【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】
次期国連事務総長選挙に立候補しているガイアナのキャロリン・ロドリゲス=バーケット氏は、加盟国との対話会合で、戦争、財政難、そして国連への信頼低下という試練に直面する国連に対し、「実務的な改革」「国連憲章の原則への回帰」「より信頼される国連」の実現を柱とする、慎重かつ現実的なビジョンを示した。|英語版|
ロドリゲス=バーケット氏は、自らを既存秩序を覆す改革派候補として売り込むことはしなかった。
むしろ、「国連は依然として不可欠な存在である。しかし、その役割を果たすためには、より効果的で、より現場に根ざし、自らが何を実現でき、何を実現できないのかについて率直でなければならない」と訴えた。
同氏の主張は三つの柱に集約される。
第一に、国連憲章の原則を改めて重視すること。
第二に、国連の制度改革を進めること。
そして第三に、平和と安全保障、開発、人権という国連の三本柱において加盟国の協力を結集し、成果を上げることである。
これは、小国ならではの現実感覚に裏打ちされたメッセージだった。
ガイアナの国連常駐代表であり、元外相でもある同氏は、多国間主義のルールは「飾り」ではなく「国家の生存条件」であると考える小国の経験を、自らの立候補の土台に据えた。
同氏が繰り返し強調したのは、次の一節だった。
「事務総長が持つべき唯一の偏りは、国連憲章と国際法に対するものである。」
この考え方は、ウクライナ、ガザ、人権問題、安全保障理事会の機能不全など、加盟国から厳しい質問が相次ぐ中で、一貫した回答の軸となった。
今回の対話では、次期事務総長が直面する最大の課題も浮き彫りとなった。
すなわち、国連に求められる役割は拡大し続ける一方で、加盟国の政治的結束、財政、人々の忍耐はいずれも縮小しているという現実である。
「平和は命令できないが、そのための政治的空間はつくれる」
平和と安全保障についてロドリゲス=バーケット氏は、事務総長はより積極的に行動し、「善意の仲介(good offices)」を活用し、紛争当事者と直接対話するとともに、地域・準地域機関との連携を強化すべきだと述べた。
「国連が常に対応が遅い、あるいは存在感がないと思われないためにはどうすべきか」と問われると、同氏は「進展の可能性を常に探り続け、拒絶や失敗を恐れてはならない。」と答えた。
これは、この日の対話でも最も印象的な場面の一つだった。
その発言からは、「事務総長は平和を命じることはできないが、和平への政治的な空間を生み出すことはできる。」という現実を理解している候補者像が浮かび上がった。
第99条には慎重姿勢
一方、国連憲章第99条については慎重な姿勢を示した。
第99条は、事務総長は、国際の平和及び安全の維持を脅威すると認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができる権限を定めている。
ロドリゲス=バーケット氏は、この権限を行使する前には、現地から十分な情報を収集し、人道上の影響を評価し、当事者と対話し、利用可能なあらゆる外交手段を尽くすべきだと述べた。
法的には慎重で政治的にも安全な回答だったが、安全保障理事会が機能不全に陥った際には、より積極的に第99条を行使すべきだと考える人々には物足りなく映る可能性がある。
ウクライナ問題では原則論に終始
ウクライナ代表団は、リトアニア、ポーランドとともに、戦争犯罪、民間人への攻撃、子どもの強制移送、性的暴力、さらには常任理事国による拒否権行使について質問した。
ロドリゲス=バーケット氏は、「国連憲章や国際法へのあらゆる違反について、事務総長にはそれを指摘する責任がある。」と述べた。
しかし同時に、「こうした原則はすべての紛争に等しく適用されなければならない。」と付け加えた。
ロシアを直接名指しすることは避けた。
選挙戦としては賢明な対応かもしれない。
しかし同時に、慎重路線の限界も示した。
ガザ問題でも均衡を維持
アラブ・グループは、国際法における二重基準、パレスチナ問題、人道支援アクセス、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への支援について質問した。
ロドリゲス=バーケット氏は、国際人道法の遵守、人道支援の確保、関係者との協力、そして長期的解決を支持すると述べ、安全保障理事会および総会で採択された数多くの決議にも言及した。
ここでも回答は慎重かつ均衡の取れたものだった。
問題の核心は認識していたものの、新たな政治的メカニズムや譲れない一線(レッドライン)は提示しなかった。
その姿勢は終始一貫していた。
