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|フランス|アルノー・ベルトラーム氏を殺害したナイフに対する回答を見出すのは容易ではない

【ルンドIDN-INPS=ジョナサン・パワー】

私は元来臆病者で、とてもヒーローにはなれそうにない性格だ。(異なる機会に溺れそうになった3人の子供を救出したことはあるが、自分の命を危険に晒したわけではなかった。)そんな私は、フランスの警察官アルノー・ベルトラーム氏がとったと同じ行動は、とてもとらなかっただろう。

ベルトラーム氏はスーパーマーケットに立てこもったテロリストに、女性の人質の身代わりとなることを自らかってでた。テロリストは人質交換を受け入れたが、ベルトラーム氏はその後店内で殺害された(手足を撃たれたうえに、首をナイフで切られ重傷を負い、その日の夜死亡:INPS)。フランス政府は3月28日にパリのアンバリッドでベルトラーム氏の告別式を行った。イスラム過激派組織『イラク・レバントのイスラム国(ISIL)』の支持者とみられるモロッコ人の共犯者は現在刑務所に拘留されている。

Le lieutenant-colonel Arnaud Beltrame en février 2018./ Par Gendarmerie Nationale, France, CC BY-SA 4.0

とりわけフランスは、イスラム過激派によるテロ攻撃に晒されてきた。この数年間で、フランス本国と隣国ベルギーのフランス語圏地域におけるテロ事件の犠牲者は300名を上回っている。一方米国では、2017年にイスラム過激派の影響をうけたとみられるテロリストが引き起こした事件の犠牲者は8人にとどまっており、むしろ白人男性による相次ぐ銃乱射事件で、数多くの生徒が犠牲になっている。英国では、イスラム過激派がひきおこしたテロの犠牲者数は米国を上回る35人だったが、それでもフランスと比較すればはるかに少ない。

フランスの場合、テロ事件を引き起こした犯人の大半が、フランス出身者であることがわかっている。彼らの多くが海外でISILの活動に従事した経験があり、危険な存在に十分なり得る。しかし、今ではフランスに帰国した元ISIL関係者の大半は、暴力を放棄し、身を落ち着けようとしているとみられている。

今日フランスの有権者のかなりの部分が、紛争を逃れてくる難民を含む新規移民に対して受入れの扉を完全に閉ざすべきという考えに傾いてきている。一方、フランス政府はそこまで厳しい措置にはでていない。なぜなら政府は、テロリストは新たに入国してくる移民ではなく、まともな教育を受けられず貧弱な設備しかない粗末な住居で育ち、定職に就けていない移民2世や3世であることを認識しているからだ。

他の欧州諸国と同じく、フランスも長年にわたって「多文化主義」を標榜してきたため、外国人は住みたいところに住み、国籍を同じくする人々と自由にグループを形成できた。しかしこのことが、移民達を主流のフランス人から切り離すことにつながってきた側面もある。

フランスでは、こうした移民の増加と文化的な軋轢が共和国の伝統的な価値観であるライシテ(世俗主義・政教分離の原則)を侵害していると受け止められるようになってきた。しかしフランス政府は、一部の移民女性がしばしば夫に強制されて着用していた全身を覆うブルカの着用を禁止した以外では、これまでのところライシテを擁護するためのこれといった努力は示していない。

しかし多文化主義政策が失敗した今、フランス政府は、こうしたテロを引き起こす温床となっている社会の軋轢に対処し巻き返しをはかる必要がある。もしそうした取り組みを成功させようとするならば、必要なのは「統合」である。(かつて53年前に、米国の連邦最高裁判所が白人専用の公立学校を禁止したように。ただし実態は一部しか施行されていないが。)

多文化主義が失敗した結果顕著になってきた現象の一つがマリーヌ・ル・ペン国民戦線党首に象徴される、外国人の排斥を訴える極右の台頭である。彼らは白人差別主義者を糾合する一方で、イスラム教徒のアイデンティティを標的とした政治運動を煽っている。

今日、欧州の数カ国において、移民の社会統合を目指す動きが出てきている。スウェーデンでは、新たに到着した移民をあえて国中に分散して受け入れる制度を導入した。また新移民は、女性の権利を重視するスウェーデンの文化や言語に関する講習会を受けなければならない。つまり、旧来の事実上のゲットーのようなコミュニティーに加われるのではなく、スウェーデン社会に適応することが義務付けられている。

Map of France
Map of France

フィンランドでは移民女性を対象にした特別なプログラムが行われている。それは、女性を家の中に留めておきたいという多くの男性移民たちの意志に反して、あえて女性移民を家の外に連れ出し、フィンランド社会で一般的な職場経験を積ませようとする内容である。そうしたなか、フランスにおいても、遅ればせながら、またペースが遅すぎるものの、ようやく新たに迎える移民を社会に統合するための取り組みに着手している。

これはよいことだが、既にフランスに在住している移民についてはどうするのだろうか?フランスでは、サラフィー主義を標榜する小集団が各地に生まれ、暴力的なイスラム主義者の温床となってきたほか、フランス当局との対決を煽ってきた。フランス政府によるモスクに対する監視が手ぬるいのをよそに、フランス語を話さないイスラム宗教指導者らが、フランス社会の悪害について説教をしてきた。

イスラム過激主義に対抗するにあたり重視すべき施策は、暮らしている地理的な要因に加えて将来に希望がもてない若者らの怒りが重なってフランス社会の価値観に心を閉ざしている人々に、手を差し伸べるものでなくてはならない。

フランスの右派は、英国や米国の場合と同様に、移民の犯罪率や就業に対する若者らの努力不足を強調して差別感情を掻き立ててきた。一方で左派は、移民が住みたいところに住み自由に生きる権利を擁護してきた。フランスのイスラム教徒はイスラモフォビア(イスラム嫌悪症)の犠牲者(たしかに多くの場合そうだが)だとみなされているが、同時に歴代のフランス政権が推進してきた自由放任政策の犠牲者でもある。

エマニュエル・マクロン氏の大統領選出は、中道勢力の勝利であるとともに、こうした移民問題にとどまらずフランス社会が直面している経済やその他の社会問題を解決していくために同国が通過しなければならなかったステップであった。

フランス社会が、各地の移民のゲットーを解体し、良い住宅環境や学校を建設し、失業している移民世帯の若者に就業先を提供するための想像力に富んだ方法を見つけ出し、テロリスト予備軍を監視するための十分な予算を治安当局に確保できるようになるまでには、多くの時間を要するだろう。アルノー・ベルトラーム氏を殺害したナイフに対する回答は、容易に見つけられるものではないのだ。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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気候変動がもたらす悪影響と闘うアフリカの女性農民

