SDGsGoal15(陸の豊かさも守ろう)ユキヒョウと人びとが共生するシッキムの高山地帯

ユキヒョウと人びとが共生するシッキムの高山地帯

【インド・シッキムIPS=ディワシュ・ガハトラージュ】

会話が始まる前に、まず紅茶が運ばれてくる。

ジャヤンタ・ムキアは木製のテーブルに2杯の紅茶を置き、その日の午後に到着したばかりの夫婦の向かいに椅子を引き寄せて座った。2人はトレッキングポールとリュックサックを携え、インドのカンチェンゾンガ国立公園の奥深くへと続くゴエチャラ・トレイルを歩くためにやって来た。出発は2日後。その前に、彼女には伝えておきたいことがあった。

ジャヤンタは、登山者が持ち込んだごみがその後どうなるか知っているかと尋ねる。持ち帰られるものもあれば、そうでないものもある。

Jayanta Mukhia outside the Chungda Hidden Family Homestay in Yuksom, West Sikkim. Credit: Diwash Gahatraj/IPS
西シッキム州ユクソムにあるチュンダ・ヒドゥン・ファミリー・ホームステイの前に立つジャヤンタ・ムキア氏。写真:Diwash Gahatraj/IPS

高地の守護者

Location of Shikkim in India. Wikimedia Commons

ユクソムの背後に広がる高山草原では、登山道が氷河へと続いている。岩に引っ掛かったビニール袋は冬を越してもそのまま残る。軍の駐屯地、観光客、トレッキング隊―誰もが何かを置き去りにする。そのごみは野犬の餌となり、野犬たちは夜になるとユキヒョウが行き来するのと同じ生態回廊を徘徊する。

ジャヤンタの夫、チュンダ・シェルパは、ゴエチャラ・ルートを知り尽くしたベテランのトレッキングガイドだった。2012年、ユクソムに「チュンダ・ヒドゥン・ファミリー・ホームステイ」を開業し、現在は予約管理や広報活動、さらにはオンラインでの情報発信を通じて遠方の都市から宿泊客を呼び込んでいる。

一方、ジャヤンタはそれ以外のすべてを切り盛りする。厨房、宿泊客の世話、木のテーブルを囲んだ語らい、そして「ここに泊まる人には、公園を訪れた時よりもきれいな状態で後にしてほしい」という静かな信念である。

「このホームステイの年間収入は約80万~100万ルピー(約8,400~1万500ドル)です。その収入があるのは、この国立公園があるからです。」と彼女は語る。

カンチェンゾンガ保全委員会(KCC)のツェリン・ウデン氏によれば、ユクソムには15のホテル、25のホームステイ、そして21を超える旅行会社が地元パンチャーヤト(自治組織)に登録されており、その収入はすべてカンチェンゾンガの生態系の健全性に直接依存している。住民たちの暮らしは、シッキム州に生息する21頭のユキヒョウが行き交う高地の生態回廊と密接に結び付いているのである。

A hiker admires the view in the Khangchendzonga National Park. Credit: Tshering Uden, KCC.
カンチェンゾンガ国立公園で絶景を眺めるハイカー。写真:Tshering Uden(KCC)
Buddhist stupas covered in flags serve as a spiritual landmark on high-altitude trekking trails, such as those leading to Mount Kanchenjunga. Credit: Tshering Uden, KCC
カンチェンジュンガ山へと続く高地トレッキングルート沿いでは、色とりどりの祈祷旗に覆われた仏教のストゥーパ(仏塔)が、巡礼者や登山者の精神的な道標となっている。
写真提供:Tshering Uden(KCC)

この記事は、その大きな取り組みの一端を紹介するものであり、地域住民の参加と尽力がどのような成果を生み出したのかを描いている。

SECURE Himalayaは、ヒマーチャル・プラデーシュ州、ウッタラーカンド州、シッキム州、ラダック連邦直轄地の4地域で約7年間にわたり実施された。

シッキム州では、カンチェンゾンガ国立公園からテスタ川上流域までの約4,000平方キロメートルに及ぶ「カンチェンゾンガ-アッパー・テスタ景観地域」に重点が置かれた。

