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世界市民教育の重要性が増している

【ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

国連の潘基文事務総長が2012年9月にグローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアチブ(GEFIを開始したとき、「世界市民の育成」が、「全ての子どもに学校教育を」と「学習の質の向上」にならぶ三大目標の一つであった。

潘事務総長は、「教育は単に労働市場に入ること以上のことを意味します。それは、持続可能な将来とより良い世界を形づくる力を持っているのです。教育政策は、平和や相互の尊重、環境への配慮を促進するものでなくてはなりません。」と語った。

国際社会が「持続可能な開発目標」(SDGs)として広く知られる2015年以降の開発アジェンダの策定に動く中、世界市民教育の必要性が高まっている。

Global Education First Inititative
Global Education First Inititative

なぜなら、地球とその住民に影響を及ぼす目標のどれ一つとして、狭い国益を超え地球の利益のために行動する世界中の民衆や諸政府の存在なくしては達成しえないからだ。

2012年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続開発な国際会議(リオ+20)」は、SDGsは国連のポスト2015年開発アジェンダに一致し、そこに統合されねばならないという点で合意した。

リオの成果文書によって創設されたオープン・ワーキング・グループ(OWG)は、17の目標と169のターゲットに合意した。これは、貧困削減、消費・生産の非持続可能から持続可能なパターンへの転換、経済・社会開発に資する天然資源基盤の保護・管理を目標とするものである。

これらは、2014年12月4日に発表された潘事務総長の統合報告書『2030年までに尊厳の道を』で述べられている、持続可能な開発の全体的な目標であり必要条件である。

UN Secretary-General anouncing the Synthesis Report that proposes 6 Elements for Post-2015 Agenda
UN Secretary-General anouncing the Synthesis Report that proposes 6 Elements for Post-2015 Agenda

潘事務総長は、9月25日から27日の「持続可能な開発に関する国連特別サミット」を前にして加盟国による検討を促進し、リオ+20によって求められた簡潔かつ野心的なアジェンダへの到達を可能にする、6つの根本的要素から成る統合的な提案を行っている。

その6つの根本的要素とは、(1)貧困を終わらせ不平等と闘うこと、(2)健康な生活、知識、女性・子どもの包摂を確実にすること、(3)強く、包摂的で、変革をもたらす能力を備えた経済を育むこと、(4)すべての社会と子どものために生態系を保護すること、(5)安全で平和な社会と強力な機構を促進すること、(6)持続可能な開発に向けたグローバルな連帯の触媒となること、である。

ESDとEGC

「持続可能な開発のための教育」(ESD)と「世界市民教育」(EGC)は、提案されているポスト2015年持続可能な開発アジェンダにおける重要な要素となっている。

「目標4」(2015年以降の教育目標)は、「すべての人に対する包括的、公正かつ良質な教育の確保、生涯学習の機会促進」を目指している。また「目標12」は、「持続可能な消費および生産形態の確保」を目標とし、「目標13」は「気候変動およびその影響と闘うための緊急の行動」の必要性を述べている。

ESD(とEGC)は、これらの目標達成に資する3つの提案されたターゲットの中に含まれている。

第一に、「2030年までに、持続可能な開発を促進するために必要な知識やスキルを、全ての学習者が得られるようにすること。とりわけ、以下に関する教育を通じたものを含む(持続可能な開発、持続可能なライフスタイル、人権、ジェンダー平等、平和・非暴力の文化の促進、世界市民、文化的多様性と文化の持続可能な開発への貢献に対する認知)。」

ESD関連の第二のターゲットは、2030年までに「あらゆる場所の人々が、自然と調和した持続可能な開発・持続可能なライフスタイルに関する情報と意識を持てるようにすること」を提案している。

最後に、第三のターゲットは、気候変動問題に対処するために、「気候変動の緩和、適応、影響軽減、早期警戒に関する教育や意識喚起、人的・組織的能力の向上」を提案している。

「ESDに関するユネスコ世界会議」のウェブサイトに掲載されたこの分析は、創価学会インタナショナル(SGI)池田大作会長が世界市民のための教育プログラムの基礎として示唆した3つの要素と重なっている。

1996年6月、池田会長は、コロンビア大学ティーチャーズカレッジでの講演で、既に次のような要素が世界市民にとって肝要だと述べていた。

・「生命の相関性を深く認識しゆく『智慧の人』

・「人種や民族や文化の〝差異〟を尊重し、理解し、成長の糧としゆく『勇気の人』」

・「遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく『慈悲の人』」

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

池田会長は2014年の「平和提言」の中で、世界市民教育プログラムの骨格に据えることが望ましいと考える次の3つの観点を提起している。

人類が直面する様々な問題への理解を深め、その原因に思いを馳せる過程を通じて、「どんな困難な問題でも人間が引き起こしたものである限り、必ず解決することはできる」との希望を互いに共有していくための教育

グローバルな危機が悪化する前に、それらの兆候が表れやすい足元の地域において、その意味を敏感に察知し、行動を起こしていくための力をエンパワーメントで引き出しながら、連帯して問題解決にあたることを促す教育。

他の人々の苦しみを思いやる想像力と同苦の精神を育みながら、自国にとって利益となる行動でも、他国にとっては悪影響や脅威を及ぼす恐れがあることを常に忘れず、「他国の人々の犠牲の上に、自国の幸福や繁栄を追い求めない」ことを、共通の誓いに高め合うための教育。

2014年11月に愛知県名古屋市で開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」は、「ESDに関するグローバル行動計画(GAP)」を策定し、現場での行動に焦点を当てた。

UNESCO
UNESCO

ユネスコ世界会議におけるGAPをはじめとした成果は、仁川(韓国)で2015年5月19日から22日にかけて開催される「世界教育フォーラム」での討議の基盤となる。この会議は、ポスト2015年における新たな教育アジェンダに関する合意に到達し、今後のグローバルな行動枠組みを採択することを目的としている。

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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世界市民教育を通じた人権の推進

世界市民教育に余地を与える持続可能な開発目標(SDGs)

国連、核兵器禁止条約交渉会議に道開く

【ジュネーブ/ニューヨークIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連総会が、「核兵器を禁止しその完全廃絶につなげるような法的拘束力のある文書」を交渉するすべての加盟国に開かれた会議を2017年3月から開始することを決定した。ニューヨークの国連本部で開催される予定のこの会議は、3月27日から31日と6月15日から7月7日の2つの会期に分かれている。

「この歴史的な決定は、多国間の核軍縮努力が20年にわたって麻痺している状態に終わりを告げるものであり、(米ロ)二大核武装国が核兵器を巡ってさや当てを続ける状況の中でなされたものだ」と「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)はコメントした。

ICANがここで言及している「さや当て」とは、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と米国のドナルド・トランプ次期大統領がそれぞれ自国の核能力を「強化する」意思を示したことを指す。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

「ロシア大統領と米次期大統領によるこうした無謀で攻撃的な行動によって、世界は選択を迫られています。すなわち、核戦争の危険性が高まるのを座視するか、行動を起こしてこの非人道的で容認しがたい大量破壊兵器を禁止するかという選択です。」と、ICANのベアトリス・フィン事務局長は語った。

オーストラリアの反核団体「核軍縮を求める人々」のジョン・ハラム氏は、「現在米ロは各々約7000発の核兵器を保有していますが、これは冷戦期と比較すれば大幅に縮小されています。しかしその内、わずか数分で発射可能な地上配備型のICBM(大陸間弾道ミサイル)を各々が1000発弱維持しています。」と指摘した。

「これらの核戦力のうち一部分でも(おそらくは米ロがお互いに対して)使用することになれば、今日の文明は終焉することになるだろう。(諸大陸に対して大型の核兵器をわずか5発使用するだけでも、これが現実になる可能性がある)」とハラム氏は語った。

こうしたなかで国連は、12月23日に歴史的な決議を採択した。(軍縮と国際安全保障問題を扱う)国連総会第一委員会が、一部の核武装国の強固な反対を押し切って、核兵器禁止条約など核兵器の.法的禁止措置について交渉する会議を開催する決定を10月27日に行ったことを受けたものだ。

10月27日の採決では、113の国連加盟国が賛成、35カ国が反対、13カ国が棄権した。ICANが指摘しているように、アフリカやラテンアメリカ・カリブ海地域、東南アジア、太平洋諸国から強い支持があった。

オーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカ共和国といった地域横断的なグループがこの決議を推進した。このグループが2017年の交渉をリードしていくことになるだろう。