【ニューヨーク/バマコIDN=ロナルド・ジョシュア】

ファトウ・デンベレさんは、農業人口の半分が女性である西アフリカの内陸国家マリの農民である。農業は女性を貧困から抜け出させる重要部門だ。しかし、気候変動が引き起こす土地と天然資源の劣化が女性をより弱い立場に追い込んでいる。

デンベレさんは、自分の作物が貧弱になっていったとき、畑がダメになって自分の生活が危うくなったと感じた。「土地が病気になったと思いました。まさか作物の根っこを襲って殺すような寄生虫がいるとは思いもよらなかったのです。」とデンベレさんは語った。

Map of Mali
Map of Mali

気温や湿度が上昇したことによる寄生虫の発生は、デンベレさんたち多くの女性農民が直面している気候変動の影響のひとつだ。

気候変動が女性の生活に及ぼすマイナスの影響に対処するために、「女性農民と持続可能な開発」(AgriFed)と呼ばれる「UNウィメン」の新プログラムが、地元農民たちがこの新たな難題に対応する支援を行っている。「サヘル生活行動グループ」(GAAS)マリという地元の非政府組織が実行にあたっている。

農民と協力して実施されるこのプログラムは、彼らの技術を近代化し、農業に関する最新情報へのアクセスを容易にし、保存技術を向上させることで商品の価値をあげることをめざす。

「気候変動の影響からマリも逃れることはできず、大きな被害をもたらしています。サヘル地域の安全状況がきわめて不安定な中、さらなる問題となっています。」と語るのは、UNウィメンマリ駐在代表マキシム・フイナト氏だ。3月14日に開催された第62回国連女性の地位委員会(CSW)のサイドイベントでの発言だ。

「そしてマリも、地球温暖効果ガスの排出はほとんどないにも関わらず、気候変動の影響に適応する闘いを強いられています。」とフイナト氏は付け加えた。

AgriFedプログラムでは、デンベレさんの生産を回復するために、寄生虫を退治する地元で利用可能なバイオ農薬の使い方について教えている。「おかげさまで、地元の植物から抽出したもので作物の病気を抑えられることを学びました。」とデンベレさんは語った。

CSW62 WEB Banner/ UNWOMEN
CSW62 WEB Banner/ UNWOMEN

AgriFedプログラムは、マリの首都バマコから北東に200キロ以上離れたセグー州で2017年に活動を開始した。持続可能な農業技術に関する訓練を、247人の女性と66人の男性が受けている。この訓練によって、水の利用や作付の時期、農薬や肥料の利用、収穫技術が向上した。

ボイディーやセコロ、セアクル・ドゥ・トミナンといった町では、訓練によって女性たちがエシャロットの増産に成功した。しかし収穫期には、作物をいかにして保存するかを学ぶ必要があることが明らかになった。

セコロでエシャロットを生産・販売するハエレ・ケイタさんは、「私たちは、保存がきくということでエシャロットやタマネギを作っていますが、(以前は)保存技術は知りませんでした。」「昔ながらの方法では、廃棄率がかなり高くなることがあります。」と語った。

UNウィメンは、エシャロットやタマネギ、ジャガイモといった作物を保存する方法を農民に示す訓練活動を支援している。約110人の女性生産者が、この近代的な生産・保存技術を利用することで収入を増やした。

「野菜や果物を20年以上育ててきましたが、昔ながらの方法を知っていただけでした。」と別の農民アルフォンシーヌ・デンベレさんは語った。

「AgriFedプログラムは、トウモロコシやトマト、コショウの育て方を教えてくれて、作物を多様化させる方法を学ばせてくれました。収入が増えただけでなく、栄養も豊富になり、栄養失調に苦しんでいた子どもたちの状況も改善しました。」とデンベレさんは語った。

デンベレさんはさらに、「(別々の部族出身の)女性達が、農場での訓練の間に会って対話することができるので、絆を深める意味でもいい効果があります。」と語った。

ルクセンブルク政府が支援しているAgriFedプログラムは5年計画で、マリ国内の他の地域でも実施が予定されている。

AgriFedプログラムは、気候変動に関するパリ協定の2周年にあわせて開かれた首脳級会合「ひとつの地球サミット」(2017年12月12日)で発表されたスマート農業を通じて、サヘル地域の100万人の女性と若者に、気候変動がもたらす悪影響に対するレジリエンス(=リスク対応能力)を付けさせることを目的としている。

SDGs Goal No. 2
SDGs Goal No. 2

フランスのエマニュエル・マクロン大統領、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、世界銀行のジム・ヨン・キム総裁が共催した「ひとつの地球サミット」は、2020年に向けて各国が気候変動対策を強化しようという中で、公式の国連プロセスを支持する目的で開かれたものだ。

この取り組みは、サヘルに対する国際連合統合戦略(UNISS)とG5事務局の事業である。G5サヘルは、ブルキナファソ・チャド・マリ・モーリタニア・ニジェールというこの地域の5カ国間の開発政策を調整する組織的枠組みであり、気候変動と環境悪化の問題を、それが地域住民に及ぼす影響の問題と並んで、優先的課題としている。

国別レベルでは、各国政府が適応戦略を実行している。この新しい構想はこれらの取り組みを支持すべく行われているものだ。UNウィメンは、国連システムを代表して、サミットで紹介された12の事例の一つとして、AgriFedプログラムを紹介した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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2018年、誰が朝鮮半島の平和のために立ち上がるのか?(リック・ウェイマン核時代平和財団事業責任者)

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【サンタバーバラIDN=リック・ウェイマン

ドナルド・トランプ大統領と金正恩最高指導者による米朝首脳会談まであと数週間となった。そこで多くの疑問が浮かんでくる。これは望ましい会談なのか? いつ、どこで行われるのか? 何を議論するのか? 誰が(もしそんな人がいればだが)米国大統領のためにこの重大な会談の準備をしているのか? 会談は成功するのか?

トランプ時代には、何が答えなのかを推測することすら難しい。しかし、この前代未聞の首脳会談が朝鮮半島における数十年に及ぶ紛争に永続的な変化を生み出すことがあるとすれば、頭に入れておかねばならない重要な問題がいくつかある。

主権

韓国は主権国家だ。大統領の文寅在氏は2017年、北朝鮮との対話・和解を公約に選挙戦を勝ち抜いた。文氏は韓国が「朝鮮半島の問題で主導権を握れるように」したいと明確に語った。

The Korean DMZ is shown in red with the Military Demarcation Line (MDL) denoted by the black line/By Rishabh Tatiraju - Own work, CC BY-SA 3.0
The Korean DMZ is shown in red with the Military Demarcation Line (MDL) denoted by the black line/By Rishabh Tatiraju – Own work, CC BY-SA 3.0

平昌での2018年冬季オリンピックと、それと関連した2月2日から3月25日までのオリンピック休戦は、南北朝鮮に対して、外交的努力と軍隊間の連絡を再開する機会を与えた。西側メディアの多くは、オリンピックへの北朝鮮の出場とそれに伴う外交に関して、米韓間に「くさび」を打ちこむものだとの印象を植えつけようとした。

この米国中心的な思考は、状況に関する韓国大統領の理解と、韓国民衆の平和への希求を軽視したものだ。文大統領に対する74%という支持率は、韓国民の大多数が望む方向を文氏が追求していることを示している。

文寅在大統領・金正恩最高指導者による4月の南北首脳会談は、より過大に期待されている金・トランプ会談に先行する。南北朝鮮の首脳は、対話と協力関係を通じて両国の数多くの市民の安全を確保する歴史的な機会を手にしている。

非核化

米国による北朝鮮への一般的な要求は、北朝鮮はその核兵器を放棄すべきだというものだ。これはしばしば北朝鮮の「非核化」、あるいは朝鮮半島の非核化の要求と呼ばれる。

3月に北朝鮮を訪問した韓国特使は声明のなかで、「北朝鮮は朝鮮半島を非核化する意思を明らかにし、北朝鮮に対する軍事的脅威の問題が解決され、その体制の安全が確保されたならば、核兵器を持ち続ける理由はないと明確に述べた。」と述べている。

朝鮮半島の非核化というとき、北朝鮮の核兵器の問題に加えて、米国もまた、トランプ大統領の言によれば数百発の核兵器で「狙いを定め、装填している」状態にあることを忘れてはならない。米国の爆撃機や陸上配備の大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾頭ミサイルはすべて、北朝鮮を「完全に破壊」する能力を持っている。

北朝鮮に対する十分な安全保証とはなにを含むのかについては不明確なままだ。北朝鮮の侵略に備える米韓合同軍事演習停止の協定という形になるのか? それとも、完全な核軍縮を達成するための誠実な協議に、北朝鮮や他の7カ国の核保有国とともに米国が参加するという約束になるのだろうか?

どのような安全保障協定であっても、その主な要素は、朝鮮戦争を公式に終結させる和平協定の形でなくてはならない。1950年に始まった朝鮮戦争は、停戦協定をもって1953年に停止している。65年経った今日、和平条約は未締結のままである。

文大統領は2017年のベルリンでの演説で「半島における永続的な平和をもたらすために、朝鮮戦争終結時のすべての当事者が参加する和平条約を結ばねばならない」と述べている。

平和を実現する女性たち

どんな平和協議であっても、女性の声を含めることがきわめて重要だ。「平和を実現する女性たち」と題された3月7日のウェブセミナーで、「非武装地帯を超える女性たち」のクリスティーン・アン氏と「コードピンク」のメディア・ベンジャミン氏は、和平協議一般と、とくに朝鮮の文脈に関連した女性の不可欠の役割について話し合った。

アン氏は「女性が関われば実際の和平協定につながり、それはずっと永続的なものになることが、この30年の経験で分かっています。」と語った。

アン氏はまた、「核時代平和財団」での第17回「人類の将来に関するフランク・K・ケリー・レクチャー」(3月7日)において、さらにこうした考え方を敷衍(ふえん)した。また、「非武装地帯を超える女性たち」が今年5月に、政府の承認を得たうえで、非武装地帯を実際に超えるイベントを準備していると発表した。

挑発はやめよ

米韓両国は4月に、やや規模は当初の予定より小さくしたものの、合同軍事演習の再開を予定している。不必要に挑発的なものだが、にもかかわらず実施しようとしているようだ。米国は、オリンピック休戦に合わせるために、2月初めに予定していた大陸間弾道ミサイル「ミニットマンⅢ」の実験をひそかにキャンセルした。

他方、北朝鮮は、「協議が継続される限り、さらなる核実験や弾道ミサイル実験のような戦略的な挑発を再開しない」ことに同意した。

Photo: In May 2015, on the 70th anniversary of Korea’s division into two separate states by cold war powers, 30 international women peacemakers from around the world walked with thousands of Korean women, north and south, to call for an end to the Korean War, reunification of families and women’s leadership in the peace process. Credit. San Francisco based Niana Liu.
Photo: In May 2015, on the 70th anniversary of Korea’s division into two separate states by cold war powers, 30 international women peacemakers from around the world walked with thousands of Korean women, north and south, to call for an end to the Korean War, reunification of families and women’s leadership in the peace process. Credit. San Francisco based Niana Liu.

朝鮮戦争の公式解決は、民衆がそれを要求しない限り実現しそうもない。ホワイトハウスが暴力的な「平和」に関する見方を喧伝するなか、文大統領による和平条約の追求を支持するために立ち上がるのは、米国や世界各地の民衆次第だ。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

※リック・ウェイマンは、核時代平和財団(NAPF)の事業責任者。2016年4月には、核の責任同盟(ANA)から「今年の活動家賞」を送られる。受賞理由は「マーシャル諸島の核ゼロ訴訟に世界的注目を集める上で大胆なリーダーシップを発揮し、次世代の平和のリーダーたちを育て、ANAで理事及び技術指導者として活躍したこと」であった。

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【ベルリン/ジュネーブIDN=ラメシュ・ジャウラ】

今後5年から10年の米国の核政策、戦略、能力、軍事態勢を概説した最新の文書が、トランプ政権は包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准するつもりはないと明記している。また、核実験再開の可能性も排除していない。

2018年核態勢見直し」(NPR)と題されたこの文書は「米国はCTBTの批准を支持しない」と明記している。しかし他方で、米国は包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)準備委員会を支持しつづける、ともしている。

International Monitoring Station (IMS)/ CTBTO
International Monitoring Station (IMS)/ CTBTO

1996年にCTBTが署名開放された際にウィーンに設置されたCTBTOは、70カ国出身の260人の職員と、年間約1.3億ドル(1.2億ユーロ)の予算を擁している。

