同様の地震リスクを抱えるヒマラヤの両国が、防災の知見を共有
【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=ソニア・アワレ】
ブータンの首都ティンプーでは先ごろ、けたたましいサイレンで住民が目を覚ました。道路は封鎖され、市内を流れるティンプー川に架かる3本の橋はすべて通行止めとなり、救急車や消防車が慌ただしく行き交った。当局の事前告知を見落としていた人が、本物の災害が起きたと思っても無理はなかった。|英語版|
それこそが訓練の狙いだった。家屋の倒壊や建物火災を想定し、大規模地震後の捜索・救助において、情報伝達や関係機関の調整、意思決定が適切に機能するかを検証したのである。
訓練の設計と実施を担ったのは、ネパール国内で防災対策や建物の耐震改修事業に豊富な経験を持つネパール地震工学協会(NSET)の技術者と地震専門家たちだった。
訓練の結果、ブータンでは捜索・救助用の装備と緊急対応計画が大幅に不足していることが明らかになった。しかし少なくとも、今後何をすべきかは見えてきた。一方、ネパールの専門家たちは、自国では歴代政権に耳を傾けさせるだけでも容易ではないと話す。
NSETのスーリヤ・ナラヤン・シュレスタは、首相をはじめとするブータン政府関係者の積極的に学ぼうとする姿勢に感銘を受けたという。
「訓練後、ツェリン・トブゲイ首相は『ブータンはネパールから学ばなければならない。ネパールはわれわれと最も状況が近く、ブータンに教える立場として、これほど適した国はほかにない』と語った」と、シュレスタは振り返る。
このように率直で柔軟な姿勢は、当局者や専門家が自分たちこそ最も事情を分かっていると思い込みがちな南アジアでは珍しい。

ネパールとブータンの協力は、ニューデリーに本部を置く「災害に強靱なインフラのための連合(CDRI)」の支援を受けて実現した。ネパールも加盟するCDRIは、「ティンプー地震緊急対応計画」を支援する機関としてNSETを選定した。
NSETは、2段階に分けてブータンの計画策定を支援した。第1段階では、災害が発生する前に意思決定の手順や情報伝達、調整の仕組みを整備した。第2段階では、現地での訓練とシミュレーションを実施し、捜索・救助に関する計画が実際にどのように機能するかを検証した。
地震リスク
今週コロンビアで発生したM7.4の地震は、先月ベネズエラを襲った多数の死者を伴う地震に続くものであり、同様の地震リスクを抱えるネパールとブータンにとっても警鐘となった。
コロンビア、ベネズエラ、ネパール、ブータンの4カ国は、建築基準の徹底、国家レベルの緊急対応計画、災害訓練、捜索・救助の経験をめぐり、互いに学び合うことができる。
ティンプーでの訓練では、最新式のコンクリート切断機を備えた現場がある一方で、そうした機材がない現場もあった。シュレスタによれば、ブータンの捜索救助部隊から、どのように対応すべきかと問われたという。
「私たちは、実際の災害ならどうするのかと逆に問いかけた。そして、緊急の国際支援を要請するという方法もあるのではないかとヒントを与えた」と、シュレスタは語った。
当局は、市内最大の中核病院1カ所と一次医療センター2カ所を対象に、多数の傷病者が発生する事態を想定した。
さらに、救急医療従事者が自らの家族の緊急事態に対応しなければならないため、あるいは地滑りで道路が寸断されたために病院へ到着できず、病院自体も停電しているという展開も訓練に組み込まれた。
訓練チームは、11本の橋、病院1カ所、変電施設、通信網、食料備蓄倉庫など、重要インフラの構造的な安全性も評価した。
訓練は4時間にわたり、さまざまな役割を担う約500人が参加した。ネパールのチームは、2段階の訓練を実施するための準備にほぼ1年を費やした。
災害対応チームの統括責任者を務めるトブゲイ首相も訓練に立ち会い、ジグミ国王にも進捗状況が逐次報告された。
訓練結果を分析したNSETは、一連の提言をまとめた。その一つが、人口1万5000~2万人の各行政区に、少なくとも6人編成の地震初動救助隊を1隊ずつ配置するという提案である。
ブータンでは数十年にわたって大地震が発生していない。同国はヒマラヤ東部の地震空白域に位置しており、地殻に蓄積したひずみがいつ解放されてもおかしくない。
ティンプーの人口は約12万1000人である。NSETは、M7を超える地震が発生すれば、市内にある1万3700戸の住宅のうち約3000戸が深刻な被害を受け、夜間の発生なら死傷者が約3000人に上る可能性があると推計している。

