えようとし、パキスタンの新政府はメディアへの制限を解除しようとしている。南アジア各国の知る権利に関する異なる見解について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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