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侮辱、病気、死—パキスタンの下水作業員の生活

【カラチIPS=ゾフィーン・イブラヒム】

まず黒髪の頭が、次に胴体が現れた。頭髪の薄くなった男が自らの体を持ち上げ、マンホールの淵に手をかけて、2人の男に引き上げられた。苦し気に息をするその男は40代後半のようだ。彼が出てきたマンホールの中で悪臭を放ちながら渦巻く水と同じ濃い色のズボンをはいて、マンホールの端っこに座っている。

これはカラチでよくみられる風景だ。この都市では、2000万人以上の住民が毎日4億7500万ガロンの下水を敷設から数十年経ち老朽化しているシステムに流している。

この2年で100回以上は下水に潜って仕事をしたアディル・マシ(22)は「自分の腕は上司に示すことができた。うまく仕事ができる。」と語った。彼は今年後半、カラチの上下水道公社(正規名称「カラチ上下水道委員会:KWFC」、通常「水委員会」)でカチャ(非正規雇用)からプッカ(正規雇用)への昇進を狙っている。

月収2万5000ルピー(90米ドル)で3カ月ごとにまとめて7万5000ルピー(269米ドル)を受け取るアディルは、正規雇用になれば、シンド州の最低賃金制度によって少なくとも3万2000ルピー(115米ドル)は受け取れるようになる。

左の耳たぶに金属製のピアスをつけたアムジャド・マシ(48)は、「初めての経験というのは、いつだって一番恐ろしいものです」と振り返る。下水を詰まらせないように手作業を行う約2300人の下水処理労働者の中で、彼はアディルに、汚泥に飛び込む際の注意点を教えたという。「死を避けるには賢くならないとね。潜る以上、死のリスクは付きものだから。」

岩や汚泥の入ったバケツを引き上げるためにマンホールを降りていくときに心配すべきことは、ゴキブリの大群でもマンホールの中を漂う悪臭でも、汚水を泳ぐネズミでもなく、汚水を浮遊している刃物や使用済みの注射器なのだ。

Sewer work is dirty but essential work in a busy city like Karachi. A worker popularly known as Mithoo rests after unblocking sewage. Credit: Zofeen T. Ebrahim/IPS

しかし、下水の中に入っていくのは最終手段である。「私たちはまず、長い竹のシャフトでゴミを突いてほぐし、詰まりを解消しようとします。それがうまくいかないと、側溝に降りて手で掃除します。」とアムジャドは語る。彼は2014年に公社に採用され、2017年から正社員となった。

毒のマンホール

上下水道公社は、危険な化学物質や下水中を流れるモノや微生物から身を守るための防護器具を労働者に供与しているというが、アムジャドのようにその着装を拒絶するものも多い。

「岩や石を持ち上げるには、自分の足で感触を確かめる必要があるんです。大丈夫です。病院に治療に行って、また仕事に戻ってくる。それだけのことです。」とアムジャドは語った。

匿名を条件にIPSの取材に応じた上下水道公社の元職員によると、死傷者が何人も出ているという。「安全規則を遵守している労働者だけをマンホールに送り込むかどうかは、上司の考え方ひとつです。健康上の危険どころか命の危険すらある仕事ですから、ガスマスクやはしご、手袋のような防護器具が最低限含まれていなければなりません。」と語った。

物理的な危険物に加えて、メタンガスや一酸化炭素、二酸化硫黄、亜酸化窒素のような目に見えない危険も存在する。これらは、塩素系漂白剤や工業用溶剤、ガソリンなどが下水に流され、配水管のコンクリートと反応した時に生成されるもので、下水処理労働者の命を奪いかねないものだ。

3月の初め、パンジャブ州ファイサラバードで若い清掃作業員アリフ・ムーン・マシフ(25歳)とシャン・マシフ(23歳)が有毒ガスを吸い込んで死亡した。1月には、カラチで2人の作業員が下水管を清掃中に同様の運命をたどった。

アドボカシー活動を行う団体「清掃人達はスーパーヒーロー(Sweepers Are Superheroes)」によると、過去5年間でパキスタンの19地区で約84人の下水作業員が死亡している。隣国インドでは、2018年の国家清掃労働者委員会の報告によると、5日に1人の割合で下水作業員が死亡している。

「一度ほとんど死にかけたことがあります。」とアムジャドは、ガスで意識を失った経験を振り返った。「その時は運良く、仕事を終えて地上に出てから倒れたので助かった。しかし、下水管の中にいる間にガスを吸って亡くなってしまった同僚もたくさんいます。」

アディルも、「何度かガスを吸ってしまったことがあるよ。目が焼けるような感じがして、外に出ると吐いてしまったんだ。冷たい炭酸水を飲ませてもらって、生き返ったんだ。しかし、前回同じようなことがあったときは気絶してしまい、入院を余儀なくされた。」と語った。

「時とともに、予防策を講じることを学んでいった。」と、アムジャドは語った。

「マンホールを降りていく前に、蓋を外しておいてガスが逃げるようにした。下水の表面をネズミが流れているのを見たら、ガスが発生しているサインだ。」とアムジャドは言う。

カラチ上下水道公社の労働者は4人1組で働く。ひとりが、ロープに結びつけられたハーネスを付けて下に降りていく。異常事態が起こったり、仕事が完了したときは、ロープを引っ張る。すると、外で待っている残りの3人がすぐに中の人間を引き上げる。「3~4分間何の反応もないときは、意識を失っている可能性を考慮に入れてロープを引き上げるんだ。時には30フィートも下らないといけないから自分は5分は息を止めておくことができる。」と、アムジャドは説明した。アディルは「自分の限界は7フィートまでで、息も2分以上は止められない。」と語った。しかし、ガスは浅い排水溝でも発生する。大量の汚泥に加えて、排水溝に石や岩が詰まり、水の流れをよくするためにそれを引き上げないといけないこともある。

アムジャドとアディルは、上下水道公社の他の労働者と同じように公社を通さない仕事もしているが、公社は見て見ぬふりだ。「追加の収入が得られるなら、それはいいこと」と幹部は語る。

「住民や食堂の店長から頼まれて詰まった排水溝をきれいにすることがあるが、数時間の仕事でけっこうな収入になる。」とアディルは語った。

Adil Masih and Amjad Masih work in the sewers of Karachi, a dangerous and low-paying occupation. Credit: Zofeen T. Ebrahim/IPS

キリスト教徒に割り当てられる清掃の仕事

アディルとアムジャドは互いに親戚ではないが、マシ(Masih)という共通の姓を持つ。これは一族が同じ宗教を信仰していることを示している。2人ともキリスト教徒なのだ。「ウォーターエイド・パキスタン」によると、パキスタンの下水清掃労働者のうち8割がキリスト教徒であるという。しかし、2023年の国勢調査によるとキリスト教徒は人口のわずか2%しかいない。「法律・正義センター」(CLJ)が2021年に発行した『清掃作業における恥と烙印』という報告書によると、インド亜大陸に長年にわたって存在するカースト制度が人間をある特定の職業に結び付け、清掃作業に従事することになるという。

「この無慈悲なやり化はパキスタンでは大部分なくなっていたのだが、衛生関係労働はこの伝統的なカースト制度がいまだに残っている唯一の職業だろう。」と同報告書は指摘する。

