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|インド|パテント裁判、世界的問題に

【ブリュッセルIPS=アン・デ・ロン】

「国境無き医師団」(MSF)を始めとする16団体は、スイスの大手製薬企業Novartisが、インドのパテント法違反を理由に起こした裁判の行方に注目している。

発展途上国に対する低価格医薬品のアクセス拡大に努めるMFS基本薬剤アクセス・キャンペーン(Campaign for Access to Essential Medicines)のEllen‘t Hoen政策部長は、「Novartisが勝訴すれば、インドの低価格医薬品に頼っている世界の患者が犠牲になる。我々が40カ国以上で使用しているエイズ薬剤の84%はインドの製品で、安価故に現在6万人の治療が可能となっているのだが、パテント薬剤の使用が義務化されれば、その数は大幅に減るだろう」と語っている。

 2005年現在、インドはWTOのTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に拘束されることになったが、依然ジェネリック医薬品の最大メーカーの地位を維持している。(2005年まで、パテントは製造方法のみに認められ、製品自体には適用されなかったため、インド製薬会社は独自の製造方法を開発してジェネリック医薬品の製造を開始した。)

Novartisは、「インドはTRIPSに違反しており、我々は開発投資から利益を得る権利がある」と主張。同社スポークスマンは、「基本薬剤へのアクセスが問題となるのは承知しているが、NovartisはMSFに協力し、多額の医薬品を無料で提供している」と語っている。

今回の裁判は、インドの特許庁がNovartisの癌治療薬Gleevecの特許申請を「トリビアル改良」であるとして拒否したことから始まった。トリビアル改良とは、例えば灰のような味を取り除くなどの瑣末な改良のことで、ベルギー・ゲント大学のパテント専門家Sigrid Sterckx教授は、この様な改良は新たなパテント取得には値しないとしている。

Novatisは、これを不服としてGleevecだけでなく、インド政府、インドのジェネリック医薬品メーカー、癌患者グループを相手どりパテント法そのものに異議を唱える裁判を起こしたのである。MSFを始めとする16団体は、Novartisに訴訟の取り消しを求める公開状を発出した。それには、スイスのルース・ドレフュス元大統領も署名している。

Sterckx教授は、1998年に大手製薬会社が南アフリカのマンデラ政権を相手取り起こした訴訟に言及し、「彼らは過去の失敗から何も学んでいない」と語っている。(対南アフリカ訴訟は、結局2001年に撤回された。)大手製薬会社Novartisがインド政府を相手取って起こしたパテント訴訟について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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|ニカラグア|大統領選挙キャンペーンの最中、治療的流産禁止の法案可決へ

【マナグアIPS=ホセ・アダン・シルヴァ】

ニカラグアの議会は、10月23日、治療的流産を合法とする1893年の刑法第165条を廃止する法案を可決した。法案が大統領によって法制化されれば、治療的流産の手術を受ける者も施す者も4~8年の懲役刑を受けることになる。11月5日の大統領選を控え激化する選挙キャンペーンの最中に執り行われたこの決定に、医師、男女同権論者、活動家、外交官および保健相をも含む政府高官が一様に驚愕している。

治療的流産の非犯罪化運動を展開する「女性自立運動」のコーディネーター、フアナ・ヒメネス氏は、「女性の権利が中世の時代に逆戻りした」と述べている。

刑法は、治療的流産について、少なくとも医師3名の証明をもって母親の健康が危険な状態にあるまたはレイプによる妊娠であるために精神的苦痛を負う危険にある場合に妊娠の終了を手助けするものと定義していた。MAMによれば、ニカラグアでは年間800~1,000件の治療的流産が行われている。

ヒメネス氏は、10月初頭にカトリック教会および福音派教会の代表によって議会に提出された第165条の廃止を求める20万人の署名に言及し、「彼らは300万人以上のニカラグアの女性の命と引き換えに20万票を買った」と述べている。

ニカラグア産婦人科協会のアナ・マリア・ピサロ医師は、法律は「もっとも貧しい女性に対する犯罪であり、普遍的人権の侵害であり、憲法違反にほかならない」と述べている。

この法律により、ミレニアム開発目標のうちの2つの目標に掲げられている妊産婦と乳幼児の死亡率が増大することが懸念される。

国連のグリンスパン事務次長補をはじめ多くが、中絶はデリケートな問題であり、選挙戦の最中に議論すべきものではないとして、議会での議論の延期を求めていた。

ラテンアメリカ諸国医師会、国連諸機関、欧州連合、世界保健機構、全米保健機構、セーブ・ザ・チルドレン、国際女性保険連合、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどからも抗議の声が上がっている治療的流産禁止の決定について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

