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110カ国以上が土地劣化対策を約束

【ベルリン/オルドス(中国)IDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

土地の劣化は、世界で最も急を要する問題のひとつだ。世界の土地の3分の1は劣化している。しかし、中国のオルドス市で9月16日に開催された国連砂漠化対処条約(UNCCD)第13回締約国会議(COP13)で、113カ国が、土地劣化の流れをくいとめ、より多くの土地を回復するための、明確な指標を伴った具体的な目標を策定することに合意したことは、明るいニュースだ。

土地劣化に対処する新たな世界的ロードマップが合意された。UNCCDの「2018-30戦略枠組」は、劣化した広大な土地の生産性を回復し、13億人以上の生活を改善し、脆弱な立場にある人々への旱魃による悪影響を抑えるために、「土地の劣化の中立性(LDN:Land Degradation Neutrality)」の実現を目指す最も包括的な世界的コミットメントとみなされている。

「いくらか意見の対立もありましたが、UNCCDを前進させる大胆な措置がとられました。新たな戦略的枠組みと、報告サイクルができあがりましたし、『旱魃イニシアチブ』もあります。また、ジェンダーや能力構築、移住、砂嵐に関する基本的な決定もなされました。」と、UNCCDのモニーク・バルビュー事務局長は語った。

Monique Barbut/ UNCCD
Monique Barbut/ UNCCD

1994年に採択されたUNCCDは、環境と開発を持続可能な土地管理に結びつけた唯一の法的拘束力のある国際協定だ。195カ国が加盟した同条約は、乾地として知られる乾燥地、半乾燥地、乾燥した半湿潤地の問題にとりわけ対処するものだ。こうした場所では、最も脆弱な生態系と弱い立場に置かれている人々がみられる。

内モンゴル自治区オルドス市で9月6日から16日まで開催された会議では、国際社会が2015年9月に承認した持続可能な開発目標(SDGs)の履行を支える初のグローバルな民間部門基金の誕生を目にすることになった。「土地の劣化の中立性基金」(LDN基金)として知られるこの基金は、劣化した土地を回復させ、そこから環境、経済、社会面での利益が見込まれるプロジェクトに資金提供をするため官民の投資部門が連携した斬新な資金源となるだろう。

3億米ドルを当初の資金調達目標とするLDN基金は、社会的責任投資を行っている「ナティクシス・グローバル・アセット・マネジメント」の関連企業である「ミロヴァ」(Mirova)と、UNCCDの「グローバル・メカニズム」の協力で促進される。これとは別に運営される「技術支援ファシリティ」(TAF)が、プロジェクトの強力なポートフォリオを構築するために、将来性があり持続可能な土地活用に関して基金に助言を行う。

オルドス会議のもうひとつの注目点は、迅速な行動の重要性に焦点を当てた『グローバル土地概観』(GLO)と題する報告書の発表である。報告書は、世界の土地の2割がこの僅か20年で劣化したとしている。

「地球の天然資源の消費はこの30年で2倍に増え、地球上の土地の3分の1が今や深刻な劣化状態にある。毎年、150億本の木々と240億トンの肥沃な土地が失われている。土地を基盤とした資源に依存している小農や女性、先住民族が最も脆弱な立場に置かれている。しかも、彼らが広範なインフラや経済開発から排除されていることが、問題をより複雑にしている」とGLOは指摘している。

現在、13億人以上が農地の劣化に直面しており、食料や水、エネルギーといった死活的な生態系の恵みを求める争いが激しくなっている。GLOは、土地の生産性における近年の動向の分析と、2050年までの土地需要シナリオのモデリングを基礎にしている。また同報告書は、より効率的な計画と持続可能な実践を行うことによって、土地資源の状況を反転させる傾向が、如何にして、SDGsの多くを実現することを目指す取り組みを加速できるかについて概説している。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

UNCCDのバルビュー事務局長は、GLOの発表にあたって「土地劣化と旱魃はグローバルな問題であり、とりわけ食料安全保障や雇用、移住など、すべてとまでは言えないが人間の安全保障と福祉のほとんどの側面に密接にかかわっています。」と語った。

「質が良く生産的な土地の供給が先細りになり、人口が増加するなかで、国内でも世界的に見ても、土地をめぐる競争は激しさを増しており、競争が激しくなるにつれ、勝者と敗者が生まれる。」とバルビュー事務局長は語った。

「損失を最小化するために、GLOは、この圧力と競争を制御するために一歩引いて再考してみることが全ての人々の利益になると示唆しています。GLOは、土地を使用し管理する方法の変革というビジョンを提示しました。なぜなら、私たちすべてが意思決定者であり、ほんの小さなステップであっても、自身の選択が違いを生み出すことができるからです。」とバルビュー事務局長は強調した。

国連開発計画(UNDP)のアヒム・スタイナー事務局長は、UNCCDの新しい最重要刊行物の出版を歓迎して、「2.5億人以上が砂漠化の直接的な影響を受け、100カ国以上の約10億人が危険にさらされています。その多くが、世界で最も貧しく、最も脆弱な立場に置かれている人々です。『土地の劣化の中立性』を実現することで、水や食料安全保障を含め、地球上のすべての人々に、健康的で生産的な生活を与えることができます。GLOは、私たち一人一人が違いを生み出すことができることを示しており、次の版では、土地使用・管理の有効例をもっと多く知ることができたらと期待している。」と語った。

Achim Steiner/ UNDP
Achim Steiner/ UNDP

世界の土地資源の現在および将来の状態に関するこの画期的な出版は、関連する幅広い部門とテーマ領域から見た、土地が持つ複数の機能に関する初の深い分析となっている。例えば、食料・水・土地の関連性、土地使用の変化に影響を及ぼす「あまり明らかではない」原因、経済成長の性格、消費者の選択、世界的な貿易パターンなどについて、分析されている。重要なのは、土地の金銭的価値と社会経済的価値がますます分離しており、それがいかに貧困層に影響を与えているかを、この報告書が検討している点である。

GLOの第1版は、欧州委員会、韓国・スイス・オランダ各政府、UNDPなど数多くのパートナーからの支援を得て、ボンのUNCCD事務局によって出版された。

サミットで達成された前進を再確認するために、世界中の80カ国以上の閣僚が「オルドス宣言」を発して、地球の最も急を要する課題の一つである砂漠化にあらゆる面で対処する取り組みを強化するよう、諸国に求めた。

中国国家林業局の張建竜局長は、会議の閉幕にあたって、「オルドス宣言は、食料安全保障や民間部門、市民社会、若者に対する生態系の貢献を再確認しました。気候変動への対処や生物多様性の保護、食料安全保障への対処の重要性も指摘されています。」と語った。

張局長は、「会議は、地域のホットスポットに注目し、協力を強化するだろう。」と指摘したうえで、この地域のシルクロードに沿った能力開発を支援する「一帯一路協力メカニズム」を強調した。

会議ではまた、旱魃、砂嵐、移住という、土地劣化の加速に関連した3つの新しい問題に対処するための対策についても議論された。砂嵐は地球上の多数の人々の健康を危険にさらしており、会議開催地の中国でも大きな問題になっている。

Restration of desertified land in Huangyangtan, Xuanhua Countym Hebei Province, China/UNCCD
Restration of desertified land in Huangyangtan, Xuanhua Countym Hebei Province, China/UNCCD

バルビュー事務局長は、「同様に、旱魃の緩和も『新戦略』の下で初めて重点事項に加えられました。」と指摘したうえで、「今年アフリカを襲った旱魃で2000万以上の人々が飢餓の淵に追いやられている壊滅的な惨状を踏まえれば、脆弱性の評価とリスク緩和措置を促進するうえで、効果的な早期警戒システムを伴った各国ごとの旱魃対策は、極めて重要なものになるだろう。」と語った。(原文へ

翻訳:INPS Japan

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ミャンマーは「ロヒンギャ問題」の解決について、スリランカから学べるかもしれない

【シンガポールIDN=ジャヤスリ・プリヤラル】

ミャンマーにおけるロヒンギャ危機とバングラデシュへの難民流入がメディアを賑わせている。スリランカ人の一人として、私は、かつてのスリランカと現在のミャンマーで広がった「無国籍少数民族」を巻き込んだ2つの紛争の間にある類似性を指摘することができる。スリランカがかつてインドと共に危機を解決したアプローチは、ミャンマーが倣うべき枠組みとなるかもしれない。

