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米国に直接対話のシグナルを送るイラン

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【ワシントンIPS=ガレス・ポーター】

2005年末以降、イランの指導層が、イランの核問題および米・イラン間のその他重要問題について米国との直接交渉を望むとのシグナルを米政府に送り続けている。

この動きは、イラン国内において同国の高官と海外の要人が行なったいくつかの非公式協議に始まる。イランの国会議員が、米・イラン協議を示唆する発言を行なったこともある。しかし、4月下旬になって、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領が、米政府と協議を行なうのにやぶさかでない、と初めて明らかにしたのである。

 大統領は、4月24日に行なった1時間ほどの記者会見の中で、イランには「世界中の全ての国々と協議する用意があるが、どの国と交渉をするにせよそれぞれの条件がある」と述べ、特に米国を名指ししたのである。「もしこの条件が満たされるのならば、我々は交渉するだろう」。

パリの独立系通信社「イラン・ニュース・サービス」が報じたこのアフマディネジャド大統領の発言は、米国のメディアでは注目されることがなかった。しかし、米メディアは、同じ記者会見における、「イラク政府が確立された以上、イラク問題で米国と協議する必要はない」というイラン大統領の発言については、確かに報道していたのである。

アフマディネジャド氏は、協議の条件が何かを明らかにしていなかった。しかし、イラク問題に関する米・イラン二国間協議を昨年11月に米国から持ちかけられたときの反応が、イラン政府の考え方をよく示しているといえるだろう。イラクのジャラル・タラバニ大統領は、昨年11月末にイランを訪問して、アフマディネジャド大統領、最高指導者アヤトラ・ハメネイ師らイランの指導者と会談し米国の提案を伝えた。そのときイラン側は、2つの条件が満たされれば協議に応じると返答した。その条件とは、第一に、協議が非公式のものであること、第二に、米・イラン二国間の全ての重要問題を取り扱うことである。
 
昨年8月に大統領に就任して以来アフマディネジャド氏はイランの政策をより過激な方向に導いているとの米政権の見方、さらにはその意向を受けたメディアの一般的な見方とは異なり、アフマディネジャド氏の公の主張に対して批判的な人々を含め、イランの指導層の強調点は、イランの核政策は大統領によって決定されるのではない、という点であった。

イラン国家最高安全保障会議の事務局で16年間務めたハッサン・ロハニ氏は、2月末と3月初めの2度にわたり、核問題に関するイランの立場は、政府の最高指導層によって決められるものであって、現政権によって決められたものではない、と発言している。2月20日には、「イランの一般的な政策は、新政権ができたからといって変わらない」と述べた。

米国との協議問題に関してアフマディネジャド大統領が発言したのは今回がはじめてであるが、核問題やその他の安全保障問題に関してイラン政府が米国との直接交渉に公に関心を示したのは、今回の大統領記者会見が初めてではない。

3月6日、イランのハミッド・レザ・アセフィ外務省報道官は、「我々が言っているのは、もしアメリカが我々を威嚇することをやめ、前提条件を課すことによって交渉プロセスに影響を与えることを求めない雰囲気を醸成するのであれば、米国との交渉を妨げるものは何もないということだ」と述べている。

こうしたシグナルを新たに公式に示し始めた背景には、安全保障問題につき広く米国と直接交渉する用意があるとのイランの意向を伝える、この数ヶ月間にわたる密かな外交活動がある。イラン側は、テヘランでイランの政府高官と会談した各国外交官や著名人を通じてこうしたメッセージを送り続けてきた。

米・ドイツ・オランダ・ポーランド・フランス・ルクセンブルグの元外務大臣が4月26日付の『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙上で発表した声明によれば、彼らのうち[米国を除く]欧州5ヶ国の声明賛同者が「この数ヶ月の間にイランの影響力のある人々と会談した際、安全保障問題に関して米国と様々な議論をしようとの関心がイラン側に広く見られた」としている。

米国政府を安全保障問題に関する直接交渉に引き込もうとする現在のイランの動きは、初めて生じたものではない。2003年5月初め、米国の意図の伝達役となっていたティム・グルディマン駐イラン・スイス大使が、米国政府に対して、イラン側の提案を記した1ページの文書を送った。そこでは、イランに対して安全保障の確約を与え、経済制裁を終わらせることと引き換えに、核問題、および、イランによるヒズボラその他の反イスラエル的団体の支援に関する米国の懸念にイランが応えることが提案されていた。

