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悲惨な結末を招く貧困の罠

【レノ(米ネバダ州)IDN=J・W・ジャッキー】

国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、不平等を根絶し、世界の健康状態を改善するグローバルな道筋を示している。SDGsのアジェンダは、貿易や保健、ジェンダー不平等、貧困、疾病、環境保護、その他の主要な目標全てが互いに密接につながっていることを明確に示している。

したがって、貿易上の不均衡を是正し、地域開発を進めることによってSDGsのアジェンダを達成しようと考える者なら、SDGsがお互いにどう連結し、そのすそ野がいかに広いものであるかを心に留めておかねばならない。

Sustainable Development Goal
Sustainable Development Goal

例えば、貿易を増やすことによって貧困を削減することを目標にした戦略は、環境を損なわずにはおかない。それは、もっとも貧しい者をさらに不平等な地位に落し込み、より健康を害するような持続不可能な動きを生み出す。不平等は、SDGsのアジェンダが取り組もうとする全ての主要な世界的問題の根本原因だと考えられている。貧困と健康の間の関連は明らかだ。

貧困の罠

貧困と不健康は互いに密接に関連している。低収入は健康の悪化につながる。医療が営利化されている社会では、このつながりはより直接的で明白なものとなる。もし病気になって病院に行ったり薬を買ったりするお金がなければ、健康状態は良くならないだろう。しかし、貧困と不健康の間の連鎖反応は一般にはあまり理解されていない。病気になった人は働けないし、家族も養っていけない。そこで貧困の罠にはまってしまう。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

病気から抜け出せなくなると、家族の収入は落ち込む。病気が進行すると、以前は受けられた治療に対して費用が払えなくなる。国民皆医療保険制度が整っている(低所得者は処方薬も無料)英国のような国でさえ、貧困と健康の問題は相互に関連している

研究によれば、英国の貧困家族は、そうでない家族に比べて明らかに不健康であるという。感染症の場合はそうでもないが、糖尿病や虫歯、肥満、喘息、心臓病の場合は、こうした連関がみられる。これらの場合においては、貧しい家族は、安く質の悪い食事やその他の社会的要因のサイクルにはまってしまっている。

病気の蔓延という罠

収入が減ると、より難しい判断を迫られる。衛生状態は悪くなり、虫が湧き、食事が貧しくなり、結果的に飢餓に陥る。病気は、常識として考えられているのとは異なり、無差別に襲うのではない。貧困の罠にかかると、衛生状態が悪くなり、その他の関連要因も相まって、病気に対する免疫システムが弱まり、感染症に罹りやすくなる。

例えば、金銭的な余裕があればゴキブリは簡単に抑制できるが(またお金をかけた堅固な家ならそもそもゴキブリは出没しにくい)、お金がないならそれは極めて難しい課題となる。ゴキブリは、アレルギーや喘息疾患の可能性を高め、特定の食物から栄養を摂取する身体能力を減退させ、免疫システムを弱め、高い医薬品の支払負担を増やす。この問題は、大腸菌からペストまであらゆる菌を広める虫にからんだ、氷山の一角である。

例外

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

バングラデシュは魅力的な国であるが、専門家らが「バングラデシュのパラドックス」と呼ぶものがある。世界で最も貧しく人口過密な国の一つでありながら、同国は医療において目覚ましい進展を遂げ、それが民衆の著しい生活改善につながっているのである。バングラデシュにおける健康状態の改善は、貧困と健康の連関を否定する証拠の一つとみなされるかもしれないが、真実はもっと込み入っている。

現実には、バングラデシュはSDGsの強力な主唱国のひとつであり、保健問題への同国のアプローチは「すべての人に教育を」というものである。同国は、貧困への対処にあたって、革新的かつ現地の実情に合わせたアプローチを採っているが、保健に関してはより全体的な見方をしている。医療に直接的に資金を流し込むのではなく、若い女性に対する教育の平等を重んじているのである。

こうした教育プログラムは、予防接種や経口水分補充療法、家族計画、その他の長期的な取り組みが好意的に受け止められる効果を生んでいる。貧困や持続可能性、不健康につながるその他の要因を考慮に入れることによって、それらの目標を間接的に達成することが可能になった。

SDGs Goal No. 4
SDGs Goal No. 4

より広範で他の領域とつながったアプローチが将来のために必要

一見したところ、グローバルな貧困への解決策は、富める者が貧しい者に対して食料や医薬品を恵むことにあると思われるかもしれない。しかし、この持続不可能な支援のやり方は、結局のところ世界的な破滅につながるサイクルを生むだろう。貧困は不平等からやってくる。それは、低収入によって直接的にも起こり得るが、間接的には、不健康や低開発、低レベルの教育、ジェンダー不平等、その他の環境要因によっても起こりうる。

英国の経験は、医療が無料で提供されていても、貧困を原因とするその他の不平等が、貧困層の健康悪化につながらざるを得ないことを示している。他方で、バングラデシュの経験は、より広範で、他の分野とつなげた考え方が採られるならば、より少ない投資でより大きな効果が得られることを示している。貧困と不健康は密接に連関しているが、その関係は寄生的でサイクル的なものである。そのいずれも孤立して生じるのではない。これら2つの重要な指標を超えた部分を見据えることで、これらを適切に予防することが可能だ。(原文へ

UN Photo
UN Photo

翻訳=INPS Japan

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|SDGs|2030年の期限に間に合わせるには緊迫感をもった取り組みが必要(アントニオ・グテーレス国連事務総長)

SDGs実行のためグローバル教育行動アジェンダを採択

立場の違いを乗り越え「移住に関するグローバル・コンパクト」が最終合意される

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

越境移動の管理強化とそれにともなう難題に取り組み、移住者の権利強化と持続可能な開発に貢献する包括的なグローバル・コンパクトに各国が合意したことについて、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「重大な成果だ」として歓迎し、ミロスラフ・ライチャーク国連総会議長は「歴史的瞬間」と表現したが、今回の合意は、こうした関係者の努力を称賛するレトリック以上の大きな成果であった。

グローバル・コンパクトは法的拘束力を持たない協力の枠組みだが、(移民・移住者をめぐる国内における対処や国際協力のあり方の枠組みとなる)文書案「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(「移住に関するグローバル・コンパクト」)」が史上初めて、加盟国政府、地方自治体職員、市民社会、移住者らが参画した1年以上に亘る議論や協議を経て合意に達した。

