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|視点|ロシアとカザフスタンが石油をめぐって「チキンレース」を展開(アハメド・ファティATN国連特派員・編集長)

この記事は、アメリカン・テレビジョン・ネットワーク(ATN)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【国連ATN=アハメド・ファティ

Ahmed Fathi、UN Correspondent, Managing Driector of ATN

カザフスタンはかつて旧ソビエト連邦を構成した共和国で、ロシア人の人口はかなり多いが減少傾向にあり、ロシアのウクライナ侵攻を巡って両国関係に溝が生じている。カザフスタン当局は、ウラジーミル・プーチン大統領が 「ロシア語を話す同胞」を保護するためという(ウクライナに侵攻した際と)同様の口実で介入することを恐れている。カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は6月、ロシア主導のユーラシア経済連合と集団安全保障条約機構(CSTO)のメンバーでありながら、「カザフスタンは(ウクライナ東部の)自称『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』を、国家として承認しない」考えを示した。

プーチン大統領はドンバス地域を親ロシア国家にしたいのだ。トカエフ大統領の反対にもかかわらず、6月にロシアがカザフスタンの石油輸出に介入したことで、カザフ政府との間に亀裂が生じた。ロシア軍が燃料価格の高騰を巡る抗議活動からトカエフ政権を守った半年後に、亀裂が生じたのだ。トカエフ大統領は1991年の独立以来最悪の暴動を契機にヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領を失脚させた。もしナザルバエフ氏がまだカザフスタンの大統領だったら、ウクライナ問題に対してもっと親ロシア的な立場をとっていただろう。

トカエフ大統領とプーチン大統領が石油市場を巡って「チキンレース」を展開したため両国の間に溝が生じている。トカエフ大統領は7月上旬、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長に「カザフスタンは東と西、南と北の間の『緩衝市場』として機能するかもしれない」と述べ、欧州市場向けにカザフ産原油を増産する用意がある旨を伝えた。これは、EUと米国によるロシア産石油の輸出制限に言及したものである。トカエフ大統領は、カザフスタンが「世界と欧州の市場を安定させる」と述べた。 原油価格は、2月のロシアによるウクライナ侵攻後、6月に1バレル120ドル近くまで14年ぶりの高値をつけたが、その後、世界不況への懸念から90ドル程度まで下落した。EUが海上輸送されるロシア産の原油を禁止すれば、原油価格は再び上昇する可能性がある。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

カザフスタンの原油出荷が価格を落ち着かせる可能性がある。世界の石油の1%(140万バレル/日)(bpd)を輸出している。この石油はEUの必要量の6%を供給しているが、もっと多く生産される可能性がある。カザフスタンは内陸国であるため、20年前から、同国の石油輸出の約4分の3がロシア黒海沿岸(カザフ領からロシアのノボロシスクの港にCPCパイプラインで輸送)を経由しており、ロシア政府がカザフスタン産石油輸出を事実上支配してきた。プーチン大統領は、トカエフ大統領が欧州に対して石油の増産を申し出たので、その報復をしようとしたのである。

7月5日、ロシアの裁判所が「環境基準違反」を理由にして、この1500キロにおよぶCPCパイプラインによる石油の供給を、30日間停止するよう命じたのである。これによりノボロシスクターミナルは頻繁に閉鎖されていたが(6月には港の水域で第二次世界大戦時の爆発物が発見されたとして閉鎖された)、多くのエネルギーアナリストは、閉鎖はロシアのウクライナ侵攻に対するトカエフ大統領の態度に対するプーチン大統領の不満の表れと解釈している。ロシアとしては、欧州や米国がウクライナに軍事援助を続けるなら、カザフスタンが石油やガス輸出を独自に制限するのは困るのだ。

しかしロシアによるこうした圧力は、かえってカザフスタンが石油輸出先を多様化する動きを促す可能性がある。カザフスタンの国営石油会社カズムナイガス(KMG)は、アゼルバイジャンの国営石油会社ソカールと、トルコのジェイハンに至るバクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン(BTCパイプライン)を通じてカザフの石油を輸出する協議を進めた。この新しい輸出ルートは9月に開始されるが、ロシア経由のCPCパイプラインの日量140万バレルに比べれば、その石油輸送能力は小さい。

Location of Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline/ By Charles - Own work, CC BY-SA 4.0
Location of Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline/ By Charles – Own work, CC BY-SA 4.0

バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)ルートは、アゼルバイジャンとロシア領を避けることで合意しているため、カザフスタンはカスピ海を渡ってバクーに石油を輸出しなければならなくなる。カザフスタンはまた、2023年にアゼルバイジャンのバクー・スプサパイプラインを経由してジョージアの黒海沿岸のスプサからも国際市場に石油を輸出することを提案している。BTCルートを通じた出荷量は10万bpdで、ロシア経由のCPCパイプラインルートの8%に相当する。プーチン大統領とトカエフ大統領の確執で、欧米の制裁がロシアの軍事的努力に与える影響も変わってくるかもしれない。紛争が激化すれば、中国、EU、米国はカザフスタンとの関係を強化し、ロシアの勢力圏に影響力を持つようになるかもしれない。(原文へ

INPSJ Japan

*この記事は2022年8月25日に配信されたものである。

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非核世界は若いリーダーから始まる

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連はいまや、「核兵器なき世界」を実現するためには、未来の若いリーダー達を中心に始めるべきだと考えている。

この大胆な目標を追求するにあたって、国連軍縮部と日本政府は、この殺戮兵器を世界からなくすことに貢献するための革新的な学習プログラムへの応募を若者たちに呼びかけている。

「ユース非核リーダー基金」と呼ばれる世界的な研修プログラムの公募が始まっている。

国連軍縮部が運営し、日本政府の財政負担によって可能となったこの研修プログラムは、18歳以上の若者を対象に最大100名の奨学金を提供する。

岸田文雄首相は昨年8月、核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議の場において、この新たな軍縮教育・人材育成を目的としたプログラムのために国連に対して1000万ドル(約13・3億円)を拠出すると表明した。日本政府はこのイニシアチブを通して、世界から若者らを広島・長崎に招き、被爆の実相に触れもらい、原爆の惨禍を世界に伝えることをめざす。

Mr. Fumio Kishida, Prime Minister of Japan delivering a speech at NPT Review Conference at the UN General Assembly Hall on August 1, 2022/ Photo by Mariko Komatsu
Mr. Fumio Kishida, Prime Minister of Japan delivering a speech at NPT Review Conference at the UN General Assembly Hall on August 1, 2022/ Photo by Mariko Komatsu

国連軍縮部は、「核兵器は戦時に使用されたのは2回(1945年の広島・長崎への原爆投下)のみだが、現在も約1万2500発ほどの核兵器があり、これまでに2000回以上の核実験が行われてきた。1発の核兵器が都市全体を破壊し、何百万人もの命を奪う可能性があり、その長期的な破滅的影響によって自然環境と次世代の生命を危険にさらす。」と述べている。

このプログラムは、より平和で安全な、「核兵器のない世界」に向けた変化を生み出すために自らの才能を用いる意欲のある若者たちを支援するもので、その意図は、核兵器国、非核兵器国の双方から核不拡散・軍縮を主唱する未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらうことを主要な目的としている。

さらに、政府、市民社会、教育、研究、メディア、産業等の分野からの未来のリーダーや主要な役割を担う多様な人材による、グローバルなネットワーク作りを目指している。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

「平和・軍縮・共通の安全保障を求めるキャンペーン」の代表で「国際平和・地球ネットワーク」の共同呼びかけ人であるジョセフ・ガーソン氏は、「国連軍縮部の『ユース非核リーダー基金』について読んで勇気づけられました。国連軍縮部は核戦争防止と軍備管理・軍縮のために粘り強く活動することで、世界の人々にとってかけがえのない存在となっています。とはいえ、私の希望は、将来のリーダーを嘱望された研修生が、単に歴史や外交・ロビー活動のスキルを学ぶにとどまらず、限界を乗り越え、正統でない権威に疑問を呈し挑戦し、時には、核のアルマゲドンを容認しその準備を進める権力側の平和をかき乱す活動へと市民社会を導くようになってほしい。」と語った。

