地域アジア・太平洋アスタナ―マスカット―カサブランカ:新たな国際金融軸の胎動

アスタナ―マスカット―カサブランカ:新たな国際金融軸の胎動

【カサブランカINPS Japan/Atlantica Africa=ナスララ・ベルカヤテ博士】

世界経済の大きな変革は、必ずしも金融市場が伝統的に注目してきた主要都市から始まるとは限らない。ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、ドバイが常にその起点となるわけではない。時には、長らく世界経済の周縁とみなされてきた地域が、貿易ルートや資本の流れ、大国の利害関係の変化によって、戦略的に重要な拠点へと姿を変えることがある。アスタナ、マスカット、カサブランカの間で進みつつある関係強化も、こうした視点から検討する必要がある。|英語版|

Dr. Nasrallah Belkhayate

その根底にある構想は、真剣に検討する価値がある。カザフスタン、オマーン、モロッコの3カ国が、中央アジア、湾岸地域、アフリカを結ぶ新たな金融秩序の形成に寄与する可能性があるというものだ。もっとも、これは資本の流れが統合され、共通の制度的基盤に支えられた国際金融軸が、すでに確立されたことを意味するわけではない。むしろ、具体的な進展を通じて、その基盤が徐々に形づくられつつある戦略的な可能性と捉えるべきだ。その影響は、3カ国の二国間関係をはるかに超えて広がる可能性を秘めている。

最も重要な進展は、ごく最近起きた。2026年10月5日から6日にかけて、オマーンのハイサム・ビン・ターリク国王が、同国の君主として初めてカザフスタンを国賓訪問した。この訪問では、投資、エネルギー、運輸、金融協力などの分野で5件の協定と約10件の覚書が交わされた。なかでも特筆すべきは、マスカット証券取引所とアスタナ国際取引所を電子的に接続する仕組みが稼働し、投資家が認可を受けた証券会社を通じて、両市場の証券にアクセスできるようになったことだ。

この進展は、とりわけ重要な意味を持つ。外交宣言が協力の意思を表明するものであるのに対し、証券市場同士の接続は、実際の取引につながる機会を生み出すからだ。もちろん、これだけで大規模な取引や投資が直ちに実現するわけではない。しかし、資本移動を妨げる障壁の一部を取り除き、二つの金融市場の距離を縮めることにはつながる。

さらに重要なのは、この動きが具体的な金融手段の創設を伴っている点である。カザフスタンの政府系ファンド「サムルク・カズナ」とオマーン投資庁は、双方が同額を拠出し、総額1億5000万ドルの共同投資ファンドを設立することで合意した。このファンドは2026年末までにアスタナ国際金融センター(AIFC)内で設立され、両国の優先事業への投資に充てられる予定だ。ただし、現段階で確認されているのは、ファンド設立の合意と予定出資額であり、全額がすでに拠出・投資されたことを意味するものではない。

これらの進展を個別に見れば、世界の金融市場全体の規模に照らして、それほど大きなものには映らないかもしれない。しかし、全体として捉えれば、明確な方向性が浮かび上がる。市場を接続し、政府系ファンドの資金を動員し、金融機関同士の関係を深め、経済的な相互補完性が十分に活用されてこなかった地域の間に新たな橋を架けようという動きである。

この構想の第一の強みは、カザフスタンがユーラシアの金融拠点へと段階的に変貌を遂げつつあることにある。

アスタナ国際金融センター(AIFC)は、設立以来、カザフスタンに誘致した投資額が280億ドルを超え、90カ国から6600社以上がその経済圏に登録されていると発表している。これらの数字は金融プラットフォームとしての規模を示しているが、全額が実際の生産事業に投資された資金であるとか、運用資産残高を表していると解釈すべきではない。

アスタナ国際取引所(AIX)の実績も、もう一つの指標となる。2026年第3四半期の取引高は19億ドルを超え、前年同期比で70%以上増加した。また、設立以来、債券と株式を通じて調達された資金は累計174億ドルに達している。同取引所では、米ドル、カザフスタン・テンゲ、アラブ首長国連邦(UAE)ディルハム、中国人民元など、複数の通貨建て証券も導入されている。

これらの数字が物語るのは、単なる証券市場の成長以上のものだ。アスタナは、異なる通貨圏と投資家層を結びつける金融インフラの構築を目指している。中国、ロシア、欧州、中央アジアの間に位置するという地理的優位性を、経済・金融取引を仲介する能力へと転換することが、その狙いなのである。

Map of Kazakhstan
Map of Kazakhstan

この課題には政治的な側面もある。制裁措置や地政学的緊張、貿易摩擦によって資金調達の経路が変わり得る世界では、協力相手の多様化そのものが、国家の自律性を高める手段となる。カザフスタンが主要隣国への依存から完全に脱却することはできないとしても、インフラ整備、企業活動、産業プロジェクトの資金調達において、協力できる相手の選択肢を広げることは可能だ。

