SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)平和に賭けるオマーン ―「賢明な中立」が示す中東外交の新たな可能性

平和に賭けるオマーン ―「賢明な中立」が示す中東外交の新たな可能性

【INPS Japan/London Post=モハメド・サブリーン】

数十年に一度とも言える激動の時代を迎えている中東において、ハイサム・ビン・ターリク国王の指導の下、オマーン国は独自の外交路線を貫いている。|英語版

その外交は、対立する陣営のいずれかに与する「陣営外交」や二極化を基盤とするものではない。対話こそが、安全保障と安定を実現するための最もコストが低く、持続可能な手段であるという信念に基づいている。

穏健な外交姿勢で知られる首都マスカットは、ホルムズ海峡の将来をめぐる懸念を払拭するとともに、国際法の原則を堅持する姿勢を改めて示した。

ハイサム国王のフランス訪問を前に、オマーンのバドル・アル・ブサイディ外相は、モンテカルロ・インターナショナル・ラジオとの独占インタビューで、オマーンはホルムズ海峡を通航する船舶に通行料を課すことに反対しており、それは「国際法上認められていない」との立場を明確にした。

一方で、船舶会社との間で、自発的な「海事サービス」に関する協力を協議する可能性は排除しなかったものの、航行の自由と国際法を尊重する姿勢に変わりはないと強調した。

こうした発言は、オマーンがイランと米国との間で締結された覚書の履行を支援するとともに、地域の緊張緩和に向けた外交努力を続ける中で行われたものである。

ホルムズ海峡の安全確保

アル・ブサイディ外相は、ホルムズ海峡について、世界経済のみならずイランを含む地域諸国にとって極めて重要な海上交通路であることから、「すべての国にとって安全で、安心して、自由に航行できる海峡であり続けること」をオマーンは重視していると述べた。

また、マスカットとテヘランの対話は、将来のいかなる取り決めも国際法に合致することを前提としていると説明した。

オマーンは国連海洋法条約(UNCLOS)を遵守しており、海峡に関する新たな制度も国際法の枠内で構築されるべきだとの立場を示した。

ホルムズ海峡の利用料徴収をめぐる議論についても、オマーン政府は通航料の徴収には反対する姿勢を改めて表明した。

しかしその一方で、航行安全の向上、緊急時対応、海洋汚染対策などの海事サービスについては、マラッカ海峡やシンガポール海峡で採用されている仕組みを参考にした協力の可能性を検討する余地があるとしている。

こうした制度は、海峡を利用する各国や海運企業との協議を経て導入されるべきものであり、その目的は新たな負担を課すことではなく、航行の安全性とサービスの質を向上させることにあると外相は強調した。

「対話」を国家のアイデンティティとする外交

アル・ブサイディ外相の発言は、オマーンが対話を外交の柱としていることを改めて示している。

近年、米国とイランの仲介役を務めてきた同外相は、単に湾岸諸国の代表としてではなく、武力が外交に取って代わりつつある時代にあって、「対話そのもの」の価値を擁護する外交官として語った。

オマーン外交の最大の特徴は、仲介を一時的な戦術や政治的利益を得るための手段とは考えず、国家としてのアイデンティティそのものと位置付けている点にある。

Map of Oman Credit: Wikimedia Commons

数十年にわたり、マスカットは対立する当事者すべてとの対話の窓口を維持してきた。その結果、深刻な分断が続く中東において、極めて希少な信頼を獲得している。

実際、この外交姿勢は単なる「消極的中立」ではない。

戦争を未然に防ぎ、対立を橋渡しすることを目的とした、積極的な関与なのである。

そのためオマーンは、イラン核問題をはじめ数多くの地域紛争において、秘密交渉・公開交渉双方の重要な舞台となってきた。

アル・ブサイディ外相は、解決の好機が存在したにもかかわらず交渉が停滞したことに遺憾の意を表し、外交努力を損なうことは地域の安定にも国際社会の安全保障にも資するものではないと指摘した。

交渉に代わるものは、さらなる緊張と不確実性しかないというのである。

現実主義に基づく地域秩序

こうした考え方は倫理的理念だけから生まれているのではない。

中東という地域の現実を冷静に見据えた結果でもある。

中東はもはや新たな戦争に耐えられる状況ではない。

また、湾岸地域の安全保障は、地域だけの問題ではなく、エネルギー安全保障、国際貿易、そして海上交通路の安全と密接に結びついている。

そのためオマーンは、対話、相互尊重、内政不干渉を柱とする地域安全保障体制の構築を目指している。

これらはいずれも、数十年にわたりオマーン外交を支えてきた基本原則である。

軍事力だけでは平和は築けない

アル・ブサイディ外相の発言からは、軍事力によって地域秩序を再編しても真の安定は実現できないという認識もうかがえる。

特にパレスチナ問題をはじめとする政治的公正を欠いた地域秩序は、どれほど強固に見えても、いずれ崩壊する運命にあるとの見方を示している。

近年の経験は、軍事力が一時的に勢力均衡を変えることはできても、恒久的な平和を生み出すことはできないことを証明している。

時間がかかり、複雑であっても、持続的な平和を築く唯一の道は対話なのである。

「オマーン・モデル」の重要性

中東が急速な変化を迎える現在、オマーンの外交モデルはこれまで以上に重要性を増している。

特定の陣営に立つ国よりも、あらゆる当事者と対話できる国の価値が高まっている。

信頼される仲介者は、新しい地域秩序を支える不可欠な存在となっている。

ハイサム国王の下でのオマーン外交を特徴づけるのは、「賢明な中立(Smart Neutrality)」という長年の外交哲学を継承している点である。

この中立は単なる傍観ではない。

国家としての自主的な意思決定を守りながら、陣営対立や二極化に巻き込まれることなく、すべての関係国との対話を維持する能力を意味する。

マスカットは、この外交哲学を真の国力へと昇華させた。

競合する地域大国や世界の主要国すべてと均衡ある関係を維持できる数少ない国家となっているのである。

静かな尊敬を集める外交

ハイサム国王が国際社会から厚い信頼を集めている最大の理由は、実現できない約束や過度なレトリックを掲げないことにある。

現実主義、冷静さ、そして約束を確実に履行する姿勢を一貫して貫いてきた。

その結果、オマーンの発言は、中東のみならず国際社会の重要課題においても大きな重みを持つようになった。

オマーンの経験は、「知恵」は「力」の対極ではなく、むしろ力の最も持続的で影響力ある表れであることを示している。

知恵が国家としての自主性と均衡感覚に支えられるとき、その国は声高に主張することなく、自然と尊敬を集めることができる。

だからこそ今日、オマーンは単なる危機の仲介者ではない。

それは、「知恵は時として武力以上の影響力を持ち、敵対する者同士に橋を架けることこそが、戦場では決して得られない戦略的成果を生み出す」**ことを世界に示す、一つの外交モデル

モハメド・サブリーンは、エジプトの有力紙**『アル・アハラム』**の編集責任者(Managing Editor)。国際情勢、中東の地政学、アジア問題、環境問題、持続可能な開発を専門とするシニア・ジャーナリスト兼アナリストであり、United World Research Centerのシニア・エキスパートも務める。また,『Al-Ahram Weekly』(エジプト)、『Al-Masry Al-Youm』(エジプト)、『The Korea Times』(韓国)、『New Straits Times』(マレーシア)、新華社通信、中国日報(China Daily)、『China Today』(中国)、『Al-Sabah』(イラク)、『Ad-Dustour』(ヨルダン)、『An-Nahar』(クウェート)**など、数多くの国際メディアで定期的にコラムを執筆している。

INPS Japan

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