ホーム ブログ ページ 13

カザフスタン、民族の多様性に宿る団結を祝う

【アスタナThe Astana Times=アイマン・ナキスペコワ】

カザフスタンでは5月1日、「民族団結の日」を迎え、国の豊かな多文化的アイデンティティを称える。この祝日は1996年に国家の公式記念日として制定され、国内に暮らす150以上の民族の共存と相互尊重、そして文化の多様性がもたらす力を強調する。

この記念日の背景には、深い歴史がある。1950年代、ソビエト連邦による未開地開発運動に伴い、自発的に移住してきた人々や、ヨシフ・スターリン体制下の弾圧によって強制移住させられた人々が、何百万人もカザフスタンにやって来た。70年以上が経った今も、カザフスタンの若者たちは祖父母から受け継いだその物語を大切にし続けている。

文化のタペストリー

アスタナ在住のイェルケジャン・シャリポワさんは、『アスタナ・タイムズ』のインタビューで自身の家族の物語を語った。彼女の母方の祖母はカザフ人、祖父はベラルーシ人だった。

Sharipova’s grandparents took part in an art performance in the village.Photo credit: Sharipova’s personal archieve
Vlad Rekk enrolled in German language courses to connect more deeply with his heritage. Photo credit: Rekk’s personal archieve

「祖父は1951年のいわゆる未開地開発運動の際にカザフスタンに移住し、とある村で祖母と出会いました。祖母は伝統的な家庭の出身で、最初は戸惑っていたようですが、祖父は諦めませんでした。彼はカザフ語を学び、祖母の母語で結婚を申し込んだのです」とシャリポワさんは語る。

多くの開拓者が過酷な生活環境に耐えきれず去っていったなか、祖父は残る決意をし、愛だけでなく、祖母の大家族のなかで「居場所」を見つけたという。

「家族は彼を心から迎え入れました。祖父はカザフの伝統を受け入れ、それを子や孫にも伝えてくれました」。

シャリポワさんは、カザフスタンの民族的多様性を「強み」と捉え、この祝日を「平和と調和のなかで共に生きようとする国家の象徴」と考えている。

二つの文化が息づく家族史

民族ドイツ人であるブラッド・レックさんにとっても、この「団結の日」は歴史的な重みと個人的な意味を持つ。彼の曽祖母カチヤさんは、弾圧によりカザフスタンに追放された一人だったが、現地のカザフ家庭に助けられ、厳しい時代の中で避難先を得たという。

「曽祖母はその家で家事を手伝っていました。そしてやがて、曽祖父ゼイヌラと恋に落ち、結婚しました。まったく異なる世界から来た二人の物語から、私たちの家族が始まったのです」とレックさんは話す。

Rekk’s great-grandmother Katya. Photo credit: Rekk’s personal archieve

彼は父方にもドイツの血を引いており、幼いころから自宅に保管されていたドイツ語の写真や手紙を見て育った。

「両親は常に、家族の歴史を忘れないようにと言っていました。自分のルーツをもっと知りたくて、ドイツ語の勉強を始めました。言葉を通して家族の物語とより深くつながることができ、文化が単なる抽象的なものではなく、とても個人的なものだと実感しました」。

「私は、ドイツとカザフの両方の文化が自分の中にあるとよく思います。ドイツのルーツからは、おそらく秩序や規律を大切にする気質を受け継いだのでしょう。カザフの側からは、寛容さや年長者への敬意、家族の大切さを学びました。私はその両方を誇りに思っています」と彼は語った。(原文へ

INPS Japan/The Astana Times

Original Link: https://astanatimes.com/2025/05/kazakhstan-celebrates-unity-in-diversity/

関連記事:

ディマシュ・クダイベルゲン、新曲ミュージックビデオでカザフスタンの雄大な風景と文化遺産を紹介

ステップの精神を甦らせる:カザフスタンで第5回ワールド・ノマド・ゲームズ(世界遊牧民競技大会)が開催される

|視点|アスタナから射す光:カザフスタンはいかにして悲劇をポジティブに変えたか(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

かつてない海洋危機の中、世界が最高の目標に向けて進む―釜山で「アワ・オーシャン会議」開催

【釜山IPS=ジョイス・チンビ】

第10回アワ・オーシャン会議(Our Ocean Conference)に参加した100か国以上の代表者たちは、危機的に上昇する海面水位の中で、世界中の沿岸部や低地、特に人口密集地域が深刻な脅威にさらされているという厳しい現実を胸に刻んで釜山を後にすることとなる。

アジア、アフリカ、島嶼国、さらには米国の東海岸や湾岸地域が、沿岸を襲う気候変動の猛威の最前線に立たされている。バングラデシュ、インド、フィリピン、ツバルやフィジーなどの太平洋諸国はとりわけリスクが高い。2024年には、カメルーンやナイジェリアなどのアフリカ諸国で洪水により過去最多の死者を出した。

「この会議は、“海が危機に瀕している”という認識から始まりました。世界の漁業資源の3分の1が過剰漁獲されており、違法かつ破壊的な漁業が生態系を損なっています。これは、それに依存する沿岸地域の生活を脅かし、世界経済にも打撃を与えています。海を危険にさらすことは、私たちすべての国と地球の将来を危険にさらすことなのです。」と、グローバル・フィッシング・ウォッチ(Global Fishing Watch)のCEO、トニー・ロング氏は語った。

アワ・オーシャン会議には、国家元首や政府高官を含む100か国以上の代表者、さらに400を超える国際・非営利団体の関係者ら約1000人が集まり、持続可能な海洋のための多様かつ具体的な行動について議論が交わされた。

この日、専門家たちは、海洋・気候・生物多様性という3つの要素が交わる地点でこそ、科学を政治的行動へと転換する解決策が見出せると強調した。海洋は気候危機の最前線にあると同時に、持続可能な解決策の重要な源でもある。というのも、海は人類の二酸化炭素排出の約25%と、そこから発生する熱の約90%を吸収しているからである。

「30×30キャンペーン」は、地球の陸地・水域・海域の少なくとも30%を2030年までに保護するという、国際的・国家的な取り組みを支援している。この目標の重要性と各国の進捗状況に関するセッションで司会を務めたのは、ブルームバーグ慈善財団の環境チームのシニアメンバーであり、ブルームバーグ・オーシャン・イニシアティブを率いるメリッサ・ライト氏だった。

「私たちは、民間団体、政府、先住民族・地域社会のグループ、地方のリーダーたちとの公平かつ包摂的なパートナーシップと取り組みを通じて、海洋分野での30×30達成という世界的な野心を支えています。2014年以降、ブルーウォーター・オーシャン・イニシアティブは、海洋保全の推進のために3億6600万米ドル以上を投資してきました。」とライト氏は語った。

このイニシアティブは、政府やNGO、地域リーダーらと連携し、海洋保護区(MPA)の指定とその執行を加速させている。最近では、公海条約(High Seas Treaty)の早期批准を促進し、国家管轄権を超える海域におけるMPAの創設を実現している。