このCLJの報告書は、上水を提供し下水システムの円滑な稼働を任務とする水衛生局(WASA)と、ラホール市の家庭や工場、病院などから固形ごみを収集し処分するラホール廃棄物管理社(LWMC)の従業員を調査したものある。WASAには2240人の衛生関係労働者がおり、うち1609人がキリスト教徒だ。LWMCの場合は、9000人の労働者のすべてがキリスト教徒だった。両社の従業員の87%が「『汚れ仕事』はキリスト教徒だけのもの」だと考えており、キリスト教徒の労働者の72%が、イスラム教徒(ムスリム)の同僚は「これは自分たちの仕事ではない」とみなしている、と回答した。

カラチでも同じことが言える。5年前までKWSCはとりわけ非ムスリムに対して下水労働への応募を呼びかけていたが、人権団体からの抗議で取りやめになった。

「私たちはこの条件を撤廃し、ムスリムからの下水清掃の労働者を雇い始めたが、彼らは下水に降りて行こうとしない」とKWSCの幹部は語る。パンジャブ州では、社会のマイノリティである非ムスリムだけを「汚れ仕事」に雇う差別的な政策が2016年に廃止された。

カラチの半分が掘られ、あらたな下水管が敷設されつつあるなか、その多くの作業をパサン(ある民族集団に属するムスリム)が担っていた。昨年まではアフガン人も行っていた。「彼らも同じ汚い水の中で作業していた」とアムジャドは言う。

彼はアパートの清掃人として働き始めた。こちらの方がずっと稼ぐことができる。

「政府部門で正規の仕事を得ることは生涯の保証を得るということだ。この仕事は保険になる」と彼は説明する。「日々のことを考えても、生活は少し楽になる。警察に嫌がらせを受けることはないし、病欠できるし、医療費もタダ。おまけに年金もあって、誰かの気まぐれで辞めさせられることもない。」

今後の見通し

しかし、アムジャドとアディルの仕事、そして彼らが使用者から受けている扱いは、「持続可能な開発目標」の下でパキスタン政府が約束していることには完全に反している。とりわけ、その第8目標(衛生関係労働者の労働環境改善)に反する。目標8.5(完全雇用、人間らしい労働、同一賃金)や、目標8.8(労働者の人権の擁護、安全な労働環境の確保)が2030年までに達成されることは考えにくい。

市民団体「パキスタン人権委員会」のファラー・ジア代表はIPSによる取材に対し、「パキスタンは、同国の労働者の中で最も周縁化された存在だとみなされる衛生関係労働者に人間らしい労働環境を実現するという点ではほとんど進歩がありません。」と、指摘した。

「彼らは生存に足る賃金も与えられていなければ、社会的な烙印を押されることのない労働環境にもない。しかも、労働災害から身を守るためのまともな安全器具も与えられず、訓練も受けていない。加えて、2006年の「国家衛生政策」は時代遅れで「これらの問題への対処に全く追いついていない。」とジアは語った。

アムジャドやアディルが暮らしているシンド州でも同じことが言える。「シンド州政府は2017年に州の衛生政策を決定しているが、こうした労働者の労働環境や生活環境に関連した懸念に応えるものになっていない。」とジアは指摘する。

2021年、SDG第8目標に従って、「ウォーターエイド・パキスタン」(WAP)がパンジャブ州ムザファルガルの地方政府と協力し、衛生関係労働者の安全向上に乗り出した。WAPの戦略・政策プログラム責任者であるムハンマド・ファザルは、「安全装備の提供や清潔な飲料水へのアクセスとは別に、このような『必要不可欠な労働者』に、彼らに相応しい敬意と尊厳が与えられるべきです。」と語った。

カラチを拠点とする工業技術者で社会活動家でもあるナエム・サディクは、長年こうした労働者の権利のために闘っており、公共部門における最高賃金と最低賃金を計算してきた。

「英国では、清掃労働者と幹部の給与比は1:8だが、パキスタンでは1:80になります。英国では、清掃労働者と上級裁判官の給与比は1:11だが、パキスタンでは1:115です。英国では、清掃労働者と公共部門で最も給与の高い者の給与比は1:20だが、パキスタンでは1:250にもなります。」とサディクはIPSの取材に対して語った。

サディクは手作業で汚泥を扱わせるのを禁止すべきだと考えている。「人糞や毒ガスでまみれた下水の中に人間をどうして送り込むことなどできようか。こうした汚く危険な仕事をするには機械を使うべきです。」

上下水道公社の担当者は、「公社には128台の移動式タンクがあり、これらの機械で下水から水分を除去することで、清掃員が30フィートのマンホールに潜らずに、手作業で取り除かなければならないシルト、木材、石を取り出すことができます。」と語った。

しかし、サディクにしてみればこれでも不十分だ。1年前、彼は慈善団体とともにシンプルな構造の下水清掃機のプロトタイプ(バイクの骨格を用いたもの)を開発した。サディクによれば、これは世界で最も安価なもので、150万ルピー(5382米ドル)で入手できるという。「これは高圧吸引噴射機で下水に深く挿入すれば、下水の中から石や岩、汚泥や泥を引き上げ下水管の詰まりを取り除くことができます。」

今後は政府がこのデザインを採用し、バライ(やさしさ、利益などを意味する)と名付けられたこの装置の製造を開始するかにどうかにかかっています。「私たちは設計図を提供する用があります。」とサディクは語った。(原文へ

INPS Japan

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松葉を火災の危険から再生可能燃料へ

【ニューデリーINPS Japan/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ

インドの広大な亜ヒマラヤ帯の針葉樹林では、松葉の燃えやすさが火災の主な原因となっているが、一方で松葉は豊富な再生可能エネルギー源である、と研究者らは言う。

インドの国営中央農業工学研究所(CIAE)の研究者らによれば、落ちた松葉は乾燥した時期に発火し、壊滅的な森林火災を引き起こす可能性があるため、森林床から松葉を除去する必要があるという。

『カレント・サイエンス』誌に掲載されたこの研究は、松葉の炭化とブリケット化によって、温室効果ガスの発生を抑制できる可能性について検討したものである。

インドのボパールにあるCIAE農業エネルギー・電力部門の上級科学者、サンディップ・マンダル主任研究員はSciDev.Netの取材に対して、 「松葉は簡単に圧縮して高発熱量のブリケットにすることができ、あらゆる熱用途に使用することができ、化学プロセスを通じて高品質のバイオ燃料を生成することができます。」と語った。

熱分解(酸素のない状態で有機物を加熱するプロセス)により、松葉は1キロ当たり28.52メガジュールの発熱量を持つバイオオイルに変換され、内燃機関用の混合燃料や炉の燃料として使用できることが、この研究で明らかになった。

これに対し、ディーゼルの発熱量は1キログラムあたり約45.5メガジュールである。

「バイオオイルの引火点、発火点、流動点は、高速ディーゼルよりも高かった」と研究は述べ、「オイルは広く使用されている圧縮注入エンジンにも適している。」と付け加えた。

また、松葉から作られたブリケットは、レンガ窯やボイラーの燃料として使用され、電力を生成するだけでなく、家庭用の清潔で手頃な燃料としても提供できる。

ブリケット化には、乾燥した植物由来のいわゆる「リグノセルロース系」バイオマスを高密度化し、発熱量が高く、貯蔵・輸送が可能なブロックにすることが含まれる。バイオマスは、その豊富さから、太陽光、風力、水力といった他の再生可能エネルギー源に勝るとも劣らない、と研究は言う。

