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世界で進行中の紛争は核戦争の危険にさらされているのか?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ロシア、イスラエルの右派政治家、そして北朝鮮から発せられる核の脅威は、終わることのない一定の鼓動のように続いている。これらの脅威はまた、一つの疑問を提起している。つまり「核兵器を使わずに第三次世界大戦は起こり得るのか。」という疑問だ。

ロイター通信は8月27日の報道で、ウクライナに西側諸国のミサイルでロシア深部を攻撃する許可を検討するのは、欧米諸国が火遊びをしているようなものだとロシアの高官が語ったと報じた。また、米国に対して、第三次世界大戦は欧州に限定されていないだろうと警告した。

ロシアの長年の外相であり、元国連大使でもあるセルゲイ・ラブロフ氏は、欧米諸国はウクライナでの戦争をエスカレートさせようとしており、外国から供給された兵器の使用制限を緩和するよう求めるウクライナの要請を検討していることは「自らトラブルを招いているようなものだ。」と述べた。

ワシントンに本部を置く軍備管理協会(ACA)は先週、この状況を正しく捉えて、「世界の核安全保障環境はこれ以上ないほど不安定になっている。」と指摘した。

ACAの主要刊行物である『Arms Control Today』誌の編集長であるキャロル・ジャコモ氏は、「米国で次期大統領が選出される数週間前、世界の核安全保障環境はこれ以上ないほど不安定になっている。」と述べた。

「ロシアは、ウクライナに対する戦争を核兵器使用にエスカレートさせるという脅威を依然として高めています。イランと北朝鮮は核開発計画を推し進め、中国は着々と核兵器の拡張を進め、米国とロシアは費用のかかる近代化計画を進めており、ガザ地区での戦争は、イランや核保有国イスラエルをはじめとする他の国々を巻き込み、

地域全体に広がる大惨事へと発展する恐れがあります。」とジャコモ氏は指摘した。

一方、ロシアと中国は米国との軍備管理協議への参加を拒否しており、新たな国々が核兵器保有の可能性を模索し、数十年にわたって続いてきた軍備管理条約が崩壊しつつある。

こうした状況を受け、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、8月26日付の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、世界的な核拡散防止体制は冷戦終結以来、かつてないほど大きな圧力にさらされていると警告した。

「米国の大統領選挙キャンペーンでは、いずれの候補が勝利しても、就任後ただちに米国の核兵器を発射する唯一の権限を継承することになるにもかかわらず、これらの問題のほとんどについて、真剣に公の場で議論されていません。」と、ニューヨーク・タイムズ紙の元論説委員(2007年~2020年)であるジャコモ氏は記している。

ブリティッシュ・コロンビア大学公共政策・グローバル・アフェアーズ学部教授で、軍縮・グローバル・ヒューマンセキュリティシモンズ講座の教授である、同大学MPPGA大学院プログラムディレクターのM.V.ラマナ博士はIPSの取材に対して、「核兵器がもたらす危険性と、この大量破壊兵器を保有する非常に強力な機関や政府が、かつてないほどに強大になっている」と語った。

「この16ヶ月間、ロシア前大統領メドベージェフ安全保障会議副議長とイスラエルのネタ二ヤフ首相が、それぞれウクライナとガザ地区に対して核兵器の使用をほのめかしたり、使用を呼びかけたりしている。」とラマナ氏は指摘した。

これらの国の指導者たちはすでに、何万人もの民間人を殺す意思を示している。ラマナ氏は、「さらに遡れば、ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮を「完全に破壊する」と威嚇したことも思い出される。トランプ氏のような人物や、戦争で核兵器を使用した唯一の国である米国から発せられたこの脅威を、最大限に深刻に受け止めるべき十分な理由がある。」と語った。

さらにラマナ氏は、「このような大きな危険は、偉大なビジョンによってのみ緩和できると主張した。それは、人々が自分たちの名の下で、核兵器の使用に限らないがとりわけ核兵器を使って誰もの命を奪うべきではないと要求することである。」と主張した。

そのためには、世界中の人々と共通の目的を持ち、アルバート・アインシュタインが1947年に「時代遅れの概念」と指摘していた「狭いナショナリズム」によって分断されることを拒否する必要がある。

Institute for Public Accuracyのエグゼクティブ・ディレクターであり、RootsAction.orgの全米ディレクターであるノーマン・ソロモン氏はIPSの取材に対し、「核軍拡競争の勢いはほぼ完全に間違った方向に向かっている。」と語った。世界全体および人類全体がますます悲惨な状況に陥っており、地球上のほぼすべての住民が熱核による消滅の危険に晒されていることを、核保有国の指導者たちが認めようとしないことが、事態をさらに深刻にしている。

「核超大国として、米国とロシアは核兵器の開発を推進してきました。それを正当化してきたものの、その結果は核兵器の拡散です。」

「核兵器の保有数が少ない国々や核兵器保有を望む国々は、最も強力な核保有国が何をしようとしているかを敏感に察知しています。核拡散を推進しながら核不拡散を説いても、より多くの国への核兵器の拡散を食い止めるための説得力のあるお手本にはならないです。」とソロモン氏は指摘した。

「特に、イスラエルに関する膨大な量のメディア報道や外交的言説の中で、イスラエルが中東で唯一核兵器を保有しているという事実について言及されているのを読んだり聞いたりすることはほとんどありません。イスラエルが周辺諸国を攻撃しても罰せられない現状を考えると、軍事問題に関してイスラエルが自制するだろうと信頼するのは間違いでしょう。」

ソロモン氏は、米露間の冷戦の再来が、極めて危険なレベルにまで核軍拡競争を加速させていると指摘した。今世紀に入ってから次々と米国政府によって破棄された条約により、軍備管理は過去のものとなった。オープンスカイ条約中距離核戦力全廃条約(INF)は、トランプ大統領によって破棄された。

それ以前には、ジョージ・W・ブッシュ大統領が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)条約を破棄している。こうした条約が存在しないことで、ロシアとの核戦争の可能性が高まっている。しかし、バイデン大統領は、前政権の共和党によって破棄されたこれらの協定を復活させようとはしていない、とソロモン氏は語った。

「正気を取り戻すには、態度と政策の抜本的な転換が必要だ。現在の方向性は、人類にとって計り知れない大惨事に向かっている。」と、著書『War Made Invisible アメリカが軍事力の犠牲を隠蔽する方法』の著者であるソロモン氏は語った。

ジャクリーン・カバッソ西部諸州法律財団事務局長はIPSの取材に対して、「今日の世界を見渡すと、核武装したロシア、イスラエル、インド、中国、北朝鮮、そして米国などますますナショナリスト的な権威主義的政府と指導者が増えていることが分かる。彼らは皆、平和の名の下に戦争の準備に忙しいのです。」と語った。

しかし、そうである必要はない。この事態の緊急性を踏まえて、米国市長会議(USCM)は、人口3万人以上の全米1,400以上の都市が加盟する超党派の公式団体として、6月に「核の危機が差し迫る時代にこそ対話を」と題する決議を採択した。

この決議は、「ロシアによるウクライナに対する違法な侵略戦争と度重なる核の脅威を非難し、ウクライナから全軍を撤退させるようロシア政府に要求する」とともに、米国大統領と議会に対して「ウクライナでの戦争をできるだけ早く終結させるために最大限の外交努力を行う」よう求めている。

カバッソ事務局長は、この決議は「米国政府に対し、ロシアとの信頼関係を再構築し、2026年に期限切れとなる唯一の二国間核兵器管理条約である新戦略兵器削減条約(新START)に代わるものを目指し、米ロ間の核リスク低減と軍備管理のためのハイレベル協議の再開への尽力を努めるよう求めている。」と語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau

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核兵器廃絶を訴える活動家たち、世界に「平和を想像すること」を呼びかける

【パリ=AD マッケンジー】

世界平和と人類の未来について議論をする上で、核兵器の問題は避けて通れない。そして、その問題は今、対処されるべきである。

これは、9月22日から24日にかけてフランスの首都パリで開催された「イマジン・ピース(平和を想像する)」会議において、多くの代表者たちが発信したメッセージである。この会議は、1968年にローマで設立され、現在は70カ国に広がっているカトリックの信徒団体「聖エジディオ共同体」によって主催された。