フィリピン環境天然資源省(DENR)で政策・計画・外国支援・特別プロジェクト担当次官補を務めるノラリーン・ウイ氏は次のように語った。「2030年までの30×30達成に残された時間はもう多くありません。今こそ、私たちの国家的・国際的な能力を強化し、海の保護・保全・持続可能性を高めるための意欲的で強固な対応が求められているのです。」

フィリピンは世界で17ある「メガ多様性国」のひとつであり、極めて高い生物多様性と多数の固有種を有している。植物・動物を含む多くの地球上の種がこの国に生息しており、固有種も多い。

その一方で、フィリピンは限られた資源や優先的な開発課題を抱えており、大きな負担を強いられているとウイ氏は述べた。それでも科学の力に頼り、着実に前進しているという。国内の主要な海洋生物地理区に戦略的に配置された海洋科学研究ステーションを設置し、現場の知見と知識を蓄積している。

また、同国では国家海洋環境政策を策定し、「科学と政策は国の優先事項に応じて進化していくものであり、それに伴い組織の構造や知識体系も変わっていかねばならない。」と強調した。

海洋保護において最高の目標を達成するためには、フィリピンや世界中の沿岸地域が、今後さらに資金面や技術面での支援を必要とする。キャンペーン・フォー・ネイチャー(Campaign for Nature)のディレクター、ブライアン・オドネル氏は、30×30にかかる費用の世界的な試算は5年前のものしか存在しないと指摘した。

「その時点での試算によれば、陸と海の両方で30×30を実現するには年間1000億米ドルが必要でしたが、当時支出されていたのはわずか200億ドル。つまり、年間800億ドルの資金不足があったのです。」とオドネル氏は説明した。

「資金をさらにこの分野に投入することが不可欠であるのはもちろんのこと、その資金が実際に生物多様性の現場にいる人々、地域社会、そしてそれを守っている国々に確実かつ効果的に届けられるようにしなければなりません。」

とはいえ資金動員には課題が残るものの、一定の進展も見られる。オドネル氏は、2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)について言及し、これが2025年までに先進国が途上国に対して年間200億ドル以上、2030年までに300億ドルへと増額する目標を盛り込んでいることを紹介した。

この目標は、特に後発開発途上国(LDCs)や小島嶼開発途上国(SIDS)を含む開発途上国が生物多様性の国家戦略や行動計画を実施できるよう支援するものである。ただし、現在の多くの資金がローンや短期支援の形で提供されていることには改善が必要だとオドネル氏は述べた。

Noralene Uy speaking to participants about the Philippines’ efforts and challenges towards achieving the 30×30 targets. Credit: Joyce Chimbi/IPS
Noralene Uy speaking to participants about the Philippines’ efforts and challenges towards achieving the 30×30 targets. Credit: Joyce Chimbi/IPS

総じて、彼は「オーシャンズ5(Oceans 5)」のような協力体制の重要性を強調した。オーシャンズ5は、世界5大洋の保護に特化した国際的な資金提供ネットワークであり、過剰漁業の抑制、海洋保護区の設置、洋上石油・ガス開発の制限という、世界中の海洋科学者たちが最も優先すべきとする3つの課題に取り組んでいる。ブルームバーグ慈善財団もその創設パートナーの一つである。

今後に向けては、2026年にケニアで開催される第11回アワ・オーシャン会議までに、資金・政策・能力強化・研究の各分野で、海洋保護区、持続可能なブルーエコノミー、気候変動、海上安全保障、持続可能な漁業、海洋汚染の削減に向けた世界の取り組みが確実に前進していることが期待される。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

|フィリピン|パラワン島の先住民族の土地保護に立ちあがる若者達

誰が絶滅の危機に瀕するナイジェリアの沿岸都市を救うのか?

地球上で最も寒い場所に迫る地球温暖化

米国の「核の傘」が崩壊すれば、欧州は「独自の核兵器(ユーロ・ボム)」を選ぶのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ロナルド・トランプ政権が西欧諸国に対して敵対的な姿勢を強め、北大西洋条約機構(NATO・32カ国加盟)からの脱退を示唆していることは、米国による「核の傘」という長年の安全保障体制が崩壊する危険を示している。

欧州外交評議会(ECFR)のドイツ事務所長ヤナ・プグリエリン氏は、「トランプ氏はNATOから公式に離脱するつもりがあるかどうかは分からないが、NATOを骨抜きにする手段はすべて持っている。」と述べている。

トランプ氏のNATOへの敵意は、27カ国からなる欧州連合(EU)にも及び、彼はEUを「米国を食い物にするために作られた。」と批判している。

こうした政治的空気の中、現在注目されているのは、英国やフランスが欧州諸国に「核の保護」を提供できるのか、あるいはドイツ、ポーランド、北欧諸国が独自に核武装へと進むのか、という点だ。

米紙 The New York Times は先月、ポーランドのドナルド・トゥスク首相が、ロシアにより支配された歴史を持つ同国において、将来的に自国の核兵器開発に踏み切る可能性があると報じた。

核兵器科学者連盟(FAS)によれば、世界には約12,331発の核弾頭が存在し、そのうち9,604発が軍事備蓄にあり、残りは退役済みで解体を待っている状態にある。

核保有国は米英仏中露、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの9カ国だが、英仏の核弾頭数は合わせて515発と、米国の約3,700発(さらに退役予定の1,300発あり)に比べて少ない。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

元IAEA(国際原子力機関)検証・安全保障政策部長のタリク・ラウフ氏は、NATO欧州諸国がロシアを欧州の安全保障構造に統合することに失敗してきたと指摘。「旧東欧諸国の一部は、ソ連の過去の支配に対する復讐としてロシアを挑発し、ロシアの過剰反応を招いてきた。」と語った。

ラウフ氏はまた、「第2次世界大戦から80年が経過し、EU経済は繁栄しているが、外交政策は混迷し、今や『友好的拡散(friendly proliferation)』(=同盟国や友好国に対して、戦略的な目的で意図的に核兵器技術や能力を移転・支援する行為を指す)への懸念が高まっている」と警鐘を鳴らしている。

実際、ポーランド大統領は、米国が自国に核兵器を配備しない場合には独自の核兵器開発に関心を示している。これはNPT(核不拡散条約)に加盟する非核兵器国であるポーランドにとって重大な動きだが、IAEAや他国から大きな懸念表明は見られていない。

一方、英国とフランスは依然として「大国」の幻想を持ち続け、米国が距離を置きつつある欧州に対して、「拡大抑止」を提供しようとしている。

英国では、キア・スターマー首相が年金や社会福祉、国際援助を削減して、260発の運用可能な核兵器と核ミサイル搭載潜水艦の維持費に充てている。

Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency
Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency

フランスでは、マクロン大統領がド・ゴール時代の独立路線を修正し、経済停滞と社会不安を抱えながらも、EU諸国に対して自国の核による「傘」を提供すると公言している。

さらに、ドイツは米国の中距離核ミサイルを再び受け入れる方針に転じ、英国も米国の核搭載爆撃機を再配備することになった。

NPT体制(55年の歴史)は崩壊寸前であり、それが現実となれば、欧州やアジア太平洋地域で核拡散の連鎖が始まる可能性があるとラウフ氏は警告している。

カリフォルニア州のNGO「Western States Legal Foundation」事務局長ジャクリーン・カバッソ氏も、「ユーロボム(欧州独自の核武装)」構想は以前からあったが、トランプ政権のNATO軽視以降、真剣に議論されるようになったと述べた。

2020年、マクロン大統領は「フランスの核抑止力が欧州の安全保障に果たす役割について戦略対話を始めよう。」と呼びかけ、2022年にもドイツに再提案したが、進展はなかった。2025年3月には再び対話を提案し、ドイツ、ポーランド、デンマーク、リトアニア、ラトビアなどが歓迎を示した。

Jacqueline Cabasso, Executive Director, Western States Legal Foundation. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.
Jacqueline Cabasso, Executive Director, Western States Legal Foundation. Photo Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, INPS Japan.