スリランカが大英帝国から実質的な独立を獲得した1948年当時、この島国(=当時はセイロン自治領と呼ばれた)には、「インディアン・タミル」と呼ばれていた約100万人のタミル人が残された。もともとインドの最底辺カーストである「ダリット」出身の彼らは、大英帝国統治時代に、英国がシンハラ人農民から奪った土地に作った茶プランテーションの労働者として、インド南部から強制的に連れてこられた人々である。シンハラ人はプランテーションで働くことを拒絶していたのだ。こうして、タミル人の存在はシンハラ人にとって鼻持ちならないものになっていた。英国はこうして、インド国民でもスリランカ国民でもない「無国籍社会」を創り出したのである。

無国籍状態が続くと、経済的立場に関わりなく、心の中に絶望感と無力感が生じるものである。こうした状況から生まれる不確実性は、紛争に巻き込まれた人々に、計り知れない悲惨をもたらす。ミャンマー・バングラデシュ間の緊張状態にも見られるように、無国籍状態に置かれている人々の多くが貧しく、絶望的な状態に置かれている。

Displaced Rohingya people in Rakhine State/ Wikimedia Commons
Displaced Rohingya people in Rakhine State/ Wikimedia Commons

メディアは、ロヒンギャを狙った暴力に繋がったラカイン州でのあらゆる暴虐の背後にミャンマー国軍がいると報じている。ミャンマー政府は、「彼らは『アラカン・ロヒンギャ救世軍』(ARSA)と呼ばれる急進派イスラム教徒であり、警察署を35カ所と、ミャンマー・バングラデシュ国境沿いにある軍の駐屯地1カ所を8月25日に攻撃した。」と主張することで反論している。この日には、コフィ・アナン元国連事務総長が委員長を務める「ラカイン問題検討諮問委員会」が中間報告を発表する予定になっていた。ミャンマー政府は、「国軍による断固たる取締は、あらゆる形態の暴力に晒され悲惨な状態に置かれているベンガル人(ミャンマー政府によるロヒンギャに対する呼称)を含む、ラカイン州に住む全ての市民を保護するために始められた。」と主張した。

メディアやロビー団体は、典型的な「民族浄化」が起こっているにも関わらず対策を取っていないとして、ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問を非難している。通常、「非難」と「批判」には次のような効果がある。つまり、問題を改めて浮き彫りにし、ニュースとしての価値を高めることで、人々の注目と共感が得られやすくなる。しかし、政策決定者は、感情的なアプローチと理性的なアプローチのバランスを取り、しばしば植民地時代に根っこを持つ問題への持続的な解決策を考えださなければならない。

Aung San Suu Kyi/ Foreign and Commonwealth Office - CC BY 2.0
Aung San Suu Kyi/ Foreign and Commonwealth Office – CC BY 2.0

『アラカン・ロヒンギャ救世軍』による襲撃が行われたタイミングを見ると、アナン報告書の発表が予定されていたほかにも、インドのナレンドラ・モディ首相のミャンマー訪問、国連での演説を前にしてミャンマーにおける人権侵害を防ぐ対応策を取っていないとしてスーチー国家顧問が国際的なメディア批判に晒されていた時期だった。スーチー国家顧問に対する批判勢力や人権ロビー団体は、スーチー国家顧問が(ミャンマー国軍に対する)圧力をかけず沈黙を保っているとして非難している。

旧宗主国が20世紀に作り出した悪名高い歴史的な分断線を3つ挙げることができよう。これらの地域では、宗主国が撒いた対立の種からテロが生まれ戦争につながった。そうした紛争がもたらした計り知れない人道的な苦しみは今日に至るまで続いている。これらの3つの分断線とは、(1)1947年8月15日のインドとパキスタンの分離、(2)1948年5月15日のアラブとユダヤの分断とイスラエル国家の誕生、(3)そして同じ年(1948年)のインドからのビルマの分離である。これが歴史だ。

これらの地政学的な決定が、数多くの分離主義的な闘争に道を開き、紛争線に囲まれた領域内に住む人々の間に、無国籍状態と所有感覚の欠如を生み出した。しばしば、神話的な信念や史実の歪曲が、分離を正当化するために持ち出された。分離主義的な動きは、対立を煽り、自由を求める闘争の大義を正当化するような意見を求め、問題解決に暴力を訴える集団を支持・支援してきた。

スリランカ(当時のセイロン)とミャンマー(当時のビルマ)は、英国が植民地期に作ったプランテーションで働く安い労働力として連れてこられた契約労働者たちに市民権を付与するという難題に直面しなければならなかった。

契約労働者らは、宗主国がかつての「奴隷貿易」に代わる方法として編み出したものであった。手続きは能率的なもので、労働者一家を「クーリー」と指定し、英語の契約書にサインさせ、同意の拇印を押させるというものであった。契約書に何が書いてあるかは当人たちにはわからない。職は保証されるが、蒸気船に乗せられたときには行き先は教えられていない。

インド出身の彼らの多くにとって、その後故郷に戻れなくなり、遠い場所で無国籍の状態に置かれるとは思いもよらないことだった。サトウキビのプランテーションで働くために、カリブ海地域や、フィジーのような南太平洋の島々、近いところではビルマやセイロンに連れて行かれた。この契約労働者たちは、「C」で始まる2つの単語を英語の辞書に持ち込んだ。カレー(Curry)とクーリー(Coolies)である。幸いなことに、これら植民地プランテーション経済の多くで無国籍状態は解消されたが、社会経済や政治の面で影響力を求める少数民族と多数派民族との間の緊張は続いている。

Newly arrived coolies in Trinidad/ Public Domain
Newly arrived coolies in Trinidad/ Public Domain

スリランカの茶プランテーションで働くインド出身の契約労働者の無国籍状態は1964年に解消された。インドのラル・バハドゥール・シャストリ首相(当時)と、セイロン(現スリランカ)のシリマボ・バンダラナイケ首相との間の協定による。両国は、無国籍の市民を、本国への送還および市民権の付与という形で吸収することに合意したのである。1980年までに無国籍問題は完全に解決された。しかし、スリランカでは、プランテーションで社会の主流から取り残されてきた人々の生活の質向上に向けて、まだ多くの課題が残されている。

The Prime Minister of Bangladesh, Sheikh Hasina at Number 10, Downing Street, London, at a meeting with British Prime Minister David Cameron on January 27, 2011.

同様に、バングラデシュとミャンマーも1993年に協定を結んだが、バングラデシュはミャンマーの軍事独裁政権に手を焼いた。正当なロヒンギャの人びとをラカイン州に戻すことを示唆した、スーチー国家顧問の9月19日の発言は、歓迎すべきものだ。

同様に、ロヒンギャ難民を受け入れ、(ミャンマーのラカイン州に隣接する)コックスバザール県の暫定キャンプに厳しい状態の中で身を寄せている難民に支援の手を差し伸べているバングラデシュのシェイク・ハシナ首相の功績も、正当に評価されるべきだ。

したがって、国際機関は、バングラデシュとミャンマー両政府に対して、かつてインドとセイロンが1964年の協定で行ったように、対話と議論を通じての問題解決を図るように強く働きかけていくべきだ。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

この問題が、仏教徒とイスラム教徒との間の宗教上の信条をめぐる対立だと歪めて解釈することで、いずれの側であってもテロ行為を支持する手段として暴力を正当化することは、きわめて害が大きいだろう。この問題は、無国籍状態と絶望が貧しい経済状態につながっている「人道」問題として捉える必要がある。例えば、多くのアフリカ諸国から欧州へ移民として逃れようとしている難民の窮状は、まさにその生きた事例だと言えよう。

事実関係に基づく原因と結果の関係を明らかにし、問題に対する正しい診断ができたとしても、これだけでは問題の半分を解決したにすぎない。バングラデシュとミャンマーで政権の座にある2人の女性には、それぞれの国における長期的な平和と繁栄に向けた理性的なアプローチでもって、創造的で革新的な解決策を導く能力がある。今日必要なことは、民族や宗教の違いに基づく差別を煽り立てるような感情的な行動やそれに対する応酬が拡大していかないような環境を創出していくことだ。(原文へ

※著者は、UNIグローバル・ユニオン・アジア太平洋支部(シンガポール)財務・専門・管理グループの地域責任者。

翻訳=INPS Japan

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アフリカでは安全な水道水は未だに贅沢品

【ムウェネジ(ジンバブエ)IDN=ジェフリー・モヨ】

ラヴィロ・チャウルカさんは、小川の畔にある井戸から砂を掻き出していた。ジンバブエ・マスビンゴ州ムウェネジ地区にあるルテンガ村(ハラレから西に443キロ)の自宅に近い場所である。

72歳になるチャウルカさんだが、「水汲みの作業は片時も休めない。」という。自宅近くの井戸の水は砂の堆積層に埋もれており、水にありつくには必死で砂を掻き出さなければならないからだ。多くのアフリカ諸国が旧宗主国から独立して既に数十年が経過するが、チャウルカさんを含む数百万のアフリカ諸国の人々にとって、水道水は依然として贅沢品のままである。ちなみにチャウルカが暮らすジンバブエの場合、独立してから37年が経過した。

