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|視点|見るも無残な核軍縮の現状(ジャクリーン・カバッソ西部諸州法律財団事務局長)

【オークランド(カリフォルニア)IDN=ジャクリーン・カバッソ】

2022年は、核軍縮にとって悪夢のような年だった。この年は、私たちに多少の安心感を与えた1月3日の核保有5カ国の共同声明から始まった。声明は、「中華人民共和国、フランス共和国、ロシア連邦、グレートブリテン及びアイルランド連合王国、アメリカ合衆国は、核兵器国間での戦争の回避と戦略的リスクの低減が我々の最大の責務であると考える。我々は、核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならないことを確認する。」と宣言している。

Image source: Sky News
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しかし、2カ月も経たないうちにロシアはウクライナに対する残虐な侵略戦争を開始した。核使用の威嚇が陰に陽になされ、核戦争の危険性に対する懸念は冷戦期の最も暗い時代以来最も高いレベルになっている。そして、核軍縮の進展の見込みはそこから下降していった。

1月3日の共同声明はこうも誓約している。「我々は、『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき[中略]誠実に交渉を行うこと』とした第6条を含む、核不拡散条約(NPT)を守り続ける」。

しかし、NPT発効から50年以上を経てもなお、核兵器国の行動は真逆を向いている。NPT外で核を保有する4カ国(インド・イスラエル・パキスタン・北朝鮮)を含むすべての核保有国は、核戦力を質的に強化し、一部には量的にも増大させる高価な計画を実行している。

8月に開催された第10回NPT再検討会議は明らかに失敗であった。これは、最終文書への合意できなかったというよりは、核兵器国がNPT第6条の核軍縮義務に従わず、1995年の条約無期限延長と2000年・2010年の最終文書に関連して合意した核軍縮につながる行動計画への誓約にも反していたからだ。

軍事的対立を回避し、安定性と予測可能性を強化し、相互理解と信頼を高め、誰をも益せず、すべてを危険にさらす軍拡競争を防ぐために、二国間および多国間の外交的アプローチを引き続き追求するつもりである」という共同声明の心強い文言にもかかわらず、その実、新たな核軍拡競争が起こっている。攻撃的なサイバー能力や人工知能、超音速技術、中距離運搬システムへの回帰、通常弾頭・核弾頭の双方を搭載可能な運搬システムの生産によって、状況はさらに複雑さを増している。

9月から10月にかけて、米国の中間選挙結果やウクライナにおけるロシアの核の恫喝に注目が集まる中、朝鮮半島では北朝鮮が相次いでミサイル実験を行い、憂慮すべき事態が発生していた。

Photo credit: journal-neo.org
Photo credit: journal-neo.org

北朝鮮の国営通信によると、一連の実験は、米韓による大規模な海軍演習に対する警告として、韓国を戦術核で攻撃するとのシナリオの下、なされたという。

1年が終わろうとしているが、イランとの原子力協定再開に関する協議は停滞している。イランがウラン濃縮を進める中、サウジアラビア外相は「もしイランが作戦使用可能な核兵器を取得したら、すべては一変する。」と宣言した。

この混乱した状況の中、ロシアのウクライナ侵攻から10カ月が経ち、ジョー・バイデン政権は核戦略の指針を示す「核態勢見直し(NPR)」を作成した。米国の国家安全保障政策において核抑止及び核兵器使用の威嚇が中核的存在であることを改めて確認した形だ。

NPRは、ロシアと中国を戦略的競争相手かつ潜在的敵対者と規定し、北朝鮮とイランをより程度の低い潜在的敵対者とみなした。こうした評価は火に油を注ぐようなものだと理解される可能性もある。「軍備管理の再重視」を口実にしながら、実際には「当面の間、核兵器は米国の軍事力の他の要素では代替できない独自の抑止効果を提供し続ける。」と宣言している。そのために「米国は、核戦力や核の指揮・統制・通信(NC3)システム、生産・支援インフラを改修し続ける。」としている。

米上院が12月15日に可決した国防授権法に盛り込まれた8580億ドルという膨大な予算によって、この方針は裏づけられている。ここでは、NPRが求めた額よりも多い500億ドルが核兵器関連に割り当てられている。

核軍縮の現状は、軍需企業「ノースロップ・グラマン」がカリフォルニアの本社で12月3日に華々しく公開された爆撃機B-21「レイダー」に象徴されるかもしれない。第6世代と呼ばれるB-21は、核弾頭と通常弾の両方を搭載できる30年以上ぶりの新型戦略爆撃機である。

Photo: Jacqueline Cabasso presenting at the NPT Review Conference, United Nations, August 2022.
Photo: Jacqueline Cabasso presenting at the NPT Review Conference, United Nations, August 2022.

最新のステルス技術を導入し、世界中に展開する。初期の計画では無人化のオプションも含まれていた。B-21はB-1BとB-2A爆撃機に取って代わり、核兵器を格納できる米国内の戦略爆撃機基地は、現在の2カ所から2030年代半ばまでに5カ所に増やされる予定である。といった具合である。

核保有国とその同盟国の政府は、軍事力による国家安全保障の概念を強化することで、何が何でも人類を破滅への道へと導いているのである。

世界中の人々が非暴力で立ち上がり、人間のニーズを満たし環境を保護することを最優先とする政府間の協力に基づく、これまでと異なる安全保障概念の実現を要求すべきだ。(原文へ

INPS Japan

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|中国| 健康危機から政治的危機へ?

【ブリュッセルIDN=ヤン・セルヴァース】

中国は、3年近くに亘って新型コロナウイルスの感染を徹底して抑え込む、いわゆる「ゼロコロナ政策」を推進し、何百万人もの命を犠牲にコロナとの共存を選択した西側諸国を非難してきたが、ここにきて、中国のレトリックはより微妙なものに変化しているようだ。

現在、中国におけるコロナ関連の「公式」死亡者数は5235人で、14億の人口のごく一部であり、世界の基準からすれば極めて低い数字である。

この2年間、ほとんどの中国人はウイルスのない普通の生活を送ることができ、経済も活況を呈していた。しかし、オミクロン株が蔓延したことにより、政府の統制に巻き込まれる人が増えていった。その結果、経済が減速した。

出稼ぎ労働者から都会の中流階級まで、誰もがゼロコロナ政策に直面することになった。その結果、11月下旬に全国の都市や大学のキャンパスで、中国ではかなり珍しい、政治的な抗議デモが発生したのだ。

Southwest Jiaotong University students mourning the victims of the fire in Ürümqi, holding blank sheets of paper and singing “The Internationale” and “March of the Volunteers”/ Wikimedia Commons.

中国の治安組織は既に、天安門事件以来最も広範な抗議活動を行った反ゼロコロナデモの弾圧に乗り出している。人々は、過度に厳しいコロナ対策(隔離、頻繁な検査、健康コードアプリへの居場所登録の必要性など)に抗議し、その不満を 「習近平は退陣せよ!共産党は退陣せよ!」のスローガンにまで広げた。

政府は公には抗議行動を認めなかったが、規制を緩和することで国民の怒りを鎮めようとした。例えば、孫春蘭副首相は、12月上旬の国家衛生委員会の会議で、中国はコロナとの戦いで新たな段階に入り、「新しい課題」に直面していると語った。

政府は最近のコロナ規制緩和の一環として、例えば、12月5日以降、公共交通機関を利用する際に従来義務付けていた48時間以内のコロナ陰性証明を不要にすると発表した。まもなく、何百万人もの人々が春節を祝うために中国各地の親戚や家族のもとに帰郷する。オミクロンは多くの人に無症状で広がるので、多くの人がコロナを持参することになるかもしれない。

中国共産党は、自らの無謬性を誇示するため、重大な政策変更は恥ずべきことと考えており、何か間違っていたとしても、容易に認めるわけにはいかない。とりわけゼロコロナ政策は習近平国家主席の最重要課題の1つであるため廃止は特に難しい。そのため党は国民の圧力に屈することなく、過去の成功体験に基づく政策転換であるかのように装っている。

チャイナ・デイリー紙は、「中国のいくつかの地域当局は、ゆっくりと着実にコロナ規制を緩和し、ウイルスに対処するための新しいアプローチを採用し、人々の生活をより規制の少ないものにしている。」と報じた。

私たちは、習主席がプランBや迅速で苦痛のない出口戦略がないまま、自ら招いた危機に向かっているのではないかと懸念している。中国国営メディアは、ゼロコロナ政策を共産党の力量と人間性と結び付けて喧伝し、習主席は、ゼロコロナの成功を支配者としての自らの正当性に結びつけてきた。しかし、習主席がゼロコロナ政策を部下の忠誠心を図るテストに利用したことで、健康危機を政治危機へと変質させてしまったようだ。

セント・アンドリュース大学のスティーブン・ライチャー教授(心理学)は、社会心理学の観点から抗議活動を分析した結果、大衆による集団抗議活動は高度に洗練されたもので、社会の根底を垣間見れると結論づけた。

ライチャー教授は、とりわけ普段は声をあげることができない人々が声をあげたことに着目した。今回の出来事は、強権的な中国共産党政権でさえも、人民から異質な政権(=人民のためというよりは人民について語る政権)とみなされる余裕はないことを明らかにした。

ゼロコロナ政策が緩和される

中国のゼロコロナ政策は、発生を抑えるために3つのメカニズムに依拠/依存している。1つ目は定期的な集団検査で、感染者を迅速に発見することを目的としている。2つ目は集中検疫で、感染者とその密接な接触者を他の一般市民から遠ざけることを目的としている。

Tong Ming Street Park Covid-19 testing sample collection community centre by 相達生物科技 PHASE Scientific in February 2022
Tong Ming Street Park Covid-19 testing sample collection community centre by 相達生物科技 PHASE Scientific in February 2022

そして3つ目は、感染拡大を防ぐための隔離措置である。これらの仕組みは、現在、すべて解体されつつある。中央政府はその主導権を自治体に委ねようとしている。これにより、中央政府が後で責任を問われることのないような「例外」が許され、問題があれば地方の首長だけが責任を問われる可能性がある。

公式データによると、コロナの流行は中国で減少傾向にある。新規感染者数は、11月下旬のピーク時の4万人以上から、最近は1日当たり3万人以下に減少しているとしている。しかしそれは、検査を受ける人が減っているためだろう。

特に、オミクロンの亜種は、中国の85%以上の都市でワクチン接種を受けていない人々の間で急速に広がっているため、より大きな感染の波が押し寄せる危険性が高まっている。中国は、コントロールがますます難しくなっている風土病のウイルスに対する防御が不十分である。

2022年3月には、60歳以上の中国人1億3千万人以上がワクチン接種を受けていないか、接種回数が3回未満であると報告された。80歳以上の40%だけが、重症化や死亡を防ぐのに必要な量の地域限定ワクチン(特に効果の低いシノバックやシノファーム)を3回接種していたのである。

しかし、政府は封鎖措置を再開するどころか、今日コロナの管理を緩和している。

権威主義的な国家

中国政府は一種のジレンマに陥っている。つまりウイルスを再び抑制するために厳しい措置を取れば、経済的コストと国民の怒りが増大することとなる。一方、厳格な規制を緩和すれば、ウイルスが蔓延し少なくともの数十万人の死者を出すことになりそうである。

エコノミスト誌は、中国で現在発生しているコロナウィルス感染症がどのような経過をたどるかをモデル化している。このままでは、感染者数は1日あたり4500万人に達する可能性がある。集中治療が必要な患者全員が治療を受けたと仮定しても(ありえないが)、約68万人が死亡する可能性がある。

現実には、ワクチンの効果は低下しており、多くは治療されないままであろう。必要な集中治療室(ICU)の数は41万床に達し、中国の収容能力のほぼ7倍となる。中国の指導者たちは中間点を探しているようだが、それがあるのかどうかは定かではない。

少なくとも2つの重要な課題がある。

第一に、より多くの人、特に高齢者やハイリスクグループの人たちにワクチンを接種させるための努力が不十分なままである。公式発表によると、60歳以上のワクチン接種率は夏以降ほとんど変化していない。

An empty vial of the Sinopharm BBIBP-CorV COVID-19 vaccine from Nikli upazila, Kishoreganj district, Bangladesh.
An empty vial of the Sinopharm BBIBP-CorV COVID-19 vaccine from Nikli upazila, Kishoreganj district, Bangladesh. 

