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国連の新たな開発目標には、成功のための資金と政治的意思が必要

【国連IPS=タリフ・ディーン】

9月27日まで3日間に亘って開催された「持続可能な開発に関するサミット」(過去最多の世界150か国以上の首脳が出席)において、前評判が高かった「持続可能な開発目標」(SDGs)が全会一致で採択された。この新開発アジェンダは、前代未聞の人類への素晴らしい貢献だと謳われている。

サミットの開会式で演説した潘基文国連事務総長は、「17の目標から成るSDGsは、あらゆる形態の貧困をなくすための『ポスト2015年開発アジェンダ』の不可欠の一部を成すものです。」と語った。

潘事務総長はまた、「『持続可能な開発のためのアジェンダ2030』の試金石は、『履行』にあります。あらゆる場所の全ての人々の行動が必要です。17の持続可能な開発目標は、私たちの指針、つまり、人類と地球にとっての『ToDoリスト』であり、成功への青写真なのです。」と語った。

しかし、今後15年かけてSDGsを実行し、貧困や飢餓、ジェンダー差別、病気の蔓延、環境の悪化をなくすことなど、グローバル社会の根本的な変革を2030年までに実現するには、実際に何が必要とされる条件だろうか?

それは政治的意思だろうか?それとも、 国内資源や政府開発援助(ODA)の上積みだろうか? 或は民間投資の拡大だろうか? それともその全てだろうか?

政府間のSDGs協議プロセスの共同議長であったケニアのマチャリア・カマウ国連大使は先月の記者会見において、「『持続可能な開発のためのアジェンダ』の実行には、毎年3.5兆ドルから5兆ドルもの巨額の費用がかかる可能性があります。」と語った。

オックスファム・インターナショナルのウィニー・ビヤニマ代表は「新たに採択された『持続可能な開発目標』は、文書の上では野心的なもので、インパクトの点で歴史的なものになる可能性があります。あらゆる国における極度の貧困や飢餓を単に減らすだけではなく根絶するという目標を掲げることで、従来の応急措置的な解決策からさらに踏み込んだものにしようとしています。」と指摘したうえで、「その中で大事なことは、最も裕福な人々が特権に居座ることを許すのではなく、社会の他の人々との関りを持つように引き戻してこられるかどうかにかかっているでしょう。」と語った。

欧州環境ビューロー」グローバル政策・持続可能性のディレクターであるレイダ・リノート氏は、「17の目標は政策決定に際して一層の熱意と一貫性を引き出す可能性がありますが、『持続可能な経済成長』の目標がその他の目標を損なうかもしれません。」と指摘したうえで、「地球の保持能力は向上しておらず、一部の国々は、その他の国々がベーシック・ニーズを満たせるよう、資源の利用を相当程度に減らし、より平等な資源分配を実現する必要があるのは明白です。」と語った。

「(欧州で暮らす)私たちは、気候と貧しい国々の発展を犠牲にして、過剰消費を続けています。これこそが、ますます希少になっている資源を巡って紛争を拡大させる要因となっているのです。」

「欧州委員会は、『欧州2020戦略』と『欧州連合(EU)持続可能な開発戦略』を間もなく見直しSDGsの履行に関する行動計画を策定する予定であることから、EUがSDGsとそれに合わせて取り組み方を変える必要性を理解していることを示す絶好の機会を得ることになります。」とリノート氏は語った。

SDGsは現実的に今後15年で達成可能かという質問に対して、CIVICUS(シビカス/市民社会の世界的連合組織)の広報・キャンペーン責任者ズベール・セイード氏は、「SDGsはミレニアム開発目標よりも範囲がずっと広く、先進国と途上国の双方に適用されるという意味で普遍性もあります。」と指摘した。

Zubair Sayed/ CIVICUS
Zubair Sayed/ CIVICUS

しかし、SDGsの履行に関しては2つの問題点があるという。

セイード氏は、「各国政府に財源があるか、そしてより重要なことは、履行する意思があるかどうかという点です。」と指摘した。

「あらゆる文脈において共通しているのは、SDGsの成功は、各国の政治的意思にかかっているということです。つまり各国政府が、①これらの目標を真剣に受け取るか、②自国の開発計画の中に変化を生み出すような目標を入れ込めるかどうか、③必要な資源をそのために配分できるかどうか、④設計・実行・監視の全側面において市民と市民社会を関与させられるかにかかっているのです。」

「また、これらの目標を下支えするために、国際社会が関連指標を確定することも重要です。」

2030年に向けて何が最も必要とされているかという問いに対してセイード氏は、「SDGsの成功は、政策決定者が、変化を生むような国家目標を設定してその達成のために財源を割り当て、目標設定や報告、進展状況の監視において市民を完全かつ意味ある形で関与させ、多国間のフォーラムや協議プロセスにおいて市民社会を平等なパートナーとして関与させることを通じて、これらの目標を真摯に受け止め、履行する意思を示す程度にかかっています。」と語った。

「また、各国の指導者が、SDGsの有意義な履行ができるよう、世論の支持を確保する努力も極めて重要です。」とセイード氏は付け加えた。

世界自然保護基金(WWF)のヨランダ・カカバドス会長は、「今後数か月で最も重要なことは、各国政府がこれらの目標達成のためにいかに貢献できるかを考え、それぞれの取組みについて報告できるように基準と指標を設定することです。」と語った。

カカバドス会長はまた、「人類はSDGsを成功させる見込みがあり、ようやくゴールも見えてきています。しかし、これを15年で成し遂げようとするならば、まずはランナー(=各国政府)がスタートラインに立つ必要があります。」「そのためには、それぞれの国が個別の開発計画を通じて国家指標と履行計画を策定するよう求められています。」と指摘した。

来年3月には、国連が今後、SDGsの世界的な進展状況について毎年報告できるように、各国が一連の指標に合意する予定だ。

「指標の問題は困難な課題ですが、もし各国が財政危機を解決するために団結できるのであれば、指標を生み出すことも可能でしょう。重要なのは、各国が連携していくという点と、データに関して出来るだけ透明性を確保するという点です。」とカカバドス会長は語った。

世界資源研究所」の副所長で運営責任者のマニッシュ・バプナ氏は、「SDGsは新たに大胆な国際開発アジェンダを設定した素晴らしい業績です」と語った。

SDGsは、世界の大きな変化を反映して、すべての国に適用されているほか、その中心に環境の持続可能性という価値を据えている。

「SDGsは、地球のことを考えることなしに、極度の貧困を根絶したり、経済成長を確保したりすることはできないとの理解の上に立っています。」

「幸い、貧困削減と経済成長、環境保護が互いに関連を持ちながら進行する事例が増えてきています。例えば、人間に焦点を当てたコンパクトシティの形成、浸食された土地の再生、低炭素エネルギーへのアクセスの拡大などである。」

「もちろん、優れた開発目標を掲げるだけでは不十分です。このビジョンを現実に追求できるか否かは、政府や、民間部門・国際機関・市民社会の行動にかかっています。優れた政策を掲げ、持続的な投資を促し、進展状況を測定することで、各国はこれらの目標を達成する軌道へと私たちを導くことができるのです。」

「SDGsは、もし成功すれば、開発における大きな変化を生むことができるでしょう。今日の不均衡なアプローチから、すべての人々の利益になり、同時に地球を守ることもできるようなアプローチへと転換を図ることが可能になるでしょう。」

Adriano Campolina/ Action Aid

アクションエイド」のアドリアーノ・カンポリーナ代表は、IPSの取材に対して、「SDGsは、貧困の原因を確定した点で一歩前進ですが、世界の仕組みを支配しているルールを変えない限り、同じプレイヤーが勝ち続けることになるだろう。」と指摘したうえで、「すべての人々にとって公正な未来と、カネだけがモノを言うのではなく、社会の格差が縮まった地球を創る必要があります。」と語った。

「世界の貧困層がこの新たな開発目標から恩恵を享受できるようにしなくてはなりません。企業による大規模な投資だけでは、貧困や不平等の削減を確実なものにはできません。各国政府はゲームのルールを変え、企業部門にあらゆる解決策を求めるのをやめなければなりません。私たちは、この新たな開発目標を今後15年で達成しようとするのなら、不平等の問題に緊急に対処しなくてはなりません。」

国連の全193加盟国から成るオープン・ワーキング・グループによって提案されたSDGsは、3年に及ぶ、透明で、すべての利害関係者と民衆の声に耳を傾けた参加型プロセスの成果である。

17のSDGsと新アジェンダの169のターゲットは、グローバルな指標を用いながらモニターされ、実施状況が検討される。グローバルな指標の枠組みは、「SDG 指標に関する機関間専門家グループ(IAEG)」によって策定され、来年3月に国連統計委員会で合意がなされる予定だ。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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日本・カザフ両政府が核実験禁止条約発効促進へ