文書案は、各国の立場の違いを乗り越えて7月13日に最終合意された。9月に任期を終えるライチャーク国連総会議長はこの点について、「大きく立場が異なる政府代表らも議論を尊重し互いに耳を傾ける方法を見出しました。私は人間性が常に優位に立つものだと確信しています。だからこそ人類は、国際連合を創設し、国連総会のような組織を作ったのです。国連総会では、全ての加盟国が対等の立場にあり、あらゆる問題について議論がなされ、あらゆる声に耳が傾けられるのです。」と指摘した。

また、12月10日・11日にモロッコのマラケシュで国連総会の一環として開かれる会議で各国首脳により正式に採択されることになる「移住に関するグローバル・コンパクト」は、重要な局面で合意された。

記録によると、グローバル・コンパクトに関する協議が開始されてから、移民の死者数は既に2098人に達しており、そのうち約400人が子どもである。犠牲者の多くは、報道されることもなく、砂漠やその他の危険な道のりで命を落としている。また、無数の女性や女児が人身売買の犠牲者となっている。そして、文書案が議論されている間も、何千人もの移民労働者が、「自身の健康や安全、そして家族の安泰を心配してきた。」

ライチャーク国連総会議長は、「同時に、移住問題は引き続き政治的な道具として、あらゆる分野で利用されてきました。その内容はしばしば事実に基づくものではなく、政治的な関心に基づいて問題化されてきたのです。」と指摘した。そして、「移住に関するグローバル・コンパクト」がもたらす大きな可能性を説明して、「この合意は、移住を奨励するものでも、止めようとするものでもありません。法的拘束力を持たず、命令するものでもありません。また、何かを義務付けるものでもありません。そして、各加盟国の主権を完全に尊重しています。」と語った。

Photo: African Refugees

しかしその代わり、「この合意により、国際社会は(移民問題に対して)従来の反発モードから積極的に問題解決をはかるモードに転換することができます。これにより移住がもたらす利点を引き出すことが可能となり、リスクを緩和できるようになるのです。つまり移住に関するグローバル・コンパクトは新たな協力のためのプラットフォームを提供してくれるのです。また、人々の権利と国の主権の間にある適切なバランスを見出す手助けともなります。」とライチャーク国連総会議長は語った。

グテーレス事務総長は、今回の合意は、「越境移住とは、まさに本質的な意味で、国際的な現象であり、この現実を効果的に管理するには、すべての国々に好影響をもたらす国際協力が必要であるということ。そしてあらゆる個人に、安全を確保し尊厳を持って保護を受ける権利がある」という加盟国間の共通の認識を反映したものである、と語った。

「この包括的な枠組みは、一連の目的、行動、履行にむけた道筋、フォローアップ、再検討から成っており、非正規移民の数と影響を抑制する一方で、安全で秩序ある正規移住を促進することを目的としています。」とグテーレス事務総長は付け加えた。

グローバル・コンパクトは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「難民と移民のためのニューヨーク宣言」で表明された公約に深く根ざしており、全ての移民の権利を尊重しつつ、あらゆる国々やコミュニティーのために、越境移動の全ての側面を適正に管理する、初の世界的(=グローバル)な合意(=コンパクト)となる。

SDGs logo
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2016年9月19日、国連総会は全会一致で「難民と移民のためのニューヨーク宣言」を採択した。「ニューヨーク宣言」は難民と移民の権利を守り、人命を救うとともに、世界規模で生じている大規模な人の移動に対する責任を共有するという政治的意志を表明した。この宣言に基づき、国際社会は難民および移民をめぐる課題に関する枠組みとなる二つの「グローバル・コンパクト」を2018年内に採択することになった。

ニューヨーク宣言の採択にあたって加盟国は:

・やむなく逃れることを強いられた人々との、心の底からの連帯を表明した。

・難民と移民の人権を完全に尊重する義務を再確認した。

・難民を保護し難民を受入れている国々を支援することは国際社会が共有する責任であり、より公平に予想ができる形で責任分担を果たすことに同意した。

・難民と移民の大規模な移動により影響を受けている国々を堅固に支援することを誓った。

・包括的な難民対応枠組み(CRRF)の核心要素に合意するとともに、

・「難民に関するグローバル・コンパクト」及び「移住に関するグローバル・コンパクト」の採択に向けて取り組んでいくことを合意した。

アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は、国家主権と人権、自由意思による移動の中身、開発と流動性の関係、社会的一体性を支援する方法等、移住問題が引き起こす深刻な問題に注目を集めた。

「このコンパクト合意は、多国間協調主義が持つポテンシャル、つまり、世界的な協力を必要とする問題について、それがどんなに複雑で議論を呼ぶものであったとしても、国際社会が協力し合う能力があるということを示すものとなりました。」とモハメッド国連副事務総長は指摘した。

ルイーズ・アーバー国際移住に関する国連事務総長特別代表は、「人間の流動性はこれからも人類に常につきものですから、(移住問題に伴う)混沌として危険で搾取的な側面を新しい正常(ニュー・ノーマル)にしてはなりません。」と断言した。

「グローバル・コンパクトが履行されれば、安全と秩序、経済的な進歩、そして全ての人々に恩恵が及ぶ経済発展がもたらされることになります。」とアーバー特別代表は強調した。

「今回の最終合意は取り組みの終わりではなく、向こう数十年に亘って移住に関する世界的な課題を方向づけていく新たな歴史的取組の始まりに他なりません。」とウィリアム・レイシー・スウィング国際移住機関(IOM)事務局長は語った。

「文書案を協議する過程で、国連加盟諸国は、移住問題は常に人々に関する問題であることを明確に認識してきました。メキシコとスイスの共同ファシリテーター並びに国際移住に関する国連事務総長特別代表による称賛すべき指導の下で採択された、移民を中心に据えたアプローチは、類を見ないものです。」とスイング事務局長は語った。(原文へ

INPS Japan

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森林は気候変動対策のカギを握るも、投資は少ない

【オスロIDN=ファビオラ・オルティス】

森林の破壊と劣化に伴う温室効果ガスの排出を減らすメカニズムである「REDD+」が気候問題の協議で取り上げられるようになって既に10年が経過したが、温室効果ガス削減のための投資は不十分なままである。