中国疾病対策センター(CDC)によると、ワクチンを2回接種した人は8月の85.6%から11月には86.4%に、ブースター注射率は67.8%から68.2%に上昇した。一方、米国は60歳以上の92%がワクチン接種を受け、70%がブースターを接種しており、ドイツは91%と85.9%、日本は92%と90%となっている。

第二に、医療資源が全国に偏在しているため、中国の医療システムはコロナ患者の新たな波に対応できないと、当局が繰り返し述べていることである。中国では病院におけるICUの能力拡充に何年もかけてきたが、依然として不十分なままである。

上海の復旦大学公衆衛生学部が発表した報告書によると、2021年の人口10万人あたりのICUベッド数は、2015年の米国の34.2に対して、中国はわずか4.37であった。コロナ患者の激増に伴う救急患者の流入は、医療システムを再び試練に立たせることになる。

そのため、病院が疲弊しないように規制緩和は段階的に進めようとしている。そうすることで医療が逼迫すれば、ロックダウンのような不人気な制限はいつでも再導入することができる。

ゼロコロナ政策の影響はコロナ問題にとどまらない。すべての地区と居住区に厳格な摘発と執行を課したことで、習主席は自身のコロナ政策が従来喧伝してきた「人民中心」であるという概念を打破してしまったのである。

習主席は強権的な権威主義的国家を各家庭に持ち込んだ。経済への悪影響にもかかわらずゼロコロナに固執したことで、共産党の主な主張の一つである、党だけで安定と繁栄を保証できるということに疑問を抱かせる事態となっている。

より責任感のある政府であれば、自らの過ちを認め、韓国やシンガポール、台湾のように、ゼロコロナから徐々に脱却するための救命措置を取るだろう。しかし、習主席と共産党にはその準備ができていないようだ。習主席はICUのベッド数が少なすぎて、大規模な感染症に対処できない。医療スタッフの訓練も不十分で、どの患者をどこで治療するかというプロトコルも確立されていない。           

プロパガンダの噴出

政府や国営メディアは長い間、公衆衛生の脅威としてコロナウィルスの恐怖を煽ってきたが、今ではオミクロンはほとんど無害であると伝え始めている。オミクロンは以前の亜種より毒性が弱いが、特に感染によって免疫を獲得していない集団では、死に至る可能性がある。香港では、春に発生したオミクロンの流行で多くの高齢者が死亡したことから、このことが判明した。このため、中国共産党が実際の死亡者数を操作するのではないかと懸念されている。

民衆の怒りは、世界で最も厳格なパンデミック規制が、いかに中国の生活を徹底的にひっくり返したかを強烈に物語っている。新たに「終身指導者」として再選された習主席は、中国共産党による国民への支配を毛沢東をも凌ぐレベルにまで拡大しつつある。

経済の低迷

厳しいゼロコロナ対策で国内の経済活動は冷え込み、工場やサプライチェーンは相次いだロックダウン(都市封鎖)措置などの規制で混乱している。これにより中国国内で生じたジャストインタイム(少量多頻度)配送の混乱は、海外にも及んでいる。

5月、中国欧州商工会議所は、調査の回答者のほぼ4分の1が、中国から現在または計画中の投資を撤収することを検討していると発表した。回答者の約92%が、中国の港湾閉鎖、道路輸送の減少、海上輸送コストの上昇からマイナスの影響を受けていると回答している。

Caixin/S&P Globalの製造業購買担当者景気指数によると、11月の工場活動は4ヶ月連続で縮小した。

野村證券は、中国の第4四半期GDPの見通しを前年同期比2.8%から2.4%に、通年の成長率見通しを2.9%から2.8%に引き下げ、中国の公式目標の約5.5%を大幅に下回ることになった。野村證券の推定では、中国のGDPの5分の1以上が封鎖されており、これは例えば英国経済よりも大きな割合である。

7月の中国の若年層の失業率は19.9%で、手頃な価格の住宅がないことと相まって、精力的に働くことは望めなくなっている。

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

ゼロコロナ政策は中国のネット大手も悩ませた。電子商取引大手のアリババは、消費者需要の低迷もあり、30億ドル近い純損失を計上した。中国で最も価値のある企業であるテンセントは今年、数千人の従業員を解雇し、この10年近くで初めて従業員が減少した。

3年間にわたる厳しいゼロコロナの規制下で暮らしてきた中国人の不満は、もっと深いところにあるのかもしれない。1989年、天安門事件で民主化デモを激しく鎮圧した政府は、江沢民主席の下で政治的自由を制限する代わりに、安定と安心を得るという暗黙の社会的取引を行った。中国市場が開放され世界経済へ参画するなかで成長したことにより、平均的な中国人の物質的な豊かさは増加した。

長い間、中国の若者は物質主義的で消費志向が強く、ルイ・ヴィトンの最新バッグを欲しがったり、ヴェルサーチの最新スカーフを見せびらかしたりしていると評されてきた。しかしこの傾向は近年変化が見られる。都市部の多くの若者が、社会的な期待を実現不可能にする力に抗うことができないと感じているのだ。

昨年、中国の若者の間で、不可能な状況を解決しようとエネルギーを浪費する代わりに、「摆烂(バイラン)=投げやり」を決め込み、生活をしていくのに最低限のことしかしない「躺平(タンピン)=横になる」という社会的な抗議運動が主流になった。中国社会で高い成果を追求することを本質的に放棄している若者たちを指すこれらの言葉は、今や中国政府を悩ます常套句となっている。

「摆烂(バイラン)=投げやり」という考え方は、必ずしもすべての中国人の間で普遍的なものではないが、中国の都市部の若者達の間で悲観と幻滅が広がっている現実を示している。これは、すでに減速している経済にマイナスの影響を与えかねない注目すべき現象である。

People wave national flags to mark the 73rd anniversary of the founding of the People's Republic of China at Tiananmen Square in Beijing on October 1, 2022. (ZHU XINGXIN / CHINA DAILY)
People wave national flags to mark the 73rd anniversary of the founding of the People’s Republic of China at Tiananmen Square in Beijing on October 1, 2022. (ZHU XINGXIN / CHINA DAILY)

20代半ばから30代の人々にとって、幼い子供を育てながら老いた両親の面倒を見るという期待は、生活費の高騰の中で今や大きな負担になっている。北京や上海などの大都市では、住宅価格が異常に高騰している。

農村部の事情は大きく異なるだろうが、彼らの声は国際社会にはほとんど届いていない。とはいえ、都会の若者の間では、「頑張ればいい暮らしができる」という希望は薄れつつある。

しかし一方で、これは都市部の若者とその家族が飢餓を避けるためにある程度の財産を蓄積していることも示している。この二つは中国の発展モデルにとって課題であり、政府はまだその解決策を見いだせていないのだろう。

腐敗はそこにあるのか?

たとえ習主席が国民の幅広い層の不満を抑え込むことができたとしても、こうした抗議活動で明らかになった不満は残るだろう。ゼロコロナ政策は、共産党が人々に自らの意志を押し付けることが容易であり、明らかに恣意的であることを浮き彫りにした。多くの中国人にとって、このような支配は絶え間ない進歩への期待を揺るがし、彼らの野心やリスクを取る意欲を損なわせている。どれだけの人が「摆烂(=投げやり)になる」ことを望んでいるのか、その行方を見守ろう。(原文へ

INPS Japan

ヤン・セルヴァースは、マサチューセッツ大学アマースト校で「持続可能な社会変革のためのコミュニケーション」のユネスコ・チェアを務めた。オーストラリア、ベルギー、中国、香港、米国、オランダ、タイで「国際コミュニケーション」を教え、さらに55カ国、約120校の大学で短期プロジェクトを実施。2020年版「開発と社会変革のためのコミュニケーション・ハンドブック」の編集者。

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2022年のウクライナ:苦難と不屈の10ヶ月間

【INPS Japan/ 国連ニュース】

12月24日で、ウクライナへの武力侵攻開始から10ヶ月が経過した。この間、ウクライナでは何万人もの人々が殺傷され多くの都市が瓦礫と化した。また、多数の市民が難民となり、国連の専門家の見解によると、戦争犯罪の犠牲者となったものも少なくない。国連職員は、ウクライナの住民とともに、電気も暖房もない生活を送り、防空壕に逃げ込み、人道支援を行い、同国で行われた犯罪を記録している。

国連安全保障理事会開催中にロシアのウクライナ侵攻のニュースが飛び込んできた

2022年2月23日、ニューヨーク時間の午後9時30分ちょうどに、ウクライナの要請により安保理が国連本部で開催された。冒頭で発言したアントニオ・グテーレス国連事務総長は、「ウクライナへの攻撃が迫っている」ことを示す「噂と兆候」について言及するとともに、「プーチン大統領、あなたの部隊がウクライナを攻撃するのを止めてください。平和にチャンスを与えてほしい」と懇願した。

しかし、その20分後、欧州大陸では既に2月24日の朝で、ニューヨークではまだ安全保障理事会が開かれていたが、プーチン大統領は「特別軍事作戦」の開始を発表し、ロシア軍がウクライナ領土への侵攻を開始していた。

2月の安保理で議長を務めていたロシアのワシリー・ネベンジャ国連常駐代表は、「今日、詳細を知っているわけではないが、ウクライナの占領は我々の計画に含まれていないことはお知らせしたい。」と語った。ネベンジャ大使は「特別軍事作戦について」大統領の発言をそのまま引用している。 しかし、ウクライナのセルギー・キスリツァ国連常駐代表は「ロシアは宣戦布告をした」とし、出席者全員に「戦争を止めるためのあらゆる手段を執っていただきたい。」と呼びかけた。そして「現在、ロシア軍はウクライナの都市を砲撃、爆撃し、ウクライナ領に侵入している。」と指摘したうえで、ネベンザ常駐代表に「今すぐロシアのラブロフ外相に電話して事情を確認すべきだ。」と提案した。これに対してネベンザ常駐代表は「今すぐラブロフ大臣を起こすつもりはない」と返答した。

グテーレス事務総長は、「この状況下では、要求を変更せざるを得ません。プーチン大統領、人類の名において、貴国の軍隊を ロシア に引き上げてください。人類の名において、今世紀初頭以来最悪のものとなり得る戦争が、ヨーロッパから始まることがないようにしてください」と訴えた。

