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決して広島と長崎の悲劇を繰り返してはなりません。一人たりとも新たな被爆者を出してはなりません。(アントニオ・グテーレス国連事務総長)

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【長崎IDN-INPS 】

本日、この平和記念式典において、ご参列の皆様とともに、1945年8月9日に、ここ長崎で原子爆弾の攻撃で亡くなられたすべての方々の御霊に、国連事務総長として、謹んで哀悼の意を捧げられることを光栄に思います。今日ここにご参列の皆様、ならびに原爆のすべての犠牲者と生存者の皆様に対し、最も深い尊敬の念を表明します。

ここ長崎を訪問できましたことは、私自身にとっても大変な喜びです。5世紀近くにわたり、私の国、ポルトガルは、この街と深い政治的、文化的、宗教的なつながりがあります。しかし、長崎は、長い魅力的な歴史を持つ国際都市というだけではありません。より安全で安定した世界を希求する世界のすべて人にとっての、インスピレーションでもあります。この皆さま方の街は、強さと希望の光であり、人々の不屈の精神の象徴です。

爆発の直後、そしてその後何年、何十年にもわたって十数万もの人々の命を奪い、人身を傷つけてきた原爆も、あなたがたの精神を打ち砕くことはできませんでした。広島と長崎の原爆を生き延びた被爆者の方々は、ここ日本のみならず、世界中で、平和と軍縮の指導者となってきました。彼らが体現しているのは、破壊された都市ではなく、彼らが築こうとしている平和な世界です。

原爆という大惨事の焼け跡から、被爆者の方は人類全体のために自らの声を上げてくれました。私たちは、その声に耳を傾けなければなりません。決して広島の悲劇を繰り返してはなりません。長崎の悲劇を繰り返してはなりません。一人たりとも新たな被爆者を出してはなりません。

悲しいことに、被爆から73年経った今も、私たちは核戦争の恐怖とともに生きています。ここ日本を含め何百万人もの人々が、想像もできない殺戮の恐怖の影の下で生きています。

核保有国は、核兵器の近代化に巨額の資金をつぎ込んでいます。

2017年には、1兆7000億ドル以上のお金が、武器や軍隊のために使われました。これは冷戦終了後、最高の水準です。世界中の人道援助に必要な金額のおよそ80倍にあたります。その一方で、核軍縮プロセスが失速し、ほぼ停止しています。多くの国が、昨年、核兵器禁止条約を採択したことで、これに対する不満を示しました。

また、核兵器以外にも、日々、人々を執拗に殺傷する様々な兵器の危険も認識せねばなりません。化学兵器や生物兵器などの大量破壊兵器や、サイバー戦争のために開発されている兵器は、深刻な脅威を呈しています。そして、通常兵器で戦われる紛争は、ますます長期化し、一般市民への被害はより大きくなっています。あらゆる種類の兵器について緊急に軍縮を進める必要性がありますが、特に核兵器の軍縮はもっとも重要で緊急の課題です。このような背景の下、今年5月に私はグローバルな軍縮アジェンダを発表しました。

軍縮は、国際平和と安全保障を維持するための原動力です。国家の安全保障を確保するための手段です。軍縮は、人道的原則を堅持し、持続可能な開発を促進し、市民を保護するのを助けます。

私の軍縮アジェンダは、核兵器による人類滅亡のリスクを減らし、あらゆる紛争を予防し、核兵器の拡散や使用が一般市民にもたらす苦痛を削減するために、現在の世界で実現可能な様々な具体的な行動を打ち出すものです。このアジェンダは、核兵器が、世界の安全保障、国家の安全保障、そして人間の安全保障の基盤を損なうことを明らかにしています。

核兵器の完全廃絶は、国連の最も重要な軍縮の優先課題なのです。ここ長崎で、私は、すべての国に対し、核軍縮に全力でとり組み、緊急の問題として目に見える進歩を遂げるよう呼びかけます。核保有国には、核軍縮をリードする特別の責任があります。長崎と広島から、私たちは、日々平和を第一に考え、紛争の予防と解決、和解と対話に努力し、そして紛争と暴力の根源に取り組む必要性を、今一度思い出そうではありませんか。

平和とは、抽象的な概念ではなく、偶然に実現するものでもありません。平和は人々が日々具体的に感じるものであり、努力と連帯、思いやりや尊敬によって築かれるものです。原爆の恐怖を繰り返し想起することから、私たちは、お互いの間の分かちがたい責任の絆をより深く理解することができます。私たちみんなで、この長崎を核兵器による惨害で苦しんだ地球最後の場所にするよう決意しましょう。その目的のため、私は、皆さま方と共に全力を尽くしてまいります。(原文へ

INPS Japan

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|視点|人間をカネで売るということ(フレッド・クウォルヌ放送作家・映画監督)

アフリカ移民がヨーロッパに流入する際の主要ルートであるイタリアにおける移民論争を念頭に、ガーナ人の父とイタリア人の母の元でイタリアに育ち、今は米国に移住している著名な映画監督がIDNに寄稿した移住の裏にある人身売買の実態を訴えたコラム。本稿の内容は人身売買の問題について、著者がイタリア人の視点から記した個人的な見解であり、IDNの編集方針を必ずしも反映したものではない。

【ニューヨークIDN=フレッド・クウォルヌ】

人身売買によって世界各地のマフィアは1500億ドルを得ているが、そのうち1000億ドルはアフリカ人の売買によるものだ。女性の人身売買を1人行うごとに、ナイジェリアマフィアに6万ユーロが流れ込む。つまり、イタリアで1万人を売買すれば、(送出元の)マフィアの懐に6億ユーロが入る計算だ。しかし、実際にヨーロッパで待ち受ける運命を事前に知っていたら、わざわざヨーロッパへの渡航を望むアフリカ人などいないだろう。

私はイタリアで果てしなく繰り広げられている(移民を巡る)中身を無視した派閥論争に関わりたくはないのだが、アフリカに祖先のルーツをもち、現在はアメリカに移住したイタリア人として、「移民問題」(というよりもむしろ「人の流れ」)について、真実を語る時がきたと思っている。ただし本稿では、離婚に向けた脅迫手段として子どもの親権問題を持ち出す両親のように、問題を政治化して引きずり回す道具としてではなく、さまざまなレベルを伴う構造的な現象として「移民問題」を取扱いたい。

国連の推計によれば、毎年数百万人が人身売買の犠牲となっており、推計1500億ドルの利益が犯罪集団にもたらされている。……繰り返すが、1500億ドル(約16兆8000万円)だ。読者がこれまで実際にアフリカに住んだり働いたりした経験があるか、イタリア在住のアフリカ人を知っているか、あるいは、イタリア以外の新聞から情報を得ているジャーナリストかどうかは知らないが、様々な形態(子ども、臓器、売春)と伴う人身売買は、港の有無にかかわらずイタリア一国だけに関係する現象ではなく、アフリカやアジア、メキシコのマフィアに毎年1500億ドルを稼がせているグローバルな現象なのである。

こうしたカネは、(マフィアが蔓延る)これらの国々の貧困層に再配分されるのではなく、あらゆる種類の嫌がらせを通して貧困層をさらに従属させるのために使われている。マフィアのカネは、麻薬や兵器のために再投資され、ただでさえ危うい政治的なバランスはさらに不安定化する。

貧困レベルでは同じような状況にあり、ヨーロッパは豊かな場所であるという認識を共有しているにも関わらず、モザンビークやアンゴラ、ケニアからヨーロッパにくる人々はほとんどおらず、他方でガーナ(GDPの成長率が7%で、戦争も迫害もない私の父の出身国)からはなぜ人が押し寄せるのか、考えてみたことがあるだろうか?