ただし、カバッソ氏は「トランプ氏の予測不能な言動を踏まえると、米国がNATOを脱退する可能性は低いが、完全には否定できない」としつつ、”Project 2025”(トランプ政権第2期の青写真)には、米国がNATOの通常戦力を同盟国に任せ、核抑止に限定的に関与する方針が明記されている点に注意を促す。

核保有国が核戦力の質的・量的強化を進める中、欧州が独自に核兵器を持つことは、NPT違反であり国際法上も問題である。だがそれ以上に、「核の威嚇の常態化」と「核拡散の正当化」が危険だと強調する。

欧州の指導者は、核兵器の獲得ではなく、**核兵器に依存しない安全保障の構築と、核兵器禁止の対話(例えば欧州非核地帯)を推進すべきであるとカバッソ氏は訴えている。

最後にラウフ氏は、「1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)はいまだ発効しておらず、核実験のモラトリアムも危うい。今は冷戦時代以上に偶発的・意図的な核戦争の危険が高まっており、政治的リーダーシップが欠如している。」と語った。

国連のグテーレス事務総長がジュネーブ軍縮会議で語った言葉が、いまこそ重く響く。

Photo: MANUEL ELÍAS / UNITED NATIONS
Photo: MANUEL ELÍAS / UNITED NATIONS
"核の選択肢は、もはや現実的な選択ではない。それは人類破滅への一本道であり、私たちはいかなる代償を払ってもその道を回避すべきだ。世界は、私たちが正しい方向に舵を切ることを待ち望んでいる。"

一方、2024年7月、ノルウェーの防衛企業Kongsbergは、ノルウェー・ドイツ間の共同計画として2035年運用開始予定の「次世代超音速攻撃ミサイル“Tyrfing”」の開発契約を結んだ。

これに加えて、フィンランドは2024年に米国から長距離精密ミサイル(JASSM-ER)を導入する決定をし、スウェーデンもウクライナに早期警戒システムを供与。欧州全体で、精密攻撃能力の向上が進んでいる。

これらは「新たなミサイル危機」の様相を呈しており、INF条約(中距離核戦力全廃条約)後の世界で、より大きな戦略的リスクを伴っている。

欧州の政策立案者たちは、核依存による「幻想の安全保障」ではなく、外交と非核化の道を探る真の安全保障戦略に立ち返るべき時を迎えている。(原文へ

This article is brought to you by IPS NORAM in partnership with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

|視点|見るも無残な核軍縮の現状(ジャクリーン・カバッソ西部諸州法律財団事務局長)

欧州議会議員ら核軍縮促進を呼びかけ

核のない世界への道は険しいが、あきらめるという選択肢はない。(寺崎広嗣創価学会インタナショナル平和運動総局長インタビユー)

国連事務総長とブラジル大統領、パリ協定の誓約再確認へ世界の指導者と会合

【ニューヨークIPS=ナウリーン・ホセイン】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長とブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は4月23日、気候危機への世界的な取り組みを強化し、公正なエネルギー転換を推進するため、各国首脳と非公開の会合を開催した。

会合には、主要経済国と気候危機の影響を最も受けている国々の首脳が少数ながら代表的な形で出席。出席者には中国の習近平国家主席、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ケニアのウィリアム・ルト大統領、マーシャル諸島のヒルダ・ハイネ首相などが名を連ねた。

また、地域を代表するパートナーシップの首脳も出席。アフリカ連合のジョアン・ロウレンソ議長(アンゴラ大統領)、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長のアンワル・イブラヒム・マレーシア首相、小島嶼国連合(AOSIS)のスランゲル・ウィップス・パラオ大統領、カリブ共同体(CARICOM)のミア・モットリー・バルバドス首相らが出席した。

グテーレス事務総長は、「世界は多くの危機と逆風に直面しているが、気候変動への誓約が道を外れることは許されない」と強調。「COP30(第30回気候変動枠組条約締約国会議)がブラジルで開催されるのを前に、行動への機運を高め続けることが重要だ。今回の会合はその一環だ」と語った。

国連高官によると、この会合は各国首脳が「パリ協定および多国間主義への誓約を再確認」するために行われ、「グローバルな課題にはグローバルな解決策が必要」と指摘した。

今年のCOPは、「気候災害の深刻化と頻発という現実を目の当たりにしている特異な文脈」のもとで開催される。高官はそのように述べ、同時に「再生可能エネルギー革命」にも言及。2024年には世界の電力の40%が再生可能エネルギーから供給されたとし、この分野の雇用市場も拡大傾向にあると述べた。グテーレス氏は再生可能エネルギー産業を「世紀の経済的チャンス」とも呼んでいる。

ブラジル政府関係者によれば、今回の会合はCOP30に向けた国際社会の「支援、行動、野心」の動員の一環であり、特に「実施段階」に重点を置くことを強調。市民が多国間主義を信じられるよう「目に見える行動」が求められていると述べた。

今年はパリ協定採択から10年の節目。各国は新たな国家気候目標と「国別決定貢献(NDCs)」を発表する予定だ。ブラジルのCOPチームの高官によれば、提出期限は柔軟であるものの、多くの国が9月を目処に準備を進めているという。これまでにNDCを提出した国はごく一部であり、国連の当初の提出期限(2月10日)に間に合ったのは10カ国に過ぎない。

グテーレス氏は、気候にやさしい取り組みの移行を進める一方で、開発途上国への支援の拡充が必要であると強調。「アフリカや他の開発途上地域は世界平均以上の速度で温暖化が進み、太平洋諸島は海面上昇の影響を早くも受けている」と述べた。また、「アフリカには世界の最良の太陽光資源の60%が存在するにもかかわらず、設置されている太陽光発電設備は全体の1.5%にとどまり、再生可能エネルギーへの世界の投資のうち、アフリカが受けているのはわずか2%。」とも指摘した。

グテーレス事務総長はさらに、気候資金の増額、とりわけ適応資金の倍増、および2035年までに年間1.3兆ドルの資金を途上国向けに動員することを再度呼びかけた。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

COP 29: 気候と平和のネクサス(関連性)が議題に上がったが……

|COP29|参加者は、人々の安全を真に確保するものについての洞察を気候サミットに求める

市民社会がパリ協定の履行に懸念示す

|災害報道|なぜ「真実」がネパール地震報道で犠牲になったのか(Nepali Times社主)

