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|カリブ海地域|気候変動が水危機を引き起こす

【ポートオブスペイン(トリニダード)IDN=リンダ・ハッチンソン=ジャファール】

世界全体で推定40億人が水不足に見舞われる中、6月初めに開催された地域会議では、カリブ海地域の小島嶼国が直面している特有の問題が取り上げられた。その中には、カリブ海の水循環に大きな影響を及ぼしている気候変動の問題も含まれている。

気候変動によって水不足が加速し、干ばつの頻度や厳しさが強まるなど、水を巡る環境は厳しさを増している。同時に、財源不足が水不足問題への対処を妨げている。

バルバドスで6月6・7両日に開催された「カリブ海地域水会議」では、同地域が直面している厳しい水危機に対処する行動が緊急に求められていることが強調された。

Barbados Prime Minister, Mia Mottley
Barbados Prime Minister, Mia Mottley

バルバドスのミア・モトリー首相(写真右)は会議冒頭の演説で、海水の浸入、降水量の減少、蒸発の加速といった状況の中で、基本的な水インフラの整備にかける資金調達においてすら、各国が法外な金額を高利で短期借り入れせざるを得ない理不尽さを強調した。

モトリー首相は、水危機は「現代における最大の課題」であって小島嶼国には深刻な問題であり、様々な面で早急な対策が必要であると主張した。また、気候変動の影響に加え、限られた資源と資金調達へのアクセスが、この地域の脆弱性を悪化させていると付け加えた。

The Caribbean Water Conference in Barbados Credit: BWA
SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

国連環境計画のクリス・コービン調整官は、「気候変動が水資源に及ぼす影響は多岐にわたり、既存の問題を悪化させ、この限りある資源を巡る競争が激しさを増しています。また、ラテンアメリカ・カリブ海地域の水資源の状況は深刻です。」と指摘した。現在、同地域の人口の25%の人々が安全な飲料水にアクセスできず、それによって水系感染症や他の健康リスクにさらされている。また、域内人口の60%が安全な衛生サービスを利用できておらず、公衆衛生と環境の維持に対するリスクとなっている。

「水利用を巡る競争は気候変動によって悪化しています。老朽化したインフラ、人間の健康、生態系の保全に対する水の需要について、どのようにバランスをとっていけるでしょう。」とコービン調整官は疑問を呈した。

カリブ共同体(CARICOM:構成20カ国)のアームストロング・アレクシス事務次長もまた、気温の上昇、降雨量の減少、干ばつの長期化、砂漠化、塩害、ハリケーンの大型化といった気候変動がもたらす問題が、カリブ海の水資源に深刻な影響を及ぼしていることを強調した。

このような問題は、国土が狭い小国や低平地国では、水資源を開発する際に利用できる選択肢が限られていることから、一層悪化している。アレクシス事務次長は、「このような国々では、淡水の供給を含む物質的な資源や、その資源を生み出す能力が限られていることを意味します。」と語った。

アレクシス事務次長はさらに、「私たちは重大な岐路に立たされており、時宜を得た今回の会議は、この地域で進行中の水管理上のニーズを(適切な文脈の中で)位置づけるのに役立つはずです。国際社会による対応は、資源に乏しい国々のニーズを満たすには不適切な規模でしかありません。」と指摘した。

Map of the Caribbean Sea and its islands./ By Kmusser - Own work, all data from Vector Map., CC BY-SA 3.0
Map of the Caribbean Sea and its islands./ By Kmusser – Own work, all data from Vector Map., CC BY-SA 3.0

パネルディスカッションに登壇した国立海洋大気機構(NOAA)物理科学研究所のロジャー・パルワーティ主任研究員は、カリブ海地域の小島嶼国が直面している水関連の問題の主な要因について、「ハリケーンでも、海抜面の上昇でもなく、飲み水の不足が主な要因です。そこで、大気中に拡散した水蒸気の動きに関する理解が、この地域における水利用を決定する上で不可欠です。水危機の進行状況に鑑みれば、調整と対策を講じる努力が不足していることは明らかです。」と語った。

「まるで異なるゲームをしているようで、そのために一連のパラドックスが発生しています。一滴の水を確保し環境を守ることに最大の経済的価値を置こうではありませんか。人びとが平等に飲み水を手に入れることができるよう協力しようではありませんか。」と、パルワーティ主任研究員は語った。彼は、トリニダード・トバゴの科学者で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にも協力した。この問題を解決するためなら水道の民営化もいとわない姿勢だ。

米国際開発庁の気候問題専門官で次官補代理のギリアン・キャドウェル氏は、「水は生命の本質です。そしてこの限られた資源は、今日人類が直面している最も緊急の課題を巡る闘争の場となっています。洪水や台風から、現在『アフリカの角』地域を襲っている干ばつに至るまで、気候関連災害の9割近くが水関連のものです。」と指摘した。

これらの問題は深刻度が増しており、国際連合児童基金(ユニセフ)は、世界のおよそ40億人が今日水不足に直面しており、2025年までには世界の人口の5割が、少なくとも年に1カ月は深刻な水不足に見舞われることになると予想している。

キャドウェル氏は、「この危機的状況の背景には、多面的な理由があります。世界は降雨量の劇的な増加と減少の両方を目の当たりにしており、水に関連した不規則な出来事を引き起こし、水の供給や廃棄物管理システムに必要な重要インフラに大きな損害を与えています。また、急速な都市化も問題の悪化に寄与しており、水不足の悪影響が社会に行き渡って、生活の様々な局面に影響を及ぼしています。生産性は低下し、物価は上昇し、栄養が不足して子どもに悪影響を及ぼしています。つまり知的にも身体的にも成長を阻害しているのです。水は生命そのものであり、死を意味することもありえるのです。」と語った。

カリブ共同体気候変動センター(CCCCC)のコリン・ヤング センター長は、バルバドスのモトリー首相が提起した問題に改めて触れた。とりわけ、気候変動に関連した水問題に対応するための融資を求めている小国が直面する課題を指摘し、脆弱な国々が緊急の気候変動問題に効果的に対処する能力を妨げている複雑で断片的なプロセスを強調した。

ヤングセンター長はまた、「適切な資金調達が困難が現状が、気候変動の影響に対応しようともがいているカリブ海諸国にとって高いハードルとなっています。国際的な気候変動関連の金融枠組みは世界の最も脆弱な国々のニーズを満たせていません。制度があまりに複雑で、実行があまりに遅く、私たちが直面している事態の緊急性に見合ったものが提供されていません。」と語った。

さらに、「気候変動資金を提供するために、『グリーン気候ファンド』や二国間取決めのような様々な資金調達メカニズムが設立されてきました。しかし、現実には様々なドナーがバラバラに、かつ異なった基準の下で動いており、協調的な金融の要件を各国が満たすことが難しくなっています。このような分断された金融状況が、水不足に対応するための資金調達を困難にしているのです。例えばカリブ海諸国向けの水プログラムを開発するためには、まとまった地域的枠組みではなく、国ごとのアプローチを進める必要があります。」と指摘した。

モトリー首相は会議冒頭の演説で「実際には、地球の人々と地球のバランスを保つために不可欠な要素である生物多様性に対して国際社会は適切に行動することが重要です。そのためには、諸国が市民を守る水インフラ構築のために利息が二桁にもなる短期融資に依存せざるを得ない状況を強いらないようにする必要があります。」と語った。(原文へ

INPS Japan

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安全保障理事会は、子どもに対する国際犯罪への説明責任をどのように果たせるか

【フロリダIPS=ジャニーン・モーナ】

「私の人生は台無しにされました。」と、最近までシリア北東部の武装組織「イスラム国」(IS)支配下で暮らしていたアンワルは、記者にトラウマ的な体験について証言した。

アンワル(仮名)が14歳か15歳だった2018年頃、ISのメンバーである彼の父親は、ISの軍事訓練を強要した。また、ISの規則に違反した人々を残忍に罰する光景を強制的に見せたりもした。

苦しみは耐え難いものだった。アンワルは何度も父親やISの支配地域から逃げようとした。「みんなが憎かった。」とアンワルは回想する。

Recommendations for the Secretary-General’s 2023 Annual Report on Children and Armed Conflict
Recommendations for the Secretary-General’s 2023 Annual Report on Children and Armed Conflict

2011年、ISの活動が再びイラクで活発化し始めると、国連はいち早く、武装集団が子どもたちに対して犯した侵害行為を文書化した。その年、国連事務総長は、「子どもと武力紛争」に関する年次報告書にISを掲載した。国連は、将来における人権侵害の発生を防止する取り組みの一環として、この報告書に記載された当該団体と行動計画について交渉することを求められている。

