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カザフスタン、世界政策会議で多国間協力へのコミットメントを再確認

【アスタナThe Astana Times=サニヤ・サケノヴァ】

Kazakhstan celebrates peoples unity day. Cedit Silkway TV
Kazakhstan celebrates peoples unity day. Cedit Silkway TV

カザフスタンは独立以来、多方向的(マルチ・ベクトル)で実利的かつバランスの取れた外交政策を追求してきたと、同国のロマン・ヴァシレンコ外務副大臣が語った。彼は、12月13日から15日にアラブ首長国連邦のアブダビで開催された第17回世界政策会議(WPC)(フランス国際関係研究所(IFRI)主催)で、このように発言した。

フランスの著名な学者であり、IFRIの創設者かつ長年の会長であるティエリー・ド・モンブリアル氏は、カザフスタンの外交方針をマルチ・ベクトル外交の模範として評価した。同氏によれば、カザフスタンは外交政策のアプローチを洗練させただけでなく、中堅国家として地球規模の課題に積極的に取り組むようになっている。

Traditional Kazakh yurt – kiyiz ui. Photo credit: 365info.kz
Traditional Kazakh yurt – kiyiz ui. Photo credit: 365info.kz

その後のディスカッションで、ヴァシレンコ外務副大臣は、カザフスタンのバランスの取れた実利的な外交政策を説明するにあたり、同国の伝統的な円形の家屋「ユルト」を比喩として用いた。「伝統的なカザフの家には角がありません」と彼は述べ、「そのため、ボクシングリングのように一方の側につく、あるいは角を選ぶ必要性は私たちの国民性に反します。」と語った。

「私たち全員がとるべき唯一の立場は、競争ではなく協力、孤立ではなく関与、無法ではなく法の支配、相互利益とウィンウィンの結果の概念であり、相互排除やゼロサムゲームではありません。それが私たちが過去30年間にわたって追求してきたアプローチです。」と語った。

Photo: Kazakh President Kassym-Jomart Tokayev at the General Debate of the 77th session of the UN General Assembly stressing the need to abide by the UN Charter. Source: The Astana Times.
Photo: Kazakh President Kassym-Jomart Tokayev at the General Debate of the 77th session of the UN General Assembly stressing the need to abide by the UN Charter. Source: The Astana Times.

国際的な安全保障危機の中での中堅国家の役割について言及しながら、ヴァシレンコ外務副大臣は、カザフスタンが安全保障と開発の課題に取り組む唯一の国際機関である国連を強化することへのコミットメントを再確認した。また、カシムジョマルト・トカエフ大統領が国連安全保障理事会の改革を提唱し、それを現在の世界的な現実を反映し、より代表性のあるものにする必要性を強調した。

「私たちが中堅国家としてできること——そして私たちはこの立場を非常に真剣に受け止めています——は、志を同じくする国々と協力し、そのような国々のネットワークで集団的な解決策を模索し、世界の超大国に人類全体の利益を優先し、気候変動、不平等、貧困などの重要な地球規模の問題に緊急に取り組むよう説得することです」とヴァシレンコ外務副大臣は語った。

ウクライナ紛争に対するカザフスタンの立場についてのモデレーターの質問に応え、ヴァシレンコ外務副大臣は「トカエフ大統領は一貫して、この問題の解決は外交によってのみ達成できると強調しています。私たちは紛争の迅速な終結と交渉の場での解決を提唱しています。カザフスタンはこの方向での努力を全面的に支援する用意があります。」と語った。

Photo credit: Kazakh Foreign Ministry.
Photo credit: Kazakh Foreign Ministry.

カザフスタンの中立的立場とすべての当事者との建設的な関係を強調し、ヴァシレンコ外務副大臣は、「私たちは、必要に応じて中立的なホスト国としての役割を果たす準備ができており、ロシア、ウクライナ、西側諸国との良好で前向きな関係を維持しています。」と付け加えました。(原文へ

INPS Japan/The Astana Times

この記事は、The Astana Timesの許可を得て掲載しています。

Link to the original article on the Astana Times:https://astanatimes.com/2024/12/kazakhstan-reiterates-commitment-to-multilateral-cooperation-at-world-policy-conference/

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アフガン女性たち、自由を得るまでタリバンの圧政に抵抗すると誓う

この記事の著者はアフガニスタン在住の女性ジャーナリストで、タリバンが政権を掌握する前にフィンランドの支援を受けて訓練を受けた。安全上の理由から、彼女の身元は明かされていない。

【カブールIPS=在住女性記者】

タリバンがアフガニスタンを再び掌握してから3年、女性たちは依然として抑圧的な法律と組織的な疎外に直面している。

タリバンは厳しい規則を課している。女性は全身を覆う服装を義務付けられ、公の場で声を上げることや、互いにコーランを朗読することさえ禁じられている。また、女性が家の外で働いたり教育を受けたりすることも長い間禁止されている。

にもかかわらず、アフガン女性たちは抵抗を続ける決意をしている。「私たちは自由を得るまで抗議と闘争を続けます。」と、アフガン女性運動の一員であるファルザナさんは毅然と語った。

過去20年間でアフガニスタンの女性たちは高等教育や専門技術を習得したが、現在ではタリバンからの脅威が一層深刻化している。タリバンの支配下で突然、女性たちは疎外された。「最初の2年間、私たちは権利を求めて街頭に出ました。」とファルザナさんは語った。「残念ながら、タリバンは抗議する女性たちを逮捕し、投獄し、処罰しましたが、これらの女性を守る者は誰もいませんでした。」

女性たちはこの状況に耐えきれず、権利を求めて街頭に立ったが、最近ではタリバンの「勧善懲悪省」が導入した新たな厳しい法律により、女性たちの声も禁止され、街頭での抗議活動は見られなくなりました。沈黙はアフガン女性たちにも広がっているようです。

釈放後の女性囚人たちへのインタビューによれば、彼女たちは裸で鞭打たれ、強姦され、家族が謎の死を遂げることもあったという。「私たちは秘密裏に抗議グループで活動しています。」とファルザナさんは説明した。「私たちは自由に街を歩くことが許されていません。ここしばらくは自宅から個別にメディアを通じて抗議を続けています。タリバンは私たちの声を封じることはできません。私たちは自由を得るまで抗議と闘争を続けます。」

別の女性抗議者であるマラライさんは、「タリバンは仮面をつけたスパイをさまざまな名目で私たちの家に送り込みます。彼らは通常の政府業務の一環だと称しますが、カメラやビデオを持ち込み、私たちを特定し逮捕するのです。」と語った。

公開の場では沈黙を強いられているが、アフガン女性たちは秘密裏に抵抗を続けている。

マラライさんはさらに、「タリバンは高い建物の上にカメラを設置しました。一見すると監視カメラのようですが、その実態は女性たちを監視するためのものです。最近、何人もの女性が突然逮捕され投獄されています。」と語った。

Though silenced in public, Afghan women continue their resistance in secret. Credit: Learning Together

「タリバンは私たちを恐れています。私たちが人々や女性、少数民族への抑圧を暴露するからです。」とマラライさんは語り、「タリバンは女性に対し圧力と厳しい規則を課しています。女性はマハラム(男性の家族)なしでは外出できません。私たちが数人で一緒に街にいると尋問されます。彼らは私たちの携帯電話をチェックし、罰を与えます。」と付け加えた。

「タリバンは私たちを完全に締め付けています。国連や他国が見ている中で、彼らは私たちの人権、少数民族の権利、そして私たちの家族の権利を平然と侵害しています。」  「私たち女性は、世界的に知られたテロリスト集団の圧力や抑圧に屈せず、パン・仕事・自由のスローガンを実行し続けます。」

別の女性抗議者であるサベラさんは、タリバンが用いる恐怖政治の戦術について、「タリバンの諜報員は女性たちを逮捕しています。電話やデモで撮影した写真を通じて女性抗議者を特定し、家々を捜索して逮捕します。また、彼らは人々の身分証明書やパスポートを強制的に集め、女性抗議者を特定しています。」

