ホーム ブログ ページ 299

|ブラジル|政府と対立する先住民会議

【リオデジャネイロIPS=マリオ・オサバ】

4月12日から1週間、「ブラジル先住民全国会議」が開催された。主催したのは、政府機関の「先住民全国財団」(FUNAI)である。220を超える民族集団から約800名の代表が集った。

しかし、この会議に対して、その直前に開かれた「先住民の4月キャンプ」の参加者たちが、政府は先住民の「保護者」として振舞おうとしていると非難する声明が出されたのである。FUNAI主催の会議に対する主な批判は、同会議が、ルーラ大統領の就任した2003年ではなく今になってようやく開かれたという点だ。政府側はその熱意が疑われたのである。

しかし、会議は何の成果ももたらさなかったわけではない。先住民の問題を討論する「全国先住民政策委員会」の設置、および、先住民の代表から構成される一種の「議会」のようなものを創設する合意もなされた。

ただし、先住民の土地における採鉱を規制する法律案の支持については見送られた。地元の人々の意見をもう少しよく聞いてみることが必要だと判断されたためだ。

この採鉱規制は、ダイヤモンド採掘に従事していた29名の先住民が2年前に殺害されたことから、議論されるようになった。鉱業会社は先住民の土地に大きな関心を持っており、現在政府は、約38,000件もの採鉱申請を審査している最中だという。

また、今回の会議は、先住民の「代表」を集めるという点でも新しい経験となった。なぜなら、彼ら先住民の伝統は、人々の中から「代表」を選んで決定を委ねるという方法と相容れないからだ。

ブラジル先住民の会議をめぐる議論について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

圧制的な豪州から南太平洋諸国を救う中国

【シドニーIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

太平洋島嶼国(PIC – フィジー、パプアニューギニア(PNG)、クック諸島、ミクロネシア連邦、ニウエ、サモア、バヌアツ)と中国の首脳会議が4月5日から2日間フィジーで開かれ、温家宝首相が中国首相として初めて南太平洋を訪れた。

フィジーでは、中国企業の対南太平洋投資を支援するための特別基金を含む30億元(3億7,400万米ドル)の包括的開発援助が締結された。

とりわけPNG、フィジー、バヌアツをはじめPICにとって、中国への関心は、新植民地的姿勢を強めているオーストラリアへの依存から脱却する手立てとなるものである。最大の援助国であるオーストラリアは近年ODAの大部分を「ガバナンスの強化と腐敗削減」に特定し、戦略的省庁や法執行機関への官僚・警官・財務顧問の派遣を進めており、こうした圧制的な戦術にPICの間からは、主権を損なおうとするものとし、批判が高まっている。

開会式で挨拶に立った温家宝首相は、中国の太平洋地域への関与は「外交的な便宜主義」ではなく、「戦略的決定」であると述べた。フィジーのライセニア・ガラセ首相は、首脳会議は太平洋地域における外交と政治的連携の形態の移行を反映したものであり、援助への依存を改め、自助努力のもと自立を目指したいとの意向を表明した。会議後の記者会見で首相は、「島嶼小国にとって柔軟な参入が可能であり、輸出ニーズが満たされうる新規市場を見出す道を開くもの」と今回の会議を評価した。

中国とPICの貿易関係の促進を目指す「経済協力・開発基本枠組(Economic Cooperation and Development Guiding Framework)」の策定を提案する合意がなされた。この5年間に中国とPIC間の貿易は3倍に増大した。昨年最初の8カ月の中国の対PIC輸出は3億5,700万ドル、輸入は3億1,100万ドルにのぼっている。
「規模ははるかに大きいものの同様の開発課題を抱える途上国である中国とお互いに学ぶことは大きい」とPNGのマイケル・ソマレ首相が語る中国とPICのサミットについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|ネパール|見えないところでの闘い

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】
 
ギャネンドラ国王による王政打倒を目指す民衆たちは、街頭で警官隊と衝突している。これまでに数千名という人々が逮捕された。しかし、人々の目に触れにくいところでも闘いは続けられている。