年次報告書は多くの文脈で行動を促す強力なツールだが、ISのように国連との対話に応じそうにない加害団体にはほとんど影響を与えていない。

過去11年間、年次報告書に掲載された数多くの加害団体は、「永続的な加害団体(Persistent Perpetrators)」に分類することが可能だ。つまり、5年以上連続して報告書に掲載され、子どもたちに対する侵害行為について報告に応じなかった武装グループや勢力である。ISは過去13年間、連続して報告書に掲載されている。

国連安保理はこれまでも、こうした加害団体や集団による人権侵害に対処することの重要性を強調する決議を採択し、2021年に公開討論会を開催するなど、永続的な加害団体の問題に焦点を当ててきた。また、手に負えない加害団体に対する制裁を推進する努力も行ってきた。

A young refugee boy, pictured in a temporary displacement camp in Kalak, Iraq, in June 2014. Credit: Amnesty International
A young refugee boy, pictured in a temporary displacement camp in Kalak, Iraq, in June 2014. Credit: Amnesty International

こうした取り組みにもかかわらず、国連安全保障理事会とその下部組織である「子どもと武力紛争に関する安保理作業部会(WG)」は、有意義な説明責任を支援するために、さらにもっと多くのことができるはずだ。

子どもに対する犯罪の国内起訴

作業部会は、子どもと武力紛争に関する国連安保理のアジェンダを遂行する主要な機関として、国連とその援助国に対し、子どもに対する重大な人権侵害を犯罪とする国内法の整備と実施を支援するよう要請を強化すべきである。また、国際的な公正裁判の基準に沿って、説明責任を追求するために、各国の刑事司法制度を支援すべきである。

今日、イラクやシリアのIS、ナイジェリアのボコ・ハラムなど、非国家主体による重大な人権侵害に関わった加害者を訴追する事例の多くは、当該国の反テロ法廷で行われているが、多くの場合、子どもに対する犯罪はおろか、国際法上の犯罪すら裁けていない。

作業部会は、国際犯罪を裁くことのできる国内裁判所で、こうした集団の構成員を裁くよう奨励しなければならない。起訴は、犯罪が行われた国や、関連する場合には、普遍的管轄権(ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪など、深刻な国際犯罪の容疑者を逮捕した国が、発生場所や容疑者の国籍にかかわらず訴追できる権利)を行使する国でも行うことができる。

子どもに対する犯罪に関する裁判が反テロ法廷で行われる場合、関係当局は検察官と裁判官が国際法を活用できるようにし、訴追のために十分な資源を提供し、被告人が公正な裁判を受ける権利を十分に行使できるようにしなければならない。

武装集団や武装勢力に加担した子どもたちが関与する場合、国家は、国際基準に従って、加担中の罪に問われた子どもたちを、加害者としてだけでなく、主として国際法違反の被害者として扱うべきである。子どもたちは、武装集団や勢力に所属しているというだけで、決して訴追されるべきではない。

国際刑事裁判所やその他の国際的メカニズムへの協力

The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands
The International Criminal Court (ICC) in The Hague, Netherlands

国内の法制度が、子どもに対する犯罪の訴追を追求できない、あるいは追求する意志がない状況においては、作業部会は、国際刑事裁判所(ICC)や、説明責任を果たすためにシリア国際公平独立メカニズム(IIIM)やミャンマーに関する独立調査メカニズムのような他の国際司法メカニズムと協力する機会を探るべきである。

この種の協力は、作業部会が子どもたちに対する重大な侵害に対応するために取り得る行動リストを最初に採択した際に想定されていたものである。国際司法メカニズム間の効果的な協力は、包括的な正義を実現するために不可欠である。

作業部会とICCとの関わりは、これまで限定的なものであったが、今こそ両機関間のつながりをさらに発展させる時である。ICC検事局は、「関連する主体との協力を強化する」機会を歓迎しており、今年初めには、「有意義な変化に影響を与えるために……(中略)新たなアプローチを基礎とする」子どもに関する方針を刷新するための公開協議を開始した。

過去に、一部の作業部会メンバーは、締約国がICCの管轄内で戦争犯罪やその他の犯罪を犯した可能性が高い場合、それを示すことを検討した。また、ICCと結論を共有し、ICCの検察官が作業部会とブリーフィングを共有する可能性も検討した。

10年前、作業部会の一部のメンバーは、国連安全保障理事会の付託がない場合、武装集団や勢力が子どもに対する重大な侵害を犯した状況をICCに付託するよう、ローマ規程の締約国に呼びかけることも検討した。残念ながら、当時ICCについては理事国間で意見の隔たりが大きく、こうした勧告の採択は制限されていた。

子供たちは保護されなければならない

7月5日、国連安保理は、「子どもと武力紛争」に関する年次公開討論会を開催する。この機会は、すべての国連加盟国に対し、子どもに対する権利侵害に対する説明責任を拡大・強化する努力を公に約束する機会を提供するものである。

その第一歩として、加盟国は国連事務総長に対し、2017年に中止された、子どもと武力紛争に関する年次報告書において「永続的な加害団体(Persistent Perpetrators)」を再び特定するよう求めるべきである。

国連安保理事会には、子どもに対する犯罪の加害者である世界有数の悪質な犯罪集団に対して、より積極的な行動を起こす権限がある。アンワルのような子どもたちが、正義と説明責任が果たされるまで、これほど長い間待たなければならない現状は容認できない。(原文へ

*ジャニーン・モーナはアムネスティ・インターナショナル危機対応プログラム、テーマ(子ども)研究員。

INPS Japan/ IPS UN Bureau

「子どもと武力紛争」に関する年次報告書2023:国連はこの報告書のウクライナ紛争に言及したセクションにおいて、「ロシア軍と親ロシア派武装勢力の爆弾などの攻撃によって136人の子どもが死亡、518人がけがをした」と認定した。また、「施設の周囲などに人を配置し、敵の攻撃を避けるいわゆる『人間の盾』として、ロシア軍などによって90人の子どもが使われた」と指摘。こうした行為の結果、ロシアを安保理の常任理事国としては初めて、子どもの人権を侵害した国の1つに指定した。

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先住民の知識は解決策をもたらすが、その利用は先住民コミュニティーとの有意義な協働に基づかなければならない

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=タラ・マカリスター、ケイト・マキニス・ン、ダン・ヒクロア】

本記事は、2023年3月30日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいて再掲載されたものです。

地球環境問題が拡大する中、人々や地域社会は次第に先住民の知識に解決を求めるようになっている。

気候変動に取り組む上で、先住民の知識は特に魅力的である。なぜならそれは、長い歴史と、自然と共にその一部として生きるための指針を含んでいるからである。それはまた、環境における生物と無生物の相互作用に関する総合的な理解に基づいている。(

しかし、先住民社会との意味のある協働がなければ、彼らの知識の利用は見かけだけの、搾取的な、さらには有害なものとさえなり得る。

筆者らが新たに発表した研究は、「カイティアキタンガ(kaitiakitanga)」という概念についてである。この言葉は、保護、保全、あるいは「世代から世代への持続可能の原則と実践」と訳されることが多い。

西洋的教育を受けた科学者には、マオリのパートナーとして共同作業を行い、環境保全や資源管理の活動においてマオリの価値観や知識をしっかりと認識するよう勧めたい。

先住民の知識には、数千年にわたり世界中の先住民によって培われてきた工夫や観察、口承や文字による歴史などが含まれている。

このような知識は、生きており、動的で、進化している。アオテアロア(ニュージーランド)では、マオリによって培われた知識を特にマータウランガ・マオリ(mātauranga Māori)という。これには、彼らの文化、価値観、世界観などが込められている。

カイティアキタンガという概念は、アオテアロアにおける自然保護や資源管理に関連してしばしば(誤って)使用される。筆者らの研究では、カイティアキタンガと他の概念は本質的に結び付いていることを強調している。これらの概念をそのまま翻訳することは難しいが、ティカンガ(マオリの習慣)、ファカパパ(家系)、ランガティラタンガ(主権)、その他多くの概念を含んでいる。

「カイティアキタンガ」と「自然保護」の概念的相違の一つを挙げると、カイティアキタンガの場合、われわれは自分たちをテ・タイアオ(自然環境)の一部と見なしており、それに基づいて関係性を築いている。一方、自然保護は、人間があたかも自然環境から切り離されているかのように、環境を管理するという観点が特徴的である。

ジョー・ウィリアムズ判事は、カイティアキタンガを「自分自身を大切にする義務」と表現し、人間と環境の本質的な結び付きを示している。

カイティアキタンガを単純化して定義することには気をつけるべきである。その文化的背景から切り離して使われていることが多いからだ。単純化した定義付けによって概念の豊かさが損なわれ、カイティアキタンガがどのように概念化され実践されているかの違いが認識できなくなる。

それよりもむしろ、西洋的教育を受けた科学者には、カイティアキタンガを支える概念への理解を深め、マナフェヌア(土地の人々)と協力してさらに理解を発展させることを勧めたい。