ジンバブエ国立統計局によると、チャウルカさんのように、人口1400万のジンバブエ人のうち65%は農村地帯に住んでいる。まずもって水道不在の犠牲になるのは、こうした人々だ。

チャウルカさんはIDNの取材に対して、「物心ついたころからここに住んでいますが、川や小川、井戸から日々の水を採ってくるのが、ここの習わしです。この辺りには深い井戸はありません。水道水がどんなものか、見当もつきません。」と語った。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが4年前に出した報告書『水にまつわる悩み:ジンバブエの首都における破裂する水道管、汚染される井戸、屋外での排便』によると、ジンバブエの人々は飲用水や衛生サービスの恩恵をほとんど受けることができず、しばしば、下水で汚染された、浅く、保護されていない井戸から飲み水を取り、屋外で排泄している。このような現状にもかかわらず、ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2010年ですら、ジンバブエは、水と衛生への権利を確立する国連総会決議に賛成票を投じている。

チャウルカさんのような多くのジンバブエ国民が見舞われている状況から、モザンビーク・テート州のアルマンド・シノリタ(56)さんも逃れることができていない。

シノリタさんはIDNの取材に対して、「この地区には深い井戸がないので、使える水を見つけるのにいつも苦労しています。かつては、遠くにこの辺りで唯一の深井戸がありましたが、10年前に壊れたため、それ以来、井戸や小川に水を取りに行くようになっています。」と語った。

SDG Goal No. 6
SDG Goal No. 6

シノリタさんはまた、「しかし、川や井戸、小川が枯れた後にはいつも苦しい時期を過ごすことになります。」と語った。国連の持続可能な開発目標(SDGs)第6目標は、「すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」と掲げているが、シノリタさんのような多くのアフリカ住民にとって、水道水は依然として贅沢品のままの状態だ。しかも、モザンビークの辺鄙な場所では、状況はさらに厳しい。

東部アフリカ、南部アフリカ、西部アフリカですら、保護されていない水源から何とか水を取ってこようとする多くの人々にとって、水道水は依然として珍しい存在である。

人口4700万人のケニアでは、状況はさらに深刻だ。人口の37%が依然として、池や浅い井戸、川のような、改善されていない水源を利用している。また、7割の人が改善されていない衛生手段を用いている。「水道規制委員会」によるケニア水道サービス部門の2013/14年のレビューによると、町の住民のうちわずか53%しか清潔な水道水を利用できていない。この報告書によると、ケニアの約3400万人の農村人口のうち51%が、清潔な水道水を利用できていない。

開発専門家らによると、ジンバブエの隣国でアフリカの経済大国とみられている南アフリカ共和国(南ア)においても、SDGs第6目標に関しては、進捗状況は比較的遅いという。

A view of a small waterway in the Kibera Slum. Nairobi Kenya. The shanty town is on both sides of the polluted stream. A bridge connects the two sides. Trash collects in the stream./ Colin Crowley - Flickr: kibera_photoshow03, CC BY 2.0
A view of a small waterway in the Kibera Slum. Nairobi Kenya. The shanty town is on both sides of the polluted stream. A bridge connects the two sides. Trash collects in the stream./ Colin Crowley – Flickr: kibera_photoshow03, CC BY 2.0

南アの首都プレトリアで活動する独立の開発専門家ニコシラティ・マプレ氏は、「アフリカ諸国は、2030年までに全ての人に水へのアクセスを確保するという困難な目標(SDGs第6目標)に直面しているが、南アも例外ではない。たしかに、南アでは水利用は増えてきているが、インフラ整備が追い付いていない。結果として、この国の多くの地区、特に貧しい農村地帯では、1994年にこの国が独立を達成してから何年も経つというのに、依然として水道管に水が流れていない状況にあります。」と語った。

ガーナでは、300万人近く(人口の約11%)が日常の水の需要を満たすために地表の水源に頼っており、水に関連した病気に対して脆弱な立場に置かれている。人口の85%は、改善された衛生施設が使えないか、または、トイレを全く利用できない状態にある(ガーナの人口は2900万人)。

SDGsの達成期限年まで13年を残すところだが、「アフリカの角」に位置するエチオピアアフリカにおける経済規模8位)ですら、サブサハラ地域のなかで水供給と衛生が最悪の状況にある、と人権活動家らは指摘した。

エチオピアの人権活動家ヘルメラ・ムルゲタ氏は、IDNの取材に対して、「ドナーからの資金提供によってアクセスは大幅に改善しましたが、SDGs第6目標を達成するには依然として為すべきことが山ほどあります。ガーナ政府は、2001年に水問題に関連して、より分権的意思決定を旨とする水・衛生戦略を採択しましたが、依然として厳しい状況です。」と語った。

Map of Congo
Map of Congo

国連によれば、コンゴ民主共和国(DRC)の状況はさらに厳しい。国連環境計画調査報告書によると、6年前、DRCにはアフリカの水源の半分があるにもかかわらず、同国の人口の4分の3にあたる推定5100万人が、安全な飲み水を入手できない状況に置かれていた。

駐ジンバブエ・DRC大使館のある外交官は、職務上メディアに話すことはできないとして匿名を条件に、「長年にわたる戦争の負の遺産、それに加えて、環境の悪化、水インフラへの投資不足が、飲み水へのアクセス環境に大きな悪影響を及ぼしてきたのです。」と語った。

2015年9月に国連で193加盟国によって採択され、2030年に向けて国際社会における開発の取り組みを導くことになる17項目の持続可能な開発目標(SDGs)のなかに、水と衛生も含まれている。

国連総会のピーター・トムソン議長が、「世界水週間」の開始にあたってストックホルムで行われた8月28日の特別イベントで指摘したように、気候変動の影響を軽減するパリ協定と合わせて、SDGsは「手遅れになる前に、地球上で持続可能な生活様式を確立するために人類が手にしている最善の機会」である。(原文へ

SDGs for All Logo
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翻訳=INPS Japan

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核兵器禁止に向けた大きな節目となる国連条約が署名開放さる(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表、パグウォッシュ会議議長)

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【国連IDN=セルジオ・ドゥアルテ】

ニューヨーク国連本部で9月20日に始まった核兵器禁止条約の署名開放は、人間が発明した史上最も破壊的で残酷な兵器を廃絶するために国際社会が取組んできた長い歴史において、一里塚となるものだ。

条約交渉が、市民社会組織からの力強い支持を得て粘り強く取り組まれてきた背景には、「核兵器のない世界」を実現し維持するために必要な規範的枠組みの中で、核兵器の禁止が不可欠な要素であるとの認識が世界的に強まってきた現実がある。それは、核軍縮に関する具体的な進展が長らく見られないことに対する不満や、核兵器がもたらす人道被害に対する考慮から生じた、性急あるいは軽率な動きではない。むしろ、人類が長らく抱えてきた熱望に対応するものだ。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

第一次世界大戦の後に結ばれた化学兵器に関する最初の合意の背景にあったものは、人道的な懸念であった。この戦争手段を完全に違法化する多国間プロセスには、数十年を要した。つまり、細菌(生物)兵器が違法化されたのは1970年代で、化学兵器禁止条約が発効したのは1990年代のことであった。

核兵器の禁止・廃絶についてはどうかというと、1946年以来長らく、国連において国際的論議の対象となってきた。しかし、残念なことに、完全に満足のいく形の解決には至っていない。国連第一回総会の第一号決議は、とりわけ、「国家の兵器庫から原子爆弾の除去計画案」を立案するための国連原子力委員会の創設を決定するものだった。

しかし委員会の努力も、当時の米ソ二大超大国間の角逐と不信によって進展が妨げられ、数年後に放棄された。それ以来、数多くの部分的な措置が協議されてきたが、いずれも核兵器の拡散予防に関するものであった。また一方で、核兵器廃絶に関する、不可逆で法的拘束力がある多国間合意の締結は、きわめて見通しが暗いものとなった。推計によると、世界には1万5000発以上の核兵器が9カ国によって保有されており、そのうち1万3800発が米ロ両国に保有されている。

核兵器廃絶を追求する取り組みは数十年に亘って続けられてきた。中でも注目に値する提案は、コスタリカとマレーシアによるモデル核兵器禁止条約(1997年。2007年に改定)である。潘基文前国連事務総長は、2008年にこの案文をベースに核兵器禁止条約の締結を呼びかける「核軍縮5項目提案」を打ち出している。核兵器を廃絶する必要性については、全ての国家が合意しており、核不拡散条約(NPT)やその他多くの国際協定においても認識されている目的である。

