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|オーストラリア|アボリジニの女性・子供虐待に対する無関心

【シドニーIPS=ニーナ・バーンダリ】

国連の先住民問題常設会議(UNPFII)の第5回会合がニューヨークで開催される中、オーストラリアでは、先住民アボリジニ族の女性/子供に対する性的虐待および暴力の凄まじさが明らかになった。

北部地域訴追担当官ナネット・ロジャースが作成した機密報告書がリークされたもので、同氏は報告書の中で、先住民の文化、緊密な同族関係により社会に蔓延する女性/子供に対する暴力がこれまで公にされなかった事実を暴露している。

しかし、活動家および政府関係者の一部は、政府は欧州植民地主義による先住民征服に根ざした悲劇を無視してきたと非難している。1900年から1970年にかけては、アボリジニを“根絶やし”にするため数万人の子供を家族から引き離す政策も行われていた。

 ロジャース氏の記録には、ガソリンを嗅いでいた18歳の少年に強姦、溺死させられた6歳の女児、母親が酒を飲みに行っている間に複数の男に襲われ外科手術が必要な程の酷い性的暴行を受けた子供などの事例が含まれる。

オーストラリアの先住民数は、総人口2千万の僅か2%に過ぎないが、先住民社会におけるアルコール中毒、失業、投獄、家庭内暴力のパーセンテージは極めて高い。

アボリジニおよびトレス海峡諸島の先住民は、先進国の中で最も阻害された民族である。同地域の女性早死の第一原因は殺人であり、彼女達が家庭内暴力の犠牲となる確率は、他のオーストラリア女性に比べ45倍といわれる。

しかし、コミュニティー内での復讐、嫌がらせ、脅迫に対する恐れから、犠牲者が犯罪の届け出、証拠の提出を行うことは殆どない。

15年の被告弁護経験を有するロジャース氏は、「北部地域における子供に対する性的暴力と文化問題」と題された報告書の中で、オーストラリア中央部のアボリジニは、犯罪の届出および裁判所における正しい証拠の提出に責任を持つべきであると述べている。

同氏は、6歳の女児の事件では、裁判官の前で事情聴取が行われたが、女児と一緒に遊んでいた子供達は絵に書いた証拠を提出したと記している。同裁判は、他の裁判同様、自殺、過失死、殺人といった新たな悲劇でまもなく有耶無耶になってしまった。

ロジャース氏は、暴力を見て育った、暴力の犠牲者となった子供達は残虐になり、大人になると暴力事件を起こすようになると指摘している。

同氏はまた、ある男が妻と子供達をナイフで脅しながら、娘の一人を強姦した恐ろしい事件について記している。後に、この娘は妊娠していることが分かったという。

オーストラリア統計局およびオーストラリア保健厚生研究所の2003年報告によると、先住民の女性/女子が暴行による怪我で入院する確率は、一般オーストラリア女性の28倍という。

少年も例外ではない。クィーンズランド工科大学の研究者は先週、アボリジニの少年が強姦される確率はオーストラリア男性の10倍という報告を行っている。

北部のアリス・スプリングでは、10代の女性がボーイフレンドを刺し殺すという事件が過去1年間で数件発生している。

オーストラリア労働党のワレン・マンディーン党首は、当局が暴力を無視していては、問題は悪化するばかりと警告。「警察は、先住民を目の敵にしていると見られるのを恐れ介入しようとしない。政府は、人種差別主義者とのレッテルを貼られることを恐れている」と語っている。

暴力は一部社会に深く浸透しており、これらコミュニティーは「無機能社会」「未開地ゲットー」と呼ばれている。ロジャース氏は、男性が法を無視した野蛮な行為を行うことを許している先住民文化が問題の原因としている。

しかし、先住民社会問題担当コミッショナーのトム・カルマ氏は、「政府は、コミュニティーおよび家族と協力し、暴力に影響を与える社会経済問題に取り組んでいく必要がある。暴力問題は、住居/生活条件の改善、雇用創設、レクリエーション施設の建設、健康/教育プログラムの導入により改善可能」と主張する。

救援団体Oxfamは、「政府の関与がなければ、先住民社会に蔓延する虐待は解決されない」としている。Oxfamオーストラリアのジェームズ・エンソー会長代行は、「オーストラリア市民が享受している基本サービスを先住民に提供するための予算が不足していることが問題」と指摘する。