【国連IDN=カニャ・ダルメイダ】

ニューヨークの国連本部で開催される第9回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議を前にして、CTBTの発効に向けてその支持を必要とする8か国(中国、朝鮮民主主義人民共和国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、パキスタン、米国)への圧力が強まっている。

ジュネーブ軍縮会議で交渉され1996年9月10日に国連総会で採択されたCTBTは、署名国183、批准国164を誇るが、44のいわゆる発効要件国(条約の「附属書Ⅱ」に掲げられている条約交渉当時に核施設を保有していた国々)のうち8か国が署名・批准を拒んでいるために、未だに発効していない。

核実験に対する包括的な禁止は、世界的な核軍縮・不拡散体制を構築するための重要な要素であり、越えなければならない最後の障害であるとみられている。

一般的に「第14条会議」と称されるCTBT発効促進会合は、核実験を禁止する法的に拘束力のある規範を定立することを目指して、これら8つの核兵器国をターゲットとすることになる。

8月26日から28日に広島で開催された第25回国連軍縮会議に参加した際にIDNの取材に応じたカザフスタンのイェルツァン・アシバエフ外務副大臣は、9月29日の第9回CTBT発効促進会議で日本とともに議長国を務めるカザフスタンにとって、CTBTへの支持は「当然のスタンス」であると語った。

カザフスタン北東部にある1万8000平方キロのセミパラチンスク実験場は、旧ソ連の核兵器開発事業の中で核実験を行う主要な場所であった。1949年から1989年の間に同地で456回の核実験が行われ、ガンの発生率増大や放射線被爆に起因する疾患等、推定20万人に健康被害を及ぼしたとみられている。

22万人もの死をもたらした広島・長崎への原爆投下から70年を迎える今年、日本が核実験防止のための外交攻勢を主導しているのは当然のことだ。

外務省の相川一俊軍縮不拡散・科学部長は、IDNの取材に対して、「この会議では取り組むべき『大きな課題』がある」としたうえで、「8つの(未署名・未批准)国の代表が参加して、会議を成功に導いてくれることを望んでいる」と語った。

Lassina Zerbo/ CTBTO
Lassina Zerbo/ CTBTO

1945年から、CTBTが採択された1996年までの50年間で、米国は1000回以上、ソ連は700回以上の核実験を行った。同じ時期にフランスは200回、英国及び中国はそれぞれ約45回の実験を行っている。

条約の遵守状況をモニターする機関である包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO、ウィーン)によれば、1996年以来核実験を行ったのは3か国しかない。インドとパキスタン(1998年)、そして北朝鮮(2006、2009、2013年)である。

合計すると、第二次世界大戦終結以来、約2050回の核実験が、世界中の60か所以上で行われた。CTBTOによると、これらの実験場は、(米国・英国・フランスの実験場となった)熱帯の南太平洋の環礁から、長らくソ連の核実験場として使われ、「北極海の氷に覆われた辺境の群島」と呼ばれるノヴァヤゼムリャまで、「驚くほどに対照的な場所」であるという。

CTBTOは、約300の地震波、水中音響、微気圧変動、放射性降下物探知局からなる世界的な監視ネットワークによって、大気圏であれ、地下であれ、水中であれ、秘密の核実験を国家が行うことを困難にしている。

しかし、主要な核保有[能力を持つ]8か国の署名なくしては、条約は無力だ。仮に実験が探知されたとしても、制裁などの懲罰的な措置を違反国に課すことができない。

CTBTO

8月の広島における国連軍縮会議の際にIDNの取材に応じた、元国連事務次長(軍縮問題担当)のジャヤンタ・ダナパラ氏は、核実験に関する現在支配的な政治的現実の「脆さ」について懸念を表明した。

「北朝鮮が核実験を行うかもしれないし、ウィリアム・ペリー元米国防長官によれば、すでにCTBTに署名・批准したロシアの科学者らが、政治指導者に対して核実験の再開を求めて圧力をかけているとのことです。もしこれが本当なら、CTBTがある意味で危機に立たされているといえるでしょう。」と、「科学・世界問題に関するパグウォッシュ会議」の会長も務めるダナパラ氏は語った。

ダナパラ氏はまた、「国連安保理は国際の平和と安全の管理人ですから、核実験停止モラトリアムの継続は平和と安全の根本的な要素だとする全会一致の決議は、CTBTの正統性を下支えすることになるでしょう。」と語った。

実際、国連の潘基文事務総長は、先の8か国に対して、条約を批准するよう個人的に呼び掛けている。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

潘事務総長は、「核実験に反対する国際デー」記念会合(9月10日)で行った演説の中で、「私は、核実験の被害者と面談し、核実験が社会や環境、経済に及ぼした永続的な被害をこの目で見てきました。…地下水の汚染、がん、白血病、放射性降下物汚染された水、ガン、奇形児、放射性降下物の影響など、核実験による環境、健康、そして経済への打撃から二度と立ち直れなかった人々も多くいます。」と語った。

潘事務総長はまた、多くの核保有国によって核実験のモラトリアムが自発的に実行されていることを歓迎しつつも次のように語った。「しかし、それが法的拘束力を有する条約の代わりとはなりえません。なぜなら、それは北朝鮮が3度にわたって核実験を実施した事実が物語っています。」「CTBTが交渉されてからもう20年が経過しました。今こそ条約を発効させる時です。」

天然資源防護評議会」によると、1945年から1980年の間に実施された核兵器は合計510メガトンにもなるという。そのうち、大気圏内核実験だけでも428メガトンに及び、これは広島型原爆2万9000発分に相当する

それぞれの実験によって放出される放射性物質の量は、爆発の大きさや規模、タイプにもよるが、多くの科学的研究を通じて、深刻な大気・水質汚染、生態系へのダメージ、怪我や内部組織・皮ふ・眼球・細胞まで含めた人体への被害など、健康や環境への負の影響があることが明らかになっている。

放射性物質から発せられる様々な粒子状物質や線の総称である「電離放射線」は、発がん作用をもっていることが科学的に証明されている。また、放射線被ばくは、白血病や甲状腺がん、肺がん、乳がんなどを引き起こすことが知られている。

CTBTOのウェブサイトにある核実験の影響に関するページは、「核兵器複合体の健康影響に関するアルジュン・マヒジャニ氏の査定など、様々な研究や評価によると、5つの核兵器国による大気圏内核実験による世界的な放射線被ばくによるガン死者は、数十万人にも及ぶと推定されている。」と述べている。

さらに、CTBTOは、「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)による1991年の研究では、2000年までに人間が受けることになる、大気圏内核実験に起因する放射能および放射性物質は、43万人のガン死者を生むことになると推定した。そのうちの一部は、研究結果が公表された段階ですでに起こっている。」と述べている。

「この研究は、およそ240万人が大気圏内実験の結果としてガンによって死亡する可能性があると述べている。」

これらの暗い現実を考えれば、CTBTの発効は火急の課題である。発効要件国による条約批准は「可能性」の問題ではなく、それが「いつ」なのかが問題だということで大方の意見は一致しているのだが、専門家にとっても、その「いつ」というのが正確にいつになるのかは、判断が難しい。

CTBTがいつ法的な現実になるのかというIDNの問いに対して、国連軍縮問題元高等代表で、2005年NPT運用検討会議の議長を務めたセルジオ・ケイロス・ドゥアルテ大使はこう答えた。「これはかつて『6万ドルクイズ』と呼ばれたものです。いまやこれが『6000万ドルクイズ』になり、まもなく『600億ドルクイズ』になるでしょう。しかし、いまだに正答はないのです。」「これまでの世界状況が問題です。つまり強国がその力と特権を維持しようとしているのです。」

アシバエフ外務副大臣は、世界の核兵器国が現在1万6000発の核を保有していると推定している。これらは、「地球を何度でも破壊できる」能力がある。

軍備管理協会のデータによると、ロシアと米国で世界の核弾頭の9割を占め、それぞれ、7700発、7100発を保有している。第3位のフランスはずっと離れて300発。また、中国は250発の核を誇り、英国は225発を保有している。

パキスタンとインドはそれぞれ110発、100発を保有し、イスラエルは80発、北朝鮮は10発である。ただし専門家らは、これらの数値を検証することは難しいと考えている。

軍備管理協会によれば、およそ1万発の核弾頭が軍の管理下にあり、残りの6000発が解体待ちの状態である。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

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フランシスコ法王、国連サミットを前に世界の指導者の良心に訴えかける