最高指導者ハメネイ氏とイラン国家最高安全保障会議の承認を得ていたといわれるこの提案に先立ち、イラン政府は、公的の外交ルートおよび非公式ルートを通じて、イランが直接協議に関心を持っているというシグナルを静かに送り続けていた、と語るのは、当時イランにおいて諜報活動を行なっていたポール・ピラー氏だ。

イランは明らかに、交渉への機は熟したと考えているようである。なぜなら、米国のイラク侵攻に伴ってイラクは混乱の中に飲み込まれ、また、イランが支援する[イラクの]シーア派諸党派、イランの意見に近い立場をとる武装集団と協力する必要性を米国側が感じているからだ。

ブッシュ政権は、2002年末、イラン原子力計画の進展や、核兵器製造能力を得るためとされるイランの計画の進展に対して警戒感を表明し始めた。

「これは米国に接近するよい機会だ――イラン側は実際にそう期待したし、そう期待するだけの十分な理由があった」とピラー氏はいう。

ブッシュ政権は翌2003年、イランからのこの提案を無視し、最近では、核問題に関してイランと協議する可能性を公的には否定している。しかし、イランは、4月初め、ウランを3.6%レベルにまで濃縮することに成功したと発表する。これは、核兵器級ウランの保有に向けた第一歩であり、交渉による問題解決がさらに急務の課題となった。

この発表ののち、米上院外交関係委員会のリチャード・ルーガー委員長と、民主党側の筆頭理事ジョセフ・バイデン委員が、ともに米・イランの直接対話を呼びかけた。

イランの国家安全保障筋の思考法に詳しい識者の意見によれば、イランが初歩的な濃縮に踏み切ったのは、核問題を越えて米国と広く協議を行なえる立場に立つためだという。

「ウラン濃縮によってイランは交渉上の大きなカードを手にした」と語るのは、この数年間にわたりオフレコでイランのトップ指導層に対するインタビューを行なってきたイランのジャーナリスト、ナジメフ・ボゾルグメフル氏だ。「彼らは、米国との交渉においてテコとなるであろうものをベースに事実を積み上げている」と彼は言う。

現在はワシントンのブルッキングズ研究所で研究員を務めるボゾルグメフル氏はまた、イランは、ウラン濃縮問題における譲歩と引き換えに、対イラン経済制裁の解除、安全の保証、確実な核燃料供給を狙っているのだと語る。

ジャーナリストのプラフル・ビドワイは、イラン政府関係者・その他の専門家によれば、核問題・安全の保証の問題に関する譲歩的提案と、米国との関係正常化に関しては交渉の対象になりうるとの「かなり広い合意」が存在する、と先日IPSにおいて報じていた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

※ガレス・ポーターは、歴史学者で安全保障政策のアナリスト。最新の著書『Perils of Dominance: Imbalance of Power and the Road to War in Vietnam(優勢の危険:力の不均衡とベトナム戦争への道)』が2005年6月に刊行されている。

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|ソロモン諸島|支配への恐怖が引き起こした反台湾暴動

【シドニーIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

4月18日、ソロモン諸島の首都ホニアラで、中国系商店に対する焼き討ち・略奪が起こった。約1000人の怒れる人々が国会議事堂前からデモを行い、約90%の中国系商店が被害にあった[この場合の「中国系」には、中国・台湾の区別はない:IPSJ]。

 暴動が起こったのは、新首相スナイダー・リニ氏の選出過程において、台湾系企業が資金面で支援したのではないかとの疑いが強まっていることが原因だ。ソロモン諸島においては、首相は公選ではなく、国会議員が選ぶ。

労働党のジョゼズ・ツハヌク党首は、選出が始まる以前から、アラン・カマケザ選挙管理内閣が台湾系企業と共謀していると訴えてきた。リニ新首相の所属政党「独立国会議員連合」のトミー・チャン代表は、裕福な中国系経営者であり、ホニアラ・ホテルを所有している。リニ氏自身は、カマケザ内閣の財務大臣として、中国系企業の税金免除策を次々と実行してきた。

