【ユトレヒトIPS=フランク・マルダー】
政治家たちが和平プロセスを凍結させてしまった一方で、なお和解は可能だと信じる人々が集う多くのグループが、イスラエル、パレスチナ双方に存在する。彼らは、「どちらかの立場を選んだ瞬間から、あなたも紛争の当事者になってしまうのです。」と述べ、国際社会に対して、対立する双方が作り出すステレオタイプ(固定概念)を信じないよう呼びかけている。
「私たちは少数派ですが、革命はいつも少人数のグループから始まるのです。」と、テルアビブ大学の社会学者シロミット・ベンジャミン氏は語った。彼女はユダヤ人であるが、父がシリア人のため、「ミズラヒ(mizrahi)」と呼ばれるアラブ系ユダヤ人である。「だから私は、アラブ人を敵とは思えないのです。アラブは私の家族の文化の一部なのですから。」とベンジャミン氏は語った。
ベンジャミン氏は、最近アラブ系ユダヤ人の若者たちがアラブ世界で民主化を求める街頭デモに参加している若者たちへの連帯を表明した宣言書「Ruh Jedida: A New Spirit for 2011」の署名者の一人である。イスラエルのアラブ系ユダヤ人たちは、アラブ世界でデモに参加している若者達が訴えようとしている問題への理解を示して、「私たちも、大半の市民の経済的社会的権利を踏みつけ…アラブ系ユダヤ人、アラブ人、そしてアラブ文化に対して人種差別による壁を巡らせる政権のもとで生活しています。」と宣誓書に記した。
ユダヤ人とアラブ人の争いは、しばしば作り出された固定観念によって悪化してきたが、こうした若きアラブ系ユダヤ人達は争いのどちらの側につくことも望んでいない。そしてそう考えているのは彼らだけではないのである。
「私の知っている大半の人々は本当に平和を望んでいます。しかし大半の人々は相手側を信頼できないのです。」とヨルダン川西岸地区(ウエストバンク)で人権問題に取り組むラビ(ユダヤ教の宗教指導者)のために活動しているイェヒエル・グレニマン師は、IPSの電話取材に応じて語った。「パレスチナ人達は、自分たちの土地が占領されていることから明らかにユダヤ人を恐れています。しかしユダヤ人の恐れにも根拠があるのです。彼らの多くは、第二次世界大戦中に家族全員を殺されており、ハマスがイスラエルを滅ぼすという話を耳にして恐れを抱くのです。つまりパレスチナ人とユダヤ人は、双方が変わり、お互いに対する信頼を築いていかなければなりません。」
この人権団体には様々な政治的な背景をもつ約120人のラビが加盟しており、今月には権威あるアメリカン・ガンジー平和賞を受賞している。「私たちは日常生活の具体的なレベルでトーラ(ユダヤ教の律法)の教えを実践したいのです。例えば、私たちはパレスチナの人々と共にオリーブの収穫にでかけたり、ユダヤ人入植者を相手とした裁判にパレスチナ人の代弁者として証言したりしています。現在、米国からの団体が到着するのを待っており、彼らに東エルサレムを案内する予定です。」とグレニマン師は語った。
「私たちは共に生き残るか、それとも共に滅びるか2つに1つです。」とパレスチナ紛争に関する実際的な解決に向けた研究を行っているシンクタンク「イスラエル・パレスチナ研究情報センター(IPCRI)」のハンナ・シニオラ共同代表は語った。「例えば、環境問題を例に挙げると、紛争のために私たちは水資源の管理をおろそかにしています。その結果、時折帯水層(地下水を含む地層)が汚染されることがあるのです。もしユダヤ人とパレスチナ人がともに協力し合わなければ、私たちはともに災害に直面することになるのです。」
またシオニラ共同代表は、「もちろん、私たちパレスチナ人は、占領により虐げられており、自身の独立国家を必要としています。しかし独立後の私たちの将来は、ユダヤ人の隣人の将来と引き続き密接に関わっているのです。両民族はこの小さな土地に共に生きていかなければならないのです。ですから、私たちは両者間のより温かい関係を築くために道を切り開く努力をしているのです。」と語った。
