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対中国戦略: 環大西洋と欧州の不協和音

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

2023年4月半ばに日本で開催されたG7外相会合は、足並みを揃えた対中国政策の必要性を強調することを目指した。しかし、外交宣言は内部矛盾を取り繕うことしかできず、それらを取り除くことはできない。ロシアのウクライナ侵攻以来、中国への対処が環大西洋および欧州諸国の政策の焦点となっている。目的は、ロシアとの経験から教訓を学び、依存を避けること、あるいは少なくとも減らすことである。

コンセンサスは以上である。環大西洋グループ内の相違は、指導的政治家の海外訪問を見ればすでに明白である。米国の高位政治家らは現時点で中国を訪れていないが、ドイツのオラフ・ショルツ首相に続き、特にスペインのペドロ・サンチェス首相、最近ではフランスのエマニュエル・マクロン大統領が欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長とともに訪中している。現時点で米国とEUの協調政策も、一貫したEUの戦略も存在しない。それどころか、環大西洋諸国とアジアの同盟国の中国に対する姿勢は、おおむね非協調的で、一貫性がなく、矛盾し、不協和音的である。(

米国では、超党派の安全保障政策の主な焦点は、台湾の独立と、それを踏まえた中国からのデカップリングの試みにある。経済的結び付きを縮小し、重要な技術を北京に渡さないようにするべきである。米国の目標は、中国に軍事的に対抗し、中国が不可避の台頭を遂げて世界ナンバーワンの大国になるのを阻止する、あるいは少なくとも遅らせることであり、それを大々的な封じ込めによって実現することである。欧州および北米諸国は、「中華民族の使命感によって形成された世界観」を退けることで合意している。少なくともそれが、フォン・デア・ライエンが北京訪問の前に行った基調講演で示した姿勢である。グローバルサウスの多くの国々が西洋に支配された国際秩序の改革を望んで中国を支持しているという事実はしばしば無視される。欧州委員会委員長は、協調と競争を可能にする「制度とシステムを強化する必要がある」と述べた。

この基調講演で彼女は、EUの立場を次のように要約した。「中国との関係は極めて重要であり、健全な関わり合いの条件を明確に定めることなくこの関係を危うくすることはできない」。従って、「封じ込め」も「デカップリング」もない。EUは何年か前、政策分野に応じた三つの位置付けを定めた。中国は、パートナーであり、競争相手であり、ライバルである。しかし、近頃そのパートナーシップは疑わしくなっている。いわば、ゴルディアスの結び目を断ち切ろうとするようなものだ。

マクロンは、台湾やEU・米国関係に関する発言で同盟国を驚かせ、ぞっとさせた。北京から帰国する機内で欧州のニュースサイト「ポリティコ」のインタビューに応じ、欧州は「大きなリスク」に直面しており、それは「危機に発展しているが、それはわれわれには関係ない」と、フランスの大統領は述べた。彼は、台湾独立をめぐる米国と中国の対立に巻き込まれないようにするため、EUの米国への依存を低減したいと考えている。2017年に行った有名なソルボンヌ演説ですでに説明し、「ポリティコ」のインタビューでも繰り返したように、マクロンの最終目標は、「第3のスーパーパワー」としての地位を確立するための欧州の「戦略的自律」である。今日の状況に言及しつつ、彼は、「二つの大国間の緊張が激化すれば……われわれの戦略的自律のために財源を工面する時間も資源もなくなり、われわれは追随者になってしまう」と説明した。

マクロンの分析は、その核心において正確である。EUは、アジアで安全保障上の重要な役割を果たすための軍事的手段を持たず、EU・米国関係において経済的利益が争点となっていることは明らかである。しかし、マクロンのやり方は往々にして、正しいことを不適切なタイミングで言い、しかも無神経な伝え方をするというものだ。中国がプーチンを説得してウクライナ戦争から手を引かせるのではなく、ロシアとの関係を強化しようとしている状況で、米国と距離を置くよう呼びかけるマクロンのドゴール主義的な発言はかなりずれている。ウクライナにおける戦争は、ウクライナへの最大の軍事支援国である米国に、欧州がいかに安全保障面で依存しているかを示している。また、多くの欧州国では、欧州と米国との間にくさびを打ち込もうとする試みはフランスの国家利益のためだと批判されている。

2019年にすでにマクロンは欧州軍の創設を提案し、NATOの状況を「脳死」と評して厳しく批判した。ソルボンヌ演説ではより慎重で、欧州が安全保障政策において「NATOを補完し、独立して行動できる」ようにすることを望んだ。マクロンが求める欧州の「戦略的自律」はまだ遠い先の話だとしても、仮にそれに取り組むというのであれば、ウクライナ戦争は何よりも一つのことを実現したともいえる。つまり、全ての欧州諸国でかつてないほどに急激に軍事費が増加したのである。

しかし、中国に対するEUの関係は、米中間のような世界規模の安全保障上の紛争ではなく、経済関係や経済依存の問題である。欧州諸国と中国の間の極めて重要な経済的結び付きは、2022年11月初めのドイツ首相と同様、マクロンが大勢の財界トップらを引き連れて北京を訪問したことに表れている。このことは、欧州と米国では問題の優先順位が異なることも示している。より単刀直入にいえば、金の力が物を言うということだ。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、EUの対中国戦略においてリスク削減に注力することを望んでいる。「われわれは、デカップリングではなくデリスク(リスク低減)に焦点を当てる必要がある」。彼女はその基調講演で、「デリスク」という造語を9回口にした。訪中後、彼女は欧州議会でその言葉を数回にわたって繰り返した。中国との経済関係の見直しは、唐突に出てきたわけではない。ウクライナ戦争が勃発する前でさえ、欧州の人々は中国との関係にかかわる二つの出来事に警戒心を抱いていた。第1に、EU加盟国であるリトアニアが2021年、台湾に対して国内に代表機関を開設することを許可して以来、中国政府は苛立ちを見せ、リトアニアとの通商関係を制限している。リトアニアに対する中国の制裁は、EUの域内市場に影響を及ぼしている。第2に、EU議会が2021年3月に中国人4名について、ムスリムのウイグル族弾圧に加担したことを理由にEU入域を禁止する決定を下した際、北京は報復措置として欧州議会議員数名の中国入国を禁止した。

EUは現在、「デリスキング」の考え方を追求している。フォン・デア・ライエンは、これが意味するところを具体的な言葉で説明している。「われわれは、極めて憂慮すべき問題を提起することに決して及び腰ではない……しかし、より野心的なパートナーシップについて、また競争をより公正でより規律あるものにするために何ができるかについて議論する余地を残すべきだと私は考える」。

しかし、EU内には対中国戦略に関するいかなる合意もない。ドイツ政府の中でさえ、意見の相違がある。2022年11月の北京訪問後、ショルツ連邦首相は、ロシアが核兵器使用の可能性に繰り返し言及していることを中国の習近平主席が批判したと誇らしげに発表した。「それだけでも、今回の訪中自体が意義あるものとなった」と、帰国後にショルツは述べた。マクロンの少し後に北京を訪れたドイツのアナレーナ・ベアボック外相は、それより対立的な姿勢を選んだ。中国政府との会談の後、彼女は「時に極めて衝撃的なこともあった」と述べた。彼女は今や、これまで以上に中国を体制的ライバルと認識しており、「パートナー、競争相手、体制的ライバル」という欧州の三つの位置付けを訪中前よりも強調している。

「ポリティコ」によれば、彼女はこのような判断に基づいて、他の多くの欧州政治家と同様、「ワシントンで発生している強硬路線のコンセンサス」に近づいている。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。

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【東京INPS=砂田智映】

核兵器使用の可能性が、戦後最も高まっているとも言われるなか、本年5月、先進7カ国首脳会議(G7サミット) が広島で開催された。歴史上初めて核兵器が使用された広島の地でG7サミットが開催されG7に初めて核軍縮ワーキンググループ(WG)が設けられるなど、市民社会の間でも核軍縮に対し何らかの前進があるのではないかという期待が高まった。

A Glimps of the Conference: “Advancing Security and Sustainability at the G7 Hiroshima Summit” Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS

私共もトロント大学G7研究センターを中心とするG7研究グループとともに、G7政策提言国際会議を開催し、政策提言として、「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」とのG20バリ首脳宣言を強固なものとすること、核兵器の先制不使用の原則について誓約すること、核兵器禁止条約と核兵器不拡散条約の相互補完性を認識し、両者の間に討議の場を設け、核関連の被害者支援、環境修復、および効果的な検証システムの構築に協力することなどをまとめ、日本政府およびG7各国政府にも提出した。しかしながら、核軍縮に関するG7首脳広島ビジョンや首脳宣言に反映されなかったことについては、他の市民社会グループと同様に残念に思っている。

Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.

