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持続可能な開発にとって不可分の女性と水

【ウィーンIDN=クリスタ・プライス】

しばしば見過ごされがちな安らぎなのだが、国連ウィーン事務局で提供される水は、市外の山々を源泉とした地元の水である。オーストリアでは、水が一つの誇りとなっている。この先進国の水部門は、良質な水を供給することはもとより、水や下水処理に関連した持続可能な運営に熱心に取り組んでいる。オーストリア国民や、国連ウィーン事務局の会議場をよく利用する人々にとって、こうした格別な水は当然のごとく手の届くところにある。

しかし、世界の大部分の人々にとって、こうした環境は望めないのが現実だ。急速な産業化と、急増し続ける世界の人口を背景に、水の需要が拡大する一方で供給が急速に減少している。世界人口のおよそ6割が安全なトイレあるいは汚水処理システムを利用できないでいる。さらに、約21億人が日々、飲料水として処理されていない水を利用している。

SDG Goal No. 6
SDG Goal No. 6

さらに愕然とする事実は、水管理が未発達な地域では、遠方に水汲みに行ってくる負担がほとんどの場合、女性達の肩にのしかかるということだ。多くの農村部では、女性が食料生産や家事、糞尿処理といった重要な役割の中で水を使用している。

国連システム学術評議会(ACUNUS)ウィーン国連会議でのパネル討論において、天然資源・生命科学大学(ウィーン)のピーター・ワイシュ博士は、「平和と安全保障に向けた」ジェンダーの重要性を指摘し、「生存可能な世界、飲み水を求める闘いにおいて、女性は欠かせない役割を果たしています。」と語った。

教育(SDGs第4目標)、ジェンダー平等(SDGs第5目標)、清潔な水と衛生(SDGs第6目標)の相互連関は明らかだ。ワイシュ博士は、「しかし、それと同じくらい重要なのが、世界中の女性たちの福祉を向上するために、水管理のあり方を改善することです。水が不足していたり水資源の管理が未発達な地域においては、ジェンダーに焦点を当てた政策が必要です。重荷を負っている女性達のニーズに合わせた政策を創出する必要があります。」と語った。

ACUNS会議に登壇した「ソロプチミスト・インターナショナル」の会長で「水パートナーシップを求める女性たち」代表であるマリー・ヴェホフ・コーエン氏は、「水と女性は深くつながっています……女性にはしばしば社会的・政治的力が欠けており、意思決定プロセスから体系的に排除されたり周縁化されたりしています。」「このことによって水管理に関する政策が損なわれているのです。従って、効果的な水政策を策定していくために、水関連の産業で行われている性差に偏見を持った社会的・組織的障壁を見直さねばなりません。」と語った。

122カ国に7万5000人の会員を持つ「ソロプチミスト・インターナショナル」は、こうした認識に基づいて、2017年から19年の2年間のテーマを「女性・水・リーダーシップ」と定めた。これに伴うパイロット・プロジェクトでは、ケニアの女性農民に対して、水使用を減らしながら作物生産を伸ばすための職業訓練と専門教育が施されている。その目的は、水に関する知識を与えることで女性のエンパワーメントをはかり、それによって収穫を増やし、彼女たちの経済的独立を促進することにある。

アフリカやアジアの農村部の女性達にとって、そして、ハンガリーのロマ社会やその他の場所で水汲みに従事させられている立場の女性達にインパクトをもたらすためには、水管理に関する政策の策定は、女性のニーズを考慮に入れたものでなくてはならない。ヴェホフ・コーエン氏は、政策、地域開発、実践といった水に関するあらゆる領域において、「行動的なリーダー、専門家、パートナー、変革の担い手として女性を位置づける」ことが絶対に必要だと強調した。

Photo: Lack of piped water across Africa has impelled villagers to turn to unprotected water bodies to access the precious liquid. Credit: Jeffrey Moyo/IDN-INPS
Photo: Lack of piped water across Africa has impelled villagers to turn to unprotected water bodies to access the precious liquid. Credit: Jeffrey Moyo/IDN-INPS

ヴェホフ・コーエン氏はまた、「国連があらゆる領域においてSDGsの実現を目指して努力する一方で、アルプスの水を国連ウィーン事務局でこれほど容易に楽しめるようにしている政策を、世界中の女性の利益になるように優先的に実施することが決定的に重要だ。」と語った。(原文へPDF

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アフリカ東部で再生可能エネルギー網構築の取り組みが加速

【ナイロビIDN=ジャスタス・ワンザラ】

東アフリカ地域では、高まるエネルギー需要、政策の変化、実行可能な起業家精神に溢れた革新の登場を背景に、持続可能なエネルギーへの移行が進んでいる。

このことは、ケニアのストラスモア大学エネルギー研究センター(SERC)が「アフリカのための再生可能エネルギー解決策」(RES4Africa)と共催した2日間の会議で発表された見解である。RES4Africaは、アフリカのサブサハラ諸国で大規模かつ分散的な再生可能エネルギーの発展促進をめざす組織である。

アフリカ・EUエネルギーパートナーシップ(AEEP)の後援を得てナイロビで1月23・24両日に開かれた会議は、この地域における再生可能エネルギーの効果的な展開に向けた実践例を議論するものであり、関係者らがこの部門が直面している諸問題と可能な解決策について話し合った。

再生可能エネルギーを推進する機運は、エネルギー部門開発における連携を強化するいくつかの地域機関によって、活気づいている。例えば、エネルギー資源の最適な開発と電力への容易なアクセスの促進を任務とした東部アフリカ電力プール(EAPP)や、政策の調和と意識喚起をめざす東部アフリカ再生可能エネルギー・省エネセンター(EACREEE)などである。

Isaac Kiva/ IEC
Isaac Kiva/ IEC

ケニアのエネルギー・石油省再生可能エネルギー局のイサーク・キヴァ局長は、「政府は再生可能エネルギーの開発を支援している。」と指摘したうえで、「需要に見合う電力網を整備することが重要で、ケニアに再生可能エネルギー基本計画があるのはそのためです。」と語った。

しかし、再生可能エネルギーを普及させていく前途には、様々な課題がある。ケニアの民間部門による全国組織である「ケニア民間部門同盟」(KEPSA)エネルギー部門会議のバーナード・オサワ議長は、「ケニアには独立した電力事業者が必要ですが、大規模な再生可能エネルギーの発電に必要な能力と資金が不足しています。」と語った。

ケニアでは官民パートナーシップ(PPP)が強化され、エネルギー部門への投資において独立の電力事業者が政府とパートナーを組むことが推奨されている、と彼はみている。

無視してはならないのは、諸国がさまざまな形の再生可能エネルギーで成長を遂げているにも関わらず、この地域(=東アフリカ)全体の莫大な再生可能エネルギーの可能性は十分に追求されていないという事実だ。このことは、「21世紀に向けた再生可能エネルギー政策ネットワーク」(REN21)が2016年に発表した『東部アフリカ共同体(EAC)再生可能エネルギー・省エネ現状報告』に示されている。

この報告書によれば、東アフリカ地域は、ピコソーラーシステム(小規模で、移動可能な太陽光システム)の販売先としてアフリカ大陸全体の約半分を占めており、とりわけケニアとタンザニアはアフリカの中でも太陽光製品の売り上げがトップクラスであるという。

East African Community (EAC) Renewable Energy and Energy Efficiency Status Report/ REN21
East African Community (EAC) Renewable Energy and Energy Efficiency Status Report/ REN21

さらに、国連工業開発機関(UNIDO)からの支援によってまとめられたこの報告書によると、ケニア、ウガンダ、タンザニア、ルワンダ、ブルンジにおいて、再生可能エネルギーが全エネルギー利用の64%を占めている、という。

エネルギーミックスに関して、『東部アフリカ共同体(EAC)再生可能エネルギー・省エネ現状報告』は、2015年時点で東部アフリカ共同体における電力網に接続された再生可能エネルギーの発電能力は約3ギガワットにのぼると記している。これは主に、地熱・風力・太陽光・水力からのものだ。

SERC-RES4Africa会議の参加者らの意見と同じく、上記の報告書は、同地域の再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に活用する要素の一環として、各国における特定の再生可能エネルギー政策や制度を挙げた。すでに、ケニア、ルワンダ、タンザニア、ウガンダでは、固定価格買取制度(FIT)を導入し、太陽光関係製品に関して付加価値税・関税を免除する革新的な政策を採択しているという。

ケニア、ウガンダ、タンザニア、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国、ジブチ、スーダン、リビアに広がる東部アフリカ電力プール(EAPP)のレビ・チャングラー事務局長は、「これまでに各国毎だった電力網の相互接続を完成したところです。当電力プールではまた、例えば、ケニアとウガンダを、ウガンダとルワンダを接続するといった、地域プロジェクトも実施しています。」と語った。