ひとつの焦点はメディアだ。カンティプール出版が保有する『カトマンズ・ポスト』紙が国王に批判的な記事を掲載する一方、国有の『ライジング・ネパール』紙オンライン版のトップ記事は、ギャネンドラ国王が、シリア国民の祝日にあわせて、同国のアサド大統領にメッセージを送ったというものであった。

 また、「カンティプールTV」では、デモ隊に乱暴狼藉を働く警官の映像を繰り返し流している。他方で、国有の「ネパールTV」は、街角を警備する警察・軍の様子や、反体制派に批判的な人々の声を放送している。

4月9日、ラナ情報相は、ジャーナリストたちに対し、「報道機関は今、ネパールには自由がないと叫んでいる。しかし私は生命を守ることがもっと重要だと思う」と告げた。そして13日、ラナ情報相は、主要なケーブルテレビ局に対して、カンティプールTVの番組を放送しないよう要請したのである。しかし、これに応じたのはわずか1局のみで、しかも数時間だけであった。

また、警官隊との衝突で怪我をした人々に対する救急医療体制も問題となっている。現在、怪我をした人々の治療のための資金として、すでに1000万ルピー(13万8,000ドル)が集まっているという。オム病院では、抗議活動で怪我をした人は無料で治療を受けられる。

他方で政府は、救急医療を行なっていた2人の外国人医師を、労働ビザの不所持を理由に国外追放処分にするという挙に出ている。

ネパール民主化闘争のさまざまな側面について伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

鳥インフルエンザとビルマ軍事政権

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】
 
国連担当官は4月10日、ASEAN諸国政府に対し、ビルマにおけるH5N1型インフルエンザ(鳥インフルエンザ)の急増について警告した。MandalayおよびSagaingの2州を中心に、既に100件を超える発病が確認されたという。

それにも拘らず、ビルマの軍事独裁政権は、鳥インフルエンザ発生を国民に伝えておらず、養鶏業者もその緊急性を全く理解していないという。

ビルマ問題専門家は、4月17~18日バリで開催されるASEAN外相会議が、ビルマ政府に圧力をかける良い機会と見ている。海外のビルマ亡命者で構成されるNational Council of the Union of BurmaのSoe Aungスポークスマンは、「健康問題がASEANの議題に上ったことはないが、鳥インフルエンザは国際的問題であり、政治とは切り離せない」と語っている。

 
また、マレーシアの野党議員も、「鳥インフルエンザは、各国の外務大臣が早急に話し合うべき問題である。わが国の外務大臣(ハミド外相)のように、ビルマ軍事政権に弱腰で、馬鹿にされるようなことがあってはならない」と述べている。(ハミド外相は先月、ビルマ民主化視察のため同国を訪れたが、軍事政権が、スーチー氏との面会を拒否したため、訪問を切り上げ帰国している。)

これとは別に、米ジョンホプキンス大学ブルーンバーグ公衆衛生学校は3月、「ビルマ政府の公共衛生に対する無関心と人道支援拒否の態度が、エイズや薬剤耐性結核、マラリア、鳥インフルエンザの蔓延防止策を困難にしている」との警告メッセージと共に、ビルマ政府を厳しく非難する報告書を発表した。同報告書によれば、ビルマのエイズ感染者は17~62万人であるのに対し、NIV感染予防・治療予算は、世界最低の2万2千米ドル以下、また血液検査を行う施設すら無いに等しい状態という。(原文へ

翻訳/サマリーIPS Japan

関連記事:
軍事政権の孤立を打ち破る鳥インフルエンザ

|スワジランド|国境デモで民主化運動を後押し

【ヨハネスブルクIPS=モイガ・ヌドゥル】

12日国境の南アフリカ側でデモを行った民主化活動家25人が逮捕された。南アフリカ労働組合会議(COSATU:Congress of South African Trade Unions)と南アフリカ全国金属労働組合(National Union of Metal Workers of South Africa)の副委員長も逮捕された。COSATU広報官はIPSの取材に対し、南ア労組はスワジランドの民主化運動に賛同しているが、活動の指揮を執るのはスワジランド側と応えた。