一方で、G7の主要な議題として核軍縮がとりあげられたこと、G7のリーダーが広島平和記念資料館で被爆の実相にふれ、そしてなにより被爆者から直接、話を聞いたことは象徴的な意味があったと思う。各国の評論家は、各国首脳が広島平和記念資料館を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花することが国内世論に与える潜在的な影響を指摘している。

G7各国をはじめ世界各地から若者が集った「広島G7ユースサミット」(東広島市の広島大学キャンパスで). SGI
G7各国をはじめ世界各地から若者が集った「広島G7ユースサミット」(東広島市の広島大学キャンパスで)Credit: SGI

また核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が主催した広島G7ユースサミットは、私どもも共催として参加した。G7各国や核実験被害国をはじめ世界各地から集った青年達が、核廃絶のために何ができるのかを真剣に議論する様子に、私は励まされるような思いがした。結局のところ、G7広島サミットの永続的な意義は、核軍縮の可能性について、特に日本だけでなく全世界の若者の間で認識を新たにしたことにあるのではないだろうか。

今年に入り2月、ロシアは新戦略兵器削減条約(新START)への参加停止を発表し、米国は戦略核兵器に関するデータ提供を停止した。この最後の二国間核軍備管理条約が効力を失う可能性が出てきたことで、新たな核軍拡競争への懸念が高まっている。

Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun

池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長はG7広島サミットへの提言「危機を打開する“希望への処方箋”を」の中で、核保有国に対し、核兵器を先制使用しないことを誓約するよう呼びかけた。そして最後に提言では「核兵器の先制不使用」について合意できれば、各国が安全保障を巡る“厳しい現実”から同時に脱するための土台にすることができる、また、先制不使用の誓約が「核兵器のない世界」を実現するための両輪ともいうべき核兵器不拡散条約(NPT)と核兵器禁止条約(TPNW)をつなぎ、力強く回転させる“車軸”となりうるものだからです」と述べた。

Chie Sunada. SGI
Chie Sunada. SGI

7月末には第11回NPT再検討会議第1回準備委員会、11月末にはTPNWの第2回締約国会議が予定されている。先制不使用の誓約およびTPNWへの署名、批准が進むよう私どもとしても尽力していきたいと考えている。INPSとのメディアプロジェクトによる意識啓発を追い風とし、多くの市民社会とも力を合わせ、「核兵器のない世界」「戦争のない世界」への道を開いて参りたい。(原文へ

この文はIDN/INPSが2009年来、創価学会インタナショナルと進めているメディアプロジェクトの2023年報告書「核なき世界に向けて」に寄せた寄稿文である。

INPS Japan

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国連が歴史的な海洋条約を採択

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連が長年に及ぶ協議の末、世界の公海のうち3分の2以上を占める海洋で生物多様性の保全と維持をめざす世界海洋条約に合意した。

6月19日の採択を受けて、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「海洋は私たちの地球の生命線であり、今日皆様は、新たな命と希望を注ぎ込むことで、海洋に闘いの可能性を与えたのです。」と語った。

多国間主義の強さを示したものとして今回の条約を取り上げたグテーレス事務総長は、「私たちの地球に対する国境を越える脅威に対抗すべく行動することで、グローバルな脅威にはグローバルな行動を取ること、そして各国が公共の利益のために一致団結できることを、明確に示すことになります。」と語った。

Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten
Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten

国連のパリサ・コホナ元条約局長はIDNの取材に対して「2015年2月の寒く雪深い早朝3時に最終報告をまとめた『国家管轄権を超える生物多様性に関する国連臨時作業部会』の元共同議長として、国連海洋条約が正式採択されたことは喜びに堪えない」と語った。

「脅威にさらされているこの地球にあって生命を維持する上で海洋はきわめて中心的な役割を果たしている。」とコホナ氏は語った。生命は海洋から始まるのである。

 「今こそ、生命を維持するために海洋を保護することが必要だ。国内プロセスを早急に済ませ、署名開放された条約を早期に署名・批准するよう求める。」

 「2030年までに『持続可能な開発目標』の達成を目指すうえで、この条約は国連にとっての大きな成果となろう。海洋条約は、しばしば『海の憲法』に例えられる国連海洋法条約の下で発展してきた枠組みに新たに重要な柱を付け加えるものとなる。」と、コホナ氏は指摘した。

 国連のファルハン・ハク副報道官は6月19日、「2023年SDGサミット」開催の翌日にあたる9月20日から2年間、条約が国連本部において署名開放されると記者団に語った。この条約は60カ国の批准で発効する。

 グリーンピース「海洋を守れキャンペーン」のクリス・ソーン氏は、「条約はこの地球のすべての生命にとっての勝利を意味する。」と語った。今や、この条約に合意した各国政府は、公海上の広範な海洋保護区を設置しなければならない。

 「科学的に明らかなように、海洋に回復と繁栄のチャンスを与えるためには、2030年までに少なくとも海洋の3割が保護されなければならない。」

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

 「2030年が近づいており、我々の仕事はきわめて大きい。公海のわずか1%しか現状では保護されていない。世界中の多くの人々が変化を求めているからこそ、この歴史的な合意がなされたのだ。しかし、依然として先の道のりは長い。」

 「我々はいわゆる『30×30』の達成に全力を尽くす。この条約が2025年には批准され人間の破壊的な活動が及ばない海洋の聖域が海の30%を覆う状態が2030年までには現実のものとなるよう、昼夜を問わず努力していく。」

 他方、国連海洋法条約の遺産を基礎とするこの画期的な合意は、海洋の3分の2以上における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用のための法的枠組みを大幅に強化するものである。

 国連は、この条約は、海洋とその資源の持続可能な開発を促進し、海洋が直面する多面的な問題に対処するために、国家間およびその他の利害関係者間の分野横断的協力に不可欠な枠組みを提供すると述べた。

 効果的かつ時宜を得た合意の履行によって、2030年の「持続可能な開発アジェンダ」や「昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組」に盛り込まれた海洋関係の目標達成に大きな貢献がなされることになろう。

 国連によれば、この協定は4つの重要な問題に取り組んでいる。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

 まず、海洋遺伝資源に関する活動から生じる利益の公正かつ衡平な配分と、国家管轄権を超えた地域の海洋遺伝資源に関するデジタル配列情報の枠組みを設定し、そのような活動が全人類に利益をもたらすことを保証する。

 また、公海や国際海底域における重要な生息地や種を保全し、持続的に管理するために、海洋保護区を含む区域ベースの管理手段を確立することを可能にする。このような措置は、昆明・モントリオール生物多様性世界枠組みで合意された、2030年までに世界の陸域・内陸水域および海洋・沿岸域の少なくとも30%を効果的に保全・管理するという世界目標「30×30」を達成するために不可欠である。

 この枠組みは、国の管轄権を超えた地域での活動が環境に与える影響を評価し、意思決定において考慮することを保証するものである。

 また、これによってはじめて、各国の管轄権を超える領域において、気候変動や海洋の酸性化、それに関連した影響がどのような累積的な効果を持つのかを評価する国際的な法的枠組みが与えられることになる。

 合意の目標達成にあたって、条約の締約国、とくに途上国を支援する能力構築及び海洋技術移転の協力が促進され、各国の管轄権を超えた領域で海洋生物多様性を責任もって利用し利益を得るうえで、各国の平等化が図られることになろう。

 さらに、今回の合意によって、国連海洋法条約やその他の関連条約、それに関連する国際法の枠組み、資金提供や紛争解決などをめぐる世界・地域・地域以下・部門レベルでの機構との関係の整理など、領域横断的な問題に対処することができるようになる。

 また、締約国会議や科学技術関連機構、締約国会議の付属機関、情報センター、事務局など、組織の充実も図られる。

 グテーレス事務総長は、「海洋の直面する脅威への対処において、また、『2030アジェンダ』や『昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組』を含めた海洋関連の目標達成に向けて、今回の合意はきわめて重要だ。」と指摘したうえで、すべての国連加盟国に対し、この条約の早期発効を目指して遅滞なく行動し、できるだけ早く署名・批准するよう呼びかけた。

 また、この実現に向けて諸国への支援を惜しまない旨を表明した。(原文へ

INPS Japan

“Hopeful”: Historic U.N. High Seas Treaty Will Protect 30% of World’s Oceans from Biodiversity Loss./ Democracy Now.