核兵器の保有国とその同盟国のほとんどは、これまでのところ、禁止条約に対して否定的な見方を示してきた。しかし、新しい取り決めは、他の措置と切り離した形で核兵器の禁止を追求しようというのではない。また、核兵器廃絶につながる行動において、世界の安全保障環境を無視しようというのでもない。

国際社会が深刻な安全保障上の諸問題に直面していることについて異論を唱える者はいない。ちなみに、そうした問題の多くは、事実、核兵器の存在そのものに起因しているものだ。核兵器保有国が、早期の段階で禁止交渉プロセスに関与・参加していれば、これらの国々にとって圧倒的に重要であると思える安全保障上の諸懸念について取り上げ、説明することができたはずだ。

現実的な(核軍縮)協議をする条件が現段階で存在しないという主張は、無期限の現状維持を正当化する方便として使われてきた。しかし、何がそうした条件にあたるのかは、明確にされてこなかった。従って、(もし交渉会議において)こうした見解を持つ国々とのオープンな議論ができていたならば、相互の利益に関する多くの点を明確にするうえで有益だっただろう。

交渉会議に向けられたもう一つの反対論は、それがコンセンサスを基盤としたものではなく、核兵器保有国と非保有国の間の亀裂を深める危険がある、というものだった。しかしそうした亀裂は、そもそも世界を2つの国家集団(=核兵器保有が認められる5カ国と保有が認められないその他の国々)に分割したNPT体制の基本的な特徴である。

禁止条約は、国際法上の対世的(=国際社会全体に対して負う)義務の適用を意図したものであり、2つの国家集団の間の溝を埋めることを目的としたものだ。NPTの信頼性と効果は、第6条(=核保有国の核軍縮義務)の履行を呼びかけたからではなく、むしろ核兵器保有国がその義務を履行していないと認識されることによって、損なわれてきた。第6条に盛り込まれた義務は、国際司法裁判所(ICJ)による1996年の勧告的意見によって明確に示されている。ICJは、核軍縮の実現に向けた協議に誠実に関わることを加盟国に要求しただけではなく、それを実際に妥結させることも求めた。

ICAN
ICAN

核兵器が登場してから70年余、NPTが発効してから47年、核兵器保有国によるこれまでの言動は、軍縮義務の履行を無期限に先延ばしするものに過ぎなかった。

国連総会は、9月26日を「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」と定めた。今年のこの日のイベントは、核兵器禁止条約の署名開放直後ということになる。国連総会はまた、核兵器廃絶に向けた進展状況を評価するために、遅くとも2018年までに核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合を招集することを決定している。

近年の国連総会ハイレベル会合は、気候変動に関するものや、海洋、移民に関するものなど、大きな成功を収めてきている。諸国は、市民社会組織からの積極的参加を得て、核不拡散や軍縮に関する議論に新たな推進力を与え、この分野で具体的進展をもたらすことを目的としたプロセスに参加する機会を利用しなくてはならない。諸国には、核兵器禁止条約という最新の取り決めを、無益だとか逆効果だとか言って否定するのではなく、世界から核兵器をなくすという共通の目的に向けた効果的なツールとしてこれが使われるように努力することが期待されている。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、国連軍縮問題担当上級代表(2007~12)。核不拡散条約締約国第7回運用討会議(2005年)議長。キャリア外交官としてブラジル外務省に48年間勤務。オーストリア、クロアチア、スロバキア及びスロベニア、中国、カナダ、ニカラグアでブラジル大使を務める。また、スイス、米国、アルゼンチン、ローマにも駐在した。8月末からは「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」議長。

国連条約の署名は、核兵器なき世界に向けた重要なステップ

【国連IDN=シャンタ・ロイ】

国連で7月7日に採択された画期的な核兵器禁止条約に50カ国以上が署名し、国際社会は「核兵器なき世界」に向けた最初の重要な一歩を踏み出した。

第72回国連総会にあわせて9月20日に開かれた署名式は、122カ国の圧倒的多数の賛成を得て(反対はオランダ1カ国、棄権はシンガポール1カ国のみ)採択された核兵器禁止条約に署名国として加わる国がますます増えることが見込まれる中、継続する見通しだ。

Antonio Guterres/ DFID - UK Department for International Development - CC BY-SA 2.0
Antonio Guterres/ DFID – UK Department for International Development – CC BY-SA 2.0

米国と北朝鮮という2つの核兵器国による軍事対立の可能性(しかもそれは核の脅威によって引き起こされたものでもある)が取りざたされる中、この条約の重要性は増してきた。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は署名式で演説し、「この20年以上で初の多国間軍縮条約となるこの歴史的な条約の署名開放に立ち会うことができて光栄だ。」と語った。

「『英雄的な』広島・長崎原爆の生存者(ヒバクシャ)たちは、核兵器による破壊的な人道被害を思い起こさせてくれている。」とグテーレス事務総長は語った。

「核兵器禁止条約は核兵器なき世界という世界目標に向けた重要な一歩です。この条約が、目標実現に向けた世界的な努力を再活性化することを期待しています。」とグテーレス事務総長は続けた。

「依然として約1万5000発の核兵器が存在しています。人類を絶滅させるこの兵器によって、私たちの世界と子どもたちの将来を危機に陥れるわけにはいきません。」とグテーレス事務総長は宣言した。

核兵器禁止条約は、核兵器の使用、使用の威嚇、開発、実験、生産、製造、取得、所有、貯蔵、移転、受領、配置・設置・配備を明確に違法化するものだ。また、締約国が、核兵器開発への資金提供といった禁止行為を含め、支援を提供することも禁止している。

核兵器禁止条約は、50カ国以上が批准書、受諾書、承認書または加入書を寄託した後、90日後に発効する。

しかし、世界の9つの核兵器国(米国・英国・フランス・ロシア・中国に加え、インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮)は条約交渉会議に参加せず、署名・批准を約束していない。

Photo: SGI president Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

東京を本拠にした仏教系NGOで、核兵器なき世界を求める運動を絶えず推進してきた創価学会インタナショナル(SGI)池田大作会長は、「禁止条約では、核保有国や核依存国の状況を踏まえた制度設計がなされている。」と語った。

さらに池田会長は、「つまり、『加盟前の核兵器全廃』を必ずしも前提とせず、『核兵器配備の解除と廃棄計画の提出』をもって条約に加わる道も開かれているのだ。」と述べた。

池田博士はまた、「核兵器の問題は、一国の安全保障の観点からのみ判断され続けて良いものでは決してない。人類全体の平和と世界の民衆の『生存の権利』に軸足を置き、『21世紀の新たな安全保障のパラダイム』を見いだす努力を傾ける中で、廃絶への道を共同作業として開かねばならない。」と論じた。

「問題の本質は、核保有国と非核保有国との対立にあるのではなく、『核兵器の脅威』と『人類の生存の権利』の対立にこそあるのだ。」と池田会長は訴えた。

ロスアラモス研究グループ」の代表であり、核政策の専門家であるグレッグ・メロ氏は、「国連が核兵器の禁止を交渉する任務(マンデート)を付与するというのは、非核兵器国が牽引したプロセスだが、前例のないものだった。冷戦終結以来、核軍縮における最も重要な進展だったと思う。」と述べ、核兵器禁止条約の署名式を軍縮問題における最高潮の瞬間と評した。

核時代平和財団のニューヨーク支部長であり、「ワールド・ビヨンド・ウォー」調整委員会の委員でもあるアリス・スレーター氏はIDNの取材に対して、「9つの核兵器国、オランダを除く北大西洋条約機構(NATO)諸国、太平洋における米国の同盟国である日本・オーストラリア・韓国は交渉会議には参加していなかったものの、署名開放式に対する好意的な反応を見れば、条約発効に必要な50カ国による批准手続きの完了は比較的早期に、うまくいけば来年中にも達成されるのではないか。」と語った。

核兵器を「絶対悪」とみなす動きは、いわゆる「核の傘」に依存している国々においても始まっている。これらの国々は、核軍縮を支持するという偽善的な態度を取る一方で、自らの防衛のために壊滅的な核の惨禍を招く米国による保護を頼りとしている。

核兵器禁止条約署名後にドイツの(米国が核兵器を配備している)ブエッヘル空軍基地で行われた一連の反核行動は、このNATO加盟国でも議論を引きおこしている。野党社会民主党の党首で、今年のドイツ連邦議会選挙で首相候補となったマルティン・シュルツ氏は、米核兵器の撤去を呼びかけた。

