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|ベネズエラ|さよならレーニン、そしてその他の「外国風」の名前

【カラカスIPS=ウンベルト・マルケス】

ベネズエラ政府が、スペイン語では発音しにくかったり、外国風に聞こえる名前を子供につけることを禁止する法案を通そうとしている。

戸籍業務を担当している全国選挙管理委員会(CNE)が準備している法案によると、「嘲笑の対象になったり、突飛だったり、公的言語(すなわちスペイン語)で発音しにくい」名前を登録することはできない、とされている。また、家族内で似たような名前をつけること、性別が判別できない名前をつけることもできなくなる。

しかし、ベネズエラでは、両親の名前を組み合わせて子供につけることが一般化している。たとえば、マリオとヨランダの子供でヨリマールとか、ラモンとセレステの子供でラムセルといった具合だ。

政府側は、名前を付けやすくするために、一般的な名前のリストを作って家庭に配布する計画だという。


 
しかし、この法案への反発は決して少なくない。たとえば、ベネズエラ中央大学学生連盟の代表を務めるスターリン・ゴンザレスさんは、法案は子供に自由に名前を付ける権利を奪うものだとして批判している。偶然だが、今年に入って、「スターリン」さんは「ニクソン」さんを支援した。ニクソンさんとは、アンデス大学の学生であるニクソン・モレノさんのことで、彼は、亡命することを求めてローマ教皇の外交使節に一時身を寄せていたのである。

政府の戸籍問題責任者であるフアン・カルロス・ピントー氏は、子供に自由に名前を付ける権利があるのは当然のことだが、それは一定の範囲内に収められなくてはならないと反論する。

 た、CNEのティビセイ・ルセナ委員長は、家庭に配られる子供の名前のリストは地域の特性に合わせて徐々に拡大されることになるから心配ない、と述べている。CNEは、アルゼンチン・チリ・エクアドル・フランス・パナマ・ペルー・スペイン・スイスなどでは名前に関するもっと厳しい法律が存在すると説明し、法案の正当化を図ろうとしている。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|米国|露見したイスラエル・ロビー

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【ワシントンIPS=コーディ・アハビ】

ジョン・J・ミアシャイマーとステファン・M・ウォルトが、問題の論文「イスラエル・ロビー」をロンドン・レビュー・オブ・ブックス2006年3月号に発表した際には、殆どの学者が夢にしか想像できないような大反響を得た。

しかし、ネオコン、ユダヤ教徒、反対派学者、評論家、そしてアメリカ・イスラエル共同問題委員会(AIPACを始めとするワシントンのロビー団体からなる大規模な連合が、米国の中東政策を形作り、ワシントンにおける自由な討議を妨げているとの主張により、反対派の厳しい批判/攻撃を受けた。

 自らも同問題に関与しているコラムニストのクリストファー・ヒチェンズは、同論文を「僅かではあるが、見逃せない怪しさがある」と批評。名誉棄損防止同盟(Anti-Defamation League)は、ユダヤの力/支配という作り話を想起させる古典的反ユダヤ分析と批判。ハーバード大学法学部のアラン・ダーショウィッツ教授は、論文には歪曲があると述べ、当時ハーバード大学行政大学院の学部長を務めていたウォルトとシカゴ大学教授のミアシャイマーが、学術的貢献が少なく誤使用を受けやすい論文を敢えて執筆した動機について疑問を呈した。

著者の学術的権威が低ければ、これ程の反応は起こらなかっただろう。一夜にして、学会の2権威は、長きに亘りタブーとされてきた問題に扉を開いたことで、悪名をはせてしまったのである。

そして、イスラエル支持政策を積極的に推進している活動家、所謂“ロビー”は、論文とその著者の信用を貶めるため攻撃的キャンペーンを開始した。しかし、1年後の今も彼らの地位は揺らいでおらず、マイケル・マッシングは、彼らの主張が引き起こした大きな関心は、(ロビーの)努力が完全には成功していないことの証拠と語っている。

