SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)被爆者の記憶を未来へ―軍縮教育が拓く核兵器なき世界(砂田智映SGI平和センター軍縮・人権部長)

被爆者の記憶を未来へ―軍縮教育が拓く核兵器なき世界(砂田智映SGI平和センター軍縮・人権部長)

【INPS Japan=砂田智映】

2025年は、広島・長崎への原子爆弾投下から80年という大きな節目の年となりました。

一方で、国際情勢は冷戦終結後で最も不安定かつ分断が深まった局面を迎えています。 ウクライナでの戦争や中東情勢のさらなる緊迫化を背景に、国際的な安全保障体制はかつてないほどの重圧にさらされています。

核兵器使用を示唆する発言や、原子力関連施設への攻撃の脅威は、もはや仮定の議論ではなく、現実の懸念となっています。私たちは今、「核抑止」という論理に世界全体が縛られ、国家の安全保障が全面的な破滅の脅威の上に成り立っているという深刻な構造的危機に直面しています。

現実主義の立場に立てば、核兵器が存在し続ける限り、誤算や意図的な使用によって人類が破滅する可能性は、常に消えることのないリスクとして存在し続けるのです。 この危険な現状を変えるため、創価学会インタナショナル(SGI)は、草の根での軍縮教育と意識啓発活動を重要な柱として取り組んできました。

Credit: Soka Gakkai

その代表的な取り組みの一つが、「被爆者の肖像―80年の記憶」展です。芸術の力を通して原爆被害の現実を伝えるこの展示では、広島・長崎の被爆者52名の肖像と、それぞれが未来へ託した平和へのメッセージを紹介しています。 この展示会では、一人の若者に起きた印象的な変化を目の当たりにしました。原爆投下の歴史について詳しく知らなかった14歳の女子生徒は、展示された被害の実相に大きな衝撃を受けました。しかし、その反応は単なる悲しみや驚きにとどまりませんでした。彼女は展示の冒頭に戻り、52人すべての被爆者の証言を一つひとつ丁寧に書き留め始めたのです。

それは受け身で情報を受け取る行為ではなく、自ら歴史を引き受けようとする主体的な行動でした。その後、彼女が書いた感想文は市の冊子に掲載されました。この出来事は、一人の「傍観者」が「当事者意識を持つ市民」へと成長していく過程を示しています。そして、それこそが教育の本質的な価値です。

教育は、過去の出来事という知識を、未来の平和と安定を守ろうとする責任ある意思へと変えていく力を持っています。 現在の行き詰まりを乗り越えるためには、軍縮教育の本質そのものを改めて問い直す必要があります。

被爆者であり平和活動家でもある小倉桂子さんは、技術的・軍事的な安全保障論に対する重要な対抗軸として、次のように語っています。 「軍縮教育で最も大切なのは、他者の痛みを想像する力です。海の向こうで子どもが泣いていたら、その涙を自分のこととして感じられるでしょうか。もしここに核兵器が落とされたら、自分の大切な家族はどうなるのでしょうか。その苦しみを具体的に思い描くことのできる人を数多く育てることこそ、核兵器が二度と使われないための、究極の抑止力なのです。」

現実主義の観点から見ても、この言葉こそが核兵器使用を阻む最も強固な防壁であると言えるでしょう。安全保障の理論や戦略を構成する無機質な数字や概念の背後には、かけがえのない人間の命があります。核兵器がもたらす惨禍を一人ひとりが具体的に想像できる市民を世界中に育むことは、「合理的」と称される核使用へのエスカレーションを防ぐための、極めて重要な戦略的課題なのです。

国際政治がどのような方向へ進もうとも、私たちは「何も変えられない」という諦めに未来への希望を奪われてはなりません。歴史の流れを変える力は、国家の軍事力だけにあるのではなく、一人ひとりの人間の意思の中にあります。そして、その意思を育み、持続可能な平和を支える連帯を築く最も重要な手段が教育です。

核兵器のない世界への道のりは決して平坦ではなく、多くの困難を伴います。しかし、それは私たちが決して諦めることのできない戦略的課題です。SGIはこれからも、一人ひとりとの対話と草の根の行動を何よりも大切にしながら、人間の主体的な力こそが世界を変える最も大きな原動力であるとの確信のもと、核兵器廃絶と恒久平和の実現に向けて歩み続けていきます。 

本稿は、INPS Japanが創価学会インタナショナルと推進している核廃絶メディアプロジェクトの報告書(2025年4月~26年3月までに配信されたプロジェクト記事をまとめたもの)に寄稿されたものである。

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