ニュース近年の米労働運動に見られる新しい国際主義

近年の米労働運動に見られる新しい国際主義

【シアトルIPS=ピーター・コスタンティニ】

外国人を排除するために約700マイルにもわたる米・メキシコ国境沿いにフェンスを設置する法案が米議会で検討される中、多くがまさにその国境を越えてきた移民たちが、生気を欠いた米労働運動に新しい血を送り込んでいる。

たとえば、11月末には、サービス従業員国際労働組合(SEIU)が、テキサス州ヒューストンの事務所スペースの60%以上を清掃している4,700名の用務員が同組合に加入し、[雇用]契約を求めて使用者と交渉に入る、と発表した。ヒューストンでの動きは、「正義を求める用務員」として知られる一連の運動の最近の事例である。SEIUによれば、この運動は、この20年間に29の都市で22万5,000人の組合加入を実現してきた。

 ヒューストンをはじめとするその他多くの都市において、ビルメンテナンスに従事する労働者や労組のオルガナイザーには、最近米国に入った移民たちが多い。その多くは、メキシコ・中米からの移民だ(米国の人口調査によれば、3,990万人のラテンアメリカ系アメリカ人〈その多くはメキシコ人〉が総人口2億9,080万人を抱える合衆国で暮らしているが、その約4,000万人のうち約500万人は不法入国者と見られている:IPSJ)

ヒューストンでの勝利には特に意義がある。というのも、テキサスおよび米国南部の労働者は、米国の他の場所に比べて組織率が低いからだ。

ヒューストンの用務員たちは健康保険に入っておらず、そのほとんどが、連邦の最低賃金よりわずか10セント高いだけの時給5.25ドルのパートタイムで働いている。

SEIUシアトル第6支部長のセルジオ・サリナス氏は、「私たちの支部の皆がヒューストンにオルガナイザーを送り、物資を支援したのです。だからこれは、全国一致して行なった活動なのです」と語った。サリナス氏は、この運動には、労組が米南部に浸透する大きなきっかけになるという「歴史的重要性」があると考えている。

米国全体の労組組織率は、1983年の20.1%から12.5%にまで低下した。民間部門では、1983年の半分の7.9%に過ぎない。

積極的な組織化を進めている数少ない労組の多くはサービス部門に属しており、滞在許可があるか否かに関わらず移民に焦点を当てている。その中でも、主に建物サービス・医療・公共部門に組合員を抱えるSEIUは、米国の労働組合の中で最大かつ最も急速に拡大している労組であり、組合員は180万名を数える。サリナス氏の推計によれば、移民はそのうち約3分の2(約120万人)を占める。

このSEIUは、米国労働運動においてますます顕著になっている国際主義の傾向を引っ張っている部分である。より保守的な労組が歴史的に移民を無視あるいは排除してきたところでは、職場の構成要員の変化や米経済の変転、敵対的な政治環境といった要因のために、米国に入国して間もない人たちをメンバーとして受け入れる労組も出てきた。さもなくば、労組は消滅の危機に立っている。

多数の移民組合員を抱える他の労組としては、食品・商業労働組合、UNITE HERE(縫製・繊維労組のUNITEとホテル・レストラン従業員労組のHEREが統一してできた労組。「UNITE HERE」には「ここで団結しよう」の意味もある:IPSJ)、建設労組(the Laborers)、大工労組(the Carpenters)、農業労働者組合がある。昨年6月、これら組合と全米運輸労組(the Teamsters)は、米国の労組の総連合体であるAFL-CIOから離脱し、「勝利のための変革」(Change to Win)という新しいグループを結成した。500万人の労働者を抱えるこれらの労組は、組織化により多くの努力と金銭を集中する方針を出している。AFL-CIOとその傘下労組の中には、積極的に組織を拡大する必要性を認めているところもある。

この[労組の]内なるグローバル化は、概して、移民(ビザありにせよビザなしにせよ)が大きなエネルギー源となりつつある現在の労働力状況に対するひとつの反応である。米国の多くの地域において、経済のある特定の部分の低賃金労働を、もっぱらラテンアメリカ・アジア・アフリカ・東欧からの移民が占めている。

サービス部門でのこうした仕事には、建物サービス・造園・ホテルおよびレストランの従業員・給食・医療・デイケア・洗濯・教育補助などがある。非サービス産業部門では、建設・食肉包装・衣服製造がある。これら部門のいくつかでは、労働者の大部分を女性が占める。

