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|軍縮|核廃絶への長くゆっくりとした歩み

【ベルリンIDN=ジャムシェド・バルアー】

「私たちは核兵器のない世界を望む」―世界の民衆の8割以上が、ある新しい報告書の執筆者に示した圧倒的な希望がこれである。しかし、事態をよく見てみれば、核兵器を削減し拡散を止めるという意味では、ほんのわずかのことがゆっくりと起こっているに過ぎない。これは、核科学者達にとっても深刻に憂慮すべき事態なのである。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、1月16日に発表した報告書で、ラテンアメリカ・カリブ海地域とアフリカのすべての国々、アジア・太平洋、中東のほとんどの国々が、核兵器を禁止する条約を支持していると明らかにしている。しかし、欧州や北米、とりわけ北大西洋条約機構(NATO)の核同盟諸国では、核兵器禁止への支持は弱い。

ICAN
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 『原子科学者紀要』(Bulletin of the Atomic Scientists)の「世界終末時計」が、世界での核危機の高まりと核廃絶への進展の欠如のために、午前零時に向けて1分進められてから1週間後、『核兵器禁止条約へ向けて』と題されたICANの報告書が発表された。世界終末時計の針が最後に動かされたのは、2010年1月で、このときは、終末まで5分から6分へと1分戻されていた。

この時計は、核兵器や気候変動、それに生命科学における新技術によって引き起こされる大惨事に対して世界が抱える脆弱性の指標として、世界的によく知られている。
 
『原子科学者紀要』の科学・安全保障委員会は、核兵器や核エネルギー、気候変動、バイオセキュリティに関する専門家からの意見も聞きながら、最近の出来事の意味合いや、人類の将来に関する傾向をみて、時計を1分進めることを決めたのであった。

同誌は、1月10日の公式声明でこう述べている。「現在、終末まで5分である。2年前には、私たちが直面している真に世界的な危機に、世界の指導者らが対応しているかに見えた。しかし、多くの場合において、この傾向は続かなかったか、あるいは反転させられた。このため、『原子科学者紀要』は、時計を午前零時まで1分近づけることにした。これで2007年の状態に戻ることになった。」

同誌支援者委員会の委員であり、国連軍縮担当事務次官や駐米スリランカ大使などを歴任したジャヤンタ・ダナパラ氏は、この世界終末時計の発表に関して、「国際協力の新しい精神の登場と米ロ間の緊張緩和にも関わらず、科学・安全保障委員会は、核兵器なき世界への道のりは不透明で、リーダーシップが失われていると判断した。」と語った。
 
さらにダナパラ氏は、「2010年12月に米国とロシア新しい戦略兵器削減条約(START)を批准したことが、両国関係の悪化を反転させた。」と指摘した上で、「しかし、米国や中国、イラン、インド、パキスタン、エジプト、イスラエル、北朝鮮が包括的核実験禁止条約を批准せず、核物質の生産禁止条約についても進展がなかったことから、継続的に行われている核兵器開発のリスクから世界は解き放たれていない。」と語った。

世界には依然として1万9000発の核兵器がある。ダナパラ氏によると、人類を何度でも絶滅させることのできる量である。

ICANオーストラリアの核廃絶国際キャンペーンディレクターであり、報告書の執筆者でもあるティム・ライト氏は、「世界の大部分の国は、生物兵器や化学兵器が禁止されたのと同じように、核兵器も禁止されるべきだと考えています。」と語った。

カタツムリのペースから脱却する

「もし私たちがさらなる核兵器の拡散と使用を避けようとするのなら、核軍縮は今のようなカタツムリのペースではだめです。この動きを加速していく必要がありますが、そのための最善の方法は、核備蓄を削減していくスケジュールと基準を設けた、包括的な核軍縮条約によるものです。これが、国際社会の次の大きな交渉目標にされなければなりません。」とティム氏は語った。

核兵器をなくす緊急の必要性については、約100万人のメンバーとボランティアを擁する「国際赤十字・赤新月運動」が2011年11月に採択した歴史的な決議でも強調されている。

決議は、核兵器が人類に与える危機を強調し、「法的拘束力のある国際協定を通じて核兵器の使用を禁止し完全に廃絶する交渉を誠実に追求し、緊急性と決意を持って妥結する」よう政府に求めている。

ICANの報告書は、潘基文国連事務総長核兵器禁止条約を彼の核軍縮行動計画の中心的要素に据えた2008年以来、こうした条約への支持が相当に高まっている、としている。

「問題を抱えた核不拡散条約の2010年の運用検討会議では、核兵器国の一部からの強い反対を押し切って、合意された最終文書の中で核兵器禁止条約が2度も言及された」と報告書は指摘している。

ICANジュネーブ事務所の主任であるアリエル・デニス氏は、諸政府には、核兵器を禁止するという明確な付託を民衆から与えられていると考えている。「世論調査を見ると、世界各地で、さらには大量の核兵器を抱える国ですら、この非道徳的で非人道的、違法な兵器の廃絶を市民の大多数が支持しているのです。民衆は、指導者が核の影を振り払う時が来ていると信じているのです。」とデニス氏は語った。

しかし、『原子科学者紀要』科学・安全保障委員会の委員、ロバート・ソコロウ氏は、「核兵器なき世界への障害は依然として存在しています。具体的には、ミサイル防衛の有効性と目的に関する米国とロシアの間の意見の相違や、9つの核兵器国が核削減を継続するにあたって透明性や計画、協力が不十分であることなどが挙げられます。」と語った。

さらにソコロウ氏は、「こうして生まれた不信の結果、すべての核兵器国が、核兵器近代化によって彼らの掛け金(=これまでの核兵器への投資)を守ろうとしているのです。こうした国々は、たんに爆弾の部品と運搬システムの更新によって弾頭の安全性を確実なものにしているだけだと主張するが、軍備削減が計画的に進んでいけば、他の国の目には、これは実質的な軍備増強だと映ることになるでしょう。」と語った。

この難局を脱するには、世論を動員する必要がある。「核兵器国からの挑戦を受け止めるにせよ、人為的な地球温暖化の効果を軽減するにせよ、不安定な世界において破滅的な核紛争を予防するにせよ、民衆の力こそが不可欠です。」と『原子科学者紀要』のケネット・ベネディクト事務局長は語った。

「私たちが、他の科学者や専門家に対して、共に一般市民と関わっていくよう求めているのはこのためなのです。私たちは民衆とともに行動することによって、政策決定者と産業界のリーダーに最も重要な問いを突きつけることができますし、なによりも、答えと行動を要求することができるのです。」とベネディクト氏は付加えた。

同誌は、より安全な世界に向けた主要な勧告の一部は未だに実行されておらず、緊急の対処が必要とされていると指摘している。具体的には、米国や中国による包括的核実験禁止条約の批准や、核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の進展などである。

民生用の核エネルギー燃料サイクルを多国間管理する緊急の必要性がある。また、原子力安全、核保安、核不拡散(プルトニウムを分離する再処理をしないなど)について厳格な基準を作る必要もある。

同誌はまた、核物質、技術開発、それらの移転を監視する国際原子力機構(IAEA)の能力強化も謳っている。

同誌は1945年に、マンハッタン・プロジェクトで最初の原爆開発に従事したシカゴ大学の科学者らによって創始された。黙示録的なイメージ(午前零時)、核爆発という現代的な特質(ゼロへのカウントダウン)を使いながら、人類と地球への脅威を伝えるために、1947年に世界終末時計が考え出された。

世界終末時計の針を動かす決定は、18人のノーベル賞受賞者を含めた支援者委員会との協議を経て、理事会によって下されている。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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