チャングラー事務局長は、同電力プールとして、電力取引のためのプログラムを拡大していると指摘したうえで、「現在、電力取引のための規制枠組みを策定しているほか、相互接続がもたらす影響を分析する調査を実施する予定です。」と語った。

同時にチャングラー事務局長は、電力事業者に対して、環境にやさしい再生可能エネルギープロジェクトへの投資のピッチを上げるよう求めた。こうした背景の下、東部アフリカ電力プール(EAPP)はドナーを含めた利害関係者との協議を進めており、ドナーの信託基金が世界銀行の下で設立されつつあると語った。

EAPP
EAPP

チャングラー事務局長はまた、この地域において異なった形態の再生可能エネルギーが生産可能な場所を特定することをめざした調査を世界銀行から委託されている、と明らかにした。一方、生産される電力の市場の問題に関しては慎重な姿勢を示し、「東アフリカ地域全体の電力需要を査定する必要があります。というのも、余剰の電力を市場が吸収する必要があるからです。」と述べ、現在の需要が年間2000メガワットだが、9000メガワット分のプロジェクトが計画されているエチオピアの例を挙げた。

エネルギーに関する調査研究や訓練を行う非営利組織である「エネル財団」のカルロ・パパ代表は、要員の訓練に関する能力構築の必要性を指摘した。「再生可能エネルギーの拡大は、持続可能な開発のあらゆる側面と同じように、スキルを持った人的資源なしには実現できません。」とパパ代表は語った。

ストラスモア大学などと協力する「アフリカのための再生可能エネルギー解決策」(RES4Africa)は既に、アフリカ東部出身の300人の学生を訓練する地域プロジェクトである「マイクログリッド・アカデミー」(MGA)を立ち上げている。

人的資源を利用可能にする取り組みが進められる一方で、コロンビア大学ナイロビグローバルセンターのムルンギ・ヌディラング・センター長は、再生可能エネルギー部門に女性の専門家がほとんどいない点を指摘して、「社会文化的な障壁や労働市場の期待が、再生可能エネルギーの仕事における若い女性たちの存在を抑制している」と語った。

EACREEEの能力開発・研究・開発専門家であり、マケレレ大学准教授であるマッケイ・オクレ氏は、「マイクログリッド・アカデミー」は規模の経済を創出しつつあり、地域における規模の経済と再生可能エネルギー市場に貢献している、と語った。

カイロとアジスアベバに拠点を持ち、再生可能エネルギーに焦点を当ててアフリカ東部で海外からの投資を促している大手の国際法律事務所「ボネリ・エレーデ・カイロ」の地元パートナーであるリカルド・ビッキアート氏は、「東アフリカ地域で再生可能エネルギーを成長させるうえでの主要な障壁は資金調達の問題です。」と語った。他方で、「資金調達は、金融面の健全な脱リスク戦略と、慎重なバンカビリティ(=銀行融資が可能な状態)分析と緩和を通じて、確保することが可能です。」と語った。

ビッキアート氏は、ボネリ・エレーデ法律事務所は、各国で法的問題に関する訓練を提供しており、政策責任者に対して、民間部門における投資機会を刺激するために同部門の見方を教えている、と語った。

しかし、資金調達面での制約に対する解決策として官民パートナーシップの加速を多くの参加者が主張する一方で、ビッキアート氏は別の見方を取っていた。ビッキアート氏は、アフリカ東部における再生可能エネルギーへの投資に伴う金融面のリスクに関して、再生可能エネルギープロジェクトへの資金調達の理想的なオプションはプロジェクト・ファイナンシングであると語った。このモデルは、プロジェクトのスポンサーにほとんど頼ることなく、プロジェクトのキャッシュ・フローによって債務を返済していくものだ。

ビッキアート氏は、アフリカは機会を与えてくれる土地であり、再生可能エネルギー事業を通じて経済を発展させようという意思に満ちている、と語った。

ビッキアート氏によると、再生可能エネルギーの投資は、短期・長期の目標を設定したうえで、熟慮の上成されねばならないという。「各国にはそれぞれの独自性とリスクがあります。プロジェクトのスポンサーが、プロジェクトに伴うリスクに部分的に対処するのではなく、実行する前にリスクを特定し緩和していくことが重要です。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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|タイ|農業を充足的かつ持続可能にする「スマート農場」

【チャンタブリIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

タイの農民たちが、近代情報通信技術(ICT)を利用した「スマート農場」の枠組みの下で、基本に立ち返ろうとしている。タイでは、王国の生命線である農業と小規模農家を将来にわたって持続可能なものとするために、(民の苦しみ、とくに精神的状況を和らげるための)仏教的原則を基礎とした「足るを知る経済(Sufficiency Economy)」の下に農業を統合することが目指されている。

シティポン・ヤナソさんはIDNの取材に対して、多様な果実がよく茂ったドリアン・プランテーションで、「(同じ木から)より多くの果実を収穫するために化学肥料を使う農家もいますが、それだと3年から5年で幹が死んでしまいます。私たちは有機肥料を使うので、幹は30年はもちます。」と語った。

ヤナソさんは、プランテーション周辺の緑の山々を指さしながら、「肥料にする枯葉は十分にあります。」と語った。また、ドリアンの木々の間に育つバナナの木を示しながら、「(バナナの)幹は果実を収穫したあとに様々な用途に再利用されます、」と説明した。タイでは、バナナの幹の外皮は紙の材料になり、みじん切りにした幹は豚の餌さにしたり、細長く切った幹は乾燥させ紐の材料となる。これらは先祖代々伝わる技術である。

SDGs Goal No. 1
SDGs Goal No. 1

ヤナソさんのドリアン・プランテーションには、バナナやパパイヤ、ランブータン、マンゴスチン、コショウ、ココナッツ、ロンゴンなども植わっており、ドリアン収穫の合間に収穫をもたらしてくれている。最近彼はコーヒーの木を植え、小さな区画にゴムの木も植えて、さらなる収入を得ている。また、防風林として竹を植えているが、高い竹の幹は、(実が生ったときの)バナナの木の幹を支える棒や、バナナをもぎ取る道具としても利用されている。

「非常によく考えられた果樹園です。」と語るのは、コミュニケーション・開発知識管理センター(CCDKM)のセンター長であるカモルラット・インタラタット教授である。CCDKMは、ICTを利用して、有機農業とマーケティングに関するヤナソさんの知識向上を支援している。

IDNとともに農場を視察したカモルラット教授は、「CCDKMの哲学は、概念的な基盤の統合とパートナーシップモデルに取り組むとともに、社会の主流から取り残された人々と協力する点にあります。」「もっとも重要なことは、収入を生みだすプロジェクトを創出することです。…タイ国民の多数は小規模農家なので、スマート農業を推進するためにICTの利用法に目を向けています。」と語った。

カモルラット教授はさらに、「農民はICTリテラシーと情報へのアクセス方法について訓練を受けています。」「その後、この情報を分析して農産物価格を知る訓練をして多くの作物価格(モデル)を政府や民間、輸出市場から取得できるようになります。こうして農民は、生産物の適切な価格を決めることができるようになるのです。」と説明した。

「私たちは、有機的なエコ農業システムにおけるICTの利用法を提示しています……スマート農業は単にICTの問題ということではなく、農場管理についての考え方と革新的なプロセスの問題なのです。」

2015年末時点で、タイ労働力の約35%が農業に従事しており、そのほとんどが小規模農家だ。タイ農業を守り農家の生活を持続可能なものにするために、政府は近年、「足るを知る経済」哲学の下に多くの事業を導入している。この概念ははじめ、故プミポン国王が、タイ王国が重大な経済危機に見舞われていた1998年に提唱したものだ。

Bhumibol Adulyadej and Sirikit at Nakhon Si Thammarat/ Public Domain
Bhumibol Adulyadej and Sirikit at Nakhon Si Thammarat/ Public Domain

タイ古来の仏教の伝統に根差したこの概念は、「中庸」、つまりバランスを取ることを強調するものだ。持続可能性と「足るを知る」ことがこの哲学の核にあり、人間開発が原則的な目的となっている。競争や搾取よりも(知識や資源を)共有することが、このシステムの重要な側面である。

タイ政府はこうして、地域に特化した農民協同組合の形成を促進している。考え方としては、1990年代に西側諸国で注目されるようになった「リスクマネジメント」や「ステークホルダー」の哲学に近い。

農村部門の生活の持続可能性を向上させるために、タイ政府はこの哲学の下で多くの措置を展開している。たとえば、村落ファンドを通じた融資や、「プラチャラット(「民衆の状態」を意味する)」草の根プロジェクトを通じて民衆の生活を向上させる村落開発事業である。

プラチャラットの下でのキャンペーンのひとつは、カセツァート大学とタイ商工会議所が開発した枠組みで、農業生産工程管理(GAP)による果実・野菜の安全のための仕組みである「タイGAP」基準の策定をめざしている。これは、土地管理、土壌、苗木、水管理、施肥、害虫処理、消費者安全、環境保護の質を考慮に入れたものだ。

タイGAPに認証されると、生産者は独自のQRコードを受け取り、スマートフォンの利用者(消費者)が生産物に関する情報を見つけやすくなる。この取り組みは、農業部門をデジタル時代にあわせて引き上げるもので、健康的な生産物を望む消費者は生産農家と直接つながることができる。

CCDKMは、GAP認証を獲得するために「スマート農家」と協力している。ヤナソさんの農場もこの認証を獲得した農場のひとつだ。「GAP認証を受けた農家のほとんどで、消費者の需要に生産が追い付いていません。人々の健康への関心がきわめて高いということです。」「この農場のドリアンとバナナは受注が先行していて…現在、ドリアンは3カ月待ちの状態です。」とヤナソさんか語った。

妻のナリサラさんは、「私たちは大いに自給自足で計画的に農場経営に取り組んでいます。外部の人を雇わず、娘と義理の息子を含めた家族総出で作業にあたっています。」と説明した。さらにバナナ・プランテーションを指さしながら、「広めに間隔をとってドリアンを植えていますので、その間に植えているバナナが(ドリアン収穫の合間に)定期的な収入をもたらしてくれています。」と語った。

Credit: CCDKM.
Credit: CCDKM.