水不足は国境を越える

【ワシントンIPS=レスター・R・ブラウン】


水不足は従来、地域に限定された問題であった。水の需要と供給を調整するのは、一国の政府の役割だった。今、その性格が変わりつつある。国際的な穀物取引の形で水不足問題は国境を超えている。

1トンの穀物を生産するには水1,000トンが必要となる。従って穀物を輸入することで、水を最も効率的に輸入することができる。実際に各国は穀物輸入をもって、水不足を補っている。同様に、穀物先物取引は、水の先物取引とも言うことができる。

地下水が減少すれば、穀物生産量は減る。世界最大の穀物生産国である中国も例外ではない。華北平原では過剰揚水が原因で浅い帯水層の枯渇が広がっている。農民は大深度の化石帯水層(氷河期に長い間かけて蓄えられた地下水:IPSJ)に頼らざるを得なくなっている。化石帯水層には水が補給されることはない。華北平原の一部では、地下300メートルの深さから水を汲み上げる小麦生産農家も出るようになった。

 中国の穀物生産量は1998年には史上最多の3億9,200万トンを記録したが、昨年は3億5,800万トン。3,400万トンの減収は、ちょうどカナダ一国の小麦生産量に匹敵する。中国は減収分の大部分を2004年までの膨大な備蓄の切り崩しで補うと共に、700万トンの穀物を輸入した。

実際の食糧消費量と生存の関係が不安定で余裕がないという理由で、インドの水不足はより深刻である。現時点で、インドの主食である小麦と米の収穫量は増え続けている。しかし、これから数年のうちに灌漑用水の不足が技術の進歩では補うことができないほど拡大し、中国で見られたように、収穫量が減少する地域が出てくると考えられる。

中国とインドに次いで、水が大量に不足する国々はアルジェリア、エジプト、イラン、メキシコ、パキスタンである。アルジェリア、エジプト、メキシコの3国は、すでに大量の穀物を輸入している。一方、水不足に見舞われたパキスタンは中国と同様、2004年に突如として国際市場で150万トンの小麦輸入に転じた。輸入量は数年のうちに拡大することが予想される。

西はモロッコから東はイランにいたる中東、北アフリカ地域は、世界で最も急速に成長する穀物輸入市場である。穀物の需要を拡大させる要因は、人口の急速な増加と石油輸出で得た富の増加である。この地域の国々は、水を供給量ギリギリまで使っていて、都市部の水需要の増加は、農業の灌漑用水を減らして補うしかない。

人口7,400万のエジプトは、近年小麦の一大輸入国となり、世界最大の小麦輸入国日本とトップの座を争うようになった。現在、エジプトは穀物供給量全体の4割を輸入に頼っている。ナイル川の水で生産する穀物収量が人口増加に追いつかず、輸入の割合は徐々にではあるが、確実に増加している。

人口3,300万のアルジェリアは、穀物の5割以上を輸入している。すなわち輸入穀物に体現される水輸入が、国内を水源とする様々な用途の水の使用量を凌ぐということだ。輸入への依存が大きいアルジェリアは、世界の穀物が不足して輸入が途絶えるようなことがあれば、きわめて困ることになる。

中東、北アフリカ地域が昨年輸入した穀物などの農産物を生産するのに必要な水の量は、アスワンにおけるナイル川の年間流水量に匹敵する。すなわち、当地域の水不足を補うために、ナイル川がもう1本、輸入穀物の形で流れ込んでいると考えることができる。

石油をめぐる中東紛争は、将来、水をめぐる闘いに代わるだろうと言われている。しかし水の獲得競争の舞台は世界の穀物市場である。この競争に勝ち抜くのは、経済的に強い国であり、必ずしも軍事的に強い国ではない。

穀物の輸入需要が明日はどこに集中するか知りたければ、今日どこで水不足が拡大しているか見定めることが必要である。これまでは、穀物の大方を輸入に頼るのは小国であった。今、私たちは、10億を超える人口の中国とインドで水不足が急速に拡大するのを目撃している。

世界の水消費量と持続可能な水供給量の差は、毎年拡大している。帯水層の枯渇、都市部への水供給は灌漑用水の不足を拡大し、水不足に悩む多くの国々で穀物生産の不足を招く。