ミアシャイマー/ウォルト両氏は最近、同論文を基に「イスラエルのロビー活動と米外交政策」と題された355ページの本をファラー・ストラウス・ギロウ社から出版した。論調は殆ど同じであるが、両氏は同本の中で、米国の外交的、軍事的、そしてあからさまなイスラエル支援には戦略/モラル的理由は存在せず、米国はイスラエルを他の同盟国と同様に扱い、米国の国益に利する外交戦略を行うべきと主張している。

両氏はまた、イスラエル・ロビー団体の強い影響力により、米国の政策議論は、自国の長期的安全保障を損なわせる方向に向かっていると批判。更に、「キューバ系、アイルランド系、アルメニア系、インド系の米市民を代表する民族的ロビー団体などの利益団体も米国の外交政策を彼らの望む方向へ傾けようとしているが、これらの団体は、米国の国益からかけ離れた政策は提案していない」と述べている。

イスラエル政府のエージェントであるロビー団体は、イスラエルの国益に関する市民ネットワークあるいは“政治同盟”の考えからいかにかけ離れているか。ミアシャイマーとウォルトは、「ロビーを動かしているのは特別な政治課題であって、宗教的あるいは民族的アイデンティティーではない」としている。

両氏は、ロビー団体は独自に行動しており、その行動は、時にイスラエル政府の政策/利益に反していると主張。それは、ロビーの組織リーダーが、イスラエルの右派リクード党に近い個人、組織で構成されていることによるかも知れない。

この点に関しては、ミアシャイマー/ウォルトの“イスラエル・ロビー”という広い呼称は、自らも認めるように、イスラエル支持の政治コミュニティー内の考え方の多様性を表していないため、誤解を生じやすい。より正確には“リクード党支持ロビー”と呼ぶべきである。それにも拘わらず、著者2人は、Americans for Peace Now(即時平和を求める米国人)やイスラエル政策フォーラムといった中道のイスラエル支援グループを、“イスラエル・ロビー”という一般的カテゴリーに含め、更に曖昧にしている。

実際、著者が定義しているロビーの境界線は曖昧だが、ミアシャイマーとウォルトは、核を構成していると考えられる学者、シンクタンク、政治活動委員会、ネオコン、ユダヤキリスト教団体などのグループを特定し、同グループは、「我々の共通項は、イデオロギー的連帯である」との議論を盛り上げる傾向があるとしている。

これらには、AIPAC,ジョン・ハギーのイスラエルのためのキリスト教徒連合(Christians United for Israel)、米国主要ユダヤ組織会長会議、全米ユダヤ協会、ユダヤ国家安全問題研究所(Jewish Institute for National Security Affairs)、バーナード・ルイス、チャールス・クラウサマー、ダニエル・パイプス、中東フォーラム、イスラエル・プロジェクト、エリオット・エイブラムス、I.ルイス “スクーター”リビー、安全保障政策センター、ウィリアム・クリストル、ワシントン近東(Near East)政策研究所、エリオット・エンゲル議員(ニューヨーク州選出)などが含まれる。(順不同)
 
 ミアシャイマーとウォルトは、ロビー団体とその支援者が、イスラエル批判を抑えるためにマイケル・マッシング言うところの「いじめ戦略」をどの程度行っているかについても詳説している。ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスの中で論文に関する最も本質的な批判を書いたマッシングは、「多くの欠陥にも拘わらず、ウォルト/ミアシャイマー論文は、長い間タブーとされてきた問題をこじ開ける非常に有意義な働きをした」と書いている。

論文発表後、2人の著者は、本の中で長々と反証することになる反ユダヤという汚名を着せられた。そして彼らは、ジミー・カーター元大統領の著作「パレスチナ:アパルトヘイトではなく平和を」に対する反応を同現象の一例として上げている。

