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国連がグローバルな目標達成のために有名な文学フェスティバルを活用

【ジャピプールIDN=デビンダー・クマール】

貧困からジェンダー、気候変動、不平等、財政格差の縮小に至るまで、世界のあらゆる難題に対する持続可能な解決策を加速する「行動の10年」の一環として、国連は1月末に新たなツールを活用することにした。つまり、インドの魅惑的なラジャスタン州の風光明媚な州都ジャイプルで行われた世界最大の文学フェスティバルだ。ジャイプルは、その豪華な宮殿や史跡の多くに使われている石がピンク色であるために、「ピンクの街」として知られている。

フェスティバルは1月27日、国連の現地コーディネーターであるレナータ・デッサリエン氏をゲストに迎えた。デッサリエン氏は、気候変動に関する特別セッションの参加者らに対して、「国連は、破壊的な気候変動のペースを遅らせるために最大限の努力をしています。」と語った。国連は気候危機に対して十分に行動できているかとの質問に対しては、「国連は『世界警察』として機能することはできません。」と回答した。

Decade of Action Campaign/ UN
Decade of Action Campaign/ UN

デッサリエン氏は、「国連は世界政府でもありません。国連に認められていることや出来ることには限界があります。」と指摘したうえで、「しかし、実際には多くの面でその限界を押し広げようとしています。国連というものを一番うまく表現すると、『世界の説得者』、つまり、何が根本的に正しいのかを人々に説得して回る役ということになると思います。」と語った。

食料生産を脅かす気候パターンの変化から、壊滅的な洪水のリスクを増大させる海水面の上昇に至るまで、気候変動がもたらす影響がグローバルな範囲に及び、空前の規模になっているという十分な証拠がある。もし気候の現状を変えることができなければ、6億人以上のインド国民がマイナスの影響を受けると推測されている。

セッションでは、気候危機により大きな影響を受けたインド・ラダック地域の人々の驚くべき現状についても紹介された。ラダックにある「ヒマラヤ・オルタナティブ研究所」の所長で、太陽光エネルギーの研究家、教育家でもあるソナム・ワンチュク氏は、「ヒマラヤの山中、とりわけラダックでは氷河が解け、慢性的な水不足が発生していましたが、最近では春になると干ばつが起こるようになっています。水不足のために村全体を放棄しなくてはならなくなった村を私は少なくとも2つ知っています。さらに秋になると、干ばつと背中合わせで突発的な洪水が発生しています。」と語った。

The Shyok River (The River of Death) flows through northern Ladakh in India and the Ghangche District of Gilgit–Baltistan of Pakistan spanning some 550 km (340 mi)/ By Eatcha - Own work, CC BY-SA 4.0
The Shyok River (The River of Death) flows through northern Ladakh in India and the Ghangche District of Gilgit–Baltistan of Pakistan spanning some 550 km (340 mi)/ By Eatcha – Own work, CC BY-SA 4.0

ワンチュク氏は、洪水によって多くの人が亡くなり、流されてしまった村でボランティアをしていた2006年当時、最後に洪水が起こったのはいつかと尋ねたことがある。「しかし、村人らに洪水の記憶はありませんでした。しかしその後、その村は2010年、2015年、2017年と立て続けに洪水に見舞われています。」と、ワンチュク氏は語った。

ワンチュク氏は、山間部の住民が「とにかく生きていくことができる」よう、平地や都市部に住む人々に対して、責任感を持ち、「シンプルな生活」をしてほしいと訴えた。

オンラインジャーナル「PARI」の編集者ナミタ・ワイカール氏は、沿岸部の諸都市で気候変動の悪影響を受けている人々の体験を紹介した。ワイカール氏は現在、国連開発計画による次期「人間開発報告書」に向けた、気候変動の影響に最も晒されるインドの社会的弱者のストーリーを記録している。

「農村部では、海草が激減したために生活を変えざるを得なかったタミル・ナドゥの村々があります。同じように、デリーのような内陸の漁村では、淡水で魚を獲ろうとしても死んだ魚ばかりが釣れしまう。彼らの話を聞いて胸が押しつぶされそうになった。」と、ワイカール氏は語った。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

漁民らはワイカール氏に、「夜に網を張っても、朝に獲れるのは『死んだ魚のうち最も新鮮なもの』に過ぎません。」と語った。川や沿岸部を下水や工業廃水で汚染しないようにすることが緊急の課題となっている。ワイカール氏は、「別の漁民の女性によれば、自分たちがかつて獲っていた魚は、いまや『ディスカバリー・チャンネル』でしか見れない、と言います。このことから、状況が如何に深刻かがわかります。」と語った。

作家で教育者、映画監督のシュバンギ・スワルップ氏は、自身のフィクション作品を通じてエコロジーの問題を追求しており、作品に気候変動の問題をいかに組み込んでいるかについて説明した。「私たちの物語は人間中心主義的で、強迫観念に満ちており、きわめて不快なものです。自然や宇宙に対する尊重が見られません。」

「だから私は、地理的な断層線が物語の道筋になる小説を書こうと思いました。話は、アンダマン諸島で始まって、次にミャンマー、ネパールと進み、最後はラダックで終わります。ストーリーを作りながら、地域の問題を解決するにあたって国境が如何に意味のないものであるかを悟りました。」とスワルップ氏は語った。

市民社会活動家のアプールヴァ・オザ氏は、気候変動を巡る議論から利益思考を排除する必要性を改めて強調した。「すべてを経済的な問題として測ろうとする、行き過ぎた傾向があります。例えば、私が何かを提案をすると、それで農民の年収を倍増できるのかと聞かれます。私が言えるのは、その提案を通じて、自然が守られ、環境が維持され、地下水を使いすぎないようにできる、ということだけです。つまり、収入を倍増させることは保証できないが、進歩は保証できると答えます。」

ボリウッドの有名女優で国連の持続可能な開発大使でもあるディア・ミルザ氏が「時間は残っているでしょうか? 私たちにはあと10年しかありません。女性や母親、子どもたちの声に耳を傾けるべきです。もし科学が理解できないのなら、自然を見つめてみるべきです。」と語りかけたとき、会場は静寂に包まれた。

彼女のメッセージは明確だ。つまり、環境面でより持続可能な世界を作り出すために皆が責任を負っており、芸術や文化部門の人々も例外ではない、ということだ。

Jaipur Festival Logo

司会のサミール・サラン氏は、「このフェスティバルは文学に関心のある人々の集まりです。物語はこういう場所から生まれ出る。もし気候変動がそうした物語の一部になるならば、気候変動を抑える望ましいステップをとるうえで、力を得ることになるだろう。私たちが自らについて語る物語が、自分たちの行動を決めることになります。もし私たちの物語が環境にやさしいものならば、おそらく私たちの未来は、環境にやさしく、繁栄したものになるだろう。」と述べて、セッションを締めくくった。

5日間にわたって行われたこの「ジャイプル文学フェスティバル」は、「地球上で最大の文学祭」と言われ、今回は、40万人以上の読書愛好家が参加し、20カ国から集まった約2000人の発言者が200以上のセッションで語った。議論の対象になった文学は、20以上の言語で書かれている。

第13回「ジャイプル文学フェスティバル」には、ノーベル文学賞受賞者のアビジット・バネルジー氏、ピューリッツァー賞受賞者のフォレスト・ガンダー氏、ジャーナリストのクリスティーナ・ラム氏、『ニューヨーカー』誌のジャーナリストであるデクスター・フィルキンス氏、マン・ブッカー賞受賞者のハワード・ヤコブソン氏、エリザベス・ギルバート氏、それに、インドの人気作家であるシャシ・タルール氏やジェイブド・アクタール氏といったベストセラー作家も参加し、討論と対話を行った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ニューヨークIDN=アントニオ・グテーレス】

2020年は国連創設75周年にあたります。私は国連が体現するものすべて、そして私たちがともに達成してきたものすべてに、大きな力を感じています。とはいえ、記念日の意義は過去を祝うことではなく、未来に目を向けることにあります。

私たちは未来に希望の眼差しを向けなくてはなりません。しかし、そこに錯覚があってはなりません。私はきょう皆様に、私たちが直面している課題について、ありのままにシンプルな言葉で語りたいと思います。

私たちの中に、ヨハネの黙示録さながらに「四騎士」がいるのが見えます。21世紀の進歩を危うくし、21世紀の可能性を危険にさらそうとしている4つの脅威です。

The Four Horsemen/ By Albrecht Dürer - National Gallery of Art, Public Domain
The Four Horsemen/ By Albrecht Dürer – National Gallery of Art, Public Domain