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ベラルーシの戦術核兵器は「憂慮すべき事態」

【国連IDN=タリフ・ディーン】

ベラルーシへの戦術核兵器の第一弾の搬入を先月済ませたとロシアのウラジーミル・プーチン大統領が主張したことで、その意味合いと結末についてさまざまな憶測が拡がっている。しかし、この主張はどれだけ信憑性のあるものだろうか。それともプーチン大統領がまたぞろ核の恫喝に訴えたものだろうか。

Map of Belarus/ Wikimedia Commons
Map of Belarus/ Wikimedia Commons

ソ連が崩壊した1991年以降、ベラルーシには81発の単弾頭核ミサイルが配備されていた時期があった。92年5月、ベラルーシは核拡散防止条約(NPT)に加盟し、96年までにすべての核兵器をロシアに引き渡した。

「核政策法律家委員会」の会長で、国際反核法律家協会(IALANA)国連事務所長でもあるアリアナ・N・スミス氏は、IDNの取材に対して、「ロシアがベラルーシに戦術核兵器を配備したことは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が進行している中で、憂慮すべき事態だ。」と語った。

スミス氏は、「核共有協定は、通常、核兵器国の兵器を非核兵器国に配備し、戦時において非核兵器国がこれらの兵器を運搬・使用する手順を含むものであり、核不拡散条約(NPT)とは相容れない。今回のロシア・ベラルーシ間の取決めは、核のリスクを伴いつつすでに暴力的かつ違法な戦争をさらにエスカレートさせるもので、世界を危機に陥れかねない。」と指摘した。

ロシアもベラルーシも、それぞれ核兵器国、非核兵器国としてNPTに加盟しており、その条項に拘束されている。

条約第1条は、NPT上の核兵器国に対して「核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者に対しても直接又は間接に移譲しないこと。」さらに、「核兵器その他の核爆発装置の製造若しくはその他の方法による取得又は核兵器その他の核爆発装置の管理の取得につきいかなる非核兵器国に対しても何ら援助、奨励又は勧誘を行わないこと。」を義務づけている。

第2条は同じような義務を非核兵器国にも課し、核兵器の移転や支援を受けることを禁止している。

スミス氏は、「したがって、ロシアがベラルーシに核兵器を配備しベラルーシがそれを容認していることは国際法違反だ。今回の配備はすでに弱体化している世界の軍備管理に対する受け入れがたい脅威であり、紛争で核兵器が使用される可能性を高めるものだ。」と指摘したうえで、「ロシアと米国・北大西洋条約機構(NATO)は、いずれも自らの立場を正当化するために『抑止』に訴え、大量破壊兵器の使用をそれによって予防しうるという誤った主張をしている。」と語った。

例えば、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ベラルーシ領内にあるロシアの戦術核兵器を「潜在的な侵略者に対する抑止力」として明確に言及し、この文脈でロシアが使ってきたのと同様の言葉を使った。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

アントニオ・グテーレス国連事務総長は2022年8月、「これまで私たちが非常に幸運だっただけのことだ。しかし、運は戦略でもなければ、地政学的緊張が核紛争に波及することへの防護にもならない。」と指摘したうえで、「今日、人類はたったひとつの誤解、あるいはたったひとつの誤算で、核による滅亡に直面する瀬戸際にいます。」と語った。

6月16日付の『ヒル』紙の記事によると、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、ベラルーシに戦術核を配備したとのロシアの主張をバイデン政権は子細に検討しているが、米国の核態勢を「それに合わせる理由はない」と述べた。

ブリンケン発言は、ロシアがベラルーシへの核兵器の第一弾移送を終え残りは夏までに完了するとしたプーチン大統領の声明を受けたものだ。

3月にウクライナと国境を接する国(=ベラルーシ)に核兵器を配備する計画を初めて発表したプーチン大統領は、この動きは「抑止力」としての意味合いがあると述べていた。

プーチン大統領は6月17日、サンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」で演説を行った後、移送は「封じ込め」のためであり、「私たちを戦略的に敗北させようとする人々に対して」のメッセージであると話したことをBBCが報じている。

Vladimir Putin. Photo: ЕРА
Vladimir Putin. Photo: ЕРА

プーチン大統領は核兵器の使用可能性について問われると、「なぜ世界全体を恫喝する必要があるだろうか。 ロシア国家の存立が脅かされた場合には極端な措置を取ることもありうると、これまでも明言してきた。」と語った。

戦術核兵器は、戦場での使用や限定的な攻撃を目的とした小型の核弾頭と運搬システムである。広範囲に放射性降下物を撒き散らすことなく、特定の地域の敵目標を破壊するように設計されている。

最小規模の戦術核兵器は1キロトン以下(トリニトロトルエン爆弾相当量)であり、最大は100トン程度である。BBCによれば、これと比較すると1945年の広島型原爆は15キロトンであるという。

「しかし、この合意は不安定なものだ。広島G7サミットでの首脳らの態度はバリ宣言よりも後退したものだった。」(記事「広島G7サミット、核兵器をめぐる規範で後退」)

核兵器の使用やその威嚇に反対する規範を強化し、承認された国際法にそれを転換していくことの重要性がここには現れている。「核先制不使用グローバル」は、「規範から法へ:公的良心の宣言」でこのことを展開している。この宣言は4月に発表され、5月の広島G7サミットにも提出された。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri

また、7月31日から8月11日までウィーンで開催される核不拡散条約(NPT)第11回再検討会議に向けた第1準備委員会、9月にインド開催されるG20会合、10月の国連総会にも提示される予定だ。「公的良心の宣言」はアーロン・トビッシュ氏が起草したもので、8月のNPT準備会合ではジョン・ハラム氏が発表することになっている。

アリアナ・スミス氏はさらに説明して、グラハム、ブルーメンタール両米上院議員が最近、ロシアによるウクライナでの核兵器使用はNATOへの攻撃とみなすべきであるとの決議案を提出したと述べた。ロシアが核兵器を使用するか、あるいはザポリージャ原発で事故を起こした場合には、それが米国との戦争につながることを警告し、ロシア軍の「完全壊滅」を示唆したものだ。

「抑止力という言葉とそれに伴う行動は、私たちの生存を脅かすチキンゲームに等しい。これらすべてが、意図的な核攻撃だけでなく、誤算や誤った解釈による核兵器使用のリスクを高めている。」とスミス氏は指摘した。

ロシアによる今回のベラルーシとの防衛取決めは、米国がNATO諸国と行っている核共有の前例を念頭に置いたものだ。

「米国がNATO諸国と行っている核共有はNPT発効以前のものだが、米・NATOの核共有、ロシア・ベラルーシの核共有のいずれもが、核拡散につながりかねず、可能な限り早急に廃止されるべきだ。」と、スミス氏は主張した。

他方で、欧州安全協力機構(OSCE)は、7月4日にバンクーバーで開いた会合で、核リスク低減と核軍縮に関する次のような文章を「バンクーバー宣言」に盛り込んだ。

「OSCE(欧州安全保障協力機構)議員会合は、ロシアによるウクライナへの戦争によって煽られている核脅威エスカレーションを直ちに終わらせるよう求め、全ての参加国に対し、時間的枠組み内での核廃絶を達成するための国際的な取り組みを倍増させるよう奨励した。これには、包括的な核兵器禁止条約または協定の交渉(8回目のNPT再検討会議の最終文書で推奨されているもの)や、2017年の核兵器禁止条約の署名と批准が含まれる。」

この会議には、PNNDのメンバーも含め、北米・欧州・中央アジアから200人以上の議員が参加した。(原文へ

INPS Japan

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ウクライナ戦争と核不拡散

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

2023年7月31日から8月11日までウィーンで開催される核兵器不拡散条約(NPT)2026年再検討会議準備委員会の第1回会合を前に、世界的な核兵器廃絶NGOネットワーク「アボリション2000」は、事故、誤算、危機の拡大、意図的な核戦争のリスクが高まっていると警告した。

Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri
Vienna International Center/ photo by Katsuhiro Asagiri