彼らは、「カーターは、公に反ユダヤ、ユダヤ嫌いとして糾弾されただけでなく、ナチ親派の罪をきせられた」と書いている。ユダヤ・ロビーの戦略およびモラル議論は脆弱であることから、現在の関係を維持するためには、真剣な討議を妨害あるいは軽視するよう仕向ける以外にない。

このマッカーシー型の脅しの最も極端な例の一つが、2001年9月11月事件の余波の中で、パイプが全国の大学生に対し、反イスラエル/反米の教授のコメント/行動を自身のウェブサイト「キャンパス・ウォッチ」に掲載するよう呼び掛けたことである。

ミアシャイマーとウォルトは、ロビーの集合的影響が如何に米国の政策に害を及ぼしているかにすべての関心を払う一方で、ロビーがその望むところを米政策にいかに反映させているかの具体的方法については十分な説明を行っていない。これがあれば、彼らの主張は更に強固となっただろう。ロビーに関係する個人から特定の候補者への献金のリストもなく、直接の調査や主要人物へのインタビューも含まれていない。同本の資料は十分であるが、情報の多くは新聞または公式声明といった間接情報であるため、借り物との印象を否めない。

本の最後そして最も面白いのは、イスラエル・ロビーが如何にしてイラク、シリア、イランそして昨年夏のイスラエル対ヒズボラ戦争に関する市民および議会の論調を形作っていったかの説明である。ロビーが米国主導のイラク侵攻をどこまで積極的に後押ししたかは疑問だが、ミアシャイマーとウォルトは、ロビーが如何にして議会に大きな影響を与え、シリアおよびイランに対する経済制裁を進言、支持したかを上手に説明している。

ミアシャイマーとウォルトが呼ぶところのイスラエル・ロビーと右派政治連合は、人形遣いが人形を操るように、ワシントンの政治家を操っている訳ではない。ロビーは得体のしれない陰謀により作り出された完全な一枚岩ではなく、また同本の著者は言うまでもなく反ユダヤ主義者ではない。彼らは国際関係の専門家で、政策決定にあたり国益と国家安全保障を重視する“現実学派”に属する。

「イスラエルのロビー活動と米外交政策」は、既に出来上がっている議論にある肉づけを行ったものである。最初に著者の見解に同意しなかった読者は、同本を読んでもそう考えが変わることはあるまい。しかし、ミアシャイマーとウォルトの主張が、長く放置されてきた議論に扉を開けたことは間違いない。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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|東南アジア|栄養強化小麦という戦略

【バンコクIPS=マルワーン・マカン-マルカール】

インドネシアで販売されているインスタント麺「インドミー」は、特に子供や女性にとって必要とされるビタミンやミネラルを補強した小麦粉が使われているとして評判の商品だ。

インドミーを製造している「PTインドフード」社は、1999年に方針転換を行い、栄養強化した小麦を使うことにした。この方針はインドネシアで全国的な流れになり、2002年には、すべての加工食品の栄養強化を義務制とする立法まで成立した。東南アジアで他に同様の立法措置を採っている国はフィリピンしかない。

国連児童基金(ユニセフ)はマレーシアで8月22日から開かれている会議において、その他の国々もインドネシアの方針に追随するよう呼びかけた。ユニセフのカル・ガウタム副代表は、「栄養強化を義務制にしないと、企業は特定の消費者向けにだけ栄養強化商品を販売して、貧困層が見捨てられることになる。立法措置を採ればすべての人に利益が行き渡るだろう」と語った。

 ユニセフによれば、東アジアと太平洋地域において、2200万人の子供がビタミン・ミネラル欠如による栄養不足に苦しんでいる。フィリピンでは、子供の3分の1が体重不足、インドネシアとベトナムでは、5才未満の子供の4分の1が体重不足である。

また、ビタミンやミネラルが不足すると、病気になりやすくなる。世界的に見れば、これが原因で5才以下の子供100万人と妊娠中の女性5万人が毎年死亡しているという。

世界的なネットワーク「栄養強化小麦イニシアチブ」(FFI)によると、世界の国々の26%が小麦を鉄分や葉酸などで強化しているという。2年前には19%だった。FFIは、2008年までに世界の小麦の70%を栄養強化のものにすべきだとの大胆な目標を掲げている。そのためには、中国・インド・ロシア・マレーシア・タイ・ベトナムなどの協力が特に必要になっている。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan
 
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アフガンメディアフォーラムを取材

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of IPS Japan.

IPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、アフガニスタンの首都カブールで開催されたアフガンメディアフォーラム(主催:Inter Press ServiceとKillig Media Group)を取材するため、インドの同僚アン・二ーナン記者とともに、インド経由でカブールに滞在した。日本からは、JICAの協力を得て、杉下恒夫茨城大学教授をパネリストとして招くとともに、日本政府によるODAの現場を視察した。映像には、フォーラム前のカブール市内視察と、フォーラムの様子、ODAの現場が収録されている。

Video footage I filmed in Kabul where I joined Ms. Ann Ninan, my colleague from India to cover the “Afghan Media Forum” orgniazed by Inter Press Service and the Killid Group in 2007. Her article on this event is available at http://www.ipsnews.net/2007/04/afghan…

INPS Japan

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【エルサレルIPS=ピーター・ヒルシュバーグ】

イスラエル担当官は先週、あらゆる機会をとらえてシリアと抗戦する意思の無いことを宣言。シリア担当官も同様の発表を行った。そうであれば、何故両国間の緊張が高まっているのだろう。またイスラエル側は、北の隣国との戦争の可能性を心配するのだろう。それは、シリアの軍拡、国境防衛強化、そして起こらないとは言い切れない誤算の可能性が原因である。

イスラエルは、レバノン戦争の痛手から立ち上がるためとしてゴラン高原における軍事演習を行ったが、イスラエルの報道によれば、シリアは、新型の地対空ミサイル200基を国境地帯に配備したという。

イスラエルは、シリアの再軍備、特にロシア製の新型対航空機、対装甲車ミサイルの購入を憂慮している。車輌搭載が可能なこれらミサイルがレバノン南部のヒズボラに流れるのを恐れているのである。ロシアは最近、対航空機ミサイルは、シリアとの9億ドルの武器販売契約の一部と発表。シリアは、イランの資金援助を得て同計画を実施したとの情報も流れている。

シリアのアサド大統領は最近、イスラエルに対し交渉再開に吝かではないと伝えているが、イスラエル担当官は、大統領発言の真意が読み取れずにいる。一旦ヒズボラとの紛争が持ち上がれば、シリアはゴラン高原の一部を取り返そうと限定的軍事行動に出、その結果としてイスラエルを交渉のテーブルに着かせようとしているのではないかというのが1つの解釈である。

イスラエルの政治リーダーおよび軍トップは、シリアの真意を見極めるため毎週会議を行っている。軍諜報部トップのヤドリン少将は、シリアに攻撃の意思はないと判断しているものの、いざという時の誤算を恐れている。バラク国防相は、ゴラン高原における演習について、レバノン紛争の可能性を視野にいれた即応訓練であって、シリアを意図したものではないと説明。緊張緩和に努めている。緊張が高まるシリア/イスラエル情勢について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan
 

パレスチナ人の貧困最悪に

 【ブリュッセルIPS=デビッド・クローニン】

 国連パレスチナ委員会(UN Committee on the Exercise of the Inalienable Rights of the Palestinian People)の開催に合わせ、国連貿易開発会議(UNCTAD)は8月30日、パレスチナ自治区の貧困が最悪レベルに達したとする報告書を発表。2006年に極貧人口が倍増して100万人以上となり、公務員の46%が十分な食料を手にできず、ガザ地区の53%の家庭で収入が半減したことが明らかになった。 