ガーソン氏はまた、「せっかく築いた軍備管理秩序が崩壊し、人類はその生存を脅かす核戦争の危機に直面しています。一方で、ロシアのクリミア支配が脅かされた場合、自暴自棄になったプーチン大統領が戦術核兵器で対応するという脅しを実行する恐れがある。」と警告した。

「そのようなことがあればウクライナにとっては大量虐殺的な意味を持ち、さらなる核のエスカレーションにつながる可能性もあります。他方で、1945年の広島原爆の爆心地近くの碑の前でG7首脳が立って写っている写真は、オーウェル的な『同意の調達』のためのものです。ここに写っている男女は、核兵器の先行使用を命令することができる存在だ。あるいは、日本の岸田文雄首相の場合、米国の核先行攻撃に依存した軍事戦略を持つ国を率いる存在です。」と、ガーソン氏は語った。

Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Ban Ki-moon/ UN Photo
Ban Ki-moon/ UN Photo

人類は、核戦争と気候変動という2つの差し迫った存亡の危機に直面しているという現実がある。2010年のNPT再検討会議を前にして、当時の潘基文国連事務総長は、世界中から集った約1000人の核廃絶活動家らに対して、「諸政府が非核世界をもたらしてくれるわけではない。」と発言している。

「核廃絶は下からの圧力によってのみ実現が可能です。今回の研修プログラムに参加する市民社会の若いリーダーたちは、核軍縮に向けた諸政府による新たな公約を勝ち取り、人類の生き残りを図るうえで必要な民衆からの圧力を形成するために、時には声をあげることも求められています。」とガーソン氏は語った。

他方、国連軍縮部は、研修参加者は今後2年で核軍縮や不拡散、軍備管理についてオンラインで学び、一部の参加者は広島・長崎での1週間の実地研修に臨む、としている。

未来のリーダー候補らは、各種シンクタンクや市民団体、メディア、外交官などの軍縮専門家と意見交換し、核軍縮や不拡散、軍備管理に関連した問題に関与し貢献する実践的なノウハウを身につけていく。

参加者らは「ヒバクシャ」と呼ばれる広島・長崎の原爆投下を生き延びた方々から教訓を学ぶことができる。被爆者らは、核兵器が引き起こす想像を絶する苦しみについて世界に訴えてきた。ヒバクシャの高齢化が進む中、彼らの力強い語り口と核兵器廃絶の訴えを未来世代に継承していくことが重要となる。

本プログラムは2023年に始まり、2030年まで続く予定だ。2030年は、広島・長崎への原爆投下から85年、核不拡散条約(NPT)発効から60週年に当たるなど、さまざまな節目の年でもある。

プログラムに参加した研修者らは、次の世代の若い核軍縮活動家を育て導く重要な役割を担うことになる。「ユース非核リーダー基金」による研修プログラム第1期生(2023~25年)に続いて研修は第4期まで行われる予定だ。プラスの波及効果を生み出し、人類を核兵器から救うという共通の目標を持つ才能ある未来のリーダーたちの世界的ネットワークが強化される予定だ。

UNODA

教育やスキルの研修、指導、その他の支援を通じて、参加者がプログラム参加後もそれぞれの関心分野と専門領域において軍縮や平和・安全保障の活動を続けていくことが期待されている。

近年、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、若者の役割が究極の変革の力であることを認識し、軍縮の大義を支持する若者の力が証明されたと指摘し、若者のエンパワーメントを大きく後押ししている。(原文へ

INPS Japan

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リベラルな国際秩序のほころびが政策志向の研究に及ぼす影響

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール

第2次世界大戦終結時に米国主導のもとで構築されたリベラルな国際秩序に崩壊が迫っていることについて、すでに何年も前から多くのアナリストが言及している。

国際政治とは、権力、経済力、そして良い国際社会を目指す理念の相互作用に基づいて、国際秩序の支配的な規範を構築しようとする争いである。この数十年の間に富と権力は西側から東側へと移行し、世界秩序のリバランスをもたらしている。中国が世界の大国へと劇的に地位を高めるにつれて世界情勢の重心がアジア太平洋へと移行すると、中国中心の秩序に適応するための西側諸国の能力や意欲について、多くの気まずい疑問が提起された。数世紀ぶりに、どうやら世界の覇権国が西側国でなくなり、自由市場経済国でなくなり、自由民主主義国でなくなり、英語圏諸国でなくなるのだ。(

より最近では、アジア太平洋という概念枠組みは、インドの象がついに踊りの輪に加わったことにより、インド太平洋の概念へと再構築された。また2014年、とりわけ2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州の安全保障、政治、経済の構造という問題が議論の最重要テーマとして再浮上している。

ロシア問題が地政学的優先事項として再燃したことに加え、核の時代に大国間の安定性を支え、予測可能性をもたらしていたさまざまな条約、協定、合意、実践からなる国際軍備管理体制の主柱のほぼ全てが崩壊した。

AUKUS級攻撃型原子力潜水艦の開発計画を伴う新しい米英豪安全保障協定(AUKUS)は、地政学的現実の変化を反映するものであると同時に、ほぼ間違いなくそれ自体が世界的な不拡散体制への脅威であり、中国との関係における新たな緊張の火種となるものと言える。2023年3月13日にサンディエゴで潜水艦計画の発表が行われた際に英国のリシ・スナク首相が述べたように、世界が直面する安全保障上の課題の深刻化、すなわち「ロシアによる違法なウクライナ侵攻、中国の強硬姿勢の拡大、不安定化をもたらすイランと北朝鮮の行動」は、「危険、無秩序、分断の全てを大きな特徴とする世界を生み出す恐れがある」。一方、習近平国家主席は、米国が西側諸国を主導して「中国に対する全面的な封じ込め、包囲、抑圧」を行っていると非難した。

最後に、地域および世界のガバナンス制度は、その根底にある地政学的、経済的国際秩序という構造から切り離すことができない。また、これらの制度は、気候変動やパンデミックといった、存亡を左右する脅威のような他の喫緊の世界的課題や危機を管理するという目的を十分満たしているとは言えない。驚くことではないが、台頭する修正主義国家は、国際的なガバナンス制度を改変して自国の利益、統治理念、好みを反映させることを望んでいる。また、これらの国は、管理機構を主要西側国から自国の首都に移転することを望んでいる。イランとサウジアラビアの和解において中国が果たした役割は、今後起こることの前触れかもしれない。

歴史の転換点を証明するような「現実世界」の出来事は、研究機関やシンクタンクに重大な挑戦を突きつけ、今後(数)十年にわたる研究課題や政策提言の見直しを迫るものである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

INPS Japan

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国家による殺人事件が過去最高を記録

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1996年、タリバンが政権を奪取したとき、最初の政治行動が、捕縛したアフガニスタン前大統領のモハメッド・ナジブラーの死体をカブールのアリアナ広場で吊るすことだった。

2021年8月15日、再びタリバンが、米国が支援するアシュラフ・ガニ政権を打倒した。ガニ前大統領は元世界銀行職員で、最も権威あるアイビーリーグの教育機関(コロンビア大学)で人類学の博士号を取得した人物である。

首都陥落前にアラブ首長国連邦(UAE)に亡命したガニ前大統領はFacebookの投稿で、ドバイに避難した理由は、「タリバンに吊るされる恐れがあったから」を記した。もしそうなっていたとしたら、タリバンは世界で唯一、2人の大統領を吊るした政府という不名誉な栄誉を手にすることになっていただろう。

しかし、不幸中の幸いそうはならなかった。またガニ前大統領は、国庫から盗んだ数百万ドルの入ったスーツケース数個を携えて大統領府から逃げ出したとする風評を否定した。

1980年4月12日、サミュエル・ドウは軍事クーデターを起こし、リベリアの大統領官邸でウィリアム・R・トルバート・ジュニア大統領を殺害した。リベリアは19世紀にアフリカ系アメリカ人の解放奴隷によって設立された国で、首都モンロビアの名称は、米国の第5代大統領ジェームズ・モンローにちなんでいる。

捕縛された前政権の閣僚らは全裸で市中を歩かされ、首都モンロビアの海岸で銃殺された。BBCは1980年4月、「リベリアで追放された前政権の13人の主要幹部が、新しい軍事政権の命令で公開処刑された。」と報じた。

