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Documenting Japan Visit of the King and Queen of Lesotho

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INPS-IDN made film documentary of the Banquet honouring King Letsie III and Queen Masenate Mohato Seeiso.

Co-organized by Japan Lesotho Friendship Association, NPO Issatsu no Kai, and Africa Development Association at Meguro Gajo-en on November 24, 2016.

Katsuiro Asagiri, president of INPS Japan also accompanied the Losotho delegation to film their majesties visit to disaster affected area of Soma City in Fukushima prefecture on November 26.

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レツィエ3世レソト王国国王夫妻の来日を取材

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.
Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターが、国賓として来日中のレソト王国の国王・王妃を迎えて目黒の雅叙園にて開催された晩餐会と、両陛下が東北の津波被災地を訪問された様子を映像に収録した。

The Banquet honoring their majesties King Letsie III and Queen Masenate Mohato Seeiso, Co-organized by Japan Lesotho Friendship Association, NPO Issatsu no Kai, and Africa Development Association at Meguro Gajo-en on Nov 24, 2016. Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director and President of INPS Japan accompanied the royal delegation to Tohoku to make a short documentary.

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訪日したカザフスタン大統領、世界の非核化に焦点

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【東京/広島IDN=浅霧勝浩、ラメシュ・ジャウラ】

「核兵器なき世界の実現に向けた取組みは、日本―カザフスタン関係において特別な位置を占めています。」と語るカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、11月9日、71年前に長崎とともに米軍による原爆投下の被害を経験した広島を訪問した。

ナザルバエフ大統領は、来年1月から2018年末まで2年間の任期でカザフスタンが国連安保理の非常任理事国に就任(中央アジアからは史上初)する2か月前のタイミングで、日本に3日間の日程で公式訪問した。カザフスタンは、安保理非常任理事国としての初年度にあたる2017年の間、同年末に任期を終了する日本と緊密に協力していく予定だ。

2017年はまた、日本とカザフスタンが外交関係を樹立して25周年目となる。

ナザルバエフ大統領は、カザフスタンと日本が力を合わせて、共同の取り組みを一層強化していくよう呼びかけるとともに、世界の指導者に対して、核の悲劇を二度と引き起こさないように核実験を放棄するよう強く訴えかけた。そして、「大量破壊兵器の脅威のない世界の構築に向けて共同で取組んでいくことで安倍晋三首相と一致しました。」と語った。

また広島で同市から特別名誉市民の称号を贈呈された際は、「広島平和記念公園を訪問させていただいて、核軍縮と核不拡散の分野の重要性に対する思いを新たにしました。」と語った。

President Nazarbayev visiting Hiroshima Peace Memorial Museum/AkordaPress
President Nazarbayev visiting Hiroshima Peace Memorial Museum/AkordaPress

広島市の松井一實市長は、「1991年8月29日、ナザルバエフ氏は、カザフスタンの人々の願いを受けて、セミパラチンスク核実験場(旧ソ連)を閉鎖しました。また、中央アジアに非核兵器地帯を創設し、8月29日を『核実験に反対する国際デー』に指定する取り組みを進めるなど、核兵器なき世界の構築において主導的な役割を果たされています。」と述べ、大統領の功績に感謝の意を表明した。

ナザルバエフ大統領は、広島訪問に先立って東京で会談した岸田文雄外相(広島出身)に対して、「日本とカザフスタンは反核運動のリーダーです。両国はこの問題で共同の取り組みを続けていけると確信しています。」と語った。

これに対して岸田外相は、「貴国が独立以来、大統領が示されてきたリーダーシップに敬意を表します。カザフスタンが2017~18年の国連安保理非常任理事国に選出されたのも、大統領のリーダーシップの賜です。」と語った。

11月8日に日本の国会で演説したナザルバエフ大統領は、第4回核セキュリティーサミット(ワシントンDC)で2016年3月31日に発表した『マニフェスト:世界。21世紀』と題するマニフェストに焦点を当てた。

ナザルバエフ大統領は、「世界は、より危険でより予測不能になりえる新たな核時代に入り込みつつあります。21世紀の最も深刻な問題のひとつは、核テロの脅威であり、核物質・放射性物質の不法取引の問題です。」と指摘したうえで、「大国間の信頼が前例のない危機に陥っており、核兵器使用を予防する安全措置の劣化につながっています。今日、この望ましくない傾向を反転させるために、あらゆる指導者の政治的意志がこれまでになく必要とされています。」と語った。 

ナザルバエフ大統領はまた、国際安全保障を強化するためにカザフスタンが採ってきた措置について触れ、核の脅威のない世界を構築するための共同の取組みの重要性を強調した。

CTBT 20th Anniversary / Ministerial Meeting / 13.06.2016 / Vienna International Centre / Vienna, Austria
CTBT 20th Anniversary / Ministerial Meeting / 13.06.2016 / Vienna International Centre / Vienna, Austria

「私たちは、世界的な反核運動を確立することが重要な任務だと考えています。これはまさに、わが国が提案した『ATOMプロジェクト』が推進している目的でもあります。日本の友人の皆さまからも、この取り組みに支援をいただけますよう呼びかけたい。」

ATOMプロジェクト(Abolish Testing. Our Mission=核実験の廃絶。それこそが我々の使命)は、核兵器実験がもたらす人的・環境的破壊について意識を喚起するにとどまらず、それ以上のことを目指す国際的キャンペーンである。プロジェクトのウェブサイトにはその目的について、「核兵器実験を永久に止めさせるために数多くの世界市民を関与させ、『世界の市民には核実験のない世界を要求する権利がある』ということを協力して世界の指導者らに示し、真の恒久的な変化を生み出すことを目指す。」と述べられている。

ナザルバエフ大統領は、11月7日の天皇陛下との会見では、様々な分野における両国間の緊密な協力関係を強調し、首都アスタナで開催されている「世界・伝統宗教指導者会議」に日本側から定期的な参加があることを述べた。大統領の提唱ではじまったこの宗教間対話イニシャチブは、第1回会議が2003年9月、最新の第5回会議が2015年6月に開かれている。

ナザルバエフ大統領は、世界の紛争解決と、持続可能な地域開発の促進における日本の多大な貢献を強調した。また、カザフスタンは、国連安保理の2017~18年の非常任理事国任期中に、核兵器なき世界の構築と、エネルギー・食料・水の安全保障の問題解決をめざした措置を採ることを強調した。

その後、ナザルバエフ大統領と日本の安倍首相が会談し、政治、貿易、経済、文化、人道分野など、多くの領域での二国間協力について討議した。

Japan-Kazakhstan Summit Meeting/ Cabinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat
Japan-Kazakhstan Summit Meeting/ Cabinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat

ナザルバエフ大統領は、日本はカザフスタンの独立を25年前に最も早く支持した国のひとつだと述べた。日本との友好関係の発展はカザフスタンの最優先課題のひとつである。

「安倍首相と私は、積極的な政治的対話を続け、あらゆるレベルでの接触を増やし、地域の安全保障を確保し、貿易・経済・文化・人道協力を促進し、今日世界が直面している難題に対して協力していくことで一致しました。」とナザルバエフ大統領は両国代表間の会合で語った。

「カザフスタンは中央アジアにおける日本の最大の貿易・経済パートナーであり、2015年の二国間貿易総額は15億ドルに達します。この数字はさらに延びる可能性があり、ハイテク技術、農業、原子力、自動車・鉄鋼産業の分野で協力水準を着実に引き上げていきたい。」とナザルバエフ大統領は語った。

安倍首相は、「すべての核実験を法的に禁止する「包括的核実験禁止条約」(CTBT)の発効促進会議の共同議長国として両国は緊密に協力してきました。」と強調したうえで、「ナザルバエフ大統領と手を取り合って、日本とカザフスタンとの関係を発展させていく所存です。」と語った。

