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米国が核テロ防止条約100か国目の加盟国に

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1997年公開の映画「ピースメーカー」(一部が国連本部の外で撮影された)は、ロシアの片田舎で発生した列車事故で行方不明になったリュックサックに入る大きさの小型核弾頭を入手した旧ユーゴスラビア出身のテロリストが、それを国連本部の外で爆発させるべくニューヨークに持ち込むというストーリーを描いた作品である。

これはハリウッドお得意の作り話だろうか? それとも現実に起こり得る大惨事とみるべきだろうか?

Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias
Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias

テロ集団が盗んだ核兵器で武装するという万一の事態を想定して、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロリズム防止条約)」が2005年4月に国連総会で採択され、2007年7月に発効した。

現在、核保有国である中国、フランス、インド、ロシア、英国を含む99か国がこの条約に批准している。

9月30日、米国が国連条約局に批准書を寄託し、100か国目の締約国となった。

「主要な核兵器保有国による核兵器の使用を制限するいかなる条約や協約の批准と同様、これは朗報です。」と語るのは、ジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長(軍縮問題担当)である。

「この条約を2005年に提案したのがロシアであり、現在、署名国が115か国、締約国が99か国あることを念頭に置いておくといいでしょう。」と、ダナパラ氏は語った。

「核テロは、とりわけ9・11同時多発テロ事件以降怖れられており、アルカイダや、イラクとレバントのイスラム国(ISIL)も、原始的なレベルとはいえ核兵器を製造できる核物質を取得しようとしていることは広く知られています。」と、2007年以来「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の議長も務めるダナパラ氏は語った。

「とはいえ、核実験の禁止を規範化し核開発を抑える重要な歯止めとなる包括的核実験禁止条約(CTBT)が依然未発効で、米国を含む7か国の批准待ち状態である現実を踏まえれば、今回の米国の動きをあまり過大評価してはなりません。」と付け加えた。

「1万5850発の核兵器(そのうち93%は米国とロシアによる)を9か国の核兵器国が保有している限り、政治的意図或いは事故によるものであれ、また、国民国家或いは非国家主体によるものであれ、戦争で核兵器が使用され、恐ろしい人道的な被害と生態系や遺伝子への取り返しのつかない被害がもたらされる可能性は、恐るべき現実として存在しています。」と『原子科学者紀要』編集の理事で、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の運営委員も務めるダナパラ氏は語った。

核テロ防止条約は、テロリストらが大量破壊兵器を入手することを防ぐ世界的な取組みの一環とされている。

また同条約は、放射性物質あるいは放射性装置の違法かつ意図的な所有・使用や、核施設の使用あるいは損壊に関する罪を規定している。

さらに同条約は、情報共有と、捜査や犯罪人引き渡しの支援を提供することで、国家間の協力を促進するために策定されたものである。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

物理学者で、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共国際問題学部「核未来研究所&科学・安全保障プログラム」の講師でもあるM・V・ラマナ博士はIPSの取材に対して、「私は会話を違う方向に持っていき、『核テロとは何か』を問うてみたいと思います。」と語った。

「ウェブスター辞書は、『テロリズムとは、とりわけ強制の手段として、恐怖を体系的に使うこと』と定義しています。核兵器は大量の死と破壊をもたらしうる。この可能性に直面した人間は誰でも恐怖に陥ることでしょう。」とラマナ博士は語った。

「米国の大統領や政府高官から『いかなるオプションもテーブルの上にある』、つまり、当然そこには核兵器の使用も含むと示唆された中東の人々がどんな気持ちがするか考えてみるとよいでしょう。」

「テロリズムについての、公平かつ公正な定義の下では、他人を恐怖に陥れるために核兵器を使用した者は、誰でもテロリストということになります。これには、核兵器を『単なる抑止のため』に使った者も含まれることになります。」とラマラ博士は主張した。

「まことしやかに恐怖を醸し出す能力こそが究極的に抑止戦略の中核にあることと、抑止がもたらすとされる安全とは、かつて、ウィンストン・チャーチルが語った『恐怖が生み出すしたたかな産物』に他ならないということを、忘れてはなりません。」

Winston Churchill/ Wikimedia Commons

「平和を求める人々にとっての難題は、『非国家主体』による核テロリズムの問題から、核兵器による死と破壊の脅しに政策の基礎を置いている核兵器保有国と、そうした国々の軍縮を進める緊急性へと、着目点を切り替えることにあると思います。」とラマナ博士は語った。同氏には、『約束された力:インドの核エネルギーを検証する』など、複数の著書がある。

ローズ・ゴットモーラー米国務次官(軍備管理・国際安全保障)は先週、「核テロに関して言えば、今日の世界は5年前よりも安全だと言えますが、まだなすべきことはあります。」と指摘したうえで、「米国は、世界のパートナーと協力して、危険な核物質の計量管理と保全をこれからも世界的に進めていきます。」「核物質を手に入れようとするかもしれないテロリスト集団の試みを阻止するには、警戒を絶やすことはできません。」と語った。

ゴットモーラー次官によれば、米国は国際原子力機関(IAEA)核保安基金の最大の貢献国であり、2010年以来、7000万ドルを拠出している。

この基金は、(IAEA)加盟国に専門家や任務遂行チーム、技術派遣団を無償で訪問したり、核保安指針や実践集、事故・密輸データベースを作成したりするのに役立っている。

国務省の核密輸防止プログラム(CNSP)は、世界のパートナーと協力して、核密輸ネットワークの捜査、違法な移転核物質の確保、関与した犯罪人の訴追を行っている。

Rose Gottemoeller/ US gov
Rose Gottemoeller/ US gov

グルジアモルドバのような国々は、高濃縮ウランを密輸しようとした犯罪人を最近逮捕したことで賞賛されています。この地域では大きな進展がありました。究極的には、兵器に利用可能な核物質が押収され続けているという事実は、核物質が依然として闇市場で取引されていることを示しています。」とゴットモーラー次官は語った。

国連によれば、核テロリズム防止条約の主要な条項には、例えば、「核テロ行為の計画、威嚇、実行をこの条約上の犯罪とする」、「締約国はそうした(条約上の)犯罪行為を自国の国内法上の犯罪とする」、「そうした犯罪行為の重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるようにする」、「そうした犯罪行為に対する締約国の司法管轄権を確立場合の諸条件」、「犯罪人引き渡しやその他の刑罰措置に関する指針」などがある。

さらに、「放射性物質の防護を確保するための適当な措置を講ずるためにあらゆる努力を払うよう締約国に義務付ける」規定や、「武力紛争における、或いは公務の遂行にあたって行う軍隊の活動はこの条約によって規律されない」規定、「この条約が、いかなる意味においても締約国による『核兵器の使用又はその威嚇の合法性の問題』を取り扱うものではなく、また、取り扱うものと解してはならない」との規定がある。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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ジンバブエに開発援助の成果を広げる日本

国際社会が持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて様々な方策を模索する中、日本政府は、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、この南部アフリカの国で様々な開発領域をカバーしている。

SDGsは、行動志向型で、簡潔かつ容易にコミュニケーションできる国連の開発目標であり、持続可能な開発を世界中で実行する一助となるものだ。

「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」から、「持続的で包摂的かつ持続可能な経済成長の促進」、「すべての人のための生産的な完全雇用とディーセント・ワーク(適切な雇用)を推進」などが、SDGsの17の目標の中に含まれている。

SDGs for All
SDGs for All

JICAはその創設時の使命に沿って、人的資源の開発、能力構築(キャパシティビルディング)、政策・機構の改善、社会経済インフラの提供等の支援を行うことで、公正な成長を通じた持続的な貧困削減を追求している。

このアジアの国(=日本)の開発機関(=JICA)はまた、開発アプローチとして、被援助国の全ての人々が、自ら直面している開発問題を認識し、取り組みに参加し、その成果をともに享受することを目指している。

この目的のために、JICAはジンバブエでこうした開発アプローチが実行されるよう、持続可能な開発の領域での支援に踏み出した。

しかし、JICAは、自己満足的な仕事をしているのではない。

Yuko Mizuno, JICA representative in Zumbabwe. Photo by Jeffrey Moyo
Yuko Mizuno, JICA representative in Zumbabwe. Photo by Jeffrey Moyo

「私たちは、ジンバブエ政府の要請で動いています。まず、何を為すべきかについて、現地政府と合意を結び、あらかじめ決められた領域の中で最善を尽くすのです。」と、JICAジンバブエ支所の水野右孝支所長はIDNの取材に対して語った。

これまでJICAは、ジンバブエ東部の国境の街ムタレの北100kmのところにあるニャンガ出身のネヘミア・ムタサ氏のような、多くの人々の人生を変える数多くのプロジェクトを成し遂げてきた。

「日本人は、ジンバブエの農業プロジェクトに対するJICAによる技術支援を通じて、私の人生を変えてくれました。支援プログラムで提供された訓練のお陰で、私のような一般の人々が、新たに地元で成功した農家として、活躍できるようになったのです。」と、ムタサ氏はIDNの取材に対して語った。

JICAによる支援が得られた地域とは、ニャンガにおけるニャコンバ灌漑プロジェクトである。

JICA’s Study Mission visiting project site of the “Irrigation Development for the Nyakomba Irrigation Scheme” / Embassy of Japan in Zimbabwe
JICA’s Study Mission visiting project site of the “Irrigation Development for the Nyakomba Irrigation Scheme” / Embassy of Japan in Zimbabwe

「ニャコンバでJICAは、(1995年から1999年にかけて)小規模農家を対象にした日本の無償支援により、地区全体で5ブロック(A~Eブロック:680ha)のうち、BCDの3ブロック(471ha)に対して灌漑設備整備を行いました。(A、Eブロックはジンバブエ政府が担当したが土地改革の影響で国の経済が混乱し工事がストップしている。)しかし2006年にサイクロンによる洪水に見舞われ、BCDブロックに設置していた揚水機場は全面水没してしまいました。日本政府は、これらの揚水機場の修復に合意してくれたのです。」と、JICAジンバブエ支所のプログラム・オフィサーであるジェイムズ・ニャフンデ氏はIDNの取材に対して語った。

JICAは新規に(Aブロックの)農業開発支援、揚水機場修復と並行して、「小規模農家生産向上プログラム」を通じて、農家の灌漑スキームの維持管理運営能力(マネージメント)向上や市場を考察した販売能力向上のための支援を行った。

「このプログラムを通して、農民たちは作物を育て始める前の段階で収穫物を売る市場を確保しなければならないこと等、営農のノウハウを学び、それを習得した農民たちが今大いに活躍しています。」と水野支所長は語った。

事業の成功

こうしたJICAによる開発支援活動の成功は、中央マショナランド州ビンドゥラ地方のツンダや、東マショナランド州ムレワ地方のチトラのように、ジンバブエの多くの地域においてはっきりと認められる。こうした地域では、JICAのお陰で台頭しつつある農民たちが、新たな成功をかみしめている。