【ニューヨークIDN=J.R.ナストラニス】

ローマカトリック教会のフランシスコ法王(本名ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ、1936年ブエノスアイレス生まれ)は、故国では「謙虚で熱心に神の慈悲を説き、貧しい人々への奉仕と宗教間対話にも強い関心を持つ」人物として知られてきた。しかし9月25日に国連総会で幅広いテーマについて演説したこのアルゼンチン人の法王は、いかなる偏狭な利害にも束縛されない唯一の世界的リーダーであることを証明した。

17 SDGs

今後15年間に貧困を撲滅し、不平等と闘い、気候変動に取り組む17の目標と169項目のターゲットからなる新たなグローバルな枠組「私たちの世界を転換する:持続可能な開発のためのアジェンダ」を正式に採択する国連サミットの直前に演説したフランシスコ法王は、貧困を削減するための一連の負債、貿易、租税政策を支持した。

法王はこれに先立つ9月24日には、米国上下両院合同会議で演説し、弱者を守り不平等の問題と取り組む橋渡しとなる必要性を強調した。

「フランシスコ法王は弱者に手を差し伸べるような責任ある融資政策を実施するよう呼びかけました。法王は、弱者の苦境と貧困を念頭に、緊縮政策の失敗と抑圧的な融資政策を結び付けて語ったのです。」とジュビリーUSAネットワーク(80の宗教団体、信仰グループ、開発支援団体、人権組織から成る債務救済のために活動している連盟組織)のエリック・レコント代表は語った。レコント氏は、ローマ法王庁及び国連に対して財政と貧困問題に関する助言を行っている。

Eric Lecompte/  Jubilee USA
Eric Lecompte/ Jubilee USA

法王は演説の冒頭で、国際金融機関に対して、「さらなる貧困、疎外、依存を生じさせる『抑圧的な融資』を無くさなければなりません。」と呼びかけた。ここで法王は、途上国の持続可能な発展を阻害する一形態である「高利貸」行為について特に言及し、国連に対して、関連機関を通じて構造的な貧困問題に取り組むよう呼びかけた。法王は今年の夏、国連が提唱した国際的な破産プロセスを支持している。

「フランシスコ法王が高利貸と債権者の責任について語ったのには驚きました。法王は国連に対して債務危機を解決するために関連機関を動員する責任があると指摘したのです。」とレコント氏は語った。

法王は、「今こそ、将来好ましい歴史的な出来事として実を結べるよう、社会に新たな変化を生じさせる活動を重視していかなければなりません。私たち人類には『特定のアジェンダ(課題)』を将来に先送りすることは許されないのです。」と指摘したうえで、「今日私たちは、世界各地の紛争で故郷を追われ助けを必要としている人々が増え続けている現実に直面しています。国際社会は人類の将来のために重要な決断をすることが求められているのです。」と力説した。

法王はまた、中東とアフリカが直面している現実は深刻なものだと警告した。「中東、北アフリカやその他アフリカの国々全体の痛ましい状況に関して、私は繰返し訴えてきたことを再確認する必要があります。こうした現実は、国際問題への対処を任されている人々の良心を刺激するでしょう。」

宗教的或いは文化的迫害の場合のみならず、ウクライナ、シリア、イラク、南スーダンアフリカ大湖沼地域など全ての紛争状況において、生身の人間こそが、党利党略(それがどんなに合法なものであったとしても)より優先されなければなりません。それは、戦争や紛争状況下には、泣き、苦しみ、命を落としている個人や兄弟姉妹、老若男女がいるからです。」

法王は創立70周年を迎えた国連の功績に言及して「国連の歴史は、非常に速いペースで移りゆく時代において、人類が共有する重要な功績のひとつに挙げられます。…国際法の法典化と発展、人権に関する国際的基準の制定、国際人道法の発展、数々の紛争の解消、平和維持や和平の活動、そして各分野における国際活動や努力等、多くの功績があります。」と語った。

一方で法王は、過去70年の経験から時の流れに応じた改革と適応が必要と警告し、「例えば国連安全保障理事会、金融機関、そして経済危機に対応するために創設されたグループやメカニズムなど、有効執行能力を持つ機関には特にさらなる平等が求められます。」と語った。

疎外や不平等の問題への対処として、フランシスコ法王は、「本日の『持続可能な発展に向けた2030年アジェンダ』の採択は重要な希望の兆しです。私は国連気候変動パリ会議(COP21)でも基本的かつ有効な合意がなされることを確信しています。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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核実験禁止へのとりくみ:カザフスタンが「アトムE」を開始(カイラト・アブドラフマノフ国連大使)

【国連IPS=カイラト・アブドラフマノフ】

致命的な兵器の禁止を訴えた1946年の国連総会決議があったにも関わらず、カザフスタンが独立した年の1991年8月29日に当時世界第2位の規模であったセミパラチンスク核実験場を閉鎖するまで、核兵器の保有は科学の発展あるいは軍事力の象徴であり続けた。

この決断と、当時世界第4位であった(110基を超える弾道ミサイルと1200発の核弾頭からなる)核戦力の放棄は、カザフスタンがこの強力な核兵器実験と核兵器は必要ないと考えていることを世界に示した前例のない行為であった。セミパラチンスク実験場の閉鎖は、ネバダ(米国)、ノバヤゼムリャ(ロシア)、ロプノール(中国)、ムルロア(フランス領ポリネシア)など、他の実験場の閉鎖につながっていった。

‘RDS-37’ on 22 November 1955 – the Soviet Union’s first thermonuclear test/ CTBTO

全世界で2000回行われた核実験の4分の1にあたる600回以上の核爆発が、40年間にわたってセミパラチンスク実験場で行われた。実験場の面積は1万8000平方キロであり、その影響は30万平方キロ、150万人以上に及んだ。

実は、ソ連時代のカザフスタンは11の軍部隊で構成される一つの巨大な多角形を成していた。核実験場以外にも、航空、宇宙、ミサイル防衛、警戒システムがあり、高出力レーザー兵器の実験場もあった。私はその中に、アラル海にあった恐るべき生物・細菌兵器の実験場(かつてのルネサンス島にあるバルカン実験場)も指摘しておきたい。

これまでの取り組みを考えれば、我が国には、「核兵器ゼロへの道」に関する普遍的で即時の措置を求める十分な権利があるといえるだろう。ここで引用した恐るべきデータ、そして1996年の国際司法裁判所の勧告的意見をみれば、国際社会は、核実験と核兵器の究極的かつ不可逆の禁止に向けてもっと大胆に踏み出すようになるはずだ。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、世界の指導者に核実験の永久廃止と核兵器の完全廃絶を求める「ATOM」(廃止する=Abolish、実験=Test、私たちの使命=Our Mission)と呼ばれる国際的なオンラインキャンペーン・プロジェクトを開始した。現在このキャンペーンを国際社会にアピールするため、「ATOM」プロジェクトの名誉大使で核実験の被害者であるカリプベク・クユコフ氏がカザフスタンからここニューヨークにやってきて、自身の経験を伝えている。

Kazakh President Nursultan Nazarbayev addressing the UN General Assembly in September 2015 | Credit: Gov of Kazakhstan
Address by His Excellency Nursultan Kazakh President Nursultan Nazarbayev addressing the UN General Assembly in September 2015 | Credit: Gov of Kazakhstan

カザフスタンが世界最大のウラン生産者・供給国であるにも関わらず、強固な意思を持って堅持してきたこうした立場は、兵器よりも「調和と協力」こそが、世界の平和と安全にとって、「より有効な武器」となり得るということの証左といえよう。

軍縮に対して批判的な人々は、「核兵器の発明をなかったことにすることはできず、核という魔神はもう壺から飛び出てしまった」と主張する。しかし、カザフスタンなどいくつかの国々が、怪物的な魔神を壺の中に戻すことは私たちの能力の範囲内でできることだと証明してきた。

カザフスタンは包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名した最初の国のひとつである。同条約を重視する我が国は、CTBT第14条に関する国際会議を9月29日に日本と共同主催して、条約の早期発効に向けて努力する所存だ。

今年は、国連創設から70年でもあり、新たな変化を生み出すポスト2015年開発アジェンダの開始の年にもあたる。私たちは、核軍縮の結果として生み出されるであろう莫大な資源を、切迫した人類のニーズを満たし、平和で安全な世界を達成するために投資する政治的意思を持たねばならない。

ICAN
ICAN

今日、核不拡散条約(NPT)の2015年運用検討会議が期待された成果を生み出せなかったことを考えると、軍縮に関する機構を前進させる新たな推進力が必要となっている。オスロ、ナヤリット、ウィーンで開催された3回の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)、各国別、二国間、複数の国による集合的な多くの取組みとともに、市民社会によるダイナミックな取り組みを歓迎する。

