【ワシントンIPS=エマド・ミケイ】
公的資金により維持される郵便網は競合相手カナダ・ポストに不当な優位性を与えており、事業が損なわれていると申し立ててきた米国の小口貨物運送会社最大手UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)による7年に及ぶ訴訟が棄却された。
この訴訟は、北米自由貿易協定(NAFTA)第11条に基づき提訴されたもので、こうした貿易協定が多国籍企業に対し主権を有する政府や国内企業に異議を申し立てる過剰な権限を付与することを示す一例として注目されてきた。
カナダ・ポストのCEOモヤ・グリーン氏は「長年UPSはカナダにおける不当競争の申し立てを行なってきたが、いずれの事例でも規制当局や独立した専門家から却下され、このたび国際法廷からも申し立てに根拠がないとの裁定が出された」と述べた。
一部通商問題専門家は、裁定は国営企業やサービスが第11条の対象外となることを示唆するものと述べている。しかし論争はNAFTAの規定の下で解決されたが、市民社会活動家らは、貿易協定は相変わらず問題有りと断言している。
カナダ郵便労組のデボラ・バーク全国会長は今回の裁定を評価しながらも、NAFTAの有効性を認めているわけではないとし、「NAFTAは、公共郵便事業と雇用を非公開裁判にかけるのをUPSに許した。雇用や公的サービスが脅かされる時には、一般市民や労働者にも発言の権利が与えられるべき」と述べている。
NGOカナダ人評議会のジャン・イヴ・ルフォー氏は「第11条などの投資ルールはカナダが締結するNAFTAその他貿易協定から排除されるべき」と主張。スティーヴン・シュリブマン貿易担当弁護士は、対政府訴訟を外国企業に認めるNAFTAは違憲としている。
第11条の規定により、カナダ・メキシコ・米国各国政府に対し総額数十億ドル相当の請求が多数起こされている。納税者が納めた数百万ドルにかかわる問題であっても、訴訟の裁定は、その国の法廷制度外における「投資家と国」の間の仲裁裁判所で行われることになる。ワシントンに本拠を置くパブリック・シチズンズ・トレード・ウォッチによれば、終結となった訴訟数は少ないものの、和解合意の中でNAFTA裁判所または政府によって外国投資家にはおよそ3,500万ドルの裁定がこれまでに下されている。国内法や国内裁判所では認められない請求を多く含む。(原文へ)
INPS Japan
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|イラン|公開の石打の刑を非難する国連
【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連は6月20日、イランで予定されている姦通罪を犯したひと組の男女に対する公開石打の刑を激しく非難した。21日にイラン北部のガズヴィーン州にある町の広場で行うことになっていた石打の刑は延期になっているが、インターネットを利用した世界的なキャンペーンを含み、世界中から抗議の嵐を受けたためと思われる。
国連のファルハン・ハク報道官は、「イランも批准している市民的及び政治的権利に関する国際規約は石打の刑を残酷で、非人道的で、恥ずべき罰だとして、明確に禁止している」と語った。「国際法では、死刑制度はもっとも重大な犯罪だけに科されるとされ、殺人罪だけに限定されると広く解釈されている。」
ニューヨークに本拠を置くヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、イランのガズヴィーン地方治安委員会は、43歳の女性Mokarrameh Ebrahimiとその11歳になる息子の父親の男性を公開で行われる石打の刑に処すると公表した。2人は11年前に刑事法廷で死刑判決を受けていた。非嫡出子を生んだ罪だった。
昨年、アムネスティ・インターナショナルはイラン政府に9人の女性の姦通罪に対する石打の刑による死刑判決を撤回するよう緊急提言を行っている。HRWによると、イランのAyatollah Mahmud Hashemi Shahrudi司法長官は2002年12月に石打の刑禁止を命じたが、実際には引き続き行われている。イランの女性人権活動家と人権組織は「石打の刑永続的廃止運動」に乗り出している。
この運動の一環である、インターネットで広まっている石打の刑の廃止を求める請願書は、イランの国会議員に送られ、「石打の刑で死刑にするという罰則そのものが、今日の世界では容認できない非人道的な残虐行為で、政府関係者がその行為を認可していることさえ恥ずべきことである」としている。