今度の会議は、2026年の再検討会議までに予定されている3つの会合のうちの最初の会合となる。準備委員会は、条約の全締約国に開かれており、条約と来るべき再検討会議に関連する実質的および手続き的な問題に対処する責任を負っている。第1回会合の議長指名は、フィンランドのヤルモ・ヴィーナネン大使である。

アボリション2000の作業文書は、ロシアによるウクライナ侵略戦争(プーチン大統領による核兵器使用の威嚇)の余波を受け、軍縮の必要性が急浮上している今、来るべき会合の重要性を指摘している。核弾頭を搭載可能なミサイルの公開実験や隣国(ベラルーシ)への戦術核前方配備は、ロシアが核兵器を使用する意思を高いレベルで示している、という。

「ウクライナ戦争はまた、ミサイル、ミサイル防衛、航空機、無人機、かつてないほど複雑化した地上や宇宙空間を拠点とする感知・通信技術、破壊的な電子戦やサイバー戦が混在し、戦争のペースと複雑さを人間の理解の限界にまで押し上げている21世紀の戦争の危険性を実証した。」と作業文書では述べられている。

Pictured is the launching of two AeroVironment Switchblades which is an expendable miniature loitering munition UAV that can be used for reconnaissance and engaging targets with a warhead the equivalent of a 40mm grenade./ By U.S. Army AMRDEC Public Affairs, Public Domain
Pictured is the launching of two AeroVironment Switchblades which is an expendable miniature loitering munition UAV that can be used for reconnaissance and engaging targets with a warhead the equivalent of a 40mm grenade./ By U.S. Army AMRDEC Public Affairs, Public Domain

アボリション2000は、「ウクライナ戦争がその一例である核保有国間の対立の激化が、広範な多極的軍拡競争を加速させている。」と指摘している。急速に発展する軍事技術は、戦略的に重要な非核能力を生み出し、核兵器の運搬や核兵器からの防衛のための新しいシステムや近代化されたシステムに組み込まれている。

このことは、より一般的なAI技術競争が激化する中で、人工知能を兵器システムに応用することの誘惑と危険性にもつながっている。

さらに、核保有国間の緊張が高まっているのは欧州地域だけではない。北東アジア、南シナ海、南アジア、中東でも緊張が高まっている。

この陰鬱な状況の中で、核軍縮は現在の危険で要求の多い状況に比べてあまりにも遠い存在であり、注目する価値がないように見えるかもしれない。しかし、核兵器を管理し、核兵器廃絶への道筋を描くことは、常に困難な時代に実施される漸進的な措置と、核兵器のない世界のための要素を構築する長期的な努力の組み合わせであった。核兵器と関連技術を制限するための条約は、冷戦のさなかに、核保有国が活発な敵対行為を行っている間にも交渉された。

米国とソ連は、最初の戦略兵器制限条約と弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)を、ベトナム戦争中に締結した。ベトナム戦争では、ソ連はベトナム民主共和国に武器と援助を提供し、その中には米軍機を撃墜した対空システム(ソ連の乗組員によるものもあった)も含まれていた。

核不拡散条約は、その表面上、核保有国に核兵器廃絶のための交渉を義務付ける唯一の軍備管理条約であり、核保有国である米国、英国、ソ連を含む43の最初の締約国で発効したのは1970年で、ベトナム戦争の最中のことだった。

President Jimmy Carter and Soviet General Secretary Leonid Brezhnev sign the Strategic Arms Limitation Talks (SALT II) treaty, June 18, 1979, in Vienna./ By Photo Credit: Bill Fitz-Patrick - Original Uploaded by Thames to EN, Public Domain
President Jimmy Carter and Soviet General Secretary Leonid Brezhnev sign the Strategic Arms Limitation Talks (SALT II) treaty, June 18, 1979, in Vienna./ By Photo Credit: Bill Fitz-Patrick – Original Uploaded by Thames to EN, Public Domain

軍備管理の努力は冷戦期を通じて続けられ、追加の条約が締結され、各国政府と市民社会の一部によって幅広い準備作業が行われ、非政府組織の専門家や多くの市民が参加した大規模な軍縮運動が重要な役割を果たした。

これにより、「冷戦の終結」を構成する、ほとんど予期されなかった政治的展開が起こった際にも、より迅速な進展が期待できる土壌が整えられた。

交渉、審議、建設的思考

「現在の危機の中で同様に重要なことは、核軍縮の具体的な進展の見込みが乏しい場合であっても、核武装した敵対国間の交渉は、別の肯定的な結果をもたらす可能性があることを、冷戦時代に学んだことである。」と作業文書は指摘している。交渉によって、敵対国の軍事・政治指導部は、互いの意図や恐れをよりよく理解することができる。交渉によって、軍と政府の官僚の間により広範なコミュニケーション・チャネルが構築されるため緊張が高まったときに大きな価値を発揮する。

「NO NUKES. NO WAR(核兵器、戦争反対)」を掲げるアボリション2000は、「現在進行中の敵対行為の終結を交渉する機は熟していないと考えている戦争中の核保有国の政府関係者であっても、あらゆる機会を通じて、あらゆる兵器の中で最も危険な核兵器の制限と不使用を保証することについて、敵対国と話し合うことの価値を認識すべきである。」と指摘した。

Abolition 2000
Abolition 2000

いかなる政府も、その国民とそれを維持する手段が存続しなければ、実りある目標を達成することはできない。そして、単に政府の政治的存続を保証するためだけに、国民や他国の国民の存在を危険にさらす権利はない。この点は、ウクライナがロシアの侵略から「領土の一体性を守る」ことができるよう、より多くの武器をウクライナに提供するよう主張する人々によってしばしば無視されている。

「現在の核兵器の使用をいかに防ぐかを考えることと、核兵器をいかに廃絶するかを考えることは、相補的な取り組みである。核兵器が存在する限り、常に核兵器を永久に廃絶する方法について具体的かつ建設的に考えていかなければならない。

今度の再検討会議は重要である。NPTは1970年に発効し、1995年には無期限に延長されたことを背景にしている。この条約は、世界的な核不拡散体制の礎石であり、核軍縮を進める上で不可欠な基盤である。この条約は、核兵器の拡散を防止し、核軍縮と一般的かつ完全な軍縮の目標を推進し、原子力の平和利用における協力を促進するために設計された。

この条約の下で、核兵器国はいかなる受領国に対しても、核兵器やその他の核爆発装置の所有や管理を移譲しないこと、またいかなる形であれ、非核兵器国がそのような兵器や装置を製造、取得、管理することを援助、奨励、誘導しないことが義務づけられている。

非核兵器国は、核兵器または核爆発装置の譲渡を受けたり、その管理を受けたり、製造したり、あるいはそのような兵器や装置を取得したり、あるいはそのような援助を求めたり受けたりしてはならない。

非核兵器国はさらに、原子力エネルギーが平和利用から核兵器やその他の核爆発装置へ転用されるのを防ぐため、自国の領土内または管轄・管理下にあるすべての平和的原子力活動において、国際原子力機関(IAEA)が管理するすべての核分裂性物質に対する保障措置を受け入れることを約束する。

この条約は、すべての締約国が、差別なく、基本的な核不拡散義務に従って、平和目的のために原子力の研究、生産および利用を開発する権利を保証している。NPT第6条には、核軍縮に関連する効果的な措置を誠実に追求することを締約国に求める、条約に基づく唯一の法的拘束力のある約束が含まれている。(原文へ

INPS Japan

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中東で米国を押しのけるロシアと中国

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・カイサル】

中東の戦略的情勢は急速に変化しているが、それは伝統的にこの地域で大きな影響力を発揮してきた米国にとって不利な変化である。米国とイランの敵対関係が続き、同盟国としてのワシントンの信頼性に対するアラブ諸国の懸念が増大しており、その結果、ロシアと中国がこの地域で戦略的足掛かりを拡大する機会が広がっている。

いくつかの状況が重なり、米国の立場を揺るがすものとなっている。最も重要なものとして、ロシアとイラン、そして中国とイランの戦略的パートナーシップの飛躍的な進展がある。イランとロシアの2国間貿易と軍事協力は、かつてないほど強化されている。両国の貿易高は2021年に40億米ドルだったが、翌年には400億米ドルに跳ね上がった。この背景には、2021年3月に両国が調印した20年間に及ぶ協力協定がある。(