ICANによれば、12月23日に国連総会が同決議を採択する直前に、国連の予算委員会において、核兵器禁止条約交渉のために4週間の会議を開く予算を確保することに米国が反対したという。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

「しかし、核軍縮支持派からの強い圧力によって、米国は最終的に反対を取り下げ、委員会が予算を認めることになった」と、100カ国で活動している市民ネットワークであるICANは説明した。

ICANは、第一委員会の決定を前にした10月に米国が北大西洋条約機構(NATO)全加盟国に送った文書を公表していた。約7000発の核兵器を保有する米国は同盟国に対して、決議に反対し交渉をボイコットするよう呼びかけていた。

この文書は、核兵器を廃絶する条約は、ある国々にとっては核兵器が正当なものであるとの認識を阻害し、NATOが核戦争計画を立てるのをより困難にすると警告していた。

ICANによれば、10月に決議に反対あるいは棄権した米国の緊密な同盟国の多くが、条約交渉会議に参加する意向を示しているという。

領内に米国の核兵器を置くことを認め、採決を棄権したオランダも交渉会議に参加することを確認している。また、日本の岸田文雄外相も、決議には反対したものの、交渉会議には参加する意向を示している。

ICANは、すべての国に対して、来年の条約交渉会議に参加するよう呼びかけている。「核兵器が二度と使われないようにすることについては、すべての国が関心を持っています。しかしそれは、核兵器の完全廃絶によってしか達成されない。私たちはすべての政府に対して、来年の条約交渉に参加し、強力かつ効果的な条約の策定に取り組むよう求めています。」とフィン事務局長は語った。

ICAN
ICAN

ICANは、核兵器国が参加するか否かにかかわりなく、交渉を始めるべきだと訴えている。「原則として、本性的に無差別的で人間に対して壊滅的な被害をもたらすことを意図した兵器は、国際法の下で禁止されるべきです。この新条約は、核兵器を他の大量破壊兵器と同じ法的立場に置くことになるでしょう。」とフィン事務局長は付け加えた。

フィン事務局長はまた、「核兵器禁止条約は、規範の力によって、たとえ参加を拒むにせよ核保有国の行動に影響を与えることを期待しています。また、領内に核兵器を配備することを認めている欧州諸国のように、核兵器によって保護が得られていると考える同盟国の多くの行動にも影響を与えることでしょう。条約は、核兵器なき世界の達成に向けて相当の貢献をするにちがいありません。」と語った。

核兵器禁止条約には、生物兵器や化学兵器、対人地雷、クラスター弾を禁止している既存の諸条約と同じような条項が盛り込まれることになるとみられる。たとえば、(核兵器の)使用、開発、生産、取得、貯蔵、保持、移転の禁止に加え、こうした禁止行為に関わるいかなる者に対しても、援助、勧奨、誘導を行うことを禁ずる、という内容である。

生物兵器や化学兵器対人地雷、クラスター弾はすべて、国際法の下で明確に禁止されている。

核兵器は、人間や環境に及ぼす壊滅的な影響が広く知られているにも関わらず、包括的かつ普遍的な形での違法化が依然としてなされていない唯一の大量破壊兵器である。最近の研究は、核兵器の偶発的あるいは意図的な爆発の危険性は不当なまでに過小評価され、あるいは誤解されていることを示している。

Setsuko Thurlow/ ICAN
Setsuko Thurlow/ ICAN

核実験を含めた核爆発の被害者や生存者は積極的に貢献してきた。広島原爆の被爆者、サーロー節子氏は、核兵器禁止を先頭に立って訴えている人物だ。

「これは全世界にとって本当に歴史的な瞬間です。」とサーロー氏は12月23日の投票を受けて語った。「広島長崎の原爆投下を生き延びた私たちは、核兵器が非人道的で、非差別的で、受け容れがたいものであることをよく知っています。すべての国が、核兵器違法化のための2017年の交渉に参加すべきです。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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希望と絶望の間で揺れる非核スローガン

共通の未来のためにヒロシマの被爆体験を記憶する

|視点|核時代最悪の行為

|長崎国際会議|ユース非核特使、核兵器のない世界を求める

【長崎IDN=浅霧勝浩】

岸田文雄外務大臣が2013年に創設したユース非核特使経験者が集う「第二回ユース非核特使フォーラム」(会場:長崎大学医学部)が開かれ、非核ユース特使らは、世界の人々に対して、核兵器は膨大なコストがかかる兵器であると同時に、その存在により国際平和や安全保障、地球環境、さらには人類の存続そのものが脅かされている現実を認識するよう訴えた。

今回非核ユース特使らは、71年前に広島とともに原爆の惨禍に見舞われた長崎に集い、核なき世界の実現に向けて動く緊急の必要性を訴えていくことを誓うとともに、その目標を達成するための一連の提言(「若者による核兵器のない世界を求める声明と提言」)を発表した。

ユース非核特使らは、フォーラムで発表した提言の中で、「私たちは、人間や都市、自然を脅かす核兵器と人類とは、平和的に共存することはできないと確信しています。広島や長崎の原爆を辛うじて生き延びたにも関わらず、 放射線の後遺症による肉体的な苦しみや、差別による精神的な苦しみを味わってきた被爆者は、核兵器保有の危険性について世界に警鐘を鳴らす存在です。」と語った。

そして日本政府に対しては、「日本は、唯一の戦争被爆国として、『核の傘』に頼ることをやめ、国際社会に対して 核兵器の恐ろしさや非人道性について強いメッセージを発信し、また、核兵器を禁止する法的拘束力のある条約の交渉において積極的な貢献を行うべきです。」と訴えた。

「第二回ユース非核特使フォーラム」は、日本の外務省が国連と共催で開催した「核兵器のない世界へ 長崎国際会議」における第26回国連軍縮会議(12月12日・13日)のプレイベントとして、日本及び海外のユース非核特使経験者14名の出席を得て12月11日に開かれた。

第26回国連軍縮会議/ MOFA
第26回国連軍縮会議/ MOFA

ユース非核特使らはまた、この声明の中で、「核兵器を巡る情勢は、今大きな転換を迎えようとしています。今年は、広島で G7 外相会合が開催され、米国のバラク・オバマ大統領が広島平和記念公園を訪れ、印象的な演説を行いました。来年には、今年の国連総会での決議に基づいて、核兵器を禁止する、法的な拘束力のある条約についての交渉が始まります。」と語った。

岸田外務大臣は、被爆者の高齢化が進む中、核兵器による惨禍の実相を国際社会や将来の世代に継承することを目的に「ユース非核特使」制度を2013年4月に発足させた。これまでに174人が「ユース非核特使」として、国内外で軍縮や核不拡散等に関する活動を行ってきた。2016年3月、日本政府は第一回ユース非核特使フォーラム(ユース非核特使OB・OG広島フォーラム)を翌月に開催されるG7広島外相会議のプレイベントとして開催し、ユース特使らは、自らの活動経験や意見を共有するとともに、外相会議に対するメッセージを発表した。

国連軍縮会議は1989年以来、日本政府と国連アジア太平洋平和軍縮センター(UNRCPD、バンコク)が共催し、日本の地方都市でほぼ毎年開かれており、世界各国の軍縮・不拡散専門家、外交官、マスコミ関係者等が集い、軍縮・不拡散等について幅広い議論を行っている。

Kazutoshi Aikawa, Director General for Disarmament, Non-Proliferation and Science Department, MOFA/ K.Asagiri of INPS

2015年8月に広島で開かれた第25回国連軍縮会議では、2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の総括と今後の展望、核兵器の非人道性、アジアにおける非核地帯の意義と核軍縮・不拡散、市民社会と軍縮・不拡散教育等のテーマが議論され、核なき世界の実現に向けた世界的な気運を再活性化させる重要な役割を果たした。

閉会後に記者会見した外務省の相川一俊軍縮不拡散・科学部長は、「すべてのセッションで核兵器禁止条約が取り上げられ、国際社会での対応の難しさも示されました。(長崎国際会議は)来年のNPT運用検討会議準備委員会に向け準備する良い機会となりました。」と総括した。

キム・ウォンス国連軍縮担当上級代表は、開会式の挨拶の中で、「今年は、最初の国連総会決議が採択されて70年目の節目を迎えます。皆さんご存知の通り、国連総会決議第一号は、人類の存続そのものを脅かす核兵器を含むすべての大量破壊兵器の廃絶を呼びかけています。それから70年が経過しましたが、この目標は未だ実現していません。それどころか、核兵器の廃絶に向けた交渉は行き詰っています。」と語った。