また、松葉を熱分解するとバイオ炭が生成されるが、これは土壌の炭素隔離に理想的な材料であり、気候変動の緩和にも貢献できる、と研究者は言う。分析によると、ブリケット化、炭化、熱分解の3つの変換技術を組み合わせることで、87%のエネルギー効率を達成できることが示された。

松葉の活用

松葉は他の種類の植物バイオマスとは異なり、微生物によって容易に分解されず、森林の床に蓄積する。研究は、インドの夏季には1ヘクタールの松林に約6.3トンの松葉が落ちると推定している。

ヒマラヤ亜熱帯松林は、パキスタン、インドのジャム・カシミール、ヒマーチャル・プラデーシュ、ウッタラーカンド、シッキム、アルナーチャル・プラデーシュ州およびネパールやブータンを含む、世界最長の3,000キロメートルの範囲に広がり、77,700平方キロメートル以上を覆っている。

インド国内では、松葉の商業利用を目指した研究や活動の多くは、ヒマーチャル・プラデーシュ州北部に集中しており、同州には約3,300平方キロメートルの松林があり、毎年約1,300メートルトンの松葉を排出している。これらの森林の大部分は、支配的で干ばつに強いヒマラヤマツで占められている。

ヒマーチャル・プラデーシュ州政府によると、同州では毎年平均2,000件の森林火災が報告されている。

2001年から21年にかけて、ヒマーチャル・プラデーシュ州では900ヘクタール以上の森林が火災によって失われた。グローバル・フォレスト・ウォッチのデータによると、最も深刻な損失は2004年で、150ヘクタールが焼失した。

ヒマーチャル・プラデーシュ州の州都マンディにあるインド工科大学(IIT)は、再生可能エネルギー源としての松葉の可能性と、森林火災を引き起こす松葉の役割を認識し、ヒマラヤ生活向上センターで特別プログラムを実施している。「4月から6月の夏季に落ちる松葉は、森林の床への水の浸透を妨げます。」と、IITマンディのアルティ・カシャップ准教授は語った。

「その結果、乾燥と松葉に含まれる油分により、松葉は瞬時に発火し、生物多様性、森林、環境、地域経済に甚大な損失をもたらすことがよくあります。また、松葉の密生によって太陽光が地面に届かなくなるため、草の生育が妨げられ、村人たちは家畜の放牧が困難になります。このため、村人たちは松葉に火をつけるしかないのです。」とカシャップ准教授は語った。

カシャップ准教授はまた、「IITマンディのプログラムは、松葉を集めて加工センターまで運ぶことに重点を置いていますが、ヒマーチャル・プラデーシュ州の丘陵地帯では問題があります。私たちは、小規模なペレット化またはブリケット化ユニットを各地に設置することが、最も実行可能な選択肢であり、地元の生計を立てるために重要であると考えています。」と語った。

多くの研究と試験を経て、IITマンディは松葉を切り刻んで圧縮し、清潔で高密度で扱いやすいブリケットを作る方法を開発した。これは燃料として高い需要があり、特許の申請が進行中です。」とカシャップ准教授は語った。(原文へ

INPS Japan/ SciDev.Net

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|COP29への道|世界の脱炭素化には最も高い気候目標が必要

【ナイロビIPS=ジョイス・チンビ】

2023年は174年間の気候記録の中で最も暖かかっただけでなく、未曽有の高温を記録したという世界的な気候報告書を背景に、国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)への道のりが本格的に始まった。記録的な高温とエルニーニョの組み合わせにより、脆弱で貧しい南半球の国々が極端で厳しい気象現象の最前線に押しやられている。

アフリカでは、コンゴ民主共和国やケニアで致命的な洪水が発生し、リビアでは暴風雨と洪水で都市の4分の1が壊滅した。マラウイなどでは致命的なサイクロン、ケニアでは深刻な干ばつ、南部アフリカ諸国では数ヶ月に及ぶ冬の熱波が発生した。

このような状況の中、2024年2月2日、サイモン・スティール国連気候変動事務局長は、11月に開催されるCOP29国連気候会議の開催地であるアゼルバイジャンのバクーから主要な講演を行った。この講演では、ドバイで開催されたCOP28での進展を踏まえ、今後の重要な時期に必要とされる主要な課題と行動が概説された。

「世界の気候対策において、これまでの対応では全く通用しない時代が到来しました。そこで今日は、これまでとは違ったアプローチでこの講演に臨みたいと思います。もし私たちが地球温暖化を1.5℃以下に抑え、気候変動の影響からすべての人々を保護することに成功した場合、世界がどうなるかを想像しながら、2050年以降の世界を展望したいと思います。」とスティール事務局長は語った。

「もちろん、それはユートピアではなく、絶滅の可能性とも向き合わなければなりませんが、それについては後で説明します。この成功のビジョンでは、世界のエネルギーシステムはネットゼロ排出を達成しています。各国、あるいは少なくとも地域は、大部分がエネルギー自給自足が可能となっています。」

演説では、パリ協定に沿った2050年までの脱炭素化に向けた世界的な取り組みの核心となるすべての重要課題に触れた。2015年にパリで開催された国連のCOP21では、世界の指導者たちが、重要な気候変動目標の達成と、環境、人々、そして地球上のすべての生命の保全のための強固な枠組みを提供する歴史的な合意に達した。

「各国は、温室効果ガス排出量を大幅に削減するなど、設定された目標に向けて注目すべき進歩を遂げています。しかし、各国政府の誓約やコミットメントは十分に野心的とは言えず、2050年までに温室効果ガス排出量を限りなくゼロに近づけるネット・ゼロには至らないだろう。COP29へのカウントダウンにあたり、ケニアのナイロビで開催された第1回2023年アフリカ気候サミットで行われたコミットメントの達成状況も追跡する必要があります。」と、ウガンダ在住の気候活動家アモス・カグワ氏はIPSの取材に対して語った。

スティール氏は再生可能エネルギーについて、「再生可能エネルギーは、すべての人にとってエネルギーを利用しやすく、手ごろな価格で、予測可能なものにした。つまり、過去の経済動向や紛争を生み出したショックや不平等を回避することができるのです。世界の金融システムは、利益のみを追求するのではなく、人間の幸福を優先しているのです。」と語った。

An estimated 3.8 percent of global greenhouse gas emissions are emitted by Africa, but only two percent of the proportion of renewable energy investment went to Africa in 2023. Credit: Joyce Chimbi/IPS
An estimated 3.8 percent of global greenhouse gas emissions are emitted by Africa, but only two percent of the proportion of renewable energy investment went to Africa in 2023. Credit: Joyce Chimbi/IPS

「以前は化石燃料補助金に費やされていた何兆ドルもが、より良い目的—医療、教育、遅れを取る人々のためのセーフティネット—に利用されるようになりました。私たちの強靭な社会は、自然との関係を搾取的なものから再生的なものに変えました。大都市では大気汚染のために外出することが医療的に危険ではなくなりました。その結果、毎年数百万人の命が救われています。」

ケニアはすでに長期低排出開発戦略(LT-LEDS)を開始し、2050年までに同国をネット・ゼロ・エミッションの未来へと導くことを目標としている。LT-LEDSを提出しているアフリカ諸国は、他に8カ国しかない。世界全体でLT-LEDSを提出している国は68カ国あり、その大半は高所得国または中所得国である。

