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ヘイトクライムの背後にあるのは信仰ではなく信仰者の操作

【ニューヨークIDN=ショーン・ブキャナン】

世界各地で礼拝所を標的とした一連のヘイトクライムによる攻撃が仕掛けられる中、異文化間対話のためのフォーラムが5月2日に開かれ、「こうした卑劣な攻撃にはひとつのパターンがある。それは『他者』への憎悪であり、加害者らは、宗教コミュニティ全体を乗っ取り、宗教間の対立を煽っている。」と指摘された。

国連「文明の同盟」特別代表のミゲル・アンヘル・モラティノス氏は、アゼルバイジャンのバクーで開かれた第5回「文化間対話に関するグローバルフォーラム」(国連後援)で演説し、問題は決して信仰そのものにあるのではなく、「聖典の歪んだ解釈により信仰者を背後で操作し、互いに対立させようとする者たちの存在なのです。」と語った。

モラティノス氏はさらに、「長引く紛争とテロリズム、暴力的過激主義の不安定な結びつきは、国際社会にとって難題であり続けており、暴力的な過激主義者らは「私たちの社会を分断し、不安定の種をまき散らそうとしているのです。」と語った。

Mr. Miguel Ángel Moratinos/ UNAOC
Mr. Miguel Ángel Moratinos/ UNAOC

モラティノス氏は、第5回グローバルフォーラムのテーマである「差別・不平等・暴力的過激主義に対抗する対話から行動へ」はきわめて時宜を得たものであり、「フォーラムに集った人々は、最近発生している恐るべきテロ攻撃について間違いなく真剣な考察を加えていくことになるだろう。」と語った。

「私は今日、ある決意を持って皆さんの前に立っています。」とモラティノス氏は語った。同氏はその前日、スリランカのコロンボで日曜日の復活祭の最中にカトリック教会やホテルへのテロ攻撃によって犠牲になった250人以上の人々に対して哀悼の意を捧げて来たばかりだ、と説明した。

モラティノス氏は、「礼拝所を標的にしたヘイトクライムとテロ攻撃が頻発しています。」と指摘した上で、「これは、いかなる宗教、国、民族もこうした言語に絶する暴力から逃れられない事実を私たちに突き付けている。」との見方を示した。

モラティノス氏は、ユダヤ教の信者らがカリフォルニアのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で「過越の祭」の最終日に参加する中で攻撃されたこと、昨年には、ピッツバーグのシナゴーグで襲撃があったことを指摘した。これらの事件は、フィリピンの大聖堂への攻撃や、クライストチャーチ(ニュージーランド)でのモスク乱射事件といった、同様の暴力的事件が発生する中で起こったものだった。

SNSは『怒りを焚きつける』だけ

モラティノス氏によれば、SNSは「怒りの火に油を注ぐ」だけだという。これに、急進的な白人至上主義で極右的な人々が「歪んだイデオロギーを吐き出す」たまり場となる闇サイトが加わる。

モラティノス氏は、「暴力的過激主義を予防することと、持続可能な平和を実現することは、相互補完的な関係にあり、一方が強化されれば、もう一方も強化される目標です。」と指摘したうえで、「紛争と暴力的過激主義を予防する基本的なツールとして対話がいかに重要であるかは、いくら強調しても強調しきれません。」と語った。

モラティノス氏は、地域に根差した取り組みを通じて暴力的過激主義に対する対抗的な語りを提供したり、異文化•宗教間対話を促進し、SNSを積極的に利用してヘイトスピーチに対抗したりする若者の役割を強調して、「結局のところ、これらの若者たちは、将来にわたってのみならず、今日の私たちにとっても希望なのです。彼らの活動は、『暴力的過激主義を予防する行動計画』に従って安保理が委託した『若者・平和・安全保障』に関する最近の進捗報告で打ち出された勧告に対応したものです。」と語った。

排除の「余地なし」

ユネスコのナダ・アル=ナシフ事務局長補(人文・社会科学担当)は開会の挨拶で、異文化間対話と相互理解を促進する重要性を強調した。

UNESCO
UNESCO

文化間・文明間の効果的かつ効率的な対話を確立すべく10年前にアゼルバイジャンによって立ち上げられた「バクー・プロセス」について指摘したアル=ナシフ氏は、「これまで長い道のりをたどってきましたが、具体的な行動でもって継続性と新たなインパクトを生み出せるフォローアップが必要です。」と語った。

アル=ナシフ氏はまた、憎しみや不寛容、無知を蔓延させる分断の力が新たに生まれていると指摘したうえで、「文化の多様性が排外主義的なポピュリズムの圧力によって危機にさらされている時代にあって、世界は近年最悪の難民・避難民の危機に直面しています。また、個人やコミュニティをうまくつなげる能力を持った新技術が濫用され、分断と無理解の種がまかれています。」と語った。

アル=ナシフ氏はさらに、「深く、時として予測不能な変化を遂げつつある社会において包摂と連帯を強化する緊急の必要がある」と強調したうえで、「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』を前進させるために必要な革新を媒介するうえでも若者たちの役割は重要です。」と語った。

「今日国際社会が直面している諸課題は複雑であり、国境は問題を解決するうえで意味をなしません。従って、問題解決の手段として単独主義や排除がまかりとおる余地はないのです。」

目標とすべきは、「人権と相互尊重を基礎にした変化を受け入れること、そしてそれを前向きな方向へと導き、すべての人にとってより公正で包摂的で持続可能な未来を作ることです。」

「そのためには対話がカギを握ることになります。」つまり、「人間の心に平和の砦を築くというユネスコの任務の中心に据えられている理念もまさに対話に他なりません。」と、アル=ナシフ氏は語った。

アル=ナシフ氏はまた、教育こそが「偏見を打ち砕き、無知や無関心と闘うことで暴力的過激主義につながるプロセスを壊す最も効果的な方法であり、多様性こそが、包摂的で持続可能な社会を実現するために鍵となる資源です。」と指摘したうえで、ユネスコは人権としての教育を弛みなく保護していくと強調した。