GEFからの1,150万ドルの助成金と、インド政府による6,000万ドル超の共同資金を背景に、事業は①重要生物多様性地域の保全、②地域社会の持続可能な生計確保、③人と野生動物の軋轢の軽減、④長期的な景観管理を支える知識基盤の構築――の4分野を柱として進められた。

シッキムでは、こうした取り組みがカメラトラップ網の整備や住民による巡回活動、女性による手工芸事業、廃棄物管理システムの構築などの形で実践された。

Nedup Bhutia’s dzo loaded with trekking supplies at the Yuksom trailhead, West Sikkim, ready for the Goechala trek into Khangchendzonga National Park. Credit: Diwash Gahatraj/IPS
西シッキム州ユクソムの登山口で、カンチェンゾンガ国立公園内のゴエチャラ・トレッキングに向けた物資を積み込んだネドゥプ・ブティア氏のゾ(ヤクと牛の交雑種)。
写真提供:Diwash Gahatraj/IPS

その根底にあった考え方は単純である。

「健全な自然環境から恩恵を受ける地域社会こそが、その自然を守る。」ということである。

プロジェクトは独立評価機関から、成果、妥当性、効率性の各分野で最高評価に近い「極めて満足(Highly Satisfactory)」の評価を受けた。カンチェンゾンガ国立公園では、管理体制の改善効果が対象地域の中でも特に高く評価された。

特に実践的な成果を上げた取り組みの一つが野犬対策である。北シッキムでは野犬が深刻な脅威となり、ユキヒョウから獲物を奪ったり、その主要な餌であるバーラル(青羊)やナキウサギを捕食したりしていた。

国連開発計画(UNDP)インド事務所でSECURE Himalayaの報告業務を担当したルチ・パント氏は次のように語る。

「プロジェクトはシッキム州の軍施設と協力し、食べ残しなどの生ごみを処理するバイオダイジェスターを戦略的な地点に設置しました。これが野犬問題への直接的な対策となりました。軍はその後、自らの予算でこの設備を拡充しています」

資金支援が終了した後も、この取り組みは自立的に継続されている。

また、若者たちは「ヒマル・ラクシャク(ヒマラヤの守護者)」として訓練を受け、カメラトラップの設置や国立公園の巡回、野生動物の目撃情報の報告を担った。現在、彼らの活動はシッキム森林局の通常業務に組み込まれ、防火帯の管理やモニタリング活動を森林警備員とともに行っている。

さらに州生物多様性委員会は、生物多様性法2002年に基づき州内196の生物多様性管理委員会(BMC)を設置した。その多くは女性たちによって主導されている。

Tents in the valley of the Khangchendzonga National Park. The zero-waste aspect of its zero-waste management model, including from visitors to the park, has been cited as a national best practice. Credit: Tshering Uden, KCC
カンチェンゾンガ国立公園の谷間に設営されたテント群。同公園のゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)管理モデルは、来園者が出すごみの管理も含め、その取り組みが全国的な優良事例として評価されている。写真提供:Tshering Uden(KCC)

発想の転換

シッキム森林局のウダイ・グルン氏は、このプロジェクトが同局の基本的な姿勢を変えたと語る。

「最も大きな変化は発想の転換でした」と同氏は言う。「森林局は、保護を中心とするモデルから、景観全体を対象とする共生型のアプローチへと移行したのです。」

プロジェクトは2024年に終了した。GEFの資金は当初から一時的なものとして設計されており、恒久的な支援ではなく、自立的に継続していく取り組みの呼び水となることを目的としていた。その観点から、最終評価では成果、妥当性、効率性の各面で「極めて満足」と評価された。一方、持続可能性についても「おおむね確保される見通し」とされ、目標はすべて達成され、一部ではそれを上回ったと指摘された。

すべてのGEFプロジェクトの設計思想に沿って、長期的には、プロジェクトを通じて培われた技術的能力や制度が政府に引き継がれ、維持されることが期待されている。

シッキムでは、その移行が着実に進みつつある。グルン氏は、実施期間を通じて最大の構造的課題だったのは資金不足ではなく、すでに配分された資金の執行が行政手続きの遅れによって滞ったことだと指摘する。高地のシッキムでは、現地で活動できる期間は数週間に限られる。承認を待つ間に、調査シーズン全体を失ったこともあった。

