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性差から見る気候と紛争の関係

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トビアス・イデ】

この数年、気候変動がもたらす安全保障上の影響が重大な政治課題として浮上している。例えば、国連安全保障理事会は2023年2月、海面上昇に伴うリスクについて議論を行った。同様に、女性・平和・安全保障の課題は、多くの国連機関、各国外務省、援助機関、NGOの垣根を超えた課題である。また、いずれの主題領域についても、詳細な研究がいっそう進められている。平和と紛争における女性の役割は、政治科学研究において顕著に取り上げられており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書では、気候関連の紛争リスクがさまざまな章で論じられている。(

これまでのところ、気候変動と紛争に関する論議、そして女性・平和・紛争をめぐる議論は、おおむね別々の場でなされていると筆者は考えている。この二つのテーマに交わり合う部分が多くあることを認識し、互いの取り組みを補強し合うどころか、両問題の専門家の間にはほとんど交流がない。国連モナシュ大学による報告のような注目すべき例外は極めて少なく、また、依然として人間の安全保障に強く力点を置いている。

しかし、これまでの限られた研究や議論からでも、明白なことが一つある。ジェンダーは、気候と紛争の関係の重要な側面であるということだ。

例えば、筆者の最近の研究では、反政府グループに女性メンバーが多い場合、気候関連災害の後に暴力がエスカレートする可能性がより高く、戦闘を縮小する可能性がより低いことが分かった。その理由は、女性が追加的な労働力と戦闘力を提供するからである。また、民間人との関係構築(災害後に反政府勢力が支援を頼る可能性がある)や情報収集(災害後の急速に変化する状況において鍵となる)といった特定任務の遂行において、女性はしばしば男性より力を発揮する。例えば、2004年のインド洋津波の後、タミル・イーラム解放の虎(LTTE)はスリランカ政府への攻撃を強めた。大きな理由は、情報収集役と、死亡した男性戦闘員に代わる要員に女性メンバーを頼ることができたからである。2010年の洪水で同様の状況にあったパキスタン・タリバン運動は、女性メンバーを認めておらず、資源と人的(女性)パワーの欠如のために戦闘規模を縮小した。

同様に、チャドのような国では、コミュニティーや家庭で気候変動に対するレジリエンスを構築するうえで、女性は極めて重要な役割を果たしている。例えば、追加の食料を庭で育てる、地元の水資源を管理する、あるいは異常気象の後に医療を提供するなどである。同時に、気候変動の影響は女性たちのこうした働きを低下させる。例えば、出て行く男性に代わって追加の仕事を引き受けなければならない、あるいは水や薪を手に入れるために長い距離を歩かなければならないといった場合である。このように、ジェンダーによる労働分担と気候変動の影響は、女性が気候回復力を作りだし、地域開発を促進する働きを低下させる。そして、回復力の低さや気候変動による生計への悪影響は、虐げられ、絶望的になった人々がボコ・ハラムのような過激派集団に加わる傾向をいっそう強める恐れがある。そのような集団は収入を与え、権力を握れば暮らしを良くしてやるという(多くの場合は内実のない)約束を与える。

しかし、ジェンダーとは、ただ女性を参画させればいいという問題ではない。ジェンダーとは、「男性」または「女性」であることに伴う社会的な規範、期待、力関係である。ケニア北部では、コミュニティー間の家畜略奪とそれに伴う暴力紛争が大きな安全保障リスクとなっている。気候変動は、肥沃な土地と水をめぐる争いや干ばつ期の牧畜民の移動パターンの変化により、これらの紛争を激化させる可能性がある。しかし、これらの紛争は性差による役割とも深く関係している。男性は、結婚するために資金を支払い、社会の成人構成員と見なされることが期待されている。家畜略奪は、結婚資金を得る一つの機会なのである。また、これらの社会では、優れた戦士であることが男性の魅力や家族を養う能力を示すものと見なされており、女性は暴力的な家畜略奪に加わることを拒否する男性をばかにすると報告されている。同じような力学が、ナイジェリア南スーダンウガンダの牧畜民コミュニティーでも起こっている。そのため、これらの地域で発生する牧畜民の紛争は本質的に政治経済的闘争であり、気候変動によって激化しているが、根本的にはジェンダー規範によって引き起こされているのである。

今後、ジェンダー専門家と気候専門家が平和と紛争の分野で協力を行えば、さらに多くの知見、事例、優れた実践が生まれるだろう。例えば、家父長制的なジェンダー規範(女性の主体性と土地を入手する権利を制限し、それゆえに彼女たちの不満を高めるもの)と異常気象(女性の生計手段を損なうもの)はいずれも、女性たちが武装グループに加わる動機になる可能性がある。従って、ジェンダー規範の変容「だけ」あるいは生計手段の保証「だけ」を目指す政策は、それらを組み合わせ、統合しない限り、反政府集団のリクルートを抑制するには十分ではないだろう。そのような洞察を実現し、十分な政策対応を策定するために、学者と実務家がそれぞれの縦割りの快適領域から抜け出て、ジェンダー、気候、紛争について統合的見地から話し合いを始める必要がある。

トビアス・イデは、マードック大学(オーストラリア・パース)で政治・政策学講師、ブラウンシュバイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。

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2024年の主要優先課題: グテーレス事務総長、世界平和推進における国連の役割を強調

【国連ATN(American Television Network)】

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、総会での演説で世界の指導者たちに厳しいメッセージを発し、平和と持続可能な開発の緊急の必要性を強調した。

紛争の激化、不平等の深刻化、環境の悪化を背景に、グテーレス事務総長は、こうした差し迫った世界的課題に対処するために加盟国が協力して行動する重要性を強調した。事務総長は、平和と安定の促進における国連の基本的役割を強調し、加盟国に対し、国連創設の理念を再確認するよう呼びかけた。

グテーレス事務総長は、国連安全保障理事会の実効性と代表性を高めるための改革など、2024年における一連の優先課題を説明した。また、若者を意思決定プロセスに有意義に関与させる必要性や、新たなテクノロジーがもたらす機会とリスクに対処するためのグローバル・デジタル・コンパクト(国連事務総長により2021年9月に提出された報告書「我々の共通の課題(Our Common Agenda)」中に記載された12のコミットメントのうちの一つ:INPSJ)の設立の必要性を強調した。

事務総長はまた、公海条約や気候正義に関するイニシアティブの進展など、最近の外交的成果を評価する一方で、世界各地で紛争や人道危機が続いていることにも注意を喚起した。ガザ、ウクライナ、サヘル、イエメンなど、紛争の影響を受けている地域の苦しみを和らげ、安定を回復するための迅速かつ果断な行動を求めた。

さらにグテーレス事務総長は、新型コロナウィルス感染症の世界的流行と地政学的緊張によって悪化した、発展途上国が直面している経済的課題に焦点を当てた。事務総長は、これらの国々の緊急のニーズに対処し、すべての人のための包括的で持続可能な開発を確保するために、国際的な支援を強化するよう呼びかけた。

気候変動がもたらす存亡の危機に直面し、グテーレス事務総長は、世界の指導者たちに対して排出量を削減し、再生可能エネルギーへの移行を加速させる努力を強化するよう促した。また、確固たる排出削減目標やクリーン・エネルギー・インフラへの投資拡大など、野心的な気候変動対策の必要性を強調した。

Photo: The UN General Assembly Hall. Credit: Manuel Elias/UN.
Photo: The UN General Assembly Hall. Credit: Manuel Elias/UN.