なぜなら、300ユーロあれば4週間でイタリアに行くことができ、望むならば他のヨーロッパ諸国に移住することもできると村々で触れ回っているナイジェリアマフィアの存在があるからだ。しかし、いい顔をするのはその時だけだ。車に人々を押し込めると、突如として代金は1000ドルに値上げされ、リビアに着くと、最終的な渡航料としてさらに1000ドルが要求される。しかも、約束の4週間ではなく、待ち時間は平均して1年にもなるのだ。

Image: Enlarged and cropped image on Cover of 2016 UNODC Global Report on Trafficking in Persons.
Image: Enlarged and cropped image on Cover of 2016 UNODC Global Report on Trafficking in Persons.

これに、(同様に売られていく)幼い子どもたちの問題を付け加えなければならない。こうした子どもたちは、実の母ではない女性達に委ねられるが、この女性達はヨーロッパに移住するとすぐに消え失せ、売春婦として売られていく。女性1人に対して、マフィアには6万ユーロの取り分が支払われている。1万人の女性を売りさばけば、ナイジェリアマフィアには、年間6億ユーロの利益がもたらされるのだ。

ここに、さらに、アフリカが失っているもの、すなわち若い人材流出の問題が付け加わる。私は、実際に自分の持ち物であるタクシーやわずかな家畜を売ってヨーロッパに来たものの、街頭での物乞いでうまくいって1時間3ユーロ程度の収入、人々からは獣のように扱われ、予定通りに金を貯めることができずにいるガーナからの人々を知っている。

もし故国の村に帰りたいと思っても、そうすることはない。村に帰ってから何を言われるかわからないし、ヨーロッパに渡るために金を使ってしまったことをどう言い訳すればいいかわからないからだ。それどころか、「うまくいってる」とばかりにフェイスブックに自分の写真を投稿し、恥ずかしさから真実を語らないことで、また別の人がヨーロッパに渡ることを煽ってしまっている。(18歳で学校にも行っていない)若者たちが、こうして、簡単に金持ちになれると信じて、ヨーロッパに渡ってくるのだ。

では、アジアのマフィアと同じように、ナイジェリアマフィアによる奴隷貿易とこの犯罪的なペテン行為が今後も続くであろうと考えられるのはなぜだろうか?

SDGs Goal No.10
SDGs Goal No.10

これは誰の利益になっているのだろうか? アフリカ大陸の利益にはなっていない。ヨーロッパに到着するどのアフリカ人の利益にもなっていない。彼らの9割は地下に潜り、まともな仕事にありつくことはないからだ。イタリアの利益にもならない。すでに定住しているアフリカ出身の若年層の4割が無職の状態にあり、社会に貢献することが困難ななかで、これだけ多くの移民を管理し留める経済的・文化的資源を持ちあわせていないからだ。そして、ヨーロッパの人々がアフリカの人々に対して抱くイメージのうえでも、良いことはない。なぜなら、アフリカの人々は常に、犠牲者であり、貧しく、弱い人間だとみなされてしまうからだ。

アフリカ系イタリア人として、また一人の人間として感じることは、こうしたイメージこそが、植民地主義的で、最も人種差別的な態度であるということだ。なぜなら、マフィアや緊急援助支援関連の産業に、善意その他の動機から活動に従事する者を除いて、この態度は誰の助けにもならないからだ。

多くのアフリカ諸国では、5000ドルもの現金があれば、なにもイタリアにまで渡航して物乞にならなくても、小規模な事業なら容易に立ち上げることができる。こうした考え方が明確に、もっと一般の人々に知られていたならば、9割の人々は決してイタリアに渡ろうなどとは思わないだろう。

しかしこうした知識がなく人身売買の犠牲になっているのは、とりわけ、小学校卒業程度の学歴で20歳を迎えた青年たちである。今日のヨーロッパへの移住は、かつて渡航者の多くが30歳で、一部の小学校卒業程度の者を除いて多くが高等教育を受けており、渡航先でまだ工場での仕事を見つけることができ、人間らしい生活が送れた30年前の移住と種類が異なるものとなっている。

海上で移民を支援しているNGOの状況はよく知らないが、アフリカ大陸で活動する人々のことはよく知っている。彼らのほとんどは、寄生的なシステムの一部に過ぎない。アフリカの最も賢明な知識人や真の政治指導者がまずなすべきは、アフリカから全てのNGOを一掃することだ。なぜなら、アフリカで活動するNGOスタッフ(若いボランティアたち)が善意の人々であったとしても、NGOのシステム自体はアフリカを支配し不安定化するものであり、支援への従属を生み出すものだからだ。アフリカの貧しい子どもたちのイメージを利用しながら、寄付という金融ビジネスと、支配者を維持するためのNGOによるムダ金の消費に従事している。

逆効果で、人種差別的で、人間性を無視したやり方はもうたくさんだ。こうしたNGOの一部が(彼らがアフリカでしているように)、ナポリの子どもたちの写真でも広告に使って、スカンピア(ナポリ郊外の犯罪率の高い地区)で活動を始めでもしたら、面白いだろう。

実際にはほとんどなにも知らないのに、勝手にロマンチックに理想化したアフリカ大陸のためとして、イデオロギー的な動機や自分の主義主張、あるいは、特権的な地位にいるという罪の意識から解放され自分の潔白な心を感じたいがために、このテーマが利用されるのは、うんざりだ。互いに反目しあうのではなく、真剣に分析を行い、具体的に成果を出せる解決策を今こそ実行すべきだ。なぜなら、現在の状況では、誰が勝とうが、その人物はアフリカを台無しにしているからだ。

実際に村々で繰り広げられている、狡猾で、悪徳で、犯罪的な手口の実相を理解するためには、ナイジェリア・エド州のある村からの報告書が役立つだろう。読み書きのできない20歳の若者とその家族を、甘言をもって欧州に輸送することが、この強力で過小評価されている犯罪組織が日々行っていることなのだ。彼らは、民衆の無知で切羽詰まった状況につけこみ、中には、生まれたばかりの赤ちゃんを100ドルで売ることすらやってのける。

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

もしこうしたことが依然として許されているのならば、その危険はイタリアだけではなくアフリカ諸国の問題でもある。そこでは、コロンビアのパブロ・エスコバルやメキシコのエルチャポと同レベルで活動する麻薬密売組織の存在によって、独裁者の問題がより複雑化し、すでに蔓延っている死や低開発状況をさらに悪化させているのである。(原文へPDF |ヒンディー語 | 

※映画監督のフレッド・クウォルヌは、ガーナ人の父とイタリア人の母との間で、1971年にボローニャで生を受ける。政治科学の学位を取った後、イタリア国営放送局RAIやさまざまな制作会社と協力して、ラジオ・テレビの放送作家を務める。2010年、第二次世界大戦で戦ったアフリカ系米国人だけの戦闘部隊・第92歩兵師団についての映画『インサイド・バッファロー』を製作・監督した。

翻訳=INPS Japan

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新国連人権高等弁務官を巡る毀誉褒貶

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【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