オーストラリア医療協会が、先住民向け基本保健サービスの支出は年間3億4千5百万ドル不足していると指摘しているにも拘らず、2006~2007年度予算は、僅か9千万ドルに止まっている。

エンソー氏は、「中央政府のトップ・ダウン政策は役に立たない。意志決定の全過程で、先住民リーダーを中心に据える必要がある」と言う。

先住民問題担当のマル・ブロー大臣は、同問題を討議するため、国および地方リーダーによる緊急サミットを召集する意向であるが、北部地域担当のクレアー・マーチン大臣は、「アボリジニ自身がそれを欲しなければ、全国サミットを開催しても無益」と言う。

連邦政府が、虐待する親から子供を引き離し、麻薬やアルコールの問題を抱える親には治療を施すという政策を提案したため、ブロー氏は、「奪われたジェネレーション」に関する新たな議論を展開した。

5月26日に終了する2週間のUNPFII会議には、70カ国、3億7千万人の先住民の代表が参加。他の緊急課題と共に、意志決定への参加権を要求している。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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パレスチナ・イスラエルの和平交渉を望む女性たち

【国連IPS=ミスレ・サンドラサグラ】

ニューヨークに集まったパレスチナとイスラエルの女性リーダーたちが、パレスチナ紛争の和平交渉開始に向けて国際社会の関与を訴える声明を出した。

今回集まったのは、「公正で持続可能なパレスチナ・イスラエルの平和を求める国際女性委員会」のメンバーたち。同団体は、2005年7月にトルコのイスタンブールで初めての会議を持ち、紛争解決と持続的平和に向けた女性の貢献の重要性をうたった国連安保理決議1325の実施を誓った。

 彼女たちは、今年1月にハマスがパレスチナ議会選挙で勝ったことにより、国際社会が中東の和平プロセスから距離を置こうとしている事態に懸念を表明している。

イスラエル議会の元副議長ナオミ・チャザン氏は、「交渉のテーブルがないことが現在の問題だ」という。今年3月にヘブライ大学と「パレスチナ政策・調査研究センター」が合同で行った世論調査によれば、イスラエル・パレスチナ双方の市民の大部分が、一方的な行動よりも交渉を通じた紛争解決を望んでいるとの結果が出た。

イスラエル議会の現副議長コールット・アヴィタル氏は、イスラエルの国会議員の大部分が、「2ヶ国」という解決を志向するのは1967年以来始めてだと強調した[イスラエル側がパレスチナ側を主権国家として承認することを意味する:IPSJ]。

「発展を目指すパレスチナ働く女性の会」のアマル・クレイシェー代表は、「ハマスは一枚岩ではない。広く対話を進めるために応援すべき穏健な意見がハマスの中にはある」と語る。また、パレスチナの「女性法律扶助・相談センター」のマハ・アブ-ダエイ・シャマス氏もいう。「ハマスが交渉入りに同意すれば、ファタハもいやとはいえなくなる。そうすれば、両国の政府と野党がいずれも賛成した初めての交渉ということになる」。

パレスチナ・イスラエルの和平交渉入りを訴える女性たちの活動について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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古い対立をかき消す新たなメッセージ

グアンタナモ収容所からの大量釈放によって明らかになる多くの過ち

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【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】

今もなおキューバのグアンタナモで収容されている囚人の約3分の1を米国防総省がまもなく釈放する、という報道を見た米国のメディア関係者やブログの世界の人々は、グアンタナモの囚人は「最悪中の最悪」の連中だとしたラムズフェルド国防長官の2002年の声明を思い出したことだろう。

そして、つい最近の2005年6月にも、彼はこう述べている。「あそこにいる人びとのことでいえば、彼らはみな戦場で捕まえられてきた連中ばかりだ。彼らはテロリストであり、訓練役であり、爆弾を作っている連中であり、[新しいテロリストを]リクルートしている連中であり、資金集め役であり、[オサマ・ビン・ラディンの]ボディーガードであり、将来の自爆テロリストであり、そしておそらくは、9・11のハイジャック犯だ」。

ペンタゴンは、グアンタナモにいまだに収監されている人びとの約3分の1にあたる141名の囚人をまもなく釈放すると発表した。しかし、ペンタゴンは同時に、収容所の存在そのものやそこで取調官が囚人を選別する方法に関して、頑としてその正当性を主張し続けている。

 
グアンタナモから囚人が釈放されたのはこれが初めてではない。2002年以降に同収容所に連行された約760名の囚人のうち、米軍はこれまでに180名を釈放し、76名を他国の施設に移送してきた。