スワジランドでは1973年、当時の国王ソブーザ2世が緊急事態を宣言して全政党を非合法化して憲法を停止させて以来、ムスワティ現国王の下でも民主化が遅々として進んでいない。

業を煮やしたスワジランド連帯ネットワーク(Swaziland Solidarity Networkスワジランド民主化推進派のアンブレラ組織。本部をヨハネスブルクに置くNGO)と人民統一民主運動(PUDEMO:非合法野党People’s United Democratic Movement)は4月を「スワジランド注目月間」と宣言して行動を起こした。

スワジランド連帯ネットワークのB.マスク事務局長はIPSの取材に応じ「英連邦54カ国ならびに南部アフリカ開発共同体14カ国の無関心が痛手」と語り、今回の行動も「国際的関心を喚起する上では成功」と評価している。

スワジランドの平均寿命は世界で最も短い33歳。15歳から49歳の年齢層の約39%がHIV陽性である。ケープタウンに本部を置き、抗レトロウイルス薬の普及活動を行うNGOトリートメント・アクション・キャンペーン(TAC:Treatment ActionCampaign)は、スワジランドにおける民主的権利の欠如が国民の保健に悪影響を及ぼしていると非難。南ア社会と政府にはスワジランドの民主化を支援する道徳的義務があると説く。

アフリカ最後の専制君主国スワジランドにおける最近の民主化運動と南アフリカ市民社会の支援について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan


関連ヘッドラインサマリー:
危機をはらんでいるスワジランドの現状

エジプト野党のつまずき

0

【カイロIPS=アダム・モロウ】

激戦となった昨年の議会選挙以来、野党は、ムバラク大統領率いる国民民主党(NDP)に敗北を帰している。その極めつきが、4月1日のワフド党本部襲撃である。

本部建物の破壊と数十人の負傷者を出した同襲撃は、ワフド党内の改革派により追放されたゴマア元党首の扇動によるものであった。メディア報道によれば、ゴマアを先頭に約60人の武装グループがカイロの党本部になだれ込み、党メンバーと警察が制止するまで、本部職員に襲い掛かり、施設を破壊したという(ワフド党は、自由と反植民地主義を掲げ、1919年に創設された。9月の大統領選では、ゴマア候補は大差で3位に終わり、議会選挙でも僅か6議席しか獲得できなかった)。


 
独立系日刊紙al-Masry al-Youmのサマアン記者は、「同事件は、長年の党内問題を露呈したもの」と言うが、市民は「ワフド党の自滅は、与党の計略によるもの」と見ている。

ゴマアは現在、拘留中であるが、収監されている元大統領候補はゴマアだけではない。設立まもないal-Ghad党のノウル党首も改竄の罪(支持者は濡れ衣と主張)で5年の刑に服している。サマアン記者によると、「ムバラク大統領は、息子のガマルを後継者に考えており、将来的にライバルとなるノウル氏を政治の舞台から追放した」と語っている。カリスマ党首の不在で、al-Ghad党も分裂状態だ。

イスラム同胞団(Muslim Brotherhood)も最近は、国家治安組織による逮捕、脅迫に合っている。同グループは1970年代に党資格を剥奪されたが、議会選挙では無党派候補を多数立候補させ、88議席を獲得した。しかし、NDPはこれを選挙違反と主張し、数十人のメンバーを逮捕。また、国家治安組織は、アレキサンドリア事務所の閉鎖を発表している。

政府圧力は、既存政党だけでなく設立を計画する新党にも及んでいる。今月初め、政党裁判所(Political Parties Court)は、イスラム系al-Wasat党(1990年代にイスラム同胞団から分裂)および汎アラブのカラマ党の党承認申請を却下している。エジプトにおける野党に対する締め付けの状況を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