両首脳は会談後、「アジアの繁栄の世紀における拡大された戦略的パートナーシップに関する日本国とカザフスタン共和国の共同声明」や、カザフスタン投資・発展省と日本の国土交通省間の覚書などを含む文書に署名した。

さらに、2017年のアスタナ万博への日本の参加に関する合意、アスタナ国際金融センターと日本証券業協会間の協力覚書も交わされた。

その後、大統領が率いるカザフスタンの代表団は、河村建夫衆議院議員が事務局長をつとめる日本・カザフスタン友好議員連盟のメンバーとの会合に出席した。

ナザルバエフ大統領は、議員連盟は、両国間の戦略的パートナーシップの強化に多大なる貢献を成していると述べ、カザフスタンに対して与えられた支援と、核軍縮の分野等で協力を強化するためになされている努力に対して感謝を表明した。

河村事務局長は、ナザルバエフ大統領との実りある会合に感謝して、「来年、私たちは日本・カザフスタン間の外交関係樹立25周年を迎えます。さらに、2017年万博がアスタナで開催されます。これらの機会を利用して、議会間の交流をさらに強化していきたい。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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防災で重要な役割担う宗教指導者たち

【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

信仰を基盤とした団体(FBO)や国連諸機関、非政府組織(NGO)、学術機関の代表らが、災害リスクへの脆弱性を減じるために地域の宗教コミュニティーに関与し、しばしば最も悪影響を被っている女性の声に特に耳を傾け、彼女らの事情を考慮に入れる必要性を強調した。

10月13日の国際防災デーを前にして開かれたラウンドテーブルでは、地域の防災活動に関して地域の宗教コミュニティーを支援し、彼らの精神的資本を「活用」することで、信仰を基盤とした団体の貢献を最大化することが訴えられた。

ラウンドテーブルではさらに、災害は神の与え給うた罰であるという根強い迷信を取り除くために積極的に活動し、災害に対処するために祈りの場を準備すること、宗教指導者らのコミュニケーターとしての役割を強化することが訴えられた。

討論は10月10日、「仙台防災枠組みに対する信仰を基盤とした団体の役割」をテーマに、スイス・ジュネーブのエキュメニカル・センターで開かれ、創価学会インタナショナル(SGI)宗教・地域社会の共同学習イニシアチブ(JLIF&LC)世界教会評議会(WCC)が共催した。

15年計画(2015~30年)の「仙台防災枠組み」は、自発的で非拘束的な性格のものである。2015年の第3回国連防災世界会議の後に、国連総会によって承認された。災害リスクの減少と、生命・くらし・健康の損失、個人・企業・社会・国家の経済的・物理的・社会的・文化的・環境的資産の損失を抑えることを目的としたものだ。

国連国際防災戦略事務局(UNISDR)のデニス・マクリーン広報渉外部長は、「信仰を基盤としたネットワークは貴重な『精神的資本』を成しています。」と指摘したうえで、「2013年12月に台風で6000人の死者を出したフィリピンのタクロバンでは、被災者が喪失に対処する力を見出す手助けをするうえで宗教組織が中心的な役割を果たしました。」と当時を振り返った。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のホセ・リエラ=セザンヌ氏は、苦難と逆境に直面して被災地に強靭さを与えるうえで宗教指導者や宗教組織、信仰を基盤とした団体の果たす役割は、人道支援コミュニティーの間で高い評価を得てきた、と語った。

宗教関係者は特別の信頼を勝ち得ていることが多い。彼らは人々の心に働きかけ、その態度と行動を変えることができる。また、国家機関やそのサービス供給が弱いところで公共の福祉のために役割を担うことができる。教会やモスク、その他の祈りの場所は、しばしば、人々が考えていることを語り合い、地域社会全体に利益になる事柄についてメッセージを共有する場となる。

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo


リエラ=セザンヌ氏は、「UNHCR事務所は既に、信仰を基盤にした、あるいは信仰に影響を受けた支援NGOや、地域の宗教コミュニティー、宗教指導者らと協力を進めています。」と語った。こうした協力は、「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」においてさらに拡大してゆくこととなるだろう。

国連のパートナーとっての大きな問題は、これらの諸団体が持ち込む、人的、金銭的、精神的資源が、まさに同じコミュニティーの支援に取り組んでいる全ての人々に、いかによりよく理解され、より効果的に活用されるか、という点だ。

信仰を基盤にしたアクターとの協力を阻みかねない境界線には、▽他の宗教的バックグラウンドを持つ人々への敵視あるいは排除、▽他の宗教を持つ個人あるいはコミュニティーに向けられる暴力の煽動、▽支援継続の条件として改宗を迫ること、▽早期の結婚やジェンダー関連のステレオタイプ、スティグマ、差別、を挙げることができる。

リエラ=セザンヌ氏はまた、「中東での難民や避難民の急増は、難民や亡命申請者に対する保護や支援を提供するうえで宗教指導者や信仰を基盤とした団体、地域の宗教コミュニティーが果たし得る役割に対する関心と懸念を引きおこすことになりました。」と語った。

実際、このことがあって、当時の国連難民高等弁務官で次期国連事務総長に就任するアントニオ・グテーレス氏が2012年、例年行っている「難民保護の難題に関する対話」のテーマとして「宗教と保護」を選んだぐらいだ。

世界教会評議会のプロジェクトである「エキュメニカル水ネットワーク」のディネシュ・スナ氏は、CASA(ACT連合とWCCのメンバーである「社会的行動のための教会補助組織」)の活動を参考にしているという。1999年、スーパーサイクロンがインドのオリッサ州を襲い、1万人以上が亡くなった。CASAは「地域を基盤とした災害対策・緩和」プロセスに関わり、地域での意識喚起を行うために積極的な役割を果たした。

ACT連合のクリストフ・アーノルド氏は、エボラ出血熱対策に際して宗教指導者らが果たした役割について説明してくれた。危機の中で大きな課題になったことのひとつは、医者からの告知に伴うスティグマと恐怖の問題であった。人々は医者を信用せず、以前と同じような(素手で遺体を清めるなどの)埋葬方法を続けたため、エボラ熱が急速に拡大したのである。

Roundtable. Credit: Nobuyuki Asai | SGI
Roundtable. Credit: Nobuyuki Asai | SGI

JLIF&LCのオリビア・ウィルキンソン氏も、地域の宗教コミュニティーに関する証拠に基づく見方と、人道支援における宗教の関与について見解を語った。地域の宗教コミュニティーは、すでに確立された地域ネットワークの力と、共同体意識を活用して強靭さを生み出す能力を通じて、脆弱性を克服するのである。

「災害に関する精神的な文脈を無視することはできません。というのも、それはリスクに関する認識を理解するうえで重要な一部を成すからです。」とウィルキンソン氏は語った。地域の宗教コミュニティーと関与することで、こうした認識はよりよく理解され、防災介入の意義と適切さを強化することにつながる。

例えばフィリピンでは、防災のために地元の司祭を訓練することが、地域住民の不安感を克服するうえで極めて重要な要素となった。台風「ハイヤン」の後、地元の多くの司祭が地域社会の防災の取組みに深くかかわった。こうした訓練は彼らの思考を反映したものであり、防災に関する技術的知識、聖書の教義に基づく学習、防災に関する全体的なものの見方を提供するインスピレーションと組み合わされたものだ。

Nobuyuki Asai, SGI/ N.Asai
Nobuyuki Asai, SGI/ N.Asai

SGIの浅井伸行平和運動局開発・人道担当副部長は、2011年の東日本大震災と2016年4月の熊本地震の後、日本の創価学会は地域の会館に数千人の避難民を収容し、支援物資を提供したと語った。救援物資を積んだ隣県からのトラックは地震発生からわずか1時間で出発しており、対応の素早さは被災地にとって大きな助けになったという。

