SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)核兵器のない未来への声―核軍縮に向けた国際メディア構想

核兵器のない未来への声―核軍縮に向けた国際メディア構想

【イラク・バグダッドINPS Japan/London Post=マルワ・モフセン】

新戦略兵器削減条約(新START)の失効、2026年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議での合意不成立、そして中東情勢の緊迫化を背景に、国際的なメディアの連携が、政府の説明責任を追及し、誤情報に対抗するとともに、核軍縮を国際社会の重要課題として維持するうえで、大きな役割を果たす可能性がある。

マルワ・モフセン
マルワ・モフセン

再び高まる核の脅威に直面する世界

広島と長崎への原爆投下から80年以上が経過した今も、核兵器は人類にとって最も深刻な脅威の一つであり続けている。数十年にわたる軍備管理交渉や国際的な合意にもかかわらず、複数の国が依然として核抑止力を安全保障政策の根幹に据えている。さらに、地政学的な対立や地域紛争の激化が、誤算による核危機のリスクを高めている。|英語版|

こうした危機感を象徴しているのが、米科学誌『原子力科学者会報』(Bulletin of the Atomic Scientists)が2026年1月27日、「終末時計」の針を午前0時まで残り85秒に設定したことである。これは同時計の歴史上、破滅を意味する「午前0時」に最も近い時刻となった。同誌は、国際協力の後退、核をめぐる危険の増大、その他の地球規模の脅威を、その判断の理由として挙げている。

終末時計は科学的な予測ではなく、あくまで象徴的な指標である。それでも、人類が存亡に関わる危機を管理する能力に対し、懸念が深まっている現状を浮き彫りにしている。

こうした状況を踏まえ、「核兵器のない未来への声」(Voices for a Nuclear-Free Future)は、核政策を市民の理解、人道上の課題、外交における説明責任と結びつける国際的なメディア構想を提案する。

その目的は、外交交渉に取って代わることでも、複雑な安全保障上のジレンマを単純な政治的スローガンに置き換えることでもない。むしろ、ジャーナリスト、科学者、外交官、研究者、市民社会組織、そして一般市民が、事実に基づく報道と十分な情報に裏打ちされた議論を通じて、核のリスクを多角的に検証できる場を創出することにある。

揺らぐ国際核秩序

1970年に発効した核兵器不拡散条約(NPT)は、現在も国際的な核不拡散体制の礎となっている。同条約は、核兵器の拡散防止、核軍縮の推進、原子力の平和利用の促進を目的としている。

しかし、条約の根幹をなす取り決めをめぐっては、依然として意見の対立が続いている。

非核兵器国は核兵器を取得しない義務を負う一方、条約は核軍縮に関する義務も定めている。それにもかかわらず、核兵器への依存が続いていることから、この枠組みの公平性と実効性に対する疑問が強まっている。

こうした課題は、2026年に一段と鮮明になった。

米国とロシアの戦略核戦力に主要な数量制限を課していた最後の二国間軍備管理条約である新STARTは、後継条約が成立しないまま、2月5日に失効した。これにより、世界最大の核戦力を保有する米露両国間で、法的拘束力のある核戦力の制限と検証を支えてきた重要な枠組みが失われた。

一方、4月27日から5月22日までニューヨークの国連本部で開催された第11回NPT再検討会議も、実質的な成果文書について合意に至らないまま閉幕した。

この結果は、核不拡散、核軍縮、地域安全保障をめぐる各国間の根深い対立を改めて浮き彫りにした。

こうした一連の展開は、外交努力を立て直すとともに、国際社会による継続的な監視と検証を強化する必要性を示している。

中東――解決の見通せない核問題

中東は、核軍備管理において最も困難な課題を抱える地域の一つである。

地域諸国の対立、未解決の紛争、安全保障上の脅威に対する認識の違い、軍事力の不均衡などが、共通の安全保障体制の構築を妨げてきた。

イスラエルは、核兵器の保有を公式に肯定も否定もしない「核の曖昧政策」を維持しており、NPTにも加盟していない。

一方、イランは自国の核開発計画が平和目的であると主張しているものの、核関連活動や国際的な検証体制の制約をめぐって、深刻な国際的懸念が生じている。

2015年に成立した包括的共同行動計画(JCPOA)、いわゆるイラン核合意は、核活動への制限、監視体制、制裁解除を組み合わせることによって、イランの核問題の解決を図った。