それと同時に、さらに重要なことは、ロシアとイランの軍事パートナーシップが新たな高みに達していることである。ロシアは長年にわたりイランにとって最大の武器供給国だったが、2022年は転換点となった。イランがスホーイSu-35フランカーEジェット戦闘機24機を発注したのである。コストは20年間で100億米ドルと伝えられる。この戦闘機はロシア製兵器の中で最も先進的なもので、ウクライナへの爆撃に大々的に使用されている。これは、イランがロシアに何百機ものドローンを提供した取り引きの一環と見られ、それらのドローンはウクライナで致命的効果を挙げている。両国はまた、双方の人員に戦闘機とドローンの訓練を行っており、イランは占領下のクリミアでドローン製造の合弁事業を設立したと報じられている。

同時に、中国とイランの貿易関係と戦略的関係も大幅に強化されている。2国間の経済・貿易関係は着実に拡大する一方、軍事・情報協力は比較的控えめだったが、2021年に両国は25年間の協力協定に調印し、技術的、経済的、戦略的協力関係をかつてないレベルに引き上げた。協定は、イランの産業およびインフラ開発における中国の参加と投資を拡大する道を開いた。また、イランの中国製品市場を拡大し、軍事・情報協力のさらなる強化をもたらした。

その過程で、中国は米国が主導するイランへの制裁を無視している。イラン産原油の輸入を継続し、近頃ではイランとサウジアラビアが6年間断絶した国交を回復するために結んだ和平合意を仲介することによって、外交的影響力のさらなる拡大を図った。

中国はまた、ますます好意的になっているサウジアラビアとの関係を拡大している。その背景には特に、物議をかもす事実上の支配者ムハンマド・ビン・サルマンが、人権侵害の疑いとイエメンにおける軍事行動について過去にジョー・バイデン大統領から批判されたことで、米国に幻滅感を抱いているという事情がある。

イランは、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)に参加しようとしており、すでに中国の一帯一路構想の西に向かう流れにの重要なリンクとなっている。興味深いことに、これまで米国の同盟国だったサウジアラビアは、SCOにも対話パートナー国として参加することを決定している。これは、地域における北京の影響を強化するものにほかならない。

同時に、米国とその最も信頼できる同盟国であるはずのイスラエルとの関係は悪化している。イスラエルの有権者の分極化と国内の政治的不安定の増大は、主にベンジャミン・ネタニヤフ首相による、イスラエル史上最も右翼的な政権の樹立と司法の権限を覆そうとする動きがもたらしたものであり、バイデン政権はイスラエルの指導者に対して危惧を抱くほかないのである。

ワシントンは、ネタニヤフの行動は「イスラエルの民主主義」を脅かすものと見なす民主主義国の一団に加わっている。これに対し、ネタニヤフ(詐欺の罪で起訴もされている)は、イスラエルは主権国家であり、独自の決定を下すと主張している。ロシアと中国がイランと、そして憂慮すべきレベルまでサウジアラビアと結びつきを深めていることに腹を立てつつも、イスラエルは都合よくロシアと中国にすり寄ることをやめず、また、ユダヤ人国家にとっての「実存的脅威」があればいつでもイランの核施設を攻撃する権利を手放そうとしない。

中東において、米国は紛れもなくロシアと中国に場所を奪われている。この地域は戦略的転換の真っただ中にあるが、どの方向を取るかを予測することは困難である。より平和的な方向か、より対立的な方向か? いずれにせよ、米国の最大の関心事は、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の南シナ海および台湾に対する野心ではあるものの、当面の間、石油が豊富な中東は米国にとって外交上の頭痛の種であり続ける可能性が最も高い。

アミン・サイカルは、西オーストラリア大学で社会学の非常勤教授を務めている。著作に “Iran Rising: The Survival and Future of the Islamic Republic”があり、“Iran and the Arab world: a turbulent region in transition”の編者である。

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この記事は、2023年4月12日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

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|アフリカ|新報告書が示す資金調達と開発目標達成の道

【パリIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

アフリカは持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、2030年までに1兆6000億米ドル(毎年1940億米ドル)の資金が必要であるとする新しい報告書が発表された。2023年版「アフリカの開発ダイナミクス」は、アフリカ諸国の政府とそのパートナーに対し、投資家向けの情報を改善し、アフリカの開発金融機関の能力を高めるよう求めている。

また、地域プロジェクトを後押しすることで、アフリカ大陸はより多くの、より良い投資を呼び込み、既存のギャップを埋めることができる、と報告書は強調している。

アフリカの実質GDP成長率はコロナ以前のレベルの水準に戻り、2023年には3.7%に達すると予想されている。こうした前向きな経済見通しに加え、アフリカ大陸は投資家を惹きつける独自の人的資本(=人間の能力、スキル、知識、教育、健康などの要素)と自然資本(=地球上の自然環境や資源)を主張している。アフリカの人口の半数は19歳以下であり、高等・中等教育を修了した若者の割合は、2020年の23%から2040年には34%に達する可能性がある。

アフリカ大陸の総富(Total Wealth)の19%を占める自然資本は、持続可能な開発に投資する大きな機会を提供している。例えば、コンゴ盆地がアマゾンに次ぐ世界第二のカーボンシンク(二酸化炭素吸収源)となったことで、アフリカの森林は2011年から2020年までの間に、およそ1160万キロトンのCO2換算によるネット排出量を増加させた(=アフリカの森林が炭素吸収源となり、排出量よりも多くのCO2を吸収し、地球温暖化を緩和する上で良い影響をもたらした。)

Aerial view of the Lukenie River of central Democratic Republic of the Congo (DRC)/ By Valerius Tygart - Own work, CC BY-SA 3.0
Aerial view of the Lukenie River of central Democratic Republic of the Congo (DRC)/ By Valerius Tygart – Own work, CC BY-SA 3.0

そのような可能性があるにもかかわらず、世界的な危機により、アフリカへの投資は他の地域よりも悪影響を被っている。例えば、世界の新規投資(グリーンフィールド海外直接投資)に占めるアフリカのシェアは2020―21年には6%(過去17年間で最低)にまで落ち込んでいる。一方、他の高所得国は過去最高のシェア(61%)を記録しているのに対し、発展途上のアジアは17%、ラテンアメリカとカリブ海諸国は10%である。

アフリカにおける資本コストは、世界の他の地域よりも高くなっており(=アフリカの企業や政府が資金調達においてより高い利息や配当を支払わなければならない状況にあるため)、それにより一部のアフリカ諸国の政府は債券市場から排除される一方で、再生可能エネルギーなどの変革をもたらす分野への投資が阻害されている。

それにもかかわらず、持続可能な資金調達のギャップは埋められる可能性がある。それは、世界の金融資産の価値の0.2%未満、またはアフリカが保有する金融資産の10.5%に相当する。つまり、2030年までに世界の金融資産のわずか2.3%がアフリカに割り当てられれば、そのギャップを埋めることができるのである。ちなみに、この数値は世界GDPにおけるアフリカの割合を下回るものである。

What is the “Africa’s Development Dynamics” report? Credit: OECD Development

アフリカの資金源に関する包括的な評価に基づき、本報告書は、投資家の信頼を向上させ、アフリカ大陸における持続可能な投資を加速させるために、アフリカ諸国の政府とそのパートナーにいくつかの優先事項を提案している。その中には次のようなものがある:

  • アフリカの国家統計機関は、カントリーリスク評価のために、より多くの良質なデータを提供すべきである。同様に、投資促進機関や規制当局は、より詳細で最新の情報を、統一された使いやすい形式で提供すべきである。
  • 国際社会は、アフリカの102の開発金融機関(DFIs)の資本を増強し、国際金融と現地のプロジェクト、特に気候変動に適応するためのプロジェクトを仲介する能力を高めるために、より多くの資源を投入すべきである。
  • アフリカ諸国の政府と地域組織は、市場の分断を減らすために開発回廊やデジタルインフラストラクチャなどの国境を越えるイニシアティブの実施を加速させるべきである。さらに、中小企業に的を絞った支援を提供し、アフリカ大陸自由貿易地域(AfCFTA)の投資プロトコルの実施を積極的に監視すべきである。(原文へ

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|視点|AIという魔人が瓶から解き放たれた―国連は人類のためにAIを活用する試練に挑むべき(アンワルル・チョウドリ元国連事務次長・高等代表)