彼女はまた、「ICT利用のおかげで市場に収益性のある生産物を出荷し、果実に高い価格を付けることができています。」と語った。とりわけ、GAP認証によってこれが輸出品質であると認められていることから、スーパーマーケットがこの農場のバナナをプレミア価格で買い付けてくれているという。

ヤナソさんはIDNの取材に対して、バナナやコショウ、ココナッツなどが年間を通じて収穫可能なため、これらの作物から相当な収入を得ており、ドリアンの収穫から得られる利益は「銀行に」貯蓄できていると語った。

ヤナソさんはいまや、この地域における「E-農業」の伝道師になっており、他の農家を有機農業という「足るを知る」持続可能な哲学の信奉者に変えている。ヤナソさんは、「有機肥料の価格は、かりに外部から購入したとしても、化学肥料の3分の1であり、他の農家が私の農場を訪ねてその快適な暮らしぶりを見れば、自分も変わることは不可能ではないと思うはずです。」と語った。

SDGs Goal No. 2
SDGs Goal No. 2

カモルラット教授は、「これは、夫婦だけでも農業を経営できると他の人たちに伝えれるパイロット・プロジェクトのようなものです。」「重要なことは、自分の作物を常に計画していることです。」と語った。

他方で、タイ政府はその「足るを知る経済」の開発哲学を輸出し始めている。タイが2016年1月にG77の議長国になった際、ドン・プラムドウィナイ外相は他の加盟国に対して、全体的な農場管理を基盤とした「足るを知る経済」モデルは、持続可能な開発目標(SDGs)の全17目標を達成するために、ほとんどの加盟国において適用可能だと語った。

プラムドウィナイ外相は、この哲学は、合理的な消費と生産を呼びかけたSDGsの第12目標の中核にあり、食料安全保障を提供するその能力は、貧困根絶に関する第1目標や飢餓根絶に関する第2目標と合致するものだ、と指摘した。(原文へPDF 

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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Off to Europe’s Youngest Republic Kosovo in a UN Media Team

On February 17, 2018 the Republic of Kosovo celebrated its 10th Anniversary of Independence marking a historic milestone. INPS-IDN joined a UN Media Team from June 23-28 to get to know the landlocked territory in the Balkan Peninsula and the challenges it faces ten years after it declared unilateral independence from former Yugoslavia in the aftermath of the Kosovo War in the whirl and muddle of Yugoslav Wars.

Kosovo is a product of a lengthy and consensual political negotiation process mediated by United Nations envoy Marti Ahtisaari, a project that was anything, but isolated. Ahtisaari’s conclusion was forged on the basis of the sui generis character of Kosovo’s independence while taking into account the international humanitarian intervention to stop war crimes and crimes against humanity in Kosovo.

In 2010, the International Court of Justice once again confirmed Kosovo had the right to declare independence thereby reinforcing Kosovo’s statehood. Ten years onward, Kosovo and the region are at peace. Kosovo is recognized as an independent state by 116 countries, it is a member of various international and regional organizations, and is in the process of becoming a member of the European Union and NATO.

Since independence, Kosovo has made significant progress in its implementation of comprehensive reforms including economic development, rule of law, education, and minority rights – with a key focus on securing and guaranteeing the rights of Kosovo’s Serbian minority, for which today Kosovo is a leading example.

Relations with Kosovo’s neighbour, Serbia, have also improved, with a new array of agreements reached as part of the EU-facilitated Kosovo-Serbia dialogue. However, whatever has been achieved does not yet suffice to translate into reality what Kosovo rightfully aspires: to become a full-fledged member of the United Nations, the European Union, and NATO.

Read our reports:
EU-Facilitated Dialogue Vital For Kosovo-Serbian Accord
Kosovo Looks Forward To UN Membership

As part of the UN Media Team, INPS-IDN DG and Editor-in-Chief Ramesh Jaura also met with Kosovo’s Prime Minister Ramush Haradinaj, asking him to explain his roadmap for the country to become a full-fledged member of the United Nations, the European Union, and NATO.

Photo credit: Cia Pak, Scannews
Photo credit: Cia Pak, Scannews

|タンザニア|困難に負けずジェンダー・エンパワーメントを強化

【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ】

アフリカ東部のタンザニアでは、女性たちは依然として社会の主流から取り残され、概してあまり期待されることのない役割に留め置かれている。彼女たちは、時として女性を生死の淵にまで追い込む偏った男性優位の体制の下で、しばしば、差別や、男性のパートナーからの暴力に苦しんでいるほか、自らの能力を十分に発揮しえないような様々な障害に直面している。

こうしたなか、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿って、女性をエンパワーする様々な取り組みが実行に移されている。SDGsはとりわけ、女性のエンパワーメント、教育や保健サービスを利用する機会の拡大、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の確保、政治・経済分野の意思決定プロセスに女性が参画できる割合を拡大するよう訴えている。以下はタンザニアで現在実施されている、こうした方向を目指す取組を取材したものである。

公立学校に安全・ジェンダーデスクを設置

Map of Tanzania
Map of Tanzania

リタ・ロバートさん(19歳)は、タンザニア南西部カタヴィ州にあるインヨンガ中等学校に通っていた16歳の時にレイプされて妊娠し、その後退学させられた。

将来弁護士になることを夢見ていたというロバートさんは、「真面目に勉強していたけど、全ての夢が打ち砕かれました。」と語った。

彼女は、妊娠を理由に退学させられた多くの少女達の一人である。

2017年6月、ジョン・マグフリ大統領は、母親になった女性は学校に復帰させるべきでないと述べて、批判を受けた。

カタヴィ州は、タンザニアで10代の妊娠率が最も高い地域の一つである。タンザニア統計局の2016年のデータによると、15~19歳の女性の45%が妊娠を経験していた。

そこでタンザニア政府は、ジェンダー暴力と闘う全国的な取り組みの一環として、公立校に「防衛・安全デスク(Defence and Security Desk)」を設置し、少女達を妊娠のリスクから守ろうとしている。

政府によると、学校毎に、性的虐待の問題を取り扱い関連当局に通報する2人以上の教師を選定しているという。

コミュニティ開発・ジェンダー・子ども省のウミー・ムワリム大臣によると、「防衛・安全デスク」担当に選抜された教師達は、少女達に性とリプロダクティブ・ヘルスに関する正確で有益な情報を提供し、性犯罪者の犠牲にならないよう支援するための訓練を受け、必要な知識とスキルを習得することになるという。

Ummy Mwalimu/ UNFPA
Ummy Mwalimu/ UNFPA

「すべての学校に、ジェンダー暴力に問題に対処できる教員を配置した『防衛・安全デスク』を設置すべきです。」とムワリム大臣は語った。

人権活動家らによると、沈黙の文化や時代遅れの文化的慣習、リプロダクティブ・ヘルスに関する教育の欠如、学校への遠さが、タンザニアで10代の妊娠を加速させている要因の一部であるという。

「女子学生たちはしばしば、様々なセクハラ行為に晒され、一部の学校では、男性教員が性的関係を強要したケースもあるという。しかし学校当局が性的虐待を警察に通報することは稀で、多くの学校は匿名の通報メカニズムを欠いている。」と、国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの2016年の報告書の中で指摘している。

タンザニア政府は、この新しい取り組みが、妊娠で学校を退学する少女の数を減らすのに役立つと期待している。当局によれば、計画では、『防衛・安全デスク』の教師らを通じて、少女たちは、思春期や性同一性、性的虐待、妊娠、危険な性行動といった問題をカバーする包括的な性教育やリプロダクティブ・ヘルス教育を受けることになる。

タンザニアでは未成年の性交は犯罪だが、貧しい親たちがしばしば1971年婚姻法で認められた特例条項を使って娘を嫁がせている。この法律では、親または裁判所の同意があれば、15歳の少女でも結婚することができる。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

