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|視点|トラテロルコ条約から核兵器禁止条約へ(ホルヘ・A・L・レチュガOPANAL研究・コミュニケーション責任者)

【メキシコIDN=ホルヘ・アルベルト・ロペス・レチュガ】

2月2日、米国政府は、国家安全保障における核兵器の役割を拡大する戦略を盛り込んだ2018年の「核態勢見直し」(NPR)を発表した。今回のNPRでは、米国の核戦力を近代化するために費用を(現在の国防総省予算の)3%から6.4%にまで倍増する必要があるとしている。

これはつまり、今後30年間で1兆ドル以上の投資を意味する。また今回のNPRは、「低出力オプションをも含む柔軟な米国の核オプションを拡大することは、地域侵略に対する信頼性のある抑止力の維持にとって重要」であり、これは「核のハードル」を引き上げる戦略であると記している。

Jorge Alberto López Lechuga/ OPANAL
Jorge Alberto López Lechuga/ OPANAL

2018年NPRは、低出力の核兵器を含めることで、起こりうる攻撃(非核攻撃の場合も含む)に対する対応能力が強化され、「潜在的な敵対国が限定的な核のエスカレーションにより優位になりうると考えないよう保証するのを助け、核使用の可能性を低減する」としている。

問題は、低出力核兵器への依存が増す限り、その影響が「容認可能」なものとみなされるようになり、核兵器使用の可能性が増してしまうことにある。低出力核兵器は、1945年に使用された原子爆弾よりもはるかに強力なものだ。

今回のNPRは「2010年の NPR 以来、世界的な脅威の状況は明らかに悪化してきた。」と指摘している。また、「主要な通常兵器、化学、生物、核兵器、宇宙、サイバーの脅威および暴力的な非政府主体を含めて、これまでになかった範囲と種類の脅威が存在しており、この変化は増大する不確定性とリスクを生み出した。」そして、「それこそが、米国が政策と戦略を策定し、核戦力の持続と交代を開始した理由である。」と述べている。

「不確実性」のない世界を想像することは難しいことではない。しかし、それを実現することは不可能だ。実際には、不確実性のない世界を手にすることは、核兵器のない世界の実現よりも、現実性が薄い。

こうした「前例のない」21世紀型の脅威が存在するとすれば、20世紀型の戦略、とりわけ、人類を脅かす戦略に依存しながらそうした脅威に直面することは、ますます事態を悪化させることになるのではないか。もし私たちが、脅威や不確実性が増した世界に住んでいるとするのならば、そのような世界に核兵器があってはならない。誰が手にしているのであれ、核兵器の存在そのものが、核兵器保有国を含むすべての人々にとって、脅威となっているのだ。

核兵器の使用に関する仮定の中で、核兵器を保有する国々は、国家の存在がかかっている場合、とりわけ一般的には核攻撃の可能性に直面した場合、核兵器を使用する必要性に通常は言及することになる。しかし2018年のNPRはさらに多くのシナリオを盛り込み、核兵器使用をより容認可能なものにしている。

もちろん、問題は米国の核兵器に限られたものではない。他に核保有国は8カ国あり、米国の核戦力がその中で恐らく最強であるために、2018のNPRに対抗してこれらの国々が「核のオプション」を強化する方向に流れないとも限らない。

「核兵器なき世界」は望ましいが現時点では非現実的という考え方が、依然として存在する。しかし、中にはそうは考えない国々もある。

51年前の1967年2月14日、ラテンアメリカ・カリブ海地域諸国はこうした考え方に対抗して、ラテンアメリカ・カリブ海地域核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)によって、同地域における核兵器の法的拘束力ある禁止を打ち立てた。2018年2月14日は、トラテロルコ条約の署名開放51周年にあたる。

トラテロルコ条約によってつくられたモデル(=非核兵器地帯)は成功をおさめ、他の4つの地域で模倣された。南太平洋(ラロトンガ条約)、東南アジア(バンコク条約)、アフリカ(ペリンダバ条約)、中央アジア(中央アジア非核兵器地帯条約)、モンゴル(同国の非核地帯化宣言は、国連総会決議55/33Sの採択という形で国際的に承認されている)である。今日、114カ国が、非核兵器地帯を設置した条約の加盟国・署名国になっている。

2017年7月7日、国連において、122カ国が核兵器禁止条約を採択し、すべての国家に対して署名開放された。いわゆる「核禁条約」は、とりわけ、「核兵器あるいはその他の核爆発装置の開発・実験・生産・製造・取得・保有・備蓄」を禁じている。さらに、「核兵器あるいはその他の核爆発装置の使用あるいは使用の威嚇」も禁じている。

Nuclear Weapon Free Areas/ UNODA
Nuclear Weapon Free Areas/ UNODA

核禁条約は、50カ国が批准すると発効する。2017年9月20日の署名開放以来、5カ国(ガイアナ、タイ、バチカン、メキシコ、キューバ)が批准を済ませている。少ない数に見えるかもしれないが、国連加盟国の63%にあたる122カ国が採択に賛成したという事実を覚えておいてほしい。つまり、世界の多数の国々が非核兵器世界を前進させるべきだと考えていると言えるだろう。

核保有国とその同盟国が核禁条約に反対しているのは驚くには当たらない。これらの国々は、核兵器を保有する国々の参加なしに核禁条約は効果的なものにならないと主張している。しかしそこで疑問が出てくる。もしこれらの国々が本当にそう考えているのなら、なぜそこまで熱心に反対したのだろうか? おそらくそれらの国々は、この条約が、彼らの主要な力の源泉(=核兵器)に悪の烙印を押すことに寄与すると認識しているのだろう。

2018年のNPRは、核禁条約は「国際安全保障環境の転換という前提条件抜きに核兵器の廃絶をまったく非現実的に期待する傾向によって炊き付けられた」と述べている。NPRですら核禁条約に言及したという事実そのものが、その意義を明らかにしているのだが。

核禁条約の支持者は、核兵器の廃絶に「国際安全保障環境の転換という前提条件」が必要だとの見方に同意しない。むしろ彼らは、核兵器の廃絶こそが国際安全保障の望ましい「転換」であると見なしている。

核禁条約でもって直ちに核兵器の廃絶がもたらされるわけではないことは明白だ。しかし、核兵器禁止が法的に定立される前に「核兵器なき世界」が達成されると考えるのも非現実的だ。核兵器の禁止に関する国際規範は、「核兵器の完全廃絶に向けた」必要なステップなのだ。

Alfonso Garcia Robles/ Marcel Antonisse - [1] Dutch National Archives, The Hague, Fotocollectie Algemeen Nederlands Persbureau (ANEFO), 1945-1989, CC BY-SA 3.0 nl
Alfonso Garcia Robles/ Marcel Antonisse – [1] Dutch National Archives, The Hague, Fotocollectie Algemeen Nederlands Persbureau (ANEFO), 1945-1989, CC BY-SA 3.0 nl

核兵器を非正当化するためにも核兵器を禁止する必要がある。かつて、生物兵器や化学兵器の場合もそうであった。核禁条約を支持するどの国も、条約自体が目的などとは言っていない。それはひとつの前進であって、最終ステージではないのだ。

トラテロルコ条約の交渉を成功に導いたアルフォンソ・ガルシア・ロブレス氏(1982年のノーベル平和賞受賞者)の言葉から、核禁条約の教訓をひとつ考えてみたい。「ラテンアメリカの条約で打ち立てられたシステムは、いかなる国も他国に対してそうした非核地帯への加盟を義務づけることはできないが、一方で、非核地帯への加盟を望む国々が、自国領土から核兵器を完全に追放する体制に従おうとするのを止めることもできない、ということを証明した。」

いかなる国も、国家主権の自由な行使として、人類を危機にさらす安全保障体制を拒否する決定を下そうとする他国の意思を妨げることはできない。トラテロルコ条約がそうした道への最初の成功のステップだとすれば、核兵器禁止条約はそれをさらに積み重ねるものだと言えよう。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

ホルヘ・A・L・レチュガ氏は、ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止機構(OPANAL)研究・コミュニケーション責任者。この記事における見解は、必ずしもOPANAL及びその加盟国の見解を反映したものではない。

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核兵器禁止条約への広範な支持を構築する努力

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【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

国際社会が核兵器のない世界に向けて道を切り開こうとする中、2020年核不拡散条約(NPT)運用検討会議第2回準備委員会会合(4月)と核軍縮に関する国連ハイレベル会合(5月)が今後の焦点となる。

核兵器禁止条約が2017年7月に採択されて以来、「これらは、核保有国や核依存国も交えての初の討議の場となるものです。」と著名な仏教哲学者である池田大作氏は述べている。池田氏は、世界192カ国・地域に1200万人の会員を擁する創価学会インタナショナルの創立者・会長である。

ICAN
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2017年の核兵器禁止条約交渉に参加しなかった9つの核保有国には、安全保障理事会の5つの常任理事国(米国・ロシア・英国・フランス・中国)と、いわゆる「核クラブ」の4つの非公式メンバーであるインド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルが含まれる。

その他交渉に参加しなかった国としては、とりわけ、安全保障同盟の一環として米国の核の傘を享受している日本や韓国、オーストラリア、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が挙げられる。唯一の例外がオランダだが、核兵器禁止条約の採択に際して反対票を投じている。

しかし、「光明が見えなかった難題に、今回の条約が突破口を開きました。」「しかも、被爆者をはじめとする市民社会の力強い後押しで実現をみたのです。」と池田会長は、2018年の平和提言「人権の世紀へ 民衆の大河」で述べている。

核兵器を禁止する必要性について意識を高める上で市民社会が果たした貢献が認められ、2017年のノーベル平和賞は核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に授与された。ICANは条約に基づく核兵器禁止の実現に向けて努力を続けているNGOの連合体である。

Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN
Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN

2018年の平和提言は、1983年以来毎年発表されてきた平和提言の第36回目にあたる。とりわけ、統合的な人権を中心としたアプローチが、核の脅威を含むグローバルな問題を解決する鍵であることが今年のメインテーマになっていることから、この提言の重要性は際立っている。

池田会長は、このことを視野に、今年が世界人権宣言採択70周年であることを踏まえて、一人一人の生命と尊厳(つまり、あらゆる人間が本来的に貴重でかけがえのないものであるという事実)を中心に据える必要性を強調している。

同時に、池田会長は核兵器禁止条約の採択を歓迎し、「核兵器のない世界に向けた建設的な議論が行われるよう」強く呼びかけている。

池田会長は、4月23日から5月4日までジュネーブで開かれるNPT運用検討会議第2回準備委員会会合において、「2020年のNPT運用検討会議に向けて各国が果たすことのできる核軍縮努力について方針を述べる」ことが望ましい、としている。

池田会長はさらに、核兵器禁止条約の7項目にわたる禁止内容について、実施が今後検討できる項目を表明することが望ましい、としている。例えば、「移譲の禁止」や「新たな核保有につながる援助の禁止」は、NPTとの関連で核保有国の間でも同意できるはずだ、と主張している。

池田会長は、「国際法は、条約のような”ハード・ロー”と、国連総会の決議や国際的な宣言などの”ソフト・ロー”が積み重ねられ、補完し合う中で実効性を高めてきました。」と論じている。

また軍縮分野でも、包括的核実験禁止条約(CTBT)において、条約に批准していない場合に個別に取り決めを設けて、国際監視制度に協力する道が開かれてきた事例がある、と池田会長は述べている。

池田会長は、核兵器禁止条約においても、署名や批准の拡大を図る努力に加えて、宣言や声明という形を通じて、各国が実施できる項目からコミットメント(約束)を積み上げていくべきだ、と論じている。

池田会長はさらに、「何より核兵器禁止条約は、NPTと無縁なところから生まれたのではありません。条約採択の勢いを加速させた核兵器の非人道性に対する認識は、2010年のNPT運用検討会議で核保有国や核依存国を含む締約国の総意として示されていたものに他ならず、核兵器禁止条約は、NPT第6条が定めた核軍縮義務を具体化し、その誠実な履行を図っていく意義も有しているからです。」と述べている。

核軍縮の停滞に加え、核兵器の近代化が進み、拡散防止の面でも深刻な課題を抱える今、「NPTの基盤強化」と「核兵器禁止条約による規範の明確化」の相乗効果を図るべきだと池田会長は述べている。

池田会長は、2020年NPT運用検討会議に向けて日本が核軍縮の機運を高める旗振り役になることを望んでいる。「日本は、5月のハイレベル会合を機に核依存国の先頭に立つ形で、核兵器禁止条約への参加を検討する意思表明を行うことを強く望むものです。」「日本は、被爆国として道義的責任から目を背けることは決してできないはず」と訴えている。

SGI会長は、禁止条約の基底には、どの国も核攻撃の対象にしてはならず、どの国も核攻撃に踏み切らせてはならないとの、広島と長崎の被爆者の切なる思いが脈打っている、と指摘している。

これに関連して池田会長は、核兵器禁止条約の採択にあたって「思い出したくもない過去を語り続ける努力は、間違いでも無駄でもなかった」との感慨を述べた広島の被爆者サーロー節子さんに触れている。

Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN
Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN

池田会長は、2020年NPT運用検討会議第1回準備委員会(ウィーン、2017年5月2~12日)で日本政府が「非人道性への認識は、核兵器のない世界に向けてのすべてのアプローチを下支えするもの」と強調したことに改めて着目し、したがって、「日本の足場は、『同じ苦しみを誰にも味わわせてはならない』との被爆者の想いに置かねばならない。」と指摘している。

池田会長は、核兵器禁止条約の意義は一切の例外なく核兵器を禁止したことにあるとして、市民社会の連帯をさらに広げていくことを訴えている。

条約では、2年ごとの締約国会合や6年ごとに行う検討会合に、条約に加わっていない国などと併せて、NGOにもオブザーバー参加を招請するよう規定されている。

池田会長の見解では、これは、世界のヒバクシャをはじめ、条約の採択に果たした市民社会の役割の大きさを踏まえたものだ。同時に、核兵器の禁止と廃絶は、すべての国々と国際機関と市民社会の参画が欠かせない“全地球的な共同作業”であることを示した証左である。

また、条約の前文では、平和・軍縮教育の重要性が強調されている。この点は、SGIが、国連での交渉会議に提出した作業文書や交渉会議における市民社会の意見表明のなかで繰り返し訴えてきたことだ。

SGI会長は、「核兵器の使用が引き起こす壊滅的な人道上の結末に関する知識が、世代から世代へと継承され、維持されるためには、平和・軍縮教育が不可欠であり、それが禁止条約の積極的な履行を各国に促す土台ともなると考えるからです。」と述べている。

SGIはそこで、核兵器禁止条約の早期発効と普遍化の促進を目指し、「核兵器廃絶への民衆行動の10年」の第2期を今年初旬から開始した。これは、池田会長が2006年8月に発表した国連提言のなかで呼び掛けた、「核兵器廃絶への民衆行動の10年」の活動を踏まえたものだ。

「核兵器廃絶への民衆行動の10年」は、戸田城聖第2代会長の「原水爆禁止宣言」50周年を機に2007年9月に開始した。

池田会長は、核兵器禁止条約の普遍性を高めるには、各国の条約参加の拡大を市民社会が後押しするとともに、グローバルな規模での市民社会の支持の広がりを目に見える形で示し続けることが、大きな意義を持つとの見解だ。

SGI会長は、ICANや平和首長会議など多くの団体と協力する形で、核兵器禁止条約を支持する各国の自治体の所在地を国連のシンボルカラーである青の点で示した世界地図を制作したり、さまざまなNGOから寄せられた条約支持の声を集めて幅広く紹介し、国連や軍縮関連の会議の場で発信していくことを提案している。

同様に、青年や女性、科学界や宗教界など、あらゆる角度から連帯の裾野を広げ、各国の条約参加を呼び掛けるとともに、条約の発効後は、非締約国に締約国会合へのオブザーバー参加を、市民社会として働きかけることを提案している。

UN General Assembly Hall/ Wikimedia Commons
UN General Assembly Hall/ Wikimedia Commons

池田会長は、ICANや平和首長会議などが築いてきた世界的なネットワークが、核兵器廃絶を求めるグローバルな民意を示していると確信している。

「その民意の重みが、やがては核保有国と核依存国の政策転換を促し、核時代に終止符を打つことにつながっていくと、私は確信してやみません。」とSGI会長は述べている。(原文へPDF

INPS Japan

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タイの露天商を「持続可能性」の観点から見る

【カオサン(バンコク)IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

持続可能な開発の問題が語られるとき、タイ、そしてアジアの全域で見られる、街頭で生計を立てる多くの露天商たちのことが触れられることはほとんどない。

街頭から露天商を一掃しようとして失敗したバンコク都知事の試みのように、彼らの商売を阻止しようとする動きですら、メディアで触れられることはない。

Map of Thailand
Map of Thailand

「露天商のおかげでバンコクに観光客が集まるようになっています。露天商はタイの生活の一部であり、観光客もそれを体験したがっています。安くておいしいストリート・フードを求めてタイにくる観光客もいるのです。」と、観光コンサルタントのパッタマ・ヴィライラートさんは語った。

ヴィライラートさんは、「例えば多くの中国人観光客は、バンコクを旅した後で、急速に広まるソーシャルメディア上に露天や屋台の写真をアップし、それを見た人々が、食べに行って写真を撮り、同じソーシャルメディアにアップするという流れができています。つまり、露店や屋台体験が旅の醍醐味になっているのです。」と語った。昨年、実に1000万人もの中国人観光客がタイを訪れた。

CNNが、バンコクが世界でもっとも素晴らしい食べ歩きの町だと報じた翌月の昨年4月、バンコク都庁は、衛生・安全・秩序の観点からバンコクの街頭から露天商を一掃すると発表した。

当時バンコク都知事の首席顧問を務めるワンロップ・スワンディー氏は、「露天商はあまりにも長い間、歩道を占拠してきました。合法的に食べ物やその他の商品を売るスペースを市場ですでに提供しているので、計画は粛々と進めていきます。」と語っていた。

昨年6月、バンコク市内50地区の露天商の代表らがプラユット・チャンオチャ首相に対して、生計を守るために街頭での商売を続けることを認めるよう求める嘆願書を提出した。「ネイション」メディアグループによれば、指定区域にバンコクの露天商を閉じ込める政府とバンコク都庁による措置はあまりに厳しすぎると訴えているという。

今回の禁止措置から除外されているエリアのひとつが、チャオプラヤ川に接している歴史地区で、バックパッカーたちが集うカオサン地区である。この地区は、もう何十年にもわたって、安宿と屋台で、節約志向の旅行者を引き寄せてきた。

今日、欧米人にとどまらずアジア各国からの旅行者も露天文化に惹きつけられている。日が落ちると、カーニバルのような雰囲気が漂い、街角では折り畳み式の机や椅子が拡げられて、交通は事実上遮断される。すでに街頭にテーブルや机を広げている近所のホテルやパブに加えて、服や靴、バッグ、お土産品などを売る数多くの「テント」屋台が歩道に広げられる。

露天商は、高等教育を受けていないタイ国民の多くにとって主な生計手段となっており、しばしば農村部から移住してきた都市部の貧民層にとって大きな収入源になってきた、と長年指摘されている。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

ここカオサンの露天商たちは、食べ物を売っている店のある土地や店のオーナーに対する場所代や、警察への賄賂、非公式の地元組織に対する代金など、何らかの形で毎月の支払いをしている。