【ニューヨークIPS=アンワルル・チョウドリ

最近、私は人工知能(AI)の驚異的な進歩と、そのグローバル・ガバナンスにおいて国連が果たす役割について意見を求められたとき、SF作家のアイザック・アシモフが考案し、1942年の短編小説で紹介された「ロボット工学の三法則」を思い出した。

私は、SFが現実と出会ったのだと自分に言い聞かせた。第一法則は、「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。」という最も基本的な原則を示している。この80年前の規範は、AIの世界にとって現代のシナリオに役立つだろう。

制御するAI

Ambassador Anwarul K. Chowdhury
Ambassador Anwarul K. Chowdhury

AIはエキサイティングであると同時に恐ろしい。AIの持つ意味合いと進化の可能性は、控えめに言っても非常に大きい。私たちは人類史の転換期を迎えており、現時点でもAIは人間よりもかなり賢いと言われている。

すでに「原始的な」AIでさえ、この地球上のどこに住んでいるかに関係なく、私たちの日常生活の多くの側面や活動を制御している。電子メール、カレンダー、ウーバーのような交通手段、GPS、ショッピング、その他多くの活動について、個人レベルでのグローバルな繋がりは、今やAIによって制御されている。

そして、ソーシャルメディアが私たちの思考や双方向性にどのような影響を与えるかを考えてみよう。ソーシャルメディアは明らかに危険な不確実性を注入しており、すでに社会秩序や精神的ストレスに大きな問題を引き起こしている。

AIに依存する人類:

人類はほぼ完全にAIに依存している。AIに影響されたスマートフォンが手元になければ、人類はどれほど無力になるか考えてみてほしい。AIは最も急成長しているハイテク分野であり、今後5年から7年で世界経済に15兆米ドルをもたらすと予想されている。

現在の開発段階でも、ここ数カ月でオープンAIやグーグルなどが主導する様々なAIチャットボットが登場し、良識ある専門家たちは警鐘を鳴らしている。AIの将来について尋ねられた専門家たちは、正直に 「わからない。」と答えている。

現時点では、今後5年間の発展しか予想できず、それ以上は何も予測できないというのが彼らの意見だ。世間ではChatGPT-4が次のレベルのAIとして語られているが、それはすでに到来しているのかもしれない。

AIの無限の可能性:

AIの可能性はあまりにも無限であるため、国家が数と効果の面でより多くの多様な軍備を入手することで安全保障とパワーを際限なく追求する軍拡競争に例えられてきた。

しかし、AIの場合、主役は莫大な資源を持ち、倫理的観点にとらわれない巨大ハイテク企業である。つまり利益と、それに付随して人間の活動を支配する説明のつかない力を求めてこのAI競争に参画している。

衝撃的なことに、AIの分野にはルールも規制も法律もない。すべてが自由であり、「ワイルド・ワイルド・ウェスト」に例えられる。

核とAI

ICAN
ICAN

専門家たちは、AIを核技術の出現になぞらえている。核技術は、人類の利益のために有効利用されることもあれば、滅亡のために使われることもある。彼らはAIを核兵器以上に強力な大量破壊兵器とまで呼んでいる。核兵器は、より強力な核兵器を生み出すことはできない。しかし、AIはより強力なAIを生み出すことができる。

心配なのは、AIがそれ自体でより強力になるにつれて制御不能になり、むしろ人間を制御する能力を持つようになることだ。原子力技術のように、AIもいまさら「発明しなかった」ことにはできない。そのため、このような最先端技術によるまだ十分に知られていないリスクは続いている。

存亡の危機

医療分野、気象予測、気候変動の影響緩和、その他多くの分野でAIが有益に利用される可能性があることを認識する一方で、専門家たちは、AIの超知能が「存亡の危機」、おそらくは現在進行中の気候危機よりもはるかに破滅的で差し迫ったものになるだろうと警鐘を鳴らしている。

主な懸念は、グローバル・ガバナンスと規制の取り決めがない場合、悪質な行為者が社会や、個人、或いは地球全体に資する以外の動機でAIに関与する可能性があることだ。よく知られている通り、巨大ハイテク企業はこのような前向きな目的によって動いているわけではない。

AIは深刻な破壊的効果をもたらす可能性がある。今年5月、米国の失業統計は史上初めてAIを失業理由に挙げた。

規制に縛られない悪質業者

規制に縛られない悪質な業者は、AIの力を悪用し、雪崩を打つように大量の偽情報を発信し、人類の多くの層の意見に悪影響を及ぼすことで、例えば選挙プロセスを混乱させ、民主主義や民主主義制度を破壊する可能性がある。AI技術は、例えば化学知識の分野では、規制制度なしに化学兵器を製造するために使われる可能性がある。

私たちは、AIがどのようなテーマについても説得力のある物語を作ることに長けていることを理解する必要がある。その種のものには誰でも騙される可能性がある。人間は常に理性的とは限らないので、AIの使用は理性的で肯定的なものとはなりえない。AIが人類に脅威を与えないよう、悪質な行為者を制御しなればならない。

国連がAIのグローバル・ガバナンスを主導すべき

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

これらの点はすべて、グローバル・ガバナンスに非常に有利に働く。誰がこの問題を主導すべきかと問われれば、私は「もちろん国連だ!」と力強く答えるだろう。

世界的な規範設定機関としての国連の専門性、信頼性、普遍性は、AIの規制規範設定とその進化において明らかに役割を担っている。

道徳的・倫理的な問題や、基本的な世界的原則(人権、特に第3世代の人権、平和の文化、平和構築、紛争解決、グッドガバナンス、民主的制度、自由で公正な選挙等)は、AIの猛攻から守る必要がある。

また、AIの世界的な利用が各国政府に及ぼす影響を検討し、対処することも同様に重要であり、国家の主権に影響を与える。AIが現在あるいは将来の政府間交渉プロセスに影響を及ぼしうるかどうかについても、検討する価値があるだろう。

国連機関とそのAI関連活動の意味合い

最近、2つの国連機関がAI関連の活動を発表した。ユネスコは、5月末に閣僚レベルのバーチャル会議を開催し、選ばれた参加者とともに、AIを利用している教育機関は10%未満であるという統計を共有したと伝えた。ユネスコはソフトウェアツールChatGPTを「大流行」していると説明した。国連の機関が、巨大ハイテク企業の製品をこのように推奨すべきではなかった。

国際電気通信連合(ITU)は、自らを「国連技術機関」と称し、7月初旬に「よりよき世界のためのAIグローバルサミット」を開催すると発表した。このサミットは、人工知能とロボット工学がどのように善の力となりうるかについての世界的対話の一環として、AIとロボット技術を紹介するものである。

いわゆる国連技術機関は、「AIと技術に関する業界幹部、政府高官、オピニオンリーダーたちとのイベント」と並んで、「国連初のロボット記者会見」を開催した功績を称えた。

ハイテク企業との交流や協力協定締結のガイドラインを示す国連システム全体の警告が必要だ。AI技術は急速に発展しているため、国連機関のひとつやふたつが誤った行動をとる可能性があることを認識する必要がある。

現在の開発水準でも、AIはChatGPTやロボット技術を大きく超越し、巨大ハイテク企業による利益追求が進められている。このことは、善意ある全ての人々にとって大きな懸念事項となっている。

これらの国連機関は、(AIについて)「…不適切または悪意を持って使用されると、それらは国内外の分裂を助長し、不安定を増大させ、人権を侵害し、不平等を悪化させる可能性がある。」と警告した「国連創設75周年記念宣言(国連総会決議75/1として2021年9月21日に採択)」の一部を見落としているか、あるいは無視している。これらの警告の言葉は、すべての人があらゆる真剣さをもって完全に遵守すべきである。

国連事務総長の「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」はAIに言及している:

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

グテーレス事務総長は、2021年9月に発表した報告書『私たちの共通の課題』の中で、「複雑な世界的危機に対応するため、加盟国と協力し、緊急プラットフォームを設立する。」ことを約束している。そしてそのプラットフォームは、「新たな常設または常置の機関ではなく、危機の規模や重要度に応じて自動的に活性化され、その種類や性質に関係なく対応する。」と説明している。

AIは間違いなくそのような「複雑な世界的危機」の一つであり、事務総長がこの課題にどのように対処するつもりなのか、その考えを正式に共有すべき時が来ている。

グテーレス事務総長が2024年9月に開催する「未来サミット」で、国連権限によるAIの世界的な規制体制について議論するのでは遅すぎる。その時間枠では、AI技術は進展し、どんな形でも国際的なガバナンスが不可能になるだろう。

