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中印両国、ヒマラヤ貿易ルートを再開通

【ナトゥラIPS=ジグメ・カジ】

中国・インド両国が、1962年の中印国境紛争以来停止されていたヒマラヤ山脈越えの貿易ルートを、44年ぶりに再開させた。現在のところ、インドのシッキム州(1975年にインドが王政を廃止し1州として同国に編入:IPSJ)と中国のチベット自治区の地域間交流という形をとっているが、近い将来、両国間の大きな貿易関係に発展することが期待されている。

中印関係は、決して良好ではなかった。両国間に国境紛争があるのみならず、チベットの宗教指導者ダライ・ラマがインドを亡命先としていたこともその理由のひとつだった。

 しかし、2003年6月、インドがチベットを中国の一部だと認め、代わりに、中国側はシッキム州をインドの一部だと認めた。これは、両国が、経済発展というより大きな目標を重視し始めたことの証しと考えられる。

今回の貿易ルート再開と時を同じくして、北京とチベットのラサ(拉薩)の間に初めての鉄道が開通した。チベットのジガゼまでこの鉄道を延長すると中国政府はすでに表明している。

チベットルートでの貿易に関しては、インドよりも中国側の熱心さが目立っている。現在のところ、中国からインドに持ち込まれるものは、絹・羊毛・家畜・陶土などに限られているが、中国側は、インドから中国に自転車・織物・農機具・靴・農薬などの工業製品を輸入することを提案している。

ジャワハルラル・ネルー大学のギャンガナス・ジャ教授によれば、残る問題は、中国のラサからインドのシッキム州を通ってベンガル湾のコルカタ港に至る鉄道がまだ走っていないということであり、インド政府の躊躇が最大の障害であるという。

ヒマラヤを越える中国・インドの貿易関係について報告する。(原文へ

INPS Japan

|鳥インフルエンザ|大流行の前にワクチンを

【トロントIPS=ステファン・リーヒー】
 
鳥インフルエンザに対する低価格で効果的なワクチンの開発が盛んに行われるようになってきている。これまで、約120人がこの感染症のために亡くなっている。

ロチェスター大学(ニューヨーク州)のジョン・トリーナー氏によれば、未知の突然変異型ウィルスはいつでも出てくる可能性があり、さまざまな型のワクチンを開発しておけば、中には役立つものがあるかもしれないという。

先ごろ、2003年に香港で見つかったある型のH5N1ウイルスを基礎にして作られたワクチンを投与したフェレットが、新種のウイルスに対しても抵抗力を見せたことが発見された。

 その他のH5N1ワクチンに関する研究も各所で進行中である。製薬企業の「グラスコ・スミス・クライン」は、フランス・ドイツ・オランダ・ロシア・スペイン・スウェーデンにおいて、5,000人の人間に対する実験を行っている最中である。

これまで製薬企業は、児童の感染症に対するワクチンは利幅が薄いとして、その開発にそれほど熱心ではなかった。

しかし、各国政府は、鳥インフルエンザ・ワクチンの開発にテコ入れするようになってきている。米国政府は今年5月、総額10億ドル以上のワクチン開発事業を予算化した。また、ブラジル政府も、鳥インフルエンザ・ワクチンの新製造工場建設に1,360万ドルを投下すると6月に発表した。開発途上国では初めての大規模工場になると説明されている。

鳥インフルエンザ・ワクチン開発の問題について伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan


IPS関連ヘッドラインサマリー:
鳥インフルエンザとビルマ軍事政権

無防備なまま鳥インフルエンザに見舞われたインド

ヨーロッパ、鳥インフルエンザへの不安高まる

|エジプト|司法制度改革の実現を困難にする行政の対応

【カイロIPS=アダム・モロウ】

改革派の裁判官による抗議が高まるなか今週、諮問議会は司法の独立を強化するための改正法案を原則的に承認した。国際問題を扱う国立研究機関Al-Ahram Centre for Political and Strategic Studiesのモハメド・サイド氏は「改正法案は従来のものと変わらない。今回の議会での法案承認により、裁判官は司法の独立性を求めた闘いに敗れたことになる」と語った。

司法権法(Judicial Authority Law)は、野党議員からの強い反発にも関わらず、与党国民民主党の党員に広く支持された。マフムード・アブーライル法務大臣は「法案通過は、司法の独立を実現に向けた大きな成果となった」と賞賛した。