「祈り、貧者への奉仕、平和への取り組み」を基本理念とする同共同体は、これまでに38回にわたって国際的な多宗教間の平和会議を開催しており、世界中の活動家を一堂に集めてきた。今回の会議は初めてパリで開催され、核兵器保有国であるフランスに数百人が集まった。

世界各地で続く残虐な紛争や、一部の国による核兵器の「強化」を競い合っているという状況を背景に、この会議は緊迫感に包まれていた。戦争指導者たちによって核兵器が使用されるのではないかという懸念が強まっているのだ。参加者たちは、現在および過去における残虐行為を強調し、世界の指導者たちに過去の教訓から学ぶよう呼びかけた。

「広島と長崎の後、私たちは多くの『ノー』という声に恵まれてきました。何百万回もの『ノー』が、運動や条約、そして意識を生み出してきました。 核兵器の開発と使用から学ぶ唯一の合理的な教訓は、『ノー』ということです。」と、米国のニューヨークを拠点とする「平和と対話のための聖エジディオ財団」のアンドレア・バルトリ会長は述べた。

23日に開催された「ヒロシマとナガサキを忘れない ー 核兵器のなき世界を想像する」と題したフォーラムに参加したバルトリ会長や他の講演者たちは、核兵器のある世界で生きるとはどういうことかを分かりやすく説明し、第二次世界大戦後の核兵器に関する歴史の発展について詳しく話した。

「広島と長崎に2発の爆弾が投下された後、人類は7万発以上の核兵器を製造し、2千回以上の核実験を行いました。現在でも12,500発以上の核兵器が存在しており、その一つ一つの威力は1945年8月に使用された2発の原爆をはるかに上回っている。」とバルトリ会長は述べた。

これらの兵器の壊滅的な可能性が広く認識されているにもかかわらず、また、国連の条約がその使用を禁止しているにもかかわらず、一部の政府は核兵器の保有が抑止力であると主張している。しかし、この主張は欺瞞的であるとフォーラムのスピーカーたちは強調した。

「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のディレクターであり、2000年代初頭にオーストラリアで発足し、2017年にノーベル平和賞を受賞した運動の指導者であるジャン=マリー・コラン氏は、抑止力を主張する指導者たちは国際人権を「侵害する可能性を認めている」と述べた。

「核兵器は都市を破壊し、人口全体を殺傷することを目的として設計されています。したがって、核抑止力に基づく防衛政策を実施し、その命令を下す責任を負う全ての大統領や政府首脳は、これを認識しているのです。」とコラン氏はフォーラムで語った。

ICANは2017年に国連で採択され、2021年に発効した核兵器禁止条約のキャンペーンを展開してきた。この採択は、1970年に発効した核兵器不拡散条約(NPT)から約50年後に実現したものである。

Opening Ceremony. Credit: Kevin Lin, Multimedia Asssistant director, INPS Japan.
Opening Ceremony. Credit: Kevin Lin, Multimedia Asssistant director, INPS Japan.

6月に発表したICANの報告書によると、これら9カ国による2023年の核兵器関連支出が推計で914億ドル(約14兆4千億円)であった。不道徳かつ容認できないとICANは批判している。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、会議の開会式で、平和について一般論を述べていたが、フランスの支出は約61億ドルに上ったと推計されている。

「抑止力の維持」と「相互性の確保」という政策は、本質的には「相手が武器を廃棄すれば我々も廃棄する」というものであり、ICANや他の軍縮活動家たちから強い批判を受けている。

「絶え間なく流れる情報によって、私たちはしばしば数字の現実を見失いがちです。」とコラン氏は平和会議で述べた。「この数字には注目してほしい。広島と長崎への原爆投下で、8万8千人以上の子どもたちが命を落としたと推定されています。子供たちです!」

1945年末までに推定21万人が死亡したとされるが、そのすべてが恐ろしい方法で命を落とした。生存者やその他の人々が証言している。代表団は、この事実こそが真の「抑止力」であるべきだと述べた。

Anna Ikeda, program coordinator for disarmament at the UN Office of Soka Gakkai International. Credit: AD McKenzie/IPS

フォーラムで、創価学会インタナショナル(SGI)国連事務所軍縮プログラム・コーディネーターであるアナ・イケダ氏は、広島の原爆生存者である山田玲子氏の証言を紹介し、それが忘れられないものであると述べた。

「山田さんはこう語りました。『近所に住んでいた仲良しの友人が、4人の兄弟姉妹と一緒に母親が帰宅するのを待っていました。後で聞いた話では、原爆投下の2日後に、動く黒い塊が家に入ってきて、最初は黒い犬だと思いましたが、すぐにそれが母親であることに気づきました。母親は子供たちのところへたどり着いたときにはすでに気を失っており、そのまま息を引き取りました。子供たちは母親の遺体を庭で火葬にしました。』」と、イケダ氏は感情を込めて聴衆に語った。

「誰がそのような死を迎えるにふさわしいのでしょうか?誰もいない!」とイケダ氏は続けた。「それでも私たちの世界は、核兵器の維持に何十億ドルも費やし、時にはそれを使用する準備があることをほのめかす発言をします。これは全く容認できません。」

「生存者、すなわち日本では「被爆者」として知られる人々が、なぜ核兵器を廃絶しなければならないのかという根本的な答えを持っている。それは、『私たちが経験したような苦しみを、他の誰にも味わせたくない』ということです。」とイケダ氏は語った。(原文へ)

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国連の未来サミット:核兵器廃絶と気候危機に取り組むために必要な若者主導の行動

【国連=ナウリーン・ホセイン】

国際的な連帯と果断な行動という「国連の未来サミット」の核となるメッセージを推進するのは、今日世界が直面する複合的な危機に取り組むことを決意した若者たちである。

そして彼らは、2024年9月20から21日にかけて開催された同サミットのアクション・デイズでは、国連本部内外で、意味のある参加を増やし、定義づけるための対話を主導した。

また、9月22日(日)に国連で採択された「未来のための協定」においても、若者と未来世代は世界の指導者たちの関心の最前線にある。史上初の「未来世代に関する宣言」において、彼らの役割が明確に定義され、意思決定において未来世代を考慮するための具体的な手段が提示された。その中には、未来世代のための特使を任命する可能性も含まれている。
これに、「特に世界レベルにおいて、若者たちが自分たちの人生を形作る決定に参加する有意義な機会」を増やすことへのコミットメントも含まれる。

未来をつくる:創価学会インタナショナル(SGI)と未来アクションフェス実行委員会が共催し、国連大学(UNU)と国連広報センター(UNIC)の支援を受けたサイドイベント「未来を築く:核危機と気候危機に関する相乗的なコラボレーション」では、若手活動家が一堂に会し、2つの異なる危機が交わる局面について、また若者の意味のある参加を定義するものは何かを議論した。

国連広報センターの根本かおる所長は、サミットのアクション・デーの議題が若者の参加者によって主導・組織されたことは「画期的」であり、総会議場の大半の席が若い活動家たちによって埋め尽くされたと述べた。

また、「若者たちには、この世界をより良い場所にする力があるという共通のメッセージがある。気候変動、核軍縮、不平等との戦い、どの議題に取り組んでいても、若者に関する問題は、あらゆる分野にまたがる非常に重要な問題である。」と根本所長は言う。

さらに根本所長は、国連は若者の意味のある参加を促すために、さらに努力する必要があると付け加えた。これは、青少年が意思決定において協議し、指導的立場に立つことを認めることを意味する。若者の存在を形だけのものにしてはならない。

気候変動と核危機は、深く結びついた存亡の危機である、と国際連合大学学長のツシリッツィ・マルワラ博士は言う。気候の不安定さは、紛争や避難民の発生を引き起こす要因を助長する。スーダン、イスラエル、パレスチナ、ウクライナで起きているような紛争は、核のエスカレーションのリスクを高める。現代のリーダーたちがこれらの問題に取り組む中で、マルワラ博士は若者たちに、声を上げ続け、権力者たちに責任を問うよう呼びかけた。

マルワラ博士は、国連大学は「若者の意味のある参加」を全ての関係者で実現することにコミットしていると述べた。若者たちは意欲的で、より深い社会問題への関心を示す一方で、自分たちの声を聞いてもらったり、行動を起こすための活力を感じたりすることに課題を抱えている。マルワラ博士は、政治活動に関与していない、あるいは参加することを躊躇している若者たちに手を差し伸べることが重要だと指摘した。