Map of Zimbabwe
Map of Zimbabwe

「私はいまやハラレの都市部に家を持つまでになりました。自身は郊外に住みながらも、この家を他人に貸しお金を稼いで家族の生活を支えています。これも、JICAから農業を成功させる方法を学んだからです。私の人生は大いに変わりました。」と、6人の子どもを抱える未亡人でビンドゥラに住むチピワ・チタンダ氏は語った。

しかし、JICAは、その人道的支援を、欧米諸国の非政府組織との協力によって行っているわけではない。

「残念ながら、JICAはバスケット・ファンドを行うことができないので、ジンバブエへの私たちの支援は『ジム・ファンド』(Zim-Fund)を通じては行えないということになります。」と水野支所長はIDNの取材に対して語った。

ジム・ファンドとは「ジンバブエマルチドナートラスト基金」のことで、2010年にドナー集団によって創設され、ジンバブエ政府の優先的な復興活動を支援することを目的としたものである。

ジム・ファンドは、アフリカ開発銀行グループの理事会によって承認を受けて設立されたもので、「ジンバブエのためのマルチドナートラスト基金の創設」と題された文書に含まれた勧告によるものだ。

水野支所長によれば、JICAは、ジンバブエ支援の一環として、30年以上前に作成された同国の地図情報を更新するために、測量局と協力して、地理的情報システムの開発を進めている。

the Development of a Geospatial Information Database Project in the Republic of Zimbabwe/Embassy of Zimbabwe
the Development of a Geospatial Information Database Project in the Republic of Zimbabwe/Embassy of Zimbabwe

「地理情報システムが更新されれば、私たちJICAが、いかなる領域の開発を支援すればよいか特定するのが容易になります。」とニャフンデ氏はIDNの取材に対して語った。

「ハラレ市当局は、JICAが協力して更新を進めているこのシステムが完成すれば、これを利用して様々な問題解決に利用できるようになります。このことは、ジンバブエ電力供給公社や利害関係者、ジンバブエ交通安全評議会についても同じことが言えます。この地理的情報システムの更新作業は、2017年まで続けられる予定です。」と水野支所長は語った。

JICAを通じて、ジンバブエにおけるコミュニティをベースにした観光も大いに伸びた。

マニカランド州のイボンヌ・ンゴリマ氏のようなジンバブエ国民は、JICAによるコミュニティをベースにした観光プロジェクトへの支援に、安堵している。

コミュニティをベースにした観光とは、たいていは田舎で、貧しく周縁化された地域住民が、観光客を自分たちの地域社会に招き、宿泊を提供するというものだ。

このコミュニティをベースにした観光に関わる住民らは、地主や企業家、サービスや物品の生産者、従業員として、収入を得ることになる。

雇用の創出

「私が住んでいる村は失業率が高い貧しい地域ですが、JICAの助けでコミュニティをベースにした観光プロジェクトに関われるようになり、商売で得た利益で自分の社会的な地位を引き上げることができました。」と、ンゴリマ氏はIDNの取材に対して語った。

コミュニティをベースにした観光について、水野支所長は、「私たちは観光・ホスピタリティ産業省と協力しながら、既存のものに付加価値を付与することで、観光促進に努めています。」「私たちは村の女性や子供たちに着目し、観光客を集めるために、地域に何があるのか(文化的なものか宗教的なものか等)を把握する支援を行っています。」と語った。

ヌゴリマ氏のような多くの人々が、JICAによるコミュニティをベースにした観光の支援によって利益を得ている。ジンバブエ観光・ホスピタリティ産業省の統計によると、女性を含めた12万人以上が、JICAが支援したコミュニティをベースにした観光によって利益を得たという。

一般の人々への利益は、観光のために特定された領域から得られた収入の形で実現している。

JICAによる生活支援は、教育の分野にも拡大している。

JICAによれば、毎年60人から70人がジンバブエから日本に招聘されて、開発の様々な領域での訓練を受けている。訓練は通常3週間から11週間かかる。

「ジンバブエ人を対象にした修士課程、博士課程の院生のためのABEイニシアチブ」もあります。これは、南南協力という形で、学習プログラムはここと同じような状況にあるアフリカ諸国をホストに実施されています。」と水野支所長は語った。

Master's Degree and Internship Program of the African Business Education Initiative for Youth (ABE Initiative)/ JICA
Master’s Degree and Internship Program of the African Business Education Initiative for Youth (ABE Initiative)/ JICA

ABEとは、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアチブ(African Business Education Initiative for Youth)」を意味し、日本の現在の総理大臣安倍晋三氏にちなんで命名されたものだ。

この南部アフリカ国家の情報通信技術(ICT)に関して言えば、JICAは長年にわたって、ICTや音楽、体育、スポーツに焦点をあてたジンバブエの第三者機関に500人以上のボランティア専門家を派遣してきた。

水野支所長によれば、これは、ジンバブエにICTを根付かせたいとのロバート・ムガベ大統領の要望に応えたものだという。

「理想的には、私たちのプロジェクトは相手方の要望に応える形で行われ、政府内部で、そして政府と共に行う形が望ましい。」と水野支所長は語った。

日本は、現地大使館を通じて、様々な困難な状況を乗り越え、ジンバブエ政府と協力してきた。

匿名を条件にIDNの取材に応じたある日本の外交官は、「我が国政府は、草の根人道プロジェクトへの無償援助の枠組みを通じて、ジンバブエの社会経済的開発のための多くの地域プロジェクトの支援に多大なる努力を傾けてきました。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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国連事務総長、2030年グローバル目標の重要性を説明

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【ニューヨークIDN=ファビオラ・オルティス】

国連の潘基文事務総長は、各国連加盟国が持続可能な開発目標(SDGs)を国家政策の不可欠な部分とし、2030年までの達成を目指すことを強く望んでいる。潘事務総長はIDNとのインタビューの中で、この新たなグローバル開発目標を前進させるうえで市民社会が重要な役割を果たす必要性を強調した。

17の新たな開発目標と169のターゲットは、潘事務総長が2012年に立ち上げた「グローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアチブ(GEFI)」に沿って、持続可能な開発を促進するうえで世界市民に重要な役割を割り当てている。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

潘事務総長はIDNの取材に対して、「私は、二国間や多国間協議の機会を通じて、全ての指導者に対し各加盟国がSDGsを自らのものとして認識し、各々の国内経済・社会・環境政策に反映させるよう、強く求めてきました。」と語った。

潘事務総長は、10月9日から11日にペルーのリマで開催された世界銀行グループ・国際通貨基金(IMF)の年次総会から帰った後、ニューヨークの国連本部ビルの38階でIDNのインタビューに応じた。

世界188か国の財務相と中央銀行総裁が出席する年次会合は、国連が17の持続可能な開発目標(SDGs)を採択した歴史的な投票から2週間後に開催された。

潘事務総長は10日、世銀・IMF合同開発委員の議論に参加した。いわゆる「開発委員会」は1974年に創設されたもので、開発問題に関する政府間のコンセンサスを形成すべく閣僚レベルの委員が出席して通常春・秋の年2回開催される。

2030アジェンダ」は「人間を中心にした」ものである。開発委員会会合で登壇した潘事務総長は、「今後15年の開発の道筋は、貧困削減や包摂的な成長、持続可能な開発をこれまで妨げてきた『構造的な要因』に対処するものです。」と強調した。SDGsのモットーは「誰も置き去りにしない(no one will be left behind)」である。

潘事務総長は、「新アジェンダの成功は、政府、議会、地方自治体、国際機関、市民社会、学界、民間部門を含めた、すべてのセクターの間で、開発に向けた新たなパートナーシップを組めるかどうかにかかっています。」と指摘したうえで、「世界銀行は、豊富な専門能力を活かして、持続可能な開発のための能力構築と資源動員を強化することができます。」と強調した。

また潘事務総長はIDNとのインタビューの中で、17の新たな開発目標と169のターゲットは、健全な地球において、場所を問わず、全てに人々の繁栄と健康で幸福な生活を促進することを目標としたものだと繰り返し述べた。

「これらのSDGsは、政府のみならず、市民社会や慈善家など、全ての人々が参加して履行されることが重要です。」と潘事務総長は語った。

ポストミレニアム開発目標(MDGs)であるSDGsのモットー「誰も置き去りにしない」は、社会が持つべき「オーナーシップ感覚」を強化することを目指すものだ。

潘事務総長は、「性的多様性やLGBTI(レスビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックス)の権利が特定の目標として含まれなかったことを残念に思うか」という問いに対して、「この問題は、新たな開発アジェンダのすべての項目を「分野横断的に」貫いている問題であり、『誰も置き去りにしない』というSDGsのモットーに既に含まれています。誰もが参加すべきであり、民族や性的指向、性別、出生、貧しいか金持ちかは関係ないのです。新しいアジェンダには差別などなく、人間を中心においたビジョンなのです。」と潘事務総長はIDNの取材に対して語った。

国連事務総長にとっては、(SDGsが期限を迎える2030年までの)次の15年は、とりわけアフリカの人々にとって「希望の時期」になるであろう。アフリカでは、今年1月31日にエチオピアのアジスアベバで開催された第24回アフリカ連合(AU)通常総会で採択された「アジェンダ2063」とあわせる形で、SDGsが履行されていくことになっている。

SDGsとアジェンダ2063

アフリカ諸国は、今後50年間で達成したい8つの目標を挙げた。これが、アフリカ経済発展のための柱として機能することになる。「アジェンダ2063」は、実際の運用のために、25年、10年、5年単位で、短期間の行動計画を伴った実行計画を持っている。

Agenda 2063. The Africa We Want/ UN photo
Agenda 2063. The Africa We Want/ UN photo

我々の望むアフリカ」への希望は、過去の不正義をただす枠組みと、一世代で貧困を根絶し、アフリカの社会的、経済的変革を通じて広く繁栄を実現することで、アフリカ大陸の21世紀を実現する枠組みを提供している。

「我々は、2063年までに、アフリカが、(その資源を持続可能な形で、かつ長期的に管理することで)自らの開発を促進する手段と資源を持ち、繁栄した大陸になることを望んでいる」と宣言は再確認している。

その他、次のような希望が目標として宣言されている。「今後50年間で、アフリカは、(今日、人間の安全保障や平和、開発への大きな脅威になっている)武力紛争やテロ、過激主義、不寛容、ジェンダーを基礎にした暴力をなくすだろう。」「アフリカは、麻薬がなく、人身売買もなく、組織犯罪もなく、武器貿易や海賊行為などその他の犯罪ネットワークもない大陸になるであろう。」「それ以前、2020年までに、植民地主義のすべての残滓を取り去り、占領下にあるすべてのアフリカの領域は完全に解放されなくてはならない。」「アフリカの人々は、恐怖も不正もなく裁きを与える独立した裁判所と司法制度を安価で利用できるようになるだろう。」