AIという魔人は既に瓶から解き放たれている

AIという魔神はすでに瓶から解き放たれている。国連は、AIという魔神が人類と地球の最善の利益に役立つようにする必要がある。

AIの影響は非常に広範かつ包括的であり、OCAがカバーするすべての分野に関連し、的確に作用する。グテーレス事務総長は、来年の未来サミットを待たずに、何をすべきかについて独自の提言を出すべきだろう。

AIによって影響を受ける私たちの未来は、今すぐ対処する必要がある。AIは想像を絶するスピードで拡散している。国連を率いるグローバル・リーダーである事務総長は、この課題の深刻さを軽視すべきではない。事務総長は、加盟国間のコンセンサスを待つことなく、今すぐ行動を開始する必要がある。

国連はAIを規制し、効果的かつ効率的なグローバル・ガバナンスを確保する:

『私たちの共通の課題』は、12のコミットメントにまたがる主要な提案として、「AIを世界共通の価値観に沿うように規制・促進する」ことを挙げている。

『私たちの共通の課題』においてグテーレス事務総長は、「私たちが直面している連動した問題に対する解決策を見出すことができるかどうかは、来るべき大きなリスクを予測し、予防し、備えることができるかどうかにかかっている。」と主張している。

このため、私たちが行うすべての活動において、活性化された包括的な予防アジェンダが最重要課題となっている。グローバルな公共財が提供されないところでは、人間の福祉に対する深刻なリスクや脅威という形で、グローバルな公共「悪」が発生する。

これらのリスクは今やますますグローバル化し、潜在的な影響力も大きくなっている。なかには実存的なものさえある。このようなリスクを予防し、それに対応する準備をすることは、グローバル・コモンズとグローバル公共財をよりよく管理するために不可欠な対案である。

UN Photo
UN Photo

国際社会は、国連の指導部がすでに、この局面でとるべき措置を熟知していることを知り、安心すべきである。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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|カリブ海地域|気候変動が水危機を引き起こす

【ポートオブスペイン(トリニダード)IDN=リンダ・ハッチンソン=ジャファール】

世界全体で推定40億人が水不足に見舞われる中、6月初めに開催された地域会議では、カリブ海地域の小島嶼国が直面している特有の問題が取り上げられた。その中には、カリブ海の水循環に大きな影響を及ぼしている気候変動の問題も含まれている。

気候変動によって水不足が加速し、干ばつの頻度や厳しさが強まるなど、水を巡る環境は厳しさを増している。同時に、財源不足が水不足問題への対処を妨げている。

バルバドスで6月6・7両日に開催された「カリブ海地域水会議」では、同地域が直面している厳しい水危機に対処する行動が緊急に求められていることが強調された。

Barbados Prime Minister, Mia Mottley
Barbados Prime Minister, Mia Mottley

バルバドスのミア・モトリー首相(写真右)は会議冒頭の演説で、海水の浸入、降水量の減少、蒸発の加速といった状況の中で、基本的な水インフラの整備にかける資金調達においてすら、各国が法外な金額を高利で短期借り入れせざるを得ない理不尽さを強調した。

モトリー首相は、水危機は「現代における最大の課題」であって小島嶼国には深刻な問題であり、様々な面で早急な対策が必要であると主張した。また、気候変動の影響に加え、限られた資源と資金調達へのアクセスが、この地域の脆弱性を悪化させていると付け加えた。

The Caribbean Water Conference in Barbados Credit: BWA
SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

国連環境計画のクリス・コービン調整官は、「気候変動が水資源に及ぼす影響は多岐にわたり、既存の問題を悪化させ、この限りある資源を巡る競争が激しさを増しています。また、ラテンアメリカ・カリブ海地域の水資源の状況は深刻です。」と指摘した。現在、同地域の人口の25%の人々が安全な飲料水にアクセスできず、それによって水系感染症や他の健康リスクにさらされている。また、域内人口の60%が安全な衛生サービスを利用できておらず、公衆衛生と環境の維持に対するリスクとなっている。

「水利用を巡る競争は気候変動によって悪化しています。老朽化したインフラ、人間の健康、生態系の保全に対する水の需要について、どのようにバランスをとっていけるでしょう。」とコービン調整官は疑問を呈した。

カリブ共同体(CARICOM:構成20カ国)のアームストロング・アレクシス事務次長もまた、気温の上昇、降雨量の減少、干ばつの長期化、砂漠化、塩害、ハリケーンの大型化といった気候変動がもたらす問題が、カリブ海の水資源に深刻な影響を及ぼしていることを強調した。

このような問題は、国土が狭い小国や低平地国では、水資源を開発する際に利用できる選択肢が限られていることから、一層悪化している。アレクシス事務次長は、「このような国々では、淡水の供給を含む物質的な資源や、その資源を生み出す能力が限られていることを意味します。」と語った。

アレクシス事務次長はさらに、「私たちは重大な岐路に立たされており、時宜を得た今回の会議は、この地域で進行中の水管理上のニーズを(適切な文脈の中で)位置づけるのに役立つはずです。国際社会による対応は、資源に乏しい国々のニーズを満たすには不適切な規模でしかありません。」と指摘した。

Map of the Caribbean Sea and its islands./ By Kmusser - Own work, all data from Vector Map., CC BY-SA 3.0
Map of the Caribbean Sea and its islands./ By Kmusser – Own work, all data from Vector Map., CC BY-SA 3.0

パネルディスカッションに登壇した国立海洋大気機構(NOAA)物理科学研究所のロジャー・パルワーティ主任研究員は、カリブ海地域の小島嶼国が直面している水関連の問題の主な要因について、「ハリケーンでも、海抜面の上昇でもなく、飲み水の不足が主な要因です。そこで、大気中に拡散した水蒸気の動きに関する理解が、この地域における水利用を決定する上で不可欠です。水危機の進行状況に鑑みれば、調整と対策を講じる努力が不足していることは明らかです。」と語った。

「まるで異なるゲームをしているようで、そのために一連のパラドックスが発生しています。一滴の水を確保し環境を守ることに最大の経済的価値を置こうではありませんか。人びとが平等に飲み水を手に入れることができるよう協力しようではありませんか。」と、パルワーティ主任研究員は語った。彼は、トリニダード・トバゴの科学者で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にも協力した。この問題を解決するためなら水道の民営化もいとわない姿勢だ。

米国際開発庁の気候問題専門官で次官補代理のギリアン・キャドウェル氏は、「水は生命の本質です。そしてこの限られた資源は、今日人類が直面している最も緊急の課題を巡る闘争の場となっています。洪水や台風から、現在『アフリカの角』地域を襲っている干ばつに至るまで、気候関連災害の9割近くが水関連のものです。」と指摘した。

これらの問題は深刻度が増しており、国際連合児童基金(ユニセフ)は、世界のおよそ40億人が今日水不足に直面しており、2025年までには世界の人口の5割が、少なくとも年に1カ月は深刻な水不足に見舞われることになると予想している。

キャドウェル氏は、「この危機的状況の背景には、多面的な理由があります。世界は降雨量の劇的な増加と減少の両方を目の当たりにしており、水に関連した不規則な出来事を引き起こし、水の供給や廃棄物管理システムに必要な重要インフラに大きな損害を与えています。また、急速な都市化も問題の悪化に寄与しており、水不足の悪影響が社会に行き渡って、生活の様々な局面に影響を及ぼしています。生産性は低下し、物価は上昇し、栄養が不足して子どもに悪影響を及ぼしています。つまり知的にも身体的にも成長を阻害しているのです。水は生命そのものであり、死を意味することもありえるのです。」と語った。

カリブ共同体気候変動センター(CCCCC)のコリン・ヤング センター長は、バルバドスのモトリー首相が提起した問題に改めて触れた。とりわけ、気候変動に関連した水問題に対応するための融資を求めている小国が直面する課題を指摘し、脆弱な国々が緊急の気候変動問題に効果的に対処する能力を妨げている複雑で断片的なプロセスを強調した。

ヤングセンター長はまた、「適切な資金調達が困難が現状が、気候変動の影響に対応しようともがいているカリブ海諸国にとって高いハードルとなっています。国際的な気候変動関連の金融枠組みは世界の最も脆弱な国々のニーズを満たせていません。制度があまりに複雑で、実行があまりに遅く、私たちが直面している事態の緊急性に見合ったものが提供されていません。」と語った。

