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|イエメン|売り買いされ虐待にさらされる女性たち

【アデンIPS=レベッカ・ムレイ

アイーシャ(20歳)は、2人の子どもを強く抱き寄せながら、自身に降りかかった恐ろしい経験について語った。ソマリアの首都モガディシュで育った彼女は4年前に恋に落ち、未婚のまま最初の子どもを出産した。それを知った家族が「名誉を汚した」として彼女の命を脅かしたため、やむ無く家出したという。

アイーシャは、より良い人生を求めてブローカーを頼りにイエメン行きの密航船に乗り込み、危険なインド洋を渡ってきた。

 しかし彼女を待っていたのは、軽量コンクリートブロックの建物が無秩序に広がる港町アデンのスラム(バサティーン地区)で、4人の女性たちと不法滞在者として暮らす日々だった。彼女たちは毎日この寂れたイエメンの港町で物乞いをしながら、時折1回2ドルで体を売って生計をつないでいる。しかし、こうして得た僅かな稼ぎでさえ、彼女たちを支配している売春斡旋業者に半分を取り上げられている。

「子供たちのために、なんとかもっと安全な所に移りたい…イエメン以外のどこかに…。」とアイーシャは語った。国境を超える国際人身売買ネットワークは、イエメンにおいても広がりを見せている。そして貧困を背景に、性的搾取を受けた女性たちが、人身売買ネットワークの最も脆弱な犠牲者となっている。

アイーシャの未来には暗澹たるものを感じざるを得ないが、それでも先日サウジアラビア国境付近の街ハラダ(Haradh)の病院で一人死亡したエチオピア出身の少女(17歳)の運命よりはまだ恵まれているといえよう。

イエメン全土にまたがる人身売買ネットワークの犠牲となったその少女は、何度も強姦と暴行に晒された挙句に息を引き取った。彼女は故郷のエチオピアから遠く離れた地に埋葬されることになったが、彼女を死に至らしめた人身売買業者は、依然として罪を問われることもなく、自由のままである。

「イエメンでは、2011年から2012年にかけて、密輸と人身売買件数の急増とともに、新たに入国した移民が暴力や虐待を受けたとされる通報事例も大幅に増えました。」と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のエドワード・レポスキー担当官は語った。

UNHCRの記録によれば、2011年、103,000人が新たにイエメンに入国しているが、この入国者数は、6年前にUNHCRが記録をとりだして以来、最大の数だという。レポスキー担当官は、2012年の入国者記録はさらに大きなものになるだろうと見ている。また、イエメンへの実際の入国者数は、UNHCRの記録を遥かに上回るものと考えられている。

イエメンに入国した女性移民の大半は、エチオピア人とソマリア人が占めているが、貧困と家庭内暴力を逃れたケースが少なくない。彼女たちは、ブローカーに数百ドルを差し出し、まず中継地であるジブチかプントランドに運ばれる。そしてすし詰め状態の船に乗り込み、1日~3日に亘る危険な船旅を経て、イエメンに到着するのである。

多くの場合、彼女たちの目的は、サウジアラビアのような裕福な湾岸諸国にたどり着いて職を得ることである。しかし、密航中に輪姦されたり、超過密な船内で窒息して船から海に捨てられるものも少なくないという。また、イエメンに到着しても、少女たちには人身売買業者の犠牲になる大きなリスクが待ち受けている。

「ここで見かける人身売買の流れは、大半が「アフリカの角」地域の国々から来て、サウジアラビアに向かうというものです。」と、国際移住機関(IOM)イエメン事務所の人身売買対策チームのエマン・マシュール氏は語った。

「移民を食い物にする人身売買のネットワークが確かに存在しています。中でも、移住者が女性の場合、ブローカーや人身売買業者によって酷い搾取にあう可能性が十分にあるのです。私たちが聞き取りを行った移民の中には、密航の途上、ブローカーに性的関係を強要されていたと証言していた女性達が少なくありませんでした。」

こうした証言は、昨年10月に発表された、デンマーク難民評議会(DRC)地域混合移住事務局(RMMS)が共同実施した画期的な調査報告書「絶望的な選択」においても確認されている。