潘事務総長の言葉によると、良い法の支配と機構を持った、アフリカの平和と繁栄に国連の「最大の優先順位」が置かれることになる。

「17のSDGsの策定には、人間の生活、そしてこの地球のすべての側面が含まれています。とりわけ、アフリカの開発に関して言えば、SDGsはアフリカの『アジェンダ2063』とともに歩むことになります。」「国連が、開発プロジェクトや平和と安全保障の課題を通じて、アフリカ連合およびアフリカ各国と緊密に関わっているのはこのためです。」と、4人のジャーナリストとの会合に応じた潘事務総長は語った。

潘事務総長は、このアフリカ諸国の開発への渇望を「国連が緊密に協力している『先を見通したアジェンダである』と解説するとともに、「アジェンダ2063とSDGsはともに前進し、その基本的な計画は互いに連携していく必要があります。」と語った。

潘事務総長によれば、SDGs合意は、「数百万人という民衆が参加した」、世界の指導者によって採択された包摂的なプロセスである。

「財政・技術協力が、今後のSDGsの履行にあたって重要な役割を担うことになります。」と潘事務総長は指摘した。しかし、それには多額の資金が必要となる。国家元首や、(財務、外務、開発協力などの)関連閣僚が7月13日から16日にエチオピアに集まり、貧困や飢餓の根絶、食料安全保障の達成などの野心的な目標の達成に必要な資金調達の方法をめぐって協議した。

アジスアベバ行動目標

アジスアベバ行動目標は、開発資金調達メカニズムを協議した「第3回開発資金国際会議」で採択された成果文書である。国連の推計によると、SDGsを履行するためには、世界は毎年11.5兆ドル、15年では172.5兆ドルを要するという。

「3年にも及ぶ交渉の後、国際社会は、途上国に対する財政・技術支援を行う基盤を提示したこの枠組みを採択したのです。」と、潘事務総長は語った。

この成果文書は、グローバル・パートナーシップと連帯の精神で、あらゆるレベルにおいて持続可能な開発のための環境をつくり、そのための資金を調達するという難題に対応していく「強い政治的コミットメント」を確認したものである。

「この行動目標は、等しく野心的で信頼性のある履行方法によって裏打ちされ、持続可能な開発と普遍的なポスト2015年開発アジェンダを履行するための資金調達の枠組みを更に強化するとともに、開発のための資金調達を再活性し強化しなくてはならない。」と成果文書には記されている。

またこの成果文書は、「多くの国々、とりわけ途上国は依然として大きな問題に直面しており、一部の国はきわめて立ち遅れた状態にあること。」さらに「多くの国々の間で不平等が劇的に増大している。」と指摘している。

潘氏が事務総長に就任したのは2007年1月1日であり、任期は2016年12月31日までである。潘事務総長は、1945年に創設され、現在193の加盟国を抱える国連の70周年の記念日を歓迎した。

“Punch Rhodes Colossus” by Edward Linley Sambourne (1844–1910) – Punch and Exploring History 1400-1900: An anthology of primary sources, p. 401 by Rachel C. Gibbons. Licensed under Public Domain via Commons

潘事務総長の意見では、国連の最大の貢献の一つは、アフリカ・アジア諸国の非植民地化プロセスに尽力したことにあるという。1950年代から60年代にかけて、この2つの大陸では40か国以上が独立を果たした。

「人類への大きな貢献は、多くの国々が植民地支配体制から離脱していったプロセスです。急速な脱植民地化プロセスを真に促進したのは、まさに国連でした。これは、途上国におけるアフリカの発展の基礎をなしています。」と潘事務総長は語った。

「多くのアフリカ諸国が独立して数十年が経過しますが、一部の国々は『民主主義への円滑な移行』を果たしたものの、大半の国々は『民主主義に移行するまでに、困難で悲劇的な道』を辿らねばなりませんでした。今日でもこの難題に直面している国々があります。」

潘事務総長は、「国連の70年の歩みを振り返れば、国連の効果と効率性、そして国連がどのような遺産を残してきたのかということについて、一定の懸念があることは認識しています。私は、この70年間にわたる国連の取り組みを誇らしく思っています。人権、良き統治、民主主義に関するすべての主要な合意は、国連においてなされてきたものなのです。」と語った。

持続可能な開発アジェンダは、世界を、より安全で、豊かな、そして、持続可能な道へと導いていくでしょう。」と潘事務総長は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核軍縮団体が米ロ首脳に「核兵器が使用されるリスクを軽減する」よう求める

【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ

主な核軍縮団体が、9月下旬に英国への領空侵犯を阻止されたロシアのツポレフTu-160超音速戦略爆撃機が同国を攻撃し第三次世界大戦を引き起こす意図があったのではないかとする憶測を呼んでいることについて、重大な懸念を示すとともに、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と米国のバラク・オバマ大統領に対して、「核リスクを直ちに軽減することで合意する」よう強く求めた。

彼らは、米ロ首脳のほか、両国の議会関連委員会、国会議員並びに国防相、外相宛に提出した書簡の中で、「北太平洋条約機構(NATO)軍とロシア軍が最近活発化している軍事演習中に万一衝突した場合に偶発的に引き起こされる可能性がある壊滅的な帰結(=核爆発)」について警告した。

10月7日に公開されたこの書簡は、9月に英国の領空を侵犯中にNATO軍機に通行を阻止されたロシアのツポレフTu-160超音速戦略爆撃機が、核爆弾を起動するためのカウントダウンを既に開始していたことが明らかになっている点を指摘している。

オーストラリアを拠点にする「人間の生存プロジェクト(HSP)」と「核軍縮を目指す会(PND)」がこの書簡作成にあたって調整を担当した。HSPは、シドニー大学平和・紛争研究センター(CPACS)とPNDの共同イニシアチブとして、2012年6月にCPACS内に設立された組織である。また、PNDは1960年以来、オーストラリアを中心に国際核軍縮運動の分野においても大きな存在感を示してきた団体である。

HSPとPDNは、「ロシア軍とNATO軍は最近多数の軍事演習を活発に展開しているが、それらは、反対側からみればあたかも「鏡像」のような動きを互いに極めて近い距離で行っているようなもの。」と指摘したうえで、「こうした演習には双方で核戦力が関与している疑いがあり、壊滅的な結果を招きかねない判断ミスがなされる可能性は明らかである。」と記している。

NATO.INT
NATO.INT

HSPとPNDが他の核軍縮団体の支援を得てとりまとめ提出したこの書簡以外にも、この数か月の間、様々な個人や団体がこの問題に焦点をあてた同様の趣旨の書簡を作成しており、その中には米国とロシアの核戦力の運用に責任を負ってきたジェームズ・カートライト将軍(前統合参謀本部副議長)やウラジミール・ドゥヴォルキン将軍も含まれている。

HSPとPNDがとりまとめたこの書簡には、1995年ノーベル平和賞の受賞団体である核戦争防止国際医師会議(IPPNW)、世界の諸都市による連合組織である世界首長会議2020年ビジョンキャンペーン中堅国家構想(MPI)世界未来協議会(WFC)核時代平和財団、さらに世界各国の国会議員有志が署名している。

書簡には、「世界に備蓄されている核兵器の90%から95%を保有する米国とロシアが核兵器を使用すれば、僅か90分以内に私たちが『文明』と呼ぶ全てのものが完全に破壊しつくされることになる。」と記されており、署名者らは「世界が滅亡する」危険性を指摘している。

書簡にはまた、「核攻撃で人類の半数が居住する多くの都市が焼き尽くされると、壊滅的な気候変動を引き起こし、当初の紛争に関与していない国々にも甚大な影響を及ぼしながら、世界の気温は前回の氷河期のレベルを下回ることになる。」「つまり、核攻撃を生き延びた人々も核の冬がもたらす暗黒の闇のなかで餓死するか凍死することとなる。」と記されている。

核リスクを軽減する方策

書簡の署名者らが強く呼びかけている核リスクを軽減する方策とは、(1)核兵器の警戒レベルを引き下げること。これにより政策責任者らは不十分な情報に基づいて僅か数分という短い時間枠の中で全世界を完全に滅亡させる判断をする必要にもはや向き合わなくてもよくなる。(2)(核兵器の)発射記録を共有すること。そして、(3)挑発的な軍事演習や軍事姿勢を避けること、というものである。

書簡は、1点目を強調して、ニュージーランド、スイス、スウェーデン、チリ、マレーシア、ナイジェリアが提出した「核兵器体系の作戦即応性に関する決議」やインドが提出した「核戦争の危険を低減させることに関する決議」等、核兵器の警戒レベルを引き下げるよう強く要請した多くの国連総会決議に注目するよう求めている。

また書簡は、2点目について、1998年当時に情報交換センターを共同で設立するとした米ロ合意を想起している。この合意は、1995年に気象探査ロケットの打ち上げが米軍の潜水艦が発射した核弾道ミサイルとロシア軍に誤認され、米ロ間の衝突が一触即発の事態にまで発展した教訓を踏まえてのものだった。

書簡はさらに、3点目について、「一連の核体制に関する見直し、とりわけ『核の先制不使用』ドクトリンや、都市を核攻撃の標的から外す決定(先述の通り都市火災が核の冬を引き起こす黒煙の最大の発生源であることから)が、核の大惨事というリスクの大幅な低減に貢献することになるだろう。」と記している。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

書簡の署名者らは米ロ首脳に対して、「米ロの元戦略ミサイル軍司令官のカートライト、ドヴォルキン両将軍をはじめ、IPPNWや、世界各地の宗教指導者が、ロシア軍とNATO軍間の緊張がエスカレートして制御不能に陥り壊滅的な結果を招く可能性について、警告とまでは言わないにしても、懸念が表明されていることについて、それに強く賛同し支持する。」と記している。

核兵器の警戒態勢を解く

事実、「警戒態勢の解除」(核兵器使用の命令が発せられてから実際に核ミサイルが発射されるまでの時間差を拡大する)に関するカートライト・ドヴォルキン両氏が主宰する「グローバルゼロ」による関連研究は、「ウクライナ危機を巡り、ロシアとNATO間の緊張関係は、核リスクが飛躍的に高まる核の瀬戸際政策へとさらに一歩近づいており、誤解に基づく軍事行動が相手側の軍事行動を誘発し事態が急激にエスカレートしていく危険なサイクルに至りつつある。」と分析している。