Kim Won-soo, UN High Representative for Disarmament Affairs/ UN Photo

ユース非核特使らが発表した提言は、全ての国々に対して、「NPTに含まれている約束も含めて、核軍縮・不拡散に対するコミットメントを十分に果たすこと」さらに、「核軍縮を加速させるため、NPTの執行機能の改善や、核兵器を禁止する法的拘束力のある条約の交渉などを通じて国際的な法的枠組みの強化をすること」を訴えている。

同提言はまた、核兵器保有国に対して、「核兵器保有の必要性について、安全保障や政治、経済性などの観点から再考し、国家の安全保障と国際的な地位を維持するための他の方法を模索すること」そして、「保有する核兵器の数を削減するための具体的な行動を取ることでNPT上の義務を果たすこと」を訴えている。

また、NPT非締約国に対して、「速やかに非核兵器国としてNPTに加入すること」「少なくとも1つの国が、自国の核兵器プログラムを放棄することで模範を示し、核兵器のない世界の実現に向けた取組に参加すること」を訴えている。

さらに核兵器保有国に対して、「国際的な安全保障環境の安定化に繋がらない、核兵器の近代化をやめること」「不必要なリスクと危険をもたらしている即時発射警戒態勢から全ての核兵器を外し、また誤発射を防ぐこと」、さらに、「核兵器の管理には経験豊富な人員を配置し、事故を起こさないよう厳格に管理し、兵器利用可能な物質が、テロリストなど、それを盗もうと企てる人の手に渡らないようにすること」を訴えている。

一方、核の傘の下にある国を含む、非核兵器国に対しては、「非核兵器国であり続け、『核兵器のない世界』の実現に向けたリーダーシップを発揮すること」を求めるとともに、とりわけ「核の傘」に頼っている国に対して、「その有効性や信頼性、リスクなどを踏まえて、現行の政策をやめ、非核兵器地帯の設置を含めて、核兵器に頼らない安全保障の枠組みを構築すること」を訴えている。

Tomihisa Taue, Mayor of Nagasaki City/ IAEA

ユース非核特使らは、「非核兵器国が一丸なって、核兵器国が核軍縮の努力を加速させるように働きかけたり、核兵器を禁止する条約を策定することなど、核兵器のない世界の実現に向けた取組みを行い、それらの取組を核兵器国も巻き込んで国際社会全体で行うようにすること」と訴えた。

長崎市で被爆し、両親を亡くした田川博康氏(83)は、フォーラム終了後、「私たちが、被爆の経験を伝えられる時間は限られています。今日は若者たちの思いに触れ、感動しました。彼らの活動に期待しています。」と語った。

被爆者の平均年齢は現在80歳を超えている。長崎市の田上富久市長はこの点を念頭に、「被爆者に依存することなく反核メッセージを発信していく方法を見出すことが重要です。」と語った。

こうしたなか、広島・長崎の原爆を生き延びた被爆者らが、「後世の人々が生き地獄を体験しないように、生きている間に 何としても核兵器のない世界を実現したい。」との思いから、核兵器禁止条約への支持を求める「ヒバクシャ国際署名キャンペーン」を開始した。

同キャンペーン(2016年8月に本格始動)は、核兵器禁止条約が締結されるまで国際署名活動を継続していく計画である。8月と9月に集まった初年度分の署名(総計564,240筆)は、10月6日、国連本部にて第一委員会の議長に提出された(10月1日以降に集められた署名は2017年9月末締切の2017年度分としてカウントされる)。(原文へ) 

Toshiki Fujimori, Deputy Secretary General, Nihon Hidankyo (left) and Ambassador Boukadoum, Chair of the First Committee. Credit: UNODA
Toshiki Fujimori, Deputy Secretary General, Nihon Hidankyo (left) and Ambassador Boukadoum, Chair of the First Committee. Credit: UNODA

翻訳=INPS Japan

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国連軍縮会議が野心的な目標を設定―しかし、それをどう達成するか?

オバマ大統領の広島初訪問でも核兵器禁止は進まず

核兵器の法的禁止協議に広範な支持

欧米豪民主主義諸国の制裁でフィジー中国に接近

【スバIPS=シャイレンドラ・シン】

民主選挙で選出されたライセニア・ガラセ首相に対する軍事クーデターを受けて米英豪民主主義諸国が発動した対フィジー制裁は、新軍事政権をアジア隣国、特に中国に接近させることになるかもしれない。

南太平洋大学の元講師ガネシュ・チャンド氏は、「制裁は、フィジーというよりクーデター実行者を標的としたものであるが、この措置で軍事政権はオーストラリア、ニュージーランド、英国、米国といったこれまでの貿易相手国に背を向けることになるのではないか」と語る。

同氏は、1987-2000年に起こったクーデターを例にあげ、ラツ・サー・カミセセ・マラおよびカラセ暫定政権は、新たな市場/投資を求めて「北寄り政策」を取ることで西側制裁に対抗したと指摘する。

軍司令官フランク・バイニマラマ准将は既に、オーストラリア、ニュージーランドを非難し、軍事介入に警告を発している。その一方で、昨年訪問を果たし、最近は南太平洋において積極的外交を展開している中国を誉めそやしている。

チャンド氏はIPSに対し、「西側勢力の制裁は、貿易関係の恒久的停止、大型投資の被害を避けたいとの思いから、限定的なものになるのではないか」と言う。

同氏はまた、「西側は同地域へのアジア勢力進出を注視。特に米国は中国の影響力拡大を警戒している」と語った。

オーストラリア、ニュージーランドからの2006-2007年支援(6億2百万ドル)は留保され、軍事協力の停止、クーデター関係者の渡航も禁止されていることから、関係は冷え込み、軍部が指名したジョナ・セニラガカリ首相は、怒りに満ちた挑戦的態度を示している。

セニラガカリ首相は、新政権はアジア諸国との関係強化を目指すとして、「1987年のクーデター時も当時のラトゥ・マラ首相とこれら諸国を訪れた」と語っている。

1987-1990年のマラ暫定政権は、日本の国連安全保障理事会メンバー就任、中国のWTO加盟を支持。中国は、フィジー軍に180万ドルの支援を行うと共に、日本の対フィジー支援も増加した。

またマレーシアとの政治/貿易関係も強化され、クーデター時代に形成された両国の関係は維持されている。チャンド氏はIPSに対し、フィジーおよび太平洋地域の輸入は、過去20年間で欧州世界からアジアへ大きく移動しているという。同氏は、「これはフィジーの意図的政策転換というより、アジア経済が急成長し、殆どの日用品生産で欧州諸国と競争できるようになったことが原因」と語る。

また、「輸出業者は民間セクターであり、価格に比して価値の高いところに集まる。アジア諸国はそれができるようになってきているのだ。オーストラリア、ニュージーランドは、民主選挙後は全面的に関係復活を図るだろうが、暫定首相の語るところでは、それには2年かかる」と言う。

この間、オーストラリア、ニュージーランドは、所謂「スマート制裁」により軍事政権隔離を図っていくだろうが、経済および対フィジー投資に害を及ぼすような経済制裁を加えることはなさそうだ。

オーストラリアの対フィジー輸出は、年間6億ドル。これはフィジー全輸入の46%強に当たる。一方オーストラリアの対フィジー輸入は年間約4億ドル。これは、フィジー全輸出の23%強に相当し、オーストラリアはフィジー製品最大の輸入国となっている。

チャンド氏によれば、関係国のビジネス界は一様に貿易制裁に反対。特にオーストラリア、ニュージーランドは、利害関係の大きい観光セクターに注意を払っているという。

「公式レベルで観光抑制の司令がでれば、経済に大きく影響するだろう。これは、個人観光および国際会議ツアーに害を及ぼす。法と秩序を考慮しなければ、観光業界の抗議は避けられまい」と同氏は言う。

観光はフィジーの最大産業であり、2005年には訪問者54万9千人、1人当り514米ドルの外貨獲得を記録している。

オーストラリアは南太平用地域の主導者としての地位保持を欲しており、外交筋は中国の影響力拡大を警戒している。オーストラリア外交官は、中国は外交ミッションの数ではオーストラリアに及ばないが、世界最多の外交官を同地域に配置していると見ている。

オーストラリア国防アカデミーのジョン・マクファーレン氏によると、中国外交官の流入に伴い南太平洋地域への中国民間ビジネス参入(不法あるいは犯罪行為も含まれる)も増え、国営/民間企業3千社強が企業登録を行っているという。