しかし、米国は2018年に同合意から離脱し、その後の展開によって合意の枠組みは次第に弱体化していった。

さらに、2025年6月にイランの核施設を標的として実施された軍事攻撃は、核問題が武力紛争と結びつくことの危険性を改めて示した。

こうした攻撃は、施設や設備を損傷させ、国際的な検証活動を妨げるだけでなく、核開発の意図をめぐる不確実性を一層高める可能性がある。

このような状況において、責任ある報道には、民生用原子力、ウラン濃縮、核兵器開発能力、そして実際に運用可能な核戦力を明確に区別する姿勢が求められる。

これらは相互に関連しているものの、同一の概念ではない。不正確な表現は脅威を過大に伝え、市民の不安をあおり、外交による解決の可能性を損なうおそれがある。

だからこそ、保障措置、査察、技術的検証を通じて核活動の信頼性ある監視を担う国際原子力機関(IAEA)の役割は、引き続き極めて重要である。

中東に核兵器のない地域を実現できるか

中東から核兵器やその他の大量破壊兵器をなくすという構想には、長い外交の歴史がある。

1974年には、イランとエジプトが中東非核兵器地帯の設置を提案し、その後、国連総会決議3263号によって支持された。

さらに、1995年のNPT再検討・延長会議では、中東に大量破壊兵器のない地帯を設置するよう求める決議が採択された。

しかし、数十年にわたって国際的な議論が重ねられてきたにもかかわらず、この目標はいまだ実現していない。

各国の間では、交渉への参加、検証体制、通常戦力の不均衡、さらには地域全体の紛争解決を非核化の前提とすべきかどうかをめぐり、意見が分かれている。

実効性のある合意を成立させるには、関係国を排除しない包括的な交渉、相互に履行すべき約束、効果的な検証制度、そして参加国すべての安全保障上の懸念に対する十分な配慮が必要である。

また、既存の軍事的・安全保障上の不均衡を恒久的な現実として受け入れるのではなく、その是正に取り組む政治的意思も欠かせない。

目標の実現は容易ではない。それでも、粘り強い外交努力と段階的な信頼醸成措置を積み重ねることで、前進への条件を整えることは可能だろう。

核兵器が使用された場合、その影響は軍事目標にとどまらない。大量の死傷者、放射線被ばく、社会基盤の破壊、環境への被害、さらには長期にわたる公衆衛生上の影響など、被害は広範かつ深刻なものとなる。資料:SGI

核抑止論を超えて――核兵器がもたらす人道的被害

核抑止論の支持者は、報復の脅威が大規模な戦争の発生を防いでいると主張する。

しかし、核抑止が機能するためには、複雑な指揮統制システム、信頼性の高い通信手段、そして危機的状況における合理的な意思決定が確保されていなければならない。

人為的ミス、技術的な故障、相手の意図の誤認、軍事的緊張のエスカレーションなどによって、こうした前提が崩れる可能性は常に存在する。

核兵器が使用された場合、その影響は軍事目標にとどまらない。大量の死傷者、放射線被ばく、社会基盤の破壊、環境への被害、さらには長期にわたる公衆衛生上の影響など、被害は広範かつ深刻なものとなる。

2021年1月22日に発効した核兵器禁止条約(TPNW)は、核兵器がもたらす人道上の被害を出発点とする重要な国際法上の取り組みである。

同条約は、締約国に対し、核兵器の開発、保有、使用、使用の威嚇などを禁止している。

しかし、核保有国はこの条約に参加しておらず、既存の核戦力に対する直接的な影響力には、現時点で限界がある。

広島・長崎の被爆者、核実験の被害を受けた地域社会、医療専門家、人道支援団体は、戦略論議の中で見落とされがちな重要な視点を提供している。

こうした人々の証言は、軍事ドクトリン、検証制度、国家安全保障上の懸念に関する厳密な分析に取って代わるものではない。むしろ、それらを補完するものとして位置づけられるべきである。

核リスクの低減に果たすジャーナリズムの役割

核政策は、政府の公式声明、軍事的評価、外交交渉などを中心に論じられることが多い。

しかし、核戦争によって生活や生命を脅かされる可能性のある一般市民が、こうした政策決定の意味を明確に理解するための情報に十分アクセスできているとは限らない。

メディアは、この隔たりを埋める重要な役割を担うことができる。

調査報道、専門家へのインタビュー、ドキュメンタリー、複数言語による教育資料などを通じて、複雑な問題を扇情的な表現に頼ることなく、分かりやすく伝えることが可能になる。