書簡の署名者らは、欧州安全保障協力機構(OSCE)議員会議が、OSCEを設立したヘルシンキ宣言採択40周年を記念して、「ロシアとNATO間の関係悪化に起因する核の脅威が増していることに深い懸念を表明するとともに、核兵器を保有或いは核の傘のもとにある全てのOSCE加盟国が、核の高度な警戒態勢を解除し、核の先制不使用政策を採用することで、核戦争発生のリスクを減らすよう要請する決議を採択した」点に留意した。

OSCE議員会議同様に、書簡の署名者らもウクライナ国境を巡る紛争の行方に深い危機感を募らせている。

「ここでリスクに晒されているのは、最悪の場合、文明そのものであり、潜在的に人類の存亡すら危ぶまれている。もちろん、『世界滅亡』に至る一連の出来事が必ず起こるとも、そうなる可能性が最も高いといっているわけではない。」

書簡の署名者らは、そのような事態が起こるのではなく、2014年のウクライナ危機に起因する様々な問題が、ロシアを含む全ての当事国間による平和的な交渉を通じて最終的に解決することを「願い、祈っている」。

しかし一方で、彼らは、(ロシアとNATO間の対立が)壊滅的な結果を招く可能性が全くないとは言えないと考えている。「歴史の記録、とりわけ(第一次世界大戦が始まった)1914年8月を振り返れば、たとえ各国の指導者らが情勢を完全に把握していると自信を持っていても、事態は思わぬ方向に展開し、当初の問題など比較にならない深刻な結果を招くことがあるということを、私たちは留意する必要があります。」

書簡にはさらに、「欧州リーダーシップネットワーク」が指摘しているように、(とりわけ軍の間における)対決的な態度や行動は、どちらが先に仕掛けたか、或いは、責任があるかに関わらず、いとも簡単に偶発的な紛争や壊滅的な惨事にまで発展する可能性がある。

「(バルト諸国のように)ロシア軍とNATO軍間の対立がさらに激化し、軍事紛争が長期化した場合、どこで対立が止まるか、或いは、紛争防止への努力が不十分ななか、(1914年の時のように)各国の思惑を超えた紛争へと発展するのを防げるかは予断を許さない。」

最も安全な核兵器とは、間違いなく、それが全く存在しない状態である。NGOはもとより、世界の政府や議会の大半は、核兵器の廃絶について、いつか達成すれば「良いこと」という程度の認識ではなく、人類の生存がかかった緊急の優先事項ととらえている。

このように、この書簡に署名した核軍縮団体は、核保有国に対して、核不拡散条約(NPT)が義務付けているように、人類の生存がかかった緊急の優先事項として、核兵器の完全廃絶に向けて行動をおこすよう強く求めている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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世界市民教育は平和な社会づくりを目指す若者の取組みを支える

【国連IDN=カニャ・ダルメイダ】

今年半ばまでに10歳から24歳の若者の数は18億人(全人類は72.8億人)となり、人類史上最大規模となっている。

国連によれば、この層の大部分は「南」の国々に住んでいる。世界の後発開発途上国48か国で、児童・青年が人口の最大の部分を占めている。

Role of Global Citizenship Education in Fostering Youth Peacebuilders

しかし、最近国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が招集した国際会議で様々な青年リーダーたちが指摘したように、今日の若者たちは数多くの困難に直面している。

9月10日から11日まで2日間にわたって開催された「青年平和構築者を育成するうえでの世界市民教育(GCED)の役割に関する会議」の参加者らは、紛争や汚職、気候変動は、若者が日々直面している様々な困難のごく一部に過ぎない、と語った。

また会議の参加者らは、「難民化や暴力、失業、非識字もまた、若い世代に問題を投げかけており、高次のレベルの意思決定や政策策定に若者を関与させ巻き込むように、地域・国家・国際の構造レベルで『根本的な』変革が必要」と訴えた。

次代を担う青年リーダーたち

この会議に参加した次代を担う青年リーダーたちは、潘基文国連事務総長が2012年に立ち上げた「グローバル・エデュケーション・ファースト・イニシアチブ(GEFI)」を支援すべく策定された、すべての文化や宗教、人々に対する包摂性、相互尊重、寛容を基盤とした枠組みである世界市民教育を用いて、開発や人権、平和や安全保障の分野に乗り込んでいきたいと考えている。

Global Education First Initiative
Global Education First Initiative

世界の若者たちが、暴力や紛争による影響を不釣り合いなほど多く受けていることを考えれば、若者の参加は、国連の三本柱のひとつでもある紛争の分野においても、もっとも緊急に必要とされるものである。

事務総長室の青少年問題特使のデータによれば、世界の紛争地帯に暮らす約15億人の内、実に4割を若者が占めており、武力紛争下の児童に関する国連の最近の報告書では、このところ児童が戦争の被害者になる傾向が強まっているという。

シリアやアフガニスタン、イラクのような長期化した紛争を含め、継続中の政治的、経済的、環境的危機によって、数多くの若者が故郷を追われている。2011年には、1400万人の若者が戦争や自然災害のために難民になることを余儀なくされている。

国連麻薬犯罪事務所(UNODC)発行の「殺人率に関する世界的調査」によると、15歳から19歳の男子が銃火器による殺人に最も脆弱であり、武力紛争下にある社会で暮らしている若い女性や女児は、パートナーによって殺害される「高いリスク」があるという結果が出ている。

世界の殺人被害者の43%は15歳から29歳の年齢層であり、南北アメリカの若い男性の殺人被害者は、世界全体の実に7分の1を占めている。

「こうした現実があるにも関わらず、青年には発言権が与えられていません。」と会議に参加した青年リーダーらは語った。

Ahmad Alhendawi, Secretary-General Ban Ki-moon’s first-ever Envoy on Youth
Ahmad Alhendawi, Secretary-General Ban Ki-moon’s first-ever Envoy on Youth

潘基文国連事務総長によって初の青少年問題特使に任命されたアフマド・アルヘンダウィ氏は、国連本部で先月開催されたこの会議で演説し、「平和と安全」の領域は伝統的に、専門家や外交官、政治家だけに開かれた排他的なクラブでのみ取り扱われてきた現実を嘆いた。

「世界中で火の手が上がっており、若者たちはこの火で焼かれています。戦争によって影響を受けた若者を、平和をもたらす議論に関わらせるべきです。」とアルヘンダウィ氏は語った。

アルヘンダウィ特使は、ヨルダンで最近開催された「若者、平和、安全に関するグローバルフォーラム」での議論を振り返って、世界中の約1万1000人の若者の声を取り入れた野心的な文書である「アンマン青年宣言」で打ち出された行動計画に着目するよう呼びかけた。

グローバルな政策枠組みを確立する

アンマン青年宣言の中で、国際社会に対する提案で主なものは、紛争、および、2017年までの紛争後のシナリオにおける、青年の「具体的なニーズや資産、能力、多様なアイデンティティ」の問題に対処するグローバルな政策枠組みの確立である。

Wikimedia Commons
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同宣言はまた、国連安保理に対して、「青年、平和、安全」に関する決議を可決するよう求める一方で、ジェンダー平等や社会経済的エンパワメントなど、青年層が抱いている特定の関心事項の他の領域に焦点を当てている。

実際、若い女性は、ジェンダーに関連した暴力やリプロダクティブヘルスに関連したリスクにさらされやすく、男性よりも倍の負担に直面している。

女性難民委員会」によると、1986年以降に紛争を経験した51か国の全てにおいて、若い女性に対する性的暴力が高いレベルで起こったという。

国連は、妊娠や出産に伴う問題が「途上国における若い女性の死亡原因の2番手になっており」、毎年数万人がなくなっている、としている。

毎年、途上国では、18歳未満の少女20万人が毎日出産している。

また現在の傾向が続くならば、現在から2030年までの間に、15歳から19歳の女性の実に1500万人が女性性器切除を強いられることになるだろう。

また10月13日に発表されたある調査報告書によると、とりわけ若年層は労働力から排除されやすいという結果が出ている。

「若年層雇用の解決に向けて」と題された報告書は、若年層は世界の失業人口の4割を占め、成人よりも4倍の確率で失業状態に陥る可能性があるという。

しかし、会議に参加した青年リーダーらは、若年層をこうした状況の被害者とばかり見ることの問題点を指摘した。

「並外れたことを成し遂げている普通の青年はたくさんいます。」「むしろ問題なのは、若年層を排除し、青年たちの声を聴かないようになかば意図的に作られている、国連組織を含めた社会・組織構造のほうです。」と、西アフリカのシエラレオネ生まれで、GEFI青年グループの議長であるチェノール・バー氏がパネルディスカッションの中で語った。

Chernor Bah, Chairman of GEFI’s Youth Advocacy Group (YAG)
Chernor Bah, Chairman of GEFI’s Youth Advocacy Group (YAG)

学校へ

バー議長は、マララ・ユスフザイ氏の勇気ある行動が世界に及ぼす波及効果について繰り返し言及しながら「#UpForSchool」のような活動の成功例を紹介した。これは、現在、86か国以上で500人の青年大使を誇る運動で、学校に通えない世界の5600万人を教室に戻すことを目的とした請願書に600万以上の署名を集めている。

バー議長は、「私たちには、若い人々を巻き込み、勇気ある行動をみんなで評価するような根本的なパラダイム・シフトが必要です。」「毎日のように、マララさんのような数多くの若者たちが、しばしば他人から見過されながらも断固とした行動を通じて、自らの権利のために立ちあがっているのです。」と語った。

政策決定のつながりの中に若者を巻き込む取組みを下支えするものは、世界市民教育(GCED)概念である。21世紀のあらたな種類のリテラシーを育てることを目的としている。

韓国のハン ジョンヒ国連代表部次席大使は、現在、新たな「持続可能な開発目標」に取り込まれた世界市民教育は、自分自身の他者との関係、地球との関係について考えるツールとして見なければなりません。」と語った。

破壊的な気候変動の差し迫る危機は言うまでもなく、世界がこれまで経験したことのないような政治的、経済的、技術的大変革の中に生きる今日の青年たちにとって、世界市民教育はオプションではなく、必要不可欠のものだ。(原文へ

INPS Japan

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開発・平和のカギを握る世界市民教育

太平洋島嶼国の人々が、「オセアニア市民」、「世界市民」について討議

【スバ(フィジー)IPS=シャイレンドラ・シン】 

「世界市民」概念に関する討論が様々な国際的な場で勢いを増しているが、従来太平洋島嶼国ではあまり検討の対象になってこなかった。

世界市民イニシアチブ」(TGCI)の共同創設者ロン・イスラエル氏によると、世界市民は、共通のグループアイデンティティを基盤にしながらも地域社会の枠を超えた発想をし、より広範で、生まれつつある世界コミュニティーの一員であることを自覚している、という。

Photo: Professor Epeli Hau’ofa | Credit: usp.ac.fj
Photo: Professor Epeli Hau’ofa | Credit: usp.ac.fj

