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|カメルーン|アムネスティ、情勢の悪化を指摘

【ニューヨークIDN/GIN=リサ・ヴィヴェス】

国際的な人権擁護団体アムネスティーインターナショナルは、37頁に及ぶ最新レポートの中で、西アフリカのカメルーンで反体制色が強い2州(英語圏の北西州と南西州。分離独立派は2017年10月1日に同地域をアンバゾニアの国名で独立宣言を行っている:INPS)において、対立する英語系とフランス語系カメルーン人の間で、権力闘争に関連した「不法な殺害、個人財産の破壊、恣意的な逮捕や拷問が横行している。」と報告している。

アムネスティ・レポート「事態は悪化の方向へ:カメルーン英語圏における暴力と人権侵害」には、悲惨な暴行の被害に遭った住民の証言や、武装した英語系分離独立派による学校や教師を標的にした襲撃、さらには、政府軍当局が模擬電気処刑や拷問を行った疑惑が記録されている。

Map of Cemeroon
Map of Cemeroon

「この危機は解決からは程遠く、政府当局と治安部隊が(英語系住民による)いかなる異議も取締りの対象とし、苛烈な弾圧を加えてきた結果、かえって分離独立と武装闘争に重点を置く、より急進的で暴力的な組織が動きを活発化してきているようだ。」と報告書は述べている。

カメルーンの政情不安については、2016年11月に英語圏2州の教師と弁護士らが、中央政府に対して改革の実施と自治権の拡大を求めて抗議活動を始めた際に、国際的な注目を浴びた。彼らは、カメルーンが英語とフランス語を公用語としているにもかかわらず、政府が高圧的にフランス語の影響力を英語圏2州(=英語系住民による呼称は「アンバゾニア」)にも拡大させようとしているとして、デモ行進を行った。

2018年5月、軍事裁判所は、拘留していた7名の英語系住民に対して、社会混乱を引き起こしたとして、10年から15年の禁固刑を言い渡した。その中には、ラジオ番組の司会者で、貧困層への環境整備を訴え棺桶を担いで抗議活動を行っていた、いわゆる「棺桶革命」のリーダー、マンチョ・ビビクシィー氏も含まれていた。

様々なニュースが、「分離派」や「英語系住民」に言及しているが、「分離派」とアンバゾニアの歴史的な関係を論じているものは少ない。アンバゾニアの語源はカメルーン南西部のアンバス湾で、1958年に英国人宣教師が解放奴隷のための入植地をこの地に建設した。その後この地域は英国の保護領とされたが、1887年にドイツに割譲された。しかし第一次世界大戦でドイツが海外領土を失うと、この地は再び英国による委任統治領(東隣の他のカメルーン地域はフランスの委任統治領)となった。現在の北西州と南西州は、1961年に英国から西カメルーンとして独立し、その後、東隣のカメルーン(1960年にフランスから独立)と統合した経緯がある。

アンバゾニア問題を扱っているニュースに米国を拠点とした「非暴力闘争の遂行」(Waging Nonviolence)がある。カメルーン南部の悪化する状況を報じた今月発行の記事によると:

「政府による弾圧が激化する中、アンバゾニアの人々の忍耐は、この数カ月で限界に達しつつある。英語系住民の大半は、非暴力による抵抗を支持しているが、過激な分離派の一部が武装し、ゲリラ戦術を用いてビヤ政権側の人物を誘拐したり殺害したりしている。」

ポール・ビヤ大統領は、これを口実にアンバゾニアの軍事占領を、テロとの戦いと称して正当化している。その結果、2017年下旬以来、焦土戦術が使われる頻度が高まっている。」(原文へ

INPS Japan

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プラスチック公害対策で効果を上げ始めたインドの草の根民衆

【バンガロールIDN=スジャ・ラマチャンドラン】

ラジェスワリ・シンさん(32)は、インド西部のヴァドーダラーを「世界地球デー」に出発し、「世界環境デー」にあたる6月5日にニューデリーに到着すること目指して約1100キロ歩く6週間の長期プロジェクトを開始した。「プラスチックを使うのをやめよう」というシンプルなメッセージを広め、飲み物や食べ物に使われているあらゆるプラスチック製容器をなくすことをめざすものだ。

実のところ、彼女自身はこの10年間まったくプラスチック製品を使用していない。しかも、彼女のこのメッセージは、「プラスチック公害をなくそう」という今年の「世界環境デー」のテーマを反映したものだ。プラスチック使用で世界で10本の指に入るインドが今年のグローバルイベントのホスト国だ。

"Rajeshwari Singh is on her way to Delhi. / by Rajeshwari Singh)
“Rajeshwari Singh is on her way to Delhi. / by Rajeshwari Singh)

インドは毎年約5.6トンのプラスチックごみを発生させており、首都ニューデリーだけでも一日9600トンが出る。最終的には海に漂着する世界のプラスチックごみの9割を出している10本の河川のうち、インダス川・ガンガ川・ブラマプトラ川の3本がインドを流れている。

プラスチック公害は世界的に深刻化している。プラスチックが1950年代に消費財産業を侵食して以来、山のようなプラスチックごみが埋立地や海に堆積してきた。

サイエンス・アドバンシーズ』の記事によると、これまでに生産された8300トンのプラスチックのうち、6300トンのプラスチックごみが生み出され、そのうちリサイクルされたのは9%、焼却されたのは12%である(2015年)。残りの79%は埋立地あるいは自然環境に堆積し、その多くが川に入り海に流れ込んでいる。プラスチック生産やそのゴミ管理の現状が変わらないならば、2050年までに、埋立地や自然環境に溢れるプラスチックごみは1万2000トンにもなるであろう。

海洋汚染が現在のペースで進むと、2050年には魚よりもプラスチックごみの量の方が多くなる、と国連環境計画(UNEP)は警告している。

プラスチック公害は重大な懸念材料だ。プラスチックには、人々の健康に影響を及ぼしかねない毒物が含まれている。生物分解性もない。

プラスチックは、海水や紫外線にさらされると、「マイクロプラスチック」に分解され、それが意図せずに海洋のさまざまな生き物に取り込まれることになる。中央海洋漁業研究所(チェンナイ)のV・クリパ主任研究員は「インドでは、イワシからマグロ、海鳥に至る全ての栄養段階において大小のプラスチックが確認されています。」と語った。

Microplastic fibers identified in the marine environment/ By M.Danny25 - Own work, CC BY-SA 4.0
Microplastic fibers identified in the marine environment/ By M.Danny25 – Own work, CC BY-SA 4.0

インドの街頭でゴミ溜めに捨てられている発泡スチロールカップや梱包材、ポリ袋のようなプラスチックごみも大問題だ。牛や犬が街中のゴミを拾って食べてしまうことも珍しくない。無意識にポリ袋を飲み込んでしまうのだ。2月には、インド東部のパトナで、6歳の牛の胃から80キロものポリ袋を獣医が取り出したという事件があった。このことからも、動物による誤飲がいかに大きな問題であるかがわかる。

インドはプラスチックごみの6割をリサイクルしており、これは世界のリサイクル率の平均22%を大きく上回る。「インド政府は、プラスチックを家庭用・産業用の燃料に転換する取り組みを進めています。『プラスチックから燃料へ』というビジネスモデルはまだ確立されていませんが、大規模なプラスチック転換工場が国中で建設されつつあります。」とインド環境・森林・気候変動省の職員はIDNの取材に対して語った。