最後にグテーレス事務総長は、世界規模での平和、繁栄、持続可能性の推進に対する国連の揺るぎないコミットメントを改めて強調。国際社会に対し、こうした共通の目標を達成するために協力するよう呼びかけるとともに、今後の課題にはすべての利害関係者の一致団結した果断な行動が必要であることを強調した。

世界が無数の複雑な課題に取り組む中、グテーレス事務総長の演説は、来るべき世代のより平和で豊かな未来を形作る上で、多国間協力と集団行動が極めて重要であることを痛感させるものとなった。(原文へ

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北朝鮮の核危機を打開する道はある

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

昨年11月、事実上戦争状態にある北朝鮮と韓国の危険な軍拡競争は、さらに数段階引き上げられた。韓国は、2018年に北朝鮮との間で国境沿いでのすべての軍事演習を停止することに合意した安全保障協定を破棄すると発表した。

韓国は、北朝鮮が弾道ミサイル技術の使用を禁止する国連安全保障理事会決議に違反して軍事偵察衛星の打ち上げを決定したことに対する報復として、このような措置をとった。今年に入り、双方の言論戦はさらにエスカレートしている。1月23日の報道によれば、北朝鮮は南北統一を象徴する「祖国統一三大憲章記念塔」を取り壊した。

平和構築のイニシアチブは現れては消えている。ジョー・バイデン政権も、この取り組みにおけるパートナーである中国政府も、水面下で足踏みをしているように見える。

大統領選後すぐにバラク・オバマ大統領がドナルド・トランプ氏をホワイトハウスに呼んで何が話されたか、私たちは窺い知ることができない。しかし、知らされたことがひとつだけある。それは、オバマ大統領がトランプ氏に対して、彼が直面する問題の中で北朝鮮問題が最も緊急で最も難しい、と語ったということだ。それは今も変わらない。トランプ大統領は2018年、シンガポールで金正恩委員長と首脳会談を開催したが、実質的な進展はなかった。一方バイデン大統領は、この問題に着手さえしていない。

しかし端的に言えば、米国は好機を逸してしまった。済んでしまったことはしかたがないが、5人の歴代大統領(クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデン)が躊躇に躊躇を重ね、次々と機会を逃すうちに、北朝鮮は、核兵器を持っていない状態から、少なくとも40~50発の核兵器を保有する状態にまでなってきたのである。北朝鮮は現在、米国を攻撃できると言われる大陸間弾道ミサイルを数発保有している。専門家たちは、北朝鮮がこれらのロケットの先端に装着可能な核弾頭を小型化したと考えている。

西側の政治家の多くは異論を唱えるだろうが、ひとつだけ確かなことがある。つまり、米国が初期の合意を遵守していれば、北朝鮮が核保有国になることはなかったということだ。

ビル・クリントン政権は、北朝鮮がそれまで進めていた核開発プログラムを凍結して、より核拡散の恐れが少ない軽水炉に置き換え、段階的に米国と北朝鮮の関係を正常化していく「米朝枠組み合意」の下で交渉した。これに基づき、米国は北朝鮮に、電気しか製造できない軽水炉の建設を開始した。しばらくの間、北朝鮮はアジアで米国が援助を行う主要な相手だった。クリントン大統領が平壌に遣わせたオルブライト国務長官は現地で歓待を受けた。北朝鮮は態度を軟化させた。

ビル・クリントン大統領は退任直前、北朝鮮との協議がまとまる寸前だと考えていた。しかし、大統領任期の最終盤で、パレスチナに和平をもたらすと思われた重要なアラブ・イスラエル協議に力を入れざるを得なかった。(言うまでもなく、それは実現しなかった。)同時に、議会共和党は、北朝鮮との間ですでになされた合意を空文化させる努力に余念がなかった。

その後政権を引き継いだジョージ・W・ブッシュ大統領は、国務長官であり元統合参謀本部議長のコリン・パウエル氏や、ほとんどの政治学者・国際関係学者等の意見を無視して、全てをひっくりかえした(これはイラク戦争に踏み切るよりも悪い過ちだった)。北朝鮮はこうしてそれ以降、核兵器開発の作業を完遂することを決意したのだった。

米朝間の対立は不安定なものだ。米軍は、もし米軍が北朝鮮を攻撃すると、北朝鮮はその武器庫にある通常兵器のロケット弾を韓国に向けて発射し、飛行時間にしてわずか2、3分の距離にあるソウルを破壊することを知っている。

一方、北朝鮮が核弾頭を搭載したロケットを1発でも米国に向けて発射すれば、米世論の大多数が大規模な報復核攻撃を支持するであろうことを、北朝鮮軍は知っている。

ブッシュ大統領は、元統合参謀本部議長のコリン・パウエル国務長官や、政治学や国際関係の専門家らが、イラク戦争を開始するよりもさらに悪い政治判断だとして反対を表明したにもかかわらず、クリントン前政権の北朝鮮との対話路線を一蹴した。北朝鮮はそのとき初めて、核爆弾の製造作業を完了させることを決断した。

クリントン大統領の「米朝枠組み合意」の時代に時計を巻き戻すことはできないが、新たな枠組み合意をゆっくりとではあるが創り出すことはできる。しかしまずは、最終的にソ連を弱体化へと導いたのと同様の手法を用いて北朝鮮との関係を「改善する」ことが必要だ。それには、米国のサッカーチームやニューヨーク市バレエ団の定期訪問や、数学や政治学・人権を教えるハーバード大学のサテライトキャンパスの建設(中国の大学でやってきたこと)といったような、文化・教育・スポーツ面での交流が有効だろう。

そのうえで米国は、北朝鮮が本当に望んでいる2つのことに同意しなければならない。つまり一つ目は、1953年に休戦協定で終了したに過ぎない朝鮮戦争を正式に終結させるための平和条約に関する協議を開始すること。もう一つは、朝鮮半島周辺における米軍の軍事演習を制限することである。

罵り合いはもう必要ない。必要なのは、平和的解決の模索に乗り出すことだ。前向きであることは容易ではないが、結局のところ、前進と後退を繰り返した紆余曲折の年月を経て、重要なのは「情報に基づいた楽観主義(Informed Optimism)」なのだ。意志あるところに必ず道は開ける。そして今、多くの失敗を経て、私たちは進むべき道を知っている。残念ながら、現実的なことを言えば、共和党が米国の上下両院で少数派になるまでは実現しないだろう。そうでなければ、共和党は大統領主導のいかなる合意も妨害するだろう(原文へ

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|タイ|子どもたちをスマホから遠ざけるための農場体験

【コンカエン(タイ)IDN=パッタマ・ビライラート】

ナリンティップさんは看護師として13年の経験を持ち、3歳と5歳の2児の母親でもある。夫は40歳で、ほとんどの時間を画面を見て過ごすユーチューバーだ。ナリンティップさんにとっては、インターネット漬けの夫の生活は心配の種で、子どもたちが夫の轍を踏むのではないかと気が気ではない。

彼女は子どもたちを携帯電話から遠ざけたかった。彼女は、携帯電話中毒の子どもは発育が遅く、長時間集中できなかったり注意散漫になる傾向があることをよく知っていた。

子供たちを屋外に連れ出し、野菜を植えたり、鶏に餌をやったり、砂や泥で遊んだり、水に飛び込んだり、庭で走り回ったりした。当初、彼女は子供たちの関心を携帯電話から自然に引き離すつもりだった。その後2017年、彼女は社会的企業であるファーム・バーンノーク・アカデミーを設立することで、その試みを実現した。

農場は、タイ北東部のコンケーン国際空港からわずか20分のところにある。子どもたちに持続可能な開発と人生にとって重要なスキルについて教える有機農場だ。

2023年の「スクリーン時間」(注:スマホやパソコン、ゲームなどの画面を眺めている時間のこと:INPSJ)の世界全体の平均は1日6時間58分であり、2013年より約50分長かった。子どもにセラピーを提供している米国の団体「クロスリバーセラピー」によると、0~2歳の子どもの半数がスマホをいじっているという。同時に、インドのビジネスデータ提供会社「デマンドセイジ」によると、タイ国民は1日平均5時間28分をスマホに費やしている。

インターネット利用と職業

IDNが2022年、タイ人のインターネット利用時間と職業の相関関係を調べたところ、公務員は1日平均11.7時間、次いで学生が8.57時間、フリーランスが7.4時間だった。

ナリンティップさんは、「6年前、自分の子どもをここに連れてきて畑を耕させました。この0.79エーカーの区画を自分たちで面倒見させたのです。子どもたちのお陰で、田んぼを耕していた自分の子ども時代のことを思い出すことができて、子どもたちにも都会で農村生活を送らせようと思ったのです。すべての活動をSNSに載せたところ、私の農場への関心が高まって、結局『バアノアク農場アカデミー』を立ち上げることになりました。」と語った。

彼女は看護師の仕事を辞め、子どもたちの健全な成長と「足るを知る経済」の推進に時間を捧げた。「 足るを知る経済」とは、タイの故プミポン国王が、あらゆるレベルでバランスのとれた安定した発展を実現するために提唱した理念である。

今日、タイの小学校では「足るを知る経済」という概念を教えている。「私たちの学校はコンケーン市内にあり、敷地も限られているため、子どもたちにタイの農業や『足るを知る経済』の哲学に沿った農業について教えるには十分なスペースがありません。ですから、私たちは生徒たちをバーナオク・アカデミーに連れて行き、国の基幹である農業体験をさせています。」とコンケーン市の小学校で教鞭をとるレウタイテップ・ブーンリトラクサ氏は語った。