ペンタゴンは、釈放される囚人はもはや米国にとっての脅威とはみなせず、諜報上の価値も持たないと説明している。

しかし、ブッシュ政権のこうした収容政策に批判的な人々は、米軍はこれらの人々を裁く十分な証拠を持っていないと主張している。しかもその裁判所は、米国内の裁判所よりも証拠採用の基準がずっと緩いのである。

「ヒューマン・ライツ・ファースト」の国際法律ディレクターのギャバー・ロナ氏はIPSに対してこう答えた。「もしこれらの人々のほとんどがアルカイダではない、つまり、濡れ衣を着せられた民間人であったとしたら、あるいは、たんなるタリバンの歩兵だったとしたら、グアンタナモにおける人権侵害の訴えを否定しようとする際にブッシュ政権が持ち出してくる、『テロリスト』たちは人権侵害を受けたという嘘の申立をするように教え込まれているのだという唯一のスローガンにすら反することになる」。

最新の囚人釈放のニュースを伝えた『ロサンゼルス・タイムズ』によれば、その他の囚人約20名超に関しても、訴追が停止されているという。しかし、主任検事は、残りの囚人たちが4年間も収監されたあげく即時釈放されることもないし公判に出席することすらない理由を明確に示していない、と報じられている。

現在グアンタナモに収監中の「敵の戦闘員」だとされている約490名のうち、わずか10名に対して訴追が開始されたに過ぎない。死刑を求刑されたものはひとりもいない。

グアンタナモ基地の軍事検事によれば、米国はこれまでより多くの囚人を訴追する計画で、場合によっては死刑を求刑することになるだろう、という。しかし、空軍のモリス・デイビス大佐は、すでに訴追された10名に加えて20名超の囚人を訴追する計画の詳細について明らかにすることを拒んでいる。

141名の囚人を釈放する決定は、彼らの事例に関する1年にわたる見直しの結果である。取調官は、これら囚人から得られる情報はこれ以上存在しない、との結論に達した。

米国がグアンタナモに囚人を送り始めた2002年以降、収容者の中に「テロリスト」などほとんどいないという世界の法律家・人権団体からの激しい非難が勢いを増してきた。ペンタゴンのファイル自身が、米軍は、グアンタナモに人を送り訴追も裁判もなしに収監し続ける点において多くの過ちを犯してきたことを示唆しているのである。

ペンタゴンの「過ち」の多くは、5年間にわたり秘密にされてきた。囚人の中には、アフガンの戦場において逮捕されたのではなく、ヨーロッパの街頭や中東のさまざまな場所で拉致されてきた人びともいる。

多くの囚人は、アフガンやパキスタンにおいて懸賞金と引き換えに米当局に「売りとばされた」。他にも多くの人たちが、たんに間違った時間に間違った場所にいたというだけだ。
 
無党派を頑固に貫いている『ナショナル・ジャーナル』誌は、次のように報道している。「ラムズフェルド自身の説明とは異なり、グアンタナモの囚人のほとんどは米兵が戦場で逮捕してきた人びとではない。彼らは、そのほとんどがパキスタンなどの第三国から送られてきている。中には、9・11以後にアラブ人狙いで張られた捜査網の中で、ピンポイントの家宅捜索の末に送られてきた囚人もいる」。

にもかかわらず、このすべての人びとが、タリバンやアルカイダ、テロを支援するその他の集団とのつながりを持った「敵の戦闘員」に分類されているのである。

グアンタナモの囚人の中にはできるだけ多くの米国人を殺害することを意図したアルカイダの工作員がいるとの十分な証拠をペンタゴンがつかんでいるかもしれない、という識者の意見もある。しかし、その他のケースにおいて、その「証拠」なるものは第2・第3・第4の人物からの伝聞によることが多いのだ。さらにその他のケースにおいては、多くの人びとが拷問同然だと語る残虐で非人道的な取調べを通じて自白を得たことは明らかだ。

ペンタゴンの過ちを探すのは困難なことではない。たとえば、

サディクという名前の男が、もう4年以上もかみそり付鉄線[で囲まれた収容所]の中に閉じ込められている。彼が敵の戦闘員ではないということを米軍はすでに昨年の時点で把握しているにも関わらずだ。彼の弁護士によれば、彼が故郷のサウジアラビアにおいてオサマ・ビン・ラディンに反対する言動を取ったことで当局が彼を持て余したのが原因だという。