一方、NSETが2015年以前に行った推計では、カトマンズ盆地の脆弱性はさらに高いとされていた。2015年に発生したM7.8の地震では約1万人が死亡したが、地震学者によれば、この地震でもネパール中部の地殻に蓄積したひずみは完全には解放されなかった。
皮肉なことに、ネパールの専門家が他の地震脆弱国を指導する一方で、ネパール自身には詳細で実効性のある緊急対応計画がない。
「ブータンは私たちから学んだ。では、私たちはブータンから何を学べるのか」とシュレスタは問いかける。
ネパールにも、NSETがティンプーで支援したのと同様に、国の最高レベルによる政治的関与、緻密な計画、実地シミュレーションが必要だという。

確かにNSETは、2015年の地震以前にも、各機関の役割を定めた国家災害対応枠組みの策定に協力していた。しかし、それは書類上の計画にとどまり、十分な政治的主体性に裏付けられた戦略的な実施計画を欠いていた。
「訓練は実施しているが、机上のものが多く、避難に使うオープンスペースをどこに確保するのか、緊急物資をどこに事前配備するのかといった重要な問いに答えていない」と、NSET創設者のアモド・マニ・ディキシットは指摘する。
「ネパールとブータンを分けているのは、政治の本気度である」
ネパールの防災体制は2015年以降、改善している。治安機関では訓練を受けた要員が増え、装備も充実してきた。しかし、ヒマラヤ規模の巨大地震に対処するには、依然として不十分である。
トゥレ・ライは、ネパール警察で捜索・救助部門の最高責任者を務め、ブータンに派遣されたNSETチームにも加わった。
ライは、2015年以前のネパールに計画が欠けていたことについて、次のように語る。
「当時は、将来起きることに、なぜ今から投資する必要があるのかという考えが一般的だった。しかしブータンは、南アジアで初めて緊急対応計画を実地シミュレーションで検証した国となった。ネパールでは計画は紙の上にあるだけで、ほとんど検証されていない」
だからこそ、シミュレーションが重要なのである。実際の災害に近い状況で計画の空白や問題点を洗い出し、あらかじめ担当を定めた当局者が解決に当たることができるからだ。
2002年には、国際協力機構(JICA)がカトマンズ盆地の地震被害軽減に関する調査を実施した。1934年にネパール東部で発生したM8.3の地震を想定の基準とし、建物やインフラの構造上のリスクを評価するとともに、多数の死傷者が発生する可能性を予測した。
それから25年が経過した。報告書は2018年に改訂されたものの、事実上、棚上げされたままである。
2017年に制定された国家災害リスク軽減管理法は、リスク軽減、防災、緊急対応、捜索・救助を一つの枠組みの下に統合しようとした。しかし、関係機関の調整が今なお最大の障害となっている。
緊急時の機関連携を進める政治的意思の欠如こそ、ネパールが抱える最大の問題なのかもしれない。
シュレスタはこう語る。
「ネパールには意識も知識もある。だが、連携がない。災害対策に取り組む優れた機関には、武装警察隊、ネパール警察、赤十字などがあるが、それぞれがばらばらに動いている。ブータンから学ぶべきは、まさにこの点である」
ソニア・アワレは『ネパリ・タイムズ』編集長で、保健・科学・環境分野の記者も兼務している。気候危機、防災、開発、公衆衛生について、それぞれの政治・経済的な相互連関に着目しながら幅広く取材してきた。公衆衛生学を修め、香港大学でジャーナリズムの修士号を取得している。
INPS Japan
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