農場には全部で14のステーションがあり、それぞれが自然教室として機能し、生徒や訪問者たちは家庭で応用できる新たなライフスキルを学ぶことができる。

Photo-2: Children build an earth house

ステーション1:ニワトリやアヒルの卵を集める。ニワトリ・アヒル・魚・ウサギ・ネズミにえさを与える。

ステーション2:光合成微生物のための有機野菜栽培

ステーション3:コンポストやミミズコンポスト(ミミズ堆肥)の製作。(リサイクル水ボトルハウスの項を参照)

ステーション4:携帯電話によって制御された菜園への自動水やり

ステーション5:土壁づくりと絵描き

ステーション6:コメ、田の耕し、コメの育苗、田作り、苗植え、コメの収穫、脱穀

ステーション7:泥すべり台、砂遊び、木登り

ステーション8:炭火焼のピザ、パパイヤサラダ、オムレツ、チャーハン、アイスクリーム作り

ステーション9:心肺蘇生法と応急手当のトレーニング、漢方学習

ステーション10:天然の藍を費用日田絞り布や旗作り

ステーション11:アート。陶器への絵付け、環境にやさしい布袋への絵付け、粘土工作

ステーション12:ハーブ石けん、アロマを利用した蚊除けスプレーづくり

ステーション13:桑の実を使用したジュース・スムージー・ジャム・ワイン造り

ステーション14:瞑想とヨガ。子どものリーダーシップ強化プログラム

農場体験をした5年生のピチャイ・ヨドチムさんはIDNの取材に対して、「1日の体験を楽しみました。土壁を作ったり泥遊びをしたりするのは初めてだったけど、楽しくて、教室で勉強するより良いと思いました。また来たいです。友達のソムサクさんは、ミミズが土壌の水はけをよくするということを学んでいました。驚いていた様子でした。」と語った。

引率教員のレウタイテップさんは、「子どもたちを連れてきたのは3回目です。ここでは伝統的なタイの農業が学べるし、子どもたちは、新しいことを学んだり、友だちと自由に遊んだりできるすべてのステーションを楽しんでいます。今日は75人の児童を連れてきましたが、楽しそうにしていて何よりです。子どもたちが将来的に追求することができる『生きるためのスキル』の種をまくというのが私たちの目的ですが、この農場はそれにぴったりなのです。」

この世代の子供たちは、ソーシャル・メディアに囲まれて生まれ、自然の中で生活した経験がほとんどないため、攻撃的になりがちです。テクノロジーと自然を調和させ、環境を保護することを教えていきたい。私が今していることは、子供時代からソフトな人間関係のスキルを学ばせることで、良きタイ市民に育てていくことなのです。」とナリンティップさんは語った。

農場が2017年に開園してから実に1万5000人が活動に参加してきた。ステーション1での卵集めは最も人気の活動だ。各ステーションでの活動は、子どもたちの年齢に応じて調整されている。

たとえば、3~5歳の子どもは泥すべり台で遊び、7~11歳の子どもは木炭ストーブで調理を行う。

農場ではさまざまなプログラムが体験できる。週末コース、5日間コース、政府関係者のための学習ツアーもある。これは、「足るを知る経済」について職員に学んでもらうことを目的としたものだ。ほとんどの活動は、子ども一人当たり100~300バーツ(3~9米ドル)の負担で行える。

ナリンティップさんは常に、農場での現場の体験が子どもたちをスマホなどから遠ざけるかどうかを基準に置いている。「もし子どもたちが5日間のコースに参加し、それぞれのステーションを組み合わせれば、列に並ぶこと、友達をいじめないこと、分かち合うことを学ぶでしょう。コースの中で、子どもたちは自分たちでルールを決める。その後、家に帰ると、礼儀正しくなり、家事を手伝うようになったと親たちは話しています。」

にもかかわらず、子どもたちをスマホなどから遠ざけてこの行動を変容させるには、親自身が自らの行動を変えて範を示さねばならない。ナリンティップさんは、「子どもたちは、親がスマホで遊んでいるのを見て、自分も楽しみたいと思う。結局のところ、子どもたちは親と一緒に遊びたいのですが、親は画面に夢中なのです。」とナリンティップさんは指摘した。(原文へ

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多国間主義は進行中の危機によって混乱してるが、野心的な改革がまだ議論されている。2024年の国連の未来サミットから何を期待するか?

【ニューヨークIDN=リチャード・ゴーワン】

ドイツは今後1年間、多国間主義を強化する方法について、国連加盟国間のコンセンサスを形成するという厳しい課題に直面している。ニューヨークのドイツ政府代表部はナミビアと協力し、2024年9月の国連ハイレベル・ウィークに開催される「国連の未来サミット」の準備を進めている。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は当初、新型コロナウィルス感染症のパンデミックを受け、各国大統領や首相が世界システムの改善について議論する機会として、2021年にこのサミットを提案した。しかし、国連ではウクライナやガザを巡る議論が煮詰まっており、外交官たちは今年、国際協力に関する新たな合意を結ぶのは難しいだろうと懸念している。

間違った時期に正しいサミット?

UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building. Photo: Katsuhiro Asagiri

グテーレス事務総長と彼のアドバイザーらは、三つの主な理由で多国間主義の現状を厳しく見る必要があると主張している。第一に、既存の国際機関は、パンデミックや気候変動などの課題に効果的に対処するために必要なメカニズムや権限を欠いていることは明らかである。第二に、事務総長が社会、経済、国際関係を大きく変容させると予測している人工知能(A.I.)のような新技術を規制する本格的なグローバル・レジームがまだ存在しない。第3に、多くの非欧米諸国は、国連やその他の国際機関において、米国や欧州諸国が依然として意思決定を支配しているため、実質的な影響力がないと感じている。

最良のシナリオであれば、国連の未来サミットは国連加盟国がこれらの課題に同時に取り組み、既存の制度をより包括的で効果的なものに改革し、制度の隙間を埋める新たな機関を設立する機会となるだろう。例えばグテーレス事務総長は、国際原子力機関(IAEA)が原子力の利用を監督しているように、AIの利用を規制する新たな国際機関を設立する考えを示している。

外交官たちの中にはグテーレス事務総長の広範なビジョンを認める一方で、このような大きな問題に取り組むには時期尚早かもしれないと疑問を呈する者も少なくない。現在、国連のムードは非常に険悪だ。開発途上国は、開発援助や気候変動への適応にもっと投資するという過去の誓約を守らない富裕国を批判する声を強めている。多くの国々は、米国と多くの欧州の国々がパレスチナ人との連帯を示すことに失敗したとして非難している。アラブの外交官たちは、ガザの若者たちに未来がないのに、どうして国連が「未来」に関する協議を行えるのかと問いかけている。

「未来のための協定」:ドイツとナミビアがリードを取る

ドイツとナミビアは、殺伐とした情勢を背景に、「国連の未来サミット」の準備を管理するという大変な任務を、自ら志願した。二つの共同ファシリテーターは、9月に首脳が採択する「未来のための協定」の初期草案に取り組んでいる。この文書が1月末までに完成するよう回覧された後、この文書に関する交渉が本格的に開始される。国連総会は、加盟国がコンセンサスによって最終的な協定に合意しなければならないことに合意しているため、この交渉は長期化する可能性が高い。

ニューヨークに拠点を置く外交官の中には今後について暗い見通しを抱いている者も少なくない。つまりサミットの存在を、「つかむべき機会」ではなく、むしろ「解決すべき問題」だと考える者が少なくないのだ。しかし、これは誤解かもしれない。ガザでの敵対行為が続く限り、未来の協定に焦点を当てることは困難だろう。しかし、戦争が収束に向かえば、たとえ技術的なことであったとしても、国際システムの改善について話し合うことは、国連加盟国間で共通の目的意識を取り戻すためのひとつの道筋になるかもしれない。サミットはまた、より強力な多国間システムを提唱する市民社会グループにとって、たとえ大きな改革を実現できなくても、グローバルな問題に関心を向ける機会でもある。

ギャップに注意:気候変動と人権が欠けている

昨年、ドイツとナミビアが協定の内容に関する準備協議を主導したが、国連加盟国が合意できたのは骨子だけだった。平和と安全保障、開発、科学技術、未来世代、グローバル・ガバナンスに関する章が設けられる予定だ。国連職員や外交官らによれば、このペーパーは長くても20ページから30ページで、戦略的なレベルになると予想されている。つまり、仮に交渉官たちが協定を通じて大綱的な改革に合意したとしても、詳細には踏み込まないということだ。