ソロモン諸島は、中華人民共和国との外交関係がない。他方で近年、台湾政府がソロモン諸島に対する巨大なドナーに成長し、地域開発・教育・都市基盤整備などの支援を行なってきた。

しかし台湾は、政治家に影響を与えるためにさまざまな利益供与を行なっているのではないか、と非難されている。在ソロモンのアントニオ・チャン台湾大使は、こうした疑惑を否定している。

人口約5万人の首都ホニアラには、中国系住民が現在約2,000人いる。そのほとんどが、大英帝国の植民地だった時代に強制移住させられた人々の第3・第4世代だ。

今回の暴動に対する国際的な反応はどうか。まずオーストラリアは、110名の兵士と70名の警察官を派遣することを発表した。オーストラリアは、2003年以降、治安維持を名目としてソロモン諸島に約2,000名の兵士を送り同国を実効支配している。

他方中国は、暴動への「深い憂慮」を表明し、中国系住民・企業を保護するようソロモン諸島政府に要請した。

ソロモン諸島で起こった反台湾暴動とその背景について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|カリブ海諸島|注目が高まる携帯電話市場

【ポート・オブ・スペインIPS=ピーター・リチャード】

カディーム・サイモン(17)は(通信会社のカラフルな広告が載った)新聞を片手に、携帯電話の最新機種の購入に際しTSTT (Telecommunications Services of Trinidad and Tobago)社あるいはDigicel社にするか迷っている。携帯電話を買い求める人々の長い列の中で、サイモンは「店員に対応してもらうまで少なくとも1時間は覚悟しているけど気にしないよ」と述べた。

カリブ海諸島の国々では近年、携帯電話市場が活況を呈している。その背景には地方行政によるネットワーク産業の自由化や英国企業の独占を排斥しようという動きがある。通信業界の自由化へ移行しつつある英領バージン諸島では、新規参入を妨害する動きを規制するための法律を導入。Communications and Works Ministerのアルビン・クリストファー氏は「通信業界の自由化は戦略的な措置を伴う複雑なプロセスである。我々は独立機関の設立とその効率的な活動により、公正かつ有効な競争を確保できるようにしたい」と語った。

 カリブ最南端の国、トリニダード・トバゴは裕福な国であるにも関わらず、デジタルアクセス指数(Digital Access Index: DAI:電気通信およびインターネットの整備度・利用度を数値化したもの)は低い。通信局主任カリド・ハッサナリ氏は「トリニダード・トバゴは今後、全ての国民が通信サービスを利用できるようにしていくつもりである」と述べた。

セントルシアのケニー・アンソニー首相は「IT部門は失業問題の緩和に大きな効果をもたらすと見ている。従って我が国の行政も通信業界の自由化により、国民の生活向上に向けて電子サービスの導入を進めている」と語った。

近年、カリブ海諸島の国々で急速な成長を遂げる通信業界について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|国際労働デー|メキシコが「移民のいない日」を支援

【メキシコシティーIPS=ディエゴ・セバジョス】

メキシコのビデオレンタル店では「A Day Without Mexican(メキシコ人のいない日)」という映画の人気が高い。この映画は5月1日の国際労働デーに米国の移民団体を全国規模のデモとボイコットに駆り立てている作品だ。IPSが問い合わせたすべてのビデオ店で、メキシコ人がいなくなったカリフォルニアの混乱を描いたこの映画のビデオは全部貸し出されていた。

メキシコの労働組合、活動家、議員は、不法滞在者の特赦を求めるとともに下院を通過した厳格な改正移民法に抗議して米国の移民が行なう予定のデモを支援している。移民の権利を擁護する団体は移民の経済的な力を示すために、米国の移民に仕事や学校をボイコットし、商品を売り買いしないよう、さらにメキシコでは米国製商品をボイコットするよう呼びかけている。

 「米国にとって移民の存在を意識する歴史的な日になる」とメキシコ中南米協会のRaul Murillo氏はIPSの取材に応じて語った。メキシコの労働組合も5月1日に大規模なデモを予定し、米国の移民との連帯を示すとともに、メキシコ政府による労働組合の内部問題介入に抗議する。メキシコ政府は関与を否定しているが、政府の役人は5月1日に向けた準備を把握し、米国の議員や役人と対話を持って包括的な移民法の改革を要求していた。