報告書は、パレスチナの経済悪化の要因としてイスラエルによる人と物の流通制限を挙げた。EUにおけるパレスチナ代表シャヒード(Leila Shahid)氏はイスラエルが550ヶ所の検問所を設けたことで西岸地区は孤立していると報告している。

 イスラエルが西岸地区で建設中の760kmにおよぶ分離壁は孤立した貧民街を作ると非難が集まっており、エルサレムにおける反分離壁運動ではパレスチナ人の困窮が南アフリカのアパルトヘイト政策で困窮した黒人に匹敵すると指摘している。 

報告書はさらにイスラエルがパレスチナ自治政府の代理で徴税した8億ドルの送金を拒否していることを非難。 

パレスチナ国際連帯運動(ISM)の活動員が参加していることで、国連パレスチナ委員会を反イスラエル的とする報道もあるが、バジ(Paul Badji)委員長は「パレスチナ人の人権を守ることは反イスラエルではない」と一蹴している。 

EUではブッシュ政権による300億ドルの対イスラエル軍事支援は和平に利することはないとする意見、さらにイスラエルの行為がEUとの貿易協定の人権尊重条項に抵触するという意見がある。 

イスラエルによる隔離政策がパレスチナ人の困窮に拍車をかける状況について報告する。 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩


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|ケニア|メディアを標的にした法律に抗議

Media representatives gather in Nairobi to protest against the Media Council of Kenya Bill. Credit: Joyce Mulama
Media representatives gather in Nairobi to protest against the Media Council of Kenya Bill. Credit: Joyce Mulama

【ナイロビIPS=ジョイス・ムラマ】

ケニアのメディア関係者は、情報源の公表を強制して報道の自由を侵害する法律に抗議するデモを行った。ケニア・メディア委員会法は、今月初めに議会を通過し、大統領の承認を待っている。新法は「法廷闘争で必要な場合、編集者は情報源を公表する義務がある」と定めている。

数百人のジャーナリストたちは猿ぐつわをはめた象徴的ないでたちで、キバキ大統領が法案を承認しないよう求め、ワコ司法長官事務所および国会議事堂までデモ行進を行った。こうしたデモはケニアでは初めてのものである。参加者たちは、新法が承認されると取材源を明かすことが強制され、取材協力者を守れなくなり、報道の自由が失われると訴えた。

パリに本部のある「国境なき記者団」は8月7日にキバキ大統領宛てに書簡を送り、法律を承認しないように求めた。「ジャーナリストは警察や裁判官ではなく、民主政府は報道機関に情報提供者や検察の役割を求めない」とこのメディア監視組織は指摘した。「取材源の公表は職業としての機密保持の原則だけでなくジャーナリストの倫理観を侵害する」

ケニアの法曹界は、司法長官同様、法制化に対し慎重である。司法長官は14日に「大統領には承認せず議会に戻して、問題の条項の削除あるいは修正を求めるよう助言する」と声明を出した。ケニア政府は法案の草稿中に報道関係機関との対話を求めており、その点は評価される。だが最後に追加された、国連の推奨する基準に違反する条項が合意を台無しにした。

この条項により内部告発が抑止され、重要な情報へのアクセスが難しくなるものと考えられる。ケニアでは今日まで汚職の摘発にメディアが重要な役割を果たしてきた。1990年代初めのゴールデンバーグ事件、2004年のアングロ・リーシング事件は、メディアへの密告により暴かれた。

こうした事件の報道によって国民の怒りが高まり、公的な捜査が始まった。公に対する説明責任は、新法により弱められ、ケニアの民主主義に破滅的な影響を及ぼす可能性がある。10月にナイロビで開催される汎アフリカ記者フォーラムでの批判も予想される。ケニアの新しいメディア法について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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報道の自由に光を当てる

|カンボジア|泥棒国家への対処を試される世銀

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】

望ましい統治を唱える世界銀行だが、深いかかわりを持つ問題国を非難する際には、慎重に言葉を選ぶ。現在のカンボジアはその典型である。総裁就任後初の途上国訪問でカンボジアを訪れた世銀のゼーリック新総裁は、前任者同様、カンボジアへの潤沢な助成金の利用についてお決まりの苦言を呈しただけだった。

世銀の公式プレス声明も、主にマイクロファイナンス計画、土地所有権の発行、支援の調整、開発課題における世銀の役割を取り上げ、腐敗防止についてはわずかに触れるだけにとどめた。「世銀はカンボジア政府が貧困削減のため改革を実行し、産業及び投資環境を整え、法の支配を強化することを支援する」とゼーリック総裁は述べた。

 こうした言葉は汚職に手を染める政府高官の不安を覆い隠すが、7月初めに米上院は違法伐採に関与しているとされたカンボジアの高官の渡航禁止を求める法案を提出している。これは、腐敗した高官の世界経済システムからの排除を目的とした、2006年のクレプトクラシー(泥棒国家)・イニシアティブに基づいたものである。

政府高官の腐敗と縁故主義が違法伐採を容易にし、法の支配、民主主義、持続可能な開発に悪影響を及ぼしている。グローバル・ウィットネスは、支援国の無為が望ましい統治を実現させないとして、世銀総裁に泥棒国家の政府に対して厳しい態度で臨むよう求めた。トランスペアレンシー・インターナショナルの2006年の腐敗調査では、カンボジアは非常に腐敗した国とされ、腐敗度の低い国のランク順で163国中151位だった。

グローバル・ウィットネスの報告書によると、違法伐採のシンジケートは首相、農林水産相、森林局長につながる人々が関与し、違法伐採による損失は年間1300万ドルに及び、国の森林の30%を喪失させ、首相の私兵の資金になっている。

カンボジアの1330万人の人口の35%以上が貧困にある。カンボジアの内戦終結後一貫して政府を支援してきた世銀は、カンボジアの国家予算の半分近くを占める援助を供与している支援機関のひとつだが、昨年ようやく腐敗を理由に給水衛生計画等への760万ドルの支援を凍結させた。カンボジアの根深い腐敗に対して厳しい姿勢が求められる世銀について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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カンボジア、密猟および違法伐採の取り締まり訓練を実施

|中米|平和の時代でありながらも今なお貧困と暴力が深刻

【グアテマラ・シティIPS=イネス・ベニテス】

1980年代半ばグアテマラ、ニカラグア、エルサルバドルと武力紛争が激化していた中米も、1987年の和平合意成立により和平の基盤が築かれた。それから20年、しかし内戦の背景にあった社会的要因は依然存在し、新たな紛争の潜在的脅威となっている、とアナリストらは警告する。

和平合意は、自由と民主主義において、中米各国は、極貧のない平等主義の社会を達成するため、発展の促進を目指す合意を採択すると言明した。

1996年の和平合意により36年にわたる武力紛争が終結したグアテマラだが、経済的・社会的周縁化と貧困は依然根深く、富の集中が著しい。1日1ドル以下の生活を送る極貧層は、1990年の20%から2000年には一旦16%に減少したものの、2004年には21.5%に再び上昇した。子どもの48%は栄養不良に苦しむ。エコノミストのミゲル・アルトゥロ・グティエレス氏は、貧困と社会的不平等に関しては、ほとんど変わっていないと言う。

 1992年の和平合意によって12年の紛争に終わりを告げたエルサルバドルは、富のより公平な分配や貧富の格差解消に期待が持たれたが、1989年以来の右派国民共和同盟(ARENA)政権のもと不平等と富の集中化が進んでいる。エコノミストのアルフォンソ・ゴイティア氏は「見せかけの法的メカニズムの下で、再び権威主義、弾圧、迫害の問題に直面している。新たな社会紛争の引き金となりうる状況に戻りつつある」と、社会・人権活動家に対する脅迫や攻撃に言及して指摘する。