国際女性人権団体「イクオリティ・ナウ」(本部:ニューヨーク)のアフリカ地域代表であるファイザ・ジャマ・モハメド氏は、タンザニア政府の取り組みについて、「これは歓迎すべき動きです……しかし、タンザニア政府は『少女を誘惑から守る』ことを強調するよりも、むしろ性犯罪者たちを逮捕し責任を取らせることに力を入れる必要があります。」と語った。

企業における女性幹部育成の試み

タンザニア経営者協会(ATE)は、企業経営における男性支配を打破してジェンダー格差を埋める取組として、女性企業幹部を訓練して、最高幹部に育むことを目指している。

最近のMSCI・ワールド・インデックス調査によると、女性のリーダーシップが強い企業は、幹部に女性不在の企業に比べて、自己資本利益率が高いという。タンザニアでは、女性がすべての幹部のうちわずか35%しか占めていない。

「女性の将来」と名付けられたこの取組では、企業の女性達を訓練してリーダーシップ・スキルを学ばせ、彼女たちが一層努力して設定された組織目標を達成するよう励ましながら、主要な意思決定を行える立場に昇格させる支援を行っている。

「『女性の将来』プログラムのコーディネーターを務めるリリアン・マチェラさんは、このプログラムは職場における女性の能力を伸ばして、企業の重要な決定を下す能力を持ったより有能なリーダーに育てることを目的としています。」と説明した。

マチェラさんはIDNの取材に対して、「私たちの主な目標は、経営者が効果的なビジネス環境と危機管理能力を習得するよう支援することにあります。」「私たちは、組織のために様々な問題について交渉する際に、心配や恐れを克服する力を持ったリーダーに女性達を育成しています。」と語った。

マチェラさんによると、企業は、従業員をこのプログラムに参加させることで幹部層において性別に左右されないリーダーシップを作り上げ、成長戦略の策定・実行を通じて組織の実効性と危機管理能力を高めることが可能になるという。

ノルウェー企業連合(NHO)と共同で2015年から取組でいるこのプログラムの下で、様々な企業出身の数人の女性幹部らが、ビジネス開発の実際に触れ、リーダーシップと幹部としての能力(Board Competence)という観念を学んでいる。

アキバ商業銀行の支店長として働き、このプログラムに参加したジュリアナ・スワイさんは、この取り組みを通じて、自身の職業人生に大きな転機が訪れたという。「今の私は、以前の私よりもより良き人間であり、より良きリーダーなったと思います。」とスワイさんは語った。

「『女性の将来』プログラムを通じて、私の中の考え方が完全に変わりました。今では以前とは異なり、好奇心や、共感、そして客観性を持ちながら、物事を別の角度から見られるようになりました。」とスワイさんは語った。

Female Future Program Training/ ATE
Female Future Program Training/ ATE

市場における性差別を防止する意識向上キャンペーン

ダルエスサラームの賑やかなムチキチニ市場の物売りの女性たちは、男性の商人達からの侮辱的な言動や性的な嫌がらせと常に闘ってきた。

しかし、タンザニアの非営利組織「成長のための平等」が非正規部門の女性達をエンパワーして収入を増やし家庭の貧困を減らそうとする意識向上キャンペーンを始めて以来、彼女たちの自信は顕著に回復してきている。

タンザニアの非正規部門で働く女性たちは、日々商売を行っているなかで暴力を経験してきた。非正規で規制から逃れている彼女たちの労働環境は、暴力事件を通報するメカニズムが存在しないために、より厳しいものとなっている。

「成長のための平等」が2009年に発表した調査報告書は、女性商売人が経験する暴力が警戒すべきレベルに達していたことを示している。この調査によると、ダルエスサラームの市場の4割の女性商売人が性的嫌がらせを受け、32%が言葉の暴力、24%が男性の行商人や客からその他の形態の暴力を経験していた。

そうした状況に歯止めをかけるべく、「成長のための平等」では、女性商売人を訓練して、権利を求めて闘う術を習得させると同時に、女性たちが法律で保護され暴力の恐怖に怯えることなく働けるメカニズムを導入するよう取り組んできた。

スワヒリ語で「ムペ・リジキ・シ・マツシ(暴力ではなく収入で彼女を支えよ)」と名付けられた、国連ウィメンから資金援助を受けたこのプログラムは、ダルエスサラーム市内の6つの市場で実施され、性別による暴力を減らしてきた、と当局関係者は説明した。

「成長のための平等」の事業担当であるシャーバン・ルリンビエ氏によると、2015年に始まったこのプログラムは、タンザニア最大の都市で働く数百人にのぼる女性商売人の生活を変えたという。市場がより安全な場所になって、非正規部門で働く女性たちが暴力を恐れることなく安全な環境で経済的権利を享受できるようになったのだ。

ダルエスサラームのイララ市場にいる女性商売人アイシャ・シャーバンさんは、「この訓練のお蔭で自分の権利について理解できるようになりましたし、私の権利を侵そうとする男性を通報する方法も学びました。今では、暴力的な言葉を使ったり、性的に私を虐待しようとしたりする人を通報する術を知っています。最近では誰も私に嫌がらせをしてこなくなりました。」と語った。

ルリンビエ氏によると、「成長のための平等」は、法律家コミュニティの支援者を訓練して、市場における虐待の事例を通報するよう女性達を支援している。このプロジェクトはまた、警察や市場の関係者、商売人など、様々な利害関係者を巻き込んで、共通する利益について議論させるガイドラインを作り上げた。

UN Trust Fund Monitoring and Evaluation Specialist/Gemma Wood
UN Trust Fund Monitoring and Evaluation Specialist/Gemma Wood

「性暴力の加害者は罰金刑に処せられるようになり、女性は性的嫌がらせを受ける恐怖から逃れて自由に働けるようになりました。」とルリンビエ氏は語った。

「成長のための平等」のジェーン・マギギタ代表は、「私たちは、タンザニアの非正規部門があらゆる形態の性暴力から解放されるよう望んでいます。」「このプロジェクトは、暴力から解放された人生を送る女性の権利を支えるだけではなく、彼女たちを経済的にもエンパワーしています。より安全な市場は、より多くの女性が安全に商売できることを意味します。」と語った。

少女たちの退学を防ぐ

ファイザ・オマールさんは、最後の試験に落ちてすべての希望を失った。しかし、再試験を受けるようアドバイスされて学校に戻ると、希望を取り戻した。

オマールさんは教師や両親の支援を得て自信を持ってクラスに復帰し、結果的に試験に通った。これは、少女のための教育プログラム「読むための部屋」のおかげだ。少女の中等教育を完遂させ、必要な生活上のスキルを学ばせる支援を行う取り組みである。

Room to Read

「先生たちからの励ましがなければ、勉強を終わらせることはできませんでした。」とオマールさんは語った。

「タンザニアは小学校の入学率についてはかなりの進展があったが、とりわけ農村部においては、早期の結婚、10代の妊娠、貧困等のために、中等教育を終えられる少女はほとんどいません。」と、女性人権団体の関係者は語った。

タンザニアでは、76%の少女が妊娠と早期の結婚のために中等学校を退学する。この取り組みでは、少女たちが生きるためのスキル教育や子どもの人権、メンタリング、ジェンダー問題への対応について学んでいる。

「読むための部屋」プログラムは、自治体や学校、地域社会、家庭と協力して、識字の重要性を理解させ、少女たちがその能力を十分に発揮できるよう支援するものだ。

キロモ中等学校の活動家で教員のジャミラ・ムリショさんによると、このプログラムは少女たちを学校に留める中心的な役割を果たしてきたという。

「私たちは、女の子が学校を退学するリスクが非常に高いとき、彼女たちと話をし、両親には、娘さんたちが学校に留れるよう必要な行動をとるようアドバイスします。」「このプログラムは貧しい家庭の少女たちに職業やリーダーシップ育成の訓練や、リプロダクティブ・ヘルスの知識、生きていく上でのスキルを与えることを目的としたものです。」とムリショさんは語った。

SDGs Goal No.4
SDG Goal No. 4

オマールさんが住むムリンゴティニ村では、水不足のために女性たちが自身や家族を養うのがますます困難になっていると感じているほか、概して教育に関する意識やモチベーションが欠けていることから、学習意欲のある少女たちにとって障害となってきた。

「読むための部屋」プログラムで、少女達は、生きていく上での様々なスキルや、メンタリング、ジェンダー問題への対応活動に関して中心人物として機能する教員や講師と語らいを重ねる。」

「私の役割は、友人たちの影響や経済的理由によって、少女たちが学校からドロップアウトしないようにすることです。彼女たちが教育課程を終えられるよう、懸命に頑張らなくてはならないと思っています。」とムリショさんは語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ウィーンIDN=ジュリア・ツィマーマン】