IPS関連ヘッドラインサマリー:
複数政党制選挙に少なくとも一歩前進
治安部隊による有権者への投票妨害、報道抑圧に混乱した人民議会選挙

|ネパール|否定された革命

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】
 
ネパールではギャネンドラ国王と政府に対する抗議行動として、4月6日から主要7政党による全国ゼネストが継続されている。4月12日には全国で約100人が逮捕され、首都カトマンズから車で6時間ほどのナワルパラ市では警官の発砲で抗議者1名が死亡、4名が負傷した他、警官による殴打で58名の負傷者が出たと地元のNepalnews.comに伝えられた。

しかし、国王退陣までには、さらに何日もの反政府運動が継続される必要があるようだ。国際危機グループの南アジアプロジェクト副ディレクターのロデリック・チャルマーズ氏は「これはおそらく決定的な転換点にはならない」と述べている。

反政府抗議行動を主導する主要7政党の同盟(SPA)は、マオイスト(毛沢東主義反政府組織)と連携しているわけではないとわざわざ指摘している。マオイストは、11月、ネパールはまだ革命の時機ではないと認め、SPAが憲法制定会議を約束通りに行なうのであれば、SPAに加わることに同意した。だが政党側は、政府がマオイストを反政府運動に引き入れていると非難し、「テロリスト」のレッテルをはると脅すと、直ちにこれを否定したのである。

反政府運動への参加団体の数は日ましに増加している。4月11日は東部のダランや西部のポカラでは医師や看護師が反政府集会を開き、カトマンズではトリブバン大学附属病院が連帯して外来を閉鎖した。

しかし、大学の町キルティプールでは地元住民の参加が進んでいないと、住民のひとりブッダ・ラトナ・マリ氏は次のように述べている。「(街頭抗議により立憲君主制への移行を実現させた)1990年には住民が揃って参加した。だが今は大半が大学生だ。1990年以降優れた政治指導者がおらず、市民はすべての政治家に不信感を抱いている。」チャルマーズ氏は「旧態復帰に反対する政党の運動の問題点は、それが利己的に見えることだ。彼らは、『下院を回復し、我々の仕事を返せ。そうすれば仕事を進めるから』と主張するばかりだ。彼らは市民を鼓舞するような詳細な計画を立てることが必要だ」と述べている。
 
反政府抗議運動に、外出禁止令も敷かれているネパールから報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

IPS関連ヘッドラインサマリー:
国王のクーデターから1年、いまだ膠着状態続くネパール

「世界と議会」2006年4月号

特集:「日米安保の現在」

■講演
正念場を迎えた日米同盟
村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

アメリカの新国防戦略と在日米軍再編協議
川上高司(拓殖大学国際開発学部教授)

在日米軍再編と地方自治体 -岩国市の住民投票を中心に-
浅野一弘(札幌大学法学部助教授)

■議員に聞く
長島昭久(衆議院議員)

■解説
在日米軍再編問題

■IPS特約

1人の反政府運動、タクシン首相を追いつめる

世界と議会
1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

二重苦に苦しむ子どもたちの暗い将来

【ハラレIPS=ヴサ・ニャティ】

国家エイズ評議会(NAC)によれば、この10年間にジンバブエの孤児は34万5,000人からおよそ130万人に膨れ上がり、これらの子どものうち16万5,000人がHIV陽性者である。

また国連児童基金(ユニセフ)は2万人以上が延命に重要な役割を持つ抗レトロウィルス薬(ARV)を必要としていると推定しているが、投薬を受けているのは2,000人足らずである。

 親を失い、HIVに感染するという二重の苦しみを背負う子どもたちに果たして政府は十分なケアを行なっているのだろうか。世界銀行とユニセフが2004年に発表した報告書は、こうした状況に十分な注意が払われていないと指摘している。

HIV陽性者の孤児の窮状は、社会全体の情勢を反映したものである。総人口およそ1,300万人のうちおよそ160万人がHIVに罹患している。パリレニャトワ保健児童福祉相によれば、ARV治療を必要としている患者は34万人以上にのぼるが、2005年12月現在、治療を受けている者は2万6,000人足らず、うち2万人が政府のプログラム下にあり、残りは民間セクターのケアを受けているという。