CTBTOによれば、2005年以来の委員会の予算は、通貨変動に伴うマイナスの影響を緩和するために、分割通貨システムによって準備されている。加盟国の評価分担金は、米ドルとユーロそれぞれの通貨における委員会の予想支出額にしたがって、両通貨に分割される。

2013年8月以来ラッシーナ・ゼルボ博士が事務局長を務めるCTBTOの主な任務は、包括的核実験禁止条約の促進と、同条約が発効したら運用状態にできるように検証体制を構築するところにある。

米国防総省が2018年2月2日に発表した2018年NPRは、米国は「関連した国際監視制度と国際データセンター」を支持しつづけると述べている。

CTBTOのウェブサイトによると、米国は2011年9月に2件の大きな自発的拠出金を支払っている。1件目は890万ドルで、核実験探知のためのCTBTOの検証・監視活動全体をさらに発展させるために、CTBTOと協力して米機関が行うプロジェクトを支援するものである。

たとえば、放射性核種や希ガスの探知技術の向上、地震波探知技術の精緻化、補助的な地震波探知局の設置などである。

ゼルボ事務局長は、2月26日のジュネーブ軍縮会議(CD)ハイレベルセグメントの場で、CTBTOの監視活動を取り上げて、「国際監視制度(IMS)は、今日の世界における最大の成果の一つと称賛されています。」と語った。

かつて1990年代にCTBTが協議されたこのジュネーブの多国間軍縮フォーラム(加盟国:65カ国)でゼルボ事務局長は、「核爆発実験を世界的に禁止することは、核兵器の水平的拡散(他の国への拡散)と垂直的拡散(既存核兵器の改善)双方を防ぐために極めて重要です。」と語った。

ゼルボ事務局長は、「CTBTの前文において、加盟国は、核兵器のすべての実験的爆発及び他のすべての核爆発を停止することが、核軍備の縮小及びすべての側面における核不拡散のための効果的な借置となることを認識している。」と明記されている点を指摘した。

そうした措置に関して重要な役割を果たしている「国際監視制度(IMS)は、完成した際には、核爆発の証拠を世界全体で監視する337の施設から構成されることになる。CTBTOによると、施設の約9割が既に運用中であるという。

米国による2度目の拠出(2550万ドル)は、フランス領南方・南極地域における「水中音響施設「HA04」再建のためのもので、これによって水中音響施設のネットワークが完成した。

CTBTは、地上、大気圏内、水中および地下というあらゆる空間における核爆発実験を禁止しており、ほぼ普遍的なものであるが、既に22年も交渉が停滞し、未だに発効していない。

CTBTには、これまで米国を含む183カ国が署名を済ませ、うち166カ国が批准している。この中には、核兵器を保有するフランス・ロシア・英国の3カ国も含まれている。しかし、CTBTを発効させるには、核技術をもつ特定44カ国が条約を署名・批准しなくてはならない。

それらの中、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国がまだ批准を済ませていない。インド・北朝鮮・パキスタンは署名すらしていない。

2018年NPRは、未署名国に対して核実験を行わないように呼びかけ、米国は「核戦力の安全性と効果を確保するために必要であるとみなさないかぎり、核爆発実験を再開することはない」と明示している。しかし同時に、「厳しい技術的、あるいは地政学的な難題に対処するために必要とみなされるならば、核実験を再開する」準備があるとしている。

CTBTO
CTBTO

2018年NPRはまた、「核弾頭の設計・開発・初期生産に関して、決定から全面的な開発に至る時間を短縮する」ことを目指す、と述べている。ワシントンのシンクタンク「軍備管理協会(ACA)」は、2017年11月の米国家核安全保障局(NNSA)報告書によると、「単純な(核)実験」の準備期間を24~36カ月から6~10カ月に短縮しており、核実験をタブー視する世界的な規範(=自主的かつ一方的な停止措置に基づいて核実験を差し控えてきた規範)を損なっている、と指摘している。

ACAのダリル・キンボール会長とキングストン・ライフ軍縮・脅威削減政策部長によるブリーフィング・ペーパーは、「準備期間の短縮によって、米国が『単純な(核)実験』爆発を実施すると決定したならば、その準備は6~10カ月間で行われることになる」と述べている。

このブリーフィング・ペーパーはまた、「NNSAの報告書もNPRのいずれも『現在のところ地下核実験を行う必要性はない』と確認しているものの、政権がCTBTへの批准を性急に拒否したこと、NNSAが実験準備期間を短縮したことを考え合わせると、トランプ政権は、国際監視制度からのデータも含めてCTBTを利用しようとする一方で、核実験再開への扉は開けておきたい意向のようだ。」と述べている。

米国がCTBTに批准しない意向を表明するする一方で、CTBT発効に向けた取り組みは、国連加盟国の多数の支持を受けて続けられている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長はジュネーブ軍縮会議で「包括的核実験禁止条約を速やかに発効させなくてはなりません。」と述べ、軍縮と軍備管理は、国連憲章で合意された安全保障のためのシステムの中核をなすと強調した。

Antonio Guterres/ Public Domain
Antonio Guterres/ Public Domain

グテーレス事務総長はその半年前、毎年8月29日と定められている「核実験に反対する国際デー」において、すべての国に対してCTBTの署名・批准を訴えた。

「過去70年の間に、南太平洋から北米、そして中央アジアから北アフリカに至る各地で、2000回を超える核実験が行われてきました。それによって、世界で最も弱い立場に置かれた人々や、手つかずの生態系の一部に被害が及んでいます。」と、グテーレス事務総長は語った。

CTBTOのゼルボ事務局長はジュネーブ軍縮会議で、CTBTは「最も手に届くところにある果実」であり、「核不拡散・軍縮に関する作業を前進させるためにとられる行動が成功するかどうかは、『始めたことを終わらせる』との国際社会の決意と政治的意志にかかっています。」と語った。

ゼルボ事務局長はまた、「つまり、CTBTを法的に発効させるために献身的で協調的な努力を行うこと、将来の世代に投資する数十億ドル規模の資金を確保すること、任務を完遂するために必要な他の軍縮条約のための堅固な基盤を確立して前進のためのプラットフォームを提供することを意味します。」と語った。

ゼルボ事務局長は、2020年のNPT運用検討会議を見据え、「よい成果を上げるには信用と信頼がカギとなることは明白です。既存の制度と法的文書を順守し、仕組みの内外において信用を構築していくための努力を払わねばなりません。すなわち、CTBTの発効がその不可欠の一部を成すNPTとその責任の仕組み全体を維持・確保していかなくてはなりません。」と語った。

Press conference by the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization (CTBTO) on the recent nuclear test by the Democratic People’s Republic of Korea (DPRK) and its detection by the monitoring system of the CTBTO. Speaking is Lassina Zerbo, CTBTO Executive Secretary.