くわえて、インドでは、プラスチックを道路舗装の材料に転換しつつある。リサイクルされたプラスチックで舗装された道路は全長10万キロに伸びた。

しかし、プラスチックのリサイクルのみでは、問題の部分的な解決にしかならない。プラスチック製品の使用を減らすか、シンさんが実践しているように、プラスチック製品を生活から駆逐するしかない。

インド政府が「2016年プラスチック廃棄物管理規則」で実行しようとしたのは、プラスチック製品の製造そのものを減らすことだった。この規則では、リサイクルできない多層プラスチックの生産を2018年3月までに段階的に廃止する予定だった。責任はプラスチック製造企業に課され、廃棄システムを管理するか、生み出された廃棄物を買い取ることになっていた。

しかし、産業界からの圧力で政府は後退を余儀なくされた。「2018年プラスチック廃棄物管理規則」は、プラスチックの製造・使用企業を利したものだ。2016年の規則ではリサイクル可能な多層プラスチックのみの使用を認めていたが、2018年の規則は「エネルギーを回復可能」で、「代替的使用」が可能な多層プラスチックを認めている。新規則は、プラスチック製造業者が「自社製品はリサイクルはできないがその他の使用ができる」と主張することで製造を継続できるようにしている。結果的に2018年規則は、16年規則の「完全禁止」を覆すことになった。

環境活動家は、インド33州・連邦直轄領の公害規制委員会がプラスチック使用の抑制に真剣に取り組んでいないと論じる。南部カルナタカ州では、州政府がプラスチックをアスファルトと混合して道路舗装に使用することを義務づけている。それでもなお、大量のプラスチックが埋立地に捨てられている。

国内のほとんどの州で、ビニール袋の使用規制のレベルはさまざまである。それでも、プラスチックごみが街角を埋め、インドの川を覆い尽くしている。ビニール袋の生産をやめ、安価な代替策を消費者に提供すべきだ。

固形ゴミの処理問題について「バンガロール・エコチーム」で活動するベンガルの活動家シーマ・シャルマさんは、「ビニール袋を禁じる規則そのものは『素晴らしいもの』だが、実行が伴っていないません。カルナタカ州公害規制委員会自身が、事務所でプラスチックを使っているのです。」と指摘した。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

インド当局は無関心かもしれないが、草の根レベルでは民衆がプラスチック公害問題に徐々に取り組み始めている。プラスチック公害により生活を脅かされているインドの漁民たちが、沿岸からプラスチックごみを取り除く活動に参加するようになっている。漁民らは、南部ケララ州政府が始めた「スチトヴァ・サガラム」(海をきれいに)プロジェクトの一環として、魚と一緒に網にかかったプラスチックごみを収集センターに持ち込み、のちにそれらはリサイクルされる。コッラム市近くの2つの漁村(シャクティクランガラ村とニーンダカラ村)で実施したプロジェクトが成功したことで、ケララ州政府は他の漁村にもプロジェクトを拡大している。

この2週間、インド各地の市民社会団体が、すでに埋立地や河川に堆積している大量のプラスチックに加えて、リサイクル不能で一回限りしか利用できない危険なプラスチック包装の製造・流通・拡散に寄与している企業の役割をチェックしようとしている。「焼却炉の代替策を求めるグローバル連合」(GAIA)のインド地区コーディネーターであるプラティバ・シャルマさんは、「プラスチックごみを『劇的に減らす』ための革新を呼びかけるためのデータを集めることがこの取り組みの目的です。」と語った。

インドでは、プラスチックの使用が人間の健康や環境に及ぼす危険な影響についての一般民衆の意識は高くない。「世界環境デー」に向けてプラスチック公害に関する意識喚起を目的としたシンさんのキャンペーンや、政府や無数の市民社会団体の取り組みが、この危機に立ち向かうインドやその他の国々の状況を変えていくことが望まれる。(原文へPDF

翻訳=INPS Japan

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尾崎行雄と立憲主義(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

【IDN東京=石田尊昭

日本国憲法施行から71年を迎える今年は、憲政の父・尾崎行雄の生誕160周年でもある。尾崎は1890年の第1回衆議院議員総選挙から第25回まで連続当選し、60年以上にわたり衆議院議員を務めた。1912年の憲政擁護運動では犬養毅と共に「憲政の神」と呼ばれた。

「憲政」とは立憲政治のことである。立憲政治は、「多数国民の生命・財産その他の権利・自由を保障」することを目的に、「立法部の多数を基礎とする政党内閣」が行う政治だと尾崎は言う(『政治読本』1925年)。

独裁者や一部の特権的勢力が独善的に振る舞う「人の支配」ではなく、国民が正当な選挙で選んだ代表者が、国民の人権を守るために、憲法に基づいて政治を行う「法の支配」。尾崎は、この立憲政治の確立に一生を捧げた政治家だ。

ここ数年、政治の場で立憲主義という言葉が頻繁に使われ、政党名に立憲という文字を入れたものまで現れた。そして現政権を「立憲主義違反」だと激しく非難している。

仮に「多数国民の生命・財産その他の権利・自由を奪う」ことを目的とした、あるいはそうなることが明らかな法律を、正当な選挙を経ず、独裁政権の下で国民を弾圧しながら成立させているのなら、明らかに立憲主義違反尾崎が活躍した明治から昭和初期は、検閲によって新聞や雑誌がたびたび発行禁止処分となり、また選挙公報も黒塗りとなった。新聞記者や民権運動家の中には激しい拷問を受け獄死するものもいた。若き頃の尾崎は保安条例によって東京から追放された。そして1942年の第21回衆議院議員総選挙(いわゆる翼賛選挙)では、尾崎を含む非推薦候補者は弾圧を受け、尾崎は演説直後に「不敬罪」で巣鴨拘置所に入れられた。立憲主義違反とは、まさにこういうものである。

尾崎は、制度としての憲法よりも、国民に立憲主義の精神を根付かせることのほうが重要だと考えた。明治憲法は欽定憲法であり、人権保障も「法律の範囲内」という条件付きのものだったが、それでも国民が立憲主義を理解し、その精神を身につけさえすれば、上手く運用して立憲政治が実現できると考えたのだ。

尾崎は、執筆や演説を通じて、特に有権者に向けて立憲主義を説き続けた。立憲政治の実現のためには、理念・政策で結びつき、国家国民のための政策論争ができる真の政党が必要だが、それを育み、選ぶのは、後にも先にも有権者だからだ。

国民に立憲主義が根付くことの重要性は昔も今も変わらない。だからこそ、立憲主義という言葉を、倒閣目的のスローガンやイメージ戦略で安易に使うべきではない。与党も野党も、そして我々有権者も、今一度、立憲主義の歴史と意義を冷静に見つめ直す必要があるのではないか。

Ozaki Yukio
Ozaki Yukio

INPS Japan

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Reporting From Global Media Forum 2018

INPS Southeast Asia Director Kalinga Seneviratne joined INPS-IDN DG and Chief Editor Ramesh Jaura at the Deutsche Welle Global Media Forum (GMF 2018) from June 11-13, 2018 in Bonn to report from this event and network with media and international organisations as well as partners such as Pressenza.

