ニュースローマ宣言2026―AIの主導権を人類の手に取り戻すために

ローマ宣言2026―AIの主導権を人類の手に取り戻すために

核の脅威に立ち向かう「団結した人類」

【ローマINPS Napan/London Post=浅霧勝浩/ラザ・サイード

ノーベル賞受賞者、科学者、宗教指導者、元国家元首、人工知能(AI)の研究者、企業関係者、市民社会の代表らが7月16日、ローマ市庁舎(カンピドーリオ広場)のパラッツォ・セナトーリオ内「ユリウス・カエサルの間」に集い、「人工知能(AI)、核兵器、自律型兵器、新たなデジタル・プロトコルおよび新たなデジタル発展モデルの時代における、武装なき平和と軍縮のためのローマ宣言(Rome Declaration for an Unarmed and Disarming Peace)」に署名した。|英語版

宣言は、人工知能、核兵器、自律型兵器システム、そして急速に発展するデジタル技術が相互に結びつく現代において、人類の生存に関わる最終的な意思決定は、常に人間の責任の下に置かれなければならないと強く訴えている。

Presidente da República, Luiz Inácio Lula da Silva, durante audiência com Sua Santidade o Papa Leão XIV. Biblioteca do Palácio Apostólico, Vaticano.Foto: Ricardo Stuckert / PR

宣言は、その核心を次の一文で表現している。「AIと核兵器という次なる軍拡競争が21世紀を規定してしまう前に、私たちはその軍拡競争そのものを止めなければならない。」

この宣言は、7月14日から16日にかけてローマ郊外カステル・ガンドルフォの教皇別荘内「ボルゴ・ラウダート・シ」で開催された「人工知能と核戦争に関するグローバル・ノーベル賞受賞者会議の成果として採択された。

会議には、世界各国の研究機関、国際機関、市民社会などから200人を超える参加者が集結。バチカンの主催の下、教皇レオ14世の回勅『マグニフィカ・フマニタス(Magnifica Humanitas)』が掲げる「宗教を超えて共有される人類共通の価値」と「武装なき、そして軍縮を志向する平和」の理念を具体化する試みとして開催された。

「生と死を決めるのは人間でなければならない」

署名式では、登壇者が相次いでAIと核兵器がもたらす危機について警鐘を鳴らした。

ローマ教区代理のバルダッサーレ・レイナ枢機卿は、「「いかなる機械も、アルゴリズムも、自律型システムも、人類の存続に関わる決定を下してはならない。」と述べ、「生と死、平和と戦争、そして民族の未来に関する判断は、責任ある人間による完全かつ実質的な統制の下に置かれ続けなければならない。」と強調した。

Sharon Stone Credit: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan

平和大使として出席した俳優シャロン・ストーン氏は、「人間の尊厳はアルゴリズムではない。」と語り、テクノロジーが決して人間の価値そのものを代替できないことを訴えた。

また、ローマ市長ロベルト・グアルティエーリ氏は、開催都市を代表して歓迎の辞を述べた。

こうした人間中心の考え方は、会議に参加した創価学会渉外局長の長岡良幸氏が強調した宗教的・倫理的視点とも重なる。

長岡氏は、宗教者による作業部会と宗教間対話に参加した。異なる宗教的伝統を代表する参加者たちが2日間にわたって議論した結果、「人間の尊厳」こそ、あらゆる信仰の伝統が共有し、大切にできる普遍的価値であるとの全会一致の認識に至ったという。

「核兵器や自律型兵器の廃絶を求める声を広げるためには、宗教共同体が団結する必要があります。人間の尊厳を守ることが、そのための重要な鍵です」と長岡氏は語った。

核兵器の根底にある「人間への無感覚」

Edited by Katsuhiro Asagiri/INPS Japan

宣言は、各国政府、企業、国際機関に対し、最先端AIの開発競争を減速させ、核兵器の増強を停止するとともに、検証可能かつ不可逆的な核兵器廃絶に向けた交渉を進めるよう求めている。

ノーベル物理学賞受賞者のデービッド・グロス教授は、世界は30年前よりも危険な軍拡競争のただ中にあると警告した。軍備管理条約の崩壊と核保有国の増加に懸念を示し、戦争と核による破局の危険を減らす政策への転換を訴えた。