今回の改正法案では名目上、法務長官の任命は政府の権限ではないことや、司法の予算決定権の独立を保障することが盛り込まれている。しかし、司法相は今後も裁判官に関する事項を掌握し、高等司法評議会の議員任命も政府が引き続き行うことになるだろう。

 
司法権の独立性を強く求めるH.el-Bastawisi裁判官は、今回の法案を厳しく批判。「この酷い法案は我々に何も利益ももたらさないだろう。政府は改革や自由選挙、裁判官の独立性など全く無視している」と非難した。

一方で、H.el-Bastawisi裁判官は「我々は今後、エジプト国民をはじめ世界中の人々に(司法改革を掲げながらも全く実行する意図が見られない)同国の恥ずべき対応を伝えていくつもりだ。我々はこれからも独立を求めて闘い続ける」とIPSの取材に応じて語った。

エジプトで司法権法が承認されたものの、実際の司法改革は期待できないと疑問を呈する専門家たちの諸議論を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|ネパール|先行き不安な国内避難民の帰還

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】

ネパール共産党毛沢東派(マオイスト)の10年余にわたる反政府武力闘争の中で、富裕層への恐喝や貧困層に対する強制的動員などマオイストの活動から逃れようと、25万人とも35万人とも言われる国内避難民が生まれた。

こうした避難民が今、故郷への帰還を考えている。しかしその道は険しい。帰還を支援する政府のプログラムもなく、家々は修理が必要であり、長年放置した畑はまず手当を要する。そしてなによりも、自治を享受している各地のマオイストとの交渉が必要、とこれまで数百人の国内避難民の定住を支援してきたNGO「インフォーマル・セクター・サービス・センター(INSEC)」のルペシュ・ネパール氏は指摘する。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)ネパール事務所のビョルン・ペテルソン氏によれば、地方司令官は(国内避難民を安全に帰還させるという)党の公約を承知しているが、現実には、人民裁判の必要性や強制労働を要求する等さまざまな条件を突きつけ、犯罪容疑者の殺害まで行なっている。

新政権は、議会財務委員会のメンバーであるDiliraj Khanal議員を通じて、7月の予算編成に先駆け国内避難民援助を計画していることを明らかにしている。Khanal議員は、IPSの取材に応えて、避難民それぞれの状況に応じて対応するとともに、救援・復興に当たる組織も、援助機関あるいは政府が状況に応じて主導することとなると述べている。

問題のひとつは、この10年間に治安部隊による拷問や強制失踪など重大な人権侵害によって避難民となった人々の扱いである。Khanal議員はそうした人々の人数も、帰還に必要な費用も明らかにしていない。

ペテルソン氏は、帰還民の現地登録や住宅の修理・農具の支給等物的支援を含む包括的な政策が必要と指摘する。さらに所有者が避難したあと再配分された土地を巡る紛争の解決も重要な問題となるだろう。

4月24日に国王が実権を返還し、民主化実現となったネパールの国内避難民問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー:IPS Japan

自分たちで国境を守る」と不法移民の監視に当たる民間組織「ミニットマン」

【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバージョス】
 
「不法移民の『侵略』に遭遇している米国は、柵を巡らし、兵士を配備すべきだ。そうした策がとられないのであれば、自分たちで国境を守る」と語るのは、アリゾナ州でメキシコとの国境警備に当たる民間のボランティア組織Minuteman Civil Defense Corps(ミニットマン)のリーダー、アル・ガルサだ。

ミニットマンには国境を接する南部州から警察・軍経験者や農場経営者を含む6,000人が参加、国境で不法移民の監視に当たり、国境監視員に内報しているという。5月末からアリゾナ州の私有地に高さ5メートルのフェンスを建設し始めた。ミニットマンは、米政府に対し3,200キロに及ぶメキシコとの国境に同様のフェンスを建設するよう要望している。

5月半ば、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、国境警備に州兵6,000人の派遣予定を公表、この非武装部隊は、監視・諜報活動を支援するためのもので、不法移民の逮捕を行うものではないと説明した。
 
 また5月、米上院は、全長595キロのフェンスの建設を承認する一方で、米国に居住するおよそ700万の不法移民に市民権獲得の道を開く法案を可決した。この法案は、不法移民を重罪犯罪者とする下院の強硬な法案との調整が残っているものの、ミニットマンの怒りをかっている。ガルサ氏は「不法入国者は本国に送還し、処罰すべき」と述べている。
 