世界資源研究所(WRI)のフランシス・シーモア主任研究員は「科学的知見によれば、温室効果ガスの排出を削減するうえで森林が解決策の3割のウェイトを占めていることがわかっているにも関わらず、気候変動に関する予算の2%しか森林関係に使われていません。」と語った。

Frances Seymor/ WRI
Frances Seymor/ WRI

地球の温度上昇を産業革命前(つまり人為的な温暖化が起きる前)と比べて2℃未満に抑えるという目標を掲げた「パリ協定」を実施する上で森林が果たす役割について討論する「オスロ熱帯雨林フォーラム」(ノルウェー、6月27・28日)の参加者500人の中に、シーモア研究員の姿もあった。

ノルウェーの気候・環境省と開発協力庁(NORAD)が主催したこの会議には、学界、政界、民間部門、市民社会から参加者が集い、現状の森林を保護・回復・管理する必要性について話し合われた。というのも、森林破壊はCO2排出の推定11%を占めており、大豆生産や牛の放牧、パーム油のプランテーション、木材生産のために森林が世界中で危機に直面しているからだ。

「CO2を捕捉・貯蔵する上で、唯一の天然かつ安全で、費用対効果が高いことが証明済みの技術が、森林だ。しかし、森林が温室効果ガスの排出を削減する解決策に占める割合が3割であるにもかかわらず、森林に対する投資が2%にとどまっているギャップがあることは、大きな問題です。」とシーモア氏は語った。

森林破壊を止め森林を回復することで、毎年70億トンものCO2を削減できる可能性がある。これを自動車の削減に換算すると15億台に相当するが、これは全世界の自動車台数を上回っている。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

今回の会議に際して「グローバル・フォレスト・ウォッチ」が発表した報告書によれば、2017年には、史上最も広い1580万ヘクタールの熱帯雨林が失われたという。

森林の消滅が「壊滅的なペース」で進行しつつあると指摘したノルウェーのオラ・エルヴェストゥエン環境相は、さらなる国際協力と投資を呼びかけた。

エルヴェストゥエン環境相は、「持続可能な開発のために、森林破壊の流れを食い止め反転させる必要性について、誰も疑問をさしはさむ者はいません。」「森林破壊を止めることは、規制の問題であり、執行の問題であり、インセンティブの問題です。もし成果支払いであったなら、数字はまったく違ってくるだろう。政治的意志と結果を見せることで、積極的に森林保護を図ろうとする国々に、今後も報いていきます。」と語った。

パリ協定は、世界の気温上昇を1.5度に食い止める努力を追求することを目的とした取り組みの中心に「REDD+」を据えた。にもかかわらず、努力は「きわめて不十分」とエルヴェストゥエン環境相は語った。

Minister of Climate and Environment Ola Elvestuen/ Government of Norway
Minister of Climate and Environment Ola Elvestuen/ Government of Norway

「10年前には、REDD+によって数百億ドル規模のCO2市場が動くと見られていたが、そんなことは起こらなかった。REDD+の発想自体に問題があったということだ。」とエルヴェストゥエン環境相は説明した。

アマゾン基金

今年10周年を迎える「アマゾン基金」は、森林の消滅を食い止める取り組みとしては成功例と考えられている。世界最大の熱帯雨林であるアマゾンは600~800万平方キロの面積を持ち、世界の生物多様性の10%と淡水の15%をカバーしている。アマゾン熱帯雨林は毎年20億トンのCO2を大気から吸収している。

2008年にブラジルで立ち上げられた同基金は、ブラジルのアマゾン熱帯雨林(アマゾン盆地全体の65%を占める)破壊に対する予防、監視、取締りを行うと同時に、森林の保全と持続可能な利用を促進する取り組みに対して非返済型投資のための寄付を集めるべく創設された「REDD+」のメカニズムである。

ノルウェーは同基金創設以来最大のドナー国で、すでに11億ドルを供出している。2004~17年にブラジルはアマゾン生物群系の減少を75%食い止めることができた。

ブラジルは2030年までにアマゾンにおける違法な伐採を止め、1200万ヘクタールを熱帯雨林を回復することを公約している。

しかし、2015年以来、ブラジルのアマゾンの熱帯雨林破壊率は27%上昇し、「アマゾン民衆環境研究所」が最近発表した報告書では、昨年からこの数値がさらに上昇していると警告されている。

View of Amazon basin forest north of Manaus, Brazil. / Phil P Harris. - Own work, CC BY-SA 2.5
View of Amazon basin forest north of Manaus, Brazil. / Phil P Harris. – Own work, CC BY-SA 2.5

エルヴェストゥエン大臣は、アマゾン基金は「大きな成功」だったと考えているが、近年森林喪失の度合いが悪化していると指摘してきた。

「この10年でブラジルにおいて森林破壊が減速してきた状況を見れば、まちがいなくこれは成功と言えます。私たちの供出によってドイツの領土よりも広い96の先住民族居住地域が支援対象になり、100の国立公園を保護し、ブラジルの環境警察を強化してきました。これをさらに前進させる意欲と意志を持つ国々と協力を続けていきたい。」とエルヴェストゥエン大臣は語った。

「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC、2007年のノーベル平和賞受賞団体)による第4次評価レポートの主著者のひとりであり、気候問題が専門の科学者カルロス・ノーブレ氏は、アマゾンは、生命力にあふれた森からサバンナへと不可逆的な変化を遂げる分岐点に達しつつあると警告している。

Carlos Nobre, Senior Fellow/ WRI Brasil
Carlos Nobre, Senior Fellow/ WRI Brasil

アマゾンを40年以上にわたって研究してきたノーブレ氏は、「熱帯雨林の素晴らしい役割は将来的に保証されないかもしれません。」と指摘したうえで、「私たちに残されたのは数年。森林破壊率を押し下げるのに10年は待っていられません。この世界的な熱帯雨林の大規模な回復に向けて力を入れていかなければなりません。科学的知見は、私たちが、この世界的な熱帯雨林の減少をくいとめ、新たに持続可能な開発の道筋を見出さねばならないことを示しています。」と語った。