この時処刑された人々の中には、元閣僚数名と、暗殺されたトルバート前大統領の兄が含まれていた。「彼らは首都モンロビアの陸軍兵舎に隣接する海岸で杭に縛られ、銃殺された。処刑を見るために兵舎に連行されたジャーナリスト等は、(処刑は)残酷で雑なやり方だと語った。」とBBCは伝えた。

しかし、一部の国では国家主導の殺人が増加している。

Amnesty International Logo
Amnesty International Logo

人権団体アムネスティ・インターナショナル(AI)は5月16日に発表した調査報告書において、2022年はイラン、ミャンマー、中国、サウジアラビア、エジプト、北朝鮮、ベトナム、米国、シンガポール等20カ国で死刑が執行され、総件数は前年比53%増の883件にのぼり、「2017年以降、世界的に最も死刑が執行された。」としている。

この死刑執行の急増は、サウジアラビアで1日に81人が処刑されるなど中東・北アフリカ地域での執行数が大幅に増えたためだ。またこの数には、中国であったとされる数千件の死刑執行数は含まれていない。一方で、6か国が死刑を全面的・部分的に廃止した。

生存者を治療する世界最大の国際組織であり、拷問の廃止を提唱している拷問被害者センターの所長兼CEOであるサイモン・アダムス博士は、IPSの取材に対して、「司法による物々しい儀式を取り払えば、死刑は冷徹に計算された国家による殺人に他なりません。死刑は、生命に対する普遍的な人権(=生きる権利)を侵害し、明らかに残酷で卑劣で異常な刑罰に当たります。」と語った。

「現在、世界の多くの国々が死刑を時代遅れで退廃的な慣行とみなしているが、多くの抑圧的な国家で死刑執行が増加していることは事実である。」

「イラン政府は、『女性、命よ、自由を!』ヒジャーブ抗議運動に対して、社会統制の手段として絞首刑をもって臨み、デモ参加者や、政治的反体制派、少数民族を処刑している。」と指摘した。

Amnesty International

同様に、ミャンマーの将軍たちも、軍事政権に対する広範な反対運動を抑えることができず、再び絞首刑を導入している。「しかし、歴史が教えてくれることは、国家は政治犯を処刑することはできても、その思想を殺すことはできないということだ。」とアダムズ博士は語った。

「国連安全保障理事会の議長国である米国と中国が、世界で最も多くの自国民を処刑している国であることは、道徳的に非難されるべきことです。両国は、国連総会で死刑執行一時停止(モラトリアム)決議に賛成票を投じた125の国連加盟国の仲間入りをする時が来たのです。」

一部の国々では、死刑の残忍なやり方は、残酷で卑劣で異常な刑罰に当たるだけでなく、拷問に当たる可能性もある。

公開絞首刑、斬首刑、電気処刑、石打ち刑などの野蛮な方法が21世紀になっても行われていることは、全人類にとって恥ずべきことだ、と指摘した。

国連の役割について問われたアダムズ博士は、「国連は、世界的な死刑廃止を進めるために、間違いなくもっと積極的な役割を果たすべきだ。」と語った。

アムネスティ・インターナショナルのアグネス・カラマール事務局長は、「中東・北アフリカの国々における死刑執行の激増は、国際法違反であり、人命軽視の現れである。」と語った。

中国を除けば、明らかになっている死刑執行数の実に90%を、この地域の3か国が占めている。イランでは2021の314から22年の576人へと急増し、サウジアラビアでは21年の65人から22年の196人とほぼ3倍に増え、アムネスティの記録によると過去30年間で最多を記録した。またエジプトでは、24人が処刑された。

アムネスティ・インターナショナルによると、中国、北朝鮮、ベトナムなど、死刑を多用することで知られる国々は、死刑に関して秘密主義を貫いているため、実際の総数ははるかに高い。

中国での正確な死刑執行数は不明だが世界で最多の国であり、イラン、サウジアラビア、エジプト、米国が続いている。

一方、死刑に批判的な国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、昨年7月にミャンマー軍事政権によって行われたミャンマーの4人の政治活動家(軍政を批判する歌で知られるヒップホップ歌手のピョーゼヤトー、「ジミー」の名で知られる活動家チョーミンユ、フラミヨーアウン、アウントゥラゾー)の死刑を「強く非難し」、彼らの家族に弔意を示した。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

グテーレス事務総長の報道官は、「事務総長は、あらゆる状況下で死刑を科すことに反対しています。今回の死刑執行は、ミャンマーで1988年以来初めて行われたもので、同国における既に悲惨な人権状況がさらに悪化したことを意味します。」と語った。

報告書の中でグテーレス事務総長は、死刑の普遍的廃止に向けた傾向を確認するとともに、死刑の使用を制限し、死刑に直面する人々の権利保護を保証するセーフガードを実施するイニシアティブを強調している。

一方、アムネスティ・インターナショナルは、6カ国が死刑を完全または部分的に廃止したことから、希望の光が見えてきたと述べている。

カザフスタン、パプアニューギニア、シエラレオネ、中央アフリカ共和国はすべての犯罪で死刑を廃止し、赤道ギニアとザンビアは通常犯罪に対する死刑を廃止した。

その結果、2022年12月時点では112カ国が死刑を全廃し、9カ国が通常犯罪に対して廃止している。 

また、リベリアとガーナでは死刑廃止に向けた法的な取り組みが進み、スリランカとモルディブの当局は死刑を執行しないことを明言している。マレーシアの議会では絶対的法定刑としての死刑を廃止する法案が審議中である。

「多くの国が死刑制度と決別し続けている今こそ、他の国もそれに続くべきです。イラン、サウジアラビア、中国、北朝鮮、ベトナムなど少数派の国々は、早急に時代に追いつき、人権を守り、人ではなく正義を執行すべきです。」とカラマール事務局長は語った。

報告書は、「国連総会では、過去最多となる125カ国が死刑執行一時停止決議に賛成票を投じた。希望を感じる一方で、2022年の悲惨な数値は闘いの厳しさを物語る。アムネスティは死刑のない世界が実現するまで、死刑廃止運動を続ける。」と述べている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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【アスタナINPS Japan/GESE=ギエルモ・アヤラ・アラニス】

ギエルモ・アヤラ・アラニス記者

「2022年初頭に起きた騒擾や、ロシアとウクライナの地域紛争などの緊張状態から巧みに脱してきたカザフスタン政府の能力は、カシム=ジョマルト・トカエフ大統領の経験と優れたリーダーシップの賜物です。」と、メキシコのホセ・ルイス・マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)は語った。

6月8日から9日にかけてカザフスタンの首都で開催されたアスタナ国際フォーラムに参加したマルチネス大使は、「カザフスタンと中央アジア地域の安定に寄与できる経験と才覚の多くは、トカエフ大統領が外相として同国の外交を牽引した時期(2002年~07年)に育んだものです。」と語った。

「トカエフ大統領の経験は、中央アジア地域の平和と安定を確保する上で大いに役立っています。カザフスタンは、この地域をまとめる最も安定した地域大国であり、我が国(メキシコ)がカザフスタンに近く大使館を新たに設置するのは素晴らしいことだと考えています。」(ホセ・ルイス・マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)

マルチネス大使は、ユーラシア研究グループ(GESE)のギエルモ・アラヤ記者の取材に対して、「今年下半期に予定されているメキシコ大使館の開設が、カザフスタンをメキシコを恒常的に結び続ける機会となり、そこではメキシコ人の経験が協力メカニズムを開く大きな可能性を秘めている。」と強調した。

アスタナ国際フォーラムでのインタビューに答える、メキシコのホセ・ルイス・マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
Flags of Kazalhstan and Mexico

「これにより、あらゆる分野でのグローバルなコミュニケーションが可能になるでしょう。とりわけ今日の世界情勢を鑑みれば、(カザフスタンが設立を主導した)中央アジア非核地帯と、(メキシコのノーベル平和賞受賞者、アルフォンソ・ガルシア・ロブレス氏が設立に寄与した)ラテンアメリカ及びカリブ海地域非核地帯の重要性が増しています。両非核地帯創設の経緯や有効性などについて両国は非核・軍縮を進めていくための協力を一層模索していくべきです。」と、マルチネス大使は語った。

 マルチネス大使はまた、トルコでトウモロコシ粉製品を販売しているグルマ社のように、現在この地域にメキシコ企業が存在することを指摘した。「中央アジア市場は、既にこの地域に進出しているメキシコ企業にとっても、これから市場拡大を目指すメキシコ企業にとっても、非常に重要になる可能性があります。」と語った。

