ニュース中国の和平提案はウクライナに平和と正義をもたらすか?

中国の和平提案はウクライナに平和と正義をもたらすか?

この記事は、Passblue が配信したもので、同紙の許可を得て転載しています。

【ニューヨークIDN =モナ・アリ・カリ】

中国はロシアによるウクライナ侵攻から1年の節目となる2月24日、ウクライナ戦争を終結させるための12項目からなる提案を発表した。米国、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)を含む一部の国々は、中国の和平提案を親ロシア的なものと断じている。米国はさらに、「中国はロシアへの武器供給を真剣に模索している。 」と主張した。中国はこの米国による主張を断固として否定し、「対話の側」、「平和の側」にしっかりと立ち続けている。」と、一貫して主張している。

ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「中国が公正な和平に関心を持っていると信じたい。」と、異なる反応を示した。ゼレンスキー大統領は、ロシアが「ウクライナの占領地から撤退する」ことが和平案に含まれていないとして、受入れに慎重な姿勢を示した。中国は最近、イランとサウジアラビアの関係正常化の仲介に成功しているが、ウクライナ戦争の政治的解決に向けた中国の働きかけを新たな視点で捉えることは可能だろうか。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月24日にウクライナへの侵攻を決めたのは、多くの誤算の結果であったように思われる。つまり、①キーウが数日で陥落する、②ゼレンスキー大統領が逃亡する、③米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国が団結できない、と考えたのだ。しかし、プーチン大統領の最大の誤算は、中国の習近平国家主席が自分とともに欧米に対抗してくれると期待したことだろう。

ウクライナに進軍する直前、プーチン大統領は習近平国家主席と共同声明を発表し、両国の友情に 「限界はない」と表明している。それにもかかわらず、中国はロシアの侵略を明確に非難したり、石油や天然ガスをボイコットしたりはしていないが、ロシアによるウクライナ侵攻でプーチン大統領を直接支援することはしていない。少なくとも現時点ではー。

それどころか、中国はウクライナ侵攻を総会に付託した国連安保理の「平和のための結束」決議を棄権しただけでなく、昨年の第11回緊急特別総会で採択された6つの決議のうち5つを棄権している。193カ国の国連加盟国の内、圧倒的多数がロシアのウクライナ侵略とウクライナ東部の違法な編入を強く非難している。

その際、中国は一貫して、「すべての国の主権と領土保全を尊重すべき。」「国際連合憲章の目的と原則を遵守すべき」と述べてきた。

同様に、中国の12項目の提案のうち、最も重要な4項目は、国際法と国連憲章の遵守に言及している。

第一項目は、「すべての国の主権、独立、領土保全」に言及しており、その定義には、国際的に認められた国境にあるウクライナが含まれている。

Russian bombing of Mariupol/ By Mvs.gov.ua, CC BY 4.0
Russian bombing of Mariupol/ By Mvs.gov.ua, CC BY 4.0

第6項目は、国際人道法の厳格な遵守、女性や子どもなど紛争の犠牲者の保護、民間人や民間施設への巻き添え被害の回避、捕虜の基本的権利の尊重などを求めている。紛争当事者はすべて国際人道法を尊重しなければならないが、ウクライナに関する独立国際調査委員会は2022年10月の報告書で、「確認された違反の大部分はロシア軍に責任がある。」と結論付けている。

第7項目は、原子力発電所やその他の平和的原子力施設に対する攻撃の法的禁止を再確認するもので、これには、2022年10月にザポリージャ原子力発電所を攻撃して占拠したロシアに対する暗黙の叱責が含まれていると思われる。

第8項目は、核兵器の使用や使用の威嚇に反対し、核不拡散を防止することを明確に要求しているものである。中国は、ウクライナ紛争に関する限り、プーチン大統領だけが「核兵器の使用を示唆した」ことを認識しているはずである。また、中国は「中国の立場」とする和平提案を発表する2日前に、プーチン大統領が米国との新戦略兵器削減条約(新START)条約への参加を停止すると発表したことにも注目しているはずである。従って第8項目は、中国をロシアの姿勢と対立させることになるかもしれない。

軍事面では、第3項目が「敵対行為の停止」を求め、第4項目が「対話と交渉がウクライナ危機の唯一の実行可能な解決策である」と述べている。欧州委員会はこれらのポイントを「侵略する側と侵略される側の役割を曖昧にしている」と断じているが、中国がロシアに対して、政治的不満や安全保障上の懸念に対して、軍事的解決ではなく、政治的解決を追求するよう警告している可能性がある。

政治面では、第2項目で、すべての当事者に 「冷戦思考を放棄すること」を求めている。中国はロシアに対して、自国の安全保障を「他国の犠牲の上に追求すべきではない」(ウクライナの国家と国民を指していると思われる)と主張し、同時に米国とNATO同盟国に対して、「すべての国の正当な安全保障上の利益と懸念は、真剣に受け止め、適切に対処しなければならない」(ロシアのNATO拡大に対する安全保障上の懸念を指していると思われる)と喚起していると思われる。

NATO Expansion/ NATO
NATO Expansion/ NATO

米国とEUに対する唯一の明確な反論は第10項目で、中国はウクライナ紛争にとどまらず、一方的制裁と「最大限の圧力」戦略に長年反対してきたことを改めて表明している。

残りの項目では、ウクライナの人道的危機の緩和に関する第5項目、世界的な食糧危機を回避するための黒海穀物輸出合意の実施に関する第9項目、世界経済の回復を支える安定したサプライチェーンの維持に関する第10項目、ウクライナの紛争後の復興の促進に関する第12項目など、米国と欧州が共有する人道と経済の懸念に大部分が割かれている。

このように考えると、中国の12項目の和平提案は、必ずしも親プーチン、親ロシアではない。平和と国際法の支配を求める本物の呼びかけと見なすこともできる。しかし、戦争を終わらせる方法と、ウクライナからロシア軍を撤退させる方法についての実践的なステップを欠いている。また、ロシアによる侵略と占領で死傷したウクライナの市民や破壊された民間インフラに対する補償やその他の賠償だけでなく、現在も行われているすべての戦争犯罪に対する説明責任についても沈黙している。このように、中国の和平提案では、ウクライナの平和も正義も達成する見込みはない。(原文へ

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