スレイター氏は、多くのNATO加盟国や世界各地の核兵器国においても、禁止条約署名への圧力を政府にかけるデモが起こっており、民衆は、核兵器国や核共有国において(核兵器製造に関与している企業からの)投資引き揚げキャンペーンを展開している、と語った。

ピース・アクション」「ピース・アクション教育財団」のケビン・マーチン代表は、ロナルド・トランプ大統領の北朝鮮に対する威嚇について、「北朝鮮は人口2500万人の国です。たしかに北朝鮮の体制はおぞましいものですが、トランプ大統領は、国全体を破壊すると脅して、火に油を注ぐようなことをしています。こうした威嚇は、国連のミッションそのものと矛盾します。また、イランとの多国間核合意を反故にするという(トランプ大統領の)威嚇もまた、危険で無責任なものです。挑発的な言葉ではなく外交こそが、北朝鮮核危機を解決するために必要なものです。」と語った。

マーチン代表はまた、核兵器禁止条約に賛成した122カ国は、核戦争になりかねない地域戦争を煽るよりも『核兵器なき世界』に向かう必要性を理解している、と指摘した。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)ベアトリス・フィン代表は、核兵器は、巨大な破壊力と備え、人類の脅威となっているにも関わらず、この数十年にわたって禁止されてこなかった唯一の大量破壊兵器であり、核武装国は依然として、諸都市と多数の民間人を消し去るために核兵器を使用すると威嚇しつづけている、と語った。

フィン代表はまた、核兵器禁止条約に署名した国々は、核兵器を違法化することによって、「核兵器なき世界」へのコミットメントを証明することになるだろう、と語った。

批准プロセスと、世界の核保有国が参加していない核兵器禁止条約の効果について、元国連条約局長のパリサ・コホナ博士はIDNの取材に対し、批准は署名のあとに行われねばならず、手続きに一定の時間を必要とすることになる、と語った。

コホナ博士はまた、「その期間を逃した国々でも加盟することは可能だし、条約で認められていれば、承認することもできる。条約そのものが示した手続きに従うことが重要だ。」と説明した。

各国の批准の仕方は、通常は、国内手続の規定に従うことになる、とコホナ博士は指摘した。条約を批准するために、内閣の承認だけでも十分な国もあれば、とりわけ関連法が制定されたり改正されたりする場合は、立法府の承認が必要な国もある。

米国では、批准前に上院が条約を承認しなくてはならない。米国は、海洋法条約包括的核実験禁止条約(CTBT)に関して、大々的に宣伝して署名したにも関わらず、上院の承認を得られず、未だに批准していない。

ウィーン条約法条約に規定されているように、批准された条約は国内で履行されなくてはならないという国際的な法的義務が存在する。

条約の加盟国が義務に違反した場合、条約に規定されている報復措置も含めて、他の加盟国が適切な行動をとることができる。一般的に言って、諸国はその条約義務に従うものだ。条約の義務に違反している国だとレッテルを張られることをどの国も好まない、とスリランカの元国連大使でもあるコホナ博士は語った。

コホナ博士は、核兵器禁止条約の将来について問われ「見通しは明るいものではない」と語った。同条約を効果的なものにするためには、核保有国が加盟国にならなくてはならない。「しかし、この条約は核保有国に対して、国際社会は条約があろうとなかろうと『核兵器なき世界』を望んでいるとの明確なメッセージを送っています。」と、ケンブリッジ大学で国際商取引法に関する博士号を取得した国際法の権威であるコホナ博士は語った。

「いつの日かこの希望を実現する時が来るかもしれない。米ソ間の核攻撃の前後を描いたフィクションである1983年の米TVドラマ『ザ・デイ・アフター』のような状況になる前に、その日が訪れることを期待しよう。」とコホナ博士は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ニューヨーク/ウランバートルIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国際連合安全保障理事会(安保理)は、これまでで最大規模の核実験(通算6回目)に踏み切った朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)に対して、全会一致で制裁強化に合意する一方、6か国協議の再開を呼びかけた。

中国・北朝鮮・日本・韓国・ロシア・米国による多国間協議を訴えることで、15カ国から成る安保理は「朝鮮半島情勢に対する、平和的、外交的、政治的解決へのコミットメント」を表明した。

この問題はまた、ニューヨークから1万150キロも離れたウランバートルで8月31日から9月1日に開催された「核軍縮問題に関する国際会議:グローバル及び地域の側面」でも注目を集めた。ウランバートルは、南を中国、北をロシアと接しているモンゴルの首都である。

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会議は、モンゴルのジャルガルサイハン・エンクサイハン元国連大使が事務局長を務めるNGO「ブルーバナー(青旗)」が、モンゴルが一国非核兵器地位を宣言してから25周年を記念して主催したものである。

冷戦期の教訓を念頭に置きながら、モンゴルのポンサルマーギーン・オチルバト大統領は1992年9月、国連総会において同国を非核兵器地帯にすることを宣言し、その地位を国際的に保証してもらうことを訴えた。

この提案の目的は、モンゴルが領内に核兵器を保有しておらず、したがって非核の状態にあることを世界に対して明確に宣言することにあった。そうすることによって、冷戦期とは異なり、モンゴルから近い国も遠い国も、同国内に核兵器を置くことが認められず、5つの核兵器国(安保理常任理事国の五大国である中国、ロシア連邦〔当時はソ連〕、米国、英国、フランス)から安全保証を得ようと試みるものだった。

非核地位に対する国際的な承認を得ようとのモンゴルの取り組みは、1998年12月4日、国連総会決議53/77Dという形で結実することになる。これは、モンゴルの目標を歓迎し、次回会合の議題としてこれを取り上げることを決めたものだ。

Dr. Jargalsaikhany Enkhsaikhan.
Dr. Jargalsaikhany Enkhsaikhan.

2000年2月28日、モンゴルのエンクサイハン国連大使は、モンゴルの非核法を概説した書簡を提出し、A/55/56S/2000/160として配布した。こうして、モンゴルの非核地位に対する国際的承認は完成した。

ウランバートル会議では、一国非核地位をモンゴルの安全保障を確保する重要な国家的措置だとする声明を採択した。「それはまた、生まれつつある核兵器なき世界におけるグレーゾーンを埋める斬新な国際的措置でもある。」と声明は述べた。

声明はまた、「今日、モンゴルは、政治的・外交的手段を通じて、主権国家間の平等、相互尊重、共通の目的に向けた協働の原則に基づく粘り強い対話と協議を通じて、平和と地域の安定を強化する非核兵器地位を促進する積極的な政策を進めており、これに対する国際的承認と協力を享受している。」と述べている。

安保理の常任理事国でもある五大核兵器国(P5:中国・ロシア・米国・英国・フランス)は2012年、モンゴルの非核地位を尊重し、それに違反するような如何なる行為も行わないことを約束した共同声明を発している。

「この約束は、通信、監視、情報収集、兵器の訓練やその他の目的を含め、核兵器システムのためにP5がモンゴルの領土を利用しないということを意味する。」と声明は強調した。

北東アジアのみならず米国や欧州からも集まった参加者らは、モンゴルの非核兵器地位を東アジアの安全保障枠組みの有機的な一部分にしようとの政策や、北東アジア非核兵器地帯の確立という目標を促進するうえで自国の経験を積極的に共有しようとする政策に対して、支持を表明した。

会議は一般公開され、日本の立命館大学で政治学を学ぶ学生らも、とりわけ核軍縮における個別国家の役割に関するセッションに参加した。日本は米国の「核の傘」の下にあるため、7月7日に採択された核兵器禁止条約の交渉会議からは距離を取っていた。

声明は「モンゴルは、核兵器なき世界という共通の目標を推進するうえで、個々の国家による努力が重要であることを示した。一国非核地位は、他の国々にとって、対話と革新的なアプローチを通じて共通の課題に対処するよき先例となっただけでなく、地理的な位置や政治的な理由によって既存の(地域)非核兵器地帯に加入できていない国々にとっても、創造的思考を鼓舞するものとなっている。」と指摘している。

エンクサイハン元国連大使は、この会議は「核兵器なき世界の実現という共通の目標に向かって共同で進むための効果的な戦略を促すこと」を目的としたものだと語った。

Nuclear Weapon Free Zones
Nuclear Weapon Free Zones

こうした戦略とは例えば、国連核兵器禁止条約の採択や、それが核軍縮協議に与えうる影響である。これは、次の論理的かつ実践的なステップであり、非核兵器国の重要な役割になるだろう。「(今回の会議では)イランや北朝鮮のケースが核不拡散条約(NPT)や核不拡散体制一般に与えうる影響に関する興味深い議論もありました。」とエンクサイハン元国連大使は語った。