マナフェヌアと研究者の共同作業が成功を収める事例が増えている。こういったプロジェクトを調査することで、研究者らは、有効かつ敬意ある形で貢献する方法について知見を得ることができるだろう。

例えば、マールボロ・サウンド地方で伝統的に行われているハイイロミズナギドリ(鳥)の狩猟と管理に関する研究から、種の保存管理に文化的収穫を織り込むことの重要性が分かる。

 同様に、希少種を移植する際に先住民の知識を中心に置くことによって、保全の成果を高めることができる。

ラフイ とは、特定の資源や土地への立ち入りを制限し、その回復を可能にするために、マナフェヌアが用いることがある慣習的なプロセスである。これには環境問題への総合的理解と、社会的・政治的コントロールが含まれている。

ラフイは、ワイタケレ山脈でカウリの木の立ち枯れ病が広がるのを防ぐために利用された。また、ワイヘケ島の海産物(カイモアナ=海から採れる食料、ホタテ貝、ムール貝、クレイフィッシュ、パウア貝など)を保護するためにも利用された。

このほか、森林、湖、海岸、海域を数日から数十年の期間にわたってカバーするラフイの例がある。ラフイは広く行われているが、地域の状況による特異性が高い。イウィ(マオリの同族集団)がラフイを実施するためには、ランガティラタンガ(首長権、権限行使権)を有している必要がある。なぜなら、カイティアキタンガはランガティラタンガの存在確認であり、具現化であるからだ。

マオリ族の研究者とコミュニティーに力を与えることが、価値ある協働を実現するために重要である。非マオリの研究者には、自身の訓練と知識の限界を認識したうえでパートナーシップに取り組むことを勧める。

知的謙虚さを持つことで、意味のある共同作業の条件が整う可能性が高まる。協働関係の構築と維持は時間がかかるが、筆者らの協働経験では、時間をかけて信頼と理解をはぐくむことは実りある成果を収めるために極めて重要である。

筆者らの研究が、実績ある実践者にとっても学生にとっても多少のインスピレーションや助言となれば幸いである。

マータウランガと生態系がどのように相互作用し得るかについては、このほかにも多くの事例がある。学術誌“The New Zealand Journal of Marine and Freshwater Research”は、マータウランガ・マオリとそれが海洋保全にどのように寄与しているかを特集した特別号を発行している。このほか、敬意ある協働が科学教育研究成果の向上にいかに有効であるかを検討した学術誌もある。

タラ・マカリスターは、「ビジョン・マータウランガ能力基金」の助成を受けている。
ケイト・マキニス・ンは、「テ・プナハ・ヒヒコ:ビジョン・マータウランガ能力基金」および、「テ・プナハ・マタティニ」の助成を受けている。
ダン・ヒクロアは、「マーズデン(Marsden)」「企業・革新技術・雇用省(MBIE)」「テ・プナハ・マタティニ、ナ・パエ・オ・テ・マラマタンガ」の助成を受けている。UNESCOニュージーランドの文化担当理事、環境保護機関「ナ・カイホトゥ・ティカンガ・タイアオ」のメンバーおよび暫定ポー・ヘレンガ(Pou Herenga=まとめ役)を務めている。

INPS Japan

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タイの「足るを知る経済」哲学がラオスで実を結ぶ

【ビエンチャンIDN=パッタマ・ビライラート】

「足るを知る経済」という言葉が有名になったのは、1997年のアジア金融危機の最中のことであった。タイの故プミポン・アドゥンヤデート国王が国民に対して、「もうひとつの『アジアの虎』になるために工場を建設するよりも、国民にとって重要なことは『足るを知る経済』を実現することだ。」と呼びかけたのだ。

Bhumibol Adulyadej/ By John Dominis, Public Domain
Bhumibol Adulyadej/ By John Dominis, Public Domain

「『足るを知る経済』とは、経済がほどよく持ち、ほどよく食する様であり、このようにほどよく持ち、ほどよく食することが自己の維持となり、自身にも十分と思わせることである。」とプミポン国王は述べた。それ以来、この経済発展の理論が2万3000以上のタイの村々で採用されてきた。そして今、隣国のラオスにも広がりつつある。

首都ビエンチャンの活気に満ちた「朝市」からわずか13キロのところにあるドンカムサン農業技術大学の校内に、「足るを知る経済哲学を基盤とした持続可能な農業開発学習センター」がある。この「学習センター」は、学生が有機農産物の栽培、魚の養殖、畜産の方法を学べる場所を提供している。

「ビエンチャンはきわめて近代的で、農業部門で働く人はどんどん少なくなっています。」と、タイ国際協力庁のヴィティダ・スバクア氏はIDNの取材に対して語った。

スバクア氏の言葉は、ラオス計画投資省全国統計局が行った調査によっても裏付けられている。同調査によると、ラオスの農業人口はこの10年で激減しており、「2010年の全人口(700万人)中の77%から、2020年には69%まで減っている。都市部で働くために農業を辞めているからだ。」という。

ラオス農業の推進力を維持し、農業社会を支える農学生を育てるべく、ドンカムサン農業技術大学校のチッタコーン・シサノン校長は、「足るを知る経済哲学を基盤とした持続可能な農業開発学習センター」を新設することとした。

シサノン校長は、自身が2003年から06年にかけてタイに留学し、同国の足るを知る経済の学習センターを訪問したことで、同じような学習センターをラオスにも設置する構想を固めていった、とIDNの取材に対して語った。ラオスとタイの自然資源には類似したところがあり、ラオスにもこのような農業学習センターを作ることは可能だと考えたという。

Map of Laos
Map of Laos

タイ国際協力庁が2007年にラオスのシサノン校長の大学を訪問したことで、この構想は実現することになった。「当大学の教育アプローチは『足るを知る経済』と親和的なものであったため、私はタイ国際協力庁に接触して、当校の教員や学生、近隣の住民がこの経済のアプローチによって農業を学ぶ場を得られる学習センターの設置を持ちかけたのです。」とシサノン校長は語った。

タイ国際協力庁のスバクア氏は、「『足るを知る経済』哲学は、1990年代の金融危機に対処する中で生まれてきたものであり、タイ政府はこの哲学を経済活性化のために応用し、結果としてそれ以降、タイの国家経済社会開発計画に盛り込まれるようになりました。」と指摘した上で、「タイはかつて援助受け入れ国でしたが、開発援助を受ける傍ら、他国からノウハウを学びタイの文脈に応用していきました。1963年以降は徐々に援助国に転じ、自らの経験を他国に与えることができるようになってきています。」と、目を輝かせながら語った。

「この経済哲学の中核的なテーマは、『理解し、アプローチし、発展させる』です。したがって、この経済哲学のアプローチを実際の開発プロジェクトに反映させる前に、援助対象国と会合を繰り返して、彼らがどんな支援を必要としているのかを理解することを心がけています。ひとたび援助受け入れ国のニーズを理解したら、タイの関係省庁と連携して、援助プロジェクトの調整・策定を進めていくのです。」とスバクア氏は付加えた。

足るを知る経済」には、中庸(節度)・道理(妥当性)・自己免疫力の三つの要素に加え、適切な知識と道徳という二つの条件がある。中庸とは、「多すぎず、少なすぎず」という意味で理性と共に応用されるもので、仏教的な中庸の道を基礎にした東洋的な概念である。合理性は、何らかの選択をするにあたって、学理や法的原則、道徳的価値、社会的規範によってそれが正当化される、という意味である。そして自己免疫力とは、優れたリスク管理を行うことで、内外の変化によって起きるリスクに対して、自己充足的に柔軟な対応をすることを強調するものである。

この学習センターで牛の世話をしているアヌソン・サヤボンさんは、「私はこの経済哲学が意味するところを十分理解していると思います。私の家族は、他の兄弟のように家の農地で働くのではなく、私がこの大学の農業開発学習センターで勉強することを望みました。ここでは生産管理や土壌を豊かにする方法を学べるので、入学した甲斐はあったと思います。気候変動で自然の生産力が不安定になっていることから、ここでの学習は今後ますます必要なことだと思います。」と語った。

「この学習センターは、畜産実習と植物栽培という農業の2大領域を網羅しています。私は畜産の方の責任者ですから、毎朝ここにきて牛の面倒をみています。牛が病気になっていたら、注射もします。一方クラスメート達は、大学の構内の反対側にある農地で農作物を育てています。」とサヤボンさんは語った。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

シサノン校長はサヤボンさんの説明を補足して、「実際、当校の学習センターには22の学習施設があり、創設以来、それぞれの施設が、コオロギやカエルの培養施設の例にみられるように地元の農業のやり方に合わせています。時間をかけて、一部の施設では市場で売れる製品を作るようになってきています。『足るを知る経済』哲学とは単に家族のニーズを満たすための農産品を作ることだけにあるのではなく、持続可能な生活の方法を見つけることでもあります。従って、より広域の市場で自分たちが育てた農産物を売れるようにするための努力をしているのです。」と付け加えた。