戦争とその本来的な危険を考える時に、まず思いつくのは、おそらく、戦場での死と、それに伴う人命の多大なる損失であろう。しかし、兵士だけが戦争の犠牲者ではない。民間人も大いに影響を受け、その影響は特に女性にとって壊滅的なものとなる。

国連ウィーン事務局で開催された国連システム学術評議会(ACUNS)ウィーン国連会議(1月10日~12日)に登壇した国連軍縮部のイスマイル・H・バラ軍縮部長は、紛争前、紛争中、紛争後の女性が直面する体系的な暴力に対応することは国際社会の責務だと語った。バラ軍縮部長は、2008年に国連コンゴ民主共和国ミッションの副司令官を務めたパトリック・ガマート将軍の言葉を引用して、「現代の戦争や紛争においては、兵士であることよりも女性であることの方がより危険だ。」と語った。

現代の戦争の現実に直面して、バラ軍縮部長は、国際組織や軍、法曹、NGOが、現状を変革し、紛争管理や軍、平和構築に女性を組み込むよう努力している、と指摘した。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

例えば、オーストリア国防大学平和支援・紛争管理研究所の所長であるヴァルター・ファイヒティンゲル准将は、軍におけるジェンダー平等の主唱者だ。ACUNS会議に登壇したファイヒティンゲル准将は、「軍隊の中の女性は、現代のオーストリア軍では常識となりました。」と指摘したうえで、「時代は変わったのだ。」と強調した。

実際、オーストリアは20年も前から女性兵士の統合を開始し、全兵士1万5000人のうち、およそ600人が女性である。ファイヒティンゲル准将は国防大学を、ジェンダー平等のような価値に関する考え方を変えるうえで、他の機関に対するひとつのロールモデルとみなしている。ファイヒティンゲル准将は、「紛争に関連した性的暴力の廃絶と平和の回復に向けて取り組む中で、軍の作戦と平和プロセスの両方において女性指導者を巻き込むことが肝要」と指摘したうえで、「女性は包括的な安全保障にとり不可欠の一部であり、彼女たちの考え方や観点もまたしかりです。」と語った。

ネパールの法律家で国連軍縮部の「平和のための女性奨学金:グローバル・サウス・プログラム」の奨学生であったカルナ・パラジュリ氏は、紛争後の和平協議において女性の役割を強化することの重要性を強く訴えている。ネパールで彼女は地元のNGOと協力して、紛争に関連した暴力の犠牲者となった女性に対する無料の法律代理人を務めている。

ネパール内戦(1996~2006)によって、暴力、とりわけ性暴力の被害女性が多く生まれた。パラジュリ氏はこうした犠牲者と接する中で、かなり長い時を経ても、自身の経験についておおっぴらに語ることを女性たちが依然として恐れている事実に直面している。ネパールでは、その他多くの国と同じように、性的暴力に人々は眉をひそめる。被害者は、自分の経験を話すことで社会からネガティブな反応を受けることを恐れている。

Blue Heart Campaign Lebanon Brochure/ UNODC

ゾンタ・インターナショナル」の国連ウィーン事務所代表であるインゲボルグ・ゲイヤー氏は、紛争時における性的暴力、とりわけ戦闘の道具としてレイプが利用される問題を強調した。レイプこそが戦争に関連したもっとも広範かつ害の大きい行為であることを強調し、その影響は女性と社会にとって大きな傷跡を残すと指摘した。加えて、紛争時のレイプの規模と集中度によっては、膣瘻のような深刻な健康状態をもたらしかねない。

人身売買は、女性が戦時に直面するもう一つの危険である。国連麻薬・犯罪事務所(UNODC)政策分析・広報局長であるジャン=リュック・ルメイユ氏は、同組織の「ブルー・ハート・キャンペーン」をつうじて、人身売買の問題に焦点を当てる取り組みに従事してきた。彼は、人身売買された人の71%が女性であり、人身売買はしばしば、紛争時の困窮化した経済において収入を生むために利用されてきた、と付け加えた。

Julia Zimmerman

さらに言えば、性的暴力や人身売買、紛争と戦争に関連したジェンダーがらみのその他の問題に対処するためには、「3P」、すなわち、予防(prevention)、保護(protection)、訴追(prosecution)のパラダイムが重要なことは明白だ。政治的リーダーシップにおける女性の役割の強化もまた重要だ。パラジュリ氏が指摘するように、ネパールの議会は現在33%の女性議員で構成されており、大きな成果と言える。

国連軍縮部の「平和のための女性奨学金:グローバル・サウス・プログラム」の修了生として、パラジュリ氏は、軍縮や開発関連問題の主要な概念的・実践的側面に関する専門的な訓練を受けてきた。国連ウィーン事務局のバラ軍縮部長が指摘しているように、そうした訓練は、パラジュリ氏のような青年が変革を引き起こすために必要な、首尾一貫し、調整され、文脈に応じた対応の一環だと言える。なぜなら、青年は、戦争と紛争の文脈において、責任逃れを許さず、女性にとっての正義を追求する担い手となるからだ。(原文PDF

翻訳=INPS Japan

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【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

2016年2月、米国政府は、ケフラヴィーク国際空港にある北大西洋条約機構(NATO)軍の格納庫の扉に必要な変更を加える可能性について、アイスランド側と協議を開始した。新型でより大型の対潜哨戒機を格納できるようにするためである。この問題は、米国が資金提供に合意した2017年12月に決着を見た。

格納庫は空港敷地内にある旧米軍基地(旧ケフラヴィーク海軍航空基地:2006年の米軍撤退後に閉鎖したが、米軍はアイスランドの安全保障を引き続き継続することを約束している:INPS)の警戒区域に設置されており、問題となっている哨戒機は「ポセイドンP-8A」である。この型の哨戒機は、「グリーンランド=アイスランド=イギリス(GIUK)ギャップ」と呼ばれている、アイスランド周辺の海域で活動を活発化しているロシアの核搭載型・通常型潜水艦を追跡することを目的としている。

現在、冷戦期よりも多くの核搭載型・通常型ロシア潜水艦がGIUKギャップで活動を展開している。アイスランド外務省によると、2016年、同国を拠点とした監視飛行は77日だったが、2017年には153日を数えたという。使用されたのは、米国との他の北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国が運用する「P-3」「P-8A」哨戒機である。P-8AはP-3の後継機にあたる。

GIUK Gap/ Public Domain

「この変更については当初から米国の資金を充てることが想定されていました。」と、ある外務報道官は語った。米国の2018会計年度国防予算では、「海外緊急作戦のための軍事建設」(4602条)と「空軍建設・土地取得事業」(2903条)において、アイスランドの「飛行場施設の更新」の名目で1440万ドルの予算が要求・配分されていた。後者の条項は、空軍省長官に対して、「不動産」を取得し、米国外の施設に関して軍事建設事業を実行することを認めるものだ。

一方、アイスランド側でも予算は積み増しされている。アイスランド沿岸警備隊による2017年3月8日の報告書『アイスランドの防衛とアイスランドにおけるNATO作戦』では「海洋作戦・能力の増強」に言及がなされる一方、同国外務省は、「ケフラヴィーク空港の建造物と防空システムの運用により」2017年度のアイスランドの予算で作戦関連予算が34%増えた、としている。

この問題は論争を引き起こしている。というのも、アイスランドを2006年9月に撤退した米軍が再び戻ってくることを検討しているのではないかとの懸念が出ているからだ。基地跡地のほとんどが現在は教育やハイテク目的で利用されているが、一部は依然として一般の立ち入りが禁止されている。そうした区域では沿岸警備隊が格納庫やその他の軍事施設を警備している。沿岸警備隊は、アイスランド上空の軍民両方の航空管制も行っている。

Katrín Jakobsdóttir at Göteborg Book Fair 2012 03/By Arild Vågen - Own work, CC BY-SA 3.0
Katrín Jakobsdóttir at Göteborg Book Fair 2012 03/By Arild Vågen – Own work, CC BY-SA 3.0

2016年7月、戦略国際研究所(CSIS)が報告書を発表し、その中で「NATOは、アイスランドのケフラヴィーク海軍航空基地を再開することによって、適切な場所で適切な時に適切な能力を確保する対潜戦闘態勢を最適化することができる。」と示唆したことがある。

2017年10月の総選挙でカトリン・ヤコブスドッティルが首相になった。彼女は当時、アイスランドで最も信頼されている政治家と呼ばれ、アルシング(アイスランド国会)第二党である左翼環境運動党(グリーンレフト)の党首である。同党はマニフェストの一環として常にアイスランドのNATOからの脱退を一貫して主張しているが、総選挙においてはこの問題が触れられることはほとんどなかった。

しかし、左翼環境運動党が掲げるその政策は、他の連立相手である中道の進歩党と(63議席から成るアルシングで最大の16議席を保有する)右派の独立党の支持するところとはなっていない。

