【INPS Japan/ 国連ニュース】
12月24日で、ウクライナへの武力侵攻開始から10ヶ月が経過した。この間、ウクライナでは何万人もの人々が殺傷され多くの都市が瓦礫と化した。また、多数の市民が難民となり、国連の専門家の見解によると、戦争犯罪の犠牲者となったものも少なくない。国連職員は、ウクライナの住民とともに、電気も暖房もない生活を送り、防空壕に逃げ込み、人道支援を行い、同国で行われた犯罪を記録している。
国連安全保障理事会開催中にロシアのウクライナ侵攻のニュースが飛び込んできた
2022年2月23日、ニューヨーク時間の午後9時30分ちょうどに、ウクライナの要請により安保理が国連本部で開催された。冒頭で発言したアントニオ・グテーレス国連事務総長は、「ウクライナへの攻撃が迫っている」ことを示す「噂と兆候」について言及するとともに、「プーチン大統領、あなたの部隊がウクライナを攻撃するのを止めてください。平和にチャンスを与えてほしい」と懇願した。
しかし、その20分後、欧州大陸では既に2月24日の朝で、ニューヨークではまだ安全保障理事会が開かれていたが、プーチン大統領は「特別軍事作戦」の開始を発表し、ロシア軍がウクライナ領土への侵攻を開始していた。
2月の安保理で議長を務めていたロシアのワシリー・ネベンジャ国連常駐代表は、「今日、詳細を知っているわけではないが、ウクライナの占領は我々の計画に含まれていないことはお知らせしたい。」と語った。ネベンジャ大使は「特別軍事作戦について」大統領の発言をそのまま引用している。 しかし、ウクライナのセルギー・キスリツァ国連常駐代表は「ロシアは宣戦布告をした」とし、出席者全員に「戦争を止めるためのあらゆる手段を執っていただきたい。」と呼びかけた。そして「現在、ロシア軍はウクライナの都市を砲撃、爆撃し、ウクライナ領に侵入している。」と指摘したうえで、ネベンザ常駐代表に「今すぐロシアのラブロフ外相に電話して事情を確認すべきだ。」と提案した。これに対してネベンザ常駐代表は「今すぐラブロフ大臣を起こすつもりはない」と返答した。
グテーレス事務総長は、「この状況下では、要求を変更せざるを得ません。プーチン大統領、人類の名において、貴国の軍隊を ロシア に引き上げてください。人類の名において、今世紀初頭以来最悪のものとなり得る戦争が、ヨーロッパから始まることがないようにしてください」と訴えた。
しかし、戦争はすでに始まってた。ウクライナで活動する国連の人道支援機関からは、高齢者や幼い子どもを連れた女性が逃げ出しているとの報告があった。国連難民高等弁務官事務所によると、国連が後に「侵略」と呼んだ「作戦」が始まってから48時間足らずで、5万人以上がウクライナから脱出したという。
キーウの駅で、電車に乗れない母親たちが、人ごみの中で子供を通し、客車の人々に安全な場所に連れて行ってくれるよう懇願する悲痛な映像が世界中に広まった。キーウやハルキウの住民の多くは、必需品を入れたリュックを背負って、防空壕として使われるようになった地下駅に降りた。
国連安保理は「麻痺」している
2月25日、米国とアルバニアは、「ウクライナに対する侵略」に対してロシアを非難する安保理決議の採択を提案した。草案は、ロシアが直ちに、完全かつ無条件に軍隊を撤退させることを要求していた。しかし、ロシアが拒否権を行使し、決定に拘束力のある安保理決議を採択できなかった。
国連総会決議 「ウクライナへの侵略」 について
これを受けて、国連総会は3月2日、ウクライナに関する緊急特別会合を再開し、「ウクライナに対する侵略」決議を採択した。国連加盟国141カ国が支持し、35カ国が棄権、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5つの代表団が反対票を投じた。決議は、「ロシア連邦は、国際的に認められた国境内のウクライナの領土からすべての軍隊を直ちに、完全かつ無条件に撤退させる」ことを要求した。
投票結果について、グテーレス事務総長は、この決議が含む要請に従うことが事務総長としての義務であると語った。
3月24日、新たに再開された緊急特別会合で、国連総会は「ウクライナに対する侵略がもたらした人道的結果」と題する決議を採択した。140ヵ国が賛成し、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5つの代表団が反対、38カ国が棄権した。この決議は、ロシアがウクライナでの敵対行為を直ちに停止し、民間人や民間インフラを攻撃しないことを要求するものであった。国連総会は、ウクライナの都市、特にマリウポリ封鎖の中止を求めた。