「核兵器のない未来への声」のような国際的な取り組みは、世界各地の報道機関、大学、研究機関、市民社会組織を結ぶネットワークを構築できるだろう。

その活動には、軍備管理に関する各国の約束の履行状況の監視、IAEAの保障措置の解説、核戦略・核ドクトリンの検証、核兵器がもたらす人道的被害の記録などが含まれる。

そのためには、編集の独立性と事実の正確性が不可欠である。

ジャーナリストは、検証された事実と政府当局による主張を明確に区別し、不確実な情報についてはその限界を示し、専門的知識を持つ研究者や実務家の見解を確認しなければならない。

また、国際的な分析だけでなく、アラブ諸国、イラン、イスラエルをはじめとする地域の多様な視点を取り上げることも重要である。

さらに、若手ジャーナリストや研究者が積極的に参加できる機会を設けるべきだろう。

核政策を政府や安全保障専門家だけの議論にとどめず、次世代を含む幅広い人々が主体的に考え、発言できる課題として開いていく必要がある。

Toward a World free from Nuclear Weapons
著者の主張を具現化したグローバルな取り組みの一つがSGIが2009年以来INPS Japanと推進している「Toward a World free from Nuclear Weapons」メディアプロジェクトである。今後、著者の発信拠点であるイラクをはじめ、中東地域発の分析も強化していく予定。資料:INPS Japan

市民の理解を政治的行動へ

メディア自身が条約を交渉したり、核弾頭を解体したりすることはできない。

その影響力は間接的なものだが、各国政府が安全保障上の判断を下す政治的環境を形づくる力を持っている。

十分な情報を得た市民は、政策決定の透明性向上、より強固な検証制度、軍備管理交渉の再開、効果的な危機管理・意思疎通の仕組みなどを、政府に対して求めることができる。

また、ジャーナリズムは、信頼醸成のための合意、核の安全に関する協力、中東に大量破壊兵器のない地帯を設置するための取り組みの再活性化など、実行可能な政策を検証することもできる。

前進するためには、各国が抱える正当な安全保障上の懸念を認識しつつ、核兵器への恒久的な依存を不可避のものとみなさない妥協と歩み寄りが求められる。

核兵器のない世界は、道義的な信念だけで実現できるものではない。

そこには、政治指導者の決断、検証可能な合意、相互に履行すべき約束、そして持続的な国際協力が必要である。

しかし、外交は、より広い世論や社会環境と切り離されて存在しているわけではない。

誤情報が広がり、核兵器による威嚇が常態化する社会では、協力に向けた可能性が狭まってしまうおそれがある。

反対に、事実に基づく議論、説明責任、多様な視点が尊重される社会では、軍事的自制や外交的解決に向けた政治的な余地が広がる。

したがって、「核兵器のない未来への声」は、単なるメディアキャンペーンとしてではなく、国家の戦略的決定と、それが人間にもたらす影響とを結びつける、持続的な国際的取り組みとして位置づけられるべきである。

(From Left to Right) Director Alimzhan Akhmetov , fourth generation nuclear testing survivor Diana Murzagaliyeva, Hirotsugu Terasaki, Director General of Peace and Global Issues, Soka Gakkai International (SGI) Photo credit: INPS Japan.
この核廃絶メディアプロジェクトは、国連、各国政府、核兵器に関する安全保障専門家、市民社会組織、グローバルヒバクシャ(核兵器及び核実験の被害者)による世界各地の取り組みを取材分析し、多言語で最新情報を提供することで、問題の真相を多角的に知り、問題意識を行動につなげられるように設計されている。これは60年以上に及ぶ創価学会の平和活動とこれまで15年以上に亘って連携することにより、世界市民が活用し続けられるデータベースとして進化を続けている。 写真:カザフスタンでソ連時代の核実験のヒバクシャの声に光を当てた市民社会会議の模様。 INPS Japan.

核軍縮への道筋は、依然として不透明である。

それでも、核兵器をめぐる議論を、正確な情報に基づき、あらゆる立場の人々に開かれた、実証的なものとして維持していくことは、より安全な国際秩序を築くために欠かせない一歩となる。

This article is brought to you by London Post in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with the UN’s Economic and Social Council (ECOSOC).

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