フィジーは、他の太平洋諸島国同様、「1つの中国政策」を承認。北京政府との緊密関係を築いており、中国移民の増加に伴い北京政府の支援も大幅に増加している。

チャンド氏は、「同地域における中国の影響力拡大を危惧する米国は、オーストラリアに対して最終的に、フィジー政府および市民の隔離政策は機能しないとの強いメッセージを発するだろう。米国は国務省の年次報告を通じ、間接的ではあるが既にその旨明らかにしている」と言う。

また、「米国は遅かれ早かれオーストラリアに対し、同国のフィジー(および太平洋)政策は地域諸国を西側の影響から遠ざけていると知らせることになろう。中国は既に、諸手を上げ、小切手帳を掲げて西側諸国の肩代わりをしようとしているのだから」と言う。

オーストラリアは、ソロモン諸島およびパプア・ニューギニアに対する干渉政策により両国から「再植民地化」との非難を受けるという厄介な外交問題から抜け出したばかりである。(原文へ


翻訳=IPS Japan


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アジアのSDGs実現、欧米の活動家に乗っ取られる恐れ

【バンコクIDN=カリンガ・セネビラトネ】

12月初め、国連開発計画(UNDP)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、国際連合人口基金(UNFPA)の3つの国連機関が、「ケース・フォー・スペース(#Case4Space: SDGsの中心に若者を)」(C4S)と題したユースフォーラムを、3日間にわたって国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)の施設(バンコク)で開催した。これは、アジア太平洋地域において持続可能な開発目標(SDGs)を促進するための意識喚起を図り、その重要性を訴えるために、同地域における60以上のパートナーが主導したキャンペーンとうたわれているものだ。

しかし、フォーラムの中身は、主に欧米の発表者やコンサルタントが多数を占め、プロジェクトは英国の活動家集団「弛みなき発展」が主導するものであった。このため、アジア・太平洋地域から参加した多くの活動家らは、SDGsに関する議題そのものが、まるで欧米の活動家に乗っ取られたかのように感じていた。

C4Sキャンペーンは、アジア太平洋地域の若者たちを、SDGsを履行していくうえでの「重要なステークホールダー」として動員すべく展開されたものだった。また、ソーシャルメディアやデジタルコミュニケーションを通じて新たな空間を創出することで、従来「社会的に排除されてきた」人々をも関与させることも目的としていた。C4Sは、若者を関与させるネットワークと能力を構築するものとされた。

UN ESCAP
UN ESCAP

このように理念は立派に聞こえるが、バンコクでフォーラムが開かれると、アジア・太平洋地域の若者の関与のあり方を巡って多くの疑問の声が上がった。同地域の若者にSDGsへの関与を呼びかけた全体会の発言者の多くは欧米の出身者であり、発言者の中に、デジタル分野・ソーシャルメディア分野で注目に値するアジア出身の専門家は見当たらなかった。しかし実際には、「マレーシアキニ」のスティーブン・ガン氏や、「ラップラーズ」(フィリピン)のマリア・レザ氏など、アジアにはこうした分野で才能を認められた専門家が少なくない。

フォーラムにはアジア・太平洋地域から200人以上の若者が参加したが、ほとんどがいわば活動家の傾向を持った人々であった。4人の欧米人が主催・コーディネートしていた「若者によるニューズルーム」ですら、約15人の若いジャーナリストを集めつつも、主流メディアに属する人は1人もいなかった。彼らの語り口は主に「異議申し立ての声」のそれであり、SDGsの達成に向けてより協力的で平和的な道を生み出すことに貢献しうるコミュニケーションの方法論について検討するものではなかった。

カンボジア農村部出身のある参加者は、匿名を条件にIDNの取材に応じ、「こうした『公に異議申し立てする』タイプの方法論では、私の国ではうまくいきません。私の国では、土地がしばしば開発の名のもとに取り上げられており、これに対して抗議のスローガンを掲げたりデモ活動を行おうものならば、刑務所に叩き込まれるか、警察によって打ち据えられることになります。」と指摘したうえで、「私はむしろ、あまり対立的でない方法で政府下部組織と意思疎通を図る方法を学びたいのです。」と語った。

UNDPのアジア太平洋地域政策・プログラム支援の責任者であるケイトリン・ウィーゼン氏は、開会式の挨拶で「エンパワーされた若者は、私たち皆が目指している進歩の推進力となります。」と指摘したうえで、「現代の若者は、以前の世代よりもはるかに相互に繋がりを保ち、より創造的で、より多くの知識を持ち合わせ、より説得力があることを、私たちは日々の活動を通じて、気づかされています。」と語った。

UNDPは「若者戦略2014年~17年」を策定し、ソーシャルメディアの主導的な役割を定義したうえで、若者がSDGs問題に関心を寄せる戦略的な入口を特定している。フォーラムでは、若者が自己表現できるサーバースペースを縮小させるアジア・太平洋地域の立法の波に関しても、多くの議論があった。

UNDP Youth Strategy 2014-2017 : Empowered Youth, Sustainable Future/ UNDP

「ソーシャルメディア上で仲間と集い情報を共有することは、問題に関する意識を喚起する一方で、変化をもたらす行動へとつながる第一歩になります。」とシンガポールの若い活動家サミラ・ハッサン氏は語った。彼女は、自身の学校の移民の権利を擁護する地域団体で活動している。「若者として、私たちが重要だと考える社会問題に関する対話を始める必要があります。」とハッサン氏は付け加えた。

2日間のワークショップで、周縁化された集団、オンライン上の自由、若い人権活動家の訓練など、多くのセッションがあった。しかし、こうしたものが、アラブ世界の若者を動員し、「アラブの春」の蜂起とそれに伴う社会的・政治的混乱をもたらしたものと同じメニューだとしたらどうだろうか?

英国の駐タイ大使ダニエル・フィーラー氏が司会を務め、4人の欧米人と1人のアフリカ人、カナダ在住の1人のアジア人がパネリストとなった最終日の全体会では、こうしたメニューが盛んに売り込まれた。彼らは「具体的な行動とパートナーシップ」について語ったが、主に語られていたのは、発表者らの団体から資金を獲得するための、プロジェクトの売り込み方、という点であった。

「私たちは若者との研究作業に投資しています……私たちは考えを広める役割を担っています。」と、「弛みなき発展」のペリー・マドックス氏は語った。ハインリッヒ・ボル財団のマンフレッド・ホムンク氏は「私たちは、身分に関係なく、若者が私たちにもたらす考え方を基準に資金を提供しています。」と語った。またフィーラー大使はある時点で、「民主的で言論の自由を認めている国の場合、SDGsを達成しやすい。」と論じたが、中国やシンガポール、台湾、韓国といったような、既に多くの開発目標を達成しているこの地域の国々は、成功に向けてそうした道を採らなかったことを大使は都合よく忘れていたようだ。

こうして、アフリカからの唯一のパネリストで、コモンウェルス事務局青少年課プログラム担当のレイン・ロビンソン氏が、こうしたこと全てにおいて政府が重要な利害関係者になっていると指摘する役を担うことになった。ロビンソン氏は「多くの政府が青年に焦点をあてた政策を実行しようとしています。」と指摘したうえで、「皆さんはSDGsを達成するために政府と協力する必要があります。政府は、若者にとっての空間を広げる決定的な役割を担っているのです。」と語った。

中国からの参加者ウェイペン・ワン氏は会議終了後、IDNの取材に対して、「情報を地元の言語に翻訳することが、SDGsを知らしめるうえできわめて重要」と指摘したうえで、「これまでブログをたくさん書いてきた経験がありますので、ウェチャット(Wechat)を通じてものを書き、情報を共有することができます。」と語った。

フィリピンからの参加者レジネル・バルヌア氏は、「若者だけがこうした問題を語るだけでは不十分です。大学教員もSDGsを促進すべきです。また、C4Sのための特別日を設けるべきです。」と語った。

C4Sは、「弛みなき発展」がUNDPに持ち込み、アジアに導入すべきだとした考え方で、UNDPはこれをユネスコやUNFPAとともに取り上げ、「フォーラムアジア」とともにバンコクでこのユースフォーラムを開催する流れとなった。運営資金のほとんどは欧米諸国から集められた。

SDGs Goal No. 4
SDGs Goal No. 4

UNDPのウィーゼン氏は閉会式の挨拶で、「50のパートナー団体がC4Sをこの地域で広める戦略を練るための会議を今後開催する予定です。私たちは、縮小しつつある(市民社会の)空間を(アジアの)若者のために拡げたい。若者たちのための空間を創出したい。制限的な慣行に反対するためにあなた方とともに立ち上がりたい。」と語った。