「例えば、有機メロンが最も売れ筋ですが、市場の需要を満たせていません。近隣の住民は当学習センター産のメロンには化学薬品を使っていないことを知っているので、メロン自体は簡単に売れます。そこでこの有機メロンをウェブサイトでも宣伝し、潜在的な顧客層を広げる取り組みをしています。そうすることで、当校の教員は販売利益を学習センターの運用費用に充てることができます。『足るを知る経済』哲学とはそういうものだと私は理解しています。」とシサノン校長は語った。

ラオスの「ビジョン2030」と「社会経済開発戦略10年計画(2016~2025)」には、2030年に向けた農業部門のビジョンとして、「食料安全保障を確保し、比較優位で競争力のある農産品を生産し、クリーンかつ安全で持続可能な農業を発展させ、強靭で生産性の高い農業経済の近代化に段階的に移行し、地域の発展を国家全体の経済基盤へと結び付けていく」ことを目指すと記されている。

このビジョンに基づき、ラオス政府は農業、大工、金属加工、建築を学ぶ者に月20万キップ(11米ドル)を支給しているが、これらの分野で学びたい10代の若者はわずかである。

ラオス国立大学の学者であるホマラ・フェンシサナポンさんは、大学生が減っているとの懸念を口にした。「2019年以来、ラオスの学生の数は小学校から大学レベルまで38%減少しました。コロナ禍もそうですが、親が子供を養うための十分なお金を持っていないことが主な理由です。」

シサノン校長も同じ見方だ。「現在、ラオスの生活費はインフレのために高騰しています。世界銀行やアジア開発銀行もラオス政府を通じて融資をしていますが、多くの人々は融資を受けられません。そこで私は、この学習センターの運営を持続可能なものにして長期的には教員と生徒に収入をもたらすことができるよう取り組んでいます。」

JICA Logo
JICA Logo

「毎年、さまざまな開発組織から多くの訪問客があります。現在は、日本の国際協力機構(JICA)の支援を得て教員達にマーケティングを学ばせています。研修後は、ここの農産物をオンラインで販売したいと考えています。また、センター前に店舗を開設する資金提供を世界銀行に働きかけており、2025年にはセンターを観光客に開放したいと考えています。こうした取り組みを通じてこの施設と関係者の生活はなんとか維持されるでしょう。」とシサノン校長は語った。

ドンカムサン農業技術大学が、「足るを知る経済」哲学を実践しているラオス唯一の機関ではない。今ではアッタプーボケオカムアンサイニャブリーの4か所にも「足るを知る経済哲学を基盤とした持続可能な農業開発学習センター」は展開している。

「ラオスは言語や文化面でタイと変わらないので、『足るを知る経済』アプローチが実りある結果をもたらすことができるのです。」とタイ国際協力庁のスバクア氏は語り、さらには、ラオスだけではなく東ティモールもこの経済哲学を応用しているという。「タイの農民が東ティモールの農民の指導者にこの経済哲学をどう農業分野に応用するかを教えています。今や彼らは自身を訓練できるようになってきています。このように国際協力を通じて開発コンセプトを具体化していくのがタイ国際開発庁の使命です。」(原文へ

[1]『タイ人間開発報告2007:充足経済と人間開発』(バンコク、国連開発計画)

INPS Japan

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年間50件以上の紛争による死者数の増加

【国連IDN=タリフ・ディーン

世界の武力紛争による死者数は、2022年だけで23万7000人を超え、そのほとんどがウクライナとエチオピアの戦争によるものである。

オスロ平和研究所(PRIO)が6月7日に発表した新たな調査報告書によると、2022年の戦闘関連死者数は、エチオピアのティグレ地方での戦争が10万人以上を占め、ロシアによるウクライナ侵攻(8万1000人以上)よりも多い。

Photo: Ethiopian federal government's "final offensive" against Tigray regional forces. Credit: Ethiopian News Agency
Photo: Ethiopian federal government’s “final offensive” against Tigray regional forces. Credit: Ethiopian News Agency

「オスロ平和研究所のシリ・アース・ルスタッド教授は、「2022年、エチオピア戦争は、ウクライナ、イエメン、ミャンマー、ナイジェリア、ソマリア、マリ、ブルキナファソにおける戦闘関連死者数の合計を上回る犠牲者を生んでいます。ロシアのウクライナ侵攻が世界的にニュースの見出しを飾った一方で、エチオピアではかつてない規模の残虐行為が横行していました。」と語った。

最新の統計によれば、2022年には1994年以来、どの年よりも多くの武力紛争、戦闘に関連した死者が出ている。ウクライナとエチオピアにおける戦争が、2022年の戦闘関連死者数(23万7000人超)の主な原因となっている。

オスロ平和研究所の調査報告書「紛争のトレンド:A Global Overview, 1946-2022」は、1946年から2022年までの世界の紛争動向を分析したもので、社会科学の研究者やジャーナリスト及び政治家によって利用されている。

この調査は、スウェーデンのウプサラ大学の紛争データ・プログラムが毎年収集しているデータを使用している。

Conflict Trends: A Global Overview, 1946–2022・Photo:PRIO
Conflict Trends: A Global Overview, 1946–2022・Photo:PRIO

一方、国際の平和と安全の維持を使命とする国連は、主に国連安保理における新冷戦(一方が中国とロシア、もう一方が米国、英国とフランス)を背景に、ウクライナ、イエメン、アフガニスタン、シリア、エチオピア、スーダンなど、現在進行中の紛争や内戦の解決に失敗している。

ウプサラ大学平和・紛争研究所ウプサラ紛争データ・プログラム(UCDP)のテレーズ・ペターソンプロジェクト・マネージャーは、IDNの取材に対して「今の国連安保理は、世界の現状に対処するには明らかに機能不全に陥っており、この行き詰まりがいくつかの紛争の解決を困難にしています。しかし、紛争解決を促進できる多国間機関は、例えばアフリカ連合や欧州連合等、国連安保理以外にもあります。さらに、ほとんどの紛争は国連が仲介する平和協定で終結するのではなく、むしろ戦闘が単に停止するなどの他の状況下で終わることも少なくありません。」と指摘した。

新報告書は、「2022年を通じて、武力紛争の数は依然として高いまま推移し、戦闘関連の死者数が増加した。武力紛争の影響を受けた38カ国で55の紛争が発生し、その内8つが戦争(年間1000人以上の戦闘関連死者数が記録される)に分類された。

ルスタッド教授は、「この10年で、武力紛争が憂慮すべきほど増加しており、過去8年間、毎年50件以上の紛争が起きています。これは部分的には、アフリカ、アジア、中東でイスラム国が拡大したためです。このテロリスト集団は2022年には15カ国で武力紛争に関与しています。」と語った。

武力紛争といえば従来内戦が主流だったが、この10年で、この種の紛争はますます国境を超える様相を見せており、このことが戦闘に関連した死者数を増やす原因にもなっている。内戦が国際化したとみなされるのは、1つまたは複数の外国の政府が、内戦当事者のいずれかの側に立って戦闘要員の提供または派遣などして関与している場合である。

ウプサラ紛争データ・プログラムのペターソンプロジェクト・マネージャーは、「外国の政府が、紛争国の反政府勢力に兵力を支援することがますます一般的になっており、これは本質的に国軍同士が戦っていることを意味します。」と説明した。

イスラム国や、ワグネル・グループのような民間軍事組織など、この10年で、武力紛争における、非国家武装集団の関与が増大した。こうした集団は、紛争の影響を受けている国内および国家間の紛争ダイナミクスを変化させる。例えば、サヘル地域でワグネル・グループの活動が活発化すれば、現地の反政府グループによるリクルート活動が増えるかもしれない。

非国家主体が関与する武力紛争に関しては、最新の数字では2022年に82件の武力紛争が発生し、2021年の76件から増加している。紛争件数が増加にもかかわらず、戦闘関連の死者数は20,000人強と、約4,000人減少した。これは、比較的小規模な武力紛争が増加したことを示唆している。

A breakaway of Boko Haram faction. Source: Institute for Security Studies.
A breakaway of Boko Haram faction. Source: Institute for Security Studies.