GMF 2018 focussed on: Global Inequalities. Inequalities are all around us — some all-too visible, and many obscure and insidious. From institutionalized racism to income inequality, the digital divide and unequal power relations – inequality is deeply ingrained and deeply confusing. Are media up to understanding the dimensions and effects of inequality? How can technology really be a galvanizer and equalizer? What is the potential of technology to provide equal access to knowledge and power? 

Here links to two reports we carried by IDN:
Experts Debate Digital Media’s Role in Tackling Global Inequalities
https://www.indepthnews.net/index.php/sustainability/reduced-inequalities/1929-experts-debate-digital-media-s-role-in-tackling-global-inequalities
Global Inequalities’ was the theme of this year’s Global Media Forum (GMF) hosted by the German public international broadcaster Deutsche Welle, and much discussion focused on whether the digital media tools are a panacea or a hindrance to achieving a more equitable world.

Karzai Blames U.S., Pakistan For Afghanistan Chaos
https://www.indepthnews.net/index.php/the-world/asia-pacific/1927-karzai-blames-u-s-pakistan-for-afghanistan-chaos
Former Afghanistan President Hamid Karzai has blamed the United States and Pakistan for the chaos created in his country over the past two decades. He firmly believes that the West, including Germany, should admit to their failures in his war-torn country. He followed up on this argument, initially advanced in a keynote address to the Global Media Forum on June 12, 2018, in a panel discussion and an interview with Forum host, the German public international broadcaster Deutsche Welle (DW).

ジェンダー平等、女性のエンパワーメントに取り組むアフリカ

【ヨハネスブルクIDN=ジェフリー・モヨ】

29歳のルラマイ・グワタさんにとっては、毎年3月8日の国際女性デーを祝うべき理由がなかった。彼女は、家庭内の争いごとを巡って夫から激しい暴力を受け、病院で傷を癒していたからだ。

2カ月後、世界が「母の日」を祝う中で彼女の傷は治癒したが、自分が夫から虐待を受けている姿を2人の子どもたちに見せてしまった苦しい記憶から逃れられずにいる。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

教員免許を持っていながら失業状態にあるグワタさんのような存在は、アフリカでは珍しくない。グワタさんのような女性達が置かれている境遇故に、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第5目標(ジェンダー平等の達成とすべての女性・女児のエンパワーメント)を2030年までに達成するというアフリカの公約は、絵空事になりかねない状況にある。

女性・女児に対する暴力は、今日の世界においてもっとも広範で、根強く残り、破壊的な人権侵害のひとつである。それは、女性・女児の人権実現と「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」の実現にとって、大きな障害となっている。

このことを視野に、欧州連合(EU)と国連は、女性・女児に対するあらゆる形態の暴力(VAWG)の根絶に焦点を当てた新しいグローバルな取り組みを今後数年かけて実施していく予定だ。

スポットライト・イニシアチブ」は、女性・女児に対するあらゆる形態の暴力に対応するものであり、家庭内・家族内暴力、性やジェンダーに基づく暴力や有害な慣行、とりわけ、女性の殺人、人身売買、性的・経済的な(労働)搾取に焦点が当てられる。

現場には恐るべき現実があるが、アフリカ諸国は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの促進を公約している。ほとんどの国々が「女性に対するあらゆる形態の差別を根絶する条約」を批准し、半数以上がアフリカ連合の「アフリカ女性人権議定書」を批准している。その他の成果としては、アフリカ連合が2010~20年を「アフリカ女性の10年」と指定したことが挙げられる。

UNウィメン」によると、アフリカには低所得・中所得の国々が含まれるにも関わらず、貧困率は依然として高いという。女性の大多数は不安定で低い給与の仕事に就いており、昇進の可能性はほとんどない。民主的な選挙は増えてきており、記録的な数の女性が議席を獲得している。しかし、選挙に関連した暴力沙汰も新たな懸念材料として浮上している。

UN Women
UN Women

ザンビアの首都ルサカで活動する在野の開発専門家マベル・チルバ氏は、抑圧されたアフリカの女性・女児が直面している危機について、アフリカの指導者は至急対処すべきだと訴える。

「ジェンダー平等を2030年までに達成するには、公私両面で女性の人権を依然として制限している差別の根本的な諸原因の多くを取り除く真剣な行動が伴わなくてはなりません。たとえば差別的な法制度を改正していく必要があります。」とチルバ氏はIDNの取材に対して語った。

チルバ氏がこう見立てたように、ジンバブエやザンビア、ナイジェリア、モザンビークといった国々は、開発の取り組みにおける女性の参加に関して、世界の国々に後れをとっている。

ジンバブエのフェミニストで、民主主義をめざすロビー団体「青年対話行動ネットワーク」の代表キャサリン・ムクワパティ氏は、IDNの取材に対して、「私たちは、女性が依然として抑圧されていた中世の時代に囚われているかのようです。これらはすべて、アフリカ社会に蔓延する、女性や女児の役割や地位に関する強固で差別的な見方のためです。女性として、私たちは低い地位に貶められ、女性と男性との間の力関係は不平等なものになってきました。」と語った。

ムクワパティ氏によると、「職場ですら、女性を傷つけるような旧来からの慣行が依然としてやまず、女性に対するさまざまな形態の暴力が生きながらえている」という。

ユネスコの『全ての人に教育を:世界モニタリングレポート』(対象年度2000~15年)は、彼女の見方の正しさを裏付けている。報告書が発表された2015年の時点で、世界の国々のうち半分も、初等・中等教育におけるジェンダー平等を達成できていなかった。

報告書はまた、中等教育におけるジェンダー平等の差は縮まってきたが依然として大きく、アラブ諸国やサブサハラのアフリカ諸国では不平等がもっとも大きかった。これらの地域では、ジェンダー平等の目標を達成できた国はひとつもなかった。

しかし、ジェンダー平等の点でフランスや米国を追い抜いたルワンダのような例外もある。『グローバル・ジェンダー報告2017』によると、男女差の縮小という点で言えば、女性の労働参加に関してルワンダは86%という高率を叩き出しており、これに比して例えば米国では56%であった。

しかし、『グローバル・ジェンダー報告』は、ルワンダの高い女性労働参加率の原因を、同国で起きた1994年の破壊的な大虐殺に帰している。20年以上前、約80万人のルワンダ人がわずか3カ月間で虐殺された。この恐るべき事件によって、同国の生存人口のうち、女性が6~7割を占めるようになったのだ。ルワンダ女性にとっては、男性が担っていた役割を受け継ぐ以外の選択肢はなかった、と報告書は述べている。

UNESCO
UNESCO

人口の多いナイジェリアでは、ジェンダー不平等は異なった文化や信条の影響を受け、同国のほとんどの場所、とりわけ北部では、女性は男性につき従うものだと考えられている。そして、多くのナイジェリア男性は、女性を軽蔑するこの国の慣習を依然として固く信じている。

「ナイジェリアでは、女性は主婦をするもの、台所で働きそれ以上のことはしないものだと一般的に見られています。」とナイジェリアのビジネスマン、ヌウォエ・イケメフナ氏はIDNの取材に対して語った。