「能力はあります。しかし、長期的な持続可能性には継続的な財政的・制度的支援が必要です。」

その支援の責任は今、主に地方および州当局に委ねられている。ヒマル・ラクシャクはシッキム森林局の下で活動を続けている。生物多様性管理委員会(BMC)は州生物多様性委員会の管轄下にあり、ゼロ・ウェイスト(=ゴミゼロ)プログラムもユクサム・ブロック行政センターによって運営されている。

Jayanta Mukhia outside the Chungda Hidden Family Homestay in Yuksom, West Sikkim. Credit: Diwash Gahatraj/IPS
西シッキム州ユクソムのチュンダ・ヒドゥン・ファミリー・ホームステイ前に立つジャヤンタ・ムキアさん。写真:ディワシュ・ガハトラージュ/IPS

北シッキムでは、女性たちが現在もイラクサ繊維を織り、高付加価値市場への販路を自力で確保している。

2023年5月、シッキム州は初の生物多様性遺産地として、ゾングにある聖なる湖「トゥンキョン・ド」を指定した。この指定は地元の生物多様性管理委員会の支援によって実現した。UNDPは現在もドイツのIKI ICCAプログラムを通じて、より限定的な規模ではあるものの支援を続けており、その一部はヒマラヤの景観保全に充てられている。

依然として残る最も具体的な課題は、牧畜民への補償制度である。ガントクにあるアショカ生態学環境研究トラスト(ATREE)のヒマラヤ・イニシアチブで研究員兼プロジェクト・アソシエイトを務めるペマ・ヤンデン・レプチャ氏は、北シッキムのヤク牧畜民に対する聞き取り調査を数カ月にわたり続けてきた。

現地の牧畜民は最近、ユキヒョウによる捕食で5頭のヤクを失ったと同氏に語った。成獣のヤク1頭の価格は8万~10万ルピーに上る。政府の補償額はその一部にすぎず、しかも被害の多くは森林局の管轄地で発生している。そのため牧畜民は、森林局から補償の対象外だと告げられることが少なくない。

「彼らはユキヒョウに対して非常に否定的な感情を抱いており、しばしば報復に走りたいという強い衝動を感じています。」とペマ氏は語る。

共生のコストを負担している牧畜民が適切な補償を受けられるよう、このギャップを埋めることが、現在この景観の管理責任を担う地方当局にとって最も差し迫った課題となっている。

Nedup Bhutia’s dzo loaded with trekking supplies at the Yuksom trailhead, West Sikkim, ready for the Goechala trek into Khangchendzonga National Park. Credit: Diwash Gahatraj/IPS
西シッキム州ユクソムの登山口で、カンチェンゾンガ国立公園内のゴエチャラ・トレッキングに備え、荷物を積まれたネドゥップ・ブティアさんのゾ。写真:ディワシュ・ガハトラージュ/IPS

受け継がれる取り組み

登山道を歩くネドゥップ・ブティアさんは、11頭のゾとともに20年にわたりゴエチャラ・ルートを行き来してきた。トレッキングシーズンごとに訪問者の荷物を運び、10万~15万ルピーの収入を得ている。彼はこれまで一度もユキヒョウを見たことがない。

しかし3年前、国立公園周辺のジャムトン村で2歳の雄牛が死んでいるのが見つかった。ユキヒョウに襲われたのだった。ネドゥップさんにとって、それはこの自然が今なお息づいている証しだった。

ユクソムの「チュンダ・ヒドゥン・ファミリー・ホームステイ」では、ジャヤンタ・ムキアさんが木のテーブルで2杯の紅茶を注ぎ足している。宿泊客は明日出発する。彼らは自分たちのごみを持ち帰る。ジャヤンタがそうするよう徹底してきたからだ。

21頭のユキヒョウは今もそこにいる。地域社会も活動を続けている。プロジェクトは、あらゆる評価項目において成功を収めた。今後どうなるかは外部資金ではなく、この取り組みを受け継いだ制度や地域社会が、それをさらに発展させることを選ぶかどうかにかかっている。

SECURE Himalayaが残した遺産の真価が問われるのは、まさにこれからである。

注:この記事はGEFの支援を受けて掲載された。編集内容についてはIPSが全責任を負い、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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