多くの創価学会員が、避難所となった創価学会の会館や他のコミュニティーセンターで自発的に支援活動に加わった。会館に避難した地震の被災者らは、これらの会館では誰もが分け隔てなく温かく迎えられ、SGI会員によって支援の手を差し伸べられたと話している。

タイ国連代表部のサシワット・ウォンシンサワート氏は、宗教団体は仙台防災枠組みで直接的に言及されてはいないものの、市民社会の重要な役割については強調されていると指摘した。教会やモスク、寺院は、地域とのつながりを持つ最も古い場所であり、人々を守り被災者の苦痛を軽減することができる。

2004年にインド洋を襲った大津波の後、仏教寺院の僧や尼僧がリーダーシップを発揮し、行方不明者に関する情報を流したり、寺院を避難所に変えたり、生命と死に関する理解を深めるための心理的なケアを行ったりした。2011年の東日本大震災の際には、成田近くにあるタイの仏教寺院が支援を提供し、遅延物資の貯蔵・配給センターとして利用された。(原文へPDF

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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「足るを知る経済」はプミポン国王最大の遺産

【バンコクIDN=リム・クーイ・フォン】

タイの故プミポン・アドゥンヤデート国王の最も印象的なイメージのひとつは、タイ国内で国王自身が個人的に支援・フォローしている事業の視察に出掛ける際に、常にカメラを手に持っているか、首からぶらさげているシーンであった。

70年以上に及ぶ治世にあって、国民に大いに愛されたこの君主は、一つの約束を果たした。それは、タイ民衆の利益と幸福のために正義をもって統治するという約束である。

Map of Thailand
Map of Thailand

1997年、記憶に残る中では最悪の世界経済危機がタイを襲った時、国王は、現在ではトレードマークとなった「足るを知る経済(タイ語でセータキットポーピーアン)」を提唱した。これは、民の苦しみ、とくに精神的状況を和らげるための仏教的原則を基礎としたものであった。この理論は、民衆を支援して持続可能な開発モデルに適応させようとする40年以上に及ぶ国王自身の経験を基盤にしたものだった。

1998年時点で、国王によって開始され全土で実施された開発事業は2159件にのぼる。事業のほとんどは、タイの民衆、とりわけ遠隔地の人々の生活水準を引き上げることを目的としたものだった。

国王は時として、事業が軌道に乗るように初期段階で自身の資金を投することもあった。1988年、国王はチャイパッタナー財団を設立し、民衆と国全体の利益を増進し農村開発事業を加速するための資金を提供した。

タイ民衆の中でも最も困窮した人々を救おうとする国王の情熱は、農業目的の土地管理・水資源開発における「新理論」に反映されている。この「新理論」の公式は、30-30-30-10というシンプルなもので、この理論の下で、土地の区画は4つに分割され、そのうち、30%が水資源に、30%が田んぼに、30%が果樹や野菜などの混合作物に、10%が居住地・家畜・コメ倉庫に割り当てられた。

「新理論」に従った農民は、この計画がきわめて単純であり容易に適用可能なものだと理解できた。またこの理論は、コストのかかる技術を伴うものでもなかった。そのため、実践した人々の多くが満足のゆく成果を得た。結果的に、農村地域の大部分が自立し、自足できるようになった。

Farmland Division for Optimum Benefits/ The Chaipattana Foundation
Farmland Division for Optimum Benefits/ The Chaipattana Foundation

タイに大きな悪影響を及ぼした1997年のアジア金融危機の後、国王は、タイをこの経済危機から脱却させる方法として「足るを知る経済」を提唱した。すべてのタイ国民が、自身の収入にみあった、食べ物に困らないような生活を送る、というのがこの根本であった。

「足るを知る経済」は、土壌や作物の改善に関する研究・開発につながり、国内消費にまずは十分な量の生産を確保する取り組みがなされた。

仏教の諸価値によって統治された国として、「足るを知る経済」の哲学は、あらゆるレベルの民衆による適切な行いに関する一般的な原則としての中庸の道を説いている。「足るを知る経済」では、物質的富の生産が最終的な目標ではない。最終目標は、環境に優しく、自足的な社会を作ることにあり、そこでは、基本的な人間のニーズは地元の旧来的な生産方法を通じて満たされることになる。

実行されている「足るを知る経済」の典型例は、チェンマイ郊外のワット・ドーイ・パー・ソムの僧と地域住民が、サムーン地区の農業環境を蘇らせる取組みのなかで、如何にして「足るを知る経済」の原則を利用したかに見ることができよう。

サムーン村の農民が、地元の僧サンコン師(Phra Sangkom Thanapanyo Khunsiri)に初めて接触した際、良質の作物ができない問題について相談した。サンコン師と顧問らが地元の土壌の質を調べたところ、極度に乾燥して栄養素に欠けており、作物を成長させる余地が少ないことが判明した。

水不足の問題に対処する鍵となったものは、天然の水資源(山の森林からの湧き水と雨水)を保持できる環境をいかに構造的に作り出すかという点にあった。雨季には、豊かな森の生態系と地元の農家のニーズを十分に満たすだけの雨水が天からもたらされていた。

しかしそれまで地元の農民は、農地の拡張を優先して森林を伐採してきたため、水を地中に保持するために必要な天然の仕組みが失われ、水の流出量が増え、乾季には土地が干からびるようになっていた。そこでサンコン師は開発プロジェクトを通じて、砂防ダムの長いネットワークを作り、小さな貯水池に天然の水資源を保持できるようにした。砂防ダムシステムの建設には地元の人々や軍人、政府関係者を巻き込んだ。

地元と外部組織を協力は、ワット・ドーイ・パー・ソムの持続可能な開発の枠組みの鍵を握っていた。砂防ダムの建設から1年、地元の土壌に含まれる水分量と作物が育つ可能性は堅調に伸びていった。現在、ホイ・ボン川の流域には、様々な大きさ(0.25~2メートル)の砂防ダムが100以上ある。

また開発プロジェクト初年度に並行して実施した森林再生のための植林活動は、天然水資源を保持する土壌の能力を強化することで、砂防ダムネットワークを補完している。植林する木々の種類については、「足るを知る経済」において「豊かな植物」のカテゴリーに入れられる、食用、活用、経済に資する植物、具体的にはバナナ、パパイヤ、コメ、グアバ、ココナッツ、チーク、竹、アカスギ等が優先された。

その結果、地元の生態系には、生物多様性や水の保持の点で改善が見られ、回復された生態系には、数多くの鳥や野生生物が戻ってきた。

再活性化プロセスの初年度に続く4年間で、木造の砂防ダムをコンクリート製に転換する工事や、タイでは「猿の頬」として知られる個別の貯水池建設など、天然の水資源保持のためのシステム改善の取組みが進められた。

Thailand human development report 2007 : sufficiency economy and human development / United Nations Development Programme
Thailand human development report 2007 : sufficiency economy and human development / United Nations Development Programme

サムーン地区で示された土地再生の成功例は、「毎年の収穫を確保するために土壌の栄養素を再生するには、高価な化学肥料に依存せざるをえない。」という従来の固定観念を吹き飛ばした。これまで地元農民は、こうした「(高価な化学肥料を用いた)近代的な農業手法」を採用することで、しばしば長期にわたる借金に見舞われ、結果的にその重圧から先祖伝来の農業をあきらめ、例えば車で2時間離れたチェンマイ市のような近隣の都市部での就業を余儀なくされるているケースも少なくなかった。

これらの貯水池は、水分を保持して周辺の土壌に拡散し、乾季には地元住民の生活用水として活用することができる。一方、この時期も引き続き、植林活動は継続され、より豊かな資源を生む植物が植えられた。その結果、土壌に含まれる水分が増すにつれ、年間の収穫量も増えていった。