明らかにアフリカ女性を被抑圧的な地位に貶める慣行を念頭に、UNウィメンのラクシュミ・プリ事務局長代行(当時)は2013年6月にブリュッセルで開かれた「ACP-EU議会連合会合」でこう述べている。「人権擁護に関して言えば、各国はその法律や慣行、慣習を見直し、女性を差別するものについてはそれを撤廃すべきです。暴力を明確に禁止し処罰する法律や政策、事業が、国際協定にしたがって導入されねばなりません。」

しかし、こうした機関からジェンダー平等を求める呼びかけがなされているにも関わらず、モザンビークのようなアフリカ諸国ではジェンダー不平等の点で厳しい状況にあるようだ。統計によれば、モザンビーク人女性の6割が身体・精神面で虐待を受けている。モザンビーク女性・法律・開発協会(MULEID)もまた、女性に対する暴力の頻度が増していることを懸念しているが、これは、女性に対するすべての暴力を防止するために取られてきた従来の戦略とは真逆の状況だ。

実のところ、モザンビークは氷山の一角かもしれない。合衆国国際開発庁USAID)によれば、タンザニアの女性・女児は、サブサハラ地域のアフリカでもっとも周縁化され(その能力を)もっとも活用されていない人々だ。タンザニアの女性・女児は、極度の貧困を削減し、健康的な社会を構築し、包摂的な成長を促進するうえで、資源や機会、意思決定にもっと関与し、それらを自らの手にしなくてはならない、とUSAIDは述べている。

少女らの教育参加・定着を向上させる政府全体の取り組みである「少女に学びを」の下で、タンザニアは優先対象となる2か国のうちのひとつである。同国では、小学校への通学率は男女でほぼ同率だが、20~24歳の女性のうち中等教育を終えた者は2割にも満たず、教育を全く受けたことがない者が2割を占めている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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ICAN、2019年の核兵器禁止条約発効を期待(ティム・ライトICAN条約コーディネーターインタビュー)

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

2018年に核戦力による威嚇が強まるのを世界が目の当たりにするなか、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、各国政府に核兵器禁止条約(核禁条約)への署名・批准を働きかける世界的な民衆運動を支援している。ICANの条約コーディネーターを務めるティム・ライト氏は、IDNのニーナ・バンダリ記者に、軍縮、核兵器のリスクと帰結に対する認識を高めること、そして今日の世界には核禁条約がなぜかつてないほど必要なのか、について語った。

ライト氏は、核禁条約が2019年中に発効することを期待している。彼は南北対話を開始した韓国の文在寅大統領の「優れたリーダーシップ」を称賛しつつも、「しかし、真の平和は、核兵器が、北朝鮮だけではなく、全ての国々による全面拒否に基づくものでなければならない。」と指摘している。また、ドナルド・トランプ大統領によるイラン核合意破棄については、「核不拡散の努力を阻害するもの。」と述べている。

インタビューの全文は次の通り:

バンダリ:ICANの核禁条約コーディネーターとして、ICANの2017年ノーベル平和賞受賞以来、世界的な核軍縮シナリオについて何が変化したとお考えですか。

ライト:2017年ノーベル平和賞の受賞は、ICANにとって核禁条約に光をあてる活動の助けになっています。また、核禁条約への署名・批准を獲得する機運を高めるのに貢献しました。ICANのノーベル平和賞受賞はまた、別の道を選択することが可能であり、私たちが永遠に核戦争の瀬戸際で生きていく必要はないことを示しました。

ノーベル平和賞受賞演説で、私たちには、核兵器の終わりか、それとも、私たちの終わりか、二つの終わりのどちらをとるかという選択肢が与えられていると述べました。私は、このシンプルなメッセージは世界の人々の共感を呼んだと思っています。世界中の人々が、この恐ろしい兵器が人類に及ぼす脅威について深く憂慮し、これを廃絶するために政府に緊急の対策を講ずるよう望んでいるのです。民衆は変化を切望しています。私たちには、世界各地で自国の政府がこの条約に署名するよう取り組んでいる多くの仲間がいます。

バンダリ:核禁条約が2017年9月20日に署名開放されてから、これまでに58カ国が署名し10カ国が批准しました。条約が発効するには50カ国が批准しなければなりません。5月14日から16日にかけて予定されていた「核軍縮に関する国連ハイレベル会議」は無期限延期されました。核禁条約はいつ発効すると期待していますか。

ライト:私たちは、核禁条約が2019年中に発効することを望んでおり、この目標に向けて行動を起こしています。条約が発効するにはさらに40か国の批准が必要ですが、既に多くの国々が批准手続きでかなり進んだ段階にあります。いくつかの国については、この数カ月で批准書を寄託する準備が整うでしょう。

私たちはニュージーランドとアイルランドが今年の半ばまでに条約に批准すると期待しています。またラテンアメリカの多くの国々が議会に条約を提出しており、今年中に批准することが期待されています。したがって、核禁条約は今年末までの発効に向けて推移しています。

2017年にニューヨークで行われた軍縮活動に鑑みれば、2018年の国連ハイレベル会合は、ある意味以前に考えられていたほど重要でなくなっているというのが、一般的な考え方でした。国連ハイレベル会合が無期限延期となった背景には様々な要素があり、とりわけハイレベル会議設立の根拠となった国連総会決議を提出した主催団体側の組織力の欠如が指摘されています。

ICANはハイレベル会合の準備に関与していませんでした。今は、核禁条約に署名・批准する国を増やすことに焦点をあてています。私たちは核禁条約が発効してから1年以内に国連事務総長によって開かれる第一回締約国会合の開催に向けて努力を傾けています。

北朝鮮の非核化と核軍縮を促進する

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

バンダリ:米朝首脳会談は6月12日開催の方向で進んでいるようですが、核禁条約の発効という観点から、米朝首脳会談にどのような結果を期待しますか。また、朝鮮半島に平和をもたらそうと積極的に行動している韓国の役割をどのように見ていますか。

ライト:米朝首脳会談が実現するかどうかは未だ明確ではありません。金最高指導者とトランプ大統領の双方から、首脳会談をキャンセルか日程変更するかもしれないというコメントを聞いています。双方とも予想が大変難しい政治指導者だと考えています。なにが起こってもおかしくない状況ですが、私たちは、このプロセスから何らかの前向きな結果が生まれるものと、引き続き慎重ながら楽観的な見方をしています。

南北対話を開始した韓国は素晴らしいリーダーシップを示しました。文氏はこの状況の中で思慮深い立ち回りをしたと思います。しかし、真の平和は、核兵器が、北朝鮮だけではなく、全ての国々による全面拒否に基づくものでなければなりません。韓国がいわゆる米国の核の傘で守ってもらうという考え方を拒否することが極めて重要です。この危険な軍事概念こそが、核兵器が安全保障を強化するという愚かな考え方を助長しているのです。

私たちは、核禁条約は朝鮮半島の非核化を前進させ核軍縮をより広く促進するうえで大いに関係があることを示したい。私たちは、こうした協議に関わってきた全ての国々に対して、核禁条約に署名・批准し、同条約を核軍縮を実現するための道具として利用するよう呼びかけています。

バンダリ:米国による2015年イラン核合意からの撤退は世界にとってどのような意味合いを持つでしょうか。イランは産業レベルでウラン濃縮を始めるでしょうか。また、この出来事は中東における核軍備競争の前兆となるでしょうか。