会議の参加者らは、地域レベルに関する協議では、北朝鮮の核兵器問題にどう対処すべきかについて諸見解を共有した。多くの参加者が、米朝が無条件に直接協議に進む必要性を強調した。これは、緊張状態を緩和し、武力行使やその威嚇を排除することを視野に入れたものだ。

一部の参加者は、6カ国協議当事者間の関係を念頭に、核安全保障問題で積極的な外交政策を展開してきた経験を持つ小国としてモンゴルの参加を得て、ウランバートルで新たな交渉の枠組みを試みてみる価値はある、と提案した。また、北朝鮮を巡る現在の状況下では、モンゴルが積極的な役割を果たしうるとの提案もなされた。

Map of Mongolia
Map of Mongolia

会議が採択した声明は、冷戦は20年以上前に終結したが、平和の配当は高い期待に見合うものではなかったと指摘して、モンゴルの役割の重要性を強調した。

声明が指摘するように、国際社会は、核兵器システムが継続的に近代化されている現状を警戒している。核兵器を保有する国の数は、(NPTが採択された当時の5カ国から9カ国へと)ほぼ2倍になった。各種新型の核兵器の開発と通常兵器の進化は、両者の境界を曖昧にしているほか、戦略核兵器と非戦略核兵器の境界も曖昧にしている。

核兵器をさまざまな爆発力に「調整」し、その使用のしきいを下げる可能性は、核兵器をより「使用可能」なものにしてしまっている。「この状況では、核兵器の使用や使用の威嚇に対する唯一の効果的な保証となり、『ノーモアヒバクシャ(=これ以上被爆者をださない状況)』を確実にするものは、核兵器の完全なる廃絶のみである。」と声明は強調した。

さらに声明は、「核兵器が存在する限り、意図的であれ、偶発的であれ、あるいは他の理由であれ、核兵器が爆発すれば、人類の生存そのものが脅かされ、地球規模の保健や食料安全保障が危機に陥り、世界の気候も深刻な悪影響を受けることになる。核兵器保有国には、自国の核戦力を解体する直接的かつ究極の責任がある。」と指摘している。

「しかし、核が廃絶されるまでの間、7月の核兵器禁止条約採択に見られるように、非核兵器国にも果たすべき重要な役割がある。」と会議参加者らは語った。

「非核兵器地帯の確立は核軍縮に向けた効果的な地域的措置となる。関連する地域で核兵器を禁止することによって、平和と安定の促進というNPT上の約束を超えて、地域の信頼と安定の強化に資することができる」とウランバートル会議の声明は続けている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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国連専門家パネル、北朝鮮制裁の効果に懐疑的

1発の銃弾も撃つことなく存続するイラン核合意

国連専門家パネル、北朝鮮制裁の効果に懐疑的

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ

国連安全保障理事会(安保理)は、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)に対する従来で最も厳しい制裁措置に全会一致で合意する6日前、これまでの制裁措置の履行について明るい見通しとは程遠い内容の報告書を受け取っていた。

この報告書は、国連安保理北朝鮮制裁委員会の専門家パネル(国連専門家パネル)が9月5日に安保理に提出したものである。報告書は、「制裁措置は厳格に履行されておらず、北朝鮮による制裁回避もますます巧妙になっており、同国の大量破壊兵器を廃棄し全ての関連する事業・活動を停止するよう求める国連安保理決議の目標は損なわれている。」と指摘している。

さらに報告書は、「安保理に対して、(北朝鮮)制裁の履行状況に関する報告書を提出する国連加盟国の数は増えてきているが、実際の履行状況は、非核化という核心的な目標の実現に必要とされるレベルにははるかに届いていない。」と述べている。

こうした記述は、国連専門家パネルによる今年2月の報告書に記載された次の内容と軌を一にしている。「核・弾道ミサイル実験を前例のない頻度で行っている北朝鮮は、大量破壊兵器の能力において技術的な一里塚に到達しようとしている。全ての状況から勘案すると、このペースは今後も継続されるだろう。」また同報告書は、「非核化と事態の平和的解決という、決議に示された目標の実現は、ますます遠のきつつある。」と予測している。

国連専門家パネルの最新報告書は、「北朝鮮は、国連史上最も包括的で対象を絞った制裁措置に抵抗して、大量破壊兵器における重大な技術的進展を遂げつつある。」と指摘している。

報告書はさらに、「決議2270(2016)と2321(2016)の採択につながった2016年の2回の核実験に続き、北朝鮮は弾道ミサイル実験をかなり加速している。「2回の大陸間弾道ミサイルの発射も含め、2017年に14回も発射している」と指摘している。

Azimuthal equidistant projection of estimated maximum range of some North Korean missiles/ North-korean-missile-ranges.svg: TUBSderivative work: Cmglee:, CC BY-SA 3.0
Azimuthal equidistant projection of estimated maximum range of some North Korean missiles/ North-korean-missile-ranges.svg: TUBSderivative work: Cmglee:, CC BY-SA 3.0

国連専門家パネルは、2017年に北朝鮮は「新型弾道ミサイルシステム」の実験を行って、「システムや射程を多様化し、発表から実際の新型ミサイル実験までの所要時間を短縮する点で、相当の進展をみせている。」と述べ、さらに、「北朝鮮は、寧辺(ヨンビョン)で兵器級核分裂性物質を生産し、(北朝鮮の唯一の既知の核実験場である)豊渓里(プンゲリ)の建設・維持を通じて、禁止された核活動を継続しているとみられる。」と指摘している。

国連専門家パネルによると、北朝鮮は安保理決議で禁止されたほぼ全ての品目の輸出を通じて、武器禁輸や強力な金融・部門制裁を回避し続けており、2017年2月2日から8月5日の間に少なくとも2.7億ドルの収入をあげている。「制裁措置が拡大するにつれ、回避の幅も広がっている。」と同専門家パネルは指摘している。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のヒュー・グリフィス(英国出身)氏が座長を務める国連専門家パネルのメンバーは、ブノワ・カンギレム氏、ドミトリ・キク氏、ステファニー・クライネ=アルブラント氏、キム・ヨンワン氏、竹内麻衣子氏、ニール・ワッツ氏、ゾン・ジアフ氏である。

国連パネルの最新報告書は、「北朝鮮は、政府機関に代わって金融取引を実行するエージェントを諸外国に配置することで金融制裁に違反し続けている。」「数多くの加盟国の金融機関が、故意に或いは無意識に、禁止行為に関与する北朝鮮のフロント企業や個人に銀行サービスを提供している。」と指摘している。

さらに、外国企業は、決議に違反して、子会社や合弁企業として設立された北朝鮮の金融機関とのつながりを維持している。「北朝鮮の外交官が関与した商業活動や大使館資産を貸出することで相当の収入を生み出しているが、複数の詐欺的な金融慣行に支えられたものである。」と報告書は指摘している。

国連専門家パネルが言及した国々は、ブルガリア、ドイツ、ポーランド、ルーマニアである。ただし報告書は、「ドイツについては、北朝鮮の外交官がそのような行為を行うことを止めるための必要措置を講じている。」と指摘している。

国連専門家パネルは、「多くのアジア諸国等において、決議に効果を与える適切な国内法や規制の枠組みが存在しないために、こうした違法な金融活動がはびこることになる。」と指摘している。

一つの例として、中国が2017年2月に北朝鮮からの石炭輸入を停止した際、北朝鮮は石炭の行き先をマレーシアやベトナムなどの国連加盟国に変更し、第三国経由で石炭を輸出していた。パネルの調査によると、北朝鮮は禁止品目の輸出のために間接的なルートを慎重に使い、制裁を回避していた。

「国連加盟国が、外国船籍になっている北朝鮮の船舶数を減らす措置を採る中、北朝鮮は海洋局が中心となり、これを回避する戦略にしのぎをけずっている。」このために、北朝鮮船籍の船が増えているが、その多くが、決議に違反して、形式的には外国企業によって保有もしくは運航されている。

国連専門家パネルは「地対空ミサイルシステムの取引などの禁止行為に関与する指定団体の代理で、あるいはその指示によって活動する北朝鮮国籍の人物が、アフリカあるいは中東、とりわけシリア・アラブ共和国に広く存在している」事態について調査を続けるとしている。

国連専門家パネルは、北朝鮮の金正恩最高指導者の発言からすると、核・弾道ミサイル開発は早いペースで続けられるだろうとみている。例えば金正恩氏は2017年の新年演説で「2016年、朝鮮民主主義人民共和国は核大国の地位を得た……初めての水爆実験や数多くの打撃手段の発射、核弾頭実験を行った。」、「大陸間弾道ミサイルの発射実験準備の最終段階に入った。」などと語っていた。