バクーの「前向きなプラットフォーム」プロセス

アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は、バクー・プロセスについて、「文化間対話に関する国際社会の関心に焦点を当てた、『正しい決定を下すための望ましく前向きなプラットフォーム』である。」と説明した。

アリエフ大統領はさらに、バクー・プロセスは欧州と世界のその他の地域との間における「最も重要な動きのひとつ」であり、「文化、宗教、政治、経済、安全保障問題に関してさらなる対話が必要です。」と語った。

イスラム協力機構のユーセフ・アル=オサイミーン事務局長は、今日の世界にはあらゆる種類の差別があふれていると嘆いた。

アル=オサイミーン事務局長は、「テロリズムには、宗教も民族も国籍もありません。」と指摘したうえで、文化間の対話が「絶対に必要だ」と呼びかけた。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

欧州評議会のガブリエラ・バッタイニ=ドラゴーニ事務次長は、平等な権利とすべての人々の尊重を基礎にした包摂的な社会の実現には、理解が必要だと語った。

ドラゴーニ事務次長は、「文化間対話の促進は一過性の出来事ではなく、終わりのない挑戦であり、それには、不安を和らげ、無知を振り払う教育が必要です。さらに、相互に安心感を与えて協力することで、諸政府は政治的意志を基盤とした社会的包摂に道を開くことができます。」と語った。

イスラム教育科学文化機構のアブドゥラジア・オスマン・アルトワイジリ事務局長は、文化間対話を成功させる政治的意志の必要性について熱く語った。

アルトワイジリ事務局長は、「政治的意思なしには過激主義の高揚と闘うことはできません。」と指摘したうえで、この点で進展をもたらしていない、超大国から国連安保理に到る、世界の意思決定者らを厳しく批判した。(原文へ)

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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中東和平を目指す諸宗教連合

核廃絶への世界的支持が頂点に(ジョナサン・フレリックスWCC平和構築、軍縮エグゼクティブ)

中東の核拡散対策に新たな試み

【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】

中東非大量破壊兵器地帯(WMDFZ)と中東非核兵器地帯(NWFZ)の創設に関する会議(=中東会議)は、2018年12月の国連総会第一委員会がある決定を下すまでは忘れ去られていたようだ。その決定とは、世界で最も不安定な地域の一つである中東において、核拡散のリスクに対処する国際会議の「招集を国連事務総長に委託する」というものであった。

1995年核不拡散条約(NPT)再検討会議で、NPTの無期限延長を定めた一連の決定事項の一部として、「大量破壊兵器、すなわち、核兵器、化学兵器、生物兵器、並びに、それらの運搬手段を効果的に検証可能な形で中東から廃絶した地帯を創設すること」が要請されていたという事実に、この国連総会第一委員会決議の重要性が表れている。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

1990年にエジプトが初めて提案した中東WMDFZは、この地域にNWFZの創立を提案する長い歴史の中で出てきたものだ。同時追求が目指されたこれら2つの提案には、国際社会の幅広い支持があるものの、実際にはほとんど進展してこなかった。

2018年12月22日、国連総会第一委員会は、アルジェリア、バーレーン、コモロ諸島、ジブチ、(国連加盟メンバーであるアラブ連盟を代表した)エジプト、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、チュニジア、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメン、パレスチナの修正案に対する採決を行った。

軍縮・国際安全保障委員会(DISEC)とも呼ばれている国連総会第一委員会は、国連事務総長に対して、「核兵器およびその他大量破壊兵器のない地帯を法的拘束力のある形で中東に創設する協議がまとまるまで」、国連本部において毎年1週間の会議を開くよう要請した。さらに、この点に関する進展を国連総会に毎年報告するよう求めた。

イスラエル・ミクロネシア・米国は決議に反対し、71カ国が棄権した。

中東のWMDFZおよびNWFZ構想が実現可能なのか、単なる幻想に終わるのかは、まだわからない。

中東会議招集の前提条件として、次のようなものが付された。▽1995年NPT再検討会議で採択された中東決議を参照すべきかどうか、▽中東諸国家の自由意思によってなされた取り決めを基礎に、中東にWMDFZおよびNWFZを法的拘束力のある形で創設する協議をまとめることを目指すべきかどうか、▽この会議でなされる全ての決定は、中東のすべての国家の全会一致によるべきかどうか。

会議はさらに、1995年NPT再検討会議での中東決議の共同提出国でありNPTの寄託国でもある米国・ロシア・英国の特別な責任を確認し、1995年、2000年、2010年の各NPT再検討会議の最終合意に従って関連する義務を果たすよう、この3カ国に呼びかけた。

国連総会第一委員会決議はまた、国際原子力機関(IAEA)、化学兵器禁止条約機構(OPCW)、生物兵器禁止条約履行支援ユニットに対して、会議開催に必要な基礎的文書を準備するよう要請した。

IAEAの天野之弥事務局長は、4月2日の安保理に対するブリーフィングで、「中東会議のために、同会議のファシリテーターに対して基礎的文書をIAEAとして2012年に提出しています。」と語った。報告書では、IAEAが行ってきた活動と、中東非核兵器地帯の態様に関して得られた経験について記されている。

IAEA Director General Yukiya Amano at the IAEA Headquarters in Vienna, Austria. 28 May 2014./ By IAEA Imagebank - Danilo Türk & Yukiya Amano (01910499), CC BY-SA 2.0
IAEA Director General Yukiya Amano at the IAEA Headquarters in Vienna, Austria. 28 May 2014./ By IAEA Imagebank – Danilo Türk & Yukiya Amano (01910499), CC BY-SA 2.0

天野事務局長はまた、「IAEAは、加盟国から要請があれば、検証の履行に関する経験を共有することで核軍縮における役割を果たす用意があります。」と語った。

ロシア外務省は、今回の国連総会第一委員会決議は「論理的かつバランスの取れたもの」であり、「中東諸国の利益を満たしたもの」であると評した。ロシアは、以前からの合意(①会議が全ての中東諸国に開放されており、参加は各国の自発的な判断によるものであること、②中東諸国の自由な対話を通じて、そして全会一致の原則によってのみ合意がなされるという了解、③意図的な期限の設定を慎むこと)に沿って交渉を進める重要性を強調した。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の新たな報告書が指摘するように、中東非核兵器地帯創設に向けた国際的な取り組みには40年の歴史がある。いわゆる1995年NPT再検討会議における中東決議によって、中東に非WMD地帯を創設するというより大きな目標がNPT再検討プロセスの一環となった。