チリのミシェル・バチェレ前大統領が8月10日、国連総会本会合において全会一致で第7代国連人権高等弁務官に承認された直後、アントニオ・グテーレス国連事務総長はこうツイートした。「バチェレ氏は先駆者で先見の明があり、信念の人であり、この困難な時代にあって偉大なる人権活動のリーダーです。」グテーレス事務総長は、バチェレ氏の指名を8月8日に国連総会に提案していた。

英国国連協会のナタリー・サマラシンゲ代表も同じ意見だ。同代表は、「バチェレ氏の任命は確かに説得力のある選択です。彼女は、チリ政府の最高レベルで執務した経験、UNウィメンの初代事務局長として国連システムの最高レベルで執務した経験、そして、(ピノチェト軍事独裁政権による)抑圧下で市民社会と協働した経験があります。」と語った。

Kenneth Roth/ Human Rights Watch
Kenneth Roth/ Human Rights Watch

グテーレス事務総長による指名発表の前、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のケネス・ロス代表は、「バチェレ氏は、もし選出されれば、人権が広範囲な攻撃に晒されている今日、世界で最も困難な仕事を引き受けることになる。彼女は、自身も(独裁政権下で拷問を受けた)被害者として、人権を力強く擁護する重要性について、国連人権高等弁務官の役割に独自の観点を持ち込むことだろう。世界の民衆の命運は、とりわけ加害者が強力な立場にある場合、彼女が公的かつ強力な人権擁護者となれるか否かにかかっています。」と述べていた。

事務総長は記者会見において、「出身のチリのみならず、国連においても傑出した人物」であるバチェレ氏が公式に国連人権高等弁務官に任命されたとの報は「実に喜ばしい」と、記者らに語った。そして、UNウィメンの初代事務局長(2010~13)としてのバチェレ氏の役割を振り返り、「この立ち上げ間もない組織をダイナミックに統率しました。」と語った。また、チリ初の女性大統領と努めた実績や、自身や自身の家族が標的となった当局による数十年前の弾圧を生き延びた点も指摘した。

事務総長はさらに、「バチェレ氏には、軍事独裁政権下の暗い時代を生きた経験があります。また、彼女は医師として、健康を渇望し、その他の重要な経済的・社会的権利を享受することを熱望した民衆が経験した様々な試練を知っています。そして彼女は、国家レベルとグローバルレベルにおいて、リーダーに求められる責任とは何かを知っています。」と語った。

Eleanor Roosevelt and United Nations Universal Declaration of Human Rights in Spanish text./ By Unknown - Franklin D Roosevelt Library website, Public Domain
Eleanor Roosevelt and United Nations Universal Declaration of Human Rights in Spanish text./ By Unknown – Franklin D Roosevelt Library website, Public Domain

新国連人権高等弁務官としての指名承認を受けてバチェレ氏は、「この重要な任務」を与えられたことに「深く感謝し光栄に思います。」と語った。

今年は世界人権宣言誕生から70年を迎える。「憎しみと不平等が拡大している」時代にあって、「人権の強力な擁護者」を持つことはきわめて重要であり、「これ以上の選択肢はありません」とグテーレス事務総長は語った。

国連難民高等弁務官事務所は1993年に創設された。人権高等弁務官は、国連の人権活動に主要な責任を持つ役職だ。人権メカニズムの強化、平等の促進、あらゆる形態の差別の撲滅、アカウンタビリティーと法の支配の強化、民主的空間の拡大、あらゆる形態の人権侵害から最も脆弱な人々を守ることが任務だ。

「ミシェル・バチェレ氏は、国連と我々すべてに独自の経験をもたらし、人権を国連の仕事の最前線に据え続ける取り組みを担っていきます。」「私は彼女に絶大なる信頼と支持を置いています。すべての国連加盟国とパートナーに対して、バチェレ氏を支援するよう求めます。」とグテーレス事務総長は語った。

バチェレ氏の前任は、8月31日に4年間の任期を終えて退任する予定のザイド・ラアド・フセイン氏(ヨルダン出身)である。8月初旬に国連の記者らに自ら語ったように、ザイド・フセイン氏は、米国・中国・ロシアといった主要国の支持を得られないだろうとの見通しを示していた。

ザイド・フセイン氏はドナルド・トランプ米大統領の一部の政策と彼のメディア攻撃に対してきわめて批判的であった。ザイド・フセイン氏は2014年に就任した時に受けた助言を回想して、「『表に出て言いたいことを言う』ことが必要だとアドバイスくれた人がいて、実際、その通りにやってきました。黙っていては尊敬を得られません。我々(=国連難民高等弁務官事務所)が政府に恥をかかせようというのではなく、(問題がある場合は)政府が自ら恥ずべき行為をしているのです。」と述べていた。

ザイド・フセイン氏は、旧イラク王国の廃位された王家の継承者であり、ヨルダン王室の一員でもある。国連はその官職にある者に王室の敬称を付けることを認めていないが、国連に職にない時は「ザイド王子」として知られている。2000~07年と2010~14年の2度にわたってヨルダンの国連大使、2007~10年には駐米大使を務めた。

Zeid Ra’ad Al Hussein/ UN Photo / Jean-Marc Ferré
Zeid Ra’ad Al Hussein/ UN Photo / Jean-Marc Ferré

2005年、彼は国連平和維持活動局付きになり、PKOにおける性的搾取・虐待の問題に関する有名な「ザイド報告」を執筆した。ゼイド・フセイン氏は、忌憚のない発言で知られ、人権高等弁務官として問題提起を行ってきたが、行政官としての手腕については一部の加盟国から疑問が付されていた。

グテーレス事務総長は、「ゼイド・フセイン氏はこの4年間、『リーダーシップと情熱、勇気と能力』をもって仕事にあたってくれました。私の良き同僚であり友人であるゼイド・フセイン氏に深い感謝を申し述べたい。」と語った。

ゼイド・フセイン氏は8月10日の声明でバチェレ氏の指名を歓迎して、「彼女には、勇気、粘り強さ、情熱、人権への深いコミットメントといった、人権高等弁務官として成功するに足るあらゆる資質が備わっています。国連人権局はバチェレ氏の就任を歓迎するとともに、あらゆる人にとっての、あらゆる場所における全ての人権の促進と擁護のために彼女のリーダーシップの下で活動することを楽しみにしている。」と述べた。

イスラエルのダニー・ダノン国連大使は、「ゼイド・フセイン氏は誤った情報ばかり捏造し、イスラエルに関しては嘘ばかりついていた。」として、ゼイド・フセイン氏の退任を歓迎すると述べた。

国連総会の決定を受けて、一部の代表らはバチェレ氏の指名を歓迎する発言をした。

チリ代表は、「世界人権宣言誕生70年を迎える今年、そして人権の規範が困難に直面している現在にあって、バチェレ氏が任命されたことは大きな意味を持つ。」と述べ、国際社会が人権を擁護する必要性を強調した。

イラン代表はバチェレ氏に対して、関連決議に従って任務を遂行し、人権は「強国が、嫌いな相手に対して利用するツールではない」ことを明確にするとともに、そうしたやり方から生じる政治問題化や対立の先鋭化に対処するよう要求した。

一部の政府代表は、財政や政治の面で、人権高等弁務官事務所を支援する必要性を強調した。

米国のニッキー・ヘイリー国連大使の副使を務めるステファニー・アマデオ次席大使は、「米国が人権理事会から脱退したのは、国連システムや世界全体において普遍的人権を促進するという我々のコミットメントからの後退を意味するものではない。」と指摘したうえで、「人権理事会が今日の世界における最も悪辣な人権侵害に対処できていないことを考えれば、国連事務総長による新たな人権高等弁務官の指名が、より一層重要な意味あいを持ってくる。」 と語った。