太平洋地域では、トンガ王国の学者・哲学者の故エペリ・ハウオファ教授が「新しいオセアニア人」と呼ぶ共通の地域的なアイデンティティを提案するまでに至っている。これは、多様な国々や人種の一員としてではなく、太平洋地域共通の伝統と帰属意識を持った人々から成り立っている。

ハウオファ教授の考え方によれば、オセアニア人とは太平洋に住んでいるあらゆる人々を指し、民族や宗教に関わりなく、太平洋地域に帰属意識を持っている人々を指す。またこの枠組みによって、この半世紀以上にわたる太平洋島嶼民の「驚くべき移動性」を説明することもできる。この拡大バージョンのオセアニアは、「太平洋島嶼地域という用語で表される最大地域」よりもより広い範囲をカバーし、「南西はオーストラリアやニュージーランド、北東は米国やカナダまでを含む、海洋を超えた社会的ネットワークの世界」を形成する。ハウオファ教授は、住民にとって死活問題である太平洋の保護を含め、地域共同の利益を増進していくためには、共通で拡大された太平洋アイデンティティが必要不可欠だと考えていた。

共通の利益を求めて闘うために人々をつなぎ動員して力を得るという点は、「オセアニア市民」と「世界市民」の概念に共通する点である。ただし、世界市民はより拡大的なものだ。この考え方を主唱する人々は、平和で、寛容で、包摂的で、持続可能な社会に向けた構成要素として、正義や民主的参加、多様性、グローバルな連帯という普遍的価値に世界市民概念を結び付けている。

Pacific Islands Map/ Pacific Islands Forum Secretariat
Pacific Islands Map/ Pacific Islands Forum Secretariat

太平洋島嶼地域の識者らはこの概念に賛同してはいるが、それを実行するには特定の文化的、経済的、地理的、歴史的障害が立ちはだかる可能性があると考えている。南太平洋大学の元研究者(文学研究)のソム・プラカーシュ博士は、ある種の世界市民の価値のなかには、太平洋島嶼社会の文化的信念や哲学、ライフスタイルとは折り合わないものがあるとみている。例えば、平等主義は、フィジーの首長権力、トンガ王国の貴族制、西サモアマタイ(首長)制など一部の太平洋島嶼社会の階層的な秩序にとって有害だと見られている。

プラカーシュ博士はまた、「例えば、民主主義は、一般の民衆よりも権力と権威を与えられている伝統的な長からは必ずしも歓迎されるわけではありません。通常の太平洋島嶼国の文化が年長者や長に対して疑問を呈することに慣れるには、時間がかかるでしょう。この地域では、平和(世界市民概念の柱の一つ)は、しばしば、慈悲深い独裁者の下でより良く達成しうると論じられているのです。」と語った。

「その他にもいくつか明白な矛盾があります。フィジーのラトゥ・ジョーン・マドリウィウィ副大統領も指摘しているように、フィジーのような集団主義的な太平洋地域の社会では、集団の利益が個人の利益に優先されます。他方で、世界市民は、市民に対して『相互に関連しあう世界の本質に目を向け、世界的視野から開発の必要性を考えるよう吹き込む』ことで、彼らを変化の主体たらしめようとするものです。」

Three matai, the two older men bearing the symbols of orator chief status – the fue (flywhisk made of organic sennit rope with a wooden handle) over their left shoulder. The central elder holds the orator's wooden staff (to'oto'o) of office and wears an 'ie toga, fine matting. The other two men wear tapa cloth with patterned designs/ Public Domain
Three matai, the two older men bearing the symbols of orator chief status – the fue (flywhisk made of organic sennit rope with a wooden handle) over their left shoulder. The central elder holds the orator’s wooden staff (to’oto’o) of office and wears an ‘ie toga, fine matting. The other two men wear tapa cloth with patterned designs/ Public Domain

しかし、フィジーで学ぶ大学生ダイアン・マー氏のような人は、そうしたパラドックスを障害だとは見ていない。マー氏は、「太平洋地域も、地理的、文化的、哲学的差異を超えた共通のグローバルな諸問題によって他の地域と同様に影響を受けています。」と指摘したうえで、「世界市民とは、その理想や思考のプロセスが、貧困や気候変動、人権といった全般的にグローバルな諸問題を基礎としている人のことをいいます。多くの太平洋島嶼国の農村社会では、人々は気候変動のような問題や、貧困対策の必要性について高い意識を持っています。こうした問題は地元のレベルでは討議されており、そこから、村々がしばしばNGOと協力してそうした問題に対処しています。」と語った。

さらに、集団の連帯を基盤とした集団主義には、世界市民の「相互依存性」という概念(もっとも、世界市民モデルの場合は、単に「村」とか「氏族」のレベルではなく、「相互依存的な世界」を含みこんだものではあるが)と明確に並びあうものがある。国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)などの機関が支持している世界市民概念は、民衆の「個人および集合的な行動にはグローバルな影響力があり、自らの社会と地球のために積極的な行動に関与する責任がある」という考え方を推進している。

また、グローバルな問題に対処する集合的な責任という考え方は、太平洋島嶼地域の人々の間で共感を呼ぶ可能性がある。とりわけ、この地域で深刻な脅威と見られている地球温暖化海面上昇の問題に関しては可能性が高い。すでに10年以上にわたって、太平洋島嶼地域の歴代指導者が、様々な国際会議の機会をとらえて、先進工業国に対して、地球温暖化への責任を取り、二酸化炭素排出を削減する意味のある政策を採るよう強く求めている。

キリバスのアノテ・トン大統領がしばしば指摘するように、太平洋島嶼地域は地球温暖化に対してわずか3%の責任しか負っていない。しかし、多くの島々が海面上昇の「最前線」に立たされている。太平洋島嶼国の指導者らによる最近の会合で発言したフィジーのフランク・バイニマラマ首相は、「私たちを大災難に陥らせた」として先進工業国を非難した。また、「先進工業諸国は、地球の温暖化を引き起こしている過度の二酸化炭素排出をやめるよう、その経済と優先順位を再構成する必要があります。私たちを波間に沈ませてしまうのは、まったくもって非道徳的な行いです。国際社会は私たちを裏切らないでほしい。」と語った。

また、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開催された太平洋地域の指導者による最近の会議は、より厳格な世界的目標を求める海抜の低い島嶼国の要求をオーストラリアやニュージーランドが阻止したことから、決裂に終わった。こうした立場の違いはますます深刻化しており、ある識者はこうした現状について「太平洋島嶼国の窮状に対してオーストラリアやニュージーランドが鈍い反応しか示さず、とうとう(太平洋島嶼国は)我慢の限界に達した」と説明している。

マー氏は、太平洋島嶼国が地球温暖化によって直面している窮状を「コモンズの悲劇」と呼んでいる。これは、一部の国の行動が他国(この状況を生み出した責任がない国も含め)にマイナスの影響を及ぼす状況を指し示している。

南太平洋大学の学者プラカーシュ氏は、オーストラリアとニュージーランドの地球温暖化問題に対する頑なな態度は、「おそらく、強国が太平洋島嶼国を『侮蔑』とまでは言えないとしても、これまで『無遠慮』に扱ってきた多くのやり方の最近の事例として考えることができます。」と語った。プラカーシュ氏はまた、「こうした扱いによって、太平洋島嶼国は『しばしば裕福国から発せられる、グローバル化というバラ色の発想』としてみなされるようになったものに対して、疑念を抱くようになっています。グローバル化の最も目につきやすくわかりやすい影響の例としては、太平洋島嶼国の社会をのみ込んでいる低俗なテレビ番組や携帯電話、ソーシャルメディアを挙げることができます。」と語った。

Wikimedia Commons
Wikimedia Commons

しかし、マー氏が指摘するように、太平洋島嶼国はある意味ではグローバル化から恩恵を受けてきた側面もある。さらに、グローバル化と世界市民は別の異なる考え方である。たしかに2つの概念は混同されやすいかもしれないが、実際、世界市民原則は、グローバル化の副産物である「コモンズの悲劇」のような状況に対処することを目的としたものだ。

現実には、太平洋島嶼地域がいかに小さく孤立していようとも、その運命はその他の世界の運命と結びあわされている。ハウオファ教授もそのことを明確に意識していた。ハウオファ教授は、「植民地宗主国によって作られた私たちのような小さな国々が、『太平洋の世紀』という大きな問題に、個々に向き合い取り組んでいくことなどできません。私たちは、『地図から消え去る』か、巨大な汎太平洋ドーナツのブラックホールの中に消えてしまいかねないのです。」と記しているが、その際彼が「世界市民」概念に沿って思考していたのは確かである。(原文へ

※シャレインドラ・シンは、フィジーの首都スバにある南太平洋大学芸術・法律・教育学部言語・芸術・メディア校のコーディネーター、上席講師(ジャーナリズム専攻)。この文章の見解は、同氏の雇用主である南太平洋大学の見解とは必ずしも一致しない。

翻訳=IPS Japan

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開発・平和のカギを握る世界市民教育

|フランス|気候変動会議の失敗を避けるべく、機運を高める

来月からパリで開催予定の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)は、国連会議としてはこれまでかつてないほど、年初から世界的な注目を集めている。このことは、気候変動の問題に、世界中の人々が大きな関心を向けつつあり、その中からユニークな形である種の世界市民性が育まれている証左といえるだろう。

【パリIDN=A・D・マッケンジー

有名なオルセー美術館近くのセーヌ川沿いを歩く観光客や地元民はいま、3か所の一風変わった場所で携帯電話を充電することができる。それは、太陽光で発電される街灯だ。

太陽光パネルが取り付けられたこの高いポールは、ここフランスの首都で国連の次の気候変動協議であるCOP21が開催されるのを前にして、気候変動問題への市民の意識を高めるべくフランスのNGO「国境なき電気技師たち」(ESF)が設置したものだ。

「気候変動との闘い、そして、世界の一部における電気不足の問題には解決策があるということを市民に示したかった」と語るのは、ESF広報担当のローラ・コルヌ氏である。

ESFはこの20年で、アフリカの農村地帯やヨルダンの難民キャンプ、ハイチ・ネパールでの震災後のテント設営地に、太陽光パネルを設置してきた。セーヌ川沿いに設置された太陽光発電の街灯は、気候変動問題に対する革新的な行動を募集したパリ市長の呼びかけに応えて提出された170件にも及ぶプロジェクトのうちのひとつである。

他方、この街灯からほど近い場所にあるのが、セーヌ川クルーズのための太陽光推進船に観光客が乗り込む乗船場である。雨の日には、冷たい風に観光客が震えていても、船自体はバッテリーに溜めたエネルギーで走ることができる。