地球温暖化を1.5℃に抑えるには、2030年までに温室効果ガスの排出量を43%削減する必要がある(気候変動に関する政府間パネルによる推定)。電気、輸送、暖房のための化石燃料の燃焼は、有害な排出量の大部分、約73.2%を占めている。

この文脈において、脱炭素化のリーダーとは、化石燃料からの脱却のために再生可能エネルギーへの投資を最も多く行っている国のことである。2010年から19年までの再生可能エネルギー容量への世界投資額が7580億米ドルの中国、3560億米ドルの米国、2020億米ドルの日本、1790億米ドルのドイツ、1220億米ドルの英国などである。

「米国、中国、ロシア、ブラジル、インドネシア、ドイツ、インド、英国、日本、カナダ、フランス、オーストラリア、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカ、イタリア、韓国、サウジアラビア、欧州連合、そしてG20としてのトルコは、2025年における世界の排出量の80%を担っており、このことを前提に目標を真剣に再設計しています。」とスティール氏は語った。

「これらの国々は、PRスピン(政府が気候変動対策について実際には重大な措置を講じずに見せかけだけの行動をとっていること)やリブランディング、細部の微調整では気候責任を果たせないこと、そしてそれが革新の最前線から大きく後れを取ることを知っています。これらの国家気候計画は単なる紙切れではなく、しっかりとした政策手段によって裏打ちされ、コスト計算され、すぐに実行可能な投資機会に変換できるものでなければなりません。」

世界の温室効果ガス排出量の3.8%はアフリカが排出していると推定されるが、2023年の再生可能エネルギー投資のうち、アフリカへの投資は僅か2%に過ぎない。カグワ氏は、「アフリカには多くの競合する差し迫った課題があり、強力な先進国は、損失と損害およびその他の気候変動資金が、アフリカ大陸を気候災害から救うために機能するようにしなければならない。」と語った。

「アフリカは気候変動の影響を深刻に受けていますが、世界の気候資金のわずか3%しか受け取っていません。アフリカには2020年から30年までの適応資金として約5792億ドルが必要です。COP26のコミットメントには、2025年までに気候適応資金を倍増することが含まれていました。現在のアフリカ大陸への適応資金は、必要な金額の5分の1から10分の1に過ぎません。」とカグワ氏は強調した。

スティール事務局長は、「地球、人々、すべての生命を救う仕事に取り組む時がきました。」述べ、世界中の市民に今すぐ大胆な気候変動対策を要求するよう呼びかけた。そして、「国連気候変動会議ではすべての政府、企業、地域社会のリーダーと手を携えて、科学的知見に基づき、最高の気候変動対策を推進することを約束します。」と語った。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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|視点|危機に瀕する人類: 核戦争の脅威と歴史的選択(相島智彦 創価学会インタナショナル平和運動局長)

【東京INPS Japan=相島智彦】

2022年2月のウクライナ侵攻に端を発した危機は、いまだ収束が見えない。核戦争の脅威は、ありえない仮定の話ではなくなった。中東やアフリカなど各地で争いが深刻化し、目を覆う惨状が続く中、人類は危険な崖っぷちに立っている。

冷戦終結後、核兵器使用のリスクが今ほど高く、長期化した時はない。核兵器がもたらす壊滅的な結末に目が向けられているが、議論は対立している。軍事的対立をさらにエスカレートさせるのか、それとも多国間の交渉と対話に戻るのか。人類は厳しい選択を迫られている。

歴史を動かす駆動力は何か。私たちSGIのメンバーは市民社会の側から、次のように考える。

非人道的な被爆の実相をもっと「伝えること」(inform)だ。

悲劇を繰り返さない! 先人の誓いを「受け継ぐこと」(inherit)だ。

そして希望の未来へ「魂を鼓舞すること」(inspire)である。

歴史は、人々が衝撃的な出来事に遭っても悲観とあきらめを振り払って抗い、踏みとどまるならば、思いがけない発展と進歩がもたらされることを示している。つまり、最も暗く絶望的と思われる時こそ、人間社会を根本的に改革する好機となり得るのだ。

核兵器のない世界へ。

戦争のない世界へ。

私たちは、青年を主役として、無数の思いが込められた平和への精神遺産を胸に、あらゆる次元で訴え続けたい。その声を強め、広げたい。

その意味でも、良質のメディアが果たすべき役割は、いやまして大きい。

国連や草の根レベルで核軍縮に取り組んできた経験から、私たちは3つの点を強調したい:

第一に、伝えるという点では、核兵器がもたらす壊滅的な結末をより多くの人々に伝える必要がある。大惨事を食い止めるには、これが極めて重要だ。

核兵器の使用、拡散、実験を禁ずる規範が弱体化し、失われつつあることが憂慮されている。2026年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の後継枠組みも見当たらない。核兵器の非人道性についての認識を共有することは、信頼醸成のための対話の基礎となろう。

人類が核戦争の瀬戸際に最も近づいた1962年のキューバ・ミサイル危機への対応から学ぶことは多い。このような経験を二度と繰り返さず、核軍縮を進めるという決意が、1968年の核兵器不拡散条約(NPT)採択の重要な契機となった。米ソ両国がNPT調印式当日に戦略兵器制限交渉を開催する意向を表明したことは注目に値する。この交渉は、両国が核軍拡競争を減速させ、NPT第6条による核軍縮義務を果たすための第一歩を踏み出したことを意味する。

そうした歴史を振り返り、池田大作SGI会長は2023年1月、次のような提言を発表した。

Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: SGI President Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun

核戦争の寸前まで迫った危機を目の当たりにしたからこそ、当時の人々が示したような歴史創造力を、今再び、世界中の国々が協力し合って発揮することが急務となっています。

NPTの誕生時に息づいていた精神と条約の目的意識は、核兵器禁止条約(TPNW)の理念と通じ合うものであり、二つの条約に基づく取り組みを連携させて相乗効果を生み出しながら、「核兵器のない世界」を実現させていくことを、私は強く呼びかけたいのです。

私たちは、昨年11月に逝去された池田会長の志を継いで、“核抑止を前提とした核兵器の絶えざる増強”から“惨劇を防止するための核軍縮”へと世界全体の方向性を変える転機を創出していきたい。

第二に、受け継ぐという点では、グローバル・ヒバクシャの声にさらに耳を傾けるべきだ。

生存している広島、長崎の被爆者の平均年齢は、85歳を超えた。

それに加えて、世界には、核物質の採掘や核実験、核兵器の製造過程等で影響を受けた、たくさんのグローバル・ヒバクシャと呼ばれる人々がいる。その実相は、苦難は、まだまだ広く語られていない。その物語を知らなければならない。忘れてはならない。

G7広島サミットで、各国首脳に対面で被爆証言を話した広島の小倉桂子氏の映像(リンク1)を、私たちは制作し、NPT準備委員会のサイドイベントでも上映し、多くの若者が心に刻んだ。

Photo: Algerim Yelgeldy, a third-generation survivor of the Semipalatinsk Nuclear Test Site, giving a testimony at a side event during the 2nd meeting of the States Parties to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons. By Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.
Photo: Algerim Yelgeldy, a third-generation survivor of the Semipalatinsk Nuclear Test Site, giving a testimony at a side event during the 2nd meeting of the States Parties to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons. By Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan.