こうした活動は、核兵器なき世界に向けて連帯するための警告となる。従って私たちは、オーストリアが提案しカザフスタンも今年7月10日に賛同した「人道の誓約」が推進力を得ていることを歓迎する。同様に、「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」を採択するよう国際社会に呼びかけている我が国の大統領の取組みが、10月に開催される国連総会第一委員会で支持されることを求めている。私たちは、この文書が、大きな議論の基礎をなすとか、国連の軍縮機構を縛りつけるものだとか考えているわけではない。その価値は、核軍縮達成の手段について依然として意見の一致がないにも関わらず、核兵器なき世界という基本的目標については完全に一致しているという事実にあるのだ。

カザフスタンが関与したことで東側と西側の協力が成功した事例を他にいくつか示しておきたい。

1.カザフスタンは核戦力を放棄して「国際社会の注目を大いに浴びた」が、核弾頭とミサイルを撤去・処分し、元実験場のインフラを破壊・無効化するのを可能にしたのは、ロシア連邦と米国との協力があったためであった。

2.カザフスタンは、中央アジア地域の他の国々とともに、2006年にセミパラチンスクで中央アジア非核地帯条約に署名し、早くも2009年には発効させた。2014年5月、核五大国(P5)は、条約参加国に対する消極的安全保証に関する議定書に署名し、うち4か国は既に批准も済ませている。

今年、中央アジア諸国は、地域における核保安を強化する行動計画を採択した。現在私たちは、核物質の違法取引を防止し、核テロと闘う地域的な手段を検討中だ。

3.2014年、かつてのセミパラチンスク核実験場内にあった「マシフ・デゲレン」(「プルトニウムの山」として知られる)の地下通路に残されていた数百キログラムに及ぶ核物質を安全に確保し保全するための取り組みを進めた。この措置によって、核物質の漏出と不適切な使用が防がれるであろう。カザフスタン、ロシア、米国による継続的かつ永続的な三国間協力が2012年にソウルで3か国の大統領によって発表された。これは、信頼と相互理解の精神だけが世界の安全を確実にするのだということを明確に示した事例である。現在カザフスタンは、2016年にワシントンDCで開催される予定の第4回核セキュリティサミットの準備を進めており、11月2日から4日にはアルマトイで事務方の準備会合を主催する。

4.もう一つの重要な成功は、カザフスタン政府と国際原子力機関(IAEA)との間で、国際低濃縮ウラン(LEU)バンクを2017年にカザフスタン北東部で設立する協定に8月27日に署名がなされたことだ。この取り組みは、核不拡散体制を強化し、国際的な法的枠組みに存在する隙間を埋めるうえでカザフスタンがなしている具体的な貢献の一例だ。LEUバンクは、核エネルギーの平和的利用のために、加盟国に安定して核燃料を供給することを狙ったものだ。東側と西側、とりわけカザフスタンと、P5、さらには、欧州連合、ノルウェー、クウェート、アラブ首長国連邦をプロジェクトの主要なドナーとして、LEUバンクの実現に導いた。

5.協力の最も新しい事例は、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地に関するものだ。ここは、国際宇宙ステーションに飛行船を打ち上げる地球上で唯一の場所になっている。9月2日、飛行船「ソユーズ」が、カザフスタンやロシア、デンマークからの新しい乗組員を乗せて、発射された。デンマークからの乗組員は、欧州宇宙機関から送り込まれている。この事例もまた、未来に向けた希望をもって協力するよう、私たちを勇気づけるものだ。

ハーグで開かれた核保安サミットで「一般的かつ完全な核軍縮」こそが核保安を唯一もたらすものだと世界に訴えたナザルバエフ大統領の言葉を引用しておきたいと思う。大統領は、「『国際の平和』の名を借りた軍事的解決ではなく、政治的解決をもたらすという、自国民及び国際社会に対する私たちの責任に応えなければならない。」と述べた。従って、核実験禁止、核兵器禁止への推進力を生み出し、私たちの共通の人間性を忘れないようにそうした平和的な解決策を見つけ実行していくことは、私たち皆にとっての集合的な責任であり、約束なのだ。(原文へ

※カイラト・アブドラフマノフは、カザフスタン共和国の国連大使。

翻訳=IPS Japan

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核保有国、ウィーンで批判の嵐にさらされる

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【東京IDN=石田尊昭】

9月19日未明、安全保障関連法が成立した。民主党、共産党など野党5党が猛反対・猛抗議する中での成立であった。連日、国会議事堂前では抗議集会が行われ、反対する野党議員と参加者が声を合わせて「戦争したがる総理はいらない!」「戦争法案、絶対反対!」「憲法を破壊するな!」と叫んでいた。

反対する野党が強調するように、この法律によって、「戦争したがる総理」が「憲法を破壊」し「徴兵制を復活」させ「米国の意のまま、米国の利益のために、米国と共に世界中で戦争する」としたら、それは日本のみならず世界においても「極めて危険で愚かな法律」が誕生したことになる。

ただ、反対する野党の支持率は、同法が成立した19日以前のデータを見る限り、全くと言ってよいほど伸びていない。各社バラツキはあるものの、1位は常に自民党で、2位の民主党に3~4倍以上の差をつけている。同時に、4~6割存在している無党派層(支持なし層)も、野党は全く取り込めていないことがわかる。

同法が本当に「極めて危険で愚かな法律」であれば、自民党支持者や無党派層の中から少なくとも数%は野党支持に回るのが自然ではないだろうか。それが全く動いていないということは、多くの国民がこの法律の危険性に気付かない無知で鈍感な存在なのか、それとも、野党の指摘や対応が根本的に間違っているのか、果たしてどちらであろうか。

「自民党も安倍政権も安保法も積極的に支持するわけではないが、野党が主張する『徴兵制』『戦争したがる総理』『戦争法案』も現実的とは思えない。むしろそうした扇動的なフレーズを使い、建設的な議論や対案を示さずパフォーマンスに走りがちだった野党には共感できない。また、憲法との整合性についても100%納得しているわけではないが、それでも『憲法が掲げる理想』と『現実の世界情勢』の中で、このあたりがギリギリ許される現実的な妥協点かもしれない」―そう考える人が少なからずいるのではないだろうか。

いずれにせよ、同法は成立した。これまで以上に、私たち国民の責任が問われることとなる。かつて「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄は、立憲政治には「批判精神」が不可決だと言った。「批判精神」とは、何でもかでも一方的に反対することではない。「お上任せ」にせず、「誰が正しいかではなく、何が正しいかを考え抜く」ことだ。

「お上が決めたのだから、これで終わり」ではなく、この法律の実質的な運用の過程で、野党が指摘している状態を作り出さない(政府が誤った方向に進まない)ように政治を厳しく監視していく責任が私たちにはある。そして、仮に野党の指摘通りの事態になりそうであれば、その時点で即、選挙を通じて、私たちの手で政権交代させればいい。それが民主主義である。

IPS Japan

石田尊昭氏は、尾崎行雄記念財団事務局長、IPS Japan理事、「一冊の会」理事、国連女性機関「UN Women さくら」理事。

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国連総会ハイレベルフォーラム、「平和の文化」を訴える

【ニューヨークIDN=J・R・ナストラニス】

国連総会が9日、「平和の文化と非暴力」について討論するハイレベルフォーラムを開催した。このフォーラムは、あらゆる部門で多次元にわたる紛争が噴出し世界が引き裂かれようとしている今日の時代状況のなかで、世界市民性を涵養(かんよう)するうえで重要な貢献を成した。

サム・カハンバ・クテサ国連総会議長が招集した第4回「平和の文化に関する国連ハイレベルフォーラム」では、国連の高官や著名な平和活動家らが、「平和は単に紛争の不在を意味するものでも、紛争の終結によって自動的にもたらされるものでもなく、多様性や平等、民主的参加、教育へのアクセスといった価値を実現する社会を作り上げることによってもたらされるものである。」と指摘した。

終日にわたって開催される国連ハイレベルフォーラムは、2012年以来ニューヨークの国連本部で開かれており、元国連事務次長でバングラデシュ大使のアンワルル・K・チョウドリ氏が起草委員会の委員長となって1999年に国連総会で採択された平和の文化に関する「宣言」と「行動計画」を履行する重要性について、協議する場となっている。

Ambassador Einar Gunnarsson of Iceland/ UN Photo

今回のフォーラムでは、政府、地域のリーダー、宗教指導者、教育関係者、メディアなど、全ての利害関係者が非暴力の文化を創出するうえで各々の役割を持っていることが強調された。多くの発言者が、ポスト2015年の時代において、世界の民衆の生活の全般的な改善に向けたビジョンを前進させていくことが優先されねばならないという点で意見が一致した。