「私たちは権利を求めて抗議しましたが、多くの独身女性や既婚女性が現在タリバンに拘束され、厳しい処罰を受けていますが、彼女たちの状況を追う者はいません。」「現在、多くの課題のため、私たちは顔を隠して秘密の場所で抗議活動を行い、その後すぐに別の国へ逃れなければなりません。」

タリバンは都市から離れた遠隔地ではさらに多くの残虐行為と抑圧を行っています。人々の年収の2倍の税を強制的に課し、指示に従わない場合は家に押し入り、娘たちを連れ去ります。妻や娘を強姦し、彼らを住居地から強制移動させることさえあります。

「私たちはこの抑圧にこれ以上耐えることができません。戦い続けます。」とサベラさんは語った。

インタビューを受けた人々は、アフガニスタンの女性たちがタリバンの暴政と厳しい法律に勇敢に立ち向かっているものの、支援が全くないと述べている。「貧困と失業にもかかわらず、私たちは自費でこの闘いを続けています。」とサベラさんは語った。

女性たちは国連や人権団体に対し、タリバン政権を支持せず、認めないよう訴えている。「この暗闇の底から私たちの声が世界に届かないことに非常に失望しています。」とサベラさんは語った。

欧州連合(EU)は、タリバンが可決した法律が女性の言論の自由を制限し、事実上、女性の生活を家庭内に閉じ込めることに衝撃を受けている。「タリバンがアフガニスタン市民に対する義務と、同国の国際的義務を完全に遵守することが、認定の条件となるだろう。」と欧州理事会のプレスリリースは述べている。

EUは引き続き、アフガニスタンの女性や少女、そしてタリバンによって脅威にさらされているすべての人々を支援する。一方、タリバンは国連が支援する国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の活動とも協力することを拒否している。(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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アサド政権の崩壊が示す中国の中東外交の限界

【ロンドンLodon Post=ローリー・チェン、ジェームズ・ポムフレット、アントニ・スロドコフスキー】

ちょうど1年前、中国はバッシャール・アル・アサド元大統領とその妻を同国への6日間の訪問で温かく迎え入れた。2011年に内戦が始まって以来、国際的に孤立していたアサドにとって、中国訪問は数少ない休息の機会となった。アサド夫妻がアジア大会に出席した際、習近平国家主席は「外部からの干渉に反対するシリア」を支持し、同国の再建を支援すると誓い、妻のアスマは中国メディアで称賛された。

しかし、わずか1年前に習主席が明確に支持した独裁者の突然の失脚は、中国の中東外交への打撃となり、この地域での戦略の限界を露呈したと専門家は指摘する。

反政府勢力の連合軍は日曜日、電撃的な攻勢でシリアの首都ダマスカスを掌握し、アサド政権を打倒、アサド家による50年にわたる支配を終結させた。

「中国がこの地域で政治的結果を形成する能力について、過大評価されている部分が多い」と、アトランティック・カウンシルのシニアフェローであるジョナサン・フルトン氏は語った。

アサド政権の崩壊は、アサドを支持していた主要な後援国であるイランやロシアのアラブ世界での影響力を低下させたと見られるが、それは中国の世界的野心にも打撃を与えたとフルトン氏は述べた。「中国が国際的に行ってきた多くの活動は、これらの国々との連携に依存している。中東における最大のパートナーを支えられなかったことは、同地域以外で何かを成し遂げる能力に関して多くを物語っている。」と指摘した。

焦点となる地域問題への対応

Map of Middle East
Map of Middle East

2023年、中国が長年のライバルであるサウジアラビアとイランの間で合意を仲介した際、中国メディアは長らくアメリカが支配していた中東での影響力の高まりを称賛した。

中国のトップ外交官である王毅氏は、同国が国際的な「ホットスポット問題」において建設的な役割を果たすと述べた。

中国は今年初めにもファタハハマス、その他のパレスチナ派閥の間で停戦を仲介し、ガザでの停戦を繰り返し呼びかけている。しかし、中東の指導者たちを北京に招き、中東特使である翟隽(チャイ・ジュン)氏が数回にわたる「シャトル外交」を行ったものの、パレスチナ人による統一政府は形成されず、ガザでの紛争も続いている。

「アサドの突然の失脚は、中国政府が望むシナリオではない」と、上海外国語大学の中東問題学者である范紅達(ファン・ホンダ)氏は語った。「中国は、安定し独立した中東を望んでおり、混乱や親米的な傾向は中国の利益に合致しない」と述べた。

中国外務省はアサド政権の崩壊に対し控えめな反応を示し、中国人の安全に焦点を当て、シリアの安定回復に向けた「政治的解決」を早急に求めた。外務省報道官の毛寧(マオ・ニン)氏は月曜日、新政府との関与の可能性を示唆しながら「中国とシリアの友好関係はすべてのシリア国民に向けたものだ」と述べた。

中国の専門家や外交官は、シリアの新政府を承認する前に慎重に様子を見るだろうと述べている。中国はその専門知識や財政力を活用して再建を支援する可能性があるが、近年、国外での財務リスクを最小限に抑えようとしているため、その取り組みは限定的なものになるとみられている。

2022年にシリアは中国の主要な一帯一路構想に加わったが、制裁の影響もあり、中国企業による大規模な投資はこれまで行われていない。

「中国はこの地域で西側を経済的パートナーや外交、軍事力として根本的に置き換えることはできない」と、中東と中国の関係に詳しいフローニンゲン大学の助教授、ビル・フィゲロア氏は語った。

「2024年の中国は、2013年から14年の一帯一路構想が始まった頃の中国ほどの財力を持っていない」とフィゲロア氏は述べ、「中国が全体としてリスクを減らし、安全な投資に方向転換する再評価が明らかに進んでいる」と付け加えた。(原文へ

INPS Japan/London Post

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ノーベル平和賞フォーラムが核のリスクと解決策を議論

【国連/オスロIPS=ナウリーン・ホサイン

核兵器がもたらす存続の危機は、過去約80年の間に戦争で使用されていないものの、依然として極めて深刻な問題であり続けている。一部の国が新たな核兵器の取得や既存の核弾頭の近代化を追求する中、核不拡散や使用を禁止する条約の弱体化により、新たな核軍拡競争のリスクが高まると、核政治や核軍縮の分野で世界的に声を上げる専門家たちは警告している。|アラビア語ノルウェー語

今年、ノルウェーのオスロで開催されたノーベル平和賞フォーラムでは、世界の核政策における第一人者や3人のノーベル賞受賞者を含む専門家たちが集まり、核兵器の増加リスクとその緩和に必要な対策について議論した。このフォーラム「NUKES: How to Counter the Threat(核兵器:脅威にどう対処するか)」は、12月11日にオスロ大学のアウラホールにおいて、ノーベル研究所が主催し、オスロ市、国際フォーラム for Understanding、創価学会インタナショナル(SGI)の協力を得て開催された。

ノーベル研究所は、核兵器の禁止を訴える活動に貢献した個人や団体に、これまでに13回ノーベル平和賞を授与している。

その最新の受賞者が、日本の草の根組織「日本被団協」(日本原水爆被害者団体協議会)である。同団体は12月10日にノーベル平和賞を受賞した。受賞式では代表委員の一人田中熙巳氏は、原爆被害者の証言に耳を傾け、核兵器の非人道性を感性で受け止めるよう世界に呼びかけた。

The Nobel Prize

フォーラムは、1945年8月の広島と長崎への原爆投下を生き延びた被爆者2人の証言から始まった。

広島で8歳だった小倉桂子さんは、原爆投下後の惨状の中で、人々が放射線被害によって苦しんでいると知らないまま次々と亡くなる姿を目の当たりにした、自身のトラウマについて語った。小倉さんや他の被爆者たちは、後年、自らの体験や核兵器の直接的な代償について公に語るようになった。