一方、晴れた日には天井の太陽光パネルがとらえた力を推進力とし、乗組員たちは、太陽光技術と首都パリの「魅力」について乗客に語りかけるのである。

太陽光発電による街灯とクルーズ船は、COP21開催(11月30日から12月11日迄)に向け、気候変動問題が突き付けている深刻な現状を、世界の指導者や国際社会に理解してもらおうとフランスが取り組みを強化する中で実施された、人目を引く取り組みの一例である。

Franois Hollande/ Wikimedia Commons

フランスのフランソワ・オランド大統領は9月、閣僚が列席する中、COP21を成功させるための野心的な試みを開始した。しかし大統領は一方で、同会議が失敗に終わる可能性が現実にあると警告した。

オランド大統領は、「奇跡などありません…成功する可能性はありますが、失敗するリスクも大いにあります。」と、政治指導者、芸術家、科学者、CEO、非政府組織、学生などを集めてエリゼ宮で開催された半日間の会議で語った。

フランス政府は、NGOの他にも、数多くの会議やプロジェクトを支援している。そうしたなか、パリ市は、9月27日を、隣国のベルギーの首都ブリュッセルが数年実施してきた先例に倣って、新たに「ノーカー・デー」に指定した。

さらに、歌や踊り、芸術プロジェクト、市民行進、COP21記念切手の発行、フィットネス用の自転車でエネルギーを作って音を出すなどの革新的なベンチャーへの注目等を通じて、COP21に向けた機運が高まりつつある。

こうしたなか、フランスのローレン・ファビウス外相は、「動かそう:気候対策支援に関与する市民社会」という公開フォーラムを10月3日に開催した。地元の大学と新聞が共催した同フォーラムには、約500人が参加して気候変動問題について議論した。

また、11月1日に開催予定の「地球のための24時間瞑想」や、COP21開催まで毎月1日に断食を行うことを呼びかけている「気候のための断食」プロジェクトなど、市民によるユニークな行動イベントに参加することも可能だ。

「芸術を通じて行動を訴える人々」の中には、「アートCOP21」という集団もある。彼らは「気候変動の問題を人々の課題として取り組む全市を挙げた文化イベントを開催し、そこで積極的で持続可能な変化をもたらすための文化的な青写真を創出する計画を立てた。

アートCOP21のローレーヌ・ガーモンド代表は、「芸術家は時として、政治家の声が届かない人々にもメッセージを届けることができます。しかし、私たちのこうした試みが、来月にCOP21が閉幕する際に各国が合意に至るかどうかということについて、どの程度影響を及ぼせるかは分かりません。」と語った。

オランド大統領は、望ましい結果を得るための「成功への鍵」を握るのは、2020年以降、毎年1000億ドルが必要だとされている対途上国援助資金の問題を解決することにあると繰り返した。

この資金は、気候変動に対して脆弱な国々がこの問題に対処していくために必要不可欠なものだと考えられており、その資金集めについては、とりわけ10月半ばに開催される欧州評議会のサミットで議論されることになっている。オランド大統領は、「こうした手段の中には金融取引に対する課税も含まれます。」と指摘したうえで、フランスの取り組みについて語った。

オランド大統領はまた、気候変動が、紛争や「独裁者、テロ」と同じように難民を生み出していることから、「(気候変動に関する)資金調達で世界の難民問題の緩和につながる可能性があります。」と指摘した。

フランスのマニュエル・ヴァルス首相はさらに、「地球温暖化によって主に被害を受けているのは『最も脆弱かつ貧しい』人々であり、フランスは、この問題に対して行動を起こす『決定的な役割を担っています。』」と語った。

Victorin Lurel/ A.D. McKenzie of IDN

エリゼ宮での会議の参加者の一人でグアドループから来たビクトリン・ルレル氏は、IDNの取材に対して、地球温暖化が小規模な島嶼国家に与える影響について、「例えばカリブ海諸国は、温室効果ガスの主要な排出者でないにも関わらず、海岸線の喪失、激しさを増すハリケーンの襲来などの被害を受けています。」と語った。

「これは私たちにとって死活問題であり、カリブ海諸国は、誰が(地球温暖化の)大きな責任を負っているかという問題は別にしても、地球温暖化は普遍的な問題であるとの意識喚起を図っています。」と、フランス海外領土であるグアドループ地域評議会の会長であるルレル氏は語った。

フランスのエコロジー・持続可能開発・エネルギー大臣であるセゴレーヌ・ロワイヤル氏は、「市民社会の中で行動が『非常に盛んに』なってきていることを喜ばしく思います。この機運がCOP21に向けて、そしてその後も継続していくことを期待します。」と語った。

ロワイヤル氏は、人類が直面している課題をシンプルに表現した。すなわち、森林などの環境破壊を止める、海洋などの汚染を減らす、(温室効果ガスの)排出を減らす、資源の過剰搾取を止める、ということである。

Ségolène Royal/ Wikimedia Commons
Ségolène Royal/ Wikimedia Commons

フランス政府によると、COP21はフランスがこれまで主催した会議の中で最も重要なものになるという。それは、世界が難題に直面しているからというだけではなく、「数万人」もの人々が物理的に会議に参加し、同時に会議の経緯を注視することになるからだ。

フランスのNGOにとっては、COP21はまた別の意味で重要な機会になるという。つまり、フランスは、ドイツやスイスといった国に比べて、国民の環境問題への意識が低く、おそらく(今回の会議によって)フランス市民がNGOの意見に耳を傾けるようになるのではないか、と期待されているのである。

これまでの気候変動会議開催期間中になされた非公式調査では、例えば、パリの街中にいる人々は、気候変動問題や協議の行く末についてほぼ関心を示していなかったという。多くの人々が、炭素ガス排出に向けた交渉や、地球の温度を「2度上昇」以下に抑える国際的目標について、何も知らないと答えている。

「私たちの意見に十分耳を傾けてもらっているとはまだ考えていません。」と語るのは、世界自然保護基金(WWF)フランス支部で自然保護プログラムの責任者を務め、NGOネットワークの代表でもあるダイアン・シミュー氏である。

有名なフランス人監督による環境についての映画を含め、芸術面から後押しすることは有効だろうか?

この問いに対してオランド大統領は9月に次のように述べている。「もう遅いし、恐らくは遅すぎるのかもしれません。」「したがって、緊急の行動が求められています…今さら知らなかった、などと言うことはできないのです。」(原文へ

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カザフスタン・日本、核実験禁止条約発効に向け「攻勢」へ

【国連IDN=ファビオラ・オルティス】

国連が創立100年を迎える「2045年までに核兵器なき世界を実現するという目標を達成すべく、より果敢に取り組んでいきたい。」と中央アジアのカザフスタン共和国のエルラン・イドリソフ外相が宣言した。

Erlan IDRISSOV/ CTBTO
Erlan IDRISSOV/ CTBTO

イドリソフ外相の発言は、29日にニューヨークの国連本部で開催された第9回「包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進閣僚会議」でのことである。

日本の岸田文雄外相と共同議長を務めたイドリソフ外相は、各国の代表に対して、法的拘束力のある核実験禁止実現を追求するにあたっては「遠慮なく、時には外交儀礼をかなぐり捨てる姿勢すら辞さない」であろうと指摘したうえで、「両国(カザフスタンと日本)は、核兵器を廃絶することに関しては挑戦的になる道義的権利があります。」と語った。

共同議長の岸田外相は、核兵器廃絶へ向けた国際社会の取り組みの中で、被爆国である日本が歴史的役割と義務を担っていることを強調するとともに、広島・長崎への原爆投下から70年という節目と、核爆弾の生存者(ヒバクシャ)の経験に言及した。

Fumio Kishida/ CTBTO

会議には、批准国の外相が多数参加したのに加え、欧州連合フェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表、デズモンド・ブラウン元英国防相、日本原子力委員会委員の阿部信泰大使、アンゲラ・ケイン前国連軍縮問題高等代表、CTBTOのウォルフガング・ホフマン名誉事務局長など「賢人グループ」(GEM: Group of Eminent Persons)のメンバーも参加した。

CTBTの関連条項にちなんで「第14条会議」とも称されるこの会議では最終宣言が採択され、「普遍的で効果的に検証可能な条約は、国際的な核軍縮及び核不拡散体制の中核を成す要素である」ことが確認された。

ローマカトリック教会のフランシスコ法王はこうした熱烈なアピールを支持している。25日には国連総会で「核兵器なき世界に向けて行動する緊急の必要があります。」と各国代表らに対して演説した。

Pope Francis addressing the General Assembly at the United Nations headquarters in New York, USA/ CTBTO

国連の潘基文事務総長は会議の開会にあたり、「CTBTは核兵器なき世界という私たちのビジョンの実現にとって極めて重要であり、国際社会がこれ以上核兵器の影の下で生きることを余儀なくされないようにするものです。」

潘事務総長はまた、「CTBT準備委員会の元議長として、私は個人的に、この条約の発効のためにあらゆる努力を払いたいと思っています。」と公約するとともに、自らの名前が「BAN」(「禁止する」という意味の英語)と綴ることに引っ掛けて、「私はあらゆる核実験を禁止する(BAN)決意です。」と冗談めかして語った。

CTBTO準備委員会のラッシーナ・ゼルボ事務局長はIDNの取材に対して、「条約発効のためにより多くのことがなされ、各加盟国が真のリーダーシップを発揮することを強く希望しています。」「2016年は、CTBTが署名開放されてから20年目になります。しかしこれは祝福すべきことではありません。なぜなら20年経っても、未だに条約発効促進のために第14条で定められた会議をこうして開催しなければならないからです。」と語った。

包括的核実験禁止条約は1996年に署名開放され、核兵器の開発に制約を課すと同時に、世界全体で全ての核爆発実験を禁止している。

しかし、8か国がまだ署名・批准していないために、条約は発効していない。その8か国とは、中国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、パキスタン、米国、朝鮮民主主義人民共和国である。これらは、1990年代の条約最終交渉時において核技術を持っていた44か国のリストに含まれる国々である。

CTBTは、多数の監視施設から成るグローバルネットワークを構築し、世界のいかなる場所においても疑わしい事象に対する現地査察を容認している。取り決め全体は、前文、17の条項、2つの附属書、検証手続きについて定めた議定書から成っている。

イドリソフ外相は、「ソ連が崩壊してカザフスタンが独立した24年前、わが国には1400発の核兵器と核実験場があり、生物兵器・化学兵器の生産施設も存在しました。」と語った。

イドリソフ外相はまた、「独立後最初の10年で、カザフスタンはすべてのソ連の兵器システム・施設を解体することを決意し、重要な核不拡散条約署名の先頭に立ちました。」「世界をより安全な場所にすると決意し、その決断は他国の刺激になりました。核兵器なき世界の達成は困難な任務です。歴史の浅い国として、わが国は全ての国々が軍縮に向かうための良き刺激になりたいと考えています。日本とカザフスタンは、核兵器という軍事主義がもたらす最も醜悪な影響を被りました。カザフスタンで実施された500回におよぶ核実験は、この種の兵器がもたらす最も破壊的な危険性を思い起こさせるものです。」と語った。