米国のおよそ1,200万人といわれる不法滞在移民の大半はメキシコ人である。また米国の4,000万人の中南米系の多くもメキシコ人である。メキシコ人のセルジオ・アラウ監督の作品である「メキシコ人のいない日」はコメディで、カリフォルニア州の労働力の3分の1を担い住民の4分の1を占める移民が、ある日突然消えて混乱する様子を描き、最後は米国の国境係官がメキシコ移民を拘留や退去でなく歓待する場面で終わる。

3月にも移民の大規模なデモを受けて、米上院議員の中には40万人の移民労働者を毎年受け入れ既に米国に住んでいる1,000万の不法移民に市民権を与えるという妥協案を作成したものもいたが、支持を得られなかった。ブッシュ政権は「人道的」移民改革を支援するといいながら、5月1日に抗議する移民を取り締まろうとしている。5月1日の大会に移民の力が示される。国際労働デーにデモを計画している米国の移民について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

|エジプト|シナイ半島の爆破事件は増えるだろう

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【カイロIPS=アダム・モロウ】

紅海に面したリゾート地ダハブで、4月24日、スーパー/カフェテリアを標的とした3件の同時爆破事件が起き、外国人観光客5人を含む18人が死亡、85人が負傷した。警察は、多数の容疑者を拘束したが、犯人の特定はできていない。

2004年10月には、シナイ半島のタバおよびヌエバアでも同様の事件が起き、少なくとも30人が死亡。2005年7月には、シナイ半島南部のリゾートSham el-Sheikhでも爆破により80人強が死亡している。(事件後、当局は、取調べのためベドウィン系住民を中心とする大量検挙を行った。タバ事件だけで、約3千人が拘束され、厳しい取調べを受けたという。)

 シナイ半島の爆破事件はそれだけではない。昨年8月には、地雷により多数の警察官が死亡した他、エジプト/イスラエル国境地域監視に当たる平和維持部隊のカナダ兵士2人が、路肩爆弾で負傷している。また、ダハブ事件の2日後には、2人の自爆テロリストが、シナイ半島に駐留する国際平和維持部隊基地を攻撃している。(爆発が小規模であったため、被害は犯人2人の死亡に止まった。)

内務省担当官は、4月26日の事件は、攻撃の規模/方法から見てテロ組織分派の仕業ではないと見ている。

アル・アハラム政治戦略研究所のザイド次長は、「これら一連の爆破は、国家権力掌握を目的とした1980年代のイスラミア、イスラム聖戦などの武装イスラム組織と異なり、警察権力に対する復讐といったそれぞれの理由に基づいて組織された新たな地方テロ・ネットワークの仕業」と見ている。同氏は、「現在は1-2の組織に止まっているが、爆破事件による国内の混乱に乗じて、今後その数は増加するのではないか」と懸念している。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

途上国で盛んな「臓器移植ツアー」

【カリフォルニア州オークランドIPS=ビル・ベルコウィッツ】

人身売買業者による身体部分の不法取引は、映画やテレビやSF小説に出てきそうな話だが、実際に相当な頻度で起きている。カリフォルニア大学バークレー校で医療人類学を専門とするナンシー・スケイパー-ヒューズ教授は、1980年代半ばにブラジルのスラム街で広まった不法臓器取引の噂が発端となって作られたOrgans Watchの共同創設者兼代表であり、この問題を知り尽くしている。

NACLA(北米ラテンアメリカ会議)米州レポートの最新号である2006年3・4月号に掲載された「生物的海賊行為と人間の臓器の地球規模の探索」と題された評論で、スケイパー-ヒューズ教授は不法臓器取引について述べている。

 外国の大病院に勤務している米国人あるいは日本人の医療関係者が死体を盗み、臓器を取り出して遺骸を「田舎の道端や病院の大型ごみ収納器に」捨てているといった話を調査するために、同教授は1997年から数年にわたって12カ国を回り、不法取引の現場を50カ所以上訪ねた。各国で法規制は進められているが、臓器移植を望む患者数は多く、取締りは難しい。