大使は、カザフスタンには約15人のメキシコ人が暮らしていると語った。「首都アスタナとカザフスタン最大の人口を誇る都市アルマトイの2つの主要都市に暮らしており、職業は医師、アスタナ・オペラで活躍するダンサー、スペイン語の教師などです。彼らは、言葉や習慣、メキシコからの距離といった壁を取り払い、能力を発揮しています。」

ボルサ研究所(BIVA)のコミュニケーション部長であり、アスタナ国際フォーラムの分科会「創造的な経済:持続的かつ包摂的な成長の促進」でモデレータを務めたサルバドール・レアル氏は、「中央アジア・ユーラシアにおける経済大国として発展を目指すカザフスタンにとって、経済のさまざまな分野でメキシコが蓄積した経験は貴重なものだ。」と語った。

アスタナ国際フォーラムで語るBIVAのコミュニケーションディレクター、サルバドール・レアル氏 撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
“カザフスタンは、ソフトパワー、音楽、文化、芸術分野、アイデアの面でメキシコから学ぶべきことが多い。メキシコは文化大国です。” (サルバドール・レアルBIVAコミュニケーション部長)

GESEは在メキシコ・カザフスタン大使館のオルジャス・イサべコフ臨時代理大使の招待でアスタナ国際フォーラムを取材した。レアル氏は、「両国には経済全般で大いに協力を拡大する機会がある。」と強調した。

“カザフスタンはビジネスチャンスを求めて全力を尽くしています... メキシコには提供できるものがたくさんある。例えば農業部門が思い浮かびます。メキシコの農産物には非常に多くの需要があり、気候の問題を考慮してもカザフスタンの需要に応じた協力が可能です。” (サルバドール・レアルBIVAコミュニケーション部長)
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

「また、一帯一路構想に関連して、物流の重要な拠点であるカザフスタン領内で大規模に建設が進められている高速道路などのインフラにもメキシコが協力できる機会があるかもしれません。また、メキシコが自らの経験を活用する方法に精通している観光業や電気通信の分野でも、メキシコとカザフスタンの間で協力する可能性があります。」

分科会「創造的経済:持続的かつ包摂的な成長の促進」に参加したカザフスタンのアリベク・クアンティロフ経済大臣は、「この国にとって、国民の10人中3人、つまり、人口の 30% が子供であることから、創造性の発達を奨励することが非常に重要であり、問題に直面した時に解決策を考えたり、工夫したりするノウハウに関しては、おそらくメキシコの子供たちの経験が参考になるだろう。」と語った。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのスペイン人教授であるアンドレス・ロドリゲス=ポゼ氏は、「カザフスタンは大規模な市場である中国や欧州連合とのダイナミックな連携を実現するため、自国の領土が戦略的な位置にあることをうまく活かしています。また、自然資源を有効に活用して、1991年の独立時には想像もつかなかったレベルの成長と発展を遂げました。」と語った。

ポゼ教授はまた、「カザフスタン市場は魅力的で安定しており、特にクリーンエネルギーへの転換を目指すエネルギー分野では多くのビジネスチャンスがあるため、イベロアメリカ諸国は投資の機会を逃してはならない。」と強調した。

インタビューに答えるアンドレス・ロドリゲス=ポゼ教授 撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
“カザフスタンは非常に大きな潜在能力を持つ市場であり、新興市場です。経済成長が低迷しているイベロアメリカ諸国は成長機会がある市場に目を向け、それを利用する必要があります。ここには多くの機会があります。”(アンドレス・ロドリゲス=ポゼ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)

ポゼ教授は、米州銀行、アフリカ開発銀行、アジア開発銀行など、さまざまな開発銀行で勤務した経験を持つエコノミストである。2000年初頭からアジア市場に精通し、2021年からはカザフスタン問題に取り組んでいる。教授は、イベロアメリカ人の創造力がカザフスタンの日常生活にますます広がる可能性を否定していない。(原文へ

マルチネス駐トルコ大使(カザフスタン兼任)とBIVAのレアルコミュニケーションディレクター 撮影:ギレルモ・アラヤ・アラニス
セメイの平和記念公園でレポートするギレルモ・アラヤ記者

* ギエルモ・アヤラ・アラニスはメキシコのジャーナリスト・テレビレポーター。メキシコ国立自治大学(UAM)ソチミルコ校では核軍縮を研究、国際関係学の修士号を取得。カザフスタンには、2019年に国際プレスチームのメンバーとしてセミパラチンスク旧核実験場とセメイ、アスタナでは「ナザルバエフ賞」を取材した。「アスタナ国際フォーラム」には、ユーラシア研究グループのレポーターとして取材。

INPS Japan/GESE

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欧州の公務員が児童人身売買に関与した疑い

【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス】

2022年12月、ザンビアのヌドラ空港入国管理局が8人のクロアチア人を児童人身売買と文書偽造の容疑で逮捕したとのニュースが伝わり、クロアチア当局関係者がこれに関与したのではないかとの疑いが持ちあがった。

当初は、コンゴ民主共和国出身の児童の養子縁組に関する文書の真実性が疑われた。と言うのも、2017年以来、同国の児童を国境を越えて養子にすることは法的に禁じられているからだ。逮捕された容疑者は児童人身売買未遂によって訴追され、ザンビア最高裁で審理が間もなく開かれる。

養子縁組に関わる文書の偽造に関わったとされるコンゴの弁護士もあわせて逮捕されており、すべて違法と知りつつ行ったとの容疑を認めている。

ザンビアのディクソン・マテンボ内務大臣は3月21日、数ヶ月の沈黙を破り、「強制的失踪に関する国連委員会」の場で初めて待望の情報を確認した。

児童人身売買未遂容疑で12月にザンビアで逮捕された8人のクロアチア人は、偽の養子縁組書類に基づいて入手した旅行書類を使用していた。また、ザンビア政府は「正式なクロアチア国民」となった子供たちを母国コンゴ民主共和国に送還したいとの意向を持っている。

Map of Congo
Map of Congo

資源豊かなコンゴ民主共和国は1998年以来続く紛争によって混乱状態に陥っている。紛争によって500万人以上が亡くなり、100万人がHIVに感染している。これによって70万人以上の孤児が残された。しかし、新たな家族法制が制定された2017年以来、外国人が同国の子どもを養子縁組することは法的に禁じられている。

コンゴ民主共和国で作成されクロアチアの裁判所に提出された(IDNも確認した)偽造文書によって、元の文書の真正性を確認しないまま養子縁組が認定されていた。つまり、コンゴから届いた養子縁組に関する虚偽の判決がクロアチアで認められ公式なものとなっていたのだ。

これらを基礎としてこの児童らが登録され、内務省がビザを発行することになる。そののち、児童らはザンビアを通じてクロアチアに送られることになっていた。

児童の権利と養子縁組の専門家であるローリー・ポスト氏は、「このようなケースでは標準的な手続きである外交ルートを通じて書類が届かなかったため、養子縁組の信憑性そのものが疑われる状況にあった。」と語った。

「養子を取る親に一度も会ったことがないか、あるいは、クロアチアに一度も行ったことのない子どもに関して、受入国でビザを発行することはクロアチア内務省では通常行っていない。」

社会福祉家族省の広報は、(コンゴ民主共和国のように)ハーグ条約の署名国でない国からの国際養子縁組に関して同省は監督権限を持っていない、と主張した。

この10年間でクロアチアの裁判所が何人の児童の国際養子縁組を認めたのかは不明だ。内務省は94人の子どもに関してビザを出したが、社会福祉家族省のマリン・ピレチッチの報道声明によると、131人のコンゴ民主共和国出身の子どもが養子になったという。両者の数字は合わず、IDNが匿名の情報源から得た情報によると、クロアチアの家族の一員になったはずの残り37人の子どもたちの行方がわからなくなっているという。

新たに創設された「コンゴ民主共和国の国際養子縁組里親協会・クロアチア」のデータによると、104人に加えて4人の子どもが、クロアチア外に住む3家族へと里子に出されたという。国土安全保障省では正確な数を把握しておらず、子どもの行方も、現在どのような状況で暮らしているのかもわからない。クロアチア当局は自国出身の児童に対してはこのような粗雑な扱いはしないだろう。

信頼できる情報筋がIDNに語ったところによると「子ども一人当たりの値段は1万5000~4万ユーロ。子どもの養子縁組を媒介する孤児院のオーナーであるエマニュエル・コバンゴ氏は、子供1人につきおよそ1万ドルを請求する。また、弁護士や裁判の通訳、移動・宿泊費など別の費用もかかり、結局コストは1万5000ユーロから4万ユーロとなる。」という。

Photo: Artwork from the Global Report on Trafficking in Persons 2018, UNODC.
Image: Enlarged and cropped image on Cover of 2016 UNODC Global Report on Trafficking in Persons.