しかし、戦争はすでに始まってた。ウクライナで活動する国連の人道支援機関からは、高齢者や幼い子どもを連れた女性が逃げ出しているとの報告があった。国連難民高等弁務官事務所によると、国連が後に「侵略」と呼んだ「作戦」が始まってから48時間足らずで、5万人以上がウクライナから脱出したという。

Фото ЮНИСЕФ/А.Гилбертсон VII Фото
Фото ЮНИСЕФ/А.Гилбертсон VII Фото

キーウの駅で、電車に乗れない母親たちが、人ごみの中で子供を通し、客車の人々に安全な場所に連れて行ってくれるよう懇願する悲痛な映像が世界中に広まった。キーウやハルキウの住民の多くは、必需品を入れたリュックを背負って、防空壕として使われるようになった地下駅に降りた。

国連安保理は「麻痺」している

2月25日、米国とアルバニアは、「ウクライナに対する侵略」に対してロシアを非難する安保理決議の採択を提案した。草案は、ロシアが直ちに、完全かつ無条件に軍隊を撤退させることを要求していた。しかし、ロシアが拒否権を行使し、決定に拘束力のある安保理決議を採択できなかった。

国連総会決議 「ウクライナへの侵略」 について

これを受けて、国連総会は3月2日、ウクライナに関する緊急特別会合を再開し、「ウクライナに対する侵略」決議を採択した。国連加盟国141カ国が支持し、35カ国が棄権、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5つの代表団が反対票を投じた。決議は、「ロシア連邦は、国際的に認められた国境内のウクライナの領土からすべての軍隊を直ちに、完全かつ無条件に撤退させる」ことを要求した。

投票結果について、グテーレス事務総長は、この決議が含む要請に従うことが事務総長としての義務であると語った。

3月24日、新たに再開された緊急特別会合で、国連総会は「ウクライナに対する侵略がもたらした人道的結果」と題する決議を採択した。140ヵ国が賛成し、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの5つの代表団が反対、38カ国が棄権した。この決議は、ロシアがウクライナでの敵対行為を直ちに停止し、民間人や民間インフラを攻撃しないことを要求するものであった。国連総会は、ウクライナの都市、特にマリウポリ封鎖の中止を求めた。  

しかし、総会決議の持つ大きな政治的重みと道徳的権威にもかかわらず、これらの呼びかけはロシアに無視されたままである。

3月、国連はキーウ郊外のブチャなどで起きた悲劇、ハルキウでの爆撃、マリウポリの破壊などの報告を受けた。

国連事務総長のウクライナ、ロシア訪問について

「ロシア連邦は国連憲章に違反してウクライナの主権領域への大規模な侵攻を開始した。」 それ以来、世界は 「都市、町、村で恐ろしい人的被害と破壊を見ている。」 とグテーレス国連事務総長は指摘し、「ウクライナの人々はまさに地獄に生きている」と宣言し戦争の停止を訴えた。そして4月末には、自らが仲介役としてロシアとウクライナを訪問した。4月26日、グテーレス国連事務総長はモスクワでセルゲイ・ラブロフ外相と実務会談し、プーチン大統領と会談した。

4月28日、国連事務総長はウクライナのドミトロ・クレバ外相と実務会談を行い、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。

「世界はあなた方を見て、あなた方の声を聞き、あなた方の勇気と決意を賞賛します。」とグテーレス事務総長はウクライナの人々に向かって語りかけた。そして、国連安保理がウクライナでの戦争を防止または阻止するための既存のメカニズムを適用できなかったことを苦々しく認めている。グテーレス事務総長はキエフで記者会見し、「これは大きな失望、悲しみ、怒りを引き起こす」と語ったが、その時、ロシアのミサイルが事務総長の滞在するホテルの近くを通過した。ウクライナ訪問中の国連事務総長は、キーウの荒廃した郊外を訪問した。

グテーレス事務総長のモスクワとキーウ訪問時の合意により、国連と国際赤十字はマリウポリのアゾフスタル製鉄所とその他の地域から民間人を避難させるための2つの作戦を実施することに成功した。

5月6日、国連安保理はロシアによるウクライナ侵攻後で初めてとなる声明「ウクライナにおける平和と安全の維持を巡る深い懸念」を発表し、その際議長声明で、平和的解決に向けたグテーレス事務総長の取り組みに「強い支持」を表明した。

侵略開始から半年後の8月、日本での記者会見で、ウクライナとロシアの間で和平合意に至らない理由を問われたグテーレス事務総長は、ウクライナは「自国の領土が他国に占領される」状況を受け入れられず、ロシアは占領地域を「自国に併合したり、新たな独立国家に移行させたりしない」ことについて「受け入れる準備はできていないようだ」と説明した。

1ヵ月後、国連ニュースサービスとの独占インタビューで、グテーレス事務総長は、一方の国家が他方の国家を侵略することによって引き起こされる2国家間の戦争があり、最近の歴史では類を見ないレベルの武器と武力の動員を伴うと語った。

国連ニュース=ナルギス・シェキンスカヤとアントニオ・グテーレス国連事務総長

黒海イニシアティブ

この戦争の影響は、ウクライナの国境を越えて、多くの人々が感じている。ロシアとウクライナは世界市場への主要な供給国であるため、武力侵攻により、世界中で食料、エネルギー、肥料の価格が急騰している。

国連とトルコの仲介で、黒海を越えて穀物などの食料品を安全に輸送する手続き「黒海穀物構想」が浮上し、農産物輸出の活性化を図っている。

グテーレス事務総長は、8月には再びウクライナを訪れ、リヴィウでトルコ、ウクライナの大統領と会談した後、このイニシアティブに参加しているウクライナの3港のうちの1つ、オデーサを訪問している。

この協定により、ウクライナからの穀物、その他の食料品、肥料の輸出が再開された。製品は、ウクライナの3つの主要港(チョルノモルスク、オデーサ、イズニー)から安全な海上人道回廊を経由して送られる。また、7月の協定には、ロシアに対する貿易制限や制裁体制の適用をめぐる不透明感から輸出が制限されていたロシア産肥料を、世界市場、特に途上国向けに輸出するための規定が盛り込まれた。

ウクライナにおける原子力発電所の安全性確保

2月24日、ロシア軍は侵攻直後に旧チェルノブイリ原子力発電所を奪取。そして、ザポリージャ原子力発電所を掌握した。また、ウクライナはリブネ、フメリニツキー、南ウクライナの各原発を運営している。国際原子力機関(IAEA)は、これらの原子力施設の安全性を懸念し、すべての原子力施設に査察官を派遣している。

IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、自らチェルノブイリ原発のミッションを指揮し、その後文字通り炎上中のザポリージャ原子力発電所にチームとともに向かい、数人の国際査察団を現地に配置した。IAEAのトップ自らが、原子力発電所周辺に安全地帯を設定するための交渉を続ける一方で、定期的に原発の状況を報告している。

6基の原子炉を有するザポリージャ原発は3月上旬からロシア軍の支配下にあるが、ウクライナ人の職員が働いている。グロッシIAEA事務局長は、ザポリージャにある欧州最大の原発やウクライナにあるその他の原発施設に、事故であれ故意であれ、何らかの被害があれば、発電所周辺だけでなく、地域全体、さらには国外にまで災害が及ぶ恐れがあると安保理のメンバーも含めて警告を発している。

人道支援

300日以上前に始まったロシアの侵攻により、ウクライナは人道上の危機に瀕している。戦争が始まって以来、国連児童基金からIAEAまで、多くの国連機関がウクライナで活動している。

ウクライナ全土に複数のオペレーションセンターが設置され、全国30地区で運営されている。10カ月にわたる戦争の間、国連の人道支援機関は、690の人道支援パートナー(そのほとんどが最前線で活動している)と協力して、1400万人のウクライナ人に救命支援を提供してきた。この中には、ウクライナ政府の支配下にない地域に住む100万人の人々も含まれている。ドネツク州やルハンスク州のロシア支配地域の人道支援パートナーの協力で援助を届けることができている。

戦時中、国連は約430万人に10億ドル近い現金給付を行った。ウクライナ各地に心理社会的支援を行うセンターが設置された。2月以降、国連の支援のもとで765,000人の子どもたちが支援を受けている。移動チームは国内避難民センターで、保護が必要な子どもたちを特定・登録し、子どもたちとその家族が必要とする支援を提供している。

これまでに1400万人以上のウクライナ人が故郷を追われている。このうち650万人が国内避難民で、780万人以上が欧州各地に散らばっている。ユニセフや国連難民高等弁務官事務所などの国連機関のスタッフが、国境地点や 受け入れ国で難民の登録、再定住、保護を支援している。

Фото МОМ/М.Мохаммед

ウクライナの人道的状況は、日増しに悪化している。12月に再びウクライナを訪れたマーティン・グリフィス国連緊急援助調整官兼人道問題担当事務次長は、国連安保理において「ウクライナの民間人にとって死活問題である。10月以降、ウクライナのエネルギーインフラがロシア軍によって継続的に攻撃されたことで、必要とされる支援のレベルが一段と高まっている。冬の間、多くの市町村が停電しています。」と訴えた。

この数カ月間だけでも、人道支援団体は冬に備えて63万人以上の市民にさまざまな支援を直接提供し、重要なインフラには数百台の発電機が送られた。ここ数週間、国連は東部および南部地域のウクライナの支配下に戻った地域への支援を強化している。人道支援団体は、支援トラックの車列を送った。

Фрагмент видео УКГВ ООН

これらは、国際社会からの空前の支援なしには実現し得なかったことだ。国連はこれまでに、年末までに要求された43億ドルのうち31億ドルを受け取っている。 国連自身も、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日に、すでに中央緊急対応基金から2千万ドルを放出している。それから1カ月もしないうちに、さらに4000万ドルがウクライナに送られる。

国連機関は現在、避難民に防寒対策を行うとともに、新たにアクセス可能となった地域に援助物資を届け、地雷除去を促進し、人道的・心理的援助を必要としているすべての人に提供することに力を注いでいる。

先日ニューヨークで行われたブリーフィングで、キーウから駆けつけた国連ウクライナ人道調整官のデニス・ブラウンは、ウクライナ人と共に国連職員全員が大規模な砲撃を受けており、また防空壕に逃げ込み、しばしば電気や 熱源がない状態で過ごしていると語った。しかし、このような状況でも、国連スタッフは離脱しないのだと指摘した。彼らは、ウクライナの人々と共にこの冬を乗り越え、支援を必要としている人々のために活動を続けていくつもりだ。

復興

国連は、人道支援だけでなく、国の再建にも力を注いでいる。ウクライナの戦争により、多くの都市でインフラが破壊され、その復興には、ウクライナ政府や国際的なパートナーの多大な努力が必要とされている。この分野の最初の大規模プロジェクトとして、国内第二の都市ハルキウの再開発・再建が予定されている。既に4月5日には、国連欧州経済委員会の主催で、国際市長会議が開催されている。会議では、英国の著名な建築家であるノーマン・フォスター卿が、ハルキウのイーゴリ・テレホフ市長から、同市の新しいマスタープランを策定するよう要請を受けた。 テレホフ市長はこの会議で、戦争で破壊されたハルキウの再建に向けた構想を語った。