未来サミットの主要な議題の一つは、意思決定プロセスへの若者の参加を増やすことである。若い活動家や市民社会の関係者が、より大きな社会的変化を推進し、複雑な問題に対して意欲的に行動をしてきたことは、以前から認められてきた。しかし、彼らは自国の政策決定に参加する際にしばしば課題に直面している。

これらの課題の中には、政治システムにおける構造的な問題が潜んでいる。日本の政治においては、若者層は国政および地方政治で、十分な存在感を発揮できていない。日本では若い有権者の間で、自分たちの声が国や地方公共団体に届かないという考えが広まっていると、日本若者協議会で活動するセリガノ・ルナ氏は述べた。

これは投票率に示されており、20代の有権者はわずか37%、自分の一票が重要だと考えている有権者は54%しかいない。対照的に、70代の人々の71%が選挙で投票している。30代以下の人々は、政府の委員会やフォーラムで働く専門家のわずか1%に過ぎない。日本若者協議会は現在、来年の新しいエネルギープランに取り組む委員会メンバーとして若者が直接参加するよう呼びかけ、国の気候変動政策への積極的な若者の参加を提唱している。

ジェンダーの視点から核兵器の廃絶を目指すNGO団体「GeNuine」の共同創設者である徳田悠希氏は、若者たちが意思決定の場から遠ざかっていると語った。若者の声は届くかもしれないが、それだけでは十分ではない。彼女がIPSに語ったように、気候変動と核の危機は日本の若者の関心事である。そして、何ができるのかというアイデアはあっても、どのように行動すればいいのかは知らされていない。

参加を増やすための希望はある。徳田氏は、原子力問題に関する政策立案者たち(そのうち30%が女性)は、こうした議論に若者たちを参加させる取り組みを始めていることを共有した。

「若者がこれらのプロセスに意味のある参加ができるようにシステムを再構築する時です。核兵器禁止や気候危機の解決に取り組むためには、世代を超えた参加が必要なのです。」と徳田氏は言う。

このイベントでは、若者の意味のある参加とはどのようなものかが話し合われた。若者の視点に配慮した取り組みがなされていることは認められた。若者を議論に含めることは重要な一歩である。しかし、それだけでは不十分であり、今後は、複雑に絡み合う問題を解決するために必要な行動を起こす権限を持てるようにすることが求められると提案された。そうでなければ、若者たちが参加する意味がない。

「平和の構築と維持という課題に取り組むためには、未来志向の若者がこれまで以上に必要とされている。」とSGIユース共同代表の西方光雄氏は述べた。

「未来アクションフェスのように、若者の連帯は問題を解決し乗り越えるための出発点となり得る。」と同氏は語った。

来年の2025年は第二次世界大戦の終結と広島・長崎の原爆投下から80年目を迎える。西方氏は、核兵器禁止条約第3回締約国会議と国連気候変動会議(COP30)を前に、核軍縮と気候変動対策の議論を進める重要な機会となると指摘した。

さらに、同氏は、「私たちは平和への願いで一致団結し、次世代への責任を分かち合い、草の根レベルの行動を日本、そして世界に広げていきます。」と語った。

未来のための協定では、核軍縮に向けた多国間のコミットメントを10年以上ぶりに再確認した。これは、核兵器の完全廃絶という目標に向けた明確なコミットメントも伴う。

また、1960年代以来の国連安全保障理事会の改革を約束し、優先事項としてアフリカの歴史的な代表不足の是正を含め、理事会の実効性と代表性の向上を計画している。

この協定では、持続可能な開発目標(SDGs)の実施を「加速」させるコミットメントがあり、開発途上国の代表性を高め、これらの国により資するものになることを目指す国際金融アーキテクチャーを改革することが含まれている。

「私たちは、祖父母世代のために構築されたシステムで、私たちの孫にふさわしい未来を築くことはできない」とアントニオ・グテーレス国連事務総長は述べた。(原文へ)

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オーストラリアの留学生枠削減:志ある学生と企業への打撃

【ベルボルンLondon Post=マジェド・カーン】

オーストラリア政府は、住宅問題の緩和と移民流入の抑制を目的とした取り組みの一環として、留学生の受け入れ制限を実施する計画を発表した。政府はオーストラリアへの留学生を惹きつける国際教育プログラムが、移民やビザ詐欺に対して脆弱であることを懸念している。

2023年の公式データによると、オーストラリアには78万7000人の留学生が滞在しており、これはパンデミック前の水準を上回る。政府は、賃貸住宅の負担を軽減し、移民流入を規制するために、留学生の数を制限することを目指している。

2024年7月2日、政府はさらに一歩踏み込み、留学生ビザ申請料を2倍以上の1,600ドルに引き上げた。この動きについて、オーストラリア国際教育協会は、「千の傷の死(小さな不利益が積み重なることで、最終的にその業界が衰退する)」と表現した。

オーストラリアのこの決定は、世界中の大学、企業、そして留学希望者にとってどのような影響をもたらすのか、議論と懸念を巻き起こしている。留学生の急増によって深刻化した住宅不足の緩和を目的としていることは明らかだが、この政策転換は、オーストラリアの経済戦略、教育の競争力、そして国際協力への取り組みに対する、より幅広い疑問を投げかけている。

オーストラリアは長きにわたり、質の高い教育と多文化的な環境で知られ、留学生に人気の留学先となっていた。留学生の流入は学問の分野を豊かにするだけでなく、経済にも大きく貢献してきた。

留学生が支払う学費は、国内学生よりも高い場合が多く、大学やカレッジにとって重要な収入源となっている。これらの資金は、研究、インフラ、奨学金など、さまざまな側面での受け入れ機関の発展に寄与し、同国の教育の地位を世界的に高めてきた。

一方、入学金や授業料はオーストラリア政府の国庫に納められ、多くの場合、ビザは遅延または取り消しとなっていた。学生たちは、支払った金額が数ヶ月から1年間にわたって返還されていないと考えている。

留学生の定員を半減するという政府の決定は、高等教育界に衝撃を与えた。すでに、海外からの移動や学生の入学を混乱させた新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの影響で苦境に立たされていた大学やカレッジは、今、深刻な財政的打撃に直面している。留学生の数が急激に減少したことで、留学生の学費に大きく依存して運営と成長を維持している教育機関の財政的安定性が脅かされている。

その影響は教育機関にとどまらず、キャンパス周辺で留学生のニーズや好みに応える形で発展してきた小規模なビジネスにも及んでいる。これらのビジネスは、多くの場合移民によって所有・運営されているが、留学生の安定した流入と彼らの購買力に支えられて成長してきた。

レンタカー会社のオーナー、アハメド・ハンジャラ氏は、ロンドン・ポスト紙の取材に対し、留学生の減少により、留学生を主な顧客としている我々のビジネスに悪影響が出ていると語った。 リード・エデュケーション・コンサルタントのディレクター、ムハンマド・イムティナン・アリ・ヴィルク氏は、「政府の決定は世界中の何十万もの学生にとって逆風であり、失望でしかありません。 教育コンサルタントとして、我々のビジネスにも悪影響が出ています。」と語った。

宿泊施設やカフェ、書店、専門サービスなど、これらの企業は学生数の減少により先行きが不透明になり、地元の雇用や経済活力が脅かされることになる。

政策立案者たちは、留学生の数を減らすことで住宅供給の圧力がいくらか緩和され、賃貸市場が安定し、オーストラリア国民にとって住宅がより手頃な価格になる可能性があると主張している。

しかし、反対派は、留学生の定員削減は住宅問題への短絡的なアプローチであると主張している。彼らは、オーストラリアの教育分野は経済面だけでなく、文化面や学術面でも留学生の存在から恩恵を受けていると強調している。留学生は、経済的な貢献だけでなく、多様な視点をもたらし、すべての学生の教育経験を豊かにし、相互に結びついた世界においてますます重要性を増しているグローバルなつながりを育んでいる。