移動式屋台で長年麺類を売っている40代の露天商ナットさんはIDNの取材に対して、移動店舗は警察に対して支払いをしていない、と語った。「もし私の店が固定の店だったら支払いをしなくてはなりません。私には、ここでの稼ぎで食べさせていかなければならない家族がバンコクにいます。」と語った。しかし、「トット」と名乗ったジュース売りの男性は、「この仕事をするには毎日支払わないといけません。カネを出さないと警察は私を逮捕します。毎日ここに来て、カネを取っていくのです。」と不満を漏らした。

ある露天商(ビルマ人従業員によると、カンボジア出身だという)は、店を24時間開けていると語った。彼は名前を明かさなかったが、「私は夜の店番。朝になると姉が交代に来ます。」と説明した。また彼は、警察にカネを渡さないといけないかどうかは言いたくない様子だったが、商売をするためには「誰か」に支払いをしないといけない、と話してくれた。

この男性は、ミャンマー出身の8人の若い男女を店員として雇っている。彼は、5張のテントの下に厨房と客用のテーブルと椅子を広げている。これらすべてのものは、月曜の朝にトラックの荷台に詰め込まれ、火曜の夕方には路上に戻される。露天商は月曜に商売をしてはいけないことになっているからだ。

露天商と話をしてみると、服や靴、バッグといった、食べ物以外のものを売る人々はミャンマー出身者が多く、一部にはネパール人もいるようだ。ほとんどが20代か30代で、取材に対して名前は言いたがらなかった。鞄を売っていた30代のビルマ人女性は、彼女の「ボス」は、1日あたり350バーツ(約10ドル)の給料と、それに加えて、売上1000バーツあたり2%の歩合を支払っていると語った。

クマールと名乗った28才の男性は、元はネパール出身だが、マンダレイから来たミャンマー市民だという。「国境でパスポートを破り捨ててここで働いていいます。ここにいるのは合法です。」と彼は主張する。「マンダレイには仕事がありませんし、そこで飢えるわけにはいかない(のでタイに来ました)。ボスからは月に1万5000バーツ(約425ドル)もらえます。これは自分の店ではありません。この店を維持するためにボスが代わりに警察に払ってくれています。…(支払っているのは)自分ではありません。」

タイ当局が、主にミャンマー、カンボジア、ラオス出身の、露天商やレストランなどで働く1600人以上の不法滞在者を逮捕したとの報道が1月にあった。新法によって彼らは5年以下の懲役・10万バーツ(約2800ドル)以下の罰金に処せられる可能性がある。違法移民の雇用者にも高い罰金が科せられる。

20年以上もミャンマー移民とともに活動しているがタイ人のあるソーシャルワーカー(匿名を希望)は、「タイでは約400万人のミャンマー人が働いているが、そのうち合法に働いているのはわずか20万人にすぎません。」と指摘したうえで、「彼らは国境地帯でブローカーにカネを払って労働許可証を得ています。タイのブローカーたちは1人あたり数千バーツも取るのです。」と説明した。

また、「タイ語が話せる限り、彼らは滞在を認められ、タイ人の方も気にしません。」「こうした移民たちは、ほとんどすべてのことが違法になされる文化から来ていますから、誰かにカネを払って何かを得ようとすることが悪いこととは思っていません。」と説明した。

彼女は、街頭の商取引から得る持続可能な収入という点から見れば、(たいていは食べ物を売っている)こうしたタイの露天商には問題がないとの見解だった。

One of the main streets in Yasothon was turned into a street food market during the Yasothon Rocket Festival/ By Takeaway - Own work, CC BY-SA 3.0
One of the main streets in Yasothon was turned into a street food market during the Yasothon Rocket Festival/ By Takeaway – Own work, CC BY-SA 3.0

「実際、これらの移民は、地元の人々にとって露天商をより収益性が高く持続可能なものにする上で貢献しているのかもしれません。なぜなら、不法移民は高い収入の仕事には就けない…だから彼らは、ボスに協力して、屋台を営んだり、厨房で働いたりしているからです。」と匿名希望のソーシャルワーカーは語った。(原文へ)  

翻訳=INPS Japan

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【カトマンズAPIC=浅霧勝浩、ラムヤッタ・リンブー】

私は当時22歳で、長距離トラックの運転手をしている夫と生後数カ月の娘の3人家族で、慎ましいながらも幸せな生活を送っていました。当時の夫の仕事は、荷物を遠くカトマンズやインドのダージリンにまで運送するものだったので、一度の仕事で、数日は家に帰ってこられませんでした。私は、娘の面倒を見ながら、道端に屋台を設けてお茶を商っていました。

そんな私達の日常が突然狂わされたのは、夫が仕事で留守中のある日のことでした。幼い娘が突然肺炎に罹り、村のクリニックに連れていったところ、抗生物質がないので、何とかカトマンズの病院まで行くしかないと言われたのです。私の村からカトマンズまではバスで7時間の距離でした。途方にくれていると、夫の運転手仲間と知人が「カトマンズよりもインドのパンタにいい病院がある。望むなら子供をすぐに乗せていってあげよう」と申し出てくれました。

私達親子は藁にも縋る思いでその運転手の車に乗せてもらい、インドを目指しました。ところが、国境を越えるとその人物は豹変し、私達親子を人買いに売り払ったのです。私達はその仲買人に、インド国境の町からムンバイのKamatipura地区にある売春宿まで連れて行かれ、そこで親子で約200ドルで転売されました。ムンバイは私には初めての土地だったし、ネパール語しか話さない私は、自分の存在を証明するものを何も持っていませんでした。 

売春宿に到着するとすぐ私は愛する娘から引き離されました。売春宿の男達は「娘を返して」と必死に抵抗する私を殴りつけ、強姦したうえで、「借金を返すまで『性奴隷』としてここで働くか、娘の命を諦めるか好きなほうを選べ」と脅迫してきました。娘の命を守るため、売春婦になる道を選択するしかありませんでした。

売春宿で私に与えられた仕事場兼住居は、染みだらけの等身大のマットレスより若干大きなスペースのみで、病院のカーテンのようなものでかろうじて仕切られた空間で客をとらされました。そこには当時13人の少女達が監禁されており、皆私のように騙されて連れてこられたネパール人の少女達でした。生き地獄の中で、同郷の彼女達に囲まれていたことが唯一の心の慰めでした。

それから2年間、「Pleasure:快楽」という名の下に、毎日20人近くの男性を相手に、言葉では説明できないような行為を強制されました。最初のうちは、売春宿のオーナーに「なんとか娘に会わせてほしい」と繰り返し懇願しました。しかし、その話を持ち出すと、必ず激しく怒鳴られ、殴りつけられました。私はそのうち懇願するのをやめ、代りに、娘の笑顔を心に思い浮かべながら「きっとこの地獄を生き抜いて娘を取り戻す日がくる」と自分に言い聞かせることにしました。

その後、私を逃がしてくれるという客が現れたこともありましたが、娘の身の上を考えて断りました。そんなある日、通りで皿洗いをしている女性が親しく声をかけてくれるようになり、私の娘を探し出してくれると約束してくれました。私はひたすら日々の生活を耐え、祈り続けました。 

そしてこの地獄から解放される日がやってきました。「MAITI NEPAL」というNGOが、警察と合同で私達のいる売春宿に踏み込んでくれたのです。そしてその日は、奇しくもあの皿洗いの女性が約束を守って、私の愛する娘を連れてきてくれた日だったのです。2歳半になっていた娘は、体中傷だらけで皮膚病に犯され、まだ話すこともできませんでした。でも、生きて再会することができたことを、神に心から感謝しました。MAITI NEPALは私達親子をシェルターに受け入れてくれたほか、私達に代って夫を探してくださり、お陰で数カ月後に、カトマンズで親子3人再会を果たすことができました。

私はその後、MAITI NEPALのフルタイムスタッフとして夫と共にムンバイに戻ってきました。私達はMAITI NEPALのスタッフや心あるインドのボランティアと共に、かつての私達親子が経験した境遇にある娘達を見つけ出し、救出するために日々活動しています。娘は、今は6歳になり、私の故郷で母に育ててもらっています。娘には4~6カ月おきに会いに行っています。

私がムンバイに敢えて戻ってきたのには多くの動機付けがありましたが、その中でも最も大きなものは娘の存在でした。彼女はMAITI NEPALのお陰で、今は母の下で普通の人生を夢見て生きていくことができます。しかし、私達のように救出を待っている人達はまだたくさんいます。彼女達の娘達には、売春宿で育ち、いずれは売春宿のオーナーに母と同じ「性奴隷」として引き渡される運命が待っているのです。

Maiti Nepal/ photoby Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Maiti Nepal/ photoby Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

私が売春宿で出会った不幸な娘達–14歳までに12回も堕胎手術を受けさせられた娘、わずか8歳で売られてきた娘、売春宿のオーナーに接客を拒否して陰部に硫酸を撒かれて拷問をうけた娘、激しい拷問と殴打で酷い姿にされた娘、胸や乳首に煙草の火を押し付けられて接客を強要された娘–世間は私達を売春婦として軽蔑し無視する。彼女達の痛みがわかる私達が立ち上がらなければ、世界の誰も彼女達を助けてはくれないもの。

私は決して「犠牲者」として見られたくはありません。私は、この人間の尊厳を踏みにじる人身売買を根絶するためにはいつでもこの命を捧げる覚悟をもつ「Activist:活動家」、あるいは人身売買の「生き残り」としての気概を持ってこの問題に取り組んでいくつもりです。

Kamatipura:
世界有数の歓楽街で、地元では「Cages:かご」と呼ばれている。ここで売春婦達は施錠された檻の中での生活を余儀なくされており、外から見ると「かご」に見えるところからその呼称がついたと言われている。マイリは、肌の白いネパール人少女達が多く売春を強要されていると言う。 

マイリ親子の場合、救出後、夫との再会を果たせたが、MAITI NEAPLが保護した少女達の中には、家族に引き取りを拒否され、村に帰ることもできない娘達も少なくない。ましてや、配偶者が受け入れるケースは極めて稀である。