コーネル大学のケイト・ブロンフェンブレナー氏によれば、労組の新しい加入メンバーのうちかなりの部分を移民労働者が占めている。彼女の観察では、「最近の移民は全体として、米国生まれの労働者よりも労組の存在を受け入れやすい。出身国で労働組合にいた経験のある人の場合は特にそうだ(ただし、労組が抑圧的な政権と結びついていない限り)」。

こうして一般労組員が拡大すると、移民労働者のうちのいくらかが組合の指導層に昇格するようになる。かつてエルサルバドルで労働運動をやっていたサリナス氏によれば、他に3つのSEIUの大支部において、ラテンアメリカの移民が支部長を務めているという。一般労組員と指導層の両者が、自分たちの出身国から持ち込んだ労働運動の経験や政治的センス、集合行為に対する肯定的態度を、米国の労働運動の中に植えつけてきた。

しかし、とりわけ滞在許可を持たない移民は、使用者からの圧力にたいして特に脆弱である。ブロンフェンブレナー氏の調査では、不法滞在労働者の関係した組織化活動の半数以上において、使用者側が国外退去の脅しをかけてきたという。これは、組合の拡大を防ぐきわめて効果的な方法だ。

NAFTA(北米自由貿易協定)労働局の元職員ランス・コンパ氏は、「2つの真実がある」という。「1つ目は、多くの移民が国外退去を恐れて組織化に消極的になり、多くの職場や地域において組織化が遅れるということ。2つ目は、多くの移民が最も積極的で恐れなきオルガナイザーであり、多くの職場や地域に新しい労組を作るということだ」。「労組にとっての課題は、この2番目のグループの人々を見つけ動員することで、1番目のグループに属する人々を自分たちの側に多く引き寄せることなのだ」。

コンパ氏が作成した「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の報告書は、米国のある食肉包装工場で働くエルサルバドル出身の労働者の言葉を引いている – 「会社は、私たちを脅すために工場の周りに武装警察を巡回させています。特に私たちのような中米から来た者にとってこれは怖いです。なにしろ私たちの国では、警察が労組員を銃で撃っていたのですから」。

オレゴン州ポートランドのSEIU指導者であり、エルサルバドルからの移民でもあるデイビッド・アヤラさんは、労働者と話をするとき、こう尋ねる。「どんな夢を持っていた?どうしてここへ来た?どうして国境を越えた?どうして死にかけた?いまあなたの時給は5.25ドルで、社会保障も健康保険もない。こんなことのためにあそこからここまでやって来たのか?」

過去には、不法滞在の労働者は組織労働勢力にとって論争の的であった。しかし、労組加盟者数が減り、不法移民が大量流入したことから、かつてより多くの労組が、法的立場に関係なく全ての労働者を迎え入れるようになって来たのである。

右派は彼らのことを「エイリアン」と呼ぶ、とアヤラさんはいう(「エイリアン」には、「異星人」の他に「外国人」という意味もある:IPSJ)。「エイリアンとは何なのか?それは人間ではない。エイリアンは宇宙から来たもの。つまり、エイリアンという言葉を耳にすれば、それを、人間だとか、家族を持った者だとか、よい人格を持った者だとかは普通は考えない」。

米国の労働の国際化は、社会のある部分において外国人嫌いが激しさを増す中で起こっている。(たとえば)「ミニットマン」と呼ばれる監視グループは、カナダとメキシコの国境をしばしば巡視してまわることで有名になった。

現在の移民法案は、極右の望むいくつかの重要条項を伴って米下院を通過した。ただし、立法過程の中で何らかの修正を受ける模様だ。同法案は、ブッシュ政権が提案した段階よりもいくつかの点でより抑制的になってはいるものの、身分証明書なしに米国に居住することとそれを支援することの両者を犯罪化し、労働者の移民としての法的地位を使用者が確認する要件を厳しく定めている。議会は、2月にあらためて移民立法を取り上げる予定だ。

この議論が激しさを増す中、米国への全移民は、2000年に約150万人でピークを迎えて以降、20%減少して2004年には120万になっている(ピュー・ヒスパック・センター調べ)。メキシコ移民が流入者の約3分の1を占める。

しかし、米人口統計局によれば、1990年以来、外国生まれの米居住者の割合が8%から12%に拡大した。そのうち半数以上はラテンアメリカ出身だ。また、約1,100万人の不法滞在者のうち、メキシコ人が57%を占める。全てのメキシコ移民の80%から85%がビザなし滞在だと見られている。

ピュー・ヒスパニック・センターの調べでは、民間労働力のうちの630万人(全体の4.3%)が不法滞在であり、そのうち3分の1がサービス産業に属している。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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