1月に出されたSIPRI報告書の著者ティッティ・エラスト氏は、「非WMD地帯提案をめぐって諸国を長らく分断してきた主要な問題は、それを、より安定的かつ安全な中東を『実現する手段』と見るか、それとも、中東の安全保障環境『改善の帰結』と見るかという点にあります。」と指摘した。

エラスト氏はまた、「協議の順番を解決する方法は容易ではありませんが、中東非WMD地帯を推進するさらなる取り組みには、両方の視点が必要です。」と語った。SIPRI報告書は、「どちらのアプローチも、中東決議をめぐる対立が2020年のNPT再検討会議で出てくることは妨げられないが、中東の軍備管理・軍縮の目標を促進し、長期的にはNPTを強化する可能性を、そのどちらもが秘めている。」と指摘している。

SIPRI報告書はさらに、「他の中東諸国が、イスラエルからの相互的な措置を待たずに、建設的な軍備管理対話を開始し、あるいは、軍備管理に関する自らの公約を強化すべく突き進もうとするのなら、非WMD地帯への舞台を設定する大きな進展を得ることができるかもしれない。」と述べ、中東唯一の核保有国を除いて非WMD地帯を創設するという第一のアプローチの方が比較的実行が容易、と指摘している。

エラスト氏は、「そうしたアプローチは、国連の支援による中東会議の実施を呼びかけた国連総会第一委員会決議によって、新たな政治的推進力を得ています。」と指摘したうえで、「アラブ諸国やイランによる本気度が、このプロセスを維持するのに十分なものであれば、この計画は成功する可能性があります。」と語った。

3つの寄託国(米国・英国・ロシア)すべてからの支持があれば、イスラエル参加の可能性が増し、NPTにおける中東決議の不履行をめぐる緊張の安全弁として機能するかもしれない。

軍備管理協会「不拡散政策プログラム」の責任者ケルジー・ダベンポート氏が指摘するように、中東のWMDFZやNWFZに対して国際的な支持があり、中東のすべての国々によるものも含め、数々の決議が採択されているにも関わらず、非核・非大量破壊兵器地帯創設に向けたステップの条件や順番を巡る諸国の対立により、実際的な進展が妨げられてきた。

イスラエルは、中東に存在する脅威や安全保障上の懸念に関する認識の違いを反映して、WMDFZ創設に関する議論を、まずは中東地域に包括的平和が実現し、中東諸国が国際責務を遵守する環境が整っていることが前提条件とする問題と結びつけている。アラブ諸国はこれに対して、そのような結び付け方をするべきではなく、むしろWMDFZを創設することが、平和的関係の構築に資すると論じている。

加えて、将来的なWMDFZによって、1995年NPT再検討会議の中東決議にあるように、核兵器および化学・生物兵器の保有・取得・実験・製造・使用のみならず、その運搬手段をも禁じられることになる。

何がこれらの非通常兵器を構成するかという定義は、核兵器、化学兵器、生物兵器に関する国際諸条約や、1948年の「通常軍備に関する国連委員会」決議に含まれている。この地帯の下で禁じられることになる運搬手段の規制に関しても、共通の了解が必要となるだろう。(原文へ)

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カザフスタンの村祭りを取材

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

中央アジアのカザフスタン南部のアルマトイ県。アルマトイから西に約100キロの位置にデゲレス村がある。2019年5月1日、この村の創立100周年のイベントに、数少ない外国人として参加し、祭りの様子を映像に収録した。

On May 1, I was cordially invited to join a village festival at Degeres, about 100 km west from Almaty, Kazakhstan where local villagers cerebrated the 100th anniversary of the foundation of the village. We were among a very few foreigners joining their festival and experienced a genuine Kazakh hospitality.

INPS Japan

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|ガーナ|カンタベリー大主教、反LGBTQ法案に懸念を表明

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

キリスト教徒が約7割を占めるガーナで審議されているLGBTQコミュニティに厳しい罰則を科すであろう法案(正式名:適切な人間の性的権利とガーナの家族の価値観の促進)について、英国国教会のカンタベリー大主教が「深刻な懸念」を表明した。法案が可決されれば、LGBTQは投獄(最高懲役十年)か、「(性的志向を変える)転向療法」を強制されることになる。大主教は、「私たちは教会の世界的な家族ですが、教会の使命はすべての文化と国で同じです。その行動と言葉を通して、イエス・キリストを通してすべての人間に無条件の愛を神が提供することを示すことである」と述べ、LGBTQコミュニティーの権利を侵害することになる法案を非難した。(原文へ)

INPS Japan

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|キルギス|家畜市場が地域経済の中核を占めている

Andakulova Gulmeera with the horse. 
Andakulova Gulmeera with the horse. 

【アト・バシIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

INPSと中央アジア大学の共同プロジェクト:中央アジアのキルギスから、地域住民の生活に欠かせない市場の取材を通じて、中国が新たに整備した新シルクロードのインパクトや変わりゆく人々の営みを紹介した記事。(原文へ)

INPS Japan

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キルギスの地域社会を世界につなぐラジオ

【スーサミール(キルギス)IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

中国が最近再整備した新しいシルクロードを旅するには、もう夏が近づくというのに雪に覆われた険しい山を車で登っていかねばならない。キルギスの首都ビシケクから続く道は、4000メートルの頂に上った後、美しい谷へと向かって1500メートル以上も下り、この国でもっとも辺鄙なところにある村へと至る。ここには、住民が伝統的に遊牧生活を送ってきた人口約1300人のスーサミール村がある。|ドイツ語 |  トルコ語|英語|

一部の熱心な若いボランティアたちによって運営されているコミュニティー・ラジオのプロジェクトは、ブロードバンド時代のラジオに新しい意味合いを与えつつある。この旧来型のメディアが、この辺鄙な地域を世界につなげることによって、地域を解放しつつあるのだ。スーサミールFM103のディレクターを務めるアイザダ・カルカンベコワさんは、「リスナーのほとんどは山間部に住んでいます。そこには電気はなく、このラジオがあるだけです。彼らは我々からニュースを得て、音楽のリクエストをし、放送時間を長くすることを希望しています。」と語った。