一部のオブザーバーは、この概要に潜在的に懸念される2つのギャップを強調している。一つは気候変動で、グテーレス事務総長は以前からこの問題を国連の包括的テーマとすべきだと主張してきた。 国連関係者は、この協定が、新たな協定を提案しないまでも、地球温暖化に対処するための既存の協定やプロセスを支持することを望んでいるという。この協定は、他のテーマについても人権に関連する側面に言及することになっている。欧米の外交官の多くは、国連システム全体が冷戦後間もない時期よりも人権問題に注意を払っていないことを懸念しており、協定が共通の価値観や自由について言及するよう主張する可能性が高い。

より広く言えば、協定の正確な内容についてはまだ議論の余地がある。交渉担当者は材料に事欠かない。グテーレス事務総長は2023年の間に、教育問題から宇宙統治に至るまで11の政策概要を発表し、交渉を活発化させた。また事務総長は「効果的な多国間主義に関するハイレベル諮問委員会」を招集し、昨年夏に国際機関改革の可能性に関する報告書を発表した。しかし、このプロセスに携わる誰もが、国連加盟国はトピックを取捨選択するだろうと認識している。

国際金融アーキテクチャの改革

開発途上国が、協定をめぐる今後の議論の多くを、世界銀行や国際通貨基金(IMF)を含む国際金融機関の監督や活動に集中させたいと考えていることは間違いなさそうだ。多くの非欧米諸国関係者は、現在まだ米国やEU、その他の欧米主要国が支配しているこれらの機関において、より大きな決定権を得たいと考えている。 また、これらの国際的な融資機関が、貧しい国々が融資を受けやすくなることも望んでいる。バイデン政権と欧州各国政府は、脆弱な国々に資金を供給することが必要であることには同意しているが、ガバナンス改革については合意を得るのが難しいかもしれない。

国連安全保障理事会の改革

A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.
A view of the meeting as Security Council members vote the draft resolution on Nuclear-Test-Ban Treaty on 23 September 2016. UN Photo/Manuel Elias.

もう一つの厄介なグローバル・ガバナンスの問題は、国連安全保障理事会の改革である。ロシアが拒否権を行使して2022年のウクライナに対する全面的な侵略への批判を封じて以来、多くの国連加盟国は安保理加盟国とルールを見直す時期に来ていると主張してきた。バイデン政権はまた、ガザでの作戦を巡る圧力からイスラエルを守るために拒否権を行使したが、米国は依然として改革を望んでいると主張している。常任理事国入りを長年熱望してきたドイツも、進展を望んでいるかもしれない。しかし、今後9ヶ月の間に、国連加盟国が広く受け入れられる改革モデルに合意する可能性はない。2025年の国連憲章80周年に合わせ、この問題に関するハイレベル協議を開催することで加盟国が合意するのが最善の結果かもしれない。

AIおよびその他の新技術の統治

安全保障理事会改革が国連外交にとって既知のテーマだとすれば、「科学技術」に関する盟約の章は、新たな議論の場を開く可能性がある。 グテーレスは、A.I.を監督するIAEAのような機関の提案に加えて、国連加盟国が2026年までに致死的自律兵器システム(LAWS)を禁止する条約に合意し、バイオテクノロジーを管理する新たなメカニズムを確立することを提案している。国連の有力者の中には、この分野でより多くの国際的なルール作りを始めるべき時だという意見に同意する者もいる。米国は、持続可能な開発を促進するためのAIの利用について、拘束力のない国連総会決議案を提出した。この協定は、インターネット、A.I.、データを管理するための指導原則を概説するものである。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca
Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

しかし、もし今が新技術について話すのに良い時期であるとしても、外交官や科学者たちは、今がそのような新技術を巡る新しい制度や拘束力のある協定を確立する適切な時期であるとは確信していないようだ。昨年、グテーレス事務総長のA.I.に関する助言パネルに参加した元欧州議会議員のマリエッテ・シャーケは最近、この発展途上の分野を管理する新しい機関の設計を始めるのは時期尚早だと主張した。その代わりに彼女は、各国政府とA.I.開発者は、A.I.を監視する国際的な枠組みを構築する前に、それを管理すべき基本原則と法律を策定する必要があると主張している。「国連の未来サミット」は、この種の探索的な議論のための一つの手がかりを提供するものだが、このような新技術をどのように統治するかについての国連での議論は、将来にわたって続くことになるだろう。

「未来のための協定」における主要な改革に合意するには多くの障害があることから、国連加盟国の中には、この文書がかなり実体のないものになると予測する者もすでにいる。だからといって未来サミットが不発に終わるとは限らない。私が他でも論じているように、加盟国の連合体は、女性の権利などの優先事項の推進に関する、より野心的なサイド・アグリーメント(国連加盟国全員の同意を必要としないもの)をまとめ、9月に署名することができるかもしれない。別の例を挙げれば、気候変動が安全保障に与える影響に焦点を当てることを率先して提唱しているドイツは、気候変動と平和に関する国連の関与を強化することを推進する連合の一員になる可能性がある。

市民社会の役割

国連加盟国がこれらのイニシアティブを正式に主導する一方で、市民社会組織はサミット前のプロセスに更なる勢いを加えることもできる。多くの外交官、とりわけニューヨークの小規模な政府代表部に所属する外交官らは、サミットが何をもたらすかについて深く考える時間がほとんどなかったことを認めている。グテーレス事務総長は相当数の複雑な問題を議論のテーブルに載せているが、その一方で、中東戦争など他の緊急課題にも時間を取られている。今後1ヶ月の間に、非政府組織は、サミットが新技術のような問題で何を達成できるかについて、国連加盟国に助言することができる。

市民社会関係者は、そのグローバルなネットワークを活用し、国連の未来サミットに世界的な注目を集めることもできる。国連関係者は、このところ国連から発信されるネガティブなニュースばかりが目立っているため、国際メディアにこのイベントに注目してもらうのに苦労していることを認めている。グテーレス国連事務総長は、政治指導者たちをグローバルな問題についての議論に引き込みたいと考えているが(昨年9月には国連で、来訪した各国首脳に事務総長の政策説明資料を配布した)、国連改革を優先している国はほとんどない。 今後数カ月の間に、国際市民社会ネットワークがサミットへの関心を高めるよう働きかけることは歓迎されるだろう。

進むべき道

とはいえ、ドイツとナミビアは「未来のための協定」を準備するにあたって、それぞれの役割を最大限に発揮しなければならない。その過程で加盟国間で議論が起こることは間違いない。 しかし、少なくとも両国は、このプロセスを、非常に分裂的な時期を経た多国間主義の将来について、国連加盟国間の外交対話を促進する機会として位置づけることを目指すことができる。共通の出発原則に合意し、新技術や国際的な資金調達などの問題について長期的な対話を始めることができるかもしれない。

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*リチャード・ゴーワンは、インターナショナル・クライシス・グループ(ICG)の国連ディレクターであり、ニューヨークの国連で同組織のアドボカシー活動を監督している。2016年と17年にはICGのコンサルティング・アナリストを務めた。欧州外交問題評議会、ニューヨーク大学国際協力センター、フォーリン・ポリシー・センター(ロンドン)に勤務。ニューヨークのコロンビア大学国際公共問題学部とスタンフォード大学で教鞭をとった経験もある。また、国連政治局、国連国際移住事務総長特別代表室、米国ホロコースト記念博物館、ラスムッセン・グローバル、英国外務英連邦省、フィンランド外務省、グローバル・アフェアーズ・カナダのコンサルタントも務める。2013年から19年まで、『World Politics Review』に週刊コラム(「Diplomatic Fallout」)を執筆。

Original link: https://ny.fes.de/article/the-un-summit-of-the-future-a-fight-at-the-end-of-the-tunnel

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民主主義の課題としての分極化

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ウォルフギャング・メルケル】

本稿の初出はThe Conversationで、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に再掲載しています。

政治やその係争、民主主義への影響を形作るのは、何よりも社会的対立である。その影響は、対立の程度やその内容によって、プラスにもマイナスにもなる。対立する当事者を反対派とはみなしても「敵」とはみなさず、一般に認められた規範や手続きに従って行われる平和的な対立は、通常は社会の民主的多元主義を拡大させ、開放性、学習と進歩への意欲を促進している。民主主義にも貢献している。しかし、対立は、その性質と深刻さによって社会を「敵と友」(カール・シュミット)に分断し、社会内の信頼、寛容、そして最終的には民主主義を破壊する。(