ゼルボ事務局長はさらに、朝鮮半島情勢に触れて、「オリンピック精神が南北朝鮮の関係を好転させたかもしれません。対話に向けた道が開かれる可能性があり、CTBTはそうした対話の手段として役立つかもしれません。つまり、一国が単独で核実験モラトリアムを発し、それをCTBTの署名につなげていくことが、出発点となるだろう。」と語った。

アメリカ科学振興協会(AAAS)は、核実験禁止に向けたゼルボ事務局長の弛みない努力を称えて、2月16日にテキサス州オースティンで開かれた年次会合において2018年の「科学外交賞」を授与した。

AAASは、ゼルボ事務局長の授賞理由として、「科学的専門能力を活用しリーダーシップを発揮して難題に取り組み、世界平和を推進した。」と述べるとともに、「科学者や政策決定者、学者、市民社会の間の対話と交流を促し、多様なグループ間の共同作業を促進する類まれな能力を示してきた。」と説明した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ダッカIDN=ナイムル・ハク

非政府組織(NGO)オービス・インターナショナルの最高経営責任者・会長であり、「ボブ」の呼称でも知られるジョン・ボブ・ランク氏が、最近特別な任務を引き受けてバングラデシュを訪れた。「オービス」がパートナーとして支援している、「避けられる失明」(世界の視覚障害者2億5300万人中、9割が途上国在住、8割が治療が可能な状態にある:INPS)の問題に取り組んでいるいくつかの病院を訪問するためだ。

米空軍の退役准将でもあるボブによるバングラデシュ訪問は、MD-10航空機を改装した「空飛ぶ眼科病院(FEH)訓練プログラム」として知られる世界で唯一の移動教育病院が同国に就航した数週間後のことであった。

オービス・インターナショナルに2016年2月29日に加わったボブは、IDN-INPSバングラデシュ特派員のナイムル・ハクの取材に対し、バングラデシュにおける眼科治療のニーズと支援について、そして、「避けられる失明」とりわけ児童の失明の問題に取り組んできた自身の経験について語った。

Orbis International

ボブは、「視力回復に1ドルを投じるごとに、4ドルの見返りがあります。」と語った。物を見る際に焦点が合わなくなったことを理由に退職した特定の業界の人々に関する最近の研究によると、彼らに適切な眼鏡を与えたところ、あと10~15年は働き続けることができるということが明らかになった。

「いったいどれだけの企業が、最も熟練した労働者にもう10年は会社にいてほしいと願っていることでしょう。しかし、報道で大きく取り上げられないこのような問題に、私たちは普段注目していません。こうやって成人の生産性を延ばすことができれば、事業の機会は拡大し、人々を貧困から救い出すことができるようになります。加えて、成人を職場にとどめ置くことは政府の利益にもなります。」と、ボブは付け加えた。

「ここで私が出来る最大のことは、オービスのバングラデシュ支部を支援して新しいパートナー関係を築き、オービス・インターナショナルがその取り組みの背後にいて、彼らがやりたいことを応援していることを示すことです。」「人口1億6千万人のバングラデシュでは、小児眼科医はわずか34人しかいません。一方、米国では、40万人毎に1人の小児眼科医がいます。つまり、100万人毎に2.5人です。私たちの新しい取り組みは、(バングラデシュで)これを目指すものです。」とボブは語った。

Map of Bangladesh
Map of Bangladesh

「子どもたちには目の治療受ける機会が与えられなくてはなりません。治療がなされないかぎり彼らにチャンスはないのです。そのため、小児眼科医と麻酔医のニーズは驚くほどたくさんあり、オービスでは、こうした医師の訓練に取り組んでいます。率直に言えば、視力に問題にある子どもをもつ親ならば、子どもたちが、学校で黒板に書かれていることをなんとか読もうとしたり、うまく遊べなかったりぎこちなかったりするのを見て、彼らの苦境のほどを理解しています。オービス・バングラデシュの取り組みの支援を始めることで、私たちは、これまで支援がまったく足りていない領域に手を付けることができるのです。」

「私がオービス・インターナショナルのトップとしてできることは、世界18カ国で展開しているオービスの事業(計56事業)を外から見て回ることです。そうすることで、例えば、類似のプログラムで大きな効果をあげている他国の事例を参考に、ここバングラデシュのニーズに沿って異なった展開をしていくことが可能になるのです。」

「他の国の諸事例から学ぶことによって、バングラデシュの関係者のスキルを高めることにつながる協力を促進することもできます。例えば、中国の眼科病院で実施されている新しい取り組みを、バングラデシュに紹介すれば、ここの眼科医師や他の医療関係者にとって大いに助けとなるでしょう。」とボブは語った。

戦略家やチームリーダーとして30年以上のパイロット経験をもつボブは、いかにして善をなし、善を達成するかについても語った。ボブは、「人々は、施しをすることをよしとしますが、果たしてその結果はとうなっているのでしょう?」と問いかけたうえで、「(オービスに施しをする場合)眼科の専門家を育てる組織を支援することになりので、その結果、より多くの人々が眼科治療を受けられるようになり、それは、社会や家族、地域を変えていくことにつながります。つまり、(あなたのオービスへの支援は)永続的な変革をおこすことにつながるのです。」と語った。

ボブは、「1ドル1ドルに価値がある」をモットーとする「慈善の時代」に言及した。「『慈善の時代』は(イスラム地域で信じられている)ザカートの哲学から生まれた。この団体は、施しをすることだけではなく、基金をいかに効果的に活用するかを考えている。『慈善の時代』はオービスと協力して3年間の訓練事業を行っている。また、眼科医が実際に患者に触れることなく基本的なスキルを習得できる訓練を行うシミュレーションセンターを作ろうとしている。この施設は例えれば、パイトットが、実際に誰も傷つけることなく、試行錯誤を通じて飛行機の操縦技術を習得できるフライトシュミレーター施設のようなものだ。」

ボブさらに、「私は、バングラデシュの眼科医が、実際に患者の子供の眼を使って外科手術の経験を積むのではなく、シミュレーション技術へのアクセスを可能にして、外科シュミレーションを繰り返しながら必要な技術を習得できる環境を整えたいと思っています。どの眼科医も、初めて子どもの眼を手術するときは、完ぺきでありたいと願っているものです。従って、シュミレーションで訓練が可能になれば、実際の手術で素晴らしい成果をあげることができるのです。」と語った。