にもかかわらず、2017年12月初め、首相就任直後のヤコブスドッティル氏は、グドゥロイグル・トール・トールダルソン外相に対して、格納庫の改修に関する調査を依頼し、アイスランドにおけるNATOの軍事プレゼンスに対する左翼環境運動党の反対を改めて表明したのだった。その際、ヤコブスドッティル首相は、アイスランドにNATOの軍事基地を建設する意図はないと告げられた。

2017年初め、左翼環境運動党のスタイナン・トーラ・アルナドッティル議員はトールダルソン外相に対して、アイスランドが核兵器禁止条約制定に向けた議論に参加する予定があるかどうか尋ねた。トールダルソン外相は、NATO加盟国としてアイスランドは協議に参加する予定はないと述べ、その理由は「アイスランドは、核兵器国がこの軍縮プロセスに参加する必要があると考えており、現在はそうでないことが明白だから」だと説明した。

左翼環境運動党が昨年に野党であった際、ヤコブスドッティル首相は、核兵器禁止条約が2017年7月に国連で採択された時に「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の「議員の約束」に署名した17人のアイスランド議員の一人であった。署名議員のほとんどは左翼環境運動党と海賊党の所属である。

Ray Acheson/ Reaching Critical Will
Ray Acheson/ Reaching Critical Will

2017年12月にオスロで行われたノーベル平和賞授賞式からの帰途、リーチング・クリティカル・ウィル/WILPFのレイ・アチソン氏とICAN豪州支部長のティム・ライト氏がアイスランドを訪問した。「カトリン(ヤコブスドッティル首相)は、ティムと私が参加した大学での公開集会に来てくれました。また私たちは、他の左翼環境運動党の議員、海賊党の議員、外相、レイキャビク市長にもお会いしました。」とアチソン氏は語った。

アチソン氏は、核兵器禁止条約について、「民主的な政府は民衆の意思に従うものですから、どの民主政府でも核兵器禁止条約に参加するという希望が常にあります。カトリン・ヤコブスドッティルを首相に置くアイスランドは、条約に参加し、他のNATO諸国をリードして核軍縮への真のステップを支持する強力な立場にあると私たちは信じています。」と述べ、アイスランド政府に対する期待を表明した。

「核兵器禁止条約を支持しているカトリンを初めとした閣僚は閣内での反対に遭っていますが、核兵器に反対する国としての地位をアイスランドが取り戻し、NATOや米国の立場の影に隠れて民間人無差別殺戮の脅しを掛けさせないようにすることが重要だと考えています。」とアチソン氏は語った。

Tim Wright
Tim Wright

アチソン氏はつづけて、「人道主義と軍縮の問題について原則的な立場を持つ新政権は、核兵器は、誰がそれを保有・使用するかに関わらず合法的或いは容認可能な兵器ではないとの立場をアイスランドは明確にすべきです。」と語った。

ティム・ライト氏は楽観的だ。「アイスランドが核兵器禁止条約に署名・批准するのは避けては通れない道です。そうしないのは無責任です。カトリン・ヤコブスドッティル首相は条約支持を約束しており、他の閣僚もそうすると確信しています。核兵器はいかなる正当な目的にも奉仕しない。アイスランドは、はっきりと核兵器に反対すべきです。」とライト氏は指摘した。

アイスランドには、軍隊を持たない国として、平和への取り組みを支持してきた誇るべき歴史があります。ぐずぐずすることなく、この最悪の大量破壊兵器の廃絶に向けた世界的な取り組みをリードすべきです。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【アンマンIDN=バーナード・シェル】

イスラエルのメディアは、2017年12月10日にオスロで行われた、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に対するノーベル平和賞の授与式を黙殺した。もっとも、イスラエルの駐ノルウェー大使は式典に出席した。

Map of Israel
Map of Israel

ICANの中東における主要なパートナー団体である「イスラエル軍縮運動」(Israeli Disarmament Movement 〈IDM〉 シャロン・ドレブ氏が創設し、現在議長を務める)がこの6年間イスラエルの世論に影響を与えてきたものの、イスラエル・メディアによる黙殺は驚くべきものではないとみられている。

ICANはエジプトやイラン、レバノン、パレスチナ、シリア、イエメンにもパートナー団体がある。

「イスラエル軍縮運動」のイスラエルにおける法人名称は、「地域平和軍縮運動(The Regional Peace and Disarmament Movement (RPM) )」(2010年創設)で、中東における非大量破壊兵器地帯(WMDFZ)の創設と、核兵器の全面禁止の実現を主要目標に掲げてている非政府組織(NPO)である。

イスラエル法務省にNPO登録している「イスラエル軍縮運動」の活動目標は、①核兵器禁止に向けた世界的な取り組みの一環として核軍縮運動を推進すること。②核兵器やその他の大量破壊兵器に関してイスラエルの世論を促進すること。③核兵器禁止に向けた国際的な取り組みや諸条約にイスラエルを組み込んでいくこと。④とりわけ中東非大量破壊兵器地帯の創設を呼びかける国際的・地域的取り組みや、「アラブ和平イニシアチブ」、「平和的エネルギー」のような中東地域における再生可能エネルギーの取り組みにイスラエルを参加させること、としている。

「イスラエル軍縮運動」を創設したドレブ氏は、ベテランの平和・人権活動家として、これまでに「メレツ党(イスラエルで「民権運動」とも称される社会民主系の左派政党)」、「ジュネーブ・イニシアチブ」、「ウイメン・イン・ブラック(戦争と軍国主義、女性への暴力に反対する国際女性ネットワーク)」などで経験を重ねてきた。

Sharon Dolev/ The Palestine Chronicle
Sharon Dolev/ The Palestine Chronicle

ドレブ氏は、メレツ党のアクションコーディネーター、メレツ青年同盟の議長を務めたほか、グリーンピースでは「平和・軍縮・核キャンペーン」を率い、同団体のイスラエル支部長も務めた。

+972ブログ」の取材に応じたドレブ氏は、ノーベル平和賞授賞式に関するイスラエル・メディアの沈黙、そしてイスラエルの軍縮運動における自身の役割について、「もし私が国連で占領地域[訳注:イスラエルによるパレスチナ占領地域のこと]での人権侵害について話したとしたら、イスラエル中の新聞の見出しを飾り、すべての閣僚が私を攻撃したことでしょう。」と語った。

ドレブ氏は他方で、仮に国連総会でイスラエルの核開発計画とその縮小の方法について語ったとしても、誰も自分を攻撃しないだろう、とも語った。「この問題について、私があえて口を開いたとしても、誰も私を『非国民』などとは呼ばないでしょう。つまり、(イスラエル政府が推進してきた核の)『あいまい政策』があらゆる方面で効いているのです。」ドレブ氏は語った。

イスラエルは長年にわたって意図的に「あいまい政策」を採用してきているが、その根底にある動機は、大量破壊兵器の保有を認めることを拒否する点にある。

核脅威イニシアチブ(NTI)によると、イスラエルはかなりの規模の核戦力を保有していると広く見なされているが、核保有の有無を曖昧にする政策をあえて採っている。イスラエルの初代首相デイビッド・ベングリオン氏は、イスラエルが近隣アラブ諸国から受けていると見なしていた生存にかかわる脅威に対処するため、フランスの支援を得て1950年代半ばから末にかけて核開発計画を始動した。

イスラエルの核開発計画は、ディモナという町の郊外にあるネゲヴ原子力研究センター(ヘブライ語の略語では「KAMAG」)を中心としている。ここでは、1960年代初頭、フランスの支援によってプルトニウム生産炉が臨界に達した。

Negev Nuclear Research Center at Dimona, photographed by American reconnaissance satellite KH-4 CORONA, 1968-11-11/ Public Domain
Negev Nuclear Research Center at Dimona, photographed by American reconnaissance satellite KH-4 CORONA, 1968-11-11/ Public Domain

NTIによると、「イスラエルは、『6日戦争(第3次中東戦争)』に先立つ1967年5月末、最初の初歩的な核装置を組み立てたと言われている。ディモナ炉のプルトニウム生産能力に関するおおよその推計によると、イスラエルは約840キロの兵器級プルトニウムを生産したとされるが、これは核弾頭100~200発分に相当する」という。

同時に、イスラエルは核不拡散条約(NPT)への加入を拒否し続けている。イスラエルは、中東非核兵器地帯の理念を支持する一方で、その交渉の前提条件が中東における包括的平和であると主張して、協議入りに難色を示してきた。

「イスラエル軍縮運動」は中東における非大量破壊兵器地帯の創設を支持しているが、イランの核開発問題の外交的・平和的解決も支持している。また、軍縮への取り組みや大量破壊兵器の危険性について、イスラエルの一部のジャーナリストと接触し情報提供を行っている。

「イスラエル軍縮運動」のある関係者は、対外活動について「大量破壊兵器は一般的に、知識人サロンの間での話題になることはありません。イスラエルではなおさらそうです。軍縮問題に関するイスラエルの公の論議はイラン問題に矮小化され、イスラエル自身の戦力や、イスラエルが世界の軍縮の取り組みで果たすべき役割については触れないように、注意深く囲い込まれた議論になっています。『イスラエル軍縮運動』の教育プログラムでは、学者、専門家、講師による講義コースやセミナーを提供しています。」と語った。