イランでは現在、少なくとも11人が(女性9人、男性2人)石打の刑による死刑を宣告されている。国際的に非難を浴びているイランの石打の刑について報告する。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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ボスニア・ヘルツゴビナ紛争の貯蔵武器をイラクへ
|米国|「イランによるタリバン支援」説、否定される
【ワシントンIPS=ガレス・ポーター】
米国のディック・チェイニー副大統領に近いとみられる米政府「高官」筋が、アフガニスタンで活動するタリバンに対してイランが武器支援をしているとの説を各種メディアに流している。
しかしながら、この見方に対しては、即座に否定的な反応が出てきた。ロバート・ゲーツ国防長官は、イランがタリバンに武器を密輸している証拠は何もない、と6月4日の記者会見で語った。

また、北大西洋条約機構(NATO)のアフガニスタン現地司令官であるダン・マクニール大将も、イラン領土内からの武器密輸は、イラン政府ではなく私的集団によって行われているものだとの見方を示した。
ゲーツ氏もマクニール氏も、アフガニスタンからイランへ向けたヘロインの流れが対タリバン武器密輸と関連があるとみている。つまり、ヘロインを売却して得た資金で武器を買い、自衛のために使うというわけである。
「イランがタリバンを支援している」というチェイニー氏らの説は、「イランがイラクのシーア派武装集団を支援している」という同グループが今年はじめに流したうわさの焼き直しであり、いずれも根拠が薄い。チェイニー氏らは、イラン諜報筋とタリバン司令官が接触を持っているとの情報を米諜報筋から得て、その情報だけを頼りに「タリバン支援説」を宣伝しているものと思われる。
しかし、歴史的にみるとこうした見方には無理がある。イランは長年にわたってタリバンを敵だとみなしてきた。それは単に、シーア派のイランがスンニ派のタリバンを嫌っているということではなくて、イランとの関係が良好でないパキスタンがタリバンを支援しているということがイランにとっては問題なのである。
チェイニー米副大統領らによる「イランによるタリバン支援説」について検討する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
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|メキシコ|移住は生物圏保護区への恵みか
【シエラゴルダIPS=ディエゴ・セバージョス】
メキシコ・ケレタロ州シエラ・ゴルダ生物圏保護区の自然資源や生物多様性への環境負荷が、住民半数(約5万人)の米国への移住で低減している。38万4,000haに及ぶ保護区当局もこの事実を認めている。
ユネスコの世界生物圏保護区の認定も受けているこの保護区は、乾燥地帯から亜熱帯、低山岳地帯の生態系が広がり、多数の固有種が生息する。
住民は、自給的農業や一部商業で生計を立てているが、移住の増加に伴い、農業、放牧、伐採などの活動が減少した。しかし移住者からの家族への送金で、派手な新築の家や米国のナンバープレートを付けたトラックの増加など、地域の景観が変わったことも事実だ。
とりわけ26歳以下の若者をはじめとする移住は、昔からのことだが、調査によれば1990年代から急増している。保護区の住民の月収が平均240ドルであるのに対し、移住して米国の農場や建設現場で働けば1,000ドルから2,000ドルもの月収となる。
シエラ・ゴルダでは、保護区の価値を伝え、保全を教える環境教育を実施しており、およそ16,000人の中学生が環境教育授業を受けている。しかし、こうした取り組みも、若者の米国への移住を食い止めるに至っていない。大半は、米国の移民書類もないまま、人身売買業者に2,000~3,000ドル支払って国境を越える。
シエラ・ゴルダの移民問題は矛盾した状況にある。保護区の責任者マーサ・ルイス氏は「移民が止むことになれば、森林地帯に深刻な負荷がかかることになる」と述べ、「10年間のうちに、森林や重要な地区の所有者に補償金や奨励金を支払って、子どもたちが将来保護区を離れる必要を感じないようにしたいと考えている」という。
