広島・長崎とセミパラチンスクの経験を背景に、SGIはカザフスタン外務省や国連代表部と核兵器廃絶への活動を重ねてきた。その協力は今、世界伝統宗教リーダー会議を支える機関との対話を通じ、青少年平和教育などの新たな取り組みへと広がりつつある。
【アスタナ/東京INPS Japan=浅霧勝浩】
広島と長崎への原爆投下、そしてセミパラチンスクで繰り返された核実験。異なるかたちで核兵器の被害を経験した日本とカザフスタンを結ぶ協力に、宗教間対話を通じた新たな動きが生まれている。
創価学会インタナショナル(SGI)はこれまで、カザフスタン外務省や国連代表部、市民社会の団体と連携し、核兵器の人道的影響を伝える活動や、政府と市民社会が軍縮について議論する機会をつくってきた。|英語版|
その協力をさらに広げる場となっているのが、「世界伝統宗教リーダー会議」である。同会議を支えるカザフスタンの国際宗教間・宗派間対話センター(ICIID)と創価学会は、6月30日に東京で協力覚書を締結。核被害の記憶の継承や青少年平和教育をはじめ、具体的な共同の取り組みに向けた協議を進めている。
「重要なのは、紙の上に新たな計画を作ることではありません。共に取り組み、実際の成果を示せる2つか3つの分野を見いだすことです。」
ICIIDのグルサナ・コジャバイ理事長は、INPS Japanの書面インタビューにこう答えた。
昨年の第8回世界伝統宗教リーダー会議に創価学会代表として参加した長岡良幸渉外局長も、別途寄せた書面回答で、覚書の調印によって「その協力は、新しい段階へと進みました。」と述べている。
双方の回答から浮かび上がるのは、既存の核軍縮協力を足場に、被害者の証言や教育活動を宗教間対話の枠組みでも活用しようとする方向性だ。

核被害の記憶が育んだ協力

カザフスタンにとって、核軍縮は自国の歴史と切り離せない問題である。
旧ソ連は1949年から1989年にかけて、セミパラチンスク核実験場で456回の核実験を実施した。カザフスタンは独立直前の1991年8月に同実験場を閉鎖し、その後、ソ連崩壊に伴って領内に残された核兵器を放棄した。
日本の広島・長崎と、カザフスタンの核実験被害地域では、核兵器が使われた状況も、被害の広がり方も異なる。それでも、人々の健康、暮らし、環境に長く残る被害を次世代へ伝え、同じ苦しみを繰り返させないという課題には共通するものがある。
コジャバイ理事長は、核兵器が抑止や戦略的均衡の観点から語られがちな時代だからこそ、その人道的影響を見失わないことが重要だと強調する。
「これらの歴史は、核兵器が人間にもたらす影響を伝え続けるうえで、両国に特別な責任を与えています」と回答した。
創価学会の代表者が、カザフスタンの招待を受けて世界伝統宗教リーダー会議に参加するようになったのは2018年である。翌2019年には、SGI代表団がセメイと旧セミパラチンスク核実験場を訪問した。
創価学会側は、代表団が現地の実情を目の当たりにした意義を強調し、今後、より多くの人々が訪問を通じて平和と核兵器廃絶への思いを深められる機会を検討したいと述べた。
こうした交流は、被害の記憶を伝える具体的な制作活動にも結びついている。
カザフスタンのNGO「国際安全保障政策センター」(CISP)とSGIの協力で制作・公開された、核実験被害者の証言映像『私は生き抜く~語られざるセミパラチンスク~』である。
創価学会側はこの作品を「2018年以来の交流の中で、NGO団体との協力で作り上げたもの」と説明した。核兵器をめぐる議論に、被害を受けた人々自身の経験を届ける取り組みだ。
外務省・国連代表部との連携を土台に
SGIとカザフスタンの協力は、政府関係者と市民社会が接する外交の場でも積み重ねられてきた。
核兵器禁止条約の締約国会議や核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の準備委員会などに合わせ、SGIはカザフスタン国連代表部とサイドイベントを共催してきた。各国政府や市民社会の代表者が参加し、核兵器廃絶に向けた国際世論の形成に取り組んできたという。
2023年には、SGIがカザフスタン外務省、赤十字国際委員会、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、CISPなどと協力し、中央アジア5か国の代表者が参加する「核兵器の人道的影響と中央アジア非核兵器地帯」地域会議の開催を支えた。
2025年3月には、カザフスタン国連代表部、CISP、SGIが、核兵器禁止条約関連の会合に合わせて、核実験被害者の証言映像の上映会を国連で共催した。地域社会の苦難を、国際的な政策論議へとつなぐ機会となった。
「重要なのは、こうした取り組みを一時的なものでなく、継続していくことにあると思います」と長岡氏は強調した。
そのうえで、カザフスタンとの交流を深め、「核兵器廃絶への国際世論の形成、市民社会と政府間外交の連携の具体的な事例」をさらに積み重ねたいと述べた。
ICIIDとの覚書は、こうした外務省や国連代表部、NGOとの協力に取って代わるものではない。双方への取材から見えてくるのは、これまでに得られた経験や成果を、宗教間対話を通じた教育・交流の新たな事業にも生かそうとする動きである。