しかし、総会決議の持つ大きな政治的重みと道徳的権威にもかかわらず、これらの呼びかけはロシアに無視されたままである。
3月、国連はキーウ郊外のブチャなどで起きた悲劇、ハルキウでの爆撃、マリウポリの破壊などの報告を受けた。
国連事務総長のウクライナ、ロシア訪問について
「ロシア連邦は国連憲章に違反してウクライナの主権領域への大規模な侵攻を開始した。」 それ以来、世界は 「都市、町、村で恐ろしい人的被害と破壊を見ている。」 とグテーレス国連事務総長は指摘し、「ウクライナの人々はまさに地獄に生きている」と宣言し戦争の停止を訴えた。そして4月末には、自らが仲介役としてロシアとウクライナを訪問した。4月26日、グテーレス国連事務総長はモスクワでセルゲイ・ラブロフ外相と実務会談し、プーチン大統領と会談した。
4月28日、国連事務総長はウクライナのドミトロ・クレバ外相と実務会談を行い、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。
「世界はあなた方を見て、あなた方の声を聞き、あなた方の勇気と決意を賞賛します。」とグテーレス事務総長はウクライナの人々に向かって語りかけた。そして、国連安保理がウクライナでの戦争を防止または阻止するための既存のメカニズムを適用できなかったことを苦々しく認めている。グテーレス事務総長はキエフで記者会見し、「これは大きな失望、悲しみ、怒りを引き起こす」と語ったが、その時、ロシアのミサイルが事務総長の滞在するホテルの近くを通過した。ウクライナ訪問中の国連事務総長は、キーウの荒廃した郊外を訪問した。
グテーレス事務総長のモスクワとキーウ訪問時の合意により、国連と国際赤十字はマリウポリのアゾフスタル製鉄所とその他の地域から民間人を避難させるための2つの作戦を実施することに成功した。
5月6日、国連安保理はロシアによるウクライナ侵攻後で初めてとなる声明「ウクライナにおける平和と安全の維持を巡る深い懸念」を発表し、その際議長声明で、平和的解決に向けたグテーレス事務総長の取り組みに「強い支持」を表明した。
侵略開始から半年後の8月、日本での記者会見で、ウクライナとロシアの間で和平合意に至らない理由を問われたグテーレス事務総長は、ウクライナは「自国の領土が他国に占領される」状況を受け入れられず、ロシアは占領地域を「自国に併合したり、新たな独立国家に移行させたりしない」ことについて「受け入れる準備はできていないようだ」と説明した。
1ヵ月後、国連ニュースサービスとの独占インタビューで、グテーレス事務総長は、一方の国家が他方の国家を侵略することによって引き起こされる2国家間の戦争があり、最近の歴史では類を見ないレベルの武器と武力の動員を伴うと語った。
黒海イニシアティブ
この戦争の影響は、ウクライナの国境を越えて、多くの人々が感じている。ロシアとウクライナは世界市場への主要な供給国であるため、武力侵攻により、世界中で食料、エネルギー、肥料の価格が急騰している。
国連とトルコの仲介で、黒海を越えて穀物などの食料品を安全に輸送する手続き「黒海穀物構想」が浮上し、農産物輸出の活性化を図っている。
グテーレス事務総長は、8月には再びウクライナを訪れ、リヴィウでトルコ、ウクライナの大統領と会談した後、このイニシアティブに参加しているウクライナの3港のうちの1つ、オデーサを訪問している。
この協定により、ウクライナからの穀物、その他の食料品、肥料の輸出が再開された。製品は、ウクライナの3つの主要港(チョルノモルスク、オデーサ、イズニー)から安全な海上人道回廊を経由して送られる。また、7月の協定には、ロシアに対する貿易制限や制裁体制の適用をめぐる不透明感から輸出が制限されていたロシア産肥料を、世界市場、特に途上国向けに輸出するための規定が盛り込まれた。
ウクライナにおける原子力発電所の安全性確保
2月24日、ロシア軍は侵攻直後に旧チェルノブイリ原子力発電所を奪取。そして、ザポリージャ原子力発電所を掌握した。また、ウクライナはリブネ、フメリニツキー、南ウクライナの各原発を運営している。国際原子力機関(IAEA)は、これらの原子力施設の安全性を懸念し、すべての原子力施設に査察官を派遣している。
IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、自らチェルノブイリ原発のミッションを指揮し、その後文字通り炎上中のザポリージャ原子力発電所にチームとともに向かい、数人の国際査察団を現地に配置した。IAEAのトップ自らが、原子力発電所周辺に安全地帯を設定するための交渉を続ける一方で、定期的に原発の状況を報告している。
