第21回世界伝統宗教指導者会議事務局会合を取材するために世界11カ国からアスタナに来訪した国際記者団のメンバーであるロンドンポスト紙のラザ・サイード記者が、ロマン・ヴァシレンコ外務副大臣に、この世界的な宗教間対話イニシアチブの役割や成果、その背景にあるカザフスタン政府が推進する「マルチ・ベクトル外交」についてインタビューを行った。以下はその主な抜粋である。
【アスタナINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】
ロンドンポスト(LP):近年、カザフスタンは建設的な平和外交を提唱している国として定評がありますが、貴国の外交政策についてお聞かせください。
ロマン・ヴァシレンコ:カザフスタンの対外政策は、平和を志向し、多方面にわたって現実的かつバランスの取れた外交政策(=全方位外交「マルチ・ベクトル外交」)を特徴としています。この戦略は(カザフスタンがソ連から独立した)1990年代初頭に策定され、以来30年以上にわたって一貫して成功裏に実施されてきました。
今日、カザフスタンは186カ国と外交関係を維持し、62の大使館と20以上の領事館を含む代表事務所を全大陸に開設しています。また、戦略的パートナーシップ関係は、世界の多くの主要国との間に結ばれています。
「敵ではなく友を得る」ことを目的とした外交戦略は、国の安全と安定を確保する上で重要な役割を果たしています。今日カザフスタンは、世界のどの国とも紛争や未解決の問題を抱えていません。
現実的かつ多方面にわたる外交政策により、カザフスタンは国際社会に溶け込み、可能な限り効果的に国益を促進し、国内の開発問題に取り組むための最適な対外条件を作り出すことに成功しています。これには経済発展も含まれます。カザフスタンは、外国直接投資の誘致という点では、中央アジアにおける紛れもないリーダーであり、この地域の外国直接投資総額の60%を占めています。
カザフスタンは、独立黎明期に策定された路線を堅持しています。カシム=ジョマルト・トカエフ大統領のリーダーシップの下、カザフスタンは世界舞台での関与を維持・強化するため、外交政策の視野を常に広げる取り組みを進めています。
反核運動のリーダー
カザフスタンの独立は、当時の指導部による史上前例がないいくつかの大きな決断から始まりました。
ソ連が運営していた世界最大規模のセミパラチンスク核実験場は、1991年8月29日、大統領令によって閉鎖されました。この核実験場は数十年間機能し、カザフスタンの大地に深い傷跡を残し、150万人の市民の生活に世代を超えて深刻な影響を与えました。
独立後、カザフスタンはもう一つの差し迫ったジレンマに直面しました。ソ連から受け継いだ世界第4位の膨大な核兵器をどうするかという問題です。指導部は、核保有国の地位を自主的に放棄するという現実的な決断を下しました。このことで、国際舞台におけるカザフスタンの権威が高まっただけではなく、特に投資家からの信頼も高まりました。
このような決断は、わが国の外交政策の中核をなす考え方のひとつを確固たるものにしました。今日、カザフスタンは核軍縮・不拡散の世界的な運動のリーダーとして認められています。セミパラチンスク核実験場の閉鎖を記念する8月29日は、国連総会の全会一致の決定により、「核実験に反対する国際デー」として国連カレンダーに刻まれました。また、2016年には、中央アジア非核兵器地帯が設立されました。さらに17年には我が国東部のオスメケンに低濃縮ウラン(LEU)備蓄バンクが開設されました。
カザフスタンは、すべての主要な国際核軍縮・不拡散条約に加盟しています。特に、核兵器禁止条約(TPNW)に最初に署名・批准した国の一つです。
多国間協力
カザフスタンは、国連(1992年3月2日以降)とその専門機関、世界貿易機関(WTO)、国際原子力機関(IAEA)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、上海協力機構(SCO)、イスラム協力機構(OIC)、独立国家共同体(CIS)、集団安全保障条約(CSTO)を含む40以上の国際機関に積極的に加盟しています。さらに、国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)、欧州復興開発銀行(EBRD)といった主要なグローバル金融機関にも加盟しています。
カザフスタン独自の「マルチ・ベクトル外交」の特徴の一つは、主要な国際機関の活動に積極的に参加するだけでなく、対話と協力のための新たな多国間プラットフォームを構築するというコミットメントにあります。