国連安保理は9月11日、国連専門家パネルからの示唆に明らかに反応する形で、北朝鮮への新たな制裁を科した。北朝鮮に液化天然ガスの販売と、繊維製品の輸出を禁じるとともに、加盟国に対して北朝鮮国民に労働許可を新たに付与することを禁止した。

安保理は、決議2375(2017)によって、北朝鮮の9月2日の核実験は決議に違反し「(決議を)甚だ無視したもの」であるとして最も強い表現で非難を行い、北朝鮮は、完全かつ検証可能、不可逆な方法で弾道ミサイル・核開発に関連したすべての行為を即時に停止すべきだと再確認した。

新たに課された制裁は、天然ガス液(天然ガソリン)や天然ガス副産物の軽質原油コンデンセートの北朝鮮への供給・販売・移転の禁止、織物や衣料など繊維製品の輸出の禁止である。

Photo: Security Council meeting on Maintenance of international peace and security, Nuclear non-proliferation and nuclear disarmament. Credit: UN Photo/Loey Felipe
Photo: Security Council meeting on Maintenance of international peace and security, Nuclear non-proliferation and nuclear disarmament. Credit: UN Photo/Loey Felipe

安保理はさらに、(ガソリンや軽油などの)石油精製品については輸入上限(10月1日から12月31日にかけての当初の3カ月間は50万バレル、2018年1月1日以降は年間200万バレル)を設け、この制限を超えて北朝鮮への直接的あるいは間接的な供給・販売・移転を行うことをすべての加盟国に禁じる決定を行った。

加えて、国連加盟国は、決議採択に先立つ12カ月分の実績を越えて、北朝鮮に対して原油を供給・販売・移転してはならないこととされた。

さらに安保理は、個人資産の凍結を1人分、移動禁止と資産凍結を3団体分に関して追加するなど、既存の制裁を強化する決定を行っている(これらについては附属書に記載されている。)(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【トロント/ワシントンDC・IDN=J・C・スレシュ】

効果的な軍備管理政策への一般の理解と支持促進に取り組んでいるワシントンのシンクタンク「軍備管理協会」(ACA)によると、「トランプ政権は、北朝鮮に対する『最大限の圧力と関与』という自らが示した政策を十分に実行できていない。」という。

ACAのダリル・キンボール会長は、9月3日に北朝鮮が行ったマグニチュード5.9~6.3の核爆発実験に関する声明の中で、「トランプ大統領は無責任な挑発と軍事力行使の威嚇を通じてリスクを大幅に悪化させました。これによって、核兵器は米軍の攻撃を抑止するために必要だという北朝鮮のプロパガンダに信憑性を与え、金正恩最高指導者が核計画を加速することになってしまった。」と語った。

Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri
Daryl Kimball/ photo by Katsuhiro Asagiri

キンボール会長はまた、「核爆発実験は東アジアにおける、より危険な時代の幕開けを意味します。」と指摘し、その理由として「TNT爆弾100キロトン相当を超える爆発力を持つとみられる今回の核実験は、北朝鮮が、中距離、或いは大陸間弾道ミサイルに搭載可能な、小型だが高出力の核爆発装置の実験に成功したことを強く示唆しているからです。」と語った。

さらにキンボール会長は、「システムの信頼性を確認するには、さらなる実験が必要かつ見込まれますが、北朝鮮は20年以上に及ぶ核開発を通じて、地域外の標的を危険にさらすことが可能な核打撃能力を手に入れました。この能力は、トランプ大統領が、北朝鮮がもし核・ミサイル能力の追求を続けるならば、『炎と怒り』に直面すると8月8日に脅したことを受けて、獲得されたものにほかなりません。」と語った。

キンボール会長は、「国際社会が、北朝鮮による核・ミサイル能力を追求する動きを押しとどめ反転させることができずにいるのは、2つの前米(ブッシュ、オバマ)政権や、これまでの中国・日本・韓国の各政府など、多くの主体が政策判断を誤ってきた結果です。」と指摘したうえで、「(北朝鮮)危機は現在、きわめて危険な局面に到達しています。米国と北朝鮮いずれかの誤算により、紛争に発展するリスクは、受け容れがたいほどに高くなっています。トランプ大統領とその顧問らは、軍事力行使の威嚇をかけようとする衝動を抑える必要があります。そんなことをしてもリスクを増幅するだけなのです。」と語った。

キンボー会長はさらに、「より健全で効率的なアプローチは、中国やロシア、その他の国連安保理理事国と協力して、経済制裁の圧力を強化すると同時に、緊張を緩和し、一層危うさを増す北朝鮮の核・ミサイル計画を止め最終的に反転させることを目的とした新たな外交チャンネルを開くことです。」と語った。

キンボール会長は、あらゆる主体が「状況をこれ以上悪化させないために、直ちに次のような行動をとるべきです。」と訴えた。

1.米政府は、アジアの同盟国、とりわけ日本と韓国と協議して、もし北朝鮮が両国に対して戦端を開くようなことがあれば、米国は(場合によっては中国やロシアも)両国を防衛するとの確証を与える必要がある。

2.米国は、韓国軍や日本の自衛隊と共同軍事演習を行っているが、米軍は、北朝鮮に対する先制攻撃を計画ないし開始すると示唆するような作戦を避けるべきだ。これは、北朝鮮側に誤算を引きおこす可能性がある。

3.韓国に米国製の戦術核兵器を再導入するとの提案は逆効果である。なぜなら、緊張を高め、核紛争のリスクを増すだけだ。

4.米国は国際社会と協力して、北朝鮮が自制の姿勢を見せないかぎり、違法な核・ミサイル活動を支援するような北朝鮮の活動や貿易に対する既存の国連制裁を通じて、国際的な圧力は継続されるとのシグナルを送らねばならない。北朝鮮の兵器調達、資金調達、及び主要な外国貿易・歳入源を妨害することを目的とした国連による経済制裁を、より着実に執行していくことが極めて重要だ。

5.北朝鮮の石油輸入を制限するための制裁を今こそ検討すべきだ。こうした措置は、北朝鮮側に交渉において核兵器プログラムの費用対効果を再考させる可能性がある。しかし、経済制裁のみや、或いは、米国による核攻撃を示唆する好戦的な脅しのみによって、北朝鮮の姿勢を変えさせることができるほど単純ではない。

6.さらなる核実験や、中距離・長距離弾道ミサイル実験を止めさせ、最終的に朝鮮半島を検証可能な形で非核化することを目的とした北朝鮮との交渉においては、たとえそうした目標が現在の金正恩体制の下では現実的に達成可能ではないかもしれないにせよ、米国は、首尾一貫した形で、かつ、積極的に、自身の利益が何なのかを伝えなくてはならない。

7.米政府は、「交渉には前向き」と単に言葉にする以上の姿勢を示さねばならないが、実際に成果をあげうるような措置をとる姿勢を見せねばならない。例えば、抑止力や軍事的な即応態勢を減じない形で米軍の演習や作戦を部分的に修正する。例を挙げれば、指揮所演習をやめて同じ訓練目的に資する会合に替える、演習の戦略的なメッセージを弱める、現地演習を小規模にする、国境沿いの非武装地帯から離れた場所で訓練を行う、といった措置である。

The United Nations Security Council Chamber in New York/ Patrick Gruban - originally posted to Flickr as UN Security Council, CC BY-SA 2.0
The United Nations Security Council Chamber in New York/ Patrick Gruban – originally posted to Flickr as UN Security Council, CC BY-SA 2.0

キンボール会長は、「北朝鮮の最近の核実験は、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)を普遍化することの重要性を改めて示した。」と強調した。

キンボール会長は、「軍事攻撃に対する北朝鮮の恐怖を緩和する措置と引き換えに、緊張を緩和して更なる核実験や長距離弾道ミサイル実験を北朝鮮に止めさせるような、より真剣で、協調的で、持続的な外交戦略がないかぎり、北朝鮮の核攻撃能力は、弾道ミサイルの攻撃に対する耐久性と射程距離とともに今後も増大し続け、朝鮮半島で壊滅的な戦争が勃発するリスクは高まるだろう。」と警告した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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解散総選挙―政党間で政策論争を

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【東京IDN=石田尊昭

急に強まった解散風。「10月10日公示・22日投開票」が有力とされる。

野党第一党の民進党からは、大義の無い「自己保身の解散だ」という批判の声が上がっている。

Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio Memorial Foundation

確かに、回復傾向にある内閣支持率、民進党からの離党者の続出、そして新党の準備不足というタイミングで、「今なら傷は最小限ですむ」という考えが安倍晋三首相の頭をよぎったとしても不思議ではない。