【カトマンズNepali Times=クンダ・ディキシット】

報道している災害の当事者になって初めて、ジャーナリストたちは、自分たちが危機の中で描いている現実がいかに限られた一面に過ぎないかを痛感する。

2015年4月25日にネパールを襲った地震のような災害報道では、特に外国人特派員にこの傾向が顕著だ。

最初の1週間、テレビやインターネットで壊滅的な都市の映像や写真が世界中に流れる中、私の家族は親戚や友人から心配の電話をひっきりなしに受けた。皆、私たちがまだ生きていること、家が無事であること、水も食料もあること、さらには電話が通じることさえ、信じられない様子だった。

それもそのはず、彼らが見たのは、カトマンズ盆地の歴史的建造物が瓦礫と化し、人々の家が崩れ去り、急峻な山肌にしがみつくようにしていた村々が壊滅している様子だったからだ。まるで終末のようなその映像は、「何も残っていない」と信じ込ませるには十分だった。

だが、実際にはカトマンズ盆地の住宅の80%は無傷だった。市内の歴史地区でも、主要な寺院や宮殿は今も残っている。ほとんどの地域で地震後に変わったのは「交通渋滞がなくなったこと」くらいだった。

地震の翌朝、最初に現地入りした外国人特派員たちは、市内へ向かう道中、一軒の倒壊家屋も見つけられず、誤って別の災害現場に来てしまったのではないかと困惑した。

報道の現場にいる私たちメディア関係者も、「選択的に報じている」として歪曲の非難を受ける。しかし一部の特派員は、紋切り型の報道に陥るまいとし、表面的でない深い現実に迫ろうと努めている。それでも「ニュースには型(フォーマット)がある」のが現実であり、それに合わないストーリーを報じるのは難しい。

そのため、災害報道は毎回「いつもの話」になってしまう。

国際メディアは群れをなして現地入りし、同じような映像を追い求める。用意された台本に従い、まず「壊滅的被害」のビジュアルを押さえ、英語を話せる(字幕不要の)地元住民を探し、救助犬を連れたチームと行動を共にする。

一日の終わりにはホテルのバーで武勇伝を語り合い、翌日の「政府の対応の遅れ」、さらにその翌日の「奇跡の生存者救出」をストーリーに仕立てる準備をする。そして、山間の被災村へヘリコプターで飛び、再び「壊滅的被害」の映像を押さえる。

無傷で残っている通りを撮影した外国人記者は私の知る限り一人もいなかった。畑でじゃがいもを収穫している農民に目を向ける暇もなく、歴史的遺産の瓦礫にカメラを向け続けた。ネパールの75郡のうち実際に被災したのは14郡だけであることを報じた者もほとんどいなかった。

電話がつながる、遠隔地からもツイートができる、カトマンズでは3日で電気が復旧した―こうした事実は、ニュースの台本に合わなかったため報じられなかった。

BBCやアルジャジーラなどのTVクルーは、カトマンズのダルバール広場に並んでテントを張り、背景にハヌマンドカ宮殿の遺跡を配置し、招待した専門家にコメントさせた。TVニュース番組が「ショー」と呼ばれるのも納得だ。

Kunda Dixit
Kunda Dixit

あるインタビューでは、スカイプ出演者に「照明を暗くして、震災後のカトマンズが本当に真っ暗に見えるようにしてくれ」と頼んだという。また、CNNのアンダーソン・クーパーによる現地記者との生中継は、米国ボルチモアの暴動を理由に現地時間午前4時にキャンセルされた。

このような災害報道は、被害の実態を歪め、深刻さを誇張したり、逆に最も深刻な地域の現実を伝えなかったりする。同じヘリに乗って映像を撮る各局は、過剰演出や誇張の誘惑に駆られる。そしてネパールのような国が「運良く」北米でニュースの少ない日に災害に見舞われなければ、報道の注目も集められない。

その後、記者たちは次なる被災地へと旅立ち、5月12日に発生した余震―本震で弱まった家屋をさらに倒壊させた―の際には、すでにほとんどの記者が帰国していた。

報道による現実の歪曲とは、事実を選択的に伝えることで真実が失われてしまうことである。事実は必ずしも真実を語らない。規模が大きすぎて画面に収まらない時、500人の村を丸ごと飲み込んだラングタンの雪崩のように、その惨状は視覚化できない。

今後の課題は、ネパールが復興を進める過程でも国際的関心を維持することだ。しかし、報道陣は去り、危機を伝える見出しも消えた。すでに、支援金も減少し始めている。(原文へ

INPS Japan/ Nepali Times

関連記事:

|視点|戦争と温暖化 (クンダ・ディキシットNepali Times社主)

|視点|考えられることを考える(クンダ・ディキシットNepali Times社主)

地球のための報道

忘れ去られた魚、チェル・スネークヘッド ― 約85年ぶりの再発見

【ニューデリーIPS=ディワシュ・ガハトラジ】

チェル・スネークヘッド(学名:Channa amphibeus)と呼ばれる魚が、85年以上の沈黙を破り、東ヒマラヤの生態系に劇的な復活を遂げた。最後に確認されたのは1938年のインド・ゴルバタン地域。今回、インド西ベンガル州カリンポン県の小村ゴルバタン近く、チェル川の源流域で再発見された。この川はテスタ川の支流である。

この魚は、1938年にイギリス植民地時代の動物学者ショーとシェベアによって採集されたのを最後に、何度も行われた調査にもかかわらず長く行方不明となっていた。再発見は2024年9月のことである。

リーダーとなった科学者プラヴィーンラジ・ジャヤシンハン博士(35歳)はこう語る。「2007年に水産学の学士課程でこの魚を知った時、これは神話か、別種の変異体かと思っていました。」

アンダマン諸島にあるICAR-CIARI(中央農業研究所)所属のプラヴィーンラジ博士は、インドの淡水魚の研究で数々の再発見や新種(19種)発見を行ってきたが、この魚には特有の困難が伴ったという。

2024年、友人から送られてきた動画がきっかけだった。「最初はCGかと疑いましたが、地元の人々の証言を頼りに場所を特定していきました。」

調査チームには、モウリサラン・ナッラタンビ博士(タミル・ナードゥ水産大学)、テジャス・タッカレイ氏(タッカレイ野生生物財団)、魚類分類学者N・バラジ氏(ムンバイ)、動物学を学ぶゴウラブ・クマール・ナンダ氏(オディシャ州)が参加した。

「実は絶滅ではなく“見えにくい”魚」

プラヴィーンラジ博士は語る。「この魚は実際には消えていたのではなく、非常に見つけにくい生態を持っている。土に潜る性質があり、雨季にしか姿を現さない。」

地元の聞き取りによって、チェル・スネークヘッドが生き残っていた理由も見えてきた。博士は「数十年間、誰も真剣に探そうとはしていなかった」と語る。

IPS:再発見の意義とは?
博士:絶滅したとされた魚が見つかったという事実は、自然界についての我々の理解がいかに限られているかを示している。ヒマラヤにはまだ未知の生物が多くいるはずだ。