長岡氏は、核兵器の廃絶は「人類にとって当然の責務である」と明言した。

「仏教者として、核兵器の根底には、人間性に対する極端な無感覚と、人類に対する重大な無責任さがあると考えています」

創価学会は国際機関や市民社会の諸団体と連携し、核兵器禁止条約(TPNW)の普遍化を一層推進していく方針だという。最終的な目標は核兵器の完全廃絶であり、その確信と決意は変わらないと長岡氏は語った。

同時に、自律型兵器をはじめとする新技術にも、核兵器と共通する倫理的・道徳的問題があると指摘した。創価学会では、こうした新技術や新兵器に関する新たな声明の準備を進めており、同じ問題意識を持つ人々に連帯を呼びかける国際的なアピールを検討しているという。

「無痛文明」が他者の苦しみを見えなくする

AIは、医療、教育、環境保全、科学研究などに大きな恩恵をもたらす可能性を秘めている。その一方で、軍拡競争を加速させ、偽情報を拡散し、戦争における責任の所在を曖昧にし、人間による重要な意思決定を弱める危険性も抱えている。

長岡氏は、人間が科学技術を発展させてきた本来の動機は、苦痛を軽減し、時間のかかる労働を減らし、生活をより快適にすることにあったと説明する。

しかし、苦痛を取り除くことだけを追求する文明には、見過ごしてはならない罠があるという。

「文明が、いわゆる『無痛文明』へと向かい、自らの痛みを避けることばかりを求めるようになると、人間は他者の痛みに対しても鈍感になりかねません。その結果、人々は孤立し、人類の分断が深まっていきます」

長岡氏は、他者の苦しみに対する感受性の喪失こそが、AI兵器や核兵器を生み出す根本的な問題につながると指摘した。

ローマ宣言は、技術革新そのものを否定しているのではない。技術の発展は、人間の尊厳と倫理的責任によって導かれなければならないと主張しているのである。

技術は人間の苦しみを軽減するために使われるべきであり、人々を分断し、破壊する手段となってはならない。

AIと核兵器は切り離せない

今回の会議の最大の特徴は、これまで別々の政策分野として論じられてきたAIと核兵器を、一つの倫理的・安全保障上の問題として捉えた点にある。

Father Andrea Ciucci of the Pontifical Academy for Life observed that human ingenuity can create masterpieces or cause devastation, and that AI and nuclear technology are no exceptions. Credit: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan
Father Andrea Ciucci of the Pontifical Academy for Life observed that human ingenuity can create masterpieces or cause devastation, and that AI and nuclear technology are no exceptions. Credit: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan

両者は、人類の生存を左右する最終的な決定を誰が担うのかという、同じ根源的な問いを突き付けている。

宗教指導者、物理学者、AI研究者、安全保障の専門家、政策立案者が同じ場で議論を交わしたこと自体が、この問題の複雑さと緊急性を物語っていた。

教皇庁生命アカデミーのアンドレア・チウッチ神父は、人間の創造力は傑作を生み出すことも、破壊をもたらすこともでき、AIと核技術もその例外ではないと述べた。

シルヴァーノ・マリア・トマシ枢機卿とノーベル平和賞受賞者のマリア・レッサ氏は、急速な技術革新と地政学的不安定化が進む時代には、倫理的な羅針盤が不可欠であると訴えた。

シカゴ大学のダニエル・ホルツ教授は、世界が前例のない危険に直面していることを認めつつも、各国が対立ではなく協力を選ぶならば、世界をより安全にするための現実的な手段は残されていると述べた。

Press Conference。Credit: Katsuhiro Asagiri
Press Conference at Campidoglio, Rome. Credit: Katsuhiro Asagiri/INPS Japan

教育の本質は想像力

Credit: Simone Giara per Senzatomica

長岡氏は、核の危険に直面する若い世代へのメッセージとして、広島の被爆者から聞いた「平和教育の究極の本質は想像力である。」という言葉を紹介した。想像力とは、単に頭の中で出来事を思い描く能力ではない。他者の痛みを自分自身の痛みとして感じ取る感受性であるという。