里親自身がIDNに語ったところによると、クロアチアの都市ズラタルの裁判官は賄賂をもらって養子縁組を承認したという。

IDNは、法的枠組みからこの問題を検討している家族法の専門家ドゥブラフカ・フラバル教授に、文書や裁判所の決定が欠如している問題について見解を問うた。

「このような行為は、刑事上の犯罪とは言えないにしても、懲罰の対象にはなる。捜査中に証拠を隠したり、証人に影響を与えたりする可能性を減らすために、彼らは職務から外されるべきだった。しかし、重要な問題は、クロアチアでは何の捜査も行われていないという点だ。」とフラバル教授は警告した。

「外国の裁判所の決定を右から左に承認するだけの行為は正当化できない。電子的記録だけではなく紙の形態でも記録が残されるべきなのだから、『記録が残っていない』は通用しない。裁判所の決定はそれぞれ別のものとして記録され、50年間は保存されるべきだ。」

「法的推論は裁判所の決定の不可欠の要素で、すべての裁判官が提示しないといけないものだ。このような判決文に何も説明が書かれていないのはどうしてか。」とフラバル氏は疑問を呈した

コンゴ民主共和国から到着したとみられる児童を迎えるためにクロアチアから里親がザンビアに来た際ですら、支払いは続いている。里親がホテルの部屋につくと、子どもを連れて行く前にさらなる書類の準備が必要だという口実の下に、里親と子ども双方から渡航用の文書を取り上げてしまう。

そこまでに多額の支払いを済ませてしまっているから、今さら断るわけにもいかない。そののち、同じ人物らが戻ってきて、さらなる文書準備のための金を請求するが、たいていは約2000ドルかかる。状況を目撃したことのある人物は「詐取は非常に巧妙な形で行われる」と話す。違法な養子縁組の手続きを経験したことのあるクロアチアの人物は匿名で、渡航用の文書を取り上げられているから「帰りようがなかった」と語った。

こうした行為は、5月26日にザンビアのヌドラ空港でクロアチア人を逮捕した警察官の裁判での証言でも裏付けられた。彼らは、コンゴの児童の人身売買の黒幕であったと検察が主張するスティーブ・ムリジャ氏は、コンゴ民主共和国の孤児院からザンビアまで児童を連れてくるのに一人当たり2040ドルを要求していたと証言した。この警察官はさらに、起訴されたクロアチア人の一人と、児童の出身地であるコンゴの孤児院を運営してたエマニュエル・コボング氏と共謀していたスティーブ・ムリジャ氏との間で、アプリ「ワッツアップ」を通じたやり取りがなされていたと証言した。

子どもの権利とルーマニアからの違法養子縁組の問題のパイオニアとして欧州委員会で20年以上も働いてきたオランダ人専門家ローリー・ポスト氏は、国際養子縁組のメカニズムを熟知している。彼女はまた『ルーマニア:輸出のみの国』と題する書籍の著者でもあり、「国際『養子縁組店ストアー』がルーマニアでの活動を閉鎖した後、コンゴ民主共和国に移ってきた。」と指摘した。

「これは国連の子どもの権利条約に違反しているだけではなく、今回のように注文・支払い・配達という手順を踏んでいるなら、まぎれもなく人身売買に他ならない。人間を売り買いするのは禁じられている。腐敗した養子縁組の慣行は子どもの権利とは何の関係もなく、ただ市場の需要に応えているだけだ。」とポスト氏は強調した。

表面上は利他的な行為であり、単に子どもを貰い受けているだけと里親側では考えるかもしれないが、それが媒介人側の手口なのだ。より深く事態を眺めてみると、養子縁組産業は、実際には孤児ではない「孤児」から搾取しようと手ぐすねを引いている者ばかりである。これが、コンゴ民主共和国の子どもたちに起こったことだ。

(匿名を希望した)一部の里親はIDNの取材に対して、コンゴ民主共和国にいる子どもの実の親たちから定期的に連絡を受けていたから、子どもが誘拐されてきたとは思わなかった、と話している。しかし、このケースにおいては、子どもの実の親だと主張する人物らがクロアチアの里親に対して金を請求しており、いわば精神的なゆすりのような状況になっている。

ポスト氏は、マフィア(つまり組織犯罪勢力)が国際養子縁組の媒介者の背後にいるとし、「このクロアチアのケースの偽造文書に加えて、里親になりたいという西側諸国の人々の要望に応えるために親から無理やりに引きはがされた子どもたちのケースもある。」と指摘した。

Aurora Weiss, UN Global Reporter
Aurora Weiss, UN Global Reporter

ポスト氏は、「同じ人物らがこの産業で暗躍しており、同時期に複数の国で活動している。」と指摘した。彼女によると、これはいわばサーカス一座のようなものだ。仲買人たちは「店」を構え、捕まれば別の国へ行き、そこで店を開く。この産業で創出されている商品は子どもだ。消費者が望むのであれば、子ども達は地球の裏側のまったく違った文化の国にでも連れて行かれる。

クロアチア政府に捜査の意思がないことは、公務員がこの組織犯罪に加わっており、それを隠蔽しようとの圧力が働いていることを示唆している。クロアチアは昨年、強制的失踪に関する条約を批准しており、国連人権高等弁務官事務所の強制失踪委員会(CED)がこの問題を管轄している。(原文へ

注:法手続きが進行している関係上、多くの関係者が本件の報道にあたって匿名を希望した。

※この件が報道されたのち、ザンビアの裁判官が6月1日にクロアチアの4組の夫婦に無罪を言い渡したと報じられた。彼らは児童人身売買の容疑で半年近く収監されていた。首都ルサカ北方にあるヌドラの裁判所でメアリー・ムランダ裁判官は、この8人に対する「訴追には十分な証拠が得られなかった。したがって無罪を言い渡す」と述べた(AFP通信による)。違法な養子縁組に関する捜査はクロアチアと欧州各国で続けられることになる。

INPS Japan

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核兵器禁止条約の普遍化が不可欠(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ

仏教指導者で世界平和の構築を一貫して訴え続けてきた池田大作氏(創価学会インタナショナル(SGI)会長、東京)は、5月19日から21日まで広島で開催された主要国首脳会議(G7サミット)に先立ち提言を発表し、G7首脳に対し、ウクライナ紛争の解決に向けて大胆な措置を取り、「核兵器の先制不使用」の誓約に関する協議を主導して人類の安全を保証するよう呼びかけた。

今回のG7サミット開催地は、1945年の米国による原爆弾投下により広島・長崎合計で22万6000人以上が殺害されている(両都市では広島の方が被害が大きかった)ことから、象徴的な場所であった。

しかし、G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7カ国と欧州連合)の首脳は、ロシア・ウクライナ紛争や「核兵器の先制不使用」の誓約について大胆な措置を取ることができたのだろうか。

IDNは、寺崎広嗣SGI平和運動総局長にインタビューした。全文は以下のとおり。

Q: ウクライナ問題が焦点となり、ロシアと中国がG7を批判する中で5月21日に終了した広島サミットの結果をどのように考えておられますか。

Hiroshima Peace Memorial (Genbaku Dome) Photo Credit: SGI
Hiroshima Peace Memorial (Genbaku Dome) Photo Credit: SGI

寺崎:人類史上、初めて原爆が落とされた広島は、平和の原点であり、この地で核兵器全廃のための首脳会議を開くべきだ―池田SGI会長が1975年以来、繰り返し訴えてきたことです。

今回のサミットで核軍縮に向けて具体的前進があったとは言い難いですが、それでもなお、G7の首脳が、核兵器の惨禍を象徴する広島に会し、直接、被爆者の話に耳を傾け、被爆の実相に触れたことは、意義深いと感じています。

コミュニケが出されましたが、問われるのは、グローバルな危機に対処する、主体的な行動です。各国がイデオロギーや利害の壁を越えて、世界の平和のために開かれた対話を促進することを、強く望みます。

Q: 広島G7サミットは、ロシアとウクライナの敵対行為の停止に関して何を達成したと見ておられますか。停戦に向けた具体的な計画は策定されたでしょうか。

寺崎:まさに人々の悲願も、国家指導者たる者の責務も、第一に、壊滅的な結末の回避にあるはずです。

Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.
Wreath-Laying at the Cenotaph for the Atomic Bomb Victims by G7 leaders—Italy’s PM Meloni, PM Trudeau of Canada, President Macron of France, Summit host Fumio Kishida, US President Biden, and Chancellor Scholz—flanked by European Commission president von der Leyen (right) and European Council president Michel (left). Credit: Govt. of Japan.