ライト:これは大いに懸念すべき出来事です。全てが、イランによる包括的共同作業(JCPOA)の完全順守を示唆していたからです。国際原子力機関(IAEA)は、イランは合意に則って引き受けた内容を履行していると繰り返し認定してきました。従って、今回の米国による行動は、全く正当化できないのみならず、核不拡散の努力を阻害するものです。私は、今回の米国の動きは、イラン国内の急進派に対して危険なメッセージを送ることになったと考えています。急進派は、イラン独自の核兵器計画を実現したがっている可能性がある人々です。私は、イランの現政権が核兵器を開発する意図を持っているとは思っていません。

米国がイラン核合意から離脱したことにより、より広範な分野で様々な悪影響が及ぶことになります。例えば、今後の北朝鮮との交渉過程において、米国の主張が真剣に受け止められにくくなるでしょう。米国がイランに関して筋を通していないなかで、北朝鮮がどうして米国が筋を通すと期待するでしょうか。イラン核合意の欧州の当事国(英国、ロシア、フランス、ドイツ)は、米国による合意撤退を強く非難しました。しかし、私たちは単に核不拡散に焦点をあてるだけの議論から先に進む必要があります。

全ての国々が既存の兵器を廃絶しなければなりません。イラン核合意の締結国をみるとイラン以外の全ての国々が核兵器を保有しています。私たちは欧州の締結国が核禁条約に加盟し、実際に核兵器を廃絶するよう望んでいます。ドイツは独自の核兵器を保有していませんが、米国の核兵器を領内に受け入れています

バンダリ:最近、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、核軍縮交渉が停滞する中、「コンピュータの誤作動や人的・技術的な間違い、軍事対立の激化で」核攻撃が起こりうる現実を警告した寄稿文が掲載されました。こうした事態がおこる可能性を減らすには、どのような措置が緊急に講じられるべきでしょうか。

ライト:私は全ての核兵器国が、不注意による核兵器使用のリスクを減らす措置をとれると考えています。つまり、まずは核ミサイルの『警告即発射』態勢を解除し、次に、実戦配備から外すのです。核兵器が二度と使用されないよう保障する唯一絶対の方法は、全ての核兵器を不可逆的に廃棄することです。核兵器が世界に存在する限り、いつの日か再び使用され人類と環境に壊滅的な影響をもたらす深刻なリスクがあります。

ICANは、各国に核禁条約への署名と批准を強く働きかける取り組みに加えて、核兵器のリスクと帰結について人々の意識を高めていく活動を今後も継続していきます。依然として多くの人々が、人類が直面している現実の危険性に気づかないままでいるのです。

米国とロシアは世界の核兵器の90%以上を保有していることから、両国が軍縮に向けてリーダーシップを発揮する必要があります。しかしそのようなリーダーシップは、国内世論と国際社会からの圧力があってはじめて現実のものとなります。だからこそ、世界の大多数の国々が核禁条約に加盟して一刻も早い核軍縮を求めていることを示すことが極めて重要なのです。

バンダリ:核兵器を保有しながら核不拡散条約に加盟していないインド、パキスタン、イスラエルといった国々の核禁条約に対する反応としては、どのようなものがありますか。

ライト:インドとパキスタンは、核不拡散条約について、条約交渉時点で既に核兵器を保有していた国々と、条約発効後に核兵器を開発した国々では扱いが異なる差別的な制度であるとして、長年にわたって批判してきました。

しかしながら、核禁条約は全ての国々を平等に扱う仕組みとなっているので、インド・パキスタン両国は、もはや核軍縮措置を支持しない口実は使えません。今までのところ、両国からは、なぜ核禁条約への署名や批准を拒否しているのか、明確な理由を聞いていません。インド・パキスタン両政府に対する国内の民衆からの圧力が高まることを期待しています。ICANは両国においてそのような民衆運動を構築していきます。

イスラエルについては、イスラエル軍縮運動というICANのパートナー組織が、核兵器についての国民的議論を巻き起こす取り組みを行っています。彼らはイスラエル国会(クネセト)で国会議員と軍縮問題に関する公開討論会を開催するなど、僅かながらも軍縮議論を前進させてきています。しかし、依然としてやらなければならないことが多い。核禁条約は、各国に対等の立場で軍縮に貢献できる道筋を提供しています。(原文へ

INPS Japan

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「リビアモデル」は役立たない:朝鮮半島には平和と核軍縮に向けた独自のプロセスが必要(レベッカ・ジョンソンICAN共同議長・アクロニム研究所所長)

【ソウルIDN=レベッカ・ジョンソン】

私は今、ソウルで「非武装地帯を超える女性たち」主催の平和行動や国際会議に参加している。

メディアでは、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、待ち望まれていたシンガポールにおける米朝首脳会談の開催を危ういものにしたのではないかという話題でもちきりだが、はたしてそれがボルトン補佐官の意図だったのだろうか?

韓国の文在寅大統領がワシントンでドナルド・トランプ大統領と首脳会談を開催するなか、シンガポールにおける米朝首脳会談の成功に向けて、あらゆる努力がなされることが期待されている。そうしたなか、ボルトン補佐官が北朝鮮の非核化に「リビア方式」を求める言及をしたのは全く何の助けにもならないものだった。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

意図的だったかどうかにかかわらず、ボルトン補佐官の言及は、予想通り、2011年のリビアの「アラブの春」において同国の独裁者ムアンマール・カダフィが屈辱的かつ残虐な死を遂げた出来事を思い起こさせるものだった。カダフィが殺害された年に北朝鮮で世襲による権力を継承した金正恩は、カダフィに似た運命に遭遇するのではと怯えていると伝えられており、ボルトン発言に動揺したとみられている。これに対して、トランプ大統領は、金委員長の安全を改めて保障すると述べて安心させようとしているが、一方で米政府高官らは、金委員長が米国による非核化の要求を実現しないならば、カザフィが辿った運命が自身にも起こりうることを示唆しているようだ。

また、金委員長が、4月27日に文在寅大統領との首脳会談で始めた南北対話をさらに詳細に協議する高官級会談を中止したことも大いに関連している。金委員長は(延期されていた)米韓の合同空軍演習が再開されたことと、元北朝鮮の外交官で脱北したテ・ヨンホ氏が韓国の国会で発言したことに憤慨しているとみられている。

ボルトン補佐官が「2003年から2004年にかけて行われたリビアモデルに言及したのは、誤りであったか、そうでなければ威嚇のシグナルを送るものであった。

実際には、この言及は誤りというべきだろう。なぜなら、2003年から2004年にかけてリビアは核兵器を全く保有していなかったからだ。確かにカダフィは数年に亘って核兵器保有を望む姿勢を示してはいたが、実際の核兵器はおろか核計画も深刻な段階にあるものではなかった。

しかし、英国のトニー・ブレア首相と米国のジョージ・W・ブッシュ大統領の支持を得て妥結したこの合意自体は、査察官の立ち入りと検証を実施して、カダフィの生物・化学兵器計画を廃棄させるうえで積極的な役割を果たした。また、この合意には核不拡散の要素も認められる。カダフィはこの合意によりパキスタンのA.Q.カーン博士を罠にかけるおとり捜査に協力し、結果的に同博士による悪名高い核の闇市場(核のデザイン、部品を含む核技術を売買)の大半を解体することに成功したからだ。カーン博士の顧客の中には、北朝鮮、イラン、サウジアラビア及びいくつかの中東諸国が含まれていると報じられている。