また、カザフスタンのNGO「国際安全保障政策センター(CISP)」とともに制作した、同国の核実験被害者の証言映像「私は生き抜く~語られざるセミパラチンスク」(リンク2)。この作品は、TPNWの第2回締約国会議のサイドイベントで上映された。

恐ろしい体験と向き合い、それを語り伝える。日本だけでなく世界中のヒバクシャを突き動かしているのは、自らが被った苦悩を誰一人として味わわせたくないという決心である。他者に思いを巡らせるこうした心情は、核兵器の根底にある論理、すなわち自己の利益や目的のためには他者の殲滅をも辞さないという考えとは対照的だ。核兵器が絶対悪であることを際立たせるのは、この決心である。

そして最後に、行動に向けて魂を鼓舞するうえで、核兵器廃絶という問題が、気候変動をはじめとする地球的な課題と結びついていることについて意識啓発することが必要だ。

大規模な核戦争による「核の冬」に至らなくとも、限定核戦争による「核の飢饉」で20億人もの人々が亡くなる可能性があることは、以前から科学者たちによって報告されている。核実験が、“被植民地”や先住民に甚大な被害をもたらしてきている。核廃絶は、差別や人権、気候正義や環境、ジェンダー、包摂性、人道や倫理など、さまざまな分野を横断する問題であることに、さらに焦点を当てるべきだ。

ことし9月の国連の未来サミットに先駆けて、日本の青年が連合して、「未来アクションフェス」を行い、核兵器と気候危機を連結した問題として、参集した7万に近い若者たちに警鐘を鳴らした。

Future Action Festival convened at Tokyo's National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.
Future Action Festival convened at Tokyo’s National Stadium on March 24, drawing approximately 66,000 attedees. Photo: Yukie Asagiri, INPS Japan.

SGIは、第2の「民衆行動の10年」キャンペーン(リンク3)として、2027年を目指し、平和・軍縮教育に注力して、核廃絶への新たな潮流をつくろうと挑戦している。

多くの人が、分野や立場を超え、連帯して、核廃絶への声をあげていくことが、ますます肝要だ。そのためにも、宗教間の協働も強めていきたい。

Anna Ikeda of SGI delivered a joint statement endorsed by 115 inter-faith and civil society organizations (CSOs) on 29 November. Photo Credit: SGI.
Anna Ikeda of SGI delivered a joint statement endorsed by 115 inter-faith and civil society organizations (CSOs) on 29 November. Photo Credit: SGI.

核兵器禁止条約の第2回締約国会議では、核兵器を憂慮する、信仰を基盤とした115団体の一員として、SGIの代表が共同声明を読み上げた。その一節を引用して、この小論を結びたい。

私たちはこの瞬間の緊急性を認識し、私たち全員――愛する自然界と人類という愛する共同体にとって、何が危機に瀕しているかを認識しています。私たちの運命は絡み合っており、私たちの前に立ちはだかる脅威を無視することはできません…この恐怖は、今この瞬間だけのものではありません。私たちは、壮大な挑戦は、やり遂げるまでは常に不可能だと感じるものだという知恵に慰めを得つつ、正義のためになされた過去の闘いの大胆さとビジョンから勇気を得ましょう。(英文へ

本記事は、INPS Japanが2009年以来創価学会インタナショナルと推進している核廃絶をテーマにしたメディアプロジェクト「Toward A Nuclear Free World」のうち、2023年4月から24年3月までに配信された関連記事を冊子にまとめた報告書に寄せられたメッセージである。

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人工知能:人類にとっての脅威か、それとも助け手か?

【タシケントLondon Post=ウトキール・アリモフ】

ロボットといえば、人間のように話し、人間の代わりにすべての仕事をこなすアシスタントというイメージが強い。今日、人工知能という新たな要素が急速に社会・経済生活に入り込み、私たちの日常生活に積極的に参加していることは周知の事実である。例えば、携帯端末のアプリケーション: 「google翻訳」、辞書、各種ゲームなども人工知能のわかりやすい事例だ。

いわゆる「人工知能」とは、特定のタスクを実行する際に人間の行動を模倣することができるシステムや技術のことで、受け取った情報を使って徐々に完成していく。一般的に、この技術は形式でも機能でもなく、データ収集、分析などを含むプロセスである。

この分野の将来について言えば、「人工知能」が人類に利益をもたらすのか、それとも害をもたらすのかという議論が50年近く続いている。科学者たちはまだ結論を出していない。人工知能の普及が人間に取って代わる結果、失業率が上昇するのではないかと心配する人がいる一方で、AIに肯定的な意見もある。最近では、インドネシアのニュースサイト『Indonews』が「未来の『人工知能』はエイリアンの侵略のようなものかもしれない」と題した分析記事を掲載し、国際的な学術界の間で多くの疑問が投げかけられている。

あらゆる知的問題を解決できる人工知能の出現は、人類を助けるだけでなく、将来的には人類を脅かすかもしれないという憂慮すべき仮説を生んでいる。

Utkir Alimov Photo: London Post
Utkir Alimov Photo: London Post

将来的には、知能を持った機械が、制御しようとする人間に抵抗するようになるかもしれないのだ。では、どうすれば自分より強いものをコントロールし続けることができるのか?もし私たちが文明の制御に間に合わなければ、将来の生存を決める投票する権利さえ失ってしまう可能性が高い。例えば、「人工知能」が気候問題を解決するためには、「人間を排除する」ことが最善の方法だと結論づけるかもしれない。

また、こうした「超人的な知性」が「フェイク」ニュースや誤ったコンテンツを生み出し、それが結果的に未解決の盗作問題を引き起こすこともある。つまり、”人工知能 “は 事実をチェックするものではなく、あくまでも事実を収集する装置なのである。

このように、私たちの生活における人工知能の役割は日々深まっている。人工知能が人類の勝利なのか敗北なのか、その議論は長く続くだろう。最も重要なことは、SF作家アイザック・アジモフの言葉を借りれば、ロボットを作る際のモットーは、人に危害を加えないことである。(原文へ

ウトキール・アリモフ氏は、ウズベキスタンの著名なジャーナリスト。インドのオスマニア大学国際関係学部卒業。ロシア、トルコ、セルビア、韓国、サウジアラビアで開催された様々な会議に参加。現在、ウズベキスタン国営通信社国際関係部副編集長。

INPS Japan/London Post

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ネパール産のピーナッツバターが日本へ

日本の社会起業家が輸出市場を開拓し、コータンのピーナッツ農家にスキルと収入をもたらしている。

【カトマンズNepali Times=ソニア・アワレ

日本の社会起業家が輸出市場を開拓し、コータンのピーナッツ農家にスキルと収入をもたらしている。

最高品質の紅茶といえばインドの産地ダージリンを思い浮かべるだろう。優れたビールはチェコのピルゼンで生産されている。また、カマンベールチーズはフランスの同名の村に由来する。では将来的に、ネパールのホータンが最高品質のピーナッツバターと同義となる日がくるだろうか。

Made in Nepal: Sanchai Natural Peanut Butter from Khotang to Japan

日本人の社会起業家が率いる新進気鋭のビジネス・ベンチャーが、このネパール東部のヒマラヤ山脈の辺境地区を、高級天然ピーナッツバター産地として世界地図に載せようとしている。

Photos: SANCHAI INC

仲琴舞貴さんは、ホータン県ハレシ市のドゥルチムを世界のピーナッツバターの首都にしようという計画を、コロナ禍で一時停止していたが、再び動かし始めた。彼女は現在、訓練した地元農民達と設立した工場を再稼働させるために戻ってきた。