ただ、解散総選挙がどのような思惑・タイミングで行われようとも、選挙は有権者にとって、これまでの政権運営と政策に対して評価・判断を下す重要な機会である。

野党が安倍首相に対し「伝家の宝刀の抜き方が卑怯だ」といくら批判しても、国民のためにはならない。むしろ、これを機会に、安倍政権がこれまで進めてきた、またこれから進めようとしている外交・安全保障政策、経済・財政政策、社会保障政策などに対して論理的な批判と対案(選択肢)を示し、政策論争を深めるべきだ。

そのほうが、国民の利益につながるだけでなく、野党・新党自らの存在意義を示すことにもなるだろう。

真の政党政治を実現させるべく尽力した尾崎行雄は、今から約90年前、当時の政党について、「過去のしがらみや利害・感情で結びつき、政策競争をせず、本来の目的(国家・国民のための政策実現)を忘れている」と喝破した。

90年を経た今の日本はどうか。

与野党間・政党間での政策をめぐる論争・競争が政党政治には不可欠である。
各政党が内外情勢の現実を踏まえた上で何を最重要課題と位置づけるのか―その優先順位の付け方も判断材料となるだろう。そこを厳しく問い質し、見極める目が有権者に求められる。

INPS Japan

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|視点|被爆者の思いを胸に 核禁止条約の参加拡大を(池田大作創価学会インタナショナル会長)

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【IDN東京=池田大作

国連で、7月に採択された核兵器禁止条約の署名開放の日を迎えた。加盟国の3分の2近くが交渉に参加し成立をみた条約の発効に向けて、いよいよ動き出すことに特別の感慨を覚える。

条約の採択に賛成した122カ国をはじめ、多くの国の署名を得て、早期の発効を果たすことを切に望むものである。

核兵器のない世界の追求は、そもそも、国連の誕生を受けての最初の総会決議(1946年1月)で焦点となったテーマであり、その後、何度も決議が積み重ねられてきた70年越しの課題であった。

その突破口を開いたのは、近年の「核兵器の非人道性」に対する国際社会の認識の高まりである。“同じ苦しみを誰にも味わわせてはならない!”との世界の被爆者の切なる思いが、長年にわたり訴え続けられる中で、核問題を巡る議論の流れを大きく変えてきたのだ。

一石また一石と国際社会に投じられてきたこうした叫びが、まさに禁止条約の礎石となったのである。その重みを物語るように、条約の前文には「ヒバクシャ」の文字が2カ所も刻まれている。

条約の意義は、何と言っても、核兵器の保有から使用と威嚇にいたるまで、一切の例外を認めずに禁止したことにある。

それは、1996年の国際司法裁判所の勧告的意見で指摘された“明示的な禁止規範の不在”の克服につながるものにほかならない。

思い返せば、私の師である創価学会の戸田第2代会長が60年前の9月8日に発表した「原水爆禁止宣言」で訴えたのも、いかなる理由があろうと核兵器の使用は絶対に許されないという一点であった。

私どもSGIはこの宣言を胸に、近年ではICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)などと条約づくりを後押しする活動を行ってきたほか、他のFBO(信仰を基盤とした団体)と連携し、核兵器を憂慮する宗教コミュニティーとして共同声明を8回にわたって発信してきた。

「核兵器は、安全と尊厳の中で人類が生きる権利、良心と正義の要請、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感といった、それぞれの宗教的伝統が掲げる価値観と相容れるものではない」と、倫理的観点からの問題提起を続けてきたのである。

冷戦以来の「不信のスパイラル(悪循環)」が生み出した核抑止政策の奥には、“自国を守るために、どれだけ多くの民衆の犠牲が生じてもやむを得ない”との生命軽視の思想が横たわっている。

戸田会長が「原水爆禁止宣言」で強調したように、核兵器の存在は一人一人の「生命の権利」、人類の「生存の権利」に対する最大の脅威なのだ。

Ambassador Elayne Whyte Gómez of Costa Rica/ K.Asagiri of INPS
Ambassador Elayne Whyte Gómez of Costa Rica/ K.Asagiri of INPS

核兵器禁止条約は、その生命軽視の思想に楔を打ち込むものであり、交渉会議で議長を務めたコスタリカのエレイン・ホワイト・ゴメス大使が述べたように、そこで打ち立てられた規範には「21世紀の新たな安全保障のパラダイムを発展させる」という歴史的な意義が込められている。

禁止条約では、核保有国や核依存国の状況を踏まえた制度設計がなされている。つまり、「加盟前の核兵器全廃」を必ずしも前提とせず、「核兵器配備の解除と廃棄計画の提出」をもって条約に加わる道も開かれているのだ。

交渉会議でオーストリアの代表が指摘した通り、「国々や人々の安全を損ないたいと思っている者など誰もいない」はずだ。

どの国にとっても平和や安全はかけがえのないものであり、その意味で問い直すべきは、核兵器の非人道性を踏まえてもなお、自国を守る方法が、“核兵器を必須とする安全保障であり続けるしかないのか”との点ではないだろうか。

その意味でも私は、唯一の戦争被爆国であり、非核三原則を掲げる日本が、“自分たちの生きている間に核兵器のない世界の実現を見届けたい”と命を懸けての行動を続けてきた被爆者の方々の思いをかみしめて、条約への参加に向けた検討に踏み出すことを、強く訴えたい。

核兵器がひとたび使用され、その応酬が始まってしまえば、壊滅的な結果が生じ、救援活動や対応能力の確立が不可能であるばかりか、その影響は国境を越え、長期にわたるものになるということは、核保有国であるアメリカやイギリスも参加した「核兵器の人道的影響に関する国際会議」で、明確になったところである。

The atomic bomb dome at the Hiroshima Peace Memorial Park in Japan was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. Credit: Freedom II Andres_Imahinasyon/CC-BY-2.0
The atomic bomb dome at the Hiroshima Peace Memorial Park in Japan was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. Credit: Freedom II Andres_Imahinasyon/CC-BY-2.0

そうした議論の積み重ねの上に採択された核兵器禁止条約が問うているのは、「核保有の継続と安全保障とを同一視するような認識を改める必要性」ではないだろうか。

核兵器の問題は、一国の安全保障の観点からのみ判断され続けて良いものでは決してない。人類全体の平和と世界の民衆の「生存の権利」に軸足を置き、「21世紀の新たな安全保障のパラダイム」を見いだす努力を傾ける中で、廃絶への道を共同作業として開かねばならない。問題の本質は、核保有国と非核保有国との対立にあるではなく、「核兵器の脅威」と「人類の生存の権利」の対立にこそあるのだ。

私は、その意識転換を促す最大の原動力となるのが、グローバルな市民社会の声を結集することだと考える。

平和首長会議」に加盟する都市が、今や162カ国・地域、7400近くに及んでいるように、核兵器のない世界を求める声は、核保有国や核依存国の間でも広がっている。

条約づくりの作業も、被爆者の方々をはじめとする市民社会の力強い後押しがなければ、前に進めなかったものだった。

Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN
Applause for adoption of the UN Treaty Prohibiting Nuclear Weapons on July 7, 2017 in New York. Credit: ICAN

交渉会議の場で市民社会の席は後ろ側であったが、採択後にエジプトの代表がいみじくも、その情熱と献身ゆえ市民社会は“尊敬の最前列にある”と語った通りの大きな役割を担ってきたのだ。

核兵器禁止条約の採択により、核兵器廃絶への挑戦は新たなステージに入った。条約の意義を普及させ、その支持をいかに幅広く堅固なものとしていけるかが、これからの課題となろう。

条約の第12条には、「条約を普遍化するための努力」が規定されている。そのためには、被爆者の方々が訴え続けてきた原爆被害の実相に対する認識が、国や世代を超えて幅広く共有され維持されることが必要だ。その鍵を握るのは、平和・軍縮教育である。

それは、核保有国や核依存国が、「核兵器のない世界」という地球的な取り組みへの歩みを共にするために欠かせない基盤ともなる。

そして、市民社会の参加と貢献を得て採択された条約の特質に鑑みれば、平和・軍縮教育の推進をはじめとする「条約を普遍化するための努力」を後押しすることが、市民社会の重要な役割となってくる。

UN General Assembly Hall | Credit: Patrick Gruban, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons
UN General Assembly Hall | Credit: Patrick Gruban, CC BY-SA 2.0, Wikimedia Commons

ICANなど多くの団体と協力しながら、条約の普遍化のための取り組みを進め、「核兵器のない世界」への道を力強く開いていくことを、この9月20日の署名開放の日に固く誓うものである。(原文へ

https://www.daisakuikeda.org/sub/resources/works/essays/op-eds/heed-the-voices-of-the-hibakusha.html

INPS Japan

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