アマデオ次席大使はまた、「人権高等弁務官は、とりわけ人権理事会がその名にふさわしい活動をできない場合には、これらの重要問題に関して強い発言権を持っている。事務総長の指名を受けたバチェレ氏には、国連の人権システムが過去に犯した失敗、とりわけ、ベネズエラやキューバといった西半球の国々における極度の人権侵害に人権理事会が一貫して対処できなかった失敗に対処する責任がある。」と語った。

アマデオ次席大使はさらに、「国連システムは、イランや北朝鮮、コンゴ民主共和国などにおける人権上の主要な危機に適切に対処することができなかったし、イスラエルに対する長年の不当な執着をやめることもなかった。現状をそのまま受け入れるのではなく、これらの失敗に対して声をあげるかどうかはバチェレ氏次第だ。バチェレ氏が是非そうするように望む。米国もまたそうする所存だ。」と語った。

キューバ代表は、米国はこの会合を「現実を捻じ曲げる」機会として利用していると述べた。キューバは、米国よりも多くの人権諸条約に署名している。キューバ大使は米国がいかに人権侵害をしているかを主張したが、ベネズエラ大使もまた同様の考えを述べ、米国に説教をする権利はない、と訴えた。

さらに、アフリカ諸国を代表してマダガスカルが、アジア太平洋諸国を代表してソロモン諸島が、東欧諸国を代表してエストニアが、ラテンアメリカ・カリブ海諸国を代表してアルゼンチンが発言し、(豪加両国と共同で)ニュージーランド、加えて欧州連合、英国、スイスも発言した。

国連ウォッチ」のヒレル・ノイアー代表は、人権侵害を起こしたことのある政府をバチェレ氏が支持した経緯があることは懸念材料だと指摘した。

「このチリの前大統領は、教育レベルが高く知性のある政治家であり、すぐれた交渉スキルをもつ人物であることは間違いない。しかし、キューバやベネズエラ、ニカラグアの人権侵害的な諸政府を支持した点で、バチェレ氏には疑問符が付く。指名投票が行われる前に、彼女がこうした緊急事態にどう対処しようとしているのか知る必要があります。」とノイアー代表は語った。

国連人権高等弁務官を1期4年プラス1年(1997~2002年)務めたメアリー・ロビンソン氏が英国国連協会のインタビューのなかで、「[国連人権高等弁務官事務所は]権力に対して真実を語ることを常に余儀なくされる組織」と答えていることは、こうした状況を踏まえるとよく理解できる、と識者らは指摘している。

Mary Robinson (5 mei-lezer 2014)/ By Nationaal Comité 4 en 5 mei
Mary Robinson (5 mei-lezer 2014)/ By Nationaal Comité 4 en 5 mei

ロビンソン氏は、7月17日に英国国連協会のインタビューに次のように答えている。「私は、任期7年の[アイルランド]大統領2期目に立候補しないことを決めました。私がこの決定を下した直後、初代の国連人権高等弁務官であるアヤラ・ラッソ氏が突如辞任したのです。彼はエクアドルの外相になるために本国に戻っていきました。…アイルランド政府は、私に高等弁務官に就任するよう強く要請してきました。きわめて厳しい戦いでした。そして、1997年7月、コフィ・アナン国連事務総長が私を指名し、そのすぐあとに国連総会によって承認されたのです。」

「ニューヨークにアナン事務総長を訪ねていくと、9月までに仕事を始めるよう強く要請されました。これは、国連総会会合の場に高等弁務官が必要だと考えていたからです。私は、このままだとアナン事務総長の気が変わって私を指名しなくなるかもしれないと考え、結局要請を受け入れることにしました。大統領職を任期終了前(その時点で3か月を残していた)に離れてしまうのはあまりいい判断ではなかったと後悔しました。より高いポジションへの踏み台として大統領職を利用したのではないかとの悪い印象を残してしまったからです。もちろんそれは事実ではありません。いったん(国連人権高等弁務官の)仕事を始めてしまえば、それが実際のところ『より高いポジション」などではないことは明白でした。』

英国国連協会によれば、指名プロセスが公式に始まる数カ月前の段階でまずバチェレ氏の名前が挙がったと指摘している。「しかし、今回の指名は前例のない時間的プレッシャーの中で行われ、バチェレ氏は任務開始までの準備時間として、これまでで最短記録となる、わずか3週間しか与えられていない。」(原文へ

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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Kazinform & IDN-INPS Sign MoU to Exchange News and More

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Kazakhstan’s “Kazinform” International News Agency LLP and IDN-InDepthNews, flagship agency of the International Press Syndicate, have signed a Memorandum of Understanding (MoU) to provide each other with their news services.

The MoU envisages close cooperation “in the organization and maintenance of information support of the visits of heads of the state, official delegations of their countries as well as other interstate activities and events held on the territory of the Republic of Kazakhstan and Germany, Japan, and (at) the United Nations.”

The MoU also aims at encouraging “the exchange of their staff, journalists, press photographers and other media experts with the purpose of studying the best practices and upgrading their qualifications.”

核保有国間の緊張が高まる中、核兵器の廃絶を訴える(中満泉国連軍縮問題上級代表)

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以下は、中満国連軍縮問題上級代表が、広島での平和記念式典(8月6日)で代読した、アントニオ・グテーレス国連事務総長のメッセージである。

【広島IDN-INPS 】

私はこの平和式典において、広島市民の皆様に敬意を表し、核爆発による目がくらむばかりの閃光の下、一瞬のうちに亡くなられた方々、またその数週間後、数か月後、数年後に亡くなられたすべての犠牲者の方々に、謹んで哀悼の意を捧げます。私は、被爆者とそのご家族の皆様との連帯を表明できることを光栄に思います。

1945年8 月6 日に広島で起きたことは、二度と繰り返されてはなりません。私たちの子どもや孫の将来がかかっているのです。

広島が象徴するのは、不屈の精神です。今日、私たちの眼前にあるこの賑やかな大都市が、その証しです。皆様方広島の人々は、勇敢な原爆生存者というだけでなく、平和と和解を求める勇気ある活動家です。

世界の安全保障、国家の安全保障、そして人間の安全保障に対して核兵器がもたらす脅威について、何十年にもわたって世界を啓蒙して来られた被爆者と広島の人々の献身的な努力に、心から感謝申し上げます。

世界は、皆様の道義的リーダーシップを引き続き必要としています。過去何十年にわたり核兵器のない世界という共通の目標に向け機運が高まってきましたが、今、その進歩は停滞しています。
核保有国間の緊張も高まっています。核兵器の近代化がますます進められ、さらに核装備が拡大されている恐れさえあります。

昨年、核兵器禁止条約が採択されたことは、核兵器の持つ脅威に恒久的に終止符を打つことに強く、正当な国際的支持が存在すること、そしてこの目標の達成が遅々として進まぬことへの不満が存在することを示しました。

世界の指導者は、対話と外交の重要性を再認識し、核兵器の完全廃絶、そしてすべての人にとってより安全で安定した世界の実現に向け、再び共通の道を歩まねばなりません。

私の軍縮に関する新しいイニシアティブには、このような背景があります。5月に発表した「共通の未来を守るために」と題する私の軍縮アジェンダは、国際平和と安全保障を確保するための具体的な手段として軍縮への努力の強化をはかるものです。