「私が死ぬ前に地球から核兵器がなくなるのを見たい。」と小倉さんは語り、「核兵器の数を減らすという考え方自体が無意味です。核兵器が一つでもあれば、それはこの世界の破滅を意味します。」と訴えた。

長崎で2歳だった朝長万左男さんさんは、当時の記憶は母親の話に基づいていると語った。朝長さんは父親の足跡をたどり、医師となり、長崎大学で被爆者医療を担当し、核兵器の放射線被害に関する医学研究を行った。その研究で、被爆者の体内にある幹細胞が放射線の影響で遺伝的異常を抱えていることを突き止めた。これにより、白血病や癌にかかりやすくなることが分かった。また、幹細胞は世代を超えて生存し、累積する遺伝的エラーが生涯のうちにランダムに発生し得ると指摘した。被爆者は、おそらく前がん細胞を体内に抱えている可能性があると朝長さんは仮説を立てた。

IAEA
IAEA

過去10年の間に、核保有国による核弾頭の削減努力が見られた。しかし近年では、態度が逆方向に転じ始めている。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、かつて尊重されていた軍事核ドクトリンが、いまや疑問視され、あるいは踏み越えられていると述べた。「核兵器使用の議論が通常化している。」とグロッシ氏は警告し、これらのドクトリンが再検討され、核兵器の保有や使用を容認する方向に向かっていると指摘した。

こうした時代において、グロッシ事務局長は、世界の指導者たちには核軍縮に向けた重要な一歩を踏み出す「不可逆的な責任」があると強調した。「私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、この決定をトップレベルで行う必要性を、改めて思い出すべき時期に来ているのです。」とグロッシ事務局長は語った。「特に現在のように分断された世界において、核兵器問題に取り組むための世界の指導者たちの決意が重要であることを、私たちは望んでいます。」

しかし、核軍縮の議論において、各国は核兵器に対する考え方で分裂しているようだ。また、専門家たちは、主要な関係者による核兵器についてのより「気軽な」議論が、核条約を軽視していることを示しているとも警告している。核不拡散条約(NPT)には191の加盟国があるが、批評家たちは、特に主要な関係国の間で、条約が本来意図されているほど厳格には履行されていないと指摘している。

インド・ニューデリーにある空軍研究センターのマンプリート・セティ氏は、核活動のリスクに関するパネルディスカッションの中で、核保有国が核戦争のリスクに対して異なる認識を持っていることについて考察した。

「1962年のキューバ危機の時のような共通のリスク意識は、現在存在していません。」とセティ氏は語った。「各国がリスクをそれぞれ異なる形で捉えています。」さらにセティ氏は、核兵器や核拡散に関する議論の中で使用される言葉からも明らかなように、各国が「核の枠組み」―すなわち核配備の限界―を押し広げている、と指摘した。

核戦争の脅威は、技術の進歩や、人工知能(AI)などの新興技術の影響を考慮するとさらに高まる。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の大量破壊兵器プログラムのディレクターであるウィルフレッド・ワン氏は、AIや自動化といった破壊的技術が「核兵器の脆弱性をさらに高める」だろうと指摘した。また、AIに関する未知の要素が核兵器に「不安定性や予測不可能性のオーラ」をもたらすとも述べてた。ワン氏は「リスクを完全に排除する唯一の方法は…核兵器を廃絶することだ。」と語った。

では、現代において核兵器のリスクを軽減するための措置は何か。一つの可能な方法として、核保有国と非核保有国の間での対話が挙げられる。非核保有国は、核保有国に対して活動の停止と削減への取り組みを求めることができる。カーネギー国際平和財団のシニアフェローであるトン・ジャオ氏は、多くの国が核兵器禁止条約(TPNW)の締約国でもあるグローバルサウスが、こうした要求を行う立場にあると語った。

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の事務局長であるメリッサ・パーク氏は、核保有国を含むすべての国が核兵器禁止条約(TPNW)に署名することが前進の一歩になると語った。国連は最近、現代における核戦争の影響を研究する新たな調査を承認した。この調査は、より包括的で、21世紀における核戦争の理解を更新するものとなるだろう。

Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN
Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN

「新しい国連の調査では、2022年の『ネイチャー・フード・ジャーナル』で発表された最新の科学的証拠などが取り上げられます。それによると、限定的な核戦争であっても、何百万人もの人々が即座に死亡するだけでなく、地球規模の気候変動を引き起こし、大量の煤が成層圏に到達して地球を循環し、日光を遮断し、農業の崩壊を招き、核の冬によって20億人以上が飢餓で死亡する可能性があるとされています。」とパーク氏は語った。

「私は、この新しい調査が、被爆者の方々が私たちに伝え続け、警告してきたことを確認するだろうと期待しています。それは、核のリスクが現実であり、差し迫ったものであり、非常に深刻であるということです。これに立ち向かうことは、もはや選択ではなく必要性の問題です。そして必要な行動は、核兵器を使用しないことだけではなく、全面的な核軍縮です。なぜなら、それが核兵器という存在自体の脅威を排除する唯一の方法だからです。」とパーク氏は語った。「核保有国に対して核不拡散と軍縮に向けた行動を促すには、一致団結した集団的な努力が必要です。その努力は、個人レベルから始めることができます。」

小倉氏は、世界の指導者から次世代の若者まで、核兵器を禁止することは世界全体の責任であると語った。その実現には、被爆者や核の降下物や核実験の生存者たちの経験を共有し、決して忘れないことが重要だ。彼女は希望を込めてこう語った。「私たちは一滴の水ではない。水はいずれ大きな海となり、すべての大陸をつなげていきましょう。私たちなら核廃絶がいつか達成できると信じています。」(原文へ

This article is brought to you by IPS NORAM, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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イスラム過激主義とテロリズムは、欧州における自由と民主主義への大きな脅威

【ウィーンINPS Japan=オーロラ・ワイス】

2030年には、欧州に住むイスラム教徒の数が6000万人に達すると予測されている。ピュー研究所によると、イスラム教徒が総人口の10%以上を占めると予測される欧州の国は以下の10か国である:コソボ(92.5%)、アルバニア(83.2%)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(42.7%)、北マケドニア(40.3%)、モンテネグロ(21.5%)、ブルガリア(15.7%)、ロシア(14.4%)、ジョージア(11.5%)、フランス(10.3%)、ベルギー(10.2%)。現在、ベルギー、フランス、ドイツ、スウェーデンを含む欧州でのイスラム化の進行を目の当たりにしている。

かつて政治的イスラムはビザンチン帝国を完全にイスラム化した。中東、トルコ、北アフリカはかつてキリスト教地域であり、アフガニスタンは仏教徒、パキスタンはヒンドゥー教徒、イランはゾロアスター教徒の地だった。しかし一方でポスト・イスラムの国(イスラム教徒の国から他の宗教が大勢を占めるようになった国)は存在しない。ピュー研究所の推計によれば、2015年時点で世界のイスラム教徒人口は18億人、つまり世界人口の約24%を占めており、現在キリスト教に次ぐ世界第2の宗教だが、最も急速に成長している主要宗教である。この人口増加の傾向が続けば、今世紀末にはイスラム教徒の数がキリスト教徒を上回ると予測されている。

フランスの若者イスラム教徒の57%がシャリーア法を国家憲法よりも上位と考える

しかしながら、イスラム教徒のコミュニティは分断されており、一部は過激主義や暴力を追求する一方で、他の一部はそれに対抗している。穏健派のイスラム教徒グループは、イスラム過激主義やテロリズム、ジハーディズム、過激なイスラム主義などの暴力を非難している。

Protest against Sharia in the United Kingdom (2014) By See Li from London, UK – 2014-04-28 Protest against the Law Society’s Sharia, CC BY 2.0
Protest against Sharia in the United Kingdom (2014) By See Li from London, UK – 2014-04-28 Protest against the Law Society’s Sharia, CC BY 2.0