ニカラグアでは、18年に及ぶソモサ政権に対する武力闘争とそれに続く11年間のコントラによるサンディニスタ国民解放戦線(FSLN)政権に対する反政府闘争、さらには米国による経済制裁で経済が疲弊したことに加え、内戦による100万人以上の難民と4万3000人(3万人の説もある)の犠牲者が生まれたことを背景に、サンディニスタン政権とコントラは停戦を合意、1990年に内戦は終結した。平和が訪れたものの、ニカラグアは米州諸国の中でハイチに次いで2番目に貧しい。極貧層は1990年の19.4%から2006年には14.9%にわずかに縮小しただけで、エコノミストのアレハンドロ・マルティネス・クエンカ氏によれば、2005年において農村人口の70.3%は依然貧困生活を送っている。

1987年の中米和平合意により和平が実現したものの、ミレニアム開発目標(MDG)の履行状況に関する国連開発計画(UNDP)の各国報告書によって貧困が依然深刻であることが明らかとなった中米3カ国について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

米国のモン(Hmong)族の若者が直面する暗い歴史

【サンフランシスコIPS=ゴック・グエン】

米国のモン族コミュニティは、6月4日にカリフォルニア在住のモン族11人が「ラオス政府の転覆を謀った」として逮捕されたことで、一躍米国全土からの注目を集めた。

逮捕者の中には、ベトナム戦争の際、ラオスのモン族の「秘密軍」を率いた77歳のバン・パオ将軍が含まれていた。「秘密軍」は、ラオスとベトナムの共産勢力に対抗して米軍を援護するためにCIAが支援していた。

バン・パオとその共謀者10人は、米国と友好関係にある国の侵略を計画し、いわゆる中立法に違反したとして起訴された。司法省の関係者は、容疑者たちがAK-47アサルトライフル、地対空ミサイルおよび対戦車ミサイル、地雷、ロケット弾、その他の爆発物を入手しようと謀っていたという。

 その後、裁判官がほとんどの容疑者の保釈を命じ、事実審理前協議は7月25日に予定されている。

パオと共謀者が拘束されていた間には、米国に住む数千人のモン族の人々がカリフォルニアの州都、サンフランシスコの裁判所に押しかけ、容疑者全員の釈放を要求した。

抗議するモン族の人々の中にダニエル・シオン(21)がいた。在住するカリフォルニアのストックトンの町で、抗議集会に参加するために若者を組織化しようと活動し、抗議集会では地元の警察とも協力して治安の維持に努めた。シオンは、バン・パオ将軍とその他の人々の逮捕がモン族のコミュニティにマイナスのイメージをもたらしたという。

「ある日、朝起きて仕事に行ったら、やってきた上司に、お前たちはテロリストだと言われた。違いますと答えたが、モン族のコミュニティがテロリスト呼ばわりされることを悲しく思う」とシオンはいう。

両親がカリフォルニアの抗議集会に参加した、ニューヨークシティに住むモン族の米国人大学院生(25)は、「バン・パオを支持するかしないかにかかわらず、今回の抗議は米国のモン族コミュニティを、初めて世代を超えて団結させた」という。逮捕によって、これまで知らなかった歴史を振り返ることになったものもいる。米国に住むモン族の第二世代の多くがそうである。

名前を明らかにしないこの女子学生は、カリフォルニアのフレスノ郊外で育ったという。フレスノには大きな米国人モン族コミュニティがある。子供の頃から、故国の歴史を聞かされていたのは、両親が活動家であり、父方母方双方の祖父は秘密戦争の時に米軍に味方して戦ったからだった。彼女にとってバン・パオと共謀者の逮捕は、戦争の古傷を疼かせるものだった。