Фото ЮНИСЕФ/Э.Гилбертсон

テレホフ市長は、「新しい平和なハルキウでは、IT部門とハイテク工業団地の開発に特別な注意を払いたい。 大型産業施設を建て替え、新しい息吹を吹き込みたい。建築、快適性、安全性において、ハルキウはまったく異なるレベルに達していくはずだ。私たちは、近代的な街の中心部を建設し、各地域が特色を持った多様な都市作りを計画している。その他、防空壕、多目的地下駐車場、立体交差、自転車専用道路、新しいレクリエーションゾーンや公園を建設する予定だ。」と語った。

国連の人権擁護者、国際司法裁判所、国際刑事裁判所調査官、国際損害賠償登録者

国連人権理事会は、安保理と総会と並行して、ロシアによるウクライナ侵攻初期の犯罪を調査する独立の国際調査委員会を設置し、加盟国は行動している。キーウ、チェルニヒフ、ハルキウ、シュミの各州で調査を行った結果、都市部が破壊され、処刑、拷問、強姦などの戦争犯罪が行われたと結論づけた。性的強姦の被害者は4歳から82歳までと幅広い年齢層が特定された。委員会のメンバーは、これまで10回ウクライナを訪問している。彼らは市や町を訪れ、爆撃や犯罪の現場を視察してきた。12月には、国際調査委員会がキーウで、被害者への賠償と可能な司法メカニズムについて議論している。

Управление ООН по гуманитарной помощи/С.Абреу

4月には、国連ウクライナ人権監視団のメンバーも、かつてロシア軍に占領された市町村を訪問した。監視団には国連人権事務局のメンバーも含まれている。また、2月下旬から3月上旬にかけてロシア連邦軍の支配下にあったキーウ、チェルニヒフ、ハルキウ、スームィ州の各都市で市民が殺害されたことの確認も受けている。

国際刑事裁判所(ICC)の検察官もウクライナでの犯罪捜査に関与している。ICCは、衛星画像やレーダー映像、あるいは傍受システムを使って犯罪を捜査する。ウクライナ情勢の調査開始決定を受け、検察は3月2日に調査団を早急に現地に派遣した。ICC主任検察官自身も数回ウクライナを訪問した。分析官、法医学者、人類学者、弁護士からなるこのチームは、大規模な残虐行為の現場を訪れた。

これと並行して、ウクライナのジェノサイド条約に基づくロシアに対する訴訟の一環として、国際司法裁判所(ICJ)は3月16日、ロシアに対して、2022年2月24日にウクライナの領域内で開始した軍事作戦を直ちに停止し、軍隊や非正規部隊などが軍事作戦をさらに進める行動をしないこと」を義務付ける暫定措置命令を発出した。

国連総会は11月14日、ウクライナ情勢をめぐる緊急特別会合を開き、ロシアに対してウクライナ侵攻による損害の賠償を求める決議を94カ国の賛成多数で採択した。この決議は、ロシアが「侵略」の際に行った国際法違反について責任を負い、損害を賠償する義務を負うべきであると述べている。この目的のために、国連総会は「国際的な仕組み」を構築し、損害の記録をつけることも推奨した。

「不滅の拠点」で一緒に。

最近の調査によると、民間インフラに対する空爆が行われているにもかかわらず、多くのウクライナ人は国外に出るつもりはなく、国外に出た人の多くも故郷に戻りつつあるという。12月現在、国内と海外を合わせて500万人以上の国内避難民がウクライナに帰国している。

ウクライナ当局は、国連の支援を含め、人々が暖を取り、携帯電話を充電し、温かい飲み物を飲み、応急処置を受けられるよう、全国に暖房センターを設置している。ウクライナでは、このようなセンターを「不滅の拠点」と呼んでいる。人々が体を温めるだけでなく、互いに助け、支え合い、慰め合うことができる拠点だ。 

Фото ЮНИСЕФ

この支援にはユニセフも参加しており、ウクライナ全土に140カ所の「スピルノ」センターを設置。少年少女が遊び、心理社会的サポートを受け、仲間と交流できる、子どもに優しい温かい空間が広がっている。「スピルノ」とは、ウクライナ語で「一緒に」という意味である。ユニセフは、子どもたちに子ども時代の喜びを取り戻すため、社会政策省およびウクライナ鉄道とともに、新年とクリスマスイブに、特にハルキウ州やケルソン州など新たにアクセスが可能になった地域の戦争被災地の子どもたちにプレゼントを届けている。

最近到着した国連開発計画(UNDP)のジャコ・シリエ駐在員代理は、ウクライナの人々のレジリエンスに感銘を受けたと語った。「真冬に現地入りして、すぐに人々の苦労がわかった。」という。 ウクライナの人々は、真のレジリエンスとは何かを世界に示している。」とシリエ駐在員代理は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(4)マリーナ・クリソフ(Studio 3/4共同経営者)

2023年には、私たちはこれまで以上に平和を必要としています(アントニオ・グテーレス国連事務総長)

【ニューヨークIDN=アントニオ・グテーレス】

新年とは、再生の瞬間です。

私たちは旧年中の灰を一掃し、より明るい日に向けて備えます。

2022年に、世界中の何百万もの人々が、文字通り、灰を一掃しました。

ウクライナ、アフガニスタン、コンゴ民主共和国などの国々では、人々がより良い生活を求めて、灰となった住まいや暮らしを後にしました。

世界中で1億人が、戦火、山火事、干ばつ、貧困、飢餓を逃れようと移動しました。

2023年には、私たちはこれまで以上に平和を必要としています。 対話を通して紛争を終わらせるための、互いの間の平和。

より持続可能な世界を築くための、自然や気候との間の平和。 女性と女児が尊厳をもって安全に暮らせる、家庭の平和。

すべての人権が全面的に守られる、街やコミュニティーの平和。

互いの信仰を尊重し合う、礼拝の場の平和。

そして、ヘイトスピーチや虐待のない、オンラインの場の平和。

2023年は、平和を私たちの言動の中核に据えましょう。

共に、2023年を、私たちの暮らし、家庭、そして世界に、平和を取り戻す年にしようではありませんか。(原文へ

INPS Japan

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プーチンの脅しは核不拡散体制にどれほどのダメージを与えたか?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ラメッシュ・タクール】

ロシアによるウクライナ侵攻は、核兵器をめぐる世界の言説にすでに重大な影響を及ぼしていると言ってよいだろう。6月にウィーンで開催された核兵器禁止条約第1回締約国会議の審議において、ウクライナにおける戦争は、抑止力としての、また強制外交の手段としての核兵器の有用性と限界、核兵器を放棄したことの見識、核兵器を獲得することまたは他国の核の傘下に入ることへのインセンティブ、そして何より、誰も望まず、誰もが恐れる全面核戦争という激烈なリスクに大きな影を投げかけた。

そのため、このことは第1の、そしてある意味では最も重要な教訓といえる。ロシアと米国が備蓄する11,405発の核兵器(全世界の合計の90%)の存在は、危機の安定化と緊張緩和に役立つどころではなく、ウクライナ戦争の危険と脅威を増大させている。(原文へ 

会議閉会の翌日にウィーンで開催されたイベントで私と同じ壇上に並び、会議のホストおよび議長を務めたアレクサンダー・クメントはいかにも誇らしげに、締約国によって採択されたウィーン宣言(および50項目の行動計画)は、多国間で取りまとめた文書としては並外れて強力なものとなったと述べた。それは、活動家的な文章でもなければ、陳腐な決まり文句を並べたつまらない声明でもなく、この新条約の重大さをはっきりと示す宣言だった。

一部の国々はウクライナにおけるロシアの行動を厳しく非難することを求めたが、ウィーン宣言はより中立的で偏りのない論調を採った。第4項および第5項において、締約国は、「核兵器を使用するという脅しと、ますます声高になる核のレトリック」に対する懸念と失望を表明した。そして、「明示的か暗示的かを問わず、また、いかなる状況であれ、あらゆる核の脅し」を、そして、平和と安全を守るのではなく「強制、威嚇、緊張増大につながる政策の手段として」の核兵器の利用を、明白に非難した。

ソ連崩壊後にウクライナが核兵器を放棄していなければ、ロシアはウクライナを攻撃して分断しようとはしなかっただろうという主張は、2014年のユーロマイダン革命やクリミア併合の頃から散々言われてきたことである。この主張は、本格的な吟味に耐えうるものではない。米国とNATOの一部同盟国(過去には韓国も)の核共有協定と同様、その核兵器の所有者はホスト国ではなくロシアであり、独占的な運用管理および発射の権限を保持していた。

国連安全保障理事会の5常任理事国は、核不拡散条約の下で認められた核兵器国であるが、そのうちの1カ国たりとも、戦略核兵器1,900発、戦術核兵器2,500発を備蓄する核兵器保有国の出現を許容しなかっただろう。これは、英国、中国、フランスの合計備蓄量の数倍にも上る。ウクライナは、国際的な除け者国家となり生き残りに苦闘したであろうし、地域の歴史全体も大きく異なるものとなっていただろう。従って、2014年と2022年の出来事を抑止できていたはずだという主張は、反事実的想定として信頼に足るものではないのである。

戦争が始まって5カ月、核兵器に関して私が最も目を見張ったことは、核兵器にはまったくと言っていいほど有用性がないということだ。ロシアには、1945年以降欧州最大の地上戦のなかで、6,000発近い核爆弾が備えとして存在しウクライナには皆無であるのに、そのことによってウクライナを威嚇し降伏させることには失敗したのである。キーウは、果敢に領土を防衛するという任務に邁進しており、強制外交の手段たりえなかった核兵器が軍事的に使用できるわけはないと確信している。ロシアの評判は、すでに違法な侵略により深刻なダメージを負っており、もし核兵器を使用すれば完全に失墜するだろう。また、ロシアは、放射性降下物から自国の軍隊も、ウクライナ国内のロシア語圏も、さらにはロシア本土の一部も守ることができないだろう。

確かにウラジーミル・プーチン大統領は、自国の恐るべき核兵器のことを繰り返しNATOに思い出させ、核兵器を公然と「特別警戒」態勢に置き、部外者があえて介入するなら「予測不能な結果」を招くだろうと警告した。そのいずれも、NATOによるウクライナへの武器供与を阻止することはできず、武器はますます殺傷力が高くなり、どうやら非常に効果が高いようで、ロシア軍に大きな犠牲をもたらしている。

もちろん、NATOは自らの地上軍を派遣することも、ウクライナ上空に飛行禁止区域を宣言することも控えている。しかし、このような警戒がどれだけロシアの核能力を考慮した結果であるのか、また、NATOが冷戦終結以降にアフリカ、中東、アジアで行った軍事活動の失敗という内面化された記憶にどれだけ起因するものなのかは、議論の余地がある。小規模な地域レベルの敵対国に対するこのような軍事行動は、大概の場合、変動性、暴力、地域全体の不安定性を劇的に悪化させている。たとえ戦地で軍事的勝利が得られても、広大なロシアの大地に大混乱を引き起こしたいと誰が思うだろうか? ナポレオンとヒトラーの破滅的な誤算も、核兵器があろうとなかろうと、ロシアとの直接的な軍事衝突に突入することをためらわせる役割を紛れもなく果たしているだろう。