この4年間に当局は、政府や民間基金から、また国連開発計画(UNDP)を通じて地球環境ファシリティから支援を得て、環境保全活動に努めた土地所有者およそ215人に、1ha当たり年間18~27ドルを支払った。保護地区は連邦法と州法の下保護されているが、97%は個人やコミュニティの所有であり、保全・再生プログラムはすべて、そうした個人やコミュニティと合意され、策定されている。
NGOや国連機関はもとより、多国籍企業なども支援の手を差し伸べ始めたメキシコの生物圏保護区について報告する。
翻訳/サマリー=IPS Japan
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|オーストラリア|アボリジニの失われた過去は戻って来ない
【メルボルンIPS=スティーブン・デ・タルチンスキ】
オーストラリア政府は、先住民の子供を強制的に親から引き離す嘗ての政策を反省し5月26日を「National Sorry Day」(国家謝罪の日)と定めている。しかし、3歳で親から引き離されメルボルンの孤児院で育ったユウジン・ロベットは、「両親の願いにも拘らず、当局は我々が親の元に帰ることを認めようとしなかった。記念日の意義は認めるが、失った過去は戻ってこない」と語っている。
1997年に発表された同施策に関する報告書「アボリジニおよびトレス・ストレイト島の子供達の隔離に関する国家調査」によれば、欧州の占領が始まると間もなく先住民の子供の隔離が始まったというが、その数は明らかにされていない。
同報告書は、犠牲者に対する54項目の支援策を提案。政府は同年、家族支援、文化/言語の維持、全国家族ネットワークの設立などの費用として6千3百万豪ドル(5百7十万米ドル)を計上。2002-1006年に追加5千4百万豪ドル(4千5百万米ドル)の支援を約束した。しかし、犠牲者支援団体「Stolen Generations Victoria」(ビクトリア州失われた世代)のリン・オースチン会長は、「実施されているのは2項目のみ」と憤っている。
連邦政府のアボット保健大臣は、オーストラリア先住民の生活向上を歓迎しているが、オックスファム・オーストラリアおよびNational Aboriginal Community Controlled Health Organizationが4月に発表した共同報告書によれば、先住民の平均寿命は男性56歳、女性63歳と非先住民の76・6歳、82歳に比べ大きく劣っている。また、ニュージーランド、カナダ、米国の先住民と比べ男性の平均寿命は12年短い。社会/経済的悪条件、栄養不良、ヘルスケアに対するアクセスの欠如が原因で、慢性病も多い。幼児死亡率は、14.3パーセントで、非先住民の3倍に上る。
Stolen Generations Victoriaのメリッサ・ブリケル氏は、「ハワード首相は、遺憾の表明だけで謝罪を拒んでおり、国民の願いとは異なる態度を取っている」と批判している。オーストラリア政府のアボリジニ対策について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩
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ボスニア・ヘルツゴビナ紛争の貯蔵武器をイラクへ
【ベオグラードIPS=ヴェスナ・ペリチ・ジモニッチ】
ボスニア・ヘルツゴビナ紛争終結のための1995年デイトン和平合意の重要点は、膨大な貯蔵兵器の破壊であった。
しかし、ボスニアの日刊紙「Nazavisne Novine」およびクロアチアの日刊紙「Vecernji List」は、「9・11テロ攻撃後、米国の圧力によって貯蔵された武器/弾薬をアフガニスタンおよびイラクへ売却する命令が下され、少なくとも29万丁のライフルが米国内の民間企業に売却された」とのオーストリア人元UE軍メンバーの証言を伝えている(ライフルは、イラク/アフガニスタンの治安部隊用という)。
Vecernji List紙は更に、サラエボを拠とする国営武器貿易企業ユニス・プロメックスのMaglajlija社長が、米国のスカウト社との取引を認め、「スカウトとの取引は国が承認しており問題はない。武器の最終売却先については知らない」と語ったと述べている。
アムネスティ・インターナショナルが昨年発表した武器不法取引に関する報告書によると、2004年7月31日―2005年6月31日の間にボスニア/ヘルツゴビナ紛争時の小型/軽兵器数10万および数千万の弾丸が、米国防省の仲介で秘密裏に武器ブローカーの手に渡ったという。アムネスティーはまた、2004年12月の紛争の際にこれら武器の一部がルワンダにも送られたと述べている。