拡大する食料需要を満足させるために地下水を過剰に汲み上げると、地下水が枯渇し、将来確実に食糧生産が落ち込む。要するに、多くの国は地下水を持続不能なほど汲み上げて食糧生産を人工的につり上げる「食料バブル経済」となっている。

数十年前に農家が大規模な地下水汲み上げを始めた時点では、過剰揚水の影響は明らかではなかった。地下水利用の利点は、大規模な地表水システムと比べて、農家は必用な時に正確に穀物に水を与えることができ、水を最大限に効率よく利用できることである。地下水は乾季にも利用でき、温帯地域では多くの農家が収穫を倍増させた。

アメリカでは、灌漑用水全体に占める地下水の割合は37%である。残りの63%は地表水である。しかしながら、大穀倉地帯のテキサス、カンザス、ネブラスカ3州は灌漑用水の7割から9割をオガララ帯水層に頼っている。オガララ帯水層は化石帯水層で、水が補給されることはほとんどない。地下水を使った灌漑できわめて高い生産性を上げているということは、とりもなおさず、この地下水が枯渇したときには過度な大打撃を食糧生産に与えるということだ。

どの時点で、水不足が食糧不足に代わるのか?帯水層の枯渇による灌漑用水の損失で、穀物生産の減収がもたらされるのはどの国か?

この問題を上手に要約したのが世界随一の水研究組織である国際水管理研究所(International Water Management Institute:IWMI)のセクラー(David Seckler)氏と同僚の研究員である。「中国、インド、パキスタン、メキシコなど世界でも最大級の人口を抱える国々の多く、また中東、北アフリカのほとんどの国々は、過去20年から30年、地下水資源を文字通りただで使ってきた。今、この貴重な資源の管理を誤ったツケが回ってきた。その結果は、これら諸国にとって壊滅的といっても過言ではなく、その重要性から、壊滅的影響は全世界に及ぶだろう」。

灌漑の拡大により、1950年から2000年の間に世界の穀物収量は3倍になった。従って、水不足で収量が減っても驚くべきことではない。灌漑用水について言えば、多くの国が古典的な「乱獲による減少」状態に陥っている。過剰揚水を行っている国々が、迅速に水使用を控え、地下水位を安定させなければ、食糧生産が落ち込むことは必至である。(原文へ) 

レスター・R・ブラウンは地球政策研究所(Earth Policy Institute)代表であり『Plan B 2.0: Rescuing a Planet Under Stress and a Civilization in Trouble(ストレス下にある地球と問題を抱える文明を救うB2.0プラン)』の著者。

翻訳=IPS Japan

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汚い水取引で貧しい人々が犠牲に

「世界と議会」2006年10月号

特集:日本政治のゆくえ

「日本政治のゆくえ ―ポスト小泉政権の課題」
福岡政行(白鴎大学法学部教授)

「一党支配の日本政治」
サム・ジェームソン(元ロサンゼルスタイムス東京支局長)

「政経雑感」
塩川正十郎(前財務大臣) 

■IPS特約
米国の右派メディア、「ファシズム」を多用

■特別リポート
遅すぎて低い救済 ―ドミニカ移民五十周年祭と、移住地域全域をまわって
栗原達男(フォトジャーナリスト・日本写真家協会会員)

世界と議会
1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

ネパールに逃げ込むチベットの人々

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】
 
国連によると、中国の国境警備隊に発砲されながらも43人のチベット人がネパールに逃げ込み、首都カトマンズに向かった。ネパールと中国の国境のエベレスト山から20km西にあるチョー・オユー山近くで、多数の登山者がこの事件を目撃した。

中国は1950年にチベットを侵略し、中国の領土として言語や宗教教育を含む地域文化を抑圧した。その結果、毎年平均2,500人のチベット人が、亡命したダライ・ラマの率いるチベット政府があるインドのダラムサラへと、ネパール国境越えを試みている。

 チョー・オユー山を登ろうとしていた英国人登山ガイドが「チベット国際キャンペーン」に語ったところによると、9月30日、60人の登山者がいたベースキャンプでその事件は起きた。中国兵が70人以上の無防備なチベット人を狙って銃撃し、1人の尼僧が銃弾を受けて死亡したようだったが、誰も助けられなかった。