第1の騎士は、私たちがここ数年目の当たりにしている全世界的な略地政学上の緊張状態という姿で現れています。

破壊的な紛争は、広い範囲で悲惨な結果を生み続けています。テロ攻撃は無情にも多くの命を奪っています。核の脅威は高まっています。戦争や迫害によって故郷を追われた人々の数は第2次世界大戦以来、最も多くなっています。貿易やテクノロジーを巡る緊張は解けていません。「大規模破壊」のリスクは現実のものとなっています。

第2に、私たちは存亡にかかわる気候危機に直面しています。

気温の上昇は記録を更新し続けています。過去10年間は観測史上、最も暑い10年間となりました。科学者によると、広島に投下されたものと同じ原爆5発が毎秒投下されるペースで海洋温度が上昇しています。

近い将来、絶滅するおそれのある生物は100万種に上ります。地球はまさに燃えています。その一方で、気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)では、多くの政策決定者が依然として時間を無駄にする様子が見られました。私たちの世界は、後戻りのできない地点に近づいています。

第3の騎士は、世界的な不信の高まりと拡大という姿をしています。

北から南まで、不安と不満が社会を激しく揺り動かしています。2つとして同じ状況はないものの、苛立ちが街にあふれているという点は共通しています。グローバリゼーションが自分たちのためになっていないと確信する人々が増えています。

昨日も国連の報告書で明らかにされたとおり、世界人口の3人に2人は、格差が拡大している国で暮らしています。政治的既成勢力に対する信頼は低下しています。若者は立ち上がっています。女性は当然のことながら、平等や、暴力と差別からの自由を求めています。

同時に、恐怖と不安も広がっています。難民や移民に対する敵意が高まり、憎悪が蓄積しています。

第4の脅威は、デジタル化の負の側面です。

テクノロジーは、私たちが対応できる能力はもとより、理解できる能力さえも超えるスピードで進化しています。新技術は非常に大きな恩恵をもたらす一方で、犯罪、憎悪の扇動、フェイクニュース、人々の抑圧や搾取、プライバシーの侵害にも悪用されています。

第4次産業革命が労働市場と社会の構造そのものに及ぼす深刻な影響に対する備えも、私たちにはできていません。人工知能(AI)は、驚異的な能力と恐るべき可能性を作り出しています。自律型殺人兵器、すなわち人間の判断も責任も伴わず、独自の殺人能力を有する機械は、私たちを道徳的、政治的に許しがたい領域へと連れ込んでいます。

大規模な地政学的緊張、気候危機、世界的な不信、テクノロジーの負の側面という「これら四騎士」は、私たちが共有する未来のあらゆる側面に危害を及ぼしかねません。

国連創設75周年を心地よい言葉で記念できない理由は、ここにあります。私たちは21世紀のこれら4つの難題に、21世紀の4つの解決策をもって取り組まねばなりません。では、それぞれ1つずつ見ていきましょう。

第1に、すでに申し上げた平和と安全です。期待できる兆候はいくつか見られます。

昨年はコンゴ民主共和国からマダガスカル、そしてマリからモルディブその他に至るまで、重要な選挙後の紛争が回避されました。

イエメンでは戦闘行為が続いているものの、フダイダでの停戦は不安定ながら守られています。シリアでは、依然として実質的な障害が残っているものの、制憲委員会が立ち上げられました。

中央アフリカ共和国では、和平協定が実施に移されています。そして最近では、重要な局面を迎えているリビアの主たる関係者が、ベルリンでの会議に参集して「リビアの武力紛争や内戦への干渉を控える」ことを約束するとともに、「すべての国際的主体に同じ」約束をするよう強く訴えました。

こうした取り組みにはいずれも忍耐と粘り強い努力が必要ですが、人命を救うためには絶対に欠かせません。私たちが今後、取り組むべき作業もはっきりと見えています。ペルシャ湾からイスラエル・パレスチナ紛争、サヘルとチャド湖地域からベネズエラに至るまで、全世界にゴルディアスの結び目のような難題が見られます。安全保障理事会決議は無視されています。外からの干渉が火に油を注いでいます。

そして私たちは、有効な次善策もないまま、国際的な軍縮と軍備管理(体制)の柱を失うリスクを抱えています。

もちろん、国連は引き続き、困窮を極めている何百万もの人々に救命援助を届けていきます。

しかし、一時的な救済は恒久的な解決に代わるものではありません。私たちは平和活動の連続体のすべてにおいて、予防を指針とせねばなりません。

私たちは調停能力と持続的な平和のためのツールを強化し、これを長期的な開発へとつなげなければなりません。

私たちのPKOのための行動(A4P)イニシアティブは、実績と安全性を高めています。私たちは民間人保護の効果を高めつつあり、女性平和維持要員の数もかつてなく増えています。

女性と平和、安全に関する安全保障理事会決議1325採択から20周年にあたる今年は、言葉をさらに実行に移す機会でもあります。

同時に、私たちは守るべき平和がない場合、平和維持が不十分であることも知っています。私たちは国連憲章第7章に基づき、予見可能な資金を提供することで、地域的パートナーが実効的な平和執行とテロ対策活動を実施できる条件を整備する必要があります。特にその必要が大きいのは、サヘルからチャド湖に至る地域をはじめとするアフリカです。

そして私たちは、社会的排除から経済的絶望、暴力的な女性蔑視からガバナンスの崩壊に至るまで、危機と騒乱の根本的原因を注視し、暴力と過激主義を助長する要素に対処しなければなりません。

私は昨年、ヘイトスピーチと闘い、信仰の場所を守るため、今までに類を見ないアクション・プランを立ち上げました。今年は、ヘイトスピーチ対策における教育の役割に関する会議を招集する予定です。

私たちは「軍縮アジェンダ」の前進も続けなければなりません。私はすべての締約国に対し、2020年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議で、NPTが引き続き核戦争を予防し、核兵器廃絶を促進することで、その基本的目標を達成できるよう協力することを呼びかけます。

第2の「騎士」は気候崩壊の脅威です。私たちは気候変動対策を約束し、これに対処せねばなりません。私たちは自然と闘っています。それに対し、自然は激しい反撃に出ているのです。

最近のオーストラリアでの山火事で、人々が家を追われ、野生生物が炎の餌食になる姿を見るとき、私たちは現状の苦境に対する深い悲しみと、これから起きることに対する恐怖を感じずにはいられません。

世界保健機関(WHO)によると、その間にも、大気汚染と気候変動が相まって、毎年700万人が命を落としています。もはや段階的なアプローチでは不十分です。次回の気候会議(グラスゴーで開催されるCOP26)で、各国政府は私たちの世界が必要とし、人々が要求する革新的な変化を、さらに大きな野心をもって実現しなければなりません。それは緩和に対する野心であり、適応に対する野心であり、資金に対する野心でもあります。

COP 26 Logo
COP 26 Logo

あらゆる都市や地域、銀行、年金基金、業界が気温上昇を1.5˚Cに抑えるため、その行動を一から考え直さねばなりません。科学界は明確な結論を出しています。私たちは2030年までに、温室効果ガス排出量を対2010年で45%削減するとともに、2050年までに正味ゼロ・エミッションを達成する必要があります。

その義務は主として、排出大国が担わねばなりません。この危機を最も大きく助長した国々が、率先して対策を講じなければならないからです。そこに躊躇があれば、私たちは万事休すです。しかし、私は今でも、気候変動との闘いで勝つことはできると信じています。人々もそう思っています。テクノロジーは私たちの味方です。

科学者たちも、まだ手遅れではないと言っています。経済学者やや資産管理者は、気候に優しい投資こそが、21世紀の競争に勝利するカギだと言っています。灰色経済からグリーン経済へ移行するためのツールと知識は、もうすべて揃っています。

ですから、変革を受け入れようではありませんか。昨年9月の気候行動サミットの成果を積み上げ、グラスゴー会議を成功に導けるような約束をしようではありませんか。

今年はグラスゴー会議のほかにも、決定的行動をとれる機会が2つあります。その1つは6月にリスボン(ポルトガル)で開催される国連海洋会議です。世界の海は汚染や乱獲をはじめ、各方面からの攻撃にさらされています。

プラスチックごみは、私たちの口に入る魚だけでなく、私たちが飲む水や、吸い込む空気も汚しています。

私たちはリスボン会議の機会を捉え、これ以上の乱用から海を守り、人々と地球の健康に海が果たす根本的な役割を認識せねばなりません。

例えば、いくつかの国内的イニシアティブの成功を受け、使い捨てプラスチックの使用を世界的に禁止する機は熟したと言えます。

2つ目は10月に中国の昆明で開催される生物多様性会議です。生物種喪失のペースは、過去1000万年のどの時期と比べても、桁違いに速くなっています。

私たちは昆明会議を最大限に活用し、ポスト2020年のグローバルな生物多様性枠組みを採択しなければなりません。自然と調和した暮らしは、これまで以上に重要となっています。