「他者の苦しみを、どのように自分自身の苦しみとして受け止めることができるのか。その過程は教育にかかっています」

長岡氏の語る教育は、学校教育だけを意味しない。教えること以上に、互いに学び合うことが重要だと強調する。情報を伝える側と受け取る側が、互いに理解を深め、思想や哲学を育んでいく。その相互学習の過程こそが、平和を創造する教育の価値であるという。

会議では、イタリアの若者たちが主導する核兵器廃絶運動「センザトミカ」の活動も紹介された。長岡氏は、若い世代が始めたこの取り組みを国際的に広げていきたいと語った。

「同じ懸念を共有し、核兵器やAI兵器の根底にある人類共通の病理への理解を深めることによって、人類の団結は広がります。その『団結した人類』こそが、核兵器の脅威に対する最強の武器なのです」

国家だけでなく企業にも責任

ローマ宣言は、政府だけでなく企業にも責任ある行動を求めている。

現在、最先端AIの研究開発の多くは、多国籍テクノロジー企業によって進められている。実効性のあるAIガバナンスを実現するには、国家と民間企業の協力が不可欠である。

しかし、この宣言が直ちに国際政治の現実を変えるわけではない。

核保有国は依然として核戦力の近代化を進めている。AIの国際的な統治についても、国や地域によって異なる規制モデルが並立している。

宣言は高い倫理的原則を示しているものの、安全保障上の利益とAI開発の抑制をいかに両立させるかについては、具体的な制度設計が必要となる。各国に開発競争を抑制させるには、道徳的な訴えだけでなく、政治的、経済的、外交的な動機付けも求められる。

市民社会とメディアの役割

長岡氏は、核兵器廃絶に向けた機運を再び高めるうえで、メディアの役割は不可欠だと強調する。政治的、経済的な側面を報じるだけでなく、核兵器とAIが突き付ける道徳的・倫理的課題にも光を当てるべきだという。

「市民社会が一般の人々を励まし、その力をこのプロセスに結集していくうえで、メディアが果たせる役割は非常に大きいものです。」

市民社会もまた、教育と対話を通じて、人間の尊厳を守り、核兵器のない世界を実現する責任を担っている。歴史を振り返れば、多くの国際規範は、当初は道徳的な訴えとして始まり、やがて外交、条約、国際法へと発展してきた。

ローマ宣言も、直ちに世界の戦略的計算を変えるものではないかもしれない。しかし、AIと核兵器を、人間の尊厳、倫理、文明の未来という大きな枠組みの中で捉え直した意義は小さくない。

科学技術だけで、人類の未来を決めることはできない。倫理的責任を欠いた技術の進歩は、かつてない繁栄ではなく、かつてない危険をもたらす可能性がある。

人類の未来を誰が決めるのか

各国がAIへの投資を加速させる一方で、核兵器の近代化も進めている今、ローマから発せられた警告には、かつてない切迫感がある。

A conceptual illustration of a human rights-centred global development framework beyond 2030, envisioning the integration of sustainable development, social justice, labour rights, environmental stewardship, and international accountability under the United Nations human rights system. Illustration: INPS Japan
A conceptual illustration of a human rights-centred global development framework beyond 2030, envisioning the integration of sustainable development, social justice, labour rights, environmental stewardship, and international accountability under the United Nations human rights system. Illustration: INPS Japan

ローマ宣言が直ちに主要国の安全保障政策を変えることはないかもしれない。

しかし、この宣言は世界の指導者たちに、一つの避けて通れない問いを突き付けた。

アルゴリズムと自律型システムが社会を形づくる時代に、人類の未来を最終的に決定するのは誰なのか。

ローマ宣言の答えは明確である。

テクノロジーは人間の知恵を増幅するために存在すべきであり、人間に取って代わるために存在するのではない。

そして長岡氏が訴えたように、その原則を現実のものにする力は、政府や科学者だけにあるのではない。

宗教界、市民社会、メディア、教育者、そして若い世代が、人間の尊厳という共通の価値の下に結びつくこと。その「団結した人類」こそが、核兵器と人間の制御を離れたAIの脅威に立ち向かう、最も強力な力なのである。

This article is brought to you by London Post in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

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