代替エネルギーの開発も、ワット・ドーイ・パー・ソムの持続可能な開発枠組みの本質的な要素である。初期の実験で、地元で栽培したヒマワリから作った油とリサイクル食用油によるバイオ燃料を生み出すことに成功した。今後の開発で、太陽光パネルの設置と小規模の水力発電用ダムの建設を通じてクリーンエネルギーを生み出すことが期待されている。

「正義の国王」として知られる故プミポン・アドゥンヤデート国王の永続的な遺産は、「足るを知る経済」理論であり、おそらくこれは、タイが世界に対して提示できるものだろう。「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連諸機関のスローガンとなった今日、国連開発計画(UNDP)は、「足るを知る経済」に関する2007年の「タイ人間開発報告書」を更新すべき時かもしれない。

もし「足るを知る経済」がサムーン地区の小農のために有効ならば、プレーリーが広がる米国ウィスコンシン州の小さな町の農場主にとっても有効に違いない。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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東欧、中央アジアで持続可能な開発達成の危機

【ベルリン/ブリュッセルIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

断固たる決意を持って適切な措置が取られないかぎり、2015年9月にすべての国連加盟国が同意し、「誰一人取り残さない」ことを勧告した持続可能な開発(SDGs)の中核的な目標は、東欧中央アジアでは達成されないだろう。

これは、ブリュッセルで10月12日に公表された『危機に立つ進歩(Progess at Risk)』と題された国連報告書の最も重要な点である。「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する。」「国内および国家間の格差を是正する。」ことを目的としたSDGsの第8目標第10目標は、無視されつつある。

「労働人口の3分の1にあたる3700万人が非正規或いは不安定な労働に従事しており、東欧やトルコ、中央アジアの社会的セーフティーネットはますます脅威にさらされている。」と、この地域をカバーしているこの国連開発計画(UNDP)報告書は指摘している。

SDGs Goal 8 and Goal 10
SDGs Goal 8 and Goal 10

報告書は、「(域内全人口2億3000万人のうち)約8000万人が、2001年以来、中間層に加わる一方で、欧州連合とロシア連邦における商品価格の低下や低成長のために、多くの人々が、まともな労働を見つけたり、保健や教育といった基本的サービスを受けたりすることが困難になってきている。」としている。

調査では、女性や移住労働者、若者、さらにロマなどの民族的マイノリティーが、とりわけ置き去りにされる危険があるとしている。「たとえば女性は、男性よりも3割、職を見つけられない可能性が高い。他方で女性は、賃金なしの家庭内労働を男性よりも2.5倍こなしている。」

さらに、エイズ関連の死者数がこの15年で3倍になっている。これは、予防と治療が、最も社会で疎外された人々に届いていないためでもある。

「これらの問題の多くは、公的統計では捉えられない差別や排除の現実を反映している。」と報告書は指摘している。実際に、報告書で引用されている世界銀行トランスペアレンシー・インターナショナルの調査データは、多くの人々が、処理速度の異なる司法制度が存在すると考えており、回答者の3分の1が治療を受けるために賄賂を支払ったことがあるとしている。

UNDP欧州・CIS(独立国家共同体)地域局のシハン・スルタノグル局長は、しばしば無視されてきた微妙な問題を取り上げて、「この地域の多くの国々はかつて、比較的雇用が安定し、社会サービスを無料かつ普遍的に享受でき、ジェンダー不平等も小さかった。しかし、脆弱性と排除が広がるなかで、世界の他の地域と似たような社会になりつつあります。」と語った。

Director of the Regional Bureau for Europe and CIS United Nations Development Programme Cihan Sultanoglu. Credit: UNDP in Montenegro

報告書は、経済生活の別の重要な側面にも焦点を当てている。虚偽報告を伴う外国貿易取引のために、毎年およそ650億米ドルが、違法な資金の流れとしてこれらの地域から流出しているというのである。「東欧やトルコ、中央アジアの諸政府は、これらの資金のうちごく一部でも捕捉することができれば、雇用を創出し、社会的セーフティーネットを拡張し、ジェンダーギャップを縮小するために巨額を投じることができるだろう。」と報告書は指摘している。

そうした投資によってこの地域の国々は、2015年7月にアジスアベバで合意されたグローバルな開発資金アジェンダを履行に移すこともできるだろう。同アジェンダは、違法な資金の流れを削減することも含めて、国内の資源を増やすことが、持続可能な開発の主要な資金源になるとしている。

資金調達の問題は、2030年までに持続可能な開発目標を履行するという各国の取組みにおいて主要な関心事になりつつある。

UNDP
UNDP

こうしたことを背景に、スルタノグル局長は、「この報告書は時宜を得たものです。世界中の多くの国々が、『誰一人取り残さない』と勧告した持続可能な開発目標(SDGs)を履行しています。社会から最も疎外され脆弱な立場にあるグループに対してスピード感を持って投資することができれば、2030年までにこの地域でSDGsを達成する見通しは高まるでしょう。」と語った。

UNDP報告書は、社会的保護と労働者の権利がより確保されている正規雇用を増やすために、この地域の高い労働諸税を削減するよう求めている。さらに、「介護や家庭内労働の負担を減らせば、女性の教育や雇用、収入機会の改善につながり、これがひいては、経済成長を加速し、全ての人々にとっての生活レベル向上につながる。」と報告書は述べている。

加えて、国の徴税能力を改善し、違法な資金の流れを捕捉し、(再生不能な化石燃料の採取や加工など)環境に負担を及ぼす経済活動に対して増税することで、歳入を増やし、環境に優しい経済とより平等な社会への移行を果たすことも可能になる。

報告書はまた、不平等に関する信頼性が高く中立的なデータを収集し、しかし同時に脆弱なグループのニーズにもより効果的に対応する統計当局の能力を向上させることも求めている。そうした取り組みには、より広範な行政改革が必要とされるだろう、と報告書は指摘している。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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Reporting Kazakh President’s Visit to Tokyo and Hiroshima

INPS-IDN reported Kazakh President Nursultan Nazarbayev’s visit to Japan from November 6-9 including his visit to Hiroshima that suffered U.S. atomic bombings along with Nagasaki 71 years ago.

President Nazarbayev who closed the former Nuclear weapon site of Semipalatinsk 25 years ago  became the first head of state to visit Hiroshima since the U.S. President Barack Obama’s historic visit there in May 2016.

Read: Kazakh President’s Japan Visit Focuses on Nuke-Free World

By Katsuhiro Asagiri and Ramesh Jaura

TOKYO | HIROSHIMA (IDN) – Striving for a nuclear-weapons-free world holds a special place in Kazakh-Japan relations, according to President Nursultan Nazarbayev who on November 9 visited Hiroshima that suffered U.S. atomic bombings along with Nagasaki 71 years ago.

Nazarbayev was on a three-day official visit to Japan less than two months before it joins the UN Security Council in January as its non-permanent member for two-years until the end of 2018. In the first year it would be working closely with Japan before Tokyo’s two-year term in the Council comes to a close at the end of 2017.  JAPANESE

2017 will also mark the 25th anniversary of the establishment of diplomatic relations between Japan and Kazakhstan.

While calling for “the consolidation of the forces of Kazakhstan and Japan and our joint initiatives”, he urged “world leaders to renounce nuclear testing in order to prevent another nuclear tragedy”.

Nazarbayev stated he had reached an agreement with Prime Minister Shinzo Abe on undertaking “joint efforts for building a world free of the threat of weapons of mass destruction”.

Nazarbayev, who was awarded the title of special honorary citizen of Hiroshima, said: “Visiting the Memorial Peace Park of Hiroshima once again reinforced my belief in the importance we place on the field of nuclear disarmament and nonproliferation initiatives.”

Hiroshima Mayor Kazumi Matsui thanked the Kazakh President, adding: “On August 29, 1991, you closed the Semipalatinsk (former Soviet) nuclear test site, based on the wishes of the people of Kazakhstan. You took the initiative to create a nuclear weapons-free zone in Central Asia and to announce August 29 as International Day against Nuclear Tests. You play a leading role in building a world without nuclear weapons.”