仲(写真左)さんは、かつてホータンの子供たちへの慈善活動を支援していた日本のIoT企業に勤めていた。初めての訪問では、カトマンズからホータンまでの険しい山道を15時間かけて移動し、農民たちと会った。

彼女は、ホータン南部では落花生が主要な換金作物だが、例年より乾燥した天候のために不作となり、男性たちがインドや湾岸諸国へ出稼ぎに行かざるを得なくなっていることを知った。

「私は子供たちの生活を改善するためのより持続可能な方法を模索しており、そのためには単に援助を提供するのではなく、親たちを経済的に自立させることが最善だと結論づけました」と仲さんは語った。

Photos: SANCHAI INC

「その時点で私はピーナッツバターの作り方について何も知りませんでしたが、日本の上司を説得しなければなりませんでした。私は支援は利益を得るためではないネパールの人々のためだと説明しました。」

Photos: SANCHAI INC
Photos: SANCHAI INC

その後、彼女は日本のピーナッツ専門家を訪ね有名なレシピを入手してから基本的な器具を持参してホータンを再訪し、ピーナッツバターのサンプルを試作した。日本に戻ると、誰もが、地元の小さな品種のピーナッツを使ったピーナッツバターが今まで味わった中で一番おいしいと認めた。 「その美味しさに驚きました。現地の人々に製造技術を教え、会社を設立できると確信しました。」と仲さんは振り返る。幸運なことに、工場がオープンする直前に村に電気が通った。

「日本人として、ここでの時間に対する無頓着さに慣れるのには時間がかかりました」と仲さんは笑って振り返った。

集まった農家はすべて女性で、男性の多くが出稼ぎに出ていたためだ。意図せずして、ピーナッツ事業は女性のエンパワーメントのツールにもなった。

仲さんとチームは60世帯に有機栽培のピーナッツを生産する訓練を行い、会社は中間業者よりも高い価格でピーナッツを買い取り、300人の農家が利益を得た。

Photos: SANCHAI INC

「私たちの全体的なアイデアは、単にお金を渡すのではなく、スキルを提供することで生活水準を持続的に向上させることでした。」と仲さんは説明した。 次に、10人の女性スタッフにピーナッツバター作りのトレーニングを行った。

傷んでいないピーナッツを手作業で選ぶ

選別したピーナッツの外殻を取り除く

ピーナッツを丁寧にローストする

ピーナッツをきれいに洗い、2つに割る

ピーナッツをもう一度選別する

ピーナッツを混合する

輸出市場にとって品質管理は最重要事項であり、優れた原材料と加工方法によって、ホータンピーナッツバターの独特な味と風味が維持されており、タンパク質含有量は1.3%で、他の同様の製品よりも高い水準である。

仲さんは福岡で育ち、美容室チェーンを経営する父親からビジネスの基礎を学んだ。彼女はIoT企業の研究員として上京した。3年後の2017年12月に株式会社サンチャイを開業し、1年後にはホータンピーナツバターの輸出を開始した。

ネパール国内ではLe Sherpa Farmers’ Market、Local Project Nepal、Himgiri Organic Farmでの流通がパンデミック後に再開された。現在、売上の90%を日本市場が占め、シンガポール、欧州、米国市場にも関心を持つ企業が現れている。

「製品の背後にあるストーリーを人々に話すと、彼らは興奮し、さらに購入に興味を持ってくれます。私は、ネパールの農村部の人々に寄付をし、手助けをするという気持ちを抱かせるようにしています」

「私たちの取り組みは小さなものでしたが、そのおかげでホータンの女性たちに活躍の場が与えられ、彼女たちの家族の生活水準が上がり、今ではリーダーになっています。」と仲さんは語った。(原文へ

INPS Japan/Nepali Times

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太平洋諸島民は古来より、大地、空、波から知恵を得てきた

この記事は、2024年3月13日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

太平洋諸島民は古来より、大地、空、波から知恵を得てきた。その知恵には科学的裏付けがあることが、研究により示されている。

【Global Outlook=パトリック・ナン/ロズリン・クマール】

2023年のある日の午後、われわれはフィジーの村の集会所で住民たちと一緒に座り、熱帯サイクロンを予測する伝統的な方法について話し合っていた。1人の男性が、「マヌマヌニカギ」と呼ばれる翼の黒いコグンカンドリのことを口にした。熱帯サイクロンが沖で形成されているときのみ、陸地の上を滑空するという。会話が続く中で、住民たちは少なくとも11種類の鳥の名前と、差し迫った天候の変化を告げる奇妙な行動を教えてくれた。

その晩遅くに辞去する際、1人の老人がわれわれをそばに呼んだ。彼は、われわれが彼らの知見を真剣に受け止めたことを喜んでおり、年配の太平洋諸島民の多くは冷笑されることを恐れて伝統的知識について語ろうとしないと言った。

これは、気候変動への適応とその暮らし方に与える脅威について、科学的観点からの理解が支配的であることを反映している。われわれの新たな研究は、そのような態度を改めるべきであることを示唆している。

われわれは、気候変動に対処するための太平洋の伝統的知識に関するエビデンスを再検討し、それらの知識の多くが科学的に妥当と思われることが分かった。つまり、これらの伝統的知識は今後、太平洋諸島のコミュニティーを維持していくうえで重要な役割を果たすべきだということである。

立証された、堅牢な体系

われわれの研究は、長年にわたり伝統的知識への研究関心を抱いている他の研究者26名との共同執筆であり、そのほとんどは太平洋諸島出身者である。

太平洋諸島には3,000年またはそれより前から人が住み、気候が生活や生存にもたらす多くの困難を経験してきた。彼らがうまく対処できたのは、運ではなく、意図的なもの、長年にわたってさまざまな人間集団が編み出してきた伝統的知識の堅牢な体系によるものである。

太平洋の島の生活に脅威を与える気候関連の短期的影響の最たるものは熱帯サイクロンであり、それは農作物に損害を与え、淡水を汚染し、インフラを破壊する恐れがある。また、南西太平洋でエルニーニョ現象が発生している期間によく見られる長期的な干ばつも、広範囲にわたる被害をもたらす

太平洋の伝統的知識は、自然現象の原因と発現を説明し、最善の対処方法を明らかにする。それは一般的に、口頭で世代から世代へと伝えられる。

本稿では、動物、植物、水、空に関連するそのような知識を紹介したうえで、それらの知見がいかに科学的な道理にかなっているかを示す。

ただし、伝統的知識は、それ自体が本質的な価値を持つことに留意することが重要である。それらを検証するために科学的説明が必要ということではない。

海と空を読む

フィジーのドルアドルア島の住民は、波が砕ける様子を読み解いて、熱帯サイクロンが来る1カ月も前からそれを予測している。バヌアツのトレス諸島では、潮の状態を説明する13通りの表現が存在しており、その中にはまれな事象の先触れとなる異常も含まれている。

これらの観察は、科学的にも道理にかなっている。遠方の嵐は、風雨が到来するかなり前に沿岸部に打ち付ける波のうねりをもたらし、通常の波のパターンを変える可能性がある。

サモアでは、伝統的な言い伝えの中で10種類の風が認識されている。東から吹く風<マター・ウポル(matā ‘upolu)>は大雨、ひょっとすると熱帯サイクロンの差し迫った到来を告げる。南風<トゥアー・オロア(tuā’oloa)>は、最も恐れられている。南風は、その死への欲求が満たされたときに初めて止むといわれている。

