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ドイツの国際安全保障における役割:言葉に行動を伴わせる時

2023年に撤収したマリの国連ミッションは、ドイツによる最後の大規模な平和維持関与だった。

【ベルリンIPS=パトリック・ローゼナウ、キルステン・ハルトマン】

国連の平和維持活動大臣級会合(PKM)が、2025年5月13日から14日にかけて、初めてドイツ・ベルリンで開催される。この会合は、国連の平和維持活動の将来について議論することを目的としている。PKMは隔年で開催され、紛争対応における政治的支援の継続性を測る機会となっている。国連の平和維持活動は、紛争予防、調停、平和構築措置などと並ぶ包括的な紛争対応ツールの一つである。

しかし、平和維持活動の計画・実行・完了には依然として多くの課題がある。2014年に中央アフリカ共和国で設立されたMINUSCAを最後に、大規模な新規ミッションは開始されていない。既存のミッションは延長される一方で、地域・準地域機関の役割が増大している。世界の紛争数が増加するなか、国連ミッションの成功は依然として限定的だ。

偽情報といった新たな脅威による紛争の性質の変化も、平和維持活動の遂行を一層困難にしている。それでもなお、国連の平和維持活動は、民間人に対する直接的な暴力を減少させる効果が証明されており、最も費用対効果が高く、効果的な国際的紛争管理手段とされ、今もなお代替不可能である。

こうした課題の高まりを受け、ベルリン会合ではより柔軟な新たな平和維持モデルが議論される予定だ。2024年9月の「未来のための協約(Pact for the Future)」において、国連加盟国はアントニオ・グテーレス事務総長に対し、平和維持改革に向けた提案を策定するよう要請しており、現在、平和維持は大きな関心を集めるテーマである。ドイツの役割に注目が集まっている。

■ 重要な役割

2023年に発表された初の「国家安全保障戦略(NSS)」は、国際的な危機対応において責任を担うというドイツの意志を明確にしている。しかし、実際の関与はとくに人員面で限定的なままだ。ロシアによるウクライナ侵攻は、ドイツの安全保障政策の焦点を自国および同盟防衛へと移行させた。

しかし、ドイツが国連平和維持活動への実質的な貢献を欠けば、重大な結果を招く。訓練された要員や輸送・後方支援、専門的能力の提供に加え、政治的信頼性の観点からも、ドイツの参加は極めて重要である。

平和ミッションの将来に関与したいのであれば、現場での責任を引き受ける必要がある。アフガニスタン調査委員会の最終報告書では、国連体制の強化のためには、より優れた危機対応、増加した資金、現実的で優先順位の明確な任務が必要だと指摘された。そこには「ドイツが物的・人的両面で平和ミッションを支援することが不可欠である」と明記されている。

とはいえ、現地に派遣されているドイツ要員は依然として限られている。2023年に撤収したマリの国連ミッションは、ドイツによる最後の大規模な平和維持関与だった。現在では、レバノンのUNIFILミッションの海上部門への関与が中心だ。

ドイツは国連の資金面では伝統的に信頼されてきたが、現場での存在感は常に限定的であり、その結果として政治的影響力も低下している。皮肉なことに、ドイツが国連安全保障理事会の非常任理事国を務めていた期間中に、軍の現地参加はむしろ減少していた。

このように、長年にわたり「言葉」と「現実」のギャップが存在してきた。この矛盾は国家安全保障戦略にも表れている。一方では、「軍の中核任務は自国と同盟の防衛であり、その他の任務はこれに従属する」としながらも、他方では「国連平和維持ミッションには明確な政治的任務と必要な資源を提供する」とも述べている。こうした外交通信は曖昧であり、政治的意思決定にはさらなる明確化が求められる。

■ 3つの主要課題

ドイツの国連平和維持への関与を妨げているのは、主に以下の3つの課題である。

第一に、ドイツ国民の多くは、国際的な危機対応における積極的な役割に対して根本的に懐疑的である。「より多くの責任を担う」という決まり文句にもかかわらず、新政権はそのような展開を正当化する説得力ある理由を提供する必要がある。

多くのミッションが国民の生活実感からかけ離れた場所で行われているため、多国間主義の重要性について率直で明確な説明が求められる。ただし、批判的な声を無視してはならない。常に、ドイツの参加は慎重に評価され、国内外のパートナーとともに成功の可能性を見極める必要がある。

第二に、「ツァイテンヴェンデ(時代の転換)」と憲法改正にもかかわらず、軍への予算配分は不十分なままだ。持続可能な改善には、安定した財政的約束と構造改革が必要である。そのためには国防予算の長期的な拡大と、徴兵制度停止を踏まえた体制の再編が求められる。

新政権は、国家・同盟の防衛と危機地域での展開を並行して考慮すべきだ。国家安全保障戦略は、「ドイツの安全は、他地域の安定と結びついている」と明記している。

第三に、市民部門には政治的意思も、より積極的な役割を担うための体制も整っていない。2021年の連立協定では「危機予防と民間による危機対応の強化」がうたわれたが、実際にはほとんど実現していない。たとえば、2025年3月時点で国連平和ミッションに派遣されているドイツの警察官はわずか12人である。これは長年掲げられてきた拡充目標に遠く及ばない数字だ。

連邦政府と州政府の利害不一致に加え、国際派遣に向けたキャリア上のインセンティブも不十分である。比較例として、現在280人以上のドイツ人警察官が欧州国境警備機関(フロンテックス)に派遣されており、政治的優先順位が明らかに異なることがうかがえる。

国連平和維持のグローバルな変化を踏まえ、ドイツは今後の改革議論に積極的に参加し、自国の提案を提示し、具体的な資源の提供を行うべきである。5月のPKMは、ドイツの政治的関与を可視化し、国連の平和維持の未来を形成し、拘束力ある貢献を誓約する絶好の機会となる。

2026年に2027〜2028年の安保理非常任理事国入りを目指すのであれば、ドイツは国連平和維持への真剣な関与を証明しなければならない。

だが、持続的な支援は、閣僚会合や安保理だけにとどまってはならない。ドイツは、現在議長を務める平和構築委員会(PBC)や、9月から就任する国連総会議長職など、国連の枠組み全体を通じて平和と安全保障への関与を一貫して推進すべきである。

また、平和構築と平和維持の一層の統合を、政治的・構造的・運用面のいずれにおいても主導すべきである。関係省庁は、国連主導の平和活動に対するドイツの関与の目標を、具体的なスケジュールと人員・財政面の約束を伴って定義する必要がある。

これらの目標は、NATOやEUの戦略プロセスとも連携させ、国際的な整合性と役割分担を確保すべきだ。また、このような自発的な貢献は、2017年に策定された危機対応ガイドラインの改訂版にも盛り込むことが可能だろう。

新政権には迅速な行動が求められている。それは平和維持活動の危機だけでなく、国境を越えた安全保障上の脅威の増加に起因する。多重的な危機の時代にあって、ドイツは安全保障政策で後れを取る余裕はない。現在進行中の紛争の影響は、遅かれ早かれ自国にも及ぶのである。(原文へ

パトリック・ローゼナウ博士は、ドイツ国連協会(UNA-Germany, DGVN)が発行する雑誌『Vereinte Nationen』の編集長。国連、多国間主義、国際安全保障に関する執筆多数。 キルステン・ハルトマン氏は、ヘルムート・シュミット連邦首相財団の「欧州・国際政治」プログラムの政策担当官。エアフルト、カリ、テュービンゲン、ハイファで国際関係と平和学を学ぶ。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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「ユーロ爆弾」に向けて: 核兵器の欧州化のコスト

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=トム・サウアー】

大量破壊兵器に投資する代わりにEUの防衛を効率化すること、そして、より大きな集団安全保障組織にロシアを取り込むことを優先事項とすべきである。

欧州で戦争の話が飛び交うなか、トランプ政権の孤立主義的発言により、フランス(そして恐らく英国)が保有する核兵器の傘を欧州に拡大すること(欧州化)に関する議論が再燃している。NATO創設から75年を経て、米国の離脱に対する懸念が欧州の外交政策論議をますます方向付けている。以前は、フランスが提唱する「デシュアジオン・コンセルテ(協調的抑止)」という概念はほぼ、特にドイツでは黙殺されていた。今回は保守派のリーダーであるフリードリヒ・メルツも賛成しているようだが、とはいえ、NATOはいまなお存続し、米国はいまなお10万人の軍人と100発の戦術核兵器を欧州に配備しているという事実がある。これらの核兵器は、トルコ、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギーに配備されている。軍または戦術核兵器が撤退すれば、何らかの形でフランス(そして恐らく英国)の核兵器を欧州化することが本当に現実のものになるかもしれない。() 

さまざまなシナリオが想定される。最初のステップは、欧州の核兵器国が自国の「国益」は「欧州の利益」と一致すると宣言することである。これは、リスボン条約にすでに反映されている原則である。ちなみに、リスボン条約にはNATO条約第5条と似た集団防衛条項が含まれている。その後のステップとしては、その宣言をより信頼性のあるものにすること、すなわち情報交換、協議、共同計画、合同演習、共同資金調達などが考えられる。もう一つのステップとしては、フランスの通常兵器・核兵器両用航空機をドイツまたはポーランドに配備することが考えられる。最終的なステップは、“欧州防衛連合(EDU)”における“EUの核兵器”の創設ということになるであろう。しかし、そのようなEDUの設立に向かうペースをウクライナ戦争がどれほど加速するかは、今のところまだ不明である。

核兵器の欧州化のコストは何か?

まず何より、核抑止が機能するという前提は不確かである。核兵器支持派は、機能すると信じている。彼らは、歴史上いくつかの核兵器保有国(イスラエル、インド、英国など)が非核兵器保有国の攻撃を受けていることを忘れている。理論上、核抑止を機能させることは非常に難しい。なぜなら、核抑止は例えば合理的な敵を想定しているためだ。また、核抑止は、核兵器保有国がそれらを使用する準備が本当にできていることも想定している。しかし、核兵器が大規模に行使されれば、それは地球の壊滅を意味する。ウクライナの戦争では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はその理由から、たとえロシアがウクライナに対して戦術核兵器を使用してもフランスは核兵器で応戦することはないと述べている。

第2に、新興の破壊的な技術(AIなど)や兵器システム(極超音速ミサイルなど)は、いわゆる核の安定性をさらに損なうだろう。理想的には、全ての核保有国が同意することを条件として、通常抑止(極超音速ミサイルの使用)が核抑止に取って代わることが可能であるし、またそうすべきである。

第3に、拡大核抑止、つまり核の傘は、さらにいっそう信用ならない。1970年代という早い段階から、ヘンリー・キッシンジャーは欧州諸国に対し、米国が欧州防衛のために核兵器を使用すると思わないほうが良いと警告している。これも、フランスが米国の傘の下に入ることを望まなかった理由であり、1950年代に独自の核兵器開発を進めたのも、このためである。皮肉なことに、フランスは今や欧州のパートナーに傘を差しかけようとしている。

第4に、EDUが存在しない以上、誰の指が核のボタンに置かれるのかが問題となる。マクロンは、それが自分の指であることを明確にしている。とすると、ドイツの納税者は戦争時に自分たちがコントロールできない戦略兵器システムに共同出資したいと思うだろうかという問題が生じる。

第5に、フランスの核兵器を欧州化することによって、EUは核兵器を合法化することになる。これは、核拡散防止の取り組みを複雑にする。EU自身が核兵器を備蓄していながらイランに核兵器を製造しないように要求するなど、どれほど持続可能だろうか?

また、核の欧州化は、核不拡散条約と整合するのかどうか。特にドイツとポーランドが独自の核能力を開発する場合の懸念もある。どちらの考え方も、現在までにおよそ100カ国が署名している核兵器禁止条約(2017年)の精神と文言に反するものである。

最後の第6に、欧州防衛を増強するより、EUの首脳らがロシアとの外交に多くの時間を費やす方がはるかに良いだろう。人道的理由だけでなく経済的理由からも、今こそウクライナの戦争を終結させるべき時である。理想的には、NATOの改革または欧州安全保障協力機構の格上げのいずれかにより、ロシアとウクライナの両方を組み入れた欧州集団安全保障体制の再構築に着手することを和平合意に含めることが望ましい。そのような合意に達することができれば、欧州防衛を25の個別の小規模な軍にこれ以上断片化する正当性はほとんどない。最近では欧州のNATO加盟国の防衛費はすでに4,850億ドルに達しており、ロシアの防衛費(1,200億ドル)をはるかに上回っている。今日EUの安全保障における最大の課題は「ユーロ爆弾」がないことではなく、共同出資、共有、専門化などの調整が欠如していることである。大量破壊兵器に投資する代わりにEUの防衛を効率化すること、そして、より大きな集団安全保障組織にロシアを取り込むことを優先事項とすべきである。

トム・サウアーは、ベルギー・アントワープ大学の国際政治学教授。

INPS Japan

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|世界報道自由デー|2025年世界報道自由指数が過去最低に—報道の自由に“危機的状況”

【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】

世界いおける報道の自由が「危機的状況」にあると、キャンペーングループが警鐘を鳴らしている。報道の自由の現状を示す主要な国際指標が、かつてない低水準にまで落ち込んだからだ。

「国境なき記者団(RSF)」が5月2日に発表した最新の年次「世界報道自由指数」によると、評価対象国の平均スコアが初めて55点を下回り、「困難な状況」に分類された。

報道の自由に関する状況が悪化した国は全体の6割を超える112カ国に達し、世界の半数の国では記者が報道活動を行う環境が「悪い」とされ、「良好」とされたのは4分の1にも満たなかった。

また、世界人口の56.7%を占める42カ国では報道の自由が「非常に深刻」とされ、報道活動が極めて危険な行為となっている。

RSFは「過去10年にわたって警告してきたが、今回の指数はまさに“新たな底”に達した」とし、「報道の自由は今や重大な岐路にある」と指摘する。RSF英国支局長フィオナ・オブライエン氏はIPSに対し、「全体の60%の国で指数が下落し、メディア自由の環境は世界的に悪化している」と語った。

報道の自由に対する脅威としては、独裁的な政権の言論弾圧に加え、独立系メディアの経済的持続可能性が深刻化していることも挙げられる。今回の指数は「政治的状況」「法的枠組み」「経済的状況」「社会文化的文脈」「安全性」の5項目を基に評価されているが、とりわけ経済面の悪化が世界全体のスコアを引き下げたという。

所有の集中、広告主や資金提供者からの圧力、透明性のない政府の助成制度などが、報道機関の経営を圧迫し、編集の独立性と経済的生存の両立が困難になっているとRSFは警告している。

RSFの調査では、評価対象の180カ国中160カ国(88.9%)で報道機関が財政的安定を「得にくい」または「全く得られない」と答えた。世界のおよそ3分の1の国で経済的理由により報道機関が閉鎖されている。経済的打撃は政治不安や戦争の影響を受ける国だけでなく、米国のような経済的に豊かで安定した国でも深刻化している。RSFによると、米国の大多数のジャーナリストや専門家が「ほとんどのメディアが経済的に存続の危機にある」と述べたという。

また、海外からの支援に依存する独立系メディアは、2025年初頭に行われた米国国際開発庁(USAID)の資金凍結によって特に大きな打撃を受けている。例えば、ウクライナでは報道機関の90%が国際支援を受けており、USAIDは最大の支援元だった。この支援停止は、同国の報道の自由に深刻な影響を及ぼしているとされる。

RSF東欧・中央アジア部門の責任者ジャンヌ・カヴァリエ氏は、「戦時下において独立系メディアは不可欠です。今回の資金凍結は、ロシアの影響下にある権威主義体制の国々すべてにとって、報道の自由への実存的な脅威となる。」と語った。

ロシア国外で活動する代表的な独立系メディア「メドゥーザ」も、クラウドファンディングにより活動を維持してきたが、米国の助成金に頼っていた部分もあった。資金カットにより同社は人員の15%削減と給与の減額を余儀なくされ、「コンテンツの多様性に影響する」と広報責任者のカテリーナ・アブラムワ氏はIPSの取材に対して語った。彼女はさらに、「USAIDの支援停止は、世界中の権威主義体制に“米国ですらも報道機関を軽視している”という誤ったメッセージを送る恐れがある。」とも警告している。

また、欧州連合(EU)加盟国を中心に構成される「EU-バルカン地域」は、RSF指数で世界最高スコアを記録している一方で、欧州の人権団体「リバティーズ」は報告書の中で「EU内でも報道の自由が侵害され、独立系メディアが脅かされている」と指摘。報告書では、「メディア所有の集中化と不透明な所有構造、公的報道機関の独立性の喪失、ジャーナリストに対する威圧や脅迫、情報アクセスの制限」が自由な報道の障害となっているとした。

ただし、希望の光もある。EUは報道の自由を守るための新たな立法措置として「欧州メディア自由法(EMFA)」と「反SLAPP(恫喝訴訟)指令」を導入しつつある。リバティーズの上級アドボカシー担当エヴァ・シモン氏は、「ポーランドのように政権交代があった国では報道の自由が回復傾向にあるが、スロバキアでは逆の現象が見られる」とした上で、「EUレベルでは法整備が進んでおり、EMFAやSLAPP対策指令により、今後報道の自由を守るための重要な手段になる」と評価している。

一方、米国においても報道の自由の深刻な侵害が起きていると、報道の自由擁護団体「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」が4月30日に報告した。報告書では、トランプ大統領の再選以降、記者会見の排除、政府機関を使ったメディアへの圧力、記者個人への攻撃が相次いでいるとし、「米国での報道の自由はもはや保障されたものではない」と結論づけている。

RSFのオブライエン氏は「米国のような報道の自由を象徴する国でこのような事態が起これば、権威主義的な国々がそれを正当化する口実に使いかねない」と警告する。「世界の指導者たちは、今こそ報道の自由を守るために立ち上がるべきです。独立報道は民主社会の根幹なのです。」と彼女は語った。(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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水をめぐる戦争が、南アジアに予想より早く到来した

【カトマンズNepali Times=クンダ・ディクシット】

インドとパキスタンは、英領インドから両国が分離独立した際に引き離された双子のような存在だ。独立以来、両国の間には緊張が常に漂い、過去80年の間に少なくとも4回、全面衝突へと発展している。

Kunda Dixit
Kunda Dixit

4月22日にカシミールで発生したテロ攻撃では、インド人観光客25人とネパール人1人が犠牲となり、核兵器を保有するこの両国の緊張はさらに高まっている。インド政府は、この攻撃の責任をパキスタンにあるとして非難し、ナレンドラ・モディ首相は軍に「行動の自由」を与えた。一方のパキスタンは、インドによる軍事攻撃の「確かな情報がある」とし、「全面的な対応」― これは核による報復を意味する暗号 ― を行うと警告している。

隣国のネパールにとって、このパハルガムでの攻撃による自国民の犠牲は、アフガニスタンからイラク、ウクライナからイスラエルに至るまで、世界各地の紛争でネパール人が巻き込まれている現実を改めて突きつけられる出来事となった。1999年にインドとパキスタンがカルギルで大規模衝突を起こした際には、インド軍に所属していたネパール人兵士22人が戦死している。

ネパールの周辺3カ国(中国、インド、パキスタン)はいずれも核兵器を保有しており、相互関係も良好とは言えない。中国がパキスタンに武器やミサイル技術などを提供している現状では、この三角関係が火種となり、地域的な大規模衝突が起きる恐れもある。

ラトガース大学の研究によれば、たとえインドとパキスタンの間で1週間にわたる戦術核戦争が起きただけでも、大気中に放出された煙や塵が太陽光を遮り、世界の食料供給システムが崩壊する(核の冬)という。さらに、放射性降下物は偏西風に乗ってヒマラヤへと達し、アジアの主要河川の源となる氷河を汚染する恐れもある。

Image: A map showing the changes in the productivity of ecosystems around the world in the second year after a nuclear war between India and Pakistan. Regions in brown would experience steep declines in plant growth, while regions in green could see increases. (Credit: Nicole Lovenduski and Lili Xia). Source: University of Colorado Boulder.
Image: A map showing the changes in the productivity of ecosystems around the world in the second year after a nuclear war between India and Pakistan. Regions in brown would experience steep declines in plant growth, while regions in green could see increases. (Credit: Nicole Lovenduski and Lili Xia). Source: University of Colorado Boulder.

すでに気候変動によって「アジアの高地」では氷河が縮小し、乾季の水量が減少するとの警鐘が鳴らされていた。専門家たちは、水が次なる戦略的資源になり、アジアの次の戦争は水をめぐるものになると警告していた。

Photo: Water is an argument for peace, twinning and cooperation. Credit: United Nations
Photo: Water is an argument for peace, twinning and cooperation. Credit: United Nations

その「水戦争」は、すでに始まっている。インドは、今回のカシミール攻撃への報復として、1960年に世界銀行の仲介で締結された「インダス水協定」を停止した。この協定は、過去3回の印パ戦争を乗り越えて維持されてきたものだ。協定では、インダス川の東の支流(ビアス川、ラビ川、スートレジ川)をインド、西の支流(インダス川、チェナブ川、ジェラム川)をパキスタンが管理することとなっている。

パキスタンは年間流量の約70%を保障され、インドも灌漑や水力発電目的に「合理的な量」を使用できるとされた。しかし、インドは協定の停止を宣言した数日後には、チェナブ川の流れをパキスタン側へ止め、ジェラム川でも同様の措置をとる準備を進めているとされる。

両国の軍事的な威嚇は激しさを増している。インド空軍は、作戦準備態勢を示すため、ウッタル・プラデシュ州の高速道路にラファール、Su-30、ジャガー戦闘機を着陸させる演習を実施した。これに対しパキスタンは、核弾頭を搭載可能な射程450kmのアブダリ弾道ミサイルを試射した。

こうした中、ナショナリズムの高まりと、双方の戦争煽動により、インド政府やパキスタン軍は国民の期待に応えるために「何かをしなければならない」圧力にさらされている。だが、たとえ小規模な攻撃や砲撃、領土侵犯であっても、事態は瞬く間に制御不能に陥る恐れがある。

パキスタンは、パハルガーム襲撃への報復をインドが行うと見ており、「壊滅的結果」を伴う核抑止力をちらつかせて警告している。2019年にも、カシミールでインド軍が襲撃されたことをきっかけに、両国は核戦争寸前まで行ったが、米国主導の迅速な仲裁により事態は沈静化した。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

今回は、米ドナルド・トランプ政権が内政に気を取られ、以前ほど積極的に関与していない。パキスタンはテロ攻撃への関与を否定し、インドによる報復を止めるようワシントンに要請している。インドとパキスタンは相互の航空機の上空通過を停止し、一部の国際便はパキスタン上空の飛行を回避している。

米国、中国、国連、欧州連合(EU)などは双方に自制を求めている。イランはインド、パキスタンの両国と良好な関係にあることから、外相を派遣し、報復合戦に突入しないよう促している。イラン自身も、イスラエルやイエメン、シリアにおける緊張で、核を巡る火種を抱えているからだ。

インドとパキスタンは、ともに失業、貧困、環境問題という共通の課題を抱えている。どちらの国にも、無意味な戦争をする余裕はない。そして、我々近隣国にも、それを望む者はいない。(原文へ

This article is brought to you by Nepali Times, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

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ロシア正教指導者のローマとの外交がウクライナ戦争の犠牲に

【RNS=ヴィクター・ガエタン】

外交が再び脚光を浴びている。少なくとも、ロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた交渉の機運が再燃している今、戦場での犠牲者が増え続ける一方で、外交の場でも犠牲が生まれている。その一人が、ロシア正教会の対外教会関係局を率い、事実上の「外務大臣」として活躍したヒラリオン府主教(イラリオン・アルフェーエフ)だ。宗教がしばしば戦争の道具として用いられているこの戦争において、彼のキャリアもまた犠牲となった。

2009年から2022年まで、ヒラリオンの役割には、カトリック教会との和解の推進が含まれていた。彼の主導のもと、ロシア正教会とカトリック教会は関係を深め、ヒラリオン自身もベネディクト16世およびフランシスコ両教皇と親しい関係を築いた。

しかし戦争が始まると、ヒラリオンは職を失い、侵攻開始から4か月後に突然ブダペストへ左遷される。その後2023年12月にはさらに辺境のチェコの保養地に司祭として送られ、再び事実上の降格となった。

バチカンのキリスト教一致推進省の関係者によると、ヒラリオンの不在を悼む声は大きく、正教会との建設的な対話は戦争以降、著しく縮小しているという。

筆者が今年初め、ハンガリーでヒラリオンに会った際、彼は2009年に始まったロシアとバチカンの歴史的関係改善を振り返った。同年1月にはアレクセイ2世の後を継いでキリルが総主教に就任。カトリックに懐疑的だった前任者とは対照的に、キリルの登場は西方教会との協調に向けた好機と受け止められた。当時42歳でウィーンとオーストリアの主教だったヒラリオンは、キリルの後任として対外関係部門を担うことになった。

Pope Benedict XVI, left, shakes hands with Hilarion Alfeyev, Metropolitan of Volokolamsk, chairman of the Department of External Church Relations and permanent member of the Holy Synod of the Patriarchate of Moscow, prior to a concert dedicated to the pontiff by Patriarch Kirill of Moscow, in the Paul VI Hall at the Vatican, May 20, 2010. (AP Photo/Pier Paolo Cito)

同年12月には、ロシアとバチカンが正式な外交関係樹立に合意。2010年5月には、キリル主催・ヒラリオン演出によるベネディクト16世の誕生日と即位5周年を祝うコンサートがバチカンで開かれた。教皇は「ヒラリオン府主教に心から感謝する」と述べ、彼の芸術的才能を称賛した。

ヒラリオンによると、「神学への情熱、音楽への情熱という共通点から、私たちはすぐに親しい友人となった」という。彼はベネディクトの著作『ナザレのイエス』三部作に触発されて、自身の六巻本『イエス・キリスト:その生涯と教え』を執筆。ベネディクトからは「非常に重要な業績」と高く評価された。

フランシスコ教皇とは、就任翌日に初対面。アルゼンチン出身で東西教会対話に疎いかと思ったが、教皇はすでに多くを理解していたと振り返る。

2016年2月、歴史的な両教会指導者の初会談がキューバ・ハバナで実現する。1997年にヨハネ・パウロ2世とアレクセイ総主教の会談が直前で中止となった過去を意識し、ヒラリオンは文書作成に細心の注意を払った。

「会談は単なる教会指導者同士の会談ではなく、カリスマや人間性を持つ二人の個人の出会いだった」と彼は語る。

In this Feb. 12, 2016, file photo, the head of the Russian Orthodox Church, Patriarch Kirill, left, and Pope Francis talk during their meeting at the Jose Marti airport in Havana. (Adalberto Roque/Pool photo via AP)

その後、イタリア・バーリの聖ニコラウス大聖堂から聖人の遺物(肋骨の一部)をロシアに一時移送する交渉も主導。「キリル総主教は『頭を頼め』と言ったが、教皇は笑って『バーリ市民に言ったら私の首が飛ぶ!』と返した」というエピソードもある。

2014年以降ウクライナ情勢は悪化していたが、2021年末までは関係は維持され、ヒラリオンは再度の教皇・総主教会談を打診するためバチカンを訪問した。フランシスコに贈られたのは、教皇の著書『祈り──新たな命の息吹』のロシア語版(キリルの序文付き)だった。

だが、2022年2月の戦争勃発を境に断絶が訪れる。ヒラリオンは戦争の人道的犠牲を強調する一方、キリル総主教は国家方針に忠実な姿勢を示した。オーストリアのTV番組では「対話しなければ、紛争は世界規模のものになる」と警鐘を鳴らしていた。

その年6月7日、ロシア正教会の聖シノドはヒラリオンを突然解任し、信徒約3,000人のハンガリーの小教区へ異動させた。理由の説明はなかった。

ハンガリーではハンガリー国籍のパスポートを使い、国際的なネットワークを維持。2023年4月にはフランシスコ教皇と再会。「政治的な話は一切なかった。ただの旧友としての再会だった」と語った。教皇も、「彼を尊敬している」とメディアに語った。

その後、ブダペスト教区の21歳のロシア系日本人助祭ジョージ・スズキが突然失踪。彼の「母親」(実は祖母)が沖縄から40万ユーロ近い治療費を求めてきたという。金庫からも現金や貴重品が消失していた。スズキの指紋とDNAが発見され、ハンガリー警察が逮捕状を出すも、日本は引き渡しを拒否。さらに反プーチン系メディアが、スズキによる性的嫌がらせの告発を報じたが、ロシアの専門家は音声・映像が偽造されたと断定。

ヒラリオンは「事実は一つだけ。彼は盗人だった。それ以外は彼の中傷だ」とだけコメントした。

教区の司祭たちは彼を擁護したが、ヒラリオンは最終的にチェコ・カルロヴィ・ヴァリの教会へ移され、主教の職を退いた。

Victor Gaetan
Victor Gaetan

ロシア通信RIAノーボスチに最近語ったところによると、「過去1年は非常に困難だった。私の奉仕の機会を奪おうとするあらゆる試みがあった。中傷、脅迫、捏造された証拠……だが教会が私を守ってくれた。今も奉仕を続けられることに感謝している」という。

それでもヒラリオンは定期的にモスクワに戻り、2024年2月1日にはキリル総主教の就任17周年記念ミサを共に司式した。フランシスコ教皇の最晩年まで連絡を取り合っていたという。(原文へ

※この記事の筆者ヴィクター・ガエタンは『God’s Diplomats: Pope Francis, Vatican Diplomacy, and America’s Armageddon』著者であり、『Foreign Affairs』誌にも寄稿している。この記事は必ずしもRNSの公式見解を反映するものではない。

Original Link: How a Russian Orthodox leader’s diplomacy with Rome became a casualty of Ukraine war

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核保有国が対峙する南アジアの緊張:拒絶された仲介と国際秩序の試練

【国連ATN=アハメド・ファティ】

2025年4月22日にインド支配下のカシミールで発生したテロ攻撃により数十人が死亡し、地域全体の紛争再燃への懸念が再び高まっている。これにより、インドとパキスタンの間のかろうじて保たれていた平和が再び緊張の瀬戸際に立たされている。非難の応酬、軍事的シグナル、外交的な膠着、そして国際社会の不安が、攻撃以降の日々を支配している。だが今回、緊張緩和への道筋はこれまで以上に見えづらく、各国の対応は硬直化し、リスクはかつてなく高まっている。

Ahmed Fathi.
Ahmed Fathi.

両国は国連で全く異なる戦略を取っている。パキスタンのアシム・イフティカール国連常駐代表は、5月2日(金)に記者会見を開き、パキスタン政府の立場を表明し、国際社会に即時の対応を求めた。彼はテロ行為を非難すると同時に、インドによるカシミールでの「抑圧的政策」が事態を悪化させていると糾弾し、国際社会がこの問題に沈黙を保てば、さらなる不安定化を招くと警鐘を鳴らした。

イフティカール大使は、ATNの取材(24:05)に対し、アントニオ・グテーレス国連事務総長がシャバズ・シャリフ首相と電話会談を行ったことに言及し、仲介および予防外交に向けた国連の申し出を歓迎したと述べた。彼はまた、事務総長を現地に招待したとし、冷え切った外交関係の中では珍しい前向きな対応を示した。「パキスタンは、特にカシミールのような長年の紛争において、国連の役割が世界の平和と安全の維持に不可欠だと考えています。」とイフティカール大使は語った。

しかし、パキスタンの核政策、特に先制使用に関する直接的な質問(51:42)には応じず、「我々の立場は一貫しており、情報は公にされています。」と述べるにとどまり、エスカレーションか抑制かについての明確な姿勢を避けた。この不透明さは不安を和らげるどころか、むしろ悪化させている。とりわけ、翌日にパキスタンが行った弾道ミサイル発射実験が、インド側から「極めて挑発的」と受け止められている点は深刻だ。

その後、ステファン・ドゥジャリック国連報道官は、パキスタンが事務総長の仲介提案を受け入れた一方で、インドはこれを拒否したことを確認した。グテーレス事務総長は、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相とは会談したものの、ナレンドラ・モディ首相とは接触しておらず、インドが国際的関与から慎重に距離を置いている姿勢が際立った。インドの公式立場は依然として、「カシミール問題は第三者を介さず、シムラ協定(1972年)に基づき二国間で解決すべきだ」というものである。

Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider
Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider

このような姿勢はインドの歴史的外交方針と一致するものの、国際的な立場との矛盾を浮き彫りにする。国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指すインドが、その制度の根幹である事務総長の仲介を拒否することは、自己矛盾に他ならないのではないか。

パキスタンのミサイル実験は、武力誇示であれ抑止であれ、国家主義の熱狂とメディアが煽る憤りに満ちたこの危機を一層深刻なものとしている。パキスタン側は「定例の演習」であり事前に計画されていたと説明しているが、インド国防当局はこれを「意図的な挑発」と非難している。意図の差はあれ、時機の一致が危険性を増している。

本質的な脅威は「誤算」にある。両国とも核兵器を保有し、迅速な対応を前提とする指揮系統を有しているため、誤認や過剰反応による暴発の余地は極めて狭い。これは単なる国境紛争ではなく、歴史的な傷、地域的野心、そして20億人近い人口を抱える2つの重武装国家による潜在的な全面対立なのだ。

にもかかわらず、国際社会の反応は鈍い。他地域の戦争に注意が向いている現在、西側諸国は一般的な自制を呼びかけるにとどまっている。パキスタンの同盟国である中国は対話を促しているが、国連による対応には賛同していない。ロシアも慎重な立場を取っている。米国は、インドの立場と歩調を合わせる形で「二国間の対話」を支持しているが、特定の仲介提案を支持する発言はしていない。

こうした外交的膠着は、より根本的な問題―すなわち、多国間主義の衰退を浮き彫りにしている。本来、このような紛争を防止するために創設された国連が、各国による権限否定と利害対立によって徐々に周縁化されているのだ。

もし国際社会が安定化の役割を果たせなければ、その影響は南アジアにとどまらないだろう。地域の混乱はエネルギー回廊を脅かし、世界的なサプライチェーンに衝撃を与え、他の地政学的な火種を悪化させかねない。今日の世界は、かつてないほど密接に結びついている。

Image: A map showing the changes in the productivity of ecosystems around the world in the second year after a nuclear war between India and Pakistan. Regions in brown would experience steep declines in plant growth, while regions in green could see increases. (Credit: Nicole Lovenduski and Lili Xia). Source: University of Colorado Boulder.
Image: A map showing the changes in the productivity of ecosystems around the world in the second year after a nuclear war between India and Pakistan. Regions in brown would experience steep declines in plant growth, while regions in green could see increases. (Credit: Nicole Lovenduski and Lili Xia). Source: University of Colorado Boulder.

今必要とされるのは、象徴的な外交を超えた行動である。安全保障理事会は単なる関心表明にとどまらず、実際に動くべきだ。事務総長も反発に屈せず関与を継続すべきだ。そしてインドとパキスタンには、友好国であれ敵対国であれ、「核時代における対立の代償は計り知れない」ことを明確に伝えなければならない。

外交に残された時間は、あまりにも少ない。(原文へ)

INPS Japan/American Television Network

Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/india-and-pakistan-un-mediation-rebuffed-as-nuclear-neighbors-square-off

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男性支配の鉱業で平等を掘り起こす タンザニアの女性鉱山労働者たち

【ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】

タンザニアの灼熱の太陽の下、ネエマ・ムシは汗をぬぐいながら、つるはしを地面に振り下ろす。その衝撃で舞い上がる埃が彼女の破れた服をさらに汚していくが、気にする様子はない。過去8年間、彼女の人生はこの繰り返しだった──掘って、ふるいにかけて、金を探し続ける。男性が支配するゲイタの鉱山で、それは過酷で障害だらけの労働だ。

「いつか自分の鉱区を持ちたい」と彼女は語る。「でもこの業界では、女性は土地の所有の場面ではいつも無視されるのよ。」

幾年も懸命に働いてきたにもかかわらず、ムシのような女性たちは生存のぎりぎりのところで踏ん張っている。

ある晩、何時間も岩を砕いたあと、小さな金のきらめきを見つけた。しかし、それをポケットに入れる間もなく、男性の鉱夫が近づいてきた。

「ここは俺の場所だ」と彼は唸るように言い、ムシの手から金を奪い取った。ムシは拳を握りしめるが、反撃することはできなかった──最初から自分のために作られていない制度の中では。

かつて彼女は、自分の名義で鉱区の登録を試みた。しかし地元役所の職員は顔を上げることもなく言った。「夫の許可が必要です」──だがムシには夫はいない。養うべき子どもが3人いるだけだった。職員は肩をすくめて言った。「じゃあ、男性パートナーを見つけなさい」と、彼女を追い返した。

女性鉱山労働者の協同組合「ウモジャ・ワ・ワナワケ・ワチンバジ(Umoja wa Wanawake Wachimbaji)」に加入する以前、ムシは子どもたちの学費さえ支払えなかった。今では、子どもたちは清潔な制服で学校へ通い、その笑い声が彼女の希望となっている。

男性優位の構造を打ち砕く

タンザニアはアフリカ第4位の金産出国で、鉱業はGDPの約1割を占めている。推定で100万〜200万人が小規模採掘(ASM)に従事しており、そのうちの約3分の1は女性だ。しかし、その数にもかかわらず、女性鉱夫たちは土地所有の制限、資金不足、差別に直面している。

A group of women miners formed Umoja wa Wanawake Wachimbaji, pooling resources and fighting for a mining license of their own. Credit: Kizito Makoye/IPS
A group of women miners formed Umoja wa Wanawake Wachimbaji, pooling resources and fighting for a mining license of their own. Credit: Kizito Makoye/IPS

長年、ムシは正式な鉱区を持たず、男性鉱夫が捨てた金を含む岩石をふるいにかけることで生計を立ててきた。鉱業免許も土地もない彼女は、仲買人に低価格で金を売らざるを得なかった。

「自分の鉱区を持っていなければ、彼らの言いなりになるしかない」と彼女は言う。「いつ追い出されてもおかしくない」

タンザニアの鉱業法は技術的には女性にも免許取得を認めているが、実際にはほとんど取得できない。手続きは煩雑で、費用も高額だからだ。

「鉱業用地のほとんどは男性か大企業に割り当てられています。」と語るのは、鉱業活動家であるアルファ・ンタヨンバ氏(人口開発イニシアチブ事務局長)。「女性は借りた土地で働くか、他人の鉱区で労働者として働くしかないのです。」

さらに、資金調達の壁も大きい。鉱業には設備投資が必要だが、銀行は女性鉱夫を「リスクが高い」とみなして融資を拒み、危険で安価な労働から抜け出せない構造が続く。

雨がぱらつく中、十数人の女性たちが重い鉱石の袋を頭に載せて歩いている。多くはシングルマザーだ。

「女性たちは鎖の一番下で働いています。」とンタヨンバ氏は言う。「岩を砕き、水銀に汚染された水で鉱石を洗い、最も過酷で最も搾取されやすい仕事をしているのです。」

性的搾取とハラスメント

多くの女性鉱夫は日常的に搾取にさらされている。性的嫌がらせや、仕事と引き換えの性行為の強要も珍しくない。金の処理現場で働く女性たちは、鉱区主や仲買人に依存しており、弱い立場に置かれている。

「鉱石を得るために、搾取的な関係に入らざるを得ない女性もいます。」とンタヨンバ氏。「性的な便宜が、事実上の“取引コスト”になっているのです。」

報復や職を失うことへの恐れから、被害を訴える女性は少ない。法的支援や相談窓口も乏しい。

「関係を拒否したことで職を追われた女性たちを知っています」と彼は話す。「制度がそもそも女性に不利で、法的保護の弱さがさらにそれを悪化させています。」

健康リスクと水銀被曝

採掘現場では、健康被害も深刻だ。多くの女性は保護具なしで水銀を使って金を分離しており、神経障害や先天性異常のリスクにさらされている。

「水銀の危険性を知らない女性が大半です」とンタヨンバ氏。「素手で混ぜ、有毒な蒸気を吸い込み、自身や子どもたちの健康を損なっています」

彼の団体は、女性の権利保護や安全な採掘技術の普及、経済機会の提供に向けて活動を続けている。

「政府は女性鉱山労働者を業界の重要な担い手として認めるべきです。」と彼は訴える。「労働の正式化、安全教育、土地所有の法的権利の保証が必要です。」

しかし、進展は遅い。

「女性たちは尊厳ある労働、公正な報酬、搾取からの保護を受けるべきです。」とンタヨンバ氏は強調する。「業界は彼女たちの苦しみの上に成り立ってはならないのです。」

岩を砕き、壁を破る

ムシたちは、協同組合「ウモジャ・ワ・ワナワケ・ワチンバジ」を立ち上げ、資源を持ち寄って鉱業ライセンス取得に挑んだ。これは、SDG目標8「働きがいも経済成長も」の理念にも合致し、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現に不可欠だ。

タンザニア女性鉱山労働者協会(TAWOMA)や政府の女性起業支援プログラムの支援を受け、小さな鉱区を取得し、設備投資も進めた。

「ここに私たちの居場所があることを証明しなければなりませんでした。」と、創設メンバーのアンナ・ムブワンボは語る。「長い間、女性は単なる“お手伝い”としてしか扱われてこなかった。」

ムシにとって、この協同組合は人生を変えた。「以前は学費も払えなかったけれど、今は貯金もできて、拡大する夢を持てるようになった。」と彼女は語る。

政府系のタンザニア鉱業公社(STAMICO)も、小規模鉱夫に対する安全で効率的な技術研修を行っている。女性たちが中間搾取を受けずに公正価格で金を売れるよう、政府は金の買取センターも設置した。

国際的にも、鉱業におけるジェンダー包摂への関心が高まっている。世界銀行は業界の女性参入を後押しし、資源透明性イニシアチブ(EITI)も女性鉱夫の権利強化を求める政策を提言している。

1997年から女性鉱山労働者の権利擁護を続けるTAWOMAも、今なお声を上げ続けている。

「私たちは、女性が鉱山を所有し、事業を運営し、意思決定の場に立つ未来を目指しています」と会長は語る。

未来を切り拓くために

自らの鉱区の縁に立ち、ムシは仲間たちが土地を耕す様子を見つめる。それは大規模な男性主導の鉱区と比べれば小さいが、彼女にとっては希望そのものだ。

「娘たちには、女性でも何でもできると伝えたい。」と彼女は言う。「働けるし、所有できるし、成功できる。」

彼女はつるはしをもう一度強く振り下ろす。舞い上がる埃の中、その一撃は、女性がただ生き延びるだけでなく、鉱業で栄える未来への一歩となるのだ。(原文へ

This article is brought to you by IPS NORAM in partnership with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan

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報道の自由は埋葬されつつある―だが、どれほどの人が気づき、関心を持っているのか?

【ニューヨークIPS=ファルハナ・ハク・ラーマン

報道機関への圧力は、積もる雪崩のように加速しているが、谷底に暮らす多くの人々はそれに気づいていない。報道の自由は、少数の勇敢な努力にもかかわらず、容赦なく踏みにじられている。

独裁体制が気に入らないジャーナリストを嫌がらせ、投獄、拉致・失踪させ、殺害してきた歴史は今に始まったことではない。そしてその数は増え続けている。戦争の混乱のなかで、メディア関係者は選挙で選ばれた指導者が放つ爆弾や銃弾によって命を落とし、世界各地で訴訟による脅迫や予算削減によって沈黙させられている。

こうした中、5月3日の世界報道自由デーにあたり、UNESCOは今年、「新たな重大リスク」に焦点を当てている。それは、既に多くの編集室や詐欺師たちによって使われている人工知能(AI)のことだ。

Photo credit: UNESCO
Photo credit: UNESCO

世界中で標的となったジャーナリストに関する正確なデータを提供しているのが、「国境なき記者団(RSF)」のような団体である。RSFは記録をまとめるだけでなく、パレスチナのジャーナリストに対する犯罪について国際刑事裁判所に訴えるなど、私たちのために活動を展開している。

RSFの2024年報告書によれば、

「ガザでは、悲劇の規模は想像を超えている……2024年、ガザは世界で最もジャーナリストにとって危険な地域となり、ジャーナリズムそのものが絶滅の危機に瀕している。」

RSFは、2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃以降、ガザとレバノンで155人以上、イスラエルで2人のジャーナリストとメディア関係者が死亡したと報告している。このうち少なくとも35人は、記者として明確に識別可能だったにもかかわらず、空爆などで狙われた可能性が極めて高い。

「これは、意図的なメディア封鎖と、外国人記者のガザ入りを妨げた措置によってさらに悪化した」とRSFは述べる。

スーダンもまた、軍と準軍組織の対立の中で、ジャーナリストにとって「死の罠」と化している。戦争地域以外でも、2024年にパキスタンでは7人、メキシコでは5人、バングラデシュの7月・8月の抗議弾圧で5人の記者が殺害された。

年末時点で世界中で投獄されている記者は550人、そのうち中国が最多の124人(香港を含む)、次いでミャンマー61人、イスラエル41人、ベラルーシ40人である。ロシアでは38人の報道関係者が収監されており、そのうち18人はウクライナ人である。

RSFは、ウクライナ人フリージャーナリスト、ヴィクトリア・ロシュチナ氏に報告書を献呈した。彼女はロシアの拘束下で死亡したとされるが、説明は一切なされていない。

さらに先月(4月)、ロシアの裁判所は、反汚職団体(故ナワリヌイ氏が設立)に関わったとして、4人のジャーナリストに「過激主義」の罪で5年半の実刑判決を言い渡した。

加えて、こうした抑圧政権は、3月15日に発表されたVoice of America(VOA)、Radio Free Europe(RFE)、Radio Free Asia(RFA)の機能縮小や、米国国際開発庁(USAID)の解体を歓迎している。ミャンマーなどで独立系ジャーナリストを支えてきた機関である。

中国はこれを称賛し、VOAを「汚れたぼろ布」「嘘の工場」と呼び、カンボジアのフン・セン首相はRFAの打ち切りを「フェイクニュース排除」と称賛した。

RSFは、アジア太平洋地域で報道の自由が悪化しているとし、2024年の報道自由指数では32の国・地域のうち26でスコアが低下したと指摘。

「この地域の独裁政権は、情報への統制をますます強めている」と警告する一方で、東ティモール、サモア、台湾などの民主主義国は「報道自由の模範」であると評価した。

だが、報道の自由の見えざる劣化で最も憂慮すべきは、権威主義体制がプロパガンダをますます巧みに操り始めている一方で、開かれた社会における伝統的メディアが信頼を失っていることである。

米国のPR大手エデルマン社がまとめた「2025年信頼度バロメーター」によると、調査対象の28カ国のうち、メディアへの信頼が最も高かったのは中国(75%)で、英国は下から2番目の36%。これは、RSFの報道自由指数で中国が180カ国中172位、英国が23位であることと対照的だ。

エデルマンCEOリチャード・エデルマン氏は、「情報は分断と操作の武器となり、2020年にはメディアが『最も信頼されない機関』になった」と語っている。

これが、UNESCOがAI革命に対して警鐘を鳴らしている理由である。

確かに、AIは情報へのアクセスや処理能力を高め、記者の作業効率を向上させ、事実確認にも役立つ。
だがUNESCOは次のようにも述べている:

「AIは誤情報や偽情報の再生産、ヘイトスピーチの拡散、新たな検閲手段としても悪用され得る。また、記者や市民の大規模監視にも使われ、表現の自由に“冷やし効果”をもたらしている。」

例えば、ロサンゼルスの山火事で動物を救出する消防士の偽AI動画は、ソーシャルメディア上で数千万回以上再生された。BBCが行った調査によれば、公開されている4つのAIアシスタントの回答の51%に重大な問題があり、そのうち19%はBBCの記事を引用しながら事実誤認が含まれていたという。13%は引用自体が改変されていたか、そもそも存在しない内容だった。

私たちは、既に警告を受けている。
そして、科学者たちがやがて汎用人工知能(AGI)を開発し、人間と同等の知能と多様性を持つ機械を生み出す日が来れば―そのとき、報道の自由という概念は存在しなくなっているかもしれない。

ファルハナ・ハク・ラーマンは、IPSインタープレス・サービスの上級副社長であり、IPS北米事務局(Noram)の事務局長を務めている。彼女は国連食糧農業機関(FAO)および国際農業開発基金(IFAD)の元上級職員であり、ジャーナリスト・広報専門家としても活動している。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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カザフスタン、民族の多様性に宿る団結を祝う

【アスタナThe Astana Times=アイマン・ナキスペコワ】

カザフスタンでは5月1日、「民族団結の日」を迎え、国の豊かな多文化的アイデンティティを称える。この祝日は1996年に国家の公式記念日として制定され、国内に暮らす150以上の民族の共存と相互尊重、そして文化の多様性がもたらす力を強調する。

この記念日の背景には、深い歴史がある。1950年代、ソビエト連邦による未開地開発運動に伴い、自発的に移住してきた人々や、ヨシフ・スターリン体制下の弾圧によって強制移住させられた人々が、何百万人もカザフスタンにやって来た。70年以上が経った今も、カザフスタンの若者たちは祖父母から受け継いだその物語を大切にし続けている。

文化のタペストリー

アスタナ在住のイェルケジャン・シャリポワさんは、『アスタナ・タイムズ』のインタビューで自身の家族の物語を語った。彼女の母方の祖母はカザフ人、祖父はベラルーシ人だった。

Sharipova’s grandparents took part in an art performance in the village.Photo credit: Sharipova’s personal archieve
Vlad Rekk enrolled in German language courses to connect more deeply with his heritage. Photo credit: Rekk’s personal archieve

「祖父は1951年のいわゆる未開地開発運動の際にカザフスタンに移住し、とある村で祖母と出会いました。祖母は伝統的な家庭の出身で、最初は戸惑っていたようですが、祖父は諦めませんでした。彼はカザフ語を学び、祖母の母語で結婚を申し込んだのです」とシャリポワさんは語る。

多くの開拓者が過酷な生活環境に耐えきれず去っていったなか、祖父は残る決意をし、愛だけでなく、祖母の大家族のなかで「居場所」を見つけたという。

「家族は彼を心から迎え入れました。祖父はカザフの伝統を受け入れ、それを子や孫にも伝えてくれました」。

シャリポワさんは、カザフスタンの民族的多様性を「強み」と捉え、この祝日を「平和と調和のなかで共に生きようとする国家の象徴」と考えている。

二つの文化が息づく家族史

民族ドイツ人であるブラッド・レックさんにとっても、この「団結の日」は歴史的な重みと個人的な意味を持つ。彼の曽祖母カチヤさんは、弾圧によりカザフスタンに追放された一人だったが、現地のカザフ家庭に助けられ、厳しい時代の中で避難先を得たという。

「曽祖母はその家で家事を手伝っていました。そしてやがて、曽祖父ゼイヌラと恋に落ち、結婚しました。まったく異なる世界から来た二人の物語から、私たちの家族が始まったのです」とレックさんは話す。

Rekk’s great-grandmother Katya. Photo credit: Rekk’s personal archieve

彼は父方にもドイツの血を引いており、幼いころから自宅に保管されていたドイツ語の写真や手紙を見て育った。

「両親は常に、家族の歴史を忘れないようにと言っていました。自分のルーツをもっと知りたくて、ドイツ語の勉強を始めました。言葉を通して家族の物語とより深くつながることができ、文化が単なる抽象的なものではなく、とても個人的なものだと実感しました」。

「私は、ドイツとカザフの両方の文化が自分の中にあるとよく思います。ドイツのルーツからは、おそらく秩序や規律を大切にする気質を受け継いだのでしょう。カザフの側からは、寛容さや年長者への敬意、家族の大切さを学びました。私はその両方を誇りに思っています」と彼は語った。(原文へ

INPS Japan/The Astana Times

Original Link: https://astanatimes.com/2025/05/kazakhstan-celebrates-unity-in-diversity/

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かつてない海洋危機の中、世界が最高の目標に向けて進む―釜山で「アワ・オーシャン会議」開催

【釜山IPS=ジョイス・チンビ】

第10回アワ・オーシャン会議(Our Ocean Conference)に参加した100か国以上の代表者たちは、危機的に上昇する海面水位の中で、世界中の沿岸部や低地、特に人口密集地域が深刻な脅威にさらされているという厳しい現実を胸に刻んで釜山を後にすることとなる。

アジア、アフリカ、島嶼国、さらには米国の東海岸や湾岸地域が、沿岸を襲う気候変動の猛威の最前線に立たされている。バングラデシュ、インド、フィリピン、ツバルやフィジーなどの太平洋諸国はとりわけリスクが高い。2024年には、カメルーンやナイジェリアなどのアフリカ諸国で洪水により過去最多の死者を出した。

「この会議は、“海が危機に瀕している”という認識から始まりました。世界の漁業資源の3分の1が過剰漁獲されており、違法かつ破壊的な漁業が生態系を損なっています。これは、それに依存する沿岸地域の生活を脅かし、世界経済にも打撃を与えています。海を危険にさらすことは、私たちすべての国と地球の将来を危険にさらすことなのです。」と、グローバル・フィッシング・ウォッチ(Global Fishing Watch)のCEO、トニー・ロング氏は語った。

アワ・オーシャン会議には、国家元首や政府高官を含む100か国以上の代表者、さらに400を超える国際・非営利団体の関係者ら約1000人が集まり、持続可能な海洋のための多様かつ具体的な行動について議論が交わされた。

この日、専門家たちは、海洋・気候・生物多様性という3つの要素が交わる地点でこそ、科学を政治的行動へと転換する解決策が見出せると強調した。海洋は気候危機の最前線にあると同時に、持続可能な解決策の重要な源でもある。というのも、海は人類の二酸化炭素排出の約25%と、そこから発生する熱の約90%を吸収しているからである。

「30×30キャンペーン」は、地球の陸地・水域・海域の少なくとも30%を2030年までに保護するという、国際的・国家的な取り組みを支援している。この目標の重要性と各国の進捗状況に関するセッションで司会を務めたのは、ブルームバーグ慈善財団の環境チームのシニアメンバーであり、ブルームバーグ・オーシャン・イニシアティブを率いるメリッサ・ライト氏だった。

「私たちは、民間団体、政府、先住民族・地域社会のグループ、地方のリーダーたちとの公平かつ包摂的なパートナーシップと取り組みを通じて、海洋分野での30×30達成という世界的な野心を支えています。2014年以降、ブルーウォーター・オーシャン・イニシアティブは、海洋保全の推進のために3億6600万米ドル以上を投資してきました。」とライト氏は語った。

このイニシアティブは、政府やNGO、地域リーダーらと連携し、海洋保護区(MPA)の指定とその執行を加速させている。最近では、公海条約(High Seas Treaty)の早期批准を促進し、国家管轄権を超える海域におけるMPAの創設を実現している。

フィリピン環境天然資源省(DENR)で政策・計画・外国支援・特別プロジェクト担当次官補を務めるノラリーン・ウイ氏は次のように語った。「2030年までの30×30達成に残された時間はもう多くありません。今こそ、私たちの国家的・国際的な能力を強化し、海の保護・保全・持続可能性を高めるための意欲的で強固な対応が求められているのです。」

フィリピンは世界で17ある「メガ多様性国」のひとつであり、極めて高い生物多様性と多数の固有種を有している。植物・動物を含む多くの地球上の種がこの国に生息しており、固有種も多い。

その一方で、フィリピンは限られた資源や優先的な開発課題を抱えており、大きな負担を強いられているとウイ氏は述べた。それでも科学の力に頼り、着実に前進しているという。国内の主要な海洋生物地理区に戦略的に配置された海洋科学研究ステーションを設置し、現場の知見と知識を蓄積している。

また、同国では国家海洋環境政策を策定し、「科学と政策は国の優先事項に応じて進化していくものであり、それに伴い組織の構造や知識体系も変わっていかねばならない。」と強調した。

海洋保護において最高の目標を達成するためには、フィリピンや世界中の沿岸地域が、今後さらに資金面や技術面での支援を必要とする。キャンペーン・フォー・ネイチャー(Campaign for Nature)のディレクター、ブライアン・オドネル氏は、30×30にかかる費用の世界的な試算は5年前のものしか存在しないと指摘した。

「その時点での試算によれば、陸と海の両方で30×30を実現するには年間1000億米ドルが必要でしたが、当時支出されていたのはわずか200億ドル。つまり、年間800億ドルの資金不足があったのです。」とオドネル氏は説明した。

「資金をさらにこの分野に投入することが不可欠であるのはもちろんのこと、その資金が実際に生物多様性の現場にいる人々、地域社会、そしてそれを守っている国々に確実かつ効果的に届けられるようにしなければなりません。」

とはいえ資金動員には課題が残るものの、一定の進展も見られる。オドネル氏は、2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)について言及し、これが2025年までに先進国が途上国に対して年間200億ドル以上、2030年までに300億ドルへと増額する目標を盛り込んでいることを紹介した。

この目標は、特に後発開発途上国(LDCs)や小島嶼開発途上国(SIDS)を含む開発途上国が生物多様性の国家戦略や行動計画を実施できるよう支援するものである。ただし、現在の多くの資金がローンや短期支援の形で提供されていることには改善が必要だとオドネル氏は述べた。

Noralene Uy speaking to participants about the Philippines’ efforts and challenges towards achieving the 30×30 targets. Credit: Joyce Chimbi/IPS
Noralene Uy speaking to participants about the Philippines’ efforts and challenges towards achieving the 30×30 targets. Credit: Joyce Chimbi/IPS

総じて、彼は「オーシャンズ5(Oceans 5)」のような協力体制の重要性を強調した。オーシャンズ5は、世界5大洋の保護に特化した国際的な資金提供ネットワークであり、過剰漁業の抑制、海洋保護区の設置、洋上石油・ガス開発の制限という、世界中の海洋科学者たちが最も優先すべきとする3つの課題に取り組んでいる。ブルームバーグ慈善財団もその創設パートナーの一つである。

今後に向けては、2026年にケニアで開催される第11回アワ・オーシャン会議までに、資金・政策・能力強化・研究の各分野で、海洋保護区、持続可能なブルーエコノミー、気候変動、海上安全保障、持続可能な漁業、海洋汚染の削減に向けた世界の取り組みが確実に前進していることが期待される。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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