あらゆることが相互に関連

世界的な不信という第3の騎士を退けるためには、公正なグローバリゼーションを構築しなければなりません。私たちには「持続可能な開発のための2030アジェンダ」という計画があります。皆様の政府もすべて、その実現を誓っています。

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo

国と地方の政治指導者から起業家、投資家、市民社会その他多くの人々に至るまで、私は行く先々で、持続可能な開発目標(SDGs)に対する極めて大きな熱意を耳にしています。

幼児死亡率の削減から教育の普及、家族計画へのアクセス改善からインターネットへのアクセス拡大に至るまで、具体的な前進も見えています。しかし、それだけでは不十分です。

実際のところ、私たちは道を外れています。このまま行けば、2030年になっても5億人が依然として、極度の貧困状態で暮らしていることになります。

また、経済社会への参加に関するジェンダー格差の解消には、まだ250年以上もかかる計算になってしまいます。それを許すわけにはいきません。

このような理由から、私たちは2030年までにSDGsを達成するための「行動の10年」を立ち上げているところです。「行動の10年」は、公正なグローバリゼーションを達成し、経済成長を推進し、紛争を予防するうえで中心的な役割を果たします。

Decade of Action Campaign/ UN
Decade of Action Campaign/ UN

私たちは改革された国連開発システムを活用し、ローカルからグローバルなレベルに至るまで、パートナーへの働きかけを行っていきます。

SDGsの達成に向けたムーブメントの結集を図るために。資金を動員するために。そして、どこの誰にとっても利益をもたらせるような野心、イノベーション、解決策を作り出すために。

私たちは「行動の10年」を通じ、貧困の根絶、社会保障、健康と流行病対策、教育、エネルギー、水と衛生、持続可能な輸送とインフラ、インターネットへのアクセスに投資していかなければなりません。

私たちはガバナンスを改善し、不正な資金の流れに対処し、腐敗を撲滅するとともに、効果的で常識的かつ公正な税制を制定しなければなりません。私たちは未来のための経済を構築し、若者をはじめとするすべての人にディーセント・ワークを確保せねばなりません。そして、私たち全員の利益として、女性と女児を特に重視しなければなりません。

北京行動綱領採択25周年にあたる今年は、ジェンダー平等という観点から経済、政治、社会制度を考え直す機会となります。政策決定への女性の平等な参加を推進し、女性と女児に対するあらゆる形態の暴力に終止符を打つ時が来ています。

私たちは無給の育児・介護を含め、女性の経済への包摂と参加を阻む障壁を取り除かねばなりません。そして、全世界で解決策を推し進めてきた数多くの女性の声に耳を傾け、学ばなければなりません。

私はこれから「行動の10年」を推進するプラットフォームを年1回のペースで実施する予定です。

9月の第1回SDG行動フォーラムでは、進捗状況を明らかにしたうえで、成功に至る軌道を定めます。

ですから、2020年代を「行動の10年」にすると同時に、2020年を緊急行動の1年としようではありませんか。

そして、その中で信頼の回復にも全力を尽くそうではありませんか。すべての加盟国に特にお願いしたいことがあります。人々の声に耳を傾けてください。すべての人が発言し、合意点を見出せる新たな道を開いてください。平和的な集会と表現の自由を尊重してください。シビック・スペースと報道の自由を守ってください。

そして、変革と建設的な解決を要求する若者、特に若い女性のアイディアとエネルギー、期待感を取り入れていこうではありませんか。

第4に、デジタル化の負の側面に取り組むためには、テクノロジーをプラスの変革に活用しなければなりません。グローバル労働市場を筆頭に、行動できる領域はいくつかあります。

Photo: People's Climate March 2017 in Washington DC. CC BY-SA 4.0
Photo: People’s Climate March 2017 in Washington DC. CC BY-SA 4.0

自動化が、2030年までに数千万人の雇用に取って代わるものと見られます。

私たちは教育制度を策定し直す必要があります。大切なのは単に学ぶことではなく、生涯を通じた学習の仕方を学ぶことです。

私たちには、社会的セーフティーネットに対する革新的なアプローチと、労働という概念、そして仕事と余暇、その他の活動の生涯にわたるバランスの再考が必要です。

また、サイバー空間という荒野に秩序を取り入れなければなりません。

テロリストや白人至上主義者をはじめ、憎悪の種をまく人々は、インターネットやソーシャルメディアを悪用しています。

ボットはデマを広めて分断を煽り、民主主義を根底から損なっています。来年、サイバー犯罪の被害額は6兆ドルに達すると見られています。

サイバー空間自体が二つに分かれるリスクを抱えています。私たちはグローバルなデジタル協力を促進することにより、デジタル世界の分断を防がなければなりません。

国連は各国政府、企業、市民社会などが一堂に会し、新たな協定や規範を策定し、越えてはならない一線を定め、機敏かつ柔軟な規制枠組みを構築するうえで、ぴったりの話し合いの場です。

法的拘束力を伴う措置を要する対策もあり得ます。一方、自主的協力やベストプラクティスの交換に基づく措置もあるでしょう。

その中には、安全の文脈における情報通信に関する開放型ワーキンググループや、サイバー空間と総会における責任ある行動推進に関する政府専門家グループのような既存のプロセスや制度に対する支援も含まれます。

実効的なデジタル政策について議論、提案するための中心的な集いの場として、インターネット・ガバナンス・フォーラムの強化を図ることについては、コンセンサスができ上がっているものと確信しています。

私は「デジタル協力に関するハイレベル・パネル報告書」に基づき、デジタル相互依存時代のインターネット接続、人権、信頼と安全を取り扱う「デジタル協力のためのロードマップ」を程なく提示する予定です。同時に、私たちには人工知能(AI)を世の中のためになる力とするための共通の取り組みも必要です。

昨年は「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」で重要な一歩が踏み出されたものの、私たちは依然として、人間の判断や統制に服さない殺人機械の世界へ迷い込もうとしています。すべての加盟国に単純かつ直接的なお願いがあります。今すぐに自律型致死兵器システム(LAWS)を禁止してください。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca
Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

以上、4つの大きな脅威と、この1年に見通せる4つの大きな解決策についてお話ししました。

この作業全体を通じ、すべての人権の推進と擁護を中心的な要素としなければなりません。私は世界各地で、人権の尊重が様々な形で損なわれていることを深く憂慮しています。私も繰り返し強調してきたとおり、国連憲章は人々とその権利を私たちの活動の中心に据えるよう義務づけています。こうした理由から、私は来月ジュネーブで、人権と人間の尊厳に対するグローバルな行動の強化を求めるつもりです。

これらの課題にすべて対処するためには、国連を引き続き、新時代の課題に見合う存在としていかなければなりません。

私が就任当初から、皆様の支援を受けながら、柔軟性、透明性、説明責任に根差す広範な国連改革を進めてきた理由も、ここにあります。

2020年も、私たちはさらに前進を積み重ねます。事実、私たちは既に、大きな成果とともに新年を迎えました。元旦、私たちは国連史上初めて、常勤の事務次長と事務次長補という最高幹部レベルで男女同数を達成したからです。期限よりも2年早く、目標を達成したことになります。

今後も改革の手を緩めず、組織のあらゆるレベルで包摂性とジェンダー平等の向上を確保していきます。改革を阻む時代遅れの規則や複雑な手続きを廃止するため、皆様の支援をお願いします。

私はまた、国連職員の地理的配分をより公平にし、地理的多様性を高めるという意味で、2020年を有意義な前進の年とすることも約束したいと思います。

私たちはそのための事務局全体にわたる戦略を立ち上げました。しかし、ご存じのとおり、ジェンダー平等と多様性の目標の達成は、空席を埋める能力にかかっており、これは資金に大きく左右されます。

私は、セクシャルハラスメントを予防し、これに終止符を打つための取り組みもさらに進めていきます。内部監査室(OIOS)には専門の調査チームが設けられ、すでに活動を始めています。

国連ファミリー全体の各種枠組みにはそれぞれ、新たなセクハラ対策が盛り込まれています。セクハラ常習者が国連システムにこっそり戻ってくることがないよう、システム全体的な集中型スクリーニング・データベースも設けられました。

私たちの性的搾取・虐待対策戦略も、被害者に対する援助や支援の拡充などを通じ、前進しつつあります。

最も幅広い意味で、私は国連を、すべての職員が尊重され、全員に発言権があり、全員がベストを尽くせるようにするという点で、最高の職場にする決意でいます。

私たちは、新たな障害者包摂戦略でも前進を遂げています。そして私は、国連システムと平和維持活動において、性的少数者(LGBTI)職員の平等と差別禁止を確保する決意を固めています。

今年は私たちに共通の未来にとって、極めて重要な年となるでしょう。私は全世界の人々に参画していただきたいと願っています。政府や国際機関は、話をする場所で、話を聞く場所ではないと見られることがあまりにも多くなっています。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