ラジオ局に集っている地元の10代のボランティアたちに対して、こんな辺鄙な場所に住んでいることをどう思うかと尋ねてみたところ、「ラジオのおかげで外の世界とつながることができています。」との答えがすぐさま返ってきた。

Map of Kyrgistan
Map of Kyrgistan

「人々は仕事中もラジオをつけます。夏季に畑で作業するときもラジオを楽しみ、学びを得るのです。私たちは、ニュースや情報、音楽で、彼らを世界とつなげています。」と、このラジオ局でボランティアをしている16才のインダスベコワ・アイテンギールさんは語った。アイテンギールさんは、ラジオの経験を活かして大学に進み、英語の通訳になりたいと考えている。彼女のリスナーたちをもっと世界に対して開くことができるかもしれないからだ。

そのクラスメートで、ソフトウェアの開発者になりたいウンスナイ・アチコワさんは、「ここにいる人たちはほとんど親戚で、互いに支えあって生きています。キルギスの他の場所とちがって、ここの人々は、自分たちを助けてくれないと言って政府を非難することもありません。」と語った。

「声なき者のための声」という原則を適用して、欧州からの資金援助や訓練によってコミュニティラジオが設立されたアジアの多くの国々で、政府がコミュニティラジオを反対勢力とみなし、それに敵対したり、少なくとも非協力的な態度を取ったりしていることは、興味深い現象だ。

しかし、スーサミールFM103コミュニティラジオは別の道を辿っている。自治体と協力して隔週の地域ニュースレターを発行しようかというところまで来ている。ニュースレターには、自治体が提供したニュースや、ラジオ局が制作した独立の地域ニュースが掲載される予定だ。

スーサミールの冬は、一面が雪に覆われる厳しいものだ。しかし、夏が来ると谷全体が高く生い茂った青々とした草で覆われ、キルギス有数の放牧地になる。遊牧民からも人気の土地だ。この場所は、静かな所で山の新鮮な空気を楽しみたい登山家や旅行者にとっても人気の場所になりつつある。冬の間の深い雪もまた、近くの斜面にスキーリゾートを作ろうしているキルギス企業の注目を集めている。

Suusamyr Valley/ Kalinga Seneviratne

3人の子の母親であり大卒でもあるラジオ・ディレクターのアイザダさんはIDNの取材に対して、「ラジオ局は2011年にほとんど何の資産もなしに始まりました。」と語った。アイザダさんは自らが代表と務めるNGO「アイジャリク」を設立し、欧州連合からの資金を使って、「インターニューズ」が彼女らを訓練し、コミュニティラジオの発足にこぎつけた。

アイザダさんは、「当時は、コミュニティラジオがどんなものかさえわかっていませんでした。免許を取得するも2年かかりました。」と語った。しかしその時までには彼女のNGOの資金は尽き、送信器やスタジオ機材など2万ドル分を購入する資金は自前で調達しなくてはならなかった。

「そのころ、国連開発計画(UNDP)がこの近辺で牧草地に関するプロジェクトを始めていて、ラジオを使ってプロジェクトの宣伝をしないかと持ちかけたのです。それで機材を買い、2011年12月、訓練を受けてきた5人のボランティアで放送を始めました。」アイザダさんは語った。

スーサミール谷はキルギス最大の牧草地である。ソ連時代はよく利用されていたが、ソ連崩壊に伴い関連インフラが著しく劣化した。スーサミール地域の牧草地では2万8000頭の家畜を飼うことができる。プロジェクトのおかげで、別の3万ヘクタール分の牧草地への道が拓け、山間地の道路51キロが整備され、排水渠56か所が復旧した。

Suusamyr Valley/ Kalinga Sereviratne
Yurt by Bishkek – Osh Road / by George 6996 – Own work, CC By-SA 4.0

「私たちは開発プロジェクトに関する広報の役割を果たしました。」とアイザラさんは振り返った。「老人がラジオ局にやってきて、牧草を育てるにあたって自分たちが何をやってきたかを説明します。(UNDPが設立した)牧草委員会がやってきて、委員が自分たちの活動について話します。」牧草を育てていた人たちは最初、新しいサービスを利用するためになぜ委員会にお金を払わなくてはいけないのかと疑問に思っていたようだ。しかし、ラジオがその理由を説明し、その必要性を議論する主要な役割を果たしたのです。

今日、アイザダさんはどこからの資金にも頼らずにラジオ局を運営し、自分自身は「キルギス地域メディア協会」でのトレーナーの仕事で自活している。ドイツの「DWアカデミー」での訓練経験を生かしたものだ。この仕事のために彼女は首都ビシケクに定期的に出かけるが、片道4時間かかる。「ラジオ局運営のために給料はもらっていません。完全にボランティアです。」とアイザダさんは語った。

ラジオ放送は毎日3時半から7時まで、11人のボランティアが運営している。うち7人は学校の生徒だ。また、地元のイスラム指導者や村の病院の医者を迎えた番組も放送している。その医者は、15才のボランティア、サリムサコワ・グルザールさんが制作する健康番組に登場している。また、そのイスラム指導者は毎週、30分枠の番組を担当しており、イスラムの教えについて語ったり、時には警察官を招いて、過激主義について議論したりすることもある。「政府もそれを望んでいるのです。」とアイザダさんは語った。

若いボランティアたちのチームは、近くの5つの村からニュース番組を制作し、最近では、ニュースを投稿するウェブサイトも開設した。彼らが取材に行くときには一人が記事と共にウェブサイトに投稿する写真撮影を担当している。「キルギスと世界の人々が私たちのニュースが読めるようになりました。」と、ウェブサイト作成を担当したアナルベク・カルディコフさんは語った。彼らのフェイスブックは約700、インスタグラムには約670人のフォロワーがいる。