さらに、この決定は、オーストラリアへの留学を希望していた世界中の何千人もの学生に多大な影響を与えた。多くの学生は、教育を受けるという夢をかなえるために綿密な計画を立て、多大な投資を行ってきたが、突然の方針転換により、その計画が台無しになってしまった。この不確実性により、学生たちは落胆し、将来の教育やキャリアの道筋に不安を抱くようになり、中には選択肢を完全に再考する人も出てきた。

教育機関、企業、支援団体など、さまざまな利害関係者からの圧力の高まりを受け、政府は決定の見直しと修正を迫られている。反対派は、オーストラリアが留学生にとって魅力的で競争力のある留学先としての評判を損なうことなく、住宅問題に対処できる代替案を主張しています。

その提案には、手頃な価格の住宅への投資を増やすこと、学生の宿泊施設を管理するための的を絞った政策を実施すること、住宅問題の影響を緩和するために大学と地域社会の間のパートナーシップを促進することなどが含まれている。

留学生の定員に関する議論は、オーストラリアがグローバルな教育ハブとしての役割や、国際協力や交流への取り組みについて、より幅広い問題を浮き彫りにしている。

オーストラリアが留学生に対して冷たく、予測不可能な政策をとっていると見なされれば、オーストラリアは競争力を失うリスクにさらされることになり、世界中の才能ある人材を惹きつける国としての魅力に影響が出る可能性もある。

利害関係者は、政府の政策のさらなる展開と修正の可能性を待ち望んでいるが、その結果はオーストラリアの教育業界の行方や、さらには経済全体の構造に大きな影響を与えることになるだろう。

世界は、グローバルな人材の流動性、教育機会、相互に結びついたグローバル経済におけるオーストラリアの位置づけに与える影響を懸念しながら、事態の推移を見守っている。今後数か月の間に下される決定は、オーストラリアの国際教育の当面の未来を形作るだけでなく、さまざまな分野や社会に影響を及ぼし、オーストラリアの開放性や国際的な関与への姿勢に対する認識を形作ることになるだろう。

INPS Japan/ London Post

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韓中の協力まで、道のりはまだ遠い

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は2024年6月17日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載されたものです。

現実的な視点から韓中関係を根本的に見直すことが緊急に必要である。

【Global Outlook=文正仁(ムン・ジョンイン) 

中国は、5月26日に4年半の空白を経て再開された日中韓サミットに多くを期待していたようだ。北京は、会談を機に3カ国の協力を強化し、国家間の関係改善を図ることを期待すると同時に、北京は、米国による中国封じ込めに対する韓国と日本の協力を鈍らせるチャンスができると踏んでいた。

実際、会談前後の中国メディアには、中国と韓国の関係改善に関する楽観的な論評もいくつか見られた。中国のコメンテーターが揃って取り上げたのは、(1) 韓国の趙兌烈(チョ・テヨル)外交部長官が中国訪問中に見せた柔軟な態度、(2) サミット期間中に韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と中国の李強首相が自由貿易協定の第2段階交渉を加速することで合意したこと、(3) 13年間機能していなかった韓中投資協力委員会の再開、(4) 両国間のサプライチェーン問題に関する検討・調整を行う機関の設立、(5) 韓中の外務および国防の次官クラスによる定期的な「2プラス2」会合を設置する取り決めである。ひと言で言えば、中国メディアでは滅多に見られないような賛辞である。(

しかし、筆者が先週北京で中国高官や朝鮮半島専門家と話をしたとき、これとは随分異なる印象を感じた。彼らの見解をまとめると、「まだ道のりは遠い」ということになる。彼らは、そのような見方の裏付けとして、次の四つの論点を示した。

何よりもまず、中国の核心的利益を侵害し続ける限り、ソウルは中国との意味ある協力を期待するべきではないと、中国の友人たちは言った。

韓中日サミットの直後、韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官がシンガポールで開催されたシャングリラ会合に出席し、米国の国防長官および日本の防衛相と会談した。3人の国防閣僚は共同声明を発表し、その中で「インド太平洋海域におけるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対することを再確認し」、中国の「南シナ海における[……]不法な海洋権益に関する主張」を批判した。3人の閣僚はまた、「両岸問題の平和的な解決を促した」。

さらに、韓国、米国、日本は2024年夏に開始される合同軍事演習を実施することで合意した。

中国政府は、苛立った反応を見せた。中国高官は、台湾に関するコメントを「『一つの中国』の原則に対する侵害であり、中国の内政への見境ない干渉であり、悪意に満ちた攻撃である」として批判した。高官はまた、「韓国、米国、日本は、南シナ海の当事国ではなく、地域内の国家間の海上問題に首を突っ込むべきではない」とも述べた。

中国の反応は、韓国が中国の主権と領土保全という核心的利益を損なうなら、他の分野での協力は不可能になり、両国の関係全体が破綻するということを強く示唆している。これは、韓国にとって紛れもなく厄介な見通しである。

中国高官らは皆、韓国と米国の同盟は韓国の主権事項であり、中国が指図をする立場にはないということには同意した。しかし、中国に対する軍事的抑制または封鎖を正当化する口実として北朝鮮の脅威を利用しようとするいかなる試みも、中国は容認しないと付け加えることを忘れなかった。

また、韓国が、米国によるTHAADミサイル防衛砲台の追加配備や朝鮮半島における中距離弾道ミサイルの前方配備を認めたり、台湾海峡や南シナ海で中国に対する軍事行動に参加したりするなら、北京はそれを敵対行動と見なし、相応の措置を取るという遠回しな警告もあった。「相応の措置」が何かは具体的に語られなかったものの、THAAD騒動後の経済報復よりも実体的なものとなるかもしれないと、接触相手らはほのめかした。

中国人らはまた、韓国が米国との同盟を強化して米国政府からいっそうの支援を確保すれば、中国との交渉における力を得ることができるという韓国の一部の保守派の主張についても、非常に批判的だった。中国人の反応は、米国への過度な依存は韓国にとって資産ではなく負債となるというものだった。

また、韓国は現在の中国と1990年代の中国を混同するべきではないとも言った。米国でさえ中国を思い通りにできないことを考えれば、韓国が米国の威を借りて中国に間接的圧力を加えることができると思うなど、時代錯誤だというのだ。

中国は昔から、朝鮮半島における平和と安定、そして非核化を提唱しており、対話と外交による問題解決を訴えてきた。しかし、最近の朝鮮半島における軍事的緊張の高まりに対しては、傍観者的な姿勢を取っている。

筆者が中国の消極的な姿勢を批判したところ、北京の接触相手らは以前と同様の返事をした。中国政府はすでに、韓国、北朝鮮、米国にとって受け入れ可能なはずの解決策を提示していると、彼らは言う。具体的には、韓米合同軍事演習と北朝鮮の核兵器・ミサイル実験を同時に中止すること、そして、朝鮮半島の非核化と半島における平和体制樹立に向けて同時に動くことである。しかし、韓国と米国がその提案を拒絶し、北朝鮮に対する強硬姿勢を押し通したのだから、中国はこれ以上どうしようもないというのだ。

中国と韓日との3カ国サミット、韓国との対話再開の後だったにもかかわらず、接触相手の中国人らの姿勢は、恐らく韓国や他の国々の観測筋を失望させるようなものだった。こうしたことから、ソウルと北京の関係の未来は寒々として見えるのだ。

原則を強調し、韓米同盟を強化し、米国および日本との3カ国協力を拡大することも必要だろうが、それらは韓国が抱える中国との懸案事項を解決してくれそうにない。現実的、かつ国益の観点から韓国と中国の関係を根本的に見直すことが緊急に必要である。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。文在寅前大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

INPS Japan

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この記事は、聖教新聞電子版が配信したもので、同社の許可を得て転載しています。

【ロンドンINPS Japan=サンニャ・ラジパル】

オーストリアのウィーンで本年4月、自律型兵器システムの規制に関する2つの重要な行事が開かれました。

一つは、国際ネットワーク「ストップ・キラーロボット(SKR)」、オランダの平和団体「PAX」,オーストリア赤十字社が、オーストリア連邦欧州・国際問題省の協力を得て開催した、市民社会フォーラム「岐路に立つ行動」(4月28日)。もう一つは、オーストリア政府が主催した国際会議「岐路に立つ人類ー自立型兵器氏システムと規制の課題」(同29日、30日)です。