(ネパール取材班:財団法人国際協力推進協会浅霧勝浩、ラムヤッタ・リンブー)

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【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ

まるで偶然であるかのように、国際社会は、「世界終末時計」の針が真夜中に近づけられたという決定と、米国政府による2018年核態勢見直し(NPR)のニュースをほぼ同時に知ることになった。

これらは、非常に異なった世界観をベースにしているが、いずれも安全保障上の懸念に対応したものだ。前者は、核兵器による目前の危険とその廃絶の必要性を印象的な形で突きつけるものであるのに対して、後者は、国際的な緊張に対応する能力を持つ核兵器の役割と、既存の核戦力をより柔軟かつ多様に運用することで、そうした危機を回避する役割について強調したものだ。

Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists
Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists

世界終末時計は、核兵器を管理し最終的には禁止する各国ごとの措置や国際的な措置こそが、紛争時の核使用を実際に防ぐための最善の保証であるとして要求する、重大かつタイムリーな警告になっている。

多くの識者は、2018年核態勢見直しは、核兵器使用の可能性を高めるとともに、他の核保有国が、これを攻撃的な態勢とみなし、対抗手段として自らの核戦力強化を正当化する口実を与え、新たな核軍拡競争を導きかねないものと見ている。

核態勢見直しの中心的な議論は、核兵器は核・非核攻撃を抑止する重要な役割を果たしており、また今後もそうであり続けるというものであり、現在、および、予見しうる将来において潜在的な敵対国による攻撃を予防するために必須であるというものだ。また、米核戦力が有する相互補完的な役割としては、①同盟国・パートナー国への安心の供与、②抑止が失敗した場合の米国の目標達成、③不確定な将来に対して防衛手段を講じる能力が挙げられている。

2018年核態勢見直しによれば、米国の核戦力の抑止能力は、核オプションの柔軟性と多様性を向上させることで強化できるとされている。こうした核オプションには、限定的な核のエスカレーションにおいて潜在的な敵対国が有利な立場に立つことを阻止する低出力の核兵器も含まれている。

この新たな核態勢に対しては、より小規模で低出力の核装置は、核・非核兵器の境界線を曖昧にして、核使用のしきいを下げてしまうとの批判が出されている。さらに、どんな規模のものであっても、核兵器がひとたび戦争で使用されることがあれば、エスカレーションのサイクルが限定的なものにとどまる保証はない。

Nuclear Posture Review/ US Department of Defense

加えて、2018年核態勢見直しは、米国に対する非核攻撃に対応するものとして核兵器の使用を予定し、その先制使用を排除していない。これでは、現在は非核兵器国でも、核兵器を取得することで国家目的を達成でき、核保有国からの攻撃を予防できると確信すれば、核兵器を取得する方向に流される国々が出現するかもしれないと論じることも可能だ。

国連の創設以来、国際社会は核紛争の恐るべき見通しに対処すべく忍耐強い努力を積み重ねてきた。それは、1946年の国連総会決議第一号の目的でもあったが、残念なことに、具体的な成果を出すには至らなかった。

その後数十年間は、一部の国々が核能力を開発する一方で、大多数の国々が、核兵器を取得しないとの法的拘束力がある約束を受け入れ、国際関係に本来備わっている不確実性と予測不能性に対する防護策として、信頼醸成措置と協調的安全保障の取り組みに対して信頼を置くという流れが存在した。

米国とロシアは、互いに条約違反を非難しつつも、協議を通じた二国間措置によって、冷戦期に蓄積してきた恐るべき量の大量破壊兵器を相当程度削減することに成功してきた。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は最近、新戦略兵器削減条約(新START)によって確立されたレベルにまで米ロ両国が戦略核戦力を削減してきたことを称え、「核軍縮や核不拡散、軍備管理における努力がいまほど重要な時はありません。」と強調した。

Antonio Guterres/ DFID - UK Department for International Development - CC BY-SA 2.0
Antonio Guterres/ DFID – UK Department for International Development – CC BY-SA 2.0

米ロ両国が保有する核弾頭数の合計は、現在史上最低のレベルにある。核兵器の完全廃絶という長きにわたる目標を達成するためにも、これはさらに措置を進めていくべき賞賛に値する取り組みだ。

グテーレス事務総長はさらに、米ロ両国に対して「さらなる戦力の削減につなげるために必要な対話を行い、多国間の軍縮問題において歴史的なリーダーシップを発揮する」よう求めた。地球上でもっとも多くの軍備を保有している米ロ両国による強力なリーダーシップは、さらなる軍縮の取り組みと、世界全体の集合的な安全保障のためにも肝要である。

軍縮分野における現在の法律文書は、核兵器が完全に廃絶されるまでは核兵器の保有を認めるというものであり、この目的を達成するための行動を呼びかけている。しかし、この基本的な前提は、この法律文書が(核兵器国に対して)この恐るべき破壊手段を独占的かつ無期限に保有することを正統化しており、その廃絶に向けた特定の措置を先延ばしし続けることを容認しているという概念が広がる中で誤解されてきた。

明確な時限を伴った核軍縮に向けた強力かつ法的拘束力のある約束がないかぎり、核保有国は、少なくとも数十年先までは核兵器を保有し続ける権利があると考える一方で、自らの安全を確実にするために他者には同じ手段の保有を拒む状況が続くだろう。

核保有国の数が増えることで、国際の平和と安全が危機にさらされることについては疑いの余地がない。しかし、国際社会の圧倒的多数が、いかなる主体が核兵器を保有しているにせよ、核兵器の存在そのものが平和と安全保障への真の脅威だと繰り返し主張している。不平等な基準は決して永続化しえない。

このことは、核兵器の保有を、核兵器を恣意的な日付で既に取得していた5カ国に限定した核不拡散条約(NPT)が発効して以来、明白なものとなった。結果として、他の4カ国(インド・パキスタン・北朝鮮・イスラエル)が自力で核兵器を開発し、数少ない国々が、同じ道をたどらないように説得を受けてきた。

また別の所では、防衛取極めの不確実性から自らを解放するために独自の核戦力を持つことを大っぴらに主唱する世論も一部には存在する。事実、核抑止の強調はそうした感情の拡大を促してきた。しかし、ほとんどの非核兵器国が、自らの安全保障は核兵器を取得することによっては実現できないと固く信じている。

1945年の第二次世界大戦終結から数十年にわたり、数多くの多国間取極めが、核兵器、化学兵器生物兵器という大量破壊兵器の野放図な拡散の予防に成功してきた。しかし、その重要性にもかかわらず、2つの条約がまだ発効していない。

ひとつは、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)である。カギを握る8カ国が依然として署名・批准を拒んでいるが、これが、この条約の発効要件となっているのである。この8カ国のなかで北朝鮮だけが、国連安保理決議に抵抗し、その制裁が繰り返され強化されているにも関わらず、21世紀になっても核実験を実施している。その他すべての国々は、核実験の自発的な一時停止を遵守している。

2018年核態勢見直しによれば、米国はCTBTの批准を追求しないが、CTBT準備委員会や、国際監視制度、国際データセンターを引き続き支持すると表明している。その他の未批准・未署名国は、その意思をこれほど明確には示していない。いずれにせよ、こうした(CTBTの発効を妨げている)国々を引き込むために主要な核保有国のリーダーシップが、明らかに必要とされている。

まだ発効していないもう一つの国際法は、核兵器の完全廃絶に導く核兵器禁止条約である。大多数の国々によって2017年7月17日に採択されたが、署名・批准のペースは予想されたよりも遅い。これは、核兵器国やその同盟国からの積極的かつ強固な反対にあっていることが一因と思われる。

ICAN
ICAN

これらの国々は核兵器禁止条約を否定するとともに、同条約が既存の核不拡散体制内部での緊張をさらに悪化させ、核兵器のさらなる拡散を予防する取り組みを損なうナイーブかつ不毛なジェスチャーに過ぎないと印象付けようとしてきた。

一方核兵器禁止条約の推進派の方はどうかというと、これはNPTと何ら矛盾するものではなく、NPT第6条における(軍縮)義務の履行に道筋を与えるものだと主張している。核兵器禁止条約はまだ広範な加盟を得ているわけではないが、国際社会の大多数の国々の具体的な核軍縮措置に対する強力な支持表明となっている。

もっとも強力な軍備を保有する国々や、自らの管理下にない兵器に安全保障を依存している国々の主流メディアは、軍隊の強化を通じて外の脅威に対抗する必要性についてひっきりなしに記事や論評を流しているが、平和への取り組みを報じることはめったにない。戦争の文化が平和の文化を乗っ取ってしまったかのようだ。核保有国は現在、核軍備の増強・近代化に取り組んでおり、現実世界の安全保障環境は、予見しうる未来において核軍縮を許さないものだと主張している。一方識者は、そういう態度や行いこそが緊張を高め、不信と危険な風潮を永続させている効果を持つのだと指摘している。

にもかかわらず、核兵器のいかなる使用であっても、人間や環境、社会にどのような帰結をもたらすのかということについて、世界的な関心が高まったことで、意図的なものであれ偶発的なものであれ、核爆発によって引き起こされる災害を予防するために核リスクを削減する措置について前進する機会が与えられているかもしれない。

核保有国の専門家や著名な高官らが、全面的な核戦争勃発の瀬戸際まで世界を追いやった多くのニアミス的な事件について明らかにしている。それらは、致命的なボタンを押さないという責任を一身に背負った、一連の指揮系統における一個人の判断によって避けられたきたのである。

市民団体や一部の国々は、人類全体に壊滅的な帰結をもたらしかねない核対立の危機を和らげる行動を進めることで、現状を変えようと試みている。

そうした一つの機会は、現在のNPT運用検討サイクル(=2020NPT運用検討会議第2回準備委員会)によって提供されている。また、5月にニューヨークで予定されている「核軍縮に関する国連ハイレベル会合」もある。