彼らが手掛けた最近のニュースに、学校が洪水にみまわれた写真を添付して投稿したものがあったが、これはすぐに地元自治体の関心を呼び、問題解決につながった。

アイザダさんは、「自治体と提携してニュースレターを制作することで、制作資金を自治体から獲得でき、ラジオ局の経済基盤を固められます。ラジオ局ではすでに、地元議会の審議を録音してラジオで放送しています。何が話しあわれているか分かるようになり、議員たちもよく準備して審議に臨むようになりました。ラジオ放送のお蔭で、(地方レベルでの)ガバナンスも良くなってきたと地元の人たちも指摘しています。」と語った。

アイザダさんはさらに、「このラジオ局では、若いボランティアたちが、ときおり『街頭インタビュー』で地域住民が抱いている懸念を報じています。」と指摘したうえで、「自治体は私たちをよく支援してくれています。たとえ地元の人々からラジオで批判されたとしても、彼らはいつもインタビューに応じてくれます。」と語った。「街頭インタビューを行うことで、私たちは一般の人たちと自治体の橋渡しをしているのです。私たちは親戚なのだから、争うわけにはいかないのです。」とサリムサコワさんは語った。

SDGs Goal No.4
SDGs Goal No.4

もっとも人気のある番組は、山間部の住民らが電話やWhatsAppで歌やニュースをリクエストする夕方のバラエティ番組だ。ボランティアになぜ高齢の人がいないのかという問いに対してアイザダさんは、「キルギスの文化では、高齢の人はボランティアをしません。彼らにはそれが理解できないのです。若い人に向かって『なぜ金ももらえないのに放送なんかするのか。』と尋ねてくるくらいです。」と語った。

ラジオ放送に携わる若いボランティアたちは大きな志を持っている。ラジオ局設立時に関わったスタッフの一人は大学に進み、現在は首都のビシケクでジャーナリストをしている。週末を利用して帰郷していたジェイルさんは、IDNの取材に対して、「彼女(アイザダ)がジャーナリズムの道に誘ってくれました。今は議会で報道官として働いています。」と語った。

「ここでボランティアをすることで自信がついてきています。私の場合、以前よりもうまく話せるようになりました。かつては引っ込み思案だったけど、自分の意見を言えるようになりました。」とインダスベコワさんは語った。(原文へ)PDF

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国連、中央・北アジアにおける持続可能な開発を促進する

アラブの権力闘争:「王は死んだ。しかし王政はこれからも続く」

【シンガポールIDN=ジェームズ・ドーシ―】

2011年のアラブの春に始まった中東・北アフリカ諸国における民主化/反民主化の動きを分析した記事。これまでの体制維持を最優先するサウジアラビア・アラブ首長国連邦・エジプトの3か国連合がいかにリビア・スーダン・アルジェリア・イエメンといった国々の内戦や民主化の動きに影響を及ぼしているかを分かりやすく解説している。(原文へ)

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南アフリカ共和国―核兵器を廃棄した模範

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

核兵器や化石燃料関連事業からの金融資産の引き上げ(ダイベストメント)運動が盛んになっているが、その政治的影響力は、20世紀末に南アフリカ共和国(南ア)に対して展開されたダイベストメント運動のように強力なものになる可能性がある、と「世界未来評議会」のティース・ケイトー研究員は見ている。この運動は、南アが1994年にアパルトヘイトを撤廃させる一つの重要な要因となった。

現在のところ、そうした期待が実現される兆しや、現在進行中のダイベストメント運動が重武装した核兵器保有国を軍縮に向かわせる兆しはほとんど見えていない。しかし、南アは、一時は独自の核兵器開発を推し進めたがその後核兵器を自ら廃棄し、この大量破壊兵器に対する急進的な反対国に転じるという、りっぱな模範である。

中央アジアのカザフスタンもまた、かつて核兵器システムと関連施設を廃棄・破壊したが、これらの核兵器は(南アのように自力で製造したものではなく)ソ連崩壊時に同国から継承されたものだった。

ICAN
ICAN

南ア政府は、核兵器を自主的に廃棄してから25年目となる今年の2月25日、ニューヨークの国連本部において核兵器禁止条約に批准し、核兵器なき世界に向けたさらに重要な一歩を踏み出した。南アは同条約に2017年9月20日に署名している。

アパルトヘイト下の南ア政府は、豊富なウラン資源に恵まれたことで、早くも1948年には、原子力エネルギーと、その周辺に構築しうるウラン採鉱、貿易、エネルギー産業への関心を持ち始めた。1957年には米国と南アとの間で原子力協定が締結され、南アは米国から初の原子炉を購入している。

1978年、南ア政府は、当時南アが支配していたナミビアや本国の領土が、ソ連が支援する勢力によって侵略されるのではないかと恐れ、3段階の抑止戦略を構築した。

しかし、核脅威イニシアチブ(NTI)が指摘するように、キューバ軍のアンゴラからの撤退や、ナミビアの独立、ソ連の崩壊といった安全保障環境の変化を受けて、南アは1989年に核兵器事業を放棄した。人種隔離政策、ナミビアの不法統治などにより当時グローバル経済から孤立していた南アは、核兵器を維持するよりもむしろ放棄することに利益を見出したのである。

南アの核兵器解体に伴って、1993年大量破壊兵器不拡散法が成立し、同国では核兵器開発が禁止された。

南ア政府の発表によると1977年に初めて核爆発事業を平和目的から軍事目的に転換したとされているが、米諜報当局は南アが1973年に核兵器開発を始めたと報告している。

当初、国際的な圧力により、核兵器の実験はできなかった。しかし、1982年までには初の核爆発装置の開発に成功し、1989年までには55キロの高濃縮ウランを含むTNT換算で19キロトンの爆発力を持つ核爆弾6発を保有していた。

1989年、南ア政府は公式に核計画をとりやめることを発表。1991年には非核兵器国として核不拡散条約(NPT)に加入した。国際原子力機関(IAEA)は、南アの核兵器すべてが廃棄されたことを1994年までに確認した。

南アはそれ以降、核兵器なき世界へのリーダーシップをとり続けている。1996年4月11日、南アは他のアフリカ諸国と共にペリンダバ条約に加わり、アフリカ大陸に非核兵器地帯を創設した。