IPS:調査の過程について教えてください。
博士:2024年9月にサンプルを採集し、まず生きた状態で高解像度写真を撮影した。色や模様を記録し、標本はエタノールやホルマリンで保存。鱗やひれの数を1938年の記録と比較し、DNA解析やX線で椎骨の数も確認した。通常数か月かかる工程を1か月で完了させた。

IPS:テスタ川流域の生物多様性への影響は?
博士:この地域の生物多様性は過小評価されている。新種発見の可能性は高いが、分類学研究に資金を出す機関がほとんどない。今回の再発見は、今なお理想的な生息環境が残されている証拠である。

IPS:ヒマラヤの川の現状は?
博士:ヒマラヤは約2,400kmに及び、ガンジス川、ブラマプトラ川、インダス川の源でもあるが、淡水魚の完全なチェックリストは存在しない。多くの小型・隠蔽種が見過ごされている可能性が高い。

IPS:人間活動の影響は?
博士:ダムや鉄道建設、道路、砂採掘などによる生息地破壊が進んでいるが、それでも魚は奥地の一部に残っている。

IPS:地元住民の役割は?
博士:この魚は「ブーラ・チュン」や「ボラ・チャン」と呼ばれ、妊婦向けの伝統食として珍重される。地元の人々はその採集方法を知っており、季節に応じて慎ましく採取しているため、大きな脅威にはなっていない。

IPS:保護啓発の必要性は?
博士:地元ではほとんど知られていなかったため、私たちのチームが生態や繁殖習性を共有し、持続可能な採集方法を促している。

IPS:観賞魚としての需要増の影響は?
博士:現在のところ、観賞用に採集されているのはごく一部で、主に食用である。茶園からの排水や汚染、インフラ開発の方が大きな脅威である。

IPS:政策面での提言は?
博士:インド政府や西ベンガル州・シッキム州は、繁殖プログラムや生息地回復プロジェクトを立ち上げ、定期的な放流(ランチング)を行うべきだ。

IPS:政策の欠点は?
博士:魚類は哺乳類や鳥類と同等の優先度で扱われるべきである。各州の研究機関は地元種の繁殖・保全に責任を持つべきだ。

IPS:再発見の意義と今後の展望は?
博士:淡水魚の分類学者はインドに6~8人しかおらず、圧倒的に不足している。生物多様性研究の強化と土着魚への注目が不可欠である。

IPS:今後の具体的な保全策は?
博士:まずは繁殖による保存が必要だ。観賞魚としての繁殖が進めば、野生で絶滅しても水槽内で種を残せる。無意味な保護法で禁止するのではなく、研究機関が主体的に繁殖に取り組むべきである。

IPS:科学者・地元・市民の協働について
博士:デジタル技術の時代、多くの人がSNSなどで新種や外来魚を報告している。研究者や市民の連携が進むことを期待している。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

|新型コロナウィルス|生物多様性と野生動物の保護につながる可能性も

「生存の種」:紛争下のスーダン、農業の未来を守るための闘い

水中の生命:アフリカにおける海洋生態系の保護と持続可能な漁業の推進

関税と混乱――トランプ貿易戦争がもたらした持続的な世界的影響

【メルボルンLondon Post=マジッド・カーン】

2025年4月、ドナルド・トランプ米大統領は、代表的な保護主義的貿易政策を再燃させ、第一次政権時に始まった貿易戦争をさらに激化させた。中国、欧州連合(EU)、カナダやメキシコなどの主要経済圏からの輸入品に対し、広範な関税を課すことで、米国の経済的利益を優先した国際貿易の再構築を目指している。政権はこの政策を米国の製造業再生、貿易不均衡の是正、知的財産の窃取や技術移転の強要といった「不公正な慣行」への対抗と位置づけたが、経済的影響はより複雑かつ広範に及んでいる。

トランプの関税政策は、2017年~21年の第一次政権時に施行された貿易戦争政策の延長線上にある。2018年には国家安全保障を名目に鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す「セクション232」関税が導入された。また、貿易法301条に基づき、中国からの約3700億ドル相当の輸入品に懲罰的関税が課され、米中間の貿易緊張はかつてないほどに高まった。これらに加え、北米自由貿易協定(NAFTA)は再交渉され、より厳格な労働・自動車生産ルールを盛り込んだ「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」が締結された。

こうした政策は米国の産業保護を掲げたが、経済データはより複雑な現実を示している。ペン・ウォートン予算モデルによれば、これらの関税は米GDPを長期的に6%、賃金を5%減少させるとされており、中所得層の世帯では生涯収入で最大22000ドルの損失となる可能性がある。また、ワシントン D.C. に拠点を置く国際的な研究シンクタンクタックス・ファウンデーションの報告では、これらの関税は「隠れた税」として機能し、2025年には米世帯あたり平均1300ドルの追加支出を強いることになると予測している。

このコストはサプライチェーン全体に影響を与え、消費者物価を押し上げている。電子機器や車両、食料品に至るまで、物価上昇により米世帯は年平均3800ドルの支出増が見込まれている。関税実施前の駆け込み需要によって一時的に小売売上高が伸びたが、持続的なインフレ圧力の前には影響は限定的と見なされている。

米国の金融市場への影響も深刻である。S&P500はピークから10%以上下落し調整局面に入り、ナスダックも2022年以来最も弱いパフォーマンスを記録した。企業収益の低下、サプライチェーンの混乱、景気後退への懸念が投資家心理を冷え込ませている。『タイム』誌は、こうした市場の動揺が米国の経済リーダーシップへの信頼低下を映し出していると指摘している。

国際的な反発も激しく、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコ、日本などは米国の一方的な措置を批判し、報復関税を実施または検討している。EUは米国産バイクやバーボンなどに32億ドル相当の関税を課し、カナダやメキシコも農業・工業製品を標的に対抗措置を取った。世界貿易機関(WTO)は、こうした報復の連鎖が世界貿易量を2025年に0.2%減少させると予測しており、自由貿易が維持されていれば見込まれた3%成長との差は明らかである。

とりわけ中国は今回の貿易戦争の中心にある。電子機器や鉄鋼、消費財に最大145%の関税が課されており、中国政府は対抗措置を宣言するとともに、EUやASEAN諸国との貿易関係強化に動いている。さらに、半導体やAI、再生可能エネルギーといった戦略分野で自立を目指す「双循環戦略」を推進中である。米中対立の激化により、アップルやサムスンなど多国籍企業が製造拠点をベトナムやインドに移転するなど、サプライチェーンの再編が加速している。

欧州もこの余波に巻き込まれ、米国との間で続くボーイング・エアバスの補助金問題など、長年の貿易紛争が再燃している。アジアの同盟国である日本と韓国も戦略の見直しを迫られており、日本の自動車メーカーは関税回避のため米国内での生産を拡大し、韓国は貿易協定の再交渉を進めた。

一方で、新興国の中には恩恵を受ける国もある。ベトナムは米国向け輸出を30%増加させ、2023年にはメキシコが中国を抜いてアメリカ最大の貿易相手国となった。これは製造業の回帰と、USMCAによる北米供給網の深化によるものである。