戦後の西欧社会では、社会経済的な分断がうまく緩和されたことで、経済的、社会的、地域的、文化的な分断が長い間緩和されてきた。形作られた政治的係争や対話は、労働と資本、国家と市場、左派と右派といった社会経済的な分断線に沿って展開された。問題となっていたのは、所得、富、機会の分配であった。この本質的な対立は、工業化以来、苦闘の連続だった。西欧で20世紀後半にこの対立を解消したのは、まず労働組合と労働運動であり、最後に税制と福祉国家、そしてその立役者であるプログラム的に拡散した、人々の政党であった。これらは資本と労働との間の根本的な矛盾を解決することはできなかったが、制度化された妥協の政策によって、社会全体に一定の社会的結束が確保された。

しかし、1989年の画期的な出来事の後、西側諸国の分裂も変化した。冷戦は終わった。経済的・政治的自由主義には華やかな未来が予想されていた。一時的な対立のない土地で、文化的に強調された新たな対立軸が出現した。それ以来、水平的な社会経済的分断線が続いている。欧州でも北米でも、政治的競争と言説は二次元化している。特に文化的な言説が表面化した。

文化的断層線の一方の極には、高水準の人的・社会的資本に恵まれたアカデミックな新中間層がいる。彼らは都市部に住み、経済的に恵まれ、国際的な世界観を持っている。彼らにとって、国民国家は20世紀の遺物である。開かれた国境を主張し、リベラルな移民政策を好み、全てのジェンダーと同性の性的指向に対して平等な権利を強調している。彼らはジェンダーに配慮した言葉を大切にし、気候政策に絶対的な優先順位を置いている。そして、経済的にも、社会から恩恵を受けている。

対立軸のもう一方の極にいるのが共同体主義者である。彼らは正規の教育水準が低いことが多く、強力な国民国家を支持し、そこから厳格な移民管理、社会的保護、経済的支援を期待している。ジェンダー平等の言葉は彼らにとって重要ではなく、エコロジーよりも経済が優先される。自由主義的というよりは権威主義的な態度を志向する傾向がある。社会では経済的に恵まれない人たちである。かなりの人々が右派のポピュリストに、一部は左派の伝統主義者に、政治的な居場所を見いだす。

両グループは深い文化的溝によって隔てられている。互いの無言、軽蔑、あるいは敵意さえも、両陣営を強固なものにしている。これはどこから来たのか? 重要な影響の一つは、政治における道徳主義の高まりである。しかし、道徳主義は道徳性ではない。道徳性がなければ、公正で人道的な政治はありえない。一方、道徳主義は道徳的表現の軽蔑的な形である。それは自己の道徳的立場を独善的に様式化したものであり、自己中心主義の一種であり、自己の道徳的優位性を表現することを指すアイデンティティーの無駄な保証である。このような過剰な道徳主義は、左派リベラルの国際主義者の陣営を特徴づけることがある。もう一方の側は、過剰なナショナリズムと伝統主義のもとで苦しんでいる。両陣営間で意味的・規範的な架け橋を渡すことはほぼ出来ない。新しい二元コードは、真実対虚偽、道徳対不道徳、科学対否定、ナショナリズム対普遍主義である。反対派は政敵になる。異議は言論のリーダーたちによって士気をくじかれている。

文化的な言説が硬直化し、共感や妥協が失われることで、生き生きとした多元主義から、理解も妥協もない分極化へと移行する。従って、最近の分極化研究では、民主化を促す分極化と民主主義を脅かす分極化を区別している。例えば、ラテンアメリカの階級社会では、極端な経済的不平等は、民主化を促す分極化に基づく動員なしには克服できない。これらの社会における民主主義と妥協は、支配者の利益となった。欧州の民主主義社会ではそうではなかった。下層階級に一定の発言権を与えたのは投票だった。民主主義研究者のアダム・プシェヴォスキは、それを20世紀の労働者階級の「ペーパーウェイト」と呼んだことは正しい。

西欧民主主義社会における最近の4大危機は、経済的・社会的に重大な影響を及ぼす一方で、経済が主たるものとして根底にあるわけではない。移民危機、気候危機、コロナ危機、ウクライナへの武器供与の位置づけは、全て道徳的に汚染されている。これら全ての危機において、陣営が形成された。移民・難民擁護者は移民懐疑者や外国人嫌悪者と対立し、ワクチン接種を擁護する者はワクチン接種に反対する者と対立し、気候変動を否定する者は地球温暖化対策が責任ある政策の最高目標であると考える人々と対立した。政治、社会、アナログメディア、特にデジタルメディアにおいて、対立は解決されるどころか、激化していった。各陣営とも、ポジションの獲得を約束した。

分極化の悪性の増大を断ち切るためには、何が必要なのだろうか?われわれは社会、科学、政治における道徳主義を終わらせ、それを批判的な自己反省と理解の道徳性に置き換えなければならない。 多元的な民主主義社会では、利益や価値観が争われることがあり、また争う必要があることを認識しなければならない。「相手方」は敵ではない。人種差別、性差別、外国人嫌悪とは、正当な理由を持って戦わなければならない。越えてはならない一線がある。特に右翼ポピュリズムの横行に対してはなおさらである。しかし、用語に対する定義の力を主張できるのは、自称文化の前衛者たちではない。これらの用語は何度も何度も議論によって書かれなければならないものであり、一流新聞の特集ページやソーシャルメディアで決められるものではない。相互理解志向の対話がなければならない。最終的には、排除するのではなく、包摂することである。民主主義には寛容と異議が必要だ。どちらも痛みが伴う。このことを理解すれば、分極化とその利得者は苦境に立たされることになる。

ウォルフギャング・メルケルは、ベルリン社会科学研究センター(WZB)の「民主主義と民主化」部門のディレクターで、2004年から2020年までベルリン・フンボルト大学政治学教授。2021年よりブダペストの中央ヨーロッパ大学・民主主義研究所の上級研究員。近著に以下のものがある:Resilience of Democracies: responses to illiberal and authoritarian challenges, Special Issue of "Democratization", 2021 (28) 5 (Lührmannと Annaとの共同編集)。Democracy and Crisis. Challenges in Turbulent Times, 2020 (Sascha KneipとBernhard Wesselsと共同編集)。

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国連は実際いくらかかるのか?

【国連Stories】

ファルハン・ハク国連報道官が、国連の予算に関する一般的な質問に答える。国連はどのように資金を調達しているのか、不正や浪費をどのように防止しているのか、人道支援活動には何が費やされているのか、平和にかかる費用は戦争にかかる費用と比べてどうなのか、など。

2023年12月24日、総会は国連の平和構築基金のための特別会計の設置を含む、2024年の国連予算35億9000万ドルを承認した。また、人権問題に関する国連の主要フォーラムである人権理事会の決定に対する追加資金として、5000万ドル近くが採択された。(原文へ

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中国の草の根民主主義が持続可能な開発への道を切り開く

【黄石(中国湖北省)IDN=カリンガ・セネビラトネ】

湖北省黄石市から車で30分ほどのところに、持続可能な開発目標(SDGs)達成への道を切り開いている、草の根民主主義のモデルとなる村がある。SDGsは2015年に国連が採択したもので、中国もこれを支持している。

国連のSDGsアジェンダは、2030年までに目標を達成するための重要な要素として、官民が関与するガバナンスとパートナーシップを強調している。少なくとも2017年から実施されているこの村落開発モデルは、中国が協働ガバナンスの概念を通じて持続可能な開発への関与を強めている好例だ。

武漢大学報道通信大学校のジ・リ教授は「この戦略の成功には2つの主要因がある」と語る。教授は、黄石市の2人の役員を伴って3つの村への訪問を実現してくれた。

「一つ目は、人々が長年にわたって信頼関係を築いてきたこと。二つ目は、(社会事業から)利益を得た際にそれをメリットとみなしたということだ。だから、政府と村民との間の信頼関係の構築には時間はかかったものの、村人たちは(村の開発のための)政府の戦略に従った。」と、長年にわたって中国の開発コミュニケーション分野に携わってきたリ教授は語った。

自律

村レベルで実践されている草の根民主主義は「自主自律」だ。これは毛沢東が1949年に中華人民共和国を建国する以前から存在してきたものだと村のある役人は説明した(公的な発言をすることを認められていないため、匿名)。しかし同時に彼女は、村の開発のこのレベルでは「政府は口出ししないよう努めている。」と語った。