しかし、ウクライナ危機は、核軍備管理と核軍縮を推進するすでに弱体化した努力にさらなるダメージを与える可能性がある。ロシアは、ウクライナが核兵器を放棄する見返りとしてウクライナの領土の保全と国境を尊重するという1994年ブダペスト覚書に基づく誓約を、明らかに破っている。

これでは、184カ国の非核兵器国は、自国の安全保障上の懸念について安心できないだろう。逆に、北朝鮮は、核武装の道を突き進んだのは戦略的に先見の明があったという思いを強くするだろうし、イランも同じ道を進む意欲を得るだろう。すでにNATOと太平洋地域の同盟国の間では、保険として核共有協定に加わることについて再び議論が行われている。領土内に米国の核兵器が存在すれば、たとえその管理統制権を米国が握っていても、現実的に新たな状況をもたらし、攻撃に対抗する仕掛けの役割を果たしてくれると考えるからである。

また、フィンランドとスウェーデン(後者は核軍縮を積極的に推進し、前者は過去に地域の非核兵器地帯を推進していた)がNATOに新たに加盟する国になることは、歴史の皮肉のさらなる証明である。なぜなら、別の記事で論じたように、NATOが東方拡大をやめなかったことがウクライナにおけるロシアの行動の大きな理由だからである。そして今度は、NATOのバルト諸国への北方拡大が、ロシアによるウクライナ侵攻の大きな結果となるわけである。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長を務める。近著に「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。

INPS Japan

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核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

|視点|中国―スリランカ、二千年にわたる互恵的な関係(パリサ・コホナ在中国スリランカ大使、元外務大臣)

【北京IDN=パリサ・コホナ

インド亜大陸南端の沖、インド洋の真ん中に位置するスリランカは、うらやましいほどの戦略的地位を占めている。スリランカは過去にその利点をうまく利用してきたが、このことは同時にインド洋地域を戦略的、経済的、文化的に支配しようとする世界的、地域的大国の強欲な関心を引き付け続けるという災いのもとでもある。

Austronesian maritime trade network in the Indian Ocean/ By Obsidian Soul - Own work, CC0
Austronesian maritime trade network in the Indian Ocean/ By Obsidian Soul – Own work, CC0

中国と歴代ランカ王国、そして現在のスリランカは、二千年にわたる緊密な関係を維持してきた。スリランカに戦略的魅力、自然の豊かさ、快適な住環境があることは古くから知られていたが、中国がスリランカに永住権を確立し、植民地化しようとした記録はない。

仏教が両国の架け橋となり、仏教徒間の交流が両国の文化交流の原点となり、今日まで続く信頼関係が築かれた。海のシルクロードの交流は、中国の前漢の時代、紀元前207年頃から盛んになったという記録が残っている。

5世紀、中国山西省出身の学僧法顕が、古都アヌラーダプラの有名なアバヤギリヤ僧院に2年間滞在した際の文章は、当時の複雑な国際外交・交易関係を物語るものである。

Portrait of Amoghavajra (不空金剛), 14 century, National Museum, Tokyo/ Public Domain

法顕は北インドで10年近く過ごした後、西暦410年にランカに来訪した。その帰途、船でシンハラ語で書かれた教典を中国に運び、後に中国語に翻訳した。その後、唐の高僧である不空金剛がスリランカに渡り、『宝篋印陀羅尼経法』を中国語に翻訳した。

中国の商人や少林寺の僧が、ランカにも中国の武術を伝えたのだろう。シンハラ語で武術を表す言葉の一つに「チーナ-アディ」がある。これはあまりに偶然の一致だと思う。

河南省にある嵩山少林寺は、現在でもスリランカの主要寺院と密接な宗教的つながりを保っている。先日、少林寺の30代目管長である永信老師にお茶をご馳走になり、最近スリランカを訪問した際のことを懐かしく話してくれた。6世紀に書かれた中国の『比丘尼伝』には、シンハラ人尼僧の一行が帝都・南京を訪れ、尼僧の修道会を紹介したことが詳しく書かれている。

尼僧の修道会は、今でも中国で存続している。西暦131年から西暦989年の間に、ランカの王たちは13の使節を中国の宮廷に送っている。428年には、マハーナマ王が中国の皇帝に仏陀の歯を祀る祠の模型を寄贈している。

また、ランカ王は貴重な仏像を携えて使節を孝武帝の宮廷に派遣している。10世紀にランカから持ち込まれたと思われる仏陀の頭頂骨(頭蓋骨)の一部は、現在、南京の仏頂宮に安置されている。

Mosaic of Marco Polo, Municipal Palace of Genoa: Palazzo Grimaldi Doria-Tursi/ By Salviati, Public Domain
Mosaic of Marco Polo, Municipal Palace of Genoa: Palazzo Grimaldi Doria-Tursi/ By Salviati, Public Domain

アラブの地理学者イドリーシは、パラークラマバーフ大王の時代にランカがどの程度国際貿易を行っていたかを詳述しており、大王は王女を中国の宮廷に派遣している。1284年、クブライ・ハーンがマルコ・ポーロを派遣し、シンハラ人が崇拝する仏陀の托鉢の鉢を求めたが、ランカ王はこれを丁重に断っている。

マルコ・ポーロはこの島を2度訪れ、ランカはこの規模の島としては世界で最も優れていると記した。13世紀のランカの首都ヤパウワの獅子像は、中国の影響を強く受けている。ラークラマバーフ 6 世(1412-67)は、シンハラ王としては最も多い6回の使節団を中国(明朝)に派遣している。

スリランカでは中国の貨幣や 陶磁器が各地から発見され、中国とランカの貿易が盛んであったことがうかがえる。また、領海の海底には荒天で沈没した多数の中国船が眠っている。河南省洛陽市の白馬寺は、中国で最初に建立された仏教寺院という伝承がある。

白馬寺の広大な敷地内には既に(インド廟、タイ廟など)アジア各地の仏教様式の寺院が建立されており、現在スリランカ式の寺院を建設する計画が進められている。

Zheng He wax statue in the Quanzhou Maritime Museum/ jonjanego, CC 表示 2.0
Zheng He wax statue in the Quanzhou Maritime Museum/ jonjanego, CC 表示 2.0

鄭和は、1405年から33年にかけて、明の永楽帝の代理として西方への航海中にランカを6回訪問した。2回目に訪れた際、鄭和はゴールに来訪を記念した石碑を建立したほか、デーヴンダラの「ウプルワン・デヴァラヤ」を訪れ、かなりの供物を捧げている。

明朝の歴史書には、鄭和提督がランカ訪問中に王家の内紛に巻き込まれたことが記録に残っている。鄭和が帰国した際にランカの王子が同行したが、その後中国に留まることを選んだ。今もその末裔が建省泉州に暮らしている。

スリランカが中国の歴代王朝と宗教、貿易、社会面で活発な関係を築いていたことは明らかであり、学者、船員、僧侶、旅行者、商人たちの文章は、古代からランカに対する中国の宗教的、文化的関心が強かったことを示唆している。

今年(2022年)は、中国との「米・ゴム協定」調印から70周年、国交樹立から65周年にあたる。

1950年、独立したセイロン(=当時のスリランカの呼称)は、主権国家として13番目の国として当時建国間もない中華人民共和国を承認し、それ以来、一つの中国政策を無条件に支持してきた。

その後1952年、当時国連に加盟していなかったセイロンは、欧米の反発を受ける危険を冒して、中国への戦略物資の輸出禁止を破り、戦略物資に指定されていたゴムを米と交換する「米・ゴム協定」を中国と締結した。当時、中国は朝鮮戦争に参戦していた。

セイロンは、中国に5万トンのゴムを市場より高い価格で輸出し、27万トンの米を一般的な市場価格で輸入することに合意した。この協定は1982年まで続いた。セイロンはまた、中華人民共和国の国連における正当な議席の復活を声高に擁護していた。

周恩来首相は1957年にスリランカを訪問し、緊密な二国間関係の基礎を築いた。特にシリマヴォ・バンダラナイケ首相の時代には、61年と72年に中国を訪問し、関係の深化をはかった。76年に毛沢東が死去した際には、スリランカは8日間の喪に服すことを宣言し、両国の密接な関係を強調した。

中国から寄贈されたバンダラナイケ記念国際会議場は、現在でもコロンボの主要なコンベンション会場として機能している。同会議場内にある中国文化センターは、2014年の習近平国家主席の訪問時に落成式が行われた。

February 1964 Chinese Premier Zhou Enlai and Ceylonese Prime Minister Sirimavo Bandaranaike signed the Sino-Ceylonese Joint Declaration/ Public Domain

スリランカにあるこのセンターは、海外初の中国文化センターである。スリランカの仏教寺院と、河南省の白馬寺、少林寺、観音寺、北京の霊光寺、永和寺といった中国の代表的な仏教寺院との間には、密接な関係が維持されている。(それまでの英連邦自治領セイロンから)1972年の共和国制への移行以来、スリランカのほぼすべての国家元首が中国を訪問している。

1978年12月から89年11月まで中国を率いた鄧小平は、中国の驚くべき経済復活の基調となった深圳経済特区の壮大な成功の前に、スリランカに代表団を送り、コロンボ首都圏経済委員会を研究したと多くの中国高官は語っている。

スリランカのテロ組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との紛争では、欧米諸国がLTTEへの軍事進攻を止めるよう政府に圧力をかけるために武器供給を控えたのに対し、中国は無条件で武器などの援助を行った。中国の揺るぎない支援は、LTTEを撃退し、テロリストの災禍をなくすことに大きく貢献した。

また、国連人権理事会やニューヨークの国連など、国際的な場でも中国はスリランカを無条件に支援した。その後、スリランカが懸命に復旧・復興に取組み、欧米からの援助が細々と続く中、経済的に復活した中国は、スリランカの復興に大きく貢献した。

Lotus Tower in 2018/ By Sarah Nichols, CC BY-SA 2.0
Lotus Tower in 2018/ By Sarah Nichols, CC BY-SA 2.0

ハンバントタ港、マッタラ空港、高速道路、コロンボ港湾都市、コロンボの蓮池舞台芸術センターなどがその成果である。ロータスタワーは、この時期に花開いた両国友好関係の証しだ。芸術センターの建築は12世紀にポロンナルワにあった蓮池から、ロータスタワーのデザインは法華経から着想を得たと言われている。

コロンボ大学には、主に中国語と中国文化の普及を目的とした孔子学院が設立されている。多くの中国人留学生がスリランカの大学で勉強を始めている。

中国の国家出版広電総局は、両国の古典を中国語とシンハラ語に翻訳して出版することを提案している。現在、二国間関係と観光促進に焦点をあてた長編映画の撮影案が検討されている。

コロンボと成都、および上海、キャンディと青島との間に姉妹都市提携が結ばれている。その他の都市間、省・県間の提携も現在検討中である。

スリランカを陥れている中国の債務の罠については、さまざまな憶測が飛び交っている。簡単に言えば、中国はスリランカの対外債務の10%未満しか保有しておらず、従来の資金源にアプローチしても拒否されたスリランカが、インフラ・プロジェクトのために中国に資金を求めたのである。

最近も、中国の科学船が寄港したことに懸念を表明する人がいて、スリランカは困難な状況に置かれた。スリランカは、訪港に関する長年の慣行と主権的権利に基づき、同船舶がハンバントタ港を使用することを許可した。