カトマンズの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)には、2人の死亡を報告されている。「現在調査中であり、事実であれば中国当局に抗議する」という。UNHCRは難民の保護に向かっていると語ったが、途中で拘束されてしまう可能性もあるという。

ネパールにはおよそ2万人のチベット難民が住んでいるが、ネパール政府は国際難民条約に調印していないため、法的身分がない。1989年に政府とUNHCRはいわゆる紳士協定を結び、チベットからの難民に第3国への中継地としての通過は認めることになった。

2年前の調査では、チベットからの難民は徒歩かバスで平均34日かかってネパールにたどり着いていた。飢えに苦しみ、物乞いをすることもある。ネパールの国境警備隊に虐待を受けたものもいる。中国人に捕まると、さらにひどい処遇を受けた。

調査員の1人は、「チベットの人々の人権と健康の状況は悲惨であり、UNHCRは中国政府に圧力をかけて難民を尊重し、拷問や恣意的拘束を防ぐ法律を守るよう求めるべきである」という。ネパールに逃げ込んだチベット人が中国兵から銃撃を受けた事件について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan

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汚い水で毎日4,000人の子供が死亡

【国連INPS=タリフ・ディーン

この統計は非常に驚きだ。世界の人口60億人超のうち10億人以上が、人間生活の必需である清潔な飲み水を入手できない。そして、約26億人が、質のよい衛生設備を利用できない。

国連児童基金(ユニセフ)によると、水の汚染、基礎的衛生の欠如により、毎年150万人以上の子供が命を落としている。その大部分が、水の中で発生する病気によるものである。

ユニセフの事務局長アン・ベネマン氏は言う。「すばらしい進歩があるにもかかわらず、推定4億2500万人の18才以下の子供たちが清潔な飲み水を入手できず、9億8000万人以上の子供が適切な衛生設備を利用できない」。

ベネマン氏はまた、影響を受けているのは、亡くなった子供たちだけではないという。「さらに数百万の人々にとっての発育が妨げられ、下痢あるいは水関連の病気により健康が害されている」。

 ユニセフは、『子供のための進歩――水と衛生に関する報告書』と題された9月28日発表の33ページのレポートで、これらの「悲劇的な統計」は、8つの「ミレニアム開発目標」(MDGs)のうちの一つである、安全な飲み水と基礎的な衛生を継続的に利用できない人々の割合を2015年までに半減させるという目標に、世界が取り組む必要性を指し示している、と述べる。

MDGsに含まれるその他の目標は以下のようなものである。極端な貧困と飢餓の50%減少。普遍的初等教育。ジェンダー平等の推進。子供死亡率の3分の2削減。HIV/AIDS、マラリアなどの感染症の拡散防止。環境の持続性向上。2000年9月に集まった189ヶ国の首脳がこれらの目標すべてを2015年までに達成することで合意した。
 
総体として、水と衛生に関するMDG達成に向けた世界の進展状況を統計的に見てみると「複雑な結果が出てくる」とユニセフは警告する。

ベネマン氏はこう言う。「現況に満足することはできません。また、ミレニアム目標が提供した、もっとも弱い立場の子供たちの命を救う機会を逃すことはできません」。

国際社会は、国連の設定した目標を達成する十分な資源と決意を欠いているとベネマン氏は述べる。「5才の誕生日を迎えずに亡くなる子供が毎年150万人以上もいるという事実ほど、もっと強く努力しようと私たちに思わせてくれる理由はありません」。

ユニセフと世界保健機構(WHO)の推定によれば、途上国の人々が低コストで基礎的な飲み水・衛生サービスを2015年までに受けるには、少なくとも毎年113億ドルは必要であるという。また、全資源の80%以上は、アジアおよびアフリカで必要とされるだろうという。

ユニセフは詳細な内訳を示している。それによれば、下痢が原因の死亡の88%が、危険な飲み水、衛生的な環境を保つための水の欠如、衛生設備の欠如によって引き起こされている。すなわち、下痢で毎年亡くなる5才以下の子供190万人のうち、150万人以上がこの原因で亡くなるのである。

これは、5才以下の子供の死亡原因の18%にもなり、下痢が原因で毎日4,000人以上の子供が亡くなっているということにもなる。

ユニセフは、明るい面として、東アジア/太平洋、中東/北アフリカ、南アジア、ラテンアメリカ/カリブ海地域の4つの発展途上地域で、清潔な水に関してMDG達成の過程にあるという事実を指摘した。