SGIを代表して両会合に出席した山下勇人氏と私は、自律型兵器が引き起こす倫理的・人道的な懸念の緊急性に光を当てました。

倫理的な断絶性

市民社会フォーラムでは、緊要なテーマが取り上げられ、世界的な武器の脅威に反対するキャンペーンが成功を収めてきたことを指摘する中で、市民社会の行動の必要性が際立つものとなりました。

私は、技術開発と規制のギャップを議論するパネルに登壇しました。長きにわたる「人間性を奪う」傾向は第一に産業革命における機械として、新自由主義的な理想への移行期における資本として、そして大量消費社会の一部としての製品、さらにAI時代におけるデータとして現れていることに言及。共通の「人間の尊厳」を志向したパラダイムシフトが必要ではないかと強く語りました。

実際のところ、「生死を左右する決断を下す瞬間」だけでなく、「重要な技術の開発や知見を提供するためのデータの分析がどのように行われているか」という点においても、人間の自主性を維持することが極めて重要であると指摘したのです。

山下氏は宗教間ワークショップに参加し、「倫理的な断絶性」の概念について議論しました。池田SGI会長が提唱されたように、攻撃をする側とされる側との「断絶性」が人間性を損ない、より非人道的な戦争につながる可能性がある。だからこそ、対話を通じた地域社会に根差した平和の構築、そして人間の尊厳を守るために多国間の関係者と積極的に関わる「信仰を基盤とした団体(FBO)の重要性を訴えたのです。

市民社会と国家間の協力

続いて開催された国際会議「岐路に立つ人類」には、140超の国から1000人以上が集まりました。

Alexander Kmentt, Director for Disarmament, Arms Control, and Non-Proliferation at the Austrian Ministry of Foreign Affairs. PHOTO Credit: Michael Gruber (BMEIA)

オーストリアのシャレンベルク外相は会議の冒頭で、「行動を起こさずにこの瞬間をやり過ごすわけにはいかない。今こそ人による制御を確実にする国際的なルールと規範に合意すべき時である。」と述べました。

Hayato Yamashita, Program Coordinator for Disarmament at SGI ©Seikyo Shimbun
Hayato Yamashita, Program Coordinator for Disarmament at SGI ©Seikyo Shimbun

山下氏はSGIを代表して声明を発表し、人類全体の繁栄に貢献する技術の重要性を改めて訴え、国際的な規制を求めました。

期間中、参加者は自律型兵器システムによって生じる法的、倫理的、人道上、安全保障上の課題を巡って議論しました。そこでは次のテーマに重点が置かれました。

1.人による制御の重視:自律型兵器システムにAIを組み込むことは、意思決定における微妙な差異や倫理的判断を排除するという脅威をもたらす。それにより、人間による制御と説明責任が損なわれ、無差別、かつエスカレートする暴力のリスクが浮き彫りになった。

2.偏りと不安定な技術開発:AI技術の開発と訓練には、多様性の欠如、不正確なシュミレーションシナリオ、行動への傾倒など様々な偏りが存在し、現実世界でのシナリオにおいて予測不可能で不均衡な行動や決定を招くリスクがある。

3.倫理的・法的枠組み:自律型兵器技術の急速な進化と複雑化は既存の法的枠組みの進化を上回っている。一貫した規制の欠如、そして意図・実行・動機の不明確さが、自律型兵器が関与する戦争犯罪に対する説明責任をより複雑にしている。

4.入手可能性と拡散リスク:自律型兵器システムは化学兵器、生物兵器、核兵器と言った従来のグローバルな脅威とは異なり、複雑な材料や機械を必要としない。比較的安価で入手が容易なため、より広範な拡散が可能となる。この広範な入手可能性と品質のばらつきにより、この問題に対処するには、複数の利害関係者が連携した効果的な取り組みが必要となっている。

Soka Gakkai International
Soka Gakkai International

人間の生死の決定を機械に委ねない

法的規制の策定へ 生命の尊厳守る行動の連帯を

会議はオーストリア政府による議長リポートの発表をもって閉幕しました。報告書は新技術に対する人間の制御の重要性を強調し、「武力行使においては人による制御が優先されなければならない。標的の選択や生死に関する決定を機械に委ねることは、私たち全てに関わる問題である。」と記されています。この報告書は、自律型致死兵器に関する2023年の国連総会決議に沿って、自律型兵器システムに関する見解を国連事務総長に提出するよう、全ての国家及び関係者に強く求めるものです。同時に、自律型兵器システムを規制する国際的な法的枠組みを策定するために、全ての関係者と緊急に協力する強い決意を表明しています。

結論として今回の会議では、自律型兵器システムの規制において国際協力と倫理的配慮が急務であることが強調されました。

私たちは絶えず進化するテクノロジーや、ますます現実から離れた制度に直面しています。人類全体を守る上で根本的な原動力となるものは何かー。それは、化学兵器、生物兵器、さらには核兵器という世界的な脅威から人類を守るための過去の取り組みと同様に、人々の意識啓発、市民社会と国家間の協力によって成し遂げうるものなのだと、今回の会議は思い起こさせてくれました。

この「結集した行動の力を信じる」という信念こそが、人間性の否定から脱却し、「人間の尊厳」を守るための最重要の第一歩となるに違いありません。

INPS Japan/『聖教新聞8月18日付を転載」

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中央アジアの水資源問題と解決策

【バクーINPS Japan/London Post=セイムール・ママドフ】

キルギス人には「El bashi bolboy, suu bashi bol」という格言がある。直訳するとこうなる: 「人民の長になるな、水の長になるべし。」

この古い諺は、今日でも大いに当てはまる。水は命であり、この単純な真理は誰もが認めるところであり、証明する必要はない。水源を支配する者はすべてを支配する。豊富な水資源の存在は、人々の社会経済的発展と福祉に寄与する。水は、かつて血なまぐさい戦争の原因となった戦略的資源である。今日、これらの問題は国際法によって規制されているが、問題は依然として存在する。気候変動に伴い、水資源の不足がますます深刻化しているのだ。

前世紀には、新鮮な飲料水の不足が世界的な問題となり、世界人口の40%以上が影響を受けた。

川が流れる国

アゼルバイジャンもまた、天然の水域があるにもかかわらず、水不足の問題に直面している。同国には8,500近い河川があり、そのうち24本は大きな河川で、450の湖がある。これは非常に多いが、専門家によれば、気候変動により、この国の水資源は年々減少しているという。このプロセスは世界中で起こっており、各国は独自の解決策を模索している。アゼルバイジャンの場合、埋蔵量の70%以上が国外で形成されているという事実が状況を複雑にしている。アゼルバイジャンの主要な河川は近隣諸国に源を発している。

これに対してカザフスタンでは、8つの主要河川流域のうち7つが越境流域である。年間再生可能な地表水資源の40%以上が近隣諸国からもたらされている。そのため、カザフスタンの水輸入量はアゼルバイジャンより大幅に少ない。とはいえ、中央アジア全体と同様、カザフスタンの水不足問題は非常に深刻である。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

アゼルバイジャンについては、第二次カラバフ戦争後、国の水収支は大幅に改善した。カラバフと東ザンゲズールの水源の水資源は、国の総水資源の25%を占めている。最も重要なことは、解放地域のほぼすべての河川がアゼルバイジャン国内に源を発していることであり、これは水の安全保障の観点から非常に重要である。

一方、カザフスタンは「水に依存せざるを得ない」の国であり、国土の2.8%しか水が生きわたっていない。予測によれば、2030年までに国内の淡水量は5分の一に減少する可能性がある。水の輸入依存度を減らすため、カザフスタンは2023年に9つの新しい貯水池の建設を開始した。将来的には、その数を220まで増やす必要がある。

水の浪費

ユーラシア開発銀行(EDB)の最新調査「中央アジアにおける飲料水供給と衛生」によると、中央アジアでは1000万人(人口の14%)が安全な飲料水を利用できていない。世銀の専門家によると、1994年から2020年にかけて、中央アジア諸国における生活用水の取水量は倍増したが、飲料水供給インフラへの投資は消費量の増加に見合わなかった。その結果、給水・処理インフラは80%近くが損耗し、配水網における水の損失は55%に達している。