このしたアプローチの好例として、独立間もない1992年にカザフスタンが国連総会で設立を提唱した「アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)」があります。今日、CICAには28カ国が加盟し、本格的な組織へと変貌を遂げつつあります。
カザフスタンは、旧ソ連邦構成国間の経済協力を大幅に強化した独立国家共同体とユーラシア経済同盟の創設において重要な役割を果たしました。
我が国はまた、実質的かつ影響力のある国家連合「上海協力機構」(中国、カザフスタン、キルギス、インド、イラン、パキスタン、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン)の創立メンバーでもあります。
カザフスタンは、他の国々とともにテュルク評議会の設立を主導し、同評議会は最近テュルク諸国機構へと発展させるなど、国際社会における積極的な姿勢をさらに強固なものにしています。
世界的認知
30数年にわたって、カザフスタンは独立以来一貫して堅持してきたこの外交政策の有効性を認められてきました。
2010年にカザフスタンが欧州安全保障協力機構の議長を務めたことは、我が国が国際社会における責任ある国家としての役割を大きく肯定するものでした。
カザフスタンは、旧ソ連構成国として、またアジアの国として初めて、加盟国が50カ国を超える国際組織の議長国を任されました。カザフスタン外交の最高の成果は、21世紀最初の、そして現在のところ唯一のOSCE首脳会議の開催に成功したことです。このサミットはアスタナ宣言の採択に結実しまし。また、2017年から18年にかけて、カザフスタンは国連安全保障理事会の非常任理事国としてデビューしました。この選挙で、中央アジアの国が初めて安全保障理事会の理事国となりました。この2年間、カザフスタンは、核兵器のない世界の実現、地域紛争と脅威の解決、地域安全保障分野における中央アジアの利益の促進、テロリズムへの対抗など、優先事項を熱心に追求しました。
過去30年間、カザフスタンは、SCO、CIS、OIC、CICA、EAEU、テュルク評議会といった国際組織の首脳会議など、最高レベル参加者が集うイベントを数多く主催してきました。2017年には、カザフスタンの首都でアスタナ国際博覧会(Expo2017)も開催しました。
カザフスタンは「誠実な仲介者」として国際社会で高い評価を得ています。例えば、カザフスタンのマルチ・ベクトル外交の成果として、シリア内戦を解決するための和平交渉がカザフスタンの首都で始まりました。この「アスタナプロセス」を通じて、シリアの政府当局と武装反体制派の双方が、イラン、ロシア、トルコという3つの保証国の代表とともに、カザフスタンで初めて交渉のテーブルにつき、以後協議は20回に及びました。
カザフスタンの外交が評価されているさらなる証左は、我が国の代表が主要な国際機関や機構で重要な役割を担っていることです。例えば、2011年から13年にかけて、カシム・ジョマルト・トカエフ現大統領は、国連事務次長およびジュネーブ事務所長を務めました。18年から22年にかけて、バグダット・アムレーエフがチュルク諸国機構事務総長を務めました。現在、アスカル・ムシノフはOIC副事務総長、カイラト・サリバイはCICA事務総長、カイラト・アブドラフマノフはOSCE少数民族高等弁務官を務めています。
LP: 世界規模で宗教間対話を推進するうえでの、世界伝統宗教指導者会議の役割と意義について詳しくお話しください。
ヴァシレンコ:世界伝統宗教指導者会議は、2003年にカザフスタンの首都アスタナでカザフスタンのイニシアチブによる始まりました。その主な使命は、世界中のさまざまな宗教指導者間の対話、理解、協力を促進することにあります。
このイニシアチブでは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、道教、その他多くの伝統信仰を含む世界の宗教を代表する多様な宗教指導者が一堂に会します。この多様性が、豊かな議論のための宗教的信念と実践の包括的な表現を保証しているのです。
会議は3年ごとに開催され、宗教間対話のための一貫したプラットフォームを提供しています。これにより、平和と相互理解を促進するための議論を継続し、戦略を進化させることが可能となるのです。