非国家主体が関与した武力紛争が最も多発しているのはアフリカで、次いでアメリカ大陸である。メキシコは依然として非国家主体が関与した武力紛争で最も暴力的な国のひとつであり、14,000人以上の戦闘関連死が記録された。

一方、国連総会は6月7日、本会議を開き、GUAM地域(=ジョージアGeorgia〉、ウクライナ〈Ukraine〉、アゼルバイジャン〈Azerbaijian〉、モルドバMoldova〉)において長期化する紛争」について協議した。つまり、グルジアのアブハジア及びツヒンヴァリ地方(南オセチア)からの国内避難民・難民の状況に焦点を当てた、グルジアが提出した決議案についてである。(原文へ

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|視点|非核兵器地帯に関する包括的研究を行うべき(ジャルガルサイハン・エンクサイハンNGO「ブルーバナー」代表、元モンゴル国連大使)

【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン】

非核兵器地帯は、核不拡散の目標を推進し、国家間の信頼を強化する上で非核兵器国が採りうる重要かつ実践的な地域的措置として認識されているものである。

現在、海底と南極、宇宙空間は居住人口のない非核兵器地帯とされている。また、居住地域には、ラテンアメリカ及びカリブ地域、南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸全体、中央アジアの5カ所に非核兵器地帯がある。116の国と8400万平方キロメートルが含まれ、これは世界の人口の39%と国連加盟国の60%を占める。現在、中東非大量破壊兵器地帯の創設が議論されており、あわせて、北東アジアや北極にも非核地帯創設の非公式協議が進行中だ。これらの地域的地帯は「旧来型の非核兵器地帯」として知られ、諸国家の集団のみがこうした非核兵器地帯を設立できるという考え方に基づいている。

しかしこのことは言い換えれば、地理的位置や、政治的・法的理由から、個別の国家が旧来型の(非核兵器)地帯に加盟できないという問題がある。もしこうした国々が非核兵器地帯から除外されたまま放置されれば、国連創設時から我々が確立しようとしている「核兵器なき世界(NWFW)」に盲点やグレーゾーンを作り出し、非核兵器地帯体制のアキレス腱になりかねない。核兵器なき世界への歩みはゆっくりだが、核兵器禁止条約の発効に見られるように、少しづつ前進している。

非核兵器地帯という核のアキレス腱を守る時

Dr. J. Enkhsaikhan

非核兵器地帯が脆弱なままではどの国の利益にもならないが、維持可能なシステムは間違いなく核不拡散体制を強化することになる。結局のところ、強固な非核兵器地帯体制も、その最も脆弱な部分と同程度しか機能しない。したがって、(現在は認められていない)単一の国家による非核兵器地帯の役割と地位を認めることによって個々の国を非核兵器地帯に包摂していくことで、それらの国々の利益が守られるだけではなく、非核兵器地帯の目標を強化する政治的なツールともなる。

「ブルーバナー」[1]による最近の調査で、上記のような旧来型の非核兵器地帯が追加的に設定されたとしても、当該非核兵器地帯がカバーする一部の国や地域(例:モンゴル、ネパール、欧州の中立国やいくつかの非自治地域)が参加できないために包括的なものにはならないことが明らかになっている。その理由は、現在の非核兵器地帯が、関連する地域の国々が合意した取決めを基礎として設立されているからである。今日の相互に接続された世界では、個々の国々の役割はいずれにせよ過小評価されるべきではない。

太平洋西部など大国間の角逐が激しさを増し、個々の国々をその角逐の中での位置に応じて駒として使う傾向が強まっている今日、こうした個々の国々の利益を無視することは、戦略的安定に確実に影響することになるだろう。

他方で、一国単独による非核兵器地帯が国際法で認められ保護されていれば、非核兵器地帯設立に不可欠の要素として機能することができる。上記の調査では、中立国や、そのままでは旧来型非核兵器地帯の一部にはなれない非自治領域などを含め、20以上の国・領域があることが明かになっている。

国際法の観点からすれば、一部の非核兵器保有国を非核兵器地帯の体制から故意に除外することは、国連憲章の精神や、主権国家平等の原則、国家の主権平等の原則、万人のための平等かつ正当な安全保障、国家の個別的または集団的自衛権などに違反することになる。

国際法は、旧来型の非核兵器地帯のように、それらの国々の地位を規制し、保護する必要がある。公正を期すならば、そうした政治的あるいは法的保護を生かすのか、あるいは別の形で安全保障上の利益を図るのかは、個々の国の主権的な決定であると指摘しておかねばならない。

時間・空間・技術が重要な地政学的な要素となり、核軍拡競争が再び強まって不吉な技術的相貌を見せつつある今日、核兵器国は、宣言されている核抑止の役割を超えて、非核兵器国に対する恫喝と脅しの政治的手段として核兵器を使用すべきではない。

したがって、旧来型の非核兵器地帯に参加できない国々は、核兵器や核兵器使用支援施設を自国の領土に置くことを禁止する国内法を採択し、その見返りとして5大国から適切な安全保証を得る必要がある。ここでいう 「適切な」とは、特定の国の安全保障上の利益に対する信憑性のある脅威に対する保証を意味する。この保証は、冷戦中あるいは冷戦後の旧来型非核兵器地帯のケースがそうであったように、これらの国々に対する核兵器の不使用、あるいは使用の威嚇に関して法的拘束力があるものである必要はない。

五大国による保証は、核兵器の容認、あるいは、そのより効果的な使用のための支援施設の設置容認に向けて圧力を加えるようなものであってはならず、その国の法律に反映された地位を尊重し、その地位に反するような行為に寄与するようなものであってはならない。

これは旧来型の保証に比べれば、いくぶん温和な保障の形であろう。検証システムは、国際原子力機関(IAEA)の支援や、旧来型の非核兵器地帯を確立する際に学んだ教訓、あるいはこの分野における最新の技術的成果に基づき、相互に合意した検証メカニズムを確立することによって開発することができる。

上記で述べたことから、非核兵器地帯のあらゆる側面に関する「第二の」包括的研究が、1975年の最初の研究の際のように一部の指定された国だけでなく、すべての国の参加によってなされねばならない。

この研究はモンゴルが10年前に国連核軍縮ハイレベル会合に提案したもので、非核兵器地帯創設の半世紀に及ぶ世界の豊かな経験に加えて、変化する世界の政治的環境も考慮に入れねばならない。そうした研究は第二世代[3]の旧来型の非核兵器地帯を中東や北東アジア、あるいは北極に設立するにあたって有益であろう。

「第二の」包括的研究はまた、非核兵器地帯の概念と定義を拡大し、一国非核兵器地帯に提供される保証の内容と形式について合意することで一国非核兵器地帯を取り上げ、認識すべきである。従来型の非核兵器地帯に提供される5大国による安全保証の内容は、本来の目的を反映したものであるべきであり、核兵器使用の可能性を間接的に示唆するような留保や一方的な解釈の表明によって、本来の目的を歪めるようなものであってはならない。

また、既存の二重基準や、「核の傘」に依存した国々の役割、核保有国の地位や役割(もしあるならば)等、微妙な政治的問題やタブーにも対処すべきである。要するに、非核兵器地帯の可能性を最大限に引き出し、「核兵器なき世界」のアキレス腱を守ることが、世界の平和と安定を強化するために非核兵器国がなしうる実践的な貢献なのである。(原文へ

【注】

[1]2005年に設立されたモンゴルのNGOで、核不拡散・軍縮という共通の目標を追求している。

[2]国連総会公式記録、第10回特別会議、Supplement 4 (A/S-10/4)。ニューヨーク、1978年。

[3]第二世代の非核兵器地帯とは、地域の非核兵器地帯がそれ自体の問題を抱えているということ、あるいは、核兵器国の戦略的な利益が絡んで地帯の設立が複雑になっている状況を指す。

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|視点|スリランカと日本、 旧友の帰還(ネヴィル・デ・シルヴァ元ロンドン副高等弁務官、ジャーナリスト)

【ロンドンIPS=ネヴィル・デ・シルヴァ】

5月24日、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ大統領が3日間の日程で日本を公式訪問した。昨年9月に安倍晋三元首相の国葬に出席して以来、2度目の来日となる。

ウィクラマシンハ大統領にとって、岸田文雄首相との首脳会談は、安倍元首相の葬儀に合わせて行われたものに続いて2度目となるものであり、スリランカの外交政策の見直しや中国への過度の依存からの脱却における日本の重要性を示している。

また、今回のウィクラマシンハ大統領の訪問には、深刻な経済危機に陥っているスリランカ経済の立て直しに日本政府の一層の支援を求めるとともに、ここ数年、何度も嫌な思いをしてきた日本の投資家に対して、スリランカへの回帰を促す目的があった。

ゴタバヤ・ラジャパクサ前政権は、すでに着工していたコロンボの次世代型路面電車(LRT)整備計画など、日本と合意していた主要プロジェクトを事前通告なしに破棄した。また、コロンボ港の東ターミナル開発に関する日本、インド(およびスリランカ)との3者協定も反故にした。

岸田首相との会談で、ウィクラマシンハ大統領は、日本との過去の関係に遺憾の意を表明し、前政権により中止されたプロジェクトを再開する用意があると語った。

スリランカは昨年4月にデフォルト(=債務不履行状態)を宣言するなど深刻な経済苦境に陥っているが、今回の大統領訪問には、日本との経済協力復活を目指す以上のものが含まれている。スリランカは、凡庸な統治と無能なアドバイザーによって陥った、あるいは陥らされた経済の泥沼から抜け出すための救済策を国際通貨基金(IMF)に求めなければならなかった。