欧州に住む多くのイスラム教徒は、主に都市郊外の閉鎖的なコミュニティで暮らしており、これらの地域は事実上、国家の法律の適用を受けていない。これらのコミュニティではシャリーア法が適用されており、住民はイスラム税を支払っている。フランスの公的世論調査によると、フランスの若者イスラム教徒の57%がシャリーア法を国家憲法や国法よりも上位にあると考えている。

シャリーア法はイスラム教の宗教法であり、コーランやその他の教典に基づいている。その最も過激な形態では、死刑、石打ち、手足の切断、女性の権利の制限を規定している。シャリーア法は政治的イスラムと密接に関連しており、イスラム教の教義文書の51%が政治に関する内容だ。この政治の目標は、すべての人々をムハンマドとアッラーに服従させることにある。

過去1400年以上にわたり、ムハンマドとアッラーへの服従は多くの文化をイスラム化へと変えてきた。現在、政治的イスラムの教義や戦術を理解することで、その拡大を防ぎ、暴力や人間の苦しみを回避するための手助けが可能だ。欧州における世論調査の結果から、多くの専門家は、教育制度の世俗化に全力を注ぐべきだと考えている。これは、市民の発展と解放のための条件を整えるためだ。

ボスニア・ヘルツェゴビナ – イスラム教義を持つ未来のEU加盟国

Location of Bosnia and Herzegovina in Europe, By Own work, CC BY 3.0,

ボスニア・ヘルツェゴビナでは、イスラム教徒が人口の約40%を占めており、その特異な権力構造ゆえに共和国の性格を定義してきた。イランはまた、同国政府の世界観を支持するムスリム指導者ネットワークを強化してきた。欧州におけるイランのシステムの中心には、ボスニア・ヘルツェゴビナの初代大統領であるアリヤ・イゼトベゴヴィッチ氏がいた。彼は「イスラム信仰と非イスラム信仰および非イスラム機関との間に平和や共存はあり得ない」と述べた1970年の「イスラム宣言」を出版し、その世界観を明確にした。

イゼトベゴビッチ氏は、イスラム教徒が道徳的および数的に十分に強くなり次第、非イスラム的権力を破壊するだけでなく、新しいイスラム的権力を構築する必要があると主張した。イランでアヤトラ・ホメイニ師がイスラム革命を成功させたのち、彼は「イスラム宣言」を実現するための呼びかけを再開し、イスラム主義政治運動を組織し始めた。その後数年で、彼は国家転覆の罪で投獄された。

Alija Izetbegovic, Wikimedia Commons

後に、欧州でイスラム共和国を設立するという目標を追求するため、イゼトベゴビッチ氏は1991年夏にリビアを訪れ、財政的および政治的支援を求めた。ボスニア・ヘルツェゴビナでの軍事情勢の変化、特にサラエボ包囲の激化と、イスラム教徒と地元のクロアチア軍との間の協力の断続的な状況の中で、1992年春にはムスリム部隊がいくつかのイスラム主義組織の「志願者」によって強化された。彼らはイランのジハードへの呼びかけに応じてボスニア・ヘルツェゴビナに到着し、イスラムの名のもとに殉教を望んでいた。

彼らは、イラン、アフガニスタン、レバノン(ヒズボラ)、その他いくつかのアラブ諸国から訓練を受けた戦闘経験豊富な義勇兵で構成されていた。ボスニア軍のアミン・ポハラ将軍によれば、中東から180人のムジャヒディーンが8月中旬までに到着したと確認している。イランの情報筋によれは、その数が1000人を超えるともされている。彼らは戦うためだけでなく、一部は現在でもそこにとどまっている。

過激主義は、一部のイスラム宗教指導者によって広がり、これらの指導者はボスニア・ヘルツェゴビナでISISへのリクルート活動を主導していた。しかし、イスラム国の崩壊はバルカン地域のイスラム過激主義運動の終焉を意味しなかった。外国の専門家が書いているように、ボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)には、現地で生まれた独自のイスラム運動が存在しており、これは過去の指導者たちの生活や行動の結果として大きく影響を受けている。その中には、1990年代に数千人のイスラム過激派を歓迎し、イスラム諸国からの数十億ドルの資金援助を喜んで受け入れたアリヤ・イゼトベゴビッチも含まれる。これらの資金援助とイスラム宣教組織の支援は、欧州及びその他の地域に極端な形態のイスラムを広める目的で行われた。最近では、ボスニア・ヘルツェゴビナの連邦(FBiH)における反ユダヤ主義運動の展開や、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍(RBiH)のメンバーがハマスへの支援を申し出たことなどが注目された。

不透明な組織、第三世界救援機関(TWRA)

オーストリアの首都ウィーンは、テロ資金や武器密輸の中心地となっている。
ウィーンに拠点を置く第三世界救援機関(TWRA)の文書や銀行口座を調査した結果、オーストリアの捜査官は、1996年に発行された『ワシントン・ポスト』のジョン・ポムフレットの記事によると、イスラム教国や過激派イスラム運動からボスニアに流れた3億5000万ドルを追跡した。この資金の少なくとも半分が違法な武器購入に使用され、ボスニア政府軍に密輸されたと西側諜報機関は推定している。

TWRAは、スーダン出身の活動家ファティ・アル=ハッサナイン氏によって設立された。彼はNIF(国家イスラム戦線)のメンバーで、サラエボで医学を学んだ後、ボスニア・ムスリム民族主義者と繋がり、1987年にウィーンでTWRAを設立した。この組織はユーゴスラビアにおけるイスラム教徒少数派の権利を守るためのものだった。

1992年にボスニアで戦争が激化すると、彼はセルビア人に囲まれたイスラム教徒を支援した。特にアリヤ・イゼトベゴヴィッチ氏と彼の民主行動党(SDA)を武器で支援した。この資金はTWRAを通じてボスニアの戦闘員に支払われた。推定によれば、1992年から95年の間に、サウジアラビアの国際イスラム救済機構(IIRO)や他のイスラム主義NGOからの寄付によって集められた資金は約3億5000万ドルにのぼる。

このような活動は目立つこととなり、ボスニアで死亡したムジャヒディンの遺体からIIROの身分証明書が見つかるなどしている。テロリストの地下組織において、TWRAがボスニア政府への資金提供に利用されたとも考えられている。その中には、イスラム過激派の支援者として疑われている富豪のサウジアラビア出身者オサマ・ビンラディンも含まれていた。当時ビンラディンはスーダンを拠点にしていたが、その後アフガニスタンに移り、アメリカ軍への攻撃を呼びかける声明を発表した。

TikTok ジハード

Social networking services, By Wilgengebroed on Flickr, CC BY 2.0,

近年、欧州連合(EU)でのテロ攻撃の実行者が仮想空間で過激化していることが示されている。インターネットは過激派の見解を広め、メンバーをリクルートする主要な手段の一つとなっている。ソーシャルネットワークは、ターゲットとなる大規模な視聴者層にリクルートメッセージを送信し、プロパガンダを広めるためにテロ組織に簡単なアクセスを提供している。EUの2020年テロに関する報告書によれば、近年ではWhatsAppやTelegramのような暗号化メッセージアプリが、攻撃の調整や計画に大規模に利用されている。

仮想空間がイスラム過激派のリクルート活動に新たなトレンドを開いた一方で、いくつかの組織は学校、大学、宗教施設(モスクなど)、さらには刑務所を中心に新メンバーのリクルートに焦点を当てている。社会的なつながりを失った人々は、新たな信念を受け入れ、過激化したグループに加わる傾向が強い。

テロ攻撃が欧州の民主主義にとってどれほどの脅威となるかは、最近ウィーンで行われる予定だったテイラー・スウィフトのコンサートで多くの命を奪う計画が防がれたことからも明らかである。しかし、10月末にボスニア・ヘルツェゴビナの警察署に未成年の過激派が侵入し、警官1名を殺害、もう1名に重傷を負わせた事件では、命を救うことができなかった。この事件は、同国で過去15年間に起きた5度目のテロ攻撃でもある。