閉会の挨拶の後、様々なユース組織と活動しているアセアンからのある参加者はIDNの取材に対して、「このユースフォーラムの内容・構成は、終始欧米主導によるもので、アジア・太平洋地域の自主性は微塵も見受けられません。」と腹立たしげに語った。「このイベントは英国の活動家集団『弛みなき発展』のプロジェクトそのものであり、彼らは自分たちの方針を(アジアからの参加者に)押し付けているに過ぎません。アジアでこんなやり方がまかりとおってはなりません。」と匿名を希望したこの女性はこう語った。(原文へ

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モロッコに世界最大の太陽光プラント設置

【マラケシュIDN=ファビオラ・オルティス】

サハラ砂漠に降り注ぐ太陽光からの熱を電気に変える野心的なモロッコの計画が国際的に注目を集めているが、このことは、11月7日~18日の日程でマラケシュで開催された国連気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)でも注目された。

COP22の会場から北東に200キロメートルの場所に、450ヘクタールのノア太陽光発電プラントがある。2018年に完全稼働すると、100万世帯(モロッコの全人口の約3%に相当)に電力を供給し、年間で地球温室効果ガス76万トンの炭素ガス排出抑制効果を生み出すことができるとしている。

SDGs Goal No. 7
SDGs Goal No. 7

モロッコの首都ラバト全体が収まってしまうこの世界最大の太陽光発電プラントは、欧州の都市バルセロナと同じぐらいのサイズだと言われている。アトラス山脈とベルベル人の村々に囲まれた砂漠のオアシス都市ワルザザートは、従来モロッコの砂漠観光の入口として栄えてきた街だが、このプラント建設により、新たに太陽光エネルギー利用の入口としても知られるようになった。

昨年、世界の指導者が温室効果ガスの排出を抑制し地球の温暖化を避けるための合意に達したCOP21がパリで開催された際、モロッコ国王ムハンマド6世は、「『リオ地球サミット』(国連環境開発会議)で国際社会が気候変動の問題に対処する緊急の必要性に気づいて以来、我が国は、持続可能な開発と環境保護を先取りする政策が国際社会の世界的な取り組みと軌を一にするように決意をもって取り組んできました。」と語っていた。

モロッコには年間で約3000時間の太陽光が降り注ぐ。サハラ砂漠は太陽光を利用するには完璧な場所だ。この北アフリカの国には化石燃料の埋蔵がなく、エネルギー資源はほぼ全面的に外国からの輸入に依存してきた。

ノア太陽光発電プラント事業は、2020年までに電力の42%を再生可能エネルギーから生成するとのモロッコの持続可能な開発戦略目標の一部を成している。モロッコ政府は、この目標について、(パリ協定のルール作りを軌道に乗せることに成功した)COP22に沿うものであり、気候変動対策へのコミットメントを証明する一環と位置付けており、国連もこの目標を称賛している。

モロッコは憲法、立法、規制の各面に関する一連の改革を公にしている。エネルギー源の移行に対しては明らかに高い優先順位があてられている。

モロッコ政府はまた、今後10年以内に再生可能エネルギーの割合を増やすために、風力・太陽光・水力発電に130億ドルを投資する計画を発表した。

COP 22 Logo

現在、90億ドルのノア第一号プラントでは160メガワットの電力を生産している。次の2つの段階の工期が終了し、ソーラータービンがフル稼働すると、ノア太陽発電プラントでは500メガワット以上が生産されることになる。ノア2号とノア3号はそれぞれ、2017年、18年に稼働予定だ。

この巨大施設への資金を調達するために、モロッコは世界銀行から5.19億ドル、ドイツ復興金融公庫(KFW)から6.54億ユーロ、その他にアフリカ開発銀行、欧州委員会、欧州投資銀行からの融資を受けている。

このプロジェクトは、モロッコ太陽エネルギー庁(MASEN)とACWAパワー(サウジアラビアの8つのコングロマリットが所有し同国に本拠を置く、開発・投資・運転に関わる組織)のコンソーシアムによって推進されている。

この企業は現在、中東と北アフリカ、南部アフリカ、東南アジアの11カ国で操業している。MASENはノア太陽光発電プラントで生産した電力を国営水電気公社に売却している。

「モロッコは手持ちの資源から最大のものを引き出しています。太陽光があり、産業力を発展させる能力があります。最終的には、今後25年で、信頼性のある安定した電力を固定価格で継続的に供給していきたい。これは、地域の発展と社会福祉にとって、根幹となる柱となります。」とACWAパワーのパディー・パドマナタンCEOは語った。

この巨大施設では集光型太陽熱発電(CSP)と呼ばれる技術を利用している。設置価格が低く、一般には「太陽光パネル」と呼ばれているものに比べて、レンズと鏡を使うこの方式のコストは高い。他方で、CSP技術では8時間分のエネルギーを蓄積することが可能だ。つまり、夜間や曇天の日に利用するためにエネルギーを溜め込むことができるということになる。

「太陽光からの熱を集め、蒸気タービンを回します。電力を効率的に蓄積できるため、それをすぐに使ってしまわなくてもよいのです。これがCSPの最大の利点であり、幅広い用途が期待できます。」と、ACWAパワーのCEOを2006年から務めるパドマナタン氏は語った。

Map of Morocco
Map of Morocco

パドマナタン氏は、生活水準が比較的低い傾向にある遠隔地に再生可能エネルギーのプラントを設置することは「このような投資の力によって遠隔地を活性化する」方法になる、との見解だ。

「モロッコは、この種のプロジェクトをかくも大規模に展開できるということを示しました。調達プロセスを透明化すれば、これは他の場所でも援用することが可能です。」と、パドマナタン氏はIDNの取材に対して語った。

他の途上国に与える影響についてパドマナタン氏は、「ヨルダン・南アフリカ・ボツワナ・ナミビアといった国々がすでにノア太陽光発電プラントに関心を示しています。また、ペルーやチリからの視察もあります。」と語った。この南米の2か国にはアタカマ砂漠が広がっており、太陽光を発電に利用する巨大な可能性が秘められている。(原文へ

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【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ】

核が人間や環境に及ぼす壊滅的な帰結を思い知らされることとなった福島第一原発事故から5年目、そしてチェルノブイリ原発事故から30年目の節目となった今年も残り僅かとなるなか、核兵器なき世界を達成しようとの決意は、これまでにも増して強いものとなっている。

「核兵器を禁止し、完全廃絶につながる法的拘束力のある措置(=核兵器禁止条約)を交渉するよう呼びかけた国連決議A/C.1/71/L.41が10月27日、第71回国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障問題)で採択された。多国間核軍縮交渉を前進させることに賛意を示したのは、北朝鮮を含む123カ国。反対は38カ国、棄権は16カ国だった。

一方、かつて核軍縮を主導していたオーストラリアは、アジア太平洋地域における隣国26カ国が、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海諸国とともに決議に賛成する中、反対票を投じた。

Tim Wright/ ICAN
Tim Wright/ ICAN

核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)豪州支部長のティム・ライト氏は、「もしオーストラリアが、長く待ち望まれているこの条約に反対するのなら、この地域の他の国々から爪はじきにされるリスクを冒すことになります。オーストラリアが、道徳的に正しく必要なことのために立ち上がるのではなく、少数の核武装国と、核兵器は正当なものであると主張するその他の国々の側につくことを選んだのは、極めて残念です。」と語った。

ライト氏はまた、「核軍縮に関する国連公開作業部会(OEWG)を失敗させようとしたオーストラリアの試みは異例の行動であり、手ひどいしっぺ返しを食うことになりました。この公開作業部会では、核兵器を違法化する条約の交渉を2017年に開始するとのより明確な勧告がなされ、交渉開始に向けたその他の国々の決意をかえって強化するものになったのです。」

この決議は、2013年と14年の間にノルウェー、メキシコ、オーストリアで開催された核兵器の人道的影響に関する3回の政府間会議の帰結である。これらの会議は、非核保有国が軍縮分野でより積極的な役割を果たす道を切り開いた。

ライト氏は、オーストラリア政府に対して米国の核兵器に依存する政策を直ちに止めるよう呼びかけつつ、「拡大核抑止というこの危険な政策は、軍縮にとってマイナスであり、拡散を促進することになります。この大量破壊兵器は正当かつ必要、有益なものであるとのメッセージを他の国々に発することになるのです。こうした政策を正当化できる余地はありません。近隣のどの国も、核兵器による保護を主張していません。」と語った。