日本との新しい関係は、二国間関係を超えた広い範囲をカバーしている。しかし、高い税金、公共料金の引き上げ、国内物価の高騰に苦しむスリランカの人々にとっては、日々の暮らしが最優先事項である。

Anti-government protest in Sri Lanka on April 13, 2022 in front of the Presidential Secretariat/ Photo by AntanO – Own work, CC BY-SA 4.0

一方、小規模な産業や企業は、莫大な電気料金や水道料金の値上げなどの運営コストに耐えられず閉鎖され、人々は職を失っている。また、医師、エンジニア、測量士、IT・技術者などの専門職が、先進国、途上国を問わず、海外に就職したり、新たな機会を求めて国外に流出している。

日本は、IMFがスリランカに求めている債務再編について、インド・日本・先進国からなる主要債権国会議(パリクラブ)での協議を主導するなど、積極的に支援の手を差し伸べている。また日本は、ジュネーブの国連人権理事会でも、米国、英国、カナダ、一部の欧州諸国のように(タミル人に対する人権問題等を巡って)スリランカを非難する西側諸国とは一定の距離を置いた、より冷静で穏やかなアプローチをしてきた。

さらに、インド洋地域の国際政治が複雑化し、対立が激化する中で、デリケートな外交問題に巻き込まれているスリランカ政府は、インドや欧米とともに、この地域で海軍活動を拡大し存在感を増している中国に対抗する勢力として、日本を捉えている。

しかし、ウィクラマシンハ大統領が日本との関係強化を図ろうとする理由は、他にも2つある。ひとつは国家的なもの。もうひとつは、そうとは思わない人もいるかもしれないが、個人的な理由である。

国家的な動機は、ラジャパクサ政権(マヒンダとゴタバヤの両大統領)の下であまりにも近づきすぎていた中国との関係に距離を置くことである。スリランカはその地政学的位置故に、この地域への影響力拡大を企図する中国の関心を常に惹きつけており、地政学的な嵐の中に巻き込まれる可能性がある。

習近平国家主席と中国指導部は、親欧米、特に親米的とみなしているウィクラマシンハ氏よりも、ラジャパクサ兄弟が権力の座に戻ることを望んでいる。さらに、ウィクラマシンハ氏は、「スリランカにとって日本をより信頼できる友人であり、超大国の野心を持たない国だと考えている」と結論づけることもできる。

もうひとつの理由は、日本の指導者たちがスリランカに対して抱いてきた、または育んできた強い絆にある。その起源は1951年、敗戦国日本の戦後平和条約を作成するために48カ国が集まったサンフランシスコ講和会議まで遡る。

この会議でセイロン(当時)が果たした重要な役割、それはセイロン大蔵大臣(当時)のジュニアス・リチャード・ジャヤワルダナ(通称「JR」)氏の活躍によるものだったことは、今ではあまり知られていないかもしれない。

Junius Richard Jayawardana Photo: Public Domain

ジェヤワルダナ氏は、その親米的な傾向から「ヤンキー・ディッキー」と呼ばれ、1978年にスリランカ初の大統領となった人物で、ラニル・ウィクラマシンハ氏の叔父に当たる。

当時のセイロンは、英国から3年前に独立したばかりであり、日本との関係では第二次世界大戦中の1942年に首都コロンボと英海軍基地があった北部のトリンコマリーを日本軍に空襲された経験を持っていた。日本の将来を決めることになる議論がなされたサンフランシスコ講和会議で、はたして、このインド洋の小国を代表したジェヤワルダナ氏は何を語ったのだろうか。

同会議では、他の国々が日本への制裁を求め、戦時中の損害に対する補償を要求する中、ジェヤワルダナ氏は、日本が自由に未来を築けるよう独立支持を主張すると共に、「憎悪は憎悪によって止むことはなく、慈愛によって止む」との釈尊の言葉(法句経の一節)を引用して、日本に対する戦時賠償請求を放棄する演説を行った。興味深いことに、スリランカと日本はともに仏教国だが、二つの異なる流派(前者が小乗仏教、後者が大乗仏教)に属している。

バンドゥ・デ・シルヴァ元スリランカ大使は、8年前に講和会議を回想した手記の中で、「ジェヤワルダナ氏の演説は大きな拍手で迎えられた。」と述べている。また当時のニューヨーク・タイムズ紙は、「(ジェヤワルダナ氏の演説は)雄弁で哀愁があり、オックスフォード訛りが残る自由なアジアの声が、今日の対日講和会議を支配した」と記している。

2002年にコロンボで開催された外交関係樹立50周年記念式典で、日本大使が述べたことが、両国の友好関係の基礎を最もよく表しているのではないだろうか。

大塚清一郎大使は、サンフランシスコ講和会議でのジェヤワルダナ氏のスピーチを想起しながら、「戦後の厳しい状況の中、日本が灰の中から立ち上がり、国を再建し始めたとき、日本の人々に真の友好の手を差し伸べたのは、スリランカ(当時はセイロン)の政府と人々でした。日本と日本国民は、スリランカ政府と国民が困難な時に差し伸べてくれた友情と大らかさに、心から感謝してきました。この精神に基づき、日本は真の友人として、またスリランカの発展のための建設的なパートナーとして、スリランカとしっかりと肩を並べてきたのです。1951年9月8日、サンフランシスコでジェヤワルダナ氏が語ったこの精神、すなわち友情と信頼によって、50年に亘る両国の二国間関係は導かれてきたのです。」と語った。

しかし、ジェヤワルダナ氏が日本の独立を強く明確に支持したことが、その後のセイロンの立場にネガティブな影響をもたらすことになったかもしれないという見方が存在する。

当時は東西冷戦が激化し始めており、ソ連は日本との平和条約について日本の行動の自由を制限するような修正を提案した。これに対してセイロン代表(=ジェヤワルダナ氏)は、「平和条約は日本国民に言論、報道、出版、宗教的礼拝、政治的意見、公共集会等の基本的自由を与えるものでなければなりません。まさにソ連が修正案で求めているこれらの自由は、ソ連国民自身が持ちたいとあこがれているものである。」と皮肉交じりにソ連の提案に異議を唱えた。

ソ連は、ジェヤワルダ氏が公の場でソ連提案を非難したことへの報復として、セイロンが英国との防衛条約があるため独立国ではない等の理由を挙げて、セイロンの国連加盟をその後何年も阻止した、という説もあるくらいだ。*1)

Japanese Prime Minister Shigeru Yoshida (1878–1967, in office 1946–47 and 48–54) and members of the Japanese envoy sign the Treaty of San Francisco./ Public Domain
Japanese Prime Minister Shigeru Yoshida (1878–1967, in office 1946–47 and 48–54) and members of the Japanese envoy sign the Treaty of San Francisco./ Public Domain

その後セイロンが1956年に国連加盟を果たした経緯は、米ソ間の取引(互いに拒否権を行使して国連加盟を阻止していた国々を互いに承認する取引)の結果である。しかし、それはまた別の話である。(原文へ

*1) ジェイワルダネ氏は、ソ連の修正案に対する反論として、「言論の自由」問題を取り上げてソ連を皮肉ったほか、米国に対して琉球・小笠原両諸島を日本に返還するよう求めたソ連提案を逆手にとって、ソ連が保有する南樺太、千島列島も日本に返還すべきであると主張した。また、インドがサンフランシスコ講和会議に参加しなかったのは「一層寛大な講和を結ぼうとしているためである。」と解説し、ソ連の不興を買ったと言われている。

ネヴィル・デ・シルヴァはスリランカのジャーナリスト。香港の「ザ・スタンダード」で要職を務め、ロンドンの「ジェミニ・ニュース・サービス」に勤務した。ニューヨーク・タイムズやル・モンドなどの特派員を歴任。最近では、スリランカのロンドン副高等弁務官を務めた。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=アミン・サイカル

この記事は、2023年3月17日に The Strategistに初出掲載されたものです。

敵対する二つの産油国であるイランとサウジアラビアは、7年にわたる不和の後、中国が仲介した協議で国交回復に合意した。どちらの側も信頼醸成を多分に必要としているものの、両国の和解は米国とイスラエルのタカ派への配慮を犠牲にして、地域の地政学的情勢を変える可能性がある。(

イランとサウジアラビアの長年にわたる宗派対立と地政学的対立は、ペルシャ湾地域における緊張と紛争の大きな火種となってきた。伝統的に、イランはイスラム教シーア派の守護者として自らを位置づけようとしてきたのに対し、サウジアラビアはイスラム教スンニ派の指導権を主張してきた。また、両国とも、地域における地政学的優位を争っている。両国とも、イラク、シリア、レバノン、イエメンといった地域の紛争多発国のいくつかに関与し、互いに敵対している。