「ラオスでモン族が米国に裏切られた過去の再来という印象をもつ」という。「米国は米軍部隊を退却させて、モン族社会を自分たちだけで対処するよう置き去りにした。これがラオスでの人権侵害の引き金になり、そのひとつが広く知られている戦後の大量虐殺で、ラオス政府はモン族を追い詰めて殺し、そのために多くが国外逃亡した」

ラオス政府の手による報復を避けて、多くのモン族は難民として逃げ出した。数万人が隣国のタイで新生活を始めた。現在米国にはおよそ25万人が住んでおり、カリフォルニア州、ウィスコンシン州、ミネソタ州にモン族コミュニティが多い。
 
 1990年代に、タイに住んでいた2万9,000人のモン族がラオスに送還された。米国のモン族の中には、モン族はラオスで差別、迫害、暴行に直面していると主張する者もいる。ラオスに住むモン族は同じような少数民族ユーミエン(ヤオ)族を加えても、およそ650万の人口のうちの10%以下である。

ラオス人民民主共和国(PDR)のフィアネ・ピラコネ駐米大使はラオスでモン族に対する人権侵害が行われていることは否定している。だがアムネスティ・インターナショナルのアジア担当弁護ディレクター、T.クマル氏は、モン族は「人権侵害の観点からひどい状態」にあるという。

ラオスのジャングルに隠れ住むモン族はおよそ2,000人いて、今なお、ベトナム戦争時代の武器を使って、ラオス軍と小規模の戦闘を行っている。クマル氏によれば、この民族は貧窮した危険な状態で生活しており、食糧や医薬品も不足し、軍隊の襲撃をたびたび受けている。

アムネスティ・インターナショナルはラオスに住むモン族の2つの集団について心配している。ひとつはタイからラオスへ送還された人々で女性と子供を含んでいる。もうひとつはいまだにジャングルで勝ち目のない戦いを続けている集団である」とクメル氏はいう。「どちらの集団にも連絡が取れていない。ジャーナリストや国際監視団も接近できない状態だ」

米国に渡ったモン族の第二世代にとって、今回の事件は自分たちの歴史とラオスのモン族の現在の状況について話を始めるきっかけとなった。

ダニエル・シオンは、米軍が終戦後モン族の同盟軍を置き去りにしたことを最近知ったが、米軍に入隊しようという気持ちは変わらないという。モン族社会に「テロリスト」のレッテルを張る人々に対する反証として、シオンは志願してイラクに行きたいと語った。

「我々モン族には故国がない。けれども米国にやってきて、米国が故国になった。自分は故国のための戦闘に参加する。平和のための戦いであり、過去に捨て去った故国のための戦いでもあるから」

数年前、米国のモン族コミュニティは別の問題で分裂した。米国とラオスの通商関係の正常化問題である。両国は2003年に貿易協定を結んだが、それは2005年まで公式のものではなかった。米国のモン族の中には、正常通商関係に反対し、米国は人権侵害をやめるようラオスに圧力をかけるべきだと感じる者がいたからだ。

モン族コミュニティのまた別の人々は、通商関係が促進するのは平和への道だと考えている。

米国ユーミエン同盟代表のセン・フォ・チャオ牧師は、ラオス系米国人の代表の1人として2005年12月にラオスへ渡り、ラオスとの商取引を拡大し、人的パイプを作り上げた。牧師もまた、ベトナム戦争のときに米軍の兵士とともに戦ったが、その後はモン族とはまったく異なる人生をたどった。

チャオ牧師はユーミエン族に属し、この民族はラオス、中国、タイ、ベトナムに広がっている。バン・パオ将軍の逮捕については、牧師の組織は「中立的立場」を取ることを決めている。

「ラオス本国のユーミエン族は騙されてジャングルへ誘い込まれ、1975年から87年まで政府軍の兵士と戦った」とチャオ牧師はいう。「だが生き残ったユーミエン族は武器を置いてジャングルから出てきて、1987年に政府軍側に投降した。それ以来ラオスのユーミエン族はラオス政府および世界と友好的な関係にある」(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩


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