ハラレに本拠を置くエコノミストJohn Robertsenは、ARV治療の取り組みを阻害している要因として、インフレ率、失業率、経済縮小率がいずれも世界最高を記録するなど経済情勢の悪化を指摘する。ジンバブエは2004年に孤児および脆弱な子どもたちのための国家行動計画を開始したが、国民の大半が貧困に苦しむ中、孤児の対策に十分な予算の配分はないとパリレニャトワ保健児童福祉相は認める。

さらに、NACのタピワ・マグレ事務局長は、孤児をコミュニティケアに任せたいと養護施設の段階的削減を考えているとの政府の方針を明らかにしている。だが、匿名を条件にIPSの取材に応えた別のNAC高官は、乳児遺棄、子どもが世帯主となっている家庭、ストリートチルドレンなどの増加が示すように、コミュニティはすでに孤児に対処できない状況にある中で、こうした取り組みは賢明ではないと指摘する。ジンバブエの窮状を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|イスラエル-パレスチナ|古い対立をかき消す新たなメッセージ

0

【エルサレムIPS=ファウジア・シーク】

テロリストからイスラエルを守る目的で立てられた分断壁が、北エルサレムのアナタ中学校の校庭を横切っている。しかし今、壁はまた違った姿になっている。 

長い間、この灰色のコンクリート壁の表面には、血の涙を流した2つの瞳がアラビア語とともに落書きしてあった。いまそこには、新しい絵が描かれている。武器を捨てる一方でお互いの方に腕を伸ばしている2人の人間の姿だ。 

この新しい絵を描いたのは、「平和を目指す戦闘員の会」(Combatants for Peace)というNGOだ。同団体は、長年にわたる暴力の連鎖に懸念を持つ120名の元イスラエル軍兵士、元パレスチナ人戦士から成り立っている。

 
同会は、4月10日、アナタ中学校の校庭で初めてその存在を公にした。かつての敵同士が、イスラエルによるヨルダン川西岸のパレスチナ人地区占領を止める平和的手段を用いようとしている。西岸地区は、イスラエルとシリア・ヨルダン・エジプト間で起こったいわゆる「6日間戦争」(1967年)においてイスラエルに併合された。 

「平和を目指す戦闘員の会」は、1年間にわたって密かに会合を続けながら、いかにして過去の対立を乗り越え、平和に向かって活動していくのかを話し合ってきた。イスラエルの元エリート兵士および元パレスチナ囚人から主に成り立っている同会が担おうとしているのは壮大な任務だ。 

同会は、ハマスがパレスチナ政権を掌握するという事態の中で活動することになる。ハマスは、一般にテロ集団と見られており、イスラエルを国家として承認していない。 

イスラエルに対して第3次インティファーダあるいは暴力蜂起が今年中にも起こされるのではないかとの観測が流されてきた。第1次インティファーダは1987年から93年、第2次インティファーダは2000年から05年にそれぞれ起こった。 

昨年イスラエル政府がパレスチナに返還したガザ地区からロケット弾が発射され、近隣のユダヤ人入植地域をしばしば襲っているが、これに対してイスラエル軍が激しい報復行動に出た結果、パレスチナ側に死者が出るに至っている。 

分断壁はそうした攻撃を止める目的で建設された。壁は、コンクリートと金網で作られ、圧倒的にパレスチナ人の多い西岸地区からエルサレムを分離している。壁はもう間もなく完成する。 

しかし、暴力と絶望が渦巻く中、「戦闘員の会」の決意は固い。元イスラエル軍兵士アヴィチャイ・シャロンさん(24)はIPSにこう語った。「私たちはここにいる。この壁は私たちを止めることができない」「これは単に出発点に過ぎない」と語った。 

アナタ中学校の外でパレスチナ人とイスラエル人が開いている、スピーチと平和の歌で彩られた集会を横目で見つつ、シャロンさんはいった。ハマスが1月の選挙で勝ったとき、「むしろ私たちの士気は上がった」。「この非暴力闘争がこの時期にあっていかに大事かということを[ハマスの勝利は]示している。それは全く新しいやり方だ」。 