The ancestral worship temple that existed before the PRC was established in 1949 by Mso Zedong. Credit: Kalinga Seneviratne
The ancestral worship temple that existed before the PRC was established in 1949 by Mso Zedong. Credit: Kalinga Seneviratne

「村長は村民が選び、外部の人間は関与しない。」とこの村の役人は説明し「政府は村長を選ぼうとはしていない。村民に村長を選ばせようとしている。中には女性の村長もいる。」と語った。

それぞれの村には、共産主義革命以前からの伝統である色鮮やかな祖先崇拝の寺院が存在する。村人たちはここで集会を開き、指導者を選出し、村の問題を話し合う。各寺院には、このような会合のための中央の囲われた場所がある。村の役人も、開発戦略や政府資金について話し合う必要があるときは、このような場所で村人と会う。

「このような会議では、政府が資金を提供する際、村民は開発プロジェクトに参加したくない場合は拒否することができます。村民がプロジェクトに信頼を置いて参加できるようにするのが村長の役割です。」

村長になるには村民の多数の投票をえて、政府資金の配分について信頼のおける人物だと市の役人から見なされねばならない。

ボランティア集団

陽新県リウ村で31歳のリウ・ドンドン村長と会った。彼はボランティア集団で働いた経験があり、村に戻ってからは農民となり、村の商店も経営している。

「私は村を率いて、人々が経済を発展させ、貧困から抜け出し、幸福指数を向上させ、村を清潔にする手助けをしています。私はまた、村が問題や意見の相違を抱えたときに、(町の役人と)うまく交渉できるよう手助けしています」と董氏はIDNに語った。

政府からの補助金を得て、村にはブドウ園が作られた。「毎日10人がこの農場に働きに来ます。ブドウはワインづくりに使われます。」と村長は説明した。

2015年に作られたこのブドウ園は100畝(6.67ヘクタール)の広さを持つ。2017年までに収穫による収入は30万元(4万3000米ドル)を超え、現在ではワイン造りの売り上げは70万元(9万8150米ドル)を超える。

中国の草の根開発民主主義の概念は、SDGsを実現するための政府資金、草の根の同意、透明な支出の相乗効果に基づいている。

政府からの補助金を得るまで、この村では「村立協同組合」を設置せねばならなかった。機能としては会社のようなもので、経営者2名を選び、組合からの給与で村民がプロジェクトに従事していた。協同組合の代表は、村民によって選出された村のメンバーである。

村民は開発プロジェクトのために村の土地を利用する。利益は組合に入り、村民でその利益を分け合った。村は、プロジェクト開始にあたって政府から得た補助金を返還する必要はない。利益があれば、それはそのまま村に入る。「しかし、もし損失を出せば、政府は役人を送って問題の把握に努めるだろう。もし誰かが重大な過失を犯していたなら、その人物が自ら弁済しなくてはならないだろう。」とドン村長はさらに説明した。

茶プランテーションと油生産

Li Meng Wenweaving a mat outside his home. Credit: Kalinga Seneviratne
Li Meng Wenweaving a mat outside his home. Credit: Kalinga Seneviratne

隣村では、油茶プランテーションと油生産が主要な収入源となっていた。高収量の油茶生産は2010年に始まり、現在は2000畝(120ヘクタール)にまで広がっている。協同組合は「デフ村」の商標で茶油加工工場を運営していた。工場は11月の収穫期以降の2か月間、稼働する。

政府に加えて、38世帯が、自らの土地を抵当に入れて茶畑に投資する形で協同組合に出資している。彼らは年に1500元(210米ドル)を見返りとして手にする。

プランテーションの入口には、この事業の投資についての大きな説明板がある。黄色で囲ったリストには、労働者の名前と彼らがいくらを手にしているかが書いてあった。緑の枠内には、村民が(投資者として)いくらの収入を得ているか、青の枠内には土地所有者の名が書かれてある。

プランテーションの入り口には、この事業の投資について記した大きな掲示板がある。黄色の欄には労働者の名前とその所得が記載されている。緑色の欄には村人が(投資者として)いくら収入を得ているか、青色の欄には土地所有者の名が書かれている。きわめて透明性の高い仕組みだ。

「もし土地を借りれば、組合からの分配金は2割増しになります。私はここで働いて、組合からお金をもらっている。これが貧困から抜け出る方法です。組合は貧しい人々に働いてもらって、お金を得てもらいたいと考えています。」と、地元民のリ・ユドウさんは語った。

しかし、自宅の外で敷物を編んでいた72歳の村民リ・メンウェンさんは、自分の子に支えられていると語った。しかし、家庭用にサツマイモといくらの野菜を育てている。「敷物編みはただの趣味です。」と彼は語った。

2019年、村の組合は80万元(11万2254米ドル)の収入を得た。毎年11月の果実収穫期になると、100人近い村人が近隣から集まって、油茶とぶどうのプランテーションで働く。

観光会社

今回訪れたもう一つの村は李村で、山、水田、水路が織りなす風光明媚な場所で、地元コミュニティが観光事業を立ち上げている。夏の間、観光客はトレッキングに訪れ、自転車を借りてサイクリングを楽しんだり、古い村の家屋建築を模して新しく建てられたレストランで特別な郷土料理を味わったりしている。

IDNの取材と共に村に入った観光開発局のチェン・ヤンファンさんは、自身の役割は村の経済発展の支援にあると語った。「村の開発のための戦略を策定しています。時々は村長を訪ねて、戦略策定のための助言をもらったりしています。村長から意見をもらって、合意が得られれば、村への資金支出を監督します。」と説明した。

町の役人は村を「貧しい」と表現したが、ほとんどの村民は2階建てか3階建てのコンクリートの建物に住んでいる。30代から50代の村民のほとんどは都会に働きに出るが、村の自宅をよくするために投資をするのだという。また、村の協同企業の利益の3割は村の貧困層に配分される。村々には、政府の補助金で建てられた学校や診療所もある。

村の訪問の際、リ教授は村の古いお寺の壁に刻まれた格言を指さした。そこには、原則的に法廷に行ってはならない、と書かれてあった。村長や村人同士での話し合いの中から自分たちで解決策を見つけろ、という意味だ。問題解決に他人を関与させてはならない、という教えである。

「ここでの民主主義とは、他人に問題の解決をゆだねない、ということだ。議論し、自分たちで解決することが大事なのです。」と彼女は説明した。(原文へ

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|ベトナム|メコンデルタの干ばつと塩化で食糧不足が加速

【ホーチミンシティIDN=ル・タン・ビン】

ベトナム南部のメコンデルタは長年にわたって米の穀倉地帯であり、今日では2000万人以上の食料源となっている。しかし、気候変動による干ばつや河川水の塩分濃度上昇が、食糧安全保障を脅かしている。

メコン川は中国に源を発し、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムのアジア6カ国を流れて東シナ海に注ぐ。今日、主要な米輸出国であるベトナムは、主にメコン川に依存して稲作を行っている。

しかし、現在では、中国やラオス、カンボジアに建設された多くのダムが上流からの水の流れを妨げるようになっている。さらに海面上昇による塩水の浸入に、エルニーニョ現象も加わって、耕作用水の大幅な損失をもたらしている。

この10年で、メコンデルタ地域では2016年と20年の2回、大きな干ばつを経験した。昨年にも水不足があり、メコンデルタの農民の生活や生産、ベトナム経済全体に大きな悪影響を及ぼしている。

水文気象学局がベンチェ省で開いた、ベトナム南部における洪水や干ばつ、塩水浸入に関する会議で提示された情報によると、2023年9月、カンボジアのトンレサップ湖の水量が徐々に上昇して15年レベルに回復したが、それでも長年の平均より約1メートル低い。

トンレサップ湖はメコン川の水によって形成された湖で、1年の半分は田んぼとして利用されている。メコン川の逆流によってこれが可能になっている。トンレサップ湖の水かさは10月半ばまでは徐々に回復してきていたが、それ以降は再び減少している。

2023年9月、トンレサップ湖の水量は近年の平均の3割少ない。今年末までには、水かさは平均よりも1.3~1.6メートル程度低くなってしまうとみられる。上流のカンボジアから下流域とメコンデルタ地域への乾季における流量は、平均よりも20~25%少なくなるとみられる。