20233年10月7日にハマスがイスラエルに対してテロ攻撃を行い、その後イスラエルがガザ地区の民間人を殺害する形で報復を行ったことで、中東で始まった出来事は多くの人々を過激化させた。2019年にISISが敗北した後、完全に消えたと思われていた暴力を煽るネットワークが再び覚醒しているのを目撃している。しかし、このような過激運動が簡単に消えると考えるのは無謀だった。というのも、その後、EU加盟国で数十件のテロ攻撃が実行され、約60人が逮捕されており、その3分の2が13から18歳の若者だった。この新たな現象である「TikTokテロリスト」は、ソーシャルネットワークを通じて13歳、14歳、15歳の未成年をテロなどの重大犯罪の実行者として勧誘している。(原文へ

オーロラ・ワイス(Aurora Weiss)は、CSPII(国際政治イスラム研究センター)からエキスパート認定資格を取得している。

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中国の台湾に対する新たな戦術:名を語らぬ軍事演習

【London Post Reuter/ベン・ブランチャード、イーモウ・リー、アンジー・テオ】

中国が台湾に対して新たな戦術を展開している、と当局者や専門家は指摘している。それは、民主主義の島である台湾を自国の領土と主張する中国が、大規模な軍事演習を目立たせることなく実施し、軍事プレゼンスを常態化させるとともに、米国に対し中国がいつでも行動を起こせることを知らしめさせるというものだ。

今週、台湾は警戒態勢に入った。台湾によれば、過去30年間で最大規模の中国海軍の集結が台湾周辺や東シナ海、南シナ海で見られたからだ。

しかし、中国軍は金曜日まで何も発表せず、発言があった際も古代中国の軍略家、孫子の『兵法』の一節を引用した。これは、共産中国の建国者である毛沢東も愛読した著書である。

「水は一定の形を持たず、戦争もまた一定の条件を持たない」と中国国防省は述べ、この発言は軍事演習を行ったとも行わなかったとも取れる曖昧なものであった。

中国がこれまで台湾周辺で軍事演習を行う際、大々的な宣伝を伴うのが常だったことを考えると、今回の沈黙は異例である。

台湾の安全保障高官は今週、中国の活動を「名前を明かせない演習」と表現した。

10月に行われた中国の「剣合同-2024B(Joint Sword-2024B)」軍事演習では、台湾の頼清徳(らい・せいとく)総統を批判する軍や国営メディアのグラフィックや動画が大量に流された。頼総統は中国から「分裂主義者」と非難されている人物である。あるアニメーションでは、頼総統を悪魔のような尖った耳を持つ姿に風刺して描いた。

頼総統は、中国による台湾への主権主張を否定し、台湾の将来を決めるのは台湾の人々だけだと主張している。

安全保障筋は、頼総統が今月、ハワイや米国領グアムを経由して太平洋地域を訪問するのに合わせて、中国が新たな演習を開始するのではないかと予想していた。中国は台湾指導者によるいかなる外交活動にも反対している。

「私はこれが『中期段階』の常態化の始まりだと確信しています。」と、台湾の与党・民主進歩党(DPP)の立法委員であり、議会の外交および防衛委員会に所属する陳冠廷(チェン・グアンティン)氏はロイター通信に語った。「近隣諸国は適切に対応しないと、自分たちが次の標的になる可能性があることを認識しなければならない。」

米国と日本は、台湾にとって最も重要な安全保障パートナーであるが、中国の軍事行動の規模を確認しておらず、懸念を表明するにとどまっている。台湾は、木曜日の夜遅くに緊急対応センターを閉鎖することで、活動が収束したことを示唆した。

台湾が懸念していることの一つは、中国の演習が突然、実際の攻撃に転じる可能性である。台湾の情報機関の高官は今週、中国が沈黙を守ることで台湾を混乱させようとしていると述べた。

「演習を事前に発表しないことで、我々の警戒を弱め、台湾周辺に現れるたびに皆を不意打ちにしたいのです。」と、防衛省の情報将校である謝志生(シエ・ジーシェン)氏は記者団に語った。

「第一列島線の支配」

専門家によれば、中国の行動はほとんど公にされないまま実施され、その後曖昧な声明を発表することで混乱を招こうとしている。「ここで変わったのは、演習の規模と、中国が関与したことについての明確さが欠けている点です」と、シンガポールのS.ラジャラトナム国際研究院のシニアフェローであり、元アメリカ国防総省職員のドリュー・トンプソン氏は語った。「これにより、中国の意図が不確実であることがさらに浮き彫りになっています。」

過去5年間、中国はほぼ毎日、軍艦や軍用機を台湾周辺の海域や空域に送り込んでおり、台湾当局はこれを中国が軍事的存在を「常態化」しようとする漸進的な試みと見なしている。

台湾の国防部は、今回の海軍展開が第一列島線全体に及んだと発表した。この列島線は日本から台湾、フィリピン、ボルネオまでを結び、中国の沿岸海域を囲む形になっている。この列島線が中国に支配されれば、紛争時に米軍が台湾を支援することが阻止される可能性がある。

「一方で台湾への不満を示し、他方で米国やその同盟国に軍事力を誇示し、第一列島線を支配する能力を示しているのです。」と、台湾の国家防衛安全研究院の研究員である蘇紫雲(スー・ツーユン)氏は指摘した。

地域安全保障の外交官は、事前に何の発表もないことが、台湾周辺での戦争シミュレーションの常態化を示していると語った。「中国は、第一列島線への介入を防止または遅延させることを台湾周辺の支配よりも重視しているようです。」「いずれ中国は必要な演習をすべて完了し、台湾への侵略中に発生しうるあらゆる事態に対処する自信を持つようになるだろう。」と、この外交官は語った。(原文へ

London Post

Source:https://www.reuters.com/world/asia-pacific/chinas-new-tactic-against-taiwan-drills-that-dare-not-speak-their-name-2024-12-13/

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水中の生命:アフリカにおける海洋生態系の保護と持続可能な漁業の推進

【ケープタウン、南アフリカLondon Post=スーザン・ノヴェラ】

アフリカには広大な海岸線、内陸湖、河川などの豊富な水資源がある。これらの水域には、多様な海洋および淡水生物が生息しており、何百万人もの人々にとって食料、生活、経済成長の重要な源となっている。しかし、アフリカの海洋および淡水生態系は、過剰漁業、汚染、気候変動といったますます深刻になる脅威に直面している。

これらの脅威は生物多様性や、それに依存する地域社会を危険に晒している。この自然の富を守るため、アフリカ各国は海洋生態系の保護と持続可能な漁業の推進に向けた取り組みを強化している。

本記事では、南アフリカ共和国(南ア)、コンゴ民主共和国、ウガンダ、コンゴ共和国(ブラザビル)など、いくつかの国の取り組みを例に挙げて紹介する。一部の取り組みは地域的な性質を持つものもある。まずは、大陸で重要な役割を果たしている南アから始める。

南ア:海洋保護活動のリーダー

Map of South Africa, Wikimedia Commons.

南アは、二つの海にまたがる3,000キロの海岸線を有し、海洋保護活動の大陸的リーダーとなっている。同国の海洋生態系には、ホホジロザメ、アフリカペンギン、ザトウクジラといった象徴的な種が生息しており、観光客や研究者を引き寄せている。

これらの生態系を保護するため、南アは41の海洋保護区(MPA)を設立し、自国の排他的経済水域(EEZ)の14%以上をカバーしている。その一つが、ユネスコ世界遺産にも登録されているイシマンガリソ湿地公園である。この公園は、サンゴ礁、マングローブ、海草床などの重要な生息地を提供し、海洋生物の保護に貢献している。これらの地域では、漁業、採掘、観光が規制されており、生物多様性の保護と資源の持続可能な利用を両立している。

また、南アは「総漁獲可能量(TAC)」システムを導入して過剰漁業を抑制している。この制度では、ヘイクやイワシなどの魚種について年間漁獲量が設定されている。さらに、沿岸地域社会が漁業を持続可能に管理し、生計を向上させることを目的とした「小規模漁業政策」などの地域ベースの取り組みも進めている。このような努力は、以下のウガンダの事例とも共通する点がある。

ウガンダ:内陸水資源の保護

ビクトリア湖 public domain.