6基の原子炉を有するザポリージャ原発は3月上旬からロシア軍の支配下にあるが、ウクライナ人の職員が働いている。グロッシIAEA事務局長は、ザポリージャにある欧州最大の原発やウクライナにあるその他の原発施設に、事故であれ故意であれ、何らかの被害があれば、発電所周辺だけでなく、地域全体、さらには国外にまで災害が及ぶ恐れがあると安保理のメンバーも含めて警告を発している。
人道支援
300日以上前に始まったロシアの侵攻により、ウクライナは人道上の危機に瀕している。戦争が始まって以来、国連児童基金からIAEAまで、多くの国連機関がウクライナで活動している。
ウクライナ全土に複数のオペレーションセンターが設置され、全国30地区で運営されている。10カ月にわたる戦争の間、国連の人道支援機関は、690の人道支援パートナー(そのほとんどが最前線で活動している)と協力して、1400万人のウクライナ人に救命支援を提供してきた。この中には、ウクライナ政府の支配下にない地域に住む100万人の人々も含まれている。ドネツク州やルハンスク州のロシア支配地域の人道支援パートナーの協力で援助を届けることができている。
戦時中、国連は約430万人に10億ドル近い現金給付を行った。ウクライナ各地に心理社会的支援を行うセンターが設置された。2月以降、国連の支援のもとで765,000人の子どもたちが支援を受けている。移動チームは国内避難民センターで、保護が必要な子どもたちを特定・登録し、子どもたちとその家族が必要とする支援を提供している。
これまでに1400万人以上のウクライナ人が故郷を追われている。このうち650万人が国内避難民で、780万人以上が欧州各地に散らばっている。ユニセフや国連難民高等弁務官事務所などの国連機関のスタッフが、国境地点や 受け入れ国で難民の登録、再定住、保護を支援している。
ウクライナの人道的状況は、日増しに悪化している。12月に再びウクライナを訪れたマーティン・グリフィス国連緊急援助調整官兼人道問題担当事務次長は、国連安保理において「ウクライナの民間人にとって死活問題である。10月以降、ウクライナのエネルギーインフラがロシア軍によって継続的に攻撃されたことで、必要とされる支援のレベルが一段と高まっている。冬の間、多くの市町村が停電しています。」と訴えた。
この数カ月間だけでも、人道支援団体は冬に備えて63万人以上の市民にさまざまな支援を直接提供し、重要なインフラには数百台の発電機が送られた。ここ数週間、国連は東部および南部地域のウクライナの支配下に戻った地域への支援を強化している。人道支援団体は、支援トラックの車列を送った。
これらは、国際社会からの空前の支援なしには実現し得なかったことだ。国連はこれまでに、年末までに要求された43億ドルのうち31億ドルを受け取っている。 国連自身も、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日に、すでに中央緊急対応基金から2千万ドルを放出している。それから1カ月もしないうちに、さらに4000万ドルがウクライナに送られる。
国連機関は現在、避難民に防寒対策を行うとともに、新たにアクセス可能となった地域に援助物資を届け、地雷除去を促進し、人道的・心理的援助を必要としているすべての人に提供することに力を注いでいる。
先日ニューヨークで行われたブリーフィングで、キーウから駆けつけた国連ウクライナ人道調整官のデニス・ブラウンは、ウクライナ人と共に国連職員全員が大規模な砲撃を受けており、また防空壕に逃げ込み、しばしば電気や 熱源がない状態で過ごしていると語った。しかし、このような状況でも、国連スタッフは離脱しないのだと指摘した。彼らは、ウクライナの人々と共にこの冬を乗り越え、支援を必要としている人々のために活動を続けていくつもりだ。
復興
国連は、人道支援だけでなく、国の再建にも力を注いでいる。ウクライナの戦争により、多くの都市でインフラが破壊され、その復興には、ウクライナ政府や国際的なパートナーの多大な努力が必要とされている。この分野の最初の大規模プロジェクトとして、国内第二の都市ハルキウの再開発・再建が予定されている。既に4月5日には、国連欧州経済委員会の主催で、国際市長会議が開催されている。会議では、英国の著名な建築家であるノーマン・フォスター卿が、ハルキウのイーゴリ・テレホフ市長から、同市の新しいマスタープランを策定するよう要請を受けた。 テレホフ市長はこの会議で、戦争で破壊されたハルキウの再建に向けた構想を語った。