「犯罪ネットワークは、エチオピアからイエメン、ジブチ、サウジアラビアまで広範囲に広がっており、こうした国々のギャングたちが、国境を越えてお互いの連絡先を把握している可能性は実に高い。」と同報告書は述べている。

地元女性も人身売買の犠牲に

一方、イエメンにおける人身売買の犠牲者が移民に限られていないのも現実である。
 
若いイエメン人少女と湾岸諸国からの旅行者間のごく短い婚姻関係-「セックス観光」として知られている-の背景には、貧困に喘ぐイエメン農村部の大家族事情がある。つまり、花婿が花嫁に支払うお金を目当てに、親が幼い娘を結婚させる事例があとを絶たないのである。

米国務省が昨年6月に発表した「2012年人身売買報告書(世界186カ国・地域の人身売買の実態や政府による対策をまとめた年次報告書)」のイエメンの項目には、「サヌア県、タイズ県のホテルやクラブでは、中には15歳という幼い少女までが、商業的性搾取の犠牲となっている。」と記されている。(イエメンでは、最低結婚年齢を女性17歳、男性18歳と規定した法律が議会を通過したものの、保守派議員が改正を求めるなどの動きを見せ、実際にはまだ施行されていない:IPSJ)

「イエメンで児童買春する顧客の大半はサウジアラビアからの観光客が占め、次に湾岸諸国からの旅行者が続いている。サウジアラビアからの観光客と結婚させられるイエメン人少女たちの中には、この婚姻が実際には一時的なもので自分が搾取されるという現実を理解していないものも少なくない。こうした少女らの一部は、その後、人身売買の犠牲になったり、サウジアラビアの街中に捨てられたりしている。」

また、サヌア郊外の閑静な地区にある匿名の避難所に今は身を寄せているレイラ(15歳)の場合は、さらに異なった形態で人身売買の犠牲になった事例といえよう。家庭内暴力に苦しんでいたレイラは2年前に家を飛び出し、路上生活を始めた。しかしまもなく、年上の女性に拾われ、売春宿に連れて行かれた。そこでは、逃亡防止の脅迫材料として性交中の写真を撮られたり、薬物を投与されたりした少女たちが、強制的に客を取らされていた。さらにその年上の女性は、顧客からの支払いを着服していたのである。

レイラとこの女性売春斡旋業者は、レイラがサウジアラビアに転売される直前にイエメン警察当局に逮捕された。その結果、レイラは彼女の「罪」の代償として刑務所に2年間収監された。家族は、純潔を汚したとしてレイラを勘当し、兄はレイラに死の宣告を行った。

そうした中、レイラは収監先の刑務所で接見したイエメン女性ユニオンのスタッフから規模は小さいものの彼女のような境遇の女性たちのための避難所(イエメン初の施設)があることを知った。レイラは刑務所を出所後、イエメン女性ユニオンのスタッフがレイラの家族とのこじれた問題を解決するまでの間、この避難所に身を寄せて、精神面のリハビリケアや教育プログラムを受けている。

イエメンの刑法は、人身売買を禁止しており違反者には禁固10年の罰則が規定されている。米国務省の「2012年人身売買報告書」は、イエメンが政治危機の渦中にあると認めながらも、人身売買問題に対してイエメン政府が真剣な対応をとっていない点を強調している。

「イエメン政府は、本調査に対して、捜査当局によるデータを提供できなかった。また同政府は、人身売買の犠牲者を特定・保護するための正式な手続きを定めておらず、商業的性的搾取を目的とする人身売買の問題に取り組むための措置も講じていない。」

IOMのイエメンにおける責任者ニコレッタ・ジョルダーノ氏は、「イエメンには密貿易と人身売買のビジネスが蔓延っています。これは国境を超えた国際規模のビジネスなのです。…多くの欧米諸国が、この地域の海賊問題に焦点をあてている影に隠れて、密貿易と人身売買の問題への関心は脇に追いやられているのが現状です。」「もし私たちが、国境管理のありかたを総合的に見直し、支援や保護を必要としている人々を適切に保護する一方で、犯罪に手を染める者たちへの厳正な対処をしたならば、それが結局は、全ての関係国の利益になるのです。」と語り、イエメン政府の無策を批判した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

*人身売買被害者の名称は本人のプライバシーを保護するため全て仮称にしている。

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