平和維持部隊は、1998年以降5万2千の小型兵器、3万8千5百の地雷、22万5千の手榴弾などを回収しているが、UNDP(国連開発計画)および地元当局は作業完了には20年を要し、密売の危険性も高いとしている。ボスニア・ヘルツゴビナの貯蔵武器がイラク/アフガニスタンに密売されているとの地元新聞報道を紹介する。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩
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|ナイジェリア|過去との決別を願う人権活動家
|UAE|中東分断の架け橋となるイランの芸術
【ドバイIPS=ミーナ・ジャナルダン】
5月にイランのアフマディネジャド大統領がアラブ首長国連邦(UAE)を訪問した頃、UAEのシャルジャー(7つの首長国のうちのひとつ)では、イラン芸術フェスティバルが開かれていた。絵画、映画、写真、彫刻、音楽、舞台などさまざまな分野の芸術作品がイランから出された。
湾岸協力会議(GCC、加盟国:サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーン)は、1979年のイスラム革命以来、イランに対する恐れを持っている。イランとUAEは、イランが1971年に占領した3つの島(アブムサ、大タンブ、小タンブ)をめぐって長年にわたって領土紛争を行っている。また、自国の核計画をめぐって軍事攻撃の脅しを米国からかけられているイランは、湾岸諸国にある米軍基地に対して報復するとして、湾岸諸国を恐れさせている。
しかし、今回行われている芸術フェスティバルは、芸術の力を借りて、こうした緊張関係を解きほぐそうとの試みだ。そもそも、UAEには40万人のイラン人が住んでいるし、両国間の貿易も2006年には110億ドル規模に達しており、緊張緩和にいたる素地はある。
米国の世論調査機関「ゾグビー・インターナショナル」が昨年11月から12月にかけて行った世論調査でも、民衆レベルでは湾岸諸国間に不信感が少ないことがわかっている。イランが主要な脅威であると答えた人はわずか6%に過ぎなかった。他方で、約80%の回答者が、イスラエルと米国が2大脅威であると回答した。
イランへの脅威認識を取り除く芸術フェスティバルについて伝える。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
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メッセージの意味をひっくり返す活動芸術家
メキシコで中南米からの移民への人権侵害
【メキシコシティIPS=ディエゴ・セバージョス】
メキシコの移民支援組織「国境なき社会」(Sin Fronteras)が、中米から米国へ向かう途中の移民に対してメキシコ当局がひどい人権侵害を加えている、と訴えた。
メキシコでは、中米から(ごく一部は南米から)の移民が毎年20万人も逮捕・強制送還される。そして、移民たちは、当局からの人権侵害に対してきわめて弱い立場にある。嫌がらせを受けたり、殴られたり、金品を奪われたり、拉致されたり、強姦されたりすることが頻繁に起こっている。また、メキシコ北部に向かう列車から振り落とされて死んだり大怪我をしたりすることも少なくない。そのため、これは「死の列車」と呼ばれている。
こうした苦難の末にメキシコを抜けることができたとしても、それで苦しみは終わらない。米国にたどり着いた中米からの移民のうち毎年約7万3000人が強制送還されているからだ。米国に居住する権利を最終的に得るのは、約7万人ほどでしかない。
「国境なき社会」は、5月23日、米州人権委員会に対して、同グループのメンバー20名の人身を保護するよう要請した。
同グループのカリーナ・アリアス広報担当によると、今年に入ってからの人権侵害はすさまじいという。今年3月には、グループのファビエネ・ベネット代表がメキシコ国立移民研究所を訪ねて当局と移民問題について議論したが、この会談の間、ベネット代表のID情報の入った文書を当局が勝手にビデオ撮影していた。