核保有国と、安全保障を米国の拡大核抑止に依存しているオーストラリア・日本・韓国のような国々は、決議に反対した。

核兵器の問題に関するこの30年の社会的・法的歴史を反映して、ニュージーランドがこの決議に賛成したことは注目に値する。ライト氏は「かつては核軍縮を支持していたオーストラリアは近年、この問題に関する原則を完全に打ち棄ててしまい、あらゆる機会をとらえて、この最悪の大量破壊兵器を継続的に保有し場合によっては使用することを擁護するようになってしまいました。」と語った。

ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、タイは、ニューヨークで2017年3月と6月に予定されている交渉会議において主要な役割を果たすと見られているアジア・太平洋地域の国々である。

核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)ニュージーランド支部のメリヤン・ストリート元会長はIDNの取材に対して、「オーストラリアが決議L41に反対したことに衝撃を受けました。(この投票行動について)合理的な説明があるとすれば、それは明らかにオーストラリアにとって、米国への忠誠が、その他のあらゆる考慮を上回ったということです。オーストラリアは反核兵器運動の最前線に立ったことは一度としてなく、こうした投票になったのも不思議ではありません。保守的な自由党政権ですから、この問題について勇気ある一歩を踏み出そうとは考えないだろう。」と語った。

採択に参加したアジア太平洋地域の34カ国のうち、反対したのは、オーストラリア、日本、ミクロネシア連邦、韓国の4カ国であり、中国、インド、パキスタン、バヌアツの4カ国が棄権した。

「これほど戦略的で、きわめて大きな影響を与えかねない問題に関して、すぐ隣の国々とも歩調を合わせないのは無責任と言わざるを得ません。オーストラリアは、地域安全保障の議論などで、アジア太平洋諸国から離れるのではなく、むしろ関与するように相当の力を入れていくべきです。」とストリート元会長は語った。

オーストラリアは、化学生物兵器地雷クラスター爆弾の全面禁止は支持してきた。オーストラリア外務・貿易省の報道官はIDNの取材に対して、「オーストラリアは、効果的な方法で核兵器の廃絶を追及することにコミットしています。しかし、核攻撃の危険性が存在する限り、米国の拡大核抑止はオーストラリアの安全保障上の利益にかなうものなのです。」と語った。

ローウィ国際政策研究所(本部シドニー)が毎年実施している世論調査の2016年度版によると、米国との同盟に対する支持率は9%低下している。回答者の71%が米国との同盟はオーストラリアの安全保障にとって「かなり」あるいは「まあまあ」重要だと答えたが、これは2007年以降で最低の数値(ただし同年の数値より8ポイント高い)だった。

オーストラリア政府は、世界の軍縮・不拡散体制の要である核不拡散条約(NPT)を強化し、2010年NPT運用検討会議の行動計画のように合意済の公約を履行することに、努力が注がれるべきだと考えている。

Map of Australia
Map of Australia

「核保有国の参加を得ないまま、或いは、国際安全保障環境に対する適切な考慮なしに核兵器禁止条約を追求しても、核兵器廃絶には効果がありません。」と外務・貿易省の報道官は付け加えた。

NPTは核兵器の拡散防止にとって肝要であり、軍縮交渉の基礎であり続けているが、「核兵器禁止条約はNPT第6条履行のための措置です。禁止条約は、核兵器に関する既存の国際法体制の抜け穴を塞ぐことになります。つまり、条約によって、核兵器を使用、実験、製造、備蓄することはどの国にとっても違法行為であることが明白になるのです。」とライト氏は語った。

ライト氏はさらに、「オーストラリアをはじめ核兵器に肯定的な数カ国がNPTへの支持を取り下げてしまったかに見えるのは憂慮すべき事態です。これらの国々は、核軍縮に向けた交渉を誠実に追求することを規定したNPT第6条の義務に従うことを、拒否しているのです。」と語った。

NPTでは、191の全締約国が第6条において、「核軍備競争の早期の停止および核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、ならびに厳格かつ効果的な 国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉をおこなう」ことを約束している。

「1996年に国際司法裁判所が、この交渉を妥結させる義務を締約国は負っているとの勧告的意見を出しました。決議L.41はこの義務に沿い、それに現実的な表現を与えたものです。」と語るのはオーストラリア国立大学クロフォード公共政策校核不拡散・軍縮センターのセンター長のラメシュ・タクール氏である。

NPTに加盟した5つの核兵器国のうち4カ国(フランス、ロシア、英国、米国)は、NPT未締約国であるイスラエルと共に決議に反対した。約260発の核弾頭を保有する中国、100発から120発の核を保有するインド、110発から130発を保有するパキスタンは棄権した。

「核兵器禁止条約という法律それ自体が核軍縮をもたらすわけではありません。しかし、低迷している勢いを取り戻し、禁止から核弾頭の完全廃絶へと核兵器インフラの解体につながるような取り組みを再活性化させる不可欠な要素となり得るのです。」とタクール氏は語った。

タクール氏はさらに、「核兵器の法的禁止は、通常兵器と核兵器との間の規範的境界線をさらに強化し、核兵器不使用の規範を強め、不拡散規範と軍縮規範の双方を再確認するものとなります。従って、核禁止条約はNPTの軍縮目標を補完し、普遍的で非差別的、かつ完全に検証可能な核兵器禁止条約の将来的な制定に向けた努力に推進力を与えることになるのです。」と語った。

Ramesh Takur/ ANU
Ramesh Takur/ ANU

オーストラリアは、1973年にNPTに批准して以来、世界的な核問題に対しておおよそ超党派的なアプローチを維持してきた。労働党の上院議員で影の外相であるペニー・ウォン氏が報道発表で述べたように、「労働党は不拡散と軍縮に向けた効果的で実行可能な行動を支持し、これらの目的に向けた道を積極的に追求しつづける。労働党は、軍縮のペースの遅さに対する国際社会の苛立ちを共有しており、核兵器廃絶の大義にコミットし続けている。」

オーストラリア緑の党もまた、ジュリー・ビショップ外相に対して、同国がなぜ決議に反対したのかを説明するよう求めている。

「オーストラリアは核兵器廃絶のための条約に向けた動きを国連総会で支持すべきです。オーストラリアは、外交政策を情勢の変化に対応したものへと変更し、ドナルド・トランプ氏が来年1月に米国大統領に就任する前に、オーストラリアの国益を独自に追求すべきです。例えば、国連憲章の不可侵条項や、東南アジア友好協力条約を順守することなどが含まれます。」とオーストラリアの元外交官であるアリソン・ブロイノウスキー博士はIDNの取材に対して語った。

2014年に「ニールセン」が幅広い年代層を対象に行った世論調査では、オーストラリア国民の84%が、核兵器の法的禁止を政府に求めているとの結果が出ている。

ICAN豪州支部の渉外コーディネーターであるジェム・ロムルド氏はIDNの取材に対して、「オーストラリアにおける活動を通じて、私たちは核兵器を違法化し、絶対悪とみなし、この大量破壊兵器にどんな形であれオーストラリアが関与することを排除する条約に対して世論の圧倒的な支持があると感じています。『関与』とは例えば、北部準州のパイン・ギャップにある米豪共同運営の軍事スパイ基地を通じて米国による核攻撃を支援する行為を指します。オーストラリアは、主要な通信基地であるこの施設のホスト国となることによって米国の戦闘能力の維持を支援し、核戦争の際に核兵器が標的に到達する手助けをしているのです。」と語った。

核保有国は近年、核戦力を近代化し増強する高価なプログラムを追求している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2016年の年次核戦力データによると、世界全体の核兵器の数は減り続けているものの、核保有国のいずれも、予見しうる将来において核戦力の放棄を予定していない。

2016 Estimated Global Nuclear Warhead Inventries/ Arms Control Association

SIPRIによれば、「2016年初頭時点で、9つの核兵器国(米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が合計で約4120発の作戦運用可能な核兵器を保有している。もしすべての核弾頭を数え上げたならば、これらの国々は合計で約1万5395発の核兵器を保有していることになる。2015年初頭には1万5850発だった。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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急速に減少する最貧困層

【ルンド(スウェーデン)IDN=ジョナサン・パワー】

ドナルド・トランプ次期大統領は、自身の減税策で米国の富裕層をさらに富ませようとしている。恥ずべき考え方だ。しかし、米国の歴史を振り返れば、過去200年にわたって、実は貧者の方が一般に思われているよりもよくやってきている