ブラジル出身のノーブレ氏は、地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるには、CO2を毎年大気から60~80億トン除去する約300万平方キロの熱帯雨林を回復する必要があると警告した。

「皆で行動すれば達成可能です。開発の第三の道を考えなくてはなりません。すなわち、イノベーション、科学技術、伝統的な知を生物多様性のために糾合することです。私たちは、永続的な森のバイオ経済、生物多様性を基盤とした経済を開発しなくてはなりません。」とノーブレ氏は説明した。

オスロフォーラムの間、エクアドルの1360万ヘクタールの熱帯雨林を保護することを目的に、ノルウェーとドイツが同国とパートナーを組んで5000万ドル規模の成果連動型REDD+を始める協定に署名した。

加えて、ノルウェー政府は、国際刑事警察機構(インターポール)、国連麻薬犯罪合同事務所(UNODC)、ノルウェー・グローバル分析センターが組んだ違法伐採撲滅に向けた事業のために1500万ユーロ(1750万ドル)を拠出することを発表した。

組織犯罪者らが、熱帯雨林の違法伐採から毎年500~1520億ドルの利益を得ている。木材や炭作り、金採掘のための天然資源の収奪は、世界の最貧国の一部に年間7.7億ドル相当の損害を及ぼしている。

先住民族の貢献

オスロで発表された新しい知見によれば、先住民族と地域社会が、保護区域を保全するために、官民が行う投資の4分の1相当の気候資源を保護しているという。

Victoria Tauli-Corpuz/ UNSR on the rigts of indigenous peoples
Victoria Tauli-Corpuz/ UNSR on the rigts of indigenous peoples

先住民族と地域社会には、世界の土地の少なくとも半分に対する慣習的権利があるが、法的な所有権はわずか1割にとどまっている。ある研究では、法的に認められた共有森林では、他の土地保有形態の場合と比べて、より多くのCO2を保持し、森林破壊の率も低いという。

法的に不安定な状態に置かれているにも関わらず、先住民族社会は毎年45億ドルを保全のために投資している。これは、公的な環境関連機関が土地と森林の保全のために行っている年間の投資額の23%にも相当する、と同報告書は述べている。

先住民族の指導者や環境保護家らにとって状況は「ずっと深刻化」しつつあると、「先住民族の権利に関する国連特別報告官」であるビクトリア・タウリ=コルパス氏は語った。

タウリ=コルパス氏は、「これらの国々では人権問題の優先順位が低い。」と指摘したうえで、「資源の収奪に経済的な利益がかかっている多くの国々を訪れて感じたことですが、(こうした行為の)免責と犯罪化によって最も損害を受けているのは先住民族です。これは構造的な問題なのです。」と語った。(原文へPDF 

INPS Japan

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Special Coverage From The United Nations

The High-level Political Forum, United Nations central platform for follow-up and review of the 2030 Agenda for Sustainable Development and the Sustainable Development Goals, met from July 9-18 at the UN Headquarters in New York. The HLPF 2018 ministerial meeting was convened from July 16-18.

Apart from covering the ministerial meeting, INPS-IDN DG and Editor-in-Chief Ramesh Jaura met with some of the current and former senior officials of the world body, UN and G77 experts, New York-based UN correspondents and some of our partners.

Highlights of the journalistic coverage were among others interviews with Albania’s Deputy Prime Minister Senida Mesi and Brian Williams, the UN Resident Coordinator and UNDP Resident Representative in Tirana.

Albania was among 47 countries that carried out Voluntary National Reviews during the ministerial meetings.

|SDGs|2030年の期限に間に合わせるには緊迫感をもった取り組みが必要(アントニオ・グテーレス国連事務総長)

【国連IDN-INPS=アントニオ・グテーレス】

持続可能な開発のための2030アジェンダは、この地球の全ての人々が尊厳をもって平和で豊かに暮らしていくためのグローバルな青写真を提供しています。アジェンダが履行されて今年で3年目になりますが、各国はこの共通のビジョンを、各々の国家開発計画や戦略に転換しています。

2018年持続可能な開発目標レポートは、2030アジェンダの多くの分野でみられた進展を強調しています。2000年以来、サブサハラ・アフリカでは、妊産婦死亡率が35%、5歳未満死亡率が50%、それぞれ低下しています。

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南アジアでは、女児が子どものうちに結婚するリスクが40%以上も低下しています。後発開発途上国(LDC)では、電力を利用できる国民の割合が2000年から2016年にかけ、倍以上に伸びました。

全世界で労働生産性が上昇し、失業率は低下しています。2018年までに、108カ国が持続可能な消費と生産に関する国内政策とイニシアチブを策定しています。

一方で、報告書は2030年までにアジェンダの目標やターゲットを達成するには進展が不十分な分野があることも明らかにしています。この傾向は、とりわけ社会から最も取り残され不利な立場に置かれた人々の間で顕著に見られます。若年失業率は成人の3倍に上ります。幼児と思春期の子どもの過半数は、最低限の読み書き計算能力を身に着けていません。

2015年の時点で、23億人が依然として、基本的な水準の衛生サービスさえ受けられず、8億9,200万人が屋外排泄を続けています。2016年の時点で、ほぼ10億人が電力を利用できず、毎夜を暗闇の中で過ごしていますが、そのほとんどは農村部に居住しています。サブサハラ・アフリカの出産年齢女性のHIV感染率は、世界平均の10倍(非感染者1,000人当たり2.58人)と極めて高くなっています。また、都市住民の10人に9人は、汚染された空気を吸っています。

女性や女児に対する一部の形態の差別は減少傾向にありますが、引き続き性差別により、女性達の基本的人権や機会が奪われています。

紛争、気候変動や、貧富の格差拡大が、国際社会にさらなる課題を突き付けています。世界の飢餓は長く減少を続けてきましたが、栄養不良に陥っている人々の数は、主として紛争や干ばつ、気候変動関連の災害により、2015年の7億7,700万人から2016年の8億1,500万人へと増大しています。2017年の時点で、北大西洋のハリケーンシーズンの被害が史上最大規模に達しました。また、ここ5年間の地球の平均気温も過去最高となっています。

現在の立ち位置を示す証拠なくして、私たちは自信を持って持続可能な開発目標を実現する計画を立てることはできません。そのため、この報告書は、タイムリーかつ利用可能な信頼できるデータを収集、処理、分析および配給するうえで直面する課題を明らかにしたうえで、すべての国々が2030年に向けたプログラムと取り組みの指針として、正確なエビデンスと包括的なデータを得られるようにすることが必要だと呼びかけています。

Photo: Cover of The Sustainable Development Goals Report 2018.
Photo: Cover of The Sustainable Development Goals Report 2018.