Earlier during the meeting in Tokyo with Foreign Minister Fumio Kishida, who hails from Hiroshima, Nazarbayev said: “Japan and Kazakhstan are leaders in the anti-nuclear movement. I am confident that we will jointly keep our work on this issue.”

“We feel sincere respect for your leadership since Kazakhstan has gained independence. The fact that Kazakhstan was elected as a non-permanent member of the UN Security Council for 2017-2018 indicates your successful leadership,” Kishida noted.

Addressing Japan’s Parliament on November 8 in Tokyo, the Kazakh President drew attention to his manifesto ‘The World. The 21st Century’ tabled on March 31, 2016 at the Nuclear Security Summit in Washington D.C.

Nazarbayev said: “The world creeps in a new nuclear age – potentially more dangerous and unpredictable. One of the most serious problems of the 21st century is the threat of nuclear terrorism, as well as illicit trafficking in nuclear and radioactive materials.”

He added: “An unprecedented crisis of confidence between the global players leads to the degradation of safeguards to prevent the use of nuclear weapons. Today, as never before, the political will of all leaders is required in order to reverse these negative trends.”

Nazarbayev pointed to steps taken by Kazakhstan to strengthen international security and stressed the importance of joint efforts to build a world free of the nuclear threat.

“We see an important task in the establishment of a global anti-nuclear movement. That is exactly the goal promoted by The ATOM Project that was proposed by our country. I invite our Japanese friends to support this initiative,” he said.

The ATOM Project – ‘Abolish Testing. Our Mission’ – is an international campaign designed to do more than create awareness surrounding the human and environmental devastation caused by nuclear weapons testing. It hopes to affect real and lasting change by engaging millions of global citizens to permanently stop nuclear weapons testing by joining together to show the world’s leaders that the world’s citizens deserve and demand a world without nuclear weapons testing, says the project website.

During the meeting with Emperor Akihito of Japan, on November 7, Nazarbayev emphasized close cooperation between the two countries in various fields, highlighted regular participation of the Japanese side in the Congress of Leaders of World and Traditional Religions held in Astana, the capital. The first such congress was held in September 2003 and the fifth in June 2015.

The Kazakh President underlined Japan’s tremendous contribution in resolving global conflicts and facilitating sustainable regional development. He stressed that Kazakhstan will take measures aimed at building a nuclear- weapons-free world and solving the issues of energy, food and water security in the framework of its non-permanent membership on the UN Security Council 2017-2018.

Later, Nazarbayev and Prime Minister of Japan Shinzo Abe discussed a wide range of bilateral cooperation, including political, trade, economic, cultural and humanitarian issues.

Nazarbayev noted that Japan was one of the first countries in the world to support Kazakhstan’s independence 25 years ago. Development of friendly partnership relations with Japan was on top of Kazakhstan’s agenda.

“We agreed to continue active political dialogue, increase contacts at all levels, ensure security of the region, facilitate trade, economic, cultural and humanitarian cooperation, as well as collectively work against challenges of the modern world,” Nazarbayev said at the meeting of the two delegations.

“Kazakhstan is the largest trade and economic partner of Japan in Central Asia. The volume of mutual trade turnover in 2015 amounted to $1.5 billion. We have a potential to increase this figure and we will steadily expand the horizons of cooperation in the field of high technologies, agriculture, nuclear power, automotive and the steel industry,” the Kazakh President added.

Abe on his part emphasised that the two countries are closely working as co-chairmen of the Conference on Facilitating the Entry into Force of the Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty (CTBT) legally banning all nuclear tests.

“I have an intention to continue to actively develop relations between Japan and Kazakhstan hand in hand with President Nazarbayev,” Abe said.

During the talks, the two countries signed documents, including the joint statement ‘On special strategic partnership between Kazakhstan and Japan in the age of Asia’s prosperity’, memorandum of understanding between the Kazakh Ministry of Investment and Development and the Japanese Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism.

In addition, an agreement on Japan’s participation in EXPO 2017 and a memorandum of cooperation between Astana International Financial Centre and the Japan Securities Dealers Association were signed.

Later on, the Kazakh delegation headed by the President attended a meeting with members of the Kazakhstan-Japan Friendship Parliamentary League headed by Chairman Takeo Kawamura.

Nazarbayev noted that the Parliamentary League is making crucial contributions to strengthening the strategic partnership between the two nations. He expressed gratitude for the support given to Kazakhstan and the efforts being made to enhance cooperation, including the issues of nuclear disarmament.

“Next year, we will celebrate 25 years since the establishment of diplomatic relations between Japan and Kazakhstan. In addition, the exhibition EXPO 2017 will take place in Astana. We would like to use these events to strengthen inter-parliamentary exchanges,” Kawamura said while thanking Nazarbayev for the fruitful meeting. [IDN-InDepthNews – 13 November 2016]

Photo: Kazakh President Nazarbayev addressing Japan’s Parliament. Credit: Official Site of the President of the Republic of Kazakhstan.

アイスランドで北極圏会議、持続可能性について議論

【レイキャビクIDN=ロワーナ・ヴィール】

400人の発言者を含む2000人以上の参加者を得てアイスランドの首都レイキャビクで開かれた第4回北極圏会議は、北極圏に関するあらゆる事柄について活発に協議しネットワーキングを行う場であった。同会議は、北極圏に関する世界最大のイベントとなっている。

10月7日から9日まで開かれたこの会議のコンセプトは、つい数か月前までアイスランドの大統領だったオラフール・ラグナール・グリムソン氏によって生み出された。グリムソン氏は北極圏や気候変動の問題に長年取り組んできた人物で、現在でも北極圏会議において重要な役割を担っている。

07 May 2011..Nicola Sturgeon MSP Glasgow Southside / Scottish National Party pictured in the garden lobby during the MSP registration session. Pic – Mark Sutherland/Scottish Parliament

会議は、全体会と、数多くの分科会から成っている。今年は、スコットランドのニコラ・スタージョン首相と間もなく退任する国連の潘基文事務総長も招かれて発言した。

スコットランドは北極圏の国だとは見なされていないが、スタージョン首相は、スコットランド北部は実のところロンドンよりも北極に近い、と語った。「スコットランドは2009年に『気候変動法』を制定しました。また1990年以来、エネルギー消費を6分の1削減しました。…再生可能な熱源や循環経済の発展といった領域においてスコットランドには大きな機会があると見ています。」とスタージョン首相は、会議参加者らに語りかけた

「わが国で7年前に気候変動法が通過したとき、スコットランド電力需要の28%は再生可能エネルギーによって賄われていました。昨年、この数値は57%でした。」とスタージョン首相は続けた。

スタージョン首相はスコットランドでの「公平な気候対策基金」の創設について語った。というのも、「気候変動によって影響を受ける個人はしばしば、若年者、高齢者、病人、そして最も貧しい人々」であり、「食料や燃料、水の主たる提供者である女性が不釣り合いなほど被害を受けている」からだ。

潘基文事務総長は、国際的な気候外交におけるリーダーシップを評価され、「北極圏賞」を授与された。事務総長に就任した当時は政治的反対が強かったにも関わらず、国連在任10年の間に気候変動の問題を強調してきたからだ。

潘事務総長は、「皆さんが明確に気づいておられるように、北極は私たちの目前で溶けていっています。海洋の氷は凄まじい勢いで減少しています。例えば今年9月のある一日だけで、北極の氷は通常の3倍のペースで溶け、イングランドと同じ大きさの氷が失われました。…北極は、気候変動問題のまさに中心地なのです。」と指摘したうえで、「先住民族は、気候変動への適応および緩和を目的とする国家戦略によって影響を受けています。とりわけ、しばしば先住民族の土地を利用して行われる風力発電や水力発電事業のような再生可能エネルギー拡充のための取組みがそれにあたります。…先住民の貢献は、持続可能な開発目標を達成し気候変動と闘ううえで絶対不可欠なものです。」と語った