中国のウイグル系ムスリムが中国における訴追を逃れ、彼らの一部が現在もグアンタナモに収監されている。米軍は、中国に戻れば彼らの身に危険が及ぶと説明している。

いわゆる「ボスニアの6人」は、2002年にボスニア・ヘルツェゴビナで逮捕され、サラエボの米大使館爆破共謀の罪に関してボスニア最高裁で無罪判決が下された後、グアンタナモに連れて来られた6名のアルジェリア人だ。彼らのうちのひとりは言う。「私はここに3年もいるが、私に関するそうした容疑は今聞いたばかりだ...取調官は、今あなたが話しているような容疑について私に言ってくれたことは一度もない。大使館爆破のことも、テロ組織のことも、アルジェリアのイスラム組織のことも全て聞いたことはない。どうしてこんな問題が出てきたのかはわからない」。

主要な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によれば、13才から15才までの子供が少なくとも3人は収監されている。

国防総省のファイルによれば、ある囚人がはめていた時計が、アルカイダが爆弾を製造するのに使用したのと同じ回路基板を搭載したカシオ・モデルに似ていた。米当局は、アルカイダが好んだカシオの腕時計を、少なくとも9名の囚人に対する証拠として利用している。しかし、この違法なモデルは世界中の街頭で売られている。しかも、この囚人のカシオ・モデルはこの数年間製造されてもいない。

トルコ人のムラート・クルナズさんは、パキスタンにおいて車から引きずりおろされ、その後、自爆テロリストを友人に持っていると疑われた。米政府は、クルナズさんの審理において、彼の友人はまだ生きており、「自爆テロリスト」とは呼べないということを隠していた。2005年1月、連邦裁のある裁判官が、グアンタナモの裁判において適正手続が欠けている証拠として、クルナズの事例を取り上げた。この裁判官は、グアンタナモの裁判は、無罪を証明する証拠を無視し、信頼するに足りないたった1枚の匿名の覚書を証拠採用していた、と述べた。

約3年にわたって収監されていた英国人男性の集団が、拷問やその他の人権侵害を受けたとして米政府を訴えている。男性は、提出した115ページにわたる意見書において、殴られ、裸にされ、手枷足枷につながれ、眠りを妨げられたと主張している。また、刑務官が囚人のコーランを便器に投げ込み、宗教的信仰を放棄するよう迫ったと訴えている。彼らは、囚人たちは成分不明の薬を強制的に注射され、軍用犬をけしかけられた、ともしている。そして、収容されているあいだ、人権侵害や殴打にあったと主張している。

また、彼らのそれぞれが、アルカイダの首領オサマ・ビン・ラディンや9・11のハイジャック犯のひとりモハメド・アタと共にビデオに出たという嘘の自白をさせられた、と主張している。ビデオが作成されたとき彼らはイギリスにいたと証明したにもかかわらずである。昨年3月に彼らが解放された後、そのうちのひとりがイギリス警察からの取調べを受けたが、起訴されずにすぐ釈放されている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

国際社会の承認を跳ね返すネパールの民衆

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】

4月21日にネパールのギャネンドラ国王が人民に対して主権を返還すると述べてまもなく、国営のネパールTVは、インド・米・EUを含む各国がこの決断を支持していると報じた。

しかし、街角にあふれた民衆たちの叫び声はやむことがない。彼らは、口々に、「民主主義を!」「国王を処刑せよ!」と叫んでいる。また、国王が本当に権力を移譲するかどうか不透明な段階での各国政府の判断は拙速に過ぎると批判している。

 これを見た野党の「7党連合」は、国王に対して、議会の復活、制憲議会結成のための選挙実施などを呼びかけている。

しかし、民衆の抗議行動が長続きするかどうかはよくわからない。このところのデモやストの影響で交通は寸断され、物資不足が続き、物価は高騰している。そのうえ、ストに入った労働者は賃金も得ていない。

また、野党の態度にもいまだに曖昧な部分が多い。ある外交官は、今は7党連合が主導権を握るよいチャンスなのだが、野党は事態の収拾を図ることを国王側に望んでいるようにも見える、とコメントした。