私の軍縮アジェンダは、政府が果たすべき責任にとって代わるものではありません。各国政府が軍縮への責任を果たすよう、対話を促進し、新しいアイデアのためのスペースを提供し、共通の基盤を見出そうとするものです。アジェンダは、すべての兵器に焦点を当てていますが、とりわけ核兵器は私たちの生存そのものを脅かす脅威であることを認識しています。それゆえに、核軍縮は今なお私たちの優先課題なのです。

今日、この平和祈念式において、私たちは原爆によって命を落とされた犠牲者の方々の冥福をお祈りいたします。そして、私は被爆者の方々、広島の皆さま、そして世界のすべての人々とともに、核兵器のない世界という共通のビジョンの実現に取り組む私の確固たる決意を、改めてここに表明いたします。(原文へ

INPS Japan

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【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】

「2030アジェンダ」と持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択されてから3年、「人間、地球及び繁栄のための行動計画」が履行されたことで、一見すれば「世界を変革する」試みは進展しているかのように見える。

しかし、これまでの成果がごく限られていることと、「誰も置き去りにしない」という途方もない公約を残りの期限内に達成しなければならない現実を前に、全く予断を許さない状況であることは国連高官も認めている。

国連における開発途上国最大の政府間組織「G77プラス中国」(実際には134カ国で構成)も、そうした一歩引いた見方をしている。

Antonio Guterres/ Public Domain
Antonio Guterres/ Public Domain

2018年の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(7月9日~18日)」(HLPF)の終盤で登壇した国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、多くの進展があったものの、「誰も置き去りにしない」という私たち共通の誓いにおいて基盤となる他の分野で、「私たちが立ち遅れている、あるいはむしろ後退していることも明らかになりました。」と語った。

事務総長は、「栄養不良に陥っている人の数が10年ぶりに増加し、ジェンダー不平等により女性は依然として抑圧され、持続可能な最重要インフラに対する投資は『いまだに全く不十分』です。」と指摘した。これらすべてのことが、加速する気候変動、人権状況の悪化、地域的に貧困が根強く蔓延る中で起こっているのである。温室効果ガスの排出を抑制する必要があり、各国は内部資源を動員するため全力を尽すとともに、紛争の原因に対処しなくてはならない。

事務総長は、紛争と不平等の増大、人権の衰え、未曽有の世界的人道危機、そして根絶されない貧困と飢餓など、重要課題について指摘する一方で、国際社会が前進するための重要な道筋を示した。

事務総長は、「健全な地球の繁栄と平和」のための「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」を支持するよう、すべての人々に呼びかけるとともに、「私たちのあらゆる取り組みに2030アジェンダのエッセンスを取り入れる必要があります…フォーラムの閉会にあたり、ともに働き、革新的ソリューションを共有し、私たちが自らのために定めたアジェンダを守る決意を新たにしようではありませんか。」と高らかに宣言した。

アミナ・モハメド国連副事務総長もまた、妊産婦及び幼児死亡率、児童婚の問題、世界的な失業問題、森林喪失率の削減といった一部の領域で成果が見られていることを強調した。

一方でモハメド副事務総長は、「しかし進展のペースはあまりに遅いか、勢いが削がれつつあります」と強調するとともに、この10年で初めて、栄養不良に陥っている人の数が増加に転じたと語った。事実、(主として紛争や干ばつ、気候変動関連の災害により)飢餓に苦しむ人口は、2015年の7億7700万人から16年には8億1500万人と、3800万人増えており、「誰も置き去りにしない」という国際社会の公約が根本的に損なわれかねない事態となっている。

国連経済社会理事会のマリー・チャタルドバ議長は、「進展はありますが、2030年までにSDGsを達成するのには全般的にペースが遅すぎます。」と語った。

7月16日、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の主要閣僚会議で挨拶に立ったチャタルドバ議長は、「一見したところ、よい進展がみられる」としながらも、極度の貧困率(1日1.90ドル未満で生活)が対1990年で3分の1に低下しているものの、依然として世界人口の10.9%が極度の貧困下に暮らしていること、さらに、世界人口の71%が電気を利用できている(10%の増加)が、依然として10億人が暗闇の中で暮らしている厳しい現実を指摘した。

議長はまた、「高いレベルでの関与が今後も維持される必要があります」と強調するとともに、世界の指導者らに対して、2019年国連総会の期間中に開かれるハイレベルフォーラムにおいて、開発アジェンダに対する政治的公約を再確認するよう強く訴えた。

Miroslav Lajčák, foreign minister of Slovakia/ By Dragan Taticderivative work: Gugganij, CC BY 2.0
Miroslav Lajčák, foreign minister of Slovakia/ By Dragan Taticderivative work: Gugganij, CC BY 2.0

まもなく退任予定のミロスラフ・ライチャーク第72回国連総会議長は、「時間を無駄にしている猶予はありません。」と述べ、この数年で進展が見られた4つの点を指摘した。ライチャーク議長は、「私たちは、極度の貧困率の削減に一定の成果をあげました。」としたうえで、「医療分野のイノベーションによって、人々の寿命は延び、生活はより健康になりました。また、強制労働に従事する子どもの数は減少し、彼らが本来いるべき場所、つまり学校に通う子供の数が増えました。」と語った。

さらにライチャーク議長は、「目前にある巨大な問題」について、極度の貧困を減らすために得られた成果がすべての人々に行き渡っていないと強調したうえで、「依然として多くの人が、治療可能な病気のために亡くなっています。6人に1人が安全な飲み水を入手できないでいます。世界中の女性が依然として排除され抑圧されています。また、地球は、文字通り融けているのです。」と語った。また、「水や食料、エネルギー、住宅への需要がすでに持続不可能な状態に達していることを私たちは知っています。」と付け加えた。

ライチャーク議長はさらに、「17の開発目標がなければ、『単独主義や保護主義、過激主義がますます強まるだろう。』と述べ、2030アジェンダとSDGsがなければ「世界がいかに恐ろしい場所になるか」について、暗い見通しを示した。そして、「開発目標を達成するための資金は不足してます。…(資金は)あるところにはあるにもかかわらずです。したがって、伝統的な資金調達のモデルを超える新たな方法を緊急に見つける必要があります。」と述べてスピーチを終えた。

G77プラス中国を代表して発言した、エジプトのサハル・ナスル投資・国際協力大臣は、2030アジェンダの採択から3年が経過したが、「国際社会は依然として(SDGsを)履行する軌道に乗れていません。」と指摘した。

H.E. Dr. Sahar Nasr/ Ministry of Investment and International Cooperation, Arab Republic of Egypt

ナスル博士は、依然として7億8300万人が国際貧困ライン以下の暮らしをしており、栄養不良の人々が2014年から増加して16年には8億1500万人に上ったとのG77プラス中国の懸念を表明した。

ナスル博士はさらに、2030アジェンダが掲げる目標の規模と水準を達成するには、とりわけ開発途上国にとっての履行手段を強化し、あわせて、開発を可能にする国際環境を創出していかなければならない、と付け加えた。

特殊な状況にある国々、とりわけ、アフリカ諸国、後発開発途上国(LDCs)、内陸開発途上国(LLDCs)、小島嶼部開発途上国(SIDs)、紛争当事国や紛争後国家、外国の占領下にある国々や民衆が直面する多様なニーズや課題、さらには、中所得国が直面する特定の課題に対処する必要がある。