まさにこの点に、オマーンとの関係強化が持つ戦略的重要性がある。

Map of Oman
Map of Oman

オマーンが提供できるのは資本だけではない。アラビア海、インド洋、そして湾岸地域の商業ネットワークへのアクセスという強みも持っている。その地理的位置は、ユーラシア市場と国際海上輸送ルートを結ぶ潜在的な中継拠点としての役割を可能にする。したがって、マスカットとアスタナのエネルギー、物流、金融分野での協力は、企業や投資家がこうした機会を具体的な事業へと発展させることができれば、二国間関係を超えた経済取引の基盤となり得る。

もう一つ注目すべき動きがある。オマーンは、ユーラシア開発銀行(EDB)の8番目の出資国となり、湾岸地域から初めて参加する国になる見通しだ。今回の国賓訪問では、その参加条件について合意が成立した。

これにより、ユーラシアの金融機関が持つ資金供給能力と、湾岸地域の経済ネットワークが結びつく可能性が生まれる。もちろん、これによって同銀行が直ちに世界的な金融機関へと変貌するわけではない。しかし、その地理的な活動範囲と協力の可能性が広がることは確かだ。

時期も好都合といえる。10月6日、マスカット証券取引所は、FTSEラッセルによって、オマーン市場を「フロンティア市場」から「セカンダリー・エマージング市場」へ格上げする可能性を検討するウォッチリストに加えられた。

格上げが決定したわけではなく、次回の審査は2027年4月に予定されている。仮に実現すれば、オマーン市場の国際的な認知度が高まり、一部の海外投資家にとってアクセスしやすい市場となる可能性がある。

このように、アスタナとマスカットの接近は、単なる政治的な宣言にとどまらない。具体的な金融手段、制度的枠組み、政府系ファンド、市場統合への展望を伴っている。ただし、その真の潜在力が明らかになるのは、こうした基盤が両国の枠を超えて企業やインフラ、生産活動への資金供給に結びついたときである。

ここで重要な役割を担う可能性があるのが、カサブランカだ。

Casablanca Finance City seen from Eurostars Casa Anfa rooftop in Beauséjour district Credit: By Chah.salah - Own work, CC0
Casablanca Finance City seen from Eurostars Casa Anfa rooftop in Beauséjour district Credit: By Chah.salah – Own work, CC0

それは、ユーラシアの協力関係に第三の都市を形式的に加えるという意味ではない。形成されつつある金融秩序とアフリカを結ぶ玄関口としての役割である。モロッコには、アフリカの複数の市場に展開する銀行ネットワーク、重要な港湾インフラ、そしてアフリカで事業を展開する企業や投資家を支援するための金融拠点「カサブランカ・ファイナンス・シティ(CFC)」がある。

モロッコとカザフスタンの経済関係には、すでに数値で確認できる基盤が存在する。2025年の二国間貿易額は4億6150万ドルに達し、2024年から68%増加した。

しかし、この数字は同時に、関係の弱点も浮き彫りにしている。カザフスタンからモロッコへの輸出額が約4億3400万ドルに達した一方、モロッコからカザフスタンへの輸出額は2750万ドルにとどまった。しかも、カザフスタンの対モロッコ輸出の90.5%を硫黄だけで占めていた。

この不均衡は、両国の関係強化における見落とされがちな問題の一つである。経済関係は拡大しているものの、まだ均衡の取れた産業パートナーシップが成立しているとはいえない。

カサブランカがアスタナとマスカットにとって真のアフリカへの玄関口となるには、協力関係を一次産品の貿易にとどめず、農業関連産業、肥料、物流、再生可能エネルギー、金融サービス、産業加工などの分野で、双方向の投資を発展させる必要がある。

モロッコは、現在の関係に不足している要素を提供できる可能性がある。それは、制度的な協力を具体的な事業へと結びつける能力だ。

アフリカ各地の事業機会を見いだし、現地のリスクを理解し、企業を動員して、その事業展開を支援することができる。アフリカで活動するモロッコの銀行は、資金供給や金融サービスの普及に貢献できるだろう。また、カサブランカ・ファイナンス・シティは、国際投資家、コンサルティング会社、地域企業の間の調整役を果たすことができる。

もっとも、こうした役割は、アスタナやマスカットの関係者との協力によって具体的に構築される必要がある。カサブランカが地理的に有利な位置にあるというだけで、自動的に実現するものではない。

想定されるのは、3つの段階からなる資金調達の仕組みだ。

アスタナが中央アジアやユーラシア経済圏に関わる金融取引を組成し、マスカットが湾岸地域の投資家の資金を動員するとともに海上輸送の接続を促進する。そしてカサブランカがアフリカでの投資機会を見いだし、大陸各地の事業を支援する。