ある分科会では、世界気象機関(WMO)のパウロ・ルティ氏が、2040年から70年の間には、9月の北極に氷がなくなってしまうのではないか、との予測を示した。WMOは、予測能力を高めるために、2017年半ばから19年半ばを「極地予測の年」に指定している。

スウェーデン極地研究事務局のビョルン・ダールバック氏は、異なった場所で、同じ時間帯に同じパラメーターを測定する大局的なデータが不足している、と指摘した。

全体会のひとつでは、海洋の氷と永久凍土の問題に焦点が当てられた。ウッズホール研究センターのフィル・ダフィー氏は、グリーンランド氷床が溶けているだけではなく、氷が溶けるにしたがって、それが太陽光を吸収し、表面がより暖かくなってきている、と聴衆に語った。

ラトガース大学海洋・沿岸科学研究所のジェニファー・フランシス氏は、「北極の海洋の氷の半分が既に溶けてなくなっています。これによって北極はより暗い場所になってきました。つまり、地球から宇宙に対して反射される太陽光の量が減少し、結果として、地球が吸収する太陽エネルギーの量が増えて温暖化につながっています。そして、北極が暖かくなると、(西ヨーロッパの温暖な気候を可能にしている)メキシコ湾暖流の勢いが弱くなります。」と語った。

このセッションの最後の方でダフィー氏は、二酸化炭素除去の必要性が、政策において肝要だと述べた。これには生態系における二酸化炭素の吸収が重要で、湿地や森林、ある種の農業活動の回復によってなされる。彼の同僚である永久凍土研究者のスー・ナタリ氏は、「科学者が報告した数値は控えめなものです。なぜなら、科学者はわかっていないことを報告しないものだからです。」と指摘した。フレッチャー法学・外交大学校のウィリアム・ムーモー氏は、「皆さん、各々の国でできることを実行に移していってください。」と訴えて、セッションを締めくくった。

Arctic/ Public Domain
Arctic/ Public Domain

北極圏会議では、再生可能エネルギーとイヌイット社会という2つのテーマが、たびたび取り上げられた。

「北極の持続可能な開発の難題に応える」と題された全体会では、グリーンランド選出のデンマーク国会議員アージャ・チェムニッツ氏が、「北極の持続可能性については、先住民族の視点からより焦点を当てるべきだ。」と語った。

同じセッションで、世界自然保護基金(WWF)のカーター・ロバーツ氏は「北極の持続可能性の枠組みは、持続可能な目標です……貧困飢餓気候食料生産海洋生物陸上生物に関する持続可能な開発目標(SDGs)は、ミレニアム開発目標に新たに追加された重要な目標です。」と語った。

SDGs logo
SDGs logo

ある全体会は、北極の再生可能エネルギーネットワークに焦点を当て、再生可能エネルギーの代わりに現在は化石燃料で埋め合わされているギャップを埋める必要性を追求した。このひとつの側面は、配電網によって国々を接続することだが、これは技術的に可能な一方で、政治的障壁が存在し、市民からの支持も得られないかもしれない。

分科会の多くが、再生可能エネルギーの問題に触れた。あるセッションでは、北極の地熱の可能性を追求した。カナダの北部領域やアラスカで、環境を汚染するディーゼル発電機を地熱の直接利用に置き換えることに焦点が当てられた。また別のセッションでは、グリーンランドやカナダの遠隔地に再生可能エネルギーを提供するうえでの困難と実務上の問題が検討された。

デンマーク工科大学のカレ・ヘンドリクセン氏は、「グリーンランドでは、エネルギーの6割を5カ所の水力発電所に依存しています。」と語った。多くの居住地域では水力発電の潜在能力がわずかしかないが、73の町では、町と町との間に道路網がないため、エネルギーや水、その他のインフラを自足しなくてはならない。

またある別の発言者は、カナダ北部のイヌイット社会でも事情は同じだと指摘した。カナダでは、2000にのぼるコミュニティーが電力網で他地域とつながっていない。遠隔地では住居やエネルギーにかかるコストも高い。「しかし、エネルギーのコストは、良質な設計によって大幅に削減することができる。」と建築家のラリー・キャッシュ氏は語った。

アラスカエネルギー・電力センター」のグウェン・ホールドマン氏は、寒冷気候技術に関するセッションの参加者に対して、「アラスカでは、化石燃料の使用を減らすために再生可能技術を統合する取り組みが、積極的に進められてきました。」と語った。

「太陽光、風力、水力発電が利用され、またあるプラントでは現地で唯一の資源である72度の温水を活用した地熱発電が使われています。こうした現場では、地元の電力事業者を訓練することが重要です。なぜなら、プラント機器は、コミュニティーの人口約5000人の遠隔地で機能するように設計されていないため、しばしば故障することがあるからです。」と、ホールドマン氏は説明した。

Plenary Session/ Arctic Circle
Plenary Session/ Arctic Circle

今回のレイキャビク会合では、カナダのケベック州政府とアイスランドが、クリーンで持続可能なエネルギーに関して科学協力を強化する合意に署名した。ケベック州は、アイスランドと同様に、電力のほとんどを再生可能エネルギーに依存している(この場合は水力である)。また、ケベックでは別の北極圏会合が、北部地域の持続可能な開発をテーマに、12月13日から15日に開催されることになっている。

気候変動・種の拡散・漁業に関する分科会で、アクレイリ大学のホルドゥルール・セヴァルドソン氏は、「太平洋のサバ、スカンジナビアのニシン、タラという3つの新たな種が1996年以降にアイスランド海域で増加している一方で、カラフトシシャモのような別の種が減少してきている。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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信仰を基盤とした諸団体、軍縮を訴える

【ニューヨークIDN=T・K・フェルナンデス】

1945年に広島・長崎に恐るべき原爆が投下されて以来、国際社会は核兵器の廃絶を訴えてきた。ゆっくりとした歩みだが、市民社会は、核兵器なき世界の必要性を弛みなく訴え続け、事実、その実現に原則一歩近づきつつある。

創価学会インタナショナル(SGI)の河合公明平和・人権部長は、IDNの取材に対して、核軍縮の重要性を指摘し、「私たちは気候変動や貧困、飢餓、災害といった共通の地球的課題を共有しています。ならば、私たちの貴重な資源をもっと意味のある目的に利用すべきではないでしょうか。」と語った。

Mr. Kazuo Ishiwatari speaking at the Fifth Humanitarian Disarmament Campaigns Forum/ INPS

SGIの石渡一夫平和運動局長もIDNの取材に対して同様の見解を示した。つまり、(核兵器によって)必要な資源が市民から奪われる結果となり、「人々に必要な資源が提供できなくなると、それが貧困につながり…最終的には紛争につながっていきます。」と語った。

その意味で、軍縮なくして本当の意味での平和は訪れません、と石渡氏は続けた。

SGIは、50年以上にわたって核廃絶に向けた取り組みを行ってきた仏教系NGOである。

ニューヨーク市内のペース大学で10月15日・16日に開催された第5回「人道軍縮フォーラム」で発言した石渡氏は、軍縮プロセスにおける市民社会の重要性について論じ、「こうしたプロセスは『人間的なものにされる』必要があり、市民社会は、このプロセスにそうした視点を持ち込むうえで重要かつ必要な貢献をすることができます。」と語った。

石渡氏はIDNの取材に対して、そうした取り組みにおける、SGIのような信仰を基盤とする団体の役割を強調し、「そうした団体は、市民社会の声を代弁しその声を広める役割を担っています。」と語った。