会議での議論は、神学的、教義的な問題に限定されるものではありません。この宗教間対話ではテロリズムや過激主義、暴力的な目的のための宗教の悪用など、今日の世界的な課題を取り上げることも少なくありません。そうすることで、宗教の教えを現代的な文脈の中に位置づけ、宗教的原則の歪曲に反対する集団的な姿勢を促しているのです。国際的に広範な参加を得ることにより、会議の決議、宣言、討議は世界的な広がりを持つことになります。会議は、他の地域や地方の宗教間イニシアティブの道標として機能し、複数のレベルでの宗教間対話の重要性を強調します。
この会議における極めて重要な成果のひとつは、異なる宗教的伝統間の相互尊重の醸成にあります。互いの違いを認めつつ、共通の利益のために超越されるプラットフォームを提供することで、会議は宗教的偏見や誤解を減らす役割も果たしています。
この宗教観対話イニシアチブが目指す最終的な目標は世界平和の促進にあります。対話と相互理解を通じて、会議は宗教的対立と緊張を緩和し、宗教が団結、平和、建設的発展の力となるよう望んでいます。
2022年9月にアスタナで開催された第7回会議には、ローマ法王フランシスコ、カイロのアルアズハル大学の総長で同モスクのグラントイマームであるアフマド・アル・タイーブ師、イスラエルの首席ラビなど、著名な宗教指導者が参加しました。
会議は、世界規模で宗教間対話を推進する上で極めて重要な役割を果たしています。この取り組みは、相互の結びつきが強まる一方で、宗教的な誤解や誤った解釈という課題にも直面している今日の世界における、相互尊重と理解の重要性を強調しています。
LP:トカエフ大統領は、カザフスタンの豊かな文化的・宗教的多様性について言及しています。この多様性は、カザフスタンの宗教間対話や協力へのアプローチにどのような影響を与えていますか?
ヴァシレンコ:カザフスタンの豊かな文化的・宗教的背景が、この宗教間対話と協力に対するカザフスタンのアプローチを形成する上で、重要な役割を果たしてきた。
欧州とアジアの結節点に位置するカザフスタンは、歴史的に文化、民族、宗教の交差点でした。この地域を通るシルクロードは、貿易だけでなく、思想や信仰の交流も促進しました。この地域では、何世紀にもわたって、イスラム教、キリスト教から仏教、シャーマニズムまで、さまざまな宗教的伝統が共存してきました。
今日、カザフ人の多くはイスラム教徒(主にスンニ派)を自認していますが、ロシア正教徒、プロテスタント、カトリック、さらに仏教徒、ユダヤ教徒、その他の宗教の信奉者などのコミュニティーも存在します。このような多様性から、これらのグループ間の相互尊重と調和を促進する統治アプローチが必要とされてきました。
カザフスタン憲法は国家の世俗性を強調し、いかなる宗教も他の宗教を支配したり、他の宗教の権利を侵害したりすることができないようにしています。この世俗的な枠組みは、さまざまな宗教共同体が国家の干渉を受けずに共存し、信仰を実践する場を提供してきました。
カザフスタンは、その宗教的多様性の価値を認識し、国内外での宗教間対話の促進に積極的です。世界伝統宗教指導者会議は、この大義に対するカザフスタンのコミットメントの証です。この世界的なイベントを主催することで、カザフスタンは宗教間対話の仲介者、橋渡し役としての役割を強調しています。
カザフスタン国内のさまざまな教育プログラムやイベントは、我が国の宗教的多様性の歴史と価値を強調しています。国内に存在する様々な宗教的伝統について若い世代を教育することで、カザフスタンは相互尊重と相互理解の感覚を育むことを目指しています。
トカエフ大統領のリーダーシップの下、カザフスタンは一貫して宗教的寛容政策を強調してきました。このアプローチは、トップダウンの指示だけでなく、歴史的に多民族・多宗教社会で暮らしてきたカザフスタンの人々の文化的精神に根付いています。
カザフスタンの宗教間対話へのコミットメントは、その外交努力にも表れています。カザフスタンは、他国や国際機関との交流において、宗教的寛容と対話の重要性を頻繁に強調しています。
カザフスタンの豊かな文化的・宗教的多様性は、宗教間の対話と協力に対する積極的で包括的なアプローチの原動力となっていいます。カザフスタンは、多様性を課題と捉えるのではなく、むしろ強みとして受け入れ、その立場を活かして、国内だけでなくグローバルな舞台でも平和、理解、協力を促進しているのです。(原文へ)
INPS Japan/ London Post
この記事は、London Postに初出掲載されたものです。
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