同教授にとって衝撃的なのは身体部分の取引という嫌悪感を催す商売が実利的見地から認証された医療事実になりつつあることだ。2003年世界保健機構(WHO)会議の組織・臓器移植における倫理、手段、安全に関する委員会のメンバーだった教授は、臓器取引の商業化を是認する主張を耳にした。同時に民間組織による角膜やアキレス腱の不法取引も目にした。こうした取引では身体の一部を奪われた人間以外は皆が得をしている。

合法的な臓器提供者が少ない中で、臓器移植を待つ人の数は増大している。教授はIPSの取材に応じて「Organs Watchでの活動に積極的に取り組み続ける」と語り、現在WHOとともに中国、パキスタンの不法移植ツアー「多発区域」について調査し、さらに南アフリカとブラジルの保健省と連邦警察とともに「不法移植手術執刀医」の逮捕と裁判に協力している。不法臓器取引の実態について報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan 浅霧勝浩

|ブラジル|政府と対立する先住民会議

【リオデジャネイロIPS=マリオ・オサバ】

4月12日から1週間、「ブラジル先住民全国会議」が開催された。主催したのは、政府機関の「先住民全国財団」(FUNAI)である。220を超える民族集団から約800名の代表が集った。

しかし、この会議に対して、その直前に開かれた「先住民の4月キャンプ」の参加者たちが、政府は先住民の「保護者」として振舞おうとしていると非難する声明が出されたのである。FUNAI主催の会議に対する主な批判は、同会議が、ルーラ大統領の就任した2003年ではなく今になってようやく開かれたという点だ。政府側はその熱意が疑われたのである。

しかし、会議は何の成果ももたらさなかったわけではない。先住民の問題を討論する「全国先住民政策委員会」の設置、および、先住民の代表から構成される一種の「議会」のようなものを創設する合意もなされた。

ただし、先住民の土地における採鉱を規制する法律案の支持については見送られた。地元の人々の意見をもう少しよく聞いてみることが必要だと判断されたためだ。

この採鉱規制は、ダイヤモンド採掘に従事していた29名の先住民が2年前に殺害されたことから、議論されるようになった。鉱業会社は先住民の土地に大きな関心を持っており、現在政府は、約38,000件もの採鉱申請を審査している最中だという。

また、今回の会議は、先住民の「代表」を集めるという点でも新しい経験となった。なぜなら、彼ら先住民の伝統は、人々の中から「代表」を選んで決定を委ねるという方法と相容れないからだ。

ブラジル先住民の会議をめぐる議論について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

圧制的な豪州から南太平洋諸国を救う中国

【シドニーIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

太平洋島嶼国(PIC – フィジー、パプアニューギニア(PNG)、クック諸島、ミクロネシア連邦、ニウエ、サモア、バヌアツ)と中国の首脳会議が4月5日から2日間フィジーで開かれ、温家宝首相が中国首相として初めて南太平洋を訪れた。

フィジーでは、中国企業の対南太平洋投資を支援するための特別基金を含む30億元(3億7,400万米ドル)の包括的開発援助が締結された。

とりわけPNG、フィジー、バヌアツをはじめPICにとって、中国への関心は、新植民地的姿勢を強めているオーストラリアへの依存から脱却する手立てとなるものである。最大の援助国であるオーストラリアは近年ODAの大部分を「ガバナンスの強化と腐敗削減」に特定し、戦略的省庁や法執行機関への官僚・警官・財務顧問の派遣を進めており、こうした圧制的な戦術にPICの間からは、主権を損なおうとするものとし、批判が高まっている。

開会式で挨拶に立った温家宝首相は、中国の太平洋地域への関与は「外交的な便宜主義」ではなく、「戦略的決定」であると述べた。フィジーのライセニア・ガラセ首相は、首脳会議は太平洋地域における外交と政治的連携の形態の移行を反映したものであり、援助への依存を改め、自助努力のもと自立を目指したいとの意向を表明した。会議後の記者会見で首相は、「島嶼小国にとって柔軟な参入が可能であり、輸出ニーズが満たされうる新規市場を見出す道を開くもの」と今回の会議を評価した。