 ラテンアメリカ系または出身の米国居住者は4,270万人にのぼり、中南米諸国政府は米国の移民改革を巡る議論を注意深く見守り、米議会の議論に影響を及ぼす方法を探っている。各国政府報道官は、力づくで移民を阻止するのは有効でないとし、米国の安い労働力に対する需要を背景とする移民の流入を規制するメカニズムを提案している。

昨年はメキシコを中心にラテンアメリカ・カリブ海諸国から40万人以上が米国に不法入国し、100万人が阻止・本国送還された。メキシコ政府・議会ならびに人権擁護団体からの抗議に対し、「人種差別主義ではない。法律による取り締まりを求めているだけ」と主張する反移民グループについて報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan 

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ディエゴ・セバージョスの記事

「世界と議会」2006年6月号

特集:議会の立法能力向上をめざして

■国会改革論の再検討―本当に必要な「立法能力」とは
大山礼子(駒澤大学法学部教授)

■対案路線の課題
廣瀬淳子(学習院大学法学部講師)

■議員に聞く
坂本由紀子(参議院議員)

■解説
立法支援体制

■「咢堂政経懇話会」講演
『最近の日中関係』
高村正彦(衆議院議員・元外務大臣)

■IPS特約
米国に直接対話のシグナルを送るイラン

■第十四回 青年リーダーシップ育成事業・米国派遣者レポート

世界と議会
1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

米国からの送金に頼るキューバ市民に新たな試練

【ハバナIPS=ダリア・アコスタ】

ブッシュ政権が、キューバの外貨保有削減を目的に、国内のキューバ向け旅行/送金代理店閉鎖を命じたのを受けて、キューバ政府は、いわゆる「転換ペソ」(convertible peso:CUCs)を100転換ペソ=120ドルから123ドルに引き上げた(キューバ中央銀行の海外送金手数料が以前の20ドルから23ドルへと値上がりしたことが原因)。

この「転換ペソ」(convertible peso:CUCs)は、キューバ市場における米国通貨流通を停止した2004年10月に導入されたものである。

 キューバ外務省によると、海外移住者は約150万人。その内130万人が米国に居住しているという。世界的に見ると、海外移住者の母国への送金は年々増加しているが、キューバでは減少が始まり、2005年の送金額は、2004年の12億6千万ドルから11億7千万ドルに減少。「ラテンアメリカ・カリビアン経済委員会」は、2006年はさらに8%の落ち込みを予測している。 

アウレリア・ガルシアさんは、「米国に移住した息子から3、4ヶ月ごとに100ドルの送金があるが、100ドルでは80転換ペソにしかならず、あっという間に消えてしまう。もっと送って欲しいところだが、息子も家族を養うために16時間も働いているのだから、仕方がない」と語る。 
 
キューバでは、労働者の平均月収は398ペソ。「ラテンアメリカ・カリビアン経済委員会」によると、2005年の消費者物価指数は、前年の2.9%上昇から4.2%上昇へと拡大したという。共産国キューバでは、医療や教育は無料。光熱・水道料等は極めて低額であるが、家族4人の平均的家庭では、給料の75%が食費で消えてしまうという。ハバナで行われたある調査によると、家族の基本的ニーズを賄うためには、平均給与の7倍が必要という。 

海外からの送金に頼るキューバ市民の生活について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan

|カリブ海地域|奴隷制の歴史を記憶するプロジェクト

【ハバナIPS=オーランド・マトス】

アフリカ大陸からカリブ海地域に強制的に連れて来られた奴隷の歴史を後世に伝えようと、「奴隷ルートの記憶地」プロジェクトがユネスコ(国連教育科学文化機関)の主催で始まっている。アルバ島、ハイチ、ドミニカ共和国、キューバが参加している。

ユネスコ・ハバナ事務所の学芸員フレデリック・バチェロン氏は、「この企画の独自性は、物理的な場所だけでなく、非物質的な伝承をもプロジェクトの対象にしていることにある」と説明する。すなわち、アフリカ大陸から伝えられた踊りや歌、口承伝承などの保存が重視されているのである。2001年から05年の間に、90の無形文化財が指定されている。また、各国ごとに5つの場所を文化ツーリズムの目的地として指定することになっている。

  ドミニカ共和国では、記憶に留めるべき場所のリスト化が現在進んでいるが、その中には、奴隷関係のものだけではなく、先住民関係のものが入っているのが特徴的だ。「ドミニカ人博物館」のクレニス・タバレス氏によると、奴隷と先住民が「共存」してきたことの証しとしてそうしているのだという。また、キューバでもすでに735の場所を指定した。