会議の共同議長である日本の岸田外相は、広島(同氏の出身地)と長崎への原爆投下から70年にあたることを想起した。

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

岸田外相は、「核実験の禁止は核軍縮の効果的な柱のひとつであり、CTBTは核実験禁止という規範を強化するのに貢献してきました。条約の早期発効に向けて私たちの取組みを強化しなくてはなりません。」を語った。

岸田外相はまた、「国際監視制度(IMS)の完成に向けた更なる構築を促進し、中でも同制度を支える各国の国内データセンター要員養成のための支援を促進することが重要です。」と語った。

IMSは、条約遵守を検証し、条約違反を探知・確認する世界大のネットワークである。今日、IMSは8割完成しており、254の監視ステーションからなる。放射性核種研究所16か所のうち、10か所がすでに認証されている。

CTBTの実行ための必要な準備を進めるために、包括的核実験禁止条約(CTBTO)準備委員会が1996年にウィーンに設置されている。

ゼルボ事務局長は、より「果敢なアプローチ」が必要だというカザフ外相と同意見だ。「条約を完成させて、通常の外交的手法、すなわち、すべての国に批准を呼びかけ、2年間待ち、また同じようなレトリックを繰り返すといった現状を打破することができるように、建設的で果敢なやり方で行動することを望んでいます。国際社会には、具体的な行動計画と、達成すべきことについての明確なスケジュールが必要です。」とゼルボ事務局長は付け加えた。

CTBTO準備委員会は、すべての国が条約を批准した際に創設されるものとされている。しかし、ゼルボ事務局長は、かりに組織が公的には創設されていないとしても、すでに、あたかも組織が存在するかのごとく機能しているという。

「私たちは、効果的に機能している400人以上の集団です。人々に関与し、納税者のお金を使わせてもらい、国際監視制度のようなインフラを構築した上で、条約発効への準備ができていない、とは言えないでしょう。」とゼルボ事務局長は語った。

ゼルボ事務局長は、CTBTO準備委が北朝鮮の核実験を探知した2006年が画期の年であったと考えている。「私たちは国際社会に対して、効率的に核爆発実験を探知できることを証明しました。この取り決めの下で必要とされるもの、すなわちデータを諸国に効果的に提供する枠組みがあり、私たちの情報提供によって、いかなる核爆発実験も探知されずに行われることはないことを示したのです。」

Des Browne/ Chatham House

CTBT賢人グループの一員で「核脅威イニシアチブ」の副議長を務めるデズ・ブラウン氏によると、その答えは依然として政治の中にあるという。米国はCTBTの最初の署名国となり(1996年9月24日)、条約を推進した国のひとつであったが、国内政治のために未だに批准が済んでいない。

「またいくつかの障害は国際政治に関係している。中国の場合、米国が批准したらその直後に中国も批准するとの意思を鮮明にしている。もし中東諸国の抵抗を排することができたなら、(批准)は芋づる式に発生するかもしれません。同じことは、インドとパキスタンの場合にも言えます。つまり地域政治が密接に関係しているのです。」とブラウン氏はIDNの取材に対して語った。

米国のアントニー・ブリンケン国務副長官は、「オバマ政権がCTBTを推進して上院からの批准を求める政策に変わりはありません。」と指摘したうえで、「明確かつ説得力のある証拠を見れば、包括的核実験禁止条約を発効することが米国の安全保障にとっても、国際安全保障にとってもよいことであると考えています。この条約は、核兵器への依存を減らし、核軍拡競争のリスクを減ずる重要な一歩です。」と語った。

Deputy Secretary of State Antony J. Blinken/ US State Department
Deputy Secretary of State Antony J. Blinken/ US State Department

ブリンケン副長官はまた、「米国は条約にコミットし続けており、批准が必要だとの訴えを国内で積極的に行っています。他の国々もまた、批准を追求し、どうすれば批准できるかについての計画を明確にすべきで、他の国がどうするかを待つ理由はありません。CTBTは理論的な世界に関する抽象的な概念ではありません。それは、自らの市民にとっての、そして、世界の民衆に対しての、平和と安全をもたらす明確かつ確実なステップなのです。」と付け加えた。

世界の歴史は、核兵器が人間の健康と環境に影響を及ぼす破壊的かつ無差別的なものであることを証明している。日本の原子力委員会委員長代理でありCTBT賢人グループの一員でもある阿部信泰氏は、「民衆はこの種の兵器は今後二度と使われてはならないと理解しています。」と指摘した。

「もし米国がよく考え、自国にとっての長期的な利益を考えるならば、CTBT批准を支持すべきです。なぜなら核兵器はほぼ使用が不可能だからです。それでは、なぜ核実験を続けなければならないのでしょう? 米国はもはや核実験を行う必要がないのです。彼らはすでに1000回も核実験を行ってきました。これは、各国の中で最大の数です。時代は変わったのです。核兵器は、無駄で、使いようのない資産になってしまうでしょう。」と阿部氏は語った。

核実験と核兵器のない世界は2045年までに実現可能だと、デズ・ブラウン氏は考えている。30年前、米国のロナルド・レーガン大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長との会談で、すべての弾道ミサイルを禁止することが提案された。会談が行われたのは1986年のことだ。

ブラウン氏はこう主張している。「その10分間、両首脳は核兵器なき世界の可能性を開きました。個人的には、現在の政治状況はステップ・バイ・ステップでなければならないと思いますが、それでも可能ではあります。それは、思いがけず起こるものですし、物事は急激に変わりうるものです。これまでの私たちの取り組みが失敗だったとは思っていません。」とブラウン氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan 

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SDGs達成のため、韓国の「セマウル(=新しい農村)運動」から学ぶ

【国連IPS=アルナ・ダット、バレンティーナ・イエリ】

世界の33億人以上が農村地帯に暮らしている。従って、農村開発は「民衆・地球・繁栄のための行動計画」とされている『持続可能な開発のためのアジェンダ2030』を実現しようとするならば、極めて重要な意味合いを持ってくる。

世界の指導者らがニューヨークの国連本部で25日に「持続可能な開発目標」(SDGs)を全会一致で採択した翌日、経済協力開発機構(OECD、加盟34カ国)開発センターと韓国外務省、国連開発計画(UNDP)が合同で、途上国でSDGsを達成する方法について討論する画期的なイベント(「セマウル運動高官級特別行事」)を開催した。

焦点があてられたのは、韓国の「セマウル運動」の成功から刺激を受けた、「新たな農村開発パラダイム」と「包摂的・持続可能な新共同体モデル」である。

SDGs for All
SDGs for All

2004年1月から06年11月まで韓国の外相だった国連の潘基文事務総長は会合で発言し、「指導者らは、すべての人々にとっての尊厳ある生活を創り出すと誓いました。私たちは、農村地帯の人々も含め、『誰も置き去りにしない』と約束したのです。地域開発なくしてはこのグローバル運動の進歩はあり得ません。」と語った。

潘事務総長は、韓国が国連に提示したこの開発モデルを歓迎し、「韓国の農村地帯は貧困から繁栄の地帯とへ変貌しました。セマウル運動にはSDGsの究極的な目標と共通する部分があります。」と指摘したうえで、「教育、勤勉、自助、相互協力を主要原則とするセマウル運動は、世界の持続的な繁栄のための新たな農村発展パラダイムになる可能性を秘めています。」と語った。

またこのイベントには韓国の朴槿恵大統領も参加した。朴大統領は、他の国々のそれぞれの条件に見合うように「新農村運動」モデルを適用させるべく、韓国がUNDPやOECDといかに協力しているかについて説明した。

「セマウル運動は韓国国民の生活を向上させ、私たちの社会を変えました。私たちはかつて世界のなかでも最も貧しい国の一つでした。しかし今や、私たちは世界の経済大国トップ15の中に入り、主要な国際支援ドナーの上位を占めています。」と朴大統領は語った。

韓国の開発の歴史は韓国の成長産業が牽引したとされることが多いが、国連韓国政府代表部のハン・ジョンヒ次席大使は、「セマウル運動は1970年代の成長をもたらした重要な要素であり、今日の急速な都市化と産業化の時代における、これからの環境的に持続可能な開発にとって刺激になるものです。」と語った。

Ambassador Hahn, Deputy Permanent Representative of the South Korea Mission to the U.N., with UNSG Ban Ki-moon. Source UN photo/ Mark Garten

「この運動は、あらゆる人が、絶望から希望へ、貧困から繁栄へとヴィジョンを変えるために必要とされるものです。」「韓国は世界の全ての国々と、この開発モデルから得た経験を共有したいと考えています。」とハン次席大使はIPSの取材に対して語った。

ハン次席大使はまた、「セマウル運動を主流の開発戦略から分けている顕著な側面は、エチオピアやウガンダ、ルワンダ、タンザニア、アフガニスタン、ミャンマー、ラオス、カンボジアなど、世界30か国において実施されてきた開発プロジェクトの中に統合されています。」「そこには、『やればできる』精神や、ジェンダー平等や人権に関する啓蒙的な観点を促進するなどの戦略が含まれているのです。」と語った。

朴槿恵大統領の父親である朴正煕大統領(当時)は、1970年にセマウル運動を開始し、各村にセメントと鉄を与え、村人が資源をうまく利用した程度に応じて村の順位付けを行った。当時の韓国政府はこうして、上位にランクされた村々にさらに資源を与え、村人が近隣の村々に対抗して最大限協力しあって努力するインセンティブと連帯感を創出した。

結果としてこの事業は、国民の間に連帯感を生み、地域と国をより住みやすい場所にしようとする流れに自らが加わることができるとの信念を民衆の間に育むことに成功した。また、セマウル運動に対する人々の熱狂を盛り立てる手段として、旗や歌、功労者に対する叙勲といった動機づけの手段が効果的に用いられた。

"교육 사진" by Icestar912 - Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons
“교육 사진” by Icestar912 – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons

「私たちはこの経験から、音楽がこの開発プロセスにおいて大きな要素を占めると考えています。」とハン次席大使は語った。当時人々に最も親しまれた2曲の歌謡のうちの一つは、朴大統領自身が作曲したものだった。ハン次席大使は当時を振り返り、「『Jal Sala Boseh』という歌は、『豊かで繁栄する』というメッセージを送ったものであり、『Saebyuck Jong-i Ulryutneh』は『新しい一日がやって来た。さあみんなで新しい村を建設しよう』と歌ったものです。」と語った。