また、移民を支援する弁護士が、収容所内の移民との接見を妨害されることがしばしばある。3月20日には、収容所の移民と面談するためメキシコ南部に向かっていた同グループのメンバーが、当局から逮捕される事件も起こっている。
しかし、昨年12月に就任したフェリペ・カルデロン大統領は、移民の取り扱いは改善されてきていると開き直っている。
メキシコを通過する中米からの移民への人権侵害についてレポートする。(原文へ)
翻訳/サマリー=IPS Japan
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|イラン|世界の傾向に逆行する処刑の増加
【テヘランIPS=キミア・サナティ】
2006年にイランで行われた死刑は177人とほぼ2倍に増えた。イランの人権活動家は、死刑に犯罪抑止効果はなく廃止されるべきだとして、人々の意識を高めようと決意を新たにしている。
この数字はアムネスティ・インターナショナルの最新の報告書から明らかになった。処刑数は中国がトップで1,010人だったが、人権活動家は、実態はその8倍に上るのではないかと見ている。イランでは政府統計は公表されず、今回の数字は報道機関や活動家による推定である。
この報告書によると、世界的には処刑数は大幅に減って、2005年より26%少ない。けれどもイランの傾向は逆であり、5月の2週間で18人が処刑されるなど、減少する兆候も見られない。イランでは死刑が犯罪を防ぐ極めて重要な要素だと考えられている。
イランで死刑になるのは、殺人、麻薬犯罪、思想的および経済的犯罪、さらに性的犯罪である。処刑は通常絞首刑で、性犯罪者、テロリスト、麻薬密売者の場合は公開でおこなわれる。性犯罪には石打の刑もある。今年は麻薬密売による死刑が増えている。またイランでは国際法で禁じられている未成年者の処刑も行われている。
イランの法制度は関連するイスラム法に基づいている。議会で可決された法案も、イランの最高指導者アヤトラ・ハメネイ師が任命した6名の委員からなる、全能で厳格な聖職者評議会で承認されなければならない。この評議会は宗教法と法律の整合性を審査する。イスラム法に反することは異端とされて死刑となる。
1999年に改革派の有力新聞「ネシャト」紙は、報復を認めるイランの宗教法は過失致死には適用されないと論じ、当局に異端だとされ新聞社は閉鎖となった。その執筆記者エマデディン・バギ氏が、イラン初の死刑反対組織を創設した。バギ氏は持論を本にしようとしたが、当局による出版差し止めを受け、アフガニスタンでの出版を計画している。イランの死刑制度の実態について報告する。
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩
|ナイジェリア|過去との決別を願う人権活動家
【ラゴスIPS=トイ・オロリ】
ナイジェリアの金融の中心都市、ラゴスを本拠とする人権団体「市民自由機構(CLO)」によると、長く続いた軍事独裁政権の後、1999年にナイジェリアに民主主義がもたらされたが、超法規的殺害は止むことなく、むしろ数は2倍に増えて、いまや日常茶飯事となりつつある。
「軍事独裁の時代には、無益な殺生や器物損壊がほとんど国策のように行われていたが、新たな民主主義政権ではそうした醜い現象が、衝撃的なことだが、治安警備員、特に警察官による無実の民間人の不法な殺害というさらに悪化した形で目撃されている」とCLOが過去に発行した報告書は指摘している。
この調査は1999年5月から2005年6月までの6年間に焦点を当てている。だが著者でありCLOの法執行プロジェクト代表であるダミアン・ウグ氏は、「現在も状況は改善されていない」とIPSの取材に応じて語った。「過去8年間に膨大な数の超法規的殺害を見てきた。警察、軍、国が雇った自警団が手を下している」。
超法規的殺害とは法律によって認められていない処刑である。ナイジェリアの刑法では人間の不法な殺害は死刑に処される犯罪である。
ナイジェリアでは、平均して少なくとも1日に5人が超法規的な状況で殺害されていると、CLOは推測している。そのほとんどが警察署で行われるとされ、武装強盗の容疑者は即座にその場で尋問中に処刑されるといわれている。一方警察側は容疑者の逃亡を阻止しようとして殺害が起きると主張している。
「1日に5人という数字はかなり控えめなものだ」とウグ氏は語り、「地方の警察署や自警団では報告されない殺害もある。しかも、警察と軍隊が頻発する紛争に躍起になっている、問題の多い石油埋蔵量の豊富なニジェール・デルタで起きている事件は、数字に含まれていない」と言い添えた。