テレホフ市長は、「新しい平和なハルキウでは、IT部門とハイテク工業団地の開発に特別な注意を払いたい。 大型産業施設を建て替え、新しい息吹を吹き込みたい。建築、快適性、安全性において、ハルキウはまったく異なるレベルに達していくはずだ。私たちは、近代的な街の中心部を建設し、各地域が特色を持った多様な都市作りを計画している。その他、防空壕、多目的地下駐車場、立体交差、自転車専用道路、新しいレクリエーションゾーンや公園を建設する予定だ。」と語った。
国連の人権擁護者、国際司法裁判所、国際刑事裁判所調査官、国際損害賠償登録者
国連人権理事会は、安保理と総会と並行して、ロシアによるウクライナ侵攻初期の犯罪を調査する独立の国際調査委員会を設置し、加盟国は行動している。キーウ、チェルニヒフ、ハルキウ、シュミの各州で調査を行った結果、都市部が破壊され、処刑、拷問、強姦などの戦争犯罪が行われたと結論づけた。性的強姦の被害者は4歳から82歳までと幅広い年齢層が特定された。委員会のメンバーは、これまで10回ウクライナを訪問している。彼らは市や町を訪れ、爆撃や犯罪の現場を視察してきた。12月には、国際調査委員会がキーウで、被害者への賠償と可能な司法メカニズムについて議論している。
4月には、国連ウクライナ人権監視団のメンバーも、かつてロシア軍に占領された市町村を訪問した。監視団には国連人権事務局のメンバーも含まれている。また、2月下旬から3月上旬にかけてロシア連邦軍の支配下にあったキーウ、チェルニヒフ、ハルキウ、スームィ州の各都市で市民が殺害されたことの確認も受けている。
国際刑事裁判所(ICC)の検察官もウクライナでの犯罪捜査に関与している。ICCは、衛星画像やレーダー映像、あるいは傍受システムを使って犯罪を捜査する。ウクライナ情勢の調査開始決定を受け、検察は3月2日に調査団を早急に現地に派遣した。ICC主任検察官自身も数回ウクライナを訪問した。分析官、法医学者、人類学者、弁護士からなるこのチームは、大規模な残虐行為の現場を訪れた。
これと並行して、ウクライナのジェノサイド条約に基づくロシアに対する訴訟の一環として、国際司法裁判所(ICJ)は3月16日、ロシアに対して、2022年2月24日にウクライナの領域内で開始した軍事作戦を直ちに停止し、軍隊や非正規部隊などが軍事作戦をさらに進める行動をしないこと」を義務付ける暫定措置命令を発出した。
国連総会は11月14日、ウクライナ情勢をめぐる緊急特別会合を開き、ロシアに対してウクライナ侵攻による損害の賠償を求める決議を94カ国の賛成多数で採択した。この決議は、ロシアが「侵略」の際に行った国際法違反について責任を負い、損害を賠償する義務を負うべきであると述べている。この目的のために、国連総会は「国際的な仕組み」を構築し、損害の記録をつけることも推奨した。
「不滅の拠点」で一緒に。
最近の調査によると、民間インフラに対する空爆が行われているにもかかわらず、多くのウクライナ人は国外に出るつもりはなく、国外に出た人の多くも故郷に戻りつつあるという。12月現在、国内と海外を合わせて500万人以上の国内避難民がウクライナに帰国している。
ウクライナ当局は、国連の支援を含め、人々が暖を取り、携帯電話を充電し、温かい飲み物を飲み、応急処置を受けられるよう、全国に暖房センターを設置している。ウクライナでは、このようなセンターを「不滅の拠点」と呼んでいる。人々が体を温めるだけでなく、互いに助け、支え合い、慰め合うことができる拠点だ。
この支援にはユニセフも参加しており、ウクライナ全土に140カ所の「スピルノ」センターを設置。少年少女が遊び、心理社会的サポートを受け、仲間と交流できる、子どもに優しい温かい空間が広がっている。「スピルノ」とは、ウクライナ語で「一緒に」という意味である。ユニセフは、子どもたちに子ども時代の喜びを取り戻すため、社会政策省およびウクライナ鉄道とともに、新年とクリスマスイブに、特にハルキウ州やケルソン州など新たにアクセスが可能になった地域の戦争被災地の子どもたちにプレゼントを届けている。
最近到着した国連開発計画(UNDP)のジャコ・シリエ駐在員代理は、ウクライナの人々のレジリエンスに感銘を受けたと語った。「真冬に現地入りして、すぐに人々の苦労がわかった。」という。 ウクライナの人々は、真のレジリエンスとは何かを世界に示している。」とシリエ駐在員代理は語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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