しかし、サハラ以南アフリカ、中・東欧、CIS諸国における現在の進展状況をみると、これらの地域は遅れているという。
 
 「南アジアとラテンアメリカ/カリブ海地域においては目を見張る進歩があり、飲み水に関する目標が10年早く達成できる瀬戸際にある」とユニセフは述べる。

1990年から2004年の間に、水と衛生設備を利用できない人々の数が、南アジアでは3億2600万人から2億2200万人に、ラテンアメリカ/カリブ海地域では7,400万人から5,000万人にまで減少した。

しかし、バングラデシュ・インド・ネパール・パキスタンでは、危険なレベルの砒素が発見されている。「バングラデシュで問題はもっとも深刻だ。この数十年の間に掘られた井戸の30%以上が、全国基準以上の砒素に汚染されていることがわかった」とユニセフのレポートは書いている。

ユニセフのレポートは、全世界の人口の11%を占めるサハラ以南のアフリカを特に取り上げている。ここでは、人口の約3分の1が、清潔な飲み水を入手することができない。

他方、東アジア/太平洋、中東/北アフリカ、ラテンアメリカ/カリブ海地域の3つの地域では、基礎的衛生に関するMDG達成の途上にある。

しかし、南アジアにおける進歩がもっとも目覚ましい。衛生設備の利用率は、1990年の17%から2004年の37%へと、2倍以上になった。東アジア/太平洋地域では、30%から51%になった。

ユニセフによれば、これらの改善は、インドと中国という世界で最も人口の多い2つの国における進歩によるところが大きいという。しかし、衛生環境の悪さは、いまだにアジア最大の保健問題の一つである。

しかし、ユニセフのレポートは、世界の工業先進国の保健状況はよいと述べている。これらの国々では、水と衛生に関してはほぼ普遍的に利用することができる。

しかし、かつて共産主義国家だった東ヨーロッパ諸国では、水・衛生インフラの整備・改善の必要性がいまだに高い。「また、すべての工業先進国では、老朽化しつつあるインフラ更新という非常に大きな課題に直面している。多くの場合において、これらの改修が長らく待たれているところである」。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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パキスタン国内でタリバン勢力復活

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【ペシャワールIPS=アシュフク・ユスフザイ】

パキスタンのムシャラフ大統領が、9月に入り、タリバン系の勢力とアフガン国境沿いの北ワジリスタン地区で包括和平協定を結んだ。この協定により、タリバンは米軍を初めとした連合軍をアフガンから越境攻撃することを止めるとされている。また、パキスタン側と武装勢力側は、没収した互いの武器を返還し、パキスタン側は拘束しているタリバン系の人々を釈放する。

パキスタン軍は、2004年よりタリバンやアルカイダに対する攻勢を強めていたが、ワジリスタンにはパシュトゥン系の人々が多く、タリバンへの支持は根強かった。パキスタン軍は推定500名の死者を出しながらも、結局タリバンを抑えることができなかった。それが今回の和平協定の背景である。

 9月25日には、タリバンが北ワジリスタンの州都ミラムシャーに事務所を開設し、「犯罪と犯罪者に対処するため」に協力を地元民に呼びかける文書を配って回った。

また、9月28日は、ミラン・カーンという名のアフガン人が、米軍のスパイを行っていたとの容疑でタリバンに路上で射殺されている。

評論家のアフラシアブ・ハタック氏は、スパイ容疑者の射殺などが続いていることから、和平協定は早くも崩れ始めているのではないか、とコメントした。

今回の和平協定は、アフガンの宗教指導者で現在はパキスタンに亡命しているムラー・オマール氏によっても是認されていると伝えられている。オマール氏は、オサマ・ビン・ラディンを支援しているとして米軍がマークしている人物だ。しかし、パキスタン当局は、オマール氏はタリバンとの和平協定には関係がないと釈明している。

パキスタンとタリバンの和平協定の問題について伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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|米国‐メキシコ|移民改革の期待をくじくフェンス

【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバージョス】
 
激しい外交抗議や社会的流動の歴史にもかかわらず、米国議会は移民削減を目的としてメキシコとの国境に1,226kmのフェンス建設を決定した。メキシコ政府は即座に両国の関係を損なうものとして抗議し、他の中南米諸国や米国内のラテン系アメリカ人社会も同様の反応を示すものと思われている。