国連には、話を聞く場になってもらいたいと思います。創設75周年を迎え、私はできるだけ多くの人々に、国連と話し合うチャンスを用意したいと考えています。

その希望と不安を聞くために。その経験から学ぶために。私たちが望む未来と、私たちが必要とする国連を構築するためのアイディアを引き出すために。

私たちはそのために、全世界で調査と対話を立ち上げています。そして、特に若者の声を優先して聞いています。私たちは一緒に耳を傾ける必要があります。そして、私たちは一緒に行動する必要があります。

創設75周年を節目に、すべての人に平和な未来を確保するための私たちのアジェンダ全体で、困難ではあるが極めて重要な決定を下そうではありませんか。(原文へ

INPS Japan

以下は2020年1月22日に開催された国連総会におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長の演説からの抜粋。

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|スリランカ|核不拡散・軍縮への取り組みを強化

【ジュネーブ/コロンボIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

ドイツ政府は、スリランカの「軍縮・開発フォーラム」(FDD)に対して、核不拡散条約(NPT)包括的核実験禁止条約(CTBT)の文言を現地の公用語であるシンハラ語、タミル語に翻訳するための資金を提供するという珍しい支援を行った。NPTとCTBTの文言はこれまで、国連の公式言語であるアラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語でしか利用できなかった。

現地語によるNPTやCTBTに関する書籍(①NPTとスリランカ、②スリランカはなぜCTBTに批准すべきか、③スリランカはなぜ核実験禁止条約に加盟すべきか)の出版は、スリランカが、核不拡散・軍縮への支持とコミットメントを明確に示し、CTBTや核兵器禁止条約(TPNW)に速やかに批准し加入することの重要性を示している。

かつてスリランカは、とりわけジャヤンタ・ダナパラ大使が歴史的なNPT再検討・延長会議の議長を務めた1995年に、核軍縮分野で主導的な役割を果たした。

Jayantha Dhanapala
Jayantha Dhanapala

スリランカはNPTを1968年7月1日に署名し、1979年3月5日に批准している。CTBTについては、1996年10月24日に署名はしているが、まだ批准していない。スリランカはまた、2017年9月20日に署名開放された核兵器禁止条約にまだ加盟していない。

1970年に発効したNPTは、核兵器と核技術の拡散を予防し、原子力の平和利用における協力を促進し、核軍縮及び一般的かつ完全な軍縮という目標に向かって前進することをめざす画期的な国際条約である。

国連総会が1996年に採択したCTBTは、誰であっても、あらゆる空間(地上、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含む)における核爆発を禁じている。184カ国が参加したこの条約は、ほぼ普遍的な地位を得ている。しかし、核技術を持った特定44カ国の署名・批准が条約発効の条件となっている。その中で依然として8カ国(中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国)が参加していない。なかでもインド・北朝鮮・パキスタンは署名すらしていない。

核兵器禁止条約には、あらゆる核兵器関連活動に加わることを包括的に禁止する条項があり、核兵器の開発・実験・製造・取得・保有・備蓄・使用及び使用の威嚇を禁じている。

条約はまた、国の領域に核兵器を配備することを禁じ、禁止事項に関して他のいかなる国を支援することも禁じている。加盟国には、その管轄下にある個人による、あるいは領土においてなされる、同条約に関する禁止事項を予防し取り締まる義務がある。

1月中旬に翻訳書籍の発表を行ったドイツのヨルン・ローデ駐スリランカ大使は、日本駐在中に広島を訪問した思い出を振り返った。広島は1945年、長崎とともに、史上初の原爆攻撃の被害を受けた都市である。ローデ大使は、「ドイツは核軍縮と核不拡散に取り組んでいます。」と語った。

しかし専門家らは、「ドイツは第二次世界大戦後、NPTの規定もあり核兵器の製造を控えてきたが、核兵器を製造する能力を持つ大国の一つである。」と指摘している。またドイツは、北大西洋条約機構(NATO)の核共有(ニュークリア・シェアリング)政策を受入れており、米国の核兵器を使用するための訓練に参加している。

加えてドイツは、他の工業先進国と同じく、核兵器や化学兵器などの大量破壊兵器(WMD)に使用可能な部品を製造している。英国やオランダ、インド、米国、ベルギー、スペイン、ブラジルの企業と並んで、ドイツ企業もまた、イラン・イラク戦争でイラクが化学兵器攻撃に使用した兵器の前駆物質(=原材料)をイラクに提供している。

ローデ大使は、「NPTとCTBTの文言が現地語に翻訳されたことで、学界やメディア、市民社会、一般の人々の間で、核兵器に依存した世界の持つ意味や、核兵器不拡散の必要性、さらには核実験禁止の必要性についての議論が広範になされ、理解が広がることを期待します。」と語った。

「軍縮・開発フォーラム」は、「スリランカがアジアで人道主義的な軍縮を推進するリーダーとなり、軍縮と開発のつながりを可視化する支援を行うこと」を目的としている。

極めて重要な安全保障

核軍縮や核不拡散をめぐる多国間の議論においてスリランカの存在が注目されることはめったにないが、ポーク海峡によってインドから隔てられているこの島国にとって、安全保障は極めて死活的な意味を持っている。スリランカとインドは、南アジアに戦略的な地位を占め、インド洋における共通の安全保障の傘を構築しようとしている。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

インド・パキスタン間の核兵器を巡る対立、さらには、米国や他のNATO諸国、中国、ロシアがインド洋に持つ利害関係は、核兵器を保有しないスリランカにとって死活的な重要性を持つ。

こうした背景のもとに、ニューヨークの国連本部で4月27日から5月22日にかけて5年ぶりに開催される2020NPT再検討会議は、スリランカにとって特に重要なものだ。前回の2015NPT再検討会議は、全会一致の実質的な成果を生み出すことなく終わっている。

国連欧州本部のA・L・A・アジズスリランカ軍縮大使は、NPTは「国際の平和と安全を構築するうえで、公平で非差別的な取り組みを確保する世界的な核不拡散・軍縮体制であり、原子力の平和利用を促進する技術への平等なアクセスを通じて、すべての加盟国に経済発展の見通しを確保するものです。」と指摘した。

「従ってスリランカは、NPTを、五大国(米国・ロシア・中国・英国・フランス)を含む最大数の国連加盟国が加入した法的枠組みとしてその普遍化を実現するためのあらゆる取り組みを支援します。」とアジズ大使は語った。

アジズ大使はさらに、「スリランカは、条約の条項を意味ある形で履行するために、国際原子力機関(IAEA)によるフルスコープ保障措置の適用要求を支持しています。NPT第6条の履行が遅々として進展していないのは憂慮すべき傾向ですが、軍縮に向けたこの現実的な道筋から離れてしまえば、中長期的には、軍拡競争の再来を引き起こし、人類に重大な影響がもたらされることになりかねません。」と語った。

Christopher Gregory Weeramantry, born 17 November 1926 in Colombo, Sri Lanka/ By Henning Blatt – Own work, CC BY-SA 3.0

NPT第6条には、各締約国は「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と規定されている。

この目的がまだ達成されていないことには広範な合意がある。他方で、政治評論家が言うように、持続可能な開発への資金調達が緊急に求められる中、核軍拡競争が国際の平和と安全を脅かし始めている。

2019年初頭の時点で、推定1万3890発の核兵器が存在する。

1996年当時、核兵器の使用と威嚇の適法性に関して、スリランカのクリストファー・ウィーラマントリー国際司法裁判所(ICJ)判事は、ICJの勧告的意見に対する有名な反対意見において、「核兵器の使用と威嚇は、国際人道法に違反し、いかなる状況においても違法である」と強調した。(原文へ

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平和実現と紛争解決に乗り出すアフリカ連合

【ニューヨークIDN=ジポラ・ムサウ】

紛争のないアフリカを実現することは全てのアフリカ人の夢だ。この記事では、現在の紛争地域、紛争の根本原因、そしてアフリカ連合の取組み(Silencing the Guns)を分析している。オックスファムの調査によると、アフリカでは武力紛争により、毎年少なくとも50万人が死亡、数百万人が家を追われたり虐待を受けている。紛争を激化している主要因に小型武器の拡散があるが、その大半は政府ルートの武器輸入、犯罪組織による密輸(とりわけリビアのカダフィ政権崩壊後に大量の武器が流出し、テロ組織の手に渡った)だ。(原文へFBポスト

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世界が直面している緊急の保健課題

【ジュネーブIDN=ショーン・ブキャナン】

2020年初頭に世界保健機関(WHO)が発表した世界で緊急を要する課題リストは、保健関連の中核的な優先事項やシステムに対して指導者らが十分な投資をしてこなかったことへの深い懸念を示したものだ。ジュネーブに本拠を置くWHOは、このことで、人々の生命や生活、経済が危機に晒されていると指摘している。