今日の技術をもってすれば「誰一人取り残さない」という(SDGsの)公約を守るために必要なデータを照合することは可能です。しかしそのためには、現在利用できるツールをさらに拡大するための政治的なリーダーシップと十分な資源、そしてコミットメントが必要です。

2030年の達成期限まであと12年しか残されていない今、私たちは緊迫感を持って取り組まねばなりません。2030アジェンダを達成するためには、諸政府と全てのステークホルダー間の共同パートナーシップと連動して、各国が直ちに取り組みの速度を上げなければなりません。

この野心的なアジェンダは、旧態依然を打破する重大な変化を必要とするものです。国連は自らの役割を果たす一環として、2030アジェンダを遂行するために国連開発システムを再構築する改革イニシアチブに着手しました。この改革の目的は、国連の透明性を高めるとともに、より効率的で一貫性がある組織にすることです。私たちは、持続可能な開発目標をあらゆる人々のために、そしてあらゆる場所で現実のものとするために、全ての加盟国と連携していく準備ができています。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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バチカン会議、「持続可能な開発」と「核兵器禁止」のネクサス(関連性)を強調

核兵器禁止条約は核時代の終わりを照らし出す(レベッカ・ジョンソンICAN共同議長・アクロニム研究所所長)

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【ロンドンIDN=レベッカ・ジョンソン

私たちがこの激動の時代を生き延びることができたなら、歴史は、2017~18年を、核時代の終わりを告げ、(望むらくは)平和構築と安全保障の始まりの時代と記録することになるかもしれない。

あまりにも長い間、つまらないナショナリズムが「男らしさ(マスキュリニティー)」という攻撃的な観念に武器を授け、暴力的な行動に対して権力や征服、物質的富という見返りを与えてきた。様々な帝国が栄枯盛衰を繰り返す中で、家父長制的な支配者たちが、本来人類が分かち合うべき地球上(陸海空)の生息環境を汚染し歪めてきた。地球のすべての生命を破壊する能力を持つ核兵器は、政治的権威や地位、そして奇妙なことに安全保障のための道具とみなされてきたのである。

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今や、歴史的な核兵器禁止条約が昨年国連で交渉、採択、署名開放されたことで、私たちは、この家父長制的で大量破壊的な考え方を変え、世界を救う手段を手に入れた。もし私たちが生き延びようとするのならば、安全保障を形作っているものに関する理解を変革する必要がある。つまり、より多くの兵器や国家の分断ではなく、(安全保障のために本当に必要とされているものは)より充実した教育であり、平和的で持続可能な暮らしを可能にする資源や責任の国際的共有なのである。

2017年に採択された核兵器禁止条約は、国連総会が1996年9月に包括的核実験禁止条約(CTBT)を採択して以来初の、核に関する多国間条約である。1968年に核不拡散条約(NPT)が成立してから50年が経過した。これらと同じく、核兵器禁止条約は、その法的・道徳的・規範的効力の根拠を、核兵器がもたらすリスクや危険、人道的帰結に置いている。また、被害者の権利や核技術・放射線が及ぼす影響の性差を認識し、持続可能な軍縮や平和、安全保障に対する女性の貢献の重要性に焦点を当てている点に、この条約が持つ安全保障に関する21世紀的理解が表れている。

今日の世界は依然として戦争と暴力によって引き裂かれ、道徳のかけらもない武器製造者や武器商人が、紛争や痛み、悲惨から暴利を貪っている。しかし、様々な市民社会による運動が、国連加盟国を徐々に説得し、地雷からクラスター爆弾生物兵器から化学兵器、そしてついには核兵器に到る、もっとも非人道的な兵器を違法化し廃絶する取り決めとメカニズムを作らせた。

これらの諸条約は、人道法と軍縮を総合的に扱うもので、当該兵器に悪の烙印を押し、軍による正当化を弱める規範的・法的圧力を生み出すことで、当該兵器を禁止・廃絶しやすくしている。(ICANは2020年までに核兵器禁止条約の批准を発効要件である50カ国から得ることを目指しているが)化学兵器や生物兵器の場合がそうであったように、ひとたび条約が発効すれば、核兵器の使用は人道に対する罪にあたるという道徳的観念が、法的現実を持つに至るだろう。

Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN
Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN

この法的現実は、条約を履行し、個別および組織的な違反者を抑止する強力なツールとなる。核兵器禁止条約は単に核兵器の使用を禁じているだけではなく、核兵器の使用や使用の威嚇、取得、拡散、配備につながるような禁止行為を「支援」することも禁じている。核兵器禁止条約は、国家であれ企業であれ個人であれ、あらゆる主体の法的責任を明確にしていることから、かつて核開発を維持していた経済的・政治的インセンティブはすでに損なわれつつある。

核保有国は条約交渉を頓挫させることに失敗したが、一部の核保有国は依然として、条約に加わることはないと明言している。新条約の価値を貶めないがしろにしようとするこうした企図は珍しいものではない。私たち民衆が、軍事的な野望を駆り立てる地位やインセンティブを弱めるような条約を使おうとするにつれ、その法的・規範的なツールは強化される、というのが経験則だ。市民が裁判所で核を拡散させようとする者を訴え、リスクを避けたい銀行や企業が投資を引き上げれば、諸政府も再考せざるをえない。

当面の最大の課題は、主要な核保有国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国のメディアが、政府と結託して、核兵器禁止条約を無視したり、あたかもこれは真の条約ではないと取り繕っていることだ。私たちは、メディアを教育して、核兵器禁止条約は真のものであり、核軍縮という長く果たされなかった目標を達成するために、多国間で協議され実質的な法的ツールとなったことを理解させなくてはならない。