さらに、「気候変動資金を提供するために、『グリーン気候ファンド』や二国間取決めのような様々な資金調達メカニズムが設立されてきました。しかし、現実には様々なドナーがバラバラに、かつ異なった基準の下で動いており、協調的な金融の要件を各国が満たすことが難しくなっています。このような分断された金融状況が、水不足に対応するための資金調達を困難にしているのです。例えばカリブ海諸国向けの水プログラムを開発するためには、まとまった地域的枠組みではなく、国ごとのアプローチを進める必要があります。」と指摘した。

モトリー首相は会議冒頭の演説で「実際には、地球の人々と地球のバランスを保つために不可欠な要素である生物多様性に対して国際社会は適切に行動することが重要です。そのためには、諸国が市民を守る水インフラ構築のために利息が二桁にもなる短期融資に依存せざるを得ない状況を強いらないようにする必要があります。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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安全保障理事会は、子どもに対する国際犯罪への説明責任をどのように果たせるか

【フロリダIPS=ジャニーン・モーナ】

「私の人生は台無しにされました。」と、最近までシリア北東部の武装組織「イスラム国」(IS)支配下で暮らしていたアンワルは、記者にトラウマ的な体験について証言した。

アンワル(仮名)が14歳か15歳だった2018年頃、ISのメンバーである彼の父親は、ISの軍事訓練を強要した。また、ISの規則に違反した人々を残忍に罰する光景を強制的に見せたりもした。

苦しみは耐え難いものだった。アンワルは何度も父親やISの支配地域から逃げようとした。「みんなが憎かった。」とアンワルは回想する。

Recommendations for the Secretary-General’s 2023 Annual Report on Children and Armed Conflict
Recommendations for the Secretary-General’s 2023 Annual Report on Children and Armed Conflict

2011年、ISの活動が再びイラクで活発化し始めると、国連はいち早く、武装集団が子どもたちに対して犯した侵害行為を文書化した。その年、国連事務総長は、「子どもと武力紛争」に関する年次報告書にISを掲載した。国連は、将来における人権侵害の発生を防止する取り組みの一環として、この報告書に記載された当該団体と行動計画について交渉することを求められている。

年次報告書は多くの文脈で行動を促す強力なツールだが、ISのように国連との対話に応じそうにない加害団体にはほとんど影響を与えていない。

過去11年間、年次報告書に掲載された数多くの加害団体は、「永続的な加害団体(Persistent Perpetrators)」に分類することが可能だ。つまり、5年以上連続して報告書に掲載され、子どもたちに対する侵害行為について報告に応じなかった武装グループや勢力である。ISは過去13年間、連続して報告書に掲載されている。

国連安保理はこれまでも、こうした加害団体や集団による人権侵害に対処することの重要性を強調する決議を採択し、2021年に公開討論会を開催するなど、永続的な加害団体の問題に焦点を当ててきた。また、手に負えない加害団体に対する制裁を推進する努力も行ってきた。

A young refugee boy, pictured in a temporary displacement camp in Kalak, Iraq, in June 2014. Credit: Amnesty International
A young refugee boy, pictured in a temporary displacement camp in Kalak, Iraq, in June 2014. Credit: Amnesty International

こうした取り組みにもかかわらず、国連安全保障理事会とその下部組織である「子どもと武力紛争に関する安保理作業部会(WG)」は、有意義な説明責任を支援するために、さらにもっと多くのことができるはずだ。

子どもに対する犯罪の国内起訴

作業部会は、子どもと武力紛争に関する国連安保理のアジェンダを遂行する主要な機関として、国連とその援助国に対し、子どもに対する重大な人権侵害を犯罪とする国内法の整備と実施を支援するよう要請を強化すべきである。また、国際的な公正裁判の基準に沿って、説明責任を追求するために、各国の刑事司法制度を支援すべきである。

今日、イラクやシリアのIS、ナイジェリアのボコ・ハラムなど、非国家主体による重大な人権侵害に関わった加害者を訴追する事例の多くは、当該国の反テロ法廷で行われているが、多くの場合、子どもに対する犯罪はおろか、国際法上の犯罪すら裁けていない。

作業部会は、国際犯罪を裁くことのできる国内裁判所で、こうした集団の構成員を裁くよう奨励しなければならない。起訴は、犯罪が行われた国や、関連する場合には、普遍的管轄権(ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪など、深刻な国際犯罪の容疑者を逮捕した国が、発生場所や容疑者の国籍にかかわらず訴追できる権利)を行使する国でも行うことができる。

子どもに対する犯罪に関する裁判が反テロ法廷で行われる場合、関係当局は検察官と裁判官が国際法を活用できるようにし、訴追のために十分な資源を提供し、被告人が公正な裁判を受ける権利を十分に行使できるようにしなければならない。

武装集団や武装勢力に加担した子どもたちが関与する場合、国家は、国際基準に従って、加担中の罪に問われた子どもたちを、加害者としてだけでなく、主として国際法違反の被害者として扱うべきである。子どもたちは、武装集団や勢力に所属しているというだけで、決して訴追されるべきではない。

国際刑事裁判所やその他の国際的メカニズムへの協力

The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands
The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands

国内の法制度が、子どもに対する犯罪の訴追を追求できない、あるいは追求する意志がない状況においては、作業部会は、国際刑事裁判所(ICC)や、説明責任を果たすためにシリア国際公平独立メカニズム(IIIM)やミャンマーに関する独立調査メカニズムのような他の国際司法メカニズムと協力する機会を探るべきである。

この種の協力は、作業部会が子どもたちに対する重大な侵害に対応するために取り得る行動リストを最初に採択した際に想定されていたものである。国際司法メカニズム間の効果的な協力は、包括的な正義を実現するために不可欠である。

作業部会とICCとの関わりは、これまで限定的なものであったが、今こそ両機関間のつながりをさらに発展させる時である。ICC検事局は、「関連する主体との協力を強化する」機会を歓迎しており、今年初めには、「有意義な変化に影響を与えるために……(中略)新たなアプローチを基礎とする」子どもに関する方針を刷新するための公開協議を開始した。

過去に、一部の作業部会メンバーは、締約国がICCの管轄内で戦争犯罪やその他の犯罪を犯した可能性が高い場合、それを示すことを検討した。また、ICCと結論を共有し、ICCの検察官が作業部会とブリーフィングを共有する可能性も検討した。

10年前、作業部会の一部のメンバーは、国連安全保障理事会の付託がない場合、武装集団や勢力が子どもに対する重大な侵害を犯した状況をICCに付託するよう、ローマ規程の締約国に呼びかけることも検討した。残念ながら、当時ICCについては理事国間で意見の隔たりが大きく、こうした勧告の採択は制限されていた。

子供たちは保護されなければならない

7月5日、国連安保理は、「子どもと武力紛争」に関する年次公開討論会を開催する。この機会は、すべての国連加盟国に対し、子どもに対する権利侵害に対する説明責任を拡大・強化する努力を公に約束する機会を提供するものである。

その第一歩として、加盟国は国連事務総長に対し、2017年に中止された、子どもと武力紛争に関する年次報告書において「永続的な加害団体(Persistent Perpetrators)」を再び特定するよう求めるべきである。

国連安保理事会には、子どもに対する犯罪の加害者である世界有数の悪質な犯罪集団に対して、より積極的な行動を起こす権限がある。アンワルのような子どもたちが、正義と説明責任が果たされるまで、これほど長い間待たなければならない現状は容認できない。(原文へ

*ジャニーン・モーナはアムネスティ・インターナショナル危機対応プログラム、テーマ(子ども)研究員。

INPS Japan/ IPS UN Bureau

「子どもと武力紛争」に関する年次報告書2023:国連はこの報告書のウクライナ紛争に言及したセクションにおいて、「ロシア軍と親ロシア派武装勢力の爆弾などの攻撃によって136人の子どもが死亡、518人がけがをした」と認定した。また、「施設の周囲などに人を配置し、敵の攻撃を避けるいわゆる『人間の盾』として、ロシア軍などによって90人の子どもが使われた」と指摘。こうした行為の結果、ロシアを安保理の常任理事国としては初めて、子どもの人権を侵害した国の1つに指定した。

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