国内総生産(GDP)の1%をプライマリー・ヘルスケアに投じ、より多くの人々が良質な基本サービスを利用できるようにすべきだと勧告するWHOは、世界各地の人々に影響を及ぼす幅広い問題を網羅した向こう10年間の優先課題を指摘している。

たとえば、気候変動を巡る議論にこれまで以上に保健衛生の視点を入れること、紛争地域や危機的状況にある地域に医療を提供すること、医療環境を清潔に保つこと、医療サービスを公正にすること、医薬品へのアクセスを拡大すること、感染症の拡大を食い止め、世界的な流行(パンデミック)に備えること、危険な製品から人々を保護すること、などである。

WHOは、「気候変動危機は健康危機である」として、大気汚染によって毎年推定700万人が死亡する一方で、気候変動によって異常気象が多発し、栄養不良を悪化させ、マラリアなどの感染症の拡大に寄与していると指摘している。地球温暖化を引き起こすのと同じガスが、心臓発作や肺がん、慢性的な呼吸器系障害による死亡の4分の1以上の原因となっているという。

WHOは、官民両部門のリーダーに対して、互いに協力して大気を浄化し気候変動が健康に及ぼす影響を軽減するよう求めた。2019年には、50カ国以上・80超の都市がWHOの「空気質ガイドライン」を順守し、大気汚染や気候変動関連の政策をそれに合わせることを公約した。WHOは2020年には、大気汚染が健康に及ぼすリスクを各国政府が予防・軽減するための政策オプション策定に向けて取り組むことになっている。

紛争地域や危機的状況にある地域に医療を提供することに関しては、2019年は、紛争が長引く国々において最高レベルの感染症対策が必要とされた年であった。また、医療関係者や医療機関が狙われる憂慮すべき傾向も続いた。WHOは、11カ国で医療関係者に対する攻撃が978件あり、193人が死亡したとしている。同時に、紛争によって記録的な数の人々が居住地を追われ、数多くの人々が、時には何年も医療を利用できずにいる。

WHOは、保健医療の問題は考慮すべき事柄の一部にすぎないと認識しており、究極的に必要なのは、①長引く紛争を解決する政治的解決策を見出すこと、②最も脆弱な保健システムを無視することをやめること、そして、③医療関係者や施設を攻撃から守ること、としている。

他方、世界の医療施設の推定4分の1が、保健システムが機能するために必要な基本的な上水道や衛生施設を欠いている。これにより医療サービスの質が低下し、患者や医療関係者への感染リスクが高まっている。このことは、世界で数十億人が、いずれも疾病の主要原因となる清潔な飲み水や適切な衛生設備を欠くコミュニティーで暮らす状況下で起こっている。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

保健医療の公正を期すことに関して言えば、WHOは、根強い経済、社会格差の拡大が、人々の健康の質に大きな差をもたらしていると警告している。富裕国と貧困国との間には平均余命で18年の差があるだけではなく、同じ国や、同じ都市の中でも著しい格差がみられる。

同時に、ガンや慢性的な呼吸器障害、糖尿といった非感染症の世界的拡大が、低・中所得国に過大な負担をかけており、貧困層の資産を急速に奪う結果になっている。

WHOは、個人の健康上のニーズの大部分に対処するプライマリー・ヘルスケアを実践することが、不平等を解消する最善の方法の一つであるとして、すべての国々に対して、さらにGDPの1%をプライマリー・ヘルスケアに充て、人々が自宅近くでニーズに応じた基本的なサービスを利用可能にするよう提唱している。

これは、医薬品へのアクセスを拡大するニーズとも結びついている。世界の人口の約3分の1が医薬品やワクチン、診断ツール、その他の基本的な医療品を利用できないでいる。良質な医療品を利用しづらい環境では、患者が危機に陥ったり、薬物耐性が促進されたりするなど、健康や生命が脅かされる。医薬品やその他の医療製品は、ほとんどの保健システムにおいて、医療従事者の人件費に次ぐ第2の支出項目となっている。低・中所得国では、個人の医療費が支出の中で最も大きな部分を占めている。

WHOは、2020年には、世界規模での医療アクセス拡大に向けた重点課題を設けるという。たとえば、基準以下や偽造された医療品の取り締まり、低所得国がサプライチェーンを通じて質の高い医療品の確保を図るキャパシティビルディンクの強化、糖尿病など非感染症の診断・治療へのアクセス拡大などである。

WHO
WHO

感染症に関しては、HIVや結核、ウィルス性B型肝炎、マラリア、それに、顧みられない熱帯病や性感染症によって、2020年には400万人が死亡すると推定されている。そのほとんどが貧困層である。他方、ワクチンによって予防可能な麻疹のような疾病で2019年には14万人が亡くなった。そのほとんどが子どもである。ポリオはほぼ絶滅状態にあるが、それでも昨年には156件が報告されており、2014年以来最大となっている。

その根本原因は、国からの支援不足と相まって、感染が広がる国々における予算不足と保健システムの脆弱さにある。

感染症の拡大や自然災害、その他の健康上の緊急事態などへの事後的な対応に毎年かけている額は、その予防にかける額よりもはるかに多い。

WHOによると、インフルエンザのような、新型で、感染力が高く空気感染するタイプで、ほとんどの人々に免疫がないようなパンデミックが発生することは不可避であるという。それは、新たな感染症が発生するかどうかの問題ではなく、それがいつ起きるか、起きた場合はどのぐらい急速に広まるか、という問題なのだ。それによって数百万の人々の命が危険に晒されるかもしれない。虫を通じて媒介されるデング熱やマラリア、ジカ熱、チクングニア熱、黄熱のような病気は、気候変動によって増えた蚊が新しい地域に移動することで拡大する。

しかし、人々の健康に世界的影響を及ぼすのは、そうした病気だけではない。食料不足、危険な食料、不健康な食事もまた、今日の世界における疾病原因の3分の1を占めている。

飢餓と不安定な食料供給が数多くの人々を苦しめている。食料不足は戦争の手段としても利用されてきた。同時に、砂糖や飽和脂肪酸トランス脂肪酸、塩を含む飲食物を消費することで、体重が増えすぎ、食料に関連した病気も世界中で増えている。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「健康問題が開発に及ぼす影響は広範囲にわたるため、保健衛生を守るのは所管大臣だけの問題ではありません。」「より健康な世界を実現するための近道などなく……私たちは、世界の指導者たちに約束を果たさせねばなりません。」と述べ、保健衛生システムの不備に対処し、最も脆弱な国々を支援するための資金拠出を増やすよう呼びかけた。

テドロス事務局長は、各国の保健衛生に対する関心を平和・安全保障に対するものと比較して、「多くの国々はテロ対策には積極的に多額の予算をかけるが、感染症の方がより致命的で経済への打撃が大きいにもかかわらず、ウィルスの拡大阻止にはあまり予算を割り当てようとしません。」と指摘した。(原文へ

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著名なロシアの大学が創立60周年を迎える

【モスクワIDN=ソマール・ウィジャヤダサ】

戦後独立したアジア・アフリカ・ラテンアメリカ等の若者を受入れ、国連や各界の指導者を輩出してきた「ロシア諸民族友好大学(今月創立60周年)」について、「ミニ国連」とも称されるそのユニークな歴史と功績を分析した、ソマール・ウィジャヤダサINPSコラムニストの分析。国連諸機関(IAEA,UNESCO,FAO,UNAIDS等)の職務を歴任してきたウィジャヤダサ氏は2010年にユネスコ金メダルを授与された母校について、教育が子供に授けることができる最大の贈り物だとするならば、「同大学は150万人の(多くが)途上国出身の有望な若者たちに、掛け替えのない機会を提供した希望の灯であった。」と振り返った。(原文へ) FBポスト

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【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ】

アブドゥルさん(仮名)の店は、ダルエスサラームの活気に満ちたシンザ地区にある。彼は自分の店でプラスチックの椅子に腰掛け、液体と棒でできている小さな検査キットを心配そうに見つめていた。

「HIVに罹っているかどうか知りたいんだ。」と、アブドゥルさんは時計に目をやりながら語った。

この28歳の小売店主は、ほんの少し前に、プラスチックの綿棒を上の歯茎に滑らせて液体を付け、検査キットに差し込んだばかりだった。

数分後、1本か2本の線が現れて、検査結果を教えてくれることになる。

幅広い消費財を商っているアブドゥルさんは、HIV感染の有無を把握する人々の数を増やすことを目指している政府政策の一環として、無料のHIV自己検査キットを与えられた一人である。

保健省によると、12月に2万9000人に自己検査キットが配布され、1万7000人が実際に使用したとみられるという。

口腔粘膜からのサンプル、あるいは指先から採取した血液を使用するこの自己検査キットは、個人が慎重にHIV感染の有無を検査できる最良の方法である。20分もすれば、検査結果がわかる。