クテサ国連総会議長の代理で発言したアイスランドのアイナール・ギュナルッソン国連大使は、「平和は、開発が伴わなければ見果てぬ夢に過ぎません。これこそが、平和の文化を促進し平和な社会を確実にするうえでの中心的な課題のひとつです。」と語った。70年以上にわたって、平和への欲求が国連の活動のほぼすべての面を突き動かしてきた。しかし、テロやサイバー犯罪、人身売買、気候変動といった新しい諸課題が、その夢の実現を遠ざけている。

United Nations Sustainable Development Summit 2015/ Sustainable Development Knowledge Platform

「『国連持続可能な開発サミット』(9月25日~27日)で採択される予定の、2030年に向けた『持続可能な開発アジェンダ』は、平和で包摂的な社会の促進を必要とする17の開発目標を含んでいます。そして、その効果的な履行を確実にする責任は、私たちにあるのです。」とギュナルッソン大使は指摘した。

潘基文国連事務総長は、「今回のフォーラムは『国際社会が直面している極めて困難な現実』に立ち向かうためのものです。今日世界では、戦禍に引き裂かれた数多くの地域で、国際人道・人権法の恐るべき違反が横行しており、概して平和的で民主的な社会においても、少数派の人々が攻撃されています。私たちは、こうした被害から目をそむけたり、心を閉ざしたりすることはできません。」と強調した。

潘事務総長は、マハトマ・ガンジーの厳しい警告を引用して「他者の信条に対して、単に寛容になるだけではなく、自分のこととして尊重できなければ、地球に永続的な平和は訪れない。」と語った。

マハトマ・ガンジーの孫にあたるアルン・ガンジー氏は、基調講演でこのテーマについて論じ、「ナショナリズムで世界を維持することはできないと祖父は考えていました。なぜなら、ナショナリズムは、他者への配慮がなくても自らが存在できるという印象を作り出してしまうからです。私たちの将来と運命は互いに繋がっています。安定した中で生きていく唯一の方法は、安定を創り出すことであり、それは、協働した努力でなければなりません。」と語った。

Arun Gandhi/ UNTV
Arun Gandhi/ UNTV

ガンジー氏はまた、「祖父の非暴力の哲学は個人の変革に関わるものでした。私たちはみな、社会の一部を構成しています。私たちがそれぞれ非暴力を理解し、それを実践しなければ、平和を信じる政府をつくることなどできません。平和は個人から始まらねばならないのです。」と語った。

ガンジー氏は、話を核心に戻し、子どもの頃に鉛筆を投げ捨ててしまい、祖父に拾ってくるように諭された想い出について次のように語った。「その際祖父が説明してくれたことは、『人間が天然資源を使うということは、自然への暴力に他ならない』ということでした。暴力は資源の浪費や他者の搾取によってなされるものです。今日、米国だけでも、毎年200億ドル分もの食料が廃棄されている一方、100万人以上が空腹のうちに床に就かねばならない状況にあります。」

「非暴力の文化は、愛と尊重、理解、感謝、自己実現によって創られるものです。」と指摘したうえで、「私たちは、万物とのつながりを尊重しなくてはなりません。私たちはある目的のために存在しているのであり、その目的を見つけ、実行せねばならないのです。」とガンジー氏は強調した。

ラウンドテーブル

フォーラムでは、2つのラウンドテーブルで中核的なテーマについて討論を行った。「ポスト2015年持続可能開発アジェンダの文脈における平和の文化」と題された一つ目のラウンドテーブルでは、今後15年間で「平和の文化」をどう涵養していくのか、その戦略について話し合った。さらに「平和の文化促進におけるメディアの役割」と題された二つ目のラウンドテーブルでは、さまざまな形態のメディアを、寛容と相互理解の促進のためにいかに使用しうるかについて検討した。

Ambassador Anwarul Chowdhury/ Hiro Sakurai, SGI
Ambassador Anwarul Chowdhury/ Hiro Sakurai, SGI

チョウドリ大使は、一つ目のラウンドテーブル開会にあたって、「国際社会は社会に埋め込まれた構造的暴力をなくす努力をしなくてはなりません。平和がなければ、持続可能な開発のための2030年アジェンダの目標を達成することは不可能だ。」と強調した。

ルーマニアのエミル・コンスタンティネスク元大統領は、「チュニジアやエジプト、シリアでの近年の民衆運動は、対話と効率的な外交の不在に対する注目を高めました。紛争の予防には包括的でバランスの取れたビジョンが必要で、そのためには、さまざまな民族的・宗教的集団の利益や、独立国市民の権利と義務について理解がなければなりません。」と語った。

ユネスコのフェデリコ・マヨール元事務局長は、「この25年、多くの素晴らしい計画やアジェンダ、行動計画が存在したが、約束はなされたものの行動が伴わなかったことから、それらは『全く無用であった』と言わざるを得ません。現実には、子どもが毎日餓死していく中で、各国は軍事支出に投資を重ねてきたのです。また環境面でも不可逆的と思われるプロセスが進行しており、持続可能性は既に危機に立たされています。」と語った。

マヨール元事務局長はまた、「現在の世代にはこの状況を反転させる大きな責任があります。なぜなら、国際社会は後戻りできない地点に来ているからです。まもなくここ国連で採択される予定の措置は非常に良いものになるだろうと確信しています。しかし、私たちの手には既に素晴らしい決議文書が多数あり、その後何も起こらなかったというこれまでの教訓を想起しておくべきです。これ以上の先送りはできません。」と警告した。

その他のパネリストは、コロンビアのマリア・エマ・メジャ国連大使、ポスト2015年開発計画に関する事務総長特別顧問のアミーナ・モハメッド氏、グローバル政策フォーラムおよびソーシャル・ウォッチのアドバイザーであるバーバラ・アダムズ氏である。加えて、国連広報局NGOプログラム実行委員会を代表して、エリザベス・シューマン氏がパネリストとして参加した。

パネル討論「平和の文化促進におけるメディアの役割」は、リベリアのマージョン・V・カマラ国連大使が司会進行を行った。パネリストは、バングラデシュのアブルカラム・アブドゥル・モメン国連大使、国連のクリスティーナ・ギャラック事務次長(広報担当)、「メタ非暴力センター」のマイケル・ナグラー代表、「フェミリンク・パシフィック」(フィジー)の代表で創設者のシャロン・バグワン=ロールズ氏である。

討論開始にあたってリベリアのカマラ大使は、「自由で参加型の情報交換を通じて変化を強力に生み出すメディアには、『平和の文化』を前進させるうえで重大な役割があります。」と語った。

バングラデシュのモメン大使は、個人的な経験を語る中で、「メディアは巨大な政治力を生み出し、適切に使われることで、社会変化をもたらす重要な主体となってきました。メディアは、その旧来のあり方を超えて、これまでになかったような形で、人々に情報を提供し教育するオンラインの社会基盤を包含するようになってきています。『ペンは剣よりも強し』という標語は、メディアをポジティブな方向に変化させる取り組みの緊急性を強調したものです。とりわけメディアには、憎悪と不寛容を終わらせ、相互尊重の発想を生み出すことが必要です。」と語った。

「フェミリンク・パシフィック」のバグワン=ロールズ氏は、パネル討論をまとめて、「コミュニティ・メディアには、国連安保理決議1325(2000)に基づいた安全保障の観念を変える能力があります。旧来型の広報を超えるような役割をコミュニティ・メディアが担わなければ、ポスト2015年におけるその役割は限定されたものになるでしょう。報道内容は、目標達成という観点から進歩や不足を反映したものでなければならないし、女性自身が平和や安全、開発といった言葉を定義できるようなものでなければなりません。」と語った。

バグワン=ロールズ氏はまた、「一体誰がニュースをつくり、なぜそれが家父長的な権力のあり方を基盤にしてはならないのか?」と問いかけるとともに、「国連加盟国は、地域社会の見方に敏感でなければなりません。」と強調した。そして「世界市民を涵養するという目標を見据えて、持続可能な平和と開発を前進させる努力の中で、多様性と権力の脱中心化を図れるような立法、規制面での環境整備が必要です。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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イスラエルはいかに世界市民に貢献しているか

【ハイファIDN=メル・フリクバーグ】

イスラエルは様々な方法で世界市民に貢献している。例えば、途上国から留学生を受け入れ開発問題に対処する支援を行ったり、緊急事態を潜り抜けてきた自国の経験を生かして世界各地で支援活動や緊急援助を実施している。

ダヴィド・ベングリオン氏など、イスラエルの創始者らは、専門知識や資源を途上国と共有することによって、善への力になるというビジョンを表明している。

“Golda Meir” by Marion S. Trikosko/ Wikimeida Commons

「私は、これまで手掛けてきた他のいかなるプロジェクトよりも、イスラエルの国際協力プログラムを誇りに思っています。それは、ユダヤ主義の中核にある社会的公正への取り組みを象徴するものだからです。」と、ゴルダ・メイア元首相は、イスラエルの対外支援政策の重要性について見解を述べている。