この会議に参加する世界の指導者らは、具体的な行動を取るか、発表するものとみられている。その多くが、核軍縮に向けたさらなる努力を加速するもので、市民団体によって提唱されてきたものだ。例えば、▽すべての核兵器を警告即発射、高度警戒態勢から解く、▽核戦争を開始しない政策の採択(「先制不使用」政策)、▽新型核兵器システムを開発しないとの合意、▽全ての前進配備核兵器の撤去(欧州に配備されている米国の核兵器など)、▽核備蓄の段階的削減及び廃棄に関する協議の開始、▽気候保護と化石燃料からの段階的脱却を推進するための資源を生み出すために、核兵器関連予算を削減すること、といったことが挙げられる。

かつて自らの意志で核兵器を放棄したカザフスタンの大統領は、同国が議長国をつとめた1月の国連安保理において、国連創設100年周年にあたる2045年までに核兵器の世界的な廃絶を達成すべきとの目標を掲げた。

同じ安保理の席上、グテーレス事務総長は「冷戦終焉後、核兵器に関する世界の懸念が現在、最も大きくなっている。」と警告し、グローバルな軍縮アジェンダに向けた新たな方向性と推進力を生むための機会を追求していく意図を明らかにした。サイバー戦争のような新しい技術を含めいくつかの分野の兵器を包摂した軍縮に関する大きな取り組みを開始するものと見られる。

多くの方面からなされた提案を現実的な方策に変換していくには、相当な政治的意志を前提とする。意識の高い世界の指導者らは、自国の至高の利益は人類全体の利益に包摂されることを知っているだろう。どの国も、とりわけ、莫大な資源と富を抱える国は、人類の正当なニーズと希望を考慮に入れることなく、国家の目的の充足だけに勤しむことなどできない。それは、自国民も、人類全体の不可分の一部を成しているからだ。

Sergio Duarte
Sergio Duarte

核兵器の存在によってもたらされるとてつもない危険を完全に除去し、すべての人々にとっての安全を実現する取り組みを成功させるには、この簡潔で、しかし否定しえない真実を理解することが不可欠であろう。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテ氏は、1995年にノーベル平和賞を受賞した「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の議長であり、重要ポストを歴任したブラジルの元大使である。2005年には第7回核不拡散条約(NPT)運用検討会議の議長、2007~12年には国連軍縮担当上級代表(国連軍縮局長、UNODA)を務めた。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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憲政の父・尾崎行雄に学ぶ「国会議員の資格十カ条」(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

【IDN東京=石田尊昭

昨年10月の解散・総選挙から今日にいたるまで、野党の「迷走」が止まらない。

民進党時代、安保法制に先陣を切って反対していた某議員は、同法に肯定的な希望の党に嬉々として移り当選を果たした。しかし、選挙期間中からその後にかけて、希望の党が失速するやいなや、再び安保法制には反対だと言い出した。

その言動があまりにも露骨だったため、今でも彼に対する批判の声は多い。しかし、某議員だけの問題ではない。あの解散時、同じような動機(すなわち自己保身)で動いた候補者の数は、少なくとも一ケタではないはずだ。さらにそれは民進党に限ったものでもなかった。

安保法制の是非はともかく、こうした自己保身で政党や政策を変える政治家に、多くの有権者が失望や怒りを覚えたことだろう。今となっては、個々の政治家よりも、野党全体に対する不信や失望が強まっているように思える。

この1月に行われたNHKの世論調査では、政党支持率が自民党38.1%に対し、野党では最も高い立憲民主党で9.2%、次の共産党が3.6%だ。民進党、希望の党、日本維新の会はいずれも1%程度しかない。時事通信でも、自民28.1%に対し、立民が6.2%、共産が2%で、民進・希望・維新はいずれも1%を切っている。野党全体を合わせても、自民党の半分もしくはそれ以下という状況だ。

政党政治における「一強多弱」は、国民にとって望ましい姿とはいえないだろう。一強状態では緊張感が薄れ、政治運営も政策も緩慢になる可能性が高い。また、反対勢力を気にする必要がないため、誤った方向へ独善的に突き進む可能性もある。

憲政の父・尾崎行雄は、善政を敷くためには与野党が互いに睨み合い、いつでも政権交代可能な緊張状態にあることが重要だと言う。政権担当能力を持った、より良い対案を示せる野党が存在し、政権・与党に緊張感を与えながら互いに競い合うことで、より良い政治・政策が実現されるというわけだ。

前述の安保法制を取りまとめた、現・自民党副総裁の高村正彦氏は、近著『国家の矛盾』の中で民主党政権の誕生と凋落に触れ、「今度は5年10年は国民が納得するような提案を出して、政権を取ってもらいたい・・・自民党が困るくらいの野党が出たほうが、日本の政治のためになる・・・」と述べている。これは「一強多弱」の余裕から出た皮肉ではない。国家国民のためには与野党の健全な対峙が必要であるという、政党政治家としての矜持である。

野党を育てるのは、われわれ有権者の責務でもある。そのためには、政党を構成する議員一人一人の資質を厳しく見定め、声を上げていくことが不可欠だ。

以下は、日本で最初の国会が開催される前年に、尾崎行雄が記した「国会議員の資格十カ条」である。もちろん野党のみを念頭に置いたものではないが、健全な野党を育む一助として、多くの有権者に常に見つめ直してほしい内容である。

「国会議員に重要な資格中、最も重要なるものの十カ条」

(一)国会議員は広く内外の形勢を明らかにし、当世の事務に通ずるを要す。

 これは政府の法律によって設定することの出来ない資格で、それは財産年齢などより重要である。

(二)国会議員は道徳堅固なるを要す。
 これ自体に誰もが同意するが、世の人は金科玉条を軽率に看過するので、却って実行されないものである。実行こそ重要なことだと注意すべきである。

(三)国会議員は公共心に富むを要す。
 これを如何に養成することが出来るかは容易ではないが、しかし、公共心の有無、厚薄が常に国家の盛衰興亡の原因となっていることから、この公共心の価値を知るべきである。

(四)国会議員は権勢に屈せざるの勇気あるを要す。
 我が国では多年にわたり官吏を威張らした為、とかく官吏は人民を侮り、人民は官吏を畏れる傾向がある。

(五)国会議員は名利心の薄きを要す。
 権勢に屈しない勇気があって、名利心薄くなければ毀誉の為に屈し、利害の為に迷うの憂いがある。

(六)国会議員は自説を固守するの貞操あるを要す。
 間違った主義を持つと、全く無主義よりは優るとは、西哲の金言である。無主義の変改ほど無益なものはない。

(七)国会議員は独立の見識あるを要す。
 独立した見識なく、恰も楊柳の風に靡くが如く誘わるるまま西に行き、東に赴く者多ければ、一定不変の進路を取ることも出来ない。

(八)国会議員は思慮周密なるを要す。
 政令が度々変化して、朝令暮改が多いのは弊害が大きい。

(九)国会議員は穏当着実なるを要す。
 過激の言論、痛快の挙動は避ける必要がある。過激粗暴の人は深く時勢民情を洞察することが出来ない。

(十)国会議員は多少の弁舌あるを要す。
 充分に其の思想を説明するの弁舌を有しながら、みだりにこれを使用せざる人物を選ぶべし。

INPS Japan

*石田尊昭氏は、尾崎行雄記念財団事務局長、INPS Japan理事、「一冊の会」理事、国連女性機関「UN Women さくら」理事。

世界の最も貧しい国々への公約果たすよう、国連が呼びかけ

【ベルリン/ジュネーブIDN=ラメシュ・ジャウラ

最近発表された研究調査によると、国際社会が緊急の行動を採らない限り、既に世界で最も不利な状況に置かれている47カ国が、「2030アジェンダ」において国連が設定した持続可能な開発目標(SDGs)を達成しえないと警告している。

国連用語で後発開発途上国(LDCs)と呼ばれるこの47カ国は、国際社会からの特別な配慮が必要とされる国々として知られている。そのほとんどがアフリカのサハラ砂漠以南に位置する国々であり、内40カ国は、アフリカ、カリブ、太平洋(ACP)諸国(79カ国で構成)にも属している。

国連貿易開発機構(UNCTAD、本部ジュネーブ)によるこの研究調査は、後発開発途上国の2017年の成長率が5%で、2018年には5.4%に達するだろうと予測している。これは、持続可能な開発第8目標「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長の推進」の第1ターゲットで掲げられた7%の成長率を下回っている。

2017年に7%以上の成長を達成した後発開発途上国はわずか5カ国であった。ACP諸国のエチオピア(8.5%)、ジブチ(7%)、ネパール(7.5%)、ミャンマー(7.2%)、バングラデシュ(7.1%)である。

こうした現状を踏まえて、UNCTADアフリカ・後発開発途上国・特別事業局のポール・アキウミ局長は、「誰一人取り残さないという(SDGsの)公約に従って後発開発途上国への支援を強化する」よう国際社会に呼びかけている。

「グローバル経済の復調が緩やかなペースにとどまっている中、開発パートナーは後発開発途上国への支援を拡大して持続可能な開発目標を達成させるにあたって様々な制約に直面しています。こうしたなか、後発開発途上国と他の開発途上国との間の格差が拡大する恐れがあります。」とアキウミ局長は語った。

UNCTADの分析は、あまりに多くの後発開発途上国が一次産品の輸出に依存しすぎていると指摘している。

「ほとんどの一次産品の国際価格は2016年末以降上昇しているものの、このゆっくりとした回復は、2011年以来の大幅な国際価格の下落を埋め合わせるものとはなっていない。とりわけ、重油や鉱物、鉱石、金属といった産品にこの傾向が顕著である。」とUNCTADの研究調査は指摘している。

