ニュース|エコドライブ|運搬車両からの二酸化炭素排出削減に向けた革新的アプローチ

|エコドライブ|運搬車両からの二酸化炭素排出削減に向けた革新的アプローチ

【ニューヨークIDN=バレンティナ・ガスバッリ】

気候変動は今日国際社会が直面している最も深刻な問題の一つであり、地球温暖化が人類社会や自然生態系に及ぼす影響を緩和するため、二酸化炭素排出削減に向けた取組みが、世界各地の政府、民間部門、市民団体や個人によって進められている。

なかでも自動車産業界は、この脅威に対して積極的かつ建設的に対応している主要なステークホールダー(利害関係者)のひとつだ。幅広い分野の技術革新に対する巨額の投資を通じて、自動車産業界は、新車の二酸化炭素排出量を着実に削減することに成功している。

Eco Driving
Eco Driving

しかし、車からの二酸化炭素排出削減を通じて、世界的な低炭素社会の実現を目指すということが、そのまま、より燃費効率に優れた車を製造し続けるということにはならない。ましてや、自動車製造業者のみがそのような責任を負っているとは言えないだろう。

自動車産業の現在の投資傾向は、環境の変化に対して技術的解決策に焦点を当てているが、二酸化炭素排出の削減は、こうした車両性能の向上だけではなく、ドライバーの運転行動を見直すことによっても、達成することが可能である。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

これが、エコドライブの概念や運用をめぐる主要な議論である。エコドライブは、より効率的な燃費を意識した運転マナーを実践することにより二酸化炭素の排出を削減するという、ドライバーの行動変化に主眼をおいた、ユニークな成功例である。

エコドライブの概念は、この数年で急速に注目を浴びるようになった。それは、気候変動と地球温暖化の影響がより危険なものであり地球全体に広がってきたとの認識が高まってきたためである。

世界各地で行われている様々な実践プログラムや研究事例から、エコドライブには個々人の燃料消費と二酸化炭素排出を20%程度削減する可能性があることが明らかになってきている。10月17日にニューヨーク市の国連本部で初めて開催された「国連エコドライブカンファレンス(正式名称:地球環境、二酸化炭素削減と持続可能性に向けた解決策としてのエコドライブに関する国際会議」(主催:国連WAFUNIF、株式会社アスア、ルーマニア国連代表部。協力:日本自動車工業会、米国自動車工業会。特別協力:環境省)では、多くの政府や国際機関、地方自治体、学術団体、民間部門等、気候変動の問題に第一線で取り組んでいる専門家が一堂に会し、エコドライブの可能性と今後の見通しについて議論した。

グリーン・エコプロジェクト

エコドライブ概念の重要性を強調したのは、東京都トラック協会の遠藤啓二環境部長である。遠藤氏は、日本で9年前から実施され大きな成果を挙げてきた「グリーン・エコプロジェクト」について、プログラムを開発・運営してきた当事者の立場から発表を行った。

Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA
Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA

「グリーン・エコプロジェクトは2006年に始まりました。今日、約700の企業と2万台のトラックがこの環境に優しいプロジェクトに参画しています。」と遠藤部長は語った。

本プロジェクトでは、「走行管理表」という一枚の紙にドライバーが毎回の給油量と走行距離を手書きで記入する燃費データを収集・データベース化することで、エコドライブがいかにトラックの燃費と二酸化炭素排出削減に効果があるかを数値で検証できるシステムを実現している。プロジェクト開始以来8年間の取組み実績では、燃料効率は平均で15.6%向上し、6万3000トンの二酸化炭素排出削減がなされた。

「この成果を植林に換算してみますと、ニューヨーク市のマンハッタン地区全体に等しい58.8平方キロ(=東京の山手線の内側にほぼ相当)を森林に変えたことと同じになり、節約された燃料を金額に換算すると約3400万ドル(38億1000万円)にのぼります。」と遠藤氏は語った。グリーン・エコプロジェクトはまた、交通事故も30%削減し、事業者の保険などの損害金額を54%軽減することにつながった。

グリーン・エコプロジェクトには4つの重要な側面がある。すなわち、①コスト削減、②持続可能性、③収拾したデータの正確性、そしてなによりも、④ドライバーのやる気を持続する活動であるという側面である。