紛争当事者の双方を代表するグループは過去にも存在した。しかし、紛争の渦中にいる人たちがそのメンバーであったことはない、とシャロンさんはいう。 
 
「戦闘員の会」は、パレスチナ側に和平のパートナーはいないという神話を打ち崩したいと考えている。「あなた方の暴力ゲームはもう終わりだ」、これがイスラエル・パレスチナ両政府に対するシャロンさんのメッセージだ。 

 彼にはR年間の従軍体験がある。パレスチナ人の家屋に踏み込んだ夜も幾度となくあった。しかし彼は、除隊の時期が近づくにつれ、占領の無意味さを感じるようになっていたという。 

シャロンさんは国のために戦っていた。一方、元パレスチナ人兵士リヤド・ハレーズさん(26)は、イスラエルの行いによってパレスチナの人々の怒りと不満がかき立てられる様子を見てきた。 

戦う決意を固めた決定的な瞬間は、彼の住んでいた都市、彼の住んでいた村、彼の住んでいた家で初めてイスラエル兵士を見たときだ、ハレーズさんはいう。 

ユダヤ人植民とパレスチナ住民がしばしばぶつかり合い爆発寸前のヨルダン川西岸の都市ヘブロンで育った10歳の自分は、街に侵入しようとするイスラエル軍の車両に石を投げつけていた、とハレーズさんは回顧する。 

あるときには、イスラエル軍兵士が彼の父親と兄弟を拘束し、家に踏み込む際に家具をめちゃめちゃに壊していったこともあった。 

第1次インティファーダの時には火炎瓶がハレーズさんの武器だった。しかし、攻撃すれば必ず報復された。彼は4年前に右足を撃たれ、深い穴ぼこのような傷跡が残った。そして歩行が困難になった。 

しかし、パレスチナ占領地域において従軍することを拒否したイスラエル軍兵士のニュースをテレビで1年前に見たことが転換点となった。彼は、イスラエル人の中にも平和的な人間がいることを知ったのである。「暴力よりもよい方法があるのです」、そう彼は言った。 

ハレーズさんは、第2次インティファーダのときにファタハの政治運動に加わった。彼は、大学生に向かって1993年のオスロ和平協定について教えた。この協定により、パレスチナ解放機構(PLO)はパレスチナの人々の正統な代表として承認され、イスラエル側にはその存続権が認められた。そしてまたテロを終わらせる必要性が認識された。ハレーズさんはいま新しい挑戦に立ち向かいつつある。 

「戦闘員の会」が直面している大きな障害物は、「両方の社会で、(個人・政治の両面において)互いを敵だとみなしている人たちが多いということ」だとクリスチャーヌ・ゲルシュテッターさんはいう。彼女は、パレスチナ及びイスラエルにおいて、「異宗教間の付き添いプログラム」というドイツの団体のための活動を行なっている。同団体は、世界協会評議会の加盟団体だ。 

イスラエル・パレスチナ両政府が「互いに戦うか、さもなくば、互いに交渉しないか」式の態度をとっているため、ゲルシュテッターさんらの計画もなかなかうまくいかないという。 

「平和を目指す戦闘員の会」は、両政府に自らの存在を認識させ、大学生を初めとしてその他の耳を貸してくれる人々の信用を勝ち取りたいと考えている。しかし、非暴力のメッセージを伝えることの難しさが、同グループの集会のあとで証明されることになった。 

集会への参加者たちが校庭から離れようとするとき、イスラエルの軍警察はそれを遠巻きに眺めているだけだった。左翼の集会ではよくある風景だ。しかし、会合には出ていなかったパレスチナ人たちが投石を始めたのである。イスラエル警察側は催涙ガスで応戦しようとの構えを見せた。

平和への動きそれ自身が、暴力の影に脅えているのである。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


関連記事: 
ベオグラードのアラブ・セルビア友好協会