伝統的に米国の支援を受けてきたサウジアラビアは、イランの核計画を懸念し、同国を地域的脅威と見なして、中東でイランに敵対するもう一つの米同盟国イスラエルとの水面下の外交ルートを開いた。さらに、湾岸協力会議に加盟するいくつかのパートナー国(特にアラブ首長国連邦とバーレーン)とこのユダヤ国家の国交正常化を後押し、反イラン戦線を形成した。それに対し、イランはロシアおよび中国と密接な関係を築いてきた。2016年初め、サウジが著名なシーア派聖職者を処刑し、テヘランのサウジ大使館をイラン人暴徒が襲撃したことを受けて、リヤドはテヘランとの関係を断絶した。

しかしながら、主人公である両国にとって地域の情勢は近頃変化している。米国の厳しい制裁下にあり、2022年9月以降国民の抗議運動に悩まされているにもかかわらず、イランのイスラム政権はレバント地域(イラクからレバノンまでのエリア)とイエメンにおける地域的影響力を何とか維持しており、ウクライナ紛争では殺傷力のあるドローンをロシアに供給することによってその軍事力を顕示している。

サウジアラビアは、イランの影響力を撃退することもできず、これまで通り米国を非常に頼りになる同盟国として信頼し続けることもできずにいる。米国がイランの抑え込みにもアフガニスタンでの敗北回避にも失敗した今となっては、なおさらである。サウジは、外交関係を多様化し、まさにイランが連帯を確立している相手国、とりわけ中国との密接な関係を築くことが自国の利益になるという認識をますます深めている。

サウジアラビア王国の事実上の若き統治者であるムハンマド・ビン・サルマンは、このような多様化について、彼が人権侵害を犯していると批判するワシントンに対する不満を示唆するだけでなく、2030年までにサウジアラビアを地域の超大国にするという彼の構想を実現する助けになると見なしている。そのために彼は、富の源泉としての炭化水素に対する国の依存度を低減したいと考えている。経済、貿易、投資やハイテク産業の流入を拡大し、社会的・文化的情勢を変化させ、ただし専制政治体制は変えないことを望んでいる。その意味で、彼は中国のモデルにより大きな魅力を見いだしている。

北京は、自らの援助のもとでイランとサウジが和解したことをこれ以上ないほど喜んでいる。それは、近頃のウクライナ和平提案とともに、北京が世界で展開する外交攻勢の一歩を構成する。すなわち、他国への内政不干渉政策を通して国際舞台における調停者としての中国の信用を高めようとする試みである。その根底にあるメッセージは、米国を干渉主義の「戦争屋」国家だと提示することである。それに加え、中国が年間石油需要の約40%を輸入している中東地域と、より深くより広い貿易関係を築くための道筋をつけるものとなる。

こういった展開に、米国とイスラエルが心穏やかでいられるはずはない。両国とも、イランに対する地域の態度が軟化することは、特に中国がそれを後押ししている場合、自国の利益に反すると考えているからである。米国は、イランの核計画、地域的影響力、そして宗教的制約や生活水準低下に抗議してイランの女性たちが声をあげた近頃の国内騒乱への対応について、イラン政権に対して最大限の圧力をかけ続けたいと考えている。また、よりによって米国が封じ込めようとしている国にサウジアラビアが接近するのを見たいとは思っていない。

イスラエルは、イランのイスラム政権を実存的脅威と見なしており、イランが核兵器保有国となることを防ぐためなら何でもすると明言している。両国の影の戦争は、ここしばらくの間膠着状態に陥っている。イスラエルは、シリアやレバノンでイランの標的を頻繁に攻撃しており、イランの核科学者数人を暗殺し、船舶を襲撃している。最近ではより大胆な行動を取り、イランの核施設が立地するイスファハンの防衛施設に直接攻撃を加えた。それに対し、イランは、イスラエルの船舶、情報部員や外交官を標的にし、イスラエルのいかなる敵対行動にも報復すると誓った。

イスラエルとイランが一触即発の状態になったことは何度かある。両国が直接衝突すれば、地域の内外に壊滅的な影響が及ぶだろう。とはいえ、中国が外交、安全保障、情報活動においてイスラエルと良好な協力関係を結んでいることを思い出すのも重要である。北京がここでも介入し、米国が失敗したイスラエル・パレスチナ紛争の解決を実現することを期待できるだろうか? イスラエルが頑なに占領をやめようとせず、米国がイスラエルに揺るぎない戦略的支援を行っている以上、それはまず期待できないだろう。

アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。

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|フィジー|看護師が海外流出し、医療サービス継続の危機

【スバIDN=ポーリアシ・マテボト】

今年に入り、800人以上の看護師が地元の民間企業に転職したり、主に隣国のオーストラリアやニュージーランドなど海外に移住したりして、より良い環境を求めて去っていったと報じられ、不振にあえぐフィジーの医療業界は新たな大打撃を受けている。

過去の政権が放置してきた医療インフラの老朽化に加えて、低い給与水準や、コロナ禍の間に保健省が医療の質を維持しなかったことで、医療部門は悲惨な状態に陥っている。

整形外科医のエディー・マケイグ博士によると、看護師が大量に離職しており、この1年間だけでも全労働力4分の1にあたる800人以上が海外へ移住しているという。博士によると、医療関係者の離職にはいくつかの理由が考えられる。彼らの主な動機は、賃金待遇や労働条件の悪さ、厳しい政治環境、子供たちのためにより良い機会を求めることにあった。

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「昨年(2022年)、私たちは807人の看護師を失いましたが、これは3056人の看護師の26.77%に相当します。」と博士は明かし、「社会経済的な問題のために、医療専門家が提供する患者ケアの水準も低下しています。」と指摘した。

「医療提供者が推進し、一般の人々が望み求めている医療を全て提供できるだけの資源がないのです。」と博士は語った。

フィジー中央地区の医療技官であるテビタ・コリニャジ氏は、ノーソリ保健センターには看護師の空きが37人も出ていると話す。また、現在のスタッフは疲弊しており、「医療サービスパシフィック」とのカウンセリングがこのチームのために行われていた。

「この3カ月で辞職した職員61人のうち、16人がナウソリ(首都スバ近郊)出身者でした。人員体制については、138のポストに対して39人の欠員となっています。」とコリニャジ氏は語った。

「当院のGOPD(一般外来)では、週平均2500人の患者が受診しています。この数には、SOPD(専門外来)や産科での診察は含まれていません。」

コリニャジ氏は、「スタッフは過剰労働になっており、特定の部署は閉鎖されている。」と指摘した上で、「現スタッフは業務をカバーするために超過勤務を余儀なくされ、シフト時間も12時間に延長されました。」と語った。

コリニャジ氏はまた、「『小児疾患総合管理(IMCI)』のような通常のサービスを閉鎖せざるを得なかったことも、待ち時間の長期化につながりました。管理部門と保健省は、原因を追究することなく現在のスタッフ不足に対応しようとしています。」と語った。

オーストラリアやニュージーランドの医療部門はこの数年、フィジーの経験豊富なフィジー人看護スタッフを積極的に採用している。オーストラリアで高齢者介護の仕事に就く太平洋諸島の看護師の中には、より高い資格を持つ者もいるはずだ。フィジーの専門家たちは、この地域の医療システムに重大な空白を残す「頭脳流出」を懸念している。

フィジー看護師協会のアリシ・ブディニアボラ会長はIDNの取材に対して、海外で老人介護に従事するためにフィジーを離れる「経験豊富で十分な資格をもった」看護師の多くは、その職務内容以上の資格を持った人々だという。「一部の人々は助産師、一部は高度な診療看護師、一部は一次的診療所の管理者になれるような人々です。これほど高度な資格を持った看護師がフィジーから流出することは大きな損失です。」

海外で働くフィジー出身看護師の数は統計上明らかではない。ブディニアボラ博士はそれでも、そのほとんどがこの半年でオーストラリア・ニュージーランド・中東・米国へと出国したとみている。

医療体制が逼迫してきているにも関わらず、フィジー政府は箝口令を敷いて具体的な数字を明らかにしようとしない。「政府は情報を隠しています。出国者の数字はわからないが、看護師が毎日辞めていっていることだけはわかります。」とブディニアボラ博士は語った。

ブディニアボラ医師は、少なくとも太平洋地域の看護師には、スキルアップの機会が与えられることを望んでいる。「私は、オーストラリアが専門的な能力開発の道筋に目を向け、ただ高齢者ケアに従事させるだけでないことを望んでいます。」

Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en
Image: Virus on a decreasing curve. Source: www.hec.edu/en

コロナ禍の間、オーストラリアのコロナ関連の死者のほとんどは老人ホームに居住していた人々であり、この部門に適切な訓練を受けたスタッフが少ないことが原因であると批判された。