別の外交官は、この混乱により「権力の空白」が生まれ、国王による抑圧がますますひどくなったり、毛派が勢力を盛り返してきたりすることがあり得る、と懸念を示した。

動乱のネパール情勢について伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

 
IPS関連ヘッドラインサマリー:
否定された革命
見えないところでの闘い
「性産業」犠牲者の声なき声

米国に直接対話のシグナルを送るイラン

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【ワシントンIPS=ガレス・ポーター】

2005年末以降、イランの指導層が、イランの核問題および米・イラン間のその他重要問題について米国との直接交渉を望むとのシグナルを米政府に送り続けている。

この動きは、イラン国内において同国の高官と海外の要人が行なったいくつかの非公式協議に始まる。イランの国会議員が、米・イラン協議を示唆する発言を行なったこともある。しかし、4月下旬になって、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領が、米政府と協議を行なうのにやぶさかでない、と初めて明らかにしたのである。

 大統領は、4月24日に行なった1時間ほどの記者会見の中で、イランには「世界中の全ての国々と協議する用意があるが、どの国と交渉をするにせよそれぞれの条件がある」と述べ、特に米国を名指ししたのである。「もしこの条件が満たされるのならば、我々は交渉するだろう」。

パリの独立系通信社「イラン・ニュース・サービス」が報じたこのアフマディネジャド大統領の発言は、米国のメディアでは注目されることがなかった。しかし、米メディアは、同じ記者会見における、「イラク政府が確立された以上、イラク問題で米国と協議する必要はない」というイラン大統領の発言については、確かに報道していたのである。

アフマディネジャド氏は、協議の条件が何かを明らかにしていなかった。しかし、イラク問題に関する米・イラン二国間協議を昨年11月に米国から持ちかけられたときの反応が、イラン政府の考え方をよく示しているといえるだろう。イラクのジャラル・タラバニ大統領は、昨年11月末にイランを訪問して、アフマディネジャド大統領、最高指導者アヤトラ・ハメネイ師らイランの指導者と会談し米国の提案を伝えた。そのときイラン側は、2つの条件が満たされれば協議に応じると返答した。その条件とは、第一に、協議が非公式のものであること、第二に、米・イラン二国間の全ての重要問題を取り扱うことである。
 
昨年8月に大統領に就任して以来アフマディネジャド氏はイランの政策をより過激な方向に導いているとの米政権の見方、さらにはその意向を受けたメディアの一般的な見方とは異なり、アフマディネジャド氏の公の主張に対して批判的な人々を含め、イランの指導層の強調点は、イランの核政策は大統領によって決定されるのではない、という点であった。

イラン国家最高安全保障会議の事務局で16年間務めたハッサン・ロハニ氏は、2月末と3月初めの2度にわたり、核問題に関するイランの立場は、政府の最高指導層によって決められるものであって、現政権によって決められたものではない、と発言している。2月20日には、「イランの一般的な政策は、新政権ができたからといって変わらない」と述べた。

米国との協議問題に関してアフマディネジャド大統領が発言したのは今回がはじめてであるが、核問題やその他の安全保障問題に関してイラン政府が米国との直接交渉に公に関心を示したのは、今回の大統領記者会見が初めてではない。

3月6日、イランのハミッド・レザ・アセフィ外務省報道官は、「我々が言っているのは、もしアメリカが我々を威嚇することをやめ、前提条件を課すことによって交渉プロセスに影響を与えることを求めない雰囲気を醸成するのであれば、米国との交渉を妨げるものは何もないということだ」と述べている。

こうしたシグナルを新たに公式に示し始めた背景には、安全保障問題につき広く米国と直接交渉する用意があるとのイランの意向を伝える、この数ヶ月間にわたる密かな外交活動がある。イラン側は、テヘランでイランの政府高官と会談した各国外交官や著名人を通じてこうしたメッセージを送り続けてきた。

米・ドイツ・オランダ・ポーランド・フランス・ルクセンブルグの元外務大臣が4月26日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙上で発表した声明によれば、彼らのうち[米国を除く]欧州5ヶ国の声明賛同者が「この数ヶ月の間にイランの影響力のある人々と会談した際、安全保障問題に関して米国と様々な議論をしようとの関心がイラン側に広く見られた」としている。

米国政府を安全保障問題に関する直接交渉に引き込もうとする現在のイランの動きは、初めて生じたものではない。2003年5月初め、米国の意図の伝達役となっていたティム・グルディマン駐イラン・スイス大使が、米国政府に対して、イラン側の提案を記した1ページの文書を送った。そこでは、イランに対して安全保障の確約を与え、経済制裁を終わらせることと引き換えに、核問題、および、イランによるヒズボラその他の反イスラエル的団体の支援に関する米国の懸念にイランが応えることが提案されていた。