HIV/AIDS感染者に対するスティグマ(烙印)を抑制できるかもしれない「命を救う新技術」をタンザニア政府が採用しつつあるという積極的な兆候があるなか、HIV/AIDSとの闘いを一歩前進させる動きとして楽観的に捉える市民が出てきている。

「HIV検査を受けることを恥だとは思いません。だから自分でやることにしました。」とアブドゥルさんは語った。

タンザニアのジョン・マグフリ大統領は昨年12月、HIV/AIDSに関する新法に署名し、親の同意なしにHIV検査をできる年齢を15歳に引き下げた。

同国のウミー・ムワリム保健相は、「HIV/AIDS自己検査によって、人々は自分の感染状況について知ることができ、必要ならば命を救う治療とケアを受けることができます。この動きは、エイズ拡大を2020年までに食い止める『90-90-90目標』達成へのペースを速めることになるだろう。」と語った。

「90-90-90目標」は、エイズ拡大を終わらせるために国連が設定した野心的な治療目標である。2020年までに、世界中のHIV感染者(自分の感染を知らない未診断者+既診断者)の90%が検査を受けて自らの感染を自覚し、そのうちの90%が抗レトロウィルス治療を受け、さらにそのうちの90%が治療の効果で血中のウィルス量を抑制する、というものである。

アフリカにおけるHIV/AIDS対策は進みつつあるが、多くの人々は、検査後の結果で悪い評判が立つことを気にして、検査に乗り気ではない。

90–90–90: Treatment for all/ UNAIDS
90–90–90: Treatment for all/ UNAIDS

自己検査は、HIVに感染しているがその事実を知らない人々に手を差し伸べ、エイズ感染の拡大を食い止めるという世界目標を達成するための革新的な方法だと考えられている。

HIV/AIDS対応に関する持続可能な開発目標(SDGs)の根本原則は「誰も置き去りにしない」というものだ。国連は、エイズ対応に特に関連のある10の目標達成に向けて活動している。

「自己検査の取り組みは、自身がHIVに感染しているかどうか知る人々を増やすことで、HIV/AIDSの蔓延を反転させる可能性を持っています。」と、ムワリム大臣は語った。

2018年時点で、タンザニアには約160万人のHIV感染者がいる。これは感染率4.6%に相当する。国連合同エイズ計画(UNAIDS)の統計によると、2018年にあらたに7万2000人がHIVに感染し、2万4000人がエイズ関連の疾病で死亡したとみられる。

Map of Tanzania
Map of Tanzania

こうした数字にも関わらず、タンザニアはこの10年で、抗レトロウィルス治療の普及を図ることで、エイズ感染抑制に効果をあげてきた。

ムヒンビリ国立病院の公衆衛生の専門家デウス・キタポンジャ氏は、「HIV自己検査は、治療の必要性を発見し実際に開始するうえで重要な出発点となります。調査によると、低所得層の多くが、自身のHIV感染状況について知らないという結果が出ています。自己検査キットによって、治療を加速し、感染を抑えられる可能性があるのです。」と語った。

アフリカはHIV/AIDSに関して世界の中でも重い負担を負っている。2017年の東部・南部アフリカ地域における新規HIV感染者は80万人で、2010年当時と比べると30%減っている。この地域に暮らすHIV感染者の総数(2017年)は、推定1960万人で、そのうち110万人が未成年とみられている。

タンザニアでHIV検査を阻む障害の一つが、個人情報保護への懸念だ。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

「自ら望んでHIV検査施設に行く人はほとんどいません。」とキタポンジャ氏は語った。

一方、HIV自己検査の利用に関する最近のデータは、感染状況について知る単純かつ慎重な方法が利用できることで、検査を受ける人数を大幅に増やせる可能性を示唆している。

HIV検査に関する世界保健機構(WHO)のガイドラインによると、HIV検査に関する消極的な態度を改めさせるために、自己検査の役割に関する証拠を収集・整理してパイロット事業を行うよう、各国に要請されている。

しかし、公衆保健の専門家であるアリ・ムジゲ氏によれば、この方法だけでHIVに関する完全な診断は下せない、という。

「自己検査で陽性反応が出たら、その人はHIVに感染していると言えるかもしれませんが、診断を確定し、その患者が治療とケアを受ける必要があると判断するにはさらなる検査が必要です。」とムジゲ氏は語った。(原文へPDF

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【ジュネーブIDN= ムクヒサ ・キトゥイ 】

ムクヒサ ・キトゥイ国際連合貿易開発会議(UNCTAD)事務局長による視点。世界から飢餓を削減し食の安全保障を確保するうえで、貿易が果たす役割を一層重視すべきと訴えている。昨年、世界人口の1割にあたる8億2000万人が飢餓状態に陥り、約20億人が食料不足を経験した。(原文へFBポスト

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アジアの「性産業」における搾取の構図

【HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

アジア各国の社会は、売春業に携わる者を伝統的な社会秩序を乱すものとして差別し、エイズ対策においても、売春業従事者の人権の保護というよりも、むしろ善良なる一般人口を売春業従事者によるHIV/AIDS感染の脅威から如何に守るかという視点の方が支配的である。

これは、青少年達を売春業に追いやる社会的・文化的プッシュ要因や青少年を「性的商品」として搾取し続ける「性産業」そのものを支えている社会の「買春需要」に対して十分な認識がなされていないためと考えられる。

今後、効果的なエイズ対策を志向するには、売春業従事者への取締り・管理といった表面的な対策にとどまらず、旺盛な買春需要を背景に青少年達を売春業従事者をして「消費」しながら成長を続ける「性産業」の搾取の構図を把握していく必要がある。


売春業の分類

アジアの青少年達は各地の社会・文化的土壌における様々なプッシュ要因とプル要因を背景に、売春業へ引き込まれている、その入り方としては主に次の3通りに分類できる。

1.個人の自由な選択、或いは性解放の権利を行使する形で売買春を選ぶケース

人口の大半を占める貧困層においてこのようなケースはかなり稀である。一方、近年の経済成長を背景に出現した中流階級の子女の中には、インドネシアにおけるペレック(Perek)などのように、伝統的規範と決別しマスメディアの書き立てる物質主義的な風潮に追随して一種のファッション感覚で売春行為を行う者もいる。 

また、日本に始まった「援助交際」(注1)という一種の売春形態も近隣の台湾・韓国に広がりをみせている。これらの売春形態は概ね個人的な活動であり強制や暴力にもとづくものではないが(注2)、「性産業」からすれば格好の「労働人口予備軍」である。

なお、彼女達はエイズを含む性感染症のハイリスクグループであるが、普段は一般社会に溶け込んでいるため、感染予防・抑制対策は極めて難しい。また、犯罪に巻き込まれる危険性も高い。

2.経済的困窮や両親・家族を扶養する道徳的義務感・圧力等から他に職業の選択の余地無く売春を選ぶケース

これが最も一般的なケースである。ただし、売春業に引き込まれてからの労働条件・待遇は、営業所・オーナーごとに千差万別である。多くの国において非合法とされる売春行為に携わる彼女達には労働者としての権利が法的に保証されないことを背景に、雇用者側による搾取に晒されるケースが多い。エイズをはじめとする性感染症に感染するリスクは極めて高く、その度合いは、客数のノルマやコンドームの使用を顧客に対して求められるか否か等、彼女達の自由度が制限されるほど(=搾取の度合いが大きいほど)高くなる。一方、売春宿や「性的サービス」を提供する各種事業所(注3)に所属せず、個人で売春を営む者も少なくない。

3.誘拐、借金のかたとして、或いは騙されて「性産業」に売られ、暴力と監視の下で売春を強いられるケース

「性産業」における経済原理が最も前面に出た「現代の奴隷制」ともいえる最悪の搾取形態である。この場合、売春人の自由意志は全く認められず、オーナーとなる雇用主の下で使い捨ての「性的商品」として極限まで搾取される。その労働環境や労働条件は劣悪で、労働時間や顧客(あるいは顧客の性的趣向)を選択する権利は売春人には認められない。そのため、エイズをはじめとする性感染症に感染するリスクは極めて高い。また、強制に伴う拷問や虐待などで様々な健康障害に罹り死に至るケースや、状況に絶望して自殺を選択する犠牲者も少なくない。

近年「性産業」においては、エイズの流行を背景に性経験の少ない(=感染リスクがより低い)児童に対する「需要」が高まっており、18歳未満の児童が犯罪的手段で「性産業」に引き込まれている(注4)。その手段は、あからさまな誘拐から、仕事の紹介を装った勧誘、偽装結婚、偽りの養子縁組、そして、年季奉公を装って借金のかたとして子供達を連行していくもの等、多岐にわたっている(注5)。さらに、人身売買のネットワークには国際的な犯罪組織が密接に関与している場合が多く、子供達は国境を越えて、より所得レベルが高い国々へ「輸出」(或いはより所得が低い国から「輸入」)されている。