世界は、中国がその資源、医療施設、技術力、そして人口を総動員して、初期段階で新型コロナウイルス感染症に対抗したことに、神経質なまでに驚きをもって見守った。そして、武漢を皮切りに、この恐ろしいウイルスを制圧していった。

Photo: The Covid Vaccine Intelligence Network (CoWIN) system is emerging as the backbone of the vaccination programme in India. Photo: Manisha Mondal | Credit: ThePrint
Photo: The Covid Vaccine Intelligence Network (CoWIN) system is emerging as the backbone of the vaccination programme in India. Photo: Manisha Mondal | Credit: ThePrint

中国は、他国のパンデミック対策支援として約20億本のワクチン(約一割が寄贈)を送った。また、ワクチンを所有権の制約を受けない公共財とすることを提唱している。

スリランカには無償の300万人分を含む2600万人分が送られた。スリランカは、中国からの寛大な支援により、流行を大幅に抑え、再び観光客に国を開放することさえできた。

スリランカに従来ワクチンを供給してきた国々が、必要なワクチンを供給しない或いはできなかったり、中にはワクチンを買い占める国さえあった時に、中国はスリランカを援助してくれたのである。 これは、中国と中国国民による驚くべき連帯と協力の行為であった。

パンデミック期間中には、軍人を含む2000人以上のスリランカ人留学生が一時帰国を余儀なくされていたが、今ではほぼ全員が中国の高等教育機関での勉強を再開している。中国は今日、農業や製造業において、技術開発の最先端を走っている。

1970年代、80年代によく言われた懸念とは裏腹に、中国は農業の近代化によって、自国の食糧を十分に生産し、一部は輸出することにも成功している。中国の高速鉄道網は世界の羨望の的である。この広大な国土を縦横無尽に走る高速道路は圧巻だ。

中国は高度な製造業を発展させ、現在では世界の主要な製造品輸出国となっている。化石燃料の輸入に頼ってはいるが、太陽光発電や風力発電の技術も進んでおり、原子力発電や水素発電の開発でもトップランナーである。(中国は世界のソーラーパネルの70%を生産している。)中国では人工知能が日常生活の主要な部分を占めつつある。

スリランカの学生は、欧米の教育機関よりはるかに安価な中国の教育施設を利用することで、多くの利益を得ることができる。中国の多くの地方は、最先端の高等教育機関でより多くのスリランカ人が勉強できるようにすることに関心を示している。

これは、人と人との触れ合いや相互理解をさらに深めるための絶好の機会となることは間違いないであろう。中国は過去40年間に急速に発展したため、海外の多くの人々は現代の中国についてほとんど理解しておらず、学生の交流はこの認識を促すのに有効な方法であろう。

Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten
Amb. Palitha Kohona. Credit: U.N. Photo/Mark Garten

長らく観光のメッカとされてきたスリランカは、現在の金融危機から脱するために観光に大きく依存することが予想される。2019、1億6900万人の中国人が海外に旅行した。その一部でもスリランカを訪れれば、経済の好転に大きく貢献することだろう。

スリランカ大使館が中国で行っているソーシャルメディアを含めた集中プロモーションは、大きな成果を生むだろう。スリランカで最も観光客が訪れている観光・宗教施設は、キャンディの「佛歯寺」である。ここ以外で唯一仏陀の歯遺物が収められているのが、北京の霊光寺にあることが確認されている。

5世紀に建てられたシギリヤの城塞には、素晴らしい水庭と岩窟庭園、そして王によって建てられた岩の上の宮殿があり、可憐な乙女たちのフレスコ画が印象的で、今も大きな見所となっている。スリランカの自然の魅力は、野生のアジアゾウが最も多く生息していること(約7000頭が保護されている)、またクジラが多く生息していることである。

スリランカには世界有数の美しい砂浜や食欲をそそるさまざまなシーフード料理がある。またこの国では伝統医学が医療に大きな役割を担っている。スリランカの人々は、中国からの訪問者を歓迎し温かくもてなすことでしょう。(原文へ

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世界の市民よ、団結しよう!

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【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

キューバミサイル危機から60年、核兵器使用の危機が再び人類を脅かしている。当時の場合、ジョン・F・ケネディ米国大統領とニキータ・フルシチョフソ連書記長が直接交渉を通じて、ソ連の核兵器をキューバから撤去する代わりに米国が核兵器をトルコから撤去することに合意し、危機は13日で回避された。

PX 96-33:12  03 June 1961  President Kennedy meets with Chairman Khrushchev at the U. S. Embassy residence, Vienna. U. S. Dept. of State photograph in the John Fitzgerald Kennedy Library, Boston.
PX 96-33:12 03 June 1961 President Kennedy meets with Chairman Khrushchev at the U. S. Embassy residence, Vienna. U. S. Dept. of State photograph in the John Fitzgerald Kennedy Library, Boston.

当時、国連事務総長もこの危機を解決に導くうえで積極的な役割を果たした。しかし、核武装したソ連潜水艦の司令官が、米ソ超大国間の戦争開始を懸念して、モスクワとの連絡もないまま、核ミサイルを発射しないことを決定し、運良く核戦争は回避されたのである。

現在、核兵器の使用につながりかねない重大な対立が、平和的解決の兆しが見えないまま、何カ月も続いている。1962年の危機とは異なり、今日、主要国のトップ同士の迅速な意思疎通は図られていない。現代のメディアは交戦当事国間の敵意と不信感を増大させ、既存の政治的・法的な枠組みはこの状況に対処できないように思われる。

先日ポーランド領内にミサイルが着弾して2人の死者と若干の破壊をもたらしたことについて、ロシアではなくウクライナの責任が確認されるまで、全世界が数時間息を潜めた。この事件は、ロシア・ウクライナ間の戦争当事国のいずれかによる事故あるいは誤算によって予測できない結果をもたらすエスカレーションの引き金になるかもしれないという恐怖のレベルを高めることとなった。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

この戦争における核兵器使用のリスクは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国の安全保障に対する脅威と見なされるものに対してあらゆる手段を用いると宣言して以来、依然として高いままである。ロシアの間接的な敵である北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアほど強硬ではないが、同様に鋭い口調で反応した。

ロシアと核兵器を保有する西側諸国の核ドクトリンのいずれもが、必要とする状況で核兵器を先行使用することを想定している。現在の微妙な情勢では、火花が散るだけでも壊滅的な火が燃え上がるのに十分であり、紛争当事国に限定されない悲惨な結果を招きかねない。

核不拡散条約(NPT)が認める5つの核保有国のうち、核兵器の先制使用をしないと明らかにしているのは中国だけである。多くのアナリストや市民団体が、すべての核保有国がこの姿勢を採用するよう提唱している。通常、「先制不使用」(NFU)の原則は、核兵器の廃絶を予見していないため、核兵器やその他の潜在的侵略を抑止し、それに対抗する目的で核兵器を維持することを正当化するために使われることもある。

もし、現在のすべての核保有国が先制不使用を採用し、軍縮のための明確な約束と効果的なフォローアップ行動なしに国際社会が受け入れた場合、核兵器使用のリスクを減らすことはできても、完全になくすことはできないだろう。さらに、核兵器保有を永続させる根拠となり、その結果、核兵器がもたらすリスクも永続させることになる。

核兵器禁止条約(TPNW)の出現に対する核保有国の激しい否定的な反応は、核軍縮に具体的な進展をもたらすためにこの条約を利用することにこれらの国々が関心を持っていないことを明確にした。核保有国は、条約起草の準備作業や実際の交渉への参加を拒否したのみならず、同語反復的で利己的な理由とともに、この条約では軍縮をもたらすことはないと主張し、正式に拒否したのである。

明らかに、核保有国の参加がなければ、核兵器の廃絶につながるような効果的な措置を取ることは不可能だろう。だが、明確な反対があっても、国際人道法に根差したこの新条約は、核兵器を永久に保有し続けることに対する重要な法的・道徳的な障壁として、すでに重要な役割を果たすに至っている。

核保有国が核禁条約への署名や批准を阻止するために脅しをかけ強制しようとしたにも関わらず、国連加盟国のほぼ半数がすでに署名し、批准国の数も徐々に増えつつある。世論調査は、核兵器国やその同盟国の国民を含め、核禁条約に対する高い支持を示している。

Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna
Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna

世界の核兵器の総数は推定およそ1万3000発というレベルにまで削減されてきたにも関わらず、核兵器使用のリスクは増し、すべての人の安全保障が低下しているという逆説的な状況がある。冷戦時代のように、最大数の核弾頭や最大の爆発力を持つ核兵器が決定的な優位性を持つとは考えられなくなったのである。

今日、そのように困難な軍事的優勢を確保するために、絶え間ない技術改良が追求されている。核保有国、とりわけ全体の95%を保有する米露二大国は、極超音速ミサイル、衛星による発射・誘導システム、低出力の「戦術」核兵器、人工知能(AI)、無人機などの最先端の戦争技術を開発し続けている。

この種の技術革新は、既存の核兵器の殺傷力をより高める。場合によっては、そのような先進的な兵器がその使用効果を最小に抑えることができるがゆえにより「容認」できるという考え方が広まることさえある。

核保有国は、この終わりなき革新が自らの安全確保に役立つと信じているようだ。しかし、仮想敵が技術的革新を遂げれば、その敵手は新たな能力の開発によって不均衡を埋め合わせようとし、相互に与える脅威によるエスカレーションの繰り返しが導かれてしまう。この状況は、安全を生み出すことからは程遠く、この競争に関わる国々だけではなく、その他すべての国々の安全を損なう。

核兵器保有国の増加、いわゆる「水平」拡散は、世界をより不安定にする。それを防ぐために、NPTや多国間・地域間協定、国連安保理による制裁など、効果的な手段は多く存在する。

Image: South Korean commuters watch TV coverage of the North Korean missile launch from a Seoul railway station. (AFP: Jung Yeon-je)
Image: South Korean commuters watch TV coverage of the North Korean missile launch from a Seoul railway station. (AFP: Jung Yeon-je)

52年前のNPT発効以来、核保有に至った国は、条約で定められた5カ国のほかに4カ国しかない。この核クラブに新たに加わろうとする国があれば、国際社会からの激しい反発にあうことになる。これまでも核開発の試みは、外交的圧力や武力による威嚇、あるいは実際の行使によって阻止されてきた。

しかし最近になって、西側諸国の「核の傘」の下にある国を含む一部の技術先進国では、独自の核兵器保有を容認する世論が前面に出てきた。また、かつて保有していた核兵器を廃棄することを決めた国々では、現実の脅威、あるいは認識されている脅威に直面して、その時の判断を悔やむ意見が出てきている。国連や国際原子力機関(IAEA)、地域的取り決めなどの既存の国際的管理手段によって、警戒を怠りなくする必要がある。

核兵器の存在そのものがもたらすリスクに対する一般的な懸念が高まっているにもかかわらず、核保有国の努力は核兵器への依存を減らす方向には向けられていない。むしろ、これらの国々は、他の国々による民生用原子力開発に対して多くの公式・非公式の障壁を設けることで水平拡散(=核兵器を保有する国が増えること)を防ごうとする一方で、自らが望ましいと考える形で核兵器を排他的に保有することを正当化してきた。