2017年、後発開発途上国はグループ全体として、500億ドルの経常赤字を記録した。これは名目値で、史上2番目に大きな赤字幅である。それとは対照的に、同年の後発開発途上国でない途上国、途上国全体、さらに先進国グループのいずれも、黒字を記録していた。

Least Developed Countries (LDCs)/ UNCTAD
Least Developed Countries (LDCs)/ UNCTAD

2018年には後発開発途上国の経常赤字がさらに拡大し、国際収支の脆弱さがさらに悪化するものと予測されている。

国際通貨基金の推定によると、2017年、ごく一部の後発開発途上国のみが黒字を記録している。比較的大きな額の援助を得たアフガニスタン、南スーダン両国と、エリトリア、ギニアビサウACP加盟2カ国だけである。

その他すべての後発開発途上国が、額の違いはあれ経常赤字を記録した。その内訳は、GDPの1%に満たないバングラデシュやネパールから、25%を超えたブータンやACP加盟国のギニア、リベリア、モザンビークまで、さまざまである。

後発開発途上国への特別海外援助の約束額は総計432億ドルであるが、これは途上国全体への援助額の推計値のわずか27%でしかない。年単位の実額で言うと、0.5%増えたにすぎない。

こうした傾向は、世界的景気後退にあたって後発開発途上国への援助が底を打つのではないかとの懸念を裏打ちするものだ。2016年に持続可能な開発第17目標の第2ターゲット(先進国は、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%に、後発開発途上国に対するODAをGNI比0.15~0.20%にするという目標を達成するとの多くの国によるコミットメントを含むODAに係るコミットメントを完全に実施する。ODA供与国が、少なくともGNI比0.20%のODAを後発開発途上国に供与するという目標の設定を検討することを奨励する。)を達成したのはごく一部のドナー国だけであったと、UNCTADの研究調査は分析している。

SDG Goal No. 17
SDG Goal No. 17

デンマーク・ルクセンブルク・ノルウェー・スウェーデン・英国は国民総収入の0.2%以上を後発開発途上国に提供し、オランダは0.15%の基準に到達している。

「この分析は、行動を強く求める呼びかけになっています。」「国際社会は後発開発途上国に対する公約にもっと目を向けるべきです。」とアキウミ局長は語った。

この研究調査結果は2月5日、スイスのジュネーブで開催されたUNCTADの会合で加盟国に提示された。

この研究調査で指摘されたその他の要点は以下のとおり。

・後発開発途上国は、経済の全般的な再構築を進めないかぎり、持続可能な開発目標を達成しえない。

・後発開発途上国の構造改革のペースは緩慢であり、持続可能な開発第9目標ターゲット2(強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る)で示された包括的で持続可能な工業化の目標に到底達していない。

SDGs Goal No. 9
SDGs Goal No. 9

・2006~16年の間に、ほぼすべての後発開発途上国において製造業部門の付加価値は増加しているが、同時にこれには、全付加価値における製造業の割合の低下が伴っている。つまり、後発開発途上国の間では未成熟段階の脱工業化の懸念があるということだ。

・2016年に後発開発途上国が世界の輸出に占める割合はわずか0.92%だった。これは2007年とほぼ同レベルである。

・後発開発途上国全体での貿易赤字は、2009年の450億ドルから2016年の980億ドルへと、金融危機後に相当拡大している。つまり、国内生産能力の脆弱さと、貿易収支の構造的赤字が結びついていることが示されている。

・後発開発途上国への援助額は、1981年に合意された、ドナー国の国民総収入の0.15~0.2%という目標にはるかに及んでいない。

・援助は後発開発途上国の一部の国々に集中する傾向がある。人道的危機や紛争の影響をしばしば受けているトップ10カ国がそうである。後発開発途上国全体への援助のおよそ半分がこれらの国に向けられている。

・最近のデータによれば、(国民総収入に対する)資産の面でも、元利金返済の面でも対外負債のレベルが後発開発途上国において急上昇してきている。

Photo: The scale of destruction in Aleppo is massive and heavy equipment is urgently needed to remove debris. Credit: UNHCR/Bassam Diab
Photo: The scale of destruction in Aleppo is massive and heavy equipment is urgently needed to remove debris. Credit: UNHCR/Bassam Diab

・後発開発途上国全体に対する個人送金は2017年には369億ドルだったが、ピーク時(2016年)の379億ドルよりも2.6%減少している。

・絶対額で言えば、後発開発途上国の中で送金受け取り額が大きいのは、バングラデシュ(136億ドル、2016年)、ネパール(66億ドル)、イエメン(34億ドル)、ハイチ(24億ドル)、セネガル(20億ドル)、ウガンダ(10億ドル)である。

・2016年、送金はネパールのGDPの31%を占めていた。ハイチでは29%、リベリアでは26%、ガンビアでは22%、コモロ諸島では21%、レソトでは15%であり、セネガル・イエメン・ツバルでは10%を超えていた。(原文へPDF

翻訳=INPS Japan

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朝鮮半島の危機を北東アジアの安定的平和へ

【東京IDN=浅霧勝浩】

「北東アジアにおける平和の構築:朝鮮半島における危機管理とその転換」というテーマの国際会議が、地域の一触即発の状況を背景に、米国・中国・韓国・日本から東北アジア地域の平和と安全保障に関する専門家、政策立案者、市民社会の参加者が集まって開催された。

北朝鮮が「世界のどこにでも到達」できる大陸間弾道ミサイルの実験に成功したと主張する以前、1995年のノーベル平和賞受賞団体「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」が2017年5月4日の声明で、「北朝鮮との対立の激化は、重大な危険性を高めている。」と懸念を示していた。

それから約9カ月後の2018年1月25日、象徴的な「世界終末時計」の針が30秒進められ真夜中まで残り2分となった。時計の針は、冷戦真っ只中の1953年以来、象徴的な世界滅亡の時間(=午前0時)まで最も近付いている。

Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists
Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists

こうした不安を感じさせる状況は、オタゴ大学国立平和紛争研究所(ニュージーランド)、戸田記念国際平和研究所(日本)、ノルウェー国際問題研究所(NUPI)が2月1日に共催した国際会議(第2回東京会議)の重要性をより増している。

第2回東京会議は、地政学的に不安定な状況に直面して、「危機や不確実性をもたらしている要因」を探求するとともに、「北朝鮮問題への外交や対話による対応を妨げている諸問題」を分析するものであった。さらに、「生存を危機にさらす核の脅威は、予防外交や交渉、協調的な問題解決の手法を通じて対処しうるかについても焦点があてられた。」

影響力のある学識者や政策立案者が、「北東アジアにおける安全保障の脅威への対処」と「朝鮮半島における危機管理 – 北朝鮮問題の打開」をテーマとした2つのパネルセッションにおいて、知見と知恵を共有した。

Toda Institute Director Kevin P. Clements briefing media on the Colloquium. Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS
Toda Institute Director Kevin P. Clements briefing media on the Colloquium. Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS

会議は「チャタム・ハウス・ルール」に則って行われたため、記者会見では、戸田記念国際平和研究所所長でオタゴ大学国立平和紛争研究所所長でもあるケビン・P・クレメンツ氏が、両セッションの概要を紹介した。

クレメンツ所長は、第一パネルでは、「北東アジアにおける緊張と問題一般について、いかに創造的かつ非暴力的に対応するかについて話し合われた。とりわけ、議論の俎上に上がっている多くの問題にとってきわめて重要な二国間関係である日中関係の改善についても焦点があてられた。」と語った。さらに、「紛争を非暴力的に管理するために必要な地域の安全保障枠組みについて検討がなされ、日中間、日韓間、南北朝鮮間でいかにして信頼と尊重を構築するかについて焦点がしぼられた。」と説明した。

クレメンツ所長はさらに、第二パネルでは、「北朝鮮の核の脅威と、これにいかにして『創造的かつ非暴力的に、そして軍事攻撃を伴わずに』対処するかということに焦点が絞られた。」と説明した。

パネリストらはまた、「南北朝鮮間、米朝間で俎上に上っているさまざまなオプションについて、米朝間で建設的な協議をいかに促進するかについて」検討し、「北朝鮮によって地域全体が直面している問題が創造的かつ国際的に対処しうるような環境の創出に向けて、北東アジアのすべての国々が協力できる方法」を追求した。

記者会見に加わった米国国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表は、北朝鮮が核戦力の増強を続ける傍らで、その戦略的・戦術的目標や真の意図はどこにあるのかという質問に対して、「北朝鮮の交渉相手が私に伝えてきているのは『(北朝鮮は)安全保障や経済的繁栄などを求めている。』という点です。」と語った。

Joseph Yun, U.S. Special Representative for North Korea Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS
Joseph Yun, U.S. Special Representative for North Korea Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS

スティムソンセンター東アジアプログラムの主任研究員であり、ブルッキングス研究所の客員研究員でもあるユン・スン氏は、この見方を支持し、「北朝鮮の希望は安全保障と経済的繁栄にあります。」と語った。

ユン特別代表は、「北朝鮮と交渉してくる中で、彼らの主な反論として、彼らが米国の『敵対政策』とみなすものを伝えてきました。私はその時の交渉に挑んで、米国の一貫した立場を説明しました。つまり、米国は北朝鮮の核武装化もその核兵器も認めないという立場です。」と語った。

ユン特別代表はまた、先制攻撃を米国政府が最終的に考えているとの憶測を否定して、「(軍事攻撃が)近づいているとは思っていません。我々には信憑性のある交渉が必要なのです。一方で、我々は、全てのオプションがテーブルの上にあると一貫して言ってきました。『全てのオプション』というのは、その中に軍事オプションも入れざるを得ません。」と語った。

米国政府による「全てのオプション」の追求は、北朝鮮の金正恩最高指導者に対して制限的な対北朝鮮先制打撃を意味する「鼻血戦略」と伴う目標であるとの厳しい意見記事を元ホワイトハウスの高官が『ワシントン・ポスト』紙に寄せているが、(外交優先を強調した)ユン特別代表の発言は、この記事が出てまもなくのタイミングでなされたものだった。