国連憲章を軸とし、大げさな約束は避け、外交の余地を残すというものである。
人権は「開発」と不可分
欧州連合(EU)は、人権分野への予算配分が国連の三本柱の中で依然として少ない点について質問した。
これに対し同氏は、「開発や平和・安全保障への投資は、人権への投資でもある」と答えた。
また、自身がガイアナで取り組んできた先住民族教育や先住民族の権利向上の経験を紹介し、人権を基盤とする政策は実際に開発成果を生み出せると説明した。
これは彼女の持ち味が最も発揮された分野だった。
人権を「尊厳」「包摂」「開発」という観点から語ることには説得力があり、グローバル・サウスの多くの国々には共感を呼ぶだろう。
一方、市民社会や一部の欧米諸国は、各国政府による人権侵害に対して、より強い発信力を期待するかもしれない。
最大の強みは開発と気候変動
ロドリゲス=バーケット氏が最も力を発揮したのは、開発資金、気候変動への脆弱性、小島嶼国の課題について語る場面だった。
G77・中国グループは、「2030アジェンダ」、開発資金、地域的代表性、そして国連改革が開発分野を弱体化させる危険性について質問した。
これに対し同氏は、「世界が直面しているのは約束不足ではなく、実施不足である」と指摘し、国際金融機関との連携強化と国際金融システム改革の必要性を訴えた。
また、小島嶼開発途上国(SIDS)、カリブ共同体(CARICOM)、太平洋諸島フォーラム、モルディブなどからは、気候変動への脆弱性、「アンティグア・バーブーダ行動計画」、多次元脆弱性指数(MVI)、気候変動と安全保障の関係について質問が寄せられた。
同氏は、小島嶼国支援は各国が合意した優先課題に沿って進めるべきであり、多次元脆弱性指数などの指標についても国際金融機関への働きかけを強化すべきだと述べた。
さらに、「私は満潮が抽象的な気候変動の話ではなく、現実の脅威である国から来ています」と語り、自身の経験と政策を自然に結び付けた。
「改革」は必要だが、開発機能は削るべきではない
国連改革について同氏は、「UN80」改革プロセスを支持する一方で、「効率化」が最も脆弱な人々への支援を削減する口実になってはならないと警告した。
事務総長は、改革によってどのような影響が生じるか、とりわけ開発成果が後退する危険について加盟国へ明確な情報を提供すべきだと述べた。
これは彼女の最も強力な政治的メッセージの一つだった。
主要拠出国は「よりスリムな国連」を求めている。
一方、途上国は、「近代化」という名の下で開発予算が削減されることを懸念している。
ロドリゲス=バーケット氏は、その中間を目指した。
「組織は改革する。しかし、その原動力まで静かに取り除いてはならない。」
安保理改革では加盟国主導を強調
アフリカ・グループは、安全保障理事会におけるアフリカの常任理事国入りをどう支援するか質問した。
同氏は、安全保障理事会改革の必要性については広範な合意が存在し、アフリカの特別な事情も認識されていると述べた。
しかし、交渉は加盟国の役割であり、事務局はそのプロセスを支援する立場にあると強調した。
「安全な候補」以上になれるか
対話終了後、ロドリゲス=バーケット氏は記者団に対し、自らを「出馬が遅れた候補」とは考えていないと述べた。
選挙戦はまだ続いており、新たな候補者が加わる可能性もあるという。
出馬にあたっては家族とも十分相談したことを明かし、今後は各国首都を訪問して支持を求める考えを示した。
また、「候補者の中に欠けているものがあったから立候補したのか」と問われると、その見方を否定した。
安全保障理事会と加盟国全体にとって、多様な候補がいることは望ましく、ラテンアメリカ・カリブ地域にも優れた人材は数多く存在すると述べた。
今回の対話を通じて、彼女の立候補の特徴は明確になった。
ロドリゲス=バーケット氏は、最も声高な候補としてではなく、小規模な開発途上国出身の現実的な多国間外交官として選挙戦に臨んでいる。
政府での経験、国連外交の経験、そして開発を最優先に据える世界観が、その強みである。
国連外交の現場を熟知し、加盟国の立場を理解し、改革を語っても無謀さを感じさせないことは大きな長所と言える。
一方で、最も政治的に対立の激しい問題については、原則論や手続論にとどまる場面も少なくなかった。
今回、ロドリゲス=バーケット氏は、自らが現在の国連とその置かれた状況を十分理解していることを説得力をもって示した。
今後の焦点は、各国首都が彼女を単なる「安心して任せられる候補」と見るのか、それとも財政は減り、加盟国の結束も弱まり、世界の期待だけが高まり続ける国連を率いるだけの胆力を備えた指導者と評価するのかにかかっている。
INPS Japan/ATN
関連記事:













