ニュース禁止の力:核兵器活動を非合法化

禁止の力:核兵器活動を非合法化

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョリーン・プレトリウス】

2021年1月に発効する核兵器禁止条約(TPNW)は、多くの活動を非合法化することにより核兵器を禁止するものである。これには、核兵器の保有、開発、実験、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇、奨励、配備などがある。なぜ核兵器の禁止が、核兵器に対する人々の考え方に心理的転換をもたらす歴史上重要な転換点であるかを理解するためには、何かを非合法化することが意味するものを理解する必要がある。(原文へ 

ある活動を非合法化するということは、それがコミュニティーにより受け入れられないものと見なされており、そのため、それを非合法化、非正当化することによりその活動を終わらせる(あるいは廃止する)法律が作られるということを意味する。それは、誰もその活動に二度と従事しないということを意味するわけではないが、従事すれば、彼らは法律の間違った側(あるいは法律の“外側”)にいるということになる。誰かが非合法化された場合、彼/彼女はもはや、コミュニティーの法律によって与えられる保護や便益を受けられなくなる。核兵器禁止の力はそこにある。核兵器(その延長でいえば、核戦争や原子力事故)を可能にする活動に従事する、あるいは従事することを考えるインセンティブが、これによって変化する。国の指導者だけでなく、核兵器に関する意思決定、支援、運用の過程に関与する個人の心理に影響を及ぼす。これには、核科学者、研究者、政治家、ビジネス関係者、技術者、軍司令官、その他、核兵器活動を支援する人々が含まれる。

第一に、ほとんどの個人、さらには個人を取り巻くコミュニティーである国家でさえ、法律の正しい側にいたい、道徳的に受け入れられることをしたいと望む。核兵器禁止が立脚する人道的アプローチの道徳的説得力は、核兵器を可能にする活動、そしてそのような活動に従事する人々に公式な非難を付す根拠となる。しかし、TPNWの影響は道徳的説得力にとどまらず、核兵器を可能にする活動に参加する人々に具体的な影響を及ぼす。非合法化された活動の結果として取得したものは、将来、押収され、破壊され、あるいは喪失する恐れがある。核兵器の製造や近代化のために巨額の投資をする国家は、国際社会から糾弾され、制裁を受け、最終的には核兵器を放棄せざるを得なくなるかもしれない。核兵器技術に投資する企業は、違法かつ不道徳な活動から利益を得ていることにより訴訟を起こされるかもしれない。核兵器技術者は、選んだキャリアと評判を失うかもしれない。

国家や個人へのインセンティブを変化させるTPNWの力は、物質的および評判上の傷がつくリスクだけにとどまらない。関係するすべての者にとって懲罰的影響も及ぼす。個人が核兵器活動に従事した場合、国際裁判所で裁判にかけられるかもしれない。核兵器禁止は、国際法制度に適合することを忘れてはならない。したがって、それが禁止する活動は、TPNWの文脈だけでなく、これを補完する国際法の文脈においても裁かれることになる。このような国際法の分野として、紛争における戦闘員と文民の区別、均衡のとれた戦力行使、不必要な苦痛の禁止を求める武力紛争法や、生存権と安全な環境への権利を保護する人権法がある。TPNWは、これらの国際法ですでに成文化された人道的根拠に基づいて兵器を禁止している。

人道的根拠に基づいて禁止されている他の二つの国際的行為、具体的には奴隷制と侵略戦争を禁止する国際法の影響力を見れば、禁止の力がよく分かる。かつては当たり前のように行われ、合法的だった奴隷制と侵略戦争は、逸脱とされるようになった。国際法の機能に関するより具体的な例は、この分野に存在する。1961年、アドルフ・アイヒマンは、アルゼンチンでイスラエルの特務員に捕らえられた後、ホロコーストで果たした役割によりイスラエルで裁判にかけられた。彼の捕捉と裁判は、奴隷制や海賊行為を廃止した法律により確立された主導原理、すなわち、人類の敵はいずれの国家でも捕捉して裁判にかけることができるという原理によって正当化された。アイヒマンは有罪とされ、処刑された。アウトロー(人類の敵)である彼は、いかなる法律によっても保護されることはできなかった。ニュルンベルク裁判と東京裁判のいずれにおいても、被告は、戦時中の残虐行為に加え、侵略戦争を非合法化した1928年のケロッグ・ブリアン条約を根拠とする平和に対する罪にも問われた。ロシアのクリミア併合は、ロシアに対する制裁と国際的な非難を引き起こした。また、重要な点として、クリミアに対するロシアの主権については不承認が示された。なぜなら、違法な行為、すなわち侵略戦争によってクリミアを獲得したからである。