残念ながら、サミットではウクライナへの支援とロシアへの制裁強化や非難は表明されたものの、停戦に向けての交渉の具体的な計画は十分に示されていないと感じます。しかし、「グローバルサウス」との連携が強化された点は歓迎するものです。

これ以上、戦火によって苦しむ人々が拡大しないよう、私たちも、関係国が戦闘の全面停止に向けて協議の場を設けられるよう、より以上、声を上げ続けて参ります。

Q: 池田博士は提言の中で「先制不使用の誓約」は、核不拡散条約(NPT)と核兵器禁止条約をつなぐ車軸として、「核兵器のない世界」の実現を加速させることができる「希望の処方箋」となると訴えましたが、G7は広島サミットでこの議論をリードすることを約束したでしょうか。

寺崎:実際のところ、確たる成果は見えません。しかし、「種」は植えられたと信じたい。後世の人から「あれが時代の転換点だった」と言われる現実的な一歩を踏み出すべきではないでしょうか。

NPTと核兵器禁止条約の目的は、「核兵器なき世界」という点で一致しています。核兵器使用のリスクがかつてないほど高く、長期化する今、それを脱するための土台となるのが、核兵器国による「核兵器の先制不使用」にほかなりません。それこそが、NPTと核兵器禁止条約を繋ぐ土台になるものであり、「核兵器の先制不使用」の誓約に関する協議をG7が主導して進められるよう、引き続き働きかけていきたいと思います。 

Q: 「核兵器禁止条約の精神」は、G20バリサミットの首脳宣言に明記した「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」との認識にも反映されていますが、G7は、広島から世界に向けてこの精神を力強く発信することに成功したでしょうか。

寺崎:今回のサミットで「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」が出され、G20バリ首脳宣言についても確認したことは、特筆すべきことでしょう。

SGI joined with other NGOs to hold a side event at UN Headquarters during the NPT Review Conference to emphasize the urgency of the pledge of no first use of nuclear weapons. / Source: INPS Japan

しかし、「他国の核兵器は危険だが、自国の核兵器は安全の礎である」との思考に基づく核抑止政策を転換していかなければ、人類は、いつ崩落するかわからない断崖に立ち続けるようなものです。この強い危機感から、被爆者や市民社会が後押しして誕生したのが核兵器禁止条約であり、その普遍化がますます必要です。

そのためにも、「核兵器の先制不使用」の誓約を基に、厳しい現実を乗り越える協議が前進するよう、引き続き核兵器の非人道性の認識を地域に、世界に広げて参ります。(英文へ

INPS Japan

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気候変動はオーストラリアの国家安全保障にとって脅威か?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トビアス・イデ】

気候変動活動家から、新しいティール政治運動、そして著名な防衛専門家まで、より多くのオーストラリア人たちが、気候変動がもたらす安全保障上の影響について懸念を表明するようになっている。同国が長い海岸線を有し、山火事やサイクロン、干ばつ、そして最近ではオーストラリア史上最悪の洪水が頻繁に発生していることを考えると、このことは驚くには当たらないかもしれない。

ある最新の論文が、気候変動がオーストラリアの国家安全保障を損なっているか否か、損なっているとすればどのように、という問いに対して包括的な答えを示している。従来の学術研究は、大半が様々な分野に散らばっていた(その多くが有料閲覧であり一般の人はアクセスできない)。様々なNGO政府機関がその隙間を埋めようと挑み、いくつかの画期的な作業を行ったが、科学的な研究は選択的にしか活用されていない。このトピックに関する最近の政府報告書は、機密扱いのままである。(

まず、既に2050年までに、オーストラリアの平均気温は現在より1.1°Cから1.5°C上昇すると予測されており、山火事が起こりやすい気象条件の発生する可能性は8%高まり、洪水のリスクは大幅に増加し、干ばつが農業生産性を低下させるといわれている。これらの展開が相まって、人々の健康と経済の安定の点で、人間の安全保障にとっての深刻な脅威となっている。

海面上昇と、国土全体にわたる洪水、火災、干ばつ及び熱波のリスクも、国家安全保障に深刻な影響を及ぼしている。最近の研究によれば、二つの脅威が特に深刻である。

第1の脅威は、気候変動が主要なインフラ、特に輸送部門とエネルギー部門を混乱させるということだ。オーストラリアでは、海岸沿いや洪水や火災のリスクがある地域に何千キロメートルもの道路、鉄道、電線が走っている。2050年までに、海岸浸食だけでも、300を超える警察署、消防署および医療施設に脅威が及ぶと予測されている。熱波の際には、空調需要の高まりと、火災によるエネルギー・インフラの損傷で、送電網に負荷がかかる。より強力な熱帯性低気圧は、複数の種類のインフラを破壊する力があり、最近ではサイクロン「ガブリエル」がニュージーランドを襲った際にそういった例が見られたが、被害のリストはさらに続く可能性がある。

この新しい研究は、気候変動が国家安全保障にもたらす第2の主な脅威として、軍事力への影響を指摘する。オーストラリア国防軍は、民間と同じインフラに依存していることが多いため、その脆弱性を共有することになる。例えば、(アリス・スプリングスとキンバリーを結ぶ)タナミ・ロードは、オーストラリアがインド太平洋地域における国際紛争に関与する必要が生じた場合には、重要な戦略資産になりうる。しかし、この道路は熱波と洪水の被害に対して非常に脆弱である。

軍専用のインフラも同様に脅威に晒されている。この点に関する情報は一部、機密扱いとされているままだが、国防省は、沿岸部の基地のいくつかは、洪水と海面上昇によって高い危険に晒されていると考えている。それに加えて、オーストラリア国防軍は、気候変動後の世界では、より多くのリソースと人員を災害対応に投入しなければならなくなるだろう。国内でもアジア太平洋地域でも、大災害の時には、オーストラリア軍は主要な救援部隊となることが多い。こうした気候変動の影響が同時に発生したり、国際的緊張が非常に高い時期に発生したりした場合、これはオーストラリア国防軍の能力を非常に酷使することになる可能性がある。

研究は、他にも多くの国家安全保障上の脅威を指摘している。

気候変動は、国際的な戦争を引き起こすわけではないが、オーストラリアの近隣諸国の政治的不安定性のリスクを高める可能性は大いにある。大規模災害によって反政府感情が高まり、絶望した被災者が援助や収入を求めて過激派グループを頼るということがあり得る。また専門家たちは、災害によって引き起こされた移住と、一部の太平洋島嶼国における地域紛争を関連付けている。気候関連の災害は、人口が多く、少数民族への政治的差別があり、人間開発のレベルが低い国で、暴動を引き起こす可能性が非常に高いことが証拠によって示されている。これら三つの要素は、インド、フィリピン及びパプア・ニューギニアを含め、(東)南アジアおよび太平洋地域に多く見られる。

新型コロナウイルス感染症の流行は、グローバルなサプライチェーンに大きく依存している国がいかに多いかを示した。もし気候変動がナイジェリアやイラクのような主要産油国の政情不安を促進した場合、オーストラリアの社会、経済そして軍事は、燃料価格の高騰に対応しなければならなくなるだろう。さらに、オーストラリアは、経済およびインフラにとって欠かせない、自動車、電子部品、医療品など複数の製品の主要な輸入国でもある。それらの製品の多くは中国南西部で生産されているが、同地域では最近、猛烈な熱波のため数日間にわたり工業生産が停止した。このような熱波は、洪水や暴風雨とともに、気候変動の未来ではより頻繁に発生すると予想され、民間、軍事および経済のインフラにとって不可欠な産品の供給の障害となる可能性がある。