この仕組みであれば、直ちに共同金融機関を設立しなくても、各地域の需要と機会に応じて資本を循環させることができる。

例えば、カザフスタンの穀物生産、モロッコの港湾インフラ、アフリカ市場を結ぶ農業のバリューチェーンに資金を供給することが考えられる。

また、湾岸地域の資本、産業企業、地域銀行を組み合わせることで、肥料生産、再生可能エネルギー、鉱物加工などの事業を支援することも可能だろう。

ただし、いずれの事業も、商業的な採算性、投資資金の回収を担保する仕組み、地域社会にもたらす利益を具体的に示さなければならない。

貿易ルートが存在することと、金融回廊が機能することは同じではない。金融回廊が開発の手段となるのは、持続可能な経済活動への資金供給を実現して初めてのことだ。

この構想に対する最も重大な疑問は、その規模にある。

1億5000万ドルの共同投資ファンドは、二国間協力の出発点としては重要だが、アフリカのインフラ整備に必要な資金や、世界の主要金融センターが取り扱う資金規模と比較すれば限定的である。

また、AIFCが設立以来誘致したと発表している280億ドルも、その全額がアフリカの事業に投入できる資金というわけではない。二つの証券取引所が接続されたからといって、両市場がすでに統合されたとみなすこともできない。

したがって、新たな世界金融秩序の誕生を性急に宣言したくなる誘惑には、慎重でなければならない。

ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、ドバイには、はるかに厚みのある市場、長年にわたって築かれてきた国際的なネットワーク、そして桁違いの資金供給能力がある。アスタナ、マスカット、カサブランカが、これらの都市に一夜にして取って代わることはないだろう。

3都市にとっての機会は、むしろ別のところにある。

それは、地理的・商業的には相互補完の可能性を持ちながら、金融面での結びつきが十分に発展してこなかった経済圏の間で、仲介役を担うことである。

この構想の真価を判断するには、測定可能な成果が必要だ。

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

2028年までに注目すべき指標は、実際に投資された資金の総額、資金供給を受けた国境を越える事業の件数、動員された民間資本の割合、貿易構造の多様化、そして新たに形成される金融ネットワークを通じて組成された取引に、アフリカ企業がどの程度参加したかという点である。

こうした指標が伴わなければ、新たな金融軸は外交上の構想にとどまるだろう。逆に、具体的な成果が確認されれば、測定可能な経済的現実へと発展する可能性がある。

経済史が教えているのは、新たな金融センターは、その国が保有する富の大きさだけによって誕生するわけではないということだ。

信頼を構築し、取引コストを削減し、投資家を保護し、それまで十分につながっていなかった市場同士を結びつける能力を備えたとき、金融センターは発展していく。

アスタナは、こうした機能の構築に着手している。マスカットは、湾岸地域の資本とインド洋の交易ルートへの新たな玄関口を提供できる。そしてカサブランカは、アフリカ市場にアクセスするための制度的基盤、銀行ネットワーク、企業活動の蓄積を生かすことができる。

したがって、この金融軸が持つ歴史的な意義は、新たな世界的金融大国が直ちに誕生することにあるのではない。

むしろ、ユーラシア、湾岸地域、アフリカの間に、資本の流れを支える新たな経路が生まれることにある。各国が経済的な協力相手の多様化を模索するなか、こうした金融仲介機能は、地政学的にもますます重要性を増していく可能性がある。

モロッコにとって重要なのは、この変革を傍観する立場にとどまらないことだ。

アスタナとマスカットに対して具体的な協力の仕組みを提案し、自国の銀行、企業、金融機関を動員しなければならない。そして、カサブランカを単なる商業上の中継地ではなく、資本が事業を生み、事業が企業を育て、企業がアフリカの経済統合に貢献する拠点へと発展させる必要がある。

世界の金融秩序を再編するのは、必ずしも最大の資本を保有する者だけではない。

資本と資本を結びつけ、その可能性を引き出すことのできる者もまた、世界の金融秩序を動かしていくのである。

アスタナ、マスカット、カサブランカを結ぶ新たな金融軸の真の可能性は、まさにこの能力にある。

その実力は、これから具体的な成果によって証明されなければならない。しかし、その実現可能性は、いまや以前にも増して現実味を帯び始めている。

INPS Japan

Original URL: Astana-Muscat- Casablanca : Tha emergence of a new global financial axis – Atlantica Africa

Financial Afrik(フィナンシャル・アフリク)は、アフリカの経済・金融・地政学を専門とする通信社。市場動向や投資、国際関係を現地の視点から伝え、アフリカの変化が世界経済や国際社会に及ぼす影響を理解するうえで有益な情報を提供している。主要6つのSNSで延べ約59万6000人のフォロワー・登録者を擁し、アフリカと世界をつなぐ情報発信を展開している。INPS Japanはフィナンシャル・アフリクをはじめ世界10数か国から参加した国際記者団とともに、世界伝統宗教リーダー会議第24回事務局会合を取材した。

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