このような法的前例は、TPNWが非合法化する活動に従事する個人や国、大国にとってさえも、意欲をそぐ強力な要因となるはずである。米国やロシアの指導者、あるいは核兵器を運用し、核戦略を策定する個人が、ハーグ裁判所で核兵器活動の罪により裁判にかけられることになるとは今は想像もできないかもしれない。しかし、第二次世界大戦終結前のドイツは大国だったことを忘れてはならない。ナチスが思い知った通り、きょう手出しができない大国も、あすは敗者として法に向き合わなければならないかもしれない。意図的であるか否かを問わず、核戦争とそれがもたらした想像を絶する人道的災害に責任がある国家とその指導者を思い浮かべて欲しい。そのような出来事の後で、核の抑止力はそのような惨事のリスクを正当化するものだったという弁明を世論は受け入れないだろうし、裁判所も受け入れないだろう。

確かに、現時点では、TPNWが拘束力を持つのは条約加盟国のみになる見込みである。しかし、核兵器禁止は徐々に力を拡大し、国際慣習法、つまり法律として認められる一般的慣行となり、どこでも、誰にでも拘束力を持つようになる可能性がある。それは、どのように機能するだろうか?国際慣習法は、慣行のパターンの実践にかかわるものであり、また、法的期待のパターン、つまり、あるものが法律としても受け入れられるとはいかなることであるのかという認識にもかかわる。核兵器保有国は、TPNWが核兵器に対抗する国際慣習法に寄与することを否定するために四苦八苦してきた。しかし、問題は、政府高官が何を言うかだけではなく、一般の人々が核兵器についてどう考えるかが、国際慣習法の形成にとって重要だということである。パウスト(Paust)は、こう論じている。「……特定の国家は、特定の規範が慣習法であることに同意せず、そのような規範を破りさえするかもしれない。しかし、一般に共有された法的期待のパターンとコミュニティーに現存する同調行動によってその規範が支持されているのなら、その国家はなおも拘束を受けるといえる」。

TPNWに加盟していない国に対して核兵器禁止に拘束力を持たせる根拠は、すでに構築されている。核兵器に反対する規範は、ほぼ普遍的な条約である1970年の核兵器不拡散条約(NPT)において明確になっている。残念ながら、NPTには法的抜け穴があり、核兵器保有国は核軍縮を無期延期することができる(1995年に同条約が無期限延長された時以来)。NPTは、第6条に核軍縮交渉を拘束力のある義務と定めているにも関わらず、1967年までに核実験を行った国家に対し、かかる交渉を行う期日を定めていない。核兵器保有国は、したがってNPTは彼らに核兵器を保有し、自国の思い通りに管理する国家主権を認めているのだと不誠実な解釈をしている。NPTに加盟していない4カ国は、核兵器保有国の例にならい、核兵器を獲得した。このような行為と解釈は、核兵器禁止とその慣習法としての地位に反するものである。私が考えるに、核廃絶に真剣に取り組む国々にとって、NPTに対するこのような解釈を無効化し、条約の本来の意図を改めて訴え、核兵器禁止の慣習法としての地位を強化する唯一の方法は、NPTを脱退してTPNWに加盟することである。脱退は、核兵器保有国が第6条に違反していることを正当な根拠とすることができる。

核兵器禁止の慣習法としての地位は、1986年のレイキャビク・サミットでレーガンとゴルバチョフが表明したように、幾度となく世界各国の首脳が公然と核兵器に遺憾の意を示していることによっても裏付けられる。国家首脳が核兵器を使用する可能性があったものの、その人道的影響(核のタブー)ゆえに、実際には使用しなかったという事例は、核兵器使用に反対する国家行動のパターンであることが明らかである。

TPNWは、積極的な国家や市民社会が、核兵器活動は人類全体にとって一般的に受け入れられないという法的事例を強化するために、必要な政治的取り組みを行うための手段である。近頃、NATO加盟20カ国と日本および韓国の元大統領、元首相、元外相、元防衛相、合わせて56人が公開書簡により、現職の首脳に対してTPNWに加盟するよう呼びかけたことは、このような取り組みの一例である。

ジョリーン・プレトリウスは、南アフリカのウェスタンケープ大学で国際関係学を教えている。1995年に核不拡散・核軍縮における業績によりノーベル平和賞を受賞した「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の南アフリカ支部会員。

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