最高指導者ハメネイ氏とイラン国家最高安全保障会議の承認を得ていたといわれるこの提案に先立ち、イラン政府は、公的の外交ルートおよび非公式ルートを通じて、イランが直接協議に関心を持っているというシグナルを静かに送り続けていた、と語るのは、当時イランにおいて諜報活動を行なっていたポール・ピラー氏だ。

イランは明らかに、交渉への機は熟したと考えているようである。なぜなら、米国のイラク侵攻に伴ってイラクは混乱の中に飲み込まれ、また、イランが支援する[イラクの]シーア派諸党派、イランの意見に近い立場をとる武装集団と協力する必要性を米国側が感じているからだ。

ブッシュ政権は、2002年末、イラン原子力計画の進展や、核兵器製造能力を得るためとされるイランの計画の進展に対して警戒感を表明し始めた。

「これは米国に接近するよい機会だ――イラン側は実際にそう期待したし、そう期待するだけの十分な理由があった」とピラー氏はいう。

ブッシュ政権は翌2003年、イランからのこの提案を無視し、最近では、核問題に関してイランと協議する可能性を公的には否定している。しかし、イランは、4月初め、ウランを3.6%レベルにまで濃縮することに成功したと発表する。これは、核兵器級ウランの保有に向けた第一歩であり、交渉による問題解決がさらに急務の課題となった。

この発表ののち、米上院外交関係委員会のリチャード・ルーガー委員長と、民主党側の筆頭理事ジョセフ・バイデン委員が、ともに米・イランの直接対話を呼びかけた。

イランの国家安全保障筋の思考法に詳しい識者の意見によれば、イランが初歩的な濃縮に踏み切ったのは、核問題を越えて米国と広く協議を行なえる立場に立つためだという。

「ウラン濃縮によってイランは交渉上の大きなカードを手にした」と語るのは、この数年間にわたりオフレコでイランのトップ指導層に対するインタビューを行なってきたイランのジャーナリスト、ナジメフ・ボゾルグメフル氏だ。「彼らは、米国との交渉においてテコとなるであろうものをベースに事実を積み上げている」と彼は言う。

現在はワシントンのブルッキングズ研究所で研究員を務めるボゾルグメフル氏はまた、イランは、ウラン濃縮問題における譲歩と引き換えに、対イラン経済制裁の解除、安全の保証、確実な核燃料供給を狙っているのだと語る。

ジャーナリストのプラフル・ビドワイは、イラン政府関係者・その他の専門家によれば、核問題・安全の保証の問題に関する譲歩的提案と、米国との関係正常化に関しては交渉の対象になりうるとの「かなり広い合意」が存在する、と先日IPSにおいて報じていた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

※ガレス・ポーターは、歴史学者で安全保障政策のアナリスト。最新の著書『Perils of Dominance: Imbalance of Power and the Road to War in Vietnam(優勢の危険:力の不均衡とベトナム戦争への道)』が2005年6月に刊行されている。

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ネオコンがアルカイダ掃討へのイランの協力を妨害するまで

|ソロモン諸島|支配への恐怖が引き起こした反台湾暴動

【シドニーIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

4月18日、ソロモン諸島の首都ホニアラで、中国系商店に対する焼き討ち・略奪が起こった。約1000人の怒れる人々が国会議事堂前からデモを行い、約90%の中国系商店が被害にあった[この場合の「中国系」には、中国・台湾の区別はない:IPSJ]。

 暴動が起こったのは、新首相スナイダー・リニ氏の選出過程において、台湾系企業が資金面で支援したのではないかとの疑いが強まっていることが原因だ。ソロモン諸島においては、首相は公選ではなく、国会議員が選ぶ。

労働党のジョゼズ・ツハヌク党首は、選出が始まる以前から、アラン・カマケザ選挙管理内閣が台湾系企業と共謀していると訴えてきた。リニ新首相の所属政党「独立国会議員連合」のトミー・チャン代表は、裕福な中国系経営者であり、ホニアラ・ホテルを所有している。リニ氏自身は、カマケザ内閣の財務大臣として、中国系企業の税金免除策を次々と実行してきた。

ソロモン諸島は、中華人民共和国との外交関係がない。他方で近年、台湾政府がソロモン諸島に対する巨大なドナーに成長し、地域開発・教育・都市基盤整備などの支援を行なってきた。

しかし台湾は、政治家に影響を与えるためにさまざまな利益供与を行なっているのではないか、と非難されている。在ソロモンのアントニオ・チャン台湾大使は、こうした疑惑を否定している。