「危機に晒されているリスクの大きさを考えれば、米国人の犠牲と、朝鮮半島におけるより広範な戦争は取るべきリスクだと論じる者もいるかもしれない。」「しかし、軍事攻撃は(より大規模なものであったとしても)北朝鮮のミサイル・核開発を少し遅らせるにすぎないだろう。なぜならそうしたミサイル・核施設は、バンカーバスター爆弾によっても攻撃不能な未知の場所に地中深く隠されているからだ。」と、ジョージタウン大学教授で戦略国際問題研究所上級顧問のビクター・チャ博士は「ワシントン・ポスト紙」に記している。チャ教授は、一時は米国の次期中韓大使に指名されると目されていた人物だ。

一方、ユン北朝鮮担当特別代表は、米国政府の「平和的圧力」政策は、「対話のチャンネルを開けておく一方で、極めて強力な圧力をかけ続けるもの。」と主張したうえで、「米国は北朝鮮との意思疎通のチャンネルを確保している。」と語った。

ユン特別代表は、2月9日に始まった平昌オリンピックに北朝鮮が参加するのに合わせて南北朝鮮間で協議が行われることに言及して、「誰もが外交に成功してほしいと願っています。」と語った。米国政府もまた、北朝鮮が「侵略への準備」と見なしている韓国との合同軍事演習「フォール・イーグル」をオリンピック後まで延期することを決めている。

ユン特別代表はまた、外交は「狼煙で行うものではない」と警告し、北朝鮮は、米国が協議入りに同意できるように、挑発行為をやめると約束すべきだと語った。米国のドナルド・トランプ大統領は1月30日の一般教書演説で、北朝鮮の核兵器は近いうちに米国を脅かす可能性があるとの認識を示していた。

「こうした状況の下、圧力を最大化するために、すべての国が北朝鮮に対して可能な限り制裁を履行することが重要です。」と、ユン特別代表は指摘した。

中国は既に、石炭や鉄鉱石、消費財、繊維品の貿易に対して制裁をかけているが、米日両国は、北朝鮮経済に大きな影響力を持つ中国に対して、制裁を強化するようたびたび要請してきた。

ユン特別代表は、「中国は国連安保理決議を履行しているとは思います。しかし、もちろん、制裁に関しては、当局があずかり知らないところで密輸や貿易が横行しているという事実もあります。」と語った。

復旦大学(中国)の沈丁立教授と、同じく記者会見に登壇したスティムソンセンター(ワシントンDC)のユン・スン研究員は、「中国は北朝鮮に対する石油輸出を完全に断ってはいませんし、北朝鮮船舶に対する海上輸送阻止といった問題も解決していません。しかしこれらはいずれも安保理決議において未だ合意されていない内容だからです。」と指摘した。

Yun Sun, of the Stimson Centre in Washington D.C (left) and Professor Shen Dingli, of Fudan University in Shanghai (right) Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS
Yun Sun, of the Stimson Centre in Washington D.C (left) and Professor Shen Dingli, of Fudan University in Shanghai (right) Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS

同時に、第2回東京会議の参加者の間での一般的な見方は、一連の国連制裁決議は北朝鮮に対して効果をもたらしつつある、というものだった。これは、北朝鮮の金正恩最高指導者が平昌オリンピックに同国が出場すると申し出たことに示されている。この申し出は、韓国政府に対する和平の呼びかけだと広く見られている。また、北朝鮮の冬の軍事演習は、今回は小規模なものであった。

2017年に日本の沿岸に打ち上げられた北朝鮮の「幽霊船」が104隻に上り、35人の死者と42人の生存者を出したことは、漁船の管理の不備、燃料不足、遠くまで航海に出ようとする漁民の間に広がる絶望を示していると、第2回東京会議の参加者らは示唆した。

スティムソンセンターのユン・スン研究員は、オリンピックの後に膠着状態に陥りそうだと記者らに示唆した。「これは体制の正統性と国家の誇りの問題です。北朝鮮は信頼性のあるICBM(大陸間弾道ミサイル)能力の保有に近づいており、これを放棄することは現実問題として考えにくい。」と語った。(原文へPDF |

Photo: Toda Institute Director Kevin P. Clements briefing media on the Colloquium. Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS
Photo: Toda Institute Director Kevin P. Clements briefing media on the Colloquium. Credit: Kotoe Asagiri | IDN-INPS

https://www.youtube.com/watch?v=3dFYzdNjk9M

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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核兵器禁止の「魔法の瞬間」を待つトランプ

【国連IDN=シャンタ・ロイ】

2月2日に発表された2018年の核態勢見直し(NPR)は、過去からの危険な離脱であり、世界で最も恐るべき大量破壊兵器を使用する用意があるとの米国の固い意思を示しているかのようだ。米国が、サイバー攻撃を含めた「重大な非核戦略攻撃」の標的になったとしても、核を使うというのである。

核戦争を広範に正当化する今回の政策声明は、気候変動やイラン核合意、そして最も重要な点として、核兵器の使用といった問題に関してドナルド・トランプ大統領が発してきた数々の矛盾した発言に照らし合わせてみなくてはならない。

President Donald Trump poses for his official portrait at The White House, in Washington, D.C., on Friday, October 6, 2017.
President Donald Trump poses for his official portrait at The White House, in Washington, D.C., on Friday, October 6, 2017.

そして、米国の主要な政策的宣言となる1月30日の一般教書演説において、トランプ大統領はあからさまに、「おそらく、将来いつの日か、世界の国々がともに核兵器を廃絶する『魔法の瞬間』が訪れるかもしれない。」と述べる反面で、「残念ながら、われわれはまだそこには至らない。」と強調した。

しかし、こうした魔法の瞬間は、とりわけトランプ政権の下では、極めて困難か、せいぜいが政治的な夢想に過ぎないと言ってよい。

ジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長(軍縮担当)はIDNの取材に対して、「数年前に出されたオバマ政権の『核態勢見直し』に対する論評のほとんどは、『核兵器なき世界』の実現を約束した先駆的なリーダーとしては核兵器の使用可能性を十分に否定していない、と嘆くものであった。」と語った。

「トランプ氏の政策文書は、新型兵器を開発しそれを実際に使うと宣言することで、さらに踏み込んだものとなっています。世界終末時計が、真夜中、あるいは、アルマゲドンまで2分に設定されたのは、無理からぬことです。」とダナパラ氏は指摘した。

Jayantha Dhanapala/ K.Asagiri of INPS
Jayantha Dhanapala/ K.Asagiri of INPS

「米軍事予算の急拡大は、予想通りであり、他の核兵器国は同様に対処することになるでしょう。」と、パグウォッシュ会議の前議長(2007~17)でもあったダナパラ氏は警告した。

米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、核をめぐるトランプ大統領の好戦的な姿勢を正当化して、NPRは「我々が今日直面している特異な脅威に対して、米国が柔軟性を保ち、十分な準備をするためのものだ。」と語った。

「核兵器なき世界の実現を望むが、我々の核政策は、我々の住む世界の現実に根差したものでなければならない。この世界では、北朝鮮のような好戦的な政権が、違法な核・弾道兵器の追求によって我々やその同盟国を脅かしている。」とヘイリー大使は指摘した。

『ニューヨーク・タイムズ』は、「北朝鮮への『炎と怒り』をもてあそぶ」と題する2月2日付の論説で、北朝鮮に対する「米国の単独軍事行動の兆候が強まっている」と書いた。

「これに対して我々は『やめよ』と言う。」と同紙は警告し、トランプ大統領は、北朝鮮に身柄拘束されたのちに昨年死亡した米国人学生オットー・ウォームビアー氏の件を引き合いに、「感情的な根拠」でもって戦争に進もうとしていると指摘した。

今回のNPRは、仮想敵国に対して核兵器で報復するという不吉な威嚇に加えて、▽米核戦力の大きな更新、▽潜水艦から発射する2種類の核兵器の開発、▽少なくとも12隻の新型コロンビア級原子力潜水艦を建造し2031年までに就役させる計画、▽現在のミニットマンミサイルに代わる、新型の陸上発射ミサイル100基の建造・配備、といった恐るべきシナリオを強調している。

潜水艦から発射する兵器とは、低出力の潜水艦発射弾道ミサイルと、潜水艦発射巡航ミサイルである。

Image: Montage of an inert test of a United States Trident SLBM (submarine launched ballistic missile), from submerged to the terminal, or re-entry phase, of the multiple independently targetable reentry vehicles. Credit: Wikimedia Commons.
Image: Montage of an inert test of a United States Trident SLBM (submarine launched ballistic missile), from submerged to the terminal, or re-entry phase, of the multiple independently targetable reentry vehicles. Credit: Wikimedia Commons.