「(今回バングラデシュに就航した)『空飛ぶ眼科病院(FEH)』には、最新の機器をはじめ病院の空調システムも、外部からの訪問者がドアを通過する際に殺菌して感染を予防するなど最新の技術がつまっています。私たちは、こうして地元の医師たちを『空飛ぶ眼科病院』に迎えることで、次の段階の最新技術に導くことができるのです。」

Orbis
Orbis

「時として、今のやり方から最新技術への移行は、あまりにも変化が大きすぎで、うまくいかないこともあります。しかし私たちは、(FEHで医師たちに訓練を実施することで)医師たちが無理なく最新技術を習得し、さらに有益な次の段階のものへと移行するための支援を行うことができます。また、次に目を向けるべき新技術は何かについて、医師たちに助言も行えます。こうして彼らを支援することは、単に『ここに最新技術がある』と言って示すよりも、ずっと価値のあることです。」

「なぜこんなことを言うかというと、最新技術には時として、とても支払いが出来ないような消費財やサポート(メンテナンス費用)がくっついてくるからです。だから、現地の医師が必要としている技術は、最新かつできるだけ長く使えるものでなくてはなりません。そこでオービスでは、ハード面の支援だけではなく、生物医学の技術者と、機械修理に長けたスタッフを派遣しています。」

「私たちは、支援先の国が、機械が壊れたらそれを誰も修理できないような状態に戻ってほしくはありません。現地の人々が自らの能力で機械をメンテナンスし、最適な利用をできるようにしたいと考えています。その意味で、現地で長続きする能力を育み、長期的に人々を助けることができる持続可能な開発の考え方に賛同しています。」とボブは語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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スイスが「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」に加わる

【ベルンIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

世界的な「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が、25番目のネットワークにあたるSDSNスイスを立ち上げた。ベルン大学開発環境センターと、エコな開発を目指す「バイオビジョン基金」が中心を担う。多くのステークホルダーと対話の場を作り、持続可能な開発ソリューションを生み出し、2030アジェンダパリ協定(気候変動)の履行に関して政策決定者に助言を行うことを目的としている。

SDSNスイスは「社会・科学・政治が解決策を生み出すとき」と題する会議でもって、2月15日に正式発足した。このネットワークには、地域レベルで持続可能な開発目標(SDGs)推進に取り組むスイス全土の19機関が参加している。

Sustainable Development Solutions Network Logo

世界全体のSDSNは、2012年8月に国連の潘基文事務総長が設立を発表したグローバルなネットワークで、持続可能な開発に役立つ実践的な解決策を推進するために、世界の科学技術の知見を活用している。SDSNは国連機関や多国間金融機関、民間部門、市民社会と協働している。持続可能な開発に関するおよそ100人の世界のリーダーからなる「リーダーシップ評議会」がSDSNの理事会として機能している。

6つの大陸に広がっているSDSNネットワーク・プログラムは現在、700以上の加盟機関の知識や教育能力に依存している。そのほとんどが大学で、約25の国別・地域別のセンターに集約されている。国別日本では国連大学とIGESがホストしている:INPS)・地域別のSDSNは、持続可能な開発に向けた長期的な転換の道を探り、2030アジェンダをめぐる教育を推進し、地域レベルで取り組みを進めている。

SDSNスイス発足会議には、科学技術界、シンクタンク、政府、市民社会、企業、国際機関から約250人が集まり、スイス内外で持続可能性をめぐるこの国際的な合意(「2030アジェンダ」と「気候変動に関するパリ協定」)をどう効果的に履行するかについて話し合われた。

会議の全体会では、▽橋を架け解決策を生み出すツールとしてのSDSN▽スイスの「持続可能な社会」化を推進する▽持続可能な社会に向けたスイスの機会と責任、といったさまざまなテーマが議論された。また、経験やアイディアを交流させる「集団的ストーリー収穫」といった革新的な方法などを用いて、9つの分科会が同時並行的に開催された。

「2030アジェンダ」は、「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)に対して、国連経済社会理事会(ECOSOC)の支援の下、パートナーシップの基盤を提供するために、自発的あるいは国が主導した政策見直しを実行するよう求めている。

リオ+20」は2012年に、その成果文書「我々の望む将来」において、HPLFの設置を勧告した。この普遍的な政府間ハイレベル政治フォーラムは、「持続可能な開発に関する国連委員会」の後継となるものだ。2012年以来、HPLFは5回の年次会合を開いている。2017年7月の第5回会合では「変化する世界において貧困を根絶し、繁栄を促進する」と題して、テーマごとの見直し、いくつかのSDGs履行の見直し、閣僚宣言の採択を行っている。

ローザンヌ・ビジネス・スクールのカトリン・マフ氏が発足会議の進行役を務めた。マフ氏は、SDSNスイスは単なる新しい取り組みというわけではなく、既存の取り組みの規模とスピードを増し、新たな繋がりを生み出すためのネットワークである、と強調した。

Dr. Katrin Muff

マフ氏は、共同議長であるオーシャン・デイヤー氏(気候問題スイスユース)、ウルス・ヴィースマン氏(ベルン大学)を紹介した。「健全な地球」を実現するうえでの平和と正義の役割を強調したデイヤー氏は、意味のある持続可能性は、問題をひとつひとつ解決していくということではなく、持続可能な世界が学際的な活動と協力を必要としているということなのだ、と語った。

ヴィースマン氏は、スイスにおける持続可能性の課題とSDGsへのコミットメントの歴史を概説した。SDGs17目標の間の相互関係に着目し、社会的な次元を考慮に入れながらそれらに協調的に対処するという課題を明らかにした。

ヴィースマン氏は、「持続可能性は各国の国内だけで達成できるものではなく、世界的な取組みを要するものです。」と指摘したうえで、持続可能性関連の政策を従来の部門別の取り組みから、政府や市民社会を含む全ての部門を巻き込んだ、持続可能な社会に向けた広範な動きへと移行することを呼びかけた。彼は、さまざまな利害関係者や知識の形態を結集する見込みのある構想の重要な役割を強調した。

デイヤー氏は、発足会議は、これまでになかったような連携を可能にし、変革的な解決策を促進し、意思決定者に助言を行うことを目的とする、と語った。

Guido Schmidt-Traub, SDSN Global/ Peter Lüthi, Biovision.