ペリンダバ条約を加盟国に遵守させる目的で設置されたアフリカ原子力委員会(AFCONE)は、南アのプレトリアに本部を置いている。1996年9月24日、南アは包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名し、1999年に批准した。

Map of South Africa
Map of South Africa

加えて、南アは、核兵器なき世界を推進する新アジェンダ連合(NAC)の一員でもある。NACの起源は、ブラジル・エジプト・アイルランド・メキシコ・ニュージーランド・スロベニア・南アフリカ・スウェーデンの外相が共同声明を通じて核軍縮に向けた新アジェンダを提示した1998年6月に遡る(その後、スロベニアは脱退)。

NACは、5つの核保有国(米国・ロシア・英国・フランス・中国)と3つの核能力保有国(インド・パキスタン・北朝鮮)に対して、核軍縮を明確に誓約し、核兵器禁止条約を通じて核兵器の廃絶につながるような多国間協議を開始するよう求めた。

さらに南アは、核軍縮を主張する国々の最右翼として、核兵器なき世界を達成し維持するための明確な到達基準や時間軸をともなう、法的拘束力のある新たな枠組みを創設する提案を支持してきた。

南アは核軍縮の原則を支持し続け、2012年以降は、核兵器廃絶への人道的イニシアチブをとる中核的存在の一翼を担ってきた。それが核兵器を禁止する国連条約を求める運動へと発展し、2017年7月7日の核兵器禁止条約の採択に繋がった。

Nelson Mandela in Johannesburg, Gauteng, on 13 May 2008./ By South Africa The Good News, CC BY 2.0
Nelson Mandela in Johannesburg, Gauteng, on 13 May 2008./ By South Africa The Good News, CC BY 2.0

南アは、第71回国連総会において、核兵器禁止条約など核兵器の法的禁止措置について交渉を促すリーダー的な存在だった。

ICANは、南アのネルソン・マンデラ大統領が1998年に国連総会で行った演説に言及した。マンデラ大統領はその際、他の核兵器国が援用してきた核抑止論に挑戦して、こう述べたのである。

したがって、2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が南アの「核軍縮における継続的なリーダーシップ」を歓迎し、「その行動が他のアフリカ諸国の条約加入に繋がることを期待している」と述べたのは、当然であろう。

「我々は問わなければなりません。非道で恐ろしい大量破壊兵器を拒むことなく、その正当性を主張し続ける人々には無知に聞こえるのかもしれませんが、『なぜそんなものが必要なのか』と。実際のところ、冷戦時代の惰性と自国の優位性を固持するためだけの核兵器への執着が結果的に何をもたらすのか、満足のいく形で合理的に説明することなど誰にもできないのです。」(原文へ)

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著名な仏教指導者が核兵器とキラーロボットの禁止を呼び掛ける(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー)

【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

まもなく開催される核不拡散に関する重要協議を前に、仏教哲学者、教育者で核軍縮の確固たる支持者である池田大作博士は核兵器開発を巡る対立がさらにエスカレートすることのないように、緊張緩和への道筋を探るよう呼びかけている。

池田博士は、4月29日から5月10日までニューヨークの国連本部で開催される2020年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会の重要性を強調するなかで、締約国の声を結集し、多国間による核軍縮の履行を力強く働きかけていく必要性を訴えた。2020年は、NPTが発効して50年目の記念すべき年となる。

池田博士はまた、インターナショナル・プレス・シンジケートの基幹媒体であるIDNとの多岐にわたるインタビューの中で、2017年7月に国連で122ヶ国によって採択され核兵器禁止条約が、広島と長崎への原爆投下から75年を迎える2020年8月までに発効が実現することを強く望んだ。

池田博士は、192ヶ国・地域に1200万人以上のメンバーを擁する世界規模の仏教団体創価学会インタナショナル(本部:東京)の会長で、今世紀に入ってから国連に19の平和提言を提出している。

電子メールによるインタビューの全文は以下のとおり。

Q:まもなく開催される2020年NPT再検討会議の準備委員会に際し、池田SGI会長が今年の「SGIの日」記念提言を踏まえて最も訴えたい点は何でしょうか。

A:NPT発効50周年の意義を持つ来年の再検討会議を前にして、世界は今、深刻な核軍拡競争に再び突入することになるのか、それとも、緊張緩和への努力を通じて核軍縮の道を切り開くのか――その大きな岐路に立たされています。

特に懸念されるのは、冷戦終結の象徴ともなったINF全廃条約が失効の危機に直面していることです。アメリカとロシアが条約義務の履行停止を相次いで表明しており、このまま対立の解消ができなければ、8月に条約は破棄されることになります。

また、2021年2月に期限を迎える新STARTの延長についても、米ロ両国が合意できるのかは不透明となっており、核軍縮の枠組みが失われる恐れが高まっているのです。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、先日のジュネーブ軍縮会議での演説において、「われわれは、冷戦時代のように無制限の核競争が展開される暗い日々に戻ることはできない」との警鐘を鳴らしました。私もまったく同じ思いを感じずにはいられません。

Q:そのような事態を防ぐために、今回の準備委員会では何をなすべきだと思われますか。

A:まずは、核兵器開発を巡る対立がさらにエスカレートすることのないように、緊張緩和への道筋を探ることが急務だと思います。その上で、来年のNPT再検討会議に向けて核軍縮の機運を高めるための手立てを話し合う場にしていくことが求められます。

INF全廃条約を締結に導いたミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領は、かつて私との対談集の中で、当時抱いていた問題意識について、こう述べておられたことがありました。

「世界的な核惨事の脅威をなくした、国の安全保障モデルは可能なのだろうか? 安全を維持し、かつ人類が核による自滅の脅威から完全に解放されるためにはどうすればよいのか?」と。

このゴルバチョフ氏の問題意識に対し、ロナルド・レーガン大統領の“核戦争に勝者はなく、核戦争を決して起こしてはならない”との思いが合致したという背景があったからこそ、両国は核軍縮に踏み切ることができたといえるのです。

Photo: U.S. President Ronald Reagan and Soviet General Secretary Mikhail Gorbachev at the first Summit in Geneva, Switzerland, in November 1985
Photo: U.S. President Ronald Reagan and Soviet General Secretary Mikhail Gorbachev at the first Summit in Geneva, Switzerland, in November 1985