人口約5万人の首都ホニアラには、中国系住民が現在約2,000人いる。そのほとんどが、大英帝国の植民地だった時代に強制移住させられた人々の第3・第4世代だ。

今回の暴動に対する国際的な反応はどうか。まずオーストラリアは、110名の兵士と70名の警察官を派遣することを発表した。オーストラリアは、2003年以降、治安維持を名目としてソロモン諸島に約2,000名の兵士を送り同国を実効支配している。

他方中国は、暴動への「深い憂慮」を表明し、中国系住民・企業を保護するようソロモン諸島政府に要請した。

ソロモン諸島で起こった反台湾暴動とその背景について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|カリブ海諸島|注目が高まる携帯電話市場

【ポート・オブ・スペインIPS=ピーター・リチャード】

カディーム・サイモン(17)は(通信会社のカラフルな広告が載った)新聞を片手に、携帯電話の最新機種の購入に際しTSTT (Telecommunications Services of Trinidad and Tobago)社あるいはDigicel社にするか迷っている。携帯電話を買い求める人々の長い列の中で、サイモンは「店員に対応してもらうまで少なくとも1時間は覚悟しているけど気にしないよ」と述べた。

カリブ海諸島の国々では近年、携帯電話市場が活況を呈している。その背景には地方行政によるネットワーク産業の自由化や英国企業の独占を排斥しようという動きがある。通信業界の自由化へ移行しつつある英領バージン諸島では、新規参入を妨害する動きを規制するための法律を導入。Communications and Works Ministerのアルビン・クリストファー氏は「通信業界の自由化は戦略的な措置を伴う複雑なプロセスである。我々は独立機関の設立とその効率的な活動により、公正かつ有効な競争を確保できるようにしたい」と語った。

 カリブ最南端の国、トリニダード・トバゴは裕福な国であるにも関わらず、デジタルアクセス指数(Digital Access Index: DAI:電気通信およびインターネットの整備度・利用度を数値化したもの)は低い。通信局主任カリド・ハッサナリ氏は「トリニダード・トバゴは今後、全ての国民が通信サービスを利用できるようにしていくつもりである」と述べた。

セントルシアのケニー・アンソニー首相は「IT部門は失業問題の緩和に大きな効果をもたらすと見ている。従って我が国の行政も通信業界の自由化により、国民の生活向上に向けて電子サービスの導入を進めている」と語った。

近年、カリブ海諸島の国々で急速な成長を遂げる通信業界について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|国際労働デー|メキシコが「移民のいない日」を支援

【メキシコシティーIPS=ディエゴ・セバジョス】

メキシコのビデオレンタル店では「A Day Without Mexican(メキシコ人のいない日)」という映画の人気が高い。この映画は5月1日の国際労働デーに米国の移民団体を全国規模のデモとボイコットに駆り立てている作品だ。IPSが問い合わせたすべてのビデオ店で、メキシコ人がいなくなったカリフォルニアの混乱を描いたこの映画のビデオは全部貸し出されていた。

メキシコの労働組合、活動家、議員は、不法滞在者の特赦を求めるとともに下院を通過した厳格な改正移民法に抗議して米国の移民が行なう予定のデモを支援している。移民の権利を擁護する団体は移民の経済的な力を示すために、米国の移民に仕事や学校をボイコットし、商品を売り買いしないよう、さらにメキシコでは米国製商品をボイコットするよう呼びかけている。

 「米国にとって移民の存在を意識する歴史的な日になる」とメキシコ中南米協会のRaul Murillo氏はIPSの取材に応じて語った。メキシコの労働組合も5月1日に大規模なデモを予定し、米国の移民との連帯を示すとともに、メキシコ政府による労働組合の内部問題介入に抗議する。メキシコ政府は関与を否定しているが、政府の役人は5月1日に向けた準備を把握し、米国の議員や役人と対話を持って包括的な移民法の改革を要求していた。

米国のおよそ1,200万人といわれる不法滞在移民の大半はメキシコ人である。また米国の4,000万人の中南米系の多くもメキシコ人である。メキシコ人のセルジオ・アラウ監督の作品である「メキシコ人のいない日」はコメディで、カリフォルニア州の労働力の3分の1を担い住民の4分の1を占める移民が、ある日突然消えて混乱する様子を描き、最後は米国の国境係官がメキシコ移民を拘留や退去でなく歓待する場面で終わる。