SDSNグローバルのグイド・シュミット=トラウブ氏は開会にあたって、持続可能な社会に向けた世界中の重大な問題を指摘した。このネットワークは知識を通じて持続可能な開発を促進し、政策決定者を後押しする解決策を提案することを目的とすると強調した。

シュミット=トラウブ氏は、SDSNスイスがグローバルなネットワークに加わったことを歓迎して、「SDSNスイスには、教育や訓練を向上させ、データに関する実践的な解決を含め、持続可能な社会への移行に向けた道を提示することで、国際的な役割をスイスが果たす後押しをするよう期待しています。」と語った。

太陽エネルギーを動力源とする有人固定翼機による世界一周飛行を始めて成功させた「ソーラー・インパルス基金」の創設者であるベルトランド・ピカール氏が基調講演を行った。ピカール氏は、この世界一周飛行実験を成し遂げたとき、「残りの世界は過去を生きている」と感じたと語った。また、今日の世界では、環境保護を求めて闘う人々と、経済や利益ばかりを追求する人々との間に「大きな溝」が生じている、と指摘した。

Bertrand Piccard. /Photo courtesy of NVP User:nvpswitzerland

産業や政治の言葉で話す必要があると主張したピカール氏は、「運輸や建設、産業からのCO2排出を半減させ、同時に雇用を創出し利益をもたらす解決策はすでに存在しています。」と指摘したうえで、「私たちにとっての出口は、とりわけ時代遅れで非効率な技術を刷新することによって産業のための大きなマーケットを創出することにあります。」と語った。

ピカール氏は、技術が持つ力強い牽引力について強調したが、現在の法的枠組みは「完全に時代遅れ」と感じている、と語った。ピカール氏は、この問題は政府レベルで是正すべきで、まずは、すべての実コストを含めると持続可能な発電が既に旧来型の発電よりも安価になっているという事実など、情報分野から着手すべきと提言した。

ピカール氏はまた、利益を生む形で環境を保護する1000の方法を集めることを目的とした「ソーラー・インパルス」の取り組み「#1000solutions」を紹介した。「気候変動を否定し、環境に何の共感も持たない人であっても、持続可能な社会には利益しかありません。」とピカール氏は語った。

スイス連邦環境局のシビル・アンワンデル氏は30年前のハイチでの経験について語った。非効率な政治体制が、教育の質の低下と貧困の蔓延につながり、結果として、重大な環境問題が引き起こされることがある、という。アンワンデル氏は、「ゴー・フォー・インパクト」(Go for Impact)の枠組みの事例を引き合いに、総体的なアプローチを用い、世界的な問題に対処する革新を推進する必要性を強調した。

ETHチューリッヒのニコラ・ブルム氏は、持続可能な開発の推進に関する自身の研究と起業家経験について語った。持続可能性を促進する社会に対して解決策をもたらすために、さまざまなステークホルダー間の協力を生み出す必要性を強調した。

Collective Story Harvesting” group: Defining Research Agendas. Photo: © Peter Lüthi, Biovision.
Collective Story Harvesting” group: Defining Research Agendas. Photo: © Peter Lüthi, Biovision.

ピカール氏は、続くパネル討論で、「善意をもった人々によって世界を変えることができると考えるのはナイーブだ。」と指摘し、その理由として、「彼らは世界を動かしている人々ではないからです。世界動かしているのは、自らビジネスを展開する金持ちか、再選したい政治家です。」と語った。これに対してブルム氏は、「だからこそ将来的に世界の指導者になる人々を教育することが重要なのです。」と応じた。(原文へPDF

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翻訳=INPS Japan

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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

残酷かつ恐ろしい出来事の末に、米国に難民申請していた母親と娘がシカゴで再会を果たすことができた。7歳になったばかりの娘は、2017年11月以来、母親から数千マイル離れた場所に収容されていたのだ。

この親子の代理人であるアメリカ自由人権協会ACLU)の弁護士によると、長らく引き離されていた親子は、再会の瞬間、思わず走り寄って抱きしめ合いながら泣き崩れたという。

Map of USA
Map of USA

コンゴ民主共和国出身のエルさんは、「とてもつらい時期でした。こうして娘と再び一緒になれて感謝しています。私達親子を支援してくださった全ての方々に心からお礼を言いたい。」と語った。

ACLUの弁護士によると、コンゴ民主共和国から逃れたこの親子には、本国への帰還を恐れる信憑性のある理由があったという。しかし、親子が米国への入国に必要な書類を全て提出したにもかかわらず、入国管理当局は、少女が実の子ではないという誤解に基づいて母親を収監する決定を下した。

しかし、この女性が少女を虐待したり放置したりしたという証拠はなく、母親が収監されることになった理由についてもなんら説明がなされなかった。また、この少女(エス・エスちゃん)がエルさんの娘であるか否かを確認できるDNAテストも実施されなかった。結局のところ、エスさんがサンディエゴの施設から釈放され、DNA検査が実施されたのは、この問題に関する訴訟がおこされ、シカゴ・トリビューン紙をはじめとするマスメディアが大きく取り上げるようになってからだった。DNA検査の結果、エルさんとエス・エスちゃんは親子であることが証明された。

Lee Gelernt/ ACLU

ACLU移民の人権プロジェクトを担当しているリー・ゲラント氏は、シカゴ市内の集会で、「ACLUは、トランプ政権が、難民が米国に押し寄せるのを防ごうと、米国へ到達した難民家族を意図的に引き離していると確信しています。ACLUはエルさんとエス・エスちゃんのケースや、ブラジル人の母親と14歳の息子が今も遠く離れたテキサス州とシカゴで別々に収監されている事例など、数百にのぼる家族が不当に離れ離れになることを余儀なくされているとして、集団訴訟を起こしている。」

「これは実に恐ろしい事態であり、私達市民がこのような慣行を止めさせなければなりません。エルさんとエス・エスチャンを救出した事例は始まりに過ぎません。私たちはこれまでに数百人に上る子供たちが家族と引き離されている現状を見てきましたので、当局に対する訴訟を拡大しています。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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勢いを増すインドの核抑止政策

【バンガロールIDN=スダ・ラマチャンドラン】

「インドは心から核大国であること欲しているわけではないが、核抑止は今後数十年のインドの国家安全保障戦略の要であり続けるだろう。」こう語るのは、インド防衛分析研究所(IDSA)の特別研究員であるグルミート・カンワル准将である。