しかし、問題がないわけではない。アルバ島国立歴史博物館のルーク・アロフス館長は、人々が奴隷制の問題をあまり思い出したがらない、とひとつの問題を指摘している。

だが、先述のユネスコ学芸員バチェロン氏はいう。「これ[奴隷制の問題]はみなが文化的課題として捉える問題で、ひとつの悲劇だと考えられがちです。ですが、それは同時に、私たちが保存し、将来において蘇らせるべき遺産を残してくれてもいるのです」。

奴隷制の歴史記憶プロジェクトについて、カリブ海地域より伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan             

米国はエジプトの人権侵害に目をつぶる

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【ワシントンIPS=エマド・ミケイ】

エジプトが民主的な運動や反体制派を抑圧しているにもかかわらず、ブッシュ政権は来年度も20億ドルの財政支援続行を議会に要求している。下院の予算小委員会が政府の求める全額を承認したのは、カイロとアレクサンドリアで多くの反体制活動家がエジプト治安部隊に暴行を受けて逮捕された翌日のことだった。

米政府はエジプトにアラブ諸国の民主的改革を主導する役割を求めており、米国の戦略的利益のためにムバラク政権への援助は削減できないとしている。確かにエジプトは中東で米国に政治的軍事的に協力している。議会の公聴会で、元駐エジプト大使だったデビッド・ウェルチ国務次官補(近東問題担当)は、「エジプトとの戦略的連携はこの地域の米国政策のかなめである」と語った。

さらに「エジプトはイラン、シリア、スーダンなどの問題に親米姿勢で取り組んでいる」とし、ウェルチ次官補はエジプトのナジフ内閣の米国の意向に沿った「市場開放」政策、所得税減税、国家予算の透明化、国営企業の民営化を称えた。マイケル・クルター国務次官補代理(政治・軍事問題担当)もエジプトへの支援が米国の「テロとの戦い」においていかに重要かを力説した。

しかしながら人権活動家が非難する、ブッシュ政権によるエジプトへのテロ容疑者の強制送還問題は取り上げられない。またエジプトは人道的危機が懸念されているにもかかわらず米国とイスラエルのハマス抑圧政策に資金移転を停止する等協力している。今後イラン攻撃が行われることになれば中心的役割を担う可能性もある。

昨年の大統領選でムバラク大統領と競ったアイマン・ヌール氏は選挙違反の罪で5年の懲役刑となっている。与党勝利の議会選挙の不正を告発した判事は懲戒処分となった。多くの反体制派が現在獄中にある。こうした抑圧にもかかわらず議会のタカ派はハマスやムスリム同胞団の台頭を不安視してエジプトを批判しない。米国政府は当面ムバラク政権に警備役を任せておこうと考えている。米国の対エジプト政策について報告する。(原文へ)

翻訳/サマリー=IPS Japan

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エジプト野党のつまずき

|米国|移民の現実を無視する英語の国語化

【アルベルト・メンドーサ】

25日の上院の改正移民法案可決を控えた22日、米社会における移民の権利支援を求めて様々な文化と宗教を背景に持つ移民と支持者がサクラメントに集結した。

上院は英語を「国語」とする修正案を可決しており、移民の社会的権利との衝突が問題となっている。デモの参加者は各種社会サービスを母国語で受けることのできる権利を高く評価している。情報の提供が英語のみとなれば、享受できる権利について知識を得ることができなくなる。

 災害時の案内が英語では理解できない者のことを考えると、国家安全保障、災害救助の面でも問題が大きい。また、母国語を封じることは移民が背景として持つ文化を否定することだという主張もある。

ヒスパニック系のゴンザレス司法長官は21日「英語を共通・統一言語と捉え、チャンスにつながる道」とする考えを示したうえで、「英語を国語と宣言すること」は象徴的規定であり、言語アクセスを提供する他の連邦法、州法を損なうものではないと述べた。

上院が可決した法案には一定条件を満たす何百万人もの非登録移民にゲストワーカー(一時労働者)の資格を認め、将来の市民権獲得に道を開く計画を盛り込んでいる。下院が昨年末に通過させた不法滞在を重罪とみなす強硬な法案との調整が難航することが予想される。

英語を母国語と規定し、各種情報の提供が英語のみになると移民の権利が大きく損なわれるとする主張について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan 

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米国、来年も移民抑制政策か
米国への移民、ようやく暗いトンネルから抜け出せるか?