中国とPICの貿易関係の促進を目指す「経済協力・開発基本枠組(Economic Cooperation and Development Guiding Framework)」の策定を提案する合意がなされた。この5年間に中国とPIC間の貿易は3倍に増大した。昨年最初の8カ月の中国の対PIC輸出は3億5,700万ドル、輸入は3億1,100万ドルにのぼっている。
「規模ははるかに大きいものの同様の開発課題を抱える途上国である中国とお互いに学ぶことは大きい」とPNGのマイケル・ソマレ首相が語る中国とPICのサミットについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|ネパール|見えないところでの闘い

【カトマンズIPS=マーティ・ローガン】
 
ギャネンドラ国王による王政打倒を目指す民衆たちは、街頭で警官隊と衝突している。これまでに数千名という人々が逮捕された。しかし、人々の目に触れにくいところでも闘いは続けられている。

ひとつの焦点はメディアだ。カンティプール出版が保有する『カトマンズ・ポスト』紙が国王に批判的な記事を掲載する一方、国有の『ライジング・ネパール』紙オンライン版のトップ記事は、ギャネンドラ国王が、シリア国民の祝日にあわせて、同国のアサド大統領にメッセージを送ったというものであった。

 また、「カンティプールTV」では、デモ隊に乱暴狼藉を働く警官の映像を繰り返し流している。他方で、国有の「ネパールTV」は、街角を警備する警察・軍の様子や、反体制派に批判的な人々の声を放送している。

4月9日、ラナ情報相は、ジャーナリストたちに対し、「報道機関は今、ネパールには自由がないと叫んでいる。しかし私は生命を守ることがもっと重要だと思う」と告げた。そして13日、ラナ情報相は、主要なケーブルテレビ局に対して、カンティプールTVの番組を放送しないよう要請したのである。しかし、これに応じたのはわずか1局のみで、しかも数時間だけであった。

また、警官隊との衝突で怪我をした人々に対する救急医療体制も問題となっている。現在、怪我をした人々の治療のための資金として、すでに1000万ルピー(13万8,000ドル)が集まっているという。オム病院では、抗議活動で怪我をした人は無料で治療を受けられる。

他方で政府は、救急医療を行なっていた2人の外国人医師を、労働ビザの不所持を理由に国外追放処分にするという挙に出ている。

ネパール民主化闘争のさまざまな側面について伝える。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

鳥インフルエンザとビルマ軍事政権

【バンコクIPS=マルワン・マカン・マルカール】
 
国連担当官は4月10日、ASEAN諸国政府に対し、ビルマにおけるH5N1型インフルエンザ(鳥インフルエンザ)の急増について警告した。MandalayおよびSagaingの2州を中心に、既に100件を超える発病が確認されたという。

それにも拘らず、ビルマの軍事独裁政権は、鳥インフルエンザ発生を国民に伝えておらず、養鶏業者もその緊急性を全く理解していないという。

ビルマ問題専門家は、4月17~18日バリで開催されるASEAN外相会議が、ビルマ政府に圧力をかける良い機会と見ている。海外のビルマ亡命者で構成されるNational Council of the Union of BurmaのSoe Aungスポークスマンは、「健康問題がASEANの議題に上ったことはないが、鳥インフルエンザは国際的問題であり、政治とは切り離せない」と語っている。

 
また、マレーシアの野党議員も、「鳥インフルエンザは、各国の外務大臣が早急に話し合うべき問題である。わが国の外務大臣(ハミド外相)のように、ビルマ軍事政権に弱腰で、馬鹿にされるようなことがあってはならない」と述べている。(ハミド外相は先月、ビルマ民主化視察のため同国を訪れたが、軍事政権が、スーチー氏との面会を拒否したため、訪問を切り上げ帰国している。)

これとは別に、米ジョンホプキンス大学ブルーンバーグ公衆衛生学校は3月、「ビルマ政府の公共衛生に対する無関心と人道支援拒否の態度が、エイズや薬剤耐性結核、マラリア、鳥インフルエンザの蔓延防止策を困難にしている」との警告メッセージと共に、ビルマ政府を厳しく非難する報告書を発表した。同報告書によれば、ビルマのエイズ感染者は17~62万人であるのに対し、NIV感染予防・治療予算は、世界最低の2万2千米ドル以下、また血液検査を行う施設すら無いに等しい状態という。(原文へ

翻訳/サマリーIPS Japan

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