核兵器禁止条約はNPT体制を基礎とするものであるが、すべての国家に平等に適用され、核兵器あるいは核爆発装置の使用、使用の威嚇、開発、実験、生産、製造、取得、保有、備蓄を違法化している。核兵器や核技術の移転や受領を禁じる点でNPTを受け継いでいるが、さらに進んで、加盟国の領土に核兵器を配備したり配置させることを認めたり、その支援を行うことをも違法化している。

各国がさまざまな政治的・軍事的条件下にあるとの認識をベースに、禁止条約は2つの基本的な法的メカニズムを準備している。これによって、核保有国や核依存国(核の傘に依存している国)は、条約に加入して、自国の戦力や安全保障政策から核兵器を除去するもっとも適切な方法を選べるようになっている。検証手段もまた、特定の国や、変化する条件・時間・技術に対してもっとも適切な形で開発することができる。

Towards a World Withut Nuclear Weapons
Towards a World Without Nuclear Weapons

あらゆる面からして、核兵器禁止条約は、朝鮮半島や中東、南アジア、欧州のような、解決が困難とみなされてきた地域における軍縮を前進させるきわめて効果的なツールとなる可能性を秘めている。今こそ、核兵器禁止条約を実際に機能させる時だ。(原文へ(この文はIDN/INPSが2009年来、創価学会インタナショナルと進めているメディアプロジェクトの2018年報告書「核なき世界に向けて」に寄せた寄稿文である。)

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ワシントンDC IDN=フレデリック・ケンペ】

今から70年前の1948年、ソ連は、冷戦が始まって最初の主要な危機で早期の勝利を収めようとして、西ベルリンに向かう全ての鉄道と道路を封鎖した。しかしソ連の予想に反し、徹底した対抗措置を決意した米国は、英国と協力して「ベルリン大空輸作戦」(又の名称は「糧食作戦Operation Vittles」)を6月26日に開始した。

この大空輸作戦は318日続き、27万回のフライトで150万トンもの物資が西ベルリンに空輸された。ソ連は米国との全面衝突を避けるため、西ベルリンの封鎖を解除した。この事件から1年を経過しない1949年4月、12カ国の首脳が、その後の北大西洋条約機構(NATO)の創設につながる北大西洋条約に署名した。

Berlin blockade/ By Leerlaufprozess, CC3.0
Berlin blockade/ By Leerlaufprozess, CC3.0

現在、米国の北米と欧州における同盟諸国は、米国との非難の応酬がエスカレートする中で追加関税による報復合戦を繰り広げるなど、ベルリン大空輸以来、最も深刻な正念場を迎えている。したがって、ベルリン大空輸作戦が投げかけた、より深いメッセージを振り返ってみる価値はあるだろう。つまり、もし米国が当時危機に直面しても動じない決意を明らかにせず、西ベルリンの市民や西ドイツの国民が米国の意図を疑ったり、リスクが高い大空輸作戦に反対していたとしたら、冷戦はずっと早期に共産主義の勝利の下に終結していた可能性がある。

歴史を念頭に、そして未来に危機感を抱きつつ、私は実態調査と、大西洋評議会主催の国際会議「360・OSサミット電子情報の科学捜査研究所」出席を通じて民主主義の新たな戦いの最前線で活躍している新世代のデジタル自由戦士たちを励ますために、先週ブリュッセルとベルリンを訪れた。

また6月23日には、大西洋評議会主催の「第10回自由賞」を、自由のために貢献した女性達に授与した。今年の受賞者は、マデレーン・オルブライト元米国国務長官、9才のシリア人少女ベナ・アルバエド、アフガン人歌手で活動家のアルヤナ・セイユド、国際女性メディア財団であった。オルブライト元国務長官は、基調講演のなかで、「私たちは今宵、かつて破壊され分断されながら今や新しい欧州の中心にある首都として甦った街(=ベルリン)に集っています。」と語った。

しかしこの授賞式の感動も、注意散漫な米国と方向が定まらない欧州の出現という高まりつつある危険性を覆い隠すことはできなかった。ベルリンとブリュッセルに滞在中、欧州の政策責任者らと面談したが、欧州の安全保障に対する70年におよぶ米国のコミットメントを確信できず不安を抱く者や、むしろ欧州独自で目標を追求する機会だと見ている者もいた。また、実現するには政治的一体性や軍事的資源、核抑止や戦略も欠く「戦略的自治権」といった構想も耳にした。

欧州滞在中、米国の方向性に関する様々な懸念を耳にしたが、私はむしろ欧州の将来について以前より疑問を抱いて帰路についた。移民対策を巡るメルケル新連立政権内の葛藤は、ドイツ政府にとっての懸念事項という問題に留まらず、欧州で最も重要な影響力を持つ国の政治的安定と方向性について疑問を提起している。またイタリアのポピュリスト(大衆迎合主義)連立政権(「五つ星運動」と「連合」)の動向は、ユーロ通貨圏や恐らく欧州連合の将来を占う試金石となるだろう。

英国のブレグジットから中欧における民族主義の台頭まで、ポピュリズムは、共同主権を必要とする欧州プログラムの存続そのものに関する疑問を投げ掛けている。最近米国では、移民の家族が引き離される問題が大きくクローズアップされたが、欧州では、移民論争は、政権の存続を揺るがしかねず、これまでにも難民の受入れを巡って欧州連合加盟国間で対立を引き起こす火種となってきただけに、一層深刻な問題である。(原文へ

INPS Japan

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13000人のアフリカ人がサハラ砂漠に置き去りにされている

【ニューヨークIDN/GIN=リサ・ビべス】

難民や亡命希望者に対する最もショッキングな虐待事例として一部メディアが報じていた件について、国際移住機関(IOM)は、数千人のアフリカ人移民らがアルジェリア政府による国外追放措置によって、炎天下のサハラ砂漠に置き去りにされ、死者が出ている事実を確認した。

このような措置は既に1年以上にわたって行われてきたが、AP通信が最近行った調査報道をきっかけに、一斉に多くのメディアが報じるようになった。アムネスティ・インターナショナルヒューマン・ライツ・ウォッチは、昨年に続いて今年もこうした難民に関する報告書を発表しているが、これまで大手メディアにはほとんど取り上げられいない。

ルワンダのキガリで開催されたアフリカ連合(AU)の臨時首脳会合において、アルジェリアはモーリタニア、チュニジア、リビア、エジプト他数カ国とともに、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の協定に付属した移動の自由と居住権に関する議定書への署名を拒否した。