核保有国とその同盟国には、核兵器を最終的に廃絶するための政府の計画や構造、機構といったものは存在しない。核保有国がもっぱら関心を寄せているのは拡散のリスクである。核保有国にとって核拡散という用語は、自国の核戦力の増加・増強は該当しないが、軍事利用される可能性のある核技術を他の国々(=非核兵器国)が追求したり、実際に取得したりすることのみを指すと理解している。核保有国は、膨大な人材と資金に支えられた致死的な核技術拡散に寄与する一方で、核軍縮は遠い将来の困難な目標であるとみなし、様々な環境条件と結びつけてその達成は困難である、としているのである。

50年以上前、ブラジルの外交官ジョアン・アウグスト・デアラウホ・カストロ氏は、核兵器国とその同盟国の間に支配的な態度を正確に表現していた。NPTが発効した1970年に国連総会で行った演説で彼はこう述べている。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

「権力への妄信と力への畏怖が尊重され、今や人間関係を律する一部の基本文書にまで影響を与えるに至っている。例えば、核不拡散条約という文書は、成熟した責任ある国家とそうでない国家との間を区別するという理論に基づいている。この文書の大前提は、歴史的な経験に反して、力こそが節度をもたらし、節度が責任をもたらすというものである。[…] つまり、危険は非武装の国々に由来するものであって、超大国の膨大で常に増加し続ける兵器庫に由来するのではない、という想定に基づいている。この条約は、核時代において成熟した国家に権力と特権を与えることによって、権力競争を阻止するのではなく、むしろ加速させるかもしれない。諸国から成る世界において、人間の世界と同じように、これからはあらゆる国が、あらゆる困難を排して、権力を持ち、力を備え、成功を収めようとするかもしれない。NPTは、権力に油を注ぎ、国家間の不平等を露骨に制度化したものである。」(原文へ

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FIFAワールドカップカタール大会に影を落とす欧米の偽善

【アブジャIDN=アズ・イシクウェネ】

悪ふざけは常にあったが、国際サッカー連盟(FIFA)会長のジャンニ・インファンティーノ氏がカタールでの分別のある記者会見で欧米の偽善を非難するまでは、誰もが気づいてはいたが見て見ぬふりをしていた問題だった。

不穏な気配は12年前、カタールがオーストラリア、日本、韓国、米国を破ってワールドカップ招致を勝ち取ったときに遡る。あの結果は予想外だった。

2022 FIFA World Cup

ペルシャ湾の国というと、欧米諸国にとって石油やガスの供給元、神秘主義やアラビアの豪奢な物語といったポジティブなイメージが報じられるが、アラブの国でワールドカップが開催されるとなると話は全く別だった。

欧州の関係者は、このニュースにすぐさま飛びついた。冬開催では、欧州の主要リーグの日程が乱れ、選手が疲労困憊してシーズンを終えることができないのではないか、と不快感を示した。もちろん、アラブの資金が欧州のトップリーグを支えていることを、彼らは都合よく忘れているのだ。

しかし日程を巡る混乱という言い訳が通用しなくなると、彼らは憤りの矛先を広げ、移民労働者やLGBTの権利という厄介な問題を持ち出して展開するようになった。カタール側は、移民労働者の権利を改善するために可能な限りのことをしている、FIFAはカタールにさらなる圧力をかけている、と説明したが、マスコミの大部分は満足しなかったようで、中でも英国のメディアは最も反感を持っていたようだ。

Gianni Infantino 2018/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Gianni Infantino 2018/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

英国メディアは自国でのLGBT問題を無視したままカタールの問題を書き立てた。そうした記事の論調は、ホスト国の地域社会が持つ感性に関わりなく、あたかも欧州人には、サッカーが159年前にイングランドで始まった以来、ファンが共感し観戦できる文化的なルールを設定するだけでなくそれを主張する責任があるというような態度であった。

こうした欧州からの批判にインファンティーノ会長が「偽善だ」と喝を入れたのには正当な理由がある。インファンティーノ会長は開幕前日の記者会見で、「欧州は道徳的な教訓を説く以前に、過去3000年間に世界中で行ってきたことについて、今後3000年間謝るべきだ。」と発言した。

しかし、偽善は、搾取、奴隷、権利意識という西洋の歴史的関係に組み込まれた欠陥であるだけでなく、今日も世界の他の地域、特にアフリカとアラブ世界との関わりにおいて、今なおその特徴を色濃く残しているのである。

西側諸国で近年開催された数々のスポーツや社会イベントの背後にも、虐待や大規模な強制移転の経緯があるが、今回のワールドカップカタール大会に対して示した態度とは異なり、西側のマスコミは 自国の裏庭で起こっていることについては見て見ぬふりをした。

1996 Atlanta Olympics--Olympic flag at track and field venue. Olympic Stadium. Crowd scene./  Content Providers(s): CDC/Dr. Edwin P. Ewing, Jr., Public Domain
1996 Atlanta Olympics–Olympic flag at track and field venue. Olympic Stadium. Crowd scene./  Content Providers(s): CDC/Dr. Edwin P. Ewing, Jr., Public Domain

例えば1996年のアトランタ・オリンピックの際、オリンピック関連の取り壊しによって推定3万人が家を失い、少なくとも6千人の住民が公営住宅から退去させられた。

移転を余儀なくされた人々の多くは黒人で、家や地域社会を根こそぎ奪われ、二度と元の生活を取り戻すことはできなかった。彼らはカタールの移民労働者と同じように保護され、生活への尊厳を得る資格があった。

そして、世界中のメディアがこうした人々の声を取り上げてしかるべきであった。しかし、それは明らかに過剰な要求だっだのか、或いは、社会的弱者の権利は、オリンピックから期待される利益と比較して、取るに足らないものだったのだろうか。

この記事を読んでいる間にも、2024年のパリオリンピックの会場建設のために、多くの非正規移民労働者がフランス当局によって不法に利用されているという報道がなされている。業者の強力なネットワークが数百人の移民を安い労働力として使い、パリ郊外のサン・ドニにある陸上競技場の建設に、恥じることなく配備しているのだそうだ。

欧米のメディアやそこにいる人権運動家たちが、まだサン・ドニや、そうした虐待が横行している欧米の他の場所に行く道を見つけられるかどうかはわからない。おそらくワールドカップカタール大会の後、彼らはこれらの現場で働く主にアフリカ系の数多くの移民労働者に関心を抱くのではないだろうか?

しかし、この偽善はスポーツの分野に限ったことではない。9月のエリザベス女王の埋葬を前に、ロンドンでは何百人もの「ラフ・スリーパー」、つまりホームレスの人々が、ウェストミンスター周辺やロンドンの多くの地域から排除され、辺境の隔離キャンプに追いやられたのである。

女王のダイヤモンドとプラチナのジュビリーの時も、彼らの存在が祝典の華やかさを損なわないよう、強制的に排除されるという同じ運命をたどったのである。このような弱者には何の権利もないことは明らかなので、彼らのために立ち上がることは、英国のメディアにとってほとんど興味のないことであった。

はっきり言っておく。カタールであろうとなかろうと、弱者から搾取し、甘い汁を吸うような政府などあってはならない。しかし、米国の経済学者トーマス・ソウェルがその著書『移住と文化』で雄弁に語ったように、経済史の現実として、貧困にあえぐ移民労働者の中から、将来の起業家や革新者の世代が生まれることはよくあることである。

ところで、移民労働者は命をかけて地中海を渡るアフリカ人たちだけだと考えている人たちは、インファンティーノ会長の両親がより良い環境を求めてスイスに移住したイタリア人であることを念頭に置いておくとよいだろう。

Al Bayt Stadium, Al Khor, Qatar/  Kabhi2011 - Own work, CC BY-SA 4.0
Al Bayt Stadium, Al Khor, Qatar/  Kabhi2011 – Own work, CC BY-SA 4.0

面白いのは、マスコミが移民労働に関してカタール政府をスケープゴートにするのは簡単で好都合だと考える一方で、移民労働の主な雇用主であり受益者であるカタールの欧米企業に対しては偽善的な沈黙を保っていることだ。

ロンドン証券取引所に上場している大手請負業者から、ニューヨークを拠点とする裕福なコンサルタントまで、出稼ぎ労働者という魔物は、欧米の強欲が植え付けた種を、カタールが唯一無二のイベントを演出するために育んだものである。そして、出稼ぎ労働者、LGBTの腕章、禁酒への不満などという煽りをよそに、ワールドカップカタール大会は結果的にどんなイベントになったか。

ブラジルなどの人気チームはカメルーンに敗れ、アフリカで最も優れたチームであるモロッコはベルギー、スペイン、ポルトガルを破り準決勝に進出、チュニジアは前回優勝のフランスを開幕戦で打ちのめした。

そして、大会が進むにつれて、英国のメディアが悪意を持ってモロッコ人をアフリカ人と呼んだり、アラブ人と呼んだりして混乱したことにお気づきだろうか?

アルゼンチンは、サウジアラビアに2-0で敗れたショックから立ち直り、ワールドカップ史上最も劇的な決勝戦で優勝トロフィーを勝ち取った。しかし、2022年カタール大会では、さらに多くのことが思い出されることになる。

FIFAが発表した2022カタール大会収益高は75億ドルで、前回の2018ロシア大会の収益46億ドルを大きく上回り、新たなベンチマークを打ち立てたことになる。2018ロシア大会の組織委員会の報告書によると、この大会は2013年から18年の間に140億ドル(=GDPの約1.1%)と約31万5000人の雇用をロシア経済にもたらしたとされている。

Doha corniche/ Spetsnaz 1991, CC 2.0
Doha corniche/ Spetsnaz 1991, CC 2.0

この大会は、石油資源の豊富なカタールに、今後数年間で170億ドル(アルコール禁止が利益に影響したものの)、観光でさらに数十億ドルをもたらすと予測されている。最も重要なのは、この成功により、ランドマーク的なスポーツイベントに少なからず興味を抱いていたカタールが、近い将来、オリンピックの招致に乗り出すという位置づけになったことだ。

FIFAのゼップ・ブラッター前会長が「間違いだ」と考えていたカタールでの開催が、サッカー史上最高の大会になったというのは、なんともパラドックス的な話である。

出稼ぎ労働をめぐる論争に始まり、カタールの首長がリオネル・メッシにアラブの民族衣装である「ビシュト」と呼ばれる半透明の黒いローブを着させた騒動で終わったが、カタール人は胸を張って、メディア、とりわけ欧米のメディアに成功を認めさせたワールドカップだったと言うことができるだろう。(原文へ

INPS Japan

*アズ・イシエクウェネはINPSの提携メディアLEADERSHIP紙の編集長。

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|2022年|地球の脆弱性に関する黙示録的な警告

【国連IPS=マルチメディア】

IPS

(映像の字幕を日本語に翻訳)

2022年は、地球の脆弱性に対する黙示録的な警告であった。

そして人類の悲劇的な欠点を警告してきた。

それは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻で始まった。

そして、アフリカの飢饉で幕を閉じようとしている。

780万人以上のウクライナ人が国外に逃亡した。

そして、この戦争の影響は世界中に及んでいる。

基本的な生活必需品の価格は急騰した。

ソマリアはかつて小麦の90パーセントをロシアとウクライナから輸入していた。

そして今、アフリカの角地域を襲った過去40年間で最悪の干ばつに耐えている。

被災したコミュニティーの中で、女性と女児が「受け入れがたいほど高い代償」を払っている。- 国連人口基金(UNFPA)