G77プラス中国は、水が持続可能な開発にとって肝要であると強調し、世界の8億4400万人が依然として管理された飲料水サービスを受けられず、23億人が依然として基本的な水準の衛生サービスを受けられないことへの懸念を示した。

加えて、スラムに住む人々の実人数が6億8900万人から8億8100万人に増えた、とエジプトのナスル博士は指摘した。

G77と中国は、「共通だが事情に応じた責任の原則や、領土保全の尊重、国家の政治的独立を強調し、国際法や国連憲章に従わないいかなる経済的・金融的・貿易的措置であっても、それを単独で促進したり実行したりすることを控えるよう諸国に求める。」とし、国際法と国連憲章の原則を再確認することが必要だとの見解を述べた。

7月18日のハイレベル閣僚会合終了に際し、詳細な閣僚宣言案が採択された。賛成164、反対2(イスラエル、米国)、棄権0であった。

宣言はSDGsを現実にしようと努力している国々からの支援を再確認した。宣言に関する土壇場の議論の中で文言が変えられ、複数の国家ブロックや加盟国の代表らが、草案の変更や意見の対立している特定のパラグラフに対して懸念を表明した。

閣僚や高等代表らは、貧困が飢餓の主要な原因であるとの懸念を表明して貧困根絶への公約を再確認し、他の目標の中でもとりわけ、効果をもたらす集合的な措置を取ることの重要性を強調した。さらに、「開発のための資金調達に関する第3回国際会議」での「アジスアベバ行動アジェンダ」へのコミットメントを再確認し、「2030アジェンダ」採択から3年の履行プロセスにおいて、その達成に向けてまだまだ多くの努力が必要であることを強調した。また、自発的に国別報告を行った46カ国を称賛した。

今回のハイレベル政治フォーラムは、持続可能な開発は平和と安全保障なしには実現されないこと、平和と安全保障は持続可能な開発なしには危機に陥るとの認識を示した(開発と安全保障のネクサス)。宣言には、「私たちは、国際法に従って、植民地的占領や外国による占領下で生きる人々の自己自決権を完全に実現するために、障壁を除去するさらなる効果的な措置や行動を取るよう呼びかける。」と記されている。

HLPF/ Sustainable Development Knowledge Platform
HLPF/ Sustainable Development Knowledge Platform


またハイレベル政治フォーラムは、ジェンダー平等、すべての女性・女児のエンパワーメント、すべての女性・女児の人権の完全実現へのコミットメントを再確認した。「包摂的で、持続可能で、強靭な社会を実現するには、女性の生活や福祉、レジリエンスに影響を及ぼす政策や事業の設計・予算化・履行・監視において女性が意思決定に完全かつ効果的、平等に関与できるようにすることを求める。」さらに「土地や天然資源に対する女性の平等なアクセスや管理を早急に保証するよう改めて求める。」と宣言文は述べている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ローマIDN=ロベルト・サビオ】

しかし、移住がもたらすポジティブな影響は枚挙に暇がない。フランス国立科学研究センター(CNRS)が欧州15カ国(2015年にシリア、イラク、アフガニスタンから多数の移民が欧州に流入した際、難民申請の89%を受入れた国々)における30年に及ぶ移住者受入動向を研究した調査報告書が参考になるだろう。

それから4年が経過し、GNPは0.32%上昇した。報告書の著者の一人であるヒポリト・ダルビス教授は、移民の受入れと財政の関連について、「もちろん移民を受け入れた当初は費用がかかりますが、この公的支出は社会に対する再投資となるのです。つまり10年も経過すると元移民は一般住民よりもより多くの富を築いており、こうした貢献は一般の統計にとけ込んでいるのです。」と記している。

飢餓と戦乱を逃れて欧州にきた人々の夢が、少なくとも10年の間は、一刻も早く仕事を見つけ、税金を支払い、生活の安定と将来を確保するために一生懸命働くというのは明らかである。

A final farewell as a refugee leaves Mae La camp on the Thailand-Myanmar border. © IOM UN Migration Agency, 2012
A final farewell as a refugee leaves Mae La camp on the Thailand-Myanmar border. © IOM UN Migration Agency, 2012

移民受入国における新右翼(オルタナ右翼)とかつての右翼の違いは興味深い。旧右翼は、移民が低賃金労働を担っていることから、反移民ではなかった。彼らは国粋主義的な傾向があるが、決して外国人嫌い(反ユダヤ主義はさておき)ではなかった。ところがオルタナ右翼は、統計や経済に関心を持たず、ひたすら恐怖を駆り立て権力を掌握することに関心を示している。

それが現実となっている事例がフェイクニュースである。トランプ大統領は、自身の英国訪問に反対しロンドン中心部を占拠した25万人に及ぶデモ参加者を、実は自身の支持者だったと主張した。ここまで主張するには、単なるナルシストというのでは不十分で、現実を反転させる必要がある。

問題は、こうしたフェイクニュースを受け取る側の人々である。かつてなら、トランプ大統領が25万人に及ぶデモ参加者の意図を捻じ曲げたことは、失笑を買っただろう。しかし今日では、トランプ支持者にとって、彼のツィッター投稿内容は、議論の余地がない真実なのだ。

トランプ大統領の金正恩北朝鮮最高指導者との会談は、なんら明確な結果を生み出すことはなかった。トランプ大統領はまた、多国間の合意がなされているにも関わらず、問題の解決になっていないとして、イランとの核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)からの一方的な離脱を表明した。また、7月にブリュッセルで開催された北大西洋条約機構(NATO)サミットでは、全加盟国の現状を非難したうえで、加盟各国による防衛費の支出を国内総生産(GDP)比4%(現在の目標値の倍)に引き上げるよう要請した(米国の国防費はGDP比3.6%)。さらに、英国を訪問した際には(EUとの関係を重視する穏健な離脱方針を示した)テレサ・メイ首相に注文を入れる一方で、最近辞任した離脱推進派のボリス・ジョンソン氏を称賛した。トランプ大統領はメイ首相に対して、交渉しにきたのではなく要求を通すためにきたと語っている。

Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.
Trump ending U.S. participation in Iran Nuclear Deal. Credit: White House.

トランプ大統領は続いてロシアのウラジーミル・プーチン大統領とヘルシンキで会談した際、2国間関係が悪化した原因は米国にあり、2016年の米国大統領選挙におけるロシアの干渉疑惑を否定するプーチン大統領の主張を信じると述べた。さらにトランプ大統領は、米諜報当局、法務省、ロバート・ムラ―特別検察官による同ロシア疑惑に関する調査は米国にとって不名誉なものだと語った。

米国の歴史の中で、大統領が同盟国の指導者を叱りつけ、敵対国の指導者を称賛しても、共和党の有権者(熱烈なトランプ支持者)が眉をひそめさえしなかったことが、かつてあっただろうか。

事実、ヴァラエティーオブデモクラシー (V-Dem)が昨年6月に発表した世論調査によると、民主主義の概念そのものが危機に直面している。

その世論調査では、3000人以上の学者や専門家に178カ国の民主主義の基本要素について質的な現状を査定するよう依頼した。これによると、2016年末現在、ほとんどの人々が民主主義的な社会に暮らしていたが、それ以来、全体の3分の1にあたる約25億人の人々が、政治指導者或いは政治指導者らが民主主義的な特性に制限をかけたり次第に一方的な支配に偏ったりしていく「独裁的傾向」を目の当たりにしてきた。