報道によれば、この動きは、サブサハラ・アフリカから北アフリカに多数の移民が発生するのを恐れたのではないかと見られている。AP通信によると「移民たちの証言内容は、AP通信が数カ月に亘って収集した、数百人もの人々が長蛇に一直線に伸びたバスの車列から追い出され、足取りも重く砂漠の彼方に広がっていく映像資料から確認されている。」

一方、アムネスティ・インターナショナルによると、アルジェリア政府当局は、外国人に対して人種による選別や逮捕を行ったうえで、この3週間の間に、2000人を超える様々な国籍のサブサハラ・アフリカ出身者を国外に強制退去させている。この中には、25人の孤児を含む300人強の未成年者がいる。

「数百人におよぶ人々を、肌の色や推定される出身国を判断基準に、逮捕し強制的に国外退去させるという行為は、決して正当化できるものではありません。これは、大規模な人種的プロファイリングを行った露骨な事例です。」と、アムネスティ・インターナショナル北アフリカ研究所のヘバ・モラエフ所長は語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

一方、アルジェリア政府当局は虐待の嫌疑をきっぱりと否定している。アルジェリア外務省は、我が国の憲法に明記されている通り、「我が国は、人権に関する国際条約に対する公約を破ったことはありません。」と述べている。

さらに外務省は、「我が国は、アルジェリア国内の市民及び外国人をあらゆる形態の差別から保護する諸法律に批准しています。」と強調したうえで、「アルジェリアは長年に亘って、母国で安全が脅かされている難民を受け入れてきました。」と付加えた。

アルジェリア外務省はまた、近年前例のない勢いで不法移民が急増したが、アルジェリア国民の安全を確保するために国際法と諸義務は順守されたことを事実と認めている。

「不法移民問題に取り組む最良の方策は、数百人にのぼる男性、女性、子ども達を外国に追いやっている根本原因に対処することです。」と外務省は強調した。(原文へ

INPS Japan

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相馬雪香さんの言葉の力とリーダーシップ(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

【IDN東京=石田尊昭】

今年は、尾崎行雄三女・相馬雪香(そうま・ゆきか)さんの没後10年にあたります。

去る6月14日、第40回女性経営者物流セミナー(主催:東京都トラック協会。企画・運営:東京都トラック協会女性部)で講演をさせて頂きました。テーマは、「相馬雪香さんの言葉の力とリーダーシップ」。

相馬さんの没後10年という節目に、相馬さんの信念や生き方についてお話しする機会を頂けたことを大変光栄に思います。

当日の参加者は、すでに強いリーダーシップを発揮し、活躍されている女性経営者の方々でした。そんな皆さんにとって、私の話す「相馬さんのリーダーシップ」は、すでに日々実践されている、「当たり前」のことだったかもしれません。にもかかわらず、本当に熱心に耳を傾けメモをとって下さる姿に、講演中ずっと感激していました。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

改めて、主催者・参加者の皆様に心から感謝申し上げます。(講演終了後、拙著『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉と『心の力も完売して頂きました。有り難うございました。)

テーマは「相馬雪香さん」についてでしたが、講演時間の約半分は、相馬さんの父であり、憲政の父でもある「尾崎行雄」について話しました。なぜなら、尾崎を語ることが、そのまま相馬さんを語ることにもなるから。そのくらい両者には、強い絆と共通の信念・生き方があると思っています。

相馬さんは政治家にはなりませんでしたが、常に「世界の中の日本」という視点を持ち、社会や国はどうあるべきか、そのために自分には何ができるかを本気で考え、できることから行動を起こしました。自分の利害得失ではなく「世のため、人のため」という思い。しがらみや権威にとらわれず「誰が正しいかではなく何が正しいか」を問い続ける姿勢。権力に迎合せず、同時に国民に有権者としての厳しい自覚を説き続けた相馬さん。まさに、父・尾崎行雄がそうであったように。

当日の講演を、国際通信社「INPS Japan」理事長兼マルチメディアディレクターの浅霧勝浩さんが収録・編集して下さいました。

以下の動画は、当日の講演時間の約半分(40分程度)ですが、ポイントを絞り込んで、わかりやすくまとめて頂いています。尾崎と相馬を大事に思い、自身もグローバルな視点で「声なき声」を伝える浅霧さんならではの編集です。感謝申し上げます。

講演『相馬雪香さんの言葉の力とリーダーシップ』(石田尊昭)

難航が予想される国連事務総長の軍縮アジェンダ(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長

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私たち共通の未来を守る』と題されたアントニオ・グテーレス国連事務総長の新たな軍縮アジェンダが発表されたが、「現在の行為主体(アクター)の下で、私たち共通の未来を守れる可能性は低い」、とジャヤンタ・ダナパラ氏は記している。ダナパラ氏はスリランカの元大使で、元軍縮問題担当国連事務次長である。「私たちは、行為主体の交代を待つか、失敗した交渉の瓦礫の中から新たな出発を模索するしかありません。しかしそれも、予測不能なトランプ大統領と金正恩北朝鮮最高指導者にかかっている。」とダナパラ氏は記している。

【キャンディIDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

大々的に予告されていたアントニオ・グテーレス国連事務総長による軍縮アジェンダは、5月24日、ジュネーブ大学の学生たちの前で披露された。

これはグテーレス国連事務総長の就任2年目に出されたものだが、残念なことに、今日の国際局面は、米軍(とりわけ核戦力)の優越を主張して好戦的な言辞を放つ目立ちたがりのトランプ大統領の愚かな言動によって支配されている。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

またこれは、シリアやイエメンなど世界各地で、化学兵器のような禁止されている兵器や人工知能を用いた新兵器技術が使用されて紛争が激しさを増す中で、発表された。つまり、今回の国連事務総長による演説の聴衆が、未来にインパクトを及ぼすであろう若者達であったことの象徴的な意義は明らかだ。