こうした問題を解決するには資金が必要だ。世界銀行の予測によると、2050年までに中央アジアの人口が9000万人に増加すると予測される中、25〜30%の水不足が予想されている。農業用水の需要は2030年までに30%増加すると予測されている。

これらの気落ちする数字にもかかわらず、多くの専門家は問題の根源は水資源の不足ではなく、効率的な使用の欠如にあると考えている。国連食糧農業機関 (FAO) によれば、中央アジア諸国の水資源は一人当たり十分であり(約2,3000,000立方メートル)、これらの国々は世界のトップ10の水消費国にランクインしている:トルクメニスタン(年間5,319立方メートル)、カザフスタン(年間2,345立方メートル)、ウズベキスタン(年間2,295立方メートル)、キルギスタン(年間1,989立方メートル)、タジキスタン(年間1,895立方メートル)。

これらの国々では、農産物を生産するために先進国の2.5―3倍の水が使用されている。タジキスタンでは、消費される水の92%が灌漑農業とエネルギー生産に使用されており、産業および公共サービスにはわずか4%しか残されていない。人口の約60%が中央水供給にアクセスできず、国の水供給ネットワークの約30%が様々な理由で機能していない。

キルギスでは、古い水路のために水損失が30%〜50%に達している。地域の古い溝灌漑システムは現代の要件を満たしておらず、水の40%しか利用できず、残りの60%は地中に浸透したり蒸発したりしている。これは、2050年までに地域の人口が1億人に達することを考えると、これは重大な問題である。

水の輸入依存の問題は、カザフスタンだけの問題ではない。農業を支える多くの河川は、中央アジアのいくつかの国の領土を流れている。ここで問題が起こるのは、上流国と下流国の利害の対立である。上流で貯水池を満たすと、下流の国々は水不足に陥る。1992年以来、水資源における越境協力に関する交渉が行われているが、この地域の国々のコンセンサスは得られていない。

クシュ・テペ灌漑用水路

今年5月、キルギスの首都で「中央アジアの水資源不足:地域および国際レベルでの水問題の解決策」に関する国際会議が開催された。討議の中で、中央アジア諸国はすでに水不足と水資源の非効率的な使用によって年間最大20億ドルを失っていると指摘された。差し迫った問題に対処するために、地域の国々は統一された戦略を策定し、利益を調整する必要がある。

中央アジア諸国による水とエネルギーのコンソーシアムを作るという提案があった。クシュ・テペ灌漑運河の建設を急ピッチで進めているアフガニスタンも参加すべきだ。この運河はアムダリヤ川の流量の10〜12%を取ると予想されており、下流のウズベキスタンとトルクメニスタンに悪影響を及ぼす。

計画によると、この運河の全長285km、幅は100mになる。専門家の多くは、運河の開通によって川の水深が4分の1になるため、この地域に深刻な問題が生じると考えている。タリバンは時代遅れの技術を使って水路を建設しているため、損失はさらに大きくなる可能性がある。

専門家たちは、環境的、社会的、経済的大災害が差し迫っていると警告している。ホラズム地方とブハラ地方、そしてカラカルパクスタン(ウズベキスタン)が特に影響を受けるだろう。ウズベキスタンのメディアはすでにこの運河を “アムダリアの殺人者 “と呼んでいる。

ウズベキスタンの水力発電資源は約5%に過ぎず、残りは近隣諸国からの水である。利用可能な水資源のほとんどは綿花畑の灌漑に使われている。2030年までにウズベキスタンの人口は4,000万人に増加することを考えると、この状況をどのように管理するかが大きな問題であることに変わりはない。

アフガニスタンの運河は、アラル海復活の希望も打ち砕くだろう。しかし、建設が完了するまでにはまだ6年あり、この地域の国々が解決策を見つけ、悲惨な結果を防ぐ時間は残されている。国連の国際条約に従い、アフガニスタンも参加する形で、地域諸国間で越境水域に関する新たな協定を結べば、状況を救えるかもしれない。タリバン政府の発言から判断すると、国際社会による承認を求めており、この場合、アフガニスタンは国際社会の信頼できる一員であることを証明する良い機会となる。

水による解決

知っての通り、絶望的な状況など存在しない。中央アジアの水問題にも解決策はある。専門家によれば、いくつかの方法がある。国家間の協力、水利用の効率化、地下水源の探査を含む代替水源の開発である。

bne IntelliNewsのインタビューに応じたカザフスタンのアイザン・スカコヴァ議員は、安全な飲料水を入手できない主な原因は、経済成長と人口増加による水消費量の増加にあると指摘した。中央アジアは特に脆弱であり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)により、気候変動が特に強い影響を及ぼし、利用可能な水資源を著しく減少させる地球上の2つの「ホットスポット」の1つとして公式に認識されている。

「これは潜在的には紛争の問題だが、この地域の国々はパートナーシップと善隣関係の道を歩むことができます。今日、これらは優先的に取り組むべき課題です。水利用問題を含む環境問題の専門家として、私は国家間のあらゆる関係は、これらの国の立法行為を尊重し、国連が採択し規制する条約、宣言、基準などの国際文書に依拠すべきであると考えています。カザフスタン共和国は、近隣諸国の利益を考慮し尊重しながら水利用に関する問題を規制しています。」と、スカコヴァ議員は語った。

「カザフスタンと近隣諸国との水関係は、越境河川の利用と保護に関する政府間協定によって規定されています。国家レベルでは、国際水・エネルギーコンソーシアム(IWEC)の設立の可能性が議論されています。コンソーシアムは、地域のすべての国の利益とニーズ、コストと利益を考慮し、水の分配、水の経済価値、水エネルギー交換の同等性、季節的な河川流量調整のための水力発電所 (HPP) のカスケードによるサービスのコスト、国際水エネルギー複合施設の共同運営など、ほぼすべての問題に対応する構造として機能します。」と、スカコヴァ議員は語った。

UN Photo
UN Photo

協力と相互理解は、中央アジア諸国が直面する現代のほとんどの問題を解決する鍵である。これは特に、気候変動と人口増加の文脈でますます関連性を増す水問題に当てはます。持続可能な水資源管理を実現するためには、この地域の国々がこれらの原則を積極的に取り入れる必要がある。

また、水の損失問題への対処も極めて重要である。現在、時代遅れのインフラや非効率的な管理のために、かなりの量の水が失われている。水のロスを減らすには、給水システムの近代化と、利用可能な資源をより合理的に利用できる先進技術の導入が必要である。また、農業、工業、家庭需要など、さまざまな部門間でバランスの取れた水消費を確立することも重要である。

水の損失の問題に対処することも重要です。現在、旧式のインフラや非効率的な管理のために多くの水が失われています。水の損失を減らすためには、水供給システムの近代化と、利用可能な資源をより合理的に利用できる先進技術の導入が必要です。また、農業、産業、家庭のニーズなど、異なるセクター間でのバランスの取れた水消費の確立も重要です。

気候変動は、すべての人に影響を及ぼす地球規模のプロセスである。気候変動は、洪水や干ばつなどの異常気象によってすでに顕在化しており、その頻度と激しさは増している。最近地球を襲った洪水は、水資源の増加を示すものではない。これらの異常気象は、今年の洪水が昨年の干ばつに取って代わっただけであり、予測不可能で不安定な状況を生み出していることを示している。

来年何が起こるかは誰にもわからない。したがって、水資源管理における国際協力と経験の交換が特に重要である。中央アジア諸国の共同努力は、気候条件の変化に適応し、地域のすべての住民のための水の利用可能性を確保するための、効果的で持続可能な戦略の構築につながる。最終的には、協力と相互理解を通じてのみ、持続可能な開発とすべての人々の幸福が達成されるのである。(原文へ

INPS Japan/London Post

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【アスタナINPS Japan/The Atana Times=サニヤ・サケノヴァ】

カザフスタンの首都アスタナは、第5回ワールド・ノマド・ゲームズ(国際遊牧民競技大会)の開催に向けて、カザフスタン国内外から10万人の観光客を迎える準備を進めていると、準備・開催総局のアブライ・コンディバエフ副局長が語ったと、国際通信社カズインフォルムが7月23日に報じた。

5th World Nomad Games Astana 2024

各競技はアスタナの6つの主要会場(アスタナ・アリーナ・スタジアム、カザナト・ヒポドローム(競馬場)、ジャクシリク・ウシュケンピロフ記念武道館、アラウ・アイス・パレス、カザフスタン・アスレチックスポーツ・コンプレックス、多目的娯楽施設ドゥマン・コンプレックス)で開催される予定である。