エルニーニョは4月か5月まで続く見通し

加えて、2016年と同じく、「強力」~「きわめて強力」の強度を持ったエルニーニョ現象が今年4月か5月まで続くとみられている。乾季までの平均気温は、例年の0.5~2度と例年より高い。メコンデルタの雨季は早く終わり(11月中旬以前)、年間の総雨量は例年よりも少なくなっている。

計算によると、今年の乾季中における川の塩分はこのところの平均よりも高く、2022年の同時期に比べて高くなっているという。とりわけ、今年3月における支流のティエン川、ハウ川における塩分量は、このところの平均よりも1リットル当たり3~5度高くなりそうだ。

ベンチェ省農業農村開発局のブイ・バン・タン副局長は昨年9月、塩水の浸入で2カ月間は地元に影響が出るだろうと語っていた。例年、塩水の浸入は年間3カ月ほど起こっているが、ひどい年には半年も続くこともある。

2019~20年の乾季には、干ばつと塩水の浸入が例年より早く起こった。浸透度も高く長期化したため、冬春期収穫のコメが5000ヘクタール以上、果樹が2万7000ヘクタール以上、水産養殖2000ヘクタール以上が被害に遭い、総被害額は1兆6000億ドン(1億3590万米ドル)を超えた。

タン副局長は、深刻な塩害が発生した際の水文気象学的レポートを早期に発表し、特に、いつ、どこで、人々が確保できる淡水があるのかについて発表するよう勧告している。警告を強化し、被害を抑えるために、地元は技術、設備、自動塩分濃度、水位監視システムで支援されなければならない。

管理部門や専門家は以前、水量が少なく雨季が早く終了し、エルニーニョ現象が長く続いた2016年の乾季には、15年と同じく、メコンデルタには厳しい干ばつの可能性があると述べていた。

この7年前の乾季には、干ばつの長期化によって60万人が飲み水不足に陥り、16万ヘクタールの土地が塩化し、5兆5000億ドン(2億2660万米ドル)の被害があった。

2023~24年の冬春期のコメの収穫では、メコンデルタ地域の147万ヘクタールの田で1060万トンの収穫があると予測されている。これは、面積で150万ヘクタール分、収量で1100万トンだった昨年よりも少ない。

農業農村開発省では、カマウ半島における10万8000ヘクタール分のエビやコメの生産が水不足の影響を受けると予測している。2015~16年乾季の塩水浸入の際には、ロンアン、ティエンザン、ベンチェ、チャーヴィン、ソクチャンの各省で、約6万ヘクタールの冬春期収穫のコメと4万3000ヘクタールの果樹で水不足が生じた。

ベトナム農業農村開発省は、干ばつと塩化が農業生産に与える悪影響を農民が乗り越える支援を行うために、多くの短期・長期的な提案を行っている。

Rice fields on the banks of the Mekong River in South Vietnam. Credit: Kalinga Seneviratne.

たとえば、日常生活と生産用に淡水貯蔵施設を作ること、塩水の浸入を防ぐために河口に塩水防止施設を建設することなどである。

ティエンザン省農業農村開発局のトラン・ホアン・ナット・ナム副局長は、同省は干ばつや塩水浸入の防止作業を積極的に行っていくと語った。

西部の果樹栽培地域の塩害防止を確実にするため、ティエン川を結ぶ6つの暗渠を建設した。「東部では、ゴコン緩衝地帯によって、塩水の分離や排水などの塩化防止策を講ずることとしている。」とナム副局長は語った。

加えて、ティアンザン省は、(チャウタン地区にある)ティエン川から420メートルに位置するヌグエン・タン・タン運河に塩水浸入防止排水溝の完成を急いでいる。2022年11月半ばに始まった事業には5180億ドン(2130万米ドル)が投資されている。完成時には、塩化防止と淡水の提供・灌漑によって、ティエンザン省とロンアン省の110万人の生活と12万8000ヘクタールの農地に奉仕することになっている。

「南部灌漑利用社」メコンデルタ支局長のル・トゥ・ドゥ氏は、「支局では(キエンザン省)カイロン-カイベ下水道の内外で塩化の状況をモニターしている。」と語った。

これは、3兆3000億ドン(1億3590万米ドル)を投じたメコンデルタ地域では最大の灌漑事業であり、メコンデルタのカマウ半島の40万ヘクタール近い土地の水を管理するものだ。事業期間に突貫工事で建設された。

コロナ禍の2年間で、塩水浸入の任務は達成された。「ベトナム政府とメコンデルタ地域の人々の努力によってすべての資源を動員することで、私たちは困難を克服し、豊作を達成するでしょう。」とトゥ・ドゥ支局長は語った。(原文へ

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【Agenzia Fides/INPS Japan長崎=ヴィクトル・ガエタン】

ニューヨーク国連本部3階の総会会議場のすぐ外には、焼けただれ傷ついた聖アグネス像が安置されており、核兵器がもたらす恐怖と破壊力を今日に伝えている。(スペイン語版)(ドイツ語版)(イタリア語版)(フランス語版)(英語版)(中国語)

Urakami Tenshudo (Catholic Church) Jan.7, 1946./ Photo by AIHARA,Hidetsugu. / Public Domain

殉教時に処刑人による殺害の試みを何度もかわした伝説で知られる聖アグネスの石像は、1945年8月9日の米軍による長崎への原爆投下でも消滅をまぬがれた。その原子爆弾は当時アジア最大のカトリック教会である浦上天主堂から500メートルの地点で炸裂、6万〜8万人を焼き尽くし、そのうち兵士は150人もいなかった。聖アグネス像は、天主堂の瓦礫の中でうつ伏せの状態で発見された。

機密解除された米国防総省の文書は、長崎が初期の原爆投下目標リストに含まれていなかったにもかかわらず、なぜ標的にされたのかという謎を解明している。つまり、1942年にバチカンが日本と国交を樹立したことへの報復として、日本で最も歴史あるカトリックコミュニティーを消滅させるために、土壇場で長崎が未知の手によって手書きで加えられていたのだ。米国は敵国である日本と外交関係を樹立したバチカンを許せなかったのだ。

被爆者の声

国連の聖アグネス像の前で、私は反核活動家であり、約1200万人の会員を擁する在家仏教運動、創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長に会った。創価学会は1930年に設立された日本最大の仏教団体である。

Hiromasa Ikeda, vice president of SGI meeting with Pope Francis during the Vatican conference “Prospects for a World Free of Nuclear Weapons and for Integral Disarmament.”  Credit: Centro Televisivo Vaticano

SGIは、13世紀の日本の仏教僧である日蓮が確立した仏法を信奉している。東京八王子市の創価大学とカリフォルニア州アリソ・ビエホ市のアメリカ創価大学も、この信仰の伝統と関連している。バチカンとの定期的な協力団体であるSGIは、バチカンが2017年に開催した「核兵器なき世界と統合的な軍縮への展望を巡る国際シンポジウム」に参加したパートナーである。教皇フランシスコは、創価学会の第3代会長として大きな影響力を持った池田大作氏が昨年11月に95歳で逝去した際、公式の弔意を寄せている。

寺崎氏は、核兵器禁止条約(TPNW)第2回締約国会議に出席するため国連本部を訪れていた。この野心的な軍縮条約は、核兵器の保有を禁止する史上初の条約であり、署名国数は直近のスリランカを含む93にのぼる。2021年1月22日に発効した。

寺崎氏は、創価学会の軍縮へのコミットメントは半世紀以上前にさかのぼり、核兵器によるホロコーストという悲劇的な体験と直結していると説明した。日本の創価学会青年部は1972年、ヒバクシャと呼ばれる原爆投下を生き延びた人々の戦時中の体験について証言を集め記録することで「基本的人権である生存権を守る」キャンペーンを開始した。それから12年間、青年たちは何千もの証言を集め、最終的には全80巻からなる証言集『戦争を知らない世代へ』を編纂した。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW toook place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December in 2023. Photo: Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

「私自身も当時この聞き取り運動に関わり、被爆者の悲惨な証言に向き合うことになりました。一旦は取材に応じてくれたものの、いざ始まると、苦しみと痛みの重みに声をつまらせる人もいました。しかし、被爆の苦しみやトラウマを勇敢に語ってくれた人たちもいました。彼らのある意味、嗚咽を吐くように紡がれた、その一言一言を聞くという当時の経験が、今に至る私がこの運動に携わる原点というかエネルギーの源になっていると言ってもいいと思います。」と、寺崎氏は振り返った。

日本政府が認定した65万人の被爆者のうち、11万3千人以上が生存している。今日に至るまで、彼らは軍縮運動の指導者たちを鼓舞し、現代の軍縮運動に影響を与えている。 「このような人々が、平和構築の基盤を形成しているのです。」と寺崎氏は語った。