これに先立つ1か月前の4月26日、国連総会は、「核軍縮に関する国連ハイレベル会議」を無期限で延期することを決定した。

グテーレス国連事務総長は演説の中で今日の厳しい状況について正確に解説している。「同時に、戦争の性格自体も変わりました。」

「今日の紛争はより頻繁で長期化し、一般市民への被害も大きくなっています。内戦は地域的、世界的な利害関係と結び付いています。紛争当事者は、場合によっては、暴力的過激派戦闘員やテロリスト、民兵組織、あるいは普通の犯罪者集団であることもあります。しかも、こうしたグループは銃だけでなく、ドローンや弾道ミサイルを含む大量の武器を所持し、常にその増強を図っています。」

「全世界、特に最も危険な地域で、軍事費が増大し、軍備競争が加速しています。」

the MQ-1 Predator unmanned aircraft/ U.S. Air Force photo/Lt Col Leslie Pratt
the MQ-1 Predator unmanned aircraft/ U.S. Air Force photo/Lt Col Leslie Pratt

「昨年の軍事支出は、兵器購入額を含めて1兆7000億ドルを超え、ベルリンの壁崩壊後の最高となりました。この額は、全世界の人道援助に必要な金額の約80倍にも当たります。」

「化学兵器も再び使用されています。国際社会は分裂し、効果的な措置を講じることができていません。」

「戦場での使用を念頭に製造された強力な破壊力を持つ爆弾が、今では一般市民の居住区で使われています。」

「また、既存の法律や条約の枠組みを越えかねない、人工知能や自律型システムを用いた新型兵器も生まれてきています。」

「その一方で、貧困に終止符を打ち、健康と教育を促進し、気候変動に対処し、地球を保護するための取り組みに必要な支出がされていません。」

SDGs logo
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国連事務総長は、通常の状況下にあっても、核兵器を持った安保理の5常任理事国に囲まれて、平和や軍縮に関する自身のメッセージに注目を集めさせることは容易ではない。

潘基文国連事務総長は5項目からなる軍縮提案を発表したが、安保理常任理事国に無視された。かつて(ローマ法王には大きな影響力があると聞かされた)ヨシフ・スターリンが、「そいつ(=法王)は何師団持っているんだ。」と嘲笑して答えたとされるが、安保理5大国の態度はそれに重なるものがあるのかもしれない。世界の意思決定者を自負している5大国共通の立場は、国連事務総長 (Secretary-General)に「総長(General)」としてよりもむしろ「事務 (Secretary)」屋としてふるまうことを望んでいる、というものだ。

世界の平和と軍縮における国連の役割が比肩されざる正統性を持っていることは、国連の起源と、1946年1月の国連総会決議第1号が核軍縮に関連するものであったという事実にまでさかのぼる。

私たちは、1962年のキューバ危機において、世界規模の恐るべき核戦争が目前に差し迫ってくる冷戦下の状況をくぐり抜けてきた。

今日、9カ国(そのうち5カ国は50年の歴史を持つ核不拡散条約[NPT]の加盟国)が、約1万5000発の核兵器を保有している。それらの核は、意図的な政策、あるいは意識されざる事故によって発射可能な状態にあり、核のホロコーストを引き起こしかねない。

『原子科学者紀要』(本拠シカゴ)の有名な「世界終末時計」の針の設定に科学・安全保障委員会の一員として私もかつて加わったことがある。いまやこの針は、(=人類滅亡を象徴的に示唆する)深夜まで2分に設定され、冷戦以来もっとも深夜に近づいている。

私は、幸いにも、オーストラリア政府が招集した多国間グループである「核兵器の廃絶に関するキャンベラ委員会」(1996年)に加わることができた。

この報告に忘れがたい一節がある。「核兵器は、こうした兵器には独特の安全保障上の利点があると主張し、しかもそれを持つ権利を自分たちだけに限ろうとする、一握りの国家が保有している。このような状態は極めて差別的であり、従って不安定である。長続きはしないであろう。如何なる国家による核兵器の保有も、絶えずその他の国の所有欲を駆り立てる。」

「世界は核拡散と核によるテロの脅威に直面している。こうした脅威は増大している。排除されなければならない。」

「このような様々な理由から、核兵器は全ての国家の安全保障を縮小しているというのが、一つの重要な現実である。事実、核保有国は自分たち自身が核兵器の目標になっているのである。」

平和を象徴する折り鶴が表紙にあしらわれた「軍縮のための国連アジェンダ」は、世界と地域レベルにおける安全保障環境の分析で力強い議論を展開している。

この文書は、軍事支出が拡大する中であらたな軍縮アジェンダをなぜ必要とするのかを辛抱強く提示し、次に、「人類を守るための軍縮」「人命を救うための軍縮」「未来世代のための軍縮」そして、「軍縮のためのパートナーシップの強化」と話を進めている。

特別なテーマや図表、統計を示した囲み記事の裏付けを伴ったこの文書は、正確かつ厳密な議論を展開している。

非同盟諸国からの要請により1978年に招集された第1回国連軍縮特別総会は、軍縮の協議と交渉を行うための特別な機関を立ち上げる歴史的な最終文書を採択して、新たな境地を切り開いた。しかし40年を経た今、こうした機関のほとんどは、錆びつき活動を弱めている。今回の新しい軍縮アジェンダが、効果を上げていないこのシステムにどのように適用されるのか、そして、誰がその推進力となるのかは定かではない。

すでに、世界の市民社会の力によって昨年、核兵器禁止条約が採択され、この功績によって核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)はノーベル平和賞を受賞した。核兵器禁止条約は、発効に向けて支持を集めつつあるが、歩みは遅い。

核不拡散条約(NPT)は、儀礼的となった運用検討会議を2020年に開催する。

欧州連合とイランが共同包括行動計画(JCPOA)の締結に成功したが、(イスラエルの)ネタニヤフ首相とサウジアラビアからけしかけられたトランプ大統領によってつぶされようとしている。

実施をめぐって紆余曲折があったシンガポールでの米朝首脳会談によって北朝鮮の核の脅威を平和的に解決する可能性が出てきたことが、唯一の前向きなシグナルである。

国連事務総長の新しい軍縮アジェンダが、現在の行為主体(アクター)の下で、私たち共通の未来を守れる可能性は低い。私たちは、行為主体の交代を待つか、失敗した交渉の瓦礫の中から新たな出発を模索するしかない。

しかしそれも、予測不能なトランプ大統領と金正恩北朝鮮最高指導者にかかっている。(原文へ) |イタリア語

翻訳=INPS Japan

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