最も人口が多いインド、ロシア、ブラジル、米国において、こうした独裁的傾向がみられる。その他、過去10年間に民主主義が後退した大国としてはコンゴ、トルコ、ウクライナ、ポーランドがある。

米国は2年間で順位を7位から31位に下げている。米国議会は大統領の権限を抑えようとはせず、野党は与党に対して影響力を及ぼせないでいる。そして司法が3権分立のバランス作用というよりも、むしろ党派色を強めている。米国最高裁は、かつて行政に対する対抗勢力みられていたが、今やそのランキングは48位に低下している。

マッキンゼーグローバル研究所が行った世論調査によると、米国人の41%が、もし自分が支持する政治指導者が憲法の規定を超えて政権の座に留まるとしたら、民主主義体制のもとで暮らしていなくてもかなわないと、回答している。

Benito Mussolini 1940. Agfacolor photo by Roger Viollet./ Martianmister and Vps - Unknown, Public Domain
Benito Mussolini 1940. Agfacolor photo by Roger Viollet./ Martianmister and Vps – Unknown, Public Domain

民衆は、自身が支持する人物を投票で選ぶものだ。従って、いかなる国にも、プーチン、エルドアン、オルバン、トランプ等、有権者が選んだ指導者がいる。…これは前世紀のムッソリーニやヒトラーも同じである。もし民衆が、神が遣わした、しかし現実を顧みない救世主の声に耳を傾けたいならば、それは有権者の権利でもある。私たちにできることは、夢遊病者になる人々が増えている現状を嘆くのみだ。

しかし深刻な問題は、このような世界観は近い将来に必ず大惨事を引き起こす点である。例えば、工業先進国が世界的に競争力を維持したいのならば、早急に適切な移民対策を講じて必要な人材を受け入れられる基準を作成しなければならない。

しかし、現実をよそに全ての移民が脅威として喧伝されている今日の状況では、これは現実には起こらないだろう。アフリカ大陸の人口は、向こう数十年で2倍に増加する。ナイジェリアは、現在の欧州全体の人口にあたる4億人に到達するだろう。現在、アフリカの人口の6割が25歳以下だ。一方、米国の場合25歳以下は全人口の32%、欧州の場合は27%である。

はたして欧州の人々は、(一部の外国人嫌いが求めているように)移民を徹底的に排除して、年金や社会保険がない(或いはあっても僅かな)老人たちが暮らす一地域へと衰退していくのだろうか。欧州はまた、独自のアイデンティティーや、欧州憲法のみならず各国レベルの憲法に謳われている価値観を喪失していくのだろうか。

フランス議会は憲法の条文から「人種」の文言を削除したし、ポルトガル政府は、安定した職に1年以上就業した移民に同国の市民権を付与する意向だ。

一方、オランダ政府は、イスラム過激派組織ISISに加入したオランダ人の子どもについて、憎しみと暴力に満ちた生育環境がオランダ社会に対する脅威になるとして、議会の支持を得て、同国への入国を拒否する決定を下した。

Roberto Savio
Roberto Savio/ photo by Katsuhiro Asagiri

かつてオランダは、寛容のシンボルとして数世紀にわたって宗教や政治上の迫害を逃れる難民を受入れてきた。今日、オランダは高い生活水準を享受する1720万の人口を擁する国だ。それでは問題となっている元ISIS関係者の親を持つ子供がどれだけいるというのだろう。驚くべきことに僅か145人である。今日置かれている状況に対して何の責任もない子供たちが、恐怖の記憶を拭い去り国際法で不可侵の権利とされている自らの国籍に伴う利点を享受できる受け入れ先家庭を見つけることは、不可能なのだろうか。一方、米国政府は5000人以上の子どもを移民の両親から引き離している。

西側社会はかつてない横顔を見せてきているが、このような新しい欧州や米国の現実は、はたして市民が本当に求めているものなのだろうか。(前編へ)(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ローマIDN=ロベルト・サビオ

最新の統計によると、2018年の現時点における移民の総数は50,000人で、昨年は186,768人、2016年は1,259,955人、2015年は1,327,825人であった。移民に関する一般の認識と現実の乖離は驚くべきもので、私たちは明らかに、史上最も巧みなイメージ操作を目の当たりにしている。

フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン、英国、米国の23,000人を対象に実施した最新の世論調査によると、偽情報が広範に信じられていることが明らかになった。これら6カ国において、人々は移民の数が実際よりも3倍多くいると誤って認識していた。イタリア人は移民が国民に占める割合について、実際には欧州連合加盟国の平均を下回る1割程度にもかかわらず、3割を占めていると考えていた。一方で、一般の認識が現実に最も近かったのはスウェーデン人で、移民の割合が実際には2割なのに対して3割と回答していた。

Roberto Savio
Roberto Savio

イタリア人はまた、移民の半数はイスラム教徒だと信じているが、実際には3割に過ぎない。逆に移民の6割はキリスト教徒で、イタリア人はキリスト教徒が占める割合は3割程度と考えていた。

またこれら6カ国において、人々は、移民は貧しく教育や教養を身に着けていないため受入国にとって財政的負担になると考えていた。イタリア人は、移民の4割は失業者と考えていたが、実際の失業者は1割近くに留まっており、一般の失業率と変わらない。

その一方で、レオーネ・モレッサ財団が、国立統計研究所のデータを元に、移民がイタリアにもたらす経済的なインパクトについて記した7番目の報告書が、これまで全く無視されてきた事実を示している。

イタリアでは、240万人にのぼる移民が、同国の国民総生産(GDP)の8.9%にあたる1300億ユーロ相当の経済効果を生み出している。これはハンガリー、スロヴァキア、クロアチアのGDPを上回る。この5年間で、合計600万社近いイタリア企業の内、実に9.4%にあたる57万社が、移民によって設立されたものだ。イタリア年金機構のチトー・ボエリ理事長は国会証言のなかで、移民からの納入額は115億ユーロにのぼっており、移民に対する支出額を上回っていると述べている。ボエリ氏はまた、イタリアでは11人の死亡に対して7名しか出生しない人口危機に直面していると強調した。

移民脅威論を唱えて人気を博してきたマッテオ・サルヴィーニ氏は自身のツィッターに「ボエリ氏は火星の住人だ(=言っていることが現実離れしている)。話は終わりだ。」と投稿した。世論調査に答えたイタリア人の半数以上は、サルヴィーニ氏のツィート内容は、実際の統計に基づくというよりも断定的な主張とみていた。

同様の構図がまもなく任期を終える国際移住機関(IOM)のウィリアム・スイング事務局長の発表とロナルド・トランプ氏支持者の間にもみられる。スイング事務局長はIOMとマッキンゼーグローバル研究所が行った調査報告書の内容を引用して、「移民が世界人口に占める割合は僅か3.5%に過ぎないが、彼らはGDP換算で世界の富の9%を生み出している。この規模は、彼らが本国に留まっていた場合よりも4%高い。」と述べている。しかしこうした発言も、自らが移民の子孫でありながら移民は国に対する脅威と確信しているトランプ支持者(主に農村部の白人労働者)らの考え方に影響を及ぼすことはなかった。

言い換えれば、「事実」が重要なのではなく、むしろ「どう認識されているか」の方が重要になっている。

移民問題を巡って身内閣僚のホルスト・ゼーホーファー内相の造反をかろうじてかわしたが政治基盤が弱まることになったアンゲラ・メルケル首相のドイツの例をみてみよう。ゼーホーファー氏は、メルケル氏の支持母体であるキリスト教民主同盟(CDU)のバイエルン州における姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)の党首である。