内陸国であるウガンダは、アフリカ最大の淡水湖であるビクトリア湖を含む広大な淡水システムを所有しており、経済や食料安全保障に重要な役割を果たしている。しかし、違法漁具の使用や過剰漁業などの持続不可能な漁業慣行が、ナイルパーチやティラピアの漁獲量を減少させている。

これに対し、ウガンダ政府はビクトリア湖での漁業活動を規制する取り組みを強化している。違法、未報告、無規制(IUU)漁業と闘うため、パトロールや地域社会への啓発キャンペーンを実施している。これらの努力により、魚資源の回復を目指すと同時に、地域の漁師が生計を維持できるようにしている。

さらに、ウガンダでは養殖業が従来の漁業の代替手段として推進されている。政府の奨励策や民間セクターの投資による養殖の発展は、地方のコミュニティに新たな機会を提供するとともに、天然の魚資源への圧力を軽減している。同様の課題に直面している赤道直下のコンゴ共和国も、このような取り組みを進めている。

コンゴ共和国(ブラザビル):沿岸および海洋生態系の保護

大西洋に面したコンゴ共和国には、マングローブや海草床といった重要な海洋生息地がある。これらは魚類の育成場として機能し、海岸侵食から沿岸を保護している。しかし、工業活動、汚染、違法漁業がこれらの生態系を脅かしている。

African Continent/ Wikimedia Commons
African Continent/ Wikimedia Commons

コンゴ政府は、このような課題に対応するために重要な措置を講じている。例えば、陸上と海洋の保護を兼ね備えたコンコアティ・ドウリ国立公園の設立である。この公園では、ウミガメやジュゴンといった絶滅危惧種の保護を行う一方で、地域社会の持続可能な漁業を支援している。

また、コンゴは中央アフリカ漁業機構(COREP)といった地域イニシアチブに参加しており、ギニア湾での海洋資源管理や違法漁業対策において協力を進めている。

コンゴ民主共和国(DRC):内陸漁業の管理

同様に、広大な河川や湖沼ネットワーク(コンゴ川を含む)を有するコンゴ民主共和国(DRC)は、世界で最も生物多様性の高い水界生態系を誇っている。これらの水域は、特に農村部での食料安全保障と生計にとって極めて重要である。

しかし、過剰漁業や生息地の破壊といった持続不可能な慣行がこれらの生態系の健全性を脅かしている。この課題に対処するため、DRC政府は重要な生息地の保護や漁業規制を進めている。例えば、主要な湖や河川では魚類の増殖区域が設けられ、漁業が制限されて資源が回復するようにしている。

また、地域社会主導の漁業管理を促進しており、地域コミュニティが伝統的な知識と現代的技術を組み合わせて保全活動をリードできるようにしている。このような取り組みを通じて、人々と環境の双方に利益をもたらす持続可能な慣行を育んでいる。

地域協力の役割

アフリカの水域は国境を越えてつながっており、効果的な管理には地域的な協力が必要である。アフリカ連合の「ブルーエコノミー戦略」や西中央ギニア湾漁業委員会(FCWC)といったイニシアチブは、持続可能な慣行と地域協力の重要性を強調している。これらの枠組みは、政策の調和、違法漁業の撲滅、加盟国間の知識共有を目的としている。

各国の取り組みには共通点が見られる。第一に、生計を維持しながら自然資源を保護するバランスを追求している点でである。そのために、政策の整備、施行、教育、地域社会の参加、代替手段の創出(例:養殖)といった手段を活用している。また、資源の相互連関性から地域イニシアチブに参加することが有効とされている。成功の鍵は、保全がより広範な持続可能性や気候変動問題の一部であり、すべての人々の課題であることを理解することである。

気候変動と汚染への対処

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

気候変動は、海水温の上昇、海洋酸性化、降雨パターンの変化を通じて、アフリカの水界生態系の課題を悪化させる。その結果、海洋および淡水生態系が乱され、魚資源や生物多様性に影響を与えている。また、沿岸侵食や海面上昇も、地域社会やインフラに脅威をもたらしている。

汚染(プラスチック廃棄物、産業排水、石油流出など)もこれらの脅威をさらに悪化させる。南アやコンゴ共和国(ブラザビル)などの国々は、廃棄物管理システム、環境教育、清掃活動への投資を進め、汚染を軽減しようとしている。

持続可能な未来への道筋

アフリカの海洋や淡水の生態系の健全性は、大陸全体の環境、経済、そして社会的な幸福にとって不可欠である。これらを守るためには、保全を最優先にし、持続可能な漁業の実践を推進するとともに、地域間の協力を深めることが重要である。こうした取り組みによって、アフリカ諸国は、生態系の保護と経済成長を両立させるブルーエコノミーへの道を切り開いている。

南ア、ウガンダ、コンゴ共和国、DRCは、このビジョンを実現するために実施されている多様な戦略の例を示している。保全への継続的な投資、革新的な政策、地域社会のエンパワーメントを通じて、アフリカは未来世代のために水中の生命を繁栄させることができる。

まとめると、南アは排他的経済水域(EEZ)の14%以上をカバーする41の海洋保護区を設立するなどの取り組みを進めている。DRCは過剰漁業の抑制と魚類の増殖による資源回復を目指している。コンゴ共和国は、育成場としての役割を果たすマングローブや海草床の保護に注力しており、ウガンダは規制強化と養殖の推進を進めている。アフリカの水域は相互に関連しているため、地域協力が必要であり、ブルーエコノミー戦略やFCWCのようなイニシアチブが持続可能な慣行や地域協力の重要性を強調している。これらの枠組みは、IUU漁業の撲滅や加盟国間の知識交換を目的としている。(原文へ

INPS Japan/London Post

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第2期トランプ政権:多国間主義と国連への試練(アハメドファティATN国連特派員・編集長)

Ahmed Fathi, ATN
Ahmed Fathi, ATN

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】

ドナルド・トランプ氏の再選が実現すれば、国連(UN)などの多国間外交や国際機関にとって大きな障害となるだろう。重要な合意からの離脱、国際機関への資金削減、一方的な外交政策決定など、トランプ氏の第1期政権では多国間主義に対する懐疑的かつ時に敵対的な態度が特徴的であった。2期目のトランプ政権ではこれらの傾向がさらに強まる可能性が高く、多国間システムの持続性や世界的なガバナンスの方向性に重大な課題を突き付けることになるだろう。

トランプ第1期政権:多国間主義からの脱却の遺産

トランプ氏は第1期政権を通じて「米国第一主義」のモットーを掲げ、多国間主義をしばしば拒絶した。その主な事例として以下が挙げられる:

イラン核合意(JCPOA)からの離脱:トランプ政権は、この合意がイランの地域的野心や核能力を十分に制限していないとして離脱した。

パリ協定からの離脱:経済的コストや、中国やインドに比べて米国が不公平な扱いを受けているとの主張から、この国際的な気候変動協定からも離脱した。

国連教育科学文化機関(UNESCO)および国連人権理事会からの撤退:これらの機関がイスラエルに対して偏向しているとし、非効率であると批判した。

国際機関への資金削減:COVID-19パンデミックの最中に世界保健機関(WHO)への資金提供を大幅に削減するなど、重要な国連プログラムへの拠出を縮小した。

双務協定の優先:多国間交渉よりも双務的な協定を優先し、取引重視の外交アプローチにより、米国がグローバルなプロジェクトにおいて信頼できる同盟国としての地位を低下させた。

これらの行動は、国際機関の正当性と効率性を損ない、中国やロシアなどの国が指導力の空白を埋める自信を得る結果を招いた。

分析:第2期トランプ政権がもたらす多国間外交への課題

トランプ氏の第2期政権では、これまで以上に多国間機関に対する懐疑的な姿勢が強調され、国連および国際外交に多くの課題をもたらす可能性がある:

1. 国連の正当性の低下

トランプ氏の多国間主義に対する軽蔑は、特に米国が国連の世界的調停者としての役割を損ない続ける場合、国連の権威をさらに低下させる可能性がある。主な課題として以下が挙げられる:

国連資金とイニシアティブへのさらなる削減:気候変動、パンデミック、人道危機などの世界的課題への対応能力を著しく損なう恐れがある。

国際協定の弱体化:米国が軍備管理(新START条約)や気候変動(パリ協定)に関連する重要な協定から撤退する、または参加を拒否する可能性があります。

2. 地政学的分極化

トランプ氏の中国およびロシアに対する攻撃的な姿勢は、国連内部の地政学的対立を拡大させるかもしれない。彼の政権は、総会および安全保障理事会において中国政府とロシア政府を牽制することで、世界政治の分極化を促進する可能性がある。

3. 国際規範の弱体化

気候変動、紛争解決、持続可能な開発における集団行動を含む主要な国際的規範が、トランプ氏の取引重視の外交や共有責任よりも主権を重視する政策により損なわれるかもしれない。

4. 米国への信頼低下

世界的な協力の推進者として、同盟国やパートナーは米国への信頼を失う可能性がある。これにより、国連の普遍的な使命が損なわれ、他国が国連システムの外で地域的または双務的な合意を模索することを促進する恐れがある。

見通し:第2期トランプ政権下での多国間主義の未来

トランプ氏の第2期政権は、世界外交に深刻な脅威をもたらす一方で、国連および他の国際機関が改革や適応を進める契機となる可能性もある:

1. 改革の可能性

米国の関与が減少する中、国連および加盟国には革新と改革が求められる:

資金の多様化:中国、インド、欧州連合(EU)などの国々からの寄付を促進することで、国連は財政的な自律性を追求する可能性がある。

業務の簡素化:予算の制約により、国連はインパクトの大きいイニシアティブに優先順位を付け、効率性を重視せざるを得なくなるだろう。

2. 中国の台頭

トランプ氏の多国間主義からの後退は、中国が世界的な主導者として台頭する速度を速めるかもしればい。中国政府はすでに国連への拠出を増加させ、WHOや国際電気通信連合(ITU)などの主要機関でリーダーシップを拡大している。第2期トランプ政権は、中国が21世紀の多国間主義を形成する中心的役割を確立する契機となる可能性がある。

3. 地域的多国間主義

国連が弱体化する中で、EU、アフリカ連合(AU)、ASEANなどの地域的枠組みが、世界的課題に取り組む主要な舞台となる可能性がある。これらの組織は、代替的なグローバル協力の場としての役割を果たすだろう。

4. 非国家主体と市民社会

民間企業、非政府組織(NGO)、その他の非国家主体が、米国の不介入による指導力の空白を埋める可能性がある。これらのグループは、国連と連携するか単独で活動し、持続可能な開発、人権、気候変動への取り組みを推進する可能性がある。

多国間主義の回復力:戦略

多国間機関とその支持者は、トランプ第2期政権の課題に先手を打って対応する必要がある:

非政府主体との連携強化:国連は非政府主体、地域組織、慈善団体とのパートナーシップを強化し、米国の関与低下を補う必要がある。

多極的リーダーシップの推進:EU、日本、カナダなどの他の大国が、気候変動、平和維持、パンデミック準備といった重要な課題で主導権を発揮する可能性がある。

米国との関係再構築:共通の利益と実用的な協力を強調し、外交官や国連職員はトランプ政権との積極的な対話を図るべきである。

国連の役割に関する啓発活動:国連が世界的課題に取り組む上での責任を周知し、草の根レベルでの多国間主義への支持を高めることが、これらの組織を信用失墜させようとする政治家の試みを牽制する助けとなるだろう。

本質的には、グローバルな回復力の試練

トランプ氏の第2期政権は、国連およびより広範な世界システムを厳しく試すだろう。彼の政策は、世界的な協力の理念と矛盾する可能性が高いものの、不確実な時代において国連が適応し、創意工夫を発揮し、その重要性を示す機会でもある。これらの課題に対処し、最も重要な問題に取り組む上で集団的な協力の必要性を強調する能力が、多国間主義の回復力を定義することになだろう。(原文へ

INPS Japan/ATN

Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/analysis-and-outlook-trump-2-0-presidency-a-reckoning-for-multilateralism-and-the-un

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右派政治の台頭と核軍縮の現状

【ロンドンLondon Post=サクライン・イマーム】

現在の国際政治情勢では、右派ポピュリズムの台頭が見られ、その影響が安全保障政策にも及んでいる。国粋主義や防衛能力の強化を国家安全保障の必要性として強調するポピュリスト指導者たちが台頭する中、核不拡散条約(NPT)や核兵器禁止条約(TPNW)といった条約の重要性は一層高まっている。

ロシアの核政策の見直し

Vladimir Putin. Photo: ЕРА
Vladimir Putin. Photo: ЕРА

世界最大の核兵器を保有するロシアの核プログラムは、ウラジーミル・プーチン率いる右派の権威主義的リーダーシップを反映している。予防措置が軍事教義の中心となり、核軍縮の取り組みを複雑にしている。

2024年9月、プーチン大統領は高官とのテレビ会議で、ロシアに対する「大規模な空爆」に対して核兵器を使用する可能性を示唆した。その後、核保有国の支援を受けた非核保有国による攻撃を核保有国による攻撃とみなす新たなルールを提案。2024年11月、米国がウクライナによる長距離ミサイル使用禁止を解除すると、プーチン大統領は核ドクトリンの改正案に署名した。これにより、ロシアは核兵器の使用を合法的に認めることになった。

防衛情報ウェブサイト「Janes」は、2023~24年にロシアがベラルーシへの核兵器配備、新たな配備手段の公開、戦術核兵器の訓練、条約義務からの脱退を行ったと報告している。

インド太平洋研究センターのリサーチアナリスト、ムリチュンジャイ・ゴスワミ氏は、「右派政府が戦時に核兵器使用を主張する傾向が強まっている。」と指摘し、特にロシアがウクライナ戦争における戦術核使用の選択肢を模索していると述べている。

Büchel , Germany:Activists participate in a peace walk against nuclear weapons around Büchel Military Air Base.. Image Credit :shutterstock
Büchel , Germany:Activists participate in a peace walk against nuclear weapons around Büchel Military Air Base.. Image Credit :shutterstock

インド:隣国との核競争

Narendra Modi, Prime Minister of the Republic of India
Narendra Modi, Prime Minister of the Republic of India

3期目を務めるナレンドラ・モディ首相は、インドの核能力を誇示している。2024年の選挙では、与党インド人民党(BJP)が小型モジュール型原子炉の開発や原子力発電への投資拡大を掲げた。モディ首相は、野党が核兵器を廃止すると批判し、隣国が核兵器を保有している中でインドを「無力化」する計画だと述べている。

さらにモディ氏は、中国の軍事・核能力の強化を警戒しており、特に中国が米国との戦略的均衡を目指していることを指摘した。一方、ポーランドやドイツの右派勢力は、ウクライナ侵攻を受けて独自の核抑止力を求める声を強めている。

イラン対イスラエル:核緊張の高まり

核兵器を保有していないイランは、西側諸国やイスラエルから核兵器開発の疑いをかけられている。2024年12月、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、イランがウラン濃縮を最大60%に加速していると発表した。イランは核兵器を目指していないと主張しているが、国際社会の懸念は依然として高いままである。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、2024年11月にイランの核研究施設を攻撃し、これに対してイランは報復を誓った。この行動は核軍縮の取り組みに大きな打撃を与えた。

核軍縮を取り巻く議論は、米国とロシアの関与の欠如、中国の非協力的態度により危機的状況にある。ゴスワミ氏は、「主要核保有国間の戦略的コミュニケーションチャネルの再構築が必要だが、近い将来に進展が見られる可能性は低い。」と指摘している。(原文へ

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世界の軍事紛争で「真の勝者」とは誰か?

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ウクライナやガザでの壊滅的な軍事紛争が終結したとしても、最終的な勝者となるのはロシアでも米国でもイスラエルでもなく、皮肉を込めて「死の商人」と呼ばれる世界の武器産業である。

同様に、シリア、ミャンマー、レバノン、イエメン、スーダン、アフガニスタンといった内戦や紛争でも、利益を得るのは武器産業だ。

SIPRI
SIPRI

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の最新報告によると、2023年における世界の主要100社の武器と軍事サービスの売上高は6320億ドルに達し、2022年比で実質4.2%の増加となった。

SIPRIが12月2日に発表したデータによれば、武器売上の増加は全地域で見られ、特にロシアや中東を拠点とする企業の増加が顕著だった。

特にガザやウクライナの戦争、東アジアの緊張、その他の再軍備プログラムに関連する新たな需要に対して、小規模な武器メーカーが迅速に対応し、大幅な成長を遂げた。

SIPRIによると、2023年、多くの武器製造企業が需要の急増に対応して生産を拡大した。その結果、22年に減少した武器売上高が23年には回復した。

上位100社のうち、ほぼ4分の3の企業が前年比で武器売上を増加させた。特に、売上を増加させた企業の多くは上位100社の下位半分に位置する企業だった。

「2023年には武器売上が顕著に増加し、この傾向は24年も続くと予想されます。」と、SIPRIの軍事費および兵器生産プログラムの研究者であるロレンツォ・スカラッツァート氏は述べた。

「上位100社の武器製造業者の売上は、依然として需要の規模を完全には反映していません。多くの企業が採用活動を開始しており、将来的な売上増加に対して楽観的であることを示しています。」と彼は語った。

拷問被害者センター(Center for Victims of Torture)の会長兼CEOであるサイモン・アダムズ博士はIPSの取材に対し、迫害、紛争、残虐行為によって世界で家を追われた人々の数が過去10年で3倍以上に増加し、現在では1億2000万人を超えていると語った。

アダムス博士は、この人道的惨状の拡大で最も利益を得ているのは、戦争犯罪者、拷問者、人権侵害者たちだと語った。

Prikaz Tabuta prije ukopa poginulih civila./ By Juniki San - Own work, CC BY-SA 3.0
Prikaz Tabuta prije ukopa poginulih civila./ By Juniki San – Own work, CC BY-SA 3.0

「しかし、彼らはそれを可能にする武器を供給する武器メーカーなしには生き残れません。そして、最も直接的に利益を得ているのは武器メーカーです。」と、アダムス博士は強調した。

アダムズ博士はまた、「どこで民間人が苦しみ、建物が爆撃され、死と破壊が広がっているのを目にしても、そこには新たなビジネスチャンスと利益率の増加を見込む武器商人がいるのです。」と指摘したうえで、「この産業の経済的な生命線は、まさに流血そのものです。」と、断言した。

Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons
Dwight Eisenhower/ Wikimedia Commons

さらに、The Nation誌7月号の「War Profiteering(戦争で利益を得ること)」と題した記事で、デイビッド・ヴァインとテレサ・アリオラは、戦争産業で利益を上げている米国のの5大企業を特定した。それは、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、レイセオン、ボーイング、そしてゼネラル・ダイナミクスだ。

1961年、米国のドワイト・アイゼンハワー大統領は「軍産複合体(Military-Industrial Complex, MIC)」の力について国民に警告を発した。

この記事で引用されているブラウン大学の「戦争の費用」プロジェクトによると、「軍産複合体は世界中で計り知れない破壊を引き起こし、米国を終わりの見えない戦争に縛り付けてきた。その結果、2001年以降、約450万人が死亡し、数百万人が負傷し、少なくとも3800万人が故郷を追われた。」とされている。

カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で、軍縮、グローバルおよび人間の安全保障に関するシモンズ講座の教授であるM.V.ラマナ博士は、SIPRIが発表した最新の統計についてIPSの取材に次のように語った。「軍需産業やそれらの武器製造企業に投資する人々は経済的に繁栄している一方で、それらが民間人の大量虐殺や複数の国々での人権侵害を継続させる役割を果たしていることがますます明らかになっている。この不名誉なリストの筆頭にあるのは米国。米国は世界の武器販売の約半分を占めており、上位5社の武器商社はすべて米国企業で、全体の売上の約3分の1を占めています。」と、ラマナ博士は語った。

この状況は非常に悲劇的だとラマナ博士は述べている。その理由は、ガザやレバノン、ウクライナといった世界各地で武器がもたらす人的被害だけでなく、本来ならこの資金が世界中で差し迫った人道的ニーズに使われるべきだからだという。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

例えば、国連世界食糧計画(WFP)によれば、2030年までに世界の飢餓を終わらせるためには年間400億ドルが必要とされている。この額は、武器産業の上位2社の売上の40%未満である。

ラマナ博士は、「SIPRIが毎年綿密に提供するデータは、政府や強力な機関が支出を決定する際の優先順位がいかに歪んでいるかを示す非常に悲しい証拠だ。」と語った。

SIPRIによると、上位100社のうち米国に拠点を置く41社の武器売上高は3170億ドルに達し、上位100社全体の武器売上高の半分を占めている。これは2022年比で25%の増加である。2018年以降、上位100社のトップ5はすべて米国企業が占めている。

41社のうち30社は2023年に売上を増加させたが、ロッキード・マーティンとRTX(旧レイセオン)のような世界最大の武器製造会社は売上が減少した企業の中に含まれている。

SIPRIの軍事費および兵器生産プログラムのディレクターであるナン・ティアン博士は次のように述べている。「ロッキード・マーティンやRTXのように幅広い武器製品を製造する大企業は、複雑で多層的なサプライチェーンに依存しているため、2023年には依然として残るサプライチェーンの課題に脆弱でした。特に航空宇宙およびミサイル分野においてこの傾向が顕著でした。」

一方で、ロシアを除く欧州に拠点を置く上位100社のうち27社の武器売上高は2023年に合計1,330億ドルとなった。これは2022年比でわずか0.2%の増加であり、世界の地域別で最も小さい伸び率となっている。

しかし、この低成長率の背後には、より複雑な事情がある。2023年、欧州の武器メーカーの多くは複雑な兵器システムを製造しており、主に過去に結ばれた契約に基づいて業務を行っていた。そのため、その年の収益には新規注文の急増が反映されていない。

「複雑な兵器システムは製造に長いリードタイムが必要です。」とロレンツォ・スカラッツァート氏は指摘した。「そのため、これらを製造する企業は需要の変化に対応する速度が遅くなる傾向があります。そのため、新規注文が急増したにもかかわらず、2023年の武器売上高は比較的低かったのです。」と説明した。

一方で、ウクライナ戦争に関連した需要によって、弾薬、大砲、航空防衛システム、陸上システムに特化した欧州の他の企業では収益が大幅に増加した。

特に、ドイツ、スウェーデン、ウクライナ、ポーランド、ノルウェー、チェコの企業がこの需要を活用した。例えば、ドイツのラインメタル社は155mm弾薬の生産能力を拡大し、レオパルト戦車の納入や新規注文、さらには戦争関連の「リングエクスチェンジ」プログラム(各国がウクライナに軍事物資を供給し、同盟国から代替品を受け取る仕組み)を通じて収益を増やしている。

2002年から2023年のより詳細なデータを掲載したSIPRIの武器産業データベースは、SIPRIのウェブサイト(https://www.sipri.org/databases/armsindustry)で確認可能である。(原文へ

INPS Japan/IPS UN BUREAU

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