「それは大変難しい取り組みです。」と、イスラエル国内において大多数を占めるユダヤ人と少数派のアラブ人の間の団結と連帯を育む活動を行っているアブラハム基金のアモン・ベエリ-スリッツェヌ共同代表は同意した。
さらに同氏は、「私たちはユダヤ人、パレスチナ人双方のコミュニティーと活動に取り組んでいますが、同時に全ての人から信用を得るのは難しいのが現実です。他のアオボカシー団体がしばしばイスラエル政府と対決する中で、私たちがそのような立場をとらないことが影響しているのかもしれません。私たちはユダヤ、パレスチナ双方のコミュニティーとも、そして政府とも協力するように心がけています。例えば、イスラエル教育省でアラブの言葉や文化を教えたり、イスラエル警察がアラブ系市民に対するサービスを向上させるための支援などを行っています。こうした取り組みが大変デリケートなものであることは容易に想像できるでしょう。」と語った。
「ムサラハ:和解のための聖職者の会(Musalaha Reconciliation Ministries)」のサリム・ミナヤー代表は、「国際的にもそうした取り組みは大変デリケートなものです。」「世界中の団体は一方を受け入れ、他方を否定します。私たちもしばしば、パレスチナ人側とユダヤ人側の双方から、相手側を非難して忠誠心を証明するよう求められます。しかし、和解のために従事している私たちはそのような要求に応えることはできないのです。私たちはユダヤ人とパレスチナ人の双方を支持し、擁護する存在でなければならないのです。なぜなら、どちらかの側を選択した時点から、紛争の当事者になってしまうからです。」と語った。
この団体は、パレスチナ人とユダヤ人のキリスト教徒が参画している。「私たちには『汝の敵を愛せよ』と説いたイエス・キリストという共通の信仰があります。しかし私たちは活動に共に取り組む人々の宗旨を問いません。例えば、私たちはパレスチナ人とユダヤ人の青年リーダーを対象とした『デザートエンカウンター』という砂漠をラクダに乗って旅したりハイキングしたりするプログラムを実施しています。両民族の青年リーダーたちは旅を通じてお互いを知り合うのです。」とミナヤー代表は語った。
一方で、パレスチナ人が苦しみ、両者の対立が激しくなっている中で互いを知り合うことに何の意味があるのかという声もある。これはまさに、ベツレヘムで会計士としているムサ・スベー氏が時折考えている疑問点である。
スベー氏は、「私は平和活動に従事しているイスラエル人に合う機会がありました。その時間が全く無駄だったわけではないし、僅かながらお互いの認識を改めることもできたと思います。しかし、結局はそのことで和解に達したとはいけません。イスラエル、パレスチナ双方とも国民に選ばれた政府は、明らかに益々右傾化してきており、両民族の大半の人々は行動においても思考においても、平和から依然としてほど遠いところにいるのです。」と語った。
ラビのグレニマン師は、「スベー氏のような人に私が唯一言えることは『私たちは君のような人が必要だ。』ということです。」「私の同胞のユダヤ人達が抱いている恐怖心は本物です。私たちにはこうしたユダヤ人に会って恐怖心を取り除いてくれるパレスチナ人が必要なのです。もし人々が、相手側が危険だから会いたくないというのであれば、そうした恐怖心はやがて現実のものとなってしまうのです。そしてこうした恐怖心こそ、私たちの政府が利用しているものなのです。だからこそ、私たちは人々が互いに信じ合い、相手側の人々も神の姿になぞらえて創造された人間であると捉えられるよう手助けすべきなのです。つまり、恐怖心と同様に信頼の気持ちも、やがて現実のものとなっていくものなのです。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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