この論文は、気候変動によってもたらされるその他の国家安全保障上の脅威、例えば、大規模な移住や国際的な漁業紛争などについても論じているが、それらは可能性が低いか、重要度が低いと見なしている。それでも、今後30年間で気候変動はオーストラリアの国家安全保障の様々な側面を損なうであろうことがかなり明確であると言及している。これらの影響に対応するために、政策立案者らは、大胆な気候変動低減策、避けられない気候変動に対する、紛争に配慮した持続可能な適応策、そして、協調的な国際平和・開発政策という三つの面からなる戦略を追求するのが賢明であろう。

トビアス・イデは、マードック大学(パース)で政治・政策学上級講師、ブラウンシュヴァイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。

INPS Japan

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サイクロンとモンスーンの季節に直面するパキスタンで食糧不安の恐れ

【ペシャワールIPS=アシュファク・ユスフザイ

パキスタンが今後数ヶ月の間に深刻な食糧不安に直面する可能性があるという国連による警告は、人々が依然として避難所や薬、適切な食糧なしで暮らしている洪水の被災地に焦点を当てるよう政府に呼びかけるものだ、とアナリストは述べている。

この警告は、イスラマバードの国立予報センターが、今後数日以内に超大型のサイクロンビパルジョイがパキスタンに上陸すると予想される中で発せられた。

今後サイクロンの移動に伴い激しい嵐と強風が予想されるパキスタンのシンド州とインドのグジャラート州では約8万人の集団避難が行われている。

嵐とモンスーンシーズンの到来を前に、最近発表された国連の報告書は、もしパキスタンの経済・政治危機がさらに深刻化し、2022年の洪水被害(パキスタンはその被害から未だに回復していない)が悪化すれば、パキスタンにおける急性食料不安は今後数ヶ月でさらに悪化する可能性があると警告している。

FAO/WFP
FAO/WFP

国連食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)が共同で発表した「ハンガー・ホットスポット」と題する報告書は、昨年6月から7月にかけて大洪水に見舞われた住民のニーズに応えることができていないパキスタン政府に対して痛烈な警告を発している。さらにこれら2つの国連機関は、2023年6月から11月までの見通し期間中に、パキスタンを含む22カ国・81の飢餓地域で、深刻な食料不安がさらに悪化する可能性が高いと警告している。

この報告書によると、パキスタン、中央アフリカ共和国、エチオピア、ケニア、コンゴ、シリアは深刻な飢餓は発生する懸念があるホットスポットであり、ミャンマーにも警告が及んでいる。

パキスタンのタリク・バシール・チーマ連邦国家食料安全保障・研究大臣は、パキスタンで「急性食料不安」が起こりうるとしたこの報告書について、「センセーショナリズムを広め、(パキスタンを)アフリカ諸国のように飢餓ホットスポットと断定しようとする試みだ。」と述べて異議を唱えた。

チーマ大臣は、「2つの国連機関がパキスタンをアフリカ諸国のような飢饉の『ホットスポット』と宣言することを望んでいる。しかし、パキスタンは今年小麦が豊作で、前年の繰越在庫と合わせて2850万トンの小麦生産が記録された。」と、IPSの取材に対して語った。

しかし、現地で活動するアナリストやNGOは、この国連報告書の内容は正確であるとし、新たな洪水の波が来る前に食料安全保障のための強力な対策を講じるようパキスタン政府に促した。

経済学者のムハンマド・ザヒール氏はIPSの取材に対して、「パキスタンを襲った未曾有の大洪水からほぼ1年が経過したが、洪水の被災地に住む1000万人以上の人々が安全な飲料水へのアクセスを奪われたままであり、被災者の家族は病気になる可能性のある汚染水を使うしかない環境にある。」と語った。

1月、ジュネーブで開催された会議では、パキスタン洪水被災者への支援として、163億米ドルの復旧費用に対して107億米ドル以上の拠出が約束された。

「会議で約束された金額はすべて融資であり、随時パキスタン政府に送られることになります。しかし、洪水に見舞われた人々はまだその恩恵を受けていません。シンド州、バロチスタン州、カイバル・パクトゥンクワ州の一部で被災者らは、今後さらなる豪雨に見舞われる恐れがあることから一層の支援を必要としています。」と語った。

The projected path of Cyclone Biparjoy.  About 80,000 people are expected to be evacuated ahead of the storm. Credit: India Meteorological Department
The projected path of Cyclone Biparjoy.  About 80,000 people are expected to be evacuated ahead of the storm. Credit: India Meteorological Department

報告書によると、850万人以上の人々が高レベルの急性食料不安に見舞われる可能性がある。

昨年の洪水により農業部門に300億ルピーの損害と経済的損失が発生し、今般のサイクロン来襲で状況はさらに深刻化している。

国連開発計画(UNDP)によると、災害後のニーズアセスメント(PDNA)では、洪水被害が149億米ドル以上、経済損失が152億米ドル以上、復興需要が163億米ドル以上と見積もっている。

また、経済・政治危機により家計の購買力が低下し、食料やその他の必需品を購入する能力が低下しているため、食料不安と栄養不良の状況は見通し期間中に悪化する可能性が高いと指摘している。

ユニセフの報告書によると、栄養不良が多く、水や衛生設備へのアクセスが悪く、就学率が低いなど、厳しい状況にある地区では、960万人の子どもを含む推定2060万人が人道支援を必要としている。

「衰弱し飢えた被災地の子どもたちは、重度の急性栄養失調、下痢、マラリア、デング熱、腸チフス、急性呼吸器感染症、痛みを伴う皮膚疾患に苦しんでいる。」

「ユニセフは、緊急の人道的ニーズに対応すると同時に、故郷に帰還する被災者のために、既存の保健、水、衛生、教育施設の修復やリハビリ支援を続けていく予定だ。推定350万人の子どもたち、特に女児が、永久に学校からドロップアウトする高いリスクにさらされている。」

「しかし、洪水により避難したすべての家族に確実に手を差し伸べ、この気候災害を克服できるようにするためには、さらに多くの支援が必要だ。また、被災者がこの深刻な被害から立ち直るには、数年とは言わないまでも、数カ月はかかるだろう。」と報告書は述べている。

この洪水により3300万人が被災し、1700人以上の人命が失われ、220万棟以上の家屋が損壊・破壊された。洪水により被災地のほとんどの水道が被害を受け、250万人の子どもを含む540万人以上が池や井戸の汚染された水のみに頼らざるを得なくなった。

スワット地区の洪水で家と数頭の家畜を失ったスルタナ・ビビさん(50歳)は、これまでのところ政府からの援助はないと語った。

「初期のころは地元のNGOから食料品をもらっていましたが、家を再建するには資金援助が必要です。多くの人がまだ親戚と暮らしています。」と、ビビさんはIPSの取材に対して語った。

スワット地区やその他の地域で支援活動を行っているパキスタンのNGOアルーキドマット財団の代表は、「状況はまだ改善されていない。」と指摘した上で、「栄養失調の根本的な原因は、安全でない水と不衛生な環境です。下痢などの感染症は、子どもたちに必要な栄養の摂取を妨げます。栄養失調の子どもたちは、すでに免疫力が低下しているため、水系感染症にも罹りやすく、栄養失調と感染症の悪循環が続くことになります。」と語った。

「6月に入り、さらなる洪水が懸念されています。昨年はこの月に大洪水に見舞われました。政府は国民を助けなければなりません。今年再び洪水に見舞われた場合、昨年の大洪水の被害から回復していない人々は、一層深刻な被害を被るだろう。」と、アナリストのアブドゥル・ハキム氏は語った。

A flooded village in Matiari, in the Sindh province of Pakistan. Credit: UNICEF/Asad Zaidi
A flooded village in Matiari, in the Sindh province of Pakistan. Credit: UNICEF/Asad Zaidi

パキスタン医師会のアブドゥル・ガフール博士は、「洪水で破壊された医療施設が稼働していないため、人々は依然としてNGOが主催する医療キャンプに頼っています。」と指摘した上で、「パキスタン政府はFAO/WFPの報告書を真摯に受け止め、水や食品を媒介とする病気から被災者を守ってほしい。」とIPSの取材に対して語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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カホフカダム崩壊の影響について、今最も重要なのは人々を救うこと。(マーティン・グリフィス国連緊急援助調整官兼人道問題担当事務次長)

国連人道問題事務所は、カホフカ水力発電所のダム崩壊によって被災した地域を支援するための3段階の計画を策定した。当面は、もっぱら人命救助と人々の避難にあたっている。一方で、ウクライナのロシア占領地域に暮らす被災者へのアクセスを得るため、ロシア政府とも交渉中である。グリフィス国連緊急援助調整官兼人道問題担当事務次長は、国連ニュースサービスのナルギス・シェキンスカヤの独占インタビューに応じ、次のように語った。

【国連ニュース/INPSJ=ナルギス・シェキンスカヤ】

シェキンスカヤ: この3日間、報道によると、ウクライナの国連は、ゼレンスキー大統領自身(=「国際機関が災害地域にいないのであれば、それは存在しないか、あるいは能力がないことを意味する」と語った。)を含め、批判されています。こうした批判はどこまで妥当だとお考えですか?