「地方機関を通じた自立、海外援助にできるだけ頼らない国にしようという考え、そして最終的には政府への依存を減らそうという考えに対する強い信念は、セマウル運動における重要な成長戦略でした。それは、より持続可能なプロジェクトにつながっていき、80年代初頭までには、政府予算よりも、地域の資源と資金に支えられるようになっていきました。」とハン次席大使は語った。

韓国政府の政策は、プロジェクトを実行する地方の公務員と住民を中央政府と結びつけるセマウル訓練センターの設置につながり、地方・中央の訓練組織における女性向けの指導訓練も行なわれた。各村からは12人の代表が出されたが、政府は、そのうち少なくとも1人は女性にすることを義務づけたことから、女性のエンパワーメントにつながった。

セマウル運動の経験は、その他の国々でもうまく再現することが可能だろうか? OECD地域開発センターのマリオ・ペッチーニ所長は「それは可能です」と指摘したうえで、「世界の農村人口33億人のうち92%は途上国に暮らしており、2028年までにはさらに数が増えると見られています。従って、「農村の視点」で見ることは、SDGsの実行と成功にとって不可欠です。」とペッチーニ氏はIPSの取材に対して語った。

Mario Pezzini, Director of OECD Development Centre, Source : OECD Dev. Centre
Mario Pezzini, Director of OECD Development Centre, Source : OECD Dev. Centre

貧困層の大多数は農村地帯に暮らしており、拡大する不平等や、都市が農村人口を吸収できないという制約と闘っている。

こうした人々は環境や社会、経済面で不安定な現実に直面しているため、彼らを見捨てることはできない。「農村開発とは、農業のみと結び付けられるものでもないし、衰退と結び付けられるものでもないということを心に留めておかねばなりません。」とペッチーニ氏は説明した。

「農業は農村経済の重要な部分を占めています。農業の生産性を向上させれば、必ず農村人口の過剰につながりますが、それは必ずしも農業部門のみの雇用で吸収できるわけではありません。農村開発を議論する際には、農業を含めた地域に根差した経済を語ることが重要ですが、同時に非農業雇用など、それを超える議論も必要なのです。従って、農村開発は必ずしもそのまま農業開発、或いは、工業開発を意味するものでもないのです。」とイタリア出身のOECD開発センター長は語った。

これは、政策決定への革命的なアプローチにつながる。

セマウル運動を基礎にした新たな農村開発のパラダイムが含意すべきものは、「さまざまな活動を考慮に入れた、複数の分野、複数の主体、複数の次元にまたがった地方・地域開発の新しいタイプです。」とペッチーニ氏は語った。

「新たな政府のアジェンダは、政府による様々なタイプの計画的な介入を必要とする、農村地帯の多様な資産に焦点を合わせるべきです。中央政府が、地域の住民や地元の知恵を考慮に入れず、一般的な枠組による政策を進めれば、失敗する可能性が高くなります。」とペッチーニ氏は付け加えた。

「一つの主体だけで事を為し得ることはできません。しかし、もし公的部門を効果的なものにしようとするならば、民間部門や労組、一般市民を巻き込まねばなりません。ここで重要な点は、まだ使われていない資産の価値をいかに定めるかということにあります。」とペッチーニ氏は強調した。(原文へ) 原文掲載日09.30.2015

翻訳=IPS Japan

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【国連IDN=ファビオラ・オルティス】

持続可能な開発目標(SDGs)とは、ミレニアム開発目標(MDGs)という「未完の仕事を終わらせる」ためのもの―こう語ったのは、ポスト2015年の開発計画に関する潘基文国連事務総長の特別顧問であるアミーナ・モハメッド氏である。

国際社会は、ニューヨークの国連本部で開催された「持続可能な開発に関するサミット」(9月27日~29日)において、2030年までの17の新たな開発目標と169のターゲットを採択した。今年で期限を迎える8つのMDGsに替わって、ポスト2015年のアジェンダはより多い目標数を定めた。

国際社会は、今後15年間で世界が優先すべき課題とその範囲を定める作業に実に3年半を費やした。

モハメド特別顧問は、国連での記者会見において「今般の開発目標は、世界が直面している諸問題に対して対症療法的な対応に留まりません。」と指摘したうえで「私たちは問題の表面的な現象ではなく根本原因について議論していきます。MDGsは一定の成功を収めました。もっとも仮にMDGsがあまり機能していなかったら、その後継目標について話し合うこともなかったでしょう。ただし(期限を迎えた)MSGsは未完の仕事のままなのです。」と語った。

「今日の世界は、今後15年間で何をすべきかについて少数の人々が世界に処方箋を提示した2000年のMDGs発表当時とは、大きく違ってきています。」「今日、私たちが手にしているのは、普遍的な開発目標です。つまり、このアジェンダはみんなのものであり、互いに密接な関連を持っていると誰もが認める世界の諸問題に関する開発目標なのです。SDGsは、2030年までにいかにして貧困を根絶していくか、そして数多くの複雑な問題にいかに対処していくかについての、人類の共通のビジョンに対する回答なのです。」と、モハメド氏は強調した。

世界資源研究所(WRI)キティ・ファンデルヘイデン氏にとっては、SDGsは革命とまでは言えないが、本質的に革新的な内容を含むものだ。「SDGsは、私たちの経済や暮らし、生態系をも変える可能性を持っています。また17の目標はMSGsが成しえなかったこと、つまり『誰も見捨てない』という目標を目指していくことになります。これは、一歩前進だと思います。」とファンデルヘイデン氏はIDNの独占インタビュー対して語った。

「持続可能な開発」とは、経済・環境・社会の三本柱の間のバランスを意味する。ヘイデン氏によると、グローバル経済がかなり成長した過去数十年において(世界のGDPは1990年以来3倍になった)、世界は極度な貧困を半減させることである程度の平等は達成したが、ジェンダー平等や女性の性と生殖に関する健康の面においては依然として大きな課題を抱えているという。

「私たちは、経済は成長させてきましたが、経済的・社会的富を世界に平等に配分することには失敗してきました。その結果、深刻なニュースを目の当たりにしています。つまり、生物多様性の喪失スピード、土壌の劣化、気候変動、海洋の酸性化、飲み水の不足、これら全てが加速度的に悪化しているのです。」とファンデルヘイデン氏は語った。

モハメド特別顧問によれば、MDGsは、何が人々を経済から排除し、なぜ貧困があるのかという問いについて、「根本原因」に目を向けなかったし、より広く、より統合的な視野に対応することができなかった、という。

「健康に関しては、HIVや結核などの疾病には何とか対応してきましたが、その中身は黙々と対処療法に終始したもので、保健医療制度には目を向けていませんでした。そのためエボラ出血熱の大流行が起こり、従来の脆弱は保険医療制度では十分な対処ができず大きな後退を余儀なくされたのです。」「私たちは正面から問題に対処しようとはしましたが、根本原因には触れませんでした。今後はこのような失敗を繰り返さないためにも、応急処置に留まらず、さらに一歩先に踏み込んでいかなければなりません。」と、モハメド特別顧問は語った。

Two health care workers clean their feet in a bucket of water containing bleach after they leave an Ebola isolation facility during an Ebola simulation at Biankouma Hospital in Côte d’Ivoire. Credit: Marc-André Boisvert/IPS

しかし、市民団体には、新しい開発目標について、特にその「履行」に関して、懐疑的な見方もある。

世界自然保護基金(WWF)ディオン・ネル氏は、SDGsの今後の見通しについて、「MDGsでは大きな進歩もありましたが、今後環境という要素をしっかり織り込まなくては、これまでに得たものを失ってしまう大きなリスクがあります。究極的には、この開発アジェンダは、謳われている文章によってではなく、それらが実際に行動に移されかどうかによって判断されなければなりません。」と語った。

ネル氏は記者たちに対して、「現状を見る限り世界はもはや後戻りできない岐路に立たされており、今後の見通しについて「きわめて悲観的」にならざるを得ない数多くの理由があります。」「例えば、人類は毎年地球の一年分の資源を8か月で消費し続ける一方で、重要な生命の生態系の6割が衰退しています。また、2015年は史上最も暑い年となりました。」と語った。

他方で、市民団体は変化の兆候も感じ取ってもいる。「この新しいアジェンダは、地球を変革するための、文字どおり草の根の実行計画です。やらねばならない仕事は多いが、世界を変革するための第一歩となるものです。私たちはこのプロセスを自分たちのものにしなくてはなりません。このアジェンダは完璧ではないかもしれないが、それでも基礎から積み上げて作り上げてきたものです。」とネル氏は強調した。

一方インドネシアの人権活動家エニ・レスタリ氏の意見では、「SDGsには矛盾があり、移民のニーズに対応できていない。」という。

Eni Lestari, Ketua International Migrant Alliance (IMA)
Eni Lestari, Ketua International Migrant Alliance (IMA)

「数多くの人々が、開発やアグリビジネス、オイルプランテーション、鉱山、不動産開発等のために土地を追われて貧困に陥っています。彼らは、安価で搾取される労働力になることを余儀なくされており、その中から多くが難民になるかもしれません。また多くの人々が、気候変動や災害で土地を追われて、基本的な市民の権利を拒絶してきたグローバル化の最下層を構成しつつあります。」と国際移民連合(IMA)の議長を務めるレスタニ氏は批判した。

レスタニ氏はまた、国連から報道している会場の記者らに対して、「一部の開発目標は一般的な不平等の問題に対応していますが、真の変化を生み出すための財政的な確約は未だに存在していません。」「この開発アジェンダの中に、貧困の原因となるシステム自体を変革するよう諸政府に求めるものはありません。」と語った。

彼女の意見では、民間部門と企業がSDGsの資金面を見るようになれば、問題の根本原因に適切に対処されないリスクがあるという。

Paul O’Brien/ Oxfam America
Paul O’Brien/ Oxfam America

SDGs実現のためのコストがいくらかかるのかということと、国際ドナーの政治的意思との間には、未だにギャップがある。「このギャップは巨大で、毎年数兆ドルという規模の額にもなります。」とオックスファム・アメリカの政策・キャンペーン担当副責任者のポール・オブライエン氏は語った。

オブライエン氏によると、とりわけ途上国の国内支出に対するインセンティブを考えれば、SDGsの財政面を賄う資金は十分にあるという。

「目標のすべてを達成するための時間と資金はあります。」とオブライエン氏は断言した。問題は、各国政府に政治的意思が十分にあるかどうかだ。オブライエン氏はこの点について、「(サミットに出席した)全員がそれぞれの国に急いで帰って、目標達成のための投資を始めるかといえば、そうは思えません。」と語った。

モハメド特別顧問によれば、その答えはグローバルなパートナーシップを形成していくことにあるという。「この世界には数兆ドルの資金が存在します。それは、プライベート・エクイティ・ファンドや様々な投資資金源のなかに眠っています。私たちは、それを引き出す鍵を見つけなければなりません。SDGsを実現する資金は確かに存在するのです。」

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