「イスラエル軍縮運動」は同国において、ICANの運動だけではなく「平和首長会議」も代表している。そして草の根運動として、一般市民を活動に取り込むことに重きを置いている。印刷物を配布するだけではなく、広島の被爆者の証言を聞く機会や、核軍縮問題の国際的専門家と討論する機会を設けたりしている。

Mayor for Peace
Mayor for Peace

「イスラエル軍縮運動」は、イスラエル国会で初めて軍縮問題のロビー活動を始めた。毎年、専門家による講演会を催し、国会議員と公の討論会も実施している。また、議員に質問をしたり、ロビイストに関連する情報を提供したりしている。

「私たちの組織は、大量破壊兵器と、とりわけ核兵器に反対するイスラエルのNGO連合の構築・維持に力を入れています。」と「イスラエル軍縮運動」関係者は語った。2013年12月には、「中東における非核兵器・非大量破壊兵器地帯の創設を目指す国際会議」をハイファで開催した。会議の目的は、中東地域から大量破壊兵器を根絶することに関する議論を促進することだった。

イスラエルでは、「あいまい政策」によって、旧来からのメディアがリスクを冒さずに言える範囲に影が投げかけられている。「イスラエル軍縮運動」は、そうした障害を回避するために、大量破壊兵器の危険性とそれに依存しない他の選択肢について、資料を継続的に翻訳している。翻訳文と発行物は印刷され、政治家やメディアに渡されているほか、インターネットのようなニューメディアを通じて一般市民にも提供されている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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|視点|ジレンマとたたかうイスラエルの平和活動家たち

「私たちの証言を聞き、私たちの警告を心に留めなさい。」(サーロー節子、反核活動家)

|インド|ミサイル「アグニ5」発射成功も、「怒り」を呼び起こさず

【バンコクIDN=カリンガ・セネビラトネ】

インドが、1月18日に、核兵器搭載可能の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「アグニ5」の発射実験に成功したことは、アジアではほとんど注目されなかった。しかし西側メディアは、インドがいまや北京や上海などの中国主要都市を射程に収めた点に着目して報道した。

一部に賞賛する傾向さえあったこの報道ぶりは、北朝鮮が同様のミサイル(火星15)を昨年11月29日未明に発射した際の西側メディアのヒステリックな対応と際立った対照を示している。北朝鮮のミサイル発射実験が世界の非核化への脅威と見なされる一方で、インドのそれはそうなっていない。

『ハフィントン・ポスト』のエリック・マーゴリス氏が指摘するように、「インド政府はICBM開発を宇宙開発計画のオブラートに包んで」おり、北朝鮮が衛星を軌道上に打ち上げようとした際、米国は、軌道上に衛星を置く能力のあるブースターは核弾頭を運搬することもできると「厳しく指摘」した。

「現在のところ、インドは米国の緊密な同盟国であり、核戦力の構築について米国やイスラエルの支援を得ている。米国政府は、インドの核不拡散条約(NPT)参加拒否に目をつぶり、インドの核戦力の拡張を中国に対する地域的な対抗バランスになりうるとして黙認している。」とマーゴリス氏は述べている。

中国はこのような見方に対して否定的な反応を示している。中国の華春瑩外務報道官は、前回の発射実験(2016年12月26日)の成功を受けて、核弾頭で中国の諸都市を攻撃できるミサイルの能力について扱ったインド内外の報道に反論を展開した。

『ヒンドゥスタン・タイムズ』によれば、華報道官は、「核兵器を搭載した弾道ミサイルをインドが開発しうるかについて国連安保理は明確に規制している。」と指摘したうえで、「中印両国は、互いを、競い合うライバルではなく、2つの重要な開発途上国であり新興経済国として協力パートナーと見なす点で、重要な合意に達しています。」と語った。

華報道官はさらに「関連するメディアに対しては、客観的かつ理性ある報道をし、中印両国の相互信頼と地域の平和と安定に資する活動をするよう要望したい。」と語った。

1月18日の弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験の成功は、インド洋における日本との合同海軍演習の翌日のことであった。最近、インド・日本・米国・豪州は、中国封じ込めの一環として、軍隊間での協力を強化する防衛同盟を形成すると発表した。

中国の『グローバル・タイムズ(環球時報)』が最近掲載した論説は、インドメディアに対して、中国の脅威に関するインド軍関係者の厳しいコメントを煽るようなことは慎むべきだと呼びかけた。「2018年初頭以来、インド軍は時として、中国に対する厳しいコメントをしてきた。インド陸軍のビピン・ラワット参謀総長は先週、インドは中国国境に焦点を移すべきだと発言した。」「インドメディアは軍から得た情報を増幅させ、タカ派的な軍の発言を称賛し、中国がインドを侵犯し挑発しているかのような印象を捏造している。」と1月16日の論説は述べている。

「インド軍とメディアによる連係プレーによって、インド国民の中国に対する印象は悪くなっている」と『環球時報』は述べ、インド・中国・ブータン国境のドクラム高地で2017年ににらみ合いが起こった際に、「現状を維持する」としたインド外務省の見方と矛盾していると指摘した。

同論説は、非常に率直な評価をしている。「インド社会は、中国に関する見方の形成において、予算を拡大し同国の外交関係でより大きな影響力を得ようとしている軍の利己的な願望と、目立つ報道を追求する利益重視のメディアによって惑わされてきた。結果として、中国に対する強硬な姿勢はインドにおける『政治的正しさ』となり、インドは米国・日本・豪州の側に押し出されることになった。」

中国の報道によれば、中国の核専門家は「アグニ5」が核弾頭で中国の諸都市を攻撃する能力に疑問を呈す一方で、この実験が核不拡散条約に対する挑戦になっていると指摘している。

軍事専門家でテレビのコメンテーターでもあるソン・ジョンピン氏は、『環球時報』の取材に対して、インドの核能力と地域における軍事同盟の強化によって、インド軍が近いうちに「戦う軍隊」化するかもしれず、これが中国の野心的な「一帯一路」構想の妨げになるかもしれない、と論じている。

ソン氏は、インド洋は「一帯一路」にとって「不可欠な地域」であると同時に、海洋大国を目指す中国の国家戦略の一環でもあるから、中国はインド洋における軍事的・経済的プレゼンスを高めねばならないと述べている。

現在、ICBMによる攻撃能力を保持しているのは、米・露・仏・英・中の5カ国で、これらはいずれも国連安保理の常任理事国である。従って、マーゴリス氏はインドの実験についてまた別の理由を「インドがICBMを望んでいる最大の理由はおそらく、大国としての地位と、安保理における椅子だろう。」と指摘している。

西側はアジアを核武装化と軍事的対立の温床とみているかもしれないが、インドの弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験に対するアジアでの報道の少なさは、核によって注目を集めようとするよりも経済協力の方が望ましいとの見方の反映だ。

韓国と北朝鮮が平昌冬季オリンピックを通じた対話路線による外交を展開しようとする中、これが地域における緊張緩和につながるかもしれないとの安堵感が広がっている。アジアのほとんどの人びとは、緊張状態は米国、とりわけドナルド・トランプ大統領によって永続化されていると考えている。

『ストレート・タイムズ』(シンガポール)のラヴィ・ベロール副編集長による論説はこうした雰囲気について、「(北朝鮮の)金(正恩)最高指導者は、恐るべき抑止力を自身に与えることが計算できる全面的な核開発計画の要諦を検討したのちに、こうした動きを起こした。」と論じている。

ベロール副編集長は、「金委員長の大胆さに憤るべきか、或いは彼の決意の強さに称賛を送るべきか決めるかねるところだが」と指摘したうえで、「平和協議への彼の呼びかけは、トレードマークとなった大胆不敵さと同居している。金委員長は、ソウルを標的にはしないと述べる一方で、米国は敵とみなすとして、韓国の同胞が深慮すべき微妙だが重要な区別の線を引いてみせた。」と論じた。

ベロール副編集長はまた、「金委員長は、無謀な狂人などではなく、タイミングに関する鋭い感覚と、状況を的確に測る理性を持った聡明な指揮者であると認識すべき時だろう。より大きな核のボタンを持った敵対者とは別の部類に属する人間だ。」とみなしている。

また、「イランとの核合意を破棄するとのトランプ氏の素質は、米国と同様の非核協議を持とうと計画しているあらゆる他の国々に再考を迫ることだろう。金委員長はおそらく、彼のブリーフィングペーパーを慎重に読んでいるにちがいない。そして、もっとも真摯な保証が尊重されないとしたら、それはどういうことになるのかを問う理性を持っているにちがいない。」とベロール副編集長は論じた。