グリフィス:こうした批判は理解できます。現在ウクライナが置かれている状況下では、危機対応活動を組織することは、国連のみならず、すべての人道支援団体にとって困難なのが実情です。しかし、ゼレンスキー大統領の反応はよく理解できます。彼は国民に寄り添った人物で何が起こっているのかをよく理解しているからこその批判だと思います。だから、私たちはそのことにこだわってはいません。私たちは、できるだけ早く人々を助けることに集中しています。

シェキンスカヤ:このような批判が、現地にいる国連職員を困難にさせていると思いますか?

Фото ООН/Э.Шнайдер Заместитель Генерального секретаря по гуманитарным вопросам и Координатор чрезвычайной помощи ООН Мартин Гриффитс дает интервью Службе новостей ООН.
Фото ООН/Э.Шнайдер Заместитель Генерального секретаря по гуманитарным вопросам и Координатор чрезвычайной помощи ООН Мартин Гриффитс дает интервью Службе новостей ООН.

グリフィス:過去数ヶ月間、私たちはウクライナ政府と地方当局の両方と強い絆を築いてきました。私自身もクリスマスイブにへルソンミコライウを訪れ、地元当局と面会しました。私たちはこれまでずっと、現地で人道支援を続けてきましたし、今も続けています。

例えば、昨日、人道支援物資を積んだ2つの輸送隊がへルソンに送られましたし、今日も1隊が向かっています。つまり、国連の人道支援メカニズムは機能しているのです。

シェキンスカヤ:今、短期的、長期的に優先すべきことは何でしょうか?

グリフィス:今は、緊急救援活動を行っている段階です。まずは、浸水した地域から人々を脱出させる必要があります。一両日中にボートで全ての被災者のところへ行けるようにしたい。それが今、最も重要なことです。次に、清潔な水、医療品、食料を提供し、人々が立ち直るのを支援する必要があります。

そして、次の段階に進みます。大型ダムを決壊させるという衝撃的な行為がもたらす人道的な結果を検証し始めるのです。約70万人の人々が清潔な飲み水を失っているという事実、そして世界で最も地雷が多い地域で起こった水害で地雷が漂流している現実を検証しなければなりません。また、被災住民、とりわけ子供たちの生活、水供給、医療サービスに配慮しなければなりません。

第3段階では、経済的、環境的な影響に対処することになりますが、これは衝撃的なものになると思います。なぜなら、その影響はウクライナだけにとどまらないからです。例えば、ウクライナは穀倉地帯であり、被災地域の大部分で、すぐに作物を生産できないことを鑑みれば、世界の食料価格にも悪影響を与えるでしょう。

シェキンスカヤ:そのような長期的な影響の規模を何とか小さくするために、今日何かできることはないでしょうか?

グリフィス:今大切なことは、人々を救助し、安全な場所に移動させることです。特に子どものいる家族には、病気にならないよう、食料ときれいな水を提供しなければなりません。それが現時点での最優先事項です。

しかし、その後、中長期的な被害状況を把握することができれば、これまで世界の他の地域について国連が行ってきたように、緊急アピールを開始することになるでしょう。

シェキンスカヤ:緊急作戦といえば。ヘルソンの地元当局は、被災者を救助するためにモーターボート、ドローン、その他の高度な機器が必要だと述べています。国連にそれを支援する能力はあるのでしょうか?

グリフィス:はい、そうした経験はあります。例えば、世界食糧計画には、被災者を水上で安全な場所に運ぶための船が用意されています。

ジュネーブにある国連人道問題調整事務所は、トルコ・シリア地震の後、同様のオペレーションを行いました。救助隊は、最も助けが必要な場所で活動し、捜索と救助活動を調整しました。ウクライナでも、間違いなく、そのような支援を動員する準備が整っています。

シェキンスカヤ: 既にそのような依頼は来ているのでしょうか?

グリフィス:まだですが、デニス・ブラウン ウクライナ人道支援調整官が既にこのテーマで交渉しているとしても私は驚かないでしょう。彼女は、ウクライナにおける国連の最高位の代表者で、現在へルソンとミコライウを訪れています。彼女はきっと、このテーマで地元当局と話をすることでしょう。

シェキンスカヤ:ユニセフの報告によると、ダム破壊の結果、川を挟んだ対岸のロシア占領地には、支援を必要とする人々が約2万5千人いるとのことです。これらの地域への国連のアクセスについて、何かニュースはありますか?

グリフィス:ダムが決壊して以来、私たちはロシア当局と連絡を取り合っています。私自身、国連常駐代表部の人たちと会いましたが、文字通りこの30分(金曜日の夕方、編集部注)、彼らと連絡を取り合い、前線を越えて安全にアクセスする許可を求めています。

これは人道支援機関にとっては標準的な手続きです。シリアでもスーダンでも、他の国でもそうでしたし、ウクライナでも戦争が始まって以来、この方式で活動しています。いつ、どこに、何人、どんな荷物を運ぶのか、計画を双方に伝える。合意できることを期待しています。

シェキンスカヤ:今、洪水について、大きな誤報キャンペーンが行われています。このキャンペーンへの対策を緊急対応計画に盛り込むべきだとお考えでしょうか?

グリフィス:私は、人道主義者は情報戦に巻き込まれることなく、もっと大きな仕事をするべきだと確信しています。私たちは、人々のニーズについて真実を伝え、そのニーズを満たすための方法について明確な考えを持つ。これが私たちの義務です。私たちは、戦争がもたらす他の結果には関与しません。

シェキンスカヤ:ウクライナの被災地の人々に伝えたいことは?

グリフィス: 私は彼らに連帯と共感の言葉をかけたい。あなた方は、もう1年以上も続いている戦争を経験しなければなりませんでした。そして今回の大洪水。あなた方は夜中に爆発で起こされた。洪水は、あなた方が望んでいた未来を奪っていく。生活を破壊し、生計を奪う。このような状況において、メッセージは非常にシンプルです:私たちは、この困難な時にあなた方と共にいます。そして、神様がこの悪夢を止めてくださることを願っています。

シェキンスカヤ:次にスーダン情勢についてですが、これも今日、国連が対処しなければならない危機的状況です。 スーダンの国連事務所長がペルソナ・ノン・グラータとなった場合、現地での人道支援活動にどのような影響があるのでしょうか?

MG:今、スーダンで私たちが優先しているのは、人道的アクセスの確保です。ご存知のように、最近、24時間の敵対行為停止計画が策定されました。停戦は6月10日(土)に開始されます。私たちは、これがうまくいくことで、人道支援を提供する機会が得られることを望んでいます。住民はこの援助を切実に必要としています。私たちは現在、スーダン国軍と即応支援部隊双方と連絡を取っています。彼らは輸送隊の自由な移動のための手配を約束しました。私たちは、チャドから西ダルフールまでの国境を越えた作戦に合意したのです。内戦勃発以来5、6週間何も物資が届かなかった人々にとって、これはとても重要なことです。

それ以上に、この内戦を終わらせ、スーダンを民政に戻すプロセスを開始することが根本的に重要なのです。 紛争が最終的に解決され、支援が必要なくなること、それが、援助に携わる者たちの願いです。(原文へ

UN News Service/ INPS Japan

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