以前と比べれば、今日私たちをとりまく環境は大きく改善している。つまり、水道、暖房、電気の普及、天然痘や結核の心配のない生活、適切な栄養、以前よりずっと低い乳幼児・妊産婦の死亡率、2倍になった平均余命、ますます発展する医療の仕組み、身近になった避妊の手段、中等教育を受けられる子供の増加、大学に進学できる機会の向上、バス・電車・自転車の普及、弱くなった人種的偏見、延長された退職時期、購入する商品の質の向上、改善された労働条件、それに投票権。

かつて、こうしたものは富める者だけが享受できる贅沢であった。多くの研究によって、貧しい人の生活が向上するにつれて幸福感は急速に増すが、ある時点(1人あたり年間収入1万5000ドルレベル)を越すと、幸福感が増すペースは鈍ることが明らかになっている。今日、最も貧しい人々のほとんどが、まだまだ先は長いとはいえ、祖先よりも幸せな生活を送るものと期待されている。

欧州やカナダ、日本でも事情は同じだ。近年では、ラテンアメリカの大半の国々においても、(依然として人口の2割が深刻な貧困下にあるが)同じ状況である。(戦争以前のイラクとシリアを含めた)中東、中国、インド、パキスタン、スリランカ、東南アジア、北部アフリカでも、進展がめざましい。アフリカにおいてはそのペースはやや遅れてはいるが、南アフリカ共和国、ナイジェリア、コートジボワール、ガーナ、セネガル、ルワンダ、ガボン、エチオピア、タンザニア、ウガンダ、ケニアでの生活水準はよくなっている。

Bourgeois Equality/ The University of Chicago Press Books
Bourgeois Equality/ The University of Chicago Press Books


『ブルジョアの平等:いかにして資本や制度ではなく、理念が世界を豊かにしてきたのか』の著者ディアドラ・マクロスキー氏はこれを「大いなる豊かさ(Great Enrichment)」だと呼んでいる。

1日2ドル以下の収入で生活する最貧困層も、他の階層ほどではないが、こうしたことを経験している。最貧困層は、急速に減少しつつある集団だ。1993年からの20年余で、最貧困層の数は10億人以上も減少した。1990年と2010年の間に、5歳の誕生日までに死亡する児童の割合は半減した。なかでも、マンモハン・シン首相胡錦濤国家主席の下で、インドと中国では最貧困層の割合を最も減らした。

『エコノミスト』によれば、最貧困層の人々は、1日あたり平均1.33ドルで生活しているという。極度な貧困をなくすためには、1人あたりわずか0.67ドルが必要だということになる。これにかかるコストは年間わずか780億ドルで、世界全体のGDP合計の0.1%以下だ。

一般的な通念に反して、世界金融危機が8年前に始まって以来、世界はより平等な場所になりつつある。ブラジルやインド、中国の経済成長が、英国で産業革命が始まって以来、最大の不平等の減少をもたらしている。

また、戦争の影響という要素もある。人類の歴史においては、冷戦終結以降、今日ほど戦争の数が少なかった時代はない。いつの時代も、貧しい人々が、戦争によってもっとも脅威に晒される人たちだ。

スティーブン・ピンカー氏が2001年に著した『暴力の人類史』(原題はThe Better Angels of Our Nature)によれば、戦争による世界全体での死亡率は、第二次世界大戦時の10万人あたり300人が、1970・80年代には1ケタになり、今世紀には1人以下になった。

世界の6割の国々が今や民主主義国である(1940年には、両手で数えられるぐらいしかなかった)。民主主義国同士は、ほとんど互いに戦争をすることはない国連の平和維持活動の数は大幅に拡大し、大いに成功を収めている。世界で唯一の超大国である米国は、シリアの場合がそうであったように、バラク・オバマ大統領の下で、戦争に巻き込まれるリスクを警戒するようになっており、手を引く時期を窺っている。

殺人・犯罪率は急速に低下している。貧しい人々は特に犯罪によって傷つけられやすい。欧州における殺人率は中世と比較すると35分の1にまで低下した。殺人率は、19世紀末以来の進歩の傾向を逆転させて、最も低かった1970年代・80年代から再び上昇の兆しがあるが、それでも、21世紀になって75カ国で殺人率が急落している。

暴力的な犯罪はとりわけ先進国において急速に減少している。これは収監率が上がったためではない。警察の戦術が著しく改善されたためだ。DNA型鑑定によって犯罪者を追跡することが容易になった。中絶がより容易になったために、子どもに対処できない麻薬依存者やアルコール中毒者、シングルマザーの子として生まれ、結果的に犯罪に染まりやすくなる人々の数は大幅に減少した。

とりわけ、有鉛ガソリンが175カ国で廃止された点は特筆に値する。鉛にさらされると人間の脳は損傷を受ける。鉛によって障害を抱えた脳の部分は、人間の攻撃的な衝動をつかさどる部分と同じである。かつて車やトラックが世界中に広まった20世紀中盤から末にかけて、犯罪は急増している。

私たちはここからどこに向かっているのだろうか? 間違いなく、それはより豊かな方向だと信じたい。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【伊勢/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ、浅霧勝浩

土井孝子氏は、地元三重県伊勢市を拠点に、持ち前の誠実さと行動力で、国際協力・親善を育む各種教育・交流プログラムを熱心に手掛けてきた人物である。土井氏は日本の伝統文化に深く根ざしながらも、広く国際社会を見据えている。

土井氏が理事長をつとめるNPO法人咢堂香風(2006年設立)は、2010年からは伊勢市からの委託を受け「尾崎咢堂記念館」を運営管理している。伊勢市は、天照大御神を祀る内宮・外宮をはじめ125の宮社からなる伊勢神宮を擁することから「神都」の異名をもつ門前町である。

Kōtai-jingū (Naiku) at Ise city, Mie prefecture, Japan/ N yotarou - Own work, CC BY-SA 4.0
Kōtai-jingū (Naiku) at Ise city, Mie prefecture, Japan/ N yotarou – Own work, CC BY-SA 4.0

5月、記者らは土井理事長の案内で伊勢神宮を参拝する機会を得た。伊勢神宮の広大で静寂な森の中に佇む宮社群は、釘を一本も使わず檜の部材を巧みに組み合わせる伝統技術が用いられた唯一神明造という建築様式である。さらに、内宮、外宮及び五十鈴川に掛かる宇治橋は、自然界の死と再生、万物の無常性を信ずる神道の考え方に則り、また伝統技術を世代を超えて継承する手段として、20年毎に新たに建て替えられている(式年遷宮)。

土井理事長とNPO咢堂香風は、伊勢神宮が体現している価値観に寄与する一方で、世界平和の実現と人権の確立に生涯をかけて取り組んだ故尾崎行雄(雅号〈ペンネーム〉は咢堂)の精神を後世に伝えていく活動に取り組んでいる。尾崎行雄は第1回衆議院議員総選挙で現在の伊勢市より出馬・当選して以来、63年間(1890年~1953年)に亘って衆議院議員として日本の立憲政治の確立と世界平和の実現に尽力したことから、「憲政の神様」「日本の立憲民主主義の父」として今なお尊敬を集めている。

1994年、尾崎咢堂の志と生き方を学ぼうと、「咢風会」・同女性部会「香風」(=NPO咢堂香風の前身)が創立され、講演会の開催や勉強会、討論会を通じた啓発活動、国際親善交流などの草の根の活動が始まった。

「咢堂香風の『咢堂』は尾崎行雄先生の雅号に由来しますが、『香風』の『香』は、会の活動に絶えず助言を授けていただいた尾崎先生の三女・故相馬雪香先生から一文字いただいたものです。」と土井理事長は説明した。

Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Yukika Sohma/ Ozaki Yukio Memorial Foundation

咢堂香風では、毎年12月の尾崎咢堂の誕生日に近い休日に「尾崎行雄生誕祭」と銘打って記念式典とともに、研究者や識者による講演会を開催している。

「また、市議会議員など各方面の専門家を招いて、未来を背負う子供たちと将来を語り合う行事も実施しています。尾崎行雄生誕祭は、憲政の神様・尾崎行雄の功績を振り返りその高邁な精神を学ぶ、『咢堂香風』の根幹をなす行事です。」と土井理事長は語った。

「咢風会」「香風」は1994年、地元や日本の未来を担う子供たちに尾崎行雄の心を伝えようと、伊勢市近郊の小・中学生を対象に尾崎咢堂読書感想文コンクールを開始した。

「コンクールは今年度で22回目を迎えます。初年度には応募作品はわずか13点でした。咢堂香風の会員による広報活動と学校の理解を得て、年々応募者数も増え、これまでに合計約6500点を超えるまでになり定着してまいりました。」