ジョージ・W・ブッシュ大統領はこの法案を成立させる意向を以前から表明していた。アラバマ州選出のジェフ・セッションズ共和党上院議員は、「フェンスは効果が期待できる」という。この方策は将来的に大局的移民改革によって補完されると共和党議員は話す。

メキシコ国立自治大学の国際政治を専門とするセルジオ・ペラエズ教授は、「米国は複雑な移民問題を安全保障問題としか見ていない」とし、2007年に完成予定のフェンスは「選挙を見据えた手段であり、不法移民をなくすことはできないだろう」とIPSの取材に応じて語った。米国議会は30日から休会。議員は11月の議会選挙に備えることになる。

新たなフェンスは米国とメキシコ間の3,200kmの国境に沿って既存の112kmのフェンスに増築される。フェンスは二重で、カメラ、探知機、無人機が設置され、国境警備隊も13,300人から14,800人に増員される。

フェンスの強化により、大局的移民改革が据え置きとなった。その移民改革では現在米国に住んでいる1,100万人の不法移住者の合法化が期待されていた。反移民政策の強化は、多くが中南米からの米国移民を苦境に陥れる。中南米カリブ諸国からの移民の送金は2005年には総額で536億ドルにのぼり、母国の家族を養っている。

米国への不法移民は毎年50万人に及ぶが、150万人が逮捕されて送還されている。新たなフェンスと警備強化により、移民が国境を越える場所が限られ、さらに困難な越境で犠牲者が増えるものと思われる。昨年の犠牲者は472人だった。

現在米国には4,000万人の中南米出身者あるいはその子孫が住んでいる。中南米諸国は米国に外国人労働者の受け入れと不法移民の合法化を求めるために定期協議を開いている。フェンス建設反対の声が高まる中で可決された米国の不法移民を防止する法案について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan

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「自分たちで国境を守る」と不法移民の監視に当たる民間組織「ミニットマン」

ディエゴ・セバージョスの記事

ソマリアから脱出するジャーナリスト

【ナイロビIPS=ジョイス・ムラマ】

 マーティン・アドラー(2006年)、ケイト・ペイトン(2005年)、ドゥニヤ・ムヒャディン・ヌール(2005年)、アブドゥラヒ・マドキール(2003年)、アフメド・カフィ・アワレ(2000年)、マルセロ・パルミサーノ(1995年)、ミラン・クロヴァチン(1994年)、イラリア・アルピ(1994年)、ピエール・アンソー(1994年)、ジャン-クロード・ジュメル(1993年)、ハンシ・クラウス(1993年)、ホセア・マイナ(1993年)、ダン・エルドン(1993年)、アンソニー・マカリア(1993年)。

 これら14人の名前は、1991年にソマリアの独裁者ムハマド・シアド・バレが失脚して以来殺害されたジャーナリストのものである。そして、ソマリアが大規模紛争再開の瀬戸際に立っている今、このリストはさらに長くなる可能性がある。暫定政権と、「イスラム法廷連合」(UIC)の下に集まっているイスラム系武装集団との間の協議は失敗に終わっている。

 記者にとっては危険な国内情勢が続いているため、「テロとの闘い」において果たす役割に関して、そしてその他の東アフリカ諸国を不安定化する可能性の点に関してメディアの主要な関心の的になってよいはずの場所で起こっている出来事が報道されなくなってしまう。

 英紙『ガーディアン』のザン・ライス記者に対して、ソマリアにすぐ戻る気はあるかと尋ねたところ、「まさか、まさか、まさか、今はありません。何年か後だったらわかりませんが、今日明日の話ではありませんよ」との答えが返ってきた。

 ライス氏は、スウェーデンのフリー記者、マーティン・アドラー氏の殺害を目撃している。彼は、2006年6月23日、ソマリアの首都モガディシュで法廷連合のデモを取材中、何者かに撃たれた。

 ライス氏は語る。「現地で動くことはきわめて危険です。一般人と接触する際には常に危険が伴います。本当に危険なんです。誰からも殺される可能性があります。誰がそうするかもわからないし、どこから弾が飛んでくるかもわかりません」。

 しかし、ソマリアから脱出する恩恵に浴することのできない地元記者にとっては、事態はさらに悪い。

 モガディシュのある記者は、IPSに対してこう語った。「ソマリアのジャーナリストの権利は常に侵害されています。毎年、ジャーナリストは逮捕され、収監され、拷問され、ひどいときは殺害されるのです」。結果として、「紛争のせいで、あえて重要な報道をしようという有名なジャーナリストはほとんどいなくなっています。(そして)彼らの報道に不満を持つ人たちの怒りを買うことになるのです」。

 このモガディシュの記者によれば、地元の記者は、たとえ国際紙のために働いていたとしてもターゲットにされることがあるという。そのため彼らは記事に自分の名前を載せることを避け、特別記事のための情報集めをしながらも、自分の素性を明らかにしようとはしない。

 「ソマリアジャーナリスト全国連合」(NUSOJ)も、『報道の自由報告2005』において、同じような事態を描いている。それによれば、「非常に幅広い印刷メディア、電子メディアの双方が存在しているが…ソマリアのメディアのすべてが、存続のために非常に苦労している」。「ソマリアジャーナリスト全国連合は、今年になってようやく、殺害された記者、収監されたジャーナリスト、業務停止命令を受けたメディア組織、検閲を受けたメディアの施設、ジャーナリストに対する継続的な脅迫に関する15のケースについて監視・調査・報道を行った」。

 NUSOJは、ソマリアには、2005年の報告の時点で、17のラジオ局、60の新聞に加え、ソマリアに関するニュースを提供する200以上のウェブサイトがあるとしていた。それらのサイトは主に海外で運営されている。

 人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によれば、多くのケースにおいて、ジャーナリストの殺害や人権侵害に関与した者は刑罰を免れている。しかし、一部、犯人が責任を問われたケースもあるという。

 アムネスティは、7月中旬に行われたNUSOJの第1回総会に寄せたメッセージで、情報を収集しメディアの自由の侵害を報告する仕組みを立ち上げることを勧告した。

 「このプロセスは、報道の自由を求める国際的な組織からも支援を受けており、いくつかのケースにおいて間違いなく成功を収めている。多くの事例において、当局は異議申し立てに耳を貸しそれに関して議論を拒まないようになった。また、報告された人権侵害は調査され、聞くところによれば、事態の改善を目指す措置も取られた」とアムネスティは述べている。

 にもかかわらず、7月22日にアブドゥラヒ・ユスフ大統領の暫定政権とイスラム系武装集団が初めて衝突し、ソマリアの報道の自由に関する懸念が高まってきた。

 これは、7月20日にユスフ政権支援のためバイドアにエチオピア軍が到着した直後の出来事である。暫定政権は勢力が弱体で、モガディシュに留まり続けることが困難であると判断し、ソマリア南中部のバイドアに陣取っている。

 エチオピアはまた、南西部のワージドにも兵を送り、現地の空港を支配下に収めたとされる。エチオピアとソマリアの関係は長い間波乱含みであった。両国は、1970年代、オガデン地方の支配をめぐって交戦した。エチオピア政府は、イスラム系武装集団が同地方の領有権を主張するのではないかと恐れている。

 今週末にはスーダンの首都ハルツームでソマリア政府と法廷連合の交渉が再開される予定だった。しかし、エチオピア軍が展開してきたために交渉再開はなくなった。イスラム系武装集団は現在、エチオピアに対するジハード(聖戦)を始めると脅しをかけている。

 交渉は、6月に、米国からの支援を受けていると広く考えられている軍閥からイスラム系武装集団がモガディシュを奪った後に始められていた。米国は、法廷連合がアルカイダとつながっている可能性があるとの懸念を示している。

 しかし、法廷連合側はこうしたつながりを否定し、単にソマリアの法と秩序の回復を願っているだけだと主張する。ソマリアは、バレ大統領が失脚して以来、対立する軍閥の指導者のなすがままにされてきた。政府は10年以上存在せず、ユスフ暫定政権も2004年になってようやくケニアで設立されたばかりである。

 法廷連合は、約5ヶ月にわたる戦闘の後にモガディシュを落としただけではなく、ソマリア南部のほとんどを制圧し、バイドアを伺う勢いであるという。

 国連によれば、過去数ヶ月で数百人が亡くなり、1万7,000人が家を追われたという。

翻訳=IPS Japan

「世界と議会」2006年8・9月号

特集:憲法改正と日本のゆくえ

■講演
『憲法改正のゆくえ―自民党新憲法草案について』
舛添要一(参議院議員)

■「咢堂塾21」特別シンポジウム
『今、憲法を問う-憲法改正と日本のゆくえ』
枝野幸男(民主党憲法調査会長)
葉梨康弘(自由民主党新憲法起草委員)
福島瑞穂(社会民主党党首)

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