Muammar al-Gaddafi/Wikimedia Commons
Muammar al-Gaddafi/Wikimedia Commons

たしかにリビアモデルには、こうした軍縮・不拡散分野で重要な役割を果たした側面があることを過小評価してはならないが、それでも、これは非核化のモデルではなかった。当時この合意が成立したのは、米国と英国がイラク戦争の泥沼に行詰っていたなかで、カダフィとブッシュ並びにブレアの個人及び政治的利益にかなうものだったからだ。

この合意は、カダフィにとっては、パンアメリカン航空爆破事件以来15年に及んでいた国際的な孤立から脱却する千載一遇の機会だった。一方、イラク戦争が長期化し兵士の死傷者数が増加する一方で、ハンス・ブリックス国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)委員長がイラクで大量破壊兵器が発見されなかったと警告するなか、この合意は、ブッシュとブレアにってはこうした逆境を跳ね返す念願の宣伝材料だった。こうして英米の首脳は、大々的な宣言工作によりリビアの非核化を実現したとして称賛を浴びることとなった。

カダフィはこの合意で協力したことにより外交的な孤立からの抜け出し、経済援助を手にすることができた。また、英米両国からは軍事・諜報面での援助も得ている。その中には、当時海外に亡命を求めていたリビアの反政府市民社会組織のメンバーをカダフィに引き渡す取引も含まれていた。アブドゥル・ハキム・ベルハジ氏と妊婦だった妻のファティマも当時の被害者であり、英国政府は最近になって、ベルハジ氏が6年間に亘って拷問・監禁される原因となった2004年当時の英国の行動について、夫婦に公式に謝罪している。

ボルトン補佐官がリビアモデルを想起させることで何を意図したのであれ、米朝の指導者や高官が問題発言をしたり、間違ったボタンを押す危険性や影響がある。今も多くのマスコミが、英米とカダフィの取引がリビアの非核化をもたらしたという偽りの物語を律儀に繰り返しているのを見ると憂慮せざるをえない。

その結果、中にはこの誤った事例から、非核化の決断が数年後のカダフィの悲劇的な死につながったとする事実無根の教訓を引き出すものもでてきた。彼らはこの教訓から、金委員長の今後の生き残りは、現在保有している核能力の保持にかかっており、従って朝鮮半島の平和と非核化交渉は失敗する運命にあるという拙速な議論に飛躍している。平和、軍縮、安全保障というものは、誤った推定やまやかしや恐れから諦めるには、あまりにも重要である。こうした項目は、効果的な外交に加えて、事実と証拠、そして分析に基づくものでなくてはならない。さらに、当事者の心理、恐れや不安、さらには当事者の個人や国家の利益や目的を理解できなければならない。

長年が経過し、核軍縮はたった一回の首脳会談で成し遂げられるものではなく、平和プロセスと実質的な軍縮関係や道筋を創出するには、複数の首脳会談と南北対話の開催が必要なステップとなる。

ICAN
ICAN

指導者らが軍縮を交渉するのは、全ての当事者が安全保障と平和は核兵器がなくとも達成できるものであると考え、それを実現するために協力し合うときだ。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)もこうして国連における交渉をへて2017年に核兵器禁止条約の採択を実現した。

軍縮を実現する最良の方法は協調外交によるものだ。近年の経験から言えることは、北朝鮮は強制によって核を放棄することはない。2017年に採択された核兵器禁止条約は、朝鮮半島の安全保障をめぐる全ての当事者が実現したいと表明している核軍縮目標の達成と持続に資する重要な法的文書かつ外交手段を提供している。

朝鮮半島に、リビアとの誤った比喩は必要ない。朝鮮半島の人々と南北朝鮮の指導者は、平和的で核兵器のない朝鮮半島を実現するための独自のモデルを創出するよう、触発され後押しを受ける必要がある。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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相馬雪香さんに学ぶ「心の力」(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

【IDN東京=石田尊昭

憲政の父・尾崎行雄が74歳の時の言葉――「人生の本舞台は常に将来に在り」。

何歳になっても「昨日までは予備門で、今日以後が本領を発揮する時である」という、とても前向きで力強い言葉です。

尾崎行雄は95歳で亡くなりましたが、その前年に「初落選」するまで、実に60年以上にわたり衆議院議員を務め、文字通り「生涯現役」を貫きました。

その尾崎の三女、相馬雪香さんが亡くなって、今年でちょうど10年を迎えます。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

相馬さんは96歳で亡くなりましたが、その数カ月前まで講演をしたり、式典でスピーチをするなど、父親同様「生涯現役」でした。

私は、相馬さんが84歳の時に出会いました。それからわずか12年ほどですが、濃密な時間を過ごすことができ、多くを学ばせて頂きました。相馬さんは、孫ほど歳の離れた青二才の私を「目的を共有し、共に行動するパートナー」として尊重してくれました。だからこそ、いつも「本気の議論」をすることができました。

相馬さんの言葉には「力」があります。それは単に語彙や表現力の問題ではなく、心の内から湧き起こるような力です。相馬さんが亡くなった翌年、私は『相馬雪香さんの50の言葉』という本を書きました。そこに出てくる言葉は、いずれも「どこかで聞いたことのあるような」ものばかりです。しかし、相馬さんから発せられると、それは周りを動かす力になる。なぜなら、その言葉は、嘘偽りの無い相馬さんの「心そのもの」だから。相馬さんの「言葉の力」は、「心の力」です。

Mr. Takaaki Ishida
Mr. Takaaki Ishida

東日本大震災の翌年、私は、相馬さんのリーダーシップについて触れた『心の力』という本を書きました。相馬さんには4つの心――「本気の心」「純粋な心」「利他の心」「感謝の心」がある。そして、そこから湧き起こる言葉と行動力(リーダーシップ)が周りの人たちを惹きつけ、動かしていく。

この10年。私は、相馬さんの「言葉」ではなく「心」を一人でも多くの人に伝えたいと思い、書いたり話したりしてきました。せっかく機会を頂いても、まだまだ伝えるべきことを伝えきれていません。まだまだ相馬さんの「心の力」を私自身の中に生かすことができていません。葛藤、迷い、後悔、失敗の連続です。

しかし、ここで止まるわけにはいきません。「反省っていうのは、止まるためじゃなくて、進むためにするんですよ!」――相馬さんの怒声、いや叱咤激励を想い起こしつつ・・・。これまでの10年の経験を、これからの10年(本舞台)に生かす。「相馬雪香没後10年」の節目に、改めて決意しているところです。

INPS Japan

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アフリカ開発の触媒となるエンドユース技術

【ナイロビIDN=ジョシュア・マシンデ】

エネルギーの生産的な利用がアフリカ農村地帯の生活改善の鍵を握っている。電力や技術へのアクセスが良くなれば、零細企業は生産過程と効率を向上させることができる。

電力が利用できなければ、農村の零細企業は、労働集約的で時間のかかる手動の道具に頼らざるを得ず、その結果、製品に付加価値をつけたり多様化させたりする多くの機会を、しばしば逃すことになる。