宗教間対話から、青少年平和教育へ
2003年に創設された世界伝統宗教リーダー会議は、異なる信仰の代表者が継続的に交流する場を築いてきた。10月7日にアスタナで開かれた第24回事務局会合では、その信頼関係を何に結びつけるかが繰り返し問われた。
「私たちに与えられた機会は、共に語るだけでなく、共に歩むことです」
アングリカン・コミュニオンのジョー・ベイリー・ウェルズ主教は、参加者にこう呼びかけた。

イスラム長老評議会のムハンマド・アブデルサラム事務総長も、「実行に移されない宣言は、その機能を失ってしまいます」と述べ、責任を明確にし、成果を確かめながら取り組みを進めるよう促した。
コジャバイ理事長は、創価学会との協力について、まず青少年のための平和教育から始めたいと考えている。広島・長崎とセミパラチンスクの経験を、若者の交流、教育プログラム、公開対話などを通じて結びつける構想だ。
創価学会側もまた、創価の教育機関で取り組んできた平和教育や核兵器廃絶教育の経験を踏まえ、カザフスタンとの協力によって青少年向けの教育プログラムを共有する可能性を検討している。
具体的に協議が始まっている事業の一つが、故・池田大作SGI会長の平和への思いを綴った随筆6編を収める書籍のカザフ語訳版である。すでに英語、ロシア語、ウズベク語などの翻訳版があり、カザフ語版は2027年の刊行を予定している。
出版は、協力全体の目的ではなく、青少年に平和への関心を育むための最初の取り組みの一つに位置づけられている。
コジャバイ理事長は、協力をあらかじめ決めた事業の一覧に限定せず、創価学会側の提案も受け止めたいとしている。共同出版や教育資料、文化交流に加え、創価学会の国際的な活動にセンター側が協力することにも意欲を示した。
「私にとって、真のパートナーシップとは、双方向に機能するものです」と述べた。

共通の倫理を、実践へ
協力の対象は、核兵器廃絶と平和教育だけではない。
10月の事務局会合では、気候変動への対応における宗教の役割を示す文書と、宗教分野における人工知能(AI)利用の倫理規範が採択された。
コジャバイ理事長も、宗教指導者、研究者、技術専門家、若者を交え、情報操作、信頼できる宗教情報、人間の責任などを議論する機会を提案している。
気候変動に関する文書には、日本の神社本庁も策定段階で貢献した。日本との交流が、異なる宗教的伝統からの知見を持ち寄る協力へと広がっていることを示している。
ただし、2つの文書はいずれも法的拘束力を持たない。また、証言映像の新たな教育活用や、環境・AI分野の協力には、今後さらに協議を要するものがある。既存の成果と、新たに検討されている事業を区別する必要がある。
今回の会合では、カザフスタンとローマ教皇庁による、治癒困難な病気を抱える子どもの権利に関する憲章の推進も支持された。核兵器、環境、技術、医療という異なる課題を結ぶのは、宗教間の共通理解を、人間の尊厳を守る具体的な協力へと移すという考え方である。

信頼を、実際の成果に変える

会合を主宰したエルラン・カリン副大統領は、採択された決定を実際の行動へ移す必要性を強調し、「平和のためのグローバル運動」の構想案と段階的な実施計画の策定を求めた。2028年の第9回世界伝統宗教リーダー会議に先立ち、2027年に最初の成果を示す方針だ。
コジャバイ理事長は、会議が政府の役割を代替できないことも明言する。
「この会議は軍備管理条約を交渉することはできませんし、政府や外交官、国際的な法的枠組みに取って代わるかのように振る舞うべきでもありません。」
その役割は、核兵器の人道的影響を伝え、若い世代に働きかけ、政治的な対立を超えて対話を維持することにあるという。軍縮の合意そのものを交渉しなくても、それを支える社会的、倫理的、人道的な支持を育むことはできる。
長岡氏とコジャバイ理事長の回答は、この点で重なる。核被害の記憶を継承することを、過去を振り返る行為にとどめず、教育や国際協力を通じて将来の意思決定に生かそうとしているのである。

10月7日の会合後、カトリック系通信社Agenzia Fidesのパオロ・S・アファタート記者は、ウェルズ主教に、スピリチュアル外交が実際に政治へ影響を及ぼしているのかを尋ねた。筆者は、そのやり取りを音声で記録した。
「確かに、影響力はあると思います」と主教は答え、政府レベルでの影響がさらに広がることへの期待を示した。
「こうした関係を築くには、直接顔を合わせることに勝るものはありません」
その信頼関係を何につなげるか。カザフスタンの外交機関や市民社会とSGIが培ってきた協力は、今、ICIIDとの対話を通じて、新たな事業の検討へと進み始めている。
コジャバイ理事長は、今後10年間の成果は、会議の開催回数だけでは測れないと語った。人々が集まった結果、「実際に何が生み出され、実行され、変わったのか」が問われるという。
広島・長崎とセミパラチンスクの記憶を共有する人々にとって、その問いは、宗教間対話の将来だけでなく、核の被害を繰り返さないために今何ができるかという、具体的な責任につながっている。
This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan
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