カンワル准将はその理由を近著『戦力の先鋭化:進化するインドの核抑止政策』の中で、「容認しがたい人命への損失と、前例のないような物質的損害を与えられる懲罰的な報復を伴う核攻撃で対抗する政治的・軍事的意志とハードウェアをインドが備えていると敵対国が信ずるかぎりにおいて、敵対国は抑止されるだろう。」と記している。

こうした認識を背景にして、インドは1月18日、核兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「アグニ5」の実験に成功した。

「同ミサイル5回目の実験であり、移動式発射機のキャニスターからの3回連続の発射実験だ。実験は5回とも成功した」とインド防衛省は声明で述べ、これはインド核抑止力の信頼性を確認するものだ、とした。

短距離の「アグニ1」「アグニ2」はパキスタンを念頭に置いたものだったが、「アグニ5」は「中国に対する抑止力をインドに提供する。」アグニ5は5000キロの射程を持ち、ほぼ中国全土に核弾頭を撃ち込むことが可能となる。

アグニ5は、繰り返し実験に成功したことで、間もなくインドの戦略軍に組み込まれることになるだろう。

防衛研究開発機構」(DRDO)の高官は、IDNの取材に対して、これは「核ミサイル能力近代化を目指すインドの取り組みにおけるさらなるステップとなる」ものであり、インドの「国家安全保障の基盤としての核抑止への信頼性は強化された。」と語った。

グローバルな核軍縮に対するインドの長年にわたるコミットメントのルーツは、1945年にさかのぼる。米国が広島・長崎に原爆を投下した際、マハトマ・ガンジーは「科学の最も邪悪な利用法だ」と非難した。核兵器なき世界への独立インドのコミットメントは、核兵器を非道徳的なものと見なすインドの見方に影響されている。

ブリティッシュ・コロンビア大学グローバル問題リュー研究所で「軍縮・グローバル・人間の安全保障」問題の責任者を務め、『約束の力:インドの核エネルギー検証』の著者であるM・V・ラマナ氏は、IDNの取材に対して、4つの大きな局面を通じたインドの軍縮政策の進化をたどって、第1期、すなわち、ジャワハルラル・ネルーが首相であった時期(1947~64)には、インドの核軍縮への関与は最も強かったと論じた。

India’s First Prime Minister – Jawaharlal Nehru/ Royroydeb – AFP, Public Domain

ネルー首相は「グローバルな核軍縮を前進させるために自分に何ができるかについて、真剣に関心を寄せ、核軍縮に長期的な影響をもつ取り組みに貢献しました。」とラマナ氏は語った。重要なことは、ネルー首相下のインドは核兵器開発を控えたという事実だ。

しかしこれは第2期(1964~74)に変化する。1962年に中印国境紛争に敗れ、1964年に中国がロプノールで核実験に成功すると、インドは核兵器開発を開始し、1974年には「平和的核爆発」を実行する。同時にインドは、この時期にグローバルな核軍縮を追求した、「あまり成果をもたらさない」「弱い試み」であったと、ラマナ氏は語った。

インド軍縮政策の第3期(1974~98)は、ポカランでの核実験に始まり、同所での核実験に終わる。インドの核兵器政策は「ゆっくりと動き始めた。」とりわけ、ミサイルの「プリットヴィー」「アグニ」の開発である。しかし、「核政策には自己抑制が組み込まれていた。」とラマナ氏は指摘した。

同時に、インディラ・ガンジー首相と、その息子で継承者でもあるラジブ・ガンジー氏は、グローバルな核軍縮に向けて努力した。ラジブ・ガンジー首相(当時)は、1988年の国連総会での演説で、時限的な「非核兵器世界と非暴力世界秩序を導く行動計画」を明らかにした。

最初の3つの時期と異なり、1998年に始まるインド核軍縮政策の第4期は、「核軍縮に向けた意義ある取り組みが存在しない」時期だとラマナは指摘した。ここで重要な点は、インドが、自国の核兵器開発を抑制する条約の支持を回避したことだ。

例えば、インドは2017年7月に歴史的な核兵器禁止条約を採択した国連の協議に参加しなかった。

Rajiv Gandhi/By Santosh Kumar Shukla – CC BY-SA 2.0

「起こりつつある軍縮についてほとんど触れないのは、非常に偽善的だ。」とラマナは論じる。というのも、それに核戦力の増強が伴っているからだ。

空軍力研究センター(CAPS、ニューデリー)上級研究員で、国家安全保障プロジェクトのリーダーでもあるマンプリート・セティ氏は別の意見だ。セティ氏はIDNの取材に対して、「インドの軍縮への願望は見せかけではありません。」「インドの軍縮へのコミットメントと、アグニ5の運用を含めた信頼性ある抑止の構築に向けた努力は、安全保障上の必要に関わる2つの柱です。」と語った。

「核保有した隣国」の存在を考慮に入れれば、インドには、現状において核抑止力を放棄する余裕はない。結果として、短期的にはインドは核抑止力を維持することになるが、長期的には、安全保障は核兵器なき世界によって最もよく実現されることを理解している。2つの間に矛盾はない、とセティ氏は論じた。

セティ氏によれば、多国間で協議され、普遍的で、検証可能な軍縮合意に世界が達しない限り、インドの抑止力追求は安全保障を実現する堅実な方法であるという。とりわけ、国連安保理の5常任理事国(英国・フランス・ロシア・中国・米国)の戦略における核兵器の重要性が著しく高まっている現状ではそうだ。

米国のドナルド・トランプ大統領の「核態勢見直し」は、「極端な状況」、場合によっては、インフラや民間人への非核攻撃への対応も含めて、核兵器使用に米国が以前にもまして前向きであることを示した。

「これはインドや中国のような国々に悪いシグナルを送ることになりました。大規模な通常兵器能力を持つ米国のような国がより使用可能な核兵器に投資するとすれば、インドや中国の軍事戦略家らも同じような考えに傾くということになります。」とラマナ氏は指摘した。

今日インドでは、核弾頭や運搬手段の近代化を求める声が強くなってきている。

インドが、長く保ってきた「先制不使用」政策を放棄するかもしれない兆候も強まってきている。もしそうなればインドは、同国の都市がパキスタンの核攻撃にさらされないようパキスタンを完全に非武装化すべく、パキスタンに先んじて核兵器を使用する意志を一層固めることになるだろう。(原文へ

INPS Japan

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|視点|核兵器禁止条約のあとに来るもの(スージー・スナイダーPAX核軍縮プログラム・マネージャー)