PAXの核軍縮プログラムマネージャーであるスージー・スナイダー氏もこの問題に触れ、人間の尊厳に対する尊重が、宗教コミュニティーの間で共有されている、と指摘した。

スナイダー氏はまた、IDNの取材に対して、「核兵器の非人道性を憂慮する宗教コミュニティーは、『核兵器禁止』の大義のもとに集結しました。なぜなら、核兵器は私達共通の人間性と相容れるものではないからです。」と指摘したうえで、「核暴力の脅威は人間の尊厳に対する悲痛な攻撃に他なりません。」と語った。

PAXは、カトリックの平和団体である「教会間平和協議会」(IKV)と「パックス・クリスティ」とのパートナーシップである。

核不拡散条約(NPT)運用検討会議が開催された昨年の5月には、PAXとSGIを含む「核兵器の非人道性を憂慮する宗教コミュニティー」はニューヨークに集まり、共同声明を発表した。

Dr. Emily Welty from WCC delivers the interfaith joint statement at the NPT Review Conference./ INPS
Dr. Emily Welty from WCC delivers the interfaith joint statement at the NPT Review Conference./ INPS

「私たちは、健全なる精神と人類が共有する価値観の名のもとに、声をあげます。おぞましい死の恐怖をもって、人類を人質にとるような非道は決して許されるものではありません。私たちは、世界の政治家たちが勇気を奮い起こし、人間社会の存続を揺るがし共通の未来を脅かす、不信の負のスパイラルを断ち切るよう求める」と共同声明は述べている。

1970年に核兵器の不拡散に関する条約(NPT)が発効しているにも関わらず、核兵器は依然として広範に存在する。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によると、わずか9カ国が保有する核兵器が世界には約1万5000発あるという。「軍備管理協会」は、より高い1万5500発と推定しているが、そのうち9割はロシアと米国が保有するものである。これら核弾頭のうちおよそ2000発が高度な警戒態勢にあり、わずか数分のうちに発射可能だとストックホルム国際平和研究所ではみている。

2015年のNPT運用検討会議での集中的な協議の後、ロシアや米国を含む加盟国は、核兵器なき世界に向けた意義のある行動をとることができていない。

石渡氏と河合氏は、安全保障に関する考え方を、従来の軍備に焦点を当てたものから、「人道的安全保障」という新しい概念へと転換する必要性について語った。

アクロニム軍縮外交研究所の創設者レベッカ・ジョンソン氏はIDNの取材に対して、「人道的な安全保障」とは、人間のみならず環境の保護も網羅した、「人間の安全保障」のよりも広義の捉え方である、と説明した。

「(人道的な安全保障とは)軍縮を追求し、社会で弱い立場にある人々とその権利・生活を守ることだけではなく、平和と安全を構築し、破壊的な軍事あるいは経済活動から環境を保護する積極的な行動をとる義務を伴うものです。」とジョンソン氏は語った。

「人間の安全保障」は、軍縮の「人間化」に寄与するものだが、河合氏もジョンソン氏も、この概念はしばしば、「保護する責任(R2P)」の名目で、軍事行動を正当化するためにも使われてきたと指摘した。

「人道的な安全保障」はかわりに、保護的で非暴力的な活動に着目し、国家と市民の両方に対して行動することを義務づけるものです、とジョンソン氏は語った。

この考え方を受入れ、核兵器なき世界に向かって前進するために、多くの人々が教育に目を向けてきた。

「軍縮教育は2つの側面に対応しなくてはなりません。つまり、正確な情報を提供することと、同時に、人々が共通の未来のために、より有意義な形でその情報を解釈できるよう、ものの見方を育むことです。」と河合氏はIDNの取材に対して語った。

ジョンソン氏は、軍縮教育を、人権教育や紛争管理、平和構築と統合し、できるだけ早い年齢のうちに学習を始める必要性を強調した。

「教育は若いうちに始め、生涯仕事を通じて継続しなければなりません。そうすることで、人々や国々は、武器商人たちに抵抗し、暴力含みの状況が暴発する前にそれを抑止し解消することが可能となります。」とジョンソン氏は語った。

国連の潘基文事務総長もまた、「若者を平和の担い手にするために情報を提供しエンパワーする」ための報告書(=軍縮不拡散教育に関する国連事務総長報告)のなかで、そうした重要な問題に関する議論を学校の教育現場に持ち込むことの重要性を強調した。

河合氏は、ますます多くの人々が既にこの問題に関心を寄せている、と語った。

2014年、創価学会青年部は、核兵器廃絶を呼びかけた「核ゼロ署名運動」に500万筆以上の署名を集めた。署名目録は、核兵器の廃絶を世界的に追求することを定めた国際慣習法上の義務を果たしていないとして、核保有9カ国を訴えたマーシャル諸島共和国のトニー・デブルム外相に提出された

2015年に広島で開催された「核兵器廃絶のための世界青年サミット」において「変革の世代」は次のような誓いを立てた。「核兵器は過ぎ去った時代の象徴であり、私たちの目の前の現実に大きな脅威をもたらしている。しかし、私たちが創造している未来に、その居場所はない。・・・私たち世界中の青年は、これら数十年に及ぶ核廃絶の約束を果たすべく、立ち上がろうと勇気を奮い起こしている。」

国際司法裁判所はマーシャル諸島共和国の訴訟を棄却したが、核兵器禁止に向けた希望の灯が国連で再燃している。

「核兵器なき世界の達成と維持に向けた多国間核軍縮交渉を前進させる提案を策定する公開作業部会」(OEWG)は、国連総会第一委員会に対して、核兵器を禁止・廃絶する法的拘束力ある条約を交渉する会議を2017年に招集するよう求める決議を提出した。

「71年前、私たちは核時代に入りましたが、核兵器という最悪の兵器を未だに禁止できないでいます。つまり71年を経て初めて、この問題に対処する、つまり核兵器の禁止を交渉する機会が訪れたのです。」とスナイダー氏はIDNの取材に対して語った。

Susi Snyder/ ICAN
Susi Snyder/ ICAN

この決議には広範かつ圧倒的な支持があり、「それはこれまでに見たことがないものです」とスナイダー氏は指摘した。

「核兵器の非人道性を憂慮する宗教コミュニティー」は、共同声明(10月26日現在35団体・個人が賛同)の中でこの決議を歓迎し、「今日のように、紛争と緊張が高まりを見せ、しかも核兵器が再び振りかざされている時代にあって、国際的危機と国際的な紛争解決の双方を非核化することがますます重要となっている。」と述べている。

「今まさに、実質的な前進をするための歴史的機会と同時に、全ての国家と市民社会の十分な関与を担保するという、本来あるべき国際機関の責務を果たすための歴史的機会が訪れています。」と声明は続けている。

「決議が通過したら、諸国と市民社会は、強力で普遍的な条約を策定し、それが実行される基盤を作らねばなりません。」とスナイダー氏はIDNの取材に対して語った。

「私はそれが意義を持つと信じているし、この問題に関する動きに変化をもたらし、21世紀の平和の基盤を創出できると信じています。」とスナイダー氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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レイキャビク首脳会談30年後の教訓

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【レイキャビクIDN=ロワーナ・ヴィール】

ウクライナやクリミア、シリア問題をめぐって米ロ関係が急速に悪化しているなか、アイスランドの首都レイキャビクで10月10日と11日の両日、ロナルド・レーガン大統領(当時)とミハイル・ゴルバチョフ書記長(当時)との間で行われた歴史的なレイキャビク首脳会談から30年を記念するイベントが、専門家や外交官、研究者らの参加を得て開催された。

インターナショナル・プレス・シンジケート」の基幹メディアであるIDNは、ニューヨークに本拠を置く国際平和研究所(IPI)が開催を呼びかけたこのイベントの参加者に話を聞くことができた。何が彼らをこの記念イベント開催に駆り立てたのだろうか?