2022 年は記録上最も暑い5年間に入る勢いだ。

農業と食糧安全保障が第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)のアジェンダに加わった。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の耕地土壌の25%以上が劣化している。

今日世界ではサッカー場1面分の土壌が5秒毎に浸食されている。

その結果、地球の生物多様性は壊滅的な打撃を受けている。

しかし、どの国がどの国に資金を提供するかは、まだ未解決の問題である。

途上国の小規模生産者に届く気候変動資金は、全体のわずか1.7%にとどまっている。

また、海外援助のうち、男女共同参画に主眼を置いたプロジェクトに使われる割合は8%程度にとどまっている。

2022年後半に一つの激震的なマイルストーンとなる出来事があった。

11月15日に80億人目の人類の誕生が祝われたのだ。

「この地球上に80億人目の人類を迎えました。この新生児の誕生は素晴らしい出来事です。しかし、人が増えれば増えるほど、地球に重圧をかけることになることも理解する必要があります。」( 国連環境計画事務局長インガー・アンデルセン)(原文へ

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ウクライナ戦争で頭もたげる冷笑主義

アフリカの干ばつ被害者への資金が大幅に削減され、欧州に資金が流れる

COP27の中心に農産物システムの変革を据える

|視点|「スカイシールド」ミサイル防衛構想と米・NATOの軍拡競争の激化(ジョセフ・ガーソン平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン議長)

【ニューヨークIDN=ジョセフ・ガーソン

ジョセフ・バイデン政権の最近の国家安全保障戦略は、冷戦後の秩序はもはや歴史であり、まだ名付けられていない新しい時代は、新しい秩序を形成するための軍事、経済、技術の競争によって定義されると表明している。北大西洋条約機構(NATO)のロシア国境への拡大、ロシアによるウクライナ侵攻と米・NATOの対応、そして中国との貿易戦争はすべて、地域と世界の覇権を巡る消耗と、時には殺戮を伴う闘争の主要な要素である。

ドイツが安全保障戦略を大転換したのもこの流れに沿ったもので、ウラジーミル・プーチン率いるロシアからの「存亡の危機」からドイツと欧州を守るためとして、軍事費の大幅な増加、東欧やマリへの派兵、さらに最近では数十億ユーロ規模のミサイル防衛構想「スカイシールド」の推進を打ち出している。

Map of Germany
Map of Germany

ロイター通信は10月13日、「ドイツと十数カ国のNATO加盟国は、同盟国の領土をミサイルから守る防空システムの共同調達を目指しており、イスラエルの高高度ミサイル防衛システム「アロー3」、米国のパトリオットミサイル、ドイツのIRIS-Tユニットなどを選択肢に考えている。」と報じた。このシステムは「欧州スカイシールド・イニシアチブ」と命名されている。スカイシールドは、統合的かつ相互運用可能なシステムという米国とNATOの公約に基づき、すべての参加国の短距離、中距離、長距離ミサイル防衛システムを完全に統合するよう設計されている。

10月に同防空システム構築を目指すとする趣意書に署名したのは、ドイツの他に、ベルギー、英国、スロバキア、ノルウェー、リトアニア、ラトビア、ハンガリー、ブルガリア、チェコ、フィンランド、オランダ、ルーマニア、エストニア、スロベニアである。

ディフェンス・ニュースは以前、「同盟国の中には1層の防空シールドのみに関心を持つ国もあれば、完全な防御体制を選ぶ国もあるだろう。」と報じており、将来的には限定された防空システムを拡張する機会もあるとしていた。

フランス、イタリア、トルコ、スペイン、ポーランドは既に独自の防空システムを持っているため未だ署名していない。今後も、NATO加盟国と非加盟国がスカイシールドに参加する可能性についての交渉が続くと予想される。また、米国は東欧の弾道ミサイル基地の一部をNATOから独立して運用し続ける予定である。

米国は、米国製の終末高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を優先するため、まだ署名していない。一方、ドイツのクリスティーン・ランブレヒト国防相は、イスラエルの高高度ミサイル防衛システム「アロー3」を採用するよう働きかけている。この議論は、どの国が資金を獲得して技術を決定し、政策的・戦略的に優位に立つかという古典的なせめぎ合いの再現であり、イスラエルの「アロー3」システムを採用する可能性に対してワシントンがどのような見返りを受け入れるかという不確実性が根底にあるように思われる。「アロー3」は米国製部品を含むため、米国は販売先に対する拒否権を持っている。

The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense - Successful Mission, Public Domain
The first of two Terminal High Altitude Area Defense (THAAD) interceptors is launched during a successful intercept test/ By The U.S. ArmyRalph Scott/Missile Defense Agency/U.S. Department of Defense – Successful Mission, Public Domain

北はノルウェーから南はギリシャまで、NATOの東側を守ることを表向きの目的としたシステムを構築するには、少なくとも数百億ユーロの投資が必要である。とはいえ、度重なるミサイル防衛実験の失敗や、イスラエルやウクライナのミサイル防衛が露呈した能力の限界から、絶対防御とはミサイル防衛が提供できる範囲をはるかに超えていることは周知の通りである。通常兵器のミサイルに対して80%の信頼性があれば、完全ではないにせよ、意味のある防御を提供することができる。

ICAN
ICAN

しかし、核武装したミサイルの撃墜に20%もの失敗率があれば、想像を絶する惨状となり、地球の寒冷化、最悪の場合、核の冬になるかもしれない。注目すべきは、米国はロシアの極超音速滑空体や他の特殊な核兵器運搬システムに対する真の防御手段を未だ持ち合わせていないことである。

Defense-Aerospace.com は、スカイシールド計画に関連するドイツの思惑に焦点を当てた記事の中で、スカイシールド構想には産業政策上の影響があると報じている。「もし欧州諸国がアロー3とパトリオットミサイルの新型を採用すれば、重要な防衛分野における技術的ノウハウを米国に明け渡すことになり、米国がF-35戦闘機で達成したのと同じように、この分野を支配することが可能になる。」

この記事はさらに、「ドイツ政府がアロー3の購入許可と引き換えに、米国製防空システムの新規顧客を15カ国連れてくるのか、それともアロー3を購入したいが単独ではカバーできない費用の一部を負担してくれるパートナーを探しているのか、疑問が生じる」と報じている。

軍産複合体の無駄遣いかもしれないが、スカイシールドはもちろんお金以上の価値がある。シュピーゲル誌によれば、ドイツ連邦軍はドイツがロシアからの「実存的」な脅威に直面していると考えている。ロシアがウクライナに侵攻し、ミサイルや大砲によってウクライナのインフラ、とりわけ経済網が壊滅的な打撃を受けたことを考えれば、これは不合理な恐怖ではないだろう。

欧州諸国が怯える中、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、この戦争を戦後の欧州の「転換点」と位置づけ、ドイツの外交・軍事政策の転換を迫った。ドイツの「スカイシールド」構想は、ドイツが非ロシア系欧州軍事大国として主導権を握ろうとする20世紀を彷彿とさせる動きの一つであるように見える。

欧州外交問題評議会は、NATO加盟国のほとんどが「スカイシールド」に署名した理由を説明している。ロシアがウクライナに対して行った4000発以上の壊滅的なミサイル攻撃(最近ではウクライナのインフラに対するものも含む)からの教訓として、「ロシアは今後もウクライナやおそらくそれ以外の地域でミサイルを使い続けるだろう。 」と報告している。(このような戦争のやり方は、包囲戦の長い伝統の中にあり、米国のイラク戦争からわかるように、ロシア特有のものではない。) それゆえ、評議会の記事はこう続く。

Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.
Image: Destruction in Ukraine caused by the Russian invasion. Source: The Daily Star.

スカイシールドは、「欧州がウクライナの窮状をよく観察し、自国の領空に対する潜在的脅威に対して先制的に行動していることを示唆している。」スカイシールドは、「ウクライナが現在直面している、異なる防空システムを統合し、その運用を調整する方法と同じ課題に取り組む必要がある」と説明し、戦争が新しい兵器システムや戦略の実験場となる伝統から、「ウクライナは現在その課題の実験場となっている。」と述べている。

欧州理事会は、ドイツが既にIRIS-Tシステムをウクライナに提供していることに触れ、「中期的には、ウクライナは欧州スカイシールド構想に参加でき、そうすることで同構想を大幅に強化できるはずである。」と説明している。NATOが2008年のブカレスト首脳会議で、ウクライナの加盟に門戸を開いていると宣言したことと合わせると、安全で中立的なウクライナを実現するための交渉には暗い兆しが見える。

NATO.INT
NATO.INT

もちろん、過去は過去であり、行動は意図しない結果も含め、必然的にその結果をもたらす。ロシアが国連憲章を破ってウクライナに侵攻した原因が、米国主導によるNATOの東方拡大であったように、スカイシールド構想の根底には、モスクワの野望がウクライナ以外にも及ぶかもしれないという欧州諸国の懸念がある。

また、ジョージ・W・ブッシュ政権が2002年に弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約を破棄したことでも、その勢いは増している。この条約は、かつて米国の軍備管理協会が「戦略的安定の礎」と評し、核軍拡競争に歯止めをかける役割を果たしたが、核優位性と、過去に行われたような核脅迫と強要を継続する能力を追求するために、不毛で自殺行為の可能性もある形で破棄された(特にイラク戦争の前夜に米国が行った1991年と2003年の核脅迫を見てほしい)。

ミサイル防衛は防御一辺倒ではなく、先制攻撃の剣を補強する防御の盾にもなるため、一世代前に軍備管理協会が警告したように、ABM条約の破棄は、それぞれが 「防御を補強するために攻撃のための核戦力を増強する」軍拡競争のスパイラルに陥っている。これにより人類は、「それぞれが相手の行動と均衡を保とうとするため、際限のない攻撃的な防衛戦力競争への道を歩む」ことになった。この力学は、東欧に拠点を置く米国とNATOのミサイル防衛システムが、核武装した巡航ミサイルの発射に転用されるのではないかというロシアの懸念によって、さらに複雑なものとなっている。

Joseph Gerson
Joseph Gerson

注目すべきは、最近行われた米国、NATO、ロシアの現職、元職を交えたトラック2協議において、米国の参加者がウクライナ戦争終結のための交渉要請では不十分であると主張したことだろう。NATOの拡大(フィンランド、スウェーデンも含む)とロシアのウクライナ侵攻は、大国間の核戦争の危険を大幅に減少させた欧州と大西洋の戦略的安定の基盤を揺るがした。パリ憲章に始まる1990年代の欧州の安全保障秩序は、今や歴史となり急速に崩壊しつつある。

しかし、希望がないわけではない。私たちが直面している実存的な課題は、21世紀の共通の安全保障秩序を構想し構築することである。私たちは、外交によってウクライナとロシアの穀物取引が延長され、また最近行われた米露の軍高官による会談によって、建設的な交渉が可能であり続けることを目の当たりにした。

ウクライナ戦争は、ロシアとウクライナだけでなく、米国とNATOも必然的に参加する交渉によってある時点で終結するとの認識がある。このような交渉は、スカイシールドをはじめとするミサイル防衛システムの根拠となる先制核攻撃ドクトリンの放棄を含む新たな欧米安全保障秩序を構築する第一歩となりうるものである。原文へ

INPS Japan

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