受賞者には咢堂生誕祭において表彰式が行われ、市長賞、議長賞、教育委員会賞、他の各賞が授与される伊勢市でも大きな年中行事になっている。

伊勢市は桜の名所が多い地としても知られている。とりわけ宮川堤の桜は、日本の桜100選に選ばれている。尾崎咢堂記念館はこの名所にかかる橋を渡ったところにある。記念館の庭園には、尾崎行雄が100年前にアメリカのワシントンDCに寄贈した桜をルーツとする苗木(=里帰りの桜)が植えられている。

「伊勢の風物詩といえる桜の季節を子どもたちに存分に味わわせてやりたい。また、桜の写生をとおして自然の美しさや偉大さを感じるとともに、尾崎行雄をはじめ桜に関わった人々に思いをはせ郷土を愛する気持ちを育てたい…そんな思いをねらいに、『桜の写生コンクール』を、小学生を対象に実施しています。今年度で6年目ですが、伊勢市内の全小学生の1割ほどの応募をいただき、年を追うごとに大きな反響を得ています。」と土井理事長は語った。

Ozaki Gakudo Memorial Hall
Ozaki Gakudo Memorial Hall

咢堂香風は、21年前に「全米さくらの女王」と親善訪問団が初めて伊勢の尾崎咢堂記念館に来館したのをきっかけに、伊勢市近郊の女性から応募者を募り「花みずきの女王」を選出した。「花みずきの女王」は、米国とのいっそうの交流を深めるために、尾崎咢堂が東京市長時代に寄贈した桜の返礼にアメリカ合衆国大統領によって日本に贈られた花みずきにちなんで設けられた親善使節である。

Hanamizuki Queen/ NPO Gakudo Kofu
Hanamizuki Queen/ NPO Gakudo Kofu

1998年以来、これまでに7代の女王が選出され、ワシントンDCを訪れ、市民団体との交流、行政機関への訪問、全米さくら祭りパレードなどに参加している。桜寄贈100年をむかえる節目となった2012年4月の全米さくら祭には、土井理事長を団長に、女王のほか準女王2名、友好大使3名、親善大使1名を選出して訪米し、大きな反響を得た。

「全米さくらの女王」を決めるグランドボール(大舞踏会)では「花みずきの女王」は全米各州代表の「さくらのプリンセス」たちと共に会場でお披露目されている。このパーティーで選出される「全米さくらの女王」は毎年日本を訪問している。さらに1995年からは、咢堂香風が受入団体となり、毎年伊勢にも訪問している。伊勢神宮への正式参拝や三重県知事・伊勢市長への表敬訪問、御木本真珠島、尾崎咢堂記念館訪問などを行い、私たちも歓迎行事を催して国際交流の進展が続いている。

米国の首都ワシントンDCで4月に開催される全米さくら祭りパレードでは、「花みずきの女王」と準女王たちは花車やオープンカーに乗り、「From Ise Japan」というアナウンスとともに沿道の人々から拍手喝采を受けている。

NPO Gakudo Kofu
NPO Gakudo Kofu

土井理事長は、2003年のイラク戦争の最中に、テロの危険を超えて、伊勢からの使節団の団長として2万4千の千羽鶴を携えて全米桜祭りに参加した際のことを想起して、「渡米することとした当時の判断を誇りに思っています。これを契機に咢堂香風の活動がアメリカ側で知られるようになり、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ両大統領をはじめ多くの方々から感謝状を授与されました。」と語った。

土井理事長はまた、「尾崎咢堂が『人生の本舞台は常に将来にあり』という言葉を詠まれたのは74歳のときでした。」と指摘したうえで、「私たち咢堂香風もこの言葉を胸に、尾崎行雄の業績や精神を地域はもとより日本や世界へ、また時代を超え将来にむけて発信していきたい。」と語った。

大島理森衆議院議長兼尾崎行雄記念財団会長は、咢堂精神の普及に長年尽力してきた土井理事長の功績を讃え、10月28日に憲政記念館で開催された同財団創立60周年記念式典において特別感謝状を授与した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

https://www.youtube.com/watch?v=nDKJ-YIz-9A

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戦争の悪化を防ぐジュネーブ条約

【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

戦時下にある国に住んでいる人、または近隣諸国が戦闘状態にある国に住んでいる人々の圧倒的多数が、「戦争にも制限をかける差し迫った必要性があると考えている」との新たな調査結果が出た。そうした国々の回答者の約半数が、ジュネーブ諸条約が紛争の悪化を防ぐと考えていた。

しかし、国連安全保障理事会の5常任理事国(P5)の国民は、民間人に被害と苦しみが生じることについて、紛争地や近隣諸国に住む人々よりも、「戦争の避けられない部分として仕方がない」と考える傾向にあるようだ。

ICRC
ICRC

戦争の証言People on War)』と題されたこの調査は、国際赤十字委員会(ICRC)が12月5日に発表した。世界中の人々が戦争に関連した様々な問題をどう捉えているのかを検討したものだ。

1万7000人以上を対象にしたこの調査は、2016年6月から9月にかけて16カ国で実施された。調査当時に武力紛争状態にあったのは、イラク、アフガニスタン、南スーダンなど10カ国。さらに、国連安全保障理事会の常任理事国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)が調査対象に加わり、ICRCに代わってそれぞれの対象国において、WIN/ギャラップ・インターナショナルとそのパートナー団体が、調査を実施した。この種の調査としてはこれまでで最大規模のものであった。

回答者の8割が、敵を攻撃する際に戦闘員はできる限り民間人を避けるべきだと答えている。また、同じく8割の人が、敵を弱体化させるために病院や救急車、医療関係者を攻撃するのは誤りだと考えていた。

しかし、回答者の実に36%が、重要な軍事情報を引き出すために敵の戦闘員に拷問を加えても構わないと考えていた。半数よりわずかに少ない人たち(48%)がこうしたことは誤りだと答えた(1999年には66%)。「わからない」と答えたのは16%だった。

「このような困難な時代にあって、大多数の人々が国際人道法を守ることが重要だ、と考えていることを知って心を動かされました。しかし、私たちは日々現場で、国際人道法の違反を目の当たりにしています。調査と現実は真逆の結果でした。」とICRCのペーター・マウラー総裁は語った。

 「拷問はいかなる理由があっても禁じられています。今回の調査では、この重要な点について、今一度世の中に喚起していかなくてはならないということが、明らかになりました。私たちは、自分たちの責任のもとで敵対する相手を罰してしまいがちです。しかし、戦時下にあったとしても、人道的な処遇を受ける権利を誰もが有しています。拷問は敵対心をあおるだけです。拷問を受ける側の影響は計り知れず、何世代にもわたり社会に禍根を残します」とマウラー総裁は付け加えた。

この調査は、戦時下にある国に住んでいる人、または近隣諸国が戦闘状態にある国に住んでいる人は、国際人道法を重要と考える傾向が強いことを明らかにした。しかし、常任理事国における調査結果では、多くの人が、一般市民の犠牲や苦しみは戦争の一部であって、ある程度は仕方がない、と考えている実態を明らかにした。

戦時下にある国に住む人の78%の人々が、「敵対する戦闘員に対して人口過密地で攻撃を行うことは、一般市民の犠牲者が増えるため間違っている。」と回答した。一方、常任理事国において同じように答えたのはわずか50%だった。

常任理事国に住む26%の人々が、「敵を弱体化するために、食料や水、医薬品といった必需品を民間人の居住地帯から奪うことは『戦争の一部』にすぎない。」と考えていた。」一方、戦時下にある国々では、14%がこの見方であった。

Peter Maurer/ ICRC

マウラー総裁は、「世界中の紛争の最前線から届く目を覆いたくなるような場面を目の当たりして、紛争下の人々が強いられている苦痛に無関心でいるのではなく、是非彼らの苦しみを想像して心を寄せてください。」と訴えるとともに、「一方で、ジュネーブ諸条約を軸とした国際人道法が求めている紛争下の市民の保護については、多くの人が非常に重要であると認識していることが分かり、心強くも思っています。」と語った。

4つのジュネーブ条約と追加議定書は、一般市民や負傷者、投降した戦闘員など、戦闘に参加していない人々への影響を最小限に抑えることを目的に作成された。

「国際人道法の意義や有効性が、歴史上かつてないほど問われている時なのかもしれません」「戦争とはいえやりたい放題は許されない、と人々が信じているのも明らかです。一般市民や病院、人道支援従事者への攻撃は許されない行為だと信じている一般大衆と、実際にこのような行為を行っている各国や罰則規定のない政策の間に乖離(かいり)があることも、今回の調査で判明しました。」とマウラー総裁は付け加えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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