太平洋諸島の多くのコミュニティーでは、雲のないダークブルーの空は熱帯サイクロン到来の前兆と考えられている。その他の前兆には、通常、雲の急速な動きや「短い虹」の出現などがある。

これらの知見は、科学によって裏付けられている。虹は時に、遠くのにわか雨によって「短くされ」たり、部分的にぼんやりしたりする。そして、西洋科学では、雲や風の変化がサイクロンの発達の前兆となり得ることが昔から認識されていた

バヌアツでは、月の周りの光輪(ハロー)は雨が近いことを示している。この知見もやはり、科学的に正しい。西洋科学では、上層の薄い巻雲は付近に嵐があることを示している。氷の結晶を含んだ雲を通して月の光が透けることにより、ハロー効果が生まれる。

動物や植物の知恵

先に述べた通り、鳥たちは天候の変化の前触れになると太平洋各地でいわれている。

トンガでは、グンカンドリが陸上を飛ぶ(海鳥としては異例の行動)のは、熱帯サイクロンが発達していることを示唆する。この伝統的知識は、トンガ気象局のロゴに採用されている。フィジーバヌアツ北部でも、鳥の行動が同じように解釈される。

この知見は、科学的にもつじつまが合う。例えば北米のある研究では、キンバネアメリカムシクイがインフラサウンド(超低周波音)の変化を検知することによってトルネードを回避することが示された。別の研究(太平洋のグンカンドリに関するデータはこの研究によるもの)では、海鳥が、恐らく風の強さや方向を感知することによってサイクロンを迂回していると思われることが分かった。

太平洋諸島の昆虫の行動に関する伝統的知識も、雨季の天候を予測するために用いられる。

ハナバチ、ワスプ、スズメバチは、通常木の枝に巣を作る。巣が地面に近い場所に作られると、きたる雨季は、恐らく熱帯サイクロンが増えることによって雨量が通常より多くなるだろうと、太平洋諸島民は知ることができる。このタイプの巣作りを見ると、住民は、食料の貯蔵といった適切な準備を行うことができる。

昆虫の行動から天候の変化を予測できることが、研究により示唆されている。例えば、フランス領ギニアに巣作りするワスプに関する研究では、より保護された場所に素早く巣を移す能力が、雨量の多い時期を生き延びるために役立っていると思われることが分かった。

太平洋の各地で、一部の植物挙動に雨が近いことを示す共通の兆候が見られる。例えばプランテンの中心の芽が真っ直ぐではなく、著しく湾曲する。

これは、極端な気象から生殖器を守るために植物の葉が閉じるという過程によって、科学的に説明することができる。

さらに温暖化した未来に備えて

植民地化によって西洋の世界観が世界中に強要されて以来、伝統的な知識は脇へ追いやられてしまった。これは太平洋諸島にもいえることで、一部の場所では伝統的な知識がほとんど忘れ去られた

しかし、西洋の知識にも伝統的な知識にも、それぞれの長所と短所がある。例えば科学に基づく知識は一般的なもので、それを現実的にローカル規模で適用できないこともしばしばある。

気候変動の影響が悪化するなか、島の人々にとって最適の計画は、両方のアプローチを組み合わせたものであるべきだ。そのためには、オープンマインドな姿勢と多様な知識の源を尊重する心が必要となる。

パトリック・D・ナンは、サンシャイン・コースト大学(オーストラリア)の法社会学部地理学の教授。
ロズリン・クマールは、サンシャイン・コースト大学の地理社会学の非常勤研究員。

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

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国連の未来サミットで子どもの保護と参加が重要視される理由

【カトマンズ/ナイロビIPS=クル・C・ゴータム、ムスタファ・Y・アリ】

国連は今年、年次総会の期間中である9月22日から23日にかけて、「未来サミット」を開催する。各国の首脳や政府代表がニューヨークの国連本部に集まり、「未来の世代の権利を保護し、正式に保障する」ことを目的とした多国間かつ行動指向の「未来のための協定」について議論し、合意し、承認する予定だ。

この協定の草案には、持続可能性、平和と安全保障、科学技術、若者、ガバナンスを巡る行動計画が既に詳述されており、サミットは「一世代に一度の機会」と呼ばれている。

The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.
The 2nd meeting of state parties to TPNW will take place at the United Nations Headquarters in New York between 27 November and 1 December this year.

実際、パンデミック後の政治、経済、安全保障、社会の力学(および再編成)が世界秩序を再定義し、多国間組織への信頼を蝕み、国際法の限界を露呈している今、人類を正義と公平の道へ導くための緊急行動が求められている。

世界は転換期を迎えており、「未来のための協定」の手段である多国間主義が、便宜のために放棄される危機に瀕している。

子どもたちのためのより良い世界を目指す擁護者として、宗教間の協力を含め、サミットと協定の背後にある立派な意図に賛辞を送りたい。しかし、現在の協定草案には多くの改善の余地がある。つまり、未来そのものである子どもたちが、若者や未来の世代と混同されるか、僅かにしか言及されていないのだ。

この協定は、成人、青少年、若者に焦点を当てている。しかし自分たち固有のニーズや権利を表現できない、最も弱い立場にある乳幼児の保護と福祉は、明確に優先されていない。

子どもたちが世界の人口の3分の1を占め、今後30年間で42億人の子どもが生まれると予測されていることを考えれば、彼らの権利を保護し、福祉を促進することが、人類のより良い未来を確保することを目指したいかなる協定の中心に据えられるべきであることは自明であろう。

子どものいない未来はない

私たちは、驚異的な科学の進歩、経済的繁栄、そしてかつてないほどの男女平等の世界に生きている。しかし、飢えに苦しみ、家を失い、切実に保護を必要とする子どもたちの数は、世界的にかつてないほど増えている。

UNICEF
UNICEF

ユニセフによると、10億人近い子どもたちが多面的貧困の中で暮らし、さらに3億3,300万人の子どもたちが極度の貧困に苦しんでいる。これらの衝撃的で歴史的に前例のない数字は、増大する不平等、新型コロナウイルスのパンデミック、壊滅的な食料とエネルギーの危機、気候緊急事態、新たなそして長期化する紛争によってさらに悪化している。

昨年だけでも1,050万人以上の子どもたちが、主に紛争や暴力のために家を追われた。現在、世界中で家を追われた子どもたちの数は5,000万人以上、紛争地帯で暮らす子どもたちの数は4億6,000万人を超えると推定されている。

いわゆる「通常の」、安定した、平和な環境においてさえ、子どもたちは急速に拡大するデジタル環境の危険、差別、不平等、虐待、そして一部は宗教の名の下に行われる搾取に日常的にさらされている。

「未来のための協定」に子どもたちが明示的に言及されなければ、子どもたち固有の権利や独自の視点が忘れ去られてしまう危険性がある。子どもの権利委員会の前委員長が2月に強調したように、「もし国連が、人々を中心としたパートナーシップと連帯のための、より包括的な多国間プラットフォームとなることを真に約束するのであれば(中略)、子どもたちを未来サミットのプロセスから排除することはできない(中略)。子どもたちは、サミットとその結果としての「未来のための協定」の主体であると同時に、サミットの前、最中、そしてサミット後の積極的な参加者であるべきだ。」

子どもは訴えている!