歴史を振り返れば、その目指すべき方向性はNPTの誕生時にも示されていたものでした。核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払うとの精神が前文で謳われるとともに、核軍縮の誠実な履行の誓約が第6条に明記されていたからです。提言でも強調しましたが、混迷を続ける核問題を打開するためには、こうしたNPT制定の原点に立ち返ることが重要ではないでしょうか。

昨年の第2回準備委員会で北欧5カ国が出した声明でも、「我々は力を合わせてNPTの妥当性を維持・強化し、その弱体化につながるいかなる措置を慎まねばならない」として、“何が各国を結び付けているのか”に焦点を当てる必要があるとの主張がされていました。

私は、NPT第6条に明記された核軍縮の誠実な履行の誓約こそ、その重要な紐帯となってきたものに他ならないと考えます。

二国間の枠組みによる核軍縮の灯火が消えかけようとしている今だからこそ、NPT制定の原点に立ち返って締約国の声を結集し、多国間による核軍縮の履行を力強く働きかけていくことが急務であると思われてなりません。

その突破口を開くためには、2010年のNPT再検討会議の最終文書で共通認識として示された「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の結果への深い懸念」を十分に踏まえる形で建設的な討議を行うことが大切になります。

グテーレス事務総長の主導で昨年発表された国連の軍縮アジェンダでは、核問題の解決に向けて「人類を救うための軍縮」という新しいビジョンが打ち出されていました。私は、来年のNPT再検討会議において各国がそのビジョンを共有しながら、NPT第6条に基づいた多国間の核軍縮交渉の開始に向けた土台づくりを目指すことを強く呼び掛けたいのです。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

Q:核兵器禁止条約の早期発効に向けて、どのような取り組みが重要になるとお考えですか。

A:2017年7月に核兵器禁止条約が国連で採択されて以来、現在まで70カ国が署名し、23カ国が批准を果たしました。

長年にわたって“核兵器の禁止は不可能”と言われ続けてきましたが、世界のヒバクシャをはじめ、SGIも国際パートナーとして参加しているICANなどの市民社会の力強い後押しを得て成立した核兵器禁止条約の批准は、着実に進みつつあるといえます。

条約の発効のためには50カ国の批准が必要となっており、私は、広島と長崎への原爆投下から75年を迎える2020年8月までに発効が実現することを強く望むものです。

この条約の早期発効に加えて、締約国の大幅な拡大による条約の普遍化を図る上で重要な鍵を握るのが、核依存国の行動ではないでしょうか。核兵器を保有する国々の政策転換を促す上で、まずもって欠かせないのが核依存国の間においても「核兵器のない世界」を強く望む意思を目に見える形で表していくことではないかと思うからです。

私はこの観点に立って今年の提言の中で、「核兵器禁止条約フレンズ」という有志国によるグループの結成を提唱するとともに、唯一の戦争被爆国である日本がその活動に加わり、貢献していくことを呼び掛けました。

ICANの国際運営団体の一つである「ノルウェー・ピープルズエイド」によると、核兵器の開発・実験・生産・製造・取得・保有・貯蔵から、移譲と受領、使用とその威嚇、違反行為を援助することや援助を受けること、配備とその許可について、すでに155カ国が禁止状態にあるといいます。

ICAN
ICAN

つまり、核兵器禁止条約にまだ参加していない国も含めて世界の8割近くの国々が、条約の禁止事項に沿った安全保障政策をすでに実施しており、これらの国々に加えて、核依存国が自国の条約参加に向けた課題の克服を模索しながら、新たな行動に踏み出すことができれば、「核兵器のない世界」への潮流は揺るぎないものになっていくと考えるのです。

また、「核兵器禁止条約フレンズ」の枠組みを通して、これまで核兵器の脅威や非人道性などを巡って国際社会で積み上げられてきた議論を今後も深化させていくことができれば、核保有国と非保有国との意見の溝を埋める上で大きな意味をもってくるはずです。

そのためにも日本が唯一の戦争被爆国の使命として、こうした“橋渡し役”を積極的に担っていくことが大切ではないでしょうか。

Q:核兵器禁止条約を巡る意見の溝を埋めるために、どのような観点からの議論が大切になると思われますか。また、とりわけ日本には、そのようなプロセスを加速させるうえでどのような取り組みを期待されますか。

A:日本の主導による「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の第4回会合が3月に京都で行われましたが、そこでの核保有国と核依存国と非保有国の識者が参加しての議論でも、新しい問題意識が提起されていました。

つまり、サイバー技術の進展や精密な兵器の開発などで安全保障環境が変化しており、そうした環境下では、核保有によって他国の核使用を思いとどまらせようとする「核抑止」の考え方の見直しが迫られるとの問題意識です。会議の出席者からは、こうした状況の変化への認識が、核保有国と非保有国が話し合う“共通の土俵”になり得るとの声も出ています。

私どもの創価学会平和委員会が参画する「核兵器廃絶日本NGO連絡会」でも、この賢人会議の第4回会合に寄せて、次のような市民社会からの提言が示されました。

「核兵器の非人道性に関する国際的な規範が形成され拡大されてきたこと、そして核兵器禁止条約がその流れの中に存在するということは、歴史的な事実です。賢人会議は、この事実が諸国間の対話の出発点に位置づけられなければならないということを、明確に発信すべきです」と。

こうしたNGOからの声に加えて、宗教界の間でも日本の果たす役割に注視が集まっており、今年11月にはローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が、被爆地である長崎と広島を訪問することが予定されています。

私どもSGIでは、多くのNGOをはじめ、さまざまな信仰を基盤とした団体(FBO)と協力しながら、核兵器禁止条約を支持するグローバルな民衆の連帯を広げ、広島と長崎への原爆投下から75年を迎える来年を、核兵器禁止条約の発効による“核時代決別への出発年”にしていきたいと強く決意するものです。

Q:核兵器の近代化が進む一方で、「自律型致死兵器システム(LAWS)」は、国際平和や安全保障に対して深刻な脅威をもたらそうとしています。どのような対応策が考えられるでしょうか。