さらに、グリーン・エコプロジェクトの特徴は、二酸化炭素排出対策を共有する機会を積極的に捉え、世界に情報発信を行ってきた点である。これまでに、2009年の「第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)」のサイドイベント(コペンハーゲン)をはじめ、2010年の「アジアEST地域フォーラム第5回会合」(バンコク)や2011年の第1回低炭素サミット(大連)で発表を行ってきた。また2011年には、ドイツの「ベルリン・ブランデンブルク交通・物流協会(VVL)」を訪問し、エコドライブに関する経験や知識に関する情報交換を行っている。

Audience of the UN Eco-Drive Conference/ TTA
Audience of the UN Eco-Drive Conference/ TTA

エコドライブは、ほとんど費用をかけることなく、環境、財政、安全面における利益が期待できることから、会議に参加した幅広いステークホールダーの間で、そのポテンシャリティーを注目する発言が相次いだ。つまり、政策責任者にとっては環境・安全面の目標達成に寄与する有効な手段と見なされている。またコスト削減(燃料費や保険料の節減等)につながる点は、企業の間で評価が高い。一方個人は、コスト削減だけでなく、よりリラックスした安全な運転スタイルに満足している。さらに自動車製造業者は、公的な燃費目標が単に技術的な問題にとどまらず、ドライバーの心掛け次第で達成可能な点を評価している。

このプロジェクトの重要な要素は、先述の「1枚の紙と鉛筆によるアプロ―チ」でドライバーが自分の燃費と安全運転について意識を高められる点と、継続的なエコドライブ教育が組み込まれている点である。遠藤氏は後者について、「優良ドライバーは表彰され、やる気を引き出すよう配慮されています。またプロジェクトには管理者もドライバーと同等の立場で参加し、セミナーに参加する機会もあります。」と語った。

Cargo Transport Evaluation System/ TMG
Cargo Transport Evaluation System/ TMG

さらにグリーン・エコプロジェクトは、2013年より東京都の「貨物輸送評価制度」(運送業者の燃費効率と二酸化炭素削減に関する継続的な努力を東京都が評価し、優れた成果を挙げた業者名を荷主や消費者に幅広く公表する世界初の評価制度)」に協力している。この評価制度は同プロジェクトが開始以来蓄積してきた600万件データの一部を利用して構築されている。

全米トラック運送協会(ATA)のグレン・ケジー副会長は、グリーン・エコプロジェクトに対する会場の熱意と前向きな反応を代弁して、「グリーン・エコプロジェクトの実践と哲学は、この会議に有益な付加価値をもたらしたと確信しています。」と語った。

Glen P. Kedzie, Vice President of ATA/ TTA
Glen P. Kedzie, Vice President of ATA/ TTA

欧州委員会のヒューズ・ヴァンホナッカー環境交通局事務局長は、エコドライブ会議の開催とグリーン・エコプロジェクトの発表に対して謝意を表したうえで、代替燃料戦略に関する地球にやさしいプロジェクトの策定と実施に、近年欧州連合(EU)が取り組んでいることを指摘した。EUレベルでの主要な成果としては、EU全体での統一された基準や共通技術仕様の策定や消費者への情報提供、意識喚起活動などを挙げた。

グリーン・エコプロジェクトの理論的性質や原則につながる事例としては、欧州委員会がEUの「インテリジェントエネルギー・ヨーロッパ」計画と協力して、策定・実施している「エコウィル(ECOWILL)」と呼ばれるプロジェクトを挙げることができるだろう。このプロジェクトは、既存の自動車教習所を活用してエコドライブに関する講習を広めることを目的としている。エコウィルはさらに、e-ラーニングの手法を導入し展開している。また、受講するドライバーに対する自動車運転の教習や運転免許試験の共通化も目指している。

日本自動車工業会は、経済産業省や国土交通省自動車局と協力して、パンフレット『気になる乗用車の燃費~カタログとあなたのクルマの燃費の違いは?~』を作成した。エコドライブとは、ドライバーが燃料消費や車の排ガスを削減し、地球温暖化と交通事故を防止することができるような運転技術やマナーのことだとしている。

株式会社アスアの間地寛社長が会議の参加者に語ったように、「エコドライブ(=燃料を節約した運転法)は、燃料費を節約できるだけではなく、乗客に安全とクルマに乗る楽しさを与えることができる。リラックスして、急がずに運転するというのが大原則」なのである。(原文へ

翻訳/編集=INPS Japan浅霧勝浩

グリーン・エコプロジェクトと持続可能な開発目標(SDGs)

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