オーストラリアやニュージーランドの高等委員会のコメントは取れていないが、オーストラリア放送局は昨年11月、「太平洋オーストラリア労働移動」(PALM)スキームがフィジーの看護師不足を招いているとの批判はあたらないとの豪州政府の反論について報じている。

PALMスキームによって、さらなる労働力を必要とする同国の企業は太平洋島嶼9カ国と東ティモールから労働力を雇い入れることができるようになった。非熟練、低熟練、準熟練の職種において、最長9ヶ月の季節労働、または1年から4年の長期労働のために労働者を雇うことができる。

豪州政府のウェブサイトでは、「雇用者が、信頼性が高く生産的な労働者を雇用できるようになると同時に、太平洋諸国や東ティモールの労働者が豪州で働き、スキルを伸ばし、自国に送金できるようになる。」と説明されている。

The Pacific Australia Labour Mobility (PALM) scheme

政府は、5月9日に議会に提示された予算で、すでに3万7700人以上を太平洋諸国や東ティモールから雇い入れている同スキームをさらに拡張するとしている。

この制度が最初に導入されたとき、当時のパット・コンロイ国際開発・太平洋大臣は、高齢者ケアに従事するために訓練を受けている太平洋地域の労働者のうち、看護師の資格を持つ者は「ごく一部」であると述べていた。

コンロイ大臣は、「オーストラリアはこの地域の経済発展に貢献したい。太平洋諸国から医療労働力を奪おうという気はない。」と指摘した上で、「同スキームは豪州と太平洋地域の諸国との間に『ウィンウィンの関係』をもたらすものです。労働者が収入を本国に送り、同時にオーストラリアの労働力不足も補うことで、地域の経済発展に大いなる貢献を成しています。」と語った。

匿名で取材に応じた経験30年以上のフィジーのある看護師は、今年の末までにはニュージーランドに移住する計画であるという。その決断は簡単なものではなかったが、自身とその家族のために太平洋を越える決断をしたという。

「ここ数年、私たち(医療従事者)のフィジーでの労働条件は無視されてきました、 そのため、私たちの多くは、新天地を海外に求めるという難しい決断を下しました。看護師の多くが、移住するとまずは老人介護から入り、のちに現地の医療部門に入っていくチャンスを狙います。遠回りではありますが、甘受するしかありません。」と語った。それが、ニュージーランドに移住するフィジーの看護師たちを待っている運命である。

SDGs Goal No. 8
SDGs Goal No. 8

海外に移住した彼女の同僚たちの多くがすでに海外での生活に慣れ、フィジーの家族への送金を始めているという。家族にとってはボーナスのようなものだ。

他方で、フィジー経済に影響を与える多くの問題に新連立政権が対処しようとする中、看護師の大量海外移住は間違いなく最優先事項となっている。

保健事務次官のジェイムズ・フォン博士は会見で、保健省は、実現可能な解決策を探るために看護師協会のような関連団体と協議を重ねていると記者団に語った。来週までに、すべての関連する政府機関と看護師関係団体を束ねた作業部会で適切な予算を提案することになるという。

フォン博士は、「そこでの提案がどのようなものであれ、すべての当事者の願いを尊重したものでなければなりません。」と語った。事務次官は、保健省は今月末までに、2023-24年度予算において何らかの看護師流出対策を打ち出すことになると示唆した。(原文へ

INPS Japan

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アゼルバイジャンはウクライナへの支援を一貫して続けている

【バクーAzVision=ヴァシフ・フセイノフ】

6月1日、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は、モルドバのキシナウで開催された欧州政治共同体第2回会合で、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ウクライナがロシアの侵略と戦う中、南コーカサス地域の指導者の中でアリエフ大統領が唯一、ウクライナ大統領と会談したことは特別な政治的意義を持つものである。

両首脳は会談で、国際的に認められた国境内での自国の領土保全と主権を相互に支持することを表明した。両首脳がロシア語で話す方が慣れているにもかかわらず、会談であえて英語を使用したことは、非常に象徴的で興味深い点であった。

アゼルバイジャンとウクライナは、公式に互いを「戦略的パートナー」とみなし、国際的に承認された国境の領土保全と不可侵を一貫して支持してきた。ロシアによるウクライナ侵攻が始まる1カ月前、両国間の対立が激化する中、アリエフ大統領は、バルト三国を除く旧ソ連構成国の指導者の中で唯一キーウを訪問し、二国間協力の深化に関する多くの協定に署名、ウクライナの領土保全と主権の支持を表明した。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

したがって、今回の両首脳の会談は、ロシア側からのあらゆる圧力にもかかわらず、アゼルバイジャンが一貫してウクライナを支援していることを示すものであった。アゼルバイジャン政府によると、本格的な戦争が始まって以来、アゼルバイジャン政府はウクライナに約2000万ユーロ相当の人道支援を行ってきた。アゼルバイジャンの国営エネルギー会社SOCARは、ウクライナのガソリンスタンドにおいて、ウクライナ国家緊急サービス(DSNS)が運営する救急車や車両向けに燃料を無料で提供している。SOCARのガソリンスタンドはウクライナ国内に50カ所以上あることから、これはDSNSにとって重要な支援となっている。

さらに、アゼルバイジャンはウクライナに対して、医療品や衣料品など様々な形で援助を行い、人道支援を拡大している。アゼルバイジャンは、電力不足で暖房が不足しているウクライナの地域に、変圧器45台、発電機50台を寄贈した。興味深いことに、ロシア外務省は、アゼルバイジャンによる変圧器と発電機の提供をウクライナへの軍事支援と見なし、「困惑」を表明した。

「アゼルバイジャン政府の措置は不可解である。ロシア連邦軍は、特別軍事作戦の一環として、ウクライナ政府が軍事利用している同国の重要インフラを破壊している。アゼルバイジャンの支援物資は、状況を根本的に変える可能性が低く人道支援には当たらない。」と、ロシア外務省の担当官は2022年12月に地元メディアに語っている。

しかし、こうした反応にアゼルバイジャンがウクライナ支援を止めることはなかった。最近も6月6日にカホフカ水力発電所のダム崩壊の影響を緩和するために、ポンプ、ボート、防護服、制服からなる人道支援をウクライナに提供して連帯の意志を示した。

6月1日の会談の中で、ゼレンスキー大統領は、ウクライナのインフラ再建のために提供されたアゼルバイジャンの支援について、アリエフ大統領に謝意を伝えた。「我々は、キーウ州のインフラ復旧に対する貴国の支援を感謝しています。ウクライナの更なる復興に向けた支援を希望しており、戦後は、貴国がウクライナへの投資プロジェクトに積極的に参加することを期待しています。」と語った。

アゼルバイジャンは、ウクライナへの人道的支援とともに、ロシアによる西側制裁の回避を支援しない旧ソ連圏における数少ない国の1つである。このようなアゼルバイジャン政府の姿勢は、ウクライナへの全体的な支援と一致しており、一部の旧ソ連諸国の姿勢とは対照的である。

例えば、最新の国際レポートでは、「アルメニアのロシアへの輸出は2022年に急増し、前年比187%という驚異的な成長率を記録した」と明らかにされている。しかも、その半分以上が第三国からの輸入品の再輸出であり、制裁回避のために欧米からの輸入品をロシアに振り向ける際にアルメニアが重要な役割を果たしているとの憶測に拍車をかけている。」これは、米国が同国を制裁回避の面で課題を抱える5カ国のうちの1つに挙げている理由として紹介されている。

Map of Azerbaijian
Map of Azerbaijian

この状況は、「アルメニアはロシアによるウクライナ戦争においてロシアの同盟国ではない」と西側諸国を説得しようとしているニコル・パシニャン首相の発言と矛盾している。アゼルバイジャンが現在の地政学的状況においてより独立した立場にあるのは、同国が豊富な天然資源を有し、地理的に、中東回廊と南北輸送回廊の両方に位置しているからだと説明する識者もいる。

しかしこの分析は、アゼルバイジャンのバランス外交と、ロシアの地域的野心に対する独立したスタンスが1990年代半ばまで遡るという事実を無視したものである。数十年前にロシアの軍事・経済ブロックに参加し、アゼルバイジャン領土の約2割を30年以上にわたって占領し続けるためにロシアの支援を受けたアルメニアとは対照的に、アゼルバイジャンはその外交政策をロシアのそれと一致させることはなく、クレムリンの主張と圧力にもかかわらずロシア主導の統合プロジェクトを回避してきた。

しかし、アゼルバイジャンのウクライナの領土保全と国際的に認められた国境内の主権に対する支持は、同国の広範な外交政策の原則を示すものである。隣国アルメニアによる侵略と民族浄化を経験したアゼルバイジャンは、ウクライナが今日直面している課題に対して明確な理解と共感を持っている。(原文へ

ヴァシフ・フセイノフは、バクーにある国際関係分析センター(AIRセンター)のシニアアドバイザー。

INPS Japan/AzVision

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