米国の農業分野への打撃も深刻である。中国による報復関税により特に大豆農家が大きな打撃を受けた。2018年には中国向け大豆輸出が75%減少し、77億ドルの損失が発生。これにより米政府は280億ドルの補助金を支給したが、その規模は政策の影響の大きさを物語っている。

バイデン政権下でもトランプ時代の関税の多くは継続されており、特に3000億ドル以上の中国製品への関税は維持されている。ただし、バイデン政権は「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」などを通じて多国間協調に軸足を移し、CHIPS法などの国内産業育成策を進め、半導体などの戦略産業での自立を図っている。

今後を見据えると、こうした保護主義政策の長期的影響はますます明らかになりつつある。一部産業への一時的な保護効果はあるものの、消費者、企業、国際関係への負担は大きく、インフレ圧力や同盟関係の損傷、グローバル機関の弱体化といった深刻な副作用を伴っている。その一方で、中国やベトナム、メキシコなどの国々は変化に柔軟に対応し、新たな機会を捉えている。

政権を超えて続くこれらの政策は、経済ナショナリズムと戦略的競争がもはや党派を超えた米国の通商政策の柱であることを示している。今後の国際経済秩序の中で、米国が安定性を取り戻し、成長を促進し、世界貿易におけるリーダーシップを回復するには、国家利益と国際協調のバランスを取る巧みな外交が不可欠である。(原文へ

INPS Japan/London Times

関連記事:

トランプ大統領の初月:情報洪水戦略

|視点|グワダルにおける米国の戦略転換(ドスト・バレシュバロチスタン大学教授)

中国とカザフスタン、永続する友情と独自のパートナーシップを強化

小規模農家は「受益者」ではなくより良い未来を創るパートナーだ

【ナイロビIPS=ナウリーン・ホセイン】

エリウド・ルグットさんは何世代にもわたる農家の家系に生まれたが、家族は彼が家を出て別の職業に就くことを期待していた。彼は経済学を学び、ビジネスやマーケティングの仕事に就いたが、COVID-19パンデミックで職を失い、実家に戻ることになった。そして彼は、家族の農場の生産性を立て直したいと考えた。

粟、ソルガム、トウモロコシなどを育てていた農場は、長年で生産量が60%も減少していた。これは家族にとって深刻な打撃であり、その原因の一部は気候変動による土壌劣化や害虫被害にあった。また、両親が同じ種と農法を何年も変えずに使い続けていたことも一因だった。

「母は新しいアイデアに前向きでした」とルグットさんは語る。母の後押しで、父から1エーカーの土地を借りることができた。父は当初、収入源が減ることを理由に強く反対したが、最終的には認めた。ケニアのルグットさんの地域のように、男性が土地の所有や使用において大きな権限を持つ社会では異例のことだった。

この1エーカーの土地で、ルグットさんは温室を建て、自身の農法や技術、新しい種を導入した。ピーマン、在来野菜、果物など、家族が育てていた穀物とは異なる季節に育つ作物を栽培したところ、大きな成果を上げ、収益も大幅に増加した。父は最初その結果が信じられず、夜中に何度も温室の周りを歩いて確認したという。

また、ルグットさんは父のためにYouTubeの農業動画を見せ、他の農家の事例を共有することで父の意識も徐々に変わっていった。

ルグットさんはこうした経験を活かし、現在は小規模農家向けにスマート技術を搭載したサイロを製造・販売する「Silo Africa」の共同創業者として活躍している。これは家族の農場で害虫やコクゾウムシによる被害を防ぐための工夫が原点となっている。現在はケニア国内だけでなく、アフリカ全土への展開を目指している。

2022年、ルグットさんは潘基文世界市民センター(BKMC)の「ユース・アグリ・チャンピオンズ・プログラム」に参加し、それが人生の転機となったという。食と農業に関する気候対策やインパクトの拡大について学ぶ中で、仲間たちと土地所有の問題や農業実践について共通の課題を共有し、ベストプラクティスを分かち合った。

最も重要だったのは、BKMCが「自分たちの声を届ける場を与えてくれたこと」だとルグットさんは語る。「私たち若者には、声を上げる機会がこれまでなかったのです」と。

彼はCOP28などの国際会議にも参加し、世界の指導者や学者、政策立案者たちと同じ舞台で意見を述べることができた。初めは緊張したが、若い農業者も「自分たちの課題を伝えることができる」と知った。そして、その視点には重みがあると確信した。

小規模農家についての誤解を払拭できたことも嬉しかったという。農家は「学ぶ意欲がある」。気候変動の影響を受けながらも、既に適応の努力を重ねている。ただし、必要なのは「情報へのアクセス」であり、研究者たちにはその情報を現場に届く形で「翻訳」してほしいと訴える。

毎年、ユース・アグリ・チャンピオンズは国連気候変動会議で「要求文書(デマンドペーパー)」を提出し、気候資金の増加、能力開発、気候スマート技術へのアクセス拡大を求めている。「この文書が、そして私たちの代弁者が、私たちの声となってくれている。」とルグットさんは語った。

ただし、国連気候変動会議や国際農業研究機関(CGIAR)の科学週間などの場でも、農業の研究や支援を行う団体の関与はあるものの、当事者である農家──「受益者」と呼ばれる人々の参加はまだ少ない。発表される研究や解決策は、技術的な専門用語で語られ、一般の農家には届きにくいとルグットさんは指摘する。

「研究者、科学者、ドナーにしかわからない言葉で語られている。」と彼は言う。「だが、技術を必要とする当事者──“受益者”と呼ばれている人々──は、その場にいない。十分とは言えないが、これが私たちの出発点だ。」

「若者として、小規模農家として、私たちは『受益者』として見られがちです。しかし、私たちは単なる受益者ではなく、『より良い未来を創るパートナー(共に変革を担うパートナー)』です。私たちは非常に革新的であり、この業界のさまざまな関係者と対等な立場で協力し、農業をより良くしたいと考えています。」

農家を「解決策を待つ存在」と見なすのは危険だ。なぜなら、実際には現場の農家こそが日々革新し、貢献しているからだ。厳しい環境下で食料不安と向き合う彼らは、課題に最前線で取り組んでいる。

ルグットさんは、若い農家たちは食料安全保障をめぐる進歩と革新の担い手だと強調する。そのためには、政府、金融機関、農業関連のNGOなどのさらなる支援が必要だと語る。「大きなオフィスで働いている人たちは、毎日3食食べている。その3食を保証しているのは私たちだ。―それでも私たちは“受益者”なのだろうか? それとも変革の“担い手”なのか?」(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU REPORT

関連記事:

国連の未来サミットに向けて変革を求める青年達が結集

プラスチックを舗装材に変えるタンザニアの環境活動家

|ジンバブエ|ペットボトルでレタス栽培

外交官としてのフランシスコ教皇──その個人的な出会いは世界へと広がった

【ワシントンDC/RNS=ヴィクトル・ガエタン】

歴代教皇の中でも最多の外遊を重ねた一人となったフランシスコ教皇は、かつては旅行を避け、週末にスラム街を訪れる程度だったことで知られていた。しかし彼は、常に予想を覆す存在だった。