多くのイスラエルの大学が、公衆衛生や農業を学ぶ途上国からの留学生に奨学金を提供している。

イスラエルの大学・学界と緊密に協力している英国のピアース財団もそうした組織の一つだ。イスラエルに登場しつつある国際開発部門に対して、支援インフラを提供している

「私たちの取り組みは、必須技術を提供し、イスラエルと途上国との間に永続的な関係を育んでいこうとするものです。」とピアース財団は述べている。

「私たちのプログラムは、意義のある社会変革を生み出し、尊重と理解を増進し、人々が自らのコミュニティーと大切にしている大義を支援するよう鼓舞するものです。」

Pears Foundation

イスラエルはまた、世界市民の取組みの一環として、強力な紛争解決産業の育成に力を入れており、留学生を対象に修士レベルの各種プログラムを提供している。

「イスラエルには、紛争解決に関連した65の研究機関と数多くのプログラムがあります。人口800万人に満たない国としてはかなりの数にのぼります。」とハイファ大学法学部長のガド・バルジライ教授はIDNの取材に対して語った。

しかし、パレスチナ問題に関して批判的な人々は、イスラエルの理論上の専門知識と、実際に同国が行っていることの間には大きな溝があると指摘している。

メディア・コンサルタントでアルジャジーラ元記者、そして現在はパレスチナ自治政府の報道官をつとめているノール・オデー氏は、IDNの取材に対して、「イスラエルの紛争解決に関する助言は、その政府自身が(パレスチナ問題に関して)実行に移せていないという意味で、きわめて矛盾に満ちたものです。」と語った。

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Nour Odeh

バルジライ教授は、「イスラエルの学者のほとんどはパレスチナ占領に批判的であり、人権問題への関わりという意味では米国の学者よりもよっぽど活動的です。」「イスラエルは深刻な安全保障上の問題に直面しており、議論はこの点を踏まえたものでなければなりません。イスラエルは、中東の動乱の只中にあり、ISIS(イスラム国)支配地域から僅か9マイルしか離れていないのです。」と指摘している。

これに対してオデー報道官は、「イスラエルは建国以来、安全保障を口実にしてきました。それは、自己充足的な予言であり、(パレスチナ)占領を正当化する手段となってきました。」と反論した。

「イスラエルは、安全保障について語るかたわら、ユダヤ人入植地を拡大しさらなる人権侵害を行い、紛争の火に油を注いでいます。」とオデー報道官は付け加えた。

Professor Gad Barzilai

バルジライ教授の下で、ハイファ大学法学部は、ガザ地区における人権や国際法、緊急事態下での法の支配に関する会議を年間で40回ほど開き、その学生の多くが人権問題に関わっている。大学はまた、様々な人権問題に関して「法律クリニック」を開設している。

また、イスラエルの学生は、民主主義に関するプログラムを少なくとも一つは受講している。

「イスラエル国民は幼少時から、隣人(パレスチナ人)との問題を政治的に意識し懸念を持ちながら暮らしています。」

「しかし、パレスチナ紛争をいかにして解決するかという点に関しては、イスラエル社会を2分している左派と右派の間で異なった見解があります。つまり、イスラエル国民の3割は、人権は安全保障に優先すると考え、7割は安全保障がより重要だと考えているのです。」

「しかし、ガザ地区からのロケット攻撃によって、両者の見解は複雑化し二極化に向かっています。イスラエルでは(パレスチナ問題を)軍事的に解決することを求める人々がいる一方で、より平和的な解決策を求める人々がいるのです。」

ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政権はイスラエル史上最も右寄りですが、議会における左右両勢力の差は少ししかないのが現状です。」と、バルジライ教授はIDNの取材に対して語った。

しかし、オデー報道官は、バルジライ教授とは異なった考えだ。

「ユダヤ人入植者はイスラエル政府の一部であり、イスラエルのほとんどの政権がユダヤ人入植地を政治的にも経済的にも支援してきました。」とオデー報道官は語った。

「イスラエル人が『(パレスチナ)占領には反対している』という時、その『占領』の定義が重要になります。というのも、イスラエルの『占領』の定義は、国際社会や国際法のそれとは異なっているからです。」

「イスラエル国民の多くが、分離壁や、依然として残っている大規模入植地、東エルサレムの継続的なユダヤ化を支持しているのです。」

「イスラエル国民は、紛争とパレスチナ人追放の歴史的背景を理解することを拒否しており、『占領』の解釈については未熟だと思います。」

「ネタニヤフ氏が『パレスチナ人などいない』と主張して1996年の選挙に勝ったことを忘れてはなりません。」とオデー報道官はIDNの取材に対して語った。

カレン・シャービット博士は、海外とハイファ以外のイスラエル国内から多数の学生を集め、4年前に開設されたハイファ大学国際修士プログラム(平和・紛争解決研究)を主導している。

「社会科学をベースにした学際的なプログラムであり、一部を英語で行っています。」とシャービット博士はIDNの取材に対して語った。

International MA Programs in Peace and Conflict Management, Diplomacy Studies, and Child Development at the University of Haifa

「学生たちは、地域レベルの集団間紛争や多様なコミュニティーについて、さらには、国内や国際レベルの民族紛争について学んでいます。」

「イスラエル・パレスチナ紛争に関しては、様々な観点やアプローチがあります。例えば、イスラエルのユダヤ人とパレスチナ人がいかにして同じ地域で共存できるかといったことなど、地域レベルでの研究を進めている学生もいるのです。」

「また、ユダヤ人と、イスラエル国内では自らを二級市民だとみなしているアラブ人(全人口の約2割)との間で良好な関係を作り出すためにいかなる政策を実行しうるかという点に関して、国家レベルで事態を捉えようという学生もいます。」

「また国際レベルでは、国際社会からのインプットについて検討しています。」とシャービット博士は語った。

シャービット博士のプログラムはまだ始まって4年目だが、既に一部の教え子が平和産業への重要な貢献を果たしている。

卒業生の一人は、ハイファ市当局が創設した「ハイファ対話・紛争解決センター」のコーディネーターを務めている。

「またある卒業生は、Givat Haviva(共有社会センター)のプログラムを作りました。」とシャービット博士は語った。

シャービット博士は、「多くのイスラエル国民がアラブ人との紛争解決に関心を持っていません。」と指摘したうえで、「だからこそさらなる教育が必要なのです。」と語った。

「もし政治的問題を解決しようというのなら、民衆を教育するためにもっと多くのことがなされねばなりません。」とシャービット博士はIDNの取材に対して語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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「核実験禁止条約の将来いまだ見通せず」と国連が指摘

【国連IPS=タリフ・ディーン】

1996年に国連総会で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は、ひとつの大きな理由によって、いまだに発効していない。それは、既に183カ国が署名し、164カ国が批准しているにも関わらず、発効要件国(44か国)のうち、依然として主要な8か国が、条約への署名、あるいは批准を拒否しているためである。

未署名3か国(インド、北朝鮮、パキスタン)と未批准5か国(米国、中国、エジプト、イラン、イスラエル)は、条約採択以来19年間、CTBTとの関わりを避けている。

潘基文事務総長は、「核実験に反対する国際デー」記念会合が開催された9月10日、CTBT未署名・未批准のすべての国々、とりわけ当該主要8か国に対して、「核兵器なき世界を目指すための欠かせないステップ」としてのCTBTに署名・批准するよう、改めて呼び掛けた。

現在、多くの核保有国が、自発的な核実験の中断(モラトリアム)を実施している。

「しかし、それが法的拘束力を有する条約の代わりとはなりえません。なぜなら、それは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が3度にわたって核実験を実施した事実が物語っています」と潘事務総長は語った。

国連事務総長によるこの警告は、北朝鮮が核兵器生産のための動きを再開したとの報道が15日に出される中で、なされたものだ。

しかし、「これら8か国が近い将来にCTBT署名・批准に動く可能性は低い。」とジョン・ハラム氏は指摘する。ハラム氏は、「核軍縮を目指す会」(PND)とシドニー大学(オーストラリア)平和・紛争研究センターの共同プロジェクトである「人間の生存プロジェクト」(HSP)のメンバーである。

ohn Hallam/ University of Sydney

「これら8か国が2016年までにCTBTに署名・批准をすることはなさそうだ。」とハラム氏は語った。

例えば米国は、署名は済ませているが、共和党がCTBTの批准に明確に反対している。

ハラム氏によれば、インドとパキスタンも、CTBTに署名・批准のいずれも行わないとの意思を明確にしているという。「とりわけ、ナレンドラ・モディ政権下のインドが署名・批准する可能性はほとんどないでしょう(一方、インドの核軍縮運動は長年にわたってCTBTの署名・批准を求めてきた。)」とハラム氏は語った。