「性産業」における売春婦のライフサイクル

「性産業」に引き込まれた女性のライフサイクルは短く、多くが10代半ばで売春婦に仕立て上げられるが、HIV/AIDS感染を含む性感染症の感染リスクに悩まされながら加齢と経験に伴って急速に市場価値を失い(注6)、20代前半には後続の若い売春婦に対抗できず、売春産業の経営者から捨てられる。そして、社会の偏見に晒されながら他の選択の余地もなく、「性産業」周辺の様々な職種につきながら、私娼としてより感染リスクの高い売春行為を継続していくものが少なくない。ここでは、HIV/AIDS感染リスクとの相関関係を考察しながら、「性産業」における売春婦のライフサイクルを段階別に概観する。


1.Initiation:(「性産業」への導入:10代前半~中頃)

少女達が前項の様々な経緯から「性産業」に連れてこられて、最初に買春顧客をあてがわれることをInitiationと言い、この時点から少女達の売春婦としてのライフサイクルがはじまる。「性産業」に連れてこられる少女達の多くは10代前半から半ばの性経験の無い、あるいは少ない少女達である。彼女達「新入り」は、近年のHIV/AIDSの流行を背景に、性感染症と縁がない“Clean and disease-free”な売春婦として市場価値が高まっており、「性産業」に投入されて数ヶ月間は、若い未経験な少女を求めて買春顧客が殺到する。中でも処女は、性感染症感染リスクが皆無ということで高値で取引されている(注7)。

しかし現実には、感染リスクが少ないとの安心感から、買春顧客がコンドームの使用を拒否するケースが最も多いのも、この交渉知識も満足にない若年層の売春婦達である。皮肉なことに、売春婦にとってHIV/AIDS感染リスクが最も高いのがこの「性産業」への導入時期である。

「プノンペンのある高級ホテルでは、13歳から15歳程度の処女がホテルのスイートに宿泊中の顧客のもとに宅配されてきており、顧客は数日から1週間程度、性感染症への感染を気にすることなく買春をしている。その間、少女は暴力団の監視があるためホテルから逃げられない。このような処女の相場は$500で、Initiationを終えた少女達は、その後2ヶ月は1回の買春料金が$10、3ヶ月以降は$5からビール1杯相当へと急速に市場価値が落ちていく」(Sam, Hotel Manager)

2.Seasoning:(「性産業」による売春婦の抵抗意思の破壊:10代前半~中頃)

「性産業」に引き込まれる少女達の背景は様々で、中には売春婦をさせられることを知らされず売春宿に騙されて連れてこられた者や、「性産業」で働くことは漠然としたイメージとしては捉えていても、実際に顧客を取らされて始めてその実態を把握した者など、自分が新たに置かれた境遇・条件に対して抵抗を示すものも少なくない。この段階で「性産業」が用いるのがSeasoningというプロセスで、少女達の過去のアイデンティティーとそれに起因する抵抗意思を徹底的に破壊し、買春顧客へのサービスに徹する「性商品」へと仕立てるべく、様々な精神的・肉体的圧力を加える。

代表的な手法としては、1)監禁・強姦を繰り返し、「自分は元の生活には戻れない価値のない人間」と思い込ませる(注8)、2)本人の殺害や家族へ危害を加えることを仄めかす、3)逃亡や反抗した他の売春婦を拷問にかけてみせしめとする(注9)、4)麻薬中毒にして自己決定力を麻痺させる(注10)、などがある。また、「性産業」は、少女同士の団結・抵抗を回避するため、売春婦の一部を密告者に仕立てて監視・反目を煽ったり(注11)、他の売春宿への転売を頻繁に行う(注12)。

3.Acclimatization:(新たな環境への適応:10代前半~20代前半)

新たな環境から逃げ出せないことを悟った少女達は、生きていくために必死に環境への適応を試みるようになる。この時点で「性産業」側によるSeasoningプロセスは完成し、少女達は従順な「性商品」として経営者の言うままに買春顧客へのサービスを実施していく。売春宿に監禁されている売春婦達の労働環境は施設によって様々だが、一般に過酷で、ほとんど休みを与えられず、休日には通常より多くの客をとらされるところも少なくない(注13)。

また、売春婦の妊娠は経営者にとっては営業に大きく差し支えるため、ピルをはじめ様々な薬を投与して妊娠しないように管理をする。それでも妊娠した場合は、強制的に堕胎手術を受けさせ出来るだけ早期に売春婦を職場に復帰させる(注14)。また、HIV/AIDSをはじめ性感染症に感染して病気の売春婦と出すことは店のイメージダウンに繋がるため、性病検査を定期的に実施して(注15)、HIV/AIDS感染の陽性者や病気が進行して明らかに買春顧客を獲得できそうに無い売春婦は即座に追放される。

このような過酷な環境に必死で適応し、借金の返済に努力しても、売春婦が性商品としての利用価値がある間は、「性産業」は様々な仕掛けを凝らして売春婦が自由の身になることを妨害する(注16)。こうしてほとんどの売春婦は、「性産業」側が売春婦の年齢や健康状態などから商品価値が無くなったと判断するまで、徹底的に搾取される傾向にある。

このような環境では、コンドーム使用に伴う摩擦からくる痛みと、コンドーム使用に伴う性交時間の長さを嫌う売春婦も少なくない。カンボディアで取材した売春宿では、「10分経過するとオーナーがドアをノックし、15分以内に1人の客をこなせなければ後でひどく殴られる」と回答している。

4.Survival:(「性産業」ピラミッドを落ちてゆく中での葛藤:20代前半~)

「性産業」における苛酷な環境を生き抜き順応した結果、せっかく経験と知識を習得しても、今度は続々投入される後続の若くて新しい売春婦の追い上げを受けることになり、加齢と長年の不健康な環境による肉体的な衰えから、相対的に買春顧客の需要は下がっていく一方になる。売春宿は一般に、売春婦の若さと未経験さを売り物としているため、彼女達は20代の前半で、売春宿を放逐されるが、他の正業への就職が見込めないことから、さらに収入の少ない「性産業」周辺の各種職業に転職し、私娼として生計を繋ごうとするものが少なくない。

またこの傾向は、「性産業」ビラミッド全体に見られる傾向で、「高給ナイトクラブ」「マッサージパーラー」「カラオケバー」における売春婦も20代前半には相対的により悪条件の施設へと移籍を余儀なくされるものが少なくない(注17)。そして、買春市場における商品価値が低下し生活環境が悪化していく中で、競争相手となるより若い売春婦に対抗するため、HIV/AIDS感染リスクがより高いサービス(コンドームなしの性交渉、肛門性交等)を提供せざるを得ない状況に追い込まれていく傾向にある。

一方、売春婦の中には、稀に「性産業」の構造を習得し、経営側の信頼を獲得して郷里に後続の売春婦をリクルートに行くなど、搾取される立場から搾取する側の中間職に立場を代えて生き残り、30代に入っても「性産業」で活躍するケースもある。ただし、全体から見ると、このような選択肢を獲得できる売春婦はごく僅かである。

(現地取材班:INPS Japan浅霧勝浩、マルワーン・マカン・マルカール)

注1:メコン地域の観光地、リゾート地では女性が現地の少年を買春する形態もみられるようになった。そのような買春女性観光客においても日本人女性は主要な一角を占めており、タイ・カンボディアでは通称「イエローキャブ」と呼ばれている。

注2:援助交際の動機は、「家が困窮の果て自分が犠牲となって」という日本において60年代頃まで見られた家庭の事情によるものはほとんどないが、家庭内の不和、両親の離婚、性的虐待、学校でのいじめ、などから家出した少女達が生活をしていくために売春を行うケースも少なくない。「援助交際」は小遣い欲しさに少女達が気軽に売春を行っているというイメージがマスメディア等を通じて先行しがちであるが、家庭にも学校にも居場所を失った青少年達が、自分の価値と癒しを求めて、様々な犯罪に巻き込まれていっているという社会の閉塞的な現状にこそ着目すべきである。


注3:ナイトクラブ、ビアガーデン、エスコートサービス、レストラン、マッサージパーラー、理容室等、国・地域によって様々であるが、当局の取締りに対応して間接的な売春システムへと潜在化してきているのが近年の傾向である。

注4:就労のための法的資格が与えられていない子供たちは医療や社会福祉サービスを受けることができない。また、親が借金するために子供を売った場合、子供たちには移動にかかる費用などさまざまな手数料を含め多額の借金が課され、それを返済するため雇用主に酷使される。借金に付け加え、法的支援や滞在資格のない子供たちにとって、助けを求めることは極めて困難といえる。