2013年3月にアルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオがフランシスコ教皇として即位したとき、世界的な外交手腕を発揮するとは多くの人が予想していなかった。ブエノスアイレス大司教として、彼は外国への渡航を避けていた。なぜなら教区(スペイン語で「mi esposa(私の妻)」と呼んでいた)を離れることを好まなかったからだ。公共交通機関を利用し、週末には地元のスラム街に足を運ぶことを選んだ彼は、やがて世界を巡る教皇となった。

彼は「周縁(ペリフェリーア)」──ローマや欧米の権力の中心地から遠く離れた地域──を優先し、欧州にありながら普遍的な視点を持つ独立した存在としてバチカンの姿を回復させた。あまりに独立した彼の姿勢に、西側の諜報機関は警戒し、教皇選出前から監視し、中傷キャンペーンを展開したほどだった。

フランシスコの外交は、しばしば言語の壁を超えた象徴的なジェスチャーによって伝えられ、信仰を越えた国境をまたぐ新たな関係を築いた。

彼は外交的孤立政策に従うことも拒んだ。東西冷戦の緊張が再燃する中でも、フランシスコはロシア正教会のキリル総主教に「どこでも会いましょう」と申し出た。この願いは2016年、ハバナの空港で2人が歴史的な初会談を果たすことで実現した。会談は中東とアフリカにおけるキリスト教徒の虐殺に立ち向かう共通の努力によって実現された。

ロシアのウクライナ侵攻後も、フランシスコはキリルやロシアへの直接的批判を避け、「キリスト者同士の兄弟殺しの暴力」と表現した。NATOの「ロシアの扉を叩くような行動」が侵攻の一因になったとの発言により批判も受けた。

外交の土台は、前任のベネディクト16世とは異なり、彼のアルゼンチン時代の経験にある。36歳という若さでイエズス会アルゼンチン管区の責任者に任命され、1974~83年の「汚い戦争」時代には、反体制派の人々をかくまい、国外へ逃がした経験を持つ。

Pope Francis, left, and Russian Orthodox Patriarch Kirill exchange a joint declaration on religious unity in Havana on Feb. 12, 2016. (AP Photo/Gregorio Borgia, Pool)

この経験により、彼は人間の尊厳を重視し、イデオロギーへの不信感を持つようになった。そして、政治家ではなく牧者として人々に寄り添う姿勢を貫いた。

2007年、ブラジル・アパレシーダで開催された中南米司教会議では、ベルゴリオ枢機卿が最終文書を編集。「福音の宣教者としての弟子たれ」と呼びかけたこの文書は、彼の教皇職の設計図とされる。

イエズス会士として初の教皇となったベルゴリオは、教会を「快適圏」から連れ出す運命にあった。教皇最初の使徒的勧告『福音の喜び(Evangelii Gaudium)』では「周縁に出向くように」と信徒に呼びかけた。

教皇名「フランシスコ」の由来となったアッシジの聖フランシスコもまた外交官だった。1219年、聖地でイスラムのスルタン、マレク・アル・カミルと会談した逸話は有名である。

2014年、イタリア国外で最初に訪問した欧州の国はアルバニア。最大宗教がイスラム教のこの国を選んだのは、宗教間の調和を示すためだった。

Pope Francis greets Sheikh Ahmed el-Tayeb, the grand imam of Egypt’s Al-Azhar, after an interreligious meeting at the Founder’s Memorial in Abu Dhabi, United Arab Emirates, on Feb. 4, 2019. (AP Photo/Andrew Medichini)

イスラム世界への働きかけは、単なる対話以上の意味を持っていた。宗教を通じて平和を築こうとする意志だった。ベネディクト16世の発言が原因で2011年に断絶していたアズハル大学のアフマド・タイーブ総長との関係も、2015年の謝罪特使派遣、16年のバチカン招待、17年のカイロ訪問を経て修復された。

そして2019年、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビにおいて「人類の友愛に関する文書」に共同署名。宗教の名を利用した暴力と過激主義に対抗する協力を宣言した。

その流れの中で、2020年の回勅『フラテッリ・トゥッティ(すべての兄弟たち)』が生まれ、教皇はバーレーン、バングラデシュ、イラク、ヨルダン、モロッコ、オマーン、UAEなどのイスラム諸国とも関係を深めた。

2021年、教皇はイラクの聖地ナジャフでシーア派の最高権威アリー・シスターニ師と会談。細い路地を歩いて訪問し、米国による「占領者」としての面会を拒んできた同師と誠実な対話を実現した。

Grand Ayatollah Ali al-Sistani, left, meets with Pope Francis in Najaf, Iraq, on March 6, 2021. (Photo courtesy of Office of the Grand Ayatollah Ali al-Sistani)

2019年には南スーダンのキリスト教徒である大統領と副大統領3人をバチカンに招き、内戦後の和解を促す黙想会を開いた。そして会議後、彼らの足元にひざまずき、一人ひとりの足に口づけするという驚くべき謙遜の行動をとった。

2014年のベツレヘム訪問では、イスラエルの分離壁の前でポープモービルを降り、赤い「フリーパレスチナ」の落書きの上に手を当て祈りを捧げるという、全世界に中継された象徴的な行為もあった。イスラエル・ハマス戦争後には、ガザ唯一のカトリック教会へ毎晩電話をかけ続け、最後の電話は4月19日、彼の死の2日前だった。

外交は通常、秘密裏に行われるが、フランシスコはその実践を広く開かれたものとした。経済的・軍事的利害から自由なバチカンは、万人の共通善を追求できる存在として、政争に巻き込まれることなく行動した。教皇フランシスコは『福音の喜び(Evangelii Gaudium)』の中で、外交団や信徒に向けて、世界との関わりにおいて指針となる4つの原則を示している。各原則がどのように実践されたかを簡単に見ることで、それらの意味がより具体的になる。

第一に、「時は空間に勝る」。
教会は、神の働きは歴史の中に現れると信じているため、キリスト者の務めは結果を操作しようとするのではなく、善いプロセスを始めることにある。やがて時が経つにつれて、前向きな結果が現れるのだ。

A priest holds a sacrament bowl showing a photograph of Pope Francis at a Holy Mass at the John Garang Mausoleum in Juba, South Sudan, Feb. 5, 2023. (AP Photo/Ben Curtis)

その精神に基づき、フランシスコ教皇の外交チームは、1980年代から交渉が続いていた「司教任命に関する中国との合意」にこぎつけた。米国のマイク・ポンペオ国務長官などから批判を受けたものの、この合意は、使徒たちにまでさかのぼる司教職の継承を維持するという、カトリックの秘跡の一貫性にとって極めて重要な要素を守った。また、中国国内で並立していた「公認教会」と「地下教会」という2つの教会構造の分断を癒す第一歩にもなった。この合意により、これまでに11人の司教が共同任命されている。

次に、「現実は観念に勝る」という原則がある。
この考えは、2014年にバチカンが仲介した米国とキューバの国交正常化において明確に示された。両国間には深い不信感があったが、ローマは保証人として介入した。フランシスコにとって、過去のイデオロギー論争は、キューバとアメリカ双方の人々の最善の利益には関係のないものだった。