CLOの報告書は、超法規的殺害が増加したのは、経済状況の悪化に原因があるとしている。オルシェグン・オバサンジョ大統領が政権にあった最後の数年に石油の歳入は増大したが、国連開発計画によると、ナイジェリアの1億4,000万の人口の80%以上が1日1ドル以下でいまだに生活している。この状況が銃犯罪、強盗、誘拐の増加を招いている。
オバサンジョ大統領は今週退陣した。政権の座にあった8年の間に、50万人もの労働者が失業したとウグ氏はいう。多くは貧窮のまま放っておかれ、家族を養うために苦しんだ。「子供は授業料が払えず学校へ通えない。20歳以下の若者の多くが狂信的宗教や犯罪組織に加わり、犯罪に関わっていった」。
警察は無法状態の広まりに「圧倒」された。「そのために問題を超法規的殺害により解消しようとしている」とウグ氏は語る。「この人間を殺せば、舞い戻ってきてまた面倒をかけられることはないと考えている。犯罪の可能性のあるものを減らすために超法規的殺害という手段を取っている」。
警察が、自分たちの経済状態に憤りを感じ、その憤りを人々に放出しているという側面もある。ウグ氏は「数ヶ月給料を支払ってもらえない警察官は腹を立てている。検問所で警察官が賄賂を受け取ることは現在禁止されているのに、政府の役人や政治家が大金を流用しているのを見て、怒りを社会に向けている」と指摘する。
IPSの取材では、自警団を備えている州の知事は、武装強盗の発生件数の多さに対処するために自警団が必要だと主張しているが、そうした自警団もまた、容疑者の不法な処刑を行ったとして非難されている。
退陣するナイジェリア政府は、バカシ・ボーイズなど、こうした自警団のいくつかの禁止に乗り出し、これらの自警団が政治的目的のために利用されているとして告発していた。
「当局が超法規的殺害の苦情について行動を起こしたのは極めてまれだった」とウグ氏はいう。「過去8年間で、政府や警察当局によって検挙された警察官はほとんどいない」。また、ウグ氏の知る限り、超法規的殺害にかかわったとして裁判所に訴えられた兵士は皆無である。
一般市民の抗議を受けて当局が行動を起こしたことは一度だけあった。それはナイジェリアの首都アブジャのアポで2年前に警察によって6人の若者が殺害されたときのことだ。アムネスティ・インターナショナルの2006年8月22日の声明によると、「いわゆるアポの6人とは、5人の若いイボ人の商人グループと1人の女子学生で、武装強盗の疑いで逮捕され、アブジャで拘留中に処刑された。この事件では死体が警察との銃撃戦で殺された武装強盗として公開された」。
ウグ氏によると、「当時ナイジェリアは国連の安全保障理事会の一員になろうとしていたため、この事件は特殊だった。国連の超法規的殺害に関する特別報告官がナイジェリアを訪問する予定にもなっていたため、政府は何かをする必要があり、査問を行ってみせた。だがそれ以来、数千人が殺害されながら、何もなされていない」。
活動家は軍事政権の間も超法規的殺害の数は多かったと認める。しかし軍隊が国を支配していた頃には、殺害をめぐる報復として、町や村が兵士や警察の手で壊滅状態にされることはなかった。1999年11月にはニジェール・デルタのバイエルサ州にあるオディの町が破壊された。その2年後、兵士たちはナイジェリア中央部のベヌエ州にあるザキ・ビアムとバアセ地区に大挙して押しかけ、数百人の民間人が死亡し、活動家が検挙された。
IPSはラゴス警察に人権組織とウグ氏の主張についてコメントを求めた。広報官は、自分自身が今の任務にある過去2年間に、ラゴス州で略式処刑が行われた事実はないと否定した。「超法規的殺害は起きていない。それがコメントである」と警察のオルボデ・オジャジュニ広報官は答えた。
このように警察が問題を認めようとしないため、CLOは積極的に国民の意識を高めるキャンペーンに乗り出し、政府役人や国際社会に向けてアピールしているという。さらに、「拷問と超法規的殺害に関する国家的警告」というネットワークを立ち上げ、拷問や超法規的処刑などの行動を監視している。このネットワークは全国に3,000人を超える会員がいる。
「だれかが、どこかで、『この人々は自らの罪をあがなうべきだ』という日がやってくるのを期待している」とウグ氏は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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