米議会予算局によると、アメリカの新規核関連予算は1兆2000億ドルにも達する可能性があるという。

核政策法律家委員会(LCNP)(ニューヨーク)のジョン・バローズ代表は、NPRは米国の国際法的義務を無視し、核戦争の危険を増している、と語った。

トランプ政権のNPRには「核作戦の遂行は武力紛争の法に従ったものになる」との一節があるという。

そのため、2013年の『核運用政策報告』は、核兵器使用のあらゆる計画は「例えば、軍民の区別と均衡性の原則を適用し、(軍事攻撃に伴う)民間の人やモノの巻き添え被害を最小化するようにしなくてはならない。」と述べている。

John Burroughs
John Burroughs

米戦略軍の現職と前職の司令官が、武力紛争の法に違反した核兵器使用命令は拒否されると昨秋に公に述べている、とバローズは語った。

「実際のところ、核兵器がこの法律を守って使用されることなどありえません。というのも、大規模で無差別的な効果により、軍事標的と民間人・インフラを区別することは不可能だからです。」とバローズ氏は指摘した。

バローズ氏はさらに、「NPRは、核兵器使用の可能性がある状況、すなわち、サイバー攻撃を含めた『戦略的非核攻撃』への対応を明らかにすることで核兵器の役割を強化しています。」と指摘したうえで、「この変更は、軍縮を促進するために安全保障上の核兵器の役割を低減するとしたNPT上の約束に真っ向から反するものです。軍縮を誠実に追求するとの義務にも反します。そしてこれは、核戦争のリスクを増すものです。」と語った。

例えば、犯人が明らかでない明白なサイバー攻撃は、核兵器使用の理由となりうるが、他の核兵器国が米国のこの政策を模倣した場合、より危険な状況になるだろう、とバローズは指摘した。

核時代平和財団プログラム責任者であるリック・ウェイマン氏は、「NPRは、米国や他に核兵器を保有する条約締約国に対して、核軍縮に向けた交渉を誠実に行うことを義務づけた核不拡散条約第6条に一言半句も触れていません。」と指摘したうえで、「この核態勢見直しは、米核政策の方向性の大胆かつ危険な変化を示すものであり、北大西洋条約機構(NATO)諸国は、この変更された核政策において米国を自動的に容認したり支持したりすることのないようにその立場を再考せざるを得ないだろう。」と語った。

Rick Wayman、Programs Director of the Nucelar Age Peace Foundation/ NAPF
Rick Wayman、Programs Director of the Nucelar Age Peace Foundation/ NAPF

米国科学者連盟によれば、米国の4000発の核弾頭に比較して、ロシアは4300発、フランスが300発、中国が270発、英国が215発を保有しているという。これらはいずれも国連安保理の常任理事国である。

これに続くのが、他の4つの核兵器国、すなわち、パキスタン(140発)、インド(130発)、イスラエル(80発)、北朝鮮(15発)である。

軍備管理協会で軍縮・脅威削減部門の責任者を務めるキングストン・ライフ氏は、今回のNPRは米国の過去の政策からの決別であり、「トランプ大統領のより攻撃的で直情的な核に関する見方に同調したものだ。」と語った。

「核脅威イニシアチブ」のジョアン・ロールフィング代表は、NPRは、米国がこれまで数十年間にわたって謳ってきた「核兵器なき世界」のビジョンにまったく言及していない、という。

「このNPRから全体として見えることは、我々にはもっと核が必要だということであり、国家安全保障政策において核兵器にもっと役割を与えなくてはならない、というメッセージだ。これは、核不拡散という我々の目標を損なうものであり、長期的に見れば世界はより危険になります。」とロールフィング代表は警告した。

核時代平和財団のデイビッド・クリーガー所長は、「核兵器の禁止と廃絶が唯一の合理的な選択です。世界の指導者らは今こそ正しい措置を取り、昨年9月20日に国連で署名開放された核兵器禁止条約に署名すべきです。」「そうすることによって、彼らは、ほぼ確実な大惨事から世界を救い、核兵器廃絶という価値ある目標に向かわせ、人類すべてにとってより安全でより安定した世界を作り上げることができるのです。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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専門家らが、アブラハム諸宗教でのヘッドスカーフ容認を訴える

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

国連欧州本部で開かれた討論会に参加した専門家らによれば、欧州で物議を醸しているヘッドスカーフは、むしろ3つの主要なアブラハムの宗教(IPSJ注:聖書の預言者アブラハムの宗教的伝統を受け継ぐと称するユダヤ教、キリスト教、イスラム教を指す)の間に共通するものだという。

Press briefing by Mr. Idriss Jazairy, Special Rapporteur on the negative impact of unilateral coercive measures on the enjoyment of human rights.
Press briefing by Mr. Idriss Jazairy, Special Rapporteur on the negative impact of unilateral coercive measures on the enjoyment of human rights.

「べールを被る/ベールを脱ぐ:キリスト教・イスラム教・ユダヤ教におけるヘッドスカーフ」と題したこのイベント(2月23日)は、第37回国連人権理事会定期会合(2月26日~3月23日)を前に、「ジュネーブ人権促進・グローバル対話センター」(ジュネーブセンター)と国連欧州本部のアルジェリア代表部の共催で開催された。

ジュネーブセンター代表で、このイベント(同テーマに関係する展示会も同時開催された)のモデレーターを務めたイドリス・ジャザイリー大使は、この討論会の狙いについて、ベールの使用について画一的な見方がある問題について考え、「ヘッドスカーフが、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教をつなぐ糸であり、これらがまとまるための要素であることを明らかにしようとするものです。」と語った。

さらにジャザイリー大使は「ヘッドスカーフは、不和よりもむしろ共通性を示すものですから、文化を分断するのではなく、むしろ、架け橋とならねばなりません。ヘッドスカーフは、アブラハムの3つの宗教すべてにおいて、アイデンティティを画定するうえで重要な役割を果たしてきたのです。」と語った。

Exhibition: Veiling/Unveiling: The Headscarf in Christianity, Islam and Judaism./ Geneva Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue
Exhibition: Veiling/Unveiling: The Headscarf in Christianity, Islam and Judaism./ Geneva Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue
SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

いわゆる「ベール」の使用は、政治問題化され、ヘッドスカーフの使用に関する女性の個人的な選択の自由を奪うようなことがあっては本来ならない問題です。」「女性にヘッドスカーフを被るかどうかの権利を否定することは世界人権宣言第18条に違反します。」とジャザイリー大使は語った。.

「それを女性に押し付けたり、法律で禁じたりすることは、彼女らの人権を侵害することになります。女性達の権利を擁護し、彼女らの地位を向上させる唯一の方法は、女性の選択権を尊重することです。」とジュネーブセンター代表は語った。

Toufik Djouama/ Geneve Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue
Toufik Djouama/ Geneve Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue

アルジェリア代表部のトゥフィク・ドゥジョアマ副代表は、「『文明の衝突』という見方を信じている数多くの集団が、『イスラムのヘッドスカーフに関するマイナスイメージ』を掻き立てています。」と指摘したうえで、「しかし、ベールの使用は、ムスリム女性による『個人的な選択』にすぎません。」と指摘した。

ドゥジョアマ副代表は「『対話、相互理解、人権の尊重、多様性』の促進が、諸政府や市民団体、学界の主たる目標でなければならない」との見方を示したうえで、「世界人権宣言18条に規定されている、公に自分の宗教や信条を明示する自由に基づいて、すべての女性にヘッドスカーフを被るかどうかの選択の自由が与えられなくてはなりません。」と語った。

Elisabeth Reichen-Amsler/ Geneve Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue
Elisabeth Reichen-Amsler/ Geneve Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue

ヌーシャテル州[スイス]福音改革派教会で「教会と社会」部門の部長を務めるエリザベス・ライシェン=アムスラー氏は、ヘッドスカーフの使用は、よく一般に議論されるような、イスラム教のみに限定できる問題ではありません、と語った。実際には、そのルーツは、メソポタミアや古代ギリシャ、ローマ帝国、キリスト教の誕生の時期にまで遡ることができる。「既婚女性がヘッドスカーフを被る義務は、紀元前1120年にアッシリアの王が書いた古代法ですでに言及されています。」とライシェン=アムスラー氏は語った。

ライシェン=アムスラー氏はまた、「新約聖書の使徒パウロのコリント人への第一の手紙において、女性はヘッドスカーフを被るように義務づけられています。」と語った。この義務はキリスト教においておよそ1900年も続いた。女性が宗教上の理由からヘッドスカーフを被るよう義務づけられなくなったのは、ようやく1960年代に入ってからのことだった。つまり、ヘッドスカーフの使用については、イスラム教・ユダヤ教・キリスト教で異なる解釈があることを物語っている。

Malika Hamidi/ Geneve Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue
Malika Hamidi/ Geneve Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue

ムスリム・フェミニズムの何が問題?』の著者であるマリカ・ハミディ博士は、フランスのフェミニズム・世俗主義的な運動が、ムスリム女性によるヘッドスカーフの装着が彼女らの自由と尊厳への権利を侵害しているとしてスカーフ着用に反対していることに注目した。しかし、政治運動や世俗主義的運動に参加している数多くの女性が、「ヘッドスカーフと自由との間の矛盾はない」「尊厳と女性の尊重との間に矛盾はない」と主張している。

ハミディ博士は、「欧州のフランス語圏におけるフェミニスト運動は、ムスリム女性の一部に、ヘッドスカーフがむしろ男性やヨーロッパ社会との関係で自らを開放してくれていると考える人々がいる事実に衝撃を受けています。女性たちが、イスラム教で定められた規範内でヘッドスカーフを装着するということが、尊敬を得ることにつながる可能性がある一方で、西側社会で大いに問題視されている政治・社会・文化的な方向性に与しているとみなされる傾向にあります。」と語った。

Valérie Rhein/ Geneva Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue
Valérie Rhein/ Geneva Center for Human Rights Advancement and Global Dialogue

ベルン大学ユダヤ研究所でユダヤ教に関する博士号を持つ神学の専門家ヴァレリー・ライン博士は、「ユダヤ教徒の花嫁は結婚式の前に顔にベールをかけることが慣習だった」点を指摘したうえで、「ヘッドスカーフの使用はユダヤ教古来の伝統です。」と語った。この慣習は、イサクとリベカの最初の出会いを描いた聖書の創世記24章で触れられている。

ライン博士はまた、「(ユダヤ教では)髪を隠す行為は、「敬虔なユダヤ教」への帰依と結婚していることの証になることから、『Zniut(節度)』の概念に起源を持つタルムード法により、ユダヤ教徒の女性は結婚後は髪を隠すように義務づけられてきた歴史がある。」と指摘した。また、「男性は、『尊重の証』であり、『神との関係』を象徴しているキッパーという被り物を頭に装着するのを義務づけられてきました。」と語った。(原文へPDF 

INPS Japan

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