識者は、米国の伝統的な同盟国であるシンガポールがトランプ大統領の核政策について懸念を感じていることを特筆している。実際、ベロール副編集長は、朝鮮半島の永続的平和は、米中間、そしておそらくは米ロ間での協調がなければ達成できないと指摘している。

しかし、中国政府もロシア政府も、1月16日までバンクーバーで行われたカナダ政府主催の北朝鮮関連協議に招かれていない。招かれたのは、50年以上前の朝鮮戦争時の当事者である西側の同盟国だけである。

「たしかに、解決を実際に妨げているのは冷戦の名残りだと考えている人々もいる。」とベロール副編集長は指摘する。「米国は朝鮮半島から核兵器を引き上げたと主張しているが、中国は、協議を通じてこの問題の解決策を見つけることに米国が真剣でないと考えている節がある。なぜなら、そうしてしまうと、中国の周辺に強力で性能の良い兵器を配備する言い訳が成り立たなくなるからだ。」と論じた。

さらにベロール副編集長は、金委員長が新年の演説において、「韓国人とは同じ血を分かちあった同胞であり、この慶事を共に喜び、彼らを助けるのは当然のことだ。」と述べ、平昌冬季オリンピックの開催を称賛し、すべての朝鮮人にとっての重大なイベントだとして歓迎した点を指摘した。(1.21.2018) INPS Japan/ IDN-InDepth News 

ICAN事務局長、日本に袋小路からの出口を示す

【東京IDN=浅霧勝浩

「全ての国が、とりわけ日本が、核兵器禁止条約(核禁条約)に参加することを望みます。ノーモア・ヒバクシャ。」1月12日から長崎原爆資料館で始まった企画展のオープニングイベントに参加した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、企画展のメッセージボードにこうつづった。

この企画展は、「核兵器の使用が人道上破壊的な結果をもたらすことへの関心を高め、核禁条約の制定に向け革新的な努力を尽くした。」として12月10日にオスロで行われたICANのノーベル平和賞受賞を記念したものだった。

フィン事務局長は3日後、広島の平和記念資料館において、昨年7月7日に国連総会で採択された核禁条約の早期締結を求める署名簿に記入した。また芳名録には、「広島市は人間性の最悪なるものを経験しました。しかし街を再建し、核兵器廃絶に取り組む中で、人間性の最善なるものを示してきました。広島は希望の都市であり、ICANは核兵器の終わりを見届けるため、皆様と共に力を尽くします。」と記帳した。

ICAN
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ICANのノーベル平和賞受賞から約1か月後に長崎大学の招きで初来日したフィン事務局長は、1945年に史上初めて原爆が投下された日本の2都市、長崎と広島と訪問した。

12月10日のオスロでの授賞式では、フィン事務局長は、被爆者を代表して登壇したサーロー節子さんとともに、メダルを受け取った。サーロー節子さんは受賞演説の中で被爆者について、「広島と長崎の原爆投下から奇跡的に生き延び」70年以上にわたり、核兵器の完全廃絶のために努力してきた、と語った。

核禁条約は、国連総会のマンデートを受けた「法的拘束力のある核兵器禁止条約の交渉を行うための国連会議(交渉会議)」で122カ国が賛成して採択されたが、101カ国からFBO(信仰を基盤とした団体)を含む468団体が参加したICANによる不屈の努力が、条約成立に大きな貢献をした。

Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN
Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN

日本は核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国だが、核保有国が参加しない形で核禁条約を作ることは、核兵器のない世界を遠ざけることになると主張して、交渉会議には参加しなかった。

1週間(1月12日~18日)にわたったフィン事務局長の日本訪問の趣旨は、政界のリーダーや国会議員に核禁条約への支持を訴えるとともに、安倍晋三首相に核禁条約に署名するよう説得を試みることにあった。

ICANはフィン事務局長の来日に合わせて安倍首相との面談を要請していたが、安倍首相がフィン事務局長が日本に到着した日に、欧州六カ国歴訪(エストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビア、ルーマニア)に出発していたため実現しなかった。

長崎原爆資料館や広島平和記念資料館への訪問や核兵器禁止を目指して取り組んでいる活動家たちとの出会いは、明らかにフィン事務局長の心に忘れ難い印象を残した。フィン事務局長は記者団に対して、核兵器が二度と使用されないよう努めていくという「決意」が今回の訪問で一層強くなりました、と語った。

彼女のこうした決意は、東京における記者会見や国会議員との討論会でも示された。

フィン事務局長は記者団に対して、「日本の行動とリーダーシップが求められています。…日本は核軍縮の分野で道義的な権威になることができますし、それにはまずは安倍首相が、日本を核禁条約に加盟させるところから始められると思っています。」と語った。

また、「北朝鮮からの現実的な核の脅威が高まっているなかで日本国民の生命と財産を守る」ために日本には米国の核抑止が必要、という主張に反論して、「もし仮に核兵器の抑止力が平和をもたらすのであるならば、北朝鮮の核兵器を歓迎すべきという理屈になります。今やそれが平和をもたらしたと。しかし、現実にはそうはなっていません。…むしろ(核兵器が使用される)リスクが高まっています。このことは、核兵器が危機を煽る存在であることを明確に示しています。」と語った

フィン事務局長は、衆院第1議員会館で開かれた、政府と与野党9政党・会派の代表が参加した公開討論会(核兵器廃絶日本NGO連絡会主催)では、日本政府に対して核抑止に基づく現在の安全保障政策を見直し、核禁条約への加盟の可能性について議会で議論を始めるよう熱心に訴えるとともに、袋小路とも思われる現状からの出口を指し示した。

新衆議院第一議員会館の全景/ Photo by Yuukokusya
新衆議院第一議員会館の全景/ Photo by Yuukokusya

フィン事務局長は、核兵器禁止条約に参加しないことで日本は国際的な軍縮の動きのなかで「はずれもの」となるリスクがあると警告し、「日本は核禁条約に加盟しても米国のような核兵器国との軍事同盟を維持することは可能です。核禁条約は加盟国に対して、核兵器を使用、生産、保有せず、核兵器の使用を奨励或いは支援しないよう強く求めているのです。」と語った。

フィン事務局長は、「人権と人道法を尊重する全ての国々がそう(=核禁条約に加入)すべきです。」と強調したうえで、「私は(日本の国会には)是非とも核禁条約に関する調査委員会を立ち上げて、日本にどのような選択肢があるのか議論を始めてほしい。」と訴えた。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

さらに、「(北朝鮮による)核戦争の脅威が増すなか、核軍縮につながるこうしたオプションを追求しないのはあまりにも危険であり、核禁条約への加入が最善の道です。」と語った。

これに関連して、フィン事務局長は、スウェーデンやスイス、また、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるイタリアとノルウェーが、核禁条約を軍縮のオプションとして検討を開始している事例を紹介した。

しかし佐藤正久外務副大臣は、(核禁条約に対する)主要な核兵器保有国の支持がない現状を指摘し、この条約に参加すれば「日米同盟と核抑止力の正当性を損なうことになる。」と述べ、核禁条約への署名に反対する従来の日本政府の立場を繰り返した。

与党自民党の武見敬三参院政審会長もまた、「私たちは道義に基づく外交努力を行っていかなければなりませんが、同時に(北朝鮮からの)現実にある軍事的な脅威にも対処しなければなりません。」と述べ、核禁条約に対して慎重な立場を表明した。

一方、立憲民主党の福山哲郎幹事長はフィン事務局長の提案に賛意を示し、「日本が核禁条約の効果を調査していくことは非常に有効です。党としてこの問題を国会の中で議論できるように問題提起をしていきたい。」と語った。

共産党の志位和夫委員長は「(核禁条約で)核を違法化し悪の烙印を押すことが北朝鮮に核放棄を迫る大きな力になる」と述べた。希望の党の玉木雄一郎代表は、「核抑止力も維持しなければいけない私たちは、現実の脅威と核兵器のない世界という理想のギャップを埋めていきたい。」と述べたが、核禁条約への加入を支持するかどうかについては明言しなかった。

自民党と連立与党を組む公明党の山口那津男代表は、「国際的に核兵器を禁止する規範が確立されたことは画期的な意義があります。公明党も長期的、大局的な視野から条約に賛同します。」と述べた。

Beatrice Fihn, Executive Director of ICAN participating in an open forum with  representatives of nine political parties and the government on January 16, 2018./ Komei Shimbun
Beatrice Fihn, Executive Director of ICAN participating in an open forum with representatives of nine political parties and the government on January 16, 2018./ Komei Shimbun

また、日本の安全保障環境の現実を踏まえれば、「北朝鮮の核開発、保有を目前にして、核保有国と非保有国が共に協力、連携して当面の問題を解決しなければならない。」と指摘した。

山口代表は、その上で、核不拡散条約(NPT)体制下での核軍縮の重要性を力説。また、核禁条約も拡散防止に一定の効果があるとの考えを示すとともに、核軍縮の進展へ「日本は保有国にも賛同を得られる橋渡しをしたい。」と強調した。(原文へPDF

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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