Terje Rød-Larsen, IPI President/ IPI
Terje Rød-Larsen, IPI President/ IPI

「レイキャビク首脳会談は冷戦の終わりの始まりでした。それが唯一の要因ではありませんが、間違いなくその一部でした。また、首脳会談は、ソ連帝国の終わりの始まりでもありました。」とIPIのテリエ・ロード・ラーセン所長はIDNの取材に対して語った。

「米ロ間の緊張が高まっています…極めて明確な権威主義的特徴を持ち、多くの意味においてファシズムのオリエンタル的形式とも言える政治的イスラムも強まっています。そしてまた、西欧諸国では、人種主義的な含みも伴って、右翼イデオロギーも再び台頭しています。」ロード・ラーセン所長は語った。

「今日、指導者らが結集すべききわめて明確な必要性があり、レイキャビク・モデルは再び今日的な意味を持っていると言えるでしょう。IPIがアイスランド外務省と接触して、1986年の出来事を記念し、ロシアや米国だけではなく欧州のメンバーも招いてこの前向きなイベントを開いたのはこのためです。私たちは、今日でも重要な意味合いを持つ30年前の協議に参加した主要人物と、外交政策において主要な役割を果たしている現役の人々の参加を得ました。」とロード・ラーセン所長は説明した。

レイキャビク首脳会談から学ぶべき教訓はあるだろうか? 「あります。」とロード・ラーセン所長は語った。「第一に、リーダーシップの重要性です。(米ロ)両指導者が、レイキャビクという中間地点に来て会合することに合意したという事実です。」

President Reagan greets Soviet General Secretary Gorbachev at Hofdi House during the Reykjavik Summit, Iceland/ Ronald Reagan Presidential Library

「第二に、直前の状況は緊張していたにも関わらず、30年前にそこにいた多くの人びとが互いに耳を傾け、互いを尊重し合ったことです。こうした良識が現在はしばしば欠けていることが少なくありません。今日、ロシアと西側諸国の間には信頼関係はみじんも感じられません。」

「基本的なレベルの信頼が重要です。今日はそれが欠けており、危険です。ロシアも西側も、相手側が自分の利益を囲い込もうとしているとの印象を持っています。例えば、ロシアとウクライナの問題がそれにあたります。西側はクリミア問題について語り、ロシアはコソボ問題について語りたがります、そしてそこには対話が欠けているのです」。

「第三に、専門家と指導者がともに集うことが必要です。ホフディ(首脳会談が開かれた建物)では、専門家用に一部屋、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長用に各々一部屋が割り当てられました。このようなことはめったにないことでした。」

「そして最後に、あきらめないことです。」と、ロード・ラーセン所長は結論付けた。

IPIのウォルター・ケンプ副所長もまた、対話の重要性を指摘した。「軍備管理協議はこの数年間行き詰ったままになっています。対話と協議に戻らねばなりません。歩みを止めず、関与しつづけること。そして、互いを脅迫しないこと。この種のリスクを減らすためにどのようなメカニズムが必要だろうか?」

Walter Kemp IPI Vice-President/ IPI

ケンプ氏は、「冷戦期には、構造的な対立がありました。しかし今日、対立は予想不能で、明確な構造がありません。どうすれば、対話をより構造的で予測可能なものにできるだろうか? 30年前には、米国とロシアが協議することが重要だったという意見もありますが、現在の世界はより複雑で、他の国々も巻き込むべきです。」と付け加えた。

にもかかわらず、状況には明るい面もあるとケンプ氏は見ている。「大国が協力できた事例は実際にあります。例えば、イラン核協議の『5+1(=国連安保理の5常任理事国+ドイツ)』方式が挙げられます。」とケンプ氏は語った。

欧州対外アクションサービス」のアラン・ルロイ事務局長は、今後の見通しについて語った。「あれから30年、新たな軍拡競争が始まりつつあります…。時として、軍縮、とりわけ核軍縮に関する議論を刷新するために、明確な推進力が必要です。軍縮プロセスは遅々として進んでいません。」とルロイ事務局長はIDNの取材に対して語った。

ルロイ事務局長は、「ロシアと西側諸国の間には相当の不信があります。」と指摘したうえで、「これをリセットして、ハイレベルでの協議を立ち上げる別の方法を試し、探さねばなりません。しかし、協議の機会は増えています。」と語った。

アイスランド大学のヴァルール・インギムンダーソン教授(現代歴史)は、レイキャビク首脳会談が今日に有益な教訓をもたらしうるかについては懐疑的であった。「米ソ超大国間関係のブレークスルーは、(米国から見れば)ソ連指導部の交替を条件としていました。当時ゴルバチョフ書記長は米国との軍備管理協定を結ぶことで、低迷していたソ連経済を立て直そうとしていたからです。軍備管理協定は米ソ首脳間に信頼を生み出す一方、1989年の東欧における政治革命にソ連が介入しなかったことが、冷戦終結に向けた鍵となりました。」とインギムンダーソン教授は語った。

インギムンダーソン教授はさらに、「今の時代における最も示唆的な政治問題の象徴であるシリア内戦は、ロシア或いは米国だけで対処できる問題ではありません。また、シリア国内、中東地域、その他の利害関係者も巻き込まねばならないし、国連が世界的機関として紛争を調停するために中心的な役割を担う必要があります。」と語った。

メインイベントの前夜には、ゴルバチョフ氏からのビデオメッセージを含む短い一連のプレゼンテーションがあった。軍縮協議の形式を変える必要性に言及したゴルバチョフ氏は、「私たちは、この行きづまりからの突破口を見つける必要があります。」と語った。

ゴルバチョフ氏はさらにより深刻な脅威に言及し、「新型の核兵器が生み出されており、質的な改善も著しい。さらにミサイル防衛システムも配備中です。また、通常戦力の即時打撃システムも開発中で、この危険性は、大量破壊兵器に劣りません。核保有国の軍事ドクトリンは危険な方向に変えられており、核兵器使用が容認される範囲を拡大しています。核兵器拡散のリスクが増しているのはこのためなのです。」と語った。

ロード・ラーセン所長やルロイ事務局長と同様に、ゴルバチョフ氏も、信頼の崩壊が国際関係の重大な問題と感じている。「この20年間の問題や紛争は、平和的・外交的手段で解決することができたかもしれません。しかし、武力に訴えてこれを解決しようとする試みがなされてきました。それが、旧ユーゴスラビアや、イラク、リビア、シリアで行われてきたことです。」とゴルバチョフ氏は指摘した。

ゴルバチョフ氏はまた、「こうした武力による問題解決の試みは、信頼の棄損に加えて、政治と思考双方における軍事化につながり、脱軍事化プロセスをより困難なものにしてきました。この状況を変えるには、対話が必要です。対話を拒否するここ数年間の動向は、最大の過ちと言えるでしょう。」と語った。

30年前に首脳会談が行われた建物である「ホフディ」は「レイキャビク平和センター」に衣替えし、研究と教育を通じた平和の促進を主たる目的にしている。

開会式では、「経済・平和研究所」のスティーブ・キレリー氏が基調演説を行った。キレリー氏は、これまでに10回の報告を出している「グローバル平和指標」を考案した人物である。

Map of Iceland
Map of Iceland

「悪いニュースばかりではありません。」とキレシー氏は会場の参加者に語りかけた。「昨年、81カ国がより平和になり、79カ国がより平和でなくなりました。平和指標で昨年最もランクを上げた5か国はパナマ、タイ、スリランカ、南アフリカ共和国、モーリタニアであり、最も下げた5か国はイエメン、ウクライナ、トルコ、リビア、バーレーンでした。」

日本のピースボートの「オーシャン・ドリーム」号は、首脳会談30周年イベントに合わせてレイキャビクに寄港した。船には5人の被爆者(71年前の原爆投下の生存者)も乗り込んでおり、イベントの翌日にレイキャビクで開かれた集会で原爆体験について語った。

ピースボートで核関連事業をコーディネートしている川崎哲氏は、「核兵器が及ぼす破滅的な影響について意識を高めたい。」と語った。ピースボートは前日にホフディを訪問している。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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