Photo credit: Energy 4 Impact
Photo credit: Energy 4 Impact

民間企業の電力需要を満たすことは、ジュメメ社のような民間部門の経済主体にとってまたとない機会である。同社は、遠隔地の企業と家庭を繋ぐ、太陽光発電による小規模電力網の開発に携わるタンザニアの企業だ。

アフリカでエネルギー利用を促進すべく地元企業と協力している非営利組織「エナジー4インパクト」(Energy 4 Impact)は、アドバイザー的な形でジュメメ社と提携している。具体的には、ジュメメ社が顧客の電力需要を掘り起こし、小規模起業家らが電力利用を通じて、生産性の向上と電力消費の増大につながるような経済転換をはかる活動を支援している。

一般家庭と比べると、民間企業は電力消費量が多く、十分な利益をもたらす安定したキャッシュフロー源を開発者に提供する。電気製品を購入する企業のキャパシティーと環境を強化することで、生産過程や生産性と、小規模電力網の持続可能性の両方を強化することができる。

2016年4月、ジュメメ社は、タンザニア・ビクトリア湖内ウカラ島の8つの村のなかで最大のブウィシャ村で、太陽光発電の小規模電力網を整備した。小規模電力網が稼働したことで、地域の商業活動が大幅に活発になっている。

今日では、既存の、あるいは新規に開業した50社弱が電力網と接続している。これにより、従来、穀物の製粉作業や、大工仕事、自転車やオートバイを修理するために、手作業やディーゼル発電に依存してきた会社の一部が、生産を自動化し事業を拡大する能力を得た。そして、卵の孵化、洗濯、パン製造、ジュース生産、氷生産、美容業、ポップコーン生産、金属溶接を扱う新たな会社が現れてきている。

Lake Victoria/ Public Domain
Lake Victoria/ Public Domain

ジュメメ社が集めたデータは、電気機器を利用する頻度と電力使用料の間の直接的な相関関係を示している。ジュメメ社のマーケティング部門責任者ロバート・ワンゴエ氏は、「小規模電力網に接続された、製粉所や木工工作所、金属加工場、パン工場の、効率と生産性はいずれも向上しています。」と指摘したうえで、「今後は、たとえば飲料水の浄化に関わる企業など、新たなビジネスが、軌道に乗ってくれるものと思います。」と語った。

しかし、いくら電力が利用可能になっても、多くの零細企業には電気製品を購入する余裕がない。「エナジー4インパクト」の事業責任者ディアナ・コラニー氏によれば、これらの零細企業はリスクの高い借り手と見なされているために、電気製品を購入するだけの資金を借入れられないからだという。

「零細企業が(電力を)生産的に使用できるよう、金融取引に参加できるようにする戦略のひとつは、資金提供者に対して現金によらない信用保証を与えることです。しかし、この枠組みには煩雑な行政プロセスがあって、資金提供者はあまり関心を示していません。また、資金提供者を島の村々に招き、企業の潜在力を感じてもらい、資金供与の利点を納得させようとの戦略を取ったこともありました。しかし、融資の希望総額が少なかったこと、企業数が少ないこと、行政面・取引面のコストが高いと予想されたことなどから、このアプローチはうまく機能しませんでした。」とコラニー氏は説明した。

結局ジュメメ社は、自社で資金提供するアプローチを採ることにした。これによって零細企業は、ジュメメ社からの直接的な信用供与によって電気製品を生産的に利用できるようになった。ジュメメ社はこの金融手段を使って、顧客が機器を取得できるようにした。この枠組みを通じて、顧客はジュメメ社が調達した電気機器を注文し、合意された期間(通常は半年)の間にその支払いをすることになる。

ジュメメ社に代わって、エナジー4インパクトが、需要調査やシミュレーション、生産的な電力使用に関する意識喚起キャンペーンを行った。

「私たちは、新しい機器の取得を望んでいる企業を支援する最善の方法についてジュメメ社と協議してきました。」「機器を取得する前の段階で新規事業の見通しを分析し、企業オーナーと協力してその事業計画やスキルを強化してきました。ジュメメ社は、起業家が合意された期間内で機器の代金を支払い、電気代を支払い、それでもなお利潤をあげる確約を望みました。」とコラニー氏は語った。

これまでのところ、12の企業が、トウモロコシ挽き機、脱穀機、キャッサバの製粉機、溶接・大工の機械、ヒヨコ孵化器、製氷機を取得するための資金を得ている。すべての企業が支払いを完了したか、あるいは、まもなく融資の支払いが完了するところだ。

他に10の企業が事業を拡大あるいは多角化するために追加の機器を取得し、結果として少なくとも82人の雇用が生まれた。

二輪車修理工場を経営しているエリアス・マリマさん(25)は、労働時間を増やすことができるようになった。電力を使ってバイクのタイヤに空気を入れる空気圧縮機を使えるようになってから、1日あたりの顧客が以前は15人だったのが、現在は約35人に増え、収入も5割増えた。彼はすでに3人の社員を雇い、ジュメメ社が別の小規模電力網を今年後半に供用開始したら、近隣の村に別の修理工場を開設する計画だ。

Photo credit: Energy 4 Impact
Photo credit: Energy 4 Impact

「私は人力で二輪車のタイヤに空気を入れていましたが、エナジー4インパクトは電動の空気圧縮機を使うよう提案してくれました。キャッシュフローと返済計画を示した事業計画の策定にも協力してくれました。こうして、融資を受けながらジュメメ社から機器を手に入れることになったのです。」と語るマリマさんは、空気圧縮機の購入代金をすでに完済している。

窓枠・ドア枠作り、二輪車修理、ポット・フライパン・ナイフなど台所用品づくりの職人コンスタンティン・ムランギさん(67)は、ジュメメ社から融資を受けて溶接機とメタルグラインダー2台の購入に向けた事業計画準備の支援を受けた。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

タンザニアのエナジー4インパクトの現地派遣員であるジェシー・ケンクングさんは、「ムランギさんの返済計画の策定にも協力しました。」と語った。「取得する機器の初期費用、機材取得のために必要な預り金、支払い利子、合意された期間内に返済するための月々の預り金といった側面について、ムランギさんにアドバイスしました。」と語った。

農村で稼働するほとんどの小規模電力網の場合と同じく、ジュメメ社は、利潤を上げるレベルでありながらも、十分な需要を喚起するためにコストを下げるという難題に直面してきた。エナジー4インパクトは、ユーザーのさまざまニーズに対応した料金体系(個人料金と法人料金に分けるなど)をジュメメ社が策定する支援を行ってきた。また、顧客が価格に対して持つ印象を同社に理解させ、さまざまな料金体系の必要性を顧客に納得させる支援も行ってきた。

ジュメメ社は、収入源を多様化し、その持続可能性を高める手段として、自社で発電した電力を活用して、地元の市場を対象とした魚冷凍・冷凍及びデリバリービジネスを開始した。これによって同社のキャッシュフローは潤沢になり、地元コミュニティーに重要なサービスを提供し、地元の雇用創出と農村の経済開発に寄与している。(原文へ

INPS Japan

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【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