開会式は9月8日にアスタナ・アリーナ・スタジアムで行われる。馬術競技、伝統的な弓術、鷹狩りの競技は、カザナト・ヒポドローム(競馬場)と「遊牧民のユニヴァース」と名付けられた民族村で開催される。

カザナト・ヒポドロームの収容人数は10,000人で、最も壮観な馬上スポーツであるコクパル(騎手たちが馬に乗り、ヤギや羊の屠体を奪い合い、特定のゴールに運ぶことで得点を競い合う)とバイゲ(長距離の馬のレースであり、騎手たちが馬の速さと耐久力を競い合う競技)はここで開催されます。」とコンディバエフ副局長は語った。

カザナト・ヒポドロームに隣接する10ヘクタールの民族村が、文化プログラムのメイン会場となる。

ウシュケンピロフ記念武道館とアラウ・アイス・パレスでは、伝統的なレスリング、武道、民俗ゲームの競技会が開催される。伝統的な知的競技は多目的娯楽施設ドゥマン・コンプレックスで開催され、カザフスタン・アスレチックス・スポーツコンプレックスには、認証センターと機材センターが設置される。

競技に関連する科学的イベント(遊牧民文化に関する主に学術的な会議やワークショップ、展示会等を含む)は、カザフスタン国立博物館で開催される。また、文化イベントは、アスタナ市内の広場、公園、劇場、コンサートホール、映画館、博物館、展示パビリオンなど、さまざまな会場で開催される。

Central Downtown Astana with Bayterek tower/ Wikimedia Commons
Central Downtown Astana with Bayterek tower/ Wikimedia Commons

第5回ワールド・ノマド・ゲームスの賞金総額は2億5,300万テンゲ(533,214米ドル)に設定されており、コクパルやコクボルのようなチーム競技を除き、各競技ごとに賞金が配分される。優勝チームには1000万テンゲ(21,075米ドル)、2位チームには600万テンゲ(12,645米ドル)、3位チームには400万テンゲ(8,430米ドル)が贈られる。

最終日には、カザフスタンの歌手ディマシュ・クダイベルゲンの「ストレンジャー」というタイトルのソロコンサートが予定されている。(原文へ

INPS Japan/Astana Times

この記事は、The Astana Timesに初出掲載されたものです。

The Astana Times

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【カトマンズNepali Times=マーティ・ローガン】

卒業後、ダンベー・マデンさんは会計士として働きながら、余暇にはスケッチに情熱を注いでいた。彼はその才能をデジタル・デザインに応用しようと思い、ここバヌ・ジャナ高等学校の新しいコースに参加した。

現在、マデンさんはタプレジュンのITアカデミーで新入生の指導にあたっている。24歳の彼は現在、世界中の企業とオンラインでデザインの仕事を掛け持ちし、会計士時代よりもはるかに多くの収入を得ている。

「YouTubeで3Dデザインやモーショングラフィックス、アニメーションを学んでいます」とマデンさんは、広々としたバヌ・ジャナ高等学校の敷地内にあるITアカデミーで語った。

明るい色の壁、ひときわ高い天井、広い木製の階段が明るい雰囲気を醸し出している。その近くには、ウッドパネル張りのペルニレズ・コーヒー・バーがあり、その前にグループの作業スペースがある。これは、2017年からタプレジュンの学校とそのコミュニティを支援しているデンマークのNGO、ヒューマン・プラクティス・ファンデーション(HPF)の創設者、ペルニレ・マドセン氏にちなんで名付けられた。

2014年に発足したHPFは、デンマークとケニアでもプログラムを実施している。

Photo: MARTY LOGAN
Photo: MARTY LOGAN

寄付者であるヴァルデマー・シュミット氏は、HPFが支援する学校の生徒たちに卒業後の選択肢を提供したかったと語った。

「数年前、私は『子供たちが学校を卒業したらどうなるのか? 私たちは子供たちにより良い未来を与えるための仕事をしたのか?』と自問自答を始めました。答えは『いいや、まだ十分ではない。もっとやるべきことがある。』というものでした。」と、デンマークからのZoomインタビューに応じたシュミット氏は語った。

「アカデミーは2023年11月に開校しました。現在までに661人の生徒が卒業し、14人がオンラインで仕事をしています。シンガポール、デンマ ―ク、韓国の企業で働いている者もいます。」と、バヌ・ジャナ高校のキショール・クマール・ライ教頭は語った。

「彼らは他の仕事をするよりもここで(オンラインで)働く方が収入が多いので、タプレジュンに留まることに満足しているのです。このアカデミーは、移住を阻止し、若者の頭脳流出も防ぐでしょう。」と、ライ教頭は付け加えた。

6月にはグラフィックデザインとデジタル・マーケティングに関する新しいコースが始まった。技術的な要素だけでなく、生徒たちは提案書の書き方や契約交渉など、オンライン・フリーランサーとして成功するために必要なスキルも学ぶ。

シュミット氏は、「HPFは2028年までに、レベル2と3のウェブ開発やサイバーセキュリティのコースで、最大800人のデジタルワーカーを卒業させることを目指しています。レベル1の卒業生は、上級コースの授業料を支払い、すでにフリーランスとして収入を得ていることを証明する必要があります。」と説明した。また、「私たちは何でも少しずつやるアカデミーとして知られたくありません。グラフィックデザインとサイバーセキュリティに強いブランドを築きたいのです」と付け加えた。

Photo: MARTY LOGAN

元CEOであるシュミット氏は、HPFの創設者マドセン氏とビジネス界で知り合い、現在ではITアカデミーの推進力となっている。彼は最新のトレンドや数字を挙げながら、次の10年に向けたビジョンを熱心語ってくれた。

シュミット氏は、レベル1を卒業すれば、地元の人々が銀行やその他のオフィスで働いて得られる平均的な月給が200ドルであるのに対し、500ドルを稼げる可能性があると見積もっている。また、グラフィック・デザインやサイバー・セキュリティのレベル2、3を習得すれば、月収は1,000~2,000ドルになると彼は予測している。

現在、HPFは授業料を補助しており、学生はコース費用の15%、約5,000ルピーを支払うことになっている。シュミット氏は、彼の個人的なネットワークの寄付者が今年の最初の100人の学生に対して残りの金額(1人あたり約500ドル)をカバーしていると語った。次の学期では、スポンサーが1人あたり1,500ドルを提供し、各学生にラップトップPCを購入するのに十分な額を提供してくれることを期待している。

熱心で人脈の広い元CEOである84歳のシュミット氏は、自身のネットワークに卒業生をインターンとして受け入れるよう呼びかけており、ワールドリンク社に光ファイバーインターネットを無償で提供するよう説得した。

シュミット氏は、学生たちがグローバルに競争力を持つようになるには英語力を含めたスキルを徐々に向上させる必要があると語った。アカデミーは初期段階でアジアでの仕事経験に焦点を当て、既にシンガポール、ベトナム、インドネシアの企業でバーチャルインターンシップをアレンジしている。

アカデミーの10項目からなるマニフェストによると、家庭を持ちながらフリーランサーとして働き続けることができる女子学生を訓練することも目指している。学生の60%が女性であり、アカデミーの責任者であるバサンタ・パルンワ氏は、女子学生は忍耐強いこともあり、よりクリエイティブなデザインをすると語った。

アカデミーはまた、ネパール北東部の人里離れたこの一角のコミュニティをデジタル化し、参加させることも目指している。一般市民を対象としたスマートフォンやタブレット端末の使い方講座も計画されており、WorldLink社は間もなく無線LANホットスポットを設置する予定だ。また、ITに関心のない人々のための職業訓練も計画している。

HPFが支援するタプレジュンの中等学校では、年間約1000人の生徒が卒業しているが、ITアカデミーが受け入れることができるのはその半分以下だ。

Photo: MARTY LOGAN

シュミット氏は、「彼らはいい学校に行ったのに、卒業しても将来が見えないことに不満を感じているのかもしれません。ですから、労働市場につながるようにする必要があるのです。」と語った。