国連の未来サミットが開催されてまもなくの11月19日から21日にかけて、アラブ首長国連邦のアブダビで、世界の主要な宗教と精神的伝統の指導者たち、そして各国政府と国際機関の代表者たちが、「子どものための宗教者ネットワーク」第6回フォーラムに集う。

安全なコミュニティのための諸宗教連合(IAFSC)が主催するこのフォーラムは、未来の立役者である子どもたちの声と権利を高めることを目的としており、子どもたちのための安全で安心で持続可能な世界を構築するという問題に、宗教間の視点から取り組む。

ガザ地区で起きている子どもたちを巡る最近の記憶で最大の悲劇を前に、世界の宗教的・世俗的指導者たちが集い、祈りをささげ、私たちが今日目撃しているような無分別な子どもたちの殺傷を「二度と」許さないための行動を喚起するのに、これほどふさわしいテーマ、場所はないだろう。

フォーラムの「安全な世界を構築する」というテーマは、デジタル世界における子どもの尊厳、家族の役割と協力的なコミュニティ、レジリエンスの構築、そして世界的な衝撃、新たな危機、パンデミックに直面した際のメンタルヘルスの強化などを取り上げる。

フォーラムは「安全な世界の構築」のテーマの下、紛争、戦争、外国人嫌悪、ヘイトクライム、過激主義の根本原因、紛争へのレジリエンスの構築、紛争や戦争が子どもたちに与える影響、そして子どもたちのための平和で包括的な世界の構築を取り上げる。最後のテーマである「持続可能な世界の構築」では、責任あるライフスタイル、飢餓、子どもの貧困、不平等、倫理的価値と教育、そして気候変動に配慮したスチュワードシップについて議論する。

このフォーラムは、信仰、文化、人種、経済・社会的背景に関係なく、子どもたちが恐れや制限を受けることなく成長し活躍できる未来のために、世代を超えた対話、相互理解、協力、そして子どもたちのため、子どもたちと共に主張する適応能力を育むことが期待されている。

子どもたちの権利と声を「未来のための協定」の中心に据えることを怠れば、私たちは、現在の世界人口の3分の1、そして将来生まれてくる何十億もの子どもたちの期待を裏切ることになる。子どもは訴えている!私たちは努力を結集し、行動を強化し、子どもたちの声を中心に据えて、すべての人にとって安全で、安心でき、持続可能で、希望に満ちた世界を築くために団結しなければならない。(原文へ

クル・ゴータム氏は、ユニセフの元事務局次長、ありがとうインターナショナル・アドバイザリー・グループ議長、子どものための宗教者ネットワーク(GNRC)第6回フォーラム国際組織委員会議長。ムスタファ・Y・アリ博士は、GNRC事務局長であり、ありがとうインターナショナル・ナイロビ事務局長。

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ジェノサイドを忘れない スレブレニツァの母たち

【INPS Japan/ 国連ニュース】

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のさなか、1993年にボスニアの町スレブレニツァに国連の安全地域が設置された。しかし1995年7月、町はボスニア・セルビア人勢力に制圧され、1週間で8000人以上のボスニア人少年・男性が殺害された。

スレブレニツァ虐殺は、第二次世界大戦後のヨーロッパで最大の残虐行為とされている。1996年、虐殺の生存者と行方不明者の家族が、虐殺で家族を失った6,000人の生存者を代表する活動団体「スレブレニツァとジェパの母たち」を設立した。同団体は正義と説明責任を提唱し、ジェノサイドの生存者のために資金を集めている。

2023年6月、「スレブレニツァの母たち」の活動メンバーのうち3人が国連を訪れ、高官と会談し、展示 “Stories of Survival and Remembrance – A call to action for genocide prevention “を見学した。(原文へ

UN News

INPS Japan

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多国間主義におけるカザフスタンのリーダーシップ: 世界の平和と安定の道標

【INPS Japan/London Post】

しばしば「スウィングステート」と呼ばれる中堅国は、超大国や大国ほどの影響力を行使することはできないかもしれないが、世界情勢における戦略的重要性は否定できない。これらの国々は、地政学的な位置、豊富な天然資源、外交および経済の強み、そして軍事能力を活用し、しばしば大きな紛争では中立を保ち、世界の安定を維持する上で重要な役割を果たしている。これらの国々は、世界経済の分断を克服し、中央回廊のような重要な中継ルートを通じてサプライチェーンを確保する上で、重要な鍵を握っている。また中堅国は大国とは異なり、複雑な政治状況を切り抜ける敏捷性と、特定の紛争や問題の当事者からの信頼を得ることができる。

グリーン・トランジション(環境配慮や持続可能性のある社会への移行)の文脈では、中堅国は重要な鉱物やその他の重要物質の供給を確保する上で不可欠である。多国間で解決しようとする傾向のある中堅国は、国際問題の解決において中心的な役割を果たしている。

カザフスタンは今日、影響力のある中堅国として際立っている。カシム・ジョマルト・トカエフ大統領は、Euronewsのオピニオン記事の中で、自国がグローバルな舞台で積極的な役割を果たす可能性を強調した。「わが国のような国は、経済力、軍事力、そしておそらく最も重要なのは、食料・エネルギー安全保障、グリーン・トランジション、ITからサプライチェーンの持続可能性に至るまで、グローバルな舞台で大きな影響力を行使するために必要な政治的意志と外交的洞察力を有している。」と語った。トカエフ大統領が指摘するように、これらの強みは、世界の経済・政治大国がますます協力できなくなっているなかで、特に重要である。それとは対照的に、「カザフスタンのような国々は、自分たちの身近な地域とその先の地域の安定、平和、発展を確保し、妥協と和解への道を切り開くことができる。」とトカエフ大統領は語った。

カザフスタンは、水の安全保障、テロリズム、麻薬密売といった国境を越えた課題に取り組むため、中央アジアやコーカサス地域の他の中堅国との協力を強化している。アゼルバイジャンやトルコとのパートナーシップは、中央アジアを欧米市場に開放する中央回廊プロジェクトの実現に不可欠である。カザフスタンはまた、欧州諸国とも緊密に連携してエネルギー需要を確保しており、アジア諸国にとっても魅力的な投資先となっている。こうした中堅国との協力関係は、ハイレベルの二国間会談を通じて強固なものとなっており、トカエフ大統領は2024年だけでも数十回の会談を行っている。

トカエフ大統領の広範な外交経歴を考慮すると、彼の多国間主義と国際協力に対する支持は心強いものである。カザフスタンは今年末、気候変動、生物多様性の損失、汚染の影響を含む世界的な水危機に対処するため、フランスとともに第1回「ワン・ウォーター・サミット」の共同議長を務める。このイベントは、世界中の影響を受けている国や地域社会を団結させることを目的としている。さらにカザフスタンは、アルマトイに中央アジアとアフガニスタンに焦点を当てた国連持続可能な開発目標(SDGs)地域センターの設置を提案し、アルメニアとアゼルバイジャンの和平交渉の促進に積極的に関与している。

「大国が多国間プロセスをますます信頼しなくなり、小国が必要な影響力を欠く中、中堅国が主導する義務がある。」と、トカエフ大統領は主張した。カザフスタン独自の強みとベテラン外交官をリーダーに、多国間主義の強化、より安全なサプライチェーン、より大きな平和と安定に向けた新時代を切り開く態勢を整えている。(原文へ

INPS Japan/London Post

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