アイスランドでは、首相官邸の支援の下に13~18才の12人の青少年で構成する「若者評議会(Youth Council)」が設置され、持続可能な開発目標(SDGs)の促進を主導することになった。

コーディネーターのニルシナ・ラルセン・アイナルスドッティル氏は、12人の枠に140人超の応募があったことを明かしたうえで、「応募者全てが素晴らしい発想の持ち主で、選考は難航を極めました。」と語った。

Map of Iceland
Map of Iceland

児童・若者の参加に関する専門家としてユニセフのアイスランド事務所に務めるアイナルスドッティル氏は、このプロジェクトのためにアイスランド首相官邸と協力している。

アイルランド政府は、来年も引き続き12人の青少年を若者評議会に採用される予定だ。

レイキャビク近郊に住むハイドゥル・イヴァルスドッティルさんは、以前から環境や人権問題に関心があり、学校で環境クラブを立ち上げていた経験もあるが、「若者評議会」に応募するまではSDGsについて聞いたことがなかったという。

若者評議会に応募していた彼女のクラスメートが、応募締切15分前のタイミングで、「もし興味があれば」と、この評議会とSDGsのことについて教えてくれたという。それで彼女も応募し、委員に選ばれることになった(クラスメートの方は残念ながら選ばれなかった)。

アイスランドで国連のSDGsを普及する若者評議会の活動になぜ応募したのかと問われたイヴァルスドッティルさんは、「応募要項に出ていたSDGsの説明を見ているうちに、世界を変えられるかもしれないと思うようになりました。それは、自分の考えを実現できる機会、それも、16才の個人では想像しえないほど大きな規模で実現できる機会をそこに見たからです。」と語った。

「この大変な努力を必要とするプロジェクトに自分がどれだけワクワクしたか、言葉だけではうまく伝えられません。なぜなら、SDGsの目標について議論することは極めて重要で、若者らが立場を鮮明にし、世界で最も重要なこの問題に関して私たちの声を聴いてもらうことが信じ難いほど貴重なことだと思うからです。」

17才のマティアス・ブラジ・オルヴィッソンさんは、アイスランド南部の農村フルディールに住んでいる。家族はそこで大規模な農場を営んでいる。イヴァルスドッティルさんとちがって、彼はSDGsのことをずっと前から知っていたという。なぜなら、2015年にSDGsが合意された数日後に、彼の村の学校で社会と理科の1日合同授業があり、SDGsに関連したプロジェクトに参加した経験があったからだ。

「私たちはこの授業でSDGsについて学び、最も重要だと思う目標をひとつ選ぶように言われました。私は教育(SDG第4目標)を選びました。なぜなら、世界で何が間違っているかを知り、この間違いを正す方法を知ることから変革は始まると思ったからです。」

SDGs Goal No.4
SDG Goal No. 4

しかしそれ以来、SDGsについての授業はなく、日常生活でSDGsについて人々が話しているのを聞いたことはなかったという。彼は、こうした状況は変えていかなければならないと考えていた。「そんななか、若者評議会に青少年を応募する広告を見て、SDGsのことを思い出したのです。」とオルヴィッソンさんは語った。

なぜ応募したのかと問われた彼は、「私はいつも、より公正な世界と持続可能性な社会の実現に向けて闘ってきました。…教育や環境、そして新しい開発に関して、アイスランドを世界の主導国のひとつにする取り組みに関与していきたいと思ったのです。」と語った。

イヴァルスドッティルさんと同じく、オルヴィッソンさんも、若者の声を聴いてもらい、その発想を実行に移すことが重要だと語る。「大抵の場合、私たち若者は重大な問題について発言権がありません。」とオルヴィッソンさんも、は指摘した。

「若者評議会」は年に6回の会合を持つ予定で、すでに4月に1度集まっている。アイナルスドッティル氏の指導の下、彼らはSDGsの17の目標について学び、情報を同年代の若者に伝えるだけではなく、政府閣僚らと面談して目標達成の最適な方法について議論していく。

フェイスブックやユーチューブといったソーシャルメディアも積極的に利用される。オルヴィッソンさんは、「若者評議会の役割は、たとえば、SDGsやその達成に向けた活動方法について同年代の若者に伝えていくことにあります。もちろん、特定の場所でプレゼンテーションを行うことや、マルチメディア技術を利用することなど、SDGsに関して人々を教育するあらゆる方法を駆使していきます。」と説明した。

「つまり、若者評議会の目的は、農村地帯も含めて、国全体にSDGsを紹介していくことにあります。なぜなら、SDGs達成の第一歩は、まずはSDGsについて知ることにあるからです。」とオルヴィッソンさんは付け加えた。

イヴァルスドッティルさんは、「最初は環境問題に焦点を当てていきます。」と語った。

これまではアイスランド国連協会がSDGs促進における政府の主たるパートナーであった。最近では、SDGs履行に関する政府の作業部会が、テレビや新聞、ソーシャルメディア上でSDGsに関する公的キャンペーンを開始している、と外務省広報局のマリア・ムジョール・ジョンスドッティル局長は語った。

「作業部会の基調報告書が今年発行される。SDGsの個別の目標の状態を測るのはしばしば複雑な過程であり、追加のデータや情報が時として必要となります。」とジョンスドッティルさんはいう。

作業部会は主に、首相官邸、外務省、環境省、福祉省、財務省、統計局の代表から成っている。他の省庁からの委員もおり、アイスランド地方自治体協会もオブザーバーを派遣している。

若者評議会もまた、作業部会のアドバイザーの役割を務める。作業部会はすでに、SDGsに関するさまざまな問題が報告される2030年3月の日付を打ったニュースを含めた宣伝を行っている。

その宣伝内容は、-2030年、歌手のサルカ・ソル・アイフェルド氏が福祉大臣になり、ジェンダー平等が達成されたと報告した。兵器関連予算が削減されて、兵器製造企業は生き残りに必死である。アイスランドは、2030年末を待たずして5年以内にCO2純排出量ゼロ社会となる。途上国で相当の進歩があったため開発支援は近々停止される―といった具合だ。

これと同じようにして、ユーチューブの短い動画が、「2030年のSDGsニュース」として制作されている。若者評議会もこの作業を行う予定だ。「10才の子どもに言葉を分かってもらうのは難しい。だから私たちは、子どもにもわかりやすい動画を作るつもりです。」とイヴァルスドッティルさんは説明した。

アイスランド国連協会のヴェラ・ナッツドッティル氏は、「アイスランド国連協会と政府作業部会の関係は継続的に強化されています。」と語った。同協会は諸団体を定期的に訪問して、SDGsの普及に努めている。「私たちはSDGsの専門家になっており、情報を市民に伝える新たな手段を常に模索しています。」と、ナッツドッティル氏は語った。

2015年、アイスランド国連協会とユニセフ、教育省は、合同でSDGsに関する教材を翻訳するなど、「世界最大の教訓(World’s Largest Lesson)」をアイスランドでも利用できるようにした。オルヴィッソンさんはおそらく、この取り組みの一環としてSDGsに関する教訓を得たに違いない、とナッツドッティル氏は語った。

「SDGsに関する教材の選択肢を増やし、この9月にふたたび『世界最大の教訓』に参加予定です。」とナッツドッティルは語った。(原文へPDF

翻訳=INPS Japan

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