卒業後、ダンバー・マデンさんはデンマークの旅行代理店ブックムンディのために毎日4時間のフリーランスの仕事をしてきた。1年間のインターンシップを経て、彼は最近ジュニアグラフィックデザイナーに昇進した。

過去1年間は、カトマンズを拠点とするオンラインビジネス、GenX Pharmacyのソーシャルメディア投稿のデザインも手がけている。また、前回の選挙に立候補した候補者など、地元のクライアントも抱えている。

地元出身の彼は、オンラインで自分の活躍の場を見つけたようだ。10年後の自分をどう見ているかと聞かれ、マデンさんは自信たっぷりに答えた: 「シニアデザイナーかアートディレクターです。」(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

2024年6月中旬、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、北朝鮮を2日間の日程で訪問した。2023年9月中旬、北朝鮮の指導者である金正恩が、コロナパンデミック以降初の外遊としてロシア極東部を訪問した。プーチンと金の間に新たに芽生えた友情の裏にある最優先事項が武器供給であることは疑いもない。ロシア軍は、ウクライナに対する戦争で通常砲弾とミサイルを非常に必要としている。

間違いなく、ロシア自身の兵器製造量は北朝鮮が供給可能な量を大幅に上回る。それでもなお、北朝鮮による武器供給は状況に変化をもたらし得る。戦争が2年を超えて続くなか、供給は不足しており、それはウクライナだけの話ではない。「ニューヨーク・タイムズ」紙によれば、9カ月前に金がロシアを訪問した際に北朝鮮はコンテナ1,000個以上の武器をロシアに出荷したと、米国政府高官が主張した。3月には、北朝鮮がこれまでにコンテナ7,000個近い武器を供与したと、米国が発表した。(

砲弾その他の通常弾薬は、どうやら金王朝の帝国には豊富にあるようだ。野心的な核兵器・ミサイル・衛星計画を掲げる北朝鮮は、見返りとして、ロシアの技術にとりわけ熱い目を向けている。2023年、プーチンは軍事協力の「可能性」を口にした。北朝鮮は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を非難する国連総会決議に反対票を投じたわずか5カ国のうちの一国である。国際的にほぼ孤立している平壌政府はいまや、ロシアの「主権と安全保障を求める戦い」への献身によって連帯を示している。これは今後、のけ者同士の協定へと発展するのだろうか? いずれにせよ、それは、軍事的に強硬な2カ国に利益をもたらす可能性がある。

2023年9月のロシア訪問における金の日程が多くを物語る。プーチンは、シベリアのボストーチヌイ宇宙基地で金を迎えた。プーチンとの会談の後、北朝鮮の独裁者はウラジオストク近郊の軍飛行場を訪れ、当時のロシア国防相セルゲイ・ショイグが核兵器を運搬できる最新の超音速ジェット戦闘機や、通常弾頭のほか核弾頭も搭載可能なキンジャール型ミサイルを披露した。さらに金は、ショイグとともにウラジオストクを訪れ、原子力潜水艦が配備されているロシア太平洋艦隊を視察した。

プーチンは、北朝鮮への武器供与についていかなる確約もしなかった。彼は、武器や軍事技術の提供の禁止を含む国連の制裁に従う約束さえした。しかし、ウクライナ侵攻を考えれば、誰がモスクワの約束を信じるだろうか。それがプーチンの利益になるなら、彼はたちどころに自分がした約束を忘れるだろう。金の訪問、そして今度はプーチンの訪問は、二重の問題を示唆している。ロシアは、ウクライナに対する戦争での弾薬供給の不足を克服する可能性があり、北朝鮮は、核兵器・ミサイル・衛星計画に対する長期的支援を受ける可能性がある。従って、協力の強化は双方にとってウィンウィンの状況なのだ。

ロシア(そしてかつてのソ連)と北朝鮮の関係は、幾度ものアップダウンが見られる。緊張がないわけではない。だが今日では、明らかに双方にとって協力は軍事戦略上の利益をもたらす。第二次世界大戦後の占領国として、ソ連は北朝鮮の最も密接な同盟国であった。核分野における協力は、1960年代にまでさかのぼる。北朝鮮は、ソ連の支援を受けて核研究センターを設立。研究炉を建設し、1967年に運転を開始した。1973年まで、ソ連は必要な燃料棒を供給した。

1980年代初めに行われた軍備管理交渉の第1段階で、米国とソ連は、核不拡散条約に加盟して国際原子力機関の査察を認めるよう北朝鮮を説得することに成功した。また、ソ連、そして後のロシアは、北朝鮮の核計画を中止するよう繰り返し強く求めてきた。

ゴルバチョフの劇的な政治改革とソ連崩壊に伴い、ロシアと北朝鮮の関係は根本的に変化した。ゴルバチョフは、軍事援助、産業協力、食料援助、エネルギー供給をほぼゼロまで削減した。北朝鮮が貿易債務をモスクワに支払うことができなかったことは、政治的緊張をもたらした。また、同じ時期に、かつての戦争敵国同士だったソ連と韓国の間に予想外の関係改善が見られた。ソ連崩壊後、エリツィン政権は北朝鮮との安全保障条約を停止し、それを更新しようとしなかった。社会主義国間の関係のネットワークが解体すると、北朝鮮はその経済的存続の土台を失ったのである。

1990年代の終わりに、モスクワは南北朝鮮との関係を再検討した。そして、一方では韓国との協力関係に期待したことの全てが実現したわけではなく、他方ではいわゆる米朝枠組み合意においてロシアの利益は考慮されていないと結論付けた。この1994年の合意において、米国は北朝鮮への経済援助を約束していた。国際的圧力により、ほとんど孤立していた政権は、核・ミサイル計画に関して譲歩せざるを得なかった。プーチン大統領は2000年に平壌を訪問して広く称賛され、2001年と2002年には北朝鮮の当時の主席であり現指導者の父親である金正日のモスクワ訪問を受け、両国の関係を深めた。

2003年以降、北朝鮮の非核化に関する協議に最終的にモスクワが加わり、中国、米国、北朝鮮、韓国、日本、ロシアからなるいわゆる6カ国協議となった。この枠組みにおいて、ロシアは米国の譲歩と北朝鮮の核計画中止の両方を強く求めた。しかし、モスクワは、北朝鮮の核計画放棄をロシアによる経済協力の条件とせず、また、韓国の資金援助を受けてロシアのガスを供給することによりエネルギー不足を補うという方法を北朝鮮に提案した。北朝鮮は2006年、ロシア・北朝鮮間の鉄道路線を延長し近代化する共同事業を受け入れることに合意した。

協同事業は、2006年10月に北朝鮮が最初の核兵器実験を実施したのを受けて、突然中断された。その後、中国とロシアも賛同した国連決議により、国連安全保障理事会は北朝鮮に包括的制裁を科し、それが今日も実施されている。

金が最初に訪問したのが、中国ではなくロシアだった点は興味深い。長年にわたり中国は、政治的にも経済援助においても、北朝鮮の唯一の支援者だった。それより密接な関係をロシアと北朝鮮が結ぶことによって、両国政府に対する北京の影響力は弱まる。2023年7月、ロシアの国防相は、地域における米国、韓国、日本の3カ国協力に対抗するため、中国、ロシア、北朝鮮の合同軍事演習を提案した。中国政府の反応は消極的なものだった。そのような政策は、米国の「ブロック政治」に対する中国自身の批判を弱体化させるものだ。中国は、再びバランス外交を行おうとしている。長年にわたり、中国の重点は北朝鮮の非核化にあった。中国が平壌の政府に影響力を行使し、北朝鮮が核計画を中止するよう説得することが期待された。これがもはや最優先事項でないことは間違いない。北京は現在、米国との地政学的競争をあらゆることに優先させている。

モスクワと平壌の関係改善が、予想外の結果をもたらす可能性はある。ロシアがエネルギーと軍事技術を提供し、北朝鮮が通常兵器を供与するという現在の実利的な関係がそれ以上に発展するかどうかは、今のところ不明である。ウクライナに対するロシアの戦争は消耗戦となっており、従って北朝鮮の武器供与は、ロシアが武器の数でウクライナに勝るために役立つ。しかし、国際的に隔離された北朝鮮がロシアの政治的孤立を和らげることはまずできないだろう。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF: Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会メンバーを務める。

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