IOM
IOM

内気で臆病なトランプ氏は、自身のツイッターに、「ドイツの民衆は、犯罪の増加につながる移民問題を巡って自らの政府に反対している。」と投稿するとともに、よろこんでゼーホーファー氏に支援の手を差し伸べた。一方で、ドイツの犯罪率は大幅に減少しているという事実は、(7月14日現在で)38,187の投稿の内、実に3,750以上の投稿が虚偽内容だった人物(=トランプ大統領)にとっては、重要なことではなかった。

今や、トランプ大統領のツィッターアカウントには53,111,505人(7月15日現在)のフォローワーがいる。1,331紙にのぼる米国の日刊紙の総発行部数は6200万部だが、大手の上位100紙の発行部数の合計は1000万部を下回っている。つまりこうした伝統的なメディアが何を書こうが、影響力という点ではトランプ大統領のツィートに圧倒されてしまっているのだ。

こうした移民脅威論を訴える運動を展開しているのは、なにもトランプ大統領に限ったことではない。…トランプ氏と同様の主張を展開している政治指導者は、政権の座にある人物では、ハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相、イタリアのマッテオ・サルヴィーニ内務大臣、ポーランドのヤスロワフ・カチンスキ元首相、オーストリアのセバスチャン・クルツ首相、スロバキアのピーター・ペレグリーニ首相、チェコ共和国のミロシュ・ゼマン大統領、また野党では、フランスのマリーヌ・ルペン国民戦線党首、英国のナイジェル・ファラージ独立党党首等、スペインとポルトガルを除く、欧州ほぼ全ての国にいる。こうした指導者は、いずれも移民、ナショナリズム、外国人恐怖症を「オルタナ右翼」が躍進するための道具として利用してきた。

今一度、ドイツの例に戻ろう。ベルリンの連邦政府を脅かしているバイエルン州は、1220万の人口を擁するドイツで最も豊かな州である。140万の人口を擁する州都ミュンヘンは、ベルリン、ハンブルクに次ぐドイツで3番目に大きな都市で、同国で2番目に雇用数が多く、多数の移民を惹きつけている。しかし実際の移民の総数は20万人にも満たない。その内、地元の日刊紙南ドイツ新聞は、イスラム教徒の移民数を32,000人と見積もっている。

右派政党ドイツのための選択肢(AfD)は先の連邦議会選挙で13%(92議席)を獲得したが、移民問題について強く反対する立場をとっている。今年3月の世論調査で、AfDは、初めて政党支持率で中道左派の社会民主党(SPD)を上回った。

前回の選挙でAfDは、イスラム教徒の移民が少ないバイエルン州でキリスト教社会同盟(CSU)を圧倒する勢いだった。AfDの主な基盤は旧東ドイツ地域で、この地域の移民の数は旧西ドイツ地域と比較して4分の1に過ぎない。このことから、移民の存在と(移民に反対する)投票行動には論理的な関連性がないことがわかる。事実、AfDは移民が比較的少ない地域でより多くの勝利を収めている。

与党キリスト教民主同盟(CDU)は、AfDに支持票を奪われないよう極右や排外的な立場の有権者に接近する動きを見せている。しかし、歴史的に有権者やコピーよりもオリジナルを選択する傾向にあるため、CDUのこうした努力は実らないだろう。しかし、ドイツ人とりわけバイエルンの有権者は理性的な人々だとみられている。

統計が示している現実は明らかだ。毎年労働者の数が30万人減少している。ドイツの全人口8060万人の内、61%が労働年齢である。2050年、労働年齢の割合は51%に減少し、かわって65歳以上の人口が現在の21%から33%に増加する。国が人口水準を維持するには出生率を2.1%以上にしなければならないが、ドイツの出生率は1.5%に過ぎない。大規模な移民の流入によってドイツの出生率は上がったが、その規模は1.59%にとどまっている。移民らは、地元のトレンドに溶け込み子供を多くもうけない傾向にある。

従って、向こう20年以内に、労働人口が減少して退職金や社会保険制度を維持していくために必要な納税者の数が確保しにくくなるため、生産性も大幅に(30%も下落すると唱えるものもいる)に低下するだろう。そうなれば、ドイツ経済は推進力を大幅に低下することになる。

Map of Euriope
Map of Euriope

この構図は、出生率が1.6%に過ぎない欧州各国全体にもいえることだ。出生率が1.6%ということは毎年100万人近くの人口が減少していることを意味する。国連人口部は、欧州諸国は全体で、現在人口水準を維持するだけのために、2000万人の移民を受け入れるべきだと考えている。

スペインの哲学者アデラ・コルティナ氏は、「欧州ではサッカー選手や芸術家、富裕層、また歌手のプリンスのようなイスラム教徒でさえ歓迎されている。歓迎されないのは貧しい人々だ。」と、ヨーロッパ人がなぜ真の外国人嫌いに向き合っていないかを説いた本の中で鋭く指摘している。コルティナ氏は、「私たちが直面しているのはAporofobia(ギリシャ語のApora〈貧しい〉とFobia〈嫌い〉を掛け合わせた新語)だ。この欧州文明を守ると主張するこうした現象の実態は、最新版の植民地主義に他ならない。」と記している。後編に続く(原文へ

翻訳=INPS Japan

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Commemorating 10th Anniversary of the Death of Yukika Sohma

Mr. Katsuhiro Asagiri, President of INPS-IDN documented the 10th anniversary of the death of Yukika Sohma, the third daughter of Ozaki Yukio, considered as the father of Japanese constitutional democracy. The event was held at the Parliamentary Memorial Hall on July 28, 2018 with over 120 participants.

This event aimed at contributing to the progress of democracy and the Civil Society by introducing organizations engaged in activities while acting on Ms. Sohma’s will and deepening exchanges among participants.

Representatives of two NPOs, Association for Aid and Relief, Japan (AAR Japan) established in 1979 which currently has projects in 15 countries, and ‘Issatsu no kai’, dealing with gender empowerment including FAWA for 50 years, gave presentations on activities initiated/inspired by Ms. Sohma.

相馬雪香没後10周年の集いを取材

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan

季刊誌「世界と議会」にINPS Japanの記事を掲載頂いている尾崎行雄記念財団(会長:大島理森衆議院議長)の「相馬雪香さん没後10周年の集い(7/28)」が憲政記念館で開催され。相馬さんゆかりの「難民を助ける会」「NPO法人一冊の会」の関係者など約120人が参加した。

INPS-IDN documented the 10th anniversary of the death of Yukika Sohma, the 3rd daughter of Ozaki Yukio, considered as the father of Japanese constitutional democracy held at the Parliamentary Memorial Hall on July 28, 2018 with over 120 participants. This event aimed at contributing to the progress of democracy and Civil Society by introducing organizations engaged in activities while succeeding Ms. Sohma’s will and deepening exchanges among participants. Representatives of two NPOs, Association for Aid and Relief, Japan (AAR Japan) established in 1979 and currently has projects in 15 countries, and ‘Issatsu no kai’, dealing with gender empowerment including FAWA for 50 years, gave presentations on activities initiated/ inspired by Ms. Sohma

尾崎行雄記念財団関連映像はこちらへ

Videos filmed by INPS Japan on activities of Ozaki Yukio Memorial Foundation are here