3月にも移民の大規模なデモを受けて、米上院議員の中には40万人の移民労働者を毎年受け入れ既に米国に住んでいる1,000万の不法移民に市民権を与えるという妥協案を作成したものもいたが、支持を得られなかった。ブッシュ政権は「人道的」移民改革を支援するといいながら、5月1日に抗議する移民を取り締まろうとしている。5月1日の大会に移民の力が示される。国際労働デーにデモを計画している米国の移民について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|エジプト|シナイ半島の爆破事件は増えるだろう

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【カイロIPS=アダム・モロウ】

紅海に面したリゾート地ダハブで、4月24日、スーパー/カフェテリアを標的とした3件の同時爆破事件が起き、外国人観光客5人を含む18人が死亡、85人が負傷した。警察は、多数の容疑者を拘束したが、犯人の特定はできていない。

2004年10月には、シナイ半島のタバおよびヌエバアでも同様の事件が起き、少なくとも30人が死亡。2005年7月には、シナイ半島南部のリゾートSham el-Sheikhでも爆破により80人強が死亡している。(事件後、当局は、取調べのためベドウィン系住民を中心とする大量検挙を行った。タバ事件だけで、約3千人が拘束され、厳しい取調べを受けたという。)

 シナイ半島の爆破事件はそれだけではない。昨年8月には、地雷により多数の警察官が死亡した他、エジプト/イスラエル国境地域監視に当たる平和維持部隊のカナダ兵士2人が、路肩爆弾で負傷している。また、ダハブ事件の2日後には、2人の自爆テロリストが、シナイ半島に駐留する国際平和維持部隊基地を攻撃している。(爆発が小規模であったため、被害は犯人2人の死亡に止まった。)

内務省担当官は、4月26日の事件は、攻撃の規模/方法から見てテロ組織分派の仕業ではないと見ている。

アル・アハラム政治戦略研究所のザイド次長は、「これら一連の爆破は、国家権力掌握を目的とした1980年代のイスラミア、イスラム聖戦などの武装イスラム組織と異なり、警察権力に対する復讐といったそれぞれの理由に基づいて組織された新たな地方テロ・ネットワークの仕業」と見ている。同氏は、「現在は1-2の組織に止まっているが、爆破事件による国内の混乱に乗じて、今後その数は増加するのではないか」と懸念している。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

途上国で盛んな「臓器移植ツアー」

【カリフォルニア州オークランドIPS=ビル・ベルコウィッツ】

人身売買業者による身体部分の不法取引は、映画やテレビやSF小説に出てきそうな話だが、実際に相当な頻度で起きている。カリフォルニア大学バークレー校で医療人類学を専門とするナンシー・スケイパー-ヒューズ教授は、1980年代半ばにブラジルのスラム街で広まった不法臓器取引の噂が発端となって作られたOrgans Watchの共同創設者兼代表であり、この問題を知り尽くしている。

NACLA(北米ラテンアメリカ会議)米州レポートの最新号である2006年3・4月号に掲載された「生物的海賊行為と人間の臓器の地球規模の探索」と題された評論で、スケイパー-ヒューズ教授は不法臓器取引について述べている。

 外国の大病院に勤務している米国人あるいは日本人の医療関係者が死体を盗み、臓器を取り出して遺骸を「田舎の道端や病院の大型ごみ収納器に」捨てているといった話を調査するために、同教授は1997年から数年にわたって12カ国を回り、不法取引の現場を50カ所以上訪ねた。各国で法規制は進められているが、臓器移植を望む患者数は多く、取締りは難しい。

同教授にとって衝撃的なのは身体部分の取引という嫌悪感を催す商売が実利的見地から認証された医療事実になりつつあることだ。2003年世界保健機構(WHO)会議の組織・臓器移植における倫理、手段、安全に関する委員会のメンバーだった教授は、臓器取引の商業化を是認する主張を耳にした。同時に民間組織による角膜やアキレス腱の不法取引も目にした。こうした取引では身体の一部を奪われた人間以外は皆が得をしている。

合法的な臓器提供者が少ない中で、臓器移植を待つ人の数は増大している。教授はIPSの取材に応じて「Organs Watchでの活動に積極的に取り組み続ける」と語り、現在WHOとともに中国、パキスタンの不法移植ツアー「多発区域」について調査し、さらに南アフリカとブラジルの保健省と連邦警察とともに「不法移植手術執刀医」の逮捕と裁判に協力している。不法臓器取引の実態について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