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世界の大国、核決議に「恥ずべき」棄権

【国連IDN=ロドニー・レイノルズ】

世界の主要な核兵器国は核軍縮への支持を表明してはいるが、その政治的レトリックに見合う行動はたいていはなされない。それどころかこうした国々は、核戦力の近代化すら続けている。これにひるまず、軍縮及び国際安全保障に関する国連委員会(国連第一委員会としても知られる)は従来、主に軍備管理と核軍縮に関する毎年15本から20本の決議案を採択してきた。

今年は重大な例外があった。世界の主要な核大国のうちの3か国である米国、英国、フランスが、日本が毎年主導してきた、核兵器の完全廃絶に向けた共同行動に関する決議を棄権したのである。3か国は、昨年は同決議に賛成しており、米国と英国に至っては共同提出国でもあった。しかし今年、両国はその道を選ばず、主要な西側の同盟国である日本を大いに失望させた。

国連で飛び交っている憶測は、今年の決議が、70年前の広島・長崎への原爆投下の生存者を意味する「ヒバクシャ」という言葉を決議に含めることで、核兵器が及ぼす人道的帰結の問題に焦点を当てたため、棄権を招いてしまったのではないか、ということだ。

決議案は11月2日、賛成156、反対3、棄権17で採択された。

3票の反対は、他の主要核兵器であるロシアと中国、それに北朝鮮によるものである。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

物理学者で、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共国際問題学部「核未来研究所科学・安全保障プログラム」の講師でもあるM・V・ラマナ博士は、IDNの取材に対して、「核兵器使用の人道的な帰結について言及しているからといって、核兵器廃絶を呼び掛けた決議に賛成すらできないというのならば、これは核兵器国の恥ずべき行為だと言わざるをえません。」と指摘したうえで、「核爆発がもたらす恐るべき影響についてはよく知られています。核兵器国がこの現実に向き合おうとしないとすれば、それは、核兵器に関して彼らが抽象的にしか考えて来なかったということであり、核兵器に関するいかなる議論も受け付けたくないということなのでしょう。」と語った。

さらに、ラマナ博士は「軍事計画立案者と外交官は、自分たちが取り扱っているのは大量殺人の道具なのだということを、市民社会と活動家によって常に思い出させてもらわねばなりません。」と付け加えた。ラマナ博士には、著書『約束された力:インドの核エネルギーを検証する』があり、『原子科学者紀要』科学・安全保障理事会、「核分裂性物質に関する国際パネル」の元メンバーでもある。

また、米国の棄権は、バラク・オバマ大統領が2009年にプラハで行った歴史的な演説の中で「核兵器なき世界」を呼び掛けているだけに、意外な展開であった。

長崎で開催された、第61回パグウォッシュ会議世界大会で発言したレベッカ・ジョンソン博士(核問題分析家、核兵器廃絶国際キャンペーン[ICAN]運営委員)は、「日本は板挟み状態になった。」と指摘したうえで、「必要なのは核軍縮に関してどんな立ち位置を採りそれを追求するかを決めることでしたが、今回の結果は、核保有国と非保有国の橋渡しをしようとしてきた日本政府の試みが行き詰まったことを示しています。」と語った。

20世紀に取り残された巨岩

またジョンソン博士は、「核戦力を維持しその近代化を図ることに依存しつづける米国は、言わば20世紀に取り残された巨岩です。従って、日本は、(核兵絶に対する)自らの立場を空虚なレトリックでうやむやにしない限り、米国政府を満足させられないのです。」と語った。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

「この状況では、安倍政権は、核兵器の禁止と廃絶を訴えて困難な立場にある被爆者と日本国民を支持すべきです。」と、ジョンソン氏は語った。

原爆が広島・長崎を破壊してから70年、日本の人々は、日本政府が、核軍縮と核近代化との間の違いを埋めようとしていると主張する一方で、その実は、感傷的な決まり文句ばかりを口にし、核の同盟上必要として日本の名において米国が核兵器を使用することに依存し続けている状況に飽き飽きしています。」

ジョンソン博士はまた、「(核兵器の使用がもたらす)人道的な帰結に関する懸念を高める決議案を支持することで日本は賞賛されるだろうと。」と語った。

オープン参加国作業グループを来年設置することを求めたメキシコ主導の決議案が第一委員会で圧倒的多数で採択された今、日本は、「効果的な法的措置の問題に実質的に対処する」ことを建設的に行うべきだ。

「被爆者と日本の人々は、核兵器を維持しようとする(国連安保理の)P5に迎合することをやめ、核兵器の使用・配備・保有を禁止しその完全廃絶を義務づける法的拘束力のある条約に向けて努力することを自国の政府に期待しています。」と、ジョンソン博士は語った。

ニュージーランド全国軍縮諮問委員会の元議長で、化学兵器・核兵器や米外交政策に関する著作もあるボブ・リグ氏は、「日本は米国が第二次世界大戦末期に2回にわたって行った壊滅的な原爆攻撃の被害国ですが、その後日本の歴代保守政権は、皮肉にも、この問題をあえて矮小化することで、米国の『核の傘』の下で戦略的な利益を得ようとしてきたのです。」と語った。

「米国政府は、これへの見返りとして、きわめて一般的な表現で核軍縮への賛同求める日本主導の穏健な決議案を支持してきたのです。」

Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.
Photo: Hiroshima Ruins, October 5, 1945. Photo by Shigeo Hayashi.

「たとえあやふやなものであったとしても、核軍縮に向けた実際的措置を履行すると受け取られかねないことに対して、米英仏は頑強に反対してきました。こうしたことに国際社会は忍耐を失いつつあるのです、それへの不安感が、今回の3か国による日本決議案への棄権という形で現れたのでしょう。」と、リグ氏は語った。

「ロシアと中国はよく、米国が軍縮を支持しないといって激しく批判します、今回両国は表立って日本決議案に反対票を投じました。」

「すべての核保有国は核爆弾を持ち、頑強にこれに固執しています。非保有国は、保有国に対して、軍縮を納得させることも強要することもできないのです。」と化学兵器禁止条約機関(OPCW、本部ハーグ)の元主席職員のリグ氏は語った。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

「2009年4月のオバマ大統領によるプラハ演説は国際メディアが過剰に評価したものであり、米国の軍部や産業界はこれを黙殺したのです。」とリグ氏は語った。

「その同じオバマ大統領は、穴の開いた風船のように萎んでしまい、今や米国の核戦力を強化してその打撃能力を向上させるための予算を積み増しています。」

「2016年の米大統領選に向けて、核軍縮への措置はおろか、軍事予算の削減をあえて主張する候補者は誰もいません。」とリグ氏は指摘した。

ジュネーブ軍縮会議国連総会第一委員会(軍縮・安全保障)は、墓場と化してしました。大言壮語で怒りを示してはいるが、その実、何の意味も持たない決議が、繰り返し、過剰に提出され、その山の下に、自国政府によって代表されていない日本の人々や、戦争に飽き飽きした世界の人々の願いが埋もれてしまっているのです。」とリグ氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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非核地帯のアフリカ、原子力利用には熱心

【ハラレIPS=ジェフリー・モヨ】

南部アフリカでは、核軍縮というテーマがとりわけ主要な関心事とはなっていない。それは、アフリカでは核兵器を保有している国が一つもないことと関係がある。アフリカでは、ペリンダバ条約(1996年署名開放、2009年7月15日発効)により、大陸全体が非核兵器地帯となっている。

アフリカ諸国では、専門家らの間に、「核兵器に焦点を当てるよりも、むしろ深刻なエネルギー不足の問題を背景に、いかに原子力を電力確保のために利用できるかに労力を傾けた方がよい」と考える向きがある。

 こうした専門家らの電力利用に対する関心は、「すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」と謳った、国連の「持続可能な開発目標」の第7項目と一致する。

サブサハラアフリカ地域の国々は、原子力の利用を認められるべきです。なぜなら、原子力発電が、この地域に蔓延する深刻な電力不足に対する解決策となるかもしれないからです。ただし、人間の生命を危険に晒す核廃棄物の長期的な影響の問題も考慮に入れなければなりません。」と、ジンバブエの首都ハラレで環境や原子力の問題に取り組む独立の専門家ハッピソン・チコワ氏はIDNの取材に対して語った。

核廃棄物は、放射性物質で極めて毒性が強い。核燃料処理工場や核医学、核兵器産業から出る副産物である。核廃棄物は数千年も放射線を出し続けるため、厚いコンクリート製、或いは鉛・ステンレス製金属のコンテナに入れて、地中あるいは海中深くに埋設しなくてはならない。

原子力利用に伴うこうしたリスクにもかかわらず、アフリカでは深刻なエネルギー不足を背景に、一般の人々までもが、チコワ氏のような多くの専門家の見方に同調している。

「私個人としては、電気がどこから来るかについては、たとえ政府が、多くの人々が兵器の生産にも利用されかねないとして恐れる原子力から引っ張ってきたものだとしても気にしません。素人の知識で言えることは、原子力を発電に使えるなら、他の手段よりも安くできるということです。」と、ジンバブエの首都ハラレ郊外の(人口密集地区)ハイフィールドに住むメビオン・チメザ氏はIDNの取材に対して語った。

またサブサハラアフリカにおける気候変動の専門家らにとってみれば、この地域で原子力の民生活用(原発は二酸化炭素を排出しない)を強調することは、気候変動がもたらしている悲惨な影響に対処する一つの方策になりうると考えている。

Georgia's Vogtle nuclear power station/ Public domain
Georgia’s Vogtle nuclear power station/ Public domain

「原子力の利用には、気候変動がもたらす影響を軽減したり、農業生産を向上させる効果を期待できます。もし投資額を抑えられるならば、発電に原子力を採用すべきです。この場合、原子力発電によって、農業などの生産方法を機械化することが可能になります。」とジンバブエの気候変動問題専門家ジスンコ・ヌドロブ氏は語った。

世界の軍事強国の間では、「核軍縮」に関する議論が盛んになっているにも関わらず、アフリカでこうした見解が表明される背景には、今日まで核兵器を保有している国が皆無というアフリカ大陸の特殊事情があるようだ。

こうしたアフリカ大陸の現状とは対照的に、世界に目をやると、(「軍備管理協会」によれば)9つの核兵器国が合計で約1万6000発の核兵器を保有し、そのうち9割以上がロシアと米国によって保有されている。

米ロ両国は、中国とフランス、英国とともに、国連安全保障理事会の5つの常任理事国を構成し、同時に、核不拡散条約(NPT)上の「核兵器国」としても知られている。これに加え、今ではインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮が核兵器を保有しているとみられている。

アフリカ南部では、南アフリカ共和国(南ア)だけがかつて核兵器を保有したことがある。同国は、1990年代に民主選挙で選出されたアフリカ民族会議(ANC)の政府に政権交代する前にそれまで開発していた全ての核兵器を放棄する決定をしたため、世界で初めて自主的に核兵器を放棄した国となった。

南アは1975年に生物兵器禁止条約、1991年に核不拡散条約、1995年に化学兵器禁止条約にそれぞれ署名している。

「私は南ア国民として、この国の政府が、核兵器能力を1990年代に自発的かつ一方的に放棄したことを念頭に置いています」と語るのは、2007年から14年にかけて「反原子力同盟」の議長を務め、現在は「ウォーターコースメディア開発社」の社長であるマイク・キャンティー氏である。

キャンティー氏のような反核活動家・専門家の見方によると、この地域、とりわけ南アは、原子力の危険性について理解しているという。

被爆者との出会い

「反核活動家、そしてかつての反アパルトヘイト闘争の闘士として、私たちは、21世紀初頭に光栄にも広島からの代表団を迎え、被爆者から直接体験談を伺う機会がありました。」とキャンティー氏は語った。

キャンティー氏によれば、日本からの代表団は普遍的な核軍縮を目指す運動を展開しており、南アジアや中東、北朝鮮における核拡散の防止に向けて共に行動してほしいと、南アの人々に訴えたという。

「イスラエルによる(核兵器を最初に使用する国にはならないという)単独での誓約や、中東非大量破壊兵器地帯を創設しようとする動きから、私たちは、南アジアでも同様の行動を起こすよう大きなプレッシャーをかけ、最終的には、核兵器5大国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)に対して、すべての核兵器と劣化ウラン弾の世界的な廃絶に向けて同じように努力するようプレッシャーがかけられると考えています。」とキャンティー氏は語った。

しかし、再びジンバブエに目を転じてみると、2012年、民生用の原子力発電と核兵器開発のいずれにとっても欠かせない未発掘のウラン鉱床をジンバブエが保有していると広く考えられている中で、同国の電力供給公社のジョシュ・チファンバ代表が、「(恐らくは国際的な注目を集める目的で)原子力発電事業の実行可能性調査を行うための専門家チームが招集されることになる。」と語った。

チファンバ氏は、「核のオプションを検討するために専門家チームからなる委員会を立ちあげます。ジンバブエは、原子力による大規模な電力生産を2020年以降に実現することを目指します。」と昨年(2014年)ブラワヨで開催された国際ビジネス会議で語った。

ジンバブエでは、ザンベジバレーに未採掘のウラン鉱脈が確認されている。また同地のカンエバ鉱山には、2万トン以上が抽出可能なウラン鉱石4万5000トン以上が眠っているとされる。

イランと中国は、ジンバブエのウラン鉱脈に大きな関心を示しているとされる。ただし、イランはウラン濃縮計画の停止を拒んだため、国連が2013年に新たな制裁を課している。

明らかに原子力エネルギーの利用に熱心なジンバブエ政府は、核が環境に及ぼす危険に対して無関心なように見える。

Uranium/ Wikimedia Commons

2013年、シンバラシェ・ムンベンゲグウィ外相がイランの報道機関に対して、ジンバブエは、議論を呼んでいるイランの核計画に利用するためにジンバブエのウラン資源を採掘する点で同国と協力する意向を表明した。

ジンバブエと同じく、ナミビアもまた、原子力を通じたエネルギー不足の解消に望みをかけている。

昨年、ナミビア政府は、原子力利用に関して市民を訓練する目的で、将来的に原子炉のシミュレーターを建設したいとの意向を示した。このことは、同国のイサーク・カタリ鉱山・エネルギー相(当時)によっても確認されている。

「私たちは現在ウランを採掘し、原料のまま輸出しています。原子力発電は安価で安全なものです。」とカタリ鉱山・エネルギー相は当時、記者団に語っていた。

他方、南アは、商業原子炉を有するアフリカ唯一の国である。原子炉は2基あり、同国の電力生産の4%を占めている。実際、南ア政府は、核施設の建設と製造に関して相当程度の国産化を図りたいとの意向を示していた。

しかし、南アの原子力専門家はこれに納得したわけではない。

「南アには膨大な核廃棄物が生まれ、建設と同じぐらい高価な廃炉作業が発生することになるだろう。」と南アで活動する独立の原子力専門家トニー・ハフィング氏はIDNの取材に対して語った。

しかし昨年、南ア政府は、同国の放射性廃棄物の管理と廃棄について所管する「国営放射性廃棄物処理研究所」を立ち上げた。

ジンバブエのチコワ氏のような多くの原子力専門家にとっては、アフリカに核兵器を保有する国が一つもない現状では、「核兵器なき世界」が最重要議題ではないようだ。

「アフリカでは、議論の対象となるような核兵器が存在しないことから、核軍縮に関する議論に時間を取られる必要はないのです。それよりも深刻なエネルギー不足の現状に向き合い、地域の環境に悪影響を与えないようにしながら、原子力を如何に活用するかについて、むしろ精力を傾けるべきなのです。」とチコワ氏は語った。(原文へ

INPS Japan

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気候変動会議で水問題は依然として軽視されている

【国連IPS=タリフ・ディーン】

米国のジョン・ケリー国務長官は最近行った講演のなかで、近年世界各地で見られる「記録的な数の」異常気象に注意を促した。

ケリー長官は、パリで開催される第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(気候変動会議:COP21)を念頭に、「南太平洋の島嶼国では、主に海面上昇により島全体が水没の危機に直面しています。」と警告した。

「ブラジル南東部は、過去80年で最悪の旱魃に見舞われており、我が国でもカリフォルニア州は、過去100年で最悪の旱魃が続く中、大規模な山火事も頻発しています。」

Secretary Kerry Delivers a Speech About U.S. Foreign Policy at Indiana University in Bloomington/ US State Dept
Secretary Kerry Delivers a Speech About U.S. Foreign Policy at Indiana University in Bloomington/ US State Dept

「また、アフリカ南部のマラウィが記録的な水害に見舞われている一方で、北極圏でも温暖化の影響で村全体が水没の危機に直面しています。」と、ケリー長官は、インディアナ大学世界と国際関係学院で行った講演の中で語った。

ケリー長官のこうした警告をよそに、間もなくパリで開幕する気候変動会議では、主に炭素排出量の問題に焦点があてられる予定で、水の問題は比較的軽視されているテーマである。

英国に本拠を置くNPO「ウォーターエイド」で水の安全保障と気候変動の分析を担当しているルイス・ホワイティング氏はIPSの取材に対して、「気候変動の影響を最も受けるのは世界の最貧層の人々であり、彼らは主に水を通してそれを実感することになります。つまり、水が多すぎる現象(洪水、海面上昇)、少なすぎる現象(旱魃)、誤った降水時期(天候不順)や誤った水質(塩害、汚染水)に悩まされる現象です。」と語った。

世界には6億5000万を上回る貧しく社会の片隅に追いやられた人々が、依然として安全でない水源に依存して生活しているが、そうした水源が気候変動に関連した脅威に晒されているため、こうした人々の生活は今後ますます不安定な状況に陥っていくとみられている。

「例えば、洪水が発生すれば井戸が浸水し真水の供給源が汚染させることになります。」とホワイティング氏は指摘した。

11月30日から12月11日にかけて開催されるパリ気候変動会議に向けた準備が進む中、ウォーターエイドは、国際社会に対して、何よりもまず水、つまり(トイレなどの)下水設備と(安全な水を確保する)公衆衛生へのアクセスを確保する「水の安全保障」を、貧しい国々が気候変動に適応するのを支援する際に優先事項とするよう呼びかけている。

「上下水道と公衆衛生へのアクセスが確保できてはじめて、人々の健康と教育の充実を図り、経済を安定させ、気候変動に強いコミュニティーを育んでいくことが可能となります。」とホワイティング氏は語った。

「私たちはまた、(気候変動につながる)問題を引き起こした人々からその影響に最も脆弱な立場の人々へと開発資金が流れるようにしなければなりません。」

2010年、国連総会は「安全な水と基礎的なトイレを利用する権利」を人権と決議した。

そして播基文国連事務総長は、安全な水と衛生環境を確保することは、貧困削減、持続可能な開発、そして今年12月末に期限を迎えるミレニアム開発目標のいずれの目標を達成するうえで、不可欠だと再三にわたって述べている。

今年9月に世界の指導者らが採択した17項目からなる持続可能な開発目標(SDGs)もまた、安全な水と衛生環境の確保を国連のポスト2015開発アジェンダにおける重要な問題と指摘している。

国連は2030年までに、以下の施策(①公害を減らして水質を向上させる、②危険な化学物質の不法投棄を根絶し危険物資の拡散を最小限にとどめる、③全ての分野で水使用効率を飛躍的に引き上げる、④水不足に取組むために持続的な淡水の取水・供給を行う、⑤水不足に苦しむ人々の数を大幅に削減する)を通じて、全ての人々に安全で手頃な飲み水への普遍的なアクセスを確保しようとしている。

ホワイティング氏はIPSの取材に対して、「ウォーターエイドは、貧しいコミュニティーの安全な水と基礎的なトイレへのアクセスを向上させることに力を入れていきます。」と指摘したうえで、「水不足に悩む地域では、旱魃の兆候を早めに察知できるよう、貯水能力の拡充とともに、村人による雨量や水位のモニタリング能力強化(=水専門家育成訓練)を図っています。一方、バングラデシュのように水害に苦しむ地域では、必要に応じてインフラの強化を図るとともに、村落住民が政府に対してより良いサービスを要求できるよう、互いに集まってコミュニティーの脆弱さを話し合い自ら把握できるよう支援を行っています。」と語った。

Louise Whiting/ Water Aid
Louise Whiting/ Water Aid

ウォーターエイドはまた、西アフリカの29のコミュニティーを対象に、水不足対策を支援している。ここでは、とりわけ村落住民が気候変動の脅威により良く立ち向かっていけるよう、水資源管理のありかたを改善する指導を行っている。

1年のうち8カ月が乾季となるブルキナファソでは、多くの村落住民が不安定な生活を送っており、気候変動は彼らをとりまく状況をさらに悪化させるものとみられている。ウォーターエイドは、住民を対象にした水専門家の育成訓練と並行して、既存の井戸の改善、新たな井戸の掘削、水を溜め地下水の水位を上げるための砂防ダムの建設を進めている。

こうして訓練を受けた水専門家らは、コミュニティーの水管理能力を飛躍的に改善している。彼らは、雨量や水位をモニタリングし、観測データを分析することで、水不足の危険を事前に察知するとともに、年間を通じて水を確保するための給水量やタイミングを常に調整している。

彼らはまた、このデータを政府のモニタリング計画に提供することで、ブルキナファソ全土を網羅した、より信頼性の高い気候パターン図を作成する取り組みにも貢献している。

「自然は、あなたがブルキナファソの自給自足農民か、カリフォルニアの会計士かは問いませんから。」とホワイティング氏は語った。

「気候変動は全ての人々に影響を及ぼしますが、その原因に最も関わっていない人々が最大の被害をこうむることになるのです。」

「COP21に出席のためパリに集まる世界の指導者は、貧しい国々が来たる気候変動に適応するために必要な技術的・財政的支援を行うことを約束しなければなりません。」とホワイティング氏は力説した。

UNICEF
UNICEF

国連の統計によれば、1990年以来23年の間に、新たに26億人が安全な飲み水(改善された水源からの飲み水)を手に入れたが、2015年現在、依然として6億6300万人が安全な飲み水を利用できていない状態に置かれている。

1990年から2015年の間に、安全な飲み水を使用している世界の人口の割合は、76%から91%(66億人)に増加した。

国連はまた、水不足は世界の人口の実に4割以上に影響を及ぼしているが、今後この割合は増えていくと指摘している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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インドとの核合意で批判されるオーストラリア

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ

オーストラリア議会は、2014年に署名された豪印核協力協定をまだ批准していないが、市民社会、環境活動家、軍縮活動家らが、インドへのウラン輸出は、南アジアにおける核軍拡競争に拍車をかけ、原子力の保障措置政策を主唱してきたオーストラリアの信用を失うことになると警告している。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)豪州支部は、豪印協定における脆弱な保障措置、インド核施設における安全管理の貧弱さ、同協定が核不拡散体制に対して持つ意味あいなどに関して、深い懸念を表明してきた。豪州政府が、核拡散防止条約(NPT)の未署名国に対してウランを輸出するのは初めてのことである。

Tilman Ruff/ ICAN

「NPT上の不拡散義務に従っているNPT締約国に対して適用されるものよりも厳格でない条件でインドと核取引を行うことは、NPTの目的や信頼性、価値を損なうものです。南太平洋非核兵器地帯条約の下で豪州が負っている義務にも違反しているこのインドとの取引は、オーストラリアを、核の危険という問題の解決ではなく、問題の一部としてしまうでしょう。」と語るのは、ICAN豪州支部創設時からの議長であるティルマン・ラフ氏である。

1986年12月11日に発効した南太平洋非核兵器地帯条約の第4条は、フルスコープ型の保障措置に従っていないインドのような国に対して、核関連機器や核物質を提供することを締約国に禁じている。

オーストラリア以外の同条約の締約国は、クック諸島、フィジー、キリバス、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツである。5つの核兵器国のうち、フランスと英国だけが3つの議定書すべての批准を済ませているが、ロシアと中国は、議定書Ⅱと議定書Ⅲだけを批准している。米国は、3つの議定書すべてに関して、批准プロセスが滞っている。

オーストラリアのウランは南アジアにおける核軍拡競争をさらに煽ることになると警告するラフ氏は、「インド国内分だけでは軍用・原発用として不十分なウラン資源を補強することによって、間接的に、あるいは直接的にこうした軍拡競争を助けることになるだろう。」と指摘したうえで、「インドの軍事活動・民生活動の混交、効果的な独立核規制機関の不在、インドによっていつでも変更可能な極めて限定的な保障措置の適用、保障措置それ自体のかなりの限界、こうしたことが、これらのリスクに寄与することになります。」と語った。

「カナダが提供した原子炉と米国が提供した燃料を使って、1974年に行われたインド初の核爆発実験のためにプルトニウムをインドが製造したことは、原子炉と核燃料が平和目的でのみ利用されるという保証に違反したものでした。」とラフ氏は語った。

「他方で、インドの核取引開始に対するパキスタンの反応は、予想されたものであると同時に、警戒すべきものでもあります。パキスタンは、他の国よりも速いペースで核分裂性物質を増産し、核戦力を拡大しています。」と、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の共同議長でもあるラフ博士はIDNの取材に対して語った。

IPPNWは、「信頼できる情報を提供し、核戦争の壊滅的な帰結に関する意識を高めることによって、人類に相当の貢献を為した」ことを理由に、1985年にノーベル平和賞を受賞している。

前提条件としてのNPT署名

Uranium/ Wikimedia Commons
Uranium/ Wikimedia Commons

インドに対するウラン輸出の交渉は2006年に始まり、2014年に合意がなされた。「条約に関する合同常設委員会」(JSCOT)は、今年9月8日に提出した豪印核協力協定に関する報告書の中で、条約の批准を勧告したが、一方で、インドへのウラン輸出がなされる前に、インドの核施設における原子力安全及び保安規制の問題に対処すべきと勧告している。JSCOTはまた、豪州政府に対して、核実験禁止条約への署名など、軍縮に関する真の前進をもたらすようインドに対して圧力をかける外交努力をすべきだと求めている。

「オーストラリア保護基金」(ACF)マルコム・ターンブル首相に対して、この計画された行動に伴う重大な懸念を念頭に入れ、JSCOTの報告書と勧告で打ち出された慎重なアプローチを尊重すべきだと訴えた。

「私たちは、豪印ウラン取引がリスクを増大させるのではないかと深く懸念しています。特に、インドの核産業は、引き続き解決されない安全上の問題と、規制上の欠陥を抱えています。2012年、インドの総括監察官は、「原子力安全の問題に対処しなければ、福島第一原発事故チェルノブイリ原発事故のような大惨事が起こりかねない」と警告する恐るべき内容の報告書を発表しています。不十分な規制、脆弱なガバナンス、安全文化の欠如など、この報告書で指摘されている懸念は、依然として対応されないまま残っています。」と、ACFの非核キャンペーン担当のデイブ・スウィーニー氏は語った。

では、オーストラリアのウランが、インドの既存のウラン備蓄の余地を拡大して核兵器用に使われる真の危険性があるだろうか?スウィーニー氏は、「その可能性は増しています。インドは、ウランの濃縮能力増強、複数の兵器発射手段への注目、潜水艦からの発射能力の向上を通じて、核戦力と核兵器の能力を積極的に向上させています。提案されている条約には、こうした活動に対する現実的、政治的、心理的な障壁が何も含まれていません。むしろ、インドの核の野望にゴーサインを与えるものです。こうした軽率なアプローチは、オーストラリアや南アジアにとっての利益になるものではありません。」と語った。

オーストラリアには世界のウラン備蓄の4割が眠っており、重要なウラン輸出国となっている。同国のウランのかなりの部分は、北部準州の[先住民族]ミラー族の土地からこの30年以上の間に採掘されたものである。

アボリジニからの警告

ミラー族の代表組織「グンジェイミ・アボリジニ団体」のジャスティン・オブライエン事務局長は、「『伝統的所有者』は、ウランがひとたび輸出された場合の影響、それが核兵器に使用される可能性について長らく懸念してきました。ミラー族は、原子力発電用とされたウランが核兵器用に転用されないようにする執行可能な保障措置が存在しないことを懸念しています。また、保障措置は、この協定においては通常のものよりも弱くなっているように見受けられます。」と語った。

オーストラリア政府は、このウラン取引によって17.5億オーストラリアドル(12.7億米ドル)に相当する輸出と、4000人の雇用機会を増やすことができるとしている。

しかし、「地球の友」豪州支部の全国核問題キャンペーン担当ジム・グリーン氏は、この説に対して次のように語って疑念を表明した。「インドへのウラン輸出は、豪州の貿易収入を拡大したり、遠隔地の先住民族社会における雇用増にはほとんど、或いは何の関係もありません。この取引は、豪州のウラン輸出による収入をたかだか3%増やし、数十人の雇用を増やすにすぎません。」

インドにとっては、ウラン輸出によって、新興経済大国として伸び続ける国内エネルギー需要を満たすことが可能になる。しかし、『戦争防止医師の会』(オーストラリア)の副代表であるスー・ウェアハム博士は、「原子力では気候変動の問題に対処できなません。原子力が今後さらに伸びることがあっても、実際に原子炉で電力を生産するまでには10年から15年かかります。特に重要なのは、核兵器とのつながりです。民生用と軍事用の核燃料サイクルの間には明確なつながりがあり、核原子炉が存在する限り、これは問題であり続けるのです。」と語った。

『2014年版世界原子力産業の現況報告書』によると、世界の商業的発電に占める原子力のシェア(2013年)は、前年比-0.2%とほぼ一定だが、ピーク時(1996年)の17.6%から10.8%へと下落している。.

ウェラハム博士は、「核のゴミの問題もあります」と指摘したうえで、「技術的、実際的現実は、核のゴミを環境から分離する、信頼性がありかつ永続的な方法をまったく持ちあわせないということです。世界は、あまり利用されず、あまり資源が投入されていない太陽光、風力、地熱、バイオ燃料などの再生可能エネルギーの促進・開発・利用のために、相当大きな資金を投入する必要があります。」と、語った。

WWFインド及びTERI(エネルギー・資源研究所)による詳細な報告書は、インドが2050年までにいかにして第一次エネルギーの9割を再生可能エネルギーで賄えるかについて予測している。

核兵器をもたないオーストラリアは、国として興味深い状況に置かれているが、米国との同盟の下で拡大核抑止のドクトリンを採っている。

ICANは豪州政府に対して、核兵器の完全廃絶達成に向けたもっとも望ましい次のステップとして、核兵器を禁止する法的拘束力のある条約を交渉する外交プロセスを支持するよう求めている。

翻訳=IPS Japan

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【カイロIDN=エマド・ミケイ】

米国・イラン核合意が7月に発表された際に、サウジアラビアの国営メディアが報じたイメージは、「西側諸国が新しい強力な隣の敵国に屈した」というものだった。通常はあまりものを言わないサウジアラビアの政府高官らは合意に対していつもの融和的なコメントに終始したが、国内のソーシャルメディアや学界、国営報道機関は揃って政府とは異なる見方を示していた。それは、サウジアラビアの深い懸念を代弁したものであり、石油資源豊かな同国がその富を使って核武装化するかもしれない、という言明もそこには含まれていた。

「仮にそれが核計画の実施を意味するとしても、王国は民衆を守るために自らを恃みとするだろう。」と記しているのは、「ファイサル国王イスラム研究センター」のナワフ・オベイド上級研究員である。オベイド氏は、核武装化したらイランは「数多くの国にとって極度に危険な国になるが、中東のパワーバランスにおいて長らくイランの主たる敵対手であったサウジアラビアにとって最も危険なものになるだろう。」と語った。

皮肉なことに、サウジアラビアに警戒感を与えた今回の合意は、別の結果をもたらすべく意図されたものであった。イランが、15年にわたって、低濃縮ウランの備蓄を98%削減し、設置済みの遠心分離器を減らすことに同意したのと引き換えに、イランに対する制裁を徐々に解除するという枠組みである。しかし、サウジアラビアやその他の湾岸地域の同盟国は、この合意は地域のパワーバランスを大きく変えるものにほかならないとみている。

The ministers of foreign affairs of France, Germany, the European Union, Iran, the United Kingdom and the United States as well as Chinese and Russian diplomats announcing the framework for a Comprehensive agreement on the Iranian nuclear programme (Lausanne, 2 April 2015). /United States Department of State.
The ministers of foreign affairs of France, Germany, the European Union, Iran, the United Kingdom and the United States as well as Chinese and Russian diplomats announcing the framework for a Comprehensive agreement on the Iranian nuclear programme (Lausanne, 2 April 2015). /United States Department of State.

イランは制裁解除によって得る新たな歳入を使って、裕福なアラブ近隣諸国に対する科学、技術、核能力面での優位を失うことなく、通常戦力を増強したり、地域的な影響力を拡大したりすることが可能だ。結局のところ、アラブ各国は、長年に亘ってあまりにも盲目的に米国の湾岸諸国に対する安全保障に信を置いてきたため、自国の科学技術開発に対する投資を怠り、米国内の保管庫で埃を被っていた大量の武器を購入することでよしとしてきたのである。

イランが近隣のイラクとシリアに前例のない規模で軍事力を投入し、イエメンの反体制派シーア派集団「フーシ」を支援していることは、サウジアラビアをさらに困惑させた。サウジアラビアの専門家らが、自国の核武装化についてこれまで以上にその可能性と意思を叫んでいるのは、驚くべきことではない。同国にとっては、オバマ政権が安全保障の約束を違えようとしているかのように見えるのだ。

ミドルベリー国際問題研究所(モントレー)のジェフリー・ルイス教授は、「オバマ政権は、非常にまずい地域安全保障戦略を築いています。」「これを戦略的な漂流だとみなして同盟国やパートナー国が不満を口にし出しているのは驚くべきことではありません。サウジアラビア国民のほとんどが、地域安全保障環境の悪化を警戒し、オバマ政権は能力がないと感じています。」と指摘したうえで、「残念ながら、(米国の)次の政権が(中東の)地域関係・二国間関係にどう取り組むかを見極めるまでは、現在の不平不満が今後も続くことになると結論付けざるを得ません。」と語った。

中東の専門家らによると、サウジアラビアの人々は、表立たない形で、あるいは内密に事を進めるのを好むため、不満を公然と表明するのは珍しいという。しかし今回、サウジアラビアのメディアは、同国のミサイル部隊について事細かに伝えると同時に、サウジアラビアの核武装の可能性にも言及することで、イラン核合意への反応を示している。

核計画

Credit: Official White House Photo by Pete Souza

サウジアラビア政府には既に核計画がある。2011年、800億ドル以上をかけて、今後20年間で16基の原子炉を建設する計画を発表した。これはサウジアラビアの電力消費の2割を賄うものであり、その他の、小規模の原子炉を脱塩のために使うことが予定されている。

最近は、フランスとサウジアラビアが、フランス企業「アレバ」が建設予定の原子炉2基の契約に関する実現可能性調査を行うと発表した。さらにサウジアラビアでは、一基当たり約20億ドルにも及ぶ原子炉建設計画について、ハンガリー、ロシア、アルゼンチン、中国との協議が進行している。

アブドラ国王原子力シティ」が原子力関連のほとんどの事業を掌握し、イランがサウジアラビア存続にとって究極の脅威であるとのイデオロギーを吹き込まれた若い研究者らがこれを支えていると言われている。

国際原子力機関(IAEA)は、平和的な原子力発電計画と、「ファイサル国王専門病院・研究センター」での癌治療施設の建設のために、サウジアラビア政府と緊密に協力している。

しかし、多くの中東専門家らは、サウジアラビアに新たな動機や取組みが認められるものの、どんなに同国が望んでも核兵器を製造することは困難であろうとみている。つまり、サウジアラビアがやっていることは、初歩的な原子力研究の真似事をして騒ぎ立てているだけだと分析している。

「これまでのところ、こうした騒音は、口先以上の、時として大声での喧伝以上の具体的なものには結びついていません。」とジェームス・マーチン不拡散研究センターのアブナー・コーエン氏は語った。

サウジアラビアの核計画の前にはその他の障害もある。同国は世界の既知の石油埋蔵量の16%を支配しているが、核弾頭あるいは弾道ミサイルを開発する教育的、技術的スキルを依然として欠いた、権威主義的な途上国に留まっている。

サウード家が支配するサウジアラビア政府は、国内の科学技術の発展や国民の技能向上に投資するよりも、むしろ国民を贅沢品で甘やかす施策を長らく推進してきた。

核脅威イニシアティブ(NTI)の最近の報告書には、「サウジアラビアには、初歩的な民生用核インフラしかなく、現時点では、独自の核兵器能力を開発する物理的・技術的資源に欠いている。」と記されている。

このように知識集約型インフラが国内に未発達な状況を、豊富な資金力で「国外から支援を獲得する」形で埋め合わせてきたサウジアラビア政府は、パキスタンのような核保有国との同盟関係を構築することで、核の安全保障も「購入できる」ものと想定してきた。それは、パキスタンやエジプト軍部に寛容さを示すことで、パキスタンの核計画を利用し、必要な際には「核兵器を注文できる」という理論に基づくものであった。

Locations of Saudi Arabia and Pakistan/ Wikimedia Commons

サウジアラビアの「気前よさ」の欠点

しかし、近年の推移を見れば、サウジアラビアの「気前よさ」にも欠点があることが明らかになってきている。パキスタンは、経験不足のサウジアラビア軍兵士と共にイエメンで戦う地上軍を派遣することに難色を示した。この、サウジアラビア政府を困惑させたエピソードは、同時に資金力に依存した安全保障戦略の限界を露呈するものだった。

中東情勢を追ってきた多くの核問題専門家らは、サウジアラビアによる核兵器の「発注」などというものは、いかなる意味においても実態の伴わない主張に過ぎないという。

「実行は可能ですが、信憑性はほとんどありません。」「ほとんどの専門家が、パキスタンがサウジアラビアに移送するための核兵器を別に取っておいたり、サウジアラビアとの核共有協定に入ったりすることはないと考えています。」とルイス氏は語った。

サウジアラビアの同盟国、とりわけ米国は、血の気の多いサウジアラビアのメディアや一部政府関係者がいかに核武装化を主張しようとも、それを許すことはないだろう。

米国政府は、核武装したイランに対してサウジアラビアを含めた湾岸諸国を守るとされる「核の傘」の提供をサウジアラビア政府に申し出るか否かについて議論してきた。もし米国の「核の傘」が提供されることになった場合、サウジアラビアが独自に核武装する動きは抑えられることになるだろう。

この提案の下で、サウジアラビアは民生用核協力協定についての交渉を行うことになるだろう。さらにその提案には、サウジアラビアがウラン濃縮や再処理を自粛するとの文言が含まれるとみられている。「アブドラ国王原子シティー」の規模は縮小され、都市規模の研究センター設立計画は棚上げにされ、そのための資金は代わりに米国の歳入となるだろう。

IMF logo/ Wikimedia Commons

サウジアラビアのメディアが報じる核武装の脅し文句は、その他の面から見ても空疎なものだ。国際通貨基金(IMF)は今月10月、サウジアラビア政府が石油価格の低下に苦しみ、赤字予算となって外貨予備が急速に失われるだろうと述べた。

さらに悪いことに、サウジアラビア王室は、地域の覇権を握ろうとして、近年巨額の対外支出を行っている。エジプトの民主主義が保守的なサウジアラビア王国に波及することを恐れて、エジプト初の民主的な選挙で選ばれた(ムハンマド・モルシ)大統領を追放するためのクーデターに約60億ドルの支援を行った。また、シリアの反体制派集団に行ってきた4年間に及ぶ財政支援に加えて、今年3月には、イエメンのシーア派集団「フーシ」に対する高価な爆撃作戦を開始している。

イラン核合意はサウジアラビア政府に警戒感を呼び起こし、核武装の野心という派手な宣伝に走らせることになったが、現実にはもう何年も前に、既に核計画を進める機会は失われているのである。その窓(=核兵器開発)を再度開けるには、さらに何年もの時間を要することになるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核軍縮の検証に関する国際パートナーシップの最新状況

【ニューヨークIDN=ファビオラ・オルティス】

核戦力の検証と、核物質およびその他の軍事活動の検証は、核兵器なき世界の達成に向けた前提条件になる、と専門家らはIDNの取材に対して語った。彼らは、ニューヨークの国連本部で開かれた「核軍縮検証国際パートナーシップ」(IPNDV)に関する最新状況の説明会に参加していた。

IPNDVの創設は、米国のローズ・ゴットモーラー米国務次官(軍備管理・国際安全保障)が、核兵器の削減と廃絶を追求するなかで、核軍縮の実態を検証するツールと技術を開発する新たな国際協力のイニシアチブを発表した2014年12月4日にさかのぼる。

米国務省によれば、IPNDVは、核軍縮の検証にまつわる複雑な問題に対応するために、核保有国・非核保有国双方の専門知識をつなげるものである。

Rose Gottemoeller/ US gov
Rose Gottemoeller/ US gov

IPNDVの設立総会はワシントンDCで今年3月に開催された。その付託事項を最終決定する会議がノルウェーのオスロで11月16日から2日間にわたって開催されるのを前に、「核脅威イニシアチブ」(NTI)国連米国代表部が、「道を切り開く:核軍縮検証国際パートナーシップの最新状況」と題する公開のサイドイベントを10月14日にニューヨークの国連本部で共催した。

このイベントの主要参加者の一人が、ノルウェー外務省グローバル安全保障・軍縮問題顧問であるヨルン・オスムンドセン氏である。この取組みの理念について、オスムンドセン氏は、「核兵器を解体するためには、検証を行うツールが必要です。つまり、核軍縮を検証する能力を持つことは、核兵器なき世界を達成するための前提条件となるのです。」と語った。

「サイドイベントを開催した目的は、IPNDV設立総会以来の様々な進展について各国に報告することでした。この取り組みに対する国際社会の関心を高めたかったのです。」とNTIのアンドリュー・ヴィエニャフスキ副代表はIDNの取材に対して語った。

ヴィエニャフスキ氏によると、この国際パートナーシップの主な利点は、核兵器を保有する国と保有しない国の両方を含んでいることにあるという。現在、25か国以上がこのパートナーシップに参加している。

Andrew Bieniawski/ NTI
Andrew Bieniawski/ NTI

ヴィエニャフスキ氏はまた、ノルウェーや英国、オーストラリア、ポーランドのようなこの分野での知識を持った国々を念頭に、「できるだけ多くの国々の参加を促すだけではなく、この核軍縮のためのパートナーシップを前進させていくうえで価値をもたらし貢献できる専門能力を備えた国々の参加を得ています。」と強調したうえで、「私たちは各国から、強固な信頼を勝ち取ろうとしています、同時に、核不拡散上機微な情報の保護もしなくてはなりません。技術を学ぶことと、可能な限り強固な信頼を得るために現地査察からの教訓を学ぶことの間にはバランスがあります。しかし、私たちはそれを、安全や安全保障の規則に照らし合わせながら、安全かつ確実な方法で進めていかなければなりません。」と語った。

NTIによれば、効果的な検証体制を完成させるまでには、依然として多くの技術的問題を乗り越えなくてはならないという。

ICAN
ICAN

ワシントンDCでの設立総会に引き続き、この取り組みの参加国は、3つの作業部会の設置に合意した。監視と検証の目的(議長国:オランダ・イタリア)、現地査察(議長国:オーストラリア・ポーランド)、技術的問題と解決(議長国:スウェーデン・米国)である。

3つの作業部会は現在、オスロで最終決定・採択される予定の草案と付託事項を検討している最中である。

包括的な文献一覧

「このパートナーシップに精力を傾けてきました。各国は専門能力のレベルも違っているし、(核軍縮という)この複雑な問題に関する理解も違っています。」と、NTIのビエニアウスキー副代表は語った。

NTIは、米国務省・エネルギー省と協力して、これまでに発表された核兵器の検証と監視に関する様々な論文・報告書・研究に関する包括的な文献一覧を作成してきた。

「現在、NTIのウェブサイトで無料閲覧可能な文献は200件以上あります。私たちは知識の体系を作り、パートナーシップの能力を強化したいと考えています。これは、この取り組みが複数年度にわたるものでありながら、すでに活動が始まっていることを示すものです。」とビエニアウスキー氏は説明した。

彼の見方では、国連での公開サイドイベントに参加した国々からの反応は上々だという。「非常に示唆に富んだ質問がありました。人々はこの(=核軍縮)問題について非常に知識があったことは明らかです。私たちが強調した主なことのひとつは、できるだけ透明性を確保しようということでした。」

「諸国には、軍縮検証に適用可能な関連領域における技術的専門能力の蓄積があります。従ってIPNDVは、長期的で、持続可能なパートナーシップになるでしょう。主な目標の一つは、能力の構築と、核不拡散条約(NPT)と軍縮問題に中心的なその他の側面に関して取り組んでいる技術的専門家をつなぎ合わせることに焦点を当てることです。」とハーティガン氏はIDNに語った。

オスロでの次の会合への期待が高まっている。この会合までには、6か国が共同議長を務める3つの作業部会が、実践に移されることになる憲章に合意していることだろう。

「この作業はきわめて技術的なもので、時間がかかります。しかし私たちは焦ってはいけません。3つの作業部会の付託事項を策定するために時間を長くとってきました。その付託事項を最終決定することがオスロ会合での目的の一つです。」とノルウェー外務省のヨルン・オスムンドセン氏は語った。

「ノルウェーは、軍縮問題を政府の外交政策における優先事項の一つとし、堅実な実績を上げてきました。」とオスムンドセン氏は語った。1997年の対人地雷禁止条約や、2008年のクラスター爆弾禁止条約の交渉でもノルウェーは積極的な役割を果たした。

ノルウェー政府は、近年核軍縮交渉に進展が見られない状況を打開するため、2012年10月、多国間の核軍縮交渉(いわゆる、オープン参加国作業グループ)に向けた新たなプロセスを確立する国連総会決議の共同提出国となった。

Jorn Osmundsen
Jorn Osmundsen

2013年3月、ノルウェー政府は第1回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)を主催し、核廃絶を高らかに呼び掛けた。それ以来、さらに2度の会議が、2014年2月にナヤリット(メキシコ)で、2014年12月にウィーン(オーストリア)で開催されている。

このイニシアチブは、核兵器なき世界の平和と安全という、ノルウェー・英国政府共通の目的に向けて、透明性と信頼、(情報の)開示性を高め、進展をもたらすために、核軍縮検証に関する協同の技術的研究を行うべく、両国の専門家が協力したものである。

オスムンドセン氏は、核弾頭軍縮検証に関する2007年の「核弾頭の解体を検証する措置に関する英国とノルウェーの共同イニシアチブ(UKNI)」を念頭に、「私たちは今回のパートナーシップにつながってくる堅実な経験があります。」と語った。

「核兵器なき世界に到達しようとするのならば、核軍縮の実態を検証できる体制が必要ですが、その構築は容易なことではありません。従って、今から取り組みを始める必要があるのです。」とオスムンドセン氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界の二大核兵器国である米国とロシア間の軍事衝突の可能性が現実味を帯びる中で、国連はこれまで不可能とみられてきた目標、つまり核軍縮に向けて重要な一歩を踏み出した。

国連総会(193か国が加盟)は国連総会第一委員会(軍縮・安全保障)を通じて、核軍縮実現のための効果的な法的措置について検討を行うオープン参加国作業グループを設置する見込みである。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

メキシコなどが提出した決議案によると、「オープン参加国作業グループ会合を、2016年にスイスのジュネーブで、国連総会の下部機関としてその手続き規則に則って開催し、そこで行われた交渉や勧告を反映させた作業報告書を2016年9月に開催される第71回国連総会に提出する。」としている。

この決議案には、メキシコのほか、オーストリア、ブラジル、チリ、コスタリカ、ガーナ、リヒテンシュタイン、アイルランド、マルタ、ナイジェリア、フィリピン、南アフリカ共和国等が共同提出国として名を連ねている。

イランが提出した2つ目の決議案は、2つ目の作業グループを設置して、作業報告書を「核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合(2018年までに開催予定)」、「ジュネーブ軍縮会議」、及び「国連軍縮委員会」に提出する、としている。

核政策に関する法律家委員会のジョン・バローズ事務局長は、IPSの取材に対して、「こうした関連決議案は未だ審議中です。」と語った。

バローズ事務局長はまた、「国連総会第一委員会における、こうした展開の背景には、①『2013年オープン参加国作業グループが提出した他t国間核軍縮交渉の前進に向けた提言』、②『2013年から14年にかけてオスロ、ナヤリット、ウィーンで開催された『核兵器の人道的影響に関する国際会議』(非人道性会議)、③『2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議における最終文書案』によって高まってきた(核軍縮を求める)機運があります。」と語った。

John Burroughs
John Burroughs

「新たなオープン参加国作業グループが提出する短期的な成果にかかわりなく、これまで高まってきた(核軍縮を目指す)機運を維持し、新たなステップに向けた突破口を作り出す観点から、オープン参加国作業グループを設置することは、非常に前向きな動きです。」「米国は2013年にはオープン参加国作業グループに反対の立場をとりましたが、新オープン参加国作業グループ案については、コンセンサスベースで交渉を進めることと、核軍縮のためのあらゆる効果的な方策(検証作業等)を検討し、(核兵器を禁止するための)法的な手段を交渉しないという条件で、支持する意向を表明しています。」「一方、他の安保理常任理事国(英国、フランス、中国、ロシア)がオープン参加国作業グループ設立案にどのような反応を示すかはまだ分かりません。」とバローズ氏は付け加えた。

「しかし、米国の姿勢の変化は、環境が良い方向に変化しつつある兆候です。」と「国際反核法律家協会」(IALANA)国連事務所の代表でもあるバローズ氏は語った。

西部諸州法律財団(WSLF)のジャクリーン・カバッソ事務局長はIPSの取材に対して、「国連総会第一委員会から提出される全ての決議案は、全会一致に縛られない国連総会で毎年圧倒的多数の支持を得て採択されます。」と指摘したうえで、「今年、国連総会は、多国間軍縮交渉を前進させるためのオープン参加国作業グループ(全193加盟国に参加資格がある)を設置することが期待されています。」と語った。

カバッソ事務局長は、「19か国の135団体から成る非政府組織(NGO)連合が10月16日に発表した共同声明文には、『我々は国連加盟国に対して、stop fiddling while Rome burns(=大切なものが破壊されようとしているのをよそ目に見て何の手も打たないのをやめるよう)要求する。」という明白なメッセージが込められていました。』と語った。

カバッソ事務局長は、国連総会第一委員会で135団体を代表して発表した共同声明の中で、「ウクライナからシリア、そして中東全域から西太平洋に至る世界の紛争地域において、核保有国同士による直接的な軍事衝突が発生しかねない状況がこれまでになく現実味を帯びてきています。」と語った。

「核戦争が再び起こる危険性は、数年或いは数か月の時間枠で見ても高まってきています。」

「にもかかわらず、核保有国の為政者らは、核軍縮を数世代の時間枠で取り組んでいくことに満足しているようで、直ちに核軍縮問題に対処することに全く関心を示していません。」

この共同声明文を支持したNGOには以下の団体が含まれている。戦争防止地球行動国際平和ビューロー核戦争防止国際医師会議創価学会インタナショナル婦人国際平和自由連盟プロジェクト・プラウシェアーズ、国際反核法律家協会、イスラエル軍縮運動スウェーデン平和評議会アクロニム研究所コードピンク

平和首長会議「2020ビジョンキャンペーン」事務局の国際ディレクターであるアーロン・トビッシュ氏は、IPSの取材に対して「ジュネーブ軍縮会議で一部の国が全会一致の規則を悪用して重要な議題を進めることを妨害し続けている事態を受けて、平和首長会議は、既に2006年の時点で、国連総会の下部機関としてその手続き規則に則って運営する別の作業グループを設置する働きかけを開始しました。」と語った。

「2013年の『多国間核軍縮交渉の前進に向けた』オープン参加国作業グループの活動は、期間があまりにも短すぎたものの、有益な試みでした。今日改めて(2013年当時よりは)強い権限を付与したオープン参加国作業グループを復活させることは、最も時勢にあった動きだと思います。」「来年、ジュネーブとニューヨークでオープン参加国作業グループを開催することに何ら問題はないと考えています。両会議にはそれぞれ長所と短所があります。従って、核軍縮に向けて誠実に取り組む用意がある国々は、双方の会議に積極的に参加すべきです。」とトビッシュ氏は付け加えた。

トビッシュ氏はまた、「私たちはまさに(核兵器のない世界を実現するための)本格的な交渉を始めたところです。従って、核軍縮議論をどの方向に持っていくことが最も生産的かという結論を出すのは時期尚早といわねばなりません。2つ(或いはそれ以上)の協議の場に良い役割分担を持たせることに合意することも十分考えられることです。」と語った。

カバッソ事務局長は、NGO連合を代表してWSLFのアンドリュー・リヒターマン氏が準備した共同声明の中で、「軍縮機構をいかにいじりまわしても、それを運営する人々に前進する意図がないなかで、軍縮を進展させる組織へと変貌させることはできません。」と語った。

「新たな紛争と対立、そして軍拡競争の復活は、核保有国で政策形成に影響力を持つ人々によって引き起こされています。」

「世界各地で続いている近代兵器が使用される戦争の惨劇に対して主に責任を負うべきは、軍産複合体と世界の戦争体系の頂点にいるこうした核兵器国の、とりわけ米国の安全保障担当のエリート層です。」

核保有国が世界の武器輸出の4分の3を、とりわけ、米国とロシアは2国で全体の半分以上を占めています。」

The escalating warfare in the past week alone has involved aerial bombardments, car-bombings, and a government shut-off of national internet service. Credit: Rami Alhames/cc by 2.0
The escalating warfare in the past week alone has involved aerial bombardments, car-bombings, and a government shut-off of national internet service. Credit: Rami Alhames/cc by 2.0

カバッソ事務局長は、「こうした国々は、元々は地域に限定された戦争に至らない程度の政治的な対立を、武器輸出を通じて産業規模の戦争へとエスカレートさせ、社会を寸断し、基幹インフラを破壊し、地域全体を不安定化させています。さらに、こうした人道的な大惨事を、むしろ軍事介入を正当化する手段として競って利用し、その結果、容易に手に負えない状況に陥りかねない代理勢力間の紛争において、核武装した軍事勢力がお互い至近距離で作戦行動を展開するなど、むしろ危険性を高めています。」と指摘した。

「このような大きな危険性を孕んだ武器輸出競争で短期的な利益を得るものはほんの一握りの人々に過ぎません。一方、全ての人類が(核戦争の)リスクを負うことになるのです。」とカバッソ事務局長は力説した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核実験禁止条約早期発効へ、欧州連合が資金追加

【ベルリンIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

核実験禁止条約の早期発効を視野に入れて、欧州連合(EU)が、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)準備委員会への追加支援300万ユーロ(390万ドル)を決めた。これで、EUによる自発的な財政支援は、2006年以来、約1900万ユーロ(2150万ドル)となった。

EUの全28加盟国はグループとして、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名・批准している。EU加盟国によるCTBTO予算への定期的な拠出金は全体の約4割を占める。

European Union Flag
European Union Flag

CTBTは、国際的な核不拡散体制とEUによる核軍縮への取組みの基礎にあって、中心的な役割を果たしている。「従ってEUは、CTBTの早期発効と普遍化に熱心に取り組んでいきます。」と、EUのウィーン国際機関代表部が19日の報道発表で述べている。こうした貢献は、「大量破壊兵器拡散に対抗するEU戦略」の線に沿ったものだと発表では述べられている。

「2015年10月12日の欧州評議会決定の全般的な目標は、『EU戦略』の主要目標のうちの2つにあたる『CTBTの普遍化』と『CTBT早期発効をさらに促進すること』にあるが、『CTBTO検証システムの運用と持続可能性、さらには、その運用能力の向上に資することにもある。』」と報道発表は述べている。

「条約の意義と、継続的に向上しているその検証体制の実績を明確に示す例は、近年北朝鮮が実施した核実験の探知と、この点に関するCTBTOの迅速な行動に表れている。」と報道発表は指摘した。

「さらに、CTBTOは、ひとたび条約が発効すれば条約の遵守を効果的に監視し、その遵守を確実にする独立かつ信頼性ある手段を国際社会に提供する能力を繰り返し示してきた。」

Lassina Zerbo/ CTBTO
Lassina Zerbo/ CTBTO

このEUの決定を受けて、CTBTO事務局長のラッシーナ・ゼルボ博士は、「欧州連合の支援がなければ、CTBT検証体制の運用能力を強化する点で、CTBTOが今のような前進的な地位に到達することはできなかったでしょう。」と語った。

これには、EUが途上国においてCTBT検証技術のキャパシティビルディングを支援し、世界最大かつ最も洗練された多国間検証システムへのこれらの国々の加入を促進したことも含まれている。米国のジョン・ケリー国務長官は、この検証システムについて、現代の世界における最大の成功のひとつだと述べている。

「CTBTの署名開放から20年を迎えようという中、EUの強力な政治的・財政的支援は、条約の発効達成に向けた継続的な進展を得る上で、きわめて重要です。」とゼルボ事務局長は語った。

これまでのEUの自発的な貢献を基礎になされた新たなEU評議会の決定は、CTBT検証体制に以下の3つの主要領域で支援を与えるものだと、CTBTOが10月19日にウェブサイトに掲載した記事で説明している。

1.国際監視制度ネットワークの維持

EU財政の最初の部分は、国際監視制度(IMS)と呼ばれるCTBTOの監視局ネットワークの構築を支援するためのもので、例えば、支援を必要とする補助的な地震学的監視施設を置いている国々への支援が含まれる(他の種類のCTBTO監視局とは異なり地震学的監視施設については、維持費負担の責任はホスト国にある)。

また別のプロジェクトは、IMSによる、核爆発に伴う放射線希ガスのみならず、医療用の放射性同位体生産のような正当な民生活動によって放出される希ガスの探知能力を向上させることを目的としている。これによって、世界的な希ガスのバックグラウンド・レベルの研究と、放出源における排出希ガスの捕捉システムの構築への財政的支援がなされる。

IMS/ CTBTO
IMS/ CTBTO

この項目の下での他のプロジェクトには、例えば、外部研究者がIMSのデータや国際データセンターの成果物へのアクセスを可能にするポータルである「VDeCシステム」のアップグレードや、波形データ(地震波、微気圧振動、水中音響)分析のための国際データセンター(於:ウィーンのCTBTO技術事務局)向けソフトウェアの強化などが含まれる。

2.現地査察能力の強化

CTBTOの現地査察能力を強化するために、EUの支援によって、2014年にヨルダンで行われた統合野外演習IFE14」で使われたような、航空機から使用できるマルチスペクトル画像撮影機器の購入が可能となる。また、さまざまな現地査察技術を支えるために、同じく航空機から利用可能なレーザー距離測定システムの購入にもあてられる。

3.アウトリーチと各国レベルのキャパシティビルディング

CTBTO Head Lassina Zerbo overseeing the equipment in use during the Integrated Field Exercise IFE14 in Jordan from Nov. 3 to Dec. 9, 2014. Photo Courtesy of CTBTO
CTBTO Head Lassina Zerbo overseeing the equipment in use during the Integrated Field Exercise IFE14 in Jordan from Nov. 3 to Dec. 9, 2014. Photo Courtesy of CTBTO

また、CTBTOが途上国におけるキャパシティビルディングプログラムを継続することも可能になる。これは、これまで全てのEUによる自発的貢献の不可欠の部分であった。

これによって途上国は、各国の国内データセンター(NDC)を設立・維持することが可能になる。国内データセンターは、CTBTの各締約国によって維持されるもので、IMSから得られる観測データを国際データセンターから受信したり、当該政府の関心事項に関して助言を与えたりするものである。キャパシティビルディングの取組みは、各締結国の国内データセンター用解析ソフト(NDC in a box)の提供・運用支援と、地域的には、中東、南アジア、東南アジア、太平洋、極東地域に焦点を当てたものになるだろう。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

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【ベルリン/ミラノIDN=ロバート・ジョンソン】

「地球の未来を守り、今日の世代と未来の世代の両方が健康で充実した人生を送る権利を守ること。これが21世紀における開発上の最重要課題である。」と、国連開発計画が委託した独立の報告書『人間開発報告書2011』に謳われている。

これは10月16日に国連の潘基文事務総長にイタリアで公式に手渡された「ミラノ憲章」の前文に掲載されたメッセージでもある。ミラノ憲章は、「地球に食料を、生命にエネルギーを」とテーマとして5月1日に開幕し、10月31日に184日間の会期を終える「ミラノ万博2015」の「遺産」となるものだ。

ミラノ万博2015の関係者が正しくも述べたように、この万博開催期間は、文化と科学、革新と伝統、持続可能性と連帯が交差するユニークな日々であり、145か国と3つの国際機関(欧州連合、国際連合、カリブ共同体)、複数の非政府組織が参加した。

財団法人「DEVNET Tokyo」は、この万博イベントに参加した著名な非営利組織のひとつである。DEVNET Tokyoは、安全で栄養のある食料、清潔な水、エネルギーへのアクセスを確保して人間の尊厳の実現に寄与しているパートナー諸団体を日本から招聘し、万博会場に出展ブースを提供した。

そうすることで、財団法人「DEVNET Tokyo」の明川文保代表理事は、(ミラノ憲章の前文に掲げられた)「人間開発報告書」のもう一つの主要なメッセージに応えている。それは、「現在および未来の世代のために人間の自由を拡大しようと思えば、環境の持続可能性と公平性の関係を理解することが欠かせない」というメッセージだ。

DEVNET Tokyoは、ローマに本拠を持つ「DEVNETインターナショナル」の世界的ネットワークの一部として2013年3月に発足した。本部は、1995年以来、国連経済社会理事会(ECOSOC)の一般協議地位(カテゴリー1)を持っている。しかし、本部組織はミラノ万博には参加していない。

ミラノ万博への参加・出展は、財団法人「DEVNET Tokyo」にとっての初の世界デビューであったというだけではなく、比較的新しい非政府組織でも、この領域での名声が確立されたより大きな組織とも肩を並べることができるというメッセージを、日本の外の世界に向かって発信したいという明川氏の熱意を裏付けるものである。

Mitsugi Ikeda CEO of Ikeda Technical/ Devnet Tokyo

8月1日から31日まで展示を行った財団法人「DEVNET Tokyo」のパートナーとしては、戸建て・集合住宅から、老人ホーム、工場、倉庫、園芸、体育館向けの革新的な「地中熱利用空調システム(Geo-Max)」を開発した池田テクニカル株式会社がある。「私たちは、クリーンで、持続可能で、シンプルな技術に信を置いています。」と、大中小様々な規模の施設向けに、こうした技術を用いた自社製品を販売している同社のCEO池田租氏は語った。

池田氏は、「地中熱は太陽熱を起源とする地中の極浅い所に蓄えられた熱のことをいい、地下5m付近では年間を通して摂氏15度前後の温度に保たれています。」と指摘したうえで、「私たちは、地下2m程度の地中に内径800㎜のポリエチレン管を水平に埋設することで、この地中熱を利用しています。」と語った。

池田氏はさらに、「ポリエチレン管の外周は空洞となっているため地下水及び温水を循環させることで、管内の温度を調整することが可能で、その空気を管内に設置した大型ダクトファンで効率よく施設内に送り出す仕組みになっています。つまり、Geo-Maxは、必要なスペースさえあればどこでも設置可能です。」と語った。

Exhibition booth by System Brain

財団法人「DEVNET Tokyo」と協力しているもう一つの主要パートナーは、新世代のガラスコーティング技術「ナノシャイン」の普及に取り組んでいる株式会社システムブレインである。CEOの神田智一氏は、「使用するのは水と天然鉱石(特殊セラミック)のみで、化学溶剤を一切使わないため地球環境にやさしい保護コーティング技術です。今では、自動車のみならず、大手私鉄車両、船舶、航空機、公共設備など、さまざまなところでナノシャインの技術が採用されています。」と語った。

神田氏はまた、「この技術は日本だけではなく中国やタイなどアジア諸国の一部でも使われており、今後欧州諸国においてもナノシャインの活躍の場が広がる見込みです。」と付け加えた。

Yukiko Yajima, president of the Hiroo Arisugawa spa/ Yukiko Yajima

「医食同源=美食同源」は、財団法人「DEVNET Tokyo」がミラノ万博で運営した展示館(パビリオン)におけるもう一つのパートナーであるケアサロン「広尾有栖川スパ」が掲げているモットーである。適切な栄養摂取による血液浄化の観点から美容と健康を追求している代表の矢島由紀子氏は、展示ブースを訪れた興味津々の観客に、米がいかに豊富な栄養を与えてくれるのかについて説明した。

「もみ殻を取り除いただけの未精米の米(=玄米)は、食物繊維や、ビタミン、鉄分のバランスも黄金比率と言われる完全栄養食ですが、こうした栄養価の95%はぬか層に集中しておりしかも吸収率が悪いため、元来食用には適していない状態にあります。」と矢島氏は説明した。

そこで矢島氏は、この米ぬかの最大の栄養価を独自の酵素分解・特許技術により、あますことなく消化・吸収出来る、「ブラン・トレゾール(Bran Tresor)」という新製品を開発した。「お子様からご年配の方まで安心して摂れる100%ナチュラル栄養フードです。また、デトックスや便秘の解消、美しい肌の維持、アンチエイジングにも有効です。」と矢島氏は語った。

「DEVNET Tokyo」はまた、さまざまな側面における持続可能な開発を促進するプロジェクトに関わっているスリランカ出身のモンテ・カセム博士や中久保正己氏らのような著名なパートナーのミラノ万博への参加も得ている。

カセム博士は、京都の立命館大学副総長や大分の立命館アジア太平洋大学学長を務めた人物である。

中久保氏は、総合省資源システムの企画立案、設計、施工監理、運用管理を行っている「株式会社JCサービス」のCEOである。今年3月、中久保氏はスリランカで実施した「グローバル市場におけるスマートコミュニティ等の事業可能性調査」の報告書を作成した。

中久保氏はまた、遊休地および公共、民間施設の大型屋根を対象に、メガワットクラスの太陽光発電設備を構築し、運営するための総合的なサービスを提供している。「1メガワット」というのはあくまで一部分を取り出した数字だが、これは、平均的な家庭750軒が利用できる電力量に匹敵する。

財団法人「DEVNET Tokyo」のパートナーの多様性はまた、日本の伝統版画家である瀧秀水氏が、財団の運営する展示館でひときわ訪問者の目を引く場所を占めていた点にも象徴されるだろう。瀧氏は、日本国外においても高い評価を得ており、「サロン・ド・パリ」のグランプリなど、多数の賞を受賞している。また、彼の作品は大英博物館にも収蔵されている。(原文へ

「JCサービス」は、総合省資源システム事業と、メガワットソーラー事業の融合総合省資源システムの水・エネルギー供給能力を拡大させる一方、ソーラー発電設備による電力供給能力を付加して、地域防災拠点を作っている。

翻訳=IPS Japan

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潘基文事務総長は、国連のポスト2015開発アジェンダにおいて、世界の青年には特別な役割があると主張している。しかし同時に、この若い世代が空腹のまま新アジェンダに掲げられた目標に向かって前進できないことも理解している。

潘事務総長は10月12日に開幕した世界食料安全保障委員会(CFS)第41回セッションに宛てたメッセージの中で、「私たちは、ゼロ・ハンガー・ジェネレーション(飢餓人口ゼロを体現する世代)になるという目標に向かって努力を傾注していくなかで、青年たちが活発に参画できるよう彼らをエンパワーしていかなければなりません。」と語った。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

今年9月には世界160か国以上の首脳が出席した「持続可能な開発に関するサミット」において、繁栄の促進や環境保全など17の目標からなる持続可能な開発のための「2030アジェンダ」が全会一致で採択された。

持続可能な開発目標(SDGs)の主要目標の一つが、2030年までに飢餓と貧困をなくすというものである。

潘事務総長は、鳴り物入りで始まったこの新たな国連の開発アジェンダが成功するには、「世界の食の安全保障が重要」と指摘したうえで、「飢餓と栄養不良の解消に向けた急速な進歩がない限り、2030年アジェンダに掲げられた目標を達成できません。」と警鐘を鳴らした。

持続可能な農業を目指す米国のNGO団体「フードタンク(Food Tank)」のダニエレ・ニーレンバーグ代表はIPSの取材に対して、「小規模家族農家のエンパワーメントを含む食料と栄養の安全保障を改善する強いコミットメントがなければ、どのSDGsも達成することは不可能でしょう。」と語った。

ニーレンバーグ代表は、「多くの点で、SDGsは潘事務総長が主導してきた「ゼロハンガーチャレンジ(=飢餓ゼロへの挑戦)」の延長線上にあります。しかし、政策責任者らが飢餓と貧困をなくすための実質的なコミットメントと投資をする必要があります。それがなければ、国際社会は2020年までに飢餓をなくせません。」と指摘した。

Credit: Courtesy of Danielle Nierenberg

「私は、経済界、資金提供者、資金供与者、政策責任者らが、こうした地球規模の難題に対する取り組みはもはや『待ったなし』であり、農業も環境と経済の両側面から持続可能なものにして、世界の人々と地球を養う方法を早急に見出す重要性を理解していることを望んでいます。」とニーレンバーグ氏は語った。

フードタンクは、既存の食糧管理システムは破たんしている、と結論付けている。「世界には依然栄養不足で苦しんでいる人々が約8億人いる一方で、世界で生産される食料の3分の1が廃棄されています。この問題を解決する方法は一つしかありません。つまり現実を受け止め、自分にできることから行動に移していくことです。」とニーレンバーグ代表は語った。

国連食糧農業機関(FAO)は、10月13日に発表された「世界食糧農業白書2015」の中で、「学校給食、公共事業、送金、年金等の社会保障プログラムは、世界で飢餓と貧困と戦ううえで、大きな役割を果たしている。」「社会保障プログラムはまた、幼児の栄養摂取状況を改善し、児童労働を減らし、学力を向上させ、地域社会全体の経済活動を活発化する一助になる。」と指摘した。

一方同白書は、世界の貧困層のうち、なんらかの社会保障プログラムの恩恵を受けている人々は全体の3分の1にすぎない現状を嘆いている。

報告書はまた、貧しい国々に社会保障プログラムを実施する余裕があるか否か、また、そうした社会保障プログラムを如何にして、包摂的な経済成長を促進し、人々の生活環境を改善して飢餓の撲滅に貢献できるようデザインできるか、問いかけている。

ミレニアム開発目標(MDGs)における貧困削減目標は多くの国々で達成されたが、依然として多くの国々が大きく立ち遅れた状況に置かれていることから、ポスト2015開発アジェンダは、貧困と飢餓を完全になくすことを目的としている。

「多くの開発途上国の間で、貧しい生活を送っている人々の差し迫った欠乏状況を緩和し、経済危機に見舞われた際に、その他の人々が貧困状態に陥るのを防止するためには、社会保障プログラムが必要という認識が広がってきている。」と「世界食糧農業白書2015」は指摘している。

10月16日、「世界食糧デー」を記念してミラノ国際博覧会に参加した潘事務総長は、「70年も前に、世界の国々は『人類の飢餓からの解放を確実なものとする』という公約のもとにFAOを創設しました。そして今日、私たちは、この約束を果たすために、私が2012年に発足させた『飢餓ゼロへの挑戦』の実現に向けて、引き続き努力を傾けています。」と語った。

潘事務総長は、「飢餓とは食料が不足している以上のことなのです。これはひどい不公平そのものです。」と指摘してうえで、「2030年アジェンダは、私たちにとって成功へのロードマップにほかなりません。」と語った。

「私たちが今日ここにいるのは、世界の全ての人々の食料安全保障を達成することを誓約するとともに、飢餓撲滅に向けた世界的なムーブメントを作るためです。この取り組みは、より大きな開発枠組みである保健衛生、経済開発、ソーシャルインクグージョン(=社会的包摂)との密接な連携のもとに進められていきます。」と潘事務総長は力説した。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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