Interview with Mr. Hirsotsugu Terasaki, DG of Peace and Global Issues of SGI by Victor Gaetan at UN. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

ICANとのパートナーシップ

ICAN
ICAN

SGIは創価学会の反核運動の原点となった原水爆禁止宣言から50年目にあたる2007年、「核兵器廃絶への民衆行動の10」キャンペーンを開始したが、奇しくも核戦争防止国際医師会議(1985年に核兵器の大惨事についての一般の認識を高めたことでノーベル平和賞を受賞)が同時期に立ち上げた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がSGIを訪問し、核兵器廃絶の世界的な承認を得るために初期の協力団体として参加するよう依頼してきた。以来、両者はとりわけ若者の動員に熱心に取り組みながら、反核キャンペーンを展開してきた。

「核兵器なき世界というビジョンを実現するために、私たちは核兵器がもたらす壊滅的な現実について人々を啓発する世界的ネットワークを構築する必要に迫られました。私たちの取り組みは、世界中の外交官を対象とした国際会議を組織し、核兵器による被爆の実態や後遺症に対する認識を高める、つまり人道的影響を議論の中心に置くことから始まりました。また並行して、私たちが関わった中央アジアカリブ海諸国を含む、世界各地で反核のための会議を開催したり、各国外務省への直接的な働きかけもしてまいりました。」と寺崎氏は振り返った。

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

わずか10年の間に、TPNWが2017年7月に国連で採択された。バチカンは最初の署名国の一つだった。「これは確かに奇跡的な成果でした。成功に貢献した多くの他の団体にも感謝しています。これには、オランダのカトリック平和団体パックス世界教会協議会なども含まれます。」と寺崎氏は語った。

驚くべきことではないが、TPNWには核兵器を保有する9カ国は署名していない: ロシア(5,880発)、米国(5,224発)、中国(410発)、フランス(290発)、英国(225発)、パキスタン(170発)、インド(164発)、イスラエル(90発)、北朝鮮(30発)である。米国の核兵器を共有している5カ国も署名していない: ICANによれば、共有されている核兵器の数はイタリア(35発)、トルコ(20発)、ベルギー(15発)、ドイツ(15発)、オランダ(15発)である。

最も非人道的な兵器

TPNWを推進する運動家の主なメッセージは、核兵器はこれまでに作られた兵器の中で最も非人道的な兵器であるということである。核兵器は国際法に違反し、深刻な環境破壊を引き起こし、世界の安全保障を毀損し、人類のニーズへの対応から予算を逸脱させている。核兵器は、単に管理されるだけでなく、廃絶されなければならない。

Breakdown of nuclear tests conducted by China, United Kingdom, France, Soviet Union and the United States from 1945-1996/ The Official CTBTO Photostream - Nuclear Tests 1945-1996, CC BY 2.0.
Breakdown of nuclear tests conducted by China, United Kingdom, France, Soviet Union and the United States from 1945-1996/ The Official CTBTO Photostream – Nuclear Tests 1945-1996, CC BY 2.0.

しかし、昨年12月の『サイエンティフィック・アメリカン』誌のカバーストーリーは、米国政府が核兵器の近代化のために1兆5千億ドルを追加し、核兵器の能力をアップグレードする計画について警告している。現在、世界には約1万2500発の核弾頭があり、米国とロシアがその90%近くを保有している。

「現在の核戦力拡大計画は、核抑止力の有用性に対する揺るぎない信念から生まれたものです。しかし、この政策が健全な政治戦略なのか、それとも核武装を永続させるために作られた神話なのか、私たちは問いかけなければなりません。」「現在の核軍拡を進めることは、世界的な核の均衡に基づく平和と安全をもたらすものではなく、むしろ世界的な破壊やハルマゲドンを引き起こすでしょう。」と、寺崎氏は続けた。

道徳的言説

私は、SGIなどの信仰を基盤とした団体(FBO)が、TPNWに代表される新たな軍縮運動の中で果たしている独自の役割について尋ねた。寺崎氏は、「TPNWの次のステップは、主に国家間の外交交渉が中心とはなりますが、信仰に基づく組織は、精神的・人道的観点から核兵器の悪影響を強調し続けなければなりません。」と、説明した。

「世界がエスカレートする諸課題に取り組む中、道徳的な言説の影響力はますます重要になっています。」と同氏は語った。これはバチカンが強く主張している立場でもある。

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

また、1964年に池田会長によって創設された公明党との関係は、政治エリートの認識に対して独自の影響力を持っている。それは「単なる」在家仏教団体ではない。1960年代、池田会長は日中国交の正常化を提唱した。1974年から1997年にかけて10回訪中し、周恩来、鄧小平といった政府要人と会談した。1970年代にはソ連を訪れ、アレクセイ・コスイギン首相と会談し、緊張の真っ只中にあった中ソ間で融和的なメッセージを伝えた。公明党は1999年以降、自由民主党(LPD)と連立政権を組んでいる。

池田会長のビジョンは教皇フランシスコと一致していた。池田会長は、「最終的には、平和は政治家が条約に署名することによって実現されるのではなく、お互いの心を開くことによって築かれる人間の連帯によって実現されます。これが対話の力なのです。」と述べている。

カザフスタンとバーレーン

寺崎総局長は、平和、非核化、異文化間の対話を促進するために訪れた旅で目撃した、2つの感動的な協力の姿について話をしてくれた。2022年、彼はカザフスタンで開催された第7回世界伝統宗教指導者会議に仏教徒代表として出席し、その1ヵ月後にはバーレーンで開催された対話フォーラム 「人類共存のための東洋と西洋」に参加した。

Mr. Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai making statement at a plenary session/ photo by Katsuhiro Asagiri
Mr. Hirotsugu Terasaki, Vice President of Soka Gakkai making statement at a plenary session of the 7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions held in Astana, Kazakhstan./ photo by Katsuhiro Asagiri

寺崎氏が参加したこれら2つの宗教間対話会議には教皇フランシスコも臨席しており、間近でその回勅に接した同氏は、「私の心に深く響きました。」と語った。

「カトリックとイスラム教スンニ派の指導者たちが同じ部屋に座り、和解的な雰囲気に包まれているのを見て、特に感動しました。これらのフォーラムは、世界中の宗教指導者たちが率直で有意義な議論を交わし、人類が直面する差し迫った地球規模の問題について洞察と知恵を分かち合う有望な場を提供しました。」と寺崎氏は語った。

寺崎氏によると、SGIが反核を提唱する基本的な仏教の教義は、個人と社会の安全は一体であり相互依存しているというものである。SGIが信奉する大乗仏教の伝統は、修練と研鑽を通して、個人がいかに内なる変革をもたらし、それが外界に影響を与えるかを強調している。

7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress
7th Congress of Leaders of World and Traditional Religions Group Photo by Secretariate of the 7th Congress

「SGIは、すべての人々の生命の尊厳、幸福、および世界の安全を守ることに専念しています。核兵器への依存は、私たちが求める安全そのものを危うくするものであり、これらの目的と根本的に矛盾しています。」

教皇フランシスコが2019年に長崎で宣言したように、「平和と国際的な安定は、相互破壊の恐怖や完全消滅の脅威の上に築こうとする試みとは相容れません。それらは、連帯と協力という世界的な倫理に基づいてのみ達成できるのです。」と、寺崎氏は語った。(原文へ

Inter Press Service

Agenzia Fides/INPS Japan

Victor Gaetan
Victor Gaetan

ヴィクトル・ガエタンはナショナル・カトリック・レジスター紙のシニア国際特派員であり、アジア、欧州、ラテンアメリカ、中東で執筆しており、口が堅いことで有名なバチカン外交団との豊富な接触経験を持つ。一般には公開されていないバチカン秘密公文書館で貴重な見識を集めた。外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』誌やカトリック・ニュース・サービス等に寄稿。2023年11月、国連本部で開催された核兵器禁止条約(TPNW)第2回締約国会議を取材中に、SGIとカザフスタン国連政府代表部が共催したサイドイベントに参加。同日、寺崎平和運動総局長をインタビューしたこの記事はバチカン通信(Agenzia Fides)から5か国語で配信された。INPS Japanでは同通信社の許可を得て日本語版の配信を担当した。

*Agenzia Fidesは、ローマ教皇庁外国宣教事業部の国際通信社「フィデス」(1927年創立)

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