さらにハラム氏は、「中国とその他数か国は、米国が条約に批准次第、自分たちもそうすると主張しています。」と語った。

「核実験に反対する国際デー」を記念して9月10日に開かれたハイレベル・パネルディスカッションで潘事務総長は、「核実験を終わらせるという目標は、私の外交官としてのキャリアを通じて、重要な関心事でした。」と指摘したうえで、「国連事務総長として、そしてCTBTの寄託者として、私は核実験の法的禁止を成し遂げることを重要視し、歴史上最大規模のものも含め、456回もの核実験が行われてきたセミパラチンスク核実験場(カザフスタン)に自ら足を運びました。そして、核実験の被害者と面談し、核実験が社会や環境、経済に及ぼした永続的な被害をこの目で見てきました。」と語った。

潘事務総長はまた、「70年前にニューメキシコ州で最初の核実験が行われて以来、世界では2000回以上の核実験が繰り返されてきました。そしてこれらの実験によって、世界中で、手つかずの自然環境と地元の人々に大きな被害がもたらされました。」と語った。

潘事務総長は、「核実験による環境、健康、そして経済への打撃から二度と立ち直れなかった人々も多くいます。地下水の汚染、がん、白血病、放射性降下物 – これらは核実験による有毒な遺産の一部にすぎません。」と指摘したうえで、「過去の実験の犠牲者に敬意を表する最善の方法は、今後いかなる核実験も行わせないことです。」と訴えた。

CTBTは、核兵器の開発を量的、質的に制限するための法的拘束力を持つ検証可能な手段である。

ハラム氏はIPSの取材に対して、「米国は、ネバダやアラスカ、マーシャル諸島を含む太平洋地域、宇宙空間において、1000回以上の核実験を行ってきました。」と語った。

ネバダ核実験場で行われた実験は、風下の住民に対して大規模な汚染をもたらし、深刻な健康被害を生じさせた。

"Daigo Fukuryū Maru" by carpkazu - Licensed under public domain via WikimediaCommons
“Daigo Fukuryū Maru” by carpkazu – Licensed under public domain via WikimediaCommons

米国が行った最大の核実験は15メガトンの「キャッスル・ブラボー」で、これによって日本の漁船「第五福竜丸」の乗組員全員が被爆(久保山無線長が半年後に死亡)し、マーシャル諸島も汚染された。

一方、ソ連が行ったこれまでで最大の核実験は、北極圏にあるノバヤゼムリャ島で60年代初頭に行われたもので、「ツァーリ・ボンバ」(爆弾の皇帝)として知られている。

60メガトンの同実験は、ネネツ人の神聖なる狩猟地を蒸発させ、世界中に放射性降下物をまき散らし、地震波によって数時間にわたり地球を鐘のように振動させたのである。

ハラム氏は、「ソ連は約800回の核実験を行ったが、その多くがセミパラチンスクで行われ、広範な放射性物質による汚染を引き起こし、地元の人々に壊滅的な被害をもたらしました。」と語った。

さらに、英国(そのほとんどがオーストラリアのマラリンガエミュフィールド)、フランス(アルジェリアと仏領ポリネシア)、中国(新疆ウィグル自治区)、インド(ラジャスタン州ポカラン)、パキスタン(バロチスタン)、北朝鮮によって核実験が行われ、フランス・中国・英国による核実験では地元住民や実験参加者の間で放射線由来の疾病に苦しみ死に至るものが相次いだ。

「核実験は、核軍拡競争と核拡散の屋台骨を成しています。従って、核実験の再開、或は(北朝鮮を含め)いずれかの国が新たな核実験を行うことになれば、決して望まない奈落へと世界を近づけることになるでしょう。」とハラム氏は語った。

「核兵器の拡散を止め、『核実験に反対する』規範を定着させるための最善の道は、核実験を違法化している包括的核実験禁止条約を発効させることです。」とハラム氏は訴えた。

ICAN
ICAN

他方、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、世界的なオンラインキャンペーンである「ATOM」(実験の禁止=Abolish Testing、我々の使命=Our Mission の頭文字をとったもの)を開始し、世界の指導者に対して核実験を完全に終了させるよう呼びかけている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan

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【オックスフォードIPS=ファルハン・ジャハンプール】

核不拡散条約(NPT)第6条は、非核保有国が核兵器取得を禁じられていることへの見返りの一環として、核保有国に核軍縮を義務づけている。NPTのこの条項とは別に、その義務を補強しているその他多くの決定が存在する。

しかし、核保有国は核不拡散を熱心に追求する一方で、NPTを初めとした国際規則の多くに違反してきた。

国際司法裁判所の1996年の勧告的意見は「厳格かつ実効的な国際管理のもとで、全面的な核軍縮に向けた交渉を誠実に行い、その交渉を完結させる義務がある」と述べている。核兵器国はこの意見を無視している。

The International Court of Justice in Session/ ICJ
The International Court of Justice in Session/ ICJ

核保有国、とりわけ米国とロシアは、自国の核兵器の近代化と多様化を進めることでNPTにさらに違反しつづけている。米国は、既存の核戦力の有効性をさらに延ばす新型核弾頭である「高信頼性代替核弾頭」を開発してきた。

米国、そしておそらくはロシアも、大規模な放射能汚染を引き起こすことなく、戦場において使用しうる、比較的低い爆発力を持った戦術核弾頭を開発している。バラク・オバマ大統領が核兵器を削減し究極的には廃絶すると誓っているにも関わらず、米国は、今後10年間で3480億ドルかけてB61-12」を開発するなど、新型の核兵器を開発している最中であることが明らかになってきている。

インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮は、核兵器国とはみなされていない。NPT第9条は「核兵器国」を、1967年1月1日以前に核装置を製造し実験した国と定義しているため、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮は核兵器国とはみなされないのだ。

これらすべての国々がNPTに違反しており、例えばインドに原子炉や先進核技術を提供する米国の約束など、核支援を行うことも条約違反だ。また、米国によるイスラエルやパキスタンに対する軍事協力も同じく条約違反である。

核兵器国には拡散の罪がある

イラクの軍縮について規定し、法的拘束力もある国連安保理決議687号第14節は、中東に非大量破壊兵器(WMD)地帯を創設することについて述べている。

また、クウェートからサダム・フセインを追放する米国主導の有志連合に加わった国々の間では、イラクからWMDを一掃すれば、次はイスラエルが核兵器を廃棄するよう求められるとの明確な了解が存在した。イスラエル、ひいては同節を履行していない国々は、法的拘束力のある同決議に違反していることになる。実際、米国とイスラエルは、中東で核兵器を保有しているとみなされている。

"Iraq-dusk". Licensed under public domain via Wikimedia Commons
“Iraq-dusk”. Licensed under public domain via Wikimedia Commons

アパルトヘイト時代、イスラエルと南アフリカ共和国は核兵器製造で協力しており、イスラエルが主導する立場だった。2010年、両国高官が1975年に行った会合の「機密」外交文書が見つかったと報じられた。これによると、南アフリカ共和国のP・W・ボータ国防相(当時)が、イスラエルのシモン・ペレス国防相(当時)に(ミサイルに搭載する)核弾頭の提供を要請し、イスラエルは「3種類のサイズ」の核弾頭を提供できると応じたという(結局、核弾頭そのものは提供されなかったが南アフリカ共和国はイスラエルが提供したトリチウムを元に核爆弾を製造した:IPSJ)。

この文書は、米国の研究者サーシャ・ポラコウ=スランスキー氏が、両国の親密な関係に関する研究を進める中で発見したものだ。イスラエル政府は、この文書が公開されないように努力してきた。1977年、南アフリカ共和国はイスラエルとの協定に署名し、少なくとも6発の核爆弾の製造が決まった。

1995年の核不拡散条約運用検討・延長会議は、「地域諸国による中東非核・非大量破壊兵器及び非運搬システム地帯の早期設立」を求めた。しかし国際社会は、イスラエルへの核放棄要求を怠ることで、この決議を無視してきた。実際、イスラエルと米国は、中東非核兵器地帯化に関するいかなる提案にも反対してきている。

2000年のNPT運用検討会議は、「インド、イスラエル、パキスタンに対して、速やかに、かつ無条件で、非核兵器国としてNPTに加盟するよう」求めている。加盟国はまた、条約の普遍性を達成するための「決然とした努力」をなすことに合意している。しかし2000年以来、インド・パキスタン・イスラエルに非核兵器国として加盟するよう促す取り組みはほぼなされていない。

イラン政府と、フランス、ドイツ、英国(EU-3)の外相が2003年に合意したテヘラン宣言では、イランが(国際原子力機関との)追加議定書に加盟し、2年以上はウラン濃縮を一時停止することに合意しただけではなく、中東全域で大量破壊兵器を廃棄することを呼び掛けている。

その際、英独仏の3外相は「3国はイランと協力して、国連の目的に従って、中東に非大量破壊兵器地帯を創設するなど、地域における安全と安定を促進してゆく。」と公約した。この宣言の署名から12年が経過するが、英独仏3か国と国際社会は、依然として中東非大量破壊兵器地帯の創設を実現していない。

冷戦期、北大西洋条約機構(NATO)は、ソ連軍が欧州各地の首都に近いことを理由に、核兵器の先制使用を排除していなかったが、この方針は冷戦終焉後も改定されていない。米国防総省が、イラン核施設破壊のために核兵器を搭載したバンカーバスター(RNEP)の使用を検討してきたとの信憑性の高い報告が繰り返されてきた。

人類は、過去2000年以上にわたって、「正義の戦い」の要件を定めようとしてきた。この数十年の間で、それら原則の一部は、法的拘束力のある国際協定や条約の中に反映されてきた。例えば、第一次世界大戦後に作られた国際連盟規約や、1928年のパリ不戦条約国連憲章などがそうだ。

Peace Gun/ UN Photo
Peace Gun/ UN Photo

いくつかの考え方がこれらすべての定義に共通している。例えば、いかなる軍事行動も①自衛に基づいていなければならない、②国際法に従っていなければならない、③均衡したものでなければならない、④最終手段でなければならない、⑤民間人や非戦闘員を標的としてはならない、などである。

その他の考え方には、次のようなものがある。つまり、①仲裁の強調、②紛争解決において最初に武力に訴えることの放棄、③集団的自衛の原則、などである。核兵器の使用がこうした要件といかにして両立するかを見出すのは困難である。しかし、核軍縮を求める声が国際的に高まっているにも関わらず、核保有国はNPTの規則を遵守して核兵器をなくすことを拒絶し続けている。

バラク・オバマ大統領は、2009年4月5日にプラハで行った初めての主要な外交政策演説において、核兵器を廃絶するという彼のビジョンについて次のように語った。「数千もの核兵器の存在は、冷戦時代の最も危険な遺物である。冷戦は過去のものとなった。しかし、これら何千もの兵器は消えていない。世界的な核戦争の脅威は低下したが、歴史の皮肉というべきか、核攻撃の危険性はむしろ高まった。」

さらにオバマ大統領はこう続けた。「そこで本日、私ははっきりと、信念を持って、アメリカは核兵器のない世界の平和と安全を追求することを誓約したい…。」

残念なことに、こうした素晴らしい意見は実行に移されていない。それどころか、全ての核保有国は自国の核戦力を強化し近代化する政策を推し進めている。こうした国々は、核兵器を開発していると疑いをかけた国を選択的に罰することには熱心であるが、核兵器を廃絶するという自国に課せられた義務については公約を果たしていない。(原文へ

* ファルハン・ジャハンプール氏は、イスファハン大学外国語学部の元教授・学部長で、ハーバード大学元上級研究員。オックスフォード大学ケロッグ校の一員で生涯教育学部の講師でもある。

翻訳=IPS Japan

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【イエテボリ(スウェーデン)IPS=ギュンナー・ウェストベル】

核兵器廃絶に関するキャンベラ委員会」には、かつて、英国の陸軍元帥や米国の元国防長官や将軍、フランスの元首相といった元政治家や軍人が委員として名を連ねていた。

委員会は1996年の報告書で、「核兵器が永久に保持され、しかも偶発的にせよ決定によるにせよ使用されることがないという主張には、なんの信憑性もない。唯一完全な防御法は、核兵器を廃絶し絶対に二度と作らないという保証を得ることしかない。」と述べている。

まさにこれが重要な点だ。核兵器は、その存在が許されているかぎり、いずれ使われることになる。世界の核兵器の1%以下が使用される「小規模」の核戦争であっても、人口10億人以上を死に至らしめる飢饉を引き起こしかねないのだ。

ブルース・ブレア大佐は、1970年代の一時期、大陸間核弾道ミサイルの発射管理官を務めていた人物である。ブレア大佐は、「私は核ミサイルの発射方法を知っており、発射に許可はいらなかった」と述べている。90年代に彼は、「無許可のまま核兵器が発射される可能性は本当にあるのか?」という問いに関する米上院の検討委員会のメンバーとなった。

この問いに対するブレア大佐の回答は「イエス」であり、そのリスクは決して小さくなかった。

今年の「ヒロシマ・デー」、すなわち8月6日に、スウェーデンの主要紙『アフトンブラーデット』は、現在は核兵器廃絶に向けた「グローバル・ゼロ」運動の代表を務めるブレア大佐のインタビューを掲載した。記者が「ブレアさん、核兵器がまた使用されることがあると思いますか?」と尋ねたところ、ブレア氏は暫く黙った後、「残念ながらそれは避けられないと思います。ツイッターのメッセージよりも短いデータ暗号があれば充分なのです。」と回答している。

ブレア氏の話を聞いて、許可されない核兵器発射あるいは核爆発を予防する目的を持った安全装置である「行動許可伝達システム」のことを思い出した。

ロバート・マクナマラ氏が60年代中旬に米国防長官であったとき、潜水艦からのミサイル発射を可能にするには、司令官が発射を許可する暗号を受け取らなくてはならないとする命令を発した。

しかし海軍は、たとえば司令部との交信が妨害されたケースなど、自らの判断で核を発射するのを妨げられることを嫌った。初期暗号の「00000000」がこうした理由から長年保持され、一般的に知られるようになった。しかしマクナマラ氏は、職を辞してからかなり長い間、このことを知らなかったという。

ある旧ソ連の海軍提督が私に、1980年ごろまで暗号なしで潜水艦から核ミサイルを発射できる状態にあったと話してくれたこともあった。

発射システムの制御システムについて論じられるとき、私たちは、後知恵的にではあるが、確かに「プランB」はあるということを知る。もし司令部との通信が途絶え、司令官が戦争状態にあると考えるとき、現場の判断で核ミサイルは発射されうるというものである。これがどう機能しているかについて私たちが知らされることはないが、「プランB」は存在するのである。

今日の状況はどうだろうか? 許可されない核ミサイルの発射は、果たして起こり得るだろうか? この問いに対するブレア大佐の回答は「イエス」である。すなわち、過ち、誤解、ハッカーの侵入、人的ミスなど依然として常にリスクが存在しているというのだ。

冷戦終結後、私たちは(核戦争勃発寸前の)「危機一髪」の事態が実際に起こっていたことを知った。キューバミサイル危機、とりわけ「残されたソ連の潜水艦」(ワシリー・アルキポフ中佐が核魚雷の発射を回避した事件)の問題が起こった。1983年9月には「ペトロフ事件」(スタニスラフ・ペトロフ中佐による核戦争回避事件)が起こった。さらに同年11月には、北大西洋条約機構(NATO)の演習「エイブル・アーチャー83」(ソ連がNATOの核ミサイル発射演習を本物の核攻撃の偽装と誤解した事件) という恐らくは最悪の危機(最悪だがほとんど知られていない)が起こった。当時ソ連の指導者はいつでもNATOからの攻撃がありうるとみなし、他方でNATOはソ連の妄想に気づいていなかったのである。

この他にも真相が明らかになっていない危険な事例が多く存在する。

数学者でリスク分析の専門家であるマーティン・ヘルマン氏は、40年に亘った冷戦期間中、重大な核戦争が起きるリスクは1年あたり1%もあったと推定している。これは合計すれば40%にのぼっていたということであり、人類は絶滅しないで済むほんの僅かの可能性しかもっていなかったということになる。私たちは実に幸運に恵まれていたのである。

ICAN
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おそらく、今日、リスクは低下しているのかもしれない。しかし、拡散のリスクがあり、核兵器研究にさらなる資金が割り当てられ、国際関係が緊張する中、リスクは再び上昇しているかもしれない。

核兵器が存在する限り、リスクは存在する。地球の全滅、あるいは確証破壊のリスクである。

核兵器と自分たち、どちらを取るか。両者は共存できない。どちらかがなくならねばならないのである。

核兵器の禁止が必要だ。そして、それは実現可能な課題である。(原文へ

翻訳=IPS Japan

*ギュンナー・ウェストベルク氏は、イエテボリ大学(スウェーデン)の医学教授で、2004~08年に核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の共同議長を務めた。

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