A:AI兵器やロボット兵器とも呼ばれる「自律型致死兵器システム(LAWS)」は、現在のところ、いくつかの国が開発を進めている段階で実戦配備には至っていませんが、その状態に迎えてしまう前に、国際的な規制の枠組みを早急に設ける必要があると考えます。

私はかねてから、良心の呵責も逡巡も生じることなく自動的に攻撃を続けるLAWSには、人道的観点や倫理的観点から重大な問題があると訴えてきました。

SGIとしても、LAWSの開発と使用の禁止を求める市民社会のネットワークである「ストップ・キラーロボット」の運動に加わってきましたが、国際社会ではこうした問題に加えて、安全保障や軍事的な面からも懸念が広がっています。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca
Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

ひとたびLAWSを導入する国が実際に現れれば、核兵器の誕生に匹敵するような世界の安全保障環境を一変させる事態になりかねないとの懸念です。

また、国連の「軍縮アジェンダ」においても、LAWSは人工知能に操作を依存するがゆえに「予期しない行動や説明できない行動を起こす可能性」を常に抱えているとの警鐘が鳴らされていました。

このようにLAWSに対する懸念は広がりをみせているものの、国際的な規制についての各国の意見は分かれています。

2017年以来、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みの下でLAWSに関する政府専門家会合が重ねられ、今年3月にもジュネーブで第4回会合が開かれましたが、意見の溝は大きく、具体的な進展はみられませんでした。

しかし、各国や市民社会から提起された主張の中には重要な観点も多く、今後さらに議論を深めていく上で土台になるものだと思います。例えば、ICRC(赤十字国際委員会)は、“兵器の使用だけでなく、兵器の設計や開発の段階においても国際人道法による評価が必要”との観点を強調したほか、人権NGOのヒューマンライツ・ウォッチは“国際人道法は人間の生死が機械に委ねられるような状況を扱うように設計されていない”との指摘をしました。

また、規制についての立場が異なる場合でも、「武器使用における人間の制御は決定的に重要である」との認識については大多数の国々が共有していることに加えて、LAWSの開発を行う意思はないことを表明してきた日本が、考慮すべき要素の一つとして“市民社会からの懸念”に言及していたことにも留意すべきです。

その一方で、規制に関して慎重な立場の国々からは、LAWSの攻撃の精度を上げることで市民を巻き込む被害を削減することができるとの主張もされました。しかし、こうした主張は、核兵器に関して「クリーンな核兵器」や「スマート核兵器」の開発を志向するのと同じような思考を感じる面があります。

そうではなく、LAWSに“良いLAWS”と“悪いLAWS”との区別があるかのような考え方は、国際人道法の精神に照らして禍根を残すものとなるとの大前提に立つことが重要ではないでしょうか。

この点、私どもSGIもメンバーとして連なっている「ストップ・キラーロボット」のキャンペーンが、第4回の政府専門家会合に寄せて発表した声明でも、国際人道法と国際人権法の観点に加え、道徳的・倫理的な観点からLAWSの法的規制を強く求め、手遅れになる前にLAWSの開発を中止させて軍拡競争を招かないようにするよう、強く呼び掛けています。

Q:具体的には、LAWSのどんな点が特に問題だと思われますか。

A:私が1月に発表した提言でも指摘したように、LAWSは、ドローン兵器の場合にみられるような、攻撃をする側と攻撃をされる側の人間が同じ空間にいないという“物理的な断絶性”を生じさせる傾向が強いことに加えて、実際の戦闘行為が攻撃を意図した人間と完全に切り離されるという“倫理的な断絶性”を招くものです。

これは、20世紀の二度にわたる世界大戦をはじめとする多くの惨劇を経て、国際社会の中で重視すべきものとして確立されてきた「人間の尊厳」や「生命への権利」などの原理に真っ向から反するものであり、私はこうした〝倫理的な断絶性〟に目を向けることを忘れてはならないと強調したい。

今後、LAWSが実際に使用されるような事態が起きた場合に、これまで戦闘行為に関わった人々の多くが感じてきたであろう、自身の行為に対する“深い悔恨”と、戦争に対する“やりきれない思い”、そして、次の世代のために平和な関係を築き直したいと切実に願う“一人の人間としての決意”が入る余地は、そこにあるでしょうか。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

また、AIが制御する兵器において、敵味方に分かれた相手に対する複雑な思いや、人間性の重みを感じて、一時的であれ、戦闘行為を踏みとどまることはあり得るのでしょうか。

その結果、軍事的な攻撃の垣根が低くなり、甚大な被害が広がるだけでなく、紛争の終結後も、敵味方に分かれた双方の国の人々が和解する余地は、きわめて狭められたものになりかねません。このように核兵器とは別の意味で、攻撃される側の国にとっても、攻撃をする側の国にとっても取り返しのつかない結果を招くのが、LAWSに他ならないのです。

そうした面からも、私は、LAWSを全面的に禁止する条約づくりを目指すことが必要だと考えます。

開発段階にあるだけで実戦配備されていない兵器を禁止する枠組みを設けることは容易ではないとの声もありますが、人間を失明させるレーザー兵器に関して、実戦配備される前の段階でCCWの議定書によって禁止された先例もあります。

SGIとしても、LAWSという兵器にひそむ本質を見据えつつ、開発と使用の禁止を求める国際世論を粘り強く喚起していきたいと思います。(英語版)(スペイン語版)

https://bit.ly/3pqQQzt

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「世界と議会」2019年春号(第582号)

特集:尾崎行雄生誕160周年記念

「憲政の父・尾崎行雄生誕160周年の集い」
◇主催者挨拶/大島理森、高村正彦
◇メッセージ/安倍晋三、枝野幸男、鈴木健一
◇講演「全米桜祭りへの参加と日米交流」/土井孝子
◇特別寄稿「尾崎生誕160周年の集いに参加して」/ジョン・S・コールドウェル

特別論文
 議員立法充実化による議会政治復権の新提言/片山玲里

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■連載『尾崎行雄伝』
 第十二章 松隈内閣

■「咢堂ブックオブザイヤー2018」選考結果

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
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