注5:人身売買にはブローカーや警察当局、移動や雇用の調整役、さらには親類・友人が関与しているケースも多い。(ILO 2001)。

注6:通常の職業では、経験と知識に応じて業界における地位と生活待遇が向上し、キャリアの階段を登っていくものであるが、「性産業」の世界では「性商品」としての若さと未経験さが顧客の需要を左右するため、売春婦達は、労働力として市場に投入された時点から、キャリアの階段を降下していくよう運命付けられている。欧米諸国では、売春婦の経験はポジティブに捉えられる傾向もあるが、概してアジア文化圏では、性経験が乏しく男性の前で従順な女性像が評価される傾向にある。従って、性経験に長けた女性はかえって顧客に疎まれる傾向にある。

注7:タイ-ミャンマーの国境メーサイは処女の買春で有名なところで、1人当たり数百ドルの値段で取引されている。処女との性交については、アジア全域において様々な誤った風評が信奉されており、このように処女買春を目指してメコン地域の売春宿を訪れるものが後を絶たない。それらの風評の中には、「処女と性交することにより若い力を吸収し寿命を延ばすことができる」とか「処女と性交することによってエイズを治すことができる」などがある。

注8:アジアの伝統的価値観である、未婚女性の純潔を強調する「性の二重基準」を逆手に利用した手法で、女性自身、「強姦」を繰り返されることで、「性産業」側が仄めかす「自分にはもう結婚する価値がない」「汚れた女として故郷で差別される」等の偏見を信じ込んでしまい新しい状況を受け入れてしまう傾向にある。

注9:「売春宿のオーナーに接客を拒否して陰部に硫酸を撒かれて拷問をうけた娘、激しい拷問と殴打で惨い姿にされた娘、胸や乳首にタバコの火を押し付けられて接客を強要された娘……私は売春宿で不幸な娘達を見てきた」(Sunita、2歳の娘と共に売春宿に売られた人身売買の犠牲者)

注10:売春婦に対して麻薬やアルコールの習慣をつけさせる売春宿の経営者は少なくない。なぜなら、麻薬によって判断能力が麻痺した売春婦は、より多くの買春顧客をこなすことができるし、麻薬やアルコールにかかる費用を借金に上乗せしてさらに長期間売春婦を拘束する2重のメリットがある。また売春婦の方も、麻薬やアルコールで、悲しみや怒りなど自分の感情を麻痺させたり押し殺したりして、やりきれない状況を乗り切ろうとする。このような環境の中で、精神に異常をきたす売春婦も少なくない。

注11:売春婦は常に競争関係にあり、借金を返すために買春顧客を確保することは死活問題である。特に年長の売春婦は若い新顔と比べて不利な立場にある。経営者はこの心理を利用して比較的年長の売春婦を密偵にしたてあげ、売春婦間の反目を煽るよう仕向ける。

注12:買春顧客は、若くて新しい売春婦を求める傾向にあるため、売春宿間における売春婦のトレードは、売春婦を更に精神的に不安定で孤独な状況に追い込むと同時に、顧客に対して「新顔」としての新戦力を提供し続ける点で2重のメリットがある。同様の理由から、日本に送られてくるタイ人やフィリピン人売春婦達も全国のスナックを転々とさせられる傾向にある。

注13:365日24時間営業しているところ、生理中も注射を打って働かせているところ、ホルモン剤を投与して実年齢より大人に見せかけて子供に売春を強要しているところ等、安さと若さを看板に掲げている売春宿としては、性商品である少女達から極限まで収益を得ようとする。また、下級クラスの売春宿ほど、経営者にとっては買春客の回転率が重要となってくるため、売春婦には1人の顧客の性的欲求を短時間に処理して多くの数をこなすことが要求される。

注14:タイの事例の中には、妊娠5ヶ月で堕胎手術を受けさせられ、4日後には客を取らされていたものもあった。少女達は10代で妊娠・堕胎を繰り返し、様々な性感染症にも罹るため、生き残って売春宿を出ることが出来ても、不妊症になっているケースが少なくない。過酷な売春宿での環境は、少女達の心と体に一生に渡って深い傷を残す。

注15:HIV/AIDS検査をはじめ性病検査を実施するところは比較的買春料金のレベルの高いところで、レベルが落ちていくに従って実施される可能性は低くなる。

注16:カンボディアの事例の中には、売春宿の経営者が借金返済直前の売春婦を買い物に使いにやり、その途上暴漢に襲わせて重症を負わせ、その治療費を借金に上乗せして再び売春宿に縛ったケースがあった。また、日本でタイ人女性がスナックのママを殺害した「茂原事件」のように、経営者が恣意的に売春婦に罰金を科して、借金返済を不可能にしていたケースもある。

注17:例えば、高級ナイトクラブやマッサージパーラーでの活躍年齢は10代後半から20代前半、その後は、時給収入では圧倒的に低い伝統式マッサージ嬢(20代後半から30代前半)、ゴーゴーバーやディスコのフロア嬢(20代後半まで)、30代以降は「性産業」関連施設の掃除婦、雑事係など、職種は限られている。

INPS Japan浅霧勝浩

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ガーナ帰還年が奴隷制の全容に目を向ける契機となるか

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

ガーナのナナ・アクフォ=アド大統領が2019年を「ガーナ帰還年(Year of Return, Ghana 2019)」にすると発表した際、アフリカン・ディアスポラ(世界各地に離散したアフリカに起源を持つ人々)は、この宣言を歓喜をもって迎えた。

2019年は、英植民地であったバージニア州のポイント・コンフォートに1619年に到着して400周年にあたり、「ガーナ帰還年」では、コンサート、美術展、映画の封切り、クリエイティブ・エコノミー、トレードショー等様々な記念イベントが、年間を通じて開催された。

 「これまでのところ、アクフォ=アド大統領の呼びかけは大成功を収めています。」と、ガーナの作家でジャーナリストのクワベナ・アグヤレ・イェボア氏は『アフリカン・アーギュメント誌』の電子版で述べている。

Map of Ghana
Map of Ghana

2019年の1月から9月の間にガーナを訪問した米国人は前年比26%増で、史上最高を記録した。

また同時期に、ガーナを訪問した英国人(24%)、ドイツ人(22%)、南アフリカ人(10%)、リベリア人(14%)も軒並み前年比で増加している。報道によれば、ガーナは2019年全体で80万件のビザを発行した。また今週(2020年1月中旬)には、高い需要に対応するため、2月にガーナに入国する全ての国籍の来訪者に対して、到着時にビザを取得できる措置を発表した。

アグヤレ・イェボア氏は、「(ガーナ帰還年事業は)多くの意味で称賛に値する取り組みだったとは思います。しかし、もっとできなかっただろうか?米国を主な対象に大西洋奴隷貿易にのみに焦点を当てたことは、許容されるべき欠点だったということになるだろうか?あるいは、これによってガーナの奴隷史に関する極めて重要な側面や遺産が消し去られてしまったのではないだろうか?」と述べている。

「ここで欠落しているのは、1250年以上にわたって、ソコトボルヌから輸出された人々を含む推定6~7百万人におよぶアフリカ人が、北アフリカ、欧州、中東に奴隷として強制連行された『サハラ縦断交易』です。」と、アグヤレ・イェボア氏は主張している。

アグヤレ・イェボア氏は、「こうした奴隷制度という負の遺産は、今でもアフリカ北西部のモーリタニアで顕著にみることができます。同国は奴隷制を1981年に公式に廃止したものの、現地活動家らの推計では今でも人口の20%(すべてが少数民族の黒人)が奴隷状態に置かれているのです。」と指摘したうえで、「こうした境遇に置かれているアフリカ人の子孫に帰還を呼びかける声は、いったいどこにあるのか?(帰還年が焦点をあてた)アフリカ人(奴隷)の子孫は、アメリカ人やジャマイカ人、キューバ人、ブラジル人の他にもいるのではないか?」と問いかけている。

アグヤレ・イェボア氏は、「奴隷制の歴史に全面的に向き合うのではなく、選択した一部の地域(=アメリカ大陸)に暮らすアフリカ人奴隷の子孫のみに焦点をあてたのでは、信憑性を失なってしまいます。」と非難したうえで、「一年間にわたって展開されたこのキャンペーンは、本来ならば、アフリカ人とアフリカ人の子孫の全体的な歴史について正面から向き合う機会があったはずです。この点に関して、もっと取り組んでいかなければなりません。」と語った。(原文へ

Slave trade in medieval Africa/ Runehelmet derived from Aliesin - File:Traite_musulmane_medievale.svg, CC 表示-継承 3.0
Slave trade in medieval Africa/ Runehelmet derived from Aliesin – File:Traite_musulmane_medievale.svg, CC 表示-継承 3.0

INPS Japan

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