第三に、「一致は対立に勝る」という原則がある。
2016年、コロンビアの和平交渉が決裂寸前となった際、当時の現職大統領と前大統領の対立が一因だった。フランシスコ教皇は両者をローマに招き、2人のカトリック信徒の助けも得て、霊的権威による説得を試みた。その6か月後、コロンビア政府と主要な反政府組織FARCは和平協定に署名。教皇は約束通り、その3か月後に現地を訪問した。こうして「一致」が確認された。

最後に、「全体は部分の総和よりも大きい」という原則がある。
ウクライナにおける教皇の外交努力は、主に西側諸国が対話を放棄したことで挫折を重ねた。教皇は、キリスト教全体が神聖なものであることを伝えようとし、争う派閥間でも平和が見出されるべきだと訴え続けたが、その在位中、情勢は対立へと向かっていた。それでも教皇は、すべての人々への人道支援を継続した。

そして、モスクワとワシントンという主要な当事国が外交によって戦争の終結に再び乗り出したとき、フランシスコ教皇の姿勢は正しかったことが証明された。(原文へ

(ヴィクター・ガエタン氏は『ナショナル・カトリック・レジスター』の上級特派員であり、2021年刊行の著書『God’s Diplomats: Pope Francis, Vatican Diplomacy, and America’s Armageddon(神の外交官たち─フランシスコ教皇、バチカン外交、そしてアメリカのハルマゲドン)』の著者である。本稿に示された見解は、必ずしもRNS(Religion News Service)の公式見解を反映するものではない。)

INPS Japan/RNS

関連記事:

|第7回世界伝統宗教指導者会議|ローマ法王、多民族・多宗教が調和するカザフスタンのイニシアチブを祝福

|視点|日本とバチカン: 宣教師から巧みな外交へ(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

|核兵器なき世界| 仏教徒とカトリック教徒の自然な同盟(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

バチカン会議、「持続可能な開発」と「核兵器禁止」のネクサス(関連性)を強調

|バーレーン対話フォーラム|宗教指導者らが平和共存のための内省と行動を訴える

フランス、英国・米国と一線を画し、パレスチナ国家承認へ

【国連IPS=タリフ・ディーン】

国連の中でも最も強力な政治機関である安全保障理事会の常任理事国(拒否権保有国)の一つであるフランスは、他の西側常任理事国である米国・英国と立場を分かち、パレスチナを国家として承認する方針を示している。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、今後数か月以内にパレスチナ国家を承認する意向を示し、6月にニューヨークで開催予定の国連会議に合わせてそれを実現する可能性に言及したと報じられている。

Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency
Photo: France to form a commission for reconciling with Algeria. Credit: Anadolu Agency

現在、国連加盟193か国のうち、147か国がパレスチナを主権国家として承認しており、その多くはアフリカ、アジア、中南米、中東諸国である。一方、米国、英国、フランス、ドイツ、日本などの主要西側諸国は依然として承認していない。

パレスチナは2012年11月以来、国連総会における「オブザーバー国家」の地位を有しているが、正式な国連加盟は米国による拒否権により阻まれてきた。

米国は長年、パレスチナの一方的な国家承認に反対しており、フランスの動きがあったとしても、その立場を変える可能性は極めて低い。

4月10日、米国務省のタミー・ブルース報道官は記者団に対し、「フランス政府の発言については承知しており、詳細はフランスに問い合わせてほしい」と述べた上で、「米国はイスラエルと共に、人質全員の解放とハマスの打倒を目指している。」と強調した。

さらに、米国の特使ウィトコフ氏の言葉として、「現在進行中の議論を見てほしい。」「私たちは今、ガザにとって何が最善か、人々の生活をどう改善できるかについて、実りある対話を行っている。この政権は、ガザに平和をもたらし、人質全員(その中にはエダン・アレクサンダーを含む5人の米国人も含まれる)の解放を確保するため、地域のパートナーと引き続き真剣に協力していくつもりだ。」と語った。

一方、サンフランシスコ大学の政治学教授スティーブン・ズネス氏は、「パレスチナ国家承認に関する質問に対して、ハマスの名前を持ち出すのは奇妙だ」と指摘。ハマスはパレスチナ自治政府(PA)とは異なる武装勢力であり、10月7日の攻撃とも無関係であるとした。また、アブラハム合意を強調することは、イスラエルの占領終結やパレスチナ国家樹立と引き換えにイスラエルを承認してきたアラブ諸国の従来の立場と対立するものだと批判した。

ズネス氏はさらに、トランプ政権とバイデン政権の間にこの問題に関する本質的な違いはないと述べ、2024年には米国がパレスチナの国連加盟を支持する安保理決議を拒否権で阻止したことを挙げた。米国はまた、「パレスチナは国家ではない」として、国際刑事裁判所(ICC)がガザやパレスチナにおける戦争犯罪を裁く権限を持たないと主張した。

ジャダリーヤ誌共同編集者ムーイン・ラバニ氏は、フランスがサウジアラビアと共催する6月の国連会議でパレスチナを承認する可能性があるが、実際に実行するかは不透明だと述べた。マクロン大統領の発言は一貫性に欠け、イスラエルの中東諸国による承認やパレスチナ政治からのハマス排除など、非現実的な条件を付けていると指摘した。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.

ラバニ氏は、「パレスチナ国家承認を掲げながら、実際にはイスラエル国家のみを認め、50年以上続くイスラエルの占領政策に何の制裁も課してこなかったフランスの姿勢は、説得力に欠ける。」と述べた。

さらに、マクロン大統領が戦争犯罪で起訴されているイスラエルのネタニヤフ首相の米国渡航のためにフランス領空を開放したことに触れつつ、そのネタニヤフ首相と息子ヤイル氏がマクロン氏をヴィシー政権のペタン元帥に例え、「くたばれ」と罵倒したことについて、「パリでは依然としてイスラエルが無条件に免責されている。」と批判した。

また、『パレスチナ・クロニクル』編集長のラマジー・バロウド博士は、フランスによる国家承認は興味深い動きである一方で、現在の状況ではその意義は限定的だと語った。「ガザでの壊滅的な戦争犯罪が17か月以上続き、西側諸国がそれを支持した今となっては、このような承認は象徴的、あるいは機会主義的とすら見える可能性がある。」と述べた。

バロウド氏は、2024年にノルウェー、スペイン、アイルランドがパレスチナを承認したことはパレスチナ人にとって精神的な励ましにはなったが、実際の状況改善や米・イスラエルの政策転換にはつながらなかったと指摘した。

さらに、フランス政府が本気で「パレスチナ支持」に転じるのであれば、フランス国内でパレスチナ連帯運動に取り組む市民活動家が自由に活動できる環境を保障すべきだと述べた。「現在の承認の動きは、過去と現在の対パレスチナ政策から目を逸らすための政治的操作と受け取られかねない。」と警鐘を鳴らしている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN BUREAU REPORT

関連記事:

イスラエルとパレスチナ――悲しみの壁を乗り越える

エジプトにおけるパレスチナ難民の複雑な力学: 微妙なバランス感